(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025019576
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20250131BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G53/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123253
(22)【出願日】2023-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】相田 平
(72)【発明者】
【氏名】林 一英
(72)【発明者】
【氏名】藪内 直明
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AA04
4G048AB01
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB12
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン二次電池に用いた場合に、サイクル特性を向上できるリチウムイオン二次電池用正極活物質の提供。
【解決手段】複数の一次粒子が互いに凝集した二次粒子を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
層状岩塩型構造のリチウム遷移金属複合酸化物を含み、
前記リチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造において、Liサイト(3bサイト)に占めるLi以外の元素の割合が2%以上8%以下であり、
前記リチウム遷移金属複合酸化物の組成が以下の一般式(1)で表される、リチウムイオン二次電池用正極活物質。
一般式(1):Li1-xNiO2+α(ただし、0.02≦x≦0.08、-0.1≦α≦0.1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の一次粒子が互いに凝集した二次粒子を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
層状岩塩型構造のリチウム遷移金属複合酸化物を含み、
前記リチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造において、Liサイト(3bサイト)に占めるLi以外の元素の割合が2%以上8%以下であり、
前記リチウム遷移金属複合酸化物の組成が以下の一般式(1)で表される、リチウムイオン二次電池用正極活物質。
一般式(1):Li1-xNiO2+α(ただし、0.02≦x≦0.08、-0.1≦α≦0.1)
【請求項2】
前記一次粒子の平均粒子径が20nm以上250nm以下である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項3】
ニッケル水酸化物およびニッケル酸化物から選択された1種類以上であるニッケル化合物と、リチウム化合物とを混合し、得られるリチウム混合物中のニッケル原子に対するリチウム原子の原子数の割合が0.92以上0.98以下となるように混合する混合工程と、
前記リチウム混合物を、2℃/分以下の昇温速度で昇温し、600℃以上700℃以下の温度で焼成する焼成工程と、を有する、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
正極、負極、および非水系電解質を少なくとも備え、
前記正極は、請求項1または請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話端末やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度や耐久性を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池などの非水系電解質二次電池がある。正極活物質として、層状またはスピネル型の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物を用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0004】
リチウム金属複合酸化物としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4)、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5O2)などが提案されている。
【0005】
近年ではリチウムイオン二次電池の電池特性についてさらなる性能向上が求められ、各種検討がなされている。
【0006】
例えば特許文献1~特許文献5では、リチウム複合酸化物の粒子特性を制御することで、該リチウム複合酸化物を用いたリチウムイオン二次電池について、繰り返し充放電を行った場合の容量維持率であるサイクル特性を高められることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001-243949号公報
【特許文献2】特開2004-355824号公報
【特許文献3】特開2017-188444号公報
【特許文献4】特開2017-188445号公報
【特許文献5】国際公開第2017/169129号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、リチウムイオン二次電池は、上述のように各種用途で用いられるようになっており、さらなる性能向上も求められるようになっている。このため、リチウムイオン二次電池用正極活物質についても、従来とは異なる手法により、リチウムイオン二次電池に用いた際のサイクル特性等の性能を向上することが求められるようになっている。
