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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001877
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】有機電界発光素子
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/844 20230101AFI20241226BHJP
   H10K 50/00 20230101ALI20241226BHJP
   H10K 50/81 20230101ALI20241226BHJP
   H10K 50/82 20230101ALI20241226BHJP
   H10K 77/10 20230101ALI20241226BHJP
   H10K 50/842 20230101ALI20241226BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20241226BHJP
【FI】
H10K50/844
H10K50/00
H10K50/81
H10K50/82
H10K77/10
H10K50/842
H10K59/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101614
(22)【出願日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼田 健二
(72)【発明者】
【氏名】森井 克行
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翼
(72)【発明者】
【氏名】大野 拓
(72)【発明者】
【氏名】深川 弘彦
【テーマコード(参考)】
3K107
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC23
3K107DD13
3K107DD16
3K107DD18
3K107DD21
3K107DD26
3K107DD88
3K107DD95
3K107FF05
3K107FF15
(57)【要約】
【課題】 大気安定性の向上した有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】 陽極、陰極の一方を下部電極、他方を上部電極とし、下部電極と上部電極との間に複数の層が積層された構造を有する有機電界発光素子であって、該有機電界発光素子は、基板、基板上に隣接して形成された厚さ210nm~30μmの有機材料及び/又は無機材料の塗膜層、下部電極、有機化合物層、上部電極をこの順に有することを特徴とする有機電界発光素子。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極、陰極の一方を下部電極、他方を上部電極とし、下部電極と上部電極との間に複数の層が積層された構造を有する有機電界発光素子であって、
該有機電界発光素子は、基板、基板上に隣接して形成された厚さ210nm~30μmの有機材料及び/又は無機材料の塗膜層、下部電極、有機化合物層、上部電極をこの順に有することを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項2】
前記塗膜層は、有機材料の塗膜層であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記有機材料は、ガラス転移温度が基板よりも高いことを特徴とする請求項2に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記下部電極が陰極であり、上部電極が陽極であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記塗膜層と下部電極との間に酸化物層を有することを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の有機電界発光素子を備えることを特徴とする表示装置。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載の有機電界発光素子を備えることを特徴とする照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子に関する。より詳しくは、電子機器の表示部等の表示装置や照明装置等としての利用可能な有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
表示用デバイスや照明に適用できる新しい発光素子として有機電界発光素子(有機EL素子)が期待されている。
有機電界発光素子は、陽極と陰極との間に発光性有機化合物を含んで形成される発光層を含む1種または複数種の層を挟んだ構造を持ち、陽極から注入されたホールと陰極から注入された電子が再結合する時のエネルギーを利用して発光性有機化合物を励起させ、発光を得るものである。有機電界発光素子は電流駆動型の素子であり、流れる電流をより効率的に活用するため、素子構造や、素子を構成する層の材料について種々検討されている。
【0003】
最も基本的で数多く検討されている有機電界発光素子の構造は、安達らによって提案された3層構造のものであり(非特許文献1参照。)、陽極と陰極との間に正孔輸送層、発光層、電子輸送層をこの順で挟んだ構造をとっている。この提案以降、有機電界発光素子は3層構造を基本とし、より役割を分担することで、効率、寿命等の性能向上を目指して数多くの研究がなされている。この考えの基本は、注入される電子はその時点で(電極中において)高いエネルギーを有していることである。
それ故、有機電界発光素子は一般的に酸素や水によって劣化しやすく、これらの侵入を防ぐために厳密な封止が不可欠であった。劣化の原因としては、有機化合物への電子注入の容易さから、陰極として用いることができる材料がアルカリ金属やアルカリ金属化合物等、仕事関数の小さなものに限られていることや、使われる有機化合物自体が酸素・水と反応しやすいことが挙げられる。厳密な封止を施すことにより、有機電界発光素子は他の発光素子と比べて優位となったが、同時に安価、フレキシブルといった特長を犠牲にすることにもなった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「ジャパニーズ ジャーナル オブ アプライドフィジクス(Japanese Journal of Applied Physics)」、1988年、第27巻 L269
