IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クラレの特許一覧 ▶ 清水建設株式会社の特許一覧 ▶ 日本シーカ株式会社の特許一覧

特開2025-20022水硬性組成物と繊維構造体とを含む未硬化体、該未硬化体の硬化体、および繊維構造体
<>
  • 特開-水硬性組成物と繊維構造体とを含む未硬化体、該未硬化体の硬化体、および繊維構造体 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020022
(43)【公開日】2025-02-07
(54)【発明の名称】水硬性組成物と繊維構造体とを含む未硬化体、該未硬化体の硬化体、および繊維構造体
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20250131BHJP
   D06M 13/513 20060101ALI20250131BHJP
   C04B 16/06 20060101ALI20250131BHJP
   C04B 24/42 20060101ALI20250131BHJP
   B28B 23/02 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
C04B28/02
D06M13/513
C04B16/06 B
C04B16/06 C
C04B16/06 D
C04B24/42 Z
B28B23/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024115843
(22)【出願日】2024-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2023123512
(32)【優先日】2023-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591037960
【氏名又は名称】シーカ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】圖子 博之
(72)【発明者】
【氏名】勝谷 郷史
(72)【発明者】
【氏名】立花 要
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 宗訓
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 亮介
(72)【発明者】
【氏名】花房 賢治
【テーマコード(参考)】
4G112
4L033
【Fターム(参考)】
4G112PA24
4G112PB41
4G112PC01
4G112PC07
4G112PC14
4L033AA05
4L033AB01
4L033AB03
4L033AB04
4L033AC15
4L033BA96
(57)【要約】
【課題】撥水、疎水および/または防錆効果を発現する硬化体をもたらす、水硬性組成物と繊維構造体とを含む未硬化体の提供。
【解決手段】セメントを含有する水硬性組成物と、シラン化合物を含有する組成物が付着している繊維構造体とを含む未硬化体であって、繊維構造体は水硬性組成物に埋設されている、未硬化体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントを含有する水硬性組成物と、シラン化合物を含有する組成物が付着している繊維構造体とを含む未硬化体であって、繊維構造体は水硬性組成物に埋設されている、未硬化体。
【請求項2】
シラン化合物は重合性シラン化合物を含む、請求項1に記載の未硬化体。
【請求項3】
シラン化合物は、オルガノシランおよびオルガノシロキサンからなる群から選択される1以上の化合物である、請求項1に記載の未硬化体。
【請求項4】
シラン化合物はモノマーのシラン化合物を含む、請求項1に記載の未硬化体。
【請求項5】
繊維構造体から10mm以内の範囲におけるセメント100gに対するシラン化合物の量は、未硬化体全体におけるセメント100gに対するシラン化合物の量より多い、請求項1に記載の未硬化体。
【請求項6】
繊維構造体を構成する繊維は、酸性若しくは塩基性の官能基を有さず、親水性官能基を有する、請求項1に記載の未硬化体。
【請求項7】
繊維構造体を構成する繊維はポリビニルアルコール繊維である、請求項1に記載の未硬化体。
【請求項8】
未硬化体は鉄筋を更に含み、未硬化体の表面から内部に向かって繊維構造体、鉄筋の順に繊維構造体および鉄筋が水硬性組成物に埋設されている、請求項1に記載の未硬化体。
【請求項9】
繊維構造体と鉄筋との距離は10mm以下である、請求項8に記載の未硬化体。
【請求項10】
繊維構造体は、長繊維、織物、編物、不織布、一方向繊維束、紡績糸および編組コードからなる群から選択される1以上である、請求項1に記載の未硬化体。
【請求項11】
請求項1に記載の未硬化体の硬化体。
【請求項12】
ポリマーのシラン化合物を含む、請求項11に記載の硬化体。
【請求項13】
シラン化合物はアルキル基を有しており、硬化体から切出した繊維構造体から10mm以内の領域の硬化体切出し片を熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析に付した際に検出される、該硬化体切出し片に含まれるシラン化合物から脱離したアルキル基に由来する炭化水素の、該硬化体切出し片に含まれるセメント100g当たりの量は、セメントと該セメント100質量部に対して0.5質量部のシラン化合物とを含んでなる水硬性組成物の硬化体を熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析に付した際に検出される、該硬化体に含まれるシラン化合物から脱離したアルキル基に由来する炭化水素の、該硬化体に含まれるセメント100g当たりの量より多い、請求項11または12に記載の硬化体。
【請求項14】
シラン化合物を含有する組成物が付着している繊維構造体であって、該組成物の量は、該組成物が付着していない繊維構造体100質量部に対して10~300質量部である、繊維構造体。
【請求項15】
シラン化合物は重合性シラン化合物を含む、請求項14に記載の繊維構造体。
【請求項16】
シラン化合物は、オルガノシランおよびオルガノシロキサンからなる群から選択される1以上の化合物である、請求項14に記載の繊維構造体。
【請求項17】
シラン化合物はモノマーのシラン化合物を含む、請求項14に記載の繊維構造体。
【請求項18】
繊維構造体を構成する繊維は、酸性若しくは塩基性の官能基を有さず、親水性官能基を有する、請求項14に記載の繊維構造体。
【請求項19】
繊維構造体を構成する繊維はポリビニルアルコール繊維である、請求項14に記載の繊維構造体。
【請求項20】
長繊維、織物、編物、不織布、一方向繊維束、紡績糸および編組コードからなる群から選択される1以上である、請求項14に記載の繊維構造体。
【請求項21】
下記式:
シラン化合物放出量[質量部]
=洗浄前のシラン化合物含有組成物の付着量[質量部]-洗浄後のシラン化合物含有組成物の付着量[質量部]
[式中、シラン化合物含有組成物の付着量は、シラン化合物含有組成物が付着していない繊維構造体100質量部に対する、繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の質量の割合である]
で示されるシラン化合物放出量は3質量部以上である、請求項14に記載の繊維構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物と繊維構造体とを含む未硬化体、該未硬化体の硬化体、および繊維構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
シラン化合物は、厳しい環境下でも高い撥水、疎水および/または防錆効果を発現する剤として知られている。また、撥水性、疎水性および/または防錆性を付与するために、無機または有機建築資材で作られた構造物にシラン化合物を使用できることも知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、少なくとも1つのオルガノシロキサン(A)、少なくとも1つの乳化剤(B)および水を含有し、オルガノシロキサン(A)が、SiC結合C~Cアルキル基およびSiC結合C~C18アルキル基を有する、組成物;並びにa)少なくとも1つの水硬性結合剤、好ましくはセメント、b)少なくとも1つの前記組成物、c)好ましくは、砂、砂利、石灰岩およびチョークからなる群から選択される少なくとも1つの骨材、d)好ましくは追加の水を含んでなる水硬性組成物が開示されている。同文献には、水硬性組成物が、オルガノシロキサン(A)を含有する組成物を含んでなることにより、水硬性組成物の硬化体が疎水化されることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、オリゴマー化度2~6を有するn-プロピルエトキシシロキサンを80~100質量%の量で含んでなるn-プロピルエトキシシロキサンのオリゴマー混合物を、コンクリート等の無機建築資材に含浸させることにより、該無機建築資材を疎水化できることが開示されている。
【0005】
