(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018252
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】逆浸透膜処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20250130BHJP
B01D 61/22 20060101ALI20250130BHJP
B01D 65/08 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
C02F1/44 D
B01D61/22
B01D65/08
C02F1/44 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023121800
(22)【出願日】2023-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】林 一樹
(72)【発明者】
【氏名】山口 真也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006KA03
4D006KA16
4D006KA52
4D006KA55
4D006KA57
4D006KB13
4D006KB14
4D006KB30
4D006KE07R
4D006KE13P
4D006KE14P
4D006KE15R
4D006KE16R
4D006KE30Q
4D006KE30R
4D006MB02
4D006PA01
4D006PB08
4D006PC01
(57)【要約】
【課題】RO膜給水にスケール防止剤を添加してRO膜処理する方法において、スケール防止剤の添加量を的確に制御して、薬品コスト、処理コスト、回収コストの低減を図る。
【解決手段】RO膜給水にスケール防止剤を添加してRO膜装置に通水するRO膜処理方法であって、該スケール防止剤の添加量を該RO膜給水又は該RO膜の濃縮水について測定した精密濾過膜又は限外濾過膜の透過性指標の測定値、或いは、該RO膜装置のフラックスの測定値に基づいて決定するRO膜処理方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆浸透膜給水にスケール防止剤を添加して逆浸透膜装置に通水する逆浸透膜処理方法であって、
該スケール防止剤の添加量を該逆浸透膜給水又は該逆浸透膜の濃縮水について測定した精密濾過膜又は限外濾過膜の透過性指標の測定値、或いは、該逆浸透膜装置のフラックスの測定値に基づいて決定する逆浸透膜処理方法。
【請求項2】
前記透過性指標の測定値に基づいて前記スケール防止剤の添加量を決定する方法であって、該透過性指標の測定値が予め設定した閾値を超えた場合に該スケール防止剤の添加量を所定量増加させる請求項1の逆浸透膜処理方法。
【請求項3】
前記透過性指標の測定値は、SDI値、FI値、MF値又はMFF値である請求項1又は2に記載の逆浸透膜処理方法。
【請求項4】
前記逆浸透膜装置のフラックスの測定値に基づいて前記スケール防止剤の添加量を決定する方法であって、該フラックスの測定値が予め設定した閾値を下回った場合に該スケール防止剤の添加量を所定量増加させる請求項1の逆浸透膜処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透(RO)膜給水にスケール防止剤を添加してRO膜処理する方法に関するものであり、特に、RO膜を用いた排水の回収、とりわけ、電子産業分野等から排出される排水にスケール防止剤を添加してRO膜処理し、透過水を回収再利用するにあたり、スケール防止剤の添加量を的確に制御して効率良く造水する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子産業分野等から排出される排水をRO膜処理して回収再利用するに当たり、排水に含まれるスケール成分(Ca,Mg,Feなど)がRO膜で濃縮されて濃度が上昇し、その溶解度を超えてRO膜表面でスケールが発生することを防止するため、RO膜給水にスケール分散剤を添加することが行われている。ここで使用されるスケール防止剤については、各種のスケール防止剤が提案されている(例えば、特許文献1~3)。
【0003】
従来、RO膜給水へのスケール防止剤の添加量は、排水に含まれるスケール成分の想定される最大濃度に基づいて、定量添加とされていた。
【0004】
