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  • 特開-複合材および電気電子部品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018127
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】複合材および電気電子部品
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/26 20060101AFI20250130BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20250130BHJP
   C25D 3/12 20060101ALI20250130BHJP
   C25D 3/38 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
C25D5/26 Q
C25D7/00 G
C25D3/12 101
C25D3/38 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023121578
(22)【出願日】2023-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】川田 紳悟
(72)【発明者】
【氏名】北河 秀一
【テーマコード(参考)】
4K023
4K024
【Fターム(参考)】
4K023AA12
4K023AA19
4K023BA06
4K023BA08
4K023CA01
4K023CB03
4K023CB08
4K023CB28
4K023DA02
4K023DA07
4K023DA08
4K024AA03
4K024AA09
4K024AB02
4K024AB06
4K024BA04
4K024BB09
4K024CA02
4K024CA04
4K024CA06
4K024CB21
4K024DA02
4K024DA06
4K024FA10
4K024GA01
4K024GA16
(57)【要約】
【課題】機械的特性および導電性がいずれも高い点において優れたバランスを有するとともに、基体に対して高い密着性を有するCu含有層を備えた複合材と、これを用いた電気電子部品を提供する。
【解決手段】複合材は、Fe系合金からなる導電性基体の片面または両面に、Ni含有層とCu含有層がこの順で積層形成された複合材であり、複合材の厚さ方向を含む断面で見て、Cu含有層の厚さが、合計で10μm以上であり、かつ、複合材の総断面積に占めるCu含有層の断面積の割合が、0.20以上0.60以下である。また、電気電子部品は、この複合材を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe系合金からなる導電性基体の片面または両面に、Ni含有層とCu含有層がこの順で積層形成された複合材であり、
前記複合材の厚さ方向を含む断面で見て、
前記Cu含有層の厚さが、合計で10μm以上であり、かつ、
前記複合材の総断面積に占める前記Cu含有層の断面積の割合が、0.20以上0.60以下である、複合材。
【請求項2】
前記Fe系合金が、Fe-Ni-Cr系またはFe-Ni系合金である、請求項1に記載の複合材。
【請求項3】
前記Ni含有層は、平均結晶粒径が1.00μm以下である結晶粒を有する、請求項1に記載の複合材。
【請求項4】
前記Ni含有層と前記Cu含有層の積層界面を前記断面で見て、測定領域における前記積層界面の全長に対する、前記Ni含有層を構成するNi結晶粒と、前記積層界面を挟んで前記Ni結晶粒と向かい合う、Cu含有層を構成するCu結晶粒とが同一の結晶方位を有する前記積層界面の部分の長さを合計したときの合計長さの割合は、0.2以上の割合である、請求項1に記載の複合材。
【請求項5】
前記導電性基体は、ビッカース硬さ(HV)が300以上である、請求項1に記載の複合材。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の複合材を備える、電気電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材および電気電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
機械的特性および導電性がいずれも高く、それにより高い機械的特性および高い熱伝導性において優れたバランスを有する材料として、ステンレス層と銅層を接合させたクラッド材が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、全体の厚さが500μm以下の複合金属板であって、第1銅層とステンレス層と第2銅層とがこの順で接合されており、第1銅層の厚さをTc1とし、ステンレス層の厚さをTsとし、第2銅層の厚さをTc2とするとき、Ts/(Tc1+Tc2)で求まる厚さ比率が0.2以上5以下であり、複合金属板の平面方向の熱伝導率をKxとし、前記複合金属板の厚さ方向の熱伝導率をKzとするとき、Kx/Kzで求まる熱伝導率の比率が4.4以上6.8以下である、熱拡散用複合金属板が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、ステンレス鋼を基材とし、該基材の一方主面にNi又はNi合金を、他方主面にCuを圧接一体化してなるクラッド材として、ステンレス鋼の厚みがクラッド材全体の厚みの92%を超え99%以下であり、かつ引張強さが70kgf/mm以上である高強度クラッド材が記載されており、冷間圧接のみによって引張強さに優れたクラッド材を製造する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-025097号公報
