(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018537
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】窒化ケイ素粉末、及び窒化ケイ素焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/068 20060101AFI20250130BHJP
C04B 35/584 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
C01B21/068 R
C04B35/584
C01B21/068 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122325
(22)【出願日】2023-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(71)【出願人】
【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】草野 大
(72)【発明者】
【氏名】石本 竜二
(72)【発明者】
【氏名】大柳 満之
(72)【発明者】
【氏名】井上 実咲
(72)【発明者】
【氏名】白井 健士郎
(57)【要約】
【課題】優れた機械的特性を備え、かつ物性のバラつきが少なく品質安定性の良好な窒化ケイ素焼結体を製造可能な、窒化ケイ素粉末を提供すること。
【解決手段】 β化率は98%以上であり、アモルファス率は1~60%である、窒化ケイ素粉末。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β化率は98%以上であり、アモルファス率は1~60%である、窒化ケイ素粉末。
【請求項2】
アモルファス窒化ケイ素粉末Aと、結晶質の窒化ケイ素粉末Bとを含む窒化ケイ素混合粉末であり、
前記アモルファス窒化ケイ素粉末Aは、結晶質の窒化ケイ素粉末のボールミル処理物である、請求項1に記載の窒化ケイ素粉末。
【請求項3】
焼成用である、請求項1又は2に記載の窒化ケイ素粉末。
【請求項4】
請求項3に記載の窒化ケイ素粉末を焼成して、窒化ケイ素焼結体を得る工程を少なくとも備える、窒化ケイ素焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ケイ素粉末、及びこれを用いた窒化ケイ素焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ケイ素粉末は、その焼結体が、高熱伝導性、高絶縁性、高強度等の優れた特性を有するため、各種工業材料のセラミックス原料として注目されている。
窒化ケイ素粉末の製造方法としては、例えば、シリカ粉末を原料として、炭素粉末存在下において、窒素ガスを流通させて窒化ケイ素を生成させる還元窒化法、シリコン粉末と窒素とを高温で反応させる直接窒化法、ハロゲン化ケイ素とアンモニアとを反応させるイミド分解法等が知られている。
【0003】
窒化ケイ素粉末は、上記各製造方法に応じて、異なる粒度分布、異なる結晶形態を備えることが知られている。窒化ケイ素粉末の結晶形態としては、α型とβ型とが存在し、これら結晶形態の違いにより、焼結性などが異なるため、窒化ケイ素粉末の結晶形態と、焼結体の物性との関係について種々検討されている。
【0004】
