(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018916
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】非接触で破損監視および/または摩耗監視する装置並びに方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/09 20060101AFI20250130BHJP
【FI】
B23Q17/09 C
B23Q17/09 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024074674
(22)【出願日】2024-05-02
(31)【優先権主張番号】10 2023 207 162.2
(32)【優先日】2023-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】390014281
【氏名又は名称】ドクトル・ヨハネス・ハイデンハイン・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】DR. JOHANNES HEIDENHAIN GESELLSCHAFT MIT BESCHRANKTER HAFTUNG
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス・シュナイダー
(72)【発明者】
【氏名】マルティン・ホイマン
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・フーバー
【テーマコード(参考)】
3C029
【Fターム(参考)】
3C029DD01
3C029DD04
3C029DD08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、工作機械を非接触で破損監視および追加的にまたは代替的に非接触で摩耗監視する装置並びに方法に関する。
【解決手段】装置は、センサおよび少なくとも1つの磁場発生器を備える。装置は、センサを用いて定義された測定距離において磁束密度の局所的な変化を測定し、かつ電子的な評価ユニットを用いて測定信号を評価する。センサは、1つの空間方向におけるそのセンサの最長寸法が最大でも500μm以下であり、その際、センサ(2)によって少なくとも1つの空間方向で磁場が測定可能であるように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサ(2)および少なくとも1つの磁場発生器(3)を備える、工作機械内における強磁性の工具(4)を非接触で破損監視および/または摩耗監視する装置(1)において、
当該装置(1)は、測定距離(d)において、磁束密度(B)の局所的な変化を、センサ(2)を用いて測定でき、かつ電子的な評価ユニットを用いて評価でき、
前記センサ(2)は、
・1つの空間方向(x、y、z)におけるそのセンサの最長寸法が最大でも500μm以下であり、かつ
・当該センサ(2)によって少なくとも1つの空間方向(x、y、z)で磁場が測定可能である、
ように構成されている、装置(1)。
【請求項2】
少なくとも1つの磁場発生器(3)および前記センサ(2)が、前記強磁性の工具(4)の長手方向軸線に対して平行または直交して延在する直線に沿って配置されている、請求項1に記載の装置(1)。
【請求項3】
前記装置(1)がハウジング(5)をさらに備え、前記センサ(2)および少なくとも1つの磁場発生器(3)は、その磁場発生器のバイアス磁場がセンサ(2)を通り、かつ強磁性の工具(4)内に印加できるように、ハウジング(5)内に配置されている、請求項1または2に記載の装置(1)。
【請求項4】
前記センサ(2)が、少なくとも1つのホール素子(2.1)および/または少なくとも1つのTMR素子(2.1’)を備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項5】
前記センサ(2)は、前記磁束密度(B)を測定することに加えて、少なくとも1つの別の物理量を検出できる、請求項1~4のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項6】
前記装置(1)が、圧縮空気および/または交流磁場を用いて、前記装置(1)および/または前記強磁性の工具(4)の汚染を除去するために構成されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項7】
点状で測定するセンサ(2)および少なくとも1つの磁場発生器(3)を備える装置(1)によって、工作機械内における強磁性の工具(4)を非接触で破損監視および/または摩耗監視する方法であって、
