(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018139
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】アライメント装置、成膜装置、アライメント方法、及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/68 20060101AFI20250130BHJP
C23C 14/04 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
H01L21/68 G
C23C14/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023121606
(22)【出願日】2023-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大津 健
【テーマコード(参考)】
4K029
5F131
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029AA09
4K029AA11
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4K029KA01
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5F131KB12
5F131KB55
(57)【要約】
【課題】アライメント精度を高めることができるアライメント装置、成膜装置、アライメント方法、及び成膜方法を提供する。
【解決手段】基板10とマスク220とを近接または離隔させる基板Zアクチュエータ250と、基板10とマスク220との間の相対位置を調整するXYθアクチュエータ290と、これらを制御する制御部270と、マスク220の厚さに関する情報と基板10の種類に関する情報を取得する情報取得手段と、を備え、制御部270は、前記情報取得手段によって取得されたマスク220の厚さに関する情報と基板10の種類に関する情報に基づいて基板Zアクチュエータ250及びXYθアクチュエータ290を制御することを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板とマスクとのアライメントを行うアライメント装置であって、
前記基板及び前記マスクのうちの少なくとも一方を第1の方向に移動させ、前記基板と前記マスクとを近接または離隔させる移動機構と、
前記基板及び前記マスクのうちの少なくとも一方を、前記第1の方向と交差する第2の方向、及び、前記第1の方向および前記第2の方向と交差する第3の方向のうちの少なくともいずれか一方の方向に移動させて、前記基板と前記マスクとの間の相対位置を調整する位置調整機構と、
前記移動機構および前記位置調整機構を制御する制御部と、
前記マスクの厚さに関する情報と前記基板の種類に関する情報を取得する情報取得手段と、
を備え、
前記制御部は、前記情報取得手段によって取得された前記マスクの厚さに関する情報と前記基板の種類に関する情報に基づいて前記移動機構及び前記位置調整機構を制御することを特徴とするアライメント装置。
【請求項2】
前記制御部は、位置合わせが行われた前記基板と前記マスクとを近接させるように移動させるとき、前記情報取得手段によって取得される前記マスクの厚さ情報に基づいて目標移動位置が調整されるように前記移動機構を制御することを特徴とする請求項1に記載のアライメント装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記基板の種類に関する情報に基づいて、前記基板と前記マスクとが離隔された位置で前記基板と前記マスクとの間の位置合わせが行われるように前記位置調整機構を制御することを特徴とする請求項1または2に記載のアライメント装置。
【請求項4】
前記基板は大型基板から切り出されることにより得られると共に、前記基板の種類に関する情報は、前記基板が前記大型基板のどの位置から切り出されたかを示す切り出し情報を含むことを特徴とする請求項3に記載のアライメント装置。
【請求項5】
前記切り出し情報と、前記位置調整機構の制御に使用されるパラメータ値と、が対応付けられた対応情報を記憶する記憶部を有すると共に、
前記制御部は、前記対応情報を利用して、前記基板の種類に関する情報に基づいて前記位置調整機構を制御することを特徴とする請求項4に記載のアライメント装置。
【請求項6】
前記パラメータ値は、前記基板と前記マスクの密着動作時のずれをオフセット補正するための第1補正値を含むことを特徴とする請求項5に記載のアライメント装置。
【請求項7】
前記パラメータ値は、使用される前記マスクの個体差により生ずるずれをオフセット補正するための第2補正値を含むことを特徴とする請求項5または6に記載のアライメント装置。
【請求項8】
前記情報取得手段は、前記マスクに対しその厚さ情報の入力をユーザから受け付ける入力手段により前記マスクの厚さに関する情報を取得することを特徴とする請求項1または2に記載のアライメント装置。
【請求項9】
前記マスクには、各マスクの識別に用いられる識別子が形成されており、
前記情報取得手段は、前記識別子を読み取ることによって前記識別子に対応する前記マスクの厚さ情報を取得することを特徴とする請求項1または2に記載のアライメント装置。
【請求項10】
前記情報取得手段は、前記識別子を読み取る読み取り部と、前記識別子と前記マスクの厚さ情報を相互に関連付けて記憶する記憶部とを含むことを特徴とする請求項9に記載のアライメント装置。
【請求項11】
前記情報取得手段は、前記マスクの厚さ情報を、前記アライメント装置に対して前記マスクを搬送する上流側搬送装置または前記上流側搬送装置を制御する制御装置から受信することを特徴とする請求項1または2に記載のアライメント装置。
【請求項12】
前記情報取得手段は、前記マスクの厚さ情報を計測する計測手段から前記マスクの厚さ情報を取得することを特徴とする請求項1または2に記載のアライメント装置。
【請求項13】
前記計測手段は、前記アライメント装置に対して前記マスクを搬送する搬送経路上の任意の位置に設置されることを特徴とする請求項12に記載のアライメント装置。
【請求項14】
前記アライメント装置は、前記基板に対する成膜が行われる成膜室を含む成膜装置に設けられており、
前記成膜装置は、前記成膜室に搬送される前記マスクを一時収納するマスクストックチャンバと、前記マスクストックチャンバから前記成膜室への前記マスクの搬送経路となる搬送室とを含み、
前記計測手段は、前記成膜室、前記搬送室、前記マスクストックチャンバのいずれかに設置されることを特徴とする請求項12に記載のアライメント装置。
【請求項15】
基板とマスクとのアライメントを行うアライメント装置であって、
前記基板及び前記マスクのうちの少なくとも一方を第1の方向に移動させ、前記基板と前記マスクとを近接または離隔させる移動機構と、
前記基板及び前記マスクのうちの少なくとも一方を、前記第1の方向と交差する第2の方向、及び、前記第1の方向および前記第2の方向と交差する第3の方向のうちの少なくともいずれか一方の方向に移動させて、前記基板と前記マスクとの間の相対位置を調整する位置調整機構と、
前記移動機構および前記位置調整機構を制御する制御部と、
前記基板の種類に関する情報を取得する情報取得手段と、
を備え、
前記制御部は、前記情報取得手段によって取得された前記基板の種類に関する情報に関連する、前記移動機構によって生じ得る前記マスクのアライメントマークと前記基板のアライメントマークのずれを相殺するための第1のオフセットと、該第1のオフセットとは別の第2のオフセットと、に基づいて前記位置調整機構を制御することを特徴とするアライメント装置。
【請求項16】
前記制御部は、前記基板の種類に関する情報に基づいて、前記基板と前記マスクとが離隔された位置で前記基板と前記マスクとの間の位置合わせが行われるように前記位置調整機構を制御することを特徴とする請求項15に記載のアライメント装置。
【請求項17】
前記基板は大型基板から切り出されることにより得られると共に、前記基板の種類に関する情報は、前記基板が前記大型基板のどの位置から切り出されたかを示す切り出し情報を含むことを特徴とする請求項16に記載のアライメント装置。
【請求項18】
前記切り出し情報と、前記位置調整機構の制御に使用される前記第1のオフセット及び前記第2のオフセットと、が対応付けられた対応情報を記憶する記憶部を有すると共に、
前記制御部は、前記対応情報を利用して、前記基板の種類に関する情報に基づいて前記
位置調整機構を制御することを特徴とする請求項17に記載のアライメント装置。
【請求項19】
前記第1のオフセットは、前記基板と前記マスクの密着動作時のずれを補正するためのオフセットであることを特徴とする請求項15に記載のアライメント装置。
【請求項20】
前記第2のオフセットは、使用される前記マスクの個体差により生ずるずれを補正するためのオフセットであることを特徴とする請求項15に記載のアライメント装置。
