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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017839
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】蒸気供給装置及び蒸気供給方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/31 20060101AFI20250130BHJP
   C23C 16/448 20060101ALI20250130BHJP
   H01L 21/318 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
H01L21/31 B
C23C16/448
H01L21/318 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023121129
(22)【出願日】2023-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100149249
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】清水 秀治
(72)【発明者】
【氏名】村田 逸人
(72)【発明者】
【氏名】和田 吉史
【テーマコード(参考)】
4K030
5F045
5F058
【Fターム(参考)】
4K030AA03
4K030AA04
4K030AA11
4K030EA01
5F045AA15
5F045AB33
5F045AC05
5F045AC15
5F045EE02
5F045EE03
5F045EE04
5F045EE07
5F045GB05
5F045GB06
5F058BA20
5F058BC08
5F058BF04
5F058BF24
5F058BF37
5F058BG02
(57)【要約】
【課題】容器からの液状混合物の蒸気の排出に伴う混合ガス中の第1物質の濃度の低下を簡単な装置によって抑制する蒸気供給装置及び蒸気供給方法を提供する。
【解決手段】第1物質と前記第1物質より低い飽和蒸気圧を有する第2物質とを含む液状混合物を入れた容器と、前記容器にキャリアガスを導入する導入経路と、前記液状混合物の蒸気と前記キャリアガスとの混合ガスを前記容器から供給対象に供給する供給経路と、前記容器内の前記液状混合物の残量を測定する残量測定装置と、前記容器内の圧力、温度又はその両方を制御することで前記容器からの前記液状混合物の前記蒸気の排出に伴う前記混合ガス中の前記第1物質の濃度の低下を抑制する濃度制御を行う濃度制御装置とを有し、前記濃度制御装置は、前記残量測定装置によって測定された前記容器内の前記液状混合物の前記残量に応じて前記濃度制御を行う、蒸気供給装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1物質と前記第1物質より低い飽和蒸気圧を有する第2物質とを含む液状混合物を入れた容器と、
前記容器にキャリアガスを導入する導入経路と、
前記液状混合物の蒸気と前記キャリアガスとの混合ガスを前記容器から供給対象に供給する供給経路と、
前記容器内の前記液状混合物の残量を測定する残量測定装置と、
前記容器内の圧力、温度又はその両方を制御することで前記容器からの前記液状混合物の前記蒸気の排出に伴う前記混合ガス中の前記第1物質の濃度の低下を抑制する濃度制御を行う濃度制御装置とを有し、
前記濃度制御装置は、前記残量測定装置によって測定された前記容器内の前記液状混合物の前記残量に応じて前記濃度制御を行う、蒸気供給装置。
【請求項2】
前記残量測定装置は、重量計又は液面高さ計で構成される、請求項1に記載の蒸気供給装置。
【請求項3】
前記濃度制御装置は、前記容器内の前記液状混合物の初期量と、前記容器内の前記液状混合物中の前記第1物質の初期濃度と、前記残量測定装置によって測定された前記容器内の前記液状混合物の前記残量とに応じて前記濃度制御を行う、請求項1に記載の蒸気供給装置。
【請求項4】