特許文献1には、β相含有率50%以上で、非晶質成分量5~50重量%であることを特徴とする窒化ケイ素粉末に関する発明が開示されている。そして、その実施例では、β率が54~96%の窒化ケイ素粉末を合成したことが示されており、該合成窒化ケイ素粉末を用いると、焼結性に優れ、高信頼性の窒化ケイ素焼結体が得られることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、29Si核のマジック角回転核磁気共鳴分光法により測定したアモルファス分率が6.5~18重量%、α相分率が70~93.5重量%、β相分率が23.5重量%以下であり、比表面積が5~25m2/gであることを特徴とする窒化ケイ素粉末に関する発明が開示されている。そして、該窒化ケイ素粉末によれば、高靭性高信頼性の窒化ケイ素セラミックスを再現性よく安定して製造できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-64907号公報
【特許文献2】特開平11-171512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した特許文献1及び特許文献2に記載の窒化ケイ素粉末によれば、強度の高い焼結体を得られるものの、サンプル間の物性のバラつきが大きい傾向があり、品質安定性の良好な窒化ケイ素焼結体を得る観点から、改善の余地があった。
なお、特許文献1の実施例では、β率(β化率)が54~96%の合成窒化ケイ素粉末を得て、室温での4点曲げ強度のバラつきを評価しているものの、β化率が極めて高い領域での評価はなされていない。また、特許文献2の窒化ケイ素粉末は、β相分率(β化率)が23.5重量%以下であり、β化率が低い窒化ケイ素粉末を前提とした発明である。このように、従来、非晶質(アモルファス)窒化ケイ素を含み、かつβ化率の極めて高い窒化ケイ素粉末についての物性は詳細に検討されていない。
【0008】
本発明の目的は、優れた機械的特性を備え、かつ物性のバラつきが少なく品質安定性の良好な窒化ケイ素焼結体を製造可能な、窒化ケイ素粉末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた。β化率を極めて高くし、かつアモルファス率を特定範囲とした窒化ケイ素粉末により、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明の要旨は、以下の[1]~[4]である。
[1]β化率は98%以上であり、アモルファス率は1~60%である、窒化ケイ素粉末。
[2]アモルファス窒化ケイ素粉末Aと、結晶質の窒化ケイ素粉末Bとを含む窒化ケイ素混合粉末であり、前記アモルファス窒化ケイ素粉末Aは、結晶質の窒化ケイ素粉末のボールミル処理物である、上記[1]に記載の窒化ケイ素粉末。
[3]焼成用である、上記[1]又は[2]に記載の窒化ケイ素粉末。
[4]上記[3]に記載の窒化ケイ素粉末を焼成して、窒化ケイ素焼結体を得る工程を少なくとも備える、窒化ケイ素焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた機械的特性を備え、かつ物性のバラつきが少なく品質安定性の良好な窒化ケイ素焼結体を製造可能な、窒化ケイ素粉末を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[窒化ケイ素粉末]
本発明の窒化ケイ素粉末は、β化率が98%以上であり、アモルファス率が1~60%である。
本発明の窒化ケイ素粉末は、焼成用として使用することが好ましく、焼成して得た窒化ケイ素焼結体は、機械的特性が高く、物性のバラつきが少なく品質安定性に優れたものとなる。
この理由は定かではないが、窒化ケイ素粉末のβ化率が98%以上であり、アモルファス率が1~60%であることにより、得られる窒化ケイ素焼結体が、粒径が相対的に大きい窒化ケイ素粒子と、粒径が相対的に小さい窒化ケイ素粒子とで形成される、いわゆるバイモーダル構造を形成しやすくなり、その結果、機械的特性が向上すると推定される。また、窒化ケイ素粉末のβ化率が高いことより、得られる窒化ケイ素焼結体の物性のバラつきが小さくなりなり、品質安定性が向上する。これは、α型の窒化ケイ素粉末に起因する異常な粒成長が生じないことにより、適切な粒成長が促進されるからと考えられる。