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に有機電界発光素子は厳密な封止が施され、それによって安価、フレキシブルといった特長を犠牲にしてきた。ウェアラブルデバイス等、今後の発展が予想される分野への有機電界発光素子の適用を進めるためにはフレキシブル性の向上を可能とするため、厳密な封止なしでも使用できるよう、有機電界発光素子の大気安定性の更なる向上が求められている。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、大気安定性の向上した有機電界発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、有機電界発光素子の大気安定性を向上させる方法について種々検討し、基板の上に付着した不純物は完全に除去することが難しいこと、及び、このような不純物が付着した基板上に直接下部電極を蒸着により形成すると電極層内にピンホールが発生し、これが素子の大気安定性を低下させる原因となることを見出した。そして、基板上に厚さ210nm~30μmの有機材料及び/又は無機材料の塗膜層を形成することで素子の大気安定性が向上することを見出し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
[1]陽極、陰極の一方を下部電極、他方を上部電極とし、下部電極と上部電極との間に複数の層が積層された構造を有する有機電界発光素子であって、
該有機電界発光素子は、基板、基板上に隣接して形成された厚さ210nm~30μmの有機材料及び/又は無機材料の塗膜層、下部電極、有機化合物層、上部電極をこの順に有することを特徴とする有機電界発光素子。
【0009】
[2]前記塗膜層は、有機材料の塗膜層であることを特徴とする[1]に記載の有機電界発光素子。
【0010】
[3]前記有機材料は、ガラス転移温度が基板よりも高いことを特徴とする[2]に記載の有機電界発光素子。
【0011】
[4]前記下部電極が陰極であり、上部電極が陽極であることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【0012】
[5]前記塗膜層と下部電極との間に酸化物層を有することを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【0013】
[6][1]~[5]のいずれかに記載の有機電界発光素子を備えることを特徴とする表示装置。
【0014】
[7][1]~[5]のいずれかに記載の有機電界発光素子を備えることを特徴とする照明装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明の有機電界発光素子は上述の構成よりなり、基板と下部電極との間に所定の厚さの有機材料及び/又は無機材料の塗膜層を設けることで、大気安定性を向上させた有機電界発光素子である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1で作製した有機電界発光素子1の積層構造を示した図である。
図2】実施例1で作製した有機電界発光素子1を相対湿度85%の環境下に100時間放置した後のEL発光の様子を示した図である。
図3】実施例2で作製した有機電界発光素子1を相対湿度85%の環境下に100時間放置した後のEL発光の様子を示した図である。
図4】実施例3で作製した有機電界発光素子1を相対湿度85%の環境下に100時間放置した後のEL発光の様子を示した図である。
図5】比較例1で作製した有機電界発光素子1を相対湿度85%の環境下に100時間放置した後のEL発光の様子を示した図である。
図6】比較例2で作製した有機電界発光素子1を相対湿度85%の環境下に100時間放置した後のEL発光の様子を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0018】
本発明の有機電界発光素子は、基板上に隣接して形成された厚さ210nm~30μmの有機材料及び/又は無機材料の塗膜層を有し、該塗膜層の上に下部電極を有することを特徴とする。
有機電界発光素子の基板としては通常、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、シクロオレフィンポリマー等により形成される基材上に封止のためのバリア層を形成したものが使用される。このような基板は、バリア層表面に微細な不純物が付着することが避けられず、いったん不純物が付着すると樹脂層であるバリア層表面から不純物を完全に除去することは極めて難しい。このような不純物が付着した基板上に直接下部電極を蒸着により形成すると電極層内にピンホールが発生し、これが素子の大気安定性を低下させる原因となる。これに対し、基板上に厚さ210nm以上の有機材料及び/又は無機材料の塗膜層を形成することで下部電極を形成する面を平坦化することができ、そのような平坦化した面上に下部電極を形成することで、電極層内のピンホールの発生を抑制することができる。一方で、塗膜層は水分を吸収するおそれがあり、水分は素子の寿命を低下させる要因になる。本発明者は、これらについて種々検討し、塗膜層の厚みを210nm~30μmとすることで塗膜層の吸湿の影響を抑えつつ、電極層内のピンホールの発生を抑え、素子の大気安定性を向上させることが可能となることを見出したものである。
また後述するように、塗膜層の材料として基板よりもガラス転移温度の高い有機材料を用いてこのような厚みの塗膜層を形成した場合には、塗膜層の吸湿の影響を抑えつつ、基板の熱物性を改善する効果も得ることができる。
【0019】
上記基板上に隣接して形成される塗膜層は、1層からなるものであってもよく、2層以上からなるものであってもよい。2層以上からなるものである場合、全ての層の合計の厚さが210nm~30μmであればよい。
また塗膜層の厚さは210nm~30μmであればよいが、300nm~20μmであることが好ましい。より好ましくは、500nm~5μmである。
塗膜層の厚さは触針式段差計により測定することができる。
【0020】
上記基板上に隣接して形成される塗膜層は、有機材料及び/又は無機材料によって形成される。
有機材料としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、アミノアルキド樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、低温かつ短時間での硬化が可能な光硬化性樹脂が好ましく、光硬化型エポキシ樹脂、光硬化型アクリル樹脂が好ましい。
また無機材料としては、マグネシウムアセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸アルミニウム等の有機金属塩溶液や、ゾルゲル法によって製膜された酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化インジウムスズ、酸化スズアンチモン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができ、また、有機物との混合物を用いることができる。
【0021】
上記塗膜層は、有機材料の塗膜層であってもよく、無機材料の塗膜層であってもよく、これら両方を用いた塗膜層であってもよいが、有機材料の塗膜層であることが好ましい。
