(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025019418
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】汚染土壌または汚染水の浄化方法
(51)【国際特許分類】
B09C 1/08 20060101AFI20250131BHJP
【FI】
B09C1/08 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123025
(22)【出願日】2023-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】503209526
【氏名又は名称】株式会社セロリ
(71)【出願人】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】晴山 渉
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】久保 歩未
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA41
4D004AB05
4D004AB06
4D004CA34
4D004CC11
4D004CC15
(57)【要約】
【課題】化学物質に汚染された土壌および地下水を高効率且つ確実に浄化することが可能な土壌・地下水の浄化方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明にかかる土壌・地下水の浄化方法の構成は、化学物質に汚染された土壌および地下水102を浄化する土壌・地下水の浄化方法であって、過硫酸塩と鉄塩と糖類を土壌および地下水に注入することを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学物質に汚染された土壌および地下水を浄化する土壌・地下水浄化方法であって、
過硫酸塩と鉄塩と糖類を前記土壌および地下水に注入することを特徴とする土壌・地下水の浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質に汚染された土壌や水を浄化する土壌および水の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場等の施設では、トリクロロエチレン(TCE)、テトラクロロエチレン(PCE)等の有機塩素化合物や、ベンゼン等の芳香族炭化水素(以下、それらを化学物質と称する)が広く用いられている。これらの化学物質には発がん性等の有害性を有するものもあるため、近年ではそれらの化学物質による土壌汚染や地下水汚染が大きな課題となっていた。
【0003】
化学物質に汚染された土壌や地下水の浄化方法の1つとしては、例えば特許文献1には、「化学物質に汚染された土壌及び地下水に過硫酸塩及び有機酸鉄を注入して、酸性側のpHで土壌及び地下水を浄化する化学物質汚染の処理方法」が開示されている。特許文献1によれば、かかる構成によって、化学物質に汚染された土壌および地下水において、従来の過硫酸塩による処理よりも安全で効率よく化学物質を処理することができるとしている。
【0004】
特許文献2には、「(A)少なくとも一種の過酸化物(例えば過硫酸塩)と、(B)不飽和カルボン酸類、ヒドロキシカルボン酸類、単糖類、及び二糖類からなる群より選択される少なくとも一種以上を混合させた化学物質分解組成物(鉄イオンが除外されている)」を「化学物質に汚染された土壌・地下水等と接触させることにより、当該化学物質を分解処理する」ことが開示されている。特許文献2によれば、四塩化炭素等の難分解性物質も酸化分解することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5368201号公報
【特許文献2】特開2017-043706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によれば、過硫酸塩および有機酸鉄を注入することによって土壌や地下水に含まれる化学物質を処理することができるとしている。特許文献2によれば、(A)少なくとも一種の過酸化物と、(B)不飽和カルボン酸類、ヒドロキシカルボン酸類、単糖類、及び二糖類からなる群より選択される少なくとも一種以上を混合させている(鉄イオンが除外されている)。しかし、いずれも分解効果が高いとは言えず、さらなる効率の向上を図る必要があった。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、化学物質に汚染された土壌および地下水を高効率且つ確実に浄化することが可能な土壌・地下水の浄化方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる土壌・地下水の浄化方法の代表的な構成は、化学物質に汚染された土壌および地下水を浄化する土壌・地下水浄化方法であって、過硫酸塩と鉄塩と糖類を土壌中あるいは地下水に注入するまたは土壌と混合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、化学物質に汚染された土壌および地下水を高効率且つ確実に浄化することが可能な土壌・地下水浄化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態にかかる土壌・地下水の浄化方法を説明する図である。
