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特開2025-17331Gd-Co系金属粉体、その製造方法、導電成形体、および熱電変換素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017331
(43)【公開日】2025-02-05
(54)【発明の名称】Gd-Co系金属粉体、その製造方法、導電成形体、および熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20250129BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20250129BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20250129BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20250129BHJP
   H10N 15/20 20230101ALI20250129BHJP
【FI】
B22F1/00 M
C22C19/07 M
B22F1/05
B22F9/04 C
H10N15/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024111091
(22)【出願日】2024-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2023119587
(32)【優先日】2023-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2022年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/サーマルデータを可視化するセンシング機器の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】酒井 明人
(72)【発明者】
【氏名】中辻 知
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 王高
(72)【発明者】
【氏名】公文 翔一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 彰悟
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA03
4K017BB12
4K017CA07
4K017DA01
4K017EA05
4K018AA10
4K018BA04
4K018BB04
4K018BD10
4K018KA32
(57)【要約】
【課題】異常ネルンスト効果を利用した、ゼロ磁場で高いネルンスト係数が得られる熱電変換素子を、生産性良く製造するために適した技術を提供する。
【解決手段】金属間化合物GdCoを主成分とする粉体であって、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布において、累積50%粒子径D50が1~150μm、累積90%粒子径D90が250μm以下である金属粉体。この金属粉体は、例えば、金属間化合物GdCoを主成分とする合金塊を粉砕することにより得ることができる。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属間化合物GdCoを主成分とする粉体であって、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布において、累積50%粒子径D50が1~150μm、累積90%粒子径D90が250μm以下である金属粉体。
【請求項2】
Gd-Co系合金の溶融金属を凝固させ、金属間化合物GdCoを主成分とする合金塊を得る合金塊作製工程、
前記合金塊を粉砕することにより粉体を得る粉砕工程、
を有する請求項1に記載の金属粉体の製造方法。
【請求項3】
金属間化合物GdCoを主成分とする粉体の導電成形体。
【請求項4】
前記金属間化合物GdCoを主成分とする粉体は、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布において、累積50%粒子径D50が1~150μm、累積90%粒子径D90が250μm以下のものである、請求項3に記載の導電成形体。
【請求項5】
金属間化合物GdCoを主成分とする粉体の焼結体である、請求項3に記載の導電成形体。