【請求項21】
請求項1,2,15,16,17,18,19または20に記載のアライメント装置と、
前記アライメント装置により位置調整が行われた前記基板に薄膜を形成する成膜源と、
を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項22】
基板とマスクとのアライメントを行うアライメント方法であって、
移動機構によって、前記基板及び前記マスクのうちの少なくとも一方を第1の方向に移動させ、前記基板と前記マスクとを近接または離隔させる移動工程と、
位置調整機構によって、前記基板及び前記マスクのうちの少なくとも一方を、前記第1の方向と交差する第2の方向、及び、前記第1の方向および前記第2の方向と交差する第3の方向のうちの少なくともいずれか一方の方向に移動させて、前記基板と前記マスクとの間の相対位置を調整する位置調整工程と、
情報取得手段によって、前記マスクの厚さに関する情報と前記基板の種類に関する情報を取得する情報取得工程と、
を含み、
前記移動工程及び前記位置調整工程においては、前記情報取得工程によって取得された前記マスクの厚さに関する情報と前記基板の種類に関する情報に基づいて、前記移動機構及び前記位置調整機構を制御することを特徴とするアライメント方法。
【請求項23】
基板とマスクとのアライメントを行うアライメント方法であって、
移動機構によって、前記基板及び前記マスクのうちの少なくとも一方を第1の方向に移動させ、前記基板と前記マスクとを近接または離隔させる移動工程と、
位置調整機構によって、前記基板及び前記マスクのうちの少なくとも一方を、前記第1の方向と交差する第2の方向、及び、前記第1の方向および前記第2の方向と交差する第3の方向のうちの少なくともいずれか一方の方向に移動させて、前記基板と前記マスクとの間の相対位置を調整する位置調整工程と、
情報取得手段によって、前記基板の種類に関する情報を取得する情報取得工程と、
を含み、
前記位置調整工程においては、前記情報取得手段によって取得された前記基板の種類に関する情報に紐づく、前記移動機構によって生じ得る前記マスクのアライメントマークと前記基板のアライメントマークのずれを相殺するための第1のオフセットと、該第1のオフセットとは別の第2のオフセットと、に基づいて前記位置調整機構を制御することを特徴とするアライメント方法。
【請求項24】
請求項22または23に記載のアライメント方法によって、前記基板と前記マスクとの位置調整を行う工程と、
前記位置調整がなされた後に、成膜源によって、前記マスクを介して前記基板に薄膜を形成する工程と、
を含むことを特徴とする成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アライメント装置、成膜装置、アライメント方法、及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイ等を製造するための成膜装置においては、成膜装置に備えられるアライメント装置によって、成膜の前処理として基板とマスクとのアライメントが行われる。成膜精度を高めるためには、アライメント精度を高めることが重要であり、本願の出願人は、各種技術を提案している(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-105629号公報
【特許文献2】特開2020-141121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アライメントにおいては、基板の種類、及びマスクの個体差などを原因とする位置ずれが発生するとの知見を得ており、より一層、アライメント精度を高めることが要求されている。
【0005】
本発明は、アライメント精度を高めることができるアライメント装置、成膜装置、アライメント方法、及び成膜方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0007】
すなわち、本発明のアライメント装置は、
基板とマスクとのアライメントを行うアライメント装置であって、
前記基板及び前記マスクのうちの少なくとも一方を第1の方向に移動させ、前記基板と前記マスクとを近接または離隔させる移動機構と、
前記基板及び前記マスクのうちの少なくとも一方を、前記第1の方向と交差する第2の方向、及び、前記第1の方向および前記第2の方向と交差する第3の方向のうちの少なくともいずれか一方の方向に移動させて、前記基板と前記マスクとの間の相対位置を調整する位置調整機構と、
前記移動機構および前記位置調整機構を制御する制御部と、
前記マスクの厚さに関する情報と前記基板の種類に関する情報を取得する情報取得手段と、
を備え、
前記制御部は、前記情報取得手段によって取得された前記マスクの厚さに関する情報と前記基板の種類に関する情報に基づいて前記移動機構及び前記位置調整機構を制御することを特徴とする。
【0008】
また、他のアライメント装置は、
基板とマスクとのアライメントを行うアライメント装置であって、
前記基板及び前記マスクのうちの少なくとも一方を第1の方向に移動させ、前記基板と前記マスクとを近接または離隔させる移動機構と、
前記基板及び前記マスクのうちの少なくとも一方を、前記第1の方向と交差する第2の
方向、及び、前記第1の方向および前記第2の方向と交差する第3の方向のうちの少なくともいずれか一方の方向に移動させて、前記基板と前記マスクとの間の相対位置を調整する位置調整機構と、
前記移動機構および前記位置調整機構を制御する制御部と、
前記基板の種類に関する情報を取得する情報取得手段と、
を備え、
前記制御部は、前記情報取得手段によって取得された前記基板の種類に関する情報に関連する、前記移動機構によって生じ得る前記マスクのアライメントマークと前記基板のアライメントマークのずれを相殺するための第1のオフセットと、該第1のオフセットとは別の第2のオフセットと、に基づいて前記位置調整機構を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明によれば、アライメント精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は有機EL表示装置の製造ラインの一部の模式図である。
【
図4】
図4は第1アライメント工程を説明するための図である。
【
図5】
図5は第1アライメント工程終了後の基板の移動および挟持方法を示す図である。
【
図6】
図6は第2アライメント工程を説明するための図である。
【
図7】
図7は第2アライメント工程後の基板の移動および挟持方法を示す図である。
【
図8】
図8は大型基板(マザーガラス)を2枚の分割基板に切り出す場合を示した模式図である。
【
図9】
図9は記憶部に基板の種別ごとにオフセット値がテーブルとして記録される構成を示す図である。
【
図10】
図10は、有機EL表示装置の全体図及び有機EL表示装置の素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲はそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に特定的な記載がない限り、本発明の範囲をこれに限定しようとする趣旨ではない。
【0012】
本発明は、基板上に薄膜を形成する成膜装置に関するものであり、特に基板に対する高精度の位置調整を行うためのアライメント技術に関するものである。本発明は、基板の表面に真空蒸着により所望のパターンの薄膜を形成する装置に好ましく適用できる。基板の材料としては、ガラス、樹脂、金属などの任意の材料を選択でき、また、蒸着材料としても、有機材料、無機材料(金属、金属酸化物など)などの任意の材料を選択できる。本発明の技術は、具体的には、有機電子デバイス(例えば、有機EL表示装置、薄膜太陽電池)、光学部材などの製造装置に適用可能である。その中でも有機EL表示装置の製造装置は、基板の大型化あるいは表示パネルの高精細化により基板とマスクのアライメント精度及び速度のさらなる向上が要求されているため、本発明の好ましい適用例の一つである。本発明の技術は、また、基板とマスクをアライメントするためのアライメント装置としても捉えられる。その場合、アライメント装置は成膜クラスタ内の成膜室に利用される。本
発明は、蒸着以外の方法、例えばスパッタリングで成膜を行う成膜装置や成膜方法にも適用され得る。
【0013】
以下、
図1~
図9を参照して、本実施例に係るアライメント装置、このアライメント装置を備える成膜装置、アライメント装置を用いたアライメント方法、及び成膜装置を用いた成膜方法について説明する。
【0014】
<電子デバイスの製造ライン>
図1は、電子デバイスの製造ラインの構成の一部を模式的に示す上視図である。
図1の製造ラインは、例えば、スマートフォン用の有機EL表示装置の表示パネルの製造に用いられるもので、第6世代フルサイズ(約1500mm×約1850mm)の大型基板としてのマザーガラスをハーフカットサイズ(約1500mm×約925mm)に切り出した基板10が成膜クラスタ1内に搬送され、有機ELの成膜が行われる。
