(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001863
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】無線受信装置、無線受信装置が実行する方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 7/0413 20170101AFI20241226BHJP
H04B 7/0452 20170101ALI20241226BHJP
【FI】
H04B7/0413 200
H04B7/0452
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101590
(22)【出願日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】土井 隆暢
(72)【発明者】
【氏名】村岡 一志
(72)【発明者】
【氏名】石井 直人
(72)【発明者】
【氏名】白瀬 大地
(72)【発明者】
【氏名】高橋 拓海
(72)【発明者】
【氏名】衣斐 信介
(57)【要約】
【課題】演算量が抑制された状態でマルチユーザ検出を精度良く行うことに寄与する装置、方法、及びプログラムを提供する。
【解決手段】無線受信装置は、1または複数の無線送信装置の送信アンテナと無線受信装置に結合された受信アンテナとの間で定義されるチャネル行列を、左特異行列U、特異値行列Σ、および右特異行列Vに特異値分解し、特異値行列Σと任意の対角行列Aとを用いることで対角行列Σ’を生成し、左特異行列Uを用いることで受信アンテナの各々の受信信号に対して受信ビームフォーミングがなされた受信信号ベクトルy’と、右特異行列V及び対角行列Σ’を用いて生成された線形フィルタWと、を用いることでレプリカベクトルx^を生成し、受信信号ベクトルy’とレプリカベクトルx^とを用いることで非線形信号検出アルゴリズムを実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線受信装置であって、
1または複数の無線送信装置のM個の送信アンテナと前記無線受信装置に結合されたN個の受信アンテナとの間で定義されるN×Mのチャネル行列を、N×Mの左特異行列U、M次対角行列である特異値行列Σ、およびM×Mの右特異行列Vに特異値分解するよう構成された特異値分解器と、
前記特異値行列Σと任意の対角行列Aとを用いることで対角行列Σ’を生成するよう構成された対角行列補正器と、
前記左特異行列Uを用いることで前記受信アンテナの各々の受信信号に対して受信ビームフォーミングがなされた受信信号ベクトルy’と、前記右特異行列V及び前記対角行列Σ’を用いて生成された線形フィルタWと、を用いることでレプリカベクトルx^を生成するよう構成されたレプリカ生成器と、
前記受信信号ベクトルy’と前記レプリカベクトルx^とを用いることで非線形信号検出アルゴリズムを実行するよう構成された非線形検出器と、を備える、
無線受信装置。
【請求項2】
前記対角行列補正器は、前記特異値行列Σの逆行列に対して正の実数αを乗算することで前記対角行列Aを生成し、生成した前記対角行列Aを前記特異値行列Σに加算することで前記対角行列Σ’を生成する、
請求項1に記載の無線受信装置。
【請求項3】
前記対角行列補正器は、1個の前記受信アンテナ当たりの雑音電力と1個の前記送信アンテナ当たりの送信電力との比を前記正の実数αと設定して、前記対角行列Σ’を生成する、
請求項2に記載の無線受信装置。
【請求項4】
前記レプリカ生成器は、前記線形フィルタWと前記受信信号ベクトルy’との積を条件とする条件付き確率を用いて求められた変調シンボルの条件付き期待値を算出することで、前記レプリカベクトルx^を生成する、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の無線受信装置。
【請求項5】
前記右特異行列Vと前記対角行列Σ’との積を算出することで前記線形フィルタWを生成する線形フィルタ生成器と、をさらに備える、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の無線受信装置。
【請求項6】
前記非線形検出器は、前記非線形信号検出アルゴリズムとして、並列干渉除去アルゴリズム、最尤検出アルゴリズム、信念伝搬法アルゴリズムのうちのいずれかを実行する、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の無線受信装置。
【請求項7】
前記非線形検出器は、前記非線形信号検出アルゴリズムとして、ガウス信念伝搬法、一般化近似メッセージ伝搬法、期待値伝搬法、ベクトル近似メッセージ伝搬法のうちのいずれかを前記信念伝搬法アルゴリズムとして実行する、
請求項6に記載の無線受信装置。
【請求項8】
前記非線形検出器は、前記受信信号ベクトルy’に対して、前記特異値行列Σ、前記右特異行列V及び前記レプリカベクトルx^を用いて前記非線形信号検出アルゴリズムを実行する、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の無線受信装置。
【請求項9】
無線受信装置が実行する方法であって、
1または複数の無線送信装置のM個の送信アンテナと前記無線受信装置に結合されたN個の受信アンテナとの間で定義されるN×Mのチャネル行列を、N×Mの左特異行列U、M次対角行列である特異値行列Σ、およびM×Mの右特異行列Vに特異値分解し、
前記特異値行列Σと任意の対角行列Aとを用いることで対角行列Σ’を生成し、
前記左特異行列Uを用いることで前記受信アンテナの各々の受信信号に対して受信ビームフォーミングがなされた受信信号ベクトルy’と、前記右特異行列V及び前記対角行列Σ’を用いて生成された線形フィルタWと、を用いることでレプリカベクトルx^を生成し、
前記受信信号ベクトルy’と前記レプリカベクトルx^とを用いることで非線形信号検出アルゴリズムを実行することを備える、
方法。
【請求項10】
無線受信装置のための方法をコンピュータに行わせるプログラムであって、前記方法は、
1または複数の無線送信装置のM個の送信アンテナと前記無線受信装置に結合されたN個の受信アンテナとの間で定義されるN×Mのチャネル行列を、N×Mの左特異行列U、M次対角行列である特異値行列Σ、およびM×Mの右特異行列Vに特異値分解し、
前記特異値行列Σと任意の対角行列Aとを用いることで対角行列Σ’を生成し、
前記左特異行列Uを用いることで前記受信アンテナの各々の受信信号に対して受信ビームフォーミングがなされた受信信号ベクトルy’と、前記右特異行列V及び前記対角行列Σ’を用いて生成された線形フィルタWと、を用いることでレプリカベクトルx^を生成し、
前記受信信号ベクトルy’と前記レプリカベクトルx^とを用いることで非線形信号検出アルゴリズムを実行することを備える、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は無線受信装置、無線受信装置が実行する方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
大容量通信を実現させる手法として、多数のアンテナを有する基地局を用いて複数のユーザとの無線通信を行う大規模マルチユーザMulti-Input Multi-Output (MIMO) が知られている。大規模マルチユーザMIMOは、massive MIMOとも呼ばれる。大規模マルチユーザMIMOは、例えば、第5世代移動通信 (5G) システム等のマルチプルアクセス・セルラーシステムの上り回線(アップリンク)に使用されることができる。大規模マルチユーザMIMOの受信機は、受信した信号からマルチユーザ信号 (signals) を分離するためにマルチユーザ検出を行う必要がある。5Gの基地局は、主にデジタルベースバンド信号処理を担うDistributed Unit (DU) 及びCentral Unit (CU) と、主に無線信号の送受信のためのRadio Frequency (RF) 信号処理を担うRadio Unit (RU) とから構成される。一般的に、マルチユーザ検出はDUで実行される。このとき、RUにて受信された受信信号は、RUとDUを接続するフロントホールを介してDUへ伝送される必要がある。しかしながら、大規模マルチユーザMIMOでは、無線信号が多数のアンテナによって受信されるため、フロントホールを介して伝送する受信信号数が多く、RUとDUを接続するフロントホール帯域が広帯域であることが必要となる。
【0003】