有機材料を用いると、比較的膜厚の厚い塗膜層を形成することが容易であり、基板上の不純物の影響をより十分に排除した表面の平坦な塗膜層を形成することができる。
【0022】
上記有機材料は、ガラス転移温度(Tg)が基板よりも高いものであることが好ましい。ガラス転移温度が基板よりも高い有機材料を用いて基板上に厚みが210nm以上の塗膜層を形成することで、Tgが低い基板を用いた場合であっても塗膜層が基板の熱物性を補うことができ、基板の熱物性を改善することが可能となる。
このような基板の熱物性を改善する効果は、有機材料が基板よりもTgが高い材料であれば得ることができるが、有機材料は基板よりもTgが5℃以上高いものであることが好ましい。より好ましくは、基板よりもTgが10℃以上高いものであり、更に好ましくは、基板よりもTgが20℃以上高いものである。
また有機材料のTgは、100℃以上であることが好ましい。より好ましくは、110℃以上であり、更に好ましくは、120℃以上である。
なお、このような基板の熱物性を改善する効果を得るためには、有機材料により形成される膜は必ずしも塗膜である必要はない。このため、基板の熱物性の改善のみを目的にする場合には、基板上に隣接して形成される膜は塗布により形成されたものである必要はなく、蒸着等の他の方法で形成された膜であってもよい。
有機材料のガラス転移温度は、示差熱分析機により測定することができる。
【0023】
本発明の有機電界発光素子は、塗膜層に隣接して下部電極が形成されたものであってもよく、塗膜層と下部電極の間に他の層が形成されていてもよい。
他の層としては、酸化物層が挙げられ、塗膜層と下部電極との間に酸化物層を有することは本発明の有機電界発光素子の好適な実施形態の1つである。
塗膜層と下部電極との間に酸化物層を形成すると、塗膜層上に直接下部電極を蒸着により形成した場合に比べて下部電極の密着性を向上させることができる。
【0024】
上記酸化物層を形成する酸化物としては、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化インジウムスズ、酸化スズアンチモン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、インジウムドープ酸化亜鉛、フッ素ドープ酸化インジウム等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0025】
上記酸化物層の厚みは特に制限されないが、1~1000nmであることが好ましい。より好ましくは、5~500nmであり、更に好ましくは、10~100nmである。
酸化物層の厚みは触針式段差計により測定することができる。
【0026】
以下においては本発明の有機電界発光素子の下部電極と上部電極の間の構成について説明する。
本発明の有機電界発光素子の構成は特に制限されないが、陰極、電子注入層及び/又は電子輸送層、発光層、正孔輸送層及び/又は正孔注入層、陽極の各層をこの順に隣接して有する素子であることが好ましい。なお、これらの各層は、1層からなるものであってもよく、2層以上からなるものであってもよい。
上記構成の有機電界素子において、素子が電子注入層、電子輸送層のいずれか一方のみを有する場合には、当該一方の層が陰極と発光層とに隣接して積層されることになり、素子が電子注入層と電子輸送層の両方を有する場合には、陰極、電子注入層、電子輸送層、発光層の順にこれらの層が隣接して積層されることになる。また、素子が正孔輸送層、正孔注入層のいずれか一方のみを有する場合には、当該一方の層が発光層と陽極とに隣接して積層されることになり、素子が正孔輸送層と正孔注入層の両方を有する場合には、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順にこれらの層が隣接して積層されることになる。
【0027】
上記有機電界発光素子は、下部電極が陽極であり、上部電極が陰極である順構造の素子であってもよく、下部電極が陰極であり、上部電極が陽極である逆構造の素子であってもよいが、逆構造の素子は、順構造の素子に比べて大気安定性が高いため、本発明の有機電界発光素子は逆構造の素子であることが好ましい。これにより本発明の有機電界発光素子をより大気安定性の高いものとすることができる。
【0028】
本発明の有機電界発光素子は、更に陰極と陽極との間に金属酸化物層を有する有機無機ハイブリッド型の有機電界発光素子であることが好ましい。金属酸化物を素子の材料として用いることで、より水蒸気への耐性の高い有機電界発光素子とすることができる。
本発明における有機電界発光素子は、陽極と陰極との間に金属酸化物層を有する有機無機ハイブリッド型の有機電界発光素子であって、陰極と発光層との間に、電子注入層と、必要に応じて電子輸送層とを有し、陽極と発光層との間に正孔輸送層及び/又は正孔注入層を有する構成の素子であることが好ましい。本発明における有機電界発光素子は、これらの各層の間に他の層を有していてもよいが、これらの各層のみから構成される素子であることが好ましい。すなわち、陰極、電子注入層、必要に応じて電子輸送層、発光層、正孔輸送層及び/又は正孔注入層、陽極の各層がこの順に隣接して積層された素子であることが好ましい。なお、これらの各層は、1層からなるものであってもよく、2層以上からなるものであってもよい。
【0029】
本発明の有機電界発光素子において、発光層を形成する材料としては、発光層の材料として通常用いることができるいずれの化合物も用いることができ、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよく、これらを混合して用いてもよい。
なお、本発明において低分子材料とは、高分子材料(重合体)ではない材料を意味し、分子量が低い有機化合物を必ずしも意味するものではない。
【0030】
上記発光層を形成する高分子材料としては、例えば、トランス型ポリアセチレン、シス型ポリアセチレン、ポリ(ジ-フェニルアセチレン)(PDPA)、ポリ(アルキル,フェニルアセチレン)(PAPA)のようなポリアセチレン系化合物;ポリ(パラ-フェニレンビニレン)(PPV)、ポリ(2,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレンビニレン)(RO-PPV)、シアノ-置換-ポリ(パラ-フェニレンビニレン)(CN-PPV)、ポリ(2-ジメチルオクチルシリル-パラ-フェニレンビニレン)(DMOS-PPV)、ポリ(2-メトキシ,5-(2’-エチルヘキソキシ)-パラ-フェニレンビニレン)(MEH-PPV)のようなポリパラフェニレンビニレン系化合物;ポリ(3-アルキルチオフェン)(PAT)、ポリ(オキシプロピレン)トリオール(POPT)のようなポリチオフェン系化合物;ポリ(9,9-ジアルキルフルオレン)(PDAF)、ポリ(ジオクチルフルオレン-アルト-ベンゾチアジアゾール)(F8BT)、α,ω-ビス[N,N’-ジ(メチルフェニル)アミノフェニル]-ポリ[9,9-ビス(2-エチルヘキシル)フルオレン-2,7-ジル](PF2/6am4)、ポリ(9,9-ジオクチル-2,7-ジビニレンフルオレニル-オルト-コ(アントラセン-9,10-ジイル)のようなポリフルオレン系化合物;ポリ(パラ-フェニレン)(PPP)、ポリ(1,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレン)(RO-PPP)のようなポリパラフェニレン系化合物;ポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVK)のようなポリカルバゾール系化合物;ポリ(メチルフェニルシラン)(PMPS)、ポリ(ナフチルフェニルシラン)(PNPS)、ポリ(ビフェニリルフェニルシラン)(PBPS)のようなポリシラン系化合物;更には特願2010-230995、特願2011-6457に記載のホウ素化合物系高分子材料等が挙げられる。
