(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025019535
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】オルガノイド組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20250131BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250131BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20250131BHJP
C12M 3/00 20060101ALN20250131BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/10
C12Q1/02
C12M3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123189
(22)【出願日】2023-07-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年3月28日 日本薬学会第143年会 北海道大学(北海道札幌市北区北12条西6丁目)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年3月3日 https://confit.atlas.jp/guide/event/pharm143/top?lang=ja https://confit.atlas.jp/guide/event/pharm143/static/webabstract
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年3月3日 https://confit.atlas.jp/guide/event/pharm143/top?lang=ja https://confit.atlas.jp/guide/event/pharm143/static/webabstract
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年3月8日 https://site.convention.co.jp/jsrm2023/ https://site.convention.co.jp/jsrm2023/app/
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年3月27日 日本薬学会第143年会 北海道大学(北海道札幌市北区北12条西6丁目)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年3月24日 第22回日本再生医療学会総会 国立京都国際会館(京都市左京区岩倉大鷺町422番地)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「肝炎等克服実用化研究事業 肝炎等克服緊急対策研究事業」「生検肝組織由来オルガノイドを用いた肝硬変・肝不全に対する新規治療法開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(74)【代理人】
【識別番号】100231647
【弁理士】
【氏名又は名称】千種 美也子
(72)【発明者】
【氏名】水口 裕之
(72)【発明者】
【氏名】植山(鳥羽) 由希子
(72)【発明者】
【氏名】横田 純平
(72)【発明者】
【氏名】仝 嫣然
(72)【発明者】
【氏名】松井 勇人
(72)【発明者】
【氏名】小林 幸子
(72)【発明者】
【氏名】榎本 詢子
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B029GB09
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4B065AA90Y
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4B065AC14
4B065BA01
4B065BC41
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】高機能なオルガノイド組成物を提供する。さらには当該オルガノイド組成物を作製する方法を提供する。
【解決手段】内胚葉系細胞の細胞塊で構成されるオルガノイドとサルコシン単位を有する親水性ブロック鎖と乳酸単位を有する疎水性ブロック鎖とを有する両親媒性ブロックポリマーを含むことを特徴とする、オルガノイド組成物による。オルガノイド組成物は内胚葉系細胞を前記両親媒性ブロックポリマーを含む培養系にて培養することにより作製することができる。これより得られたオルガノイド組成物は薬物動態や薬物毒性が評価可能であり、薬物スクリーニングに適している。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内胚葉系細胞の細胞塊で構成されるオルガノイドを含み、当該オルガノイドを構成する細胞塊において、サルコシン単位を有する親水性ブロック鎖と乳酸単位を有する疎水性ブロック鎖とを有する両親媒性ブロックポリマーを含むことを特徴とする、オルガノイド組成物。
【請求項2】
両親媒性ブロックポリマーは、20個以上のサルコシン単位を有する親水性ブロック鎖と10個以上の乳酸単位を有する疎水性ブロック鎖とを有する、請求項1に記載のオルガノイド組成物。
【請求項3】
内胚葉系細胞が、肝臓細胞又は腸管細胞である、請求項1に記載のオルガノイド組成物。
【請求項4】
肝臓細胞が、生体から採取された肝臓細胞又は多能性幹細胞由来肝臓細胞である、請求項3に記載のオルガノイド組成物。
【請求項5】
腸管細胞が、生体から採取された腸管上皮細胞又は多能性幹細胞由来腸管上皮細胞である、請求項3に記載のオルガノイド組成物。
【請求項6】
請求項1に記載のオルガノイド組成物を含む、薬物動態評価用及び/又は薬物毒性評価用のオルガノイド組成物。
【請求項7】
以下の工程を含む、請求項1に記載のオルガノイド組成物の作製方法:
1)内胚葉系細胞を分散する工程;
2)前記分散した細胞を、サルコシン単位を有する親水性ブロック鎖と乳酸単位を有する疎水性ブロック鎖とを有する両親媒性ブロックポリマーを含む培養系にて培養する工程。
【請求項8】
前記工程1)の内胚葉系細胞を分散する工程が、三次元的に集合した内胚葉系細胞を分散する工程である、請求項7に記載の作製方法。
【請求項9】
内胚葉系細胞が、肝臓細胞又は腸管細胞である、請求項8に記載の作製方法。
【請求項10】
請求項1~6のいずれかに記載のオルガノイド組成物を含み、さらに薬物動態評価及び/若しくは薬物毒性評価検査のために必要なデバイス及び/又は試薬を含む、薬物動態評価及び/又は薬物毒性評価用キット。
【請求項11】
請求項1~6のいずれかに記載のオルガノイド組成物を用いた、薬物動態評価方法及び/又は薬物毒性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルガノイド組成物に関する。さらに、本発明は当該オルガノイド組成物の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療や薬物スクリーニングにおいて、使用する細胞の機能は生体に近い状態に向上させる必要があり、近年、オルガノイド培養技術が注目されている。オルガノイドとは、三次元的に形成した臓器に類似した特徴と増殖能を有する三次元培養(3D culture)細胞であり、細胞から生体内の各組織・器官を創製するために、試験管内の臓器モデルとして細胞研究や創薬スクリーニング、再生医療等の分野への応用等が期待されている。三次元的に形成したオルガノイドは、二次元培養(2D culture)と比べて生体に近い優れた機能を有するといわれている。例えば、ヒト肝臓オルガノイドは、器官の発生・再生機構に基づく三次元培養によって創出され、生体内器官が有する解剖学的・機能学的特徴を示す三次元組織体であり、創薬研究や再生医療に資する新規細胞ソースとして期待される(非特許文献1)
【0003】
オルガノイド培養に最適な培養基材である例えばマトリゲル(登録商標)(Corning)は、動物由来成分を含むためにバッチ間のばらつきが大きく、オルガノイド技術の創薬応用に際して実験の再現性が懸念される。また、再生医療への応用にあたっては感染症や免疫反応のリスクが懸念され、安全面で問題がある。一方、合成高分子は、高い純度と再現性、制御された化学組成、機械的特性等の理由から、マトリゲルの課題を克服する材料として創薬研究や再生医療に資することが期待される。
【0004】
本発明者らは、親水部にポリサルコシン、疎水部にポリ乳酸を有する両親媒性ブロックポリマーを開発した(非特許文献2、特許文献1)。特許文献2には、当該両親媒性ブロックポリマーを用いて細胞を培養したことが開示されている。さらに、ヒトiPS 細胞(induced pluripotent stem cells)由来肝細胞への当該両親媒性ブロックポリマーの適用により、肝スフェロイドが作製可能であることが報告された(非特許文献3)。
【0005】
足場を利用して三次元培養する方法として、特許文献3には、ゼラチン溶液と細胞とを接触させ、冷却してゼラチンをゲル化させて、短時間でスフェロイドを形成する方法が開示されている。特許文献4には、エチレン性不飽和基を有する多重アームPEGを用いたヒト腸細胞に由来するオルガノイドを作製する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公報第2017/017969号(特許6354905号公報)
【特許文献2】国際公開第2018/142633号(特許6711424号公報)
【特許文献3】特開2018-113945号公報
【特許文献4】特表2022-546845号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Huch et al., Nature, 2013 Feb 14;494(7436):247-50