知られたマルチユーザ検出アルゴリズムに、QR-decomposed Gaussian Belief Propagation (QR-GA-BP) アルゴリズムがある(非特許文献1を参照)。QR-GA-BPアルゴリズムは、1または複数の無線送信装置のM個の送信アンテナと、無線受信装置のN個の受信アンテナとの間で定義されるN×M(i.e., N行M列)のチャネル行列を、QR分解を用いて、各列が直交するN×Mの行列QとM次上三角行列とに分解する。QR-GA-BPアルゴリズムは、生成された行列Qのエルミート共役とN×1の各アンテナの受信信号からなる受信信号ベクトルとの行列積を計算することで受信ビームフォーミングを行う。そして、QR-GA-BPアルゴリズムは、受信ビームフォーミング後の受信信号に対してGaBP(Gaussian Belief Propagation:ガウス信念伝搬(伝播)法又はガウス確率伝搬(伝播)法)アルゴリズムを適用して、送信信号を検出する。QR-GA-BPアルゴリズムは、受信ビームフォーミング後のチャネル行列が上三角行列となることを利用して、含まれる送信信号成分が少ない受信信号から順番に干渉除去とビリーフ(belief)生成を行う。QR-GA-BPアルゴリズムは、初めのステップにて、1つの送信信号成分のみが含まれる受信信号に対してGaBPアルゴリズムを用いてビリーフおよびレプリカを生成する。QR-GA-BPアルゴリズムは、以降のm回目のステップでは、(m-1) 回目のステップで用いた (m-1) 個の受信信号と、m個の送信信号成分を持つ受信信号と、(m-1) 回目のステップで生成したビリーフおよびレプリカとを用いて、GaBPアルゴリズムを適用して干渉除去、ビリーフ生成およびレプリカ生成を行う。上三角行列の性質上、第m受信信号は第1~m送信信号成分のみを含むため、mが小さい場合には中心極限定理によるスカラーガウス近似の精度が劣化する。したがって、QR-GA-BPアルゴリズムがすべての受信信号に対して同時にビリーフ生成を行うと、精度よくビリーフが生成されない。そこで、QR-GA-BPアルゴリズムが干渉のない第1受信信号から順番に検出を行うことで、精度よく生成された第1~第 (m-1) 送信信号成分を用いて、第m送信信号成分に対して干渉キャンセルが行われる。このため、第m送信信号成分に対するビリーフおよびレプリカが精度よく生成される。全ての受信信号に対して上記のステップを完了することを1セットとした場合に、QR-GA-BPアルゴリズムは、複数セットを繰り返すことで徐々に検出精度を改善する。また、受信ビームフォーミングを用いることで、フロントホールを介してRUからDUへ伝送される受信信号数が削減されるため、フロントホール帯域が削減される。
【0004】
他の知られたマルチユーザ検出に、K-neighborhood search for zero forcing solution (K-NSF ZF) がある(非特許文献2を参照)。K-NSF ZFは、探索型のアルゴリズムであり、チャネル行列の擬似逆行列であるZFフィルタを用いてレプリカを生成し、生成したレプリカを信号探索の初期値とする。K-NSF ZFは、探索の初期値となるベクトル要素のうちK以下のベクトル要素が変化した候補ベクトルのうち、チャネル行列と候補ベクトルの積と受信信号との二乗誤差が最も小さい候補ベクトルを探索する。ランダムな初期値から処理を始める場合にはK-NSF ZFが最適な信号を探索するために、Kを非常に大きな値に設定する必要がある。そのため、特に送信アンテナ数が大きい場合に探索に膨大な演算量が必要となる。一方で、K-NSF ZFは、ZFを用いて初期値を生成することにより、最適な候補ベクトルの近傍から探索を始められるため、探索に必要な演算量を削減できる。
【0005】
他の知られたマルチユーザ検出に、特異値分解を用いた受信ビームフォーミングと、ZFによるレプリカ生成と、GaBPによる信号検出とを備えた手法がある(特許文献1を参照)。特許文献1に記載の手法は、非特許文献1に記載のQR-GA-BPアルゴリズムおよび非特許文献2に記載のK-NSF ZFの両方の特徴を有する。非特許文献1に記載のQR-GA-BPアルゴリズムは、受信ビームフォーミングを用いてフロントホール帯域を削減できる一方で、マルチユーザ検出に多くの繰り返しが必要になるため、実行時間が長くなる課題がある。非特許文献2に記載のK-NSF ZFは、線形フィルタを用いて生成したレプリカにより演算量を削減できる一方で、受信アンテナで受信した信号がそのままRUからDUへ伝送されるため、広いフロントホール帯域が必要となる。しかしながら、特許文献1に記載のGaBPアルゴリズムは、ソフト干渉除去、ビリーフ生成、ソフトレプリカ生成を繰り返すことで高精度に送信信号を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S. Tanabe, A. D. Shigyo, and K. Ishibashi, “Not-so-large MIMO signal detection based on damped QR-decomposed belief propagation,” 2016 International Symposium on Information Theory and Its Applications (ISITA), pp. 463-467, 2016.
【非特許文献2】M. Chaudhary, N. K. Meena, and R. S. Kshetrimayum, “Local search based near optimal low complexity detection for large MIMO system,” 2016 IEEE International Conference on Advanced Networks and Telecommunications Systems (ANTS), pp. 1-5, 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の方法では、ZFにより雑音強調が発生するため、Minimum Mean Square Error (MMSE) によりレプリカを生成した場合と比較してマルチユーザ検出の精度が低くなることが想定される。一方で、検出精度を向上するためにMMSEを用いてレプリカを生成する場合には、特許文献1に記載の方法を用いることができない。したがって、MMSEフィルタの生成に逆行列演算が必要となるため、演算量が増加することが想定される。
【0009】
本開示の実施形態が達成しようとする目的の1つは、演算量が抑制された状態でマルチユーザ検出を精度良く行うことに寄与する装置、方法、及びプログラムを提供することである。なお、この目的は、ここに開示される複数の実施形態が達成しようとする複数の目的の1つに過ぎないことに留意されるべきである。その他の目的又は課題と新規な特徴は、本明細書の記述又は添付図面から明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様では、無線受信装置は、特異値分解器と、対角行列補正器と、レプリカ生成器と、非線形検出器を備える。前記特異値分解器は、1または複数の無線送信装置のM個の送信アンテナと前記無線受信装置に結合されたN個の受信アンテナとの間で定義されるN×Mのチャネル行列を、N×Mの左特異行列U、M次対角行列である特異値行列Σ、およびM×Mの右特異行列Vに特異値分解するよう構成される。前記対角行列補正器は、前記特異値行列Σと任意の対角行列Aとを用いることで対角行列Σ’を生成するよう構成される。前記レプリカ生成器は、前記左特異行列Uを用いることで前記受信アンテナの各々の受信信号に対して受信ビームフォーミングがなされた受信信号ベクトルy’と、前記右特異行列V及び前記対角行列Σ’を用いて生成された線形フィルタWと、を用いることでレプリカベクトルx^を生成するよう構成される。前記非線形検出器は、前記受信信号ベクトルy’と前記レプリカベクトルx^とを用いることで非線形信号検出アルゴリズムを実行するよう構成される。
【0011】
第2の態様では、無線受信装置が実行する方法は、以下を含む:
(a)1または複数の無線送信装置のM個の送信アンテナと前記無線受信装置に結合されたN個の受信アンテナとの間で定義されるN×Mのチャネル行列を、N×Mの左特異行列U、M次対角行列である特異値行列Σ、およびM×Mの右特異行列Vに特異値分解し、
(b)前記特異値行列Σと任意の対角行列Aとを用いることで対角行列Σ’を生成し、
(c)前記左特異行列Uを用いることで前記受信アンテナの各々の受信信号に対して受信ビームフォーミングがなされた受信信号ベクトルy’と、前記右特異行列V及び前記対角行列Σ’を用いて生成された線形フィルタWと、を用いることでレプリカベクトルx^を生成し、
(d)前記受信信号ベクトルy’と前記レプリカベクトルx^とを用いることで非線形信号検出アルゴリズムを実行すること。
【0012】