前記濃度制御装置は、前記容器内の前記液状混合物の前記初期量と、前記容器内の前記液状混合物中の前記第1物質の前記初期濃度と、前記残量測定装置によって測定された前記容器内の前記液状混合物の前記残量とに応じて、前記容器内の前記液状混合物の前記残量中の前記第1物質の濃度を推定し、推定結果に応じて前記濃度制御を行う、請求項3に記載の蒸気供給装置。
【請求項5】
前記濃度制御装置は、前記容器内の前記液状混合物の前記残量中の前記第1物質の濃度の前記推定結果に応じて、前記混合ガス中の前記第1物質の濃度を予め設定された目標値に調整する、請求項4に記載の蒸気供給装置。
【請求項6】
第1物質と前記第1物質より低い飽和蒸気圧を有する第2物質とを含む液状混合物を入れた容器にキャリアガスを導入して、前記液状混合物の蒸気と前記キャリアガスとの混合ガスを前記容器から供給対象に供給する蒸気供給方法であって、
残量測定装置によって測定された前記容器内の前記液状混合物の残量に応じて、前記容器内の圧力、温度又はその両方を制御することで前記容器からの前記液状混合物の前記蒸気の排出に伴う前記混合ガス中の前記第1物質の濃度の低下を抑制する濃度制御を行う、蒸気供給方法。
【請求項7】
重量又は液面高さの測定によって前記容器内の前記液状混合物の前記残量を得る、請求項6に記載の蒸気供給方法。
【請求項8】
前記容器内の前記液状混合物の初期量と、前記容器内の前記液状混合物中の前記第1物質の初期濃度と、前記容器内の前記液状混合物の前記残量とに応じて前記濃度制御を行う、請求項6に記載の蒸気供給方法。
【請求項9】
前記容器内の前記液状混合物の初期量と、前記容器内の前記液状混合物中の前記第1物質の初期濃度と、前記容器内の前記液状混合物の前記残量とに応じて、前記容器内の前記液状混合物の前記残量中の前記第1物質の濃度を推定し、推定結果に応じて前記濃度制御を行う、請求項8に記載の蒸気供給方法。
【請求項10】
前記濃度制御は、前記容器内の前記液状混合物の前記残量中の前記第1物質の濃度の前記推定結果に応じて、前記混合ガス中の前記第1物質の濃度を予め設定された目標値に調整する、請求項9に記載の蒸気供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蒸気供給装置及び蒸気供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の高集積化が進む中で、新たに反応性が高い原料が半導体製造に必要とされている。製膜やエッチングといった加工を行う半導体製造装置に対して、原料は蒸気状態で供給される。これまで、蒸気の発生にあたっては、純物質が用いられてきた。しかし、高い反応性に鑑み、品質保持や安全性確保の観点から、溶媒と混合した溶液や液体混合物を用いる場面が出てきた。
【0003】
溶液や液体混合物からの蒸気供給の例としては、Air Liquide社のToRuSTM、RASIRC社のBRUTE(商標) Hydrazineなどによるものがある。ToRuSTMは四酸化ルテニウムと溶媒の混合物であり、溶質・溶媒共に揮発性を持つ。また、HfZrO製膜用の混合前駆体、微量水分を含むギ酸、微量水分を含むモノメチルヒドラジンなども液体混合物の各成分が揮発性を持つ。広い意味では、微量水分を含む液体アンモニアからのアンモニアガス供給も液体混合物からの蒸気供給にあたり、主成分・不純物共に揮発性を持つ。一方、BRUTE(商標) Hydrazineの場合は、揮発性の溶質としてのヒドラジン(N)と不揮発性の溶媒とからなる溶液を容器に充填し、使用現場で溶質のみを気化させて用いる。
【0004】
純物質と異なり、混合液体からの蒸気供給においては、ラウールの法則で知られるように各成分の蒸気圧は液体組成の影響を受ける。純物質における蒸気圧と液体組成から蒸気組成が決まるため、共沸混合物でない限り蒸気供給を続ける中で液体組成が変化する。その結果、各成分の蒸気圧すなわち蒸気組成も変化する。蒸気組成が変化すると、製膜品質に影響する。蒸気組成の変化を軽減するために、混合液体の各成分の純物質における蒸気圧が実質的に等しくなるように成分を選ぶ方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4681000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