【非特許文献2】Matsui et al., Mater. Today Commun., 2017, 156-162
【非特許文献3】J. Enomoto et al., ACS Applied Bio Materials, 2021, Sep 20;4(9):7290-7299
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高機能なオルガノイド組成物を提供することを課題とする。さらには当該オルガノイド組成物を作製する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を達成するために高機能なオルガノイド組成物培養技術の確立を試み鋭意検討を重ねた結果、内胚葉系細胞を親水性ブロック鎖と疎水性ブロック鎖とを有する両親媒性ブロックポリマーを含む培養系にて培養することで、高機能なオルガノイド組成物を作製することに成功した。当該オルガノイド組成物は薬物動態や薬物毒性が評価可能であり、薬物スクリーニングに適したオルガノイド組成物が得られ、本発明を完成した。
【0010】
即ち本発明は、以下よりなる。
1.内胚葉系細胞の細胞塊で構成されるオルガノイドを含み、当該オルガノイドを構成する細胞塊において、サルコシン単位を有する親水性ブロック鎖と乳酸単位を有する疎水性ブロック鎖とを有する両親媒性ブロックポリマーを含むことを特徴とする、オルガノイド組成物。
2.両親媒性ブロックポリマーは、20個以上のサルコシン単位を有する親水性ブロック鎖と10個以上の乳酸単位を有する疎水性ブロック鎖とを有する、前項1に記載のオルガノイド組成物。
3.内胚葉系細胞が、肝臓細胞又は腸管細胞である、前項1に記載のオルガノイド組成物。
4.肝臓細胞が、生体から採取された肝臓細胞又は多能性幹細胞由来肝臓細胞である、前項3に記載のオルガノイド組成物。
5.腸管細胞が、生体から採取された腸管上皮細胞又は多能性幹細胞由来腸管上皮細胞である、前項3に記載のオルガノイド組成物。
6.前項1に記載のオルガノイド組成物を含む、薬物動態評価用及び/又は薬物毒性評価用のオルガノイド組成物。
7.以下の工程を含む、前項1に記載のオルガノイド組成物の作製方法:
1)内胚葉系細胞を分散する工程;
2)前記分散した細胞を、サルコシン単位を有する親水性ブロック鎖と乳酸単位を有する疎水性ブロック鎖とを有する両親媒性ブロックポリマーを含む培養系にて培養する工程。
8.前記工程1)の内胚葉系細胞を分散する工程が、三次元的に集合した内胚葉系細胞を分散する工程である、前項7に記載の作製方法。
9.内胚葉系細胞が、肝臓細胞又は腸管細胞である、前項8に記載の作製方法。
10.前項1~6のいずれかに記載のオルガノイド組成物を含み、さらに薬物動態評価及び/若しくは薬物毒性評価検査のために必要なデバイス及び/又は試薬を含む、薬物動態評価及び/又は薬物毒性評価用キット。
11.前項1~6のいずれかに記載のオルガノイド組成物を用いた、薬物動態評価方法及び/又は薬物毒性評価方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のオルガノイド組成物は、高い薬物代謝酵素活性を示すことから、薬物動態評価に有効に利用することができる。さらに、本発明のオルガノイド組成物は、肝毒性を引き起こす薬剤に対して優れた感受性を示す。特に、本発明のオルガノイド組成物は、親水性ブロック鎖と疎水性ブロック鎖とを有する両親媒性ブロックポリマーを含む培養系にて培養して作製することから安全性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1AはHYDROXを含む肝臓オルガノイド組成物の作製プロトコルを示す。
図1Bは、HYDROXを含む肝臓オルガノイド組成物を位相差顕微鏡で確認した結果を示す。(実施例1)
【
図2】
図2はHYDROXを含む肝臓オルガノイド組成物の肝細胞マーカー遺伝子の発現量を測定した結果を示す。(実施例1)
【
図3】
図3はHYDROXを含む肝臓オルガノイド組成物の薬物代謝酵素の酵素活性を測定した結果を示す。(実施例1)
【
図4】
図4はHYDROXを含む肝臓オルガノイド組成物の肝毒性評価の結果を示す。(実施例1)
【
図5】
図5AはHYDROXを含む腸管オルガノイド組成物を位相差顕微鏡で確認した結果を示す。
図5Bはマトリゲル培養腸管オルガノイド及びHYDROXを含む腸管オルガノイド組成物を透過型電子顕微鏡で確認した結果を示す。(実施例2)
【
図6】
図6AはHYDROXを含む腸管オルガノイド組成物の腸管分化細胞マーカー遺伝子の発現量を測定した結果を示す。
図6BはHYDROXを含む腸管オルガノイド組成物の腸内分泌細胞マーカーを測定した結果を示す。(実施例2)
【
図7】
図7AはHYDROXを含む腸管オルガノイド組成物の薬物動態関連遺伝子の発現量を測定した結果を示す。
図7BはHYDROXを含む腸管オルガノイド組成物のCYP3A4の酵素活性を測定した結果を示す。(実施例2)
【
図8】
図8はHYDROXを含む肝臓オルガノイド組成物と二次元培養内胚葉系細胞由来両親媒性ブロックポリマー培養肝臓オルガノイドの薬物動態関連遺伝子の発現量を測定した結果を示す。(実施例3)
【
図9】
図9はNMRによるHYDROXと各オルガノイド組成物の共存確認を示す。(実施例4)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の内胚葉系細胞の細胞塊で構成されるオルガノイドを含み、当該オルガノイドを構成する細胞塊において、サルコシン単位を有する親水性ブロック鎖と乳酸単位を有する疎水性ブロック鎖とを有する両親媒性ブロックポリマーを含むことを特徴とする、オルガノイド組成物に関する。さらには当該オルガノイド組成物を作製する方法に関する。
【0014】
本発明のオルガノイド組成物は、内胚葉系細胞の細胞塊で構成されるオルガノイドを含む。ここで「オルガノイド」とは、培養容器内で細胞同士がクラスターを形成する細胞塊をいう。オルガノイドは三次元構造を保持するための培養担体を保持しても保持してなくてもよく、培養容器内で細胞同士が浮遊状態で接着した細胞塊であってもよい。「内胚葉系細胞」とは、例えば肝臓、腸(小腸、大腸等)、胃、膵臓、咽頭、気管、気管支、肺、膀胱、尿道等を構成する細胞をいう。「内胚葉系細胞」とは、特に肝臓を構成する細胞(以下、「肝臓細胞」という。)、腸を構成する細胞(以下、「腸管細胞」という。)が適用される。
【0015】
本発明における内胚葉系細胞は、生体から採取された内胚葉系細胞又は多能性幹細胞由来内胚葉系細胞である。生体から採取された内胚葉系細胞は、手術等によって採取された内胚葉系細胞又は市販の内胚葉系細胞株(例えば過去に手術等によって採取された内胚葉系細胞から樹立した内胚葉系細胞株等)である。具体的には、例えば肝臓細胞は、生体から採取された肝臓細胞又は多能性幹細胞由来肝臓細胞である。例えば腸管細胞は、生体から採取された腸管上皮細胞又は多能性幹細胞由来腸管上皮細胞である。本発明におけるオルガノイドは、生体から採取された内胚葉系細胞由来オルガノイド又は多能性幹細胞由来オルガノイドである。
【0016】
(オルガノイドの作製方法)
生体から採取された肝臓細胞又は多能性幹細胞由来肝臓細胞から作製されたオルガノイドを、肝臓オルガノイドという。生体から採取された肝臓細胞から作製された肝臓オルガノイドは、例えば新鮮又は凍結保存された肝臓組織から作製することができ、自体公知又は今後開発されるあらゆる方法によって作製することができる。例えば実施例に記載の方法やHepatiCultTM Organoid Growth Medium (Human)(STEMCELL Technologies)を用いて作製することができる。新鮮又は凍結保存された肝臓組織をトリプシン、コラゲナーゼ、ディスパーゼI等のタンパク質分解酵素や、EDTA、EGTA等を用いて単一細胞化した細胞を回収し、洗浄、遠心分離処理後、オルガノイド用基材を利用して作製することができる。ここで、「オルガノイド用基材」とは、自体公知又は今後開発されるあらゆる素材、構造のものであってよい。具体的にはハイドロゲル、ラミニン(主成分)、IV型コラーゲン、ヘパリン硫酸プロテオグリカン、エンタクチン/ニドゲン及び種々の成長因子を含むECMタンパク質が豊富なEHSマウス肉腫から抽出した可溶化基底膜等が挙げられ、例えばマトリゲル(登録商標)(Corning)基底膜等が用いられる。播種細胞密度はオルガノイド形成可能であればよく、特に限定されないが、例えば4×104 cells/well (24 well plate)、好ましくは3×104 cells/well (24 well plate)、最も好ましくは2×104 cells/well (24 well plate)であり、例えば37℃で1~60分間、好ましくは1~30分間、より好ましくは10~15分間インキュベート後、肝臓オルガノイド用培地を用いて培養することができる。
【0017】
肝臓オルガノイド用培地としては、肝臓細胞を培養可能であればよく特に限定されないが、主要な培地として、MEM(Minimum Essential Medium Eagle)、RPMI(Roswell Park Memorial Institute)培地等を主成分とし、例えばAdvancedTM DMEM/F12(GIBCO)やMeritxell Huch et al., Nature vol. 494, p.247-250 (2013)に記載の培地成分を含む培地を使用することができる。具体的にはHepatiCultTM Organoid Growth Medium (Human)(STEMCELL Technologies)を使用することができる。初期培養では、上記培地成分にペニシリンGナトリウム塩、硫酸ストレプトマイシン及びアンホテリシンB等の抗生物質、例えば1×Antibiotic-Antimycotic(Sigma-Aldrich)等やRho結合キナーゼ阻害剤、例えばY-27632等を適宜含ませて使用することができる。例えばAdvanced DMEM/F12(商品名)にRspondin1 conditional medium(商品名)、1×B27 supplement Minus Vitamin A(商品名)、ペニシリン/ストレプトマイシン、nicotinamide、N-acetyl-L-cystein、GlutaMAX(商品名)、HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)、EGF(Epidermal Growth Factor)、gastrin、HGF(Hepatocyte growth factor)、FGF10(fibroblast growth factor receptor 10)、A83-01、forskolinを含む培地を使用することができる。培地の交換は適宜行うことができ、例えば2~3日に一度交換することができる。