【特許文献2】特開平11-104856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載されるような、銅層とステンレス層を接合させたクラッド材では、銅層とステンレス層を接合させる際に、高温で熱拡散させる必要や、高圧下で加工を加える必要があり、製造上の制約が多い問題点があった。また、特許文献2に記載されるような、銅層とステンレス層を接合させたクラッド材では、銅層とステンレス層の界面に異物を含む可能性が高く、それにより銅層とステンレス層の密着性が低くなるため、特に微小な部品の用途に用いるのには不向きであった。
【0007】
本発明は、機械的特性および導電性がいずれも高い点において優れたバランスを有するとともに、基体に対して高い密着性を有するCu含有層を備えた複合材と、これを用いた電気電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、Fe系合金からなる導電性基体の片面または両面に、Ni含有層とCu含有層をこの順で積層形成することで、冷間プロセスのみで形成する場合であっても、Fe系合金とCu含有層の密着性を高めることができることを見出した。また、この複合材のCu含有層の厚さを、片面または両面の合計で10μm以上にすることともに、複合材の総断面積に占めるCu含有層の断面積の割合を0.20以上0.60以下の範囲にすることで、複合材の引張強さおよび導電率を高めることができ、それにより複合材の機械的特性および導電性をいずれも高められることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
(1)Fe系合金からなる導電性基体の片面または両面に、Ni含有層とCu含有層がこの順で積層形成された複合材であり、前記複合材の厚さ方向を含む断面で見て、前記Cu含有層の厚さが、合計で10μm以上であり、かつ、前記複合材の総断面積に占める前記Cu含有層の断面積の割合が、0.20以上0.60以下である、複合材。
【0010】
(2)前記Fe系合金が、Fe-Ni-Cr系またはFe-Ni系合金である、上記(1)に記載の複合材。
【0011】
(3)前記Ni含有層は、平均結晶粒径が1.00μm以下である結晶粒を有する、上記(1)または(2)に記載の複合材。
【0012】
(4)前記Ni含有層と前記Cu含有層の積層界面を前記断面で見て、測定領域における前記積層界面の全長に対する、前記Ni含有層を構成するNi結晶粒と、前記積層界面を挟んで前記Ni結晶粒と向かい合う、Cu含有層を構成するCu結晶粒とが同一の結晶方位を有する前記積層界面の部分の長さを合計したときの合計長さの割合は、0.2以上の割合である、上記(1)から(3)のいずれか1項に記載の複合材。
【0013】
(5)前記導電性基体は、ビッカース硬さ(HV)が300以上である、上記(1)から(4)のいずれか1項に記載の複合材。
【0014】
(6)上記(1)から(5)のいずれか1項に記載の複合材を備える、電気電子部品。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、機械的特性および導電性がいずれも高い点において優れたバランスを有するとともに、基体に対して高い密着性を有するCu含有層を備えた複合材と、これを用いた電気電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に従う一実施形態の複合材を、厚さ方向を含む平面で切断したときの断面の要部を示す模式図である。
図2】本発明例9の複合材における厚さ方向を含む断面を、走査イオン顕微鏡(SIM)で観察したときのSIM像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の複合材および電気電子部品の好ましい実施形態について、詳細に説明する。
【0018】
<複合材について>
図1は、本発明に従う一実施形態の複合材を、厚さ方向を含む平面で切断したときの断面の要部を示す模式図である。本発明の複合材1は、図1に示すように、Fe系合金からなる導電性基体2の片面または両面に、Ni含有層31、32とCu含有層41、42がこの順で積層形成された複合材であり、複合材1の厚さ方向を含む断面で見て、Cu含有層4の厚さt、tが、合計(t+t)で10μm以上であり、かつ、複合材1の総断面積に占めるCu含有層4の断面積の割合が、0.20以上0.60以下である。
【0019】
このように、Fe系合金からなる導電性基体2の片面または両面に、Ni含有層31、32とCu含有層41、42をこの順で積層形成することで、導電性基体2とCu含有層41、42の密着性を高めることができる。また、複合材1のCu含有層41、42の厚さt、tを、片面または両面の合計(t+t)で10μm以上にすることともに、複合材1の総断面積に占めるCu含有層の断面積の割合を0.20以上0.60以下の範囲にすることで、複合材1の引張強さおよび導電率を高めることができ、それにより複合材1の機械的特性および導電性をいずれも高めることができる。したがって、機械的特性および導電性がいずれも高い点において優れたバランスを有するとともに、導電性基体2に対して高い密着性を有するCu含有層41、42を備えた複合材1と、これを用いた電気電子部品を提供することができる。
【0020】