当該方法は、以下のステップ、
・前記強磁性の工具(4)と前記装置(1)とが相対的に接近するステップ、
・バイアス磁場を前記強磁性の工具(4)に印加するステップ、
・少なくとも1つの空間方向(x、y、z)において、前記強磁性の工具(4)によって変調された磁場の磁束密度を測定するステップ、
・前記強磁性の工具(4)の幾何学形状を決定する信号補正ステップ及び信号評価ステップ、
を含む、方法。
【請求項8】
前記信号補正および前記信号評価が、前記装置(1)内で電子的に実行される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記信号評価の結果は、記憶ユニットおよび/または出力ユニットに送信される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
以下の値、
・前記強磁性の工具(4)の空間的位置、
・前記強磁性の工具(4)のセンサ(2)までの距離(d)、
・前記強磁性の工具(4)の角度位置(φ)、
・前記強磁性の工具(4)の回転速度、
・前記強磁性の工具(4)の直径および/または長さ、
・前記強磁性の工具(4)の温度、
のうちの少なくとも1つが追加で決定される、
請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
・前記装置(1)を固定して配置する場合、前記強磁性の工具(4)は、接近プロセス中および/若しくは測定プロセス中に、1つの空間方向(x,y,z)に相対的に移動し、それ自体の長手方向軸線を中心として回転する、
または
・前記強磁性の工具(4)が固定して配置される場合、装置(1)は、近接プロセス中および/若しくは測定プロセス中に、1つの空間方向(x,y,z)および/若しくは前記強磁性の工具(4)の周りの軌道上で相対的に移動し、前記強磁性の工具(4)が、それ自体の長手方向軸線を中心として回転する、
請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記評価が、以下のステップ、
・前記強磁性の工具(4)の少なくとも1つの目標値の目標推移を検索または計算するステップ、
・検索または演算された目標推移を、前記強磁性の工具(4)の少なくとも1つの実際値の測定された実際推移と比較するステップ、
・偏差が検出された場合に、
―偏差の程度を決定するステップ、かつ
―定義された閾値を超える場合に、測定の詳細な分析を実施するステップ、および/または測定を中止するステップ、および/または被加工物の処理を中止するステップ、
を含む、
請求項7から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記閾値は、請求項10に記載の値のうちの少なくとも1つをさらに考慮する、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記詳細な分析においてデータは摩耗形態、摩耗パラメータ、刃先の位置と状態、チップ空間の位置と状態、材料組成、チップ接着、および/または強磁性の工具(4)の強度分布に関して、コンピュータを利用して評価される、
請求項7~13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項1又は独立請求項7に記載されている強磁性の工具の破損の兆候及び摩耗の兆候を非接触で検出する装置並びに方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械が、被加工物(ワークピース)を機械加工する工具が装備されていて、被加工物をその幾何学的な形状に関して加工するとき、工具に対して刃先の完全な破損またはわずかな欠けの形態で予期せぬかつ予測不可能な損傷が生じ得る。例えば、工具が完全に破損した場合、これは、工作機械に急激な負荷をかけるだけでなく、しばしば被加工物が損傷してしまう。加えて、工具のそのような完全な破損に気づかないままであると、それは、通常、対応する工作機械の後続のステップでの被加工物の不適切な機械加工につながり、ひいては、望ましくない高いスクラップ率につながる。小さな欠陥または破損の形態での摩耗の兆候もまた、被工作物の処理に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0003】
したがって、破損の兆候及び摩耗の兆候を早期に検出する装置は、工作機械の損傷を防止し、機械加工中の信頼性を向上させる上で最も重要な要因の1つである。
【0004】
特許文献1(DE3608572A)では、工具の破損を監視および/または摩耗を監視する方法が知られており、この方法では、少なくとも1つが機械加工によって力を受ける、弱い磁石を備えた2つの隣接する機械部品の位置の変化が、連続的に誘導測定され、監視される。工具、工具支持体、または工具ベースホルダの変形は、工具に対する力が摩耗の増大に伴って増加するので、工具の摩耗の尺度として使用される。