【請求項6】
温度300Kにおいて、磁場の印加がない状態で0.2μV/K以上のネルンスト係数を呈する、請求項3に記載の導電成形体。
【請求項7】
請求項3~6のいずれか1項に記載の導電成形体を用いた熱電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換素子の素材として有用なGd-Co系金属粉体、およびその製造方法に関する。また本発明は、Gd-Co系金属粉体の導電成形体、および前記導電成形体を用いた熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、異常ネルンスト効果を利用した熱電変換素子の研究が進められている。異常ネルンスト効果は、自発的に磁化している磁性体に磁化と直交する向きの熱流を付与したとき、磁化と熱流の双方に垂直な方向の起電力が生じる現象である。異常ネルンスト効果を利用すると熱流と直角方向に電流が取り出せるため、ゼーベック効果を利用する場合とは異なり、薄くシート化した熱電変換デバイスが構築できるといったメリットが得られる。常温で大きい異常ネルンスト効果を示す物質として、例えば強磁性金属間化合物CoMnGaが知られている。
【0003】
特許文献1には、チョクラルスキー法によってCoMnGa単結晶を作製し、異常ネルンスト係数を測定した実験例が記載されている。CoMnGa単結晶の室温(300K)でのネルンスト係数は、磁場の付与方向が結晶の[100]、[110]、[111]方向のいずれに平行な場合も、6μV/K程度の高い値に達している(段落0021、図4)。
【0004】
特許文献2には、熱流センサと温度センサを有する複合センサにおいて、その熱流センサに異常ネルンスト材料膜を使用することが記載されている。異常ネルンスト材料としていくつかの物質が列挙されている(段落0026)。異常ネルンスト材料膜の成膜方法としてスパッタ法が示されている(段落0030)。
【0005】
熱電変換素子の主な用途として、熱電発電デバイスおよび熱流センサが挙げられる。
【0006】
熱電発電デバイスを実現するための熱電変換素子は、厚さ数ミリメートル程度のバルク体であることが望ましい。チョクラルスキー法による単結晶体を用いると、上記のようなサイズのバルク体を作製することは可能である。しかし、チョクラルスキー法などの単結晶製造技術はコストが高く生産性が低いので、熱電発電デバイス用素材の工業的生産においては実用的でない。一方、スパッタ法などの成膜技術を、熱電発電デバイス用のバルク素材の工業的生産に適用することは困難である。
【0007】
熱流センサを実現するための熱電変換素子は、微小な回路パターンの一部に組み込んで使用することを考慮すると、小サイズの素子であることが望まれる。小サイズの素子を、チョクラルスキー法などで得られる単結晶体から多数切り出すことは、コスト面で工業的に実用化することが難しい。また、所定形状の小サイズ素子をチョクラルスキー法で直接形成させることも困難である。一方、スパッタ法などの成膜技術によれば、所定の回路パターンに応じた小サイズの素子を絶縁基板上に直接形成させることは可能である。しかし、そのような成膜方法は生産性が低く、熱流センサの製造コストは高くなる。
【0008】
特許文献3には、種々の形状・サイズの熱電変換素子の製造に幅広く対応できる素材として、CoMnGaの粉体が開示されている。この粉体を使用した導電成形体では、単結晶のCoMnGaと同様に高いネルンスト係数が得られている。
【0009】
一方、特許文献4には、反強磁性のMnSn粉体は0.25~0.5T程度の保磁力を呈し、磁場の印加がない状態(以下これを「ゼロ磁場」と言うことがある。)においても異常ネルンスト効果による熱電変換作用を示すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2019/009308号
【特許文献2】特開2020-153668号公報
【特許文献3】特開2023-2425号公報
【特許文献4】特開2021-145116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
現在では上述のCoMnGaのように高いネルンスト係数を発現する物質が知られている。しかし、CoMnGaは保磁力に乏しいことから、磁場の印加がない状態(ゼロ磁場)においては異常ネルンスト効果による熱電変換作用をほとんど得ることができない。センサに使用する熱電変換素子は電子機器の内部の小さいスペースに設置されることが想定され、熱電変換素子を強力な磁石とともにデバイスに実装することは事実上困難である。そのため、熱電変換素子にはゼロ磁場でも熱電変換作用を発現する物質の適用が望まれる。