【0009】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、リチウムイオン二次電池に用いた場合に、サイクル特性を向上できるリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
複数の一次粒子が互いに凝集した二次粒子を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
層状岩塩型構造のリチウム遷移金属複合酸化物を含み、
前記リチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造において、Liサイト(3bサイト)に占めるLi以外の元素の割合が2%以上8%以下であり、
前記リチウム遷移金属複合酸化物の組成が以下の一般式(1)で表される、リチウムイオン二次電池用正極活物質を提供する。
【0011】
一般式(1):Li1-xNiO2+α(ただし、0.02≦x≦0.08、-0.1≦α≦0.1)
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、リチウムイオン二次電池に用いた場合に、サイクル特性を向上できるリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法のフローである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[リチウムイオン二次電池用正極活物質]
以下、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」とも記載する)について説明する。
(1)正極活物質について
本実施形態の正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物を含有する。本実施形態の正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物のみから構成されていても良いが、この場合でも、製造工程等で混入する不可避不純物を含有することを排除するものではない。
【0015】
そして、リチウム遷移金属複合酸化物は、層状岩塩型構造を有することができる。
(1-1)粒子の形態について
本実施形態の正極活物質の粒子の形態は特に限定されないが、本実施形態の正極活物質は、複数の一次粒子が互いに凝集した二次粒子を含むことができる。このため、本実施形態の正極活物質は、二次粒子のみから構成されていてもよく、二次粒子に加えて、凝集せずに単独で存在する一次粒子を含んでいてもよい。
【0016】
なお、本実施形態の正極活物質の粒子は、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子を含むことができ、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子から構成されていてもよい。
【0017】
本実施形態の正極活物質の粒子の形態は、粒子の走査電子顕微鏡(SEM)観察像(以下、「SEM像」とも記載する。)で概略は確認することもできるが、正確性に欠けることもある。本実施形態に係る正極活物質では、粒子を断面加工し、このSEM像を用いて一次粒子、二次粒子の有無を判定することが好ましい。
【0018】
具体的には例えば、正極活物質の粒子を樹脂に埋め込み、クロスセクションポリッシャー(CP)加工などにより、粒子の断面観察が可能な状態としてからSEM像の観察を行い、一次粒子、二次粒子の有無を判定することが好ましい。判定には、50個以上の粒子について、上記評価を行うことが好ましい。評価する粒子の数の上限は特に限定されないが、評価の生産性を考慮し、200個以下の粒子について評価を行うことが好ましい。
【0019】
また、電子線後方散乱回折(以下、「EBSD」とも記載する。)法のバンドコントラストや、断面加工時に集束イオンビーム(FIB)加工装置を用いる場合には、上記粒子断面を付属の走査イオン顕微鏡(SIM)観察像を用いて確認することもできる。
(1-2)リチウム遷移金属複合酸化物の組成
リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と酸素(O)と、から構成できる。このため、リチウム遷移金属複合酸化物の組成は、以下の一般式(1)で表される。
【0020】
一般式(1):Li1-xNiO2+α
上記一般式におけるx、yは、0.02≦x≦0.08、-0.1≦α≦0.1を充足することが好ましい。
【0021】
LiNiO2で表されるニッケル酸リチウムにおいては、ニッケル元素に対する、リチウム元素の量論比は1.00である。これに対して、本実施形態の正極活物質が含有するリチウム遷移金属複合酸化物の上記一般式(1)において、ニッケル元素に対するリチウム元素の物質量比は1-xで表される。リチウム遷移金属複合酸化物の上記一般式において、ニッケル元素に対するリチウム元素の物質量比を示す1-xのうち、xの値は、リチウム元素の量論比からの欠損量に相当する。そして、本実施形態の正極活物質が含有するリチウム遷移金属複合酸化物において、xは0.02≦x≦0.08であることが好ましい。すなわち、本実施形態の正極活物質が含有するリチウム遷移金属複合酸化物は、ニッケル元素に対する、リチウム元素の物質量比は0.98以下であり、欠損を有していることが好ましい。
【0022】
リチウム元素の量論比からの欠損量に当たるxの値を0.02以上0.08以下とし、リチウム元素の欠損を有するリチウム遷移金属複合酸化物とすることで、本実施形態の正極活物質の粒子表面に付着したリチウム化合物の量、すなわちアルカリ量を抑制できる。このため、本実施形態の正極活物質をリチウムイオン二次電池(以下、「二次電池」とも記載する)に適用した場合に、電池反応時のガス発生を抑制できる。