【0018】
生体から採取された腸管上皮細胞又は多能性幹細胞由来腸管上皮細胞から作製されたオルガノイドを、腸管オルガノイドという。生体から採取された腸管上皮細胞から作製された腸管オルガノイドは、肝臓オルガノイドと同様に例えば新鮮又は凍結保存された腸管組織から作製することができ、自体公知又は今後開発されるあらゆる方法によって作製することができる。例えば、実施例に記載の方法や特開2021-122208号に記載の方法によって、オルガノイド用基材を用いて作製することができる。本明細書における「生体から採取された腸管上皮細胞」は、小腸(十二指腸、空腸、回腸等)又は大腸(盲腸、結腸、直腸等)に由来する細胞であればよく、特に限定されないが、十二指腸、空腸や回腸等の小腸に由来する細胞が好適であり、特に十二指腸に由来する細胞がより好適である。
【0019】
腸管オルガノイドの維持・培養において使用可能な培地は、小腸組織由来細胞を培養可能であればよく特に限定されないが、主要な培地として、Advanced DMEM/F12を主成分とし、例えばJung et al., Nat. Med. 17, 1225-1227, 2011やSato et al., Gastroenterology 141, 1762-1772, 2011に記載の培地成分を含む培地を使用することができる。具体的にはIntestiCultTM Organoid Growth Medium (Human) (STEMCELL Technologies)を使用することができる。初期培養では、上記培地成分にペニシリンGナトリウム塩、硫酸ストレプトマイシン及びアンホテリシンB 等の抗生物質、例えば1× Antibiotic-Antimycotic(Thermo Fisher Scientific) 等やRho結合キナーゼ阻害剤、例えばY-27632等を適宜含ませて使用することができる。例えばAdvanced DMEM/F12(商品名)にペニシリン/ストレプトマイシン、HEPES、GlutaMAX(商品名)、1×N2 Supplement、1×B27 Supplement(商品名)、システイン、nicotinamide、Afamin-Wnt3A CM、R-Spondin1 CM、A83-01、SB202190、human EGF、human Noggin、[Leu15]-Gastrin1を含む培地、Advanced DMEM/F12を主成分とし、例えばJung et al., Nat. Med. 17, 1225-1227, 2011やSato et al., Gastroenterology 141, 1762-1772, 2011に記載の培地成分を含む培地等を使用することができる。培地の交換は適宜行うことができ、例えば2~3日に一度交換することができる。
【0020】
多能性幹細胞由来オルガノイドは、例えばiPS細胞(induced pluripotent stem cells)から作製することができ、自体公知又は今後開発されるあらゆる方法によって作製することができる。例えば、各分化誘導段階のiPS由来細胞(例えば、多能性幹細胞由来肝臓細胞、多能性幹細胞由来腸管上皮細胞等)を例えばトリプシン、コラゲナーゼ、ディスパーゼI等のタンパク質分解酵素や、EDTA、EGTA等を用いてiPS細胞培養用基材から剥離して単一細胞化した細胞を回収し、洗浄、遠心分離処理後、オルガノイド用基材を利用して作製することができる。播種密度等は、上記生体から採取された肝臓細胞又は腸管上皮細胞からオルガノイドを作製する際と同様にすることできる。
【0021】
オルガノイドは、生体から採取された内胚葉系細胞由来オルガノイド又は多能性幹細胞由来オルガノイドのいずれであっても継代することができる。継代比率(split ratio)は、特に限定されないが例えば1:1~1:10とすることができる。継代プロトコルは既存の方法、例えばMiyoshiらの報告(Miyoshi and Stappenbeck, Nat. Protoc. 8, 2471-2482, 2013)、Sato, T. et al., Gastroenterology. 2011 Nov;141(5):1762-72、Sugimoto, S., and Sato, T., Methods Mol Biol. 2017;1612:97-105等を改良して適用することができる。オルガノイドは、継代のために例えばトリプシン、コラゲナーゼ、ディスパーゼI等のタンパク質分解酵素や、EDTA、EGTA等の少なくともいずれかを含む液、例えばTrypLE SelectTM(Thermo Fisher Scientific)中に懸濁し、37℃でインキュベートしてマトリクスを分解し、複数回ピペッティング、遠心分離等を行い、上清を捨て、ペレットを前記マトリクスで再懸濁(包埋)して継代比率に応じた濃度にする。これを培養担体に滴下して37℃で固化させた後、前記培地を培養担体に添加することによって継代することができる。継代後、例えば培養2日目までは、上記培地成分にRho結合キナーゼ阻害剤、例えばY-27632等を適宜含ませて使用することができる。また、培養全期間を通じて上記培地成分にペニシリンGナトリウム塩、硫酸ストレプトマイシン及びアンホテリシンB等の抗生物質、例えば1×Antibiotic-Antimycotic(Sigma-Aldrich)等を適宜含ませて使用することができる。
【0022】
本発明におけるオルガノイドの種は特に限定されないが、ヒトオルガノイドが好適である。本発明におけるオルガノイドは、凍結保存培地に用いて凍結保存することができる。オルガノイドの凍結保存は自体公知の方法により行うことができる。凍結保存したオルガノイドの融解方法についても自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる方法を適用することができる。
【0023】
(オルガノイド組成物)
本発明において「オルガノイド組成物」とは、オルガノイドを構成する細胞塊にさらにポリマー成分等を含む組成物をいう。本発明のオルガノイド組成物は、オルガノイドを構成する細胞塊に、サルコシン単位を有する親水性ブロック鎖と乳酸単位を有する疎水性ブロック鎖とを有する両親媒性ブロックポリマー(以下、「両親媒性ブロックポリマー」ということもある。)を含むことを特徴とする。サルコシン単位を有する親水性ブロック鎖と乳酸単位を有する疎水性ブロック鎖とを有する両親媒性ブロックポリマーとして、例えばHYDROX(登録商標)(株式会社島津製作所)等が挙げられる。両親媒性ブロックポリマーについては後述するが、本発明のオルガノイド組成物は、両親媒性ブロックポリマーが含まれているため、動物由来成分のオルガノイド用基材を利用したオルガノイド(例えば、マトリゲル等を用いて作製したオルガノイド)に比べ、動物由来成分の不明成分が混入しにくく、バッチ間の差も生じにくい。さらに、動物由来成分のオルガノイド用基材は、ゲル自体の取り扱いや安定した製造が難しい。一方、本発明のオルガノイド組成物に含まれる両親媒性ブロックポリマーは、生分解性の合成ポリマーであり、当該ポリマーをオルガノイドの足場物質として利用することで、ヒト等の生体への適用も可能であり、再生医療のための組織培養分野への応用が可能である。本発明のオルガノイド組成物は、動物由来成分を含むオルガノイドに比べ、生体に近い性質を示すことが特徴である。これより、本発明のオルガノイド組成物は、品質の安定性・安全性に優れている。
【0024】
本発明のオルガノイド組成物は、以下の工程を含む方法により作製することができる。
1)内胚葉系細胞を分散する工程;
2)前記分散した細胞を、サルコシン単位を有する親水性ブロック鎖と乳酸単位を有する疎水性ブロック鎖とを有する両親媒性ブロックポリマーを含む培養系にて培養する工程。
【0025】
工程1)の内胚葉系細胞を分散する工程は、自体公知又は今後開発されるあらゆる工程によればよく、特に限定されないが、具体的には、例えばトリプシン、コラゲナーゼ、ディスパーゼI等のタンパク質分解酵素や、EDTA、EGTA等の少なくともいずれかを含む液、例えばTrypLE SelectTM(Thermo Fisher Scientific)中に懸濁し、37℃でインキュベートして、複数回ピペッティング、遠心分離等を行い、上清を捨て、細胞塊を培地で懸濁することで細胞を分散することができる。内胚葉系細胞を分散する工程では、例えばセルストレーナーを用いることもできる。分散した細胞は、単一細胞でもよいし、小さな細胞塊であってもよい。
【0026】
工程1)の内胚葉系細胞を分散する工程は、三次元的に集合した内胚葉系細胞を分散する工程であることが好ましい。本発明のオルガノイド組成物の作製方法により作製されたオルガノイド組成物は、二次元的に集合した内胚葉系細胞を分散し、サルコシン単位を有する親水性ブロック鎖と乳酸単位を有する疎水性ブロック鎖とを有する両親媒性ブロックポリマーを含む培養系にて培養する工程を含む方法により得られたオルガノイド(以下、「二次元培養内胚葉系細胞由来両親媒性ブロックポリマー培養オルガノイド」という。)よりも、より生体に近い薬物動態関連遺伝子の発現量を有するオルガノイド組成物が得られる点で優れている。
【0027】