第3の態様では、プログラムは、コンピュータに読み込まれた場合に、第2の態様に係る方法をコンピュータに行わせるための命令群(ソフトウェアコード)を含む。
【発明の効果】
【0013】
上述の態様によれば、演算量が抑制された状態でマルチユーザ検出を精度良く行うことに寄与する装置、方法、及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態にかかる無線受信装置の例を示す図である。
【
図2】実施の形態にかかる無線受信装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図3】実施の形態にかかる無線通信システムの例を示す図である。
【
図4】実施の形態にかかるシステムモデルの例を示す図である。
【
図5】実施の形態にかかる基地局の構成例を示す図である。
【
図6】実施の形態にかかる基地局のプロセッサの構成例を示す図である。
【
図7】実施の形態にかかる基地局のプロセッサの構成例を示す図である。
【
図8】実施の形態にかかる並列干渉除去の構成例を示す図である。
【
図9】実施の形態にかかる最尤検出の構成例を示す図である。
【
図10】実施の形態にかかる信念伝搬法の構成例を示す図である。
【
図11】実施の形態にかかる基地局の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図12】実施の形態にかかる非線形検出器のビット誤り率性能を示す図である。
【
図13】実施の形態の処理が実行される情報処理装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面において、同一又は対応する要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明は省略される。また、各実施形態における文章の説明及び説明のために参照される図面は、他の実施の形態にも適用可能であることは言うまでもない。さらに、この開示では、明記のない限り、複数の項目について「その少なくともいずれか」が定義された場合、その定義は、任意の1つの項目を意味してもよいし、任意の複数の項目(全ての項目を含む)を意味してもよい。
【0016】
実施の形態1
[構成の説明]
以下、実施の形態1について図面を参照して説明する。
図1は、無線受信装置の一例を示すブロック図である。無線受信装置Rは、特異値分解器R1、対角行列補正器R2、レプリカ生成器R3及び非線形検出器R4を備える。無線受信装置Rは、例えば基地局の一部として構成されるが、無線受信装置Rが搭載される装置はこれに限らない。無線受信装置Rの各部(各手段)は、不図示の制御部(コントローラ)により制御される。以下、無線受信装置Rの各部について説明する。
【0017】
特異値分解器R1は、1または複数の無線送信装置のM個の送信アンテナと、無線受信装置Rに結合されたN個の受信アンテナと、の間で定義されるN×Mのチャネル行列を、以下の3つの成分に特異値分解する。3つの成分は、N×Mの左特異行列U、M次対角行列である特異値行列Σ、およびM×Mの右特異行列Vである。ここで、無線送信装置は、無線受信装置Rに信号を送信する装置である。また、N個の受信アンテナは、無線受信装置Rに含まれていてもよいし、無線受信装置Rと別個の装置として構成されていてもよい。
【0018】
対角行列補正器R2は、特異値分解の結果得られた特異値行列Σと、任意の対角行列Aと、を用いることで対角行列Σ’を生成するように構成される。
【0019】
レプリカ生成器R3は、受信信号ベクトルy’と、線形フィルタWと、を用いることでレプリカベクトルx^を生成するように構成される。ここで、受信信号ベクトルy’は、特異値分解の結果得られた左特異行列Uを用いることで、受信アンテナの各々の受信信号に対して受信ビームフォーミングがなされた信号ベクトルである。また、線形フィルタWは、右特異行列V及び対角行列Σ’を用いて生成される。ここで、受信信号ベクトルy’の生成は、無線受信装置R内で実行されてもよいし、無線受信装置R外で実行されてもよい。また、線形フィルタWの生成についても、無線受信装置R内で実行されてもよいし、無線受信装置R外で実行されてもよい。
【0020】
非線形検出器R4は、受信信号ベクトルy’とレプリカベクトルx^とを用いることで、非線形信号検出アルゴリズムを実行するよう構成される。非線形検出器R4は、実行した非線形信号検出アルゴリズムの結果を出力してもよい。
【0021】
[動作の説明]
図2は、無線受信装置Rの代表的な処理の一例を示したフローチャートであり、このフローチャートを参照して、無線受信装置Rの処理の概要が説明される。
【0022】
まず、特異値分解器R1は、N×Mのチャネル行列を特異値分解し、N×Mの左特異行列U、M次対角行列である特異値行列Σ、およびM×Mの右特異行列Vを生成する(ステップS11)。次に、対角行列補正器R2は、特異値行列Σと任意の対角行列Aとを用いることで、対角行列Σ’を生成する(ステップS12)。
【0023】
レプリカ生成器R3は、受信信号ベクトルy’と線形フィルタWとを用いることでレプリカベクトルx^を生成する(ステップS13)。非線形検出器R4は、受信信号ベクトルy’とレプリカベクトルx^とを用いることで非線形信号検出アルゴリズムを実行する(ステップS14)。
【0024】
[効果の説明]
次に、本実施の形態の効果について説明する。
本実施の形態にかかる無線受信装置Rは、特異値分解を用いて生成された右特異行列V及び対角行列Σを用いることで、線形フィルタWを生成する。この線形フィルタWを生成するための計算は、対角行列の逆行列演算や対角行列と正方行列の行列積といった比較的容易な計算である。また、特異値分解では受信ビームフォーミングのための計算結果が用いられる。そのため、生成に必要な演算量を抑制することができる。また、生成された線形フィルタWを用いることで、高精度なマルチユーザ検出が可能となる。
【0025】
実施の形態2
以下、実施の形態2について図面を参照して詳細に説明する。実施の形態2は、実施の形態1にて説明した無線受信装置の具体例を開示するものであるが、実施の形態1に示した無線受信装置の具体例は、以下に示したものに限られない。また、以下で説明される構成及び処理は例示であり、これに限定されるものではない。実施の形態2で説明された構成の全部又は任意の一部は、実施の形態1に記載の無線受信装置に対して適宜適用可能であり、実施の形態2に示された図面は、実施の形態1に適宜適用可能であることはいうまでもない。
【0026】
[構成の説明]
図3は、無線通信システムの構成例を示している。
図3を参照すると、基地局1は、複数の無線端末2に無線アクセスを提供する。基地局1はアクセスポイント、transmission/reception point (TRP)、またはその他の名称で参照されてもよい。基地局1は、例えば5GシステムのgNBであってもよく、RUおよびDUを含むシステムであってもよい。RUは、RF信号処理及び一部の物理レイヤ又はレイヤ1(e.g., Low PHY)信号処理を行ってもよい。RUにより行われる物理レイヤ信号処理は、例えば、デジタルビームフォーミングを含んでもよい。DUは、残りの物理レイヤ(e.g., High PHY)信号処理及びレイヤ2信号処理を行ってもよい。RUとDUの間はフロントホールを介して接続される。フロントホールは、モバイル・フロントホール又は(モバイル)フロントホール・ネットワークとも呼ばれる。例えば、フロントホールは、1又はそれ以上の光ファイバを使用する有線フロントホールであってもよく、ミリ波無線伝送を用いる無線フロントホールであってもよい。
【0027】
いくつかの実装では、無線通信システムは、複数の無線端末2から基地局1へのアップリンク送信のためにマルチユーザMIMO技術を利用してもよい。この場合、基地局1は、複数の無線端末2から参照信号を受信し、受信した参照信号を用いて複数の無線端末2と基地局1の間のMIMOチャネルを推定し、複数の無線端末2から受信したデータ信号および推定されたチャネルを用いて送信信号を検出してもよい。すなわち、基地局1は、複数の無線端末2のマルチユーザ信号を分離するためにマルチユーザ検出を行ってもよい。
【0028】
図4は、アップリンク・マルチユーザMIMO送信のシステムモデルの一例を示している。
図4では、複数の無線端末2の複数の送信機20がチャネル(伝搬路)30を介して基地局1の受信機10と通信する。
図4の例では、M個の送信機20の各々は1つの送信アンテナを有する。これに代えて、各送信機20は2つ以上の送信アンテナを有してもよい。基地局1の受信機10は、N個の受信アンテナ素子(以下、単に受信アンテナとも記載)を有する。送信アンテナの合計数Mは受信アンテナの合計数N以下であるものとする。
【0029】