【0023】
また、リチウム元素の量論比からの欠損量に当たるxの値を0.02以上0.08以下とすることで、本実施形態の正極活物質を二次電池に適用した場合に、サイクル特性を高められる。
【0024】
なお、リチウムニッケル複合酸化物の組成は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法による定量分析により測定することができる。
(1-3)Liサイト(3bサイト)に占めるLi以外の元素の割合
本実施形態に係る正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物は、リチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造において、Liサイト(3bサイト)に占めるLi以外の元素の割合が2%以上8%以下であることが好ましく、より好ましくは2%以上6%以下である。
【0025】
Liサイト(3bサイト)に占めるLi以外の元素の割合とは、Liサイト(3bサイト)に占めるニッケル元素の割合を意味する。Liサイト(3bサイト)に占めるLi以外の元素の割合は、粉末X線回折法で測定した粉末X線回折パターンをリートベルト(Rietveld)法により解析することにより得られる。リートベルト法により解析する際、結晶構造としては、リチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造である層状岩塩型構造を用いることができる。
【0026】
二次電池の充放電を繰り返し行う場合、リチウム遷移金属複合酸化物の層間へのリチウムの挿入、脱離が繰り返し行われる。しかし、従来の正極活物質を用いた二次電池の充放電を繰り返し行った場合に、リチウムの脱離に伴って生じた空隙の一部に、ニッケルが移動、占有する場合があった。そして、ニッケルが占有したサイトにはリチウムが挿入されなくなるため、サイクル特性が低下していたと考えられる。
【0027】
これに対して、本実施形態の正極活物質が含有するリチウム遷移金属複合酸化物では、Liサイト(3bサイト)に占めるLi以外の元素の割合が2%以上となっている。このように予めLiサイトにニッケルが挿入されていることで、充電時にリチウムが脱離して生じたサイトにニッケルが挿入されることを抑制できると考えられる。このため、充放電を繰り返し行った場合の電池容量の低下を抑制しサイクル特性を高められると考えられる。
【0028】
また、Liサイト(3bサイト)に占めるLi以外の元素の割合を8%以下とすることで、初期の容量の低下を抑制できる。このため、充放電に寄与するリチウム量を十分に確保し、反応抵抗を抑制し、電池容量や、出力を十分に高められる。
(1-4)一次粒子の平均粒子径
本実施形態の正極活物質は、一次粒子の平均粒子径が20nm以上250nm以下であることが好ましく、20nm以上150nm以下であることがより好ましい。
【0029】
本実施形態の正極活物質の一次粒子の平均粒子径を20nm以上とすることで、本実施形態の正極活物質が含有する一次粒子や、一次粒子を構成する結晶子のサイズを十分に大きくできていることを意味する。このため、正極活物質が含有するリチウム遷移金属複合酸化物についても結晶性を高めることができ、本実施形態の正極活物質を二次電池に適用した場合に、電池容量も高めることができ、電池容量とサイクル特性とに優れた二次電池とすることができる。
【0030】
ただし、本実施形態の正極活物質の一次粒子の平均粒子径を過度に大きくしても、上記電池容量を高める効果は飽和することから、リチウムニッケル複合酸化物の平均一次粒子径は250nm以下であることが好ましい。
【0031】
正極活物質の一次粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により全体が観察できる正極活物質の一次粒子を選択し、その長軸長さを測定し、平均することで求められる。一次粒子の平均粒子径を算出する際、評価を行う一次粒子の数は特に限定されない。
【0032】
例えば、正極活物質が二次粒子を含む場合、10個以上20個以下の二次粒子を選択し、選択したそれぞれの二次粒子から一次粒子を選択する。そして、合計で20個以上30個以下の一次粒子を選択し、選択した一次粒子の長軸長さを測定することが好ましい。
【0033】
また、正極活物質が、二次粒子を構成しない単体の一次粒子を含む場合、該正極活物質の一次粒子について5個以上評価することが好ましい。上記評価を行う一次粒子の数の上限についても特に限定されないが、例えば20個以下評価することが好ましい。
【0034】
正極活物質が二次粒子のみを含む場合は、二次粒子について、上記個数の二次粒子を選択し、さらに各二次粒子から合計で上記個数の一次粒子を選択できる。そして、選択した一次粒子の長軸の長さを測定し、その平均値を正極活物質の一次粒子の平均粒子径とすることができる。
【0035】
正極活物質が二次粒子と、単体の一次粒子との両方を含む場合、選択した上記個数の二次粒子、単体の一次粒子それぞれについて上記個数の一次粒子を選択できる。そして、選択した全ての一次粒子の長軸の長さを測定し、その平均値を正極活物質の一次粒子の平均粒子径とすることができる。
【0036】
正極活物質について、一次粒子の平均粒子径を上記範囲とすることにより、該正極活物質を二次電池に適用した場合に、電池容量とサイクル特性を特に高め、両立させることもできる。
[リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法]
上記リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、上記特性を有する正極活物質が得られれば、特に限定されない。以下、本実施形態に係る正極活物質の製造方法の一例について、説明する。