【0013】
なお、本明細書では、β化率が50%以上の窒化ケイ素粉末のことをβ型の窒化ケイ素粉末という場合があり、α化率が50%以上の窒化ケイ素粉末のことをα型の窒化ケイ素粉末という場合がある。
【0014】
<アモルファス率>
本発明の窒化ケイ素粉末のアモルファス率は、1~60%である。窒化ケイ素粉末のアモルファス率が1%以上であると、得られる窒化ケイ素焼結体の破壊靭性、3点曲げ強度などの機械的特性が向上しやすくなる。窒化ケイ素粉末のアモルファス率が60%超であると、焼成時に窒化ケイ素焼結体が割れやすくなる。窒化ケイ素焼結体の機械的特性向上の観点、及び物性のバラつきを低減する観点から、窒化ケイ素粉末のアモルファス率は、好ましくは3~55%であり、より好ましくは15~50%であり、さらに好ましくは20~30%である。
窒化ケイ素粉末のアモルファス率の調整方法は特に限定されないが、例えば、後述するようにアモルファス窒化ケイ素粉末Aと、結晶質の窒化ケイ素粉末Bとを含む窒化ケイ素混合粉末を用い、各粉末の含有量を調整する方法などが挙げられる。
【0015】
アモルファス率は、窒化ケイ素粉末の結晶化度X(%)を測定して、以下の式により算出される。
窒化ケイ素粉末のアモルファス率(%)=100-結晶化度X
窒化ケイ素粉末の結晶化度Xは、X線回折測定により求められる。具体的には、X線回折測定により測定される、各結晶質ピークの積分強度の総和である全結晶質ピーク面積(Sc)と、非晶質ハローの積分強度である非晶質ハローの面積(Sa)とから、以下の式により算出される。
結晶化度X(%)=Sc/(Sc+Sa)×100
窒化ケイ素粉末の結晶化度Xの測定方法の詳細は、実施例に記載のとおりである。
【0016】
<β化率>
本発明の窒化ケイ素粉末のβ化率は、98%以上である。窒化ケイ素粉末のβ化率が98%未満であると、得られる窒化ケイ素焼結体の物性のバラつきが大きくなり、品質安定性が低下する傾向がある。得られる窒化ケイ素焼結体の物性のバラつきを小さくする観点から、窒化ケイ素粉末のβ化率は、好ましくは98.5%以上であり、より好ましくは99%以上である。なお、β化率の上限値は100%である。
【0017】
なお上記β化率は、窒化ケイ素粉末におけるα相とβ相の合計に対するβ相のピーク強度割合[100×(β相のピーク強度)/(α相のピーク強度+β相のピーク強度)]を意味し、CuKα線を用いた粉末X線回折(XRD)測定により求められる。より詳細には、C.P.Gazzara and D.R.Messier:Ceram.Bull.,56(1977),777-780に記載された方法に準じて、窒化ケイ素粉末のα相とβ相の重量割合を算出することで求められる。
【0018】
<アモルファス窒化ケイ素粉末A>
本発明の窒化ケイ素粉末は、アモルファス窒化ケイ素粉末Aと結晶質の窒化ケイ素粉末Bとを含有する窒化ケイ素混合粉末であることが好ましい。アモルファス窒化ケイ素粉末Aを含有することで、窒化ケイ素粉末のアモルファス率を所望の範囲に調整しやすくなる。
【0019】
アモルファス窒化ケイ素粉末Aは、X線回折測定において算出される結晶化度が50%以下の窒化ケイ素粉末である。
アモルファス窒化ケイ素粉末Aの結晶化度は、得られる窒化ケイ素焼結体の機械的強度向上の観点から、好ましくは10%以下であり、より好ましくは5%以下である。アモルファス窒化ケイ素粉末Aの結晶化度の下限値は0%である。
【0020】