【0015】
有機EL表示装置の製造ラインの成膜クラスタ1は、一般的に、
図1に示すように、基板10に対する処理(例えば、成膜)が行われる複数の成膜室110と、使用前後のマスクが収納されるマスクストックチャンバ120と、その中央に配置される搬送室130とを備えている。
【0016】
搬送室130内には、複数の成膜室110の間で基板10を搬送し、成膜室110とマスクストックチャンバ120との間でマスクを搬送するための搬送ロボット140が設置される。搬送ロボット140は、例えば、多関節アームに、基板10又はマスクを保持するロボットハンドが取り付けられた構造を有するロボットである。
【0017】
成膜クラスタ1には、基板10の流れ方向において、上流側から送られる基板10を成膜クラスタ1に搬送するパス室150と、この成膜クラスタ1で成膜処理が完了した基板10を下流側の他の成膜クラスタに搬送するためのバッファ室160とが連結されている。搬送ロボット140は、上流側のパス室150から基板10を受け取って、当該成膜クラスタ1内の成膜室110の一つに搬送する。また、搬送ロボット140は、当該成膜クラスタ1での成膜処理が完了した基板10を複数の成膜室110の一つから受け取って、下流側に連結されたバッファ室160に搬送する。バッファ室160と更に下流側のパス室150との間には、基板10の方向を変える旋回室170が設けられている。これにより、上流側成膜クラスタと下流側成膜クラスタで基板の方向を同じ方向にすることができ、基板処理が容易になる。
【0018】
マスクストックチャンバ120には、成膜室110での成膜工程に使用されるマスク及び使用済みマスクが、2つのカセットに分かれて収納される。搬送ロボット140は、使用済みマスクを成膜室110からマスクストックチャンバ120のカセットに搬送し、マスクストックチャンバ120の他のカセットに収納された新しいマスクを成膜室110に搬送する。
【0019】
成膜室110、マスクストックチャンバ120、搬送室130、バッファ室160、旋回室170などの各チャンバは、有機EL表示パネルの製造過程で、高真空状態に維持される。各成膜室110にはそれぞれ成膜装置が設けられている。搬送ロボット140との基板10の受け渡し、基板10とマスクの相対位置の調整(アライメント)、マスク上への基板10の固定、成膜(蒸着)などの一連の成膜プロセスは、成膜装置によって自動で行われる。各成膜室における成膜装置は、蒸発源の違いやマスクの違いなど細かい点で相違する部分はあるものの、基本的な構成(特に基板の搬送やアライメントに関わる構成)は、ほぼ共通している。以下、各成膜室における成膜装置の共通構成について説明する。なお、以下の説明では、成膜時に基板の成膜面が重力方向下方を向いた状態で成膜される
デポアップの構成について説明する。ただし、本発明においては、これに限定はされず、成膜時に基板の成膜面が重力方向上方を向いた状態で成膜されるデポダウンの構成を採用することもできるし、基板が垂直に立てられた状態、すなわち、基板の成膜面が重力方向と略平行な状態で成膜が行われる構成(サイドデポ)を採用することもできる。
【0020】
<成膜装置>
図2は、成膜装置の構成を模式的に示す断面図である。以下の説明においては、鉛直方向をZ方向とするXYZ直交座標系を用いる。成膜時に基板が水平面(XY平面)と平行となるよう固定された場合、基板の短手方向(短辺に平行な方向)をX方向、長手方向(長辺に平行な方向)をY方向とする。またZ軸まわりの回転角をθで表す。なお、Z方向は「第1の方向」に相当し、X方向は「第1の方向と交差する第2の方向」に相当し、Y方向は「第1の方向および第2の方向と交差する第3の方向」に相当する。
【0021】
成膜装置は、真空チャンバ200を有する。真空チャンバ200の内部は、真空雰囲気か、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持されている。真空チャンバ200の内部には、基板支持ユニット210と、マスク220と、マスク台221と、冷却板230と、蒸発源240が設けられる。
【0022】
基板支持ユニット210は、搬送ロボット140から受け取った基板10を支持しながら搬送する手段であり、基板ホルダとも呼ばれる。マスク220は、基板10上に形成する薄膜パターンに対応する開口パターンをもつメタルマスクであり、マスク220を支持するマスク台221の上に固定されている。
【0023】
成膜時にはマスク220の上に基板10が載置される。冷却板230は、成膜時に基板10に密着し、成膜時における基板10の温度上昇を抑えることで、有機材料の変質や劣化を抑制するための板状部材である。冷却板230はマグネット板を兼ねていてもよい。マグネット板とは、磁力によってマスク220を引き付けることで、成膜時の基板10とマスク220の密着性を高める部材である。このように、基板10とマスク220を密着させる密着手段(マグネット板)は、基板10及びマスク220のうちの少なくとも一方の温度を調整する(典型的には冷却する)温度調整手段を兼ねることができる。
【0024】
蒸発源240は、蒸着材料を収容する容器(ルツボ)、容器を加熱するヒータ、蒸着材料が放出されることを停止するためのシャッタ、シャッタなど各種部材を駆動するための駆動機構、成膜される膜の厚みを認識するための蒸発レートモニタなどから構成される。なお、本実施例では成膜源として蒸発源240を用いる蒸着装置について説明するが、本発明においては、これに限定はされず、成膜源としてスパッタリングターゲットを用いるスパッタリング装置にも適用可能である。
【0025】
真空チャンバ200の上部(外側)には、基板10とマスク220との相対的な位置関係を調整する移動調整機構205が設けられている。この移動調整機構205は、基板10をZ方向に移動させ、基板10とマスク220とを近接または離隔させる移動機構としての基板Zアクチュエータ250を備えている。このように、本実施例では、基板10をZ方向(第1方向)に移動させることで、基板10とマスク220とを近接または離隔させる構成が採用される。ただし、本発明においては、マスクを第1方向に移動させる構成、または、基板とマスクを第1方向に移動させる構成を採用することで、基板とマスクとを近接または離隔させるようにしてもよい。なお、基板Zアクチュエータ250としては、例えば、モータとボールねじ、モータとリニアガイドなどの各種公知技術を採用することができる。この基板Zアクチュエータ250は、基板支持ユニット210の全体を昇降(Z方向移動)させる機能を有する。
【0026】
また、移動調整機構205は、更に、クランプZアクチュエータ251、冷却板Zアクチュエータ252、Xアクチュエータ、Yアクチュエータ、θアクチュエータを備えている。これらのアクチュエータも、モータとボールねじ、モータとリニアガイドなどの各種公知技術を採用することができる。
【0027】
クランプZアクチュエータ251は、基板支持ユニット210の挟持機構を開閉させる役割を担っている。冷却板Zアクチュエータ252は、冷却板230を昇降させる役割を担っている。
【0028】
Xアクチュエータ、Yアクチュエータ、θアクチュエータ(以下、まとめて「XYθアクチュエータ290」と呼ぶ)は基板10のアライメントを行う役割を担っている。このXYθアクチュエータは、基板支持ユニット210及び冷却板230の全体を、X方向移動、Y方向移動、θ回転させる機能を備えている。従って、基板支持ユニット210及び冷却板230を支持する部材を、X方向移動、Y方向移動、θ回転させる機構を有する。
図2では、XYθアクチュエータ290を模式的に示しているが、一般的には、基板支持ユニット210及び冷却板230を支持する部材を、X方向に移動させるための機構、Y方向に移動させるための機構、及びθ回転させるための機構を有する。なお、θ回転させるθアクチュエータを別途設置する構成でもよいし、XアクチュエータとYアクチュエータの組み合わせによってθ回転させるようにしてもよい。このXYθアクチュエータ290は、基板10を、Z方向(第1の方向)と交差するX方向(第2の方向)、及び、Z方向およびX方向と交差するY方向(第3の方向)のうちの少なくともいずれか一方の方向に移動させて、基板10とマスク220との間の相対位置を調整する位置調整機構としての役割を担っている。本実施例では、基板10を移動させることで、基板10とマスク220との間の相対位置を調整する構成を採用する場合を示した。しかしながら、本発明においては、マスクを移動させるか、基板とマスクの双方を移動させることで、基板とマスクとの間の相対位置を調整する構成を採用することもできる。
【0029】
真空チャンバ200の上部(外側)には、基板10及びマスク220のアライメントのために、基板10及びマスク220それぞれの位置を測定するカメラ260、261が設けられている。カメラ260,261は、真空チャンバ200に設けられた窓を通して、基板10とマスク220を撮影する。その画像から基板10上のアライメントマーク及びマスク220上のアライメントマークを認識することで、各々のXY位置やXY面内での相対的な位置ずれ量を計測することができる。