【0037】
なお、上述のように本実施形態の正極活物質の製造方法によれば、既述の正極活物質を製造できるため、既に説明した事項については、説明を一部省略する。
【0038】
本実施形態の正極活物質の製造方法は、例えば
図1に示したフロー10に従って実施できる。すなわち、本実施形態の正極活物質の製造方法は、混合工程(S1)、および焼成工程(S2)を有することができる。
【0039】
混合工程(S1)では、ニッケル水酸化物およびニッケル酸化物から選択された1種類以上であるニッケル化合物と、リチウム化合物とを混合して、リチウム混合物を得ることができる。この際、得られるリチウム混合物中のニッケル原子に対するリチウム原子の原子数の割合が0.92以上0.98以下となるように混合することが好ましい。
【0040】
焼成工程(S2)では、上記リチウム混合物を焼成し、正極活物質を生成できる。焼成工程においては、2℃/分以下の昇温速度で昇温し、600℃以上700℃以下の温度で焼成することが好ましい。
【0041】
以下、各工程の構成例について説明する。
(1)混合工程(S1)
混合工程(S1)では、上述のようにニッケル水酸化物およびニッケル酸化物から選択された1種類以上であるニッケル化合物と、リチウム化合物とを混合して、リチウム混合物を得ることができる。
【0042】
ニッケル化合物と、リチウム化合物とは、例えば、粉末(固相)で添加し、混合することができる。以下、混合工程に供する原料である各材料について説明する。
(1-1)原料について
(ニッケル化合物)
混合工程(S1)で用いられるニッケル化合物は、公知の方法で得ることができる。
【0043】
ニッケル化合物は、ニッケル水酸化物であってもよく、ニッケル酸化物であってもよい。また、ニッケル化合物は、ニッケル水酸化物とニッケル酸化物との混合物であってもよい。ニッケル水酸化物の製造方法としては、例えば、ニッケル塩の水溶液とアルカリ溶液を用いて中和晶析する方法が挙げられる。また、ニッケル水酸化物を熱処理して、ニッケル水酸化物の水分の除去等することで、ニッケル水酸化物の一部あるいは全てをニッケル酸化物としてもよい。
(リチウム化合物)
リチウム化合物は、特に限定されず、リチウムを含む公知の化合物を用いることができ、例えば、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウムから選択された1種類以上が挙げられる。なお、リチウム化合物は、上記化合物から選択された2種類以上の化合物の混合物であっても良い。
【0044】
リチウム化合物は、残留不純物の影響が少なく、焼成温度で溶解するという観点から、炭酸リチウム、水酸化リチウムから選択された1種類以上であることがより好ましい。また、特に高い結晶性を有するリチウム遷移金属複合酸化物を得るという観点から、リチウム化合物は水酸化リチウムであることがより好ましい。
(1-2)混合方法
ニッケル化合物とリチウム化合物との混合方法は、特に限定されない。これらの粒子の形骸が破壊されない程度に混合し、これらの粒子を十分に混合することが好ましい。
【0045】
ニッケル化合物と、リチウム化合物との混合は、例えば、一般的な混合機を使用して実施でき、例えばシェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いて混合することができる。混合が十分でない場合、正極活物質の個々の粒子間で、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)との物質量比(Li/Ni)がばらつき、十分な電池特性が得られない等の問題が生じることがあるため、十分に混合することが好ましい。
(1-3)混合割合
リチウム化合物は、混合工程で得られるリチウム混合物中のニッケル原子(Ni)に対するリチウム原子(Li)の原子数の割合(Li/Ni)が、0.92以上0.98以下となるように混合することが好ましい。つまり、リチウム混合物におけるLi/Niが、得られる焼成物におけるLi/Niと同じになるように混合することが好ましい。これは、焼成工程(S2)前後で、リチウム、ニッケルについての各元素の物質量の比は変化しないので、混合工程(S1)における、リチウム混合物のLi/Niが、焼成物のLi/Niと等しくなるからである。なお、リチウム混合物中の元素の含有量(比率)は、リチウム遷移金属複合酸化物中でもほぼ維持される。
(2)焼成工程(S2)
焼成工程(S2)は、混合工程(S1)で得られたリチウム混合物を焼成してリチウム遷移金属複合酸化物を含む焼成物を得る工程である。リチウム混合物を焼成すると、ニッケル化合物にリチウム化合物中のリチウムが拡散して、リチウム遷移金属複合酸化物が形成される。リチウム化合物は、焼成時の温度で溶融し、ニッケル化合物内に浸透して、リチウム遷移金属複合酸化物の焼成物を形成する。
【0046】
焼成工程(S2)における焼成の条件は特に限定されず、リチウム遷移金属複合酸化物について目的とする組成とし、Liサイト(3bサイト)に占めるLi以外の元素の割合等の特性が所望の範囲となるように選択できる。以下、焼成条件の好適な例を説明する。
(雰囲気)
焼成雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましい。該酸化性雰囲気は、酸素濃度が60体積%以上であることが好ましく、酸素濃度が80体積%以上であることがより好ましく、酸素濃度が85体積%以上であることがさらに好ましい。なお、酸化性雰囲気は酸素雰囲気とすることもできるため、酸素濃度は100体積%以下とすることができる。
【0047】
本明細書において焼成雰囲気は、焼成炉に供給する気体を意味する。
(焼成温度)
焼成は600℃以上700℃以下の焼成温度で行うことが好ましく、610℃以上685℃以下の焼成温度で焼成を行うことがより好ましく、625℃以上675℃以下の焼成温度で焼成を行うことがさらに好ましい。