ここで、Cu含有層41の表面41aおよび裏面41bがいずれも平坦であり、Cu含有層42の表面42aおよび裏面42bがいずれも平坦であり、かつ、複合材1の表面1aおよび裏面1bがいずれも平坦である場合、複合材1の総断面積に占めるCu含有層の断面積の割合は、複合材1の厚さtに対する、Cu含有層41、42の厚さの合計(t+t)の割合で近似してもよい。他方で、Cu含有層41、42の表面41a、42aと、Cu含有層41、42の裏面41b、42bと、複合材1の表面1aおよび裏面1bのうち少なくともいずれかは、曲面によって構成されていてもよい。
【0021】
本発明の複合材1は、Fe系合金からなる導電性基体2の片面または両面に、Ni含有層31、32とCu含有層41、42とが、この順で積層形成されたものである。
【0022】
(導電性基体について)
【0023】
導電性基体2は、表面2aと裏面2bの2つの面である両面と、両面同士を連結する端面2cおよび側面(図示せず)とを有し、板状をなしている。
【0024】
導電性基体2は、Fe系合金からなる。ここで、Fe系合金としては、ニッケル(Ni)およびクロム(Cr)のうち一方または両方を含有する合金が好ましく、特に機械的強度を高める観点では、Fe-Ni-Cr系またはFe-Ni系合金であることが好ましい。このうち、Fe-Ni系の合金としては、例えば、42アロイ(Fe-42質量%Ni)を挙げることができる。また、Fe-Ni-Cr系の合金としては、例えば、SUS301、SUS304、SUS630などのステンレス鋼を挙げることができる。これらFe-Ni-Cr系およびFe-Ni系合金としては、溶解鋳造によって作製されたものを用いてもよい。また、Fe-Ni系合金としては、電気めっきによっても作製されたものを用いてもよい。
【0025】
導電性基体2の厚さtは、特に限定されないが、複合材1に十分な機械的強度をもたらす観点と、複合材を備えた電気電子部品の低背化や小型化を図る観点から、例えば10μm以上100μm以下の範囲にすることができる。
【0026】
また、導電性基体2は、ビッカース硬さ(HV)が300以上であることが好ましく、330以上がより好ましく、350以上がさらに好ましい。このような導電性基体2は、硬さに比例して高い引張強度を有するため、導電性基体2に後述するNi含有層31、32やCu含有層41、42が積層形成された複合材1の引張強度をより一層高めることができる。
【0027】
ここで、ビッカース硬さ(HV)は、例えばJIS Z2244(2009)に記載されるビッカース硬さの試験方法に準拠して、導電性基体の厚さ方向を含む断面におけるビッカース硬さ(HV)を測定することができる。より具体的には、試験片である導電性基体2の厚さ方向を含む断面にダイヤモンド圧子を押し込む際の荷重(試験力)を0.049Nとし、圧子の圧下時間を15秒としたときの測定値とすることができる。
【0028】
(Ni含有層について)
Ni含有層31、32は、導電性基体2の片面または両面(図1では表面2aと裏面2bの両面)に積層形成される層である。
【0029】
本発明の複合材1では、Fe系合金からなる導電性基体2と後述するCu含有層41、42との間に、それぞれNi含有層31、32を形成することで、導電性基体2とCu含有層41、42との密着力を向上させることができる。これに関し、導電性基体2の表面に直接Cu含有層41、42を形成した場合には、後に加工を施した際に、Cu含有層41、42が剥がれ易くなる。そのため、本発明の複合材1では、導電性基体2とCu含有層41、42との間に、Ni含有層31、32を形成する必要がある。
【0030】
Ni含有層31、32の材質は、ニッケル(Ni)またはNi系合金によって構成されることが好ましい。より好ましくは、導電性基体2とCu含有層41、42との密着力をより一層向上させる観点から、Niを99.8質量%以上含有し、残部が不可避不純物である、NiまたはNi系合金によって構成されることが好ましい。
【0031】
Ni含有層31、32は、平均結晶粒径が1.00μm以下である結晶粒を有することが好ましい。Ni含有層31、32に含まれる結晶粒の平均結晶粒径を小さくすることで、Ni含有層31、32に積層形成されるCu含有層41、42の密着力をより一層向上させることができる。特に、Ni含有層31、32に積層形成されるCu含有層41、42は、複合材1を構成する物質の中で最も軟質であるため、Ni含有層31、32に含まれる結晶粒の平均結晶粒径を小さくすることで、複合材1を成形する際の加工による、Cu含有層41、42の剥離や割れを起こり難くすることができる。また、Ni含有層31、32に含まれる結晶粒の平均結晶粒径を小さくすることで、Cu含有層41、42に含まれる結晶粒の平均結晶粒径も小さくすることができる。
【0032】
Ni含有層31、32に含まれる平均結晶粒径の測定は、集束イオンビーム(FIB)装置(例えば、日立製作所製のFB2000A)を用いて、複合材1の厚さ方向を含む断面を形成するとともに、その断面について走査イオン顕微鏡(Scanning Ion Microscope、セイコーインスツル社製、型番:SMI3050TB)を用いて観察し、得られる走査イオン顕微鏡(SIM)像に表れるチャネリングコントラスト(結晶方位情報)から、基体表面に平行な線分と結晶粒の境界とが交わる点の数をカウントして、結晶粒の境界によって区画される線分の区画ごとの平均長さを求める切断法によって、結晶粒の粒径の平均を求めることができる。
【0033】
Ni含有層31、32の厚さは、特に限定されるものではないが、導電性基体2の片面または両面に積層形成されているものの合計で、0.05μm以上であることが好ましい。その中でも、複合材1の材料コストの上昇を抑える観点では、Ni含有層31、32の厚さの合計を、2.00μm以下にしてもよい。
【0034】