【0031】
上記発光層を形成する低分子材料としては、例えば、配位子に2,2’-ビピリジン-4,4’-ジカルボン酸を持つ、3配位のイリジウム錯体、ファクトリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy))、8-ヒドロキシキノリン アルミニウム(Alq)、トリス(4-メチル-8キノリノレート) アルミニウム(III)(Almq)、8-ヒドロキシキノリン 亜鉛(Znq)、(1,10-フェナントロリン)-トリス-(4,4,4-トリフルオロ-1-(2-チエニル)-ブタン-1,3-ジオネート)ユーロピウム(III)(Eu(TTA)(phen))、2,3,7,8,12,13,17,18-オクタエチル-21H,23H-ポルフィン プラチナム(II)のような各種金属錯体;ジスチリルベンゼン(DSB)、ジアミノジスチリルベンゼン(DADSB)のようなベンゼン系化合物;ナフタレン、ナイルレッドのようなナフタレン系化合物;フェナントレンのようなフェナントレン系化合物;クリセン、6-ニトロクリセンのようなクリセン系化合物;ペリレン、N,N’-ビス(2,5-ジ-t-ブチルフェニル)-3,4,9,10-ペリレン-ジ-カルボキシイミド(BPPC)のようなペリレン系化合物;コロネンのようなコロネン系化合物;アントラセン、ビススチリルアントラセンのようなアントラセン系化合物;ピレンのようなピレン系化合物;4-(ジ-シアノメチレン)-2-メチル-6-(パラ-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(DCM)のようなピラン系化合物;アクリジンのようなアクリジン系化合物;スチルベンのようなスチルベン系化合物;2,5-ジベンゾオキサゾールチオフェンのようなチオフェン系化合物;ベンゾオキサゾールのようなベンゾオキサゾール系化合物;ベンゾイミダゾールのようなベンゾイミダゾール系化合物;2,2’-(パラ-フェニレンジビニレン)-ビスベンゾチアゾールのようなベンゾチアゾール系化合物;ビスチリル(1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン)、テトラフェニルブタジエンのようなブタジエン系化合物;ナフタルイミドのようなナフタルイミド系化合物;クマリンのようなクマリン系化合物;ペリノンのようなペリノン系化合物;オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物;アルダジン系化合物;1,2,3,4,5-ペンタフェニル-1,3-シクロペンタジエン(PPCP)のようなシクロペンタジエン系化合物;キナクリドン、キナクリドンレッドのようなキナクリドン系化合物;ピロロピリジン、チアジアゾロピリジンのようなピリジン系化合物;2,2’,7,7’-テトラフェニル-9,9’-スピロビフルオレンのようなスピロ化合物;フタロシアニン(HPc)、銅フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物;更には特開2009-155325号公報および特願2010-230995、特願2011-6458に記載のホウ素化合物材料等が挙げられる。また、ケミプロ化成社の製品であるKHLHS-04、KHLDR-03等も用いることができる。
【0032】
上記発光層の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましい。より好ましくは、20~100nmであり、更に好ましくは、40~100nmである。
発光層の平均厚さは、低分子化合物の場合は水晶振動子膜厚計により、高分子化合物の場合は接触式段差計により測定することができる。
【0033】
本発明の有機電界発光素子が、電子輸送層を有する場合、その材料としては、電子輸送層の材料として通常用いることができるいずれの化合物も用いるができ、これらを混合して用いてもよい。
電子輸送層の材料として用いることができる化合物の例としては、トリス-1,3,5-(3’-(ピリジン-3’’-イル)フェニル)ベンゼン(TmPyPhB)のようなピリジン誘導体、(2-(3-(9-カルバゾリル)フェニル)キノリン(mCQ))のようなキノリン誘導体、2-フェニル-4,6-ビス(3,5-ジピリジルフェニル)ピリミジン(BPyPPM)のようなピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、バソフェナントロリン(BPhen)のようなフェナントロリン誘導体、2,4-ビス(4-ビフェニル)-6-(4’-(2-ピリジニル)-4-ビフェニル)-[1,3,5]トリアジン(MPT)のようなトリアジン誘導体、3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール(TAZ)のようなトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル-1,3,4-オキサジアゾール)(PBD)のようなオキサジアゾール誘導体、2,2’,2’’-(1,3,5-ベンゼントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)(TPBI)のようなイミダゾール誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、ビス[2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(Zn(BTZ))、トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)などに代表される各種金属錯体、2,5-ビス(6’-(2’,2’’-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール誘導体に代表される有機シラン誘導体等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
これらの中でも、Alqのような金属錯体、TmPyPhBのようなピリジン誘導体が好ましい。
