(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018926
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】水中OFDM通信システム及び通信方法
(51)【国際特許分類】
H04L 27/26 20060101AFI20250130BHJP
H04B 11/00 20060101ALI20250130BHJP
B63C 11/00 20060101ALN20250130BHJP
【FI】
H04L27/26 410
H04B11/00 D
B63C11/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024083008
(22)【出願日】2024-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2023121457
(32)【優先日】2023-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.予稿集がウェブサイトからダウンロード可能になったことによる公開 学会名:一般社団法人電子情報通信学会研究会発表 公開日:2024年5月13日 2.学会で発表されたことによる公開 学会名:一般社団法人電子情報通信学会研究会発表 公開日:2024年5月20日
(71)【出願人】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(71)【出願人】
【識別番号】595048968
【氏名又は名称】株式会社OKIコムエコーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100152180
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 秀人
(72)【発明者】
【氏名】和田 知久
(72)【発明者】
【氏名】大城 史帆
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩正
(57)【要約】 (修正有)
【課題】到来方向(角度)が異なるマルチパス環境下における移動体受信でのOFDM受信処理において、OFDM信号を構成する各サブキャリア信号間の直交性の乱れによってキャリア間干渉を生じた受信信号に対し、キャリア間干渉を除去する処理を実施して音響無線通信の性能向上を図る水中OFDM通信システム及び通信方法を提供する。
【解決手段】音響信号を伝送する送信部から送信されるOFDM信号が、水中で2以上の異なる伝送路を伝搬し、異なる伝送路からの信号が受信部に重畳して受信されるマルチパス環境下においてOFDM信号処理を行う水中OFDM通信システム及び通信方法であって、重畳して受信した信号を、所定のサンプリング周波数Fsによってアナログ信号からデジタル数値列に変換する手段(ADC)と、デジタル数値列を離散フーリエ変換し、信号を周波数領域信号に変換して周波数領域信号を解析する手段(3rdFFT)と、を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響信号を伝送する送信部から送信されるOFDM信号が、
水中で2以上の異なる伝送路を伝搬し、異なる伝送路からの信号が受信部に重畳して受信されるマルチパス環境下においてOFDM信号処理を行う水中OFDM通信システムであって、
当該重畳して受信された信号を、所定のサンプリング周波数によって、アナログ信号からデジタル信号であるデジタル数値列に変換する手段と、
当該デジタル数値列を離散フーリエ変換し、信号を周波数領域信号に変換する手段と、
当該周波数領域信号を解析する手段と、
からなり、
当該周波数領域信号を解析する手段は、
当該伝送路ごとに、スキャッタードパイロットの配置部分の伝送路伝達関数を計測する計測機能と、
当該伝送路の各伝搬波ごとに、複素減衰係数、相対遅延時間、ドップラー周波数シフト量及びサンプリングクロック誤差の4つのパラメータを推定する推定機能と、
当該パラメータを用いて、当該伝送路ごとに、周波数領域信号の複素シンボル間の干渉を含む伝送路伝達関数を推定してキャリア間干渉除去係数を計算する計算機能と、
キャリア間干渉除去係数をもとに、キャリア間干渉を除去する除去機能と、
を有する、
ことを特徴とする水中OFDM通信システム。
【請求項2】
音響信号を伝送する送信部から送信されるOFDM信号が、
水中で2以上の異なる伝送路を伝搬し、異なる伝送路からの信号が受信部に重畳して受信されるマルチパス環境下においてOFDM信号処理を行う水中OFDM通信システムであって、
当該重畳して受信された信号を、所定のサンプリング周波数によって、アナログ信号からデジタル信号であるデジタル数値列に変換する手段と、
当該デジタル数値列を離散フーリエ変換し、信号を周波数領域信号に変換する手段と、
当該周波数領域信号を解析する手段と、
からなり、
当該周波数領域信号を解析する手段は、
当該伝送路ごとに、周波数領域信号に含まれる複素シンボルのうち、パイロット信号に挿入された複素シンボルのスキャッタードパイロットを利用して、スキャッタードパイロットの配置部分の伝送路伝達関数を計測する計測機能と、
当該伝送路の各伝搬波ごとに、複素減衰係数、相対遅延時間、ドップラー周波数シフト量及びサンプリングクロック誤差の4つのパラメータを推定する推定機能と、
当該パラメータを用いて、当該伝送路ごとに、周波数領域信号に含まれる複素シンボルと、パイロット信号に挿入された複素シンボル間の干渉を含む伝送路伝達関数を推定してキャリア間干渉除去係数を計算する計算機能と、
キャリア間干渉除去係数をもとに、キャリア間干渉を除去する除去機能と、
を有する、
ことを特徴とする水中OFDM通信システム。
【請求項3】
音響信号を伝送する送信部から送信されるOFDM信号が、
水中で2以上の異なる伝送路を伝搬し、異なる伝送路からの信号が受信部に重畳して受信されるマルチパス環境下においてOFDM信号処理を行う水中OFDM通信システムであって、
当該重畳して受信された信号を、所定のサンプリング周波数によって、アナログ信号からデジタル信号であるデジタル数値列に変換する手段と、
当該デジタル数値列を離散フーリエ変換し、信号を周波数領域信号に変換する手段と、
当該周波数領域信号を解析する手段と、
からなり、
当該周波数領域信号を解析する手段は、
当該伝送路ごとに、周波数領域信号に含まれる複素シンボルのうち、パイロット信号に挿入された複素シンボルのスキャッタードパイロットを利用して、スキャッタードパイロットの配置部分の伝送路伝達関数を計測する計測機能と、
当該伝送路の各伝搬波ごとに、複素減衰係数、相対遅延時間、ドップラー周波数シフト量及びサンプリングクロック誤差の4つのパラメータを推定する推定機能と、
当該パラメータを用いて、当該伝送路ごとに、周波数領域信号に含まれる複素シンボルと、パイロット信号に挿入された複素シンボル間の干渉を含む伝送路伝達関数を推定してキャリア間干渉除去係数を計算する計算機能と、
キャリア間干渉除去係数をもとに、離散フーリエ変換された出力信号に対し、干渉成分を除去することにより、キャリア間干渉を除去する除去機能と、
を有する、
ことを特徴とする水中OFDM通信システム。