ここで、図1に記載されるように、導電性基体2の両面にNi含有層31、32が形成される場合、導電性基体の片面または両面に積層形成されるNi含有層の厚さの合計は、Ni含有層31の厚さtとNi含有層32の厚さtの合計とすることができる。他方で、導電性基体2の片面のみにNi含有層が形成される場合、導電性基体の片面または両面に積層形成されるNi含有層の厚さの合計は、そのNi含有層の厚さとすることができる(図示せず)。
【0035】
(Cu含有層について)
Cu含有層41、42は、導電性基体2の片面または両面(図1では表面2aと裏面2bの両面)に、Ni含有層31、32の後に積層形成される層である。すなわち、Cu含有層41、42は、Ni含有層31、32の導電性基体2と接していない側の面のうち、一部または全部に積層形成される層である。
【0036】
本発明の複合材1では、Fe系合金からなる導電性基体2に、Ni含有層31、32を介して、Cu含有層41、42がそれぞれ形成されることで、Cu含有層41、42の導電性基体2に対する密着性を高めることができる。
【0037】
Cu含有層41、42の材質は、銅(Cu)またはCu系合金によって構成されることが好ましい。より好ましくは、複合材1の引張強さや導電率をより一層向上させる観点から、Cuを99.8質量%以上含有し、残部が不可避不純物である、CuまたはCu系合金によって構成されることが好ましい。
【0038】
複合材1の厚さ方向を含む断面で見て、Cu含有層41、42の厚さは、合計で10μm以上である。ここで、Cu含有層41、42の厚さが10μm未満であると、微細な曲げ加工をする際にスプリングバックが大きくなるため、電気電子部品に用いることが難しくなる。他方で、Cu含有層41、42の厚さの上限は、特に限定されるものではないが、複合材1をより効率よく作製する観点から、合計で100μm以下としてもよい。
【0039】
ここで、図1に記載されるように、導電性基体2の両面にCu含有層41、42が形成される場合、導電性基体の片面または両面に積層形成されるCu含有層の厚さの合計は、Cu含有層41の厚さtとCu含有層42の厚さtの合計とすることができる。他方で、導電性基体2の片面のみにCu含有層が形成される場合、導電性基体の片面または両面に積層形成されるCu含有層の厚さの合計は、そのCu含有層の厚さとすることができる(図示せず)。
【0040】
本発明の複合材1は、厚さ方向Yを含む断面で見て、複合材1の総断面積に占めるCu含有層41、42の断面積の割合が、0.20以上0.60以下の範囲である。これにより、複合材の引張強さおよび導電率を高めることができ、それにより複合材1の機械的特性および導電性を、いずれも高めることができる。ここで、複合材1の総断面積に占めるCu含有層41、42の断面積の割合が0.2未満だと、複合材1の導電率が不足する。他方で、複合材1の総断面積に占めるCu含有層41、42の断面積の割合が0.6を超えると、複合材1の機械的強度が不足する。
【0041】
さらに、複合材1は、耐剥離性をより一層高める観点では、積層界面51、52を介して隣接するNi含有層31、32とCu含有層41、42における結晶方位の同一性が高いことが好ましい。より具体的に、複合材1は、Ni含有層31、32とCu含有層41、42の積層界面51、52を、図1に示すような厚さ方向Yを含む断面で見たときに、測定領域10における積層界面51、52の全長(2×L)に対する、Ni含有層31、32を構成するNi結晶粒33、34と、積層界面51、52を挟んでNi結晶粒33、34と向かい合う、Cu含有層41、42を構成するCu結晶粒43、44とが同一の結晶方位を有する積層界面の部分L~L10の長さを合計したときの合計長さ(L+L+L+L+L+L+L+L+L+L10)の割合は、0.2以上であることが好ましい。これにより、Ni含有層31、32とCu含有層41、42の変形の挙動が近似するため、Cu含有層41、42のNi含有層31、32からの剥離を抑制することができる。
【0042】
積層界面51、52を挟んで位置するNi結晶粒33、34とCu結晶粒43、44の結晶方位の異同は、集束イオンビーム(FIB)装置(例えば、日立製作所製のFB2000A)を用いて、複合材1の厚さ方向を含む断面を形成するとともに、その断面について走査イオン顕微鏡(Scanning Ion Microscope、セイコーインスツル社製、型番:SMI3050TB)を用いて観察し、得られる走査イオン顕微鏡(SIM)像に表れるチャネリングコントラスト(結晶方位情報)を用いて確認した。ここで、Ni含有層31、32のうち色が濃いNi結晶粒33、34と、Cu含有層41、42のうち色が濃いCu結晶粒43、44とが、積層界面51、52を挟んで位置するとき、これらが挟んで位置している積層界面51、52の部分を、同一の結晶方位を有する積層界面の部分とした。同様に、Ni含有層31、32のうち色が薄いNi結晶粒33、34と、Cu含有層41、42のうち色が薄いCu結晶粒43、44とが、積層界面51、52を挟んで位置するとき、これらが挟んで位置している積層界面51、52の部分も、同一の結晶方位を有する積層界面の部分に含めた。なお、図1では、同一の結晶方位を有する積層界面の部分L~L10を挟んで位置するNi結晶粒33、34およびCu結晶粒43、44について、他の結晶粒と区別するために、説明の便宜上、ハッチングを入れている。
【0043】
(表面被覆層について)
本発明の複合材1は、Cu含有層41、42に積層形成される、Ni、Sn、Ag、Au、Pd、InまたはPtを含有する、少なくとも1層の表面被覆層をさらに有していてもよい(図示せず)。これにより、複合材1の表面1aまたは裏面1bの特性を、さらに好適に調整することができる。
【0044】