【0005】
間接的な測定方法による工具の破損の兆候及び摩耗の兆候の監視が比較的不正確であることが、この方法の欠点であり、これは工具に対してより大きな破損しか検出できないからです。この方法では、局所的な刃の幾何学形状を監視することは不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】西独国特許出願公開第3608572号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、強磁性の工具の破損および/または摩耗について確実かつ非接触で検査可能である装置および方法を提供することである。この場合、当該装置は、汚染の影響を受けにくく、製造が安価であると同時に、比較的高い測定精度が達成されれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、この課題は、請求項1および7の特徴によって達成される。有利な実施形態およびさらなる発展形態は、それぞれの従属請求項に記載されている。
【0009】
本発明による装置は、非接触での破損の監視に適しており、追加的に又は代替的に工作機械内における強磁性の工具の摩耗の監視に適している。当該装置は、センサと、例えば永久磁石として構成してもよい少なくとも1つの磁場発生器とを備える。この場合、装置は、定義された測定距離における磁束密度の局所的な変化を、センサを用いて測定し、評価ユニットを用いて測定信号を電子的に評価する。センサは、1つの空間方向における感知面の最長寸法が最大でも500μm以下であるように構成されており、その際、センサによって少なくとも1つの空間方向で磁場が測定可能である。
【0010】
本発明の有利な発展形態によれば、少なくとも1つの磁場発生器およびセンサが、強磁性の工具の長手方向軸線に対して平行または直交して延在する直線に沿って配置してもよい。
【0011】
さらなる実施形態では、センサおよび少なくとも1つの磁場発生器が、装置のハウジング内に配置されており、その際、少なくとも1つの磁場発生器は、その磁場発生器のバイアス磁場が少なくとも1つのセンサを通り、強磁性の工具内に印加されるように、ハウジング内に配置されている。
【0012】
有利には、センサが、少なくとも1つのホール素子、および、追加的に又は代替的に少なくとも1つのTMR素子を備える。
【0013】
本発明の有利な発展形態によれば、センサは、磁束密度を測定することに加えて、少なくとも1つの別の物理量を検出することができる。
【0014】
物理量は、例えば、圧力、温度等の状態変数でもよい。例えば、これらは、センサの磁場感応範囲内で測定される温度値、特に強磁性の工具に関連するそのような温度値であってもよい。
【0015】
有利には、装置が、圧縮空気を用いて、かつ追加的に又は代替的に交流磁場を用いて、装置および追加的に又は代替的に強磁性の工具の汚染を除去するために構成されている。
【0016】
さらなる態様によれば、本発明は、装置によって、工作機械内における強磁性の工具を非接触で破損を監視および/または摩耗を監視する方法を含む。当該装置は、点状で測定するセンサおよび少なくとも1つの磁場発生器を備える。
当該方法は、以下のステップ、
・強磁性の工具と装置とが相対的に接近するステップ、
・バイアス磁場を強磁性の工具に印加するステップ、
・少なくとも1つの空間方向において、強磁性の工具によって変調された磁場の磁束密度を測定するステップ、
・強磁性の工具の幾何学形状を決定する測定信号を補正及び評価するステップ、
を含む。
【0017】
特に、センサの特殊な点状の構成によって、測定結果の高い分解能が達成可能である。
【0018】
さらなる実施形態では、信号補正および信号評価を装置内で電子的に実行する。
【0019】
有利には、信号評価の結果が、完了後に記憶ユニットに送信され、かつ追加的に又は代替的に出力ユニットに送信される。
【0020】
有利なさらなる発展形態によれば、以下の値、
・強磁性の工具の空間的位置、
・強磁性の工具のセンサまでの測定距離、
・強磁性の工具の角度位置、
・強磁性の工具の回転速度、
・強磁性の工具の直径、および追加的に又は代替的に強磁性工具の長さ、
・強磁性の工具の温度、
の少なくとも1つが追加で決定される。
【0021】