【0034】
上記電子注入層としては、窒素含有化合物から形成される窒素含有膜からなる層を用いることができる。
窒素含有膜からなる層を形成する窒素含有化合物としては、例えば、ポリビニルピロリドンのようなピロリドン類、ポリピロールのようなピロール類又はポリアニリンのようなアニリン類、又はポリビニルピリジンのようなピリジン類、同様に、ピロリジン類、イミダゾール類、ピペリジン類、ピリミジン類、トリアジン類などの含窒素複素環を有する化合物や、アミン化合物が挙げられる。
【0035】
上記窒素含有化合物としてはまた、窒素含有率の高い化合物が好ましく、ポリアミン類が好ましい。ポリアミン類は、化合物を構成する全原子数に対する窒素原子数の比率が高いため、有機電界発光素子を高い電子注入性と駆動安定性を有するものとする点から適している。
ポリアミン類としては、塗布により層を形成することができるものが好ましく、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。低分子化合物としては、ジエチレントリアミン、ペンタメチルジエチレントリアミンのようなポリアルキレンポリアミンが好適に用いられ、高分子化合物では、ポリアルキレンイミン構造を有する重合体が好適に用いられる。特にポリエチレンイミンが好ましい。中でも、窒素含有化合物が、ポリエチレンイミン又はジエチレントリアミンであることは本発明の好適な実施形態の1つである。
なお、ここで低分子化合物とは、高分子化合物(重合体)ではない化合物を意味し、分子量の低い化合物を必ずしも意味するものではない。
【0036】
上記窒素含有膜の平均厚さは、特に限定されないが、0.5~10nmであることが好ましい。より好ましくは、1~5nmであり、更に好ましくは、1~3nmである。
電子注入層の平均厚さは、低分子化合物の場合は水晶振動子膜厚計により測定することができる。
【0037】
本発明の有機電界発光素子が、正孔輸送層を有する場合、正孔輸送層として用いる正孔輸送性有機材料には、各種p型の高分子材料や、各種p型の低分子材料を単独または組み合わせて用いることができる。
p型の高分子材料(有機ポリマー)としては、例えば、ポリアリールアミン、フルオレン-アリールアミン共重合体、フルオレン-ビチオフェン共重合体、ポリ(N-ビニルカルバゾール)、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリヘキシルチオフェン、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリチニレンビニレン、ピレンホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂またはその誘導体等が挙げられる。
またこれらの化合物は、他の化合物との混合物として用いることもできる。一例として、ポリチオフェンを含有する混合物としては、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン/スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)等が挙げられる。
【0038】
上記p型の低分子材料としては、例えば、1,1-ビス(4-ジ-パラ-トリアミノフェニル)シクロへキサン、1,1’-ビス(4-ジ-パラ-トリルアミノフェニル)-4-フェニル-シクロヘキサンのようなアリールシクロアルカン系化合物、4,4’,4’’-トリメチルトリフェニルアミン、N,N,N’,N’-テトラフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD1)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD2)、N,N,N’,N’-テトラキス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD3)、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)、TPTEのようなアリールアミン系化合物、N,N,N’,N’-テトラフェニル-パラ-フェニレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラ(パラ-トリル)-パラ-フェニレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラ(メタ-トリル)-メタ-フェニレンジアミン(PDA)のようなフェニレンジアミン系化合物、カルバゾール、N-イソプロピルカルバゾール、N-フェニルカルバゾールのようなカルバゾール系化合物、スチルベン、4-ジ-パラ-トリルアミノスチルベンのようなスチルベン系化合物、OZのようなオキサゾール系化合物、トリフェニルメタン、m-MTDATAのようなトリフェニルメタン系化合物、1-フェニル-3-(パラ-ジメチルアミノフェニル)ピラゾリンのようなピラゾリン系化合物、ベンジン(シクロヘキサジエン)系化合物、トリアゾールのようなトリアゾール系化合物、イミダゾールのようなイミダゾール系化合物、1,3,4-オキサジアゾール、2,5-ジ(4-ジメチルアミノフェニル)-1,3,4-オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物、アントラセン、9-(4-ジエチルアミノスチリル)アントラセンのようなアントラセン系化合物、フルオレノン、2,4,7-トリニトロ-9-フルオレノン、2,7-ビス(2-ヒドロキシ-3-(2-クロロフェニルカルバモイル)-1-ナフチルアゾ)フルオレノンのようなフルオレノン系化合物、ポリアニリンのようなアニリン系化合物、シラン系化合物、1,4-ジチオケト-3,6-ジフェニル-ピロロ-(3,4-c)ピロロピロールのようなピロール系化合物、フローレンのようなフローレン系化合物、ポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリンのようなポルフィリン系化合物、キナクリドンのようなキナクリドン系化合物、フタロシアニン、銅フタロシアニン、テトラ(t-ブチル)銅フタロシアニン、鉄フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物、銅ナフタロシアニン、バナジルナフタロシアニン、モノクロロガリウムナフタロシアニンのような金属または無金属のナフタロシアニン系化合物、N,N’-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ジフェニル-ベンジジン、N,N,N’,N’-テトラフェニルベンジジンのようなベンジジン系化合物等が挙げられる。
【0039】
本発明の有機電界発光素子が、電子輸送層や正孔輸送層を有する場合、これらの層の平均厚さは、特に限定されないが、5~200nmであることが好ましい。より好ましくは、10~100nmであり、更に好ましくは、15~50nmである。
