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特開2025-19577リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池
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  • 特開-リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025019577
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20250131BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20250131BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20250131BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 A
C01G53/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123254
(22)【出願日】2023-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】相田 平
(72)【発明者】
【氏名】林 一英
(72)【発明者】
【氏名】藪内 直明
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AA10
4G048AB01
4G048AC06
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE05
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB12
5H050GA02
5H050GA05
5H050GA10
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン二次電池に用いた場合に、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供する。
【解決手段】複数の一次粒子が互いに凝集した二次粒子を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物と、結晶化したリン酸リチウムと、を含み、
前記層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の中性子回折による結晶構造解析において、
リチウムサイト(3bサイト)に占めるリチウム以外の元素の割合が3%以上8%以下である、リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の一次粒子が互いに凝集した二次粒子を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物と、結晶化したリン酸リチウムと、を含み、
前記層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の中性子回折による結晶構造解析において、
リチウムサイト(3bサイト)に占めるリチウム以外の元素の割合が3%以上8%以下である、リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記一次粒子の平均粒子径が20nm以上250nm以下である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の中性子回折による結晶構造解析において、メタルサイト(3aサイト)に占めるリチウム元素の割合が3%以上8%以下である、請求項1または請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記リチウムイオン二次電池用正極活物質が、一般式:kLiPO-(1-k)LiNi1-x-y-zCoMn2+α
(ただし、0<k<0.1、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0≦z≦0.10、1.00≦s<1.30、0≦α≦0.2、元素Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される、請求項1または請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記結晶化したリン酸リチウムは、前記層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の一次粒子表面の少なくとも一部を被覆し、かつ前記層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の二次粒子の内部または表面に分散している、請求項1または請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項6】
複数の一次粒子が互いに凝集した二次粒子を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法であって、
層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物と、リン酸リチウムとを混合して混合物を調製する混合工程と、
前記混合工程で得られた前記混合物に機械的応力を加え、アモルファスもしくは低結晶性のNiO類似岩塩型構造を有するミリング処理物とするミリング工程と、
前記ミリング工程で得られた前記ミリング処理物を、2℃/分以下の速度で昇温し、620℃以上700℃以下の温度で熱処理する熱処理工程と、を有する、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
正極、負極、および非水系電解質を少なくとも備え、
前記正極は、請求項1または請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車用(以下、「EV」とも記載する)の航続距離拡大のため、エネルギー密度の高い二次電池が強く望まれている。このような二次電池として、リチウム、リチウム合金、金属酸化物あるいはカーボンを負極として用いるリチウムイオン二次電池が注目されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池のさらなる性能向上を目的として、リチウムイオン二次電池に用いる正極活物質について、従来から検討、提案がなされてきた。
【0004】
EV用リチウムイオン二次電池の正極に使用されている正極活物質として例えばLiNi1-x-yCoAl(以下、「NCA」とも記載する)が知られている。NCAは、ニッケル酸リチウム:LiNiO(以下、「LNO」とも記載する)のNiの一部をCoとAlに置換した正極活物質であり、Co置換によって充放電時の結晶構造変化が抑制され、Al置換によって熱安定性が向上している。
【0005】
例えば、特許文献1には、遷移金属複合酸化物からなる粒子状の正極活物質を含む非水電解質二次電池用正極合剤が開示され、遷移金属複合酸化物として、コバルト酸リチウム(LiCoO)等が挙げられている。
【0006】
また、特許文献2には、層状岩塩型構造を有する遷移酸化物のリチウム塩を含む正極活物質粒子が開示されている。また、層状岩塩型構造を有する遷移酸化物のリチウム塩として、LiNiCo(ただし、Mは、AlまたはMnであり、0<x<1,0<y<1,x+y+z=1)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-136093号公報
【特許文献2】特開2016-110714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2に開示された正極活物質は、リチウムイオン二次電池に適用し、繰り返し充放電を行った場合に、容量低下が大きいという問題があった。