有利には、装置を固定して配置する場合、少なくとも1つの空間方向における強磁性の工具の相対的な移動は、接近プロセス中、および追加的にまたは代替的に測定プロセス中に行われる。この場合、強磁性の工具は、それ自体の長手方向軸線を中心として相対的に回転できる。強磁性の工具が固定して配置される場合、装置は、接近プロセス中、および追加的にまたは代替的に測定プロセス中に、強磁性の工具の周りで少なくとも1つの空間方向に相対的に移動でき、その際、強磁性の工具は、それ自体の長手方向軸線を中心として回転する。代替的に又は追加的に、装置の移動は、強磁性の工具の周りの軌道上で行うこともでき、その際、強磁性の工具は、それ自体の長手方向軸線を中心として回転する。
【0022】
更なる実施形態では、評価が、以下のステップ、
・強磁性の工具の少なくとも1つの目標値の目標推移を検索または計算するステップ、
・検索または演算された目標推移を、強磁性の工具の少なくとも1つの実際値の測定された実際推移と比較するステップ、
・偏差が検出された場合に、
―偏差の程度を決定するステップ、かつ
―定義された閾値を超える場合に、測定の詳細な分析を実施するステップ、および/または測定を中止するステップ、および/または被加工物の処理を中止するステップ、
を含む。
【0023】
有利には、閾値は、以下の値、
・強磁性の工具の空間的位置、
・強磁性の工具のセンサまでの測定距離、
・強磁性の工具の角度位置、
・強磁性の工具の回転速度、
・強磁性の工具の直径、および追加的に又は代替的に強磁性工具の長さ、
・強磁性の工具の温度、
のうちの少なくとも1つをさらに考慮する。
【0024】
有利な更なる発展形態によれば、摩耗形態、摩耗パラメータ、刃先の位置と状態、チップ空間の位置と状態、材料組成、チップ接着、および追加的に又は代替的に、強磁性の工具の強度分布に関しする詳細な分析における測定のデータが、評価される。
【0025】
本発明は、実施例の説明に基づき、添付の概略図を参照して、さらなる特徴および利点に関して以下により詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明による装置の実施例の非常に概略的な図を示す。
【
図2】本発明による装置の測定原理の非常に概略的な図を示す。
【
図3】例示的な第1および第2の実際推移を有する強磁性の工具の2つの測定を示す。
【
図4】例示的な第3の実際推移を有する強磁性の工具の測定を示す。
【
図5】本発明による方法の概略的な図を流れ図として示す。
【
図6】
図5の「評価」ステップに含まれるサブステップの概略的な図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のいくつかの特定の実施形態について、図面を参照して以下により詳細に説明される。
【0028】
本発明による装置1は、強磁性の工具4の破損の兆候、及び付加的に又は代替的に摩耗の兆候が検査されるべき工作機械の作業領域での使用に適している。この目的のために、強磁性の工具4は、装置1に対して相対的に移動され、磁束密度の測定が実施される。
【0029】
図1には、ハウジング5と、センサ2を有するキャリア要素2.1と、磁場発生器3とを備える、本発明による装置及び強磁性の工具4を示す。企図されている実施例では、センサ2および磁場発生器3が、本発明による装置1のハウジング5内に位置している。センサ2は、強磁性の工具4のすぐ近くに位置する装置1の遠い端部に配置されており、その際、空隙の形態の定義された最小の測定距離dが、強磁性の工具4と装置1との間に存在する。
【0030】
特に、センサ2が、磁場発生器3と強磁性の工具4との間に、強磁性の工具4の長手方向軸線に対して直交する直線上に配置されていると有利である。あるいは、強磁性の工具4は、少なくとも1つの磁場発生器3とセンサ2との間に配置することもでき、その際、強磁性の工具4、センサ2、および少なくとも1つの磁場発生器3は、変わらず直線上に位置する。
【0031】
したがって、少なくとも1つの磁場発生器3およびセンサ2が位置する直線は、強磁性の工具4の長手方向に対して平行に延在してもよく、この場合、センサ2および少なくとも1つの磁場発生器3のみを、強磁性の工具4の長手方向軸線に対して平行に延在する直線上に載置する。この場合、センサ2は、理想的には、少なくとも1つの磁場発生器3よりも強磁性の工具4の工具支持体の近くに配置されるべきである。
【0032】
測定距離dは、装置1の表面と、強磁性の工具4の断面の最大周辺部分の切削径との間の距離を定義する。この場合、測定距離dは、通常、200μm~300μmの間の小さな空隙が装置1と強磁性の工具4との間に残るように選択される。したがって、測定距離dは、各試験手順の間で、一定でもよく、又は、代替的には、例えば、強磁性の工具4の直径、または強磁性の工具4の現在の温度、またはその周囲温度に応じて変更することができる。
【0033】