【0048】
室温から上記焼成温度まで昇温後、室温まで降温することでリチウム混合物の焼成を行うことができる。
【0049】
上記焼成温度までの昇温速度は2℃/分以下とすることが好ましく、0.1℃/分以上2℃/分以下とすることがより好ましい。
【0050】
昇温速度を2℃/以下とすることで、リチウム混合物内の反応を均一に進行させることができ、リチウム遷移金属複合酸化物の結晶成長を促進できる。
【0051】
焼成温度での保持時間は特に限定されないが、5時間以上とすることが好ましく、10時間以上48時間以下とすることがより好ましい。
【0052】
所定のリチウム混合物を、上記温度パターンで焼成することで、リチウム遷移金属複合酸化物について、Liサイト(3bサイト)に占めるLi以外の元素の割合について容易に既述の範囲内とすることができる。
【0053】
なお、リチウム遷移金属複合酸化物の目的組成におけるリチウムや、ニッケルの含有割合等に応じて、Liサイト(3bサイト)に占めるLi以外の元素の割合を所望の範囲とするために好適な焼成温度等の焼成条件が変化する場合がある。このため、目的組成に応じて、上記温度範囲内で最適な焼成温度を選択し、昇温速度、保持時間等の温度条件を選択することが好ましい。
【0054】
本実施形態の正極活物質の製造方法は、上記混合工程、焼成工程以外に任意の工程を有することもできる。
(3)解砕工程
焼成工程(S2)で得られた焼成物を本実施形態の正極活物質とすることもできる。ただし、焼成工程(S2)後に得られた焼成物は、粒子間の焼結は抑制されているが、弱い焼結や凝集により粗大な粒子を形成していることがある。このような場合、本実施形態の正極活物質の製造方法は、焼成物を解砕する解砕工程を有することもできる。焼成物を解砕することにより、上記焼結や凝集を解消して粒度分布を調整することができる。
(4)粉砕工程
本実施形態の正極活物質の製造方法は、焼成工程(S2)後、あるいは上記解砕工程の後、焼成物もしくは解砕粉を粉砕する粉砕工程を有することもできる。
【0055】
なお、解砕工程や粉砕工程の後、所望の粒度の粒子を選択するために篩掛けを行ってもよい。
(5)水洗工程
本実施形態の正極活物質の製造方法は、焼成工程(S2)で得られた焼成物について、水洗を行う水洗工程を有することもできる。
【0056】
水洗工程を実施することで、正極活物質の粒子表面に残留した余剰リチウムを除去することができる。
【0057】
水洗工程では、焼成物と、水とを混合してスラリーとして水洗できる(スラリー化工程)。
【0058】
水洗工程でスラリー化する際に用いる水は特に限定されないが、例えば好ましくは電気伝導度が10μS/cm未満、より好ましくは1μS/cm以下の水を用いることができる。
【0059】
なお、水洗の間、作製したスラリーを撹拌しておくことが好ましい。
【0060】
水洗工程において、スラリー化後は、スラリーを固液分離、すなわちろ過および脱水をして水洗粉を得ることができる(固液分離工程)。ろ過および脱水に用いる装置は、特に限定されるものではなく、例えば、遠心分離式やフィルタープレス式固液分離装置を用いることができる。
【0061】
水洗工程において、固液分離後に得られた水分を含む水洗粉は乾燥することが好ましい(乾燥工程)。乾燥条件は特に限定されないが、例えば酸化性雰囲気、または真空雰囲気中で100℃以上350℃以下の温度で実施することが好ましい。
【0062】
なお、混合工程で、既述のLi/Niが1.00以上の条件で製造した焼成物を水洗することでLi/Meが0.92以上0.98以下のリチウム遷移金属複合酸化物を得ることはできる。しかしながら、上記の場合、本発明の発明者の検討によれば、Liサイト(3bサイト)に占めるLi以外の元素の割合等について、本実施形態の正極活物質の規定を充足する正極活物質は得られず、本実施形態の正極活物質の効果も得られない。
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、および非水系電解質を少なくとも備え、正極は、既述のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含むことができる。
【0063】
以下、本実施形態の二次電池の一構成例について、構成要素ごとにそれぞれ説明する。本実施形態の二次電池は、例えば正極、負極および非水系電解質を含み、一般のリチウムイオン二次電池と同様の構成要素から構成される。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、下記実施形態をはじめとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
(正極)
本実施形態の二次電池が有する正極は、既述の正極活物質を含むことができる。
【0064】
以下に正極の製造方法の一例を説明する。まず、既述の正極活物質(粉末状)、導電剤および結着剤(バインダー)を混合して正極合剤とし、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合剤ペーストを作製することができる。
【0065】
正極合剤中のそれぞれの材料の混合比は、リチウムイオン二次電池の性能を決定する要素となるため、用途に応じて、調整することができる。材料の混合比は、公知のリチウムイオン二次電池の正極と同様とすることができ、例えば、溶剤を除いた正極合剤の固形分の全質量を100質量%とした場合、正極活物質を60質量%以上95質量%以下、導電剤を1質量%以上20質量%以下、結着剤を1質量%以上20質量%以下の割合で含有することができる。
【0066】