【0009】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、リチウムイオン二次電池に用いた場合に、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
複数の一次粒子が互いに凝集した二次粒子を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物と、結晶化したリン酸リチウムと、を含み、
前記層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の中性子回折による結晶構造解析において、
リチウムサイト(3bサイト)に占めるリチウム以外の元素の割合が3%以上8%以下である、リチウムイオン二次電池用正極活物質を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、リチウムイオン二次電池に用いた場合に、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法のフローである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[リチウムイオン二次電池用正極活物質]
以下、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」とも記載する、またリチウムイオン二次電池を単に「二次電池」とも記載する)について説明する。
(1)正極活物質について
本実施形態の正極活物質は、層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物と、結晶化したリン酸リチウムと、を含有する。本実施形態の正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物と、結晶化したリン酸リチウムのみから構成されていても良いが、この場合でも、製造工程等で混入する不可避不純物を含有することを排除するものではない。
(1-1)粒子の形態について
本実施形態の正極活物質の粒子の形態は特に限定されないが、本実施形態の正極活物質は、複数の一次粒子が互いに凝集した二次粒子を含むことができる。このため、本実施形態の正極活物質は、二次粒子のみから構成されていてもよく、二次粒子に加えて、凝集せずに単独で存在する一次粒子を含んでいてもよい。
【0014】
本実施形態の正極活物質の粒子は、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子を含むことができ、本実施形態の正極活物質が含有する一次粒子、二次粒子は、リチウム遷移金属複合酸化物の一次粒子、二次粒子であってもよい。
【0015】
本実施形態の正極活物質の粒子の形態は、粒子外観の走査電子顕微鏡(SEM)観察像(以下、「SEM像」とも記載する。)で概略は確認することもできるが、正確性に欠けることもある。本実施形態に係る正極活物質では、粒子を断面加工し、このSEM像を用いて一次粒子、二次粒子の有無を判定することが好ましい。
【0016】
具体的には例えば、正極活物質の粒子を樹脂に埋め込み、クロスセクションポリッシャー(CP)加工などにより、粒子の断面観察が可能な状態としてからSEM像の観察を行い、一次粒子、二次粒子の有無を判定することが好ましい。判定には、50個以上の粒子について、上記評価を行うことが好ましい。評価する粒子の数の上限は特に限定されないが、評価の生産性を考慮し、200個以下の粒子について評価を行うことが好ましい。
【0017】
また、電子線後方散乱回折(以下、「EBSD」とも記載する。)法のバンドコントラストや、断面加工時に集束イオンビーム(FIB)加工装置を用いる場合には、上記粒子断面を付属の走査イオン顕微鏡(SIM)観察像を用いて確認することもできる。
【0018】
そして、本実施形態の正極活物質が含有する結晶化したリン酸リチウムは、層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の一次粒子表面の少なくとも一部を被覆していることが好ましい。さらに、結晶化したリン酸リチウムは、層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の二次粒子の内部または表面に分散していることが好ましい。
【0019】
結晶化したリン酸リチウムが、上記リチウム遷移金属複合酸化物の一次粒子表面の少なくとも一部を被覆し、かつ上記リチウム遷移金属複合酸化物の二次粒子の内部または表面に分散していることで、本実施形態の正極活物質を二次電池に適用した場合にサイクル特性を向上できる。係る原因は明らかではないが、上記リチウム遷移金属複合酸化物の一次粒子の表面や、二次粒子の内部または表面にリン酸リチウムを配置することで、電解質と上記リチウム遷移金属複合酸化物との反応を抑制できるとともに、充放電にともなうリチウム遷移金属複合酸化物の膨張収縮をリン酸リチウムが緩和するためと考えられる。
(1-2)リチウムサイト(3bサイト)に占めるリチウム以外の元素の割合
本実施形態に係る正極活物質に含まれる層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の中性子回折による結晶構造解析において、リチウムサイト(3bサイト)に占めるリチウム以外の元素の割合が3%以上8%以下であることが好ましく、より好ましくは4%以上7%以下である。
【0020】
リチウムサイト(3bサイト)に占めるリチウム以外の元素の割合とは、リチウムサイト(3bサイト)に占めるリチウム、酸素以外の元素、例えばリチウム以外の金属元素の割合を意味する。リチウムサイト(3bサイト)に占めるリチウム以外の元素の割合は、中性子回折法で測定した中性子回折パターンをリートベルト(Rietveld)法により解析することによって得られる。リートベルト法により解析する際、結晶構造としては、リチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造である層状岩塩型構造を用いることができる。
【0021】
二次電池の充放電を繰り返し行う場合、リチウム遷移金属複合酸化物の層間へのリチウムの挿入、脱離が繰り返し行われる。しかし、従来の正極活物質を用いた二次電池について充放電を繰り返し行った場合に、メタルサイト(3bサイト)に配置されていたリチウム以外の元素が、四面体サイト(6cサイト)に不可逆的に移動する場合があった。
【0022】
これに対して、本実施形態の正極活物質が含有するリチウム遷移金属複合酸化物では、リチウムサイト(3bサイト)に占めるリチウム以外の元素の割合が3%以上となっている。このように予めリチウムサイトにリチウム以外の元素が挿入されていることで、充放電時にリチウム以外の元素が四面体サイト(6cサイト)に不可逆的に移動することを抑制できると考えられる。このため、充放電を繰り返し行った場合にリチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造変化を抑制し、サイクル特性を高められると考えられる。
【0023】
また、リチウムサイト(3bサイト)に占めるリチウム以外の元素の割合を8%以下とすることで、リチウム遷移金属複合酸化物の結晶の完全性の低下を抑制できる。このため、充放電に寄与するリチウム量を十分に確保し、反応抵抗を抑制し、電池容量や、出力を十分に高められる。
(1-3)メタルサイト(3aサイト)に占めるリチウム元素の割合
層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の中性子回折による結晶構造解析において、メタルサイト(3aサイト)に占めるリチウム元素の割合が3%以上8%以下であることが好ましい。
【0024】
メタルサイト(3aサイト)に挿入されたリチウム元素は、リチウムサイト(3bサイト)に挿入されたリチウム以外の元素により置換されたリチウム元素に由来する。すなわち、メタルサイト(3aサイト)に挿入されたリチウム元素は、本来リチウムサイト(3bサイト)に挿入されるべきリチウム元素である。