被処理排水の水質の変動にかかわらず、スケール防止剤を定量添加すると、スケール防止剤の過剰分が無駄になり、その分の薬品コストがかかる。また、RO膜濃縮水中に含有されて排出されるスケール防止剤の薬品処理の負荷が大きく、排水処理コスト、回収コストが増大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5884730号公報
【特許文献2】特許第6057002号公報
【特許文献3】特許第6146075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、RO膜給水にスケール防止剤を添加してRO膜処理する方法において、スケール防止剤の添加量を的確に制御して、薬品コスト、処理コスト、回収コストの低減を図るRO膜処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、RO膜給水又は濃縮水について測定した精密濾過(MF)膜又は限外濾過(UF)膜の透過性指標の測定値、或いはRO膜装置のフラックス(透過流束)の測定値に基づいてスケール防止剤の添加量を決定すること、具体的には、該透過性指標又はフラックスに閾値を設け、この閾値を超えない範囲でスケール防止剤を薬注することにより、スケール防止剤の薬注量を削減した上で、削減前と同等の処理水質、処理水量を維持することができることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0008】
[1] 逆浸透膜給水にスケール防止剤を添加して逆浸透膜装置に通水する逆浸透膜処理方法であって、
該スケール防止剤の添加量を該逆浸透膜給水又は該逆浸透膜の濃縮水について測定した精密濾過膜又は限外濾過膜の透過性指標の測定値、或いは、該逆浸透膜装置のフラックスの測定値に基づいて決定する逆浸透膜処理方法。
【0009】
[2] 前記透過性指標の測定値に基づいて前記スケール防止剤の添加量を決定する方法であって、該透過性指標の測定値が予め設定した閾値を超えた場合に該スケール防止剤の添加量を所定量増加させる[1]の逆浸透膜処理方法。
【0010】
[3] 前記透過性指標の測定値は、SDI値、FI値、MF値又はMFF値である[1]又は[2]に記載の逆浸透膜処理方法。
【0011】
[4] 前記逆浸透膜装置のフラックスの測定値に基づいて前記スケール防止剤の添加量を決定する方法であって、該フラックスの測定値が予め設定した閾値を下回った場合に該スケール防止剤の添加量を所定量増加させる[1]の逆浸透膜処理方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、RO膜給水にスケール防止剤を添加してRO膜処理する方法において、処理水質、処理水量に影響を及ぼすことなく、スケール防止剤の添加量を的確に制御して、薬品コスト、処理コスト、回収コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のRO膜処理方法が適用される排水処理システムの一例を示す系統図である。
【
図2】実施例1~3及び比較例1,2におけるRO膜フラックスの経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本発明のRO膜処理方法は、RO膜給水(以下、単に「給水」と称す場合がある。)にスケール防止剤を添加してRO膜装置に通水するRO膜処理方法であって、該スケール防止剤の添加量を該RO膜給水又は該RO膜の濃縮水(以下、単に「濃縮水」と称す場合がある。)について測定したMF膜又はUF膜の透過性指標(以下、単に「透過性指標」と称す場合がある。)の測定値、或いは、該RO膜装置のフラックス(以下、「RO膜フラックス」と称す場合がある。)の測定値に基づいて決定することを特徴とする。
【0016】
RO膜の原水(RO膜給水)条件の指標となる給水又は濃縮水の透過性指標或いはRO膜フラックスは、RO膜にスケールが発生すると変化するが、給水又は濃縮水の透過性指標或いはRO膜フラックスに変化がなければ、スケールが発生していないとみなすことができる。
【0017】
よって、これらの測定値に管理値として閾値を設け、閾値を超えない範囲でスケール防止剤を薬注制御することで、スケール防止剤の添加量を削減した上で、安定なRO膜処理を行うことができる。
【0018】
このようなことから、本発明では給水又は濃縮水の透過性指標或いはRO膜フラックスの測定値に基づいてスケール防止剤の添加量を決定する。
【0019】