【請求項4】
前記周波数領域信号を解析する手段は、
前記計算機能と、
前記除去機能と、
の間に、
前記推定機能によって推定されたパラメータにより、
前記スキャッタードパイロットから、干渉成分を除去したスキャッタードパイロットを生成し、
当該伝送路の各伝搬波ごとに、複素減衰係数、相対遅延時間、ドップラー周波数シフト量及びサンプリングクロック誤差の4つのパラメータを推定する第2推定機能と、
を有する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の水中OFDM通信システム。
【請求項5】
音響信号を伝送する送信部から送信されるOFDM信号が、
水中で2以上の異なる伝送路を伝搬し、異なる伝送路からの信号が受信部に重畳して受信されるマルチパス環境下においてOFDM信号処理を行う水中OFDM通信方法であって、
当該重畳して受信された信号を、所定のサンプリング周波数によって、アナログ信号からデジタル信号であるデジタル数値列に変換するステップと、
当該デジタル数値列を離散フーリエ変換し、信号を周波数領域信号に変換するステップと、
当該周波数領域信号を解析するステップと、
からなり、
当該周波数領域信号を解析するステップは、
当該伝送路ごとに、スキャッタードパイロットの配置部分の伝送路伝達関数を計測する計測機能と、
当該伝送路の各伝搬波ごとに、複素減衰係数、相対遅延時間、ドップラー周波数シフト量及びサンプリングクロック誤差の4つのパラメータを推定する推定機能と、
当該パラメータを用いて、当該伝送路ごとに、周波数領域信号の複素シンボル間の干渉を含む伝送路伝達関数を推定してキャリア間干渉除去係数を計算する計算機能と、
キャリア間干渉除去係数をもとに、キャリア間干渉を除去する除去機能と、
を実行する、
ことを特徴とする水中OFDM通信方法。
【請求項6】
音響信号を伝送する送信部から送信されるOFDM信号が、
水中で2以上の異なる伝送路を伝搬し、異なる伝送路からの信号が受信部に重畳して受信されるマルチパス環境下においてOFDM信号処理を行う水中OFDM通信方法であって、
当該重畳して受信された信号を、所定のサンプリング周波数によって、アナログ信号からデジタル信号であるデジタル数値列に変換するステップと、
当該デジタル数値列を離散フーリエ変換し、信号を周波数領域信号に変換するステップと、
当該周波数領域信号を解析するステップと、
からなり、
当該周波数領域信号を解析するステップは、
当該伝送路ごとに、周波数領域信号に含まれる複素シンボルのうち、パイロット信号に挿入された複素シンボルのスキャッタードパイロットを利用して、スキャッタードパイロットの配置部分の伝送路伝達関数を計測する計測機能と、
当該伝送路の各伝搬波ごとに、複素減衰係数、相対遅延時間、ドップラー周波数シフト量及びサンプリングクロック誤差の4つのパラメータを推定する推定機能と、
当該パラメータを用いて、当該伝送路ごとに、周波数領域信号に含まれる複素シンボルと、パイロット信号に挿入された複素シンボル間の干渉を含む伝送路伝達関数を推定してキャリア間干渉除去係数を計算する計測機能と、
キャリア間干渉除去係数をもとに、キャリア間干渉を除去する除去機能と、
を実行する、
ことを特徴とする水中OFDM通信方法。
【請求項7】
音響信号を伝送する送信部から送信されるOFDM信号が、
水中で2以上の異なる伝送路を伝搬し、異なる伝送路からの信号が受信部に重畳して受信されるマルチパス環境下においてOFDM信号処理を行う水中OFDM通信方法であって、
当該重畳して受信された信号を、所定のサンプリング周波数によって、アナログ信号からデジタル信号であるデジタル数値列に変換するステップと、
当該デジタル数値列を離散フーリエ変換し、信号を周波数領域信号に変換するステップと、
当該周波数領域信号を解析するステップと、
からなり、
当該周波数領域信号を解析するステップは、
当該伝送路ごとに、周波数領域信号に含まれる複素シンボルのうち、パイロット信号に挿入された複素シンボルのスキャッタードパイロットを利用して、スキャッタードパイロットの配置部分の伝送路伝達関数を計測する計測機能と、
当該伝送路の各伝搬波ごとに、複素減衰係数、相対遅延時間、ドップラー周波数シフト量及びサンプリングクロック誤差の4つのパラメータを推定する推定機能と、
当該パラメータを用いて、当該伝送路ごとに、周波数領域信号に含まれる複素シンボルと、パイロット信号に挿入された複素シンボル間の干渉を含む伝送路伝達関数を推定してキャリア間干渉除去係数を計算する計算機能と、
キャリア間干渉除去係数をもとに、離散フーリエ変換された出力信号に対し、干渉成分を除去することにより、キャリア間干渉を除去する除去機能と、
を実行する、
ことを特徴とする水中OFDM通信方法。
【請求項8】
前記周波数領域信号を解析するステップは、
前記計算機能と、
前記除去機能と、
の間に、
前記推定機能によって推定されたパラメータにより、
前記スキャッタードパイロットから、干渉成分を除去したスキャッタードパイロットを生成し、
当該伝送路の各伝搬波ごとに、複素減衰係数、相対遅延時間、ドップラー周波数シフト量及びサンプリングクロック誤差の4つのパラメータを推定する第2推定機能と、
を実行する、
ことを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の水中OFDM通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中での無線通信として、直交周波数分割多重(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方式を用いた音響無線通信システム及び通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の水中でのOFDM方式での音響無線通信では、利用する音響帯域幅B(Hz)と、その利用する音響信号の中心周波数fc(Hz)を比較すると、B<<fc、すなわち、fcがBよりも十分大きい条件が成り立たない。
このような状況下では、送信器もしくは受信器、または、その両方が移動する場合に、いわゆるドップラー現象(ドップラー周波数シフト現象)が発生し、受信器側で位相補正するだけでは、ドップラー現象による影響を補償することができない。
そこで、このドップラー現象を補償するため、受信信号を時間方向に伸び縮み処理を行う方法が知られている。
【0003】
しかし、水中でのOFDM方式での音響OFDM無線通信(以下「OFDM信号」という。)が、複数の異なる経路を伝搬し、受信器が受信するようなマルチパス環境下では、受信器が受信するOFDM信号は、異なる方向(角度)から到来し、ドップラーシフトによる変動量が異なる、という問題がある。
これは、受信器が受信したOFDM信号が、異なる経路から到来する複数のOFDM信号が重畳されるためである。
そこで、受信器が受信したOFDM信号のドップラーシフトを、特許文献1に開示された、OFDM信号を構成するサブキャリア信号の一部の時間的変化によってドップラーシフトを検知し、OFDM信号の伸び縮みを補正することによって解決する方法が考えられる。
【0004】
しかし、重畳された受信信号の中の最大成分である直接波に対して補正すると、その伸び縮み係数は、異なる方向(角度)から到来した複数のOFDM信号の伸び縮み量が異なるため、適切に補正することができない。