【0025】
そして、メタルサイト(3aサイト)に占めるリチウム元素の割合を3%以上8%以下とすることで、置換されたリチウムが結晶構造内に留まっていることを意味し、リチウム遷移金属複合酸化物の結晶の完全性の低下を抑制できる。このため、反応抵抗を抑制し、電池容量や、出力を十分に高められる。
(1-4)正極活物質の組成
本実施形態の正極活物質の組成は特に限定されないが、一般式:kLiPO-(1-k)LiNi1-x-y-zCoMn2+αで表されることが好ましい。
【0026】
上記一般式におけるk、x、y、z、s、αは、0<k<0.1、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0≦z≦0.10、1.00≦s<1.30、0≦α≦0.2の関係を充足することが好ましい。また、上記一般式中の元素Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素とすることができる。
【0027】
上記一般式中、LiPOがリン酸リチウムに当たり、LiNi1-x-y-zCoMn2+αがリチウム遷移金属複合酸化物に当たる。上記一般式から明らかなように、リン酸リチウムは、正極活物質が含有するリン酸リチウムとリチウム遷移金属複合酸化物との合計のうち、物質量の割合で、0mol%より多く10mol%未満の割合で含まれることが好ましい。
【0028】
また、リン酸リチウム(LiPO)は、リチウム遷移金属複合酸化物(LiNi1-x-y-zCoMn2+α)に対し10wt%以下となることが好ましく、さらに好ましくは5wt%以下である。
【0029】
なお、リチウム遷移金属複合酸化物の組成は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法による定量分析により測定することができる。
(1-5)一次粒子の平均粒子径
本実施形態の正極活物質は、一次粒子の平均粒子径が20nm以上250nm以下であることが好ましく、20nm以上150nm以下であることがより好ましく、70nm以上150nm以下であることがさらに好ましい。
【0030】
本実施形態の正極活物質の一次粒子の平均粒子径を20nm以上とすることで、本実施形態の正極活物質が含有する一次粒子や、一次粒子を構成する結晶子のサイズを十分に大きくできていることを意味する。このため、正極活物質が含有するリチウム遷移金属複合酸化物についても結晶性を高めることができ、本実施形態の正極活物質を二次電池に適用した場合に、電池容量も高めることができ、電池容量とサイクル特性とに優れた二次電池とすることができる。
【0031】
本実施形態の正極活物質が含有するリチウム遷移金属複合酸化物は、既述のようにLiサイト(3bサイト)に、Li以外の元素が挿入されている。このように、LiサイトにLi以外の元素が挿入されることで、充放電を行う際のLiの拡散性が低下する場合がある。これに対して、本実施形態の正極活物質の一次粒子の平均粒子径を250nm以下とすることで、Liの拡散距離を低減できる。このため、Liサイト(3bサイト)に、Li以外の元素が挿入されることによるLiの拡散性の低下を抑制し、二次電池に適用した場合に容量や出力特性を高められる。
【0032】
正極活物質の一次粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により全体が観察できる正極活物質の一次粒子を選択し、その長軸長さを測定し、平均することで求められる。一次粒子の平均粒子径を算出する際、評価を行う一次粒子の数は特に限定されない。
【0033】
例えば、正極活物質が二次粒子を含む場合、10個以上20個以下の二次粒子を選択し、選択したそれぞれの二次粒子から一次粒子を選択する。そして、合計で20個以上30個以下の一次粒子を選択し、選択した一次粒子の長軸長さを測定することが好ましい。
【0034】
また、正極活物質が、二次粒子を構成しない単体の一次粒子を含む場合、該正極活物質の一次粒子について5個以上評価することが好ましい。上記評価を行う一次粒子の数の上限についても特に限定されないが、例えば20個以下評価することが好ましい。
【0035】
正極活物質が二次粒子のみを含む場合は、二次粒子について、上記個数の二次粒子を選択し、さらに各二次粒子から合計で上記個数の一次粒子を選択できる。そして、選択した一次粒子の長軸の長さを測定し、その平均値を正極活物質の一次粒子の平均粒子径とすることができる。
【0036】
正極活物質が二次粒子と、単体の一次粒子との両方を含む場合、選択した上記個数の二次粒子、単体の一次粒子それぞれについて上記個数の一次粒子を選択できる。そして、選択した全ての一次粒子の長軸の長さを測定し、その平均値を正極活物質の一次粒子の平均粒子径とすることができる。
【0037】
正極活物質について、一次粒子の平均粒子径を上記範囲とすることにより、該正極活物質を二次電池に適用した場合に、電池容量とサイクル特性を特に高め、両立させることもできる。
[リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法]
上記リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、上記特性を有する正極活物質が得られれば、特に限定されない。以下、本実施形態に係る正極活物質の製造方法の一例について、説明する。
【0038】
なお、上述のように本実施形態の正極活物質の製造方法によれば、既述の正極活物質を製造できるため、既に説明した事項については、説明を一部省略する。
【0039】
本実施形態の正極活物質の製造方法は、複数の一次粒子が互いに凝集した二次粒子を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法であって、例えば図1に示したフロー10に従って実施できる。すなわち、本実施形態の正極活物質の製造方法は、混合工程(S1)、ミリング工程(S2)、および熱処理工程(S3)を有することができる。
【0040】
混合工程(S1)では、層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物と、リン酸リチウムとを混合して混合物を調製できる。
【0041】
ミリング工程(S2)では、混合工程(S1)で得られた混合物に機械的応力を加え、アモルファスもしくは低結晶性のNiO類似岩塩型構造を有するミリング処理物とすることができる。
【0042】
熱処理工程(S3)では、ミリング工程(S2)で得られたミリング処理物を、2℃/分以下の速度で昇温し、620℃以上700℃以下の温度で熱処理することができる。
【0043】
以下、各工程の構成例について説明する。
(1)混合工程(S1)
混合工程(S1)では、上述のように、リチウム遷移金属複合酸化物とリン酸リチウムとを混合して混合物を調製できる。
【0044】
混合工程(S1)に供するリチウム遷移金属複合酸化物は、層状岩塩型構造を有する。
【0045】
リチウム遷移金属複合酸化物の組成は特に限定されず、目的とする正極活物質に応じて選択できる。リチウム遷移金属複合酸化物は、例えば一般式:Lis´Ni1-x´-y´-z´Cox´Mny´z´2+βで表されることが好ましい。
【0046】
上記一般式におけるx´、y´、z´、s´、βは、0≦x´≦0.35、0≦y´≦0.35、0≦z´≦0.10、1.00≦s´<1.30、0≦β≦0.2を満たすことが好ましい。また、元素Mは、V、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素であることが好ましい。
【0047】
リン酸リチウムについては、LiPOで表すことができる。
【0048】
混合工程(S1)において、リチウム遷移金属複合酸化物と、リン酸リチウムとを混合する混合方法は特に限定はされず、例えば乳鉢で混合できる。
【0049】