本発明において、給水条件の指標とする透過性指標としては、ASTM D4189に定義されているSDI(Silt Density Index)値、JIS K 3802に定義されているFI(Fouling Index)値、MF値(Desalination,vol.20,p.353-364,1977)、及びMFF(MF Factor)値がある。これらの値は、通常、RO膜給水を、細孔径0.45μmのセルロース系フィルタであるMF膜で所定の濾過を行った時の濾過時間測定値に基づいて求められる値であるが、本発明においてはこれに限らず、上記細孔径以外のMF膜又はUF膜で給水又は濃縮水を濾過したときの濾過時間に基づいて求めた値を採用してもよい。なお、SDI値とFI値は同義である。
【0020】
SDI(FI)、MF、MFFの測定方法は以下の通りである(特開2017-113681号公報)。
【0021】
<SDI(FI)>
0.2MPaの加圧下、試料水を最大孔径0.45μm、47mmφのMF膜を通水させ、最初の500mLの透過時間T0を測定し、15分通水後、次の500mLの透過水が得られる時間T15を測定し、この測定値から下記式でSDI(FI)を算出する。
SDI(FI)=(T15-T0)/T15×100/15(min)
ここで、(T15-T0)/T15×100は、15分の通水で、濾過速度が何%低下したかを示し、SDI(FI)は、これを15分で割るので、1分当たり、何%濾過速度が低下するかを示す。
【0022】
<MF・MFF>
MF値は、500mmHgの減圧下(-67kPa)で試料水1LがMF膜を透過する時間を秒数でそのまま表示したものである。ただし、通水抵抗に関係する水の粘性は水温により大きく異なり、MF膜の通水性の個体差がある。これを相殺するのがMFF値である。
【0023】
MFF値は、試料水1Lを500mLずつ分けて、MF膜を透過させ、それぞれの濾過時間T0、T1を測定し、この測定値から、下記式で算出される。
MFF=T1/T0
試料水温と測定室内温度が大きく変わらなければ、試料水の水温は同一とみなすことができるため、温度-粘性係数補正は行わなくて良い。
【0024】
RO膜フラックス(単位:m3/Day・element)は当該RO膜について測定される値である。
【0025】
SDI値(FI値)、MF値、MFF値といった透過性指標又はRO膜フラックスの閾値は、各々の排水処理システムによって異なるため、予め各種の条件で通水試験を行い、その結果に基づいて、処理水質、処理水量を維持することができる値として適宜決定すればよい。
【0026】
透過性指標又はRO膜フラックスの測定値の閾値に基づくスケール防止剤添加量の決定方法としては、具体的には、以下の(1)又は(2)の方法が挙げられる。
(1) 透過性指標の測定値が、予め設定した閾値を超えた場合に、スケール防止剤の添加量を所定量増加させる。この場合、透過性指標の測定値が該閾値以下となったら、スケール防止剤の添加量を増加前の添加量に戻す。
(2) RO膜フラックスの測定値が、予め設定した閾値を下回った場合に、スケール防止剤の添加量を所定量増加させる。この場合、RO膜フラックスの測定値が該閾値以上となったら、スケール防止剤の添加量を増加前の添加量に戻す。
【0027】
上記(1)又は(2)の制御方法において、閾値を超えた場合又は閾値を下回った場合に増加させるスケール防止剤の量については特に制限はないが、例えば、通常時のスケール防止剤の添加量の5~100%、好ましくは10~30%程度増加させる制御方法が挙げられる。
【0028】
本発明において、給水に添加するスケール防止剤としては特に制限はなく、前掲の特許文献1~3に記載されているような一般的なRO膜処理用のスケール防止剤が挙げられ、これらの中から、給水の水質(給水中のスケール成分)に応じて当該給水のスケール防止に有効な薬剤を選択して使用することができ、その通常時の添加量についても給水の平均的なスケール成分濃度に基づいて決定すればよい。
【0029】
以下に
図1を参照して、本発明のRO膜処理方法の実施形態の一例を示す。
図1は、本発明が適用される排水処理システムの一例を示す系統図である。
【0030】
原水槽1内の原水は、ポンプ2によってpH調整槽3に送水され塩酸、硫酸等の酸又は苛性ソーダ、消石灰等のアルカリが添加され、pH6.0~9.0特に7.0~8.0程度となるようにpH調整される。
【0031】
pH調整槽3内の水は凝集槽4に移送され、ポリ鉄、塩化第二鉄、硫酸バンド、PAC等の凝集剤が添加され、凝集処理された後、加圧浮上槽5に移送され、加圧浮上処理される。浮上物が除去された水は、重力式二層濾過器6に移送され、濾過処理される。濾過水は回収水槽7に移送される。
【0032】
回収水槽7内の水は、ポンプ8及び配管9によってMF膜装置11に送水される。この送水途中において、配管9にスケール防止剤が添加される。