また、コンクリート構造体における鉄筋の腐食を遅延または防止するために、シラン化合物とは異なる亜硝酸系またはアミン系等の腐食防止剤を用いることも検討されている。例えば特許文献3には、1)固体気相腐食防止剤混合物を均一に混合し、該混合物とポリマーとをブレンドおよび造粒して、紡糸用のポリマーマスターバッチを得る工程;2)工程1)で得たポリマーマスターバッチと、固体気相腐食防止剤が添加されていない新たなポリマー材料とを混合し、従来の紡糸プロセスに従って繊維前駆体を紡糸する工程;3)工程2)で得た繊維前駆体を短繊維後紡糸処理に付す工程(従来の紡糸油剤中で液体気相腐食防止剤を撹拌、混合および乳化し、オイルバス中で安定した後紡糸油剤を生成し、この後紡糸油剤を繊維にコーティングする);4)従来のプロセスに従って、後紡糸油剤がコーティングされた合成繊維を延伸、熱固定、カットおよび包装の工程に付すことを含む、腐食防止機能を有するコンクリート用合成繊維の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2022/128994号
【特許文献2】特開2002-226490号公報
【特許文献3】中国特許出願公開第101337782号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本発明者らの検討によると、特許文献1および特許文献3のように、シラン化合物含有組成物、または腐食防止剤が練り込まれかつコーティングされたカット合成繊維を、水硬性組成物に配合する場合、水硬性組成物の硬化体が十分な撥水、疎水および/または防錆効果を発現するためには、かなりの量のシラン化合物含有組成物またはカット合成繊維を配合する必要があり、これは、水硬性組成物の流動性に悪影響を及ぼす。また、特許文献2のように、シラン化合物含有組成物を無機建築資材に含浸させる場合、含浸ムラまたは含浸が不均一な箇所が生じ得、これは、無機建築資材において不十分な撥水、疎水および/または防錆効果を招く可能性がある。
【0008】
上記に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、撥水、疎水および/または防錆効果を発現する硬化体をもたらす、水硬性組成物と繊維構造体とを含む未硬化体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために、水硬性組成物と繊維構造体とを含む未硬化体について詳細に検討を重ね、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、以下の好適な実施形態を包含する。
[1]セメントを含有する水硬性組成物と、シラン化合物を含有する組成物が付着している繊維構造体とを含む未硬化体であって、繊維構造体は水硬性組成物に埋設されている、未硬化体。
[2]シラン化合物は重合性シラン化合物を含む、[1]に記載の未硬化体。
[3]シラン化合物は、オルガノシランおよびオルガノシロキサンからなる群から選択される1以上の化合物である、[1]または[2]に記載の未硬化体。
[4]シラン化合物はモノマーのシラン化合物を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の未硬化体。
[5]繊維構造体から10mm以内の範囲におけるセメント100gに対するシラン化合物の量は、未硬化体全体におけるセメント100gに対するシラン化合物の量より多い、[1]~[4]のいずれかに記載の未硬化体。
[6]繊維構造体を構成する繊維は、酸性若しくは塩基性の官能基を有さず、親水性官能基を有する、[1]~[5]のいずれかに記載の未硬化体。
[7]繊維構造体を構成する繊維はポリビニルアルコール繊維である、[1]~[6]のいずれかに記載の未硬化体。
[8]未硬化体は鉄筋を更に含み、未硬化体の表面から内部に向かって、繊維構造体、鉄筋の順に繊維構造体および鉄筋が水硬性組成物に埋設されている、[1]~[7]のいずれかに記載の未硬化体。
[9]繊維構造体と鉄筋との距離は10mm以下である、[8]に記載の未硬化体。
[10]繊維構造体は、長繊維、織物、編物、不織布、一方向繊維束、紡績糸および編組コードからなる群から選択される1以上である、[1]~[9]のいずれかに記載の未硬化体。
[11][1]~[10]のいずれかに記載の未硬化体の硬化体。
[12]ポリマーのシラン化合物を含む、[11]に記載の硬化体。
[13]シラン化合物はアルキル基を有しており、硬化体から切出した繊維構造体から10mm以内の領域の硬化体切出し片を熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析に付した際に検出される、該硬化体切出し片に含まれるシラン化合物から脱離したアルキル基に由来する炭化水素の、該硬化体切出し片に含まれるセメント100g当たりの量は、セメントと該セメント100質量部に対して0.5質量部のシラン化合物とを含んでなる水硬性組成物の硬化体を熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析に付した際に検出される、該硬化体に含まれるシラン化合物から脱離したアルキル基に由来する炭化水素の、該硬化体に含まれるセメント100g当たりの量より多い、[11]または[12]に記載の硬化体。
[14]シラン化合物を含有する組成物が付着している繊維構造体であって、該組成物の量は、該組成物が付着していない繊維構造体100質量部に対して10~300質量部である、繊維構造体。
[15]シラン化合物は重合性シラン化合物を含む、[14]に記載の繊維構造体。
[16]シラン化合物は、オルガノシランおよびオルガノシロキサンからなる群から選択される1以上の化合物である、[14]または[15]に記載の繊維構造体。
[17]シラン化合物はモノマーのシラン化合物を含む、[14]~[16]のいずれかに記載の繊維構造体。
[18]繊維構造体を構成する繊維は、酸性若しくは塩基性の官能基を有さず、親水性官能基を有する、[14]~[17]のいずれかに記載の繊維構造体。
[19]繊維構造体を構成する繊維はポリビニルアルコール繊維である、[14]~[18]のいずれかに記載の繊維構造体。
[20]長繊維、織物、編物、不織布、一方向繊維束、紡績糸および編組コードからなる群から選択される1以上である、[14]~[19]のいずれかに記載の繊維構造体。
[21]下記式:
シラン化合物放出量[質量部]
=洗浄前のシラン化合物含有組成物の付着量[質量部]-洗浄後のシラン化合物含有組成物の付着量[質量部]
[式中、シラン化合物含有組成物の付着量は、シラン化合物含有組成物が付着していない繊維構造体100質量部に対する、繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の質量の割合である]
で示されるシラン化合物放出量は3質量部以上である、[14]~[20]のいずれかに記載の繊維構造体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、撥水、疎水および/または防錆効果を発現する硬化体をもたらす、水硬性組成物と繊維構造体とを含む未硬化体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の未硬化体の一実施形態の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0013】
[未硬化体]
本発明の未硬化体は、セメントを含有する水硬性組成物(本明細書において、「セメント含有水硬性組成物」と称することがある)と、シラン化合物を含有する組成物(本明細書において、「シラン化合物含有組成物」と称することがある)が付着している繊維構造体とを含み、未硬化体において、繊維構造体は水硬性組成物に埋設されている。
本明細書において「未硬化体」とは、繊維構造体を水硬性組成物に埋設させた段階のもの、または繊維構造体が埋設された水硬性組成物の硬化がある程度進んでいるが完了していない段階のものである。この未硬化体を長時間放置する等の公知の工程を経て硬化を完了させると、硬化体となる。
本明細書において「埋設されているとは」、繊維構造体が水硬性組成物によって包囲されていることを意味する。従って、繊維構造体の全ては、未硬化体に含まれた状態で存在し、未硬化体から露出していない。
【0014】
<水硬性組成物>
水硬性組成物はセメントを含有する。セメントは特に限定されず、JIS R 5210:2019~JIS R 5214:2019で規定されているセメントであればいずれのセメントも使用できる。その例としては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメントおよび中庸熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメント;アルミナセメント;高炉セメント;シリカセメント;並びにフライアッシュセメント;白色ポルトランドセメントが挙げられる。これらのセメントは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してよい。
【0015】
上記したようなセメントは、例えば、太平洋セメント株式会社、住友大阪セメント株式会社、UBE三菱セメント株式会社等から市販されており、本発明では、そのような市販品を使用できる。
【0016】
水硬性組成物は通常、水を更に含む。水硬性組成物における水の量は、所望の硬化体に応じて、適宜公知の配合量で調整できる。水の質量をW、セメントの質量をCとしたときの水セメント比(W/C)は、好ましくは25~65質量%、より好ましくは35~60質量%、更に好ましくは40~55質量%である。