具体的に本発明のオルガノイド組成物は、薬物動態関連遺伝子の発現量が、二次元培養内胚葉系細胞由来両親媒性ブロックポリマー培養オルガノイドの薬物動態関連遺伝子の発現量に比べて増加していることを特徴とする。二次元培養内胚葉系細胞由来両親媒性ブロックポリマー培養オルガノイドの薬物動態関連遺伝子の発現量に比べて増加しているとは、例えば二次元培養内胚葉系細胞由来両親媒性ブロックポリマー培養オルガノイドの薬物動態関連遺伝子の発現量を1とした場合に、2倍以上、好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上、最も好ましくは50倍以上の量で遺伝子発現していることをいう。
【0028】
薬物動態遺伝子としては、薬物代謝酵素又はトランスポーターをコードする遺伝子が含まれ、具体的にはシトクロムP450(CYP)、UDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)、カルボキシルエステラーゼ(CES)、アルコールデヒドロゲナーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、モノアミンオキシダーゼ、ジアミンオキシダーゼ、エポキシドヒドラーゼ、エステラーゼ、アミダーゼ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ、アセチルトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼ、薬物トランスポーターに係る酵素、薬物トランスポーター、ペプチドトランスポーター、グルコーストランスポーター、核酸トランスポーター、コレステロールトランスポーター、カルシウムトランスポーター等から選択される1又は複数の酵素が挙げられる。
【0029】
CYPの例としてCYP3A4、CYP1A2、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1等が挙げられ、好ましくはCYP3A4、CYP1A2、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19であり、最も好ましくはCYP3A4である。UGTの例としてUGT1A1、UGT1A3、UGT1A4、UGT1A6、UGT1A6、UGT1A9、UGT2B4、UGT2B7、UGT2B10、UGT2B11、UGT2B15等が挙げられ、好ましくはUGT1A1、UGT1A6、UGT2B4、UGT2B7、UGT2B15であり、最も好ましくはUGT1A1である。CESの例として、CES2、CES1、CES3、CES4、CES7、CES8等が挙げられ、好ましくはCES1、CES2であり、最も好ましくはCES2である。薬物トランスポーターの例として、MDR1(Multiple drug resistance 1)、BCRP(breast cancer resistance protein)、MRP1(Multidrug resistance-associated Protein 1)、MRP2(Multidrug resistance-associated Protein 2)、MRP3(Multidrug resistance-associated Protein 3)、OCT1(organic cation transporter 1)、OATP2B1(organic anion transporting polypeptide 2B1)等が挙げられ、好ましくはMDR1、BCRPである。ペプチドトランスポーターの例として、PEPT1(peptide transporter 1)等が挙げられる。
【0030】
本発明のオルガノイド組成物に含まれる内胚葉系細胞が肝臓細胞の場合、肝細胞マーカー遺伝子発現量が二次元培養内胚葉系細胞由来両親媒性ブロックポリマー培養オルガノイドの肝細胞マーカーの遺伝子発現量に比べて増加していることを特徴とする。二次元培養内胚葉系細胞由来両親媒性ブロックポリマー培養オルガノイドの肝細胞マーカー遺伝子の発現量に比べて増加しているとは、例えば二次元培養内胚葉系細胞由来両親媒性ブロックポリマー培養オルガノイドの肝細胞マーカー遺伝子の発現量を1とした場合に、1.5倍以上、好ましくは2倍以上、さらに好ましくは3倍以上、最も好ましくは3.5倍以上の量で遺伝子発現していることをいう。肝細胞マーカーとしては、ALB(Albumin)、HNF1a(Hepatocyte nuclear factor 1-alpha)、HFN4a(Hepatocyte nuclear factor 4-alpha)及びNTCP(Na+-taurocholate co-transporting polypeptide)等が挙げられ、これらのマーカーより選択される1又は複数のマーカーである。
【0031】
本発明のオルガノイド組成物は、前記分散した細胞をサルコシン単位を有する親水性ブロック鎖と乳酸単位を有する疎水性ブロック鎖とを有する両親媒性ブロックポリマーを含む培養系にて培養する工程により作製することができる。「分散した細胞をサルコシン単位を有する親水性ブロック鎖と乳酸単位を有する疎水性ブロック鎖とを有する両親媒性ブロックポリマーを含む培養系にて培養する」とは、例えば培養担体にサルコシン単位を有する親水性ブロック鎖と乳酸単位を有する疎水性ブロック鎖とを有する両親媒性ブロックポリマーを添加し、さらに分散した細胞を含む懸濁液を添加して細胞を培養する、又は両親媒性ブロックポリマーに溶媒を加えた後に、分散した細胞を含む懸濁液を添加して細胞を培養する等が挙げられる。予め両親媒性ブロックポリマーが塗布された培養担体を用いて、分散した細胞を培養することもできる。本明細書において、溶媒とは細胞に傷害を起こさせない液体が好ましく、例えば水、蒸留水、整理食塩酢、緩衝液、培地等が挙げられる。
【0032】
(両親媒性ブロックポリマー)
親水性ブロック鎖は、20個以上のサルコシン単位(N-メチルグリシン単位)を含むことが好ましい。サルコシンは、水溶性が高い。また、ポリサルコシンはN置換アミドを有することからシス-トランス異性化が可能であり、かつ、α炭素まわりの立体障害が少ないことから、高い柔軟性を有する。そのため、ポリサルコシン鎖を構成単位として用いることにより、高い親水性と柔軟性とを併せ持つ親水性ブロック鎖が形成される。
【0033】
親水性ブロック鎖のサルコシン単位が20個以上であれば、隣接して存在するブロックポリマーの親水性ブロック同士が凝集しやすいため、水やアルコール等の親水性の分散媒が取り込まれたゲルが形成されやすくなる。親水性ブロック鎖中のサルコシン単位の数の上限は特に制限されない。隣接して存在する両親媒性ブロックポリマーの疎水性ブロック同士を凝集させてゲルの構造を安定化する観点から、親水性ブロック鎖中のサルコシン単位の数は300個以下が好ましい。サルコシン単位の数は、25個以上200個以下がより好ましく、30個以上150個以下がさらに好ましい。
【0034】
親水性ブロック鎖は、全てのサルコシン単位が連続していてもよく、上記のポリサルコシンの特性を損なわない限りにおいてサルコシン単位が非連続であってもよい。親水性ブロック鎖がサルコシン以外のモノマー単位を有する場合、サルコシン以外のモノマー単位は特に限定されないが、例えば親水性アミノ酸又はアミノ酸誘導体が挙げられる。アミノ酸は、α-アミノ酸、β-アミノ酸、γ-アミノ酸を含み、好ましくはα-アミノ酸である。親水性のα-アミノ酸としては、セリン、スレオニン、リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸等が挙げられる。また、親水性ブロックは、糖鎖やポリエーテル等を有していてもよい。親水性ブロックは、末端(疎水性ブロックとのリンカー部と反対側の末端)に、水酸基等の親水性基を有することが好ましい。
【0035】
疎水性ブロック鎖は、10個以上の乳酸単位を含むことが好ましい。ポリ乳酸は、優れた生体適合性及び安定性を有する。また、ポリ乳酸は、優れた生分解性を有することから、代謝が早く、生体内での集積性が低い。そのため、ポリ乳酸を構成ブロックとする両親媒性ブロックポリマーは、生体、特に人体への応用においても有用である。また、ポリ乳酸は結晶性であるため、疎水性ブロック鎖が短い場合でも、アルコール等の溶媒中で疎水性ブロック鎖が凝集し、ゲルが形成されやすい。
【0036】
疎水性ブロック鎖中の乳酸単位の数の上限は特に制限されないが、構造を安定化させる観点からは1000個以下が好ましい。疎水性ブロックにおける乳酸単位の数は、10個以上1000個以下が好ましく、15個以上500個以下がより好ましく、20個以上100個以下がさらに好ましい。
【0037】
疎水性ブロック鎖を構成する乳酸単位は、L-乳酸でもD-乳酸でもよい。また、L-乳酸とD-乳酸が混在していてもよい。疎水性ブロック鎖は、全ての乳酸単位が連続していてもよく、乳酸単位が非連続であってもよい。疎水性ブロック鎖に含まれる乳酸以外のモノマー単位は特に限定されないが、例えば、グリコール酸、ヒドロキシイソ酪酸等のヒドロキシ酸や、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、チロシン、トリプトファン、グルタミン酸メチルエステル、グルタミン酸ベンジルエステル、アスパラギン酸メチルエステル、アスパラギン酸エチルエステル、アスパラギン酸ベンジルエステル等の疎水性アミノ酸又はそのアミノ酸誘導体が挙げられる。
【0038】
(両親媒性ブロックポリマーの構造及び合成方法)
両親媒性ブロックポリマーは、サルコシン単位を有する親水性ブロック鎖と乳酸単位を有する疎水性ブロック鎖とを結合させたものである。親水性ブロック鎖と疎水性ブロック鎖とは、リンカーを介して結合していてもよい。リンカーとしては、疎水性ブロック鎖の構成単位である乳酸モノマー(乳酸やラクチド)又はポリ乳酸鎖と結合可能な官能基(例えば、水酸基、アミノ基等)と、親水性ブロックの構成単位であるサルコシンモノマー(例えばサルコシンやN-カルボキシサルコシン無水物)又はポリサルコシンと結合可能な官能基(例えばアミノ基)とを有するものが好ましく用いられる。リンカーを適宜に選択することにより、親水性ブロック鎖及び疎水性ブロック鎖の分枝構造を制御することができる。
【0039】