【0030】
短時間で高精度なアライメントを実現するために、大まかに位置合わせを行う第1アライメント(「ラフアライメント」とも称す)と、高精度に位置合わせを行う第2アライメント(「ファインアライメント」とも称す)の2段階のアライメントを実施することが好ましい。その場合、低解像だが広視野の第1アライメント用のカメラ260と狭視野だが高解像の第2アライメント用のカメラ261の2種類のカメラを用いるとよい。本実施例では、基板10及びマスク220それぞれについて、対向する一対の辺の2箇所に付されたアライメントマークを2台の第1アライメント用のカメラ260で測定し、基板10及びマスク220の4隅(あるいは対角の2か所)に付されたアライメントマークを4台の第2アライメント用のカメラ261で測定する。アライメントマーク及びその測定用カメラの数は、特に限定されず、例えば、ファインアライメントの場合、基板10及びマスク220の2隅に付されたマークを2台のカメラ261で測定するようにしてもよい。
【0031】
成膜装置は、制御部270を有する。制御部270は、基板Zアクチュエータ250、クランプZアクチュエータ251、冷却板Zアクチュエータ252、XYθアクチュエータ290、及びカメラ260、261の制御の他、基板10の搬送及びアライメント、蒸発源の制御、成膜の制御などの機能を有する。制御部270は、例えば、プロセッサ、メ
モリ、ストレージ、I/Oなどを有するコンピュータにより構成可能である。この場合、制御部270の機能は、メモリ又はストレージに記憶されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピュータとしては、汎用のパーソナルコンピュータを用いてもよいし、組込型のコンピュータ又はPLC(programmable logic controller)を用いてもよい。あるいは、制御部270の機能の一部又は全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。なお、成膜装置ごとに制御部270が設けられていてもよいし、1つの制御部270が複数の成膜装置を制御してもよい。
【0032】
本実施例に係る成膜装置は、記憶部としてのオフセット情報記憶部280を備えている。オフセット情報記憶部280には、大型基板(マザーガラス)から分割された基板10が、マザーガラスのどの部分から切り出されたかによって、上記のアライメントを行う際の位置調整用パラメータ値(オフセット値)を調整するための情報が記憶される。オフセット情報記憶部280は、成膜装置ごとに設けられてもよいし、ネットワークを通して複数の成膜装置に繋がっていてもよい。このオフセット情報記憶部280の詳細については後述する。
【0033】
また、本実施例に係る成膜装置は、成膜装置内に搬入されたマスク220に対し厚さ情報を取得するためのマスク厚さ情報取得手段285を備えている。制御部270は、マスク厚さ情報取得手段285によって取得されるマスク厚さ情報に基づいて、マスク220への載置のためにアライメントされた基板10をマスク220に向かって(またはマスク220を基板10に向かって)近接移動させるときの移動量(移動位置)を可変的に制御する。マスク厚さ情報取得手段285に関する詳細については後述する。
【0034】
<基板支持ユニット>
図3を参照して基板支持ユニット210の構成を説明する。
図3は基板支持ユニット210の斜視図である。基板支持ユニット210は、挟持機構によって基板10の周縁を挟持することにより、基板10を保持しながら搬送する手段である。具体的には、基板支持ユニット210は、基板10の4辺それぞれを下から支持する複数の支持具300が設けられた支持枠体301と、各支持具300との間で基板10を挟み込む複数の押圧具302が設けられたクランプ部材303とを有する。支持具300と押圧具302が対となって1つの挟持機構が構成される。
図3の例では、基板10の短辺に沿って3つの支持具300が配置され、長辺に沿って6つの挟持機構(支持具300と押圧具302のペア)が配置されており、長辺2辺を挟持する構成となっている。ただし、挟持機構の構成は
図3の例に限られず、処理対象となる基板のサイズや形状あるいは成膜条件などに合わせて、挟持機構の数や配置を適宜変更される。なお、支持具300は「フィンガプレート」とも呼ばれ、押圧具302は「クランプ」とも呼ばれる。
【0035】
搬送ロボット140から基板支持ユニット210への基板10の受け渡しは、例えば次のように行われる。まず、クランプZアクチュエータ251によりクランプ部材303を上昇させ、押圧具302を支持具300から離隔させることで、挟持機構を解放状態にする。搬送ロボット140によって支持具300と押圧具302との間に基板10を導入した後、クランプZアクチュエータ251によってクランプ部材303を下降させ、所定の押圧力で押圧具302を支持具300に押し当てる。これにより、押圧具302と支持具300との間で基板10が挟持される。この状態で基板Zアクチュエータ250により基板支持ユニット210を駆動することで、基板10を昇降(Z方向移動)させることができる。すなわち、移動機構である基板Zアクチュエータ250によって、基板10を、マスク220の表面または基板10の成膜面に垂直な第1の方向(Z方向)に移動させ、基板10とマスク220とを近接または離隔させることができる。なお、クランプZアクチュエータ251は基板支持ユニット210と共に上昇または下降するため、基板支持ユニ
ット210が昇降しても挟持機構の状態は変化しない。
【0036】
図3の符号101は、基板10の4隅に付された第2アライメント用のアライメントマークを示し、符号102は、基板10の短辺中央に付された第1アライメント用のアライメントマークを示している。
【0037】
<アライメント(位置調整工程)>
図4は第1アライメント工程を示す図面である。
図4(a)は、搬送ロボット140から基板支持ユニット210に基板10が受け渡された直後の状態を示す。基板10は自重によりその中央が下方に撓んでいる。次に、
図4(b)に示すように、クランプ部材303を下降させて、押圧具302と支持具300からなる挟持機構により基板10の各辺部が挟持される。
【0038】
続いて、
図4(c)に示すように、基板10がマスク220から所定の高さで離れた状態(基板10とマスク220とが所定の間隔だけ離れた状態)で、第1アライメントが行われる。第1アライメントは、XY面内(基板10の成膜面に平行な方向)において、基板10とマスク220との相対位置を大まかに調整する第1の位置調整処理であり、「ラフアライメント」とも称される。第1アライメントでは、カメラ260によって基板10に設けられた基板アライメントマーク102とマスク220に設けられたマスクアライメントマーク220Xを認識し、各々のXY位置やXY面内での位置ずれd1を計測し、位置合わせを行う。
図4(c1)には、カメラ260によって撮影される基板アライメントマーク102とマスクアライメントマーク220Xとの位置関係の一例を示している。
【0039】
このように、第1アライメントは、マスク220上の載置面から基板10が第1距離だけ離れた第1位置で基板10とマスク220上にそれぞれ形成された第1アライメント用マークを撮影した画像に基づいて、この第1位置において基板10とマスク220間の位置ずれを調整することによって行われる。第1アライメントに用いるカメラ260は、大まかな位置合わせができるように、低解像だが広視野なカメラである。なお、位置合わせの際には、本実施例のように基板10(基板支持ユニット210)の位置を調整してもよいが、本発明においては、マスクの位置を調整してもよいし、基板とマスクの両者の位置を調整してもよい。
【0040】
第1アライメント処理が完了すると、
図5(a)に示すように基板10を下降させる。そして、
図5(b)に示すように、基板10がマスク220に接触する前に、押圧具302を上昇させて挟持機構を解放状態にする。次に、
図5(c)に示すように、解放状態(非挟持状態)のまま、基板支持ユニット210を、第2アライメントを行う位置まで下降させた後、
図5(d)に示すように、挟持機構により基板10の周縁部を再挟持する。なお、第2アライメントを行う位置とは、基板10とマスク220との間の位置ずれを計測するために基板10をマスク220上に仮置きした状態となる位置であり、例えば、支持具300の支持面(上面)がマスク220の載置面よりも少し高い位置である。このとき、基板10の少なくとも中央部はマスク220に接触し、基板10の周縁部のうち挟持機構により支持されている左右の辺部はマスク220の載置面からやや離れた(浮いた)状態となる。なお、本実施例では、第1アライメントの終了後、第2アライメントのための計測位置に基板10を下降する際において、基板を解放した状態で下降させると説明したが、本発明はこれに限らず、基板挟持機構で基板を挟持した状態で下降させてもよい。