混合工程(S1)において、リチウム遷移金属複合酸化物と、リン酸リチウムとを混合する割合は特に限定されないが、得られる混合物において、リン酸リチウムの含有割合が目的組成となるように混合することが好ましい。このため、例えば混合工程では、リン酸リチウムを、得られる混合物が含有するリン酸リチウムとリチウム遷移金属複合酸化物との合計のうち、物質量の割合で、0mol%より多く10mol%未満の割合となるように混合することが好ましい。
(2)ミリング工程
ミリング工程(S2)では、混合工程(S1)で得られた混合物に機械的応力を加える。混合物に機械的応力を加えることによって、層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物と、リン酸リチウムとを、アモルファスもしくは低結晶性のNiO類似岩塩型構造を有するミリング処理物とすることができる。
【0050】
機械的応力を加える方法は、特に限定はされないが、メカニカルミリングを用いることが好ましい。メカニカルミリングを用いることで、層状岩塩型構造の結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物と、リン酸リチウムとを、アモルファスもしくは低結晶性のNiO類似岩塩型構造とすることがさらに容易になる。
【0051】
アモルファスもしくは低結晶性のNiO類似岩塩型構造とは、ミリング工程後のミリング処理物についてのXRDパターンにおいて、バックグラウンド処理等を行った後において、44°~45°に見られる(200)面の回折ピークの半価幅が0.5°以上となる状態を意味する。
(3)熱処理工程
熱処理工程(S3)では、ミリング工程(S2)で得られた、アモルファスもしくは低結晶性のNiO類似岩塩型構造を有するミリング処理物に熱処理を施すことができる。熱処理工程を実施することで、リン酸リチウムが結晶化して分散した層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を得ることができる。また、既述のミリング工程と、熱処理工程とを組み合わせて実施することで、Liサイト(3bサイト)に占めるリチウム以外の元素の割合を容易に所望の範囲内にできる。
【0052】
熱処理工程(S3)では、層状岩塩型構造となるのは、リチウム遷移金属複合酸化物のみであり、リン酸リチウムは層状岩塩型構造とはならない。
【0053】
熱処理工程(S3)を実施することで、結晶化したリン酸リチウムは、層状岩塩型構造のリチウム遷移金属複合酸化物の一次粒子表面を被覆し、かつ層状岩塩型構造のリチウム遷移金属複合酸化物の二次粒子の内部または表面に分散させることができる。なお、リン酸リチウムは例えば微細な結晶とすることができる。
(熱処理温度)
熱処理工程(S3)では、620℃以上700℃以下の温度(熱処理温度)で熱処理することが好ましく、620℃以上680℃以下の温度で熱処理することがより好ましい。上記温度範囲で熱処理することで、結晶化したリン酸リチウムが、層状岩塩型構造のリチウム遷移金属複合酸化物の一次粒子表面を被覆し、かつ層状岩塩型構造のリチウム遷移金属複合酸化物の二次粒子の内部または表面に分散することが容易にできる。
【0054】
また、熱処理工程(S3)では、上記熱処理温度まで、2℃/分以下の速度(昇温速度)で昇温することが好ましく、0.1℃/分以上1℃/分以下とすることがより好ましい。
【0055】
昇温速度を2℃/以下とすることで、ミリング処理物内の反応を均一に進行させることができ、リチウム遷移金属複合酸化物の結晶成長を促進できる。
【0056】
熱処理温度での保持時間は特に限定されないが、10時間以上とすることが好ましく、10時間以上48時間以下とすることがより好ましい。
【0057】
熱処理工程では、例えば上記熱処理温度まで昇温後、所定時間保持した後、室温まで冷却できる。
(雰囲気)
熱処理雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましい。該酸化性雰囲気は、酸素濃度が80体積%以上であることが好ましく、酸素濃度が85体積%以上であることがより好ましい。なお、酸化性雰囲気は酸素雰囲気とすることもできるため、酸素濃度は100体積%以下とすることができる。
【0058】
本実施形態の正極活物質の製造方法は、必要に応じてさらに任意の工程を有することもできる。例えば、既述の混合工程に供するリチウム遷移金属複合酸化物を調製するリチウム遷移金属複合酸化物製造工程をさらに有することができる。
(4)リチウム遷移金属複合酸化物製造工程
リチウム遷移金属複合酸化物製造工程は、例えば以下に説明する複合水酸化物製造工程、加熱工程、焼成工程を有することができる。なお、リチウム遷移金属複合酸化物製造工程は、上記工程のうちいずれかのみを有することもできる。
(4-1)複合水酸化物製造工程
複合水酸化物製造工程は、金属塩を含む混合水溶液と、アルカリ水溶液とを混合して得られた反応水溶液において、共沈物として複合水酸化物を得る工程である。
【0059】
混合水溶液は、金属塩として、リチウム遷移金属複合酸化物が含有するリチウム以外の金属の金属塩を含むことができる。混合水溶液は、例えば金属塩として硫酸ニッケル(II)等のニッケル塩や、硫酸コバルト(II)等のコバルト塩、硫酸マンガン(II)等のマンガン塩、元素Mの金属塩を含有できる。上記元素Mの金属塩に用いられる元素MとしてはV、Mg、Mo、Nb、Ti、WおよびAlからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素が挙げられる。
【0060】
混合水溶液は、各金属塩をリチウム遷移金属複合酸化物の目的組成に合わせた割合で含有できる。
【0061】
金属塩を含む混合水溶液は、反応槽内にアルカリ水溶液と共に供給することで反応水溶液を形成し、複合水酸化物を共沈物として得ることができる。複合水酸化物が複数種類の金属を含む場合、反応水溶液に金属塩を含む混合水溶液として、複数種類の金属塩を供給する必要があるが、例えば金属塩毎に混合水溶液を調製、供給してもよい。また、複数種類の金属塩を含む1または2以上の混合水溶液を調製し、供給することもできる。
【0062】
アルカリ水溶液としては特に限定されないが、例えば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物の水溶液を用いることができる。
【0063】
また、反応水溶液には必要に応じて錯化剤を添加することもできる。錯化剤としては例えばアンモニア水、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムの水溶液等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0064】
混合水溶液と、アルカリ水溶液とを混合して反応水溶液とし、反応水溶液のpH値を制御することで、複合水酸化物を得ることができる。この際、反応水溶液のpH値は特に限定されないが、例えばアルカリ性となるよう制御することが好ましい。
【0065】
反応水溶液のpH値は、反応水溶液に錯化剤を加えない場合には、9以上11以下となるように制御することが好ましい。また、この際、反応水溶液の温度を、40℃以上80℃以下の範囲とすることが好ましい。反応水溶液について、pH値、温度を上記範囲とすることで、反応速度を適切な範囲にすることができる。また、例えばニッケル等の金属のイオンの溶解度が好ましいものとなり、晶析による微細な粒子の形成を防ぐことができる。
【0066】
具体的には、反応水溶液のpH値を11以下とすることで、細かい粒子の形成を抑制し、球状の粒子を形成し易くできる。このため、得られた複合水酸化物を濾過した場合の、濾過性を高められる。反応水溶液のpH値を9以上にすることで、複合水酸化物の生成速度を好適な速度にでき、目的組成の複合水酸化物を容易に生成できる。
【0067】
また、反応水溶液の温度を40℃以上とすることで、反応速度を適切な速度にできる。反応水溶液の温度を80℃以下にすることで、水の蒸発量を抑制し、スラリー濃度が高くなることを抑制できる。このため、目的組成の複合水酸化物を容易に得ることができる。
【0068】
既述のように、反応水溶液には、錯化剤を加えることもできる。反応水溶液に錯化剤を加えることで、ニッケル等の金属の溶解度を上昇させることができる。