以降の説明では、簡潔化のために、各無線端末2(ユーザ)からの送信信号はシングルキャリア伝送であり、各無線端末2と基地局1との間の伝搬路はフラットフェージングであるとみなす。一方で、各ユーザからの送信信号がOrthogonal Frequency Division Multiplexing (OFDM) またはSingle Carrier-Frequency Division Multiple Access (SC-FDMA) 等を使用する場合のマルチパスフェージング環境においても、適切な長さのサイクリックプリフィックスを送信信号に挿入することで、各サブキャリア単位では伝送路はフラットフェージングと見なせる。したがって、本実施の形態は、OFDMおよびSC-FDMAに適用されてもよい。
【0030】
複数の無線端末2の合計M個の送信アンテナからQuadrature Amplitude Modulation (QAM) 変調された送信信号が伝送され、N個の受信アンテナを具備する基地局1において受信される場合を仮定する。このとき、等価低域表現による複素数の信号モデルは数式1で表される:
【数1】
・・・(1)
ここで、yはN個の各アンテナの受信信号で構成されるN×1の複素受信信号ベクトル、HはN×Mの複素MIMOチャネル行列、zはN×1の複素加法性白色雑音ベクトル、xはM×1の複素送信信号ベクトルである。なお、MおよびNは整数であり、例えばMはN以下である。
【0031】
QAM変調の変調シンボル数をQとし、例えばQuadrature Phase Shift Keying (QPSK) のときにQは4であり、16QAMのときにQは16である。変調シンボルの振幅については、I軸及びQ軸それぞれの振幅がQPSKの時に{-c, +c}であり、16QAMのときに{-3c, -c, +c, +3c} であるとする。ここで、cは以下の数式2で表される。なお、E
sは平均信号電力である。各受信アンテナにおける複素雑音の電力はN
0とする。
【数2】
・・・(2)
【0032】
図5は、基地局1の構成例を示している。
図5を参照すると、基地局1はRU11-1とDU11-2を含む。RU11-1は、Radio Frequency (RF) トランシーバ13、プロセッサ14-1、メモリ15を含み、アンテナアレイ12に接続される。DU11-2は、プロセッサ14-2、メモリ15、ネットワークインタフェース16を含む。
【0033】
RFトランシーバ13は、複数の無線端末2と通信するためにアナログRF信号処理を行う。RFトランシーバ13は、複数のトランシーバを含んでもよい。RFトランシーバ13は、アンテナアレイ12、RU11-1内のプロセッサ14-1およびDU11-2内のプロセッサ14-2と結合される。RFトランシーバ13は、変調シンボルデータをRU11-1内のプロセッサ14-1から受信し、送信RF信号を生成し、送信RF信号をアンテナアレイ12に供給する。また、RFトランシーバ13は、アンテナアレイ12によって受信された受信RF信号に基づいてベースバンド受信信号を生成し、受信信号が参照信号の場合はDU11-2内のプロセッサへ、受信信号がデータ信号の場合はRU11-1内のプロセッサ14-1へ受信信号を供給する。
【0034】
プロセッサ14-1および14-2は無線通信のためのデジタルベースバンド通信処理(データプレーン処理)とコントロールプレーン処理を行う。プロセッサ14-1および14-2は複数のプロセッサを含んでもよい。例えば、プロセッサ14-1および14-2は、デジタルベースバンド信号処理を行うモデム・プロセッサ(e.g., Central Processing Unit (CPU)、Graphics Processing Unit (GPU)、またはDigital Signal Processor (DSP))とコントロールプレーン処理を行うプロトコルスタック・プロセッサ(e.g., Central Processing Unit (CPU)またはMicro Processing Unit (MPU))を含んでもよい。
【0035】
例えば、プロセッサ14-1および14-2によるデジタルベースバンド信号処理は、Service Data Adaptation Protocol (SDAP) レイヤ、Packet Data Convergence Protocol (PDCP) レイヤ、Radio Link Control (RLC) レイヤ、Medium Access Control (MAC) レイヤ、およびPhysical (PHY) レイヤの信号処理を含んでもよい。また、プロセッサ14-1および14-2によるコントロールプレーン処理は、Non-Access Stratum (NAS) messages、Radio Resource Control (RRC) messages、Medium Access Control (MAC) Control Elements (CEs)、およびDownlink Control Information (DCI) の処理を含んでもよい。
【0036】
ネットワークインタフェース16は、ネットワークノード(e.g., 他の基地局、Centralized Unit (CU)、およびコアネットワークノード)と通信するために用いられる。ネットワークインタフェース16は、例えば、IEEE 802.3 seriesに準拠したネットワークインタフェースカード (NIC) を含んでもよい。
【0037】
メモリ15は、揮発性メモリおよび不揮発性メモリの組み合わせによって構成される。揮発性メモリは、例えば、Static Random Access Memory (SRAM) もしくはDynamic RAM (DRAM) またはこれらの組み合わせである。不揮発性メモリは、マスクRead Only Memory (MROM)、Electrically Erasable Programmable ROM (EEPROM)、フラッシュメモリ、もしくはハードディスクドライブ、またはこれらの任意の組み合わせである。メモリ15は、プロセッサ14-1および14-2から離れて配置されたストレージを含んでもよい。この場合、プロセッサ14-1および14-2は、ネットワークインタフェース16またはその他のI/Oインタフェースを介してメモリ15にアクセスしてもよい。
【0038】
メモリ15は、基地局1による処理の少なくとも一部を行うための命令群およびデータを含む1つまたはそれ以上のソフトウェアモジュール(コンピュータプログラム)を格納したコンピュータ読み取り可能な媒体を含んでもよい。幾つかの実装において、プロセッサ14-1および14-2は、当該ソフトウェアモジュールをメモリ15から読み出して実行することで、上述の実施の形態で説明された基地局1による処理の少なくとも一部を行うように構成されてもよい。
【0039】
本実施形態に従うと、プロセッサ14-1および14-2は、受信ビームフォーミングおよびマルチユーザ検出(MIMO検出)のための受信信号処理を基地局1に行わせることができる。そのために、
図6に示すように、RU11-1内のプロセッサ14-1はビームフォーマ143を含むことができ、DU11-2内のプロセッサ14-2はチャネル推定器141、特異値分解器142、対角行列補正器144、線形フィルタ生成器145、レプリカ生成器146、非線形検出器147および判定/復調器148を含むことができる。
【0040】
チャネル推定器141は、RFトランシーバ13から受信した参照信号に基づき、MIMOチャネルを推定する。チャネル推定器141は特異値分解器142と結合され、推定したN×Mのチャネル行列Hを特異値分解器142へ供給する。ここで参照信号の例としては、サウンディング参照信号 (SRS: Sounding Reference Signal) などが考えられるが、これに限らない。
【0041】
特異値分解器142は、チャネル推定器141から受信したチャネル行列Hを特異値分解し、左特異行列U、特異値行列Σ、および右特異行列Vを生成する。特異値分解器142はビームフォーマ143、対角行列補正器144および線形フィルタ生成器145と結合されており、左特異行列Uをビームフォーマ143へ、特異値行列Σを対角行列補正器144へ、右特異行列Vを線形フィルタ生成器145へ供給する。また、
図7に示すように、特異値分解器142は非線形検出器147と結合され、特異値行列Σと右特異行列Vとを非線形検出器147へ供給してもよい。
【0042】
例えば、特異値分解器142は、数式3に示すように、N×Mのチャネル行列Hを、N×Mの行列である左特異行列U、M次の対角行列である特異値行列Σ、およびM×Mの行列である右特異行列Vに特異値分解する。ここで、数式4および数式5に示すように左特異行列Uはユニタリ行列の部分行列であり、右特異行列Vはユニタリ行列である。左特異行列Uおよび右特異行列Vの第m列で構成される列ベクトルは、それぞれ、特異値行列のm番目の対角要素σ