得られた正極合剤ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して溶剤を飛散させ、シート状の正極が作製される。必要に応じ、電極密度を高めるべくロールプレス等により加圧することもできる。このようにして得られたシート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等し、電池の作製に供することができる。
【0067】
導電剤としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラック(登録商標)などのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
【0068】
結着剤(バインダー)は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂およびポリアクリル酸等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0069】
必要に応じ、正極活物質、導電剤等を分散させて、結着剤を溶解する溶剤を正極合剤に添加することもできる。溶剤としては、具体的には、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合剤には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
【0070】
正極の作製方法は、上述した例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。例えば正極合剤をプレス成形した後、真空雰囲気下で乾燥することで製造することもできる。
(負極)
負極は、金属リチウム、リチウム合金等を用いることができる。また、負極は、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合剤を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを用いてもよい。
【0071】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
(セパレータ)
正極と負極との間には、必要に応じてセパレータを挟み込んで配置することができる。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、公知のものを用いることができ、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微小な孔を多数有する膜を用いることができる。
(非水系電解質)
非水系電解質としては、例えば非水系電解液を用いることができる。
【0072】
非水系電解液としては、例えば支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものを用いることができる。また、非水系電解液として、イオン液体にリチウム塩が溶解したものを用いてもよい。なお、イオン液体とは、リチウムイオン以外のカチオンおよびアニオンから構成され、常温でも液体状の塩をいう。
【0073】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、およびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネートや、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらにテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン化合物等から選ばれる1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0074】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2、およびそれらの複合塩などを用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0075】
また、非水系電解質としては、固体電解質を用いてもよい。固体電解質は、高電圧に耐えうる性質を有する。固体電解質としては、無機固体電解質、有機固体電解質が挙げられる。
【0076】
無機固体電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質等が挙げられる。
【0077】
酸化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば酸素(O)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。酸化物系固体電解質としては、例えば、リン酸リチウム(Li3PO4)、Li3PO4NX、LiBO2NX、LiNbO3、LiTaO3、Li2SiO3、Li4SiO4-Li3PO4、Li4SiO4-Li3VO4、Li2O-B2O3-P2O5、Li2O-SiO2、Li2O-B2O3-ZnO、Li1+XAlXTi2-X(PO4)3(0≦X≦1)、Li1+XAlXGe2-X(PO4)3(0≦X≦1)、LiTi2(PO4)3、Li3XLa2/3-XTiO3(0≦X≦2/3)、Li5La3Ta2O12、Li7La3Zr2O12、Li6BaLa2Ta2O12、Li3.6Si0.6P0.4O4等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0078】
硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば硫黄(S)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。硫化物系固体電解質としては、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-B2S3、Li3PO4-Li2S-Si2S、Li3PO4-Li2S-SiS2、LiPO4-Li2S-SiS、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0079】