【0017】
水硬性組成物はまた、当技術分野で周知の骨材を更に含んでよい。そのような骨材の例としては、JIS A5002:2003で規定されている軽量コンクリート骨材、JIS A 5005:2020で規定されている砕石および砕砂、JIS A 5011-1:2018~JIS A 5011-4:2018で規定されているスラグ骨材、JIS A 5021:2018で規定されている再生骨材Hが挙げられる。これらの骨材は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してよい。
【0018】
また、水硬性組成物は、混和材および/または混和剤を更に含んでもよい。混和材の例としては、JIS A 6201:2015で規定されているフライアッシュ、JIS A 6202:2017で規定されている膨張材、JIS A 6206:2013で規定されている高炉スラグ微粉末、JIS A 6207:2016で規定されているシリカフューム、JIS A 6208:2018で規定されている合成短繊維が挙げられ、混和剤の例としては、JIS A 6204:2011で規定されている化学混和剤が挙げられる。これらの混和材または混和剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してよい。
【0019】
水硬性組成物が骨材、混和材および/または混和剤を含む場合、一般に使用される範囲で含まれ得る。
【0020】
<水硬性組成物の調製方法>
水硬性組成物の調製方法は特に限定されない。セメント、水、並びに任意に、上述した周知の骨材、混和材および/または混和剤が均一に撹拌混合されればよい。全ての材料を同時に撹拌混合してもよいし、一部の材料を撹拌混合した後、残りの材料を加えて更に撹拌混合してもよい。
【0021】
撹拌装置としては、公知のものを使用でき、撹拌条件は適宜設定すればよい。撹拌装置の例としては、ディゾルバー、スクリューラインミキサー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、プラネタリーミキサー、スタティックミキサー、ナウターミキサー、リボンブレンダー、タンブルミキサー、パドル式ミキサー等が挙げられる。
【0022】
<シラン化合物を含有する組成物>
シラン化合物とは、分子内にシラン基を有する化合物である。シラン化合物は、好ましくは重合性シラン化合物を含み、より好ましくは重合性シラン化合物からなる。重合性シラン化合物とは、重合性基を2つ以上有するシラン化合物である。重合性基は好ましくは加水分解重合性基であり、その例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等、炭素数が1~10のアルコキシ基が挙げられる。加水分解重合性基は、好ましくは炭素数が1~4のアルコキシ基であり、より好ましくはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基である。重合性シラン化合物に含まれる2つ以上の重合性基は、相互に同じ基でもよいし、異なる基でもよい。
【0023】
本発明における繊維構造体には、シラン化合物を含有する組成物が付着している。付着とは、シラン化合物含有組成物が繊維構造体の表面の少なくとも一部を覆っている状態、および/または、繊維構造体の隙間(繊維構造体を構成する繊維の表面、或いは表面および内部)の少なくとも一部に存在する状態を示し、本発明の効果を奏するために、水の存在下で、例えば水硬性組成物中で、シラン化合物が繊維構造体から離れる(放出される)ことが可能である状態を示す。即ち、シラン化合物含有組成物が繊維構造体に「付着している」状態には、シラン化合物含有組成物が高温およびpH条件等によって繊維構造体に固着またはセットされた状態は含まれない。繊維構造体に固着またはセットされたシラン化合物は、水の存在下で繊維構造体から放出されず、従って、そのような繊維構造体が水硬性組成物に埋設されていても、本発明の効果は得られない。
水の存在下で、繊維構造体から放出されるシラン化合物は、重合性シラン化合物または非ポリマーシラン化合物を含み、好ましくは、重合性シラン化合物または非ポリマーシラン化合物からなる。
一方、固着またはセットされているシラン化合物含有組成物は通常、シラン化合物としてポリマーのシラン化合物を含む。従って、例えば、水中若しくは水硬性組成物中でシラン化合物が物理的作用等により繊維構造体から脱落したとしても、脱落したシラン化合物が加水分解または重合して後述する撥水性の膜のようなものを形成することはない。
【0024】
水硬性組成物中で繊維構造体から放出されたシラン化合物は繊維構造体近傍に拡散し、そこで加水分解および重合し、ポリマーのシラン化合物が撥水性の膜のようなもの(以下、「膜状物」と称することがある)として生じると考えられる。その結果、硬化体における繊維構造体近傍ではポリマーのシラン化合物がそれ以外の場所より高濃度で(局所的に)存在し、硬化体は、外部からの水分に対して撥水、疎水および/または防錆効果を発現できると考えられる。この局所的な存在により、シラン化合物含有組成物、またはシラン化合物含有組成物が練り込まれたり被覆されたりしたカット繊維が硬化体全体に配合される場合よりシラン化合物の配合量が顕著に少なくても、十分な撥水、疎水および/または防錆効果が発現されると考えられる。また、シラン化合物含有組成物、またはシラン化合物含有組成物が練り込まれたり被覆されたりしたカット繊維が硬化体全体に配合される場合とは異なり、水硬性組成物の流動性に悪影響が及ぼされることはない。また、シラン化合物含有組成物が付着している繊維構造体が、水硬性組成物における適当な位置に配置されることにより、不十分な撥水、疎水および/または防錆効果を招くシラン化合物のムラまたは不均一な分布を伴わない膜状物が形成され得る。
【0025】
シラン化合物は、好ましくはモノマーのシラン化合物および/またはオリゴマーのシラン化合物(本明細書において、まとめて「非ポリマーシラン化合物」と称することがある)を含み、より好ましくは非ポリマーシラン化合物からなる。シラン化合物は、好ましくはモノマーのシラン化合物を含む。シラン化合物は、ポリマーのシラン化合物も含み得る。
【0026】
繊維構造体に付着している非ポリマーシラン化合物は、水の存在下で(例えば水洗により)繊維構造体から容易に流出する。一方、繊維構造体に付着し得るポリマーシラン化合物は、水の存在下で繊維構造体から流出しない(ポリマーシラン化合物の一部が、例えば水洗により繊維構造体から脱落する場合はあり得る)。よって、未硬化体が、非ポリマーシラン化合物を含むシラン化合物を含有する組成物が付着している繊維構造体を含む場合、非ポリマーシラン化合物は、繊維構造体から容易に放出される。
繊維構造体に付着しているシラン化合物における非ポリマーシラン化合物および含まれる場合のポリマーシラン化合物の割合は、例えば、繊維構造体にシラン化合物を付着させるための熱処理工程における温度若しくは時間、および/または繊維構造体を構成している繊維の材質若しくは繊維表面の塗布、付着、被覆成分の種類により調整できる。
繊維構造体に付着しているシラン化合物における非ポリマーシラン化合物および含まれる場合のポリマーシラン化合物の割合は、例えば、シラン化合物が付着していない繊維構造体の質量、該繊維構造体にシラン化合物を付着させた後の質量、該付着後の繊維構造体を水洗した後のシラン化合物の質量の変化により測定できる。
【0027】
一実施形態において、シラン化合物は、オルガノシランおよびオルガノシロキサンからなる群から選択される1以上の化合物である。オルガノシランには、好ましくはアルキルアルコキシシランおよびアミノシランが包含される。オルガノシランおよびオルガノシロキサンは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してよい。
【0028】
アルキルアルコキシシランの例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ノニルトリメトキシシラン、ノニルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、およびメチルオクチルジメトキシシラン、メチルオクチルジエトキシシランが挙げられる。
【0029】
アミノシランの例としては、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノブチルトリメトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、およびn-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0030】
オルガノシロキサンの例としては、上記オルガノシランのオリゴマーまたはポリマーが挙げられる。繊維構造体からの良好な放出性の観点から、オルガノシロキサンはオルガノシランのオリゴマーであることが好ましい。
【0031】
シラン化合物含有組成物として市販品を使用してもよい。そのような市販品の例としては、Evonik Industries製のProtectosil(登録商標)WA CIT、Evonik Industries製のProtectosil(登録商標)WS670、およびポゾリスソリューションズ株式会社製のマスタープロテクト H400が挙げられる。
【0032】