第1物質と第1物質より低い飽和蒸気圧を有する第2物質とを含む液状混合物を入れた容器にキャリアガスを導入して、液状混合物の蒸気とキャリアガスとの混合ガスを容器から供給対象に供給する場合、容器からの液状混合物の蒸気の排出に伴う混合ガス中の第1物質の濃度の低下を簡単な装置によって抑制することが好ましい。
【0007】
そこで本発明の目的は、容器からの液状混合物の蒸気の排出に伴う混合ガス中の第1物質の濃度の低下を簡単な装置によって抑制する蒸気供給装置及び蒸気供給方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は以下のとおりである。
【0009】
[1]
第1物質と前記第1物質より低い飽和蒸気圧を有する第2物質とを含む液状混合物を入れた容器と、
前記容器にキャリアガスを導入する導入経路と、
前記液状混合物の蒸気と前記キャリアガスとの混合ガスを前記容器から供給対象に供給する供給経路と、
前記容器内の前記液状混合物の残量を測定する残量測定装置と、
前記容器内の圧力、温度又はその両方を制御することで前記容器からの前記液状混合物の前記蒸気の排出に伴う前記混合ガス中の前記第1物質の濃度の低下を抑制する濃度制御を行う濃度制御装置とを有し、
前記濃度制御装置は、前記残量測定装置によって測定された前記容器内の前記液状混合物の前記残量に応じて前記濃度制御を行う、蒸気供給装置。
【0010】
[2]
前記残量測定装置は、重量計又は液面高さ計で構成される、[1]に記載の蒸気供給装置。
【0011】
[3]
前記濃度制御装置は、前記容器内の前記液状混合物の初期量と、前記容器内の前記液状混合物中の前記第1物質の初期濃度と、前記残量測定装置によって測定された前記容器内の前記液状混合物の前記残量とに応じて前記濃度制御を行う、[1]又は[2]に記載の蒸気供給装置。
【0012】
[4]
前記濃度制御装置は、前記容器内の前記液状混合物の前記初期量と、前記容器内の前記液状混合物中の前記第1物質の前記初期濃度と、前記残量測定装置によって測定された前記容器内の前記液状混合物の前記残量とに応じて、前記容器内の前記液状混合物の前記残量中の前記第1物質の濃度を推定し、推定結果に応じて前記濃度制御を行う、[3]に記載の蒸気供給装置。
【0013】
[5]
前記濃度制御装置は、前記容器内の前記液状混合物の前記残量中の前記第1物質の濃度の前記推定結果に応じて、前記混合ガス中の前記第1物質の濃度を予め設定された目標値に調整する、[4]に記載の蒸気供給装置。
【0014】
[6]
第1物質と前記第1物質より低い飽和蒸気圧を有する第2物質とを含む液状混合物を入れた容器にキャリアガスを導入して、前記液状混合物の蒸気と前記キャリアガスとの混合ガスを前記容器から供給対象に供給する蒸気供給方法であって、
残量測定装置によって測定された前記容器内の前記液状混合物の残量に応じて、前記容器内の圧力、温度又はその両方を制御することで前記容器からの前記液状混合物の前記蒸気の排出に伴う前記混合ガス中の前記第1物質の濃度の低下を抑制する濃度制御を行う、蒸気供給方法。
【0015】
[7]
重量又は液面高さの測定によって前記容器内の前記液状混合物の前記残量を得る、[6]に記載の蒸気供給方法。
【0016】
[8]
前記容器内の前記液状混合物の初期量と、前記容器内の前記液状混合物中の前記第1物質の初期濃度と、前記容器内の前記液状混合物の前記残量とに応じて前記濃度制御を行う、[6]又は[7]に記載の蒸気供給方法。
【0017】
[9]
前記容器内の前記液状混合物の初期量と、前記容器内の前記液状混合物中の前記第1物質の初期濃度と、前記容器内の前記液状混合物の前記残量とに応じて、前記容器内の前記液状混合物の前記残量中の前記第1物質の濃度を推定し、推定結果に応じて前記濃度制御を行う、[8]に記載の蒸気供給方法。
【0018】
[10]
前記濃度制御は、前記容器内の前記液状混合物の前記残量中の前記第1物質の濃度の前記推定結果に応じて、前記混合ガス中の前記第1物質の濃度を予め設定された目標値に調整する、[9]に記載の蒸気供給方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、容器からの液状混合物の蒸気の排出に伴う混合ガス中の第1物質の濃度の低下を簡単な装置によって抑制する蒸気供給装置及び蒸気供給方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施形態の蒸気供給装置を示す概念図である。