アモルファス窒化ケイ素粉末Aの製造方法は、特に限定されないが、例えば、イミド分解法などアモルファス窒化ケイ素が生成しやすい方法を適用して得てもよいし、結晶質の窒化ケイ素粉末をアモルファス化して得てもよい。中でも、得られる焼結体の機械的強度向上の観点から、アモルファス窒化ケイ素粉末Aは、結晶質の窒化ケイ素粉末をアモルファス化して得ることが好ましい。アモルファス化は、ボールミル処理することにより行うことが好ましい。すなわち、アモルファス窒化ケイ素粉末Aは、結晶質の窒化ケイ素粉末のボールミル処理物であることが好ましい。なお、アモルファス窒化ケイ素粉末Aの製造方法の詳細は後述する。
【0021】
窒化ケイ素混合粉末におけるアモルファス窒化ケイ素粉末Aの含有量は、好ましくは1~60質量%であり、より好ましくは3~55質量%であり、さらに好ましくは15~50質量%であり、さらに好ましくは20~30質量%である。
アモルファス窒化ケイ素粉末Aの含有量が、このような範囲であると、窒化ケイ素粉末のアモルファス率を上記した所望の範囲に調整しやすくなる。
【0022】
<結晶質の窒化ケイ素粉末B>
窒化ケイ素混合粉末は、結晶質の窒化ケイ素粉末Bを含有する。結晶質の窒化ケイ素粉末とは、X線回折測定において算出される結晶化度が96%超の窒化ケイ素粉末である。結晶質の窒化ケイ素粉末Bの結晶化度は、得られる窒化ケイ素焼結体の機械的強度向上の観点から、好ましくは98%以上であり、より好ましくは99%以上である。
【0023】
結晶質の窒化ケイ素粉末Bのβ化率は、好ましくは98%以上であり、より好ましくは98.5%以上であり、さらに好ましくは99%以上である。なお、結晶質の窒化ケイ素粉末Bのβ化率の上限値は100%である。
結晶質の窒化ケイ素粉末Bのβ化率がこのような範囲であると、本発明の窒化ケイ素粉末のβ化率を上記した所望の範囲に調整しやすくなる。
【0024】
結晶質の窒化ケイ素粉末Bの平均粒径は、特に限定されないが、得られる窒化ケイ素焼結体の機械的強度向上の観点から、好ましくは0.3~2.0μmであり、より好ましくは0.6~1.0μmである。
なお、本明細書において平均粒径は、レーザー回折・散乱法粒度分布測定装置により測定でき、横軸を粒径(μm)、縦軸を体積頻度とする体積頻度分布曲線を得て、測定された体積基準の粒子径分布の累積曲線が50%になる粒子径(D50)を平均粒径とする。
【0025】
結晶質の窒化ケイ素粉末Bの製造方法は、特に限定されず、公知の製造方法を採用できるが、β化率の高い粉末を得やすい観点から、燃焼合成法などの直接窒化法を採用することが好ましい。
【0026】
窒化ケイ素混合粉末における結晶質の窒化ケイ素粉末Bの含有量は、好ましくは40~99質量%であり、より好ましくは45~97質量%であり、さらに好ましくは50~85質量%であり、さらに好ましくは70~80質量%である。
窒化ケイ素粉末Bの含有量が、このような範囲であると、本発明の窒化ケイ素粉末のアモルファス率を上記した所望の範囲に調整しやすくなる。
【0027】
[窒化ケイ素焼結体の製造方法]
本発明の窒化ケイ素粉末を焼成した窒化ケイ素焼結体は、機械的特性に優れ、物性のバラつきが小さく品質安定性に優れるものである。
以下、窒化ケイ素焼結体の製造方法について説明する。
本発明の窒化ケイ素焼結体の製造方法は、上記した窒化ケイ素粉末を焼成して、窒化ケイ素焼結体を得る工程を少なくとも備える。
【0028】
また、本発明の窒化ケイ素焼結体の製造方法では、窒化ケイ素粉末として、窒化ケイ素混合粉末を使用する場合、最初に上記した窒化ケイ素混合粉末を製造し、次いで、該窒化ケイ素混合粉末を焼成して、窒化ケイ素焼結体を得る。以下、詳細に説明する。
【0029】
<窒化ケイ素混合粉末の製造>