シラン化合物含有組成物は、好ましくはエマルションである。本発明者らの検討によれば、シラン化合物自体が付着している繊維構造体と、セメント含有水硬性組成物とを含む未硬化体では、セメント含有水硬性組成物中で繊維構造体からシラン化合物が良好に放出されない場合があることが見出された。その理由は明らかではなく、下記理由に限定されることを意図するものではないが、シラン化合物自体を繊維構造体に付着させると、シラン化合物は繊維構造体の表面または表面近傍で重合してしまい、繊維構造体からセメント含有水硬性組成物中に拡散できない一方で、シラン化合物を含有する組成物(好ましくはエマルション)を繊維構造体に付着させると、シラン化合物を含有する組成物は繊維構造体の表面または表面近傍で重合しないか若しくはあまり重合せず、繊維構造体からセメント含有水硬性組成物中に拡散できると考えられる。シラン化合物含有組成物がエマルションである場合は、エマルションの油滴中に存在する非ポリマーシラン化合物が繊維構造体に付着しているため、非ポリマーシラン化合物がセメント含有水硬性組成物中へ良好に放出され得、繊維構造体近傍に拡散できると考えられる。
【0033】
シラン化合物含有組成物におけるシラン化合物の濃度は、シラン化合物含有組成物の質量に対して、好ましくは10~90質量%、より好ましくは30~70質量%、更に好ましくは40~60質量%である。シラン化合物含有組成物におけるシラン化合物の濃度が前記範囲内であると、繊維構造体の表面または表面近傍での重合が起こりにくく、非ポリマーシラン化合物のセメント含有水硬性組成物中への良好な放出・拡散が達成できる。
【0034】
シラン化合物含有組成物は、乳化剤を含有することが好ましい。特に、シラン化合物含有組成物がエマルションである場合、シラン化合物含有組成物はシラン化合物および水に加えて、通常は乳化剤を更に含む。そのような乳化剤としては公知の乳化剤を使用でき、その具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ジメチルシロキサンの側鎖若しくは末端をポリアルキレンオキサイドで変性したジメチルシロキサン共重合体類、セルロース類等の非イオン性乳化剤;アルキルベンゼンスルホン酸塩類、高級アルコール硫酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル類、アルキルナフチル酸塩類等のアニオン性乳化剤;アルキルアミン塩類、第4級アンモニウム塩類等のカチオン性乳化剤が挙げられる。これらの乳化剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してよい。
【0035】
エマルションとしてのシラン化合物含有組成物における乳化剤の濃度は、適宜選択すればよく、エマルションの質量に対して、通常は0.1質量%~20質量%、好ましくは0.5質量%~15質量%、より好ましくは1.0質量%~10質量%である。
【0036】
シラン化合物含有組成物は任意に、従来公知の添加剤を含んでもよい。そのような添加剤の例としては、増粘剤、pH緩衝剤、pH調整剤、シリカゾル、アルミナゾル、セリアゾル、紫外線吸収剤、水溶性ポリマー、有機系乳化重合物、防カビ剤、防藻剤、および防蟻剤が挙げられる。これらの添加剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してよく、その使用量は、適宜選択すればよい。
【0037】
<繊維構造体およびその作製方法>
好ましい一実施形態において、繊維構造体は、長繊維、織物、編物、ネット、網、不織布、一方向繊維束、紡績糸、ロープおよび編組コードからなる群から選択される1以上である。上述したように未硬化体は必要に応じて合成短繊維を含んでよい。しかし、繊維構造体には、合成短繊維は包含されない。繊維構造体が長繊維、一方向繊維束、紡績糸または編組コードである場合、その長手方向の長さは、好ましくは100mm以上、より好ましくは500mm以上である。織物の例としては、平織、綾織、朱子織、三軸織、四軸織、もじり織、からみ織が挙げられる。編物の例としては、トリコット、ラッセル、およびミラニーズが挙げられる。網の例としては、本目網、蛙又網、二重蛙又網等の有結節網、ラッセル網、もじ網、織り網、メテリック・ファイバー網等の無結節網等が挙げられる。また、網の網目については、菱目、亀甲目、角目、千鳥目、六角目等の形状を採用することができる。これらの網のうち、取り扱い性や施工性の観点から、結び目がなく連接部が平面的である無結節網が好ましい。
【0038】
織物、編物および不織布の形状および目開き、並びに複数の長繊維で特定の形状(例えば間隔を空けて並べた形状または格子形状)を形成して繊維構造体とする場合の間隔の広さまたは目の大きさは、用途によって適宜決定される。通常は、織物、編物および不織布の目開き、並びに複数の長繊維で特定の形状を形成して繊維構造体とする場合の間隔の広さまたは目の大きさは、3~120mmである。
【0039】
繊維構造体を構成する繊維の平均繊維径は、好ましくは1~50μm、より好ましくは2.5~45μm、更に好ましくは5~40μmである。平均繊維径が前記範囲内であると、シラン化合物の保持性が向上し得る。平均繊維径は、JIS L 1015「化学繊維ステープル試験方法(8.5.1)」に準拠して求めることができる。
【0040】
編組コードの平均直径は、好ましくは0.5~10mm、より好ましくは1~7mm、更に好ましくは1.5~5mmである。平均直径が前記範囲内であると、シラン化合物の保持性が向上すると共に施工時の取扱い性が良好となる。平均直径は、走査電子顕微鏡または光学顕微鏡を用いて任意の複数点(例えば10点)の直径を測定し、その平均値を算出することで求めることができる。
【0041】
好ましい一実施形態において、繊維構造体を構成する繊維は、有機繊維または無機繊維である。前記有機繊維の例としては、ポリビニルアルコール繊維、アラミド繊維、ポリプロピレン繊維、セルロース繊維、ポリエステル繊維等が挙げられ、前記無機繊維の例としては、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。補強効果、ひび割れ抑制効果を付与したい場合には、ポリビニルアルコール繊維、アラミド繊維、ポリプロピレン繊維、ガラス繊維、炭素繊維等、高強度かつアルカリ存在下で強度低下しない繊維が好適に使用できる。
【0042】
別の好ましい一実施形態において、繊維構造体を構成する繊維は、酸性若しくは塩基性の官能基を有さず、親水性官能基を有する。繊維が酸性官能基または塩基性官能基を有さないことにより、繊維表面または表面近傍でのシラン化合物の重合が起こりにくく、非ポリマーシラン化合物のセメント含有水硬性組成物中への良好な放出・拡散が達成できる。また、繊維が親水性官能基を有することにより、繊維構造体にシラン化合物含有組成物が十分な量で付着でき、十分な量の非ポリマーシラン化合物がセメント含有水硬性組成物中へ放出・拡散できる。即ち、酸性若しくは塩基性の官能基を有さず、親水性官能基を有する繊維は、シラン化合物を非ポリマーシラン化合物として多量に保持できる能力と、非ポリマーシラン化合物を多量に放出できる能力とを併せ持つことができる。
【0043】
繊維構造体は、平均繊維径、組成、後述するポリビニルアルコール繊維の鹸化度等の1以上が異なる2以上の繊維の組み合わせで構成されていても、それらが同じ繊維のみで構成されていてもよい。
【0044】
酸性若しくは塩基性の官能基を有さず、親水性官能基を有する繊維の例としては、ポリビニルアルコール繊維が挙げられる。
【0045】
ポリビニルアルコール繊維は、ビニルアルコール系ポリマーを含む繊維である。機械的強度、耐アルカリ性および親水性等の観点から、ポリビニルアルコール繊維におけるビニルアルコール系ポリマーの含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%である。
【0046】
ポリビニルアルコール繊維は、本発明の効果を損なわない範囲で、他のポリマーとの複合繊維若しくは海島繊維であってもよい。ビニルアルコール系ポリマーは、主にポリビニルアルコールで構成され、本発明の効果を損なわない範囲でビニルアルコール以外の他のモノマーが共重合していてもよく、或いは変性されていてもよい。繊維の機械的強度および耐アルカリ性等の観点から、ビニルアルコール系ポリマー中の変性ユニットの比率は、好ましくは30モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。また、繊維の機械的強度および耐アルカリ性等の観点から、30℃の水溶液で粘度法により求めたビニルアルコール系ポリマーの平均重合度は、好ましくは1000以上、より好ましくは1500以上であり、製造コスト等の観点から、好ましくは10000以下、より好ましくは5000以下、更に好ましくは3000以下である。また、耐熱性、耐久性、寸法安定性、および非ポリマーシラン化合物の保持性の観点から、鹸化度は好ましくは99モル%以上、より好ましくは99.8モル%以上である。
【0047】