図2】本発明の第2実施形態の蒸気供給装置を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を例示説明する。
【0022】
図1に示すように、本発明の一実施形態において、蒸気供給装置1は、第1物質と第1物質より低い飽和蒸気圧を有する第2物質とを含む液状混合物2を入れた容器3と、容器3にキャリアガスを導入する導入経路4と、液状混合物2の蒸気とキャリアガスとの混合ガスを容器3から供給対象5に供給する供給経路6と、容器3内の液状混合物2の残量を測定する残量測定装置7と、容器3内の圧力、温度又はその両方を制御することで容器3からの液状混合物2の蒸気の排出に伴う混合ガス中の第1物質の濃度の低下を抑制する濃度制御を行う濃度制御装置8とを有し、濃度制御装置8は、残量測定装置7によって測定された容器3内の液状混合物2の残量に応じて濃度制御を行う。
【0023】
上記構成によれば、ガス濃度計によって測定された混合ガス中の第1物質の濃度に応じるのではなく、残量測定装置7によって測定された容器3内の液状混合物2の残量に応じて、濃度制御を行うことができる。したがって、ガス濃度計よりも簡単な残量測定装置7を用いればよいので、容器3からの液状混合物2の蒸気の排出に伴う混合ガス中の第1物質の濃度の低下を簡単な装置によって抑制できる。
【0024】
残量測定装置7は、特に限定されないが、重量計又は液面高さ計で構成されることが好ましい。本実施形態では、残量測定装置7は重量計で構成される。重量計は、液状混合物2を収容した容器3の重量を測定することが好ましい。残量測定装置7によって測定される容器3内の液状混合物2の残量は、特に限定されず、例えば、容器3内の液状混合物2の重量又は体積である。容器3内の液状混合物2の残量は、重量計によって測定された重量から既知の容器3自体の重量を差し引くことで得ることができる。容器3内の液状混合物2の重量を直接測定する重量計を用いてもよいが、容器3の重量を測定するタイプの方が構成を簡単にできる。液面高さ計は、接触式、非接触式など形式を問わない。液面高さ計によって測定された液面高さと既知の容器3の形状及び寸法とから容器3内の液状混合物2の残量を得ることができる。
【0025】
濃度制御装置8は、容器3内の温度を調整する温度調整器9と、容器3内の圧力を調整する圧力調整器10と、残量測定装置7によって測定された容器3内の液状混合物2の残量に応じて濃度制御を行うために温度調整器9と圧力調整器10とを制御する処理装置11とを有する。上記構成によれば、簡単な構成によって濃度制御装置8を実現できる。
【0026】
温度調整器9は、容器3内を加熱するヒーター若しくは容器3内を冷却するチラー又はその両方とを有する。
【0027】
圧力調整器10は、特に限定されないが、図1に示すように供給経路6上に設けられる背圧弁で構成することが好ましい。
【0028】
処理装置11は、残量測定装置7によって測定された容器3内の液状混合物2の残量と温度計12によって測定された容器3内の温度とに応じて濃度制御を行うために温度調整器9と圧力調整器10とを制御する。上記構成によれば、容器3内の温度を利用して濃度制御の精度を向上できる。
【0029】
濃度制御装置8は、容器3内の液状混合物2の初期量と、容器3内の液状混合物2中の第1物質の初期濃度と、残量測定装置7によって測定された容器3内の液状混合物2の残量とに応じて濃度制御を行う。上記構成によれば、混合ガス中の第1物質の濃度を、供給対象5に応じて予め設定された所望の目標値に向けて精度良く調整できる。
【0030】
濃度制御装置8は、容器3内の液状混合物2の初期量と、容器3内の液状混合物2中の第1物質の初期濃度と、残量測定装置7によって測定された容器3内の液状混合物2の残量とに応じて、容器3内の液状混合物2の残量中の第1物質の濃度を推定し、推定結果(好ましくは推定値)に応じて濃度制御を行う。上記構成によれば、混合ガス中の第1物質の濃度を、供給対象5に応じて予め設定された所望の目標値に向けてさらに精度良く調整できる。
【0031】
濃度制御装置8は、容器3内の液状混合物2の残量中の第1物質の濃度の推定結果に応じて、混合ガス中の第1物質の濃度を予め設定された目標値に調整する。上記構成によれば、混合ガス中の第1物質の濃度を、供給対象5に応じて予め設定された所望の目標値に精度良く調整できる。