電子輸送層や正孔輸送層の平均厚さは、低分子化合物の場合は水晶振動子膜厚計により、高分子化合物の場合は接触式段差計により測定することができる。
【0040】
本発明の有機電界発光素子が金属酸化物層を有する場合、陰極から発光層までの間、陽極から発光層までの間のいずれか又は両方に金属酸化物層を有することになるが、陰極から発光層までの間との発光層から陽極までの間の両方に金属酸化物層を有することが好ましい。陰極から発光層までの間の金属酸化物層を第1の金属酸化物層、陽極から発光層までの間の金属酸化物層を第2の金属酸化物層とすると、第1の金属酸化物層は電子注入層、第2の金属酸化物層は正孔注入層として用いられることが好ましい。本発明における有機電界発光素子の好ましい素子の構成の一例を表すと、陰極、第1の金属酸化物層、窒素含有膜からなる層、発光層、正孔輸送層、第2の金属酸化物層、陽極がこの順に隣接して積層された構成である。なお、窒素含有膜からなる層と、発光層との間に必要に応じて電子輸送層を有していてもよい。金属酸化物層の重要性は、第1の金属酸化物層の方が高く、第2の金属酸化物層は、最低非占有分子軌道の極端に深い有機材料、例えば、HATCNでも置き換える事ができる。
【0041】
上記第1の金属酸化物層は、単体の金属酸化物膜の一層からなる層、もしくは、単体又は二種類以上の金属酸化物を積層及び/又は混合した層である半導体もしくは絶縁体積層薄膜の層である。金属酸化物を構成する金属元素としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、インジウム、ガリウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、ケイ素からなる群から選ばれる。これらのうち、積層又は混合金属酸化物層を構成する金属元素の少なくとも一つが、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、チタン、亜鉛からなる層であることが好ましく、その中でも単体の金属酸化物ならば、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛からなる群から選ばれる金属酸化物を含むことが好ましい。
【0042】
上記単体又は二種類以上の金属酸化物を積層及び/又は混合した層の例としては、酸化チタン/酸化亜鉛、酸化チタン/酸化マグネシウム、酸化チタン/酸化ジルコニウム、酸化チタン/酸化アルミニウム、酸化チタン/酸化ハフニウム、酸化チタン/酸化ケイ素、酸化亜鉛/酸化マグネシウム、酸化亜鉛/酸化ジルコニウム、酸化亜鉛/酸化ハフニウム、酸化亜鉛/酸化ケイ素、酸化カルシウム/酸化アルミニウムなどの金属酸化物の組合せを積層及び/又は混合したものや、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化マグネシウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化ジルコニウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化アルミニウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化ハフニウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化ケイ素、酸化インジウム/酸化ガリウム/酸化亜鉛などの三種の金属酸化物の組合せを積層及び/又は混合したものなどが挙げられる。これらの中には、特殊な組成として良好な特性を示す酸化物半導体であるIGZOやエレクトライドである12CaO・7Alも含まれる。
これら第1の金属酸化物層は、電子注入層ともいえ、また、電極(陰極)ともいえる。
なお、本発明においては、シート抵抗が100Ω/□より低い物は導電体、シート抵抗が100Ω/□より高い物は半導体または絶縁体として分類される。従って、透明電極として知られているITO(錫ドープ酸化インジウム)、ATO(アンチモンドープ酸化インジウム)、IZO(インジウムドープ酸化亜鉛)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、FTO(フッ素ドープ酸化インジウム)等の薄膜は、導電性が高く半導体または絶縁体の範疇に含まれないことから上記第1の金属酸化物層を構成する一層に該当しない。
【0043】
また上記第1の金属酸化物層は、金属酸化物の層を含む限り、金属酸化物の層と金属単体の層とが積層したものであってもよい。
金属酸化物を構成する元素は上記のとおりである。
金属単体の層の材料となる金属としては、銀、パラジウム等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0044】
上記第1の金属酸化物層が、金属酸化物の層と金属単体の層とが積層したものである場合、金属酸化物の層と金属単体の層とが交互に積層したものであることが好ましい。この場合、金属酸化物の層と金属単体の層の数は、金属酸化物の層が2層であり、金属単体の層が1層であることが好ましい。すなわち、1つの金属単体の層が2つの金属酸化物の層に挟まれた構造が好ましい。
【0045】
上記第2の金属酸化物層を形成する金属酸化物としては、特に制限されないが、酸化バナジウム(V)、酸化モリブテン(MoO)、酸化タングステン(WO)、酸化ルテニウム(RuO)等の1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、酸化バナジウム又は酸化モリブテンを主成分とするものが好ましい。第2の金属酸化物層が酸化バナジウム又は酸化モリブテンを主成分とするものにより構成されると、第2の金属酸化物層が陽極から正孔を注入して発光層又は正孔輸送層へ輸送するという正孔注入層としての機能により優れたものとなる。また、酸化バナジウム又は酸化モリブテンは、それ自体の正孔輸送性が高いため、陽極から発光層又は正孔輸送層への正孔の注入効率が低下するのを好適に防止することもできるという利点がある。より好ましくは、酸化バナジウム及び/又は酸化モリブテンから構成されるものである。
【0046】
上記第1の金属酸化物層の平均厚さは、1nmから数μm程度まで許容できるが、低電圧で駆動できる有機電界発光素子とする点から、1~1000nmであることが好ましい。より好ましくは、2~100nmである。
上記第2の金属酸化物層の平均厚さは、特に限定されないが、1~1000nmであることが好ましい。より好ましくは、5~50nmである。
第1の金属酸化物層の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定することができる。
第2の金属酸化物層の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により成膜時に測定することができる。
【0047】