ポリビニルアルコール繊維は、例えば、下記方法により調製できる。上述したようなビニルアルコール系ポリマーを濃度40~60質量%の含水チップ状にし、押出機にて加熱溶解し、脱泡する。次いで、このポリビニルアルコール系ポリマー水溶液に架橋剤を添加することで、紡糸原液を得る。架橋剤の例としては、硫酸アンモニウム、硫酸、リン酸アンモニウム、リン酸、塩酸、硝酸、酢酸およびシュウ酸が挙げられる。配管を腐食せず、悪臭がせず、また繊維を発泡させない観点から、硫酸アンモニウムが好ましい。架橋剤の添加量は、ポリビニルアルコール系ポリマーの質量に対して0.5~10質量%であることが好ましい。紡糸原液の温度は90~140℃が好ましい。続いて、紡糸原液を加圧し、ノズル孔から空気中に吐出して乾式紡糸を行う。ノズル孔は円形でも、円形以外の異形、例えば偏平状、十字型、T字型、Y字型、L字型、三角型、四角型または星型等でもよい。紡糸方法は、湿式、乾湿式または乾式のいずれの方法でもよい。
【0048】
次いで、紡糸して得られたポリビニルアルコール繊維を乾燥する。乾燥温度は、通常100℃以下であり、ある程度まで乾燥した後100℃以上の温度条件で乾燥を完全に行うことが好ましい。
【0049】
乾燥後、繊維の延伸を行う。延伸は、通常200~250℃、好ましくは220~240℃の温度下で行われる。延伸倍率は、通常5倍以上、好ましくは6倍以上である。延伸時、紡糸原液中に添加されている架橋剤がポリビニルアルコールのOH基と反応し、架橋結合が生じる。延伸は、熱風式延伸炉内で約20秒~3分の時間をかけて行われる。このように延伸された繊維は、必要により定長または収縮を図るために熱処理を行う。
【0050】
繊維構造体を構成する繊維としては、市販されている繊維を使用してもよい。
繊維から繊維構造体を作製する方法は特に限定されず、公知の方法を採用できる。
【0051】
<シラン化合物を含有する組成物が付着している繊維構造体およびその製造方法>
本発明における繊維構造体には、シラン化合物含有組成物が付着している。付着しているシラン化合物含有組成物の量は、シラン化合物含有組成物が付着していない繊維構造体100質量部に対して好ましくは10~300質量部、より好ましくは20~100質量部、更に好ましくは30~90質量部、特に好ましくは40~80質量部である。付着しているシラン化合物含有組成物の量が前記範囲内であると、非ポリマーシラン化合物のセメント含有水硬性組成物中への良好な放出・拡散が達成できる。付着しているシラン化合物含有組成物の量は、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0052】
下記式:
シラン化合物放出量[質量部]
=洗浄前のシラン化合物含有組成物の付着量[質量部]-洗浄後のシラン化合物含有組成物の付着量[質量部]
[式中、シラン化合物含有組成物の付着量は、シラン化合物含有組成物が付着していない繊維構造体100質量部に対する、繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の質量の割合である]
で示される繊維構造体のシラン化合物放出量は、好ましくは3質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上、特に好ましくは30質量部以上である。シラン化合物放出量が前記下限値以上であると、非ポリマーシラン化合物が繊維構造体からセメント含有水硬性組成物中へ良好に放出され得、繊維構造体近傍に拡散できる。シラン化合物放出量は、上述したシラン化合物、シラン化合物含有組成物および繊維構造体、特に、好ましい実施形態として記載されたシラン化合物、シラン化合物含有組成物および繊維構造体を適宜選択することにより、前記下限値以上に調整できる。シラン化合物放出量の上限値は特に限定されず、100質量部であり得る。シラン化合物放出量は、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0053】
シラン化合物を含有する組成物が付着している繊維構造体は、例えば、繊維構造体に、浸漬、噴霧または塗布等の一般的な方法を用いて、シラン化合物を含有する組成物を含ませ、必要に応じて搾液および/または乾燥することにより製造できる。また、繊維構造体が、織物、編み物、不織布、一方向繊維束、編組コードである場合は、シラン化合物含有組成物を含ませ、必要に応じて搾液および/または乾燥した繊維を用いて繊維構造体を製造してもよい。
【0054】
繊維構造体または繊維に含ませるシラン化合物含有組成物におけるシラン化合物の濃度は、該シラン化合物含有組成物の質量に対して、好ましくは10~90質量%、より好ましくは30~70質量%、更に好ましくは40~60質量%である。
【0055】
前記シラン化合物含有組成物に配合できるシラン化合物は、先の<シラン化合物を含有する組成物>の項に記載したシラン化合物である。前記シラン化合物含有組成物は好ましくはエマルションである。前記シラン化合物含有組成物がエマルションである場合、通常含まれる乳化剤、および任意に含まれ得る従来公知の添加剤は、先の<シラン化合物を含有する組成物>の項に記載した乳化剤および添加剤である。
【0056】
シラン化合物含有組成物がエマルションである場合、エマルションの調製には、一般的な混合・乳化方法を用いることができる。例えば、スターラー、ホモミキサー、ウルトラディスパーサー、高圧ホモジナイザー等を用いて撹拌しながら、シラン化合物と通常は乳化剤と任意に添加剤とを、別個に若しくは予め混合した上で水に少しずつ若しくは一括で添加したり、水と通常は乳化剤と任意に添加剤の混合液にシラン化合物を少しずつ若しくは一括で添加したりすることにより、エマルションを調製できる。
【0057】
シラン化合物含有組成物を含ませた繊維構造体または繊維は、必要に応じて搾液および/または乾燥に付す。搾液および乾燥は一般的な方法で実施できるが、その際の温度は、シラン化合物含有組成物が繊維構造体または繊維に固着またはセットされることを回避する観点から、好ましくは130℃未満、より好ましくは100℃以下、更に好ましくは80℃以下、特に好ましくは60℃以下である。また、乾燥の際は、減圧を印加してもよい。
【0058】
未硬化体の好ましい一実施形態において、繊維構造体から10mm以内の範囲におけるセメント100gに対するシラン化合物の量は、未硬化体全体におけるセメント100gに対するシラン化合物の量より多い。ここで、本明細書に記載の「繊維構造体から10mm以内の範囲」に、繊維構造体、および繊維構造体または繊維の表面に固着またはセットしているものは含まれない。即ち、繊維構造体から10mm以内の範囲は、繊維構造体から0mm超~10mm以内の範囲を意味する。また、このとき、繊維構造体から10mm以内の範囲の未硬化体の体積は、未硬化体全体の体積より小さい。
【0059】
上述した未硬化体の好ましい一実施形態は、未硬化体における繊維構造体の近傍の水硬性組成物(具体的には、繊維構造体から10mm以内の範囲における水硬性組成物)に、繊維構造体から放出されたシラン化合物が局所的に多く存在していることを示す。よって、繊維構造体から10mm以内の範囲におけるシラン化合物の量が、未硬化体全体におけるセメント100gに対するシラン化合物の量より多いと、未硬化体におけるシラン化合物の偏在が所望の通りに達成できる。この偏在により、シラン化合物含有組成物、またはシラン化合物含有組成物が練り込まれたり被覆されたりしたカット繊維が硬化体全体に配合される場合よりシラン化合物の配合量が顕著に少なくても、硬化体において十分な撥水、疎水および/または防錆効果が発現され得る。
シラン化合物のこのような偏在は、上述したシラン化合物、シラン化合物含有組成物および繊維構造体を用いて未硬化体を製造することにより、特に、好ましい実施形態として記載されたシラン化合物、シラン化合物含有組成物および繊維構造体を用いて未硬化体を製造することにより、達成できる。
【0060】
未硬化体の特定の領域または未硬化体全体におけるセメント100gに対するシラン化合物の量は、例えば熱分解ガスクロマトグラフィーを用いて測定できる。
ここで、水硬性組成物の硬化により、シラン化合物の量またはシラン化合物がアルキル基を有する場合の該アルキル基(以下において、「シラン化合物由来アルキル基」と称する場合がある)の量は実質的には変わらない。よって、未硬化体全体におけるシラン化合物またはシラン化合物由来アルキル基の量は、該未硬化体を硬化することにより得た硬化体全体におけるシラン化合物またはシラン化合物由来アルキル基の量と同等とみなすことができる。また、未硬化体の特定の領域におけるシラン化合物またはシラン化合物由来アルキル基の量は、該特定の領域の未硬化体を切出して硬化させることにより得た硬化体におけるシラン化合物またはシラン化合物由来アルキル基の量と同等とみなすことができる。更に、ある程度硬化が進行した未硬化体の特定の領域におけるシラン化合物またはシラン化合物由来アルキル基の量は、該未硬化体を硬化することにより得た硬化体の該特定の領域におけるシラン化合物またはシラン化合物由来アルキル基の量と同等とみなすことができる。
熱分解ガスクロマトグラフィーを用いた具体的な測定方法の例は、後述の実施例に記載されている。
【0061】
未硬化体における繊維構造体から10mm以内の範囲におけるシラン化合物またはシラン化合物由来アルキル基の量を調べるとき、例えば繊維構造体が未硬化体の底面と水平に配置された織物等の場合、該織物等の下方10mmおよび上方10mmの範囲におけるシラン化合物またはシラン化合物由来アルキル基の量を調べることになる。しかし、未硬化体において、繊維構造体から放出されるシラン化合物は、通常、特定の方向ではなく任意のあらゆる方向に放出され得る。そうすると、織物の下方10mmの範囲におけるシラン化合物またはシラン化合物由来アルキル基の量と、織物の上方10mmの範囲におけるシラン化合物またはシラン化合物由来アルキル基の量とは、実質的には同程度であり得る。このような場合、織物の下方10mmの範囲におけるシラン化合物若しくはシラン化合物由来アルキル基の量、または織物の上方10mmの範囲におけるシラン化合物若しくはシラン化合物由来アルキル基の量のいずれかを調べ、その量を簡易的に、繊維構造体から10mm以内の範囲におけるシラン化合物またはシラン化合物由来アルキル基の量とみなすことができる。