【0032】
本実施形態では第1物質はヒドラジンであり、第2物質は不揮発性溶媒であるが、これに限らない。ただし、揮発性又は昇華性の第1物質としての溶質と不揮発性又は難揮発性の第2物質としての溶媒とからなる溶液であって、溶質の飽和蒸気圧(PP)、溶媒の飽和蒸気圧(PS)、溶質の分子量(MP)及び溶媒の分子量(MS)の関係が、下記条件Aを満たすものであることが好ましい。
条件A:(PP/PS)×(MS/MP)>20000
【0033】
一般的には、揮発性の溶質と難揮発性の溶媒からの蒸気供給では、残量が少なくなるにつれて蒸気中不純物濃度(溶媒の成分)が増大する。上記条件Aを満たす溶液であれば、供給対象5を半導体製膜チャンバとする場合に、溶質が相当量減少するまで、濃度制御によって不純物としての第2物質の混入が少ない十分に良質な混合ガスを供給できる。
【0034】
液状混合物2は、第1物質と前記第1物質より低い飽和蒸気圧を有する第2物質とを含む限り特に限定されず、例えば、溶質としての気体若しくは固体を溶媒としての液体に溶解させた溶液、又は2種以上の液体を混合させた液体混合物とすることができる。溶液は、溶質が2種以上の物質を含んでもよく、溶媒が2種以上の物質を含んでもよい。
【0035】
液状混合物2を溶液とする場合例えば、金属含有化合物、窒素含有化合物、炭素含有化合物及び酸素含有化合物からなる群から選択される2種以上の物質を含む溶液とすることができる。
【0036】
金属含有化合物は例えば、シリコン(Si)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、インジウム(In)、ハフニウム(Hf)、コバルト(Co)及びルテニウム(Ru)からなる群から選択される1つ以上の金属元素を含む化合物とすることができる。金属含有化合物をハロゲン金属化合物とする場合例えば、TiCl、SiCl(HCDS:ヘキサクロロジシラン)、SiCl、SiHCl、SiHCl、SiHCl、SiI、SiHI、SiH、SiHI、TaCl、AlCl、GaCl、ZrCl、HfCl、MoOCl、MoCl、WF、WCl及びWClからなる群から選択できる。金属含有化合物を有機金属化合物とする場合例えば、TDMAT(テトラキスジメチルアミノチタン)、3DMAS(トリスジメチルアミノシラン、)BDEAS(ビスジエチルアミノシラン)、BTBAS(ビスターシャリーブチルアミノシラン)、DIPAS(ジイソプロピルアミノシラン)、PDMAT(ペンタキスジメチルアミノタンタル)、TMA(トリメチルアルミニウム)、TMG(トリメチルガリウム)、ハフニウム含有化合物、ジルコニウム含有化合物、コバルト含有化合物及びルテニウム含有化合物からなる群から選択できる。
【0037】
窒素含有化合物は例えば、アミン化合物、ヒドラジン化合物及びアンモニアからなる群から選択できる。アミン化合物は例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン及びターシャリーブチルアミンからなる群から選択できる。ヒドラジン化合物は例えば、ヒドラジン、モノメチルヒドラジン、ジメチルヒドラジン、ターシャリーブチルヒドラジン、フェニルヒドラジン及びプロピルヒドラジンからなる群から選択できる。窒素含有化合物は、ヒドラジン化合物であることが好ましく、ヒドラジンであることがより好ましい。
【0038】
炭素含有化合物は例えば、有機溶媒とすることができる。有機溶媒は例えば、炭化水素化合物、アルコール化合物、エーテル化合物、グリコール化合物、アミド化合物及びケトン化合物からなる群から選択できる。有機溶媒を炭化水素化合物とする場合例えば、プロパン、ブタン、ヘプタン、ペンタン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン及びジメチルスルホキシドからなる群から選択できる。有機溶媒をアルコール化合物とする場合例えば、メタノール、ジメチルエタノール、エタノール、プロパノール、メタノールアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン及びプロパノールアミンからなる群から選択できる。