つまり、OFDM信号が、複数の異なる経路を伝搬し、異なる方向(角度)から受信器に到来するマルチパス環境下では、特許文献1に開示された、OFDM信号の伸び縮み処理だけでは不完全であり、結果的に、OFDM信号の復調処理時にキャリア間干渉が生じ、復調処理時のビットエラー率が上昇するという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、OFDM信号が、複数の異なる経路を伝搬し、異なる方向(角度)から受信器に到来するマルチパス環境下におけるOFDM信号処理に関して、OFDM信号を構成するサブキャリア信号の一部の時間的変化によってドップラーシフトを検知し、伸び縮みを補正した後のOFDM信号の復調処理の際に、OFDM信号を構成する各サブキャリア信号間の直交性の乱れによってキャリア間干渉を生じた受信信号に対し、キャリア間干渉を除去する処理を実施することで、音響無線通信の性能向上を図る、水中OFDM通信システム及び通信方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる水中OFDM通信システムは、
音響信号を伝送する送信部から送信されるOFDM信号が、
水中で2以上の異なる伝送路を伝搬し、異なる伝送路からの信号が受信部に重畳して受信されるマルチパス環境下においてOFDM信号処理を行う水中OFDM通信システムであって、
当該重畳して受信された信号を、所定のサンプリング周波数によって、アナログ信号からデジタル信号であるデジタル数値列に変換する手段と、
当該デジタル数値列を離散フーリエ変換し、信号を周波数領域信号に変換する手段と、
上記周波数領域信号を解析する手段と、
からなり、
当該周波数領域信号を解析する手段は、
当該伝送路の各伝搬波ごとに、複素減衰係数、相対遅延時間、ドップラー周波数シフト量及びサンプリングクロック誤差の4つのパラメータを推定し、
当該パラメータを用いて、当該伝送路ごとに、周波数領域信号の複素シンボル間の干渉を含む伝送路伝達関数を推定してキャリア間干渉除去係数を計算し、
キャリア間干渉除去係数をもとに、キャリア間干渉を除去する機能と、
を有する、
ことを特徴とする。
【0008】
本発明にかかる水中OFDM通信方法は、
音響信号を伝送する送信部から送信されるOFDM信号が、
水中で2以上の異なる伝送路を伝搬し、異なる伝送路からの信号が受信部に重畳して受信されるマルチパス環境下においてOFDM信号処理を行う水中OFDM通信方法であって、
当該重畳して受信された信号を、所定のサンプリング周波数によって、アナログ信号からデジタル信号であるデジタル数値列に変換するステップと、
当該デジタル数値列を離散フーリエ変換し、信号を周波数領域信号に変換するステップと、
上記周波数領域信号を解析するステップと、
からなり、
当該周波数領域信号を解析するステップは、
当該伝送路の各伝搬波ごとに、複素減衰係数、相対遅延時間、ドップラー周波数シフト量及びサンプリングクロック誤差の4つのパラメータを推定し、
当該パラメータを用いて、当該伝送路ごとに、周波数領域信号の複素シンボル間の干渉を含む伝送路伝達関数を推定してキャリア間干渉除去係数を計算し、
キャリア間干渉除去係数をもとに、キャリア間干渉を除去する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかる水中OFDM通信システム及び通信方法によれば、利用する音響帯域幅B(Hz)と、その利用する音響信号の中心周波数fc(Hz)を比較したときに、B<<fc、すなわち、fcがBよりも十分大きい条件が成り立たない状況下でも、キャリア間干渉を除去することができ、OFDM信号が、複数の異なる経路を伝搬し、異なる方向(角度)から受信器に到来するマルチパス環境下でも、受信器側のOFDM信号の復調処理時のビットエラー率を低減し、より高性能な音響無線通信を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】水中OFDM通信システム及び通信方法の一実施形態の概略構成図
【
図2】水中OFDM通信システム及び通信方法における送受信の処理手順を示すブロック図
【
図3】時間方向に複数あるOFDM信号を、横軸時間、縦軸周波数の2次元平面で表し、複素変調されたサブキャリアシンボルを丸印で配置した図
【
図4】水中OFDM通信システム及び通信方法における受信側の処理手順を示すブロック図
【
図5】受信トランスデューサーが移動しながら送信トランスデューサーから直接波の1波のみを受信した場合の受信信号を時間に対応した横長のブロックで表した図
【
図6】受信トランスデューサーが移動しながら送信トランスデューサーから直接波と遅延波の2波を受信した場合の受信信号を時間に対応した横長のブロックで表した図
【
図7】受信トランスデューサーで利用される「Modified Delay and Doppler Profiler」(修正型遅延及びドップラープロファイラー)ブロック(44)によって明らかにした各伝搬波(直接波及び遅延波)の各種パラメータを用いてキャリア間干渉除去係数を生成する手順を示したブロック図
【
図8】従来の「Delay and Doppler Profiler」(遅延及びドップラープロファイラー)ブロックによって明らかにした各伝搬波(直接波及び遅延波)の各種パラメータを用いてキャリア間干渉除去係数を生成する手順を示したブロック図
【
図9】水中音響通信におけるOFDM通信システムの受信側の処理を示すブロック図
【
図10】水中音響通信におけるOFDM通信システムの、時間方向に複数あるOFDM信号を、時間(横軸)、周波数(縦軸)の2次元平面で表し、複素変調されたサブキャリアシンボルを丸印で配置した図
【
図11】水中音響通信におけるOFDM通信システムで利用されるmDDPブロックによって推定する各伝搬波(直接波及び遅延波)の各種パラメータを示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明にかかる水中OFDM通信システム及び通信方法の一実施形態を示す概略構成図である。
海上には、音響信号を伝送する送信部となる送信トランスデューサー(13)を備える母船(11)が配置され、水中には、送信トランスデューサー(13)から伝送される音響信号を受信する受信部となる受信トランスデューサー(14)を備えるAUV(Autonomous Unmanned Vehicle)が配置されている。
【0012】
送信部である送信トランスデューサー(13)から伝送される音響信号は、受信部である受信トランスデューサー(14)に対し、直線的な経路L1と、海面で反射する経路L2の、2つの経路を通って伝送される。
経路L1と経路L2を伝送する音響信号は、受信トランスデューサー(14)において、角度θの分だけ到来角度が異なる。
母船(11)が速度vで移動する場合、受信トランスデューサー(14)に、経路L1を通って伝送される音響信号と、経路L2を通って伝送される音響信号は、異なるドップラー変位をもつ。
【0013】
図2は、本発明にかかる水中OFDM通信システム及び通信方法において音響信号を送受信する処理手順を示すブロック図である。
【0014】