mに対応する左特異ベクトルu
mおよび右特異ベクトルv
mである。
【数3】
・・・(3)
【数4】
・・・(4)
【数5】
・・・(5)
【0043】
ビームフォーマ143は、RFトランシーバ13から供給された各受信アンテナの受信信号で構成される受信信号ベクトルyに対して、受信ビームフォーミングを行う。受信ビームフォーミングは、数式6に示すように、特異値分解器142から受信した左特異行列Uのエルミート共役を受信ビームフォーミングウェイトとして設定し、受信信号ベクトルyと受信ビームフォーミングウェイトとの積を求めることで行われる。ビームフォーマ143はレプリカ生成器146および非線形検出器147と結合され、フロントホールを介して受信ビームフォーミングがなされた受信信号ベクトルy’を供給する。
【数6】
・・・(6)
【0044】
対角行列補正器144は、特異値分解器142から供給された特異値行列Σと任意の対角行列Aを用いて、対角行列Σ’を生成する。対角行列補正器144は線形フィルタ生成器145と結合され、対角行列Σ’を線形フィルタ生成器145へ供給する。対角行列Σ’は数式7に示すように特異値行列Σに対角行列Aを加算することで生成される。
【数7】
・・・(7)
加算対象である対角行列Aは数式8に示すように、特異値行列Σの逆行列に任意の係数αを乗算した対角行列であってもよい。
【数8】
・・・(8)
ここで、対角行列である特異値行列Σの逆行列は、数式9に示すように対角要素の逆数を用いることで、逆行列演算を行うことなく求められる。
【数9】
・・・(9)
1つの実装例では、任意の係数αは正の実数である。このとき、線形フィルタ生成器145で生成される線形フィルタはRegularized Zero Forcing (RZF) となる。また、他の実装例では、任意の係数αは1受信アンテナ当たりの雑音電力と1送信アンテナ当たりの送信電力との比である。このとき、線形フィルタ生成器145で生成される線形フィルタはMMSEとなる。
【0045】
線形フィルタ生成器145は、特異値分解器142から供給された右特異行列Vと、対角行列補正器144から供給された対角行列Σ’と、を用いて線形フィルタWを生成する。線形フィルタ生成器145はレプリカ生成器146と結合され、線形フィルタWをレプリカ生成器146へ供給する。線形フィルタWは、数式10に示すように、右特異行列Vと対角行列Σ’の逆行列との積を用いて生成される。
【数10】
・・・(10)
ここで、対角行列Σ’の逆行列は数式9と同様に、対角要素の逆数を用いて求められる。
【0046】
レプリカ生成器146は、受信ビームフォーミングがなされ、ビームフォーマ143から供給された受信信号ベクトルy’に対して、線形フィルタ生成器145から供給された線形フィルタWを作用させて、以下のレプリカベクトルを生成する。
【数11】
・・・(11)
以下、数式11に示したベクトルをレプリカベクトルx^とも記載する。レプリカ生成器146は非線形検出器147と結合され、非線形検出器147へレプリカベクトルx^を供給する。数式12に示すように、レプリカベクトルx^は、線形フィルタWと、受信ビームフォーミングがなされた受信信号ベクトルy’との積を用いて生成される。
【数12】
・・・(12)
【0047】
レプリカ生成器146は、数式12に示すレプリカベクトルx^の代わりに、レプリカベクトルx^を用いて計算された条件付き期待値x^’および条件付き分散値Ψ’
mを非線形検出器147へ供給してもよい。このとき、条件付き期待値x^’と条件付き分散値Ψ’
mは数式13および14に示すように計算されてもよい。
【数13】
・・・(13)
【数14】
・・・(14)
数式13および14において、dはQAM変調のシンボル点ベクトルであり、DはQAMシンボルの取りうる値である。例えば、QPSKの場合はD = {-c-cj, -c+cj, c-cj, c+cj}、16QAMの場合はD = {-3c-3cj, -3c-cj, -3c+cj, -3c+3cj, -c-3cj, -c-cj, -c+cj, -c+3cj, c-3cj, c-cj, c+cj, c+3cj, 3c-3cj, 3c-cj, 3c+cj, 3c+3cj} である。また、p
m (d;x^) は、レプリカベクトルx^が与えられたときの条件付き確率分布である。
【0048】
また、非線形検出器147がベクトル近似メッセージ伝搬法 (VAMP: Vector Approximate Message Passing) を実行する場合は、モーメントマッチング後のレプリカベクトルx^’’およびレプリカベクトルの分散Ψ’’を非線形検出器147へ供給してもよい。レプリカベクトルx^’’およびレプリカベクトルの分散Ψ’’は、以下の数式15および16のように示される。
【数15】
・・・(15)
【数16】
・・・(16)
【0049】
1つの実装例として、確率分布p
m (d; x^) は、レプリカベクトルx^に含まれる所望信号以外の成分に対してスカラーガウス近似 (SGA: Scalar Gaussian Approximation) がなされた、x^
mを平均とした複素ガウス分布であってもよい。このとき、複素ガウス分布の分散s
m
2は、数式17に示すように線形フィルタWを用いた計算で得られる干渉雑音電力であってもよい。
【数17】
・・・(17)
ここで、[.]
m, m’は行列の第 (m, m’) 行列要素を表す。
【0050】
他の実装例として、確率分布p
m (d;x^) は、レプリカベクトルx^に含まれる所望信号以外の成分に対してベクトルガウス近似 (VGA: Vector Gaussian Approximation) がなされた、数式18に示す確率分布であってもよい。
【数18】
・・・(18)
ここで、Cは規格化定数を表し、以下の数式19は複素数の実部を表す。
【数19】
・・・(19)
【0051】
非線形検出器147は、ビームフォーマ143から供給された受信ビームフォーミング後の受信信号ベクトルy’に対して、レプリカ生成器146から供給されたレプリカベクトルx^を用いた非線形信号検出アルゴリズムを実行する。また、非線形検出器147は、非線形信号検出アルゴリズムにおいて、特異値分解器142から供給された特異値行列Σと右特異行列Vおよび線形フィルタ生成器145から供給された線形フィルタWをさらに用いてもよい。非線形検出器147は判定/復調器148と結合され、非線形信号検出アルゴリズムにより検出された数式20の検出信号ベクトルを判定/復調器148へ供給する。
【数20】
・・・(20)
以下、数式20に示したベクトルを検出信号ベクトルx- とも記載する。ここで、非線形信号検出アルゴリズムは並列干渉除去 (PIC: Parallel Interference Cancellation)、最尤検出 (MLD: Maximum Likelihood Detection)、および信念伝搬法 (BP: Belief Propagation) などのうちの任意の1のアルゴリズムである。ここで、信念伝搬法は、送信信号のレプリカを用いた干渉除去処理と、中心極限定理を用いて干渉除去後の受信信号に含まれる残留干渉雑音成分をガウス分布に近似する処理と、を含む検出手法である。信念伝搬法は、ガウス信念伝搬法 (GaBP: Gaussian Belief Propagation)、一般化近似メッセージ伝搬法 (GAMP: Generalized Approximate Message Passing)、期待値伝搬法 (EP: Expectation Propagation)、ベクトル近似メッセージ伝搬法などのうちの任意の1のアルゴリズムである。また、信念伝搬法においては、深層展開を用いて、アルゴリズム中に含まれる調整可能なパラメータが学習を通じて最適化されてもよい。
【0052】
1つの実装例では、並列干渉除去を用いて検出信号ベクトルx-が検出される。ここで、非線形検出器147は、
図8に示すように干渉除去器41と送信信号検出器42とを含む。
【0053】
干渉除去器41は、受信ビームフォーミングがなされた受信信号ベクトルy’から第m送信信号成分以外の干渉信号を除去することで、数式21に示すベクトルを生成する。
【数21】
・・・(21)
以下、数式21に示した干渉除去後のベクトルを受信信号ベクトルy~’
mとも記載する。干渉除去器41は送信信号検出器42と結合され、干渉除去後の受信信号ベクトルy~’
mを送信信号検出器42に供給する。干渉除去後の受信信号ベクトルy~’
mは、数式22に示されるように、受信ビームフォーミングがなされたチャネル行列H’と、レプリカベクトルx^と、を用いて、受信ビームフォーミングがなされた受信信号ベクトルy’から第m送信信号成分以外の送信信号成分が除去されることで生成される。