<複合材の製造方法について>
上述の複合材1の製造方法は、特に限定されるものではないが、予め大きさ及び厚さを調整した導電性基体2を準備し、前処理として電解脱脂および酸洗を施した後で、電気めっきによりNi含有層31、32およびCu含有層41、42を形成する方法を行なうことができる。すなわち、複合材1の製造方法は、脱脂工程、活性化工程、Ni含有層形成工程およびCu含有層形成工程を少なくとも有する。これにより、上述の複合材1は、電気めっきをはじめとする冷間プロセスのみで形成することもできる。なお、上述したいずれか一の工程と次の工程の間は、必要に応じて水洗工程を有するのが好ましい。
【0045】
(i)脱脂工程
脱脂工程と、後述する活性化工程は、導電性基体2とNi含有層31、32との密着性を高める観点で、行なうことが好ましい。
このうち、脱脂工程としては、例えばカソード電解脱脂を行なうことができる。
カソード電解脱脂で用いる液組成および処理条件の一例を、以下に示す。
[電解脱脂処理の液組成および処理条件]
処理液:オルソケイ酸ナトリウム100g/リットル
処理温度:60℃
陰極電流密度:2.5A/dm
処理時間:10秒
【0046】
(ii)活性化工程
活性化工程で用いる液組成及び処理条件の一例を、以下に示す。
[活性化処理の液組成および処理条件]
処理液:10%塩酸
処理温度:30℃
浸漬処理時間:10秒
【0047】
(iii)Ni含有層形成工程
Ni含有層形成工程は、導電性基体2の両面のうちの少なくとも片面に、電気めっきによりNi含有層31、32を形成する。すなわち、Ni含有層31、32は、電気めっき層によって構成することができる。これにより、Ni含有層31、32は、高温および高圧での加工を要することなく、冷間プロセスによって形成することができる。
【0048】
Ni含有層形成工程では、電気めっきを行なう際のめっき液の攪拌を強くすることと、電流密度を高めることによって、Ni含有層31、32に含まれる結晶粒の微細化を図ることができる。
Ni含有層形成工程で用いる液組成および処理条件の一例を、以下に示す。
【0049】
[Ni含有層形成処理の液組成および処理条件]
処理液:塩化ニッケル250g/リットル、
遊離塩酸50g/リットル
処理温度:60℃
電流密度:8A/dm
攪拌:強
めっき厚:0.01μm~1.0μm
処理時間:めっき厚毎に時間を調整
【0050】
(iv)Cu含有層形成工程
Cu含有層形成工程は、Ni含有層31、32の表面に、電気めっきによりCu含有層41、42を形成する。すなわち、Cu含有層41、42も、電気めっき層によって構成することができる。これにより、Cu含有層41、42も、Ni含有層31、32と同様に、高温および高圧での加工を要することなく、冷間プロセスによって形成することができる。
【0051】
Cu含有層形成工程では、2段階の電気めっきを行なうとともに、1段階目の電気めっきにおいて攪拌を弱くし、また、処理液に含まれる硫酸銅を多くすることで、Ni含有層31、32との密着性や、積層界面51、52を介して隣接するNi含有層31、32のNi結晶粒33、34との結晶方位の同一性を高めることができる。
Cu含有層形成工程のうち、1段階目および2段階目の電気めっきで用いる液組成および処理条件の一例を、以下に示す。
【0052】
[Cu含有層形成工程のうち、1段階目の電気めっきの液組成および処理条件]
処理液:硫酸銅200g/リットル、
遊離硫酸60g/リットル、
遊離塩酸50g/リットル
処理温度:30℃
電流密度:1A/dm
攪拌:弱
めっき厚:0.01μm~0.1μm
処理時間:めっき厚毎に時間を調整
【0053】
[Cu含有層形成工程のうち、2段階目の電気めっきの液組成および処理条件]
処理液:硫酸銅150g/リットル、
遊離硫酸100g/リットル、
遊離塩酸50g/リットル
処理温度:30℃
電流密度:5A/dm
攪拌:強
めっき厚:所定の厚さまで
処理時間:めっき厚毎に時間を調整
【0054】
(v)その他の工程
Cu含有層形成工程を行なった後、Cu含有層41、42の表面に、Ni、Sn、Ag、Au、Pd、InまたはPtを含有する、少なくとも1層の表面被覆層を形成する表面被覆層形成工程を行なってもよい。
【0055】
また、Cu含有層形成工程を行なった後、冷間で圧延などの加工を施す冷間加工工程を行なってもよい。これにより、表面1aおよび裏面1bの平滑性を向上した複合材1を得ることができる。この冷間加工工程における総加工率は、3%以上30%以下であることが好ましい。
【0056】
ここで、「加工率」は、冷間加工を施す前の断面積から、加工後の断面積を引いた値を、加工前の断面積で除して100を乗じ、パーセントで表した値であり、下記式で表される。
[加工率]={([加工前の断面積]-[加工後の断面積])/[加工前の断面積]}×100(%)
【0057】
<複合材の用途について>
本発明の複合材1の用途としては、例えば、上述した複合材を備える、電気電子部品を挙げることができる。電気電子部品としては、例えばコネクタ、スイッチ、リレー、シールドケース、フレキシブルフラットケーブルを挙げることができる。このような電気電子部品に本発明の複合材1を用いることで、電気電子部品の機械的特性および導電性がいずれも高められるため、電気電子部品の小型化や軽量化を図ることができる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0059】
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、本発明例および比較例について説明するが、本発明はこれら本発明例に限定されるものではない。
【0060】