強磁性の工具4は、工作機械の作業空間における装置1と強磁性の工具4との間の相対的な運動を工作機械が予め決定するまたは影響する、被加工物を製造する工具を意味すると理解される。特に、これには、強磁性を有する切削材料を含む機械加工プロセスのための単一および多刃工具が含まれる。これに加えて、例えば、工具鋼若しくは硬質金属からなるドリル、フライス工具、リーマ、ブローチ工具、バイト、またはインサートが含まれる。
【0034】
例えば、強磁性の工具4は、工作機械を介して3つの空間方向x、y、zのすべてで移動でき、定義した方法でその長手方向軸線(φ方向)を中心として回転することができる。
【0035】
少なくとも1つの磁場発生器3のバイアス磁場は、強磁性の工具4に印加され、その結果、強磁性の工具4によって変調する磁場が生成される。強磁性の工具4によって変調される磁場は、強磁性の工具4の局所的な断面幾何学形状に依存する局所的な磁束密度に関して特徴的である。例えば、これは刃先に磁力線が集中し、したがって磁束密度を増加させる。しかしながら、強磁性の工具4のチップ空間では、比較的低い磁束密度が存在し、これは、刃先とチップ空間との間の区別を可能にする。
【0036】
センサ2は、少なくとも1つの空間方向x、y、zにおいて、定義された測定距離dで磁束密度を測定することができる。この場合、測定は点状で実行され、その際、測定の分解能は、センサ2の感知面によって企図されている。感知面は、有利には、最長の延伸部を有する空間方向x、y、zにおいて、500μm未満、特に200μm未満、有利には100μm未満の寸法をもつ。センサ2の感知面の寸法は、センサ2の空間分解能を決定する。センサ2の帯域幅は、(アナログ)測定周波数を表し、有利には少なくとも10kHzである。
【0037】
装置1は、3つの空間方向x、y、zにおいて正確に1つのセンサを用いて磁束密度を測定する。この目的のために、センサ2は、例えば3つの感応面を備えることができ、その際、感応面が3つの空間方向x、y、zで磁束密度の測定を可能にする互いに直交するように配置された3つのホール素子からなってもよい、又は、追加的に若しくは代替的にTMR素子を備えてもよい。しかしながら、1つまたは2つの空間方向x、y、zだけで磁束密度を測定することもできる。この場合、1つ以上の空間方向x、y、zの選択は状況に依存する、すなわち、例えば、強磁性の工具4に対する装置1の相対位置に依存し、その際、最も信頼できる1つ以上の測定信号を供給する1つ以上の空間方向x、y、zは、常に測定または評価に利用される。
【0038】
ホール素子は、例えば半導体部品として実現することができるホール効果素子である。特に、ホール素子は、少なくとも1つのホール電圧を測定することができ、これにより、磁場の少なくとも1つの局所方向成分を推測することができる。
【0039】
TMR素子は、磁場の少なくとも1つの局所方向成分を決定するためにトンネル磁気抵抗効果(英語:tunnel magnetoresistance effect)を利用した素子である。このTMR素子は、半導体部品の一部として実現することもできる。
【0040】
有利には、装置1が、磁束密度に加えて別の物理量を検出できる。この物理量は、特に温度値でもよい。この目的のために、温度測定要素をセンサ2の内側に設けてもよく、又は、代替的に、温度測定要素をキャリア要素2.1上に設けてもよい。この場合、例えばサーミスタによってセンサ2の領域内で、又は例えばマイクロボロメータ素子若しくはパイロメータによってセンサ2の電界感知領域の内側で、温度を測定することができる。
【0041】
接近プロセスの間、強磁性の工具4は、センサ2が位置する装置1の端部に移動される。続いて、測定距離dに位置する強磁性の工具4の磁束密度の測定が、センサ2によって実施される。強磁性の工具4は、例えば、測定プロセス中にz方向に移動することができる。追加的に又は代替的には、強磁性の工具4はまた、その長手方向軸線を中心として回転することができる。
【0042】
磁界発生器3の磁力線3.1は、強磁性の工具4が磁界発生器3のバイアス磁場内に位置すると同時に強磁性の工具4に印加する。次に、印加された磁力線3.1は、強磁性の工具4の局所的な横断面形状に応じて、すなわち局所的に特徴的な磁束密度で、定義された方法で整列される。センサ2によって、3つの空間方向x、y、zのうちの少なくとも1つに関して、この変調された磁場が測定され、かつ評価される。
【0043】
磁場発生器3は、永久磁石または電磁石として形成することができ、その際、装置1は、複数の磁場発生器3を備えてもよい。複数の磁場発生器3が設けられる場合、これらは同一であっても異なっていてもよく、すなわち、装置1は、例えば、磁場発生器3としての永久磁石と電磁石とを備えてもよい。
【0044】