本発明の有機電界発光素子において、陽極及び陰極としては、公知の導電性材料を適宜用いることができるが、光取り出しのために少なくともいずれか一方は透明であることが好ましい。公知の透明導電性材料の例としてはITO(錫ドープ酸化インジウム)、ATO(アンチモンドープ酸化インジウム)、IZO(インジウムドープ酸化亜鉛)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、FTO(フッ素ドープ酸化インジウム)などが上げられる。不透明な導電性材料の例としては、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、錫、インジウム、銅、銀、金、白金やこれらの合金などが挙げられる。
陰極としては、この中でも、ITO、IZO、FTOが好ましい。
陽極としては、これらの中でも、Au、Ag、Alが好ましい。
上記のように、一般に陽極に用いられる金属を陰極及び陽極に用いる事ができる事から、上部電極からの光の取り出しを想定する場合(トップエミッション構造の場合)も容易に実現でき、上記電極を種々選んでそれぞれの電極に用いる事ができる。例えば、下部電極としてAl、上部電極にITOなどである。
【0048】
上記陰極の平均厚さは、特に制限されないが、10~500nmであることが好ましい。より好ましくは、100~200nmである。陰極の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定することができる。
上記陽極の平均厚さは、特に限定されないが、10~1000nmであることが好ましい。より好ましくは、30~150nmである。また、不透過な材料を用いる場合でも、例えば平均厚さを10~30nm程度にすることで、トップエミッション型及び透明型の陽極として使用することができる。
陽極の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により成膜時に測定することができる。
【0049】
本発明における有機電界発光素子において、基板上に隣接して形成される有機材料及び/又は無機材料の塗膜層や、その他の有機化合物から形成される層の成膜方法は特に限定されず、材料の特性に合わせて種々の方法を適宜用いることができるが、溶液にして塗布できる場合はスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、スリットコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いて成膜することができる。このうち、膜厚をより制御しやすいという点でスピンコート法やスリットコート法が好ましい。塗布しない場合や溶媒溶解性が低い場合は真空蒸着法や、ESDUS(Evaporative Spray Deposition from Ultra-dilute Solution)法などが好適な例として挙げられる。
基板上に厚さ210nm~30μmの有機材料及び/又は無機材料の塗膜層を形成する場合にも、これらの方法を用いることができる。
【0050】
上記有機化合物から形成される層、有機材料及び/又は無機材料の塗膜層を材料の溶液、又は、分散液を塗布して形成する場合、溶液や分散液を調製するために用いる溶媒としては、例えば、硝酸、硫酸、アンモニア、過酸化水素、水、二硫化炭素、四塩化炭素、エチレンカーボネイト等の無機溶媒や、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、グリセリン等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、ジエチレングリコールエチルエーテル(カルビトール)等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化合物系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸エチル等のエステル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル等のニトリル系溶媒、ギ酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸系溶媒のような各種有機溶媒、または、これらを含む混合溶媒等が挙げられる。
これらの中でも、溶媒としては、非極性溶媒が好適であり、例えば、キシレン、トルエン、シクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒等が挙げられ、これらを単独または混合して用いることができる。
【0051】
上記陰極、陽極、及び、酸化物層は、スパッタ法、真空蒸着法、ゾルゲル法、スプレー熱分解(SPD)法、原子層堆積(ALD)法、気相成膜法、液相成膜法等により形成することができる。陽極、陰極の形成には、金属箔の接合も用いることができる。これらの方法は各層の材料の特性に応じて選択するのが好ましく、層ごとに作製方法が異なっていても良い。第2の金属酸化物層は、これらの中でも、気相製膜法を用いて形成するのがより好ましい。気相製膜法によれば、有機化合物層の表面を壊すことなく清浄にかつ陽極と接触よく形成することができ、その結果、上述したような第2の金属酸化物層を有することによる効果がより顕著なものとなる。
【0052】
上記有機電界発光素子の特性をさらに向上させる等の理由から、必要に応じて例えば正孔阻止層、電子阻止層などを有していてもよい。これらの層を形成するための材料としては、これらの層を形成するために通常用いられる材料を用い、また、これらの層を形成するために通常用いられる方法により層を形成することができる。
【0053】
また、積層構造の最後の電極を形成した後に、表面を保護するパッシベーション層をその上に形成してもよい。パッシベーション層の材料としてはこれらの層を形成するために通常用いられる材料を用いることができる。例えば、上述した正孔輸送層の材料及び/又は金属酸化物層の材料を用いることができるが、絶縁を保持できる組み合わせであればこれに限らない。
【0054】
上記パッシベーション層の平均厚さは、特に制限されないが、20~300nmであることが好ましい。より好ましくは、50~200nmである。
パッシベーション層の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により成膜時に測定することができる。
【0055】
本発明の有機電界発光素子の基板としては、基材上に封止のためのバリア層を形成したもの等を用いることができる。
上記基材の材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレートのような樹脂材料が挙げられる。
基材上にバリア層を形成するための材料としては、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化チタン、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、ポリシラザン、パリレン等が挙げられる。