両親媒性ブロックポリマーの合成法は、特に限定されず、公知のペプチド合成法、ポリエステル合成法、デプシペプチド合成法等を用いることができる。詳細には、WO2009/148121号等を参照して、両親媒性ブロックポリマーを合成することができる。
【0040】
ゲルの硬度、安定性、分解性(溶解性)等を調整するためには、疎水性ブロック鎖の鎖長(乳酸単位の数)や、疎水性ブロック鎖と親水性ブロック鎖の鎖長の比(乳酸単位の数とサルコシン単位の数の比)を調整することが好ましい。疎水性ブロック鎖の鎖長の制御を容易とするためには、両親媒性ブロックポリマーの合成の際に、一端にリンカーが導入された疎水性ブロック鎖(例えばポリ乳酸)を先に合成した後、親水性ブロック鎖(例えばポリサルコシン)を導入することが好ましい。重合反応における開始剤とモノマーとの仕込み比、反応時間、温度等の条件を調整することにより、疎水性ブロック鎖及び親水性ブロック鎖の鎖長を調整できる。親水性ブロック鎖及び疎水性ブロック鎖の鎖長(両親媒性ブロックポリマーの分子量)は、例えば1H-NMRによって確認できる。両親媒性ブロックポリマーの生分解性を高める観点から、重量平均分子量は、10000以下が好ましく、9000以下がより好ましい。本発明に用いられる両親媒性ブロックポリマーは、ゲルの形成促進、ゲルの安定性向上等の目的で、分子間に化学架橋を形成してもよい。
【0041】
両親媒性ブロックポリマーを有機溶媒と混合することにより、両親媒性ブロックポリマーはオルガノゲルを形成する。当該オルガノゲルを形成した両親媒性ブロックポリマーは、自己組織化し、疎水性ブロック鎖を内側にしたロッド構造を形成する。当該オルガノゲルを形成した両親媒性ブロックポリマーから有機溶媒を除去することにより、両親媒性ブロックポリマーはキセロゲルを形成する。オルガノゲルを形成した両親媒性ブロックポリマーから有機溶媒を除去してキセロゲルとしても、ロッド構造は維持されると考えられる。さらに、当該キセロゲルを形成した両親媒性ブロックポリマーと水とを混合することによりゲルが浸潤し、両親媒性ブロックポリマーは、例えばヒドロゾル又はヒドロゲルを形成する。水の添加によりキセロゲルを形成した両親媒性ブロックポリマーが湿潤すると、当該ゲルは膨潤して繊維状の三次元ネットワークを形成すると考えられる。この三次元ネットワーク間で、細胞は物理的に凝集する。ヒドロゾル又はヒドロゲルを形成した両親媒性ブロックポリマーは、細胞接着性を有する必要はなく、好ましくは細胞非接着性を有し、ポリマーにより形成された三次元ネットワークから細胞が反発し、細胞同士が凝集するのを補助する。本発明の両親媒性ブロックポリマーは、オルガノゲルでもよく、実質的に分散媒を含有しないキセロゲルでもよく、分散媒としての水で湿潤されたヒドロゾル又はヒドロゲルであってもよい。両親媒性ブロックポリマーを含む培養系にて細胞を培養する場合は、細胞毒性の観点から両親媒性ブロックポリマーは、実質的に分散媒を含有しないキセロゲル、分散媒としての水で湿潤されたヒドロゾル又はヒドロゲルであることが好ましい。本発明の両親媒性ブロックポリマーは、溶媒(分散媒)を含まないキセロゲルとして保持可能であり、常温で保管可能である。
【0042】
両親媒性ブロックポリマーと有機溶媒を混合することにより、両親媒性ブロックポリマーはオルガノゲルを形成する。オルガノゲルを形成するための有機溶媒としては、両親媒性ブロックポリマーの親水性ブロック鎖を溶解しやすく、疎水性ブロック鎖を溶解し難い溶媒が好ましい。両親媒性ブロックポリマーに対しては、ポリサルコシンを溶解しポリ乳酸を溶解しない有機溶媒が好ましく用いられる。このような有機溶媒を用いることにより、両親媒性ブロックポリマーと有機溶媒との混合下において、両親媒性ブロックポリマーの疎水ブロック部分が凝集し、物理的に架橋したマトリクスが形成されやすくなる。また、このような有機溶媒を用いてオルガノゲルを形成すれば、有機溶媒を除去後のキセロゲルも、疎水性ブロック部分が凝集した構造を取りやすい。そのため、キセロゲルに水を接触させた際に、親水性ブロック鎖部分に水が浸透しやすく、オルガノゲルと同様のポリマーマトリクス構造を有するヒドロゾル又はヒドロゲルが形成されると考えられる。
【0043】
オルガノゲルの形成に用いられる有機溶媒としては、炭素数1~6のアルコールが好ましい。中でも、親水性ブロック鎖の溶解性が高く、有機溶媒の除去によるキセロゲルの形成が容易であることから、炭素数1~4のアルコールが好ましい。好ましい有機溶媒の具体的としては、メタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、2-ブタノールが挙げられる。
【0044】
有機溶媒は2種以上を混合して用いてもよい。2種以上の有機溶媒を混合することにより、疎水性ブロック鎖及び親水性ブロック鎖の溶解性を調整してもよい。溶解性の高い有機溶媒を用いて両親媒性ブロックポリマーを溶解させた後、疎水性ブロック鎖に対する溶解性の低い有機溶媒を加えることにより、疎水性ブロックの凝集による物理架橋を促進し、ゲルのマトリクスを形成することもできる。2種以上の有機溶媒が用いられる場合、少なくとも1種が上記のアルコールであることが好ましい。2種以上のアルコールを用いてもよい。有機溶媒が2種以上の有機溶媒の混合溶媒である場合、有機溶媒全量の50重量%以上が上記のアルコールであることが好ましい。有機溶媒全量に対するアルコールの量は、60重量%以上がより好ましく、70重量%以上がさらに好ましい。
【0045】
両親媒性ブロックポリマーと有機溶媒との比は特に限定されず、両親媒性ブロックポリマーの分子量や、有機溶媒の種類等に応じて、両親媒性ブロックポリマーを溶解又は膨潤可能な範囲で設定すればよい。隣接する両親媒性ブロックポリマーの距離を適切に保ち、ゲルの形成を抑制する観点から、有機溶媒の量は、両親媒性ブロックポリマー100重量部に対して、100重量部以上1500重量部以下が好ましく、200重量部以上1000重量部以下がより好ましい。両親媒性ブロックポリマーと有機溶媒を混合中の両親媒性ブロックポリマーの含有量は、10重量%以上であることが好ましい。
【0046】
両親媒性ブロックポリマーのオルガノゲルの形成においては、加熱下で、両親媒性ブロックポリマーと有機溶媒とを共存させることにより、両親媒性ブロックポリマーを有機溶媒に溶解又は膨潤させて流動性を有する粘性液体を調製することが好ましい。加熱によりポリマーの分子運動が活性化されるため、有機溶媒による両親媒性ブロックポリマーの膨潤・溶解が促進される。加熱温度は、溶媒の沸点以下の範囲であればよく、例えば50~95℃程度であり、60~90℃程度が好ましい。両親媒性ブロックポリマーの溶液又は膨潤物が冷却され、ゲル化点以下になると、疎水性ブロック鎖が物理架橋の形成が促進され、流動性の低い(あるいは流動性を有さない)オルガノゲルが形成される。
【0047】
オルガノゲルから分散媒としての有機溶媒を除去することにより、両親媒性ブロックポリマーはキセロゲル(乾燥ゲル)を形成する。オルガノゲルからの有機溶媒の除去方法は特に限定されず、非溶媒との接触によりゲルを沈殿させる方法、窒素等のガスによる乾燥、真空乾燥、加熱乾燥、加熱真空乾燥、凍結乾燥、超臨界乾燥等が含まれる。有機溶媒除去の促進等の目的で、オルガノゲルを粉砕して粒子化した後、溶媒の除去を行ってもよい。溶媒を除去しながらゲルを粉砕してもよい。
【0048】
有機溶媒の除去の程度は特に限定されないが、湿潤性を有さない固体状になるまで溶媒を除去することが好ましい。キセロゲルは実質的に分散媒を含有しないことが好ましい。キセロゲルにおける分散媒の含有量は、両親媒性ブロックポリマーがキセロゲルを形成した全量に対して20重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましく、5重量%以下がさらに好ましく、1重量%以下であってもよい。オルガノゲルからキセロゲルを形成する際に、有機溶媒を十分に除去することにより、キセロゲルから形成されるヒドロゾル又はヒドロゲル中の有機溶媒の含有量を低減させ、細胞に対する毒性を低下させるとともに、生体安全性を高めることができる。
【0049】
キセロゲルを形成した両親媒性ブロックポリマーと水とを混合することにより、両親媒性ブロックポリマーはヒドロゾル又はヒドロゲルを形成する。ヒドロゾルはゲル状である部分を含んでいてもよい。オルガノゲルから溶媒を除去したキセロゲルでは、オルガノゲル形成時の物理架橋構造を維持しやすく、キセロゲルに水を接触させて湿潤させたヒドロゾル又はヒドロゲルにおいても物理架橋構造が維持されやすい。水を添加してキセロゲルを湿潤させることで残存有機溶媒も低減できる。
【0050】
キセロゲルを湿潤させる際に用いられる水は、蒸留水であってもよく、水溶液であってもよい。水溶液としては、生理食塩水、緩衝液、培地等の細胞に傷害を起こさない液体が好ましい。細胞が懸濁された水溶液をキセロゲルに加えてヒドロゾル又はヒドロゲルを形成してもよい。細胞及び培地を添加して形成したヒドロゾル又はヒドロゲルは、そのまま細胞培養に用いることができる。この場合、ヒドロゾル又はヒドロゲル中に細胞を移植する必要がなく、両親媒性ブロックポリマーに細胞を分散させることができるため、作業性に優れる。
【0051】
両親媒性ブロックポリマーを含む培養系には、細胞培養に用いられる各種の物質が含まれていてもよい。細胞培養に用いられる物質としては、各種の無機塩類、炭水化物、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸、脂質、タンパク質、ペプチド等が挙げられる。両親媒性ブロックポリマーを含む培養系には、細胞接着エピトープ、受容体アゴニスト、受容体アンタゴニスト、リガンド、細胞外マトリックス成分等が含まれていてもよい。これらの機能を有する官能基で両親媒性ブロックポリマーを修飾してもよい。さらに、防腐剤、可塑剤、界面活性剤、消泡剤、安定剤、緩衝剤、pH調整剤、浸透圧調整剤、等張化剤等が含まれていてもよい。
【0052】