【0012】
一方、特許文献4に開示されるMnSn粉体を使用すればゼロ磁場でも熱電変換作用を得ることができる。しかし、そのネルンスト係数はCoMnGaに比べるとかなり小さく、実用的な熱電変換素子を構築するには十分とはいえない。また、MnSn粉体の保磁力は0.25~0.5T程度とされるが(特許文献4)、機器から発生する磁場などによる外乱に曝された場合でも安定して高い熱電変換作用を発揮する信頼性を付与するためには、更に高い保磁力を有する異常ネルンスト効果発現物質の開発が望まれる。
【0013】
本発明は、高い保磁力を有し、ゼロ磁場において高いネルンスト係数を呈し、かつ種々の形状・サイズの熱電変換素子の製造に幅広く適用しやすい、新たな材料の提供を目的とする。また、その材料を用いて得られるネルンスト係数の高い熱電変換素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本明細書では以下の発明を開示する。
【0015】
[1]金属間化合物GdCoを主成分とする粉体であって、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布において、累積50%粒子径D50が1~150μm、累積90%粒子径D90が250μm以下である金属粉体。
[2]Gd-Co系合金の溶融金属を凝固させ、金属間化合物GdCoを主成分とする合金塊を得る合金塊作製工程、
前記合金塊を粉砕することにより粉体を得る粉砕工程、
を有する上記[1]に記載の金属粉体の製造方法。
[3]金属間化合物GdCoを主成分とする粉体の導電成形体。
[4]前記金属間化合物GdCoを主成分とする粉体は、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布において、累積50%粒子径D50が1~150μm、累積90%粒子径D90が250μm以下のものである、上記[3]に記載の導電成形体。
[5]金属間化合物GdCoを主成分とする粉体の焼結体である、上記[3]または[4]に記載の導電成形体。
[6]温度300Kにおいて、磁場の印加がない状態で0.2μV/K以上のネルンスト係数を呈する、上記[3]~[5]のいずれかに記載の導電成形体。
[7]上記[3]~[6]のいずれかに記載の導電成形体を用いた熱電変換素子。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ゼロ磁場で高いネルンスト係数を呈し、外部磁場による外乱に対する耐性にも優れる熱電変換素子を得ることができる。その熱電変換素子に用いる材料は粉体であるため、本発明の技術は、種々の形状・サイズの素子に幅広く対応することができる。また、本発明の技術は、単結晶やスパッタ法による薄膜を用いる技術と比べ、コストおよび生産性の面で優れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ハンマーミル粉砕品であるGd-Co系金属粉体についてのSEM写真。
図2】サンプルミル粉砕品であるGd-Co系金属粉体についてのSEM写真。
図3】遊星ボールミル粉砕品であるGd-Co系金属粉体についてのSEM写真。
図4】実施例1で得られたGd-Co系金属粉体について、ハンマーミル粉砕品、サンプルミル粉砕品、および遊星ボールミル粉砕品の粒度分布曲線を例示したグラフ。
図5】実施例1で得られたGd-Co系金属粉体について、ハンマーミル粉砕品、サンプルミル粉砕品、および遊星ボールミル粉砕品のX線回折パターンを例示した図。
図6】実施例1で得られたGd-Co系金属粉体について、ハンマーミル粉砕品、サンプルミル粉砕品、および遊星ボールミル粉砕品の磁化曲線を例示したグラフ。
図7】ネルンスト効果測定用試料について、電力測定用の端子、温度測定用のプローブ取り付け位置と、熱流、磁場の付与方向を模式的に示した図。
図8】サンプルミル粉砕品であるGdCo粉体の導電成形体についての、ネルンスト係数の測定結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[Gd-Co系金属粉体]
本発明では熱電変換素子に適した材料として金属間化合物GdCoを主成分とするGd-Co系金属粉体を適用する。金属間化合物GdCoは六方晶系の結晶構造を有し、常温で反強磁性を呈する。
【0019】