【数22】
・・・(22)
数式22において、h’
iは受信ビームフォーミングがなされたチャネル行列H’の第i列の列ベクトル、x
i^はレプリカベクトルx^の第iベクトル要素である。また、数式23に示すように、受信ビームフォーミングがなされたチャネル行列H’は、左特異行列Uのエルミート共役とチャネル行列Hとの積である。
【数23】
・・・(23)
ただし、受信ビームフォーミングがなされたチャネル行列H’は、特異値分解器142に供給されたチャネル行列の推定に用いられた参照信号を用いて推定されてもよい。この場合、チャネル行列H’は、数式24に示すように、特異値行列Σと、右特異行列Vのエルミート共役との積である。
【数24】
・・・(24)
また、受信ビームフォーミングがなされたチャネル行列H’は、特異値分解器142に供給されたチャネル行列の推定に用いられた参照信号とは別の参照信号を用いて推定されてもよい。ここで、別の参照信号は、復調用参照信号 (DMRS: Demodulation Reference Signal) などが考えられる。
【0054】
送信信号検出器42は、干渉が除去された受信信号ベクトルy~’
mと、受信ビームフォーミングがなされたチャネル行列H’と、を用いて第m検出信号x-
mを検出する。送信信号は、数式25に示すように、受信ビームフォーミングがなされたチャネル行列の第m列ベクトルh’
mのエルミート共役と、干渉が除去された受信信号ベクトルy~’
mと、の積として表される。
【数25】
・・・(25)
【0055】
他の実装例では、最尤検出を用いて検出信号ベクトルx-が検出される。最尤検出では、数式26に示すように、二乗誤差eが最小となる候補信号ベクトルx
candが、検出信号ベクトルx-として検出される。
【数26】
・・・(26)
ここで、||.||
2はL2ノルムを表す。送信アンテナの合計数Mが大きい場合には候補信号ベクトルx
candの数が膨大な大きさになるため、すべての候補を探索して信号を検出することは非現実的である。そこで、少ない候補数の候補信号ベクトルx
candのうち最も二乗誤差が小さい候補ベクトルが検出信号ベクトルとして検出されることで、現実的な実行時間内で検出がなされる。このとき、非線形検出器147は、
図9に示すように候補生成器51と送信信号検出器52とを含む。
【0056】
候補生成器51は、レプリカ生成器から供給されたレプリカベクトルx^において最大でKビットのベクトル要素を変化させたベクトルを、候補信号ベクトルxcandの集合Xとして生成する。候補生成器51は送信信号検出器52と結合され、送信信号検出器52へ候補信号ベクトルxcandの集合Xを供給する。ここで、変調方式がQPSKだった場合、ベクトル要素が取りうる値は-c-cj、-c+cj、c-cj、c+cjの4通り存在する。例えば、レプリカベクトルのベクトル要素がc+cjの場合、c+cjと比較すると、-c+cjとc-cjは1ビットの変化、-c-cjは2ビットの変化、がそれぞれ生じたベクトル要素である。候補生成器51は、全ベクトル要素で変化ビット数を合計して、レプリカベクトルからの変化を求めることができる。Kが1の場合には2M個の候補信号ベクトルが生成される。
【0057】
送信信号検出器52は、数式27に示すように、候補生成器51から供給された集合Xの全候補信号ベクトルに対して二乗誤差eを求めることで、二乗誤差eが最小となる候補信号ベクトルx
candを決定する。
【数27】
・・・(27)
非線形検出器147は、ベクトル要素が変化するビット数であるKを小さくすることで計算の実行時間を短縮できる。しかしながら、その一方で、検出精度は低下する。ただし、この実装例は最尤検出の一例でしかなく、アルゴリズムとして、レプリカベクトルx^を初期値とした場合に二乗誤差eが最小となる候補を探索する他のアルゴリズムが用いられてもよい。
【0058】
他の実装例では、信念伝搬法を用いることで検出信号ベクトルx-が検出される。信念伝搬法は、
図10に示すように、ソフト干渉除去器61、ビリーフ生成器62、およびソフトレプリカ生成器63を含む繰り返し型のアルゴリズムである。
【0059】
ソフト干渉除去器61は、1つ前の繰り返しのステップにおいて生成されたソフトレプリカを用いて、受信ビームフォーミングがなされた受信信号ベクトルy’から干渉信号成分を除去する。ソフト干渉除去器61は、ビリーフ生成器62と結合され、ビリーフ生成器62へ干渉が除去された受信信号を供給する。ここで、繰り返し1回目のステップにおいて、ソフト干渉除去器61は、レプリカ生成器146で生成されたレプリカベクトルx^を用いて干渉を除去する。ソフト干渉除去器61は、レプリカベクトルx^を用いて1回目の干渉除去を行うことで、1回目の干渉除去においても精度良く干渉除去ができる。
【0060】
ビリーフ生成器62は、ソフト干渉除去器61から供給された干渉除去後の受信信号から、送信信号情報であるビリーフを生成する。ビリーフ生成器62は、ソフトレプリカ生成器63と結合され、ソフトレプリカ生成器63へビリーフを供給する。
【0061】
ソフトレプリカ生成器63は、ビリーフ生成器62から共有されたビリーフを用いることでソフトレプリカを生成する。ソフトレプリカ生成器63は、ソフト干渉除去器61と結合され、ソフト干渉除去器61へソフトレプリカを供給する。なお、ソフトレプリカ生成器63は、ソフトレプリカを、ビリーフ生成器62から供給されたビリーフを送信アンテナごとに結合することで生成する。
【0062】
信念伝搬法がGAMPの場合、干渉が除去された受信信号の残留干渉信号成分と雑音成分とは、中心極限定理を用いてスカラーガウス近似(SGA)がなされる。したがって、基地局1は、演算量を抑制した状態でマルチユーザ検出ができる。
【0063】
また、信念伝搬法がVAMPの場合、非線形検出器147は、特異値行列Σと右特異行列Vとレプリカベクトルx^とを受信信号ベクトルy’に適用して非線形信号検出アルゴリズムを実行することで、マルチユーザ検出を行う。このとき、特異値行列Σと右特異行列Vとは特異値分解器142から供給されてもよい。非線形検出器147は、特異値分解器142で生成した特異値行列Σと右特異行列Vとを計算において用いることで、非線形検出器147において追加の特異値分解が不要となり、基地局1全体としての演算量を削減できる。
【0064】
VAMPにおけるソフト干渉除去器61は、数式28に示すようにして、右特異行列Vとソフトレプリカ生成器63で生成されたソフトレプリカベクトルx
BAを用いて干渉除去し、干渉除去後の信号ベクトルy~を生成する。ソフト干渉除去器61は、ビリーフ生成器62へ干渉除去後の信号ベクトルy~を供給する。
【数28】
・・・(28)
ここで、繰り返し1回目のステップにおいてソフト干渉除去器61は、ソフトレプリカベクトルx
BAとしてレプリカ生成器146から供給されたモーメントマッチング後のレプリカベクトルx^’’を用いる。
【0065】
ビリーフ生成器62は、ソフト干渉除去器61から受信した干渉除去後の信号ベクトルy~、右特異行列Vおよびソフトレプリカ生成器63で生成されたソフトレプリカベクトルの分散Ψ
BAを用いて、数式29および数式30に示すように、ビリーフベクトルx
ABおよびビリーフの分散Ψ
ABを生成する。ビリーフ生成器62は、ソフトレプリカ生成器63へビリーフベクトルx
ABおよびビリーフの分散Ψ
ABを供給する。
【数29】
・・・(29)
【数30】
・・・(30)
ここで、対角行列Ξおよび平均利得γは数式31および数式32に示すように、特異値行列Σと単位行列Iを用いて求められる。
【数31】
・・・(31)
【数32】
・・・(32)
ここで、繰り返し1回目のステップにおいてビリーフ生成器62は、ソフトレプリカベクトルの分散Ψ
BAとして、レプリカ生成器146から供給されたモーメントマッチング後のレプリカベクトルの分散Ψ’’を用いる。
【0066】
ソフトレプリカ生成器63は、ビリーフ生成器から受信したビリーフベクトルx
ABとビリーフの分散Ψ
ABとを用いて、以下に示すようにソフトレプリカベクトルx
BAおよびソフトレプリカの分散Ψ
BAを生成する。ソフトレプリカ生成器63は、ソフト干渉除去器61へソフトレプリカベクトルx
BAおよびソフトレプリカの分散Ψ
BAを供給する。
【数33】
・・・(33)
【数34】
・・・(34)
【数35】
・・・(35)
【数36】
・・・(36)
ここで、数式33が定義するxチェックは送信信号の条件付期待値である。ソフトレプリカ生成器63は、最後の繰り返しのステップにおいて、xチェックを検出信号ベクトルx-としてもよい。
【0067】
[動作の説明]
図11は基地局1の動作の一例を示している。ステップ71では、DU11-2内のプロセッサ14-2 (e.g., チャネル推定器141) は、RFトランシーバ13を介してアンテナにより受信された参照信号を受信する。