窒化ケイ素混合粉末の製造方法は、特に限定されるものではないが、アモルファス窒化ケイ素粉末Aと、結晶質の窒化ケイ素粉末Bをそれぞれ準備し、これらを混合する方法が好ましい。
【0030】
(アモルファス窒化ケイ素粉末Aの製造)
アモルファス窒化ケイ素粉末Aの製造方法は、特に限定されないが、例えば、イミド分解法などアモルファス窒化ケイ素粉末を得やすい方法を選択して得てもよいし、結晶質の窒化ケイ素粉末をアモルファス化して得てもよい。中でも、得られる焼結体の機械的強度向上の観点、及び製造時の安全性の観点から、アモルファス窒化ケイ素粉末Aは、結晶質の窒化ケイ素粉末をアモルファス化して得ることが好ましく、詳細には、結晶質の窒化ケイ素粉末のボールミル処理物であることが好ましい。
【0031】
結晶質の窒化ケイ素粉末をボールミル処理することで、アモルファス窒化ケイ素粉末を得ることができる。ボールミル処理をする結晶性の窒化ケイ素粉末の結晶の形態は特に限定されず、β化率が高いものであってもよいし、低いものであってもよいが、得られる焼結体の固溶酸素量を少なくし、熱伝導性を高める観点から、β化率が高いもの(例えば、β化率が98%以上もの)が好ましい。そのため、ボールミル処理をする結晶性の窒化ケイ素粉末としては、結晶質の窒化ケイ素粉末Bを使用することも好ましい。
【0032】
ボールミル処理において使用するボールミルは、特に限定されず、遊星ボールミル、振動ボールミル、転動ボールミル、撹拌ボールミルなどを使用できるが、これらの中でも、所望のアモルファス窒化ケイ素粉末Aを得て、窒化ケイ素焼結体の機械的特性を向上させる観点から、遊星ボールミルが好ましい。
遊星ボールミルを用いると、自転・公転運動による遠心力により、窒化ケイ素粉末を処理することができる。より詳細には、遊星ボールミルが備える円筒状のミル容器に、結晶質の窒化ケイ素粉末とボールを導入し、該円筒状のミル容器を自転させつつ、その回転軸と平行なもう一つの軸の周りに公転させて、自転及び公転の遠心加速度をミル容器内の窒化ケイ素粉末及びボールに与えることにより、アモルファス窒化ケイ素粉末を得ることができる。
遊星ボールミルにおける回転数は、好ましくは250~410rpmであり、より好ましくは330~370rpmである。使用するボールの材質は特に限定されないが、得られるボールミル処理物の不純物量を低減する観点から、窒化ケイ素系のものが好ましい。処理時間は、特に限定されないが、好ましくは6~30時間であり、より好ましくは12~24時間である。
【0033】
(結晶質の窒化ケイ素粉末Bの製造)
結晶質の窒化ケイ素粉末Bの製造方法は、特に制限されず、還元窒化法、燃焼合成法などの直接窒化法等、公知の製法を適用できるが、β化率の高い窒化ケイ素粉末を得やすいため、燃焼合成法が好ましい。
【0034】
燃焼合成法は、シリコン粉末を含む原料粉末に着火して、シリコン粉末の窒化反応により生じる窒化燃焼熱を前記原料粉末全般に伝播させることにより、窒化ケイ素粉末を製造する方法である。
燃焼合成の条件は特に限定されず、一般的な条件で行うことができる。例えば、シリコン粉末と、希釈剤である窒化ケイ素粉末とを混合した原料粉末を反応容器に充填し、前記原料粉末の端部に着火し、燃焼合成反応を行うことで、窒化ケイ素よりなる塊状生成物を得ることができる。前記希釈剤の含有量は、特に限定されないが、原料粉末全量基準に対して、例えば5~50質量%、より好ましくは10~30質量%とすることができる。反応器内は窒素雰囲気下とすることが一般的である。なお、反応は常圧下で行っても、加圧下で行ってもよいが、加圧下で行うことが好ましい。
上記のようにして燃焼合成反応により得られた塊状生成物は、公知の粉砕機により機械的粉砕を行い、適切な粒度分布を有する結晶質の窒化ケイ素粉末Bとすることができる。
【0035】