Gd(ガドリニウム)、Co(コバルト)の組成比がGdCoの化学量論組成に近い組成域において、GdCo型の結晶構造を持つ金属間化合物が単相として安定に存在しうる。その組成域の周辺ではGdCo型の結晶構造を持つ金属間化合物相と異相とが混在したGd-Co系合金が得られると考えられる。GdCoの化学量論組成から少しずれた組成であっても、GdCo型結晶構造(すなわちX線回折パターンにおいて化学量論組成のGdCo結晶の各結晶面からの回折ピークに対応する回折ピークが観測される結晶構造)を持つ結晶相は、本明細書でいう「金属間化合物GdCo」に含まれる。
【0020】
「金属間化合物GdCoを主成分とする粉体」とは、当該粉体のX線回折パターンにおいて、GdCo型結晶構造の回折ピークのうち最もピーク高さの高い回折ピークの積分強度をI、異相(GdCo型結晶構造の結晶相以外の相)の回折ピークのうち最もピーク高さの高い回折ピークの積分強度をIとするとき、I<Iの関係が成り立つ粉体であることを意味する。ここで、異相が検出されない場合はI=0となり、上記I<Iの関係を満たす。金属間化合物GdCoを主成分とする粉体を用いた熱電変換素子において、GdCo相以外の異相が含まれていても、GdCo相の異常ネルンスト効果による熱電変換作用は生じる。しかし、効率の良い熱電変換特性を実現するためには、異常ネルンスト効果を示さない異相の存在量は少ないことが望ましい。例えば、I<0.5Iであることがより好ましく、I<0.3Iであることがさらに好ましい。特に好ましい粉体として、異相が検出されないGdCo単相の粉体が挙げられる。
【0021】
Gd-Co系金属粉体を構成する粒子の粒度分布は、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布において、累積50%粒子径D50が1μm以上150μm以下、累積90%粒子径D90が250μm以下の範囲とする。累積50%粒子径D50大きすぎる場合は、平均粒子径が大きくなるため、保磁力の低下につながる。累積90%粒子径D90が大きすぎる場合は、粗大粒子の存在割合が大きくなるため、この場合も保磁力の低下につながる。用途や素子の製造プロセスに応じて最適な粒度分布条件は異なってくるが、通常、上記の粒度分布範囲内で最適な条件を設定することができる。保磁力の確保を重視する観点からは、累積50%粒子径D50は70μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。また、累積90%粒子径D90は150μm以下であることが好ましく、120μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることがさらに好ましい。
【0022】
Gd-Co系金属粉体の製造方法としては、例えば、
GdおよびCoを含む溶融金属を凝固させ、金属間化合物GdCoを主成分とする合金塊を得る合金塊作製工程、
前記合金塊を粉砕することにより粉体を得る粉砕工程、
を有するプロセスが適用できる。
必要に応じて、前記粉砕工程で得られた粉体を篩などにより分級する分級工程、
をさらに行ってもよい。
【0023】
Gd-Co系合金の溶融金属は、所定組成に秤量したGd、Coの各原料金属を、例えばプラズマアークにより溶融させる手法や、坩堝中で加熱溶融させる手法によって得ることができる。その溶融金属を凝固させ、金属間化合物GdCoを主成分とする合金塊を得る。金属間化合物GdCoは比較的脆いため、その合金塊を機械的粉砕手段により粉体化することができる。例えばハンマーミル、サンプルミル、遊星ボールミルなどの公知の粉砕手段を利用して所望の粒子サイズに調整することができる。また、最終的な粒度分布の調整のために、粉砕手段によって得られた粉体に対して、篩による分級を行うこともできる。
本発明のGd-Co系金属粉体は、熱電変換素子用の材料として使用することができる。
【0024】
[導電成形体]
本明細書では、粉体を材料に用いて所定形状に成形された物体であって、使用環境においてその形状を維持できる定形性を備えた物体を、「粉体の成形体」と呼ぶ。特に、導電性を有する粉体の成形体を「粉体の導電成形体」と呼ぶ。上記のGd-Co系金属粉体を材料に用いた、金属間化合物GdCoを主成分とする粉体の導電成形体は、熱電変換素子として有用である。
【0025】
粉体の導電成形体の代表的な形態として、圧粉体や、焼結体が挙げられる。圧粉体であっても、使用環境で定形性を維持できるようにしてデバイスに組み込むことにより、熱電変換素子として使用可能である。安定した定形性を確保するためには、焼結体が好ましい。