(本発明例1~13、比較例1~5)
表1に示す種類の金属または合金からなる、表1に示す厚さ及びビッカース硬さを有する導電性基体2を準備し、プレス加工によって縦20cm×横6cmの大きさにした。このうち、本発明例12、13と比較例5については、以下に示す条件で電気めっきにより形成された42アロイ(Fe-42質量%Ni)を用いた。
【0061】
ここで、導電性基体2を電気めっきにより形成する際、電気めっき液として、ニッケル(Ni)金属の濃度として40g/リットルの金属濃度である塩化ニッケルと、鉄(Fe)金属の濃度として83g/リットルの金属濃度である硫酸鉄(II)と、30g/リットルのホウ酸と、2g/リットルのサッカリンナトリウム二水和物と、5g/リットルのマロン酸とを含む水溶液を調製した。次いで、めっき電解槽に、陰極電極である縦20cm×横6cmのステンレス板(SUS304)を配置するとともに、陰極電極の両側の板面に対向して、それぞれ陽極電極である縦20cm×横6cmの純Ni板および純Fe板をアノードバックに入れて配置し、槽内に1リットルの電気めっき液を入れて、50℃の温度で、スターラーの回転速度を100rpmに設定して攪拌を行ないながら、4A/dmの電流密度で通電することで、表1に記載される厚さの合金を電気めっきにより陰極電極に堆積させた。その後、得られた合金を陰極電極から剥離することで、電気めっき層からなる導電性基体2を得た。
【0062】
これらの導電性基体2について、前処理としてカソード電解脱脂および活性化処理を施した。
【0063】
ここで、カソード電解脱脂は、100g/リットルの濃度のオルソケイ酸ナトリウム水溶液を脱脂液として電解槽に入れて加熱し、導電性基体2を60℃に加熱した脱脂液に浸漬して電解槽の陽極に接続し、2.5A/dmの電流密度で10秒にわたり通電することで処理を行なった。
【0064】
また、活性化処理は、30℃の10質量%の塩酸に、カソード電解脱脂を行なった後の導電性基体2を、10秒にわたり浸漬することで行なった。
【0065】
その後、本発明例1~13、比較例2~5については、以下に示す条件の電気めっきで、Ni含有層31、32を導電性基体2の表面2aおよび裏面2b上に形成した。このうち、本発明例3、4については、導電性基体2の裏面2bにテープを用いてマスキングを行なうことで、導電性基体2の裏面2bにNi含有層32が形成されないようにした。また、本発明例9、10については、導電性基体2の裏面2bにテープを用いてマスキングを行なって導電性基体2の表面2aにNi含有層31を形成した後、マスキングを取り外し、さらにNi含有層31、32を導電性基体2の表面2aおよび裏面2b上に形成することで、導電性基体2の表面2a側と裏面2b側で異なる厚さのNi含有層31、32を形成した。他方で、比較例1については、Ni含有層31、32を導電性基体2上に形成しなかった。
【0066】
ここで、Ni含有層31、32を電気めっきにより形成する際、電気めっき液として、ニッケル(Ni)金属の濃度として250g/リットルの金属濃度である塩化ニッケルと、50g/リットルの遊離塩酸とを含む水溶液を調製した。次いで、めっき電解槽に、陰極電極である縦20cm×横6cmの板状の導電性基体を配置するとともに、陰極電極の両側の板面に対向して、陽極電極である縦20cm×横6cmの板状の純Ni板を配置し、槽内に1リットルの電気めっき液を入れて、60℃の温度で、スターラーの回転速度を350rpm~550rpmに設定して攪拌を行ないながら、8A/dmの電流密度で通電することで、表1に記載される厚さのNi含有層31、32を電気めっきにより形成させた。ここで、実施例7及び比較例2については、スターラーの回転速度を100rpmに設定して攪拌を行ないながら、1A/dmの電流密度で通電することで、表1に記載される厚さのNi含有層31、32を電気めっきにより形成させた。
【0067】
次いで、以下に示す条件の電気めっきで、Cu含有層41、42を導電性基体2の表面2a側および裏面2b側に形成した。このうち、本発明例3、4については、導電性基体2の裏面2bにテープを用いてマスキングを行なうことで、導電性基体2の裏面2b側にCu含有層42が形成されないようにした。また、本発明例5、6、9、10、比較例2、5については、導電性基体2の裏面2b側のNi含有層32にテープを用いてマスキングを行なって導電性基体2の表面2a側にCu含有層41を形成した後、マスキングを取り外し、さらにCu含有層41、42を導電性基体2の表面2a側および裏面2b側に形成することで、導電性基体2の表面2a側と裏面2b側で異なる厚さのCu含有層41、42を形成した。このようにして、本発明例および比較例の複合材1を得た。
【0068】
ここで、Cu含有層41、42を電気めっきにより形成する際、1段階目の電気めっき液として、銅(Cu)金属の濃度として200g/リットルの金属濃度である硫酸銅と、60g/リットルの遊離硫酸と、50g/リットルの遊離塩酸とを含む水溶液を調製した。次いで、めっき電解槽に、陰極電極である縦20cm×横6cmの板状の導電性基体を配置するとともに、陰極電極の両側の板面に対向して、陽極電極である縦20cm×横6cmの板状のりん脱酸銅板を配置し、槽内に1リットルの電気めっき液を入れて、30℃の温度で、スターラーの回転速度を100rpm~400rpmに設定して攪拌を行ないながら、1A/dmの電流密度で通電することで、0.01μm~0.1μmの厚さのCu含有層(Cu含有下地層)を電気めっきにより形成させた。このCu含有下地層の形成は、本発明例5、6、9、10、比較例2、5においてマスキングを取り外した直後にも行なった。
【0069】