ヒドロゾル又はヒドロゲルの調製において、両親媒性ブロックポリマーと水の比は特に限定されず、両親媒性ブロックポリマーの分子量や質量等に応じて、ゲルを湿潤可能な範囲で設定すればよい。隣接する両親媒性ブロックポリマーの分子間距離を適切に保つ観点から、水の混合量は両親媒性ブロックポリマー100重量部に対して、50重量部以上1500重量部以下が好ましく、100重量部以上1000重量部以下がより好ましい。ヒドロゾルにおいて、水と両親媒性ブロックポリマーの混合中の両親媒性ブロックポリマーの含有量は、0.1重量%以上であることが好ましい。ヒドロゲルにおいて、水と両親媒性ブロックポリマーの混合中の両親媒性ブロックポリマーの含有量は、10重量%以上であることが好ましい。
【0053】
ヒドロゾル又はヒドロゲルを形成後に、水を除去してキセロゲルを形成してもよい。例えば、有機溶媒に不溶の物質や、有機溶媒により分解されやすい物質等を両親媒性ブロックポリマー中に含める場合は、ヒドロゾル又はヒドロゲルを形成した両親媒性ブロックポリマー中にこれらの物質を混合後に、水を除去することにより、これらの物質を含有するキセロゲルが形成される。形成されたキセロゲルを、再度、水に湿潤させることによりヒドロゾル又はヒドロゲルが形成される。
【0054】
生体への毒性や刺激性を低減する観点から、ヒドロゾル又はヒドロゲルは、有機溶媒の含有量が極力少ないことが好ましい。ヒドロゾル又はヒドロゲルを形成した両親媒性ブロックポリマーの分散媒全体に占める水の割合は、80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、95重量%以上がさらに好ましく、98重量%以上が特に好ましい。有機溶媒の含有量を低減するために、オルガノゲルからキセロゲルを形成する際の有機溶媒の除去率を高めることが好ましい。オルガノゲルからキセロゲルを形成後に、ヒドロゾル又はヒドロゲルの形成と分散媒の除去によるキセロゲルの形成とを繰り返し行うことによっても、有機溶媒の含有量を低減できる。
【0055】
本発明のオルガノイド組成物は、両親媒性ブロックポリマーの三次元ネットワークに内包された状態で回収してもよく、両親媒性ブロックポリマーの三次元ネットワークを分解してオルガノイド組成物に含まれる細胞塊を回収してもよい。ゲルを形成した両親媒性ブロックポリマーに水を加えて両親媒性ブロックポリマーの濃度を低下させることにより、隣接するポリマー間の相互作用が弱められて両親媒性ブロックポリマーの三次元ネットワークは容易に分解される。例えば、ヒドロゾル内で細胞を培養後、培地等の水分をヒドロゾルに添加することにより細胞塊を回収できる。ピペッティング等により両親媒性ブロックポリマーの三次元ネットワークを分解及び遠心分離を行うことによっても、細胞塊を回収できる。
【0056】
本発明のオルガノイド組成物は、適宜継代培養することができる。例えば、トリプシン、コラゲナーゼ、ディスパーゼI等のタンパク質分解酵素や、EDTA、EGTA等の少なくともいずれかを含む液、例えばTrypLE SelectTM(Thermo Fisher Scientific)中に懸濁し、37℃でインキュベートして、複数回ピペッティング、遠心分離等を行い、上清を捨て、細胞塊を得て、当該細胞塊を培地等で懸濁し、新たな両親媒性ブロックポリマーを含む培養系に添加することにより継代することができる。オルガノイド組成物の継代に用いる培地は、例えばオルガノイドの継代に用いる培地を使用することができる。
【0057】
(オルガノイド組成物の利用)
本発明のオルガノイド組成物に含まれる内胚葉系細胞では、上述のごとく薬物動態関連遺伝子の遺伝子発現量が二次元培養内胚葉系細胞由来両親媒性ブロックポリマー培養オルガノイドに比べ増加している。また、本発明のオルガノイド組成物は、薬物動態関連遺伝子のみならず、薬物代謝酵素について高い活性を示す。これより、in vitroでの薬物動態評価に有効に利用することができる。さらに、本発明のオルガノイド組成物は、肝毒性を引き起こす薬剤に対して優れた感受性を示す。これより、本発明のオルガノイド組成物は、薬物毒性評価に有効に利用することができる。本発明は、オルガノイド組成物を含む、薬物動態評価用及び/又は薬物毒性評価用オルガノイド組成物にも及ぶ。本発明のオルガノイド組成物の作製方法によれば、このような優れた性能を有するオルガノイド組成物を供給することができる。当該優れたオルガノイド組成物やその細胞集団は、薬物動態評価及び/又は薬物毒性評価用キットとして用いることができる。これにより創薬開発等医薬品の研究開発において化合物の肝障害リスクを早期に予測することができ、研究開発の成功率を上げることや費用及び期間の削減のために非常に有用である。本発明は、オルガノイド組成物を含み、さらに薬物動態評価及び/若しくは薬物毒性評価検査のために必要なデバイス及び/又は試薬を含む、薬物動態評価及び/又は薬物毒性評価用キットにも及ぶ。さらに、本発明はオルガノイド組成物を用いた、薬物動態評価方法及び/又は薬物毒性評価方法にも及ぶ。
【0058】
本発明のオルガノイド組成物は、従来細胞移植を必要としていた症例等において、再生医療や細胞治療に使用することもできる。本発明のオルガノイド組成物は、上述の如くサルコシン単位を有する親水性ブロック鎖と乳酸単位を有する疎水性ブロック鎖とを有する両親媒性ブロックポリマーを含むことを特徴とする。これより、安全性に優れており、有効な治療効果が期待できる。
【実施例0059】
以下、本発明の理解を深めるために参考例及び実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではないことはいうまでもない。
【0060】
(参考例1)ヒト肝臓オルガノイドの樹立
本参考例ではヒト初代凍結肝細胞を使用してヒト肝臓オルガノイドを樹立した。ヒト肝臓オルガノイドの樹立には、市販のヒト初代凍結肝細胞(HC4-24; XENOTECH)を使用した。50 μLのマトリゲル(Corning)に2×104 cellsとなるように肝細胞を懸濁し、24well plateへ50 μL/wellにて播種した。37℃にて15分静置し、マトリゲルをゲル化させた。既報(Broutier et al., Nat Protoc., 2016 Sep;11(9):1724-43)に記載されたヒト肝臓オルガノイド用培地を添加し、その後3日に1回培地交換することでオルガノイド培養を行った。ヒト肝臓オルガノイド用培地の組成は以下の通りである;DMEM/F-12培地(Thermo Fisher Scientific)に、10% Rspondin1 conditional medium(homemade)、1×B27 supplement Minus Vitamin A(Thermo Fisher Scientific)、1% ペニシリン/ストレプトマイシン(Nacalai tesque)、10 mM nicotinamide(Sigma)、1 mM N-acetyl-L-cysteine(sigma)、1×GlutaMAX(Thermo Fisher Scientific)、10 mM HEPES (Nacalai tesque)、50 ng/mL EGF(R&D Nsystems)、10 nM gastrin(Merck)、25 ng/mL HGF(R&D systems)、100 ng/mL FGF10(Peprotech)、5 mM A83-01(FUJIFILM Wako Pure Chemical)、10 mM forskolin(FUJIFILM Wako Pure Chemical)を添加した。7日から10日おきに1:3から1:5の比率で継代した。実施例では、樹立後1継代目から15継代目のヒト肝臓オルガノイドを用いた。参考例1で作製したヒト肝臓オルガノイドは、以下の実施例においてマトリゲル培養ヒト肝臓オルガノイドという。
【0061】
(参考例2)ヒト初代肝細胞の培養
本参考例では、1ロット(ロット名:HC4-24、XenoTech)のヒト初代培養肝細胞を培養した。細胞は37℃の振とうウォーターバスで急速融解し、余熱したOptiTHAW Hepatocyte Isolation Kit(XenoTech)で懸濁、100gで5分間、室温で遠心した。肝細胞を HCM (Lonza)にて2.5x105 cells/cm2となるように懸濁し、48well CorningR BioCoatTM Collagen I-coated Microplates (Corning) 上に播種した。48時間培養後に各種試験を行った。
【0062】
(参考例3)ヒト腸管オルガノイドの樹立
本参考例ではヒト十二指腸生検検体を用いて腸管オルガノイドを樹立した。
【0063】
(ヒト十二指腸生検)
北海道公立大学法人札幌医科大学における倫理委員会の承認を得、同意を得た患者(1名)を対象とし、上部消化管内視鏡検査中に、ヒト十二指腸生検を実施した。内視鏡観察下で炎症所見が無い十二指腸領域において、生検鉗子を用いて粘膜固有層から2-4片の生検検体を採取した。得られた生検検体は、オルガノイド樹立操作を行うまで、1×antibiotic-antimycotic(Thermo Fisher Scientific)を含む氷冷phosphate-buffered saline(PBS)中にて保存した。
【0064】
(ヒト腸管オルガノイドの樹立)
既報(Sato, T. et al., Gastroenterology. 2011 Nov;141(5):1762-72、Sugimoto, S., and Sato, T., Methods Mol Biol. 2017;1612:97-105)にいくつかの修正を加えた方法を用いてヒト十二指腸オルガノイドの樹立を行った。まず、得られた生検検体を2.5 mM ethylenediaminetetraacetic acid(EDTA, Thermo Fisher Scientific)中で穏やかに攪拌しながら4 ℃で30分間インキュベートした後、激しくピペッティングすることにより組織から陰窩を遊離させ、これをチューブに回収した。次に、回収した陰窩をMatrigel(Corning)に再懸濁し、25-40 μLの懸濁液を24-well plate(Thermo Fisher Scientific)の各ウェル中央に添加した。最後に、このプレートを37 ℃で10-15分間インキュベートすることによりMatrigelをゲル化させ、1×antibiotic-antimycoticと10 μM Y-27632(FUJIFILM Wako Pure Chemical)を含むIntestiCult Organoid Growth Medium(Human)(STEMCELL Technologies)を各ウェル400 μLずつ添加し、ヒト十二指腸オルガノイドを樹立した。