【0069】
錯化剤を用いた場合には、反応水溶液のpH値は10以上12.5以下となるように制御することが好ましい。また、この際、反応水溶液の温度を40℃以上60℃以下の範囲とすることが好ましい。
【0070】
反応水溶液中の錯化剤濃度は特に限定されないが、3g/L以上25g/L以下の範囲内で一定値に保持することが好ましい。錯化剤の濃度を3g/L以上にすることで、反応水溶液における金属イオンの溶解度の変動を抑制できる。このため、形状および粒径が整った複合水酸化物を形成でき、粒度分布の幅も抑制できる。
【0071】
また、反応水溶液中の錯化剤濃度を25g/L以下とすることで、金属イオンの溶解度を特に好適な範囲に調整でき、目的組成の複合水酸化物を容易に得ることができる。
【0072】
反応水溶液の錯化剤濃度が変動すると、金属イオンの溶解度が変動するため、錯化剤濃度は一定値に保つことが好ましく、例えば、錯化剤濃度は、上限と下限の幅を5g/L以下程度として所望の濃度に保持することが好ましい。なお、既述のように錯化剤としては、アンモニア水等を用いることができるため、上記錯化剤濃度はアンモニア濃度ということもできる。
(4-2)加熱工程
加熱工程は、複合水酸化物製造工程において製造された複合水酸化物を加熱する工程であり、必要に応じて行うことができる。加熱工程により、複合水酸化物に含有されている水分を除去することができる。この加熱工程を行うことによって、焼成工程まで残留している水分を減少させることができる。また、加熱工程の条件によっては、複合水酸化物を複合酸化物に転換することができる。加熱工程を実施することで、製造されるリチウム遷移金属複合酸化物や、正極活物質中の金属の原子数やリチウムの原子数の割合がばらつくことを防ぐことができる。
【0073】
なお、加熱工程では、リチウム遷移金属複合酸化物等の中の金属の原子数やリチウムの原子数の割合にばらつきが生じない程度に水分が除去できればよいので、必ずしもすべての複合水酸化物を複合酸化物に転換する必要はない。加熱工程を実施する場合、加熱工程では、複合水酸化物は残留水分が除去される温度まで加熱されればよく、その加熱温度は特に限定されないが、105℃以上800℃以下とすることが好ましい。複合水酸化物を105℃以上に加熱すれば短時間で残留水分を除去することができる。なお、105℃未満では、残留水分を除去するために長時間を要する傾向にあるため、上述のように105℃以上で加熱することが好ましい。また、加熱温度を800℃以下とすることで、複合酸化物に転換された粒子が焼結して凝集することを防止できる。
【0074】
加熱処理を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、簡易的に行える空気気流中において行うことが好ましい。
(4-3)焼成工程
焼成工程は、加熱工程によって得られた熱処理物と、リチウムおよびリチウム化合物から選択された1種類以上とを混合したリチウム混合物を焼成できる。なお、熱処理物にかえて、複合水酸化物製造工程で調製した複合水酸化物をそのまま用いることもできる。焼成工程により、層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を得ることができる。
【0075】
リチウム混合物は、リチウム混合物中のリチウム以外の金属元素の原子数(Me)と、リチウム元素の原子数(Li)との比(Li/Me)が、1.00以上1.30未満であることが好ましい。つまり、リチウム混合物におけるLi/Meが、生成物であるリチウム遷移金属複合酸化物におけるLi/Meと同じになるように混合することが好ましい。これは、焼成工程前後で、Li/Meは変化しないので、リチウム混合物におけるLi/Meが、リチウム遷移金属複合酸化物におけるLi/Meと等しくなるからである。上記Meは、リチウム混合物、もしくはリチウム遷移金属複合酸化物におけるリチウム以外の金属元素の原子数の合計を意味し、例えばニッケル、コバルト、マンガン、および元素Mの原子数の合計が挙げられる。
【0076】
リチウム混合物を調製する際に用いるリチウム化合物は特に限定されるものではないが、例えば、水酸化リチウム、硝酸リチウムおよび炭酸リチウムからなるリチウム化合物群から選択された1種類以上を、入手が容易であるという観点から好適に用いることができる。リチウム混合物を調製する際に用いるリチウム化合物として、上記リチウム化合物群から選択された2種類以上の混合物を用いることもできる。
【0077】
リチウム化合物としては、特に、取り扱いの容易さ、品質の安定性を考慮すると、水酸化リチウムを用いることがより好ましい。
【0078】
なお、リチウム混合物は、焼成工程で焼成する前に十分混合しておくことが好ましい。焼成前に混合を十分に行うことで、個々の粒子間でLi/Meのばらつきがなくなり、特に高い電池特性を得ることができる。
【0079】
焼成工程では、上記リチウム混合物を焼成して、リチウム遷移金属複合酸化物を得ることができる。焼成工程においてリチウム混合物を焼成すると、上記複合水酸化物製造工程や、加熱工程で得られた複合水酸化物等に、リチウムを含有する物質中のリチウムが拡散し、層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が形成される。
【0080】
リチウム混合物の焼成は、600℃以上850℃以下で行うことが好ましく、650℃以上820℃以下で行うことがより好ましい。焼成温度を600℃以上とすることで、複合水酸化物等へのリチウムの拡散を十分に行うことができ、得られるリチウム遷移金属複合酸化物の結晶性を高めることができる。また、焼成温度を850℃以下とすることで、得られるリチウム遷移金属複合酸化物の粒子間での焼結を抑制し、異常粒成長の発生を抑制できる。このため、焼成後に得られるリチウム遷移金属複合酸化物の粒子が粗大になることを抑制できる。
【0081】
焼成時間についても特に限定されないが、少なくとも3時間以上とすることが好ましく、より好ましくは6時間以上24時間以下である。
【0082】
焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、特に酸素濃度が18容量%以上100容量%以下の雰囲気とすることがより好ましい。焼成工程は、大気ないしは酸素気流中で行うことが好ましい。焼成雰囲気中の酸素濃度を18容量%以上とすることで、例えば粒子内に複合水酸化物等が含まれていたとしても十分に酸化することができ、リチウム遷移金属複合酸化物の結晶性を高められる。特に電池特性を考慮すると、焼成は酸素気流中で行うことが好ましい。
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、および非水系電解質を少なくとも備え、正極は、既述のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含むことができる。
【0083】
以下、本実施形態の二次電池の一構成例について、構成要素ごとにそれぞれ説明する。本実施形態の二次電池は、例えば正極、負極および非水系電解質を含み、一般のリチウムイオン二次電池と同様の構成要素から構成される。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、下記実施形態をはじめとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
(正極)
本実施形態の二次電池が有する正極は、既述の正極活物質を含むことができる。
【0084】
以下に正極の製造方法の一例を説明する。まず、既述の正極活物質(粉末状)、導電剤および結着剤(バインダー)を混合して正極合剤とし、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合剤ペーストを作製することができる。
【0085】