有機溶媒をエーテル化合物とする場合例えば、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、クラウンエーテル、酢酸エチル、ジグリム及びトリグリムからなる群から選択できる。有機溶媒をグリコール化合物とする場合例えば、エチレングリール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール及びテトラエチレングリコールからなる群から選択できる。有機溶媒をアミド化合物とする場合例えば、ホルムアミド、アセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、テトラメチル尿素、N-メトキシ-N-メチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド及びアセトアニリドからなる群から選択できる。有機溶媒をケトン化合物とする場合例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン及びベンゾフェノンからなる群から選択できる。
【0039】
酸素含有化合物は例えば、水(HO)及び過酸化水素(H)からなる群から選択できる。
【0040】
蒸気供給装置1は、図2に示す第2実施形態のように、第2物質を除去する第2物質除去装置13を供給経路6上に有してもよい。上記構成によれば、不純物としての第2物質を除去することで、供給対象5に対して供給する混合ガスの品質を向上できる。
【0041】
本発明の一実施形態において、蒸気供給方法は、第1物質と第1物質より低い飽和蒸気圧を有する第2物質とを含む液状混合物2を入れた容器3にキャリアガスを導入して、液状混合物2の蒸気とキャリアガスとの混合ガスを容器3から供給対象5に供給する蒸気供給方法であって、残量測定装置7によって測定された容器3内の液状混合物2の残量に応じて、容器3内の圧力、温度又はその両方を制御することで容器3からの液状混合物2の蒸気の排出に伴う混合ガス中の第1物質の濃度の低下を抑制する濃度制御を行う。本実施形態の蒸気供給方法は、前述した実施形態の蒸気供給装置1によって行うが、これに限らない。
【0042】
上記構成によれば、ガス濃度計によって測定された混合ガス中の第1物質の濃度に応じるのではなく、残量測定装置7によって測定された容器3内の液状混合物2の残量に応じて、濃度制御を行うことができる。したがって、ガス濃度計よりも簡単な残量測定装置7を用いればよいので、容器3からの液状混合物2の蒸気の排出に伴う混合ガス中の第1物質の濃度の低下を簡単な方法によって抑制できる。
【0043】
蒸気供給方法は、特に限定されないが、残量測定装置7による重量又は液面高さの測定によって容器3内の液状混合物2の残量を得ることが好ましい。本実施形態では、残量測定装置7による重量の測定によって容器3内の液状混合物2の残量を得る。
【0044】
容器3内の液状混合物2の初期量と、容器3内の液状混合物2中の第1物質の初期濃度と、容器3内の液状混合物2の残量とに応じて濃度制御を行う。上記構成によれば、混合ガス中の第1物質の濃度を、供給対象5に応じて予め設定された所望の目標値に向けて精度良く調整できる。
【0045】
蒸気供給方法は、容器3内の液状混合物2の初期量と、容器3内の液状混合物2中の第1物質の初期濃度と、容器3内の液状混合物2の残量とに応じて、容器3内の液状混合物2の残量中の第1物質の濃度を推定し、推定結果(好ましくは推定値)に応じて濃度制御を行う。上記構成によれば、混合ガス中の第1物質の濃度を、供給対象5に応じて予め設定された所望の目標値に向けてさらに精度良く調整できる。
【0046】
濃度制御は、容器3内の液状混合物2の残量中の第1物質の濃度の推定結果に応じて、混合ガス中の第1物質の濃度を予め設定された目標値に調整する。上記構成によれば、混合ガス中の第1物質の濃度を、供給対象5に応じて予め設定された所望の目標値に精度良く調整できる。
【0047】
本発明は前述した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【実施例0048】
<実施例1~2及び比較例1:BRUTE(商標) Hydrazineからのヒドラジン供給>