このような電磁石は、電流が流れるときに磁場を形成する規定の巻き線数を有する電磁コイルを備える。概して、電磁コイルは、磁場が導き増幅する、磁気的に軟らかい材料(例えば、鉄)からなる少なくとも1つの(開いた)コアをさらに備える。電磁コイルを通って直流電流が流れると、電磁石への電力供給を遮断することによって、場合によっては付着している削りくずおよび金属ダストを手動または自動で(例えば圧縮空気などを使用して)除去することによって、必要に応じて装置から磁気を帯びた削りくずを簡単に取り除くことができる。代替的には、交流電流が電磁コイルを通って流れてもよい。この場合、装置1の手動または自動化された清掃、および、追加的に又は代替的には強磁性の工具4の手動または自動化された清掃は、周期的かつ反復的な相変化によって削りくずおよび金属ダストの磁化を平均して中和するので、必ずしも必要ではない。特に良好な清掃結果を達成するために、圧縮空気清掃と交流磁場を使用する清掃との組み合わせも企図することができる。
【0045】
図に詳細には記載されていない第2の実施例によれば、装置1は、2つの磁場発生器3を備えてもよく、その際、そのうちの1つは、バイアス磁場を生成する役割を果たしおよび第2の磁場発生器は、装置1を、ならびに追加的にまたは代替的に強磁性の工具4を消磁する役割を果たす。この場合、第2の磁場発生器は、装置1内に、例えば電磁石の形態で、又は装置1の外部に、例えば徐々に減衰する磁化を有する電磁石の形態で配置することができる。
【0046】
工作機械の作業空間内の装置1を固定して配置するとき、強磁性の工具4の相対移動は、接近プロセスおよび追加的にまたは代替的に測定プロセス中に、少なくとも1つの空間方向x、y、zで行われる。この場合、強磁性の工具4は、特にそれ自体の長手方向軸線を中心として相対的に回転できる。工作機械の作業空間内における強磁性の工具を固定して配置する場合、装置1は、接近プロセスおよび追加的にまたは代替的に測定プロセス中に、強磁性の工具4の周りで少なくとも1つの空間方向x、y、zにおいて相対的に移動でき、その際、強磁性の工具4は、それ自体の長手方向軸線を中心として回転する。代替的に又は追加的に、これは、強磁性の工具4の周りの軌道上で行うことができ、その際、強磁性の工具4は、特に、それ自体の長手方向軸を中心として回転する。この場合、装置1は、例えば、エンドエフェクタとしての産業用ロボットのロボットアームに取り付けることができ、このロボットアームは、数自由度で移動することができる。
【0047】
この場合、装置1は工作機械(例えば、フライス盤のフライス加工テーブル)に固定して結合してもよく、かつ強磁性の工具4は、線形移動によって固定した装置1に近づけることができる。その際、強磁性の工具4は、必要であれば、定義された回転数で同時に回転できる。
【0048】
代替的に、強磁性の工具4は、工作機械、例えば旋盤の主軸台に固定して結合してもよく、装置1は、例えばキャリッジ上で、線形移動によって強磁性の工具4に近づけることができる。
【0049】
図1に示されるように、永久磁石3の磁力線3.1の強磁性の工具4への印加は、第1の実施例によるセンサ2を通って行われる。永久磁石3のバイアス磁場の影響は、信号評価または信号補正の過程で補償され、その結果、磁束密度の実際推移を生成するとき、強磁性の工具4の変調磁場のみが考慮される。
【0050】
図2は、装置1の永久磁石3の磁場の、その長手方向軸線を中心として回転する強磁性の工具4への印加プロセスを非常に概略的な図で示す。この場合、強磁性の工具4へのバイアス磁場の印加は、強磁性の工具4のそれぞれの極小幅の長手方向の断面又は横方向の断面における刃先とチップ空間の回転角φ又は局所的な位置に強く依存する。
【0051】
図2a~
図2dの以下の説明では、考えられる強磁性の工具4の横断面について、zは一定であり、φは時計回りに変化する。
【0052】
この場合、
図2aは、時点t
1における強磁性の工具4の横断面を示し、その際、強磁性の工具4のプロファイルは、永久磁石3の磁力線3.1がx軸線に対してほぼ平行に結合し、センサ2を通って強磁性の工具4に印加するように整列されている。
【0053】
図2bの時点t
2において、
図2aの強磁性の工具4の図示された横断面の角度位置は、数度の角度で変化しており、これは、永久磁石3の磁力線3.1の特徴的な振れをもたらす。これらは、ここで、最小の測定距離dを有する強磁性の工具4の断面の部分により強く印加し、これは、そこでの磁束密度の増加をもたらす。
【0054】
この効果は、時点t
3における磁力線3.1の印加を示す
図2cにおいてさらに顕著である。この時点で、強磁性の工具4は、再度、数度の角度をさらに移動し、かつ最小の測定距離dを有する強磁性の工具4のさらにより小さいサブエリアが存在し、これは、このサブエリアにおいてさらにより高い磁束密度をもたらす。
【0055】
最後に、