図2の上段は、送信トランスデューサー(13)から伝送される音響信号を送信する手順を示している。
【0015】
送信トランスデューサー(13)から伝送される
図2の「Bit Data」で示された音響信号は、「Symbol map」(シンボルマップ)ブロックにより、QPSK/16QAM/64QAM等にデジタル変調され、複素シンボルに変換される。
受信側での伝送路(Channel)の特性(直接波と遅延波(併せて「伝搬波」という。)、各伝搬波の複素減衰、相対遅延時間、ドップラー周波数シフト量)を推定するため、必要に応じて、「Pilot insert」ブロックにおいて、複素シンボルに対し、事前に決まった複素数値で構成されるパイロット信号が挿入される。
【0016】
その後、複素シンボルを、一定のシンボルサイズごとに、「IFFT」ブロックにより、逆フーリエ変換(IFFT)することで、直交周波数分割多重(OFDM)変調し、OFDMシンボルを生成する。
さらに、「CP add」ブロックにより、OFDMシンボルの後部の一部を前部の前にコピーして追加する処理(CP追加:サイクリック・プレフィックス追加)がなされる。
このCP追加により、異なる時間に送信されるOFDMシンボルの干渉が抑制される。
【0017】
ここまでの信号処理は、いわゆるベースバンド信号処理であり、周波数スペクトラムでみると0Hz近傍の信号に対応する。
この伝送する音響信号を、所望の周波数帯域に変換するため、「up-cnv」ブロックのアップコンバージョン処理により、音響信号の実部だけが取り出され、送信部から送信される。
図2の上段右端の、下側に向いている(下側に頂点が1つだけある)白抜きの三角印で示した箇所は、この送信部を示す。
送信部の手前の、右側に向いている(右側に頂点が1つだけある)白抜きの三角印で示した箇所は、送信のパワーアンプを示す。
【0018】
図2の中段の「Channel」は、送信部から送信された信号が伝搬する伝送路を示している。
伝送路の一例は、
図1に示す経路L1と経路L2である。
【0019】
図2の下段は、受信トランスデューサー(14)が受信される音響信号を送信の処理の手順を示している。
図2の下段左端の、下側に向いている(下側に頂点が1つだけある)白抜きの三角印で示した箇所は、受信部を示す。
受信部で受信された信号は、低ノイズ増幅器(右側に向いている(右側に頂点が1つだけある)白抜きの三角印で示した箇所)で必要な大きさの信号に増幅される。
【0020】
その後、「down-cnv」ブロックのダウンコンバージョン処理により、受信部で受信された信号は、複素ベースバンド信号に変換される。
さらに、「CP remove」ブロックにより、OFDMシンボルの前部の一部を削除する処理(CP削除)がなされ、「Time-domain Pre-processing」ブロックにより時間ドメイン事前処理がなされる。
この時間ドメイン事前処理は、複素ベースバンド信号の伸び縮み処理を行い、ドップラー変位によって導入された受信信号の伸び縮みを補償している。
【0021】
その後、「FFT」ブロックにより、OFDM復調の主処理であるフーリエ変換(FFT)を行う。
このFFTによる出力には、送信側の処理において、音響信号から変換された複素シンボルと、パイロット信号に挿入された複素シンボルが含まれている。
このうち、パイロット信号に挿入された複素シンボルを用いて、「Modified Delay and Doppler profiler」(修正型遅延およびドップラープロファイラー)ブロックにより、
図1で示した経路L1を伝送する音響信号(以下「直接波」という。)および経路L2を伝送する音響信号(以下「遅延波」という。)に関するパラメータを推定することができる。
【0022】
この直接波および遅延波に関するパラメータを用いれば、OFDMで同時に伝送される、OFDM復調した、音響信号から変換された複素シンボルと、パイロット信号に挿入された複素シンボルと、の間の干渉を含む伝達特性を解析することが可能になり、この干渉を除去するキャリア間干渉除去係数の計算も可能になる。
干渉除去係数は、
図2下段の「ICI Cancel Coef. generation」ブロック(キャリア間干渉(Inter Carrier Interference)除去係数の生成)で計算される。
【0023】
このキャリア間干渉除去係数を用いた干渉除去は、「Multi Tap Equalizer」ブロック(複数Tap等化器)において実行され、音響信号から変換された複素シンボルは、QPSK/16QAM/64QAM等にデジタル変調される。
その後、「De-map」(デマップ)ブロックにより、受信データ(ビットデータ)に変換され、送信側から受信側にデジタルビットデータが伝送されたことになる。
【0024】
図3は、時間方向に複数あるOFDM信号を、横軸時間、縦軸周波数の2次元平面で表し、複素変調されたサブキャリアシンボルを丸印で配置した図である。
(31)は、OFDM信号である「OFDM symbol」(本明細書では「OFDMシンボル」とも表示する。)を時間に対応した横長のブロックで表したもので、(32)は、OFDM信号の先頭に付けられる、OFDM信号の後ろ部分をコピーしたガードインターバル(GI)部分を示し、サイクリック・プレフィックス(CP)を意味する。
1つのOFDM シンボルには、
図2の「Bit Data」で示された音響信号をデジタル変調した複素シンボル(34)と、パイロット信号に挿入された複素シンボル(35)及び(36)が含まれている。
【0025】
黒色の丸印で示された(35)のパイロットは、スキャッタードパイロット(Scattered Pilot:SP)と呼ばれ、
図3では、周波数方向インデックスの奇数の番号に横方向(時間方向)に配置されている。
薄黒色の丸印で示された(36)のパイロットは、コンティニュアウスパイロット(Continuous Pilot:CP)と呼ばれ、
図3では、周波数方向インデックスの偶数の番号に横方向(時間方向)に配置されている。
このようにして、
図2の「Bit Data」で示された音響信号をデジタル変調した複素シンボル(34)と、パイロット信号に挿入された複素シンボル(35)及び(36)は、
図3に示すように、2次元平面に表すことができる。
【0026】
図4は、本発明にかかる水中OFDM通信システム及び通信方法において受信トランスデューサー(14)が音響信号を受信する処理手順を示すブロック図である。
受信トランスデューサー(14)に伝送された音響信号は、微弱な電気信号に変換され、
図4上段の左端の「PreAMP」ブロックにより、低ノイズ増幅器で信号増幅される。
その後、「ADC」ブロックにより、アナログ信号からデジタル信号(デジタル数値列)に変換される。
「Fs」は、本発明にかかる水中OFDM通信システム及び通信方法のサンプリング周波数を示している。
【0027】
その後、「Down-cnv」ブロックのダウンコンバージョン処理により、デジタル信号に変換された音響信号(受信信号)は、複素ベースバンド信号に変換される。
(41)は、受信信号の伸び縮み処理を行う「Resample and De-rotate」ブロックである。
「Resample and De-rotate」は、複数のOFDMシンボルに対して行われ、本実施例では2つのOFDMシンボルごとに行われる。