Cu含有下地層を形成した後、2段階目の電気めっき液として、銅(Cu)金属の濃度として150g/リットルの金属濃度である硫酸銅と、100g/リットルの遊離硫酸と、50g/リットルの遊離塩酸とを含む水溶液を調製した。次いで、めっき電解槽に1リットルの電気めっき液を入れて、30℃の温度で、スターラーの回転速度を400rpmに設定して攪拌を行ないながら、5A/dmの電流密度で通電することで、表1に記載される厚さのCu含有層41、42を電気めっきにより形成させた。
【0070】
他方で、比較例6については、厚さ100μmのステンレス板(SUS304)の両面を、厚さ50μmの無酸素銅板で挟み込んだものを、冷間圧延することによって、複合材として、表1に記載される厚さの導電性基体およびCu含有層を有するクラッド材を作製した。
【0071】
[各種測定および評価方法]
上記本発明例および比較例に用いる導電性基体と、本発明例および比較例で得られる複合材について、下記に示す特性評価を行なった。各特性の評価条件は下記のとおりである。
【0072】
[1]導電性基体のビッカース硬さ(HV)の測定
本発明例および比較例に用いる導電性基体について、JIS Z2244(2009)に記載されるビッカース硬さの試験方法に準拠して、試験片である導電性基体を樹脂に埋め込み、機械研磨で厚さ方向を含む断面を出すことで断面試料を作製し、この断面にダイヤモンド圧子を押し込む際の荷重(試験力)を0.049Nとし、圧子の圧下時間を15秒としたときの、導電性基体のビッカース硬さ(HV)を測定した。
【0073】
[2]複合材の総断面積に占めるCu含有層の断面積の割合の測定
作製した複合材について、導電性基体2の両面にCu含有層41、42が形成されている例では、導電性基体2の一方の側に形成されたCu含有層41の表面41aおよび裏面41bがいずれも平坦であり、導電性基体2の他方の側に形成されたCu含有層42の表面42aおよび裏面42bがいずれも平坦であり、かつ、複合材1の表面1aおよび裏面1bがいずれも平坦であると認められた。そのため、これらの例では、複合材1の厚さtに対する、Cu含有層41、42の厚さの合計(t+t)の割合を、複合材の総断面積に占めるCu含有層の断面積の割合とした。
【0074】
また、導電性基体2の片面にCu含有層41が形成されている例では、導電性基体2の片面に形成されたCu含有層41の表面41aおよび裏面41bがいずれも平坦であり、かつ、複合材1の表面1aおよび裏面1bがいずれも平坦であると認められた。そのため、これらの例では、複合材1の厚さtに対する、Cu含有層41の厚さtの割合を、複合材の総断面積に占めるCu含有層の断面積の割合とした。
【0075】
ここで、複合材1の厚さtをマイクロメータによって求め、Cu含有層41の厚さt、Cu含有層42の厚さtおよびNi含有層31、32の厚さは、電解式膜厚計(電測社製GCT-311)を用いて測定した。結果を表2に示す。
【0076】
[3]複合材のNi含有層に含まれる平均結晶粒径の測定
Ni含有層31、32に含まれる平均結晶粒径の測定は、集束イオンビーム(FIB)装置(日立製作所製のFB2000A)を用いて、複合材1の厚さ方向を含む断面を形成するとともに、その断面について走査イオン顕微鏡(Scanning Ion Microscope(SIM)、セイコーインスツル社製、型番:SMI3050TB)を用いて観察し、得られる走査イオン顕微鏡(SIM)像に表れるチャネリングコントラスト(結晶方位情報)から、基体に平行な線分と結晶粒の境界とが交わる点の数をカウントして、結晶粒の境界によって区画される線分の区画ごとの平均長さを求める切断法によって、結晶粒の粒径の平均を求めた。ここで、SIMを用いた断面の観察は、横3μmの範囲を1視野として、Ni含有層31、32の中から合計で3視野分を無作為に選択し、3視野のそれぞれについて求められた結晶粒の粒径の平均を、平均結晶粒径[μm]とした。結果を表2に示す。なお、Cu含有層41、42が厚く、複合材1の断面を形成することが困難な場合は、Cu含有層41、42を電解あるいは無電解で複合材1から剥離し、または複合材1をエッチングにより薄膜化した後で、Ni含有層31、32を有する厚さ方向を含む断面を形成した。
【0077】
[4]複合材の積層界面の全長に対する、積層界面を挟んで向かい合うNi結晶粒とCu結晶粒が同一の結晶方位を有する積層界面の部分の合計長さの割合
積層界面51、52の全長に対する、積層界面51、52を挟んで向かい合うNi結晶粒33、34とCu結晶粒43、44が同一の結晶方位を有する積層界面51、52の部分の合計長さの割合は、上記[3]Ni含有層に含まれる平均結晶粒径の測定において得られた3視野のチャネリングコントラスト(結晶方位情報)から、視野ごとに、測定領域10における積層界面51、52の全長を求めるとともに、積層界面51、52を挟んで向かい合うNi結晶粒33、34とCu結晶粒43、44が同一の結晶方位を有する積層界面51、52の部分の長さの合計を求め、これらの割合を求めた。求めた視野ごとの割合から、3視野分の割合の平均をとって、割合の測定値とした。結果を表2に示す。
【0078】
ここで、積層界面51、52を挟んで向かい合うNi結晶粒33、34とCu結晶粒43、44が同一の結晶方位を有する積層界面51、52の部分の長さは、上述のチャネリングコントラストの中で、Ni含有層31、32のうち色が濃いNi結晶粒33、34と、Cu含有層41、42のうち色が濃いCu結晶粒43、44とが向かい合う積層界面51、52の部分の長さ、および、Ni含有層31、32のうち色が薄いNi結晶粒33、34と、Cu含有層41、42のうち色が薄いCu結晶粒43、44とが向かい合う積層界面51、52の部分の長さの合計とした。
【0079】