図2dの強磁性の工具4の刃先は、チップ空間がセンサ2と対向して位置するように最大測定距離dで離間されている。永久磁石3の磁力線3.1は、強磁性の工具4がそのような角度位置の際、独特な扇形に広がり、比較的大きな部分領域にわたって強磁性の工具4に印加する。
【0056】
磁場の変化、特に強度及び向きの変化は、強磁性の工具4とセンサ2との間の相対角度位置φに応じて測定される。この場合、得られた測定値を使用して、実際推移を作成することができる。必要に応じて、強磁性の工具4の変調磁場のみが後続の信号評価において検査されるように、実際推移は、キャリア要素2.1上に統合された、または代替的にデバイス1内の下流に統合された信号補正によって調整することがる。
【0057】
図3は、3.4mmの直径を有する強磁性の固体炭化物ドリル4の測定プロセス中に生成された、2つの関数グラフの形態の例示的な2つの実際推移を示す。強磁性のドリル4は、軸方向zおよび周方向φの両方において、測定距離d=200μmで測定した。描画された曲線には、ドリル4の半径方向xにおける磁束密度B
xの測定が示されている。
【0058】
図3aのB
x-zのグラフは、ドリル4の固定角度位置φにおけるドリル4に沿ったz方向での計測を示す。図示された機能グラフでは、ドリル4の刃先の領域が、4つのピークまたは極値の形態で明確に突出している。ドリル4の一部が、例えば破線Aで破断した場合、これは信号変化をもたらし、z≒40mmで下から見た第1の刃先のピークは生じない。破線Lは、そのような工具破損の場合に、測定信号の予想されるべき推移を示す。特に、描画されている関数グラフによって、幾何学的な寸法または工具の全損を早期に検出することができる。
【0059】
代替的には、ドリル4の刃先は、
図3bに示されているカーブに見られるように、周方向φに測定することもできる。φ-B
x図から、ドリル4の2つの刃先は、zに対して一定の測定点において2つのピークの形態で明確に突出している。示されている機能グラフを使用して、測定されるべき工具の刃先の数、幾何学的な寸法、または欠陥もしくは破損を特に良好に把握することができる。
【0060】
特に、別の図表としては、
図3aおよび
図3bの機能グラフの情報を組み合わせて記載したヒートマップHである(
図4参照)。例えば、その図では、測定された磁束密度B
xが、ドリル4の周方向φ及び軸方向zの関数として記載されている。例えば、そのような評価は、幾何学的な寸法、刃先の数、ドリル4の材料または切削材料、工具全損の早期検出、特に、欠陥または破損の検出に関する強磁性の工具の詳細な分析に適している。
【0061】
本発明による装置の説明されている実施例に加えて、本発明の範囲内において別の設計の可能性がある。
【0062】
本発明による装置1が、1つの空間方向x、y、zにのみ移動することも可能である。例えば、旋盤の作業領域におけるインサートの刃先を測定する場合、強磁性の工具4と本発明による装置1とのそのような配置が考えられる。例えば、装置1は、キャリッジ上に位置して、ツールホルダ内に装着されたインサートへ近づくことができる。この場合、磁束密度の特性曲線を用いて測定信号を評価することもできる。しかし、この場合、実際推移における極値の単なる存在は、すでに摩耗を示すであろう。
【0063】
図5に、非接触で破損を監視および追加的にまたは代替的に摩耗を監視する方法を、概略的な流れ
図50として示す。強磁性の工具4を検査するプログラムシーケンスは、オペレータによって、またはある時間間隔内で自動的に、工作機械の制御システムを介して開始または初期化することができる(ステップ51)。
【0064】
これに続いて、測定距離dに到達するまで、強磁性の工具4と装置1との相対的な接近52が行われる。例えば、工作機械によって、工作機械の作業領域内で強磁性の工具4を、作業領域内で固定している装置1に移動させる。強磁性の工具4は、プロセス全体の間、定義した方法でその長手方向軸線を中心として相対的に回転ができる。
【0065】
後続のステップ53では、装置1の少なくとも1つの磁場発生器3によって引き起こされる、バイアス磁場が印加される。
【0066】
後続のステップ54では、強磁性の工具4によって変調された磁場が、センサ2によって磁束密度に関して測定され、その際、必要に応じて、さらなる物理量(例えば、少なくとも1つの温度値)も把握することができる。その後、このデータは、実際推移のためのデータベースを形成する。
【0067】
これに続いて、ステップ54からの予め決定されている測定結果の評価55が行われ、その際、信号補正もこのステップ内で行われる。この場合、評価55は、自動化され、かつ(例えば、人工ニューラルネットワークによって)コンピュータ支援され、オペレータによって手動で、または両方の処理方法の組み合わせによって行ってもよい。
【0068】