【0028】
図中の「β1」は、現在の処理の一つ前の処理で検知された伸び縮み比率を意味し、図中の「β2」は、現在の処理で検知された伸び縮み比率を意味する。
したがって、β2はβ1よりも高精度の伸び縮み比率である。
「Resample and De-rotate」では、このβ1よりも高精度の伸び縮み比率であるβ2を用いて、受信信号の伸び縮み処理を行う。
【0029】
この伸び縮み処理は、信号処理的にはリサンプル及びデロテーションであり、デロテーション処理とは、周波数の補正を意味するが、ここでは信号は複素数で表現されており、振動が回転として数学的に表現されるので、回転を示すローテーションに対して逆回転の意味でデロテーションという名称で表現している。
【0030】
その後、「Resample and De-rotate」ブロック(41)の出力に関して、位相シフトの調整を「Phase Shift Compensation」ブロック(42)で行う。
この(41)及び(42)のブロックにおける処理は、
図2の「Time-domain Pre-processing」ブロックの時間ドメイン事前処理に相当する。
【0031】
「3rd FFT」(43)は、OFDM復調の主処理であるフーリエ変換(FFT)を行うブロックである。
「ADC」ブロックによってアナログ信号から変換されたデジタル数値列は、(41)及び(42)のブロックにおける時間ドメイン事前処理(「Time-domain Pre-processing」ブロック)を経て、「3rd FFT」(43)によって離散フーリエ変換され、離散フーリエ変換後の周波数領域信号が解析される。
【0032】
解析にあたっては、離散フーリエ変化の出力信号(周波数領域信号)に含まれる複素シンボルのうち、パイロット信号に挿入された複素シンボルのスキャッタードパイロットを利用して、伝送路ごとに、スキャッタードパイロットの配置部分の伝送路伝達関数(Channel Transfer Function:CTF)が計測される。
この計測値を用いて、「Modified Delay and Doppler Profiler」(修正型遅延及びドップラープロファイラー)ブロック(44)で、受信トランスデューサー(14)に伝送された音響信号(受信波)を構成する、伝送路ごとの各伝搬波(直接波及び遅延波)の各種パラメータが推定される。
各種パラメータの詳細は、後記する。
【0033】
推定した各伝搬波(直接波及び遅延波)の詳細なパラメータを用いれば、後記する式(7)、式(8a)、式(8b)に基づいて、OFDMで同時に伝送される音響信号から変換された複素シンボルと、パイロット信号に挿入された複素シンボルの間の干渉を含む、シンボル番号kにおける送信信号のn番目サブキャリアから受信信号のl番目のサブキャリアの伝送路伝達関数h(k,l,n)を推定することが可能であり、この干渉を除去するキャリア間干渉除去係数の計算も可能になる。
キャリア間干渉除去係数は、
図4下段の「ICI Cancel Coef. Generation」ブロック(キャリア間干渉(Inter Carrier Interference)除去係数の生成)(45)で計算される。
キャリア間干渉除去係数の計算は、後記する式(6)によって算出できる。
【0034】
このキャリア間干渉除去係数を用いたキャリア間干渉を除去する処理は、「Multi Tap Equalizer」ブロック(複数Tap等化器)(46)において実行され、干渉が除去された複素シンボルが「EQ_OUT2」から出力される。
「Multi Tap Equalizer」ブロック(複数Tap等化器)(46)は、
図4に示すとおり、「x」で示される複数の「複素乗算器」が並列に動作する処理手段である。
具体的には、「3rd FFT」(43)によって離散フーリエ変換された出力信号の「Z
-1」で示される「シフトレジスタ」でシフトされる数値部分列のそれぞれに対し、「ICI Cancel Coef. Generation」ブロック(45)から生成されるキャリア間干渉除去係数をもとに、複数の「複素乗算器」で乗算することにより、キャリア間干渉を除去する。
例えば、「Z
-1」で示される「シフトレジスタ」でシフトされる数値部分列の幅を「NumCOL」なる奇数整数と仮定して、「複素乗算器」の中央部のサブキャリアがl番目とすると、その両側は「l-NumCOL/2」から「l+NumCOL/2」のサブキャリアに対応することから、l番目のサブキャリアに対して隣接サブキャリアへの干渉成分を引き去る(除去する)処理を行うことで、キャリア間干渉を除去している。
【0035】
図5は、受信トランスデューサー(14)が移動しながら、送信トランスデューサー(13)から、直接波(
図1で示した経路L1を伝送する音響信号)の1波のみを受信した場合の、受信したOFDM信号(OFDM symbol)を時間に対応した横長のブロック(図中の「Main Path#1」は「直接波」を意味する。)で表した図である。
図中の「k-2」、「k」の各OFDM信号は、スキャッタードパイロットが配置された信号を示している。
【0036】
上段は、受信トランスデューサー(14)が、送信トランスデューサー(13)から音響信号が伝送されてから、その音響信号を受信するまでの間、水中を移動していない場合の、3つのOFDM信号を示している。
中段及び下段は、受信トランスデューサー(14)が、送信トランスデューサー(13)から音響信号が伝送されてから、その音響信号を受信するまでの間、水中を移動している場合の、3つのOFDM信号を示している。
つまり、中段及び下段は、受信信号(OFDM信号)が伸びている状況、すなわち、受信トランスデューサー(14)と送信トランスデューサー(13)の間の音響信号の伝搬距離が、受信トランスデューサー(14)が、送信トランスデューサー(13)から音響信号が伝送されてから、その音響信号を受信するまでの間、水中を移動することによって拡大している状況を示している。
【0037】
下段は、中段のOFDM信号に対し、次の伸び縮みを補正する手段を適用した場合を表している。
1.低い精度の伸び縮み比率β1によるリサンプル及びデロテーション
2.リサンプルされた出力信号を用いて高い精度の伸び縮み比率β2を検知
3.高い精度の伸び縮み比率β2を用いたリサンプル及びデロテーション
【0038】
伸び縮みを補正する手段を適用した場合、下段に示すように、受信トランスデューサー(14)が、送信トランスデューサー(13)から音響信号が伝送されてから、その音響信号を受信するまでの間、水中を移動していることで、ドップラー変位によって導入された受信信号の伸び縮みが、補正によって補償され、移動していない場合を示す上段に近い受信波形を実現できていることを示している。
【0039】
図6は、受信トランスデューサー(14)が移動しながら、送信トランスデューサー(13)から、直接波(
図1で示した経路L1を伝送する音響信号)と、直接波とは角度θの分だけずれた方向から到来する遅延波(
図1で示した経路L2を伝送する音響信号)と、の計2波を重畳して受信した場合の、受信したOFDM信号(OFDM symbol)を時間に対応した横長のブロックで表した図である。
つまり、
図6の横長のブロックは、
図5の「Main Path#1」(