【
図2】糖によるTCEの分解促進効果を説明するグラフである。
【
図3】単糖類によるTCEの分解促進効果を説明するグラフである。
【
図4】二糖類によるTCEの分解促進効果を説明するグラフである。
【
図5】多糖類によるTCEの分解促進効果を説明するグラフである。
【
図6】糖類の分類によるTCEの分解促進効果の比較を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0012】
図1は、本実施形態にかかる土壌・地下水の浄化方法を説明する図である。本実施形態の土壌浄化方法では、過硫酸塩と鉄塩と糖類を、
図1に示すように土壌に配置された注入管104を通じて土壌および地下水102に注入することにより、トリクロロエチレン(TCE)、テトラクロロエチレン(PCE)等の有機塩素化合物や、ベンゼン等の芳香族炭化水素(以下、それらを化学物質110と称する)に汚染された土壌および地下水102を浄化する。
【0013】
過硫酸塩としては、特に限定されず、公知慣用のものを用いることができる。過硫酸塩としては、例えば、ペルオキソ一硫酸カリウム(過硫酸水素カリウム、一過硫酸カリウム、モノ過硫酸水素カリウムとも呼ばれる。)、ペルオキシ一硫酸ナトリウム、ペルオキシ一硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等が挙げられる。これらの過硫酸塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組合せて使用してもよい。鉄塩としては、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)等が挙げられる。糖類としては、単糖類、二糖類、多糖類のいずれを用いることもできる。
【0014】
なお、過硫酸塩、鉄塩、糖類を投入する順序は、理論上は同時でよい。ただし現場で土壌・地下水に投入する場合は、過硫酸塩を入れた後に、鉄と糖を入れた方が効果的である。これにより地下環境で薬品を遠くまで届かせることができる。また井戸があれば井戸から地下水脈に投入してもよいし、土壌に直接薬品を混錬してもよい。
【0015】
以下、図面を参照して本実施形態の土壌・地下水浄化方法の効果について説明する。なお、以下に参照する図面のグラフでは、縦軸をTCE濃度(mg/L)とし、横軸を時間(h)としている。
【0016】
図2は、糖によるTCEの分解促進効果を説明するグラフである。
実施例1は、過硫酸塩、鉄塩としての硫酸鉄、糖類としてのグルコースおよびTCEの物質量比を、20:5:2:1としている。
比較例1は、過硫酸塩、鉄塩としての硫酸鉄、糖類としてのグルコースおよびTCEの物質量比を、20:5:0:1としている。すなわち比較例1は糖類を不添加としている。
比較例2は、過硫酸塩、鉄塩としての硫酸鉄、糖類としてのグルコースおよびTCEの物質量を、20:0:2:1としている。すなわち比較例2は鉄塩を不添加としている。
比較例3は、過硫酸塩、鉄塩としての硫酸鉄、糖類としてのグルコースおよびTCEの物質量比を、0:5:2:1としている。すなわち比較例3は過硫酸塩を不添加としている。
比較例4は、過硫酸塩、鉄塩としての硫酸鉄、糖類としてのグルコースおよびTCEの物質量比を、0:0:2:1としている。すなわち比較例4は過硫酸塩および鉄塩を不添加としている。
【0017】
図2に示すように、過硫酸塩、鉄塩としての硫酸鉄、糖類としてのグルコースのすべてを添加した実施例1では、時間の経過によりTCE濃度が著しく低下し、5時間後にはTCE濃度はほぼ0%となる。これに対し、過硫酸塩、鉄塩としての硫酸鉄、糖類としてのグルコースのうち、いずれか1つまたは2つを添加した比較例1-比較例4では、TCE濃度は、経時によっての若干の上下動は生じているものの顕著な低下が認められない。このことから本実施形態の土壌・地下水の浄化方法のように、過硫酸塩および硫酸鉄と併せて糖類を添加することにより、高いTCE分解効果が得られることがわかる。
【0018】
図3は、単糖類によるTCEの分解促進効果を説明するグラフである。
実施例1では、単糖類としてグルコースを用いている。
実施例2では、単糖類としてフルクトースを用いている。