最後から二番目のステップ56では、評価結果または複数の評価結果を出力ユニット68、68’に送信することができる。出力ユニット68、68’内では、評価結果が、記憶ユニットに記憶され、追加的にまたは代替的に、ユーザに送信することができる。例えば、このような送信は、工作機械のスクリーンを介して視覚的に、オーディオ出力ユニットを介して音響的に、等々、実行することができる。最後に、プログラムシーケンス50は、ステップ57で終了する。
【0069】
ここで、プログラムシーケンス50の間の強磁性の工具4は、ステップ54(「測定」)の間だけで、測定距離dに留まる必要があることに留意されたい(場合によっては、その長手方向軸を中心として相対的に回転する)。後続のステップ55~57の間、実行されているプログラムシーケンス50と並行して工作機械の制御(部)によって、さらなるプログラムシーケンスを実施することができる、すなわち、例えば、強磁性の工具4を用いた被加工物の機械加工の続きを行うことができる。
【0070】
図6は、
図5に示されている方法ステップの評価55のサブステップの概略的な流れ
図60を示す。
【0071】
サブモジュール評価61は、プロセスステップ評価55のサブ要素である。サブモジュール61が呼び出されるとすぐに、サブステップ62が実行され、これは、測定されるべき強磁性の工具4の目標状態情報をデータベースから検索し、その後、そこから目標推移を導出する。この場合、この目標状態情報は、完成した目標推移としてすでに利用できる、または依然として演算または生成することができる。例えば、以前の測定からの目標状態情報が利用可能でない場合、目標状態情報の演算は、対応する未使用の強磁性の工具の状態情報と、記憶ユニットに記憶された強磁性の工具4の使用時間とに基づいて実行できる。
【0072】
次のサブステップ63は、ステップ54で決定された測定データの実際推移を、サブステップ62で検索または演算された目標推移と比較する、すなわち、2つの推移の偏差の程度を決定する。これは、例えば、個々の、複数の、または全ての実際推移値および目標推移値に対して行うことができる。代替的には、適切な基準値を偏差の程度として決定することができる。この基準値は、例えば、実際推移と目標推移との積分の減算を含み得る。加えて、目標推移及び実際推移は、特に別の物理量、例えば強磁性の工具4における局所的な温度分布に関して標準化することができる。両方の推移に関する偏差の決定は、例えば、特に摩耗または工具破損の影響を受けやすい強磁性の工具4のセクションに対して、セクションにおいてのみ実行されることも考えられる。
【0073】
偏差の程度が定義された閾値を超えない場合(No―経路66)、測定値の詳細な分析は実行されず、出力ユニット68は偏差が存在しないことが送信される。このような最小の偏差は、例えば、新しく未使用の強磁性の工具4に対するセンサ2の測定精度内で生じ得る。
【0074】
しかし、偏差の程度が閾値以上である場合(Yes―経路65)、詳細な分析を実行する(サブステップ67)、又は、代替的に測定または被加工物の処理を中止する。このような詳細な分析では、測定データ、実際推移、目標推移、および追加的にまたは代替的に目標推移と実際推移の偏差がより詳細に評価される。この場合、特に、詳細な分析は、摩耗形態の存在および分類、摩耗パラメータ、刃先の位置及び状態、チップ空間の位置並びに状態、材料組成、チップ接着または汚染、および追加的に若しくは代替的に、強磁性の工具4のさらなる強度分布に関する評価を含む。そのような詳細な分析は、アルゴリズム的に、特に機械学習法によって、またはオペレータによって手動で行ってもよい。両方の方法の組み合わせも考えられる。最終的に、サブステップ67の一つ以上の結果は、(例えばヒートマップHの形態で)出力ユニット68’に送信され、サブモジュール61が最終的に終了する(サブステップ69)。
【0075】
出力ユニット68、68’は、工作機械のディスプレイであってもよい。この場合、オペレータが使用中の強磁性の工具4の現在の状態を直感的に理解できるように、結果がグラフで提示される。
【0076】
強磁性の工具4の摩耗または破損が装置1によって検出される場合、被加工物のさらなる機械加工処理は、例えば、停止することができ、オペレータは、視覚出力、および追加的にまたは代替的に音声出力の形態で、事象を知らされることも可能である。
【0077】
さらに、不揮発性メモリに評価または詳細な分析の履歴データを記憶する記憶ユニットを設けてもよい。工具タレットを有する工作機械の場合、工具タレット内にある全ての強磁性の工具についての、装置1の全ての評価又は詳細な分析にアクセスすることができる。さらに、出力ユニット68、68’を介した結果の表示は、使用中の強磁性の工具4に限定されない。
【外国語明細書】