正極合剤中のそれぞれの材料の混合比は、リチウムイオン二次電池の性能を決定する要素となるため、用途に応じて、調整することができる。材料の混合比は、公知のリチウムイオン二次電池の正極と同様とすることができ、例えば、溶剤を除いた正極合剤の固形分の全質量を100質量%とした場合、正極活物質を60質量%以上95質量%以下、導電剤を1質量%以上20質量%以下、結着剤を1質量%以上20質量%以下の割合で含有することができる。
【0086】
得られた正極合剤ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して溶剤を飛散させ、シート状の正極が作製される。必要に応じ、電極密度を高めるべくロールプレス等により加圧することもできる。このようにして得られたシート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等し、電池の作製に供することができる。
【0087】
導電剤としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラック(登録商標)などのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
【0088】
結着剤(バインダー)は、正極活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂およびポリアクリル酸等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0089】
必要に応じ、正極活物質、導電剤等を分散させて、結着剤を溶解する溶剤を正極合剤に添加することもできる。溶剤としては、具体的には、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合剤には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
【0090】
正極の作製方法は、上述した例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。例えば正極合剤をプレス成形した後、真空雰囲気下で乾燥することで製造することもできる。
(負極)
負極には、金属リチウム、リチウム合金等を用いることができる。また、負極は、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合剤を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを用いてもよい。
【0091】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
(セパレータ)
正極と負極との間には、必要に応じてセパレータを挟み込んで配置することができる。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、公知のものを用いることができ、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微小な孔を多数有する膜を用いることができる。
(非水系電解質)
非水系電解質としては、例えば非水系電解液を用いることができる。
【0092】
非水系電解液としては、例えば支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものを用いることができる。また、非水系電解液として、イオン液体にリチウム塩が溶解したものを用いてもよい。なお、イオン液体とは、リチウムイオン以外のカチオンおよびアニオンから構成され、常温でも液体状の塩をいう。
【0093】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、およびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネートや、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらにテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン化合物等から選ばれる1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0094】
支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO、およびそれらの複合塩などを用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0095】
また、非水系電解質としては、固体電解質を用いてもよい。固体電解質は、高電圧に耐えうる性質を有する。固体電解質としては、無機固体電解質、有機固体電解質が挙げられる。
【0096】
無機固体電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質等が挙げられる。
【0097】
酸化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば酸素(O)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。酸化物系固体電解質としては、例えば、リン酸リチウム(LiPO)、LiPO、LiBO、LiNbO、LiTaO、LiSiO、LiSiO-LiPO、LiSiO-LiVO、LiO-B-P、LiO-SiO、LiO-B-ZnO、Li1+XAlTi2-X(PO(0≦X≦1)、Li1+XAlGe2-X(PO(0≦X≦1)、LiTi(PO、Li3XLa2/3-XTiO(0≦X≦2/3)、LiLaTa12、LiLaZr12、LiBaLaTa12、Li3.6Si0.60.4等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0098】
硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば硫黄(S)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。硫化物系固体電解質としては、例えば、LiS-P、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiS-B、LiPO-LiS-SiS、LiPO-LiS-SiS、LiPO-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0099】
なお、無機固体電解質としては、上記以外のものを用いてよく、例えば、LiN、LiI、LiN-LiI-LiOH等を用いてもよい。
【0100】
有機固体電解質としては、イオン伝導性を示す高分子化合物であれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体などを用いることができる。また、有機固体電解質は、支持塩(リチウム塩)を含んでいてもよい。
(リチウムイオン二次電池の形状、構成)
以上のように説明してきた本実施形態のリチウムイオン二次電池は、円筒型や積層型など、種々の形状にすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、本実施形態の二次電池が非水系電解質として非水系電解液を用いる場合であれば、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉した構造とすることができる。
【0101】
なお、既述の様に本実施形態の二次電池は非水系電解質として非水系電解液を用いた形態に限定されるものではなく、例えば固体の非水系電解質を用いた二次電池、すなわち全固体電池とすることもできる。全固体電池とする場合、正極活物質以外の構成は必要に応じて変更することができる。
【0102】
本実施形態の二次電池は、各種用途に用いることができる。本実施形態の二次電池は、高容量、高出力な二次電池とすることができるため、例えば常に高容量を要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適であり、高出力が要求される電気自動車用電源にも好適である。
【0103】