【0041】
図6(a)から
図6(d)は第2アライメントを説明する図である。第2アライメントは、高精度な位置合わせを行うアライメント処理であり、「ファインアライメント」とも称される。まず、
図6(a)に示すように、カメラ261によって基板10に設けられた基板アライメントマーク101とマスク220に設けられたマスクアライメントマーク2
20Yを認識し、各々のXY位置やXY面内での位置ずれd2を計測する。
図6(a1)には、カメラ261によって撮影される基板アライメントマーク101とマスクアライメントマーク220Yとの位置関係の一例を示している。カメラ261は、高精度な位置合わせができるように、狭視野だが高解像なカメラである。計測された位置ずれd2が閾値を超える場合には、位置合わせ処理が行われる。以下では、計測された位置ずれd2が閾値を超える場合について説明する。
【0042】
計測された位置ずれが閾値を超える場合には、
図6(b)に示すように、基板Zアクチュエータ250を駆動して、基板10を上昇させてマスク220から離す。
図6(c)では、カメラ261によって計測された位置ずれに基づいてXYθアクチュエータ290を駆動して、位置合わせを行う。位置合わせの際には、本実施例のように、基板10(基板支持ユニット210)の位置を調整してもよいが、本発明においては、マスクの位置を調整してもよいし、基板とマスクの両者の位置を調整してもよい。
【0043】
その後、
図6(d)に示すように、再び、基板10を、第2アライメントを行う位置まで下降させて、基板10をマスク220上に載置する。そして、カメラ261によって基板10及びマスク220のアライメントマークの撮影を行い、位置ずれを計測する。計測された位置ずれが閾値を超える場合には、上述した位置合わせ処理が繰り返される。位置ずれが閾値以内になった場合には、
図7(a)~
図7(b)に示すように、基板10を挟持したまま基板支持ユニット210を下降させ、基板支持ユニット210の支持面とマスク220の高さを一致させる。これにより、基板10の全体がマスク220上に載置される。このように、第2アライメントは、基板10とマスク220を第1距離より近接させた第2位置で基板10とマスク220上にそれぞれ形成された第2アライメント用マークを撮影し、基板10とマスク220を再び離隔させた位置において、第2アライメント用マークの撮影画像に基づいて基板10とマスク220間の位置ずれを調整してから、基板10とマスク220を再度第2位置に近接させることによって行われる。
【0044】
以上の工程により、マスク220上への基板10の載置処理が完了すると、
図7(c)に示すように、冷却板Zアクチュエータ252を駆動して、冷却板230を下降させ基板10に密着させる。これにより、成膜装置による成膜処理(蒸着処理)が行われる準備が完了する。
【0045】
本実施例では、
図6(a)~
図6(d)に示すように、挟持機構により基板10を挟持したまま第2アライメントを繰り返す例を説明したが、基板10をマスク220上に載置する際に挟持機構を解放状態にしたり、挟持機構の挟力を弱めたり(挟持を緩めたり)してもよい。
【0046】
なお、本実施例では、
図7(c)の状態、すなわち、冷却板230を下降させて(または、冷却板230とは別途にマグネット板が設けられる場合は、冷却板230に続きマグネットも共に下降させて)マスク220上に載置された基板10をマスク220と密着させた状態で成膜処理(蒸着処理)が行われる。しかしながら、これに限定されることはなく、基板10とマスク220が密着したら、押圧具302を上昇させて挟持機構を解放状態にし、基板Zアクチュエータ250を駆動して支持具300を更に下降させてから成膜処理(蒸着処理)が行われるようにしても良い。
【0047】
<オフセット補正、及びマスク厚さに基づく位置調整>
上記の通り、基板10とマスク220とのアライメント後に、基板10とマスク220とを密着させて、その後、成膜が行われる。しかしながら、基板10をマスク220に載置する際に、基板10とマスク220の位置がずれてしまうとの知見が得られている。そこで、本実施例においては、より一層、アライメント精度を高める技術が採用されている
。
【0048】
上記のような位置ずれは、基板10の種類、使用するマスク220の個体差、及び使用するマスク220の厚さが原因であるとの知見が得られている。そこで、本実施例では、これらを原因とする基板10とマスク220の位置ずれを抑制するために、次のように動作させている。すなわち、本実施例においては、基板10の種類に応じて、基板10とマスク220とを密着させる動作時に生じる位置ずれをアライメント時に予めオフセットする構成を採用している。また、本実施例においては、使用するマスク220の個体差により生じる位置ずれを基板10の種類に応じて関連付けておくことで、アライメント時に予めオフセットする構成を採用している。更に、アライメント後に基板10をマスク220に接触させるために基板10をマスク220に向かって移動させる目標移動位置を、マスク220の厚さに基づいて決めている。以下、これらについて、より詳細に説明する。
【0049】
<<基板の種類>>
本実施例のように、大型基板(マザーガラス)を複数の基板に切り出してこれら分割された基板を対象に成膜を行う場合には、基板がマザーガラスのどの部分から切れ出されたかによって、基板とマスクとのアライメント時の挙動が異なり得る。
【0050】
このような挙動差の主な原因としては、次のようなことが考えられる。例えば、
図8に示すように、マザーガラスを2枚に分割するように切り出す場合には、通常、マザーガラス基板の一辺を基準辺とし、この基準辺から所定の長さの位置でカットする。以下、便宜上、カット位置左側のハーフカットサイズの基板を「分割基板1」、右側を「分割基板2」と称する。分割基板1と分割基板2との間でサイズ(分割後の短辺の長さ)の差が出る場合がある。
【0051】
また、切り出された切断面における残留応力の大きさが、分割基板1と分割基板2とで異なる可能性がある。残留応力の大きさが異なると、基板のうねりのモードが異なる場合がある。成膜装置内への基板搬入時にこの切断面の位置(方向)を分割基板1と分割基板2とで異ならせる場合には、切断部位での残留応力の大きさの差による影響がより顕著になる可能性がある(
図8(b)参照)。
【0052】
また、マザーガラス基板には前処理工程時にオリエンテーションフラット(orientation flat,以下「オリフラ」と称する)などの切欠部が形成される場合がある。このオリフラがマザーガラスの片方だけ形成され(
図8(a)参照)、切り出された後の分割基板1と分割基板2とで形状、大きさなどの物理的特性の差を誘発する可能性もある。
【0053】
このような様々な原因による分割基板1と分割基板2との間の特性差は、基板とマスクとのアライメント時に、基板支持ユニット上で滑るなどのずれを引き起こす程度に、差をもたらす。従って、アライメント時の位置ずれを補正するために設定される位置調整用パラメータ値(オフセット値)は、分割基板1と分割基板2とで異なるようにするのが望ましい。
【0054】
この分割基板間の挙動差によるアライメントの精度低下を防止するため、本実施例においては、基板10がマザーガラスのどの部分から切り出されたかによってアライメント時の位置調整用パラメータ値(オフセット値)を調整するための情報が記録されたオフセット情報記憶部280を備えている。
【0055】
なお、基板10の種類に基づく挙動差は、マザーガラスのどの部分から切り出されたかによる種別だけでなく、他の種別を原因としても生じ得る。本発明における「基板の種類
」には、マザーガラス(大型基板)のどの部分から切り出されたかによる種別に限定されることはなく、挙動差が生じ得る各種種別も含まれる。
【0056】
図9は、オフセット情報記憶部280に基板種類ごとに固有のオフセット値情報がテーブルとして記憶される構成を示している。図示したように、基板10には、マザーガラスのどの部分から切り出されたかを示す情報(切り出し情報)が識別子(番号や記号)として付与される。本実施例では、便宜上、2種類の基板10について、それぞれ基板Aと基板Bと称する。基板10の種類ごとにアライメント時の位置ずれをオフセット補正するための補正値を算出し、基板10ごとに識別子として付与された切り出し情報と対応付けられた対応情報としてオフセット情報記憶部280に記憶される。
【0057】
これら基板10の種類別のオフセット補正のための位置調整用パラメータ値としてのオフセット値は、成膜装置内に生産用基板を投入する前に工程制御管理用としての非生産用基板を事前に予備的に投入し、上記切り出し情報に基づいて分割基板ごとに算出して、オフセット情報記憶部280に記憶させることができる。また、生産用基板を用いた成膜の過程でずれ量を測定し、そのずれ量を相殺するだけの値をオフセット情報記憶部280に記憶されているオフセット値に加算し、オフセット情報記憶部280に記憶し直すようにしてもよい。すなわち、制御部270が、位置調整機構の制御結果に基づいて、オフセット情報記憶部280に記憶されたオフセット値を更新するようにしてもよい。このように、オフセット情報記憶部280に記憶されたオフセット値を学習、更新することによって、アライメント精度の低下をより一層抑制できる。