[5]複合材の引張強さの測定および評価
引張強さの測定は、JIS Z2241に規定されている13B号の3本の試験片で行ない、3本の試験片から得られた引張強さの平均値を測定値とした。本実施例では、引張強さが800MPa以上であった場合を、引張強さが適正範囲にあり、機械的特性に優れているとして「◎」と評価した。一方、引張強さが800MPa未満であった場合を、引張強さが適正範囲になく、機械的特性の面で不合格であるとして「×」と評価した。結果を表2に示す。
【0080】
[6]複合材の導電率の測定および評価
導電率は、四端子法を用いて3回行ない、3回の測定によって得られた導電率の平均値を、導電率の測定値とした。本実施例では、導電率が20%IACS以上であった場合を、導電率が適正範囲にあり、導電性に優れているとして「◎」と評価した。一方、導電率が20%IACS未満であった場合を、導電率が適正範囲になく、導電性の面で不合格であるとして「×」と評価した。結果を表2に示す。
【0081】
[7]複合材のCu含有層の密着性に関する測定および評価
本発明例および比較例で得られた複合材1について、JIS H 8504に規定されるテープ剥離試験によって、複合材からのCu含有層41、42の剥離の有無を評価した。ここで、テープ剥離試験では、テープを貼り付ける前に、Cu含有層41、42の表面に、鋭利な刃物で一辺が2mmの正方形ができるように、導電性基体2まで達する条痕を形成した。テープ剥離試験は、導電性基体2の両面に形成されたCu含有層41、42の両方について行ない(導電性基体2の片面のみにCu含有層が形成されている例では、片面に形成されたCu含有層について行ない)、いずれのサンプルにもCu含有層に剥離が生じなかった場合を、Cu含有層が基体に対して優れた密着性を有しているとして「◎」と評価した。また、少なくともいずれかのサンプルで条痕の近傍に微小な剥離が生じたものの、いずれのサンプルも条痕の内側および外側のCu含有層に剥離が広がらなかった場合を、Cu含有層が基体に対して高い密着性を有しているとして「〇」と評価した。一方、少なくともいずれかのサンプルで、条痕の内側および外側のCu含有層に剥離が広がった場合を、Cu含有層の基体に対する密着性の面で不合格であるとして「×」と評価した。結果を表2に示す。
【0082】
[8]総合評価
これらの評価結果のうち、引張強さと、導電率と、Cu含有層の密着性に関する3つの評価結果について、3つとも「◎」と評価した場合を、機械的特性および導電性がいずれも高く、かつ基体に対して特に高い密着性を有する点で優れているとして「◎」と評価した。また、これら3つの評価結果のうち、引張強さおよび導電率を「◎」と評価し、かつCu含有層の密着性を「〇」と評価した場合を、機械的特性および導電性がいずれも高く、かつ基体に対して高い密着性を有する点で良好であるとして「〇」と評価した。他方で、これら3つの評価結果について、少なくともいずれかで評価結果が「×」になった場合を、機械的特性および導電性のうち少なくともいずれかが不合格であり、または基体に対する密着性が低い点で不合格であるとして「×」と評価した。結果を表2に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
表1および表2の結果から、本発明例1~13の複合材1は、Fe系合金からなる導電性基体2の片面または両面に、Ni含有層31、32とCu含有層41、42がこの順で積層形成されており、かつ、Cu含有層41、42の厚さの合計と、複合材1の総断面積に占めるCu含有層41、42の断面積の割合が、本発明の適正範囲内であった。このとき、本発明例1~13の複合材1は、引張強さと、導電率と、Cu含有層の密着性に関する3つの評価結果が、いずれも「◎」または「〇」と評価されており、総合評価においても「◎」または「〇」と評価されるものであった。
【0086】
図2に、本発明例9の複合材における厚さ方向を含む断面を、走査イオン顕微鏡(SIM)で観察したときのSIM像を示す。図2の走査イオン顕微鏡(SIM)像に表れるチャネリングコントラスト(結晶方位情報)からも、本発明例9の複合材は、導電性基体の片面または両面に、Ni含有層31、32とCu含有層41、42がこの順で積層形成されており、Ni含有層31、32とCu含有層41、42には結晶粒がそれぞれ含まれていることがわかる。
【0087】
したがって、本発明例1~13の複合材1は、いずれも引張強さと、導電率と、Cu含有層の密着性に関する3つの性能とも合格レベルにあり、総合評価が「◎」または「〇」であった。
【0088】
一方、比較例1の複合材は、Ni含有層31、32をいずれも有しないものであった。また、比較例2、5は、いずれもCu含有層41、42の厚さの合計が本発明の適正範囲よりも小さかった。また、比較例3、4は、いずれも複合材1の総断面積に占めるCu含有層41、42の断面積の割合が本発明の適正範囲よりも大きかった。そのため、引張強さと、導電率と、Cu含有層の密着性に関する3つの性能評価のうち、少なくともいずれかの性能が劣っており、総合評価が「×」であった。
【符号の説明】
【0089】
1 複合材
1a 複合材の表面
1b 複合材の裏面
10 複合材の測定領域
2 導電性基体
2a 導電性基体の表面
2b 導電性基体の裏面
31、32 Ni含有層
33、34 Ni結晶粒
41、42 Cu含有層
41a、42a Cu含有層の表面
41b、42b Cu含有層の裏面
43、44 Cu結晶粒
51、52 積層界面
複合材の厚さ
、t Cu含有層の厚さ
、t Ni含有層の厚さ
導電性基体の厚さ
~L10 積層界面を挟んでNi結晶粒とCu結晶粒とが同一の結晶方位を有する積層界面の部分の長さ
図1
図2