なお、無機固体電解質としては、上記以外のものを用いてよく、例えば、Li3N、LiI、Li3N-LiI-LiOH等を用いてもよい。
【0080】
有機固体電解質としては、イオン伝導性を示す高分子化合物であれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体などを用いることができる。また、有機固体電解質は、支持塩(リチウム塩)を含んでいてもよい。
(二次電池の形状、構成)
以上のように説明してきた本実施形態のリチウムイオン二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、本実施形態の二次電池が非水系電解質として非水系電解液を用いる場合であれば、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させることができる。そして、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉した構造とすることができる。
【0081】
なお、既述の様に本実施形態の二次電池は非水系電解質として非水系電解液を用いた形態に限定されるものではなく、例えば固体の非水系電解質を用いた二次電池、すなわち全固体電池とすることもできる。全固体電池とする場合、正極活物質以外の構成は必要に応じて変更することができる。
【0082】
本実施形態の二次電池は、各種用途に用いることができる。本実施形態の二次電池は、高容量、高出力な二次電池とすることができるため、例えば常に高容量を要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適であり、高出力が要求される電気自動車用電源にも好適である。
【0083】
また、本実施形態の二次電池は、小型化、高出力化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源として好適である。なお、本実施形態の二次電池は、純粋に電気エネルギーで駆動する電気自動車用の電源のみならず、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃焼機関と併用するいわゆるハイブリッド車用の電源としても用いることができる。
【実施例0084】
以下に、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0085】
ここではまず、以下の実施例、比較例で得られた正極活物質、二次電池の評価方法について説明する。
(正極活物質の評価)
得られた正極活物質について以下の評価を行った。
【0086】
(a)組成の評価
正極活物質について、ICP発光分析法により組成の分析を行った。評価結果を表1の「組成」の欄に示す。
【0087】
(b)Liサイト(3bサイト)に占めるLi以外の元素の割合
以下の実施例、比較例で作製した正極活物質について、X線回折装置(XRD)である、X'PertPRO(スペクトリス株式会社製)を用いてX線回折パターンの測定を行った。X線回折パターンの測定は、CuKα線を用いて実施した。
【0088】
得られたX線回折パターンから、以下の実施例1~7、比較例1~3で得られた正極活物質が含有するリチウム遷移金属複合酸化物は層状岩塩型構造を有することが確認できた。
【0089】
そして、得られたX線回折パターンについて、結晶構造解析ソフトRIETANを用いてRietveld解析を行った。このとき、空間群:R-3mとし、3bサイトにリチウムと混入ニッケル(リチウム席のニッケル)を、3aサイトにニッケルを化学種として設定した。スケールファクター、格子定数、グローバルパラメータを精密化した後、席占有率および原子座標を精密化した。得られたリチウム席(3bサイト)のニッケルの席占有率を求め、表1の「Liサイト(3bサイト)に占めるLi以外の元素の割合」の欄に結果を示している。
【0090】
(c)一次粒子の平均粒子径
リチウムニッケル複合酸化物粒子のSEM観察像において、画像解析により全様が観察できる15個の二次粒子を選択し、選択した各二次粒子から一次粒子を選択した。この際、合計で30個となるように一次粒子を選択した。そして、選択した一次粒子の長軸長さを測定し、平均値を一次粒子の平均粒子径とした。
【0091】
評価結果を表1の「一次粒子の平均粒子径」の欄に示す。
(リチウムイオン二次電池の作製、評価)
(a)コイン型電池の作製
以下の実施例、比較例で作製した正極活物質を用いて、コイン型電池を作製した。
【0092】
具体的には、以下の実施例、比較例で得られた正極活物質をアルゴン雰囲気のグローブボックス内で0.170g秤量した。そして、秤量した正極活物質を、アセチレンブラック0.010g、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)溶液(クレハ製8%溶液)0.250g、およびN-メチル-2-ピロリドン(NMP)70μLとともに容器に入れ、撹拌機(シンキー製AR-100)で混合した。
【0093】
攪拌することで得られたスラリーをアルミニウム箔に塗工し、常温で2時間真空乾燥させた後、120℃で2時間真空乾燥させることで電極を得た。
【0094】
得られた電極をφ10mmに打ち抜いて重量を測定した後、これを正極とした。
【0095】
金属リチウムを負極、ポリエチレン(PE)製多孔質フィルムをセパレータとして用い、上記正極、セパレータ、負極をその順に積層した。そして、正極、セパレータ、負極の積層体に、電解液を含浸させ、正極缶と、負極缶との間に封止した。なお、正極缶、負極缶との間にはガスケットが配置され、両部材間は非接触の状態、すなわち電気的に絶縁状態を維持するように相対的な移動を規制し、固定されている。