【0026】
粉体の導電成形体の、圧粉体、焼結体以外の形態としては、例えば樹脂等のバインダー成分により粉体を所定形状に固形化した成形体を挙げることができる。導電性のないバインダー成分を使用する場合は、粉体粒子同士が接触する状態で固形化させる必要がある。導電性を有するバインダー成分を使用する場合は、粉体粒子同士の接触は必須ではない。
【0027】
金属間化合物GdCoを主成分とする粉体の導電成形体として、焼結体を適用する場合は、公知の焼結手法を利用して金属間化合物GdCoを主成分とする粉体の焼結体を作製することができる。絶縁基板上に形成された回路パターンの一部または全部を、金属間化合物GdCoを主成分とする粉体の導電成形体として使用する場合は、当該粉体をフィラーとする塗料により絶縁基板上に回路パターンの塗膜を形成したのち、その塗膜を加熱して焼結させる方法などが適用できる。
【0028】
上述した粒度分布に調整されたGd-Co系金属粉体を材料に用いることによって、保磁力が大きく、常温のゼロ磁場環境下で優れた熱電変換作用を呈する導電成形体を構築することが可能である。
【実施例0029】
[実施例1]
(合金塊の作製)
原料である金属Gd(日本イットリウム株式会社製、純度3N)、および金属Co(株式会社レアメタリック製、純度3N)を、原子比でGa:Co=1.0:5.0となるように秤量し、アーク溶解炉(日新技研株式会社製)を用いてアルゴン雰囲気下でGa-Co合金の溶融金属を生成させ、水冷銅盤上で凝固させて約50gの合金塊を得た。
【0030】
(粉体の作製)
得られた合金塊を窒素雰囲気のグローブボックス内で乳鉢にて粗粉砕した。この段階の粉砕品を「粗粉砕品」と呼ぶ。この粗粉砕品を用いて、以下の3種類の粉砕品を作製した。
【0031】
(i)ハンマーミル粉砕品
粗粉砕品を前記グローブボックス内でハンマーミル(三庄インダストリー株式会社製、ハンマークラッシャーNH-34S、スクリーンメッシュ:0.3mm)により粉砕し、ハンマーミル粉砕品を得た。
図1に、ハンマーミル粉砕品のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を例示する。使用したSEMは、日本電子株式会社製、FE-SEM JSM-7200Fである(以下の各粉砕品についても同様)。
SEMに付属のEDX(エネルギー分散型X線分析)装置(Oxford Instruments製、X-Max20)によりハンマーミル粉砕品の元素分析を行った(以下の各粉砕品についても同様)。その結果、ハンマーミル粉砕品の組成は、原子比でGa:Co=1.2:5.0であり、酸素含有量は1.0質量%であった。
また、乾式レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社日本レーザー製、HELOS & RODOS)により焦点距離200mmのレンズを用いてハンマーミル粉砕品の粒度分布を測定した(以下の各粉砕品についても同様)。その結果、ハンマーミル粉砕品のレーザー回折・散乱法による体積基準の累積10%粒子径D10は5μm、累積50%粒子径D50は44μm、累積90%粒子径D90は111μmであった。
【0032】
(ii)サンプルミル粉砕品
上記のハンマーミル粉砕品の一部を前記グローブボックス内でサンプルミル(協立理工株式会社製、SK-M10型)により粉砕し、サンプルミル粉砕品を得た。
図2に、サンプルミル粉砕品のSEM写真を例示する。
EDX測定によるサンプルミル粉砕品の組成は、原子比でGa:Co=1.1:5.0であり、酸素含有量は1.0質量%であった。また、サンプルミル粉砕品のレーザー回折・散乱法による体積基準の累積10%粒子径D10は2μm、累積50%粒子径D50は13μm、累積90%粒子径D90は44μmであった。
【0033】
(iii)遊星ボールミル粉砕品
上記のハンマーミル粉砕品の一部を窒素雰囲気の密閉容器内に置かれた遊星ボールミル(フリッチュ社製、P-7)により粉砕し、遊星ボールミル粉砕品を得た。
図3に、遊星ボールミル粉砕品のSEM写真を例示する。
EDX測定による遊星ボールミル粉砕品の組成は、原子比でGa:Co=1.1:5.0であり、酸素含有量は1.3質量%であった。また、遊星ボールミル粉砕品のレーザー回折・散乱法による体積基準の累積10%粒子径D10は3μm、累積50%粒子径D50は10μm、累積90%粒子径D90は40μmであった。
【0034】
図4に、上記のハンマーミル粉砕品、サンプルミル粉砕品、および遊星ボールミル粉砕品の粒度分布曲線を示す。
【0035】