実施例1~2及び比較例1では、図1に示す第1実施形態の蒸気供給装置1を用いて、1kgのBRUTE(商標) Hydrazine(BH)を容器3内に封入し、温度調整器9(ヒーター)及び温度計12によって温度制御するとともに、圧力調整器10(背圧弁)によって圧力制御しながら、窒素0.744mol/L(1slpm)をキャリアガスとして導入し、ヒドラジンを供給対象5としての製膜チャンバに供給し、製膜試験を実施した。製膜チャンバでは、ヒドラジン蒸気とジクロロシランを用いた原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)により500℃でSiNを製膜した。
【0049】
実施例1では、容器3内温度を40℃に保持し、濃度制御として、ヒドラジンを33g供給する毎に容器3内圧力を1kPa降下させる降下率で圧力調整(定率降圧)を行いながら、ヒドラジン蒸気を供給し、上記製膜試験を実施した。
【0050】
実施例2では、容器3内圧力を80kPaに保持し、濃度制御として、ヒドラジンを50g供給する毎に容器3内温度を1℃上昇させる上昇率で温度調整(定率昇温)を行いながら、ヒドラジン蒸気を供給し、上記製膜試験を実施した。
【0051】
比較例1では、ヒドラジン累積供給量に関係なく、容器3内温度を40℃に保持し、容器3内圧力を80kPaに保持しながら(つまり濃度制御なしで)、ヒドラジン蒸気を供給し、上記製膜試験を実施した。
【0052】
実施例1~2及び比較例1における混合ガス中ヒドラジン濃度及びALDのサイクル当たり製膜量を表1に示す。実施例1ではヒドラジン累積供給量450gまでは安定した濃度のヒドラジン蒸気を供給でき、サイクル当たりの製膜量は0.5nmであった。累積供給量500gに達すると混合ガス中ヒドラジン濃度が低下し、製膜プロセスを実施するたびにサイクル当たりの製膜量は低下した。実施例2ではヒドラジン累積供給量500gまでは安定した濃度のヒドラジン蒸気を供給でき、サイクル当たりの製膜量は0.5nmであった。ヒドラジン累積供給量500gを超えると混合ガス中ヒドラジン濃度が低下し、製膜プロセスを実施するたびにALDのサイクル当たり製膜量は低下した。他方、比較例1では、ヒドラジン累積供給量が300gに達すると混合ガス中ヒドラジン濃度が低下し、製膜プロセスを実施するたびにサイクル当たりの製膜量が低下した。製膜工程のスループットを考慮すると、サイクル当たりの製膜量が大きいものが好ましい。また、実施例1~2及び比較例1において、サイクル当たりの製膜量の低下が見られた膜では、酸素や炭素の不純物が多いことも確認された。実施例1と比較例1との比較から、混合蒸気累積供給量に応じて容器内圧力を降下させることが好ましいことが分かる。また、実施例2と比較例1との比較から、混合蒸気累積供給量に応じて容器内温度を上昇させることが好ましいことが分かる。
【0053】
【表1】
【0054】
<実施例3~4及び比較例2:濃度50%のヒドラジン溶液からのヒドラジン供給>
実施例1~2及び比較例1では、ヒドラジンの重量濃度が65%であるBRUTE(商標) Hydrazineを用いたが、実施例3~4では、ヒドラジンの重量濃度を50%に変更した溶液1kgを容器3内に封入し、実施例1~2及び比較例1と同一の装置を用いて上記製膜試験を実施した。
【0055】
実施例3では、容器3内温度を40℃に保持し、濃度制御として、ヒドラジンを20g供給する毎に容器3内圧力を1kPa降下させる降下率で圧力調整(定率降圧)を行いながら、ヒドラジン蒸気を供給し、上記製膜試験を実施した。
【0056】
実施例4では、容器3内温度を40℃に保持し、濃度制御として、ヒドラジンを33g供給する毎に容器3内圧力を1kPa降下させる降下率で圧力調整(定率降圧)を行いながら、ヒドラジン蒸気を供給し、上記製膜試験を実施した。
【0057】
比較例2では、ヒドラジン累積供給量に関係なく、容器3内温度を40℃に保持し、容器3内圧力を80kPaに保持しながら(つまり濃度制御なしで)、ヒドラジン蒸気を供給し、上記製膜試験を実施した。
【0058】
実施例3~4及び比較例2における混合ガス中ヒドラジン濃度及びALDのサイクル当たり製膜量を表2に示す。実施例3ではヒドラジン累積供給量280gまでは安定した濃度のヒドラジン蒸気を供給でき、サイクル当たりの製膜量は0.47nmであった。一方、実施例4では、ヒドラジン累積供給量が200gを超えると混合ガス中ヒドラジン濃度が低下し、製膜プロセスを実施するたびにサイクル当たりの製膜量が低下した。さらに、比較例2ではヒドラジンの累積供給量が100gを超えると混合ガス中ヒドラジン濃度が低下し、製膜プロセスを実施するたびにサイクル当たりの製膜量が低下した。実施例3と比較例2との比較から、混合蒸気累積供給量に応じて容器内圧力を降下させることが好ましいことが分かる。また、実施例3と実施例4との比較から、初期の溶液組成に応じて圧力降下率を設定することがより好ましいことが分かる。