【0033】
MF膜装置11の透過水は高圧ポンプ12によって昇圧されてRO膜装置13に供給され、透過水が処理水として取り出され、回収水の再利用場所へ送水される。一方、濃縮水は、系外に排出され、別途排水処理される。
【0034】
このような排水処理システムにおいて、RO膜装置13の給水又は濃縮水のSDI値等の透過性指標を測定し、その測定値を予め設定した閾値と比較し、閾値を上回った場合に、スケール防止剤の添加量を増加させ、測定値が閾値以下となったときに、スケール防止剤の添加量をもとの値に戻す。或いは、RO膜装置13のRO膜フラックスを測定し、その測定値を予め設定した閾値と比較し、閾値を下回った場合に、スケール防止剤の添加量を増加させ、測定値が閾値以上となったときに、スケール防止剤の添加量をもとの値に戻す。
【0035】
このようなスケール防止剤の薬注制御は、RO膜装置13の給水又は濃縮水の透過性指標或いはRO膜装置13のRO膜フラックスの測定手段と、その測定値が入力され、入力された測定値に基づいて、スケール防止剤の薬注ポンプを制御する制御手段により自動的に行うことができる。
【0036】
なお、
図1では、RO膜装置13の前段にMF膜装置9を設置しているが、MF膜装置9の代りにUF膜装置を設けてもよい。
【0037】
本発明において、RO膜処理に供する排水としては特に制限はないが、本発明のRO膜処理は、例えば、電子産業分野、鉄鋼製造分野、石油化学のコンビナート等から排出される排水をRO膜処理して回収再利用する排水処理システムに好適に適用される。
【実施例0038】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0039】
なお、以下の実施例及び比較例においては、
図1に示す排水処理システムで、下記水質の電子産業排水を処理した。
<電子産業排水水質>
Ca濃度:2mg/L
NH
4:15mg/L
NO
3:10mg/L
TOC:5mg/L
pH:6.5
【0040】
pH調整剤として硫酸を用い、pH5.8となるようにpH調整した。
凝集剤としてはポリ鉄を用い、30mg/Lの添加量で添加した。
【0041】
添加したスケール防止剤、用いたMF膜装置、RO膜装置の仕様及び処理条件は以下の通りとした。
<スケール防止剤>
栗田工業株式会社製 スケール防止剤「クリフロートD603」
<MF膜装置>
株式会社アメロイド製 36FPC-W500V200
<RO膜装置>
栗田工業株式会社製 KROA-98-8HN
<処理条件>
RO給水圧:0.25MPa
RO給水pH:7.5
RO給水温度:25℃
水回収率:90%
【0042】
[実施例1]
スケール防止剤の添加量を1mg/Lとし、RO膜装置13の給水のSDI値の閾値を4に設定した。RO給水を採取して測定したSDI値が4を上回った場合には、スケール防止剤の添加量を1mg/L増加させて2mg/Lとし、閾値以下となったときにはスケール防止剤の添加量を1mg/Lに戻す薬注制御を行った。
【0043】
[実施例2]
実施例1において、RO膜装置13の給水のSDI値の代りにRO膜装置13のRO膜フラックスの測定値に基づく薬注制御を行った。RO膜フラックスの閾値を24m3/Day・elementとし、RO膜フラックスが24m3/Day・elementを下回った場合には、スケール防止剤の添加量を1mg/L増加させて2mg/Lとし、閾値以上となったときにはスケール防止剤の添加量を1mg/Lに戻す薬注制御を行った。
【0044】
[実施例3]
スケール防止剤の添加量を1mg/Lとし、RO膜装置13の給水のMFF値の閾値を1.2に設定した。RO給水を採取して測定したMFF値が1.2を上回った場合には、スケール防止剤の添加量を1mg/L増加させて2mg/Lとし、閾値以下となったときにはスケール防止剤の添加量を1mg/Lに戻す薬注制御を行った。
【0045】
[比較例1]
スケール防止剤の添加量:1mg/Lで一定として定量添加した。
【0046】
[比較例2]
スケール防止剤の添加量:9mg/Lで一定として定量添加した。
【0047】
[結果・考察]
実施例1~3及び比較例1,2におけるRO膜フラックスの経時変化を
図2に示す。
また、実施例1,2及び比較例1,2におけるRO給水のSDI値の経時変化と、実施例3におけるRO給水のMFF値の経時変化を表1に示す。
表1には各例における試験期間中の給水1L当たりのスケール防止剤の添加量の平均値を併記した。
【0048】
【0049】
表1及び
図2より、本発明によれば、スケール防止剤の添加量を削減した上で、安定したRO膜処理を行えることが分かる。