【0058】
本実施例では、基板10の種類別のオフセット補正のための位置調整用パラメータ値(オフセット値)を、基板ごとの識別子としての切り出し情報と関連付けて、テーブルの形態としている。しかしながら、本発明においては、このような関連付けは、そのような構成に限定されず、他の方法で位置調整用パラメータ値と切り出し情報を関連付けてもよい。
【0059】
なお、基板10の種類に関する情報は、制御部270に備えられる情報取得手段によって取得される(情報取得工程)。この情報取得手段は、以下に説明する各種方法により取得することができる。
【0060】
第1の方法としては、基板10の搬送過程において、上流側の装置から通信により基板10の種類(切り出し情報)を取得する方法が挙げられる。この場合、情報取得手段は、成膜クラスタ1に搬入される前に基板10を大型基板から切り出す工程を行う基板カット装置や、切り出された基板10に前処理を行う前処理装置、搬送装置などの上流装置から通信により切り出し情報を取得する。基板カット装置などの上流装置は、分割(カット)後の基板10のそれぞれに、基板識別情報(ID情報)を付与するとともに、切り出し情報と関連付けて、メモリに保存または後続の装置に送信する。基板識別情報とは、分割されたそれぞれの基板10を識別するための情報であり、例えば、基板カット装置から搬出される順に付与されるそれぞれの基板10に固有の番号や記号である。
【0061】
第2の方法としては、それぞれの基板10に形成されたマークやオリフラなどを検出し、検出結果に基づいて切り出し情報を取得する方法が挙げられる。この場合、情報取得手段は、カメラ等の画像取得手段を含む画像認識手段による画像認識結果を検出結果として受信し、検出結果に基づいて切り出し情報を取得する。
【0062】
第3の方法としては、成膜クラスタ1を含む装置のユーザによる入力を受け付け、入力結果に基づいて切り出し情報を取得する方法が挙げられる。この場合、情報取得手段は、タッチパネルやキーボード、マウス等の入力手段を備えており、ユーザの入力結果に基づ
いて切り出し情報を取得する。
【0063】
オフセット情報記憶部280は、各成膜装置に設置されてもよく、複数の成膜装置が共有するよう各成膜装置とネットワークで連結されたサーバーに設置されてもよい。オフセット情報記憶部280に格納されたテーブルは、成膜装置の制御部270によって読み取られ、制御部270は、アライメント時に、切り出し情報に基づいて基板10ごとに固有のオフセット値がそれぞれの補正に活用されるように、基板支持ユニット210の相対位置を調整するXYθアクチュエータの駆動を制御する。
【0064】
このように、本実施例によれば、それぞれの基板10に対し識別子として付与された、マザーガラスのどの部分から切り出されたかを示す情報(切り出し情報)に基づいて、アライメント時の位置ずれを補正するための位置調整用パラメータ値(オフセット値)が異なるように設定されており、オフセット補正の際にこれを利用するようにすることによって、基板10の種別を起因とする挙動差によるアライメント精度低下を防止することができる。
【0065】
以下、本実施例で採用する位置調整用パラメータ値(オフセット値)の具体例について説明する。
【0066】
<<密着工程時のずれのオフセット補正(第1のオフセット・第1補正値)>>
第2アライメントとしてのファインアライメント完了後、マスク220上に基板10の全面が載置される。続いて、マグネット板を兼ねる冷却板230が下降し(マグネット板が別途設置される場合は、冷却板230に続いて、マグネット板も共に下降し)、基板10とマスク220を密着させた後、蒸着が行われる(
図7(c)参照)。
【0067】
ファインアライメント完了後、冷却板230またはマグネット板の下降のような機械的・物理的動作により、基板10とマスク220間の相対位置が再びずれてしまう可能性がある。
【0068】
このようなファインアライメント完了後の位置ずれを補正するために、基板10とマスク220間の密着動作が行われた後の時点で、ファインアライメント用のカメラ161で基板10とマスク220のアライメントマークをもう一度撮影し、位置ずれが閾値以内に収束されたかを最終的に計測して検証する。そして、この検証で確認された位置ずれ量を、オフセット量として、ファインアライメント時の目標位置に反映することで、前述したアライメント完了後の機械的・物理的な動作による位置ずれを事前に補正することができる。このような位置ずれの量は、基板10の種類によって異なる。そこで、本実施例においては、基板10の種類に応じて、オフセット値を変えている。
図9に示すように、基板Aに対しては、オフセット補正値をOS-Aとし、基板Bに対しては、オフセット補正値をOS-Bとしている。
【0069】
このオフセット値は、上記のように、成膜装置内に工程制御管理用としての非生産用基板を予備的に投入して測定した後、オフセット情報記憶部280に記憶させておくことができる。あるいは、生産用基板を用いた成膜の過程でずれ量を測定し、そのずれ量を相殺するだけの値をオフセット情報記憶部280に記憶されているオフセット値に加算し、オフセット情報記憶部280に記憶し直すようにしてもよい。このように、オフセット情報記憶部280に記憶されたオフセット値を学習、更新することによって、アライメント精度の低下をより一層抑制できる。
【0070】
<<マスク個体差に基づくずれオフセット補正(第2のオフセット・第2補正値)>>
マスク220は、製造される際の寸法公差や、製造された後の変形量の差などにより、
その寸法形状には個体差がある。そのため、マスク220に対して基板10を載置した際に、マスク220の個体差に応じた位置ずれが発生する。そこで、本実施例においては、そのような位置ずれを補正するために、第1のオフセットと同様に、それぞれのマスク220に関し、基板10とマスク220間の密着動作が行われた後の時点で、ファインアライメント用のカメラ161で基板10とマスク220のアライメントマークをもう一度撮影し、位置ずれが閾値以内に収束されたかを最終的に計測して検証する。そして、この検証で確認された位置ずれ量を、オフセット量として、ファインアライメント時の目標位置に反映することで、マスク220の個体差に基づく位置ずれを事前に補正することができる。このような位置ずれの量は、基板10の種類によっても異なる。そこで、本実施例においては、基板10の種類とマスク個体差に応じて、オフセット値を変えている。
【0071】
すなわち、
図9に示すように、それぞれのマスク220に対してマスク識別情報(id1,id2,・・・)が付与されている。そして、マスク個体差に基づくオフセット補正値が、基板Aが用いられる場合と、基板Bが用いられる場合とに分けて、それぞれ設定されている。例えば、基板Aが用いられ、かつ、識別子がid1のマスク220が用いられる場合のマスク個体差に基づくオフセット値はOS-A1となり、基板Bが用いられ、かつ、識別子がid1のマスク220が用いられる場合のマスク個体差に基づくオフセット値はOS-B1となる。また、基板Aが用いられ、かつ、識別子がid2のマスク220が用いられる場合のマスク個体差に基づくオフセット値はOS-A2となり、基板Bが用いられ、かつ、識別子がid2のマスク220が用いられる場合のマスク個体差に基づくオフセット値はOS-B2となる。
【0072】
このオフセット値も、成膜装置内に工程制御管理用としての非生産用基板を予備的に投入して測定した後、オフセット情報記憶部280に記憶させておくことができる。あるいは、生産用基板を用いた成膜の過程でずれ量を測定し、そのずれ量を相殺するだけの値をオフセット情報記憶部280に記憶されているオフセット値に加算し、オフセット情報記憶部280に記憶し直すようにしてもよい。このように、オフセット情報記憶部280に記憶されたオフセット値を学習、更新することによって、アライメント精度の低下をより一層抑制できる。
【0073】
以上のように、本実施例においては、位置調整機構としてのXYθアクチュエータ290によってファインアライメントを行う際に、基板アライメントマーク101とマスクアライメントマーク220Yとが重なる位置を目標とするのではなく、重なる位置から第1補正値と第2補正値を加味した分だけ予めずらした位置を目標となるように基板10とマスク220との位置合わせが行われる。例えば、基板Aが用いられ、かつ識別子がid1のマスク220が用いられる場合には、基板アライメントマーク101とマスクアライメントマーク220Yとが重なる位置からOS-AとOS-A1だけずれた位置を目標として、閾値内に収まるようにファインアライメントが行われる。
【0074】
そして、本実施例においては、基板10における成膜面に平行な方向(第2方向及び第3方向に平行な方向に相当)に対するファインアライメントを行う際にオフセット補正を行うだけでなく、マスク厚さに応じた移動調整も行っている。以下、この点について説明する。