図6の説明において、以下「直接波」という。)に「Delayed Path#2」(「Delayed Path#2」は「遅延波」を意味し、
図6の説明において、以下「遅延波」という。)が追加されている。
【0040】
上段は、受信トランスデューサー(14)が、送信トランスデューサー(13)から音響信号が伝送されてから、その音響信号を受信するまでの間、水中を移動していない場合の、3つのOFDM信号を示している。
中段及び下段は、受信トランスデューサー(14)が、送信トランスデューサー(13)から音響信号が伝送されてから、その音響信号を受信するまでの間、水中を移動している場合の、3つのOFDM信号を示している。
つまり、中段及び下段は、受信信号(OFDM信号)が伸びている状況、すなわち、受信トランスデューサー(14)と送信トランスデューサー(13)の間の音響信号の伝搬距離が、受信トランスデューサー(14)が、送信トランスデューサー(13)から音響信号が伝送されてから、その音響信号を受信するまでの間、水中を移動することによって拡大している状況を示している。
【0041】
直接波と遅延波は、混合した信号として受信されることから、遅延波に対する伸び縮みの補正は、直接波と同じように行われる。
また、直接波と遅延波の到来角度の差が0度、すなわち、全く差がなく、同じ方向から到来する場合には、遅延波に対するドップラー変位によって導入された信号の伸び縮みは、直接波と同じリサンプル及びデロテーション処理によって補正される。
【0042】
しかし、通常、遅延波が到来する方向は、直接波が到来する方向とは一致せず、伸び縮み比率が異なる。
そこで、直接波と遅延波の到来角度の差がθ度、直接波の速度がv、遅延波が速度vcosθであると仮定し、遅延波に、直接波と同じように、伸び縮みを補正する手段を適用した場合、下段の「Delayed Path#2」のブロックに示すように、縮み過ぎてしまう。
なお、図中の「v・(1-cosθ)」は、伸び縮み比率を示している。
【0043】
つまり、OFDM信号が、複数の異なる経路を伝搬し、異なる方向(角度)から受信器に到来するマルチパス環境下におけるOFDM信号処理では、前述のリサンプル及びデロテーション処理を適用しても、遅延波に対するドップラー変位によって導入された信号の伸び縮みは、完全には補正されず、キャリア間の直交性に乱れが生じ、OFDM信号の復調処理時にキャリア間干渉が生じることになる。
【0044】
図7は、
図4の「水中OFDM通信システム及び通信方法において受信トランスデューサー(14)が音響信号を受信する処理手順」で利用する「Modified Delay and Doppler Profiler」(修正型遅延及びドップラープロファイラー)ブロック(44)によって明らかにした、受信トランスデューサー(14)に伝送された音響信号(受信波)を構成する各伝搬波(直接波及び遅延波)の各種パラメータを用いて、OFDMで同時に伝送される音響信号から変換された複素シンボルと、パイロット信号に挿入された複素シンボルの間の干渉を除去するキャリア間干渉除去係数を生成する手順を示した図である。
【0045】
図8は、
図7の「Modified Delay and Doppler Profiler」(修正型遅延及びドップラープロファイラー)ブロック(44)を、従来の、電波等での受信システム及び通信方法に利用されるリサンプル及びデロテーション処理(「Delay and Doppler Profiler」(遅延及びドップラープロファイラー)ブロック(44))を利用する場合を示した図である。
【0046】
図8の従来の方法では、OFDMシンボルのスキャッタードパイロットを用いて、マルチパスを構成する遅延波iごとに、複素減衰係数r
i、相対遅延時間τ
i、ドップラー周波数シフト量α
iの各パラメータを求めていた。
しかし、電波通信であれば、通常利用する周波数帯域幅B(Hz)と、その利用する信号の中心周波数fc(Hz)を比較すると、B<<fc、すなわち、fcがBよりも十分大きい条件が成り立つため、複素減衰係数r
i、相対遅延時間τ
i、ドップラー周波数シフト量α
iの計3つのパラメータによる遅延波解析によって近似値を算出できるが、水中音響通信では、通常、fcがBよりも十分大きい条件が成り立たないので、信号を受信する側で、受信信号を伸び縮みさせる処理が必要になる。
【0047】
ところが、直接波だけでなく、遅延波が存在し、遅延波が、直接波とは、角度θの分だけ、ずれた方向から到来する場合には、
図6の中央に四角の枠内に示された次の3つの処理からなる受信信号の伸び縮み処理をすると、
図6の最下段の「Delayed Path#2」(遅延波)のとおり、補正がされず、伸び縮み比率が変化したように見える。
1.Rough Resampled and De-rotate by β1
低い精度の伸び縮み比率β1によるリサンプル及びデロテーション
2.Detect β2=β1*(1+(de-ds)/(GI+FFTsize)/4)
リサンプルされた出力信号を用いて高い精度の伸び縮み比率β2を検知
3.Fine Resampled and De-rotate by β2
高い精度の伸び縮み比率β2を用いたリサンプル及びデロテーション
【0048】
すなわち、遅延波は、OFDM信号の復調処理時にキャリア間干渉が生じる、という問題がある。
サンプリングクロック誤差を補正することは、結果的に、受信信号を伸び縮みさせることに対応するが、受信信号を伸び縮みさせることは、時間領域での処理であり、
図4の「3rdFFT」ブロック(43)よりも前の、受信信号の伸び縮み処理を行う「Resampled and De-rotate 」ブロック(41)の処理である。
そのため、「3rdFFT」ブロック(43)以後は、受信信号は周波数領域の信号となり、受信信号を伸び縮み処理することができない。
【0049】
本発明では、「Delayed Path#2」(遅延波)のような時間領域での伸び縮み処理で補償できなかった影響を、キャリア間干渉をキャンセル(除去)することにした。
キャリア間干渉を除去するためには、B<<fcが成立しない場合に、
図7に示すように、マルチパスを構成する遅延波に対して、サンプリングクロック誤差β
pを追加する必要がある。
そこで、
図7に示すように、マルチパスを構成する遅延波pごとに、複素減衰係数r
p、相対遅延時間τ
p、ドップラー周波数シフト量α
pのほか、サンプリングクロック誤差β
pを求めることで、キャリア間干渉係数を求め、その逆処理を行うことでキャリア間干渉を除去する。
【0050】
なお、サンプリングクロック誤差は、伸び縮み比率と同じ「β」の記号によって表しているが、これは、サンプリングクロック誤差の補正が、受信信号の伸び縮みさせることに対応するためである。
受信信号そのものを伸び縮みさせるのは、時間領域での処理、すなわち、
図4の「3rdFFT」ブロック(43)以前の処理であり、「3rdFFT」ブロックによる処理以後の信号は、周波数領域での信号である。
以下の数式における「β(
p)」等は、周波数領域での信号処理計算に対応するため、「伸び縮み比」という名称を使わず、サンプリングクロック誤差として表している。
【0051】
図2下段及び
図4(45)の「ICI Cancel Coef. generation」ブロック(キャリア間干渉(Inter Carrier Interference)除去係数生成)の計算に利用されるサンプリングクロック誤差β