また、本実施形態の二次電池は、小型化、高出力化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源として好適である。なお、本実施形態の二次電池は、純粋に電気エネルギーで駆動する電気自動車用の電源のみならず、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃焼機関と併用するいわゆるハイブリッド車用の電源としても用いることができる。
【実施例0104】
以下に、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0105】
ここではまず、以下の実施例、比較例で得られた正極活物質、二次電池の評価方法について説明する。
(正極活物質の評価)
得られた正極活物質について以下の評価を行った。
【0106】
(a)組成の評価
正極活物質について、ICP発光分析法により組成の分析を行った。評価結果を表1の「組成」の欄に示す。組成欄に示したリン酸リチウムの割合は、リチウム遷移金属複合酸化物に対する質量割合を意味している。
【0107】
(b)リチウムサイト(3bサイト)に占めるリチウム以外の元素の割合、メタルサイト(3aサイト)に占めるリチウム元素の割合
以下の実施例、比較例で作製した正極活物質をバナジウム管に2g程度充填した後、完全に密閉した。そして、大強度陽子加速器施設(J-PARC:Japan Proton Accelerator Research Complex)のBL20(茨城県材料構造解析装置、iMATERIA)にて、ダブルフレームモードで10000cps以上の強度が得られる条件で中性子回折測定を行った。
【0108】
背面検出器バンクで得られた中性子回折パターンについて、解析ソフトZ-Codeを用いてRietveld解析を行った。このとき、空間群:R-3mとし、3bサイトにリチウムと混入金属元素(リチウム席のリチウム以外の金属元素)を、3aサイトにリチウム以外の金属元素と混入リチウムを化学種として設定した。なお、リチウム以外の金属元素は、ニッケル、コバルト、元素Mを意味し、各実施例の組成にあわせて選択、設定した。リチウム以外の金属元素は、実施例1~4、比較例1ではニッケルとした。また、リチウム以外の金属元素は、実施例5ではニッケル、コバルト、アルミニウムとし、実施例6ではニッケル、マンガン、コバルトとした。
【0109】
スケールファクター、格子定数、グローバルパラメータを精密化した後、席占有率および原子座標を精密化した。なお、原子変位パラメータについてはリチウム:0.9~1.0Å、ニッケル、コバルト、および元素M:0.3~0.5Å、酸素:0.6~0.8Åの範囲で固定化した。席占有率および原子座標を精密化した後、信頼性パラメータのS値が3.0以下で収束したとみなした。得られたリチウムサイト(3bサイト)のリチウム以外の金属元素の席占有率を求め、表1の「Liサイト(3bサイト)に占めるLi以外の元素の割合」の欄に結果を示している。また、得られたメタルサイト(3bサイト)のリチウム元素の席占有率を求め、表1の「メタルサイト(3aサイト)に占めるLi元素の割合」の欄に結果を示している。
【0110】
なお、粉末中性子回折測定は、日本原子力研究開発機構の原子炉JRR-3に設置されたHRPD(High Resolution Powder Diffractometer)やJ-PARCのSuper HRPDなどでも測定することができる。
【0111】
(c)一次粒子の平均粒子径
リチウム遷移金属複合酸化物粒子のSEM観察像において、画像解析により全様が観察できる15個の二次粒子を選択し、選択した各二次粒子から一次粒子を選択した。この際、合計で30個となるように一次粒子を選択した。そして、選択した一次粒子の長軸長さを測定し、平均値を平均一次粒子径とした。
【0112】
評価結果を表1の「一次粒子の平均粒子径」の欄に示す。
(リチウムイオン二次電池の作製、評価)
(a)コイン型電池の作製
以下の実施例、比較例で作製した正極活物質を用いて、コイン型電池を作製した。
【0113】
具体的には、以下の実施例、比較例で得られた正極活物質をアルゴン雰囲気のグローブボックス内で0.170g秤量した。そして、秤量した正極活物質を、アセチレンブラック0.010g、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)溶液(クレハ製8%溶液)0.250g、およびN-メチル-2-ピロリドン(NMP)70μLとともに容器に入れ、撹拌機(シンキー製AR-100)で混合した。
【0114】
攪拌することで得られたスラリーをアルミニウム箔に塗工し、常温で2時間真空乾燥させた後、120℃で2時間真空乾燥させることで電極を得た。
【0115】
得られた電極をφ10mmに打ち抜いて重量を測定した後、これを正極とした。
【0116】
金属リチウムを負極、ポリエチレン(PE)製多孔質フィルムをセパレータとして用い、上記正極、セパレータ、負極をその順に積層した。そして、正極、セパレータ、負極の積層体に、電解液を含浸させ、正極缶と、負極缶との間に封止した。なお、正極缶、負極缶との間にはガスケットが配置され、両部材間は非接触の状態、すなわち電気的に絶縁状態を維持するように相対的な移動を規制し、固定されている。
【0117】
電解液としては、1MのLiPFを支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の3:7混合液(体積比)を使用した。
【0118】
コイン型電池の作製は、露点-60℃に管理されたドライルーム内で実施した。
【0119】
(b)放電容量、サイクル特性の評価
サイクル特性を示す容量維持率は、コイン型電池について、100サイクル充放電を行った時の容量維持率を測定することにより評価した。
【0120】
具体的には、コイン型電池に30mA/gの電流を流し、カットオフ電圧4.5Vまで充電し、その後カットオフ電圧2.5Vまで放電するサイクルを100サイクル繰り返した。そして、コンディショニング後の100サイクル目の放電容量の、1サイクル目の放電容量に対する割合である容量維持率を算出し、評価した。
【0121】
1サイクル目の放電容量を表1の「放電容量」の欄に、容量維持率を表1の「サイクル特性」の欄にそれぞれ示す。
(正極活物質の製造条件)
[実施例1]
(1)リチウム遷移金属複合酸化物製造工程
公知の方法を用いて得られたニッケル水酸化物と、水酸化リチウム一水和物とを、混合してリチウム混合物を調製した。
【0122】
混合工程では、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製 型式:TURBULA TypeT2C)を用いてニッケル水酸化物と、水酸化リチウム一水和物とを十分に混合し、原料混合物を調製した。
【0123】
混合工程では、得られるリチウム混合物中のニッケル原子(Ni)に対するリチウム原子(Li)の原子数の割合(Li/Ni)が1.00となるように各原料を秤量、混合した。
【0124】
このリチウム混合物を、酸素雰囲気下で焼成した(焼成工程)。
【0125】
焼成工程では、焼成温度である650℃まで昇温し、焼成温度である650℃で12時間保持した。焼成温度での保持後、室温まで冷却した。
【0126】
焼成後得られたリチウム遷移金属複合酸化物について、粉末X線回折装置(Bruker製、商品名:D2 PHASER)を用いてXRDパターンを測定したところ、層状岩塩型構造を有することが確認できた。
(2)混合工程
混合工程では、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、上記層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物0.97gとリン酸リチウム0.03gを電子天秤で秤量し、メノウ乳鉢で十分に混合し、混合物を調製した。
(3)ミリング工程
ミリング工程では、混合工程で得られた混合物を上記グローブボックス内で、φ5mmジルコニアボール59gとともに容積40mLのジルコニア製容器に封入した。
【0127】