【0075】
<使用するマスクの厚さに応じた位置制御(移動工程における位置制御)>
本実施例では、まず、基板10とマスク220を離隔させた状態で、カメラ260の撮影結果に従って、XY面内における基板10とマスク220の相対位置を大まかに調整するラフアライメント(第1アライメント)が行われる(
図4(c)参照)。そして、ラフアライメントによる位置調整が終わると、アライメントされた状態を維持したまま基板10をマスク220に近接した位置まで下降させる。具体的には、上記の通り、基板10の
中央部はマスク220に接触し、基板10の左右辺部はマスク220の載置面から少し離れた位置まで基板10を下降させるようにしている(
図5(d)参照)。ただし、本発明は、そのような制御に限定されることはない。つまり、アライメント完了後、アライメントされた基板とマスクを近接移動させるときの「近接」とは、基板の一部がマスクと接触する位置まで移動させる場合のみならず、物理的な接触直前のぎりぎりまで近づくように移動させることも含まれる。
【0076】
本実施例においては、上記のようなアライメント工程によって、位置ずれが調整された基板10をマスク220に近接移動させるときの目標移動位置(移動量)を、使用するマスクの厚さ情報に基づいて制御する。つまり、制御部270は、第1アライメントによって位置ずれが調整された基板10とマスク220を第1位置から第2位置に近接移動させるときに、マスク厚さ情報取得手段285によって取得されるマスク220の厚さ情報に基づいて移動機構を制御する。より具体的には、成膜装置内に搬入されたマスク220に対し、その厚さ情報を取得し、取得された厚さ情報に基づいて基板Zアクチュエータ250の駆動によって基板10がマスク220に向かって近接移動する移動量を制御する。言い換えれば、アライメントされた基板10をマスク220に向かって近接移動させるときの移動量をマスク毎の厚さの差に応じて補正する。これにより、アライメント完了後のマスクへの載置過程において、基板10とマスク220間の調整された位置関係がマスクの厚さの差により再びずれてしまうことを抑制することができる。
【0077】
以上のような制御を行うために、本実施例に係る成膜装置は、成膜装置内に搬入されたマスク220に対し、その厚さ情報を取得するためのマスク厚さ情報取得手段285を備えている。マスク厚さ情報取得手段285の具体的な例、すなわち、マスク220の厚さ情報を取得するための詳細な方法(情報取得工程)としては、以下のように、いくつかの方法(態様)が考えられる。
【0078】
第1の態様としては、成膜装置内に搬入されるマスク220の厚さ情報を、成膜装置を使用するユーザが直接操作端末を介して入力することができる。つまり、成膜装置内に搬入されるマスク220ごとに、ユーザによる厚さ情報の入力を受け付け、ユーザが該マスクの厚さ情報を、キーボードやマウス、タッチパネル等の入力手段を通じて直接手作業で入力することで、成膜装置にマスク厚さ情報を取得させることができる。成膜装置の制御部270は、このユーザからの入力により取得された各マスク220の厚さ情報に基づいて、前述したアライメントされた基板10をマスク220に近接移動させるときの目標移動位置(移動量)が調整されるように、基板Zアクチュエータ250の駆動を制御する。
【0079】
第2の態様としては、マスク220の厚さ情報を、それぞれのマスク220を識別することができる識別子と共に予めテーブルとして記憶部に格納しておき、この識別子の読み取り、及びテーブルの参照によって厚さ情報を取得することもできる。
図9においては、このような方法を採用した場合のテーブルを示している。すなわち、識別子がid1のマスク220の厚さD1、識別子がid2のマスク220の厚さD2というように、それぞれのマスク220の厚さを予め記憶部に記憶しておくことができる。本態様におけるマスク厚さ情報取得手段285は、このようにマスクごとに付与された識別子を読み取ることができる読み取り部と、マスク識別子と該マスクの厚さ情報を相互に関連付けたテーブルとして格納する記憶部を備える構成が採用される。この構成が採用される場合には、マスク厚さ情報取得手段285は、成膜装置内にマスク220が搬入されるとき、該マスク220にバーコードなどの形態で付与されたマスク識別子を読み取り部で読み取り、この読み取られた識別子に基づいて記憶部に格納されたテーブルを参照することで、該識別子に対応する厚さ情報を取得することができる。
【0080】
第3の態様としては、マスク220を成膜装置内に搬送するマスク搬送システムの上流
側搬送装置または該上流側搬送装置を制御する制御装置から、通信によってマスク厚さ情報を取得するようにしても良い。有機EL表示装置の製造ラインの成膜クラスタ1は、マスク搬送システムの上流側搬送装置から搬送されてきたマスクを成膜室110内に搬入する前に一時収納するマスクストックチャンバ120を備えている。マスクストックチャンバ120は、複数のマスク220を複数の段で構成されたカセットに収納し、必要に応じて成膜工程に使用されるマスクをカセットから順次引き出し、成膜室110を構成する成膜装置内に搬入する。本態様におけるマスク厚さ情報取得は、マスク220がマスク搬送システムの上流側搬送装置から搬送されてきてマスクストックチャンバ120に収納されるときに、成膜装置が搬送中の各マスクに対する厚さ情報についても該上流側搬送装置または該上流側搬送装置を制御する制御装置から通信によって受信することで行われる。
【0081】
前述した第2の態様が、成膜装置が識別子の読み取りによって各マスクを識別し、その識別結果から相応するマスクの厚さ情報を、テーブル参照を通じて取得する方法であるのに対して、本第3の態様は、成膜装置内での別途のマスク識別動作は行われず、マスクの厚さ情報自体を、該マスクを搬送する上流側装置から直接受信するようにする方式である。つまり、マスク搬送システムの上流側装置からマスクストックチャンバ120側にマスクが搬送されてくる際に、例えば、カセットの段ごとに、1番目の段に収納されるマスクは第1の厚さ、2番目の段に収納されるマスクは第2の厚さ、などのように、搬送中の各マスクの厚さ情報も成膜装置が受信するようにすることで、成膜装置は、マスクストックチャンバ120のカセットから各マスクを順次搬出する際にそれぞれのマスクの厚さ情報を確認することができる。
【0082】
マスク厚さ情報を取得するための第4の態様としては、マスクの厚さを計測で測定する計測手段を成膜クラスタ内に設置することもできる。つまり、厚さ計測手段を使用して成膜装置内に搬入されるマスクの厚さ情報を実測で取得することもできる。厚さ計測手段は、成膜クラスタ1内において、マスク220が位置する任意の位置に設置することができる。前述したように、マスク搬送システムの上流側装置から搬送されてきたマスク220は、マスクストックチャンバ120に一時収納されてから、搬送ロボットによって搬送室130を経由し、成膜室110を構成する成膜装置内に搬入される。マスク220の厚さを測定する計測手段は、このマスク搬送経路上の任意の位置、つまり、マスクストックチャンバ120内、または、搬送室130内、または、成膜装置を構成する成膜室110内のうち、いずれに設置しても構わない。実測で厚さを計測する手段の具体的な構成としては、任意の公知の厚さ計測手段の構成を採用することができ、特定の厚さ実測手段の構成に限定されない。
【0083】
本実施例に係る成膜装置の制御部270は、このようにして取得された各マスクの厚さ情報に合わせて、前述したように、アライメントされた基板10をマスク220に向かって近接移動させるときの目標移動位置(移動量)が調整されるように、基板Zアクチュエータ250の駆動を制御する。これにより、アライメント完了後のマスク220への載置過程において、基板10とマスク220間の調整された位置関係がマスク220の厚さの差によって再びずれてしまうことを抑制することができる。また、特に、マスク220の厚さ情報を取得する態様として、前述した構成のうち、第2~4の態様の構成によると、マスク厚さ情報をユーザが直接手作業で入力する際の入力ミスの可能性を避けることができ、マスク220の厚さの差によるアライメント精度低下をより確実に抑制することができる。
【0084】
以上の説明では、第1アライメント、すなわち、基板10とマスク220の相対位置を大まかに調整するラフアライメントを中心に、位置合わせ工程後の基板10とマスク220を相対的に近接移動させる動作について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されない。例えば、第1アライメントの後に行われるファインアライメント(第2アライ
メント)においても、本発明を適用することができる。前述したように、ファインアライメントは、ラフアライメント(第1アライメント)による位置合わせ動作の後、基板10をマスク220近くに近接させた状態(
図5(d)、