【0056】
上記基板の平均厚さは、10~150μmであることが好ましい。より好ましくは、10~50μmである。
基板の平均厚さはデジタルノギスにより測定することができる。
【0057】
上記有機電界発光素子は、パッシベーション層の上に更に封止層を有していてもよい。封止層を形成する材料としては上記基板の材料と同様のものを用いることができ、封止層の厚みも上記基板の厚みと同様であることが好ましい。
【0058】
本発明の有機電界発光素子に封止を施す場合、封止工程としては、通常の方法を適宜使用できる。例えば、不活性ガス中で封止容器を接着する方法や、有機電界発光素子の上に直接封止膜を形成する方法などが挙げられる。これらに加えて、水分吸収材を封入する方法を併用してもよい。
上述した逆構造の有機電界発光素子は、順構造の有機電界発光素子に比べると厳密な封止は必要ないが、必要であれば封止を施しても良い。
【0059】
上記有機電界発光素子は、基板がある側とは反対側に光を取り出すトップエミッション型のものであってもよく、基板がある側に光を取り出すボトムエミッション型のものであってもよい。
【0060】
本発明の有機電界発光素子は、基材と下部電極との間に所定の厚さの有機材料及び/又は無機材料の塗膜層を有することで大気安定性が向上した素子であり、表示装置や照明装置の材料として好適に用いることができる。
このような、本発明の有機電界発光素子を用いて形成される表示装置や照明装置もまた、本発明の1つである。
【実施例0061】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0062】
1.有機電界発光素子の作製
(実施例1)
以下に示す方法により、図1の構成を持つ有機電界発光素子1を製造した。
[工程1]
基板1として、尾池工業社から購入した厚さ25μmのバリア層付PETフィルム上を用い、その上に日本化薬社製のSU-8をスピンコートにより塗布し、130℃に加熱されたホットプレート上でベークして厚さ250nmの塗膜層2を形成した。
[工程2]
塗膜層を形成した基板1をスパッタリング装置にセットし、塗膜層上に、亜鉛金属をターゲットとし、反応ガスとして酸素をキャリアガスとしてアルゴンを用いたスパッタ法により、平均厚さ20nmの酸化亜鉛(ZnO)層を形成した。その後、真空蒸着装置にセットし、平均厚さ8nmの銀層を形成した。その後、再びスパッタリング装置にセットし、平均厚さ2nmの酸化亜鉛層を形成した。その後、基板1を大気下に移し、ホットプレートにより100℃30分アニールを行った。これらにより、塗膜層2上に酸化物層3、透明電極4、酸化物層5を形成した。
[工程3]
次に、日本触媒社製ポリエチレンイミンを酸化物層5の上にスピンコートにより塗布し、電子注入層6を形成した。電子注入層6の平均厚さは、2nmであった。
[工程4]
次に、電子注入層6までの各層が形成された基板1を、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。また、ケミプロ化成社より購入したKHLHS-04、KHLDR-03、下記式(1)で示されるN,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)をそれぞれアルミナルツボに入れて蒸着源にセットした。そして、真空蒸着装置内を約1×10-5Paの圧力となるまで減圧して、KHLHS-04を10nm蒸着し、電子輸送層7を形成した。次にKHLHS-04、α-NPDをホスト材料、KHLDR-03を発光ドーパントとして15nm共蒸着し、発光層8を成膜した。次に、α-NPDを40nm蒸着することにより、正孔輸送層9を成膜した。さらに、三酸化モリブデンMoOを真空一貫で蒸着することにより成膜し、膜厚が10nmの正孔注入層10を形成した。
[工程5]
次に、正孔注入層10まで形成した基板1上に、アルミニウム(陽極11)を膜厚が70nmとなるように蒸着した。
[工程6]
次に、陽極11まで形成した基板1上にα-NPDを100nm蒸着し、続いてスパッタリング装置で酸化亜鉛を20nm成膜することで、パッシベーション層12を得た。
[工程7]
次にパッシベーション層12まで形成した基板1をグローブボックスに輸送し、基板1上にスリーボンド社製TB1655、尾池工業社から購入した厚さ25μmのバリア層付PETフィルムをそれぞれ積層し、90℃に加熱されたホットプレート上で1時間アニールすることにより、封止層13を形成し、本発明の実施例である「素子1」を得た。
ミツトヨ社製デジマチックインジケーター、ID-C112ABにより得られた素子1の厚みを測定したところ、総膜厚は72μmであった。
【0063】
(実施例2)
実施例1の[工程1]において、バリア層付PETフィルム上に形成した塗膜層2の厚みを27μmに変更した以外は実施例1と同様にして本発明の実施例である「素子2」を得た。
【0064】
(実施例3)
実施例1の[工程1]において、バリア層付PETフィルム上に形成した塗膜層2を日本化薬社製のSU-8から、シグマアルドリッチより購入した酢酸亜鉛水和物、モノエタノールアミン、2-メトキシエタノールの混合物に変更し、厚みを220nmに変更したこと以外は実施例1と同様にして本発明の実施例である「素子3」を得た。
【0065】
(比較例1)
実施例1の[工程1]において、バリア層付PETフィルム上に形成した塗膜層2の厚みを35μmに変更した以外は実施例1と同様にして本発明の比較例である「比較素子1」を得た。
【0066】
(比較例2)
実施例1の[工程1]において、バリア層付PETフィルム上に形成した塗膜層2の厚みを150nmに変更した以外は実施例1と同様にして本発明の比較例である「比較素子2」を得た。
【0067】
2.有機電界発光素子の発光観察
実施例1~3、比較例1、2で作製した素子1~3、比較素子1、2について、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」により、素子に-3Vの電圧印加を行い、リーク電流を測定した。続いて素子を温度85℃、相対湿度85%の環境下に100時間放置した後、EL発光の様子を撮影した。素子1~3、比較素子1、2の結果をそれぞれ表1、図2~6に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
以上に示すように、素子1、素子2、素子3はリーク電流が低く、基板1上の異物・欠陥を覆い、平坦化できていることがわかる。また、温度85℃、相対湿度85%環境下に保管しても発光面に劣化がなく、大気安定性が高いことがわかる。一方、比較素子1はリーク電流が低く、基板は平坦化できているが、塗布層2が厚すぎるため、大気安定性が低い。比較素子2はリーク電流が大きく、大気安定性も低いことがわかる。
これらの結果から基板上に隣接して所定の厚さの塗膜層を形成することで大気安定性の高い有機電界発光素子となることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6