(混合量)
以上のとおり製造したアモルファス窒化ケイ素粉末Aと、結晶質の窒化ケイ素粉末Bとを混合して、窒化ケイ素混合粉末を得ることができる。この際、使用するアモルファス窒化ケイ素粉末Aと結晶質の窒化ケイ素粉末Bの量は、窒化ケイ素混合粉末のアモルファス率が1~60%となるように、適宜調整して行うとよい。具体的には、窒化ケイ素混合粉末におけるアモルファス窒化ケイ素粉末Aの含有量、及び、結晶質の窒化ケイ素粉末Bの含有量が上記説明した範囲となるように、適宜調整して混合するとよい。
【0036】
(焼成)
次いで、以上のとおり製造した窒化ケイ素混合粉末を焼成して、窒化ケイ素焼結体を得ることができる。焼成する方法は、特に限定されず、公知の方法を採用できる。
例えば、窒化ケイ素混合粉末と焼結助剤を混合した混合原料を調製し、該混合原料を任意の形状に成形して、焼成することが好ましい。
混合原料を成形する方法としては、特に限定されないが、例えばプレス成形が挙げられる。プレス成形は、一軸プレス成形が代表的であるが、一軸プレス成形した後にCIP(Cold Isostatic Pressing、冷間静水圧加圧)成形を行う方法が好適に採用される。
焼結助剤としては、特に限定されないが、例えば、イットリア、マグネシア、ジルコニア、アルミナなどが挙げられる。焼結助剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。混合原料における焼結助剤の含有量は、特に限定されないが、窒化ケイ素混合粉末100質量部に対して、好ましくは1~15質量部、より好ましくは3~10質量部である。
【0037】
焼成は、不活性ガス雰囲気下において行うことが好ましい。不活性ガス雰囲気下とは、例えば、窒素雰囲気下、又はアルゴン雰囲気下などを意味する。
焼成は、常圧下で行ってもよいし、加圧下で行ってもよい。また、焼成温度は、例えば1200~2000℃、好ましくは1500~1900℃である。
【0038】
<窒化ケイ素焼結体>
本発明の窒化ケイ素粉末により得られた窒化ケイ素焼結体は、優れた機械的特性を有する。
本発明の窒化ケイ素焼結体の破壊靭性値は、好ましくは6.0MPa・m1/2以上であり、より好ましくは6.5MPa・m1/2以上であり、さらに好ましくは6.7MPa・m1/2以上である。該破壊靭性値の上限値は、特に限定されないが、例えば15MPa・m1/2である。
本発明の窒化ケイ素焼結体の3点曲げ強度は、好ましくは550MPa以上であり、より好ましくは580MPa以上であり、さらに好ましくは600MPa以上である。該3点曲げ強度の上限値は、特に限定されないが、例えば1000MPaである。
【0039】
本発明の窒化ケイ素焼結体は、物性のバラつきが小さい。そのため、例えば上記した3点曲げ強度の標準偏差は、好ましくは80MPa以下であり、より好ましくは70MPa以下であり、さらに好ましくは40MPa以下である。3点曲げ強度の標準偏差は、低ければ低いほどよく、理想的には0MPaである。
【0040】
本発明の窒化ケイ素焼結体の熱伝導率は、特に限定されないが、放熱性向上の観点から、好ましくは70W/mK以上であり、より好ましくは75W/mK以上であり、さらに好ましくは80W/mK以上である。該熱伝導率の上限値は、特に限定されないが、例えば150W/mKである。
【0041】
窒化ケイ素焼結体の破壊靭性値、3点曲げ強度、3点曲げ強度の標準偏差、熱伝導率は、実施例に記載の方法により求められる。
【0042】
本発明の窒化ケイ素粉末は、上記したとおり、β化率及びアモルファス率が特定範囲であるため、その焼結体である窒化ケイ素焼結体は、優れた機械的特性を有し、物性のバラつきが少なく品質安定性に優れる。
【実施例0043】