(X線回折パターンの測定)
上記のハンマーミル粉砕品、サンプルミル粉砕品、および遊星ボールミル粉砕品の各粉体について、X線回折装置(Rigaku製、Ultima IV)により、Cu-Kα線、管電圧40kV、管電流40mA、測定ステップ0.02度、スキャン速度2度/minの条件でX線回折パターンを測定した。
図5に、そのX線回折パターンを例示する。いずれの粉砕品も、六方晶であるGaCo結晶の回折パターンを呈し、ほぼ単相のGaCo結晶相からなる粉体であることが確認された。
【0036】
(粉体磁気特性の測定)
上記のハンマーミル粉砕品、サンプルミル粉砕品、および遊星ボールミル粉砕品の各粉体試料の室温での磁気特性を、VSM(東英工業株式会社製、Model-5)により測定した。測定条件は、最大印加磁場6T、掃引速度1min/F.S.とした。測定の結果、各粉砕品とも磁場6Tにおいて磁化は未飽和であると見られ、磁場6Tでの磁化は、ハンマーミル粉砕品が20.0A・m/kg、サンプルミル粉砕品が21.3A・m/kg、遊星ボールミル粉砕品が21.3A・m/kgであった。また、保磁力は、ハンマーミル粉砕品が0.74T(589kA/m)、サンプルミル粉砕品が1.48T(1178kA/m)、遊星ボールミル粉砕品が1.86T(1480kA/m)であった。
図6に、上記のハンマーミル粉砕品、サンプルミル粉砕品、および遊星ボールミル粉砕品の磁化曲線を示す。
【0037】
(導電成形体の作製)
粉体の導電成形体として、上記のハンマーミル粉砕品、サンプルミル粉砕品、および遊星ボールミル粉砕品の各粉体を用いて、それぞれの焼結体を以下のように作製した。各粉砕品の粉体約5gを、それぞれ内径10mmの円筒形グラファイトセルのシリンダー中で上下のピストンにより90MPa(7.065kN)の圧力を付与した状態として、約1Paの真空雰囲気下で放電プラズマ焼結装置により加熱することによって、直径10mm、高さ約8mmの円柱形状の焼結体を得た。ヒートパターンは、500℃まで昇温、500℃で10分間保持、放冷とした。
【0038】
(異常ネルンスト効果の測定)
上記の導電成形体(焼結体)から、長さ(L)約8.0mm、幅(W)約1.5mm、厚さ(H)約0.5mmの直方体試料を切り出した。図7に、起電力測定用の端子、温度測定用のプローブ取り付け位置と、熱流、磁場の付与方向を模式的に示す。ネルンスト効果測定用試料1の対向する側面中央位置に、起電力測定用の端子2a、2bを導電性エポキシ接着剤で取り付け、電圧計で両端子間に生じる電圧(V)を測定できるようにした。この電圧は異常ネルンスト効果によって生じるものであるので、VANEと表示する。試料1の上面2箇所(符号31、32で示す位置)に5.0mmの間隔(L)をあけて温度測定用プローブを導電性エポキシ接着剤で取り付けてその間の温度差ΔTをモニターできるようにし、Quantum Design社製、物理特性測定システムPPMS装置内で試料長手方向に熱流を生じさせながら、試料の厚さ方向に磁場を付与し、試料の幅方向両端の間に生じる起電力を室温(300K)において測定した。図7中の黒塗り矢印(符号4)が試料中の熱流方向を表す。温度TおよびTが安定した後、試料に磁場を付与し、電圧VANE(V)を測定した。図7中の白抜き矢印(符号5)が磁場の方向を表す。磁場は3Tから-3T、-3Tから3Tの間で掃引した。
下記(1)式によりネルンスト係数SANE(μV/K)を求めた。
ANE(μV/K)=VANE(V)/W/ΔT(K)/L …(1)
ここで、
ANE:試料幅方向両端に生じる起電力(V)、
W:試料の幅方向長さ(mm)、
ΔT:温度プローブ取り付け位置2箇所の温度差(K)、
:2箇所の温度プローブ取り付け位置の試料長手方向距離(mm)、
である。
【0039】
以上の結果を表1に示す。図8に、サンプルミル粉砕品を用いた導電成形体についてのネルンスト係数の測定結果を例示する。この例では、温度300Kにおける、磁場の印加がない状態(ゼロ磁場)でのネルンスト係数は0.4μV/Kであった。
本発明に従う金属間化合物GdCoを主成分とする粉体の導電成形体は、ネルンスト係数の測定において0.5Tを超える保磁力を有し、ゼロ磁場下において異常ネルンスト効果を示すことが確認された。
【0040】
【表1】
【符号の説明】
【0041】
1 ネルンスト効果測定用試料
2a、2b 起電力測定端子
31、32 測温位置
4 試料中の熱流方向
5 磁場の方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8