【0096】
電解液としては、1MのLiPF6を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の3:7混合液(体積比)を使用した。
【0097】
コイン型電池の作製は、露点-60℃に管理されたドライルーム内で実施した。
【0098】
(b)放電容量、サイクル特性の評価
サイクル特性を示す容量維持率は、コイン型電池について、100サイクル充放電を行った時の容量維持率を測定することにより評価した。
【0099】
具体的には、コイン型電池に10mA/gの電流を流し、カットオフ電圧4.5Vまで充電し、その後カットオフ電圧2.5Vまで放電するサイクルを100サイクル繰り返した。そして、コンディショニング後の100サイクル目の放電容量の、1サイクル目の放電容量に対する割合である容量維持率を算出し、評価した。
【0100】
1サイクル目の放電容量を表1の「初期容量」の欄に、容量維持率を表1の「容量維持率」の欄にそれぞれ示す。
(正極活物質の製造条件)
[実施例1]
公知の方法を用いて得られた、ニッケル水酸化物と、水酸化リチウム一水和物とを、混合してリチウム混合物を調製した(混合工程)。
【0101】
混合工程では、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製 型式:TURBULA TypeT2C)を用いてニッケル水酸化物と、水酸化リチウム一水和物とを十分に混合し、原料混合物を調製した。
【0102】
混合工程では、得られるリチウム混合物中のニッケル原子(Ni)に対するリチウム原子(Li)の原子数の割合(Li/Ni)が0.96となるように各原料を秤量、混合した。なお、ニッケル酸化物は、晶析法を用いて得られたニッケル水酸化物を熱処理して得た。
【0103】
焼成工程の間、炉内に酸素を供給して、このリチウム混合物を、酸素雰囲気下で焼成した(焼成工程)。
【0104】
焼成は、焼成温度である650℃まで、2℃/分の昇温速度で昇温させ、焼成温度である650℃で12時間保持した。焼成温度での保持後、室温まで冷却した。
【0105】
焼成後のリチウム遷移金属複合酸化物を解砕し(解砕工程)、リチウム遷移金属複合酸化物粒子からなる正極活物質を得た。
【0106】
得られた正極活物質についてSEMにより観察を行ったところ、正極活物質は、複数の一次粒子が互いに凝集した二次粒子により構成されていることを確認できた。なお、以下の他の実施例においても、正極活物質は、一次粒子が互いに凝集した二次粒子により構成されていることを確認できた。
【0107】
その他の評価結果は表1に示す。
【0108】
また、得られた正極活物質を用いて、既述のコイン型電池を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実施例2]
混合工程における、得られるリチウム混合物中のニッケル原子(Ni)に対するリチウム原子(Li)の原子数の割合(Li/Ni)が0.98となるように、水酸化リチウム一水和物と、ニッケル水酸化物との混合割合を変化させた。以上の点以外は、実施例1と同じ条件で、正極活物質、コイン型電池を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[比較例1]
混合工程における、得られるリチウム混合物中のニッケル原子(Ni)に対するリチウム原子(Li)の原子数の割合(Li/Ni)が1.00となるように、水酸化リチウム一水和物と、ニッケル水酸化物との混合割合を変化させた。以上の点以外は、実施例1と同じ条件で、正極活物質、コイン型電池を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[比較例2]
混合工程における、得られるリチウム混合物中のニッケル原子(Ni)に対するリチウム原子(Li)の原子数の割合(Li/Ni)が0.90となるように、水酸化リチウム一水和物と、ニッケル水酸化物との混合割合を変化させた。以上の点以外は、実施例1と同じ条件で、正極活物質、コイン型電池を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実施例3、実施例4]
焼成工程の間、炉内に供給する気体を、酸素と空気との混合気体とした点以外は実施例1と同じ条件で、正極活物質、コイン型電池を作製し、評価を行った。
【0109】
実施例3では、体積割合で酸素50%と、空気50%との混合気体を用いた。このため、焼成雰囲気中の酸素濃度は約61体積%になる。
【0110】
実施例4では、体積割合で酸素70%と、空気30%との混合気体を用いた。このため、焼成雰囲気中の酸素濃度は約76体積%になる。
【0111】
評価結果を表1に示す。
[比較例3]
焼成工程における雰囲気を、空気とし、焼成温度を710℃とした点以外は実施例1と同じ条件で、正極活物質、コイン型電池を作製し、評価を行った。
【0112】
このため、焼成雰囲気中の酸素濃度は約21体積%になる。
【0113】
評価結果を表1に示す。
[実施例5~実施例7]
焼成工程における焼成温度を変更した点以外は実施例1と同じ条件で、正極活物質、コイン型電池を作製し、評価を行った。
【0114】
焼成温度は、実施例5は630℃、実施例6は680℃、実施例7は700℃とした。
【0115】
評価結果を表1に示す。
【0116】
【0117】
表1によると、Liサイト(3bサイト)に占めるLi以外の元素の割合が2%以上8%以下であり、含有するリチウム遷移金属複合酸化物が既述の一般式(1)で表される正極活物質である実施例1~実施例7は、比較例1~3と比較して容量維持率が高くなることを確認できた。すなわち、実施例1~実施例7の正極活物質は、リチウムイオン二次電池に用いた場合に、比較例1~比較例3の正極活物質と比較して、サイクル特性を向上できることを確認できた。