図6(a)参照)で、コーナー部に設置した高解像度カメラ261によって基板10及びマスク220上の各アライメントマークを撮影し、計測された位置ずれが閾値を超える場合には、基板10を再び上昇させてマスク220から離隔させ(
図6(b))、この離隔状態でXYθアクチュエータを駆動させて位置合わせを行った後(
図6(c))、再び基板の中央部一部がマスク220上に載置される計測位置まで基板10を下降させマスク220に近接させる(
図6(d))。そして、この基板10とマスク220間の離隔と近接動作は、以上の位置合わせ動作で基板10とマスク220間の位置ずれが所定の閾値以内となるまで繰り返される。
【0085】
本発明は、この第2アライメント(ファインアライメント)による位置合わせ工程(
図6(c))の後に基板10とマスク220を相対的に近接移動させるとき(
図6(d))にも適用可能である。つまり、この基板10とマスク220間の相対近接移動のときに、前述した各マスクの厚さ情報を利用することで、マスク220の厚さの差によるアライメント精度低下を抑制することができる。このように、制御部270は、第2アライメント用マークの撮影画像に基づいた離隔された位置での基板10とマスク220間の第2アライメントによる位置ずれ調整の後、基板10とマスク220を再び第2位置(基板10の中央部がマスク220の載置面に接触し、基板10の辺部はマスク220の載置面から離れる位置)に近接移動させるときに、厚さ情報取得手段285によって取得されるマスク220の厚さ情報に基づいて移動機構を制御することもできる。
【0086】
また、本発明は、第2アライメントの後、基板10をマスク220上に完全に載置するときにも同様に適用することができる。つまり、
図7を参照して前述したように、第2アライメント(ファインアライメント)によって位置ずれが閾値以内になると、最終的に基板10の全体がマスク220上に完全に載置されるように基板支持ユニット210をさらに下降させるが、このときにも本発明に従い、マスクの厚さ情報に基づいて基板支持ユニット210の下降移動量が調整されるように基板Zアクチュエータ250の駆動を制御することができる。このように、制御部270は、第2アライメントによって位置ずれが調整された基板10とマスク220を、第2位置から、基板10がマスク220上に完全に載置されるまでさらに近接移動させるときに、厚さ情報取得手段285によって取得されるマスク220の厚さ情報に基づいて移動機構を制御することもできる。
【0087】
<電子デバイスの製造方法>
次に、本実施例に係るの成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図10(a)は有機EL表示装置60の全体図、
図10(b)は1画素の断面構造を表している。
【0088】
図10(a)に示すように、有機EL表示装置60の表示領域61には、発光素子を複数備える画素62がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域61において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施例にかかる有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子62R、第2発光素子62G、第3発光素子62Bの組合せにより画素62が構成されている。画素62は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組合せで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0089】
図10(b)は、
図10(a)のA-B線における部分断面模式図である。画素62は
、基板63上に、第1電極(陽極)64と、正孔輸送層65と、発光層66R,66G,66Bのいずれかと、電子輸送層67と、第2電極(陰極)68と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層65、発光層66R,66G,66B、電子輸送層67が有機層に当たる。また、本実施例では、発光層66Rは赤色を発する有機EL層、発光層66Gは緑色を発する有機EL層、発光層66Bは青色を発する有機EL層である。発光層66R,66G,66Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、第1電極64は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層65と電子輸送層67と第2電極68は、複数の発光素子62R、62G、62Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、第1電極64と第2電極68とが異物によってショートするのを防ぐために、第1電極64間に絶縁層69が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層70が設けられている。
【0090】
図10(b)では正孔輸送層65や電子輸送層67が一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を含む複数の層で形成されてもよい。また、第1電極64と正孔輸送層65との間には第1電極64から正孔輸送層65への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成することもできる。同様に、第2電極68と電子輸送層67の間にも電子注入層が形成されことができる。
【0091】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)および第1電極64が形成された基板63を準備する。
【0092】
第1電極64が形成された基板63の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、第1電極64が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層69を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0093】
絶縁層69がパターニングされた基板63を第1の成膜装置に搬入し、基板支持ユニットにて基板を保持し、正孔輸送層65を、表示領域の第1電極64の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層65は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層65は表示領域61よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0094】
次に、正孔輸送層65までが形成された基板63を第2の成膜装置に搬入し、基板支持ユニットにて保持する。基板とマスクとのアライメント(第1アライメント及び第2アライメント)を行い、基板をマスクの上に載置し、基板63の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層66Rを成膜する。
【0095】
発光層66Rの成膜と同様に、第3の成膜装置により緑色を発する発光層66Gを成膜し、さらに第4の成膜装置により青色を発する発光層66Bを成膜する。発光層66R、66G、66Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域61の全体に電子輸送層67を成膜する。電子輸送層67は、3色の発光層66R、66G、66Bに共通の層として形成される。
【0096】
電子輸送層67までが形成された基板をスパッタリング装置に移動し、第2電極68を成膜し、その後プラズマCVD装置に移動して保護層70を成膜して、有機EL表示装置60が完成する。
【0097】
絶縁層69がパターニングされた基板63を成膜装置に搬入してから保護層70の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【0098】
上記実施例は本発明の一例を示したものであり、本発明は上記実施例の構成に限られず、その技術思想の範囲内において適宜変形しても構わない。
【符号の説明】
【0099】
1:成膜クラスタ 10:基板 101,102:基板アライメントマーク 110:成膜室 120:マスクストックチャンバ 130:搬送室 140:搬送ロボット 150:パス室 160:バッファ室 161:ファインアライメント用カメラ 170:旋回室 200:真空チャンバ 205:移動調整機構 210:基板支持ユニット 220:マスク 220X,220Y :マスクアライメントマーク 221:マスク台 230:冷却板 240:蒸発源 250:基板Zアクチュエータ 251:クランプZアクチュエータ 252:冷却板Zアクチュエータ 260,261:カメラ 270:制御部 280:オフセット情報記憶部 285:マスク厚さ情報取得手段 290:XYθアクチュエータ 300:支持具 301:支持枠体 302:押圧具 303:クランプ部材