【0062】
本発明の一実施形態では、未硬化体は鉄筋を更に含み、未硬化体の表面から内部に向かって繊維構造体、鉄筋の順に繊維構造体および鉄筋が水硬性組成物に埋設されている。ここで、「未硬化体の表面」とは、未硬化体と他の相(典型的には、未硬化体が入っている型枠、または大気)との界面を意味する。未硬化体の「内部」とは、未硬化体の表面より内側、即ち他の相とは反対側を意味し、未硬化体の「外部」とは、未硬化体の表面より外側、即ち他の相側を意味する。硬化体の表面、内部および外部についても同様である。
【0063】
未硬化体において、繊維構造体から放出されたシラン化合物は水硬性組成物中に拡散し、繊維構造体近傍で加水分解および重合し、重合したシラン化合物は、好ましくは膜状物として存在できる。未硬化体の表面から内部に向かって繊維構造体、鉄筋の順に繊維構造体および鉄筋が存在することにより、未硬化体の硬化体では、硬化体の外部からの水分が、鉄筋より先に前記膜状物に達し、該膜状物によって遮断され得る。これにより、該膜状物より内部(内側)に存在する鉄筋まで水分が到達することを阻害でき、鉄筋の防錆が達成され得る。
【0064】
図1に、この一実施形態である未硬化体(1)の断面模式図を示す。この断面模式図に示されているように、シラン化合物含有組成物が付着している繊維構造体(3)より内側に、複数の鉄筋(4)が存在し、該繊維構造体(3)および鉄筋(4)は、水硬性組成物(2)に包囲されている。繊維構造体から放出されたシラン化合物が水硬性組成物中に拡散し、繊維構造体近傍で加水分解および重合することにより生じたポリマーのシラン化合物は、好ましくは膜状物として存在できるが、図1には示されていない。なお、図1においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法および比率等は適宜相違させている。
【0065】
未硬化体が鉄筋を更に含む一実施形態において、繊維構造体と鉄筋との距離は、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下、更に好ましくは1mm以下であり、0mmであってもよい。この距離は、鉄筋と、該鉄筋に最も近接する繊維構造体との距離である。繊維構造体と鉄筋との距離が前記上限値以下であると、重合したシラン化合物の膜状物が鉄筋の近傍に存在できるため、鉄筋の良好な防錆を達成できる。前記距離は、未硬化体を切断してもその形状が保持される程度に硬化が進行した後、未硬化体を切断し、任意の20cm毎に1点以上(好ましくは3点以上)、鉄筋と繊維構造体との距離を実測し、その平均値を求めることで、測定できる。或いは、繊維構造体と鉄筋との距離は、水硬性組成物の硬化により実質的には変化しないことから、後述の実施例に記載しているように、硬化体の鉄筋付近のモルタル片を割裂し、任意の20cm毎に1点以上(好ましくは3点以上)、鉄筋と、繊維構造体との距離を実測し、その平均値を求め、その値を、未硬化体における繊維構造体と鉄筋との距離とすることができる。或いは、通常、繊維構造体および鉄筋が埋設されている未硬化体は、型枠に繊維構造体および鉄筋を固定した後、該型枠に水硬性組成物を打込むことにより製造され、この打込みにより繊維構造体および鉄筋の位置は実質的に変化しないことから、水硬性組成物の打込みの前に、任意の20cm毎に1点以上(好ましくは3点以上)、固定された繊維構造体と鉄筋との距離を実測し、その平均値を求め、その値を、未硬化体における繊維構造体と鉄筋との距離とすることができる。
【0066】
[未硬化体の製造方法]
未硬化体は、通常、型枠内に、シラン化合物を含有する組成物が付着している繊維構造体および含まれる場合は鉄筋を固定した後、該型枠に水硬性組成物を打込むことを含む方法により製造され得る。繊維構造体の固定方法は、水硬性組成物の打込みにより移動しない程度に、繊維構造体が型枠および/または含まれる場合の鉄筋に固定されれば、特に限定されない。例えば、図1に例示するように、複数の鉄筋を水硬性組成物に埋設させる場合は、型枠に従来公知の方法で複数の鉄筋(4)を固定し、その周囲に、例えば織物状の繊維構造体を巻き付け、繊維構造体の端部同士を結束線等の接合部材で接合することにより、繊維構造体を固定すればよい。
【0067】
[硬化体およびその製造方法]
未硬化体を硬化させることにより、硬化体が得られる。本発明はまた、そのような未硬化体の硬化体も対象とする。
【0068】
未硬化体において、繊維構造体から放出されたシラン化合物は水硬性組成物中に拡散し、繊維構造体近傍で加水分解および重合する。従って、硬化体は、ポリマーのシラン化合物を含む。前記加水分解および重合により生じたポリマーシラン化合物が硬化体に含まれることにより、硬化体は、外部からの水分に対する十分な撥水、疎水および/または防錆性を有することができる。硬化体がポリマーのシラン化合物を含むことは、例えば後述の実施例に記載の方法で確認できる。
硬化体は、場合により、未反応のモノマーのシラン化合物も含み得る。また、未反応のオリゴマーのシラン化合物および/またはモノマーのシラン化合物の加水分解および重合により生じたオリゴマーのシラン化合物も含み得る。
【0069】
上述した通り、本発明の未硬化体において、シラン化合物は繊維構造体から放出され、繊維構造体の近傍に偏在している。そのため、本発明の硬化体においても、シラン化合物は繊維構造体近傍に偏在している。
硬化体の好ましい一実施形態において、繊維構造体から10mm以内の範囲におけるセメント100gに対するシラン化合物の量は、硬化体全体におけるセメント100gに対するシラン化合物の量より多い。
【0070】
好ましい一実施形態において、シラン化合物はアルキル基を有しており、硬化体から切出した、繊維構造体から10mm以内の領域の硬化体切出し片を熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析に付した際に検出される、該硬化体切出し片に含まれるシラン化合物から脱離したアルキル基に由来する炭化水素の、該硬化体切出し片に含まれるセメント100g当たりの量は、セメントと該セメント100質量部に対して0.5質量部のシラン化合物とを含んでなる水硬性組成物の硬化体を熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析に付した際に検出される、該硬化体に含まれるシラン化合物から脱離したアルキル基に由来する炭化水素の、該硬化体に含まれるセメント100g当たりの量より多い。具体的な熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析方法の例は、後述の実施例に記載されている。
前記アルキル基の量は硬化により変化しないため、硬化体から切出した硬化体切出し片を熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析に付した場合と、ある程度硬化が進行して繊維構造体からのシラン化合物の放出が完了したと考えられる未硬化体を切出し、この切出し片を硬化させて得た硬化体を熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析に付した場合とで、検出される上記炭化水素の量は実質的には変わらない。
【0071】
未硬化体の硬化は、硬化体の用途に応じて、一般的な方法で実施すればよい。
【0072】
[繊維構造体およびその製造方法]
本発明はまた、シラン化合物を含有する組成物が付着している繊維構造体であって、シラン化合物含有組成物の量は、シラン化合物含有組成物が付着していない繊維構造体100質量部に対して好ましくは10~300質量部である、繊維構造体も対象とする。
【0073】
好ましい一実施形態において、シラン化合物は、重合性シラン化合物を含み、また、モノマーのシラン化合物を含む。好ましい一実施形態において、シラン化合物は、オルガノシランおよびオルガノシロキサンからなる群から選択される1以上の化合物である。
好ましい一実施形態において、繊維構造体を構成する繊維は、酸性若しくは塩基性の官能基を有さず、親水性官能基を有し、好ましくはポリビニルアルコール繊維である。
繊維構造体は、好ましくは、長繊維、織物、編物、不織布、一方向繊維束、紡績糸および編組コードからなる群から選択される1以上である。
好ましい一実施形態において、下記式:
シラン化合物放出量[質量部]
=洗浄前のシラン化合物含有組成物の付着量[質量部]-洗浄後のシラン化合物含有組成物の付着量[質量部]
[式中、シラン化合物含有組成物の付着量は、シラン化合物含有組成物が付着していない繊維構造体100質量部に対する、繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の質量の割合である]
で示される繊維構造体のシラン化合物放出量は、好ましくは3質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上、特に好ましくは30質量部以上である。シラン化合物放出量の上限値は特に限定されず、100質量部であり得る。
【0074】