【0065】
(ヒト腸管オルガノイドの維持)
ヒト腸管オルガノイドは、ペニシリン/ストレプトマイシン、10 mmol/L HEPES、GlutaMAX、1×N2 Supplement(Thermo Fisher Scientific)、1×B27 Supplement(Thermo Fisher Scientific)、1 mM N-アセチルシステイン(Merck)、10 mM ニコチンアミド(Merck)、50% Afamin-Wnt3A CM、10% R-Spondin1 CM、500 nM A83-01(FUJIFILM Wako Pure Chemical)、10 μM SB202190(Merck)、50 ng/mL human EGF(Thermo Fisher Scientific)、100 ng/mL human Noggin(Peprotech)、10 nM [Leu15]-Gastrin1(Merck)を含むAdvanced DMEM/F12を用いて維持した。ヒト腸管オルガノイドを維持するために、培地は2日ごとに交換し、オルガノイドは1-2週間に1度継代した。ヒト腸管オルガノイドを継代する手順は、既報(Sato, T. et al., Gastroenterology. 2011 Nov;141(5):1762-72、Sugimoto, S., and Sato, T., Methods Mol Biol. 2017;1612:97-105、Miyoshi, H., and Stappenbeck, T.S, Nat Protoc. 2013 Dec;8(12):2471-82)に基づいて、若干の修正を加えたものである。各ウェルを1×抗生物質-抗菌剤を含むPBSで洗浄し、オルガノイド培養物を掻き取り、1×抗生物質-抗菌剤を含むPBSに懸濁した。懸濁液を5-10回上下にピペッティングした後、70μmのストレーナーを通し、マトリゲルを所望の濃度になるように再懸濁した。次に、オルガノイド懸濁液40~50μLを24ウェルプレートの各ウェルの中央に塗布した。マトリゲルを37℃で10分間重合させ、400μL/ウェルのオルガノイド培養液を加えた。参考例3で作製したヒト腸管オルガノイドは、マトリゲル培養ヒト腸管オルガノイドという。
【0066】
(実施例1)HYDROXを含むヒト肝臓オルガノイド組成物の作製及び肝機能評価
本実施例では、参考例1で作製したヒト肝臓オルガノイドをHYDROXを用いて培養し(
図1A)、HYDROXを含むヒト肝臓オルガノイド組成物を作製し、肝機能を確認した。参考例1で作製したマトリゲル培養ヒト肝臓オルガノイドにTrypLE Selectを処理してマトリゲルを分解した。得られた細胞塊をヒト肝臓オルガノイド用培地で懸濁し、HYDROXプレートに300μL/well播種して三次元的に培養した(HYDROX培養)。細胞塊は7日おきに新しいHYDROXプレートに再播種した。HYDROXプレートは以下のように作製した。48 well接着プレートにHYDROX原料ポリマー(Psar-PLLA)を95%エタノール(Nacalai tesque)と10 mg/mLの濃度で混合し、70℃で10分間加温した。溶解したポリマー溶液を培養プレートに滴下し、8時間以上乾燥させ、HYDROXを含むヒト肝臓オルガノイド組成物を作製した。本実施例及び以下の実施例において、HYDROXを含むヒト肝臓オルガノイド組成物をHYDROX培養ヒト肝臓オルガノイド組成物という。
【0067】
Day1,2,4,7において、HYDROX培養ヒト肝臓オルガノイド組成物を位相差顕微鏡にて観察した(
図1B)。培養1日目から細胞凝集が見られ、その後オルガノイドの形成が確認された。つまり、ヒト肝臓オルガノイドはHYDROXを用いた三次元培養が可能であった。
【0068】
続いて、HYDROX培養ヒト肝臓オルガノイド組成物の性質を評価するために、HYDROX培養開始後7、14、21日目のHYDROX培養ヒト肝臓オルガノイド組成物における肝細胞マーカーの遺伝子発現量解析をqRT-PCR法により行った。マトリゲル培養ヒト肝臓オルガノイドにおける遺伝子発現レベルを1.0とした。すべてのデータは平均値±S.D.(n = 3)を表している。具体的には、以下の手順により行った。Total RNAは各細胞集団からISOGENE(NIPPON GENE)を用いて抽出した。各total RNA 500 ngからSuperscript VILO cDNA synthesis kit(Thermo Fisher Scientific)を用いて逆転写反応を行い、cDNAを合成した。定量的RT-PCRはSYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)を使用し、StepOnePlus real-time PCR system(Applied Biosystems)により定量した。標的mRNA発現量は2-ΔΔCT法を用いて相対的に定量した。内部標準遺伝子としてはglyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)を使用した。定量的 RT-PCR に用いたプライマーの配列は、PrimerBank (https://pga.mgh.harvard.edu/primerbank/)から取得した。
【0069】
その結果、HYDROX培養群では、マトリゲル培養群と比較して多くの肝細胞マーカー遺伝子の発現量が顕著に増加した。また、その発現量はヒト初代肝細胞に匹敵した(
図2)。
【0070】
次に、HYDROX培養開始後7、14、21日目のヒト肝臓オルガノイド組成物又はヒト初代肝細胞に各種薬物代謝酵素の基質を作用させ、肝細胞の重要な機能である薬物代謝酵素の活性について、24時間後の培養上清中における代謝物をUPLC MS/MSにより定量した。すべてのデータは平均値±S.D.(n = 3)を表している。具体的にはCYP3A4 、CYP2C19、CYP1A2、CYP2C8活性を測定するため、UPLC MS/MS分析を実施した。それぞれの薬物代謝酵素の基質(1 μM Midazolam、 80 μM (S)-(+)-Mephenytoin、0.5 μM Ethoxyresorufin、50nM Amiodiaquin)を細胞に作用し、24時間後に上清を回収した。上清と等量のアセトニトリル(FUJIFILM Wako Pure Chemical)と混合したサンプルをAcroPrep Advance 96-Well Filter Plates (Pall Corporation)でフィルトレーションし、UPLC(ACQUITY UPLC、Waters)に接続した質量分析計(Xevo TQ-S、Waters Corp.、Milford、USA)を用いて、代謝物の含有量を測定した。LC分離にはBEH C18 column(1.7 μm, 2.1 × 50 mm, Waters)を使用した。移動相は溶媒A(0.1%ギ酸/水)と溶媒B(0.1%ギ酸/アセトニトリル)で構成される流速1.0 ml/minのグラジエントプロファイルで実施した。グラジエント条件は以下の通りである。0 min-2% B, 1.0 min-95% B, 1.25 min-95% B, 1.26 min-2% B, and 1.75 min-2% B. 5μLのサンプルをカラムに注入し、標準曲線に基づいて化合物濃度を算出した。
【0071】
酵素特異的な基質をHYDROX培養ヒト肝臓オルガノイド組成物に作用させ、その代謝物を定量した結果、HYDROX培養ヒト肝臓オルガノイド組成物は、ヒト初代肝細胞と同等レベルの高い薬物代謝酵素活性を有することが示された(
図3)。
【0072】
さらに、新薬開発の初期段階では、薬物の安全性を肝毒性評価試験により正確に評価する必要があることから、HYDROX培養ヒト肝臓オルガノイド組成物の肝毒性評価試験への応用可能性を検討した。肝毒性を引き起こす薬剤として知られるtroglitazone、amiodaron、acetaminophenをHYDROX培養ヒト肝臓オルガノイド組成物又はヒト初代肝細胞に作用し、7日目の細胞生存率を測定した。その結果、生存率は薬剤の濃度に応じて低下し、その低下の度合いは細胞間で同程度であった(
図4)。以上の検討から、HYDROXはヒト肝臓オルガノイドに適用可能であり、生体に近い機能を有し創薬研究に応用可能な高機能肝臓オルガノイド組成物を作製可能であることが示された。
【0073】
(実施例2)HYDROXを含む腸管ヒトオルガノイド組成物の作製及び性質の評価
本実施例では、HYDROXを用いてヒト腸管オルガノイド組成物を作製し、当該オルガノイド組成物を評価した。
【0074】
参考例3で示すヒト腸管オルガノイドを継代する手順と同様に回収した細胞をヒト腸管オルガノイド用培地で懸濁し、HYDROXプレートに500、250又は100μL/well播種して三次元的に培養し(HYDROX培養)、HYDROXを含むヒト腸管オルガノイド組成物を作製した。HYDROXプレートは以下のように作製した。HYDROX原料ポリマー(Psar-PLLA)を95%エタノール(Nacalai tesque)と10 mg/mLの濃度で混合し、70℃で10分間加温した。溶解したポリマー溶液を24、48又は96well培養プレートに滴下し、8時間以上乾燥させた。本実施例及び以下の実施例では、HYDROXを含むヒト腸管オルガノイド組成物はHYDROX培養ヒト腸管オルガノイド組成物という。
【0075】
HYDROX培養を開始するために、マトリゲル培養ヒト腸管オルガノイドの細胞懸濁液をHYDROXプレートに播種し、位相差顕微鏡を用いて培養2日目と8日目のオルガノイドを観察した。時間を追うごとにHYDROXによる細胞凝集が見られ、オルガノイドの形成が確認された(