実施例3では、単糖類としてガラクトースを用いている。
実施例1-3における過硫酸塩、鉄塩としての硫酸鉄、単糖類およびTCEの物質量比は、20:5:2:1としている。
【0019】
図3に示す実施例1-3のように、糖類として単糖類を用いた場合、単糖類の種類にかかわらず、TCE濃度は、時間経過とともに低下して最終的にはほぼ0%となる。これに対し、比較例1では7時間経過後のTCE濃度は60%程度に留まっている。このことから本実施形態の土壌・地下水の浄化方法によれば、単糖類の種類にかかわらず高いTCE分解効果が得られることがわかる。
【0020】
図4は、二糖類によるTCEの分解促進効果を説明するグラフである。
実施例4では、二糖類としてマルトースを用いている。
実施例5では、二糖類としてスクロースを用いている。
実施例6では、二糖類としてラクトースを用いている。
実施例4-6における過硫酸塩、鉄塩としての硫酸鉄、二糖類およびTCEの物質量比は、20:5:2:1としている。
【0021】
図4に示す実施例4-6に示すように、糖類として二糖類を用いた場合においても、二糖類の種類にかかわらず、TCE濃度は時間とともに低下する。比較例1では7時間経過後のTCE濃度は60%程度に留まっている。このことから、本実施形態の土壌・地下水の浄化方法によれば、二糖類の種類にかかわらず高いTCE分解効果が得られることがわかる。
【0022】
また
図4を参照すると、実施例4および実施例6ではTCE濃度が0%となるまでに7時間かかるのに対し、実施例5では5時間でTCE濃度が0%となる。したがって、二糖類としては、マルトース、スクロースおよびラクトースのうち、スクロースが最も高いTCE分解効果を有することが理解できる。
【0023】
図5は、多糖類であるペクチンによるTCEの分解促進効果を説明するグラフである。
実施例7では、多糖類としてグアーガムを用いている。
実施例8では、多糖類としてキトサンを用いている。
実施例9では、多糖類としてペクチンを用いている。
実施例10では、多糖類としてキサンタンガムを用いている。
実施例7-10および比較例5における過硫酸塩、鉄塩としての硫酸鉄、TCEの物質量比は、20:20:1としている。多糖類は5.2g/Lを添加している。
【0024】
図5に示すように、比較例1では30分経過時に70%程度まで低下し、それ以後は65%~60%の範囲で停滞する。これに対し実施例7-10では時間経過と共に分解が進んだ。最も効果が低かった実施例7(グアーガム)でも3時間経過時に40%以下となった。最も効果が高かった実施例10(キサンタンガム)では30分経過時にTCE濃度がほぼ0になった。これらのことから、過硫酸塩および鉄塩と併せて多糖類を添加することにより、それを添加していない場合と比して高いTCE分解効果が得られることがわかる。
【0025】
図6は、糖類の分類によるTCEの分解促進効果の比較を説明する図である。
実施例11は、単糖類であるグルコースを5.2g/L添加している。
実施例12は、二糖類であるスクロースを5.2g/L添加している。
実施例9は、多糖類であるペクチンを5.2g/L添加している。
実施例7-9における過硫酸塩、鉄塩としての硫酸鉄、TCEの重量比は、20:20:1としている。また
図6ではグラフの横軸を時間(h)としている。
実施例11は実施例1と材料の構成が同じであるが、分量が異なるために実施例の番号を別にしている。同様に、実施例12は実施例5と材料の構成が同じであるが、分量が異なるために実施例の番号を別にしている。
【0026】
図6に示すように、実施例9,11,12のいずれを添加した場合においても、時間経過とともにTCE濃度が低下する。このとき、実施例9,11,12の中では、210分が経過した時点において、TCE濃度は、実施例11、実施例12、実施例9の順に低くなっている。このことから、単糖類、二糖類、多糖類のうち、多糖類(ペクチン)が最もTCE分解効果に優れていることが理解できる。
【0027】
上記説明したように本実施形態の土壌・地下水の浄化方法によれば、過硫酸塩と鉄塩と糖類を併用することによってTCEを高効率で分解することができ、高い土壌・地下水浄化性能を得ることが可能となる。また糖は有機酸よりも試薬単価が安価であるため、土壌・地下水の浄化処理にかかるコストを大幅に削減することができる。更に糖として食品加工残渣糖の廃棄物を利用可能であるため、浄化処理にかかるコストの更なる削減を図りつつ、廃棄物の再利用促進に貢献することが可能となる。
【0028】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、化学物質に汚染された土壌および地下水を浄化する土壌・地下水の浄化方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
102…土壌および地下水、104…注入管、110…化学物質