【0068】
ステップ72では、DU11-2内のプロセッサ14-2 (e.g.,特異値分解器142) は、推定されたN×Mのチャネル行列Hを、N×Mの左特異行列Uと、M次対角行列である特異値行列Σと、M×Mの右特異行列Vとに特異値分解する。
【0069】
ステップ73では、RU11-1内のプロセッサ14-1 (e.g., ビームフォーマ143) は、RFトランシーバ13を介してアンテナにより受信されたデータ信号を受信し、生成された左特異行列Uを用いて受信ビームフォーミングを行う。プロセッサ14-1は、ビームフォームされた信号を、DU11-2内のプロセッサ14-2 (e.g., レプリカ生成器146、非線形検出器147) へ伝送する。
【0070】
ステップ74では、DU11-2内のプロセッサ14-2 (e.g., 対角行列補正器144) は、特異値分解器142から供給された特異値行列Σに任意の対角行列Aを加算して、対角行列Σ’を生成する。
【0071】
ステップ75では、DU11-2内のプロセッサ14-2 (e.g., 線形フィルタ生成器145) は、特異値分解器142から供給された右特異行列Vと対角行列補正器144から共有された対角行列Σ’の逆行列との積を算出することで、線形フィルタWを生成する。
【0072】
ステップ76では、DU11-2内のプロセッサ14-2 (e.g., レプリカ生成器146) は、線形フィルタ生成器145から供給された線形フィルタWと、ビームフォーマ143から供給された受信ビームフォーミング後の受信信号ベクトルy’と、を乗算して、レプリカベクトルx^を生成する。
【0073】
ステップ77では、DU11-2内のプロセッサ14-2 (e.g., 非線形検出器147) は、ビームフォーマ143から供給された受信信号ベクトルy’に対して、レプリカ生成器146から供給されたレプリカベクトルx^を用いて非線形信号検出アルゴリズムを実行する。受信信号ベクトルy’は、受信ビームフォーミングがなされたベクトルである。プロセッサ14-2は、このようにして検出信号ベクトルx-を生成する。その後に、DU11-2内のプロセッサ14-2 (e.g., 判定/復調器148) は、検出信号ベクトルx-に基づいて、すべてのMユーザの送信信号をデコードする。
【0074】
[効果の説明]
次に、本実施の形態の効果について説明する。
本実施の形態にかかる基地局1は上述した左特異行列Uを用いて受信ビームフォーミングをすることで、フロントホールで伝送する受信信号数が削減され、所要フロントホール帯域を削減できる。また、基地局1は、特異値分解を用いて生成された特異値行列と右特異行列とを用いて、高い検出精度を持ち雑音強調を抑えた線形フィルタ(例えば、MMSEまたはRZF)を、低い演算量で生成することができる。基地局1は、線形フィルタを用いて生成したレプリカを非線形信号検出アルゴリズムに活用することで、高精度にマルチユーザ検出ができる。この計算においては、対角行列と正方行列との行列積のみが実行されるため、基地局1は少ない演算量で線形フィルタを生成できる。また、対角行列と正方行列との行列積は、対角行列の対角要素と正方行列の行列要素との積のみで計算される。
【0075】
図12は、以下の場合におけるビット誤り率 (BER: Bit Error Rate) 性能の比較を示すグラフである。
図12に示されるプロットされた折れ線グラフ(1)~(3)は、端末数をM、受信アンテナ数をNとし、(N, M) = (64, 24) のマルチユーザMIMO構成についてのシミュレーション結果に関するグラフである。なお、GAMPの繰り返し回数は1回、変調方式はQPSK、誤り訂正符号は符号化率約0.6のLDPC符号とした。
図12のグラフ(1)~(3)は、それぞれ以下を示すグラフである。
(1):本実施の形態にかかる、左特異行列による受信ビームフォーミング後にMMSEフィルタを用いて生成したレプリカベクトルを用いてGAMPを実行した場合のBER性能
(2):受信ビームフォーミングを行わないMMSEを実行した場合のBER性能
(3):特許文献1に記載された、左特異行列による受信ビームフォーミング後にZFフィルタにより生成したレプリカベクトルを用いてGAMPを実行した場合のBER性能
【0076】
ここで、
図12におけるグラフ(2)および(3)は、グラフ(1)に対する比較例である。グラフ(1)~(3)を参照すると、(1)に示した本実施の形態の手法は、(2)および(3)に示した関連技術の手法と比較して、BER=10
-3において約2dB以上の改善がみられることが分かる。
【0077】
なお、本開示は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、信念伝搬法において、アルゴリズム中に含まれる調整可能なパラメータは、学習により得られたものでなくてもよい。また、係数αは、任意の手法で導出されてもよい。
【0078】
特異値分解器142は、DU11-2内のプロセッサ14-2ではなく、RU11-1内のプロセッサ14-1に含まれていてもよい。この場合、特異値分解器142は、生成した左特異行列UをRU11-1内のビームフォーマ143に供給する。また、特異値分解器142は、生成した特異値行列ΣをDU11-2内の対角行列補正器144へ供給し、生成した右特異行列VをDU11-2内の線形フィルタ生成器145へ供給する。
【0079】
以上に示した実施の形態では、基地局が無線を用いて受信した信号に対して処理を実行する例を説明した。しかしながら、基地局以外の任意の無線受信装置においても、実施の形態に示した処理を実行することが可能である。
【0080】
以上に示した実施の形態では、この開示をハードウェアの構成として説明したが、この開示は、これに限定されるものではない。この開示は、上述の実施形態において説明された基地局の処理(ステップ)を、コンピュータ内のプロセッサにコンピュータプログラムを実行させることで実現することも可能である。
【0081】
図13は、以上に示した実施の形態の処理が実行される情報処理装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図13を参照すると、この情報処理装置90は、基地局1を構成する装置であり、信号処理回路91、プロセッサ92及びメモリ93を含む。
【0082】
信号処理回路91は、プロセッサ92の制御に応じて、信号を処理するための回路である。なお、信号処理回路91は、送信装置から信号を受信する通信回路を含んでいてもよい。
【0083】
プロセッサ92は、メモリ93と接続されて(結合して)おり、メモリ93からソフトウェア(コンピュータプログラム)を読み出して実行することで、上述の実施形態において説明された装置の処理を行う。プロセッサ92は、上記の実施形態におけるプロセッサ14-1又は14-2の少なくともいずれかに対応する。プロセッサ92の一例として、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、DSP(Demand-Side Platform)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)が挙げられる。プロセッサ92として、1個のプロセッサが用いられてもよいし、複数のプロセッサが協働して用いられてもよい。
【0084】
メモリ93は、揮発性メモリや不揮発性メモリ、またはそれらの組み合わせで構成される。なお、揮発性メモリは、例えば、DRAM (Dynamic Random Access Memory)、SRAM (Static Random Access Memory)等のRAM (Random Access Memory)であってもよい。不揮発性メモリは、例えば、PROM (Programmable Random Only Memory)、EPROM (Erasable Programmable Read Only Memory) 等のROM (Read Only Memory)、フラッシュメモリや、SSD(Solid State Drive)であってもよい。メモリ93として、1個のメモリが用いられてもよいし、複数のメモリが協働して用いられてもよい。
【0085】
メモリ93は、1以上の命令を格納するために使用される。ここで、1以上の命令は、ソフトウェアモジュール群としてメモリ93に格納される。プロセッサ92は、これらのソフトウェアモジュール群をメモリ93から読み出して実行することで、上述の実施形態において説明された処理を行うことができる。
【0086】
なお、メモリ93は、プロセッサ92の外部に設けられるものに加えて、プロセッサ92に内蔵されているものを含んでもよい。また、メモリ93は、プロセッサ92を構成するプロセッサから離れて配置されたストレージを含んでもよい。この場合、プロセッサ92は、I/O(Input/Output)インタフェースを介してメモリ93にアクセスすることができる。