以下、本発明をさらに具体的に説明するため実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
[測定方法]
実施例および比較例における各種物性は、下記の方法により測定した。
【0045】
(1)アモルファス率
窒化ケイ素粉末のアモルファス率は、窒化ケイ素粉末の結晶化度X(%)を測定して、以下の式により算出した。
窒化ケイ素粉末のアモルファス率(%)=100-結晶化度X
結晶化度Xは、次のとおり測定した。
【0046】
(結晶化度Xの測定)
窒化ケイ素粉末の結晶化度Xを、X線回折測定により測定した。X線回折装置としては、日本電子社製「JED-3500」を用い、次の条件で回折強度を測定した。
・ターゲット:銅(Cu-Kα線)
・単色化:平板グラファイトモノクロメータ
・管電圧―管電流:40kV-400mA
・X線入射方法:対称反射法(粉末法)
・X線入射角(θ):θ-2θ連動
・発散スリット幅:0.1mm
・受光スリット幅:0.2mm
・検出器:シンチレーションカウンター
・測定角度(2θ)範囲:10~90°
・ステップ角度:0.04度
・計数時間:2.0秒
上記測定条件により得られたX線回折強度曲線を、同機器に付属のソフトウエアである一般ピーク分離プログラムを用いて、ガウス関数とローレンツ関数を用いた一般的なピーク分離法によって非晶質ピークと各結晶質ピークに分離した。
各結晶質ピークの積分強度の総和である全結晶質ピーク面積(Sc)と、非晶質ハローの積分強度である非晶質ハローの面積(Sa)とから、以下の式により算出した。
結晶化度X(%)=Sc/(Sc+Sa)×100
【0047】
(2)β化率
窒化ケイ素粉末のβ化率は、上記した(1)アモルファス率における測定と同様の条件でX線回折測定を行った後、C.P.Gazzara and D.R.Messier:Ceram.Bull.,56(1977),777-780に記載された方法に準じて、窒化ケイ素粉末のα相とβ相の重量割合を算出し、以下の式により求めた。
β化率=100×(β相のピーク強度)/(α相のピーク強度+β相のピーク強度)
また、比較例で使用した結晶性の窒化ケイ素粉末(α型)のα化率は以下の式により求めた。
α化率=100×(α相のピーク強度)/(α相のピーク強度+β相のピーク強度)
【0048】
(3)3点曲げ強度
各実施例及び比較例で製造した窒化ケイ素焼結体より3点曲げ強度測定用の試験片を切り出し、ISO 23242:2020に準じた方法で3点曲げ強度(MPa)を測定した。この際、支点間距離は15mmの試験治具を使用した。10個の試験片の3点曲げ強度の平均値を焼結体の3点曲げ強度とした。
【0049】
(4)破壊靭性値
窒化ケイ素焼結体の破壊靭性値(MPa・m1/2)は、JIS R1607:2015に準じた方法により、(株)アカシ製ビッカース硬さ試験機AVK-COにて測定されたビッカース硬さからIF法により算出した。
【0050】
(5)密度
窒化ケイ素焼結体の密度を、自動比重計(新光電子(株)製:DMA-220H型)を使用して測定し、15ピースの平均値を窒化ケイ素焼結体の密度とした。
【0051】
(6)熱伝導率
熱伝導率は、窒化ケイ素焼結体の熱拡散率と密度と比熱の掛け算によって求められる。
窒化ケイ素焼結体の比熱は0.68(J/g・K)の値を採用した。また、窒化ケイ素焼結体の密度は、(5)で測定した値を採用した。また、窒化ケイ素焼結体の熱拡散率はレーザーフラッシュ法熱物性測定装置(京都電子工業(株)製:LFA-502型)を使用し、測定した。密度と熱拡散率は3個の試験片の平均値とした。
【0052】
(7)物性のバラつき評価
上記(3)で行った3点曲げ強度のデータ(10個の試験片のデータ)から、標準偏差を計算して、物性のバラつきを評価した。