そして、フリッチュ製遊星ボールミル(P-7)を用いて、600rpm×15min処理した後に3min停止させるメカニカルミリング処理を計96回実施した。
【0128】
その後、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、ジルコニア製容器を開封し、ジルコニアボール取り除いてメカニカルミリング処理で得られたミリング処理物を取り出した。
【0129】
ミリング処理物について、粉末X線回折装置(Bruker製D2 PHASER)により、CuKα線を用い、管電圧30V、管電流10mAの条件で、2θが10°以上100°以下の領域についてXRDパターンを測定した。その結果、44°~45°にみられる(200)面の回折ピークの半価幅が0.5°以上であり、NiO類似岩塩型構造に由来するブロードな回折ピークが観察された。このため、アモルファスもしくは低結晶性のNiO類似岩塩型構造を有することを確認できた。
(4)熱処理工程
ミリング工程で得られたミリング処理物を酸素雰囲気の焼成炉内で熱処理温度である650℃まで1℃/分の昇温速度で昇温し、熱処理温度で12時間保持して熱処理して正極活物質を得た。
【0130】
得られた正極活物質について、熱硬化樹脂で包埋したのち、クロスセクションポリッシャー(日本電子株式会社製、SM-09010)により研磨した。得られた粒子断面について、ショットキー電界放出形走査電子顕微鏡(カールツァイス社製、ウルトラ55)を用いて100個の粒子について観察した。その結果、正極活物質は、複数の一次粒子が互いに凝集した二次粒子により構成されていることを確認できた。
【0131】
なお、以下の実施例2~6においても同じ手順で正極活物質を評価したところ、得られた正極活物質は、複数の一次粒子が互いに凝集した二次粒子により構成されていることを確認できた。
【0132】
得られた正極活物質の結晶構造を確認するため粉末X線回折装置を使用してXRDパターンを測定した。その結果、リチウム遷移金属複合酸化物は層状岩塩型構造を有することが確認できた。また、リン酸リチウムの回折ピークがわずかに確認できたことから、結晶化したリン酸リチウムがサブミクロンオーダーで分散していることを確認できた。
【0133】
以下の実施例2~6においても同じ手順で正極活物質を評価したところ、リチウム遷移金属複合酸化物が層状岩塩型構造を有することを確認できた。また、以下の実施例2~6においても、リン酸リチウムの回折ピークがわずかに確認できたことから、結晶化したリン酸リチウムがサブミクロンオーダーで分散していることを確認できた。
【0134】
得られた正極活物質をSEM-EDS(日本電子株式会社製、商品名:JCM-6000)を使用して観察し、元素マッピング像を取得した。その結果、リンがサブミクロンオーダーで分散しており、リンの分布から、リン酸リチウムがリチウム遷移金属複合酸化物の一次粒子表面の少なくとも一部を被覆し、かつリチウム遷移金属複合酸化物の二次粒子の内部または表面に分散していることを確認できた。
【0135】
なお、以下の実施例2~6においても同じ手順で正極活物質をSEM-EDSにより観察した。その結果、リンがサブミクロンオーダーで分散しており、リンの分布から、リン酸リチウムがリチウム遷移金属複合酸化物の一次粒子表面の少なくとも一部を被覆し、かつリチウム遷移金属複合酸化物の二次粒子の内部または表面に分散していることを確認できた。
【0136】
その他の評価結果は表1に示す。
【0137】
なお、得られた正極活物質の組成は、質量割合では表1に示すようにLiNiO-3%LiPOであり、物質量の割合で示すと、0.975LiNiO-0.025LiPOとなる。
【0138】
また、得られた正極活物質を用いて、既述のコイン型電池を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[実施例2、実施例3]
熱処理工程における熱処理温度を変更した点以外は実施例1と同じ条件で、正極活物質、コイン型電池を作製し、評価を行った。
【0139】
熱処理温度は、実施例2は665℃、実施例3は635℃とした。
【0140】
評価結果を表1に示す。
[実施例4]
混合工程において、実施例1で調製したリチウム遷移金属複合酸化物0.92gとリン酸リチウム0.08gを電子天秤で秤量し、メノウ乳鉢で十分に混合して混合物を調製し、ミリング工程、熱処理工程に供した。以上の点以外は実施例1と同じ条件で、正極活物質、コイン型電池を作製し、評価を行った。
【0141】
なお、得られた正極活物質の組成は、質量割合では表1に示すようにLiNiO-9%LiPOであり、物質量の割合で示すと、0.929LiNiO-0.071LiPOとなる。
【0142】
評価結果を表1に示す。
[実施例5]
リチウム遷移金属複合酸化物製造工程は実施せず、層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LiNi0.85Co0.10Al0.05を混合工程に供した。そして、上記リチウム遷移金属複合酸化物0.97gとリン酸リチウム0.03gを電子天秤で秤量し、メノウ乳鉢で十分に混合して混合物を調製し、ミリング工程、熱処理工程に供した。以上の点以外は実施例1と同じ条件で、正極活物質、コイン型電池を作製し、評価を行った。
【0143】
なお、得られた正極活物質の組成は、質量割合では表1に示すようにLiNi0.85Co0.10Al0.05-3%LiPOであり、物質量の割合で示すと、0.976LiNi0.85Co0.10Al0.05-0.024LiPOとなる。
[実施例6]
リチウム遷移金属複合酸化物製造工程は実施せず、層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LiNi0.8Mn0.1Co0.1を混合工程に供した。そして、上記リチウム遷移金属複合酸化物0.97gとリン酸リチウム0.03gを電子天秤で秤量し、メノウ乳鉢で十分に混合して混合物を調製し、ミリング工程、熱処理工程に供した。以上の点以外は実施例1と同じ条件で、正極活物質、コイン型電池を作製し、評価を行った。
【0144】
なお、得られた正極活物質の組成は、質量割合では表1に示すようにLiNi0.8Mn0.1Co0.1-3%LiPOであり、物質量の割合で示すと、0.975LiNi0.8Mn0.1Co0.1-0.025LiPOとなる。
[比較例1]
比較例1では、混合工程でリン酸リチウムを混合せず、ミリング工程も実施しなかった。すなわち、リチウム遷移金属複合酸化物製造工程で得られたリチウム遷移金属複合酸化物をそのまま熱処理工程に供した。以上の点以外は実施例1と同じ条件で、正極活物質、コイン型電池を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
[比較例2]
熱処理工程における熱処理温度を610℃に変更した点以外は実施例1と同じ条件で、正極活物質、コイン型電池を作製し、評価を行った。
【0145】
評価結果を表1に示す。
【0146】
【表1】
(評価結果)
表1に示すように、実施例1~実施例6では複数の一次粒子が互いに凝集した二次粒子を含み、層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物と、結晶化したリン酸リチウムと、を含み、上記リチウム遷移金属複合酸化物のリチウムサイト(3bサイト)に占めるリチウム以外の元素の割合が3%以上8%以下である正極活物質が得られた。
【0147】
そして、実施例1~実施例6で得られた正極活物質は、上記要件を充足しない比較例1、比較例2で得られた正極活物質と比較して、リチウムイオン二次電池に適用した場合に、容量維持率が高くなることを確認できた。すなわち、実施例1~実施例6において、サイクル特性に優れた正極活物質が得られることを確認できた。
【0148】
また、実施例1~実施例6で得られた正極活物質は、比較例2で得られた正極活物質と比較して、リチウムイオン二次電池に適用した場合に、放電容量も高くなることを確認できた。
【符号の説明】
【0149】
S1 混合工程
S2 ミリング工程
S3 熱処理工程
図1