pは、次の数式によって導出できる。
【0052】
【0053】
式(1)は、送信信号のベースバンド信号である。
式(2)のように、OFDMシンボル長とガードインターバル長の和であるシンボル長Tsは、式(2)で与えられる。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
式(4)は、Np個の伝送路を経由して受信されたベースバンド信号を示しており、マルチパスを構成する遅延波pに対して、複素減衰係数rp、相対遅延時間τp、ドップラー周波数シフト量Δfpを用いて示すことができる。
【0058】
【0059】
式(5)は、式(4)の受信信号をサンプリングする時間を離散化するための変換式である。
これは、
図4のADC(アナログ・デジタルコンバーター)でのPreAMPからのアナログ信号を離散信号列に変換する。
このADCサンプリング周波数Fsのサンプリングクロック誤差をγとしている。
サンプリングクロック誤差γは1万分の1程度の小さな値である。
なお、このサンプリングクロック誤差γは、サンプリングクロック誤差β
pが、「Resample De-rotate」ブロック(41)による処理の後、「3rd FFT」(43)にて周波数領域信号に離散フーリエ変換された後、「Modified Delay and Doppler Profiler」ブロック(44)で検知されるチャネルで伝搬する複数の伝搬波のp番目の波に対するサンプリングクロック誤差である点で、両者は異なる。
また、サンプリングクロック誤差γは、「Resample De-rotate」ブロック(41)のβ1やβ2とも異なる。
【0060】
離散化された受信信号に対して離散フーリエ変換を適用すると、式(6)を得られる。
【0061】
【0062】
d(k,n)は、送信シンボルであり、
図3に示すように、時間方向に複数あるOFDM信号を、横軸時間、縦軸周波数の2次元平面で表し、丸印で配置した複素変調されたサブキャリアシンボルに相当する複素数値である。
kは時間方向インデックスであり、
図3の列番号に対応する。
nは周波数インデックスであり、
図3の行番号に対応する。
lは周波数方向のインデックスである。
受信後に3rdFFTを実行し、その出力は
図3と同様に配置した場合の行番号に対応する。
そのため、式(6)の左辺は、3rdFFTの出力に相当し、受信側の受信シンボルに対応している。
【0063】
式(6)の右辺の1項目は、周波数インデックスにある送信シンボルd(k,l)からの伝送が、伝達係数h(k,l,l)でなされることを示しており、キャリア間干渉がない場合の主成分である。
式(6)の右辺の2項目は、受信キャリアインデックスとは異なる送信キャリアからの成分であり、キャリア間干渉を示す成分となっている。
【0064】
特に、h(k,l,n)が、この関与を示す係数であり、送信キャリアインデックスnから受信キャリアインデックスlへの干渉係数を示している。
この係数はl=nで大きな値を取り、lとnの差が大きくなるにつれて減少する。
式(6)の右辺の3項目のw(k,l)は、ノイズ成分である。
したがって、nがl-1からl+1までの範囲を考え、ノイズであるw(k,l)を無視すると、以下の式で表すことができる。
3x3の行列の逆行列を左からかけると、次のように変形できる。
そして、この一部を取り出すと、
となり、この3つの複素数係数d, e, fがキャリア間干渉除去係数となる。
なお、この3X3の行列計算を拡大することで、精度を向上させることができる。
【0065】
【0066】
式(8a)及び(8b)で示される各遅延波インデックスpに関する遅延波の伝送路伝達関数hp(k,l,n)を総和すると、式(7)のh(k,l,n)が得られる。
【0067】
【0068】
【0069】
図7に示すように、インデックスk及びk-2に埋め込まれたスキャッタードパイロットの配置部分の伝送路伝達関数h(k,l,l)は、受信側で計測可能である。
そこで、式(9)のコスト関数を考える。
x(k,l)、x(k-2,l)は、受信信号を離散フーリエ変換して得られるシンボル値であり、d(k,l)、d(k-2,l)は、送信シンボル値であるが、式(9)に示す総和(シグマ)は、スキャッタードパイロットの配置部分だけが計算される。
送信シンボル値は、すべて事前に決まっている値である。
【0070】
ここで、
はシンボル番号kでの、スキャッタードパイロットで計測された他キャリアからの干渉ノイズが重畳された伝送路伝達関数h(k,l,l)であり、
は、シンボル番号k-2での、スキャッタードパイロットで計測された他キャリアからの干渉ノイズが重畳された伝送路伝達関数h(k-2,l,l)である。
【0071】
ここで、伝送路伝達関数h(k,l,n)は、シンボル番号kにおける送信信号のn番目サブキャリアからl番目サブキャリアの伝送路伝達関数を示しており、スキャッタードパイロットで計測された伝送路伝達関数h(k,l,l)は、送信信号と受信信号が同じl番目サブキャリアの伝送路伝達関数を示している。
【0072】
【0073】
このコスト関数を最小化することにより、
図7に示される各遅延波のパラメータを求めることができる。
求める手順は、受信信号に含まれるパワーの大きい遅延波の要素から、遅延波1波ごとに、対応するパラメータ4種を求める。
【0074】
【0075】
【0076】
式(10)及び(11)は、1波目の4パラメータr1、τ´1、α1、β1を利用して、1波目をモデリングし、式(9)に代入したものである。
式(11)を最小化することで、この4パラメータを求める。
ここで、τ´1は単位を変更し、サンプリングポイント数を単位として遅延時間を示すものであり、α1はドップラー周波数シフトをOFDMのサブキャリア間隔周波数f0で割ることで、無次元化したものに変換している。
E1(k)を最小化することで、各種パラメータを求めるので、E1(k)をr1で複素微分し、0にすることで、式(12a)及び(12b)を得られる。
【0077】
【0078】
【0079】
また、r1を式(11)に代入すると式(13a)を得られる。
【0080】
【0081】
式(13a)の分数の分母は、それほど大きく値が変化する部分ではない。
すなわち、式(13b)を最大化すれば、E1(k)を最小化することができる。
【0082】
【0083】
【0084】
式(13c)のF(α1)をα1で微分し、0とおくことで、式(14)を得られる。
【0085】
【0086】
τ´1を求めるために、種々の値を代入して、ラフに真値に近い値を探し、ニュートン法のよる収束法で値を求めることが可能である。
追加されたβ1パラメータもラフにτ´1を求めることができる。
【0087】
ところで、本願発明における伝送路のチャネル特性を推定する手段は、「Modified Delay and Doppler Profiler」(修正型遅延及びドップラープロファイラー。以下「mDDP」ともいう。)ブロック(44)により、パイロットシンボルの伝送路係数を入力としているが、受信側が移動する移動通信では、ドップラーシフトの影響で、OFDMを構成する各サブキャリアのシンボル同士の直交性に乱れが生じる。