【0053】
<実施例1>
(結晶質の窒化ケイ素粉末(β型)の製造)
シリコン粉末と、希釈剤である窒化ケイ素粉末とを混合し、原料粉末(Si:80質量%、Si3N4:20質量%)を得た。該原料粉末を反応容器に充填し、原料粉末層を形成させた。次いで、該反応容器を着火装置とガスの給排機構を有する耐圧性の密閉式反応器内に設置し、反応器内を減圧して脱気後、窒素ガスを供給して窒素置換した。その後、窒素ガスを除々に供給し、0.7MPaまで上昇せしめた。所定の圧力に達した時点(着火時)での原料粉末の嵩密度は0.5g/cm3であった。その後、反応容器内の原料粉末の端部に着火し、燃焼合成反応を行い、窒化ケイ素よりなる塊状生成物を得た。
得られた塊状生成物を、お互いに擦り合わせることで概ね5~20μmまで解砕した後、振動ミルに適量を投入して6時間の微粉砕を行った。なお、微粉砕機及び微粉砕方法は、常法の装置及び方法を用いているが、重金属汚染防止対策として粉砕機の内部はウレタンライニングを施し、粉砕メディアには窒化ケイ素を主剤としたボールを使用した。また微粉砕開始直前に粉砕助剤としてエタノールを1質量%添加し、粉砕機を密閉状態として微粉砕を行い、窒化ケイ素粉末を得た。
得られた窒化ケイ素粉末は、結晶化度が100%、β化率が100%、平均粒径が1.0μmの結晶質の窒化ケイ素粉末(β型)であった。
【0054】
(アモルファス窒化ケイ素粉末)
上記のとおり製造した結晶質の窒化ケイ素粉末(β型)8gと、窒化ケイ素製のボール(直径10mm)を、遊星ボールミル(フリッチュ・ジャパン社製「P―5クラッシクライン」)の円筒状のミル容器(窒化ケイ素製)に導入した。回転数350rpmに調整して、24時間、結晶質の窒化ケイ素粉末を処理し、アモルファス窒化ケイ素粉末を製造した。
アモルファス窒化ケイ素粉末の結晶化度は1%であった。
【0055】
上記のとおり調整した、アモルファス窒化ケイ素粉末 5質量部と、結晶質の窒化ケイ素粉末(β型) 95質量部とを混合して、窒化ケイ素混合粉末100質量部を得た。該窒化ケイ素混合粉末のβ化率は100%であった。
次いで、窒化ケイ素混合粉末100質量部に対して、イットリア(Y2O3)5質量部と、マグネシア(MgO)4質量部とを混合した混合原料を調製し、一軸プレス成形とCIP成形を経て、常圧の窒素雰囲気下において、1780℃で9時間焼成して、窒化ケイ素焼結体を得た。該窒化ケイ素焼結体について、各種評価を行った。
【0056】
<実施例2~4、比較例1>
窒化ケイ素混合粉末における、アモルファス窒化ケイ素粉末と結晶質の窒化ケイ素粉末(β型)との量を表1のとおり変更した以外は、実施例1と同様に窒化ケイ素焼結体を作製し、各種評価を行った。
【0057】
<実施例5、比較例2>
アモルファス窒化ケイ素粉末、結晶質の窒化ケイ素粉末(β型)、結晶質の窒化ケイ素粉末(α型)を表1の配合で混合して、窒化ケイ素混合粉末を得た。なお、結晶質の窒化ケイ素粉末(α型)として、デンカ株式会社製の窒化ケイ素粉末「9FWS」を用いた。そして、実施例1と同様にして窒化ケイ素焼結体を作製し、各種評価を行った。
【0058】
【0059】
各実施例の結果より、本発明の窒化ケイ素粉末を焼成して得た窒化ケイ素焼結体は、破壊靭性及び3点曲げ強度の値が高く、優れた機械的特性を備えていた。さらに、各実施例の窒化ケイ素焼結体は、物性のバラつきが少なく、品質安定性に優れていた。
これに対して、アモルファス窒化ケイ素粉末を配合していない例である比較例1では、得られた窒化ケイ素焼結体の破壊靭性及び3点曲げ強度の値が低く、機械的特性に劣っていた。
また、窒化ケイ素粉末のβ化率が低い例である比較例2では、得られた窒化ケイ素焼結体の物性のバラつきが大きく、品質安定性に劣っていた。