【0059】
【表2】
【0060】
<実施例5~6:溶液濃度推定>
実施例5~6では、実施例1~2及び比較例1の時と同様にヒドラジンの重量濃度が65%であるBRUTE(商標) Hydrazineを用い、実施例1~2及び比較例1と同一の装置を用いて上記製膜試験を実施した。
【0061】
実施例5では、濃度制御として、ヒドラジン累積供給量に応じた溶液濃度推定を実施し、その推定結果に基づいて混合ガス中ヒドラジン濃度が5%となるように容器3内圧力を調整(濃度推定圧力調整)しながら、ヒドラジン蒸気を供給し、上記製膜試験を実施した。
【0062】
実施例6では、濃度制御として、ヒドラジン累積供給量300gの時点で溶液濃度推定を実施し、その推定結果に基づいて混合ガス中ヒドラジン濃度が7%となるように容器3内圧力を調整してヒドラジン蒸気を供給し、上記製膜試験を実施した。
【0063】
実施例5~6における混合ガス中ヒドラジン濃度及びALDのサイクル当たり製膜量を表3に示す。実施例5ではヒドラジン累積供給量500gまでは安定した濃度のヒドラジン蒸気を供給でき、サイクル当たりの製膜量は0.50nmであった。ヒドラジン累積供給量550gでは、圧力制御器の制御下限値(50kPa)に設定した。その結果、ヒドラジン蒸気濃度は低下し、サイクル当たりの製膜量も低下した。実施例6では、ヒドラジン累積供給量300g時点のヒドラジン濃度が上昇し、サイクル当たりの製膜量を増大させることができた。実施例5と実施例1との比較から、定率降圧よりも濃度推定圧力調整の方が好ましいことが分かる。
【0064】
【表3】
【0065】
<実施例7及び比較例3:1%水分を含むモノメチルヒドラジンからのモノメチルヒドラジン供給>
実施例7及び比較例3では、図2に示す第2実施形態の蒸気供給装置1を用いて、99mol%モノメチルヒドラジン(MMH)と1mol%水分の液体混合物(MMH及び水のそれぞれが蒸気圧を持つ)を容器3内に封入し、窒素0.744mol/L(1slpm)をキャリアガスとして導入し、容器3内温度を25℃に保持してMMHと水分との混合蒸気を含む混合ガスを、第2物質除去装置13としての水分除去筒によって水分を除去しながら製膜チャンバに供給し、製膜試験を実施した。製膜チャンバでは、MMH蒸気とジクロロシランを用いたALDにより500℃でSiCNを製膜した。
【0066】
実施例7では、濃度制御として、混合蒸気累積供給量に応じた濃度推定を実施し、その推定値に基づいて混合ガス中MMH濃度が7.8%となるように容器3内圧力を調整(濃度推定圧力調整)しながら、MMH蒸気を供給し、上記製膜試験を実施した。
【0067】
比較例3では、混合蒸気累積供給量に応じた濃度推定を実施し、その推定値に関係なく、容器3内圧力を80kPaに保持しながら(つまり濃度制御なしで)、MMH蒸気を供給し、上記製膜試験を実施した。
【0068】
実施例7及び比較例3における混合ガス中MMH濃度及びALDのサイクル当たり製膜量を表4に示す。実施例7では、混合蒸気累積供給量900gを超えても安定した濃度のMMH蒸気を供給でき、サイクル当たりの製膜量は0.50nmであった。比較例3では、混合蒸気累積供給量が増えるに従って混合ガス中MMH濃度が低下し、混合蒸気累積供給量が900gに達すると、サイクル当たりの製膜量が著しく低下した。また、混合蒸気累積供給量が800gを超えると、製膜プロセスを実施するたびにサイクル当たりの製膜量が低下した。実施例7と比較例3との比較から、液状混合物が溶液ではなく液体混合物である場合でも、混合蒸気累積供給量に応じて濃度推定圧力調整をすることが好ましいことが分かる。
【0069】
【表4】
【符号の説明】
【0070】
1 蒸気供給装置
2 液状混合物
3 容器
4 導入経路
5 供給対象
6 供給経路
7 残量測定装置
8 濃度制御装置
9 温度調整器
10 圧力調整器
11 処理装置
12 温度計
13 第2物質除去装置
図1
図2