具体的には、あるサブキャリア番号lの値が、サブキャリア番号の近い他のサブキャリアに干渉する。
すなわち、移動受信では、サブキャリアの伝送路係数h(k,l,l)はキャリア間の干渉により、干渉成分が多重され、値の精度が低下する、という問題があった。
【0088】
また、この精度の低下した伝送路係数h(k,l,l)は、mDDPの入力であるので、伝送路のチャネル特性の推定に用いるパラメータの精度が劣化し、このパラメータに基づいて行われる伝送路伝播後の受信信号から伝送路で発生した歪みや干渉を除去する精度も低下するため、結果的に受信側での受信データのエラー率が向上する、という問題があった。
【0089】
これらの問題を解決するためには、正確な伝送路のチャネル特性を求める必要があるが、伝送路のチャネル特性を求める手段として、以下の実施例のとおり、mDDPを繰返し適用することで、伝送路のチャネル特性を示すチャネルパラメータの推定精度を向上させ、受信側のOFDM信号の復調処理時のビットエラー率を低減させ、より高性能な無線通信を実現できる。
【0090】
図9は、水中音響通信における受信側の処理の一実施例を示すブロック図である。
水中を伝播した水中音響通信におけるOFDM信号は、トランスデューサーで受信される。
その後、
図9の「PreAMP」ブロックで増幅され、「ADC」ブロックでアナログ信号からデジタル信号(デジタル数値列)に変換され、離散信号列に変換される。
「Fs」はサンプリング周波数を意味する。
【0091】
その後、「Down-Conv.」ブロックのダウンコンバージョン処理により、受信部で受信された信号は、複素ベースバンド信号に変換される。
OFDM複素変調の主復調として、FFTブロック(111)で離散フーリエ変換を行う。
【0092】
このFFTブロック(111)による処理は、離散フーリエ変換の高速処理アルゴリズムであり、入力の時間領域信号が、どのような周波数信号から構成されているかに分解するものあるので、このFFT処理以後の信号は「周波数領域信号」と呼ばれ、FFTブロック(111)による処理前の「時間領域信号」と区別される。
【0093】
この「周波数領域信号」を、水中音響通信におけるOFDM通信システムの、時間方向に複数あるOFDM信号を、時間(横軸)、周波数(縦軸)の2次元平面で表し、複素変調されたサブキャリアシンボルを丸印で配置した
図10を使って説明する。
【0094】
各丸印は、複素シンボルであり、塗り潰しが無い丸印は、データを運ぶシンボルを示し、網掛線で示された丸印は、離散パイロット信号を示し、それぞれ予め決められた値である。
塗り潰された丸印は、連続パイロットを示し、周波数軸の特定のキャリア番号に挿入されたパイロット信号であり、時間方向に連続なので、時間方向の変化を測定するために利用できる。
【0095】
チャネル伝達関数(CTF:Channel Transfer Function)を求めるCTF生成ブロックである
図9の「CTF at SP」ブロック(112)は、離散パイロット信号の「ある場所」(時間インデックスk、周波数インデックスl(エル))の値から伝送路係数h(k,l,l)を求めている。
ここで、
図10の各丸印の送信側のシンボルをd(k,l)、受信側のシンボルを
とすると、式(15)の関係を示すことができる。
【0096】
【0097】
式(15)の右辺の1項目は、送信側と受信側の周波数インデックスl(エル)が一致しているので、同じ周波数のサブキャリアでの伝送であり、これが主たる伝送成分を示している。
式(15)の右辺の2項目は、送信側の周波数インデックスnは受信側の周波数インデックスl(エル)と一致しない場合の総和を示しており、異なるキャリアからの干渉を示している。
式(15)の右辺の3項目は、ノイズに対応している。
したがって、h(k,l,n)は、キャリア間干渉を示す係数を意味する。
【0098】
図9の、1回目の「1st Coarse Modified Delay and Doppler Profiler」(修正型遅延及びドップラープロファイラー)ブロック(113)及び2回目の「2st Fine Modified Delay and Doppler Profiler」(修正型遅延及びドップラープロファイラー)ブロック(116)の詳細を、mDDPブロックによって推定する各伝搬波(直接波及び遅延波)の各種パラメータを示す
図11をもとに説明する。
【0099】
この実施例では、SPのある位置の伝送路係数h(k,l,l)及び時間方向インデックスが、2つ前の伝送路係数h(k-2,l,l)の値を入力として、伝送路チャネルの係数を、
図11の表のとおりに検知する。
なお、周波数インデックスl(エル)は、SPが配置された部分を示す。
【0100】
「Modified Delay and Doppler Profiler」(修正型遅延及びドップラープロファイラー)の詳細は、前記した[0032]、[0044]乃至[0050]のとおりである。
【0101】
1回目の「Modified Delay and Doppler Profiler」(修正型遅延及びドップラープロファイラー)(113)の入力は、式(15)の右辺の2項目、3項目を無視することで、式(16a)(16b)のように表すことができる。
【0102】
【0103】
【0104】
仮に、ドップラーシフトの影響が大きく、式(15)の2項目が無視できない場合には、伝送路係数h(k,l,l)及び2つ前の伝送路係数h(k-2,l,l)の精度が低下する、という問題がある。
その場合には、式(15)の2項目を無視せず、式(15)の3項目のみを無視することで、精度の向上を期待できる。
このように、式(15)の3項目のみを無視した場合、式(17a)(17b)のように表すことができる。
【0105】
【0106】
【0107】
式(17b)を計算するには、h(k,l,n)及びh(k-2,l,n)を求める必要がある。
そのためには、
図11の表で示されている、伝送路を構成する各伝搬経路Path番号p(
図11の「Path No.p」)に対して、それぞれ複素減衰係数、相対遅延時間、ドップラー周波数シフト量及びサンプリングクロック誤差が分かれば、前記した[0065]乃至[0068]のとおり算出できる。
【0108】
式(17a)(17b)の右辺は、干渉成分の総和を引き算しており、この演算は、
図9の「ICI Remove」ブロック(114)によって行っている。
そして、ノイズ低減CTFの計算を行う「Denoised CTF at SP」ブロック(115)で、式(17a)(17b)の左辺が計算され、2回目の「2nd Fine Modified Delay and Doppler Profiler」(修正型遅延及びドップラープロファイラー)ブロック(116)で同様の計算がされる。
すなわち、入力精度の向上が期待でき、その出力である
図11の右表内の推定パラメータの精度向上が期待できる。
これ以後の処理は、前記した[0032]乃至[0034]と同じで、マルチタップ等化器(118)でキャリア間干渉が低減された送信シンボルd(k,l)の推定値が計算される。
【0109】
以上のとおり、「Modified Delay and Doppler Profiler」(修正型遅延及びドップラープロファイラー)を少なくとも2回適用することで、送信シンボル値の推定精度を向上させることができる。