繊維構造体に関する上述した好ましい一実施形態に関連する説明、繊維構造体に関する上述した好ましい一実施形態以外の好ましい実施形態若しくは一実施形態、並びに繊維構造体の製造方法およびその好ましい実施形態若しくは一実施形態については、<シラン化合物を含有する組成物>、<繊維構造体およびその作製方法>および<シラン化合物を含有する組成物が付着している繊維構造体およびその製造方法>の項に記載したものを適用できる。
【0075】
本発明におけるシラン化合物を含有する組成物が付着している繊維構造体は、撥水性、疎水性および/または防錆性付与材や、コンクリート補強材、ひび割れ補修材等として、好適に使用できる。撥水性、疎水性および/または防錆性付与材としては、例えば、セメントを含有する水硬性組成物の未硬化体に埋設される材料等に使用することができる。
【0076】
本発明におけるシラン化合物を含有する組成物が付着している繊維構造体を、セメントを含有する水硬性組成物の未硬化体に埋設すると、得られた硬化体は、良好な撥水、疎水および/または防錆効果を発現できる。
【実施例0077】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されるものではない。実施例および比較例における各物性は、下記手順により測定または評価した。
【0078】
<繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量>
シラン化合物含有組成物が付着していない繊維構造体を80℃で恒量になるまで乾燥した後、その質量(W)を測定した。次いで、該繊維構造体を、シラン化合物の水エマルションに5分間浸漬した後、該水エマルションから引き上げて搾液し、80℃で10分間乾燥し、その質量(W)を測定した。下記式(1)により、シラン化合物含有組成物が付着していない繊維構造体の質量(W)に対する、繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量を求めた。
に対する繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量[質量部]
={(W-W)/W}×100 (1)
【0079】
<繊維構造体からのシラン化合物の放出性>
上記と同様の手順で、Wに対する繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量を求めた。この量を、「洗浄(水洗)前のシラン化合物含有組成物の付着量」と称する。
次いで、シラン化合物含有組成物が付着している繊維構造体を、水に240分間浸漬した後、水から引き上げ、80℃で10分間乾燥し、その質量(W)を測定した。下記式(2)により、シラン化合物含有組成物が付着していない繊維構造体の質量(W)に対する、洗浄(水洗)後の繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量を求めた。
に対する、洗浄後の繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量[質量部]={(W-W)/W}×100 (2)
この量を、「洗浄後のシラン化合物含有組成物の付着量」と称する。
上述した水への浸漬により、繊維構造体に付着しているシラン化合物の少なくとも一部は、繊維構造体から水中に放出される。従って、式(1)に従って求めた「洗浄前のシラン化合物含有組成物の付着量」と式(2)に従って求めた「洗浄後のシラン化合物含有組成物の付着量」との差は、水での洗浄により繊維構造体から水中に放出されたシラン化合物の量に相当し、下記式(3)で表わされる。これを、繊維構造体からのシラン化合物の放出性の指標として用いた。なお、繊維構造体から水中に放出されたシラン化合物は、非ポリマーのシラン化合物である。
シラン化合物放出量[質量部]
=洗浄前のシラン化合物含有組成物の付着量[質量部]-洗浄後のシラン化合物含有組成物の付着量[質量部] (3)
【0080】
また、上記と同様の手順で、Wに対する繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量を求めた。この量を、「重合前のシラン化合物含有組成物の付着量」と称する。次いで、シラン化合物含有組成物が付着している繊維構造体を180℃で30分間、熱処理した。これにより、繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物における非ポリマーシラン化合物の少なくとも一部は加水分解および重合し、ポリマーのシラン化合物が生成される。続いて、前記繊維構造体を、水に240分間浸漬した後、水から引き上げ、80℃で10分間乾燥し、その質量(W)を測定した。下記式(4)により、シラン化合物含有組成物が付着していない繊維構造体の質量(W)に対する、重合および洗浄後の繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量を求めた。
に対する、重合および洗浄後の繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量[質量部]={(W-W)/W}×100 (4)
熱処理工程に付した繊維構造体が非ポリマーのシラン化合物をなお有する場合は、上述した水への浸漬により、該非ポリマーのシラン化合物が繊維構造体から水中に放出される。従って、「重合前のシラン化合物含有組成物の付着量」と式(4)に従って求めた「Wに対する、重合および洗浄後のシラン化合物含有組成物の付着量」との差は、重合後の水での洗浄により繊維構造体から水中に放出された非ポリマーのシラン化合物の量に相当し、この値が小さいほど、繊維構造体に付着しているシラン化合物の加水分解および重合が進行し、より多くのポリマーのシラン化合物が生成することを表す。
前記加水分解および重合と同様の反応が、水硬性組成物中に埋設された、シラン化合物含有組成物が付着している繊維構造体から放出された非ポリマーシランについても起こると見なされることから、前記差を求めることで、硬化体がポリマーのシラン化合物を含むか否かを確認した。
【0081】
<シラン化合物から脱離したアルキル基に由来する炭化水素の質量の測定>
W/C50質量%で、セメントと細骨材の質量比が1:3の複数のモルタルの各々に、異なる量のシラン化合物を添加し、均一になるまで混合して水硬性組成物を調製した。各水硬性組成物を木製型枠に打込み、木製型枠ごと打設面をラップして封緘し、28日経過した後、封緘を解いて脱型し、20℃60%RHの環境に30日以上存置することにより、硬化体を得た。得られた各硬化体からサンプルを切出し、熱分解ガスクロマトグラフィーで、サンプルに含まれるシラン化合物から脱離したアルキル基に由来する炭化水素の量を測定した。具体的には、切出したサンプルを最大寸法250μm以下になるよう粉砕し、その10mgをサンプル台にセットし、チャンバー内を窒素ガスで置換した。次いで、10℃/分で60℃から設定温度260℃に昇温し、260℃で8分間保持した後、60℃に冷却した。サンプルから発生した炭化水素ガスについてマススペクトルを得、サンプルに含まれるセメント100g当たりの、サンプルに含まれるシラン化合物から脱離したアルキル基に由来する炭化水素の質量(g)について検量線を作製した。
実施例および比較例で製造した硬化体の各々について、硬化体から切出したサンプルを粉砕したことに代えて硬化体全体を粉砕したこと以外は上記と同じ手順で、熱分解ガスクロマトグラフィーを用いてマススペクトルを得た。また、実施例および比較例で製造した硬化体の別の各々について、繊維構造体から10mm以内の領域のサンプルを切出して粉砕したこと以外は上記と同じ手順で、熱分解ガスクロマトグラフィーを用いてマススペクトルを得た。
得られたマススペクトルと作製した検量線を用いて、硬化体全体におけるセメント100g当たりの、該硬化体に含まれるシラン化合物から脱離したアルキル基に由来する炭化水素の質量(g)、および硬化体から切出した繊維構造体から10mm以内の領域の硬化体切出し片に含まれるセメント100g当たりの、該硬化体切出し片に含まれるシラン化合物から脱離したアルキル基に由来する炭化水素の質量(g)を求めた。
なお、各測定はN数2で行い、その平均値を各々、シラン化合物から脱離したアルキル基に由来する炭化水素の量とした。
このアルキル基は、シラン化合物が有するアルキル基、即ちシラン化合物由来のアルキル基である。サンプルの熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析により検出された、セメント100g当たりのアルキル基由来炭化水素の量が多いことは、該サンプルに含まれるシラン化合物が多いことを意味する。また、このアルキル基由来炭化水素の分析では硬化体を分析したが、水硬性組成物の硬化によりアルキル基の量もシラン化合物の量も実質的には変わらないことから、求めた硬化体におけるアルキル基由来炭化水素の質量は、ある程度硬化した未硬化体におけるアルキル基由来炭化水素の質量と同等とみなすことができる。
【0082】
<繊維構造体と鉄筋との距離>
硬化体の鉄筋付近のモルタル片を割裂し、任意の3点で、鉄筋と、該鉄筋に最も近接する繊維構造体との距離を実測した。その平均値を求め、その値を、硬化体における繊維構造体と鉄筋との距離とした。水硬性組成物の硬化により、繊維構造体と鉄筋との距離は実質的には変わらないことから、求めた、硬化体における繊維構造体と鉄筋との距離を、未硬化体における繊維構造体と鉄筋との距離とみなすことができる。