図5A)。また、形態学的な評価を行うために、透過型電子顕微鏡を用いて観察した。マトリゲル培養群、HYDROX培養群いずれもで微絨毛やタイトジャンクションといった腸管上皮に特徴的な構造が確認された(
図5B)。つまり、HYDROXを用いてヒト腸管オルガノイドを三次元培養することが可能であった。
【0076】
続いて、HYDROX培養ヒト腸管オルガノイド組成物の性質を評価するために、腸管分化細胞マーカーの遺伝子発現量解析及び免疫蛍光染色を行った。腸管分化細胞マーカーの遺伝子発現量は実施例1と同手法により、定量的RT-PCRにより行った。ヒト小腸における遺伝子発現レベルを1.0とした。すべてのデータは平均値±S.D.(n = 3)を表している。
【0077】
(免疫蛍光染色)
HYDROX培養ヒト腸管オルガノイド組成物及びマトリゲル培養ヒト腸管オルガノイドにおけるCHGA及びE-cadのタンパク質について免疫蛍光染色を行った。DAPIは核を表す。ヒト腸管オルガノイドを継代する手順と同様に回収した細胞をTissue-Tek O.C.T. Compound(Sakura Finetek Japan)中に包埋し急速凍結することで、Tissue-Tek Cryomold(Sakura Finetek Japan)上に凍結ブロックを作製した。回転式低温槽ミクロソームCM1950(Leica Biosystems)を用いてスライドガラス上に凍結切片を切り出した。スライドガラス上の細胞に4% Paraformaldehyde Phosphate Buffer Solution(FUJIFILM Wako Pure Chemical)を添加し、室温で15分間インキュベートすることにより固定した。次に、2% BSA(bovine serum albumin)(Nacalai tesque)と0.2 vol% Triton X-100(Merck)を含むPBS(ブロッキングバッファー)を添加し、室温で15分間ブロッキングを行った後、1次抗体(表1)を含むブロッキングバッファーを添加して4°Cで一晩インキュベートし、最後に2次抗体(表1)を含むブロッキングバッファーを添加して室温で1時間インキュベートしたものを観察に供した。なお、DAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole)(Nacalai tesque)を用いて核染色を行った。画像は、共焦点レーザー走査顕微鏡FV10i(Olympus)を用いて撮影した。
【0078】
【0079】
その結果、HYDROX培養群では、マトリゲル培養群と比較して多くの腸管分化細胞マーカー遺伝子の発現量が増加し、その発現量はヒト小腸に匹敵した。また、腸幹細胞マーカー遺伝子LGR5の発現は減少した(
図6A)。さらに、 HYDROX培養ヒト腸管オルガノイド組成物は、マトリゲル群と同様に、円柱上皮からなる培養体であることが明らかになった。HYDROX培養ヒト腸管オルガノイド組成物は、マトリゲル群では発現が確認できなかった腸内分泌細胞マーカーCHGAの発現を確認することができた(
図6B)。
【0080】
次に、HYDROX培養ヒト腸管オルガノイド組成物の薬物動態に関連する分子についての評価を行うために、HYDROX培養ヒト腸管オルガノイド組成物における薬物動態関連遺伝子発現解析及び最も重要な薬物代謝酵素CYP3A4の活性測定を行った。ヒト腸管オルガノイド組成物における薬物動態関連遺伝子の発現量を実施例1と同手法により定量的RT-PCRにより解析した。ヒト小腸における遺伝子発現レベルを1.0とした。すべてのデータは平均値±S.D.(n = 3)を表している。CYP3A4の活性測定は、実施例1の手法のうち、Midazolamを細胞に作用し、24時間後に上清を回収し、60分後に上清を回収に変えたほかは、実施例1と同様にCYP3A4の活性を測定した。すべてのデータは平均値±S.D.(n = 3)を表している。
【0081】
HYDROX培養群は、マトリゲル培養群と比較し、主要な薬物トランスポーターや薬物代謝酵素の発現が上昇し、ヒト小腸と同程度かそれ以上の発現量を示した(
図7A)。また、CYP3A4代謝活性測定の結果より、HYDROX培養群はマトリゲル群のおよそ10倍もの活性を示した(
図7B)。以上の検討から、HYDROXはヒト腸管オルガノイドに適用可能であり、より生体に近い性質を有し、創薬研究への応用が期待できる高機能なヒト腸管オルガノイド作製可能であることが示された。
【0082】
(実施例3)肝臓オルガノイド組成物と二次元培養内胚葉系細胞由来両親媒性ブロックポリマー培養肝臓オルガノイドとの比較
本実施例では、実施例1で作製した肝臓オルガノイド組成物と二次元培養内胚葉系細胞由来両親媒性ブロックポリマー培養肝臓オルガノイドの薬物動態関連遺伝子の発現量を比較した。
【0083】
(二次元培養内胚葉系細胞由来両親媒性ブロックポリマー培養肝臓オルガノイドの作製)
非特許文献3に記載の方法により、二次元培養内胚葉系細胞由来両親媒性ブロックポリマー培養肝臓オルガノイド(2D由来HYDROX適用肝臓オルガノイド)を作製した。具体的には100 ng/mL アクチビン A (R&D Systems)、1×GlutaMAX(Thermo Fisher Scientific)、及び1×B27 supplement Minus Vitamin A(Thermo Fisher Scientific)を含む RPMI1640 培地 (Sigma) でヒトiPS細胞(Tic株)を4日間培養し、胚体内胚葉細胞(definitive endoderm cells)に分化させた。次に、胚体内胚葉細胞を、20 ng/mL bone morphogenetic protein 4 (BMP4; R&D Systems)、20 ng/mL fibroblast growth factor 4 (FGF4; R&D Systems) 、1×GlutaMAX(Thermo Fisher Scientific)及び1×B27 supplement Minus Vitamin A(Thermo Fisher Scientific)を含む RPMI1640 培地中で 5 日間培養し、肝幹前駆細胞(hepatoblast-like cells)に分化させた。次に、肝幹前駆細胞を20 ng/mL hepatocyte growth factor (HGF; R&D Systems)、1×GlutaMAX(Thermo Fisher Scientific)及び1×B27 supplement Minus Vitamin A(Thermo Fisher Scientific)を含む RPMI1640培地で5 日間培養した。
【0084】
培養14日目の肝幹前駆細胞をTrypLE SelectTMを作用させて剥離しシングルセルを回収し、HYDROXプレートに、20ng/mL オンコスタチンM(OsM;R&D Systems)及び3×GlutaMAX(Thermo Fisher Scientific)を添加した肝細胞培養培地(HCM; Lonza)中に5×105 細胞/0.5 mL/24 ウェルの密度となるように播種して11日間培養し、二次元培養内胚葉系細胞由来両親媒性ブロックポリマー培養肝臓オルガノイドを作製した。なお、HYDROXプレートは実施例1及び2と同手法により作製した。
【0085】
HYDROX培養開始後7日目の肝臓オルガノイド組成物とHYDROX培養開始後11日目の二次元培養内胚葉系細胞由来両親媒性ブロックポリマー培養肝臓オルガノイドの薬物動態関連遺伝子の発現量を実施例1と同手法により定量的RT-PCRにより解析した。肝臓オルガノイド組成物の薬物動態関連遺伝子の発現量が、二次元培養内胚葉系細胞由来両親媒性ブロックポリマー培養オルガノイドの薬物動態関連遺伝子の発現量に比べて増加していることが示された(
図8)。
【0086】
(実施例4)HYDROX培養オルガノイドと両親媒性ブロックポリマーの共存確認
本実施例では、実施例1及び2で作製したオルガノイド組成物において、両親媒性ブロックポリマーが共存しているかを検討した。
【0087】
実施例1及び2で作製した培養7日目(day7)のオルガノイド組成物を、新たなHYDROXプレートに全量継代した。継代3日後、day10で各オルガノイド組成物を回収し、遠心分離後に上清を除去した。その後、PBSで各オルガノイド組成物を懸濁して遠心分離し、オルガノイド組成物を洗浄した。PBSで懸濁し遠心分離する工程は計3回行った。上清を除去後、沈殿した細胞塊を凍結乾燥4日間を行った後、溶媒として重エタノール(CD3OD)を用いて温度25℃にて1H-NMR測定を行った。各細胞塊と1H-NMR測定条件は表2示す。なお、各オルガノイド組成物は綿栓ろ過処理を行った。
【0088】
【0089】
上記の結果、HYDROXを用いた培養細胞には、HYDROX原末(ポリサルコシン-ポリ乳酸両親媒性ブロックポリマー)が含まれていると考えられる(
図9)。なお、細胞培養中及び洗浄処理等のHYDROX原末(ポリサルコシン-ポリ乳酸両親媒性ブロックポリマー)のロスにより、NMRピークが低下していると考えられる。
本発明のオルガノイド組成物は、サルコシン単位を有する親水性ブロック鎖と乳酸単位を有する疎水性ブロック鎖とを有する両親媒性ブロックポリマーを含むことを特徴とすることから安全性に優れている。これより、再生医療や細胞治療に特に適用でき、有効な治療効果が期待できる。本発明のオルガノイド組成物を用いた再生医療によれば、患者にとってより免疫適合性の高いオルガノイド組成物を選択することができ、さらに臓器移植に伴うリスクを低減化することでき、非常に優れている。
本発明のオルがノイド組成物は、薬物動態関連遺伝子の遺伝子発現量が二次元内胚葉系細胞から作製されたオルガノイドに比べ増加している。さらに、本発明のオルガノイド組成物は、薬物動態関連遺伝子の遺伝子発現のみならず薬物代謝酵素について高い活性を示す。さらには、肝毒性を引き起こす薬剤に対して優れた感受性を示す。これより、本発明のオルガノイド組成物は、薬物動態評価及び/又は薬物毒性評価に有効に利用することができる。