【0087】
以上に説明したように、上述の実施形態における各装置が有する1又は複数のプロセッサは、図面を用いて説明されたアルゴリズムをコンピュータに行わせるための命令群を含む1又は複数のプログラムを実行する。この処理がなされることで、各実施の形態に記載された情報処理が実現できる。
【0088】
プログラムは、コンピュータに読み込まれた場合に、実施形態で説明された1又はそれ以上の機能をコンピュータに行わせるための命令群(又はソフトウェアコード)を含む。プログラムは、非一時的なコンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体に格納されてもよい。限定ではなく例として、コンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体は、random-access memory(RAM)、read-only memory(ROM)、フラッシュメモリ、solid-state drive(SSD)又はその他のメモリ技術、CD-ROM、digital versatile disk(DVD)、Blu-ray(登録商標)ディスク又はその他の光ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージ又はその他の磁気ストレージデバイスを含む。プログラムは、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体上で送信されてもよい。限定ではなく例として、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体は、電気的、光学的、音響的、またはその他の形式の伝搬信号を含む。
【0089】
なお、上述した実施の形態は本件発明者により得られた技術思想の適用に関する例に過ぎない。すなわち、当該技術思想は、上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、種々の変更が可能であることはもちろんである。
【0090】
例えば、上記の実施の形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載され得るが、以下には限られない。
(付記1)
無線受信装置であって、
1または複数の無線送信装置のM個の送信アンテナと前記無線受信装置に結合されたN個の受信アンテナとの間で定義されるN×Mのチャネル行列を、N×Mの左特異行列U、M次対角行列である特異値行列Σ、およびM×Mの右特異行列Vに特異値分解するよう構成された特異値分解器と、
前記特異値行列Σと任意の対角行列Aとを用いることで対角行列Σ’を生成するよう構成された対角行列補正器と、
前記左特異行列Uを用いることで前記受信アンテナの各々の受信信号に対して受信ビームフォーミングがなされた受信信号ベクトルy’と、前記右特異行列V及び前記対角行列Σ’を用いて生成された線形フィルタWと、を用いることでレプリカベクトルx^を生成するよう構成されたレプリカ生成器と、
前記受信信号ベクトルy’と前記レプリカベクトルx^とを用いることで非線形信号検出アルゴリズムを実行するよう構成された非線形検出器と、を備える、
無線受信装置。
(付記2)
前記対角行列補正器は、前記特異値行列Σの逆行列に対して正の実数αを乗算することで前記対角行列Aを生成し、生成した前記対角行列Aを前記特異値行列Σに加算することで前記対角行列Σ’を生成する、
付記1に記載の無線受信装置。
(付記3)
前記対角行列補正器は、1個の前記受信アンテナ当たりの雑音電力と1個の前記送信アンテナ当たりの送信電力との比を前記正の実数αと設定して、前記対角行列Σ’を生成する、
付記2に記載の無線受信装置。
(付記4)
前記レプリカ生成器は、前記線形フィルタWと前記受信信号ベクトルy’との積を条件とする条件付き確率を用いて求められた変調シンボルの条件付き期待値を算出することで、前記レプリカベクトルx^を生成する、
付記1乃至3のいずれか1項に記載の無線受信装置。
(付記5)
前記右特異行列Vと前記対角行列Σ’との積を算出することで前記線形フィルタWを生成する線形フィルタ生成器と、をさらに備える、
付記1乃至4のいずれか1項に記載の無線受信装置。
(付記6)
前記非線形検出器は、前記非線形信号検出アルゴリズムとして、並列干渉除去アルゴリズム、最尤検出アルゴリズム、信念伝搬法アルゴリズムのうちのいずれかを実行する、
付記1乃至5のいずれか1項に記載の無線受信装置。
(付記7)
前記非線形検出器は、前記非線形信号検出アルゴリズムとして、ガウス信念伝搬法、一般化近似メッセージ伝搬法、期待値伝搬法、ベクトル近似メッセージ伝搬法のうちのいずれかを前記信念伝搬法アルゴリズムとして実行する、
付記6に記載の無線受信装置。
(付記8)
前記非線形検出器は、前記受信信号ベクトルy’に対して、前記特異値行列Σ、前記右特異行列V及び前記レプリカベクトルx^を用いて前記非線形信号検出アルゴリズムを実行する、
付記1乃至7のいずれか1項に記載の無線受信装置。
(付記9)
前記非線形検出器は、前記非線形信号検出アルゴリズムとしてベクトル近似メッセージ伝搬法アルゴリズムを実行する、
付記8に記載の無線受信装置。
(付記10)
前記特異値分解器が生成した前記左特異行列Uのエルミート共役と、前記受信アンテナの各々の受信信号で構成される受信信号ベクトルyと、の積を計算することで、前記受信信号ベクトルy’を生成するよう構成されたビームフォーマと、をさらに備える、
付記1乃至9のいずれか1項に記載の無線受信装置。
(付記11)
前記無線受信装置は、フロントホールを介して接続されたRadio Unit (RU) およびDistributed Unit (DU) を備え、
前記ビームフォーマが前記RUに含まれ、
前記対角行列補正器、前記レプリカ生成器および前記非線形検出器が前記DUに含まれ、
前記特異値分解器が前記RU又は前記DUのいずれか一方に含まれる、
付記10に記載の無線受信装置。
(付記12)
無線受信装置が実行する方法であって、
1または複数の無線送信装置のM個の送信アンテナと前記無線受信装置に結合されたN個の受信アンテナとの間で定義されるN×Mのチャネル行列を、N×Mの左特異行列U、M次対角行列である特異値行列Σ、およびM×Mの右特異行列Vに特異値分解し、
前記特異値行列Σと任意の対角行列Aとを用いることで対角行列Σ’を生成し、
前記左特異行列Uを用いることで前記受信アンテナの各々の受信信号に対して受信ビームフォーミングがなされた受信信号ベクトルy’と、前記右特異行列V及び前記対角行列Σ’を用いて生成された線形フィルタWと、を用いることでレプリカベクトルx^を生成し、
前記受信信号ベクトルy’と前記レプリカベクトルx^とを用いることで非線形信号検出アルゴリズムを実行することを備える、
方法。
(付記13)
無線受信装置のための方法をコンピュータに行わせるプログラムであって、前記方法は、
1または複数の無線送信装置のM個の送信アンテナと前記無線受信装置に結合されたN個の受信アンテナとの間で定義されるN×Mのチャネル行列を、N×Mの左特異行列U、M次対角行列である特異値行列Σ、およびM×Mの右特異行列Vに特異値分解し、
前記特異値行列Σと任意の対角行列Aとを用いることで対角行列Σ’を生成し、
前記左特異行列Uを用いることで前記受信アンテナの各々の受信信号に対して受信ビームフォーミングがなされた受信信号ベクトルy’と、前記右特異行列V及び前記対角行列Σ’を用いて生成された線形フィルタWと、を用いることでレプリカベクトルx^を生成し、
前記受信信号ベクトルy’と前記レプリカベクトルx^とを用いることで非線形信号検出アルゴリズムを実行することを備える、
プログラム。
【符号の説明】
【0091】
R 無線受信装置
R1 特異値分解器
R2 対角行列補正器
R3 レプリカ生成器
R4 非線形検出器
1 基地局
2 無線端末
10 受信機
11-1 Radio Unit (RU)
11-2 Distributed Unit (DU)
12 アンテナアレイ
13 RFトランシーバ
14-1 RU内のプロセッサ
14-2 DU内のプロセッサ
15 メモリ
16 ネットワークインタフェース
141 チャネル推定器
142 特異値分解器
143 ビームフォーマ
144 対角行列補正器
145 線形フィルタ生成器
146 レプリカ生成器
147 非線形検出器
148 判定/復調器
20 送信機
30 チャネル(伝送路)
41 干渉除去器
42 送信信号検出器
51 候補生成器
52 送信信号検出器
61 ソフト干渉除去器
62 ビリーフ生成器
63 ソフトレプリカ生成器