【0083】
<硬化体の撥水または疎水性>
実施例および比較例で製造した硬化体の撥水または疎水性を下記手順で評価した。
硬化体の外面のうち、その近傍に繊維構造体が埋設されている一面(型枠内底面と接していた面)に対して散水した。散水した水による外観の色の変化を目視で観察することにより、撥水若しくは疎水性の発現の有無を確認した。
【0084】
[実施例1]
<繊維構造体の製造>
シラン化合物含有組成物としてのProtectosil(登録商標)WA CIT(Evonik Industries製、シラン化合物濃度50質量%、アルキルシランモノマーを含み、プロポキシ基またはプロピル基を有するアルキルシランオリゴマーのエマルション)に、ポリビニルアルコール紡績糸(クレモナ、平均繊維径は15μm)を5分間浸漬した後、引き上げて搾液し、80℃で10分間乾燥することにより、シラン化合物含有組成物が付着している繊維構造体を製造した。
シラン化合物含有組成物が付着していない繊維構造体100質量部に対する、繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量は70質量部であった。また、シラン化合物放出量は52質量部であり、Wに対する、重合および洗浄後の繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量は13質量部であった。従って、「重合前のシラン化合物含有組成物の付着量」と「Wに対する、重合および洗浄後の繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量」との差は、57質量部であった。
製造した繊維構造体は、未硬化体を調製する際、所望の長さにカットして用いた。
【0085】
<未硬化体および硬化体の製造>
W/C50質量%で、セメントと細骨材の質量比が1:3のモルタル中に、鉄筋と上記方法で製造した繊維構造体とを埋設した。具体的には、まず、内寸が縦100mm×横200mm×高さ100mmの木製型枠を準備し、該木製型枠を鉄筋が貫通するように、長さ250mmの鉄筋を1本固定した。このとき、鉄筋が木製型枠の長辺方向と平行で、木製型枠の短辺方向の長さを二分し、木製型枠の内底面から鉄筋下面が10mmの位置で水平に配置されるように固定した。次いで、鉄筋の直下に鉄筋と接するように上記繊維構造体(長さ100mm)を配置してその両端部を結束バンドで鉄筋に固定した。このとき、鉄筋の中点と繊維構造体の中点がほぼ一致するように、繊維構造体の両端部を鉄筋に固定した。更に、この繊維構造体の真下に該繊維構造体と直交し、木製型枠の長辺方向の長さを二分するように上記繊維構造体(長さ120mm)を1本、木製型枠の内底面から10mmの位置に配置し、その両端部をタッカーで型枠に固定した。タッカーで固定した繊維構造体の両脇に20mm間隔で2本ずつ、上記繊維構造体を木製型枠の内底面から10mmの位置に配置し、同様にその両端部をタッカーで型枠に固定した。続いて、この木製型枠に、練混後、ブリーディング水の上昇が停止するまで静置し、全体が均一になるように練返しを行った後のモルタルを打込むことにより、未硬化体の表面(木製型枠の内底面と接触している未硬化体の表面)から内部に向かって、繊維構造体、鉄筋の順に繊維構造体および鉄筋が水硬性組成物に埋設されている未硬化体を製造した。製造した未硬化体において、繊維構造体から10mm以内の範囲におけるセメント100gに対するシラン化合物の量は、未硬化体全体におけるセメント100gに対するシラン化合物の量より多い。
次いで、木製型枠ごと打設面をラップして封緘し、28日経過した後、封緘を解いて脱型し、20℃60%RHの環境に30日以上存置することにより、硬化体を製造した。その後、鉄筋直下のモルタル片を割裂して採取し、最大寸法250μm以下に粉砕した。また、鉄筋より上方であって繊維構造体から0mm超~10mmの範囲のモルタル片を割裂して採取し、最大寸法250μm以下に粉砕した。得られた粉砕物を熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析に付し、繊維構造体から10mm以内の範囲におけるセメント100g当たりのアルキル基由来炭化水素の質量を求めたところ、セメントと該セメント100質量部に対して1.44質量部のProtectosil(登録商標)WA CITとを含んでなる水硬性組成物の硬化体を熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析に付した際に検出されるアルキル基由来炭化水素の、該硬化体に含まれるセメント100g当たりの量に相当することが確認された。
上記手順と同様の手順で硬化体をもう1つ製造し、硬化体全体のモルタル片を粉砕し、得られた粉砕物を熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析に付し、硬化体全体におけるセメント100g当たりのアルキル基由来炭化水素の質量を求めた。この質量が、上述した繊維構造体から10mm以内の範囲におけるセメント100g当たりのアルキル基由来炭化水素の質量より少なかったことから、未硬化体に埋設された繊維構造体から10mm以内の範囲におけるセメント100gに対するシラン化合物の量は、未硬化体全体におけるセメント100gに対するシラン化合物の量より多いことが確認された。
硬化体における繊維構造体と鉄筋との距離は0mmであった。
上記手順と同様の手順で硬化体をもう1つ製造し、硬化体の撥水または疎水性を評価した。繊維構造体を設置した箇所において、濡れによる色の変化が小さく、繊維構造体から拡散したシラン化合物により撥水または疎水効果が発現されている様子が認められた。このような硬化体では、水硬性組成物に埋設された鉄筋に対する防錆効果も発現される。
【0086】
[実施例2~5]
シラン化合物含有組成物が付着していない繊維構造体の質量に対する、繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量を13質量部、25質量部、45質量部または66質量部となるようにProtectosil(登録商標)WA CITの濃度を調整したこと以外は実施例1と同様にして、シラン化合物含有組成物が付着している繊維構造体を製造し、評価した。
各実施例において、シラン化合物放出量はそれぞれ、4質量部、12質量部、27質量部または47質量部であり、Wに対する、重合および洗浄後の繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量はそれぞれ、5質量部、7質量部、11質量部または13質量部であった。従って、各実施例における、「重合前のシラン化合物含有組成物の付着量」と「Wに対する、重合および洗浄後の繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量」との差はそれぞれ、8質量部、18質量部、34質量部または53質量部であった。
【0087】
製造した各実施例のシラン化合物含有組成物が付着している繊維構造体を用いたこと以外は実施例1と同様の手順で、各実施例の硬化体を製造し、評価した。
実施例2~5の未硬化体の全てについて、繊維構造体から10mm以内の範囲におけるセメント100gに対するシラン化合物の量は、未硬化体全体におけるセメント100gに対するシラン化合物の量より多いことが確認された。また、実施例2~5の硬化体の全てについて、硬化体から切出した繊維構造体から10mm以内の領域の硬化体切出し片を熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析に付した際に検出される、該硬化体切出し片に含まれるシラン化合物から脱離したアルキル基に由来する炭化水素の、該硬化体切出し片に含まれるセメント100g当たりの量は、セメントと該セメント100質量部に対して0.5質量部のシラン化合物とを含んでなる水硬性組成物の硬化体を熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析に付した際に検出される、該硬化体に含まれるシラン化合物から脱離したアルキル基に由来する炭化水素の、該硬化体に含まれるセメント100g当たりの量より多いことが確認された。
実施例2~5の全てについて、硬化体における繊維構造体と鉄筋との距離は0mmであった。
また、繊維構造体を設置した箇所において、Wに対するシラン化合物含有組成物の量が25質量部以上(即ち、実施例3~5)では、濡れによる色の変化が小さく、繊維構造体から拡散したシラン化合物により撥水または疎水効果が発現されている様子が認められた。このような硬化体では、水硬性組成物に埋設された鉄筋に対する防錆効果も発現される。Wに対するシラン化合物含有組成物の量が13質量部(即ち、実施例2)では、繊維構造体から拡散したシラン化合物による撥水または疎水効果の発現は確認されたが、その程度は実施例1および3~5より低かった。実施例2では長繊維の繊維構造体を6本使用したが、例えば繊維構造体の本数を増やして繊維構造体同士の間隔を狭くすることにより、発現される撥水または疎水効果は向上すると考えられる。
【0088】
[実施例6]
ポリビニルアルコール紡績糸(クレモナ)に代えてポリビニルアルコールフィラメント(撚糸、平均繊維径は15μm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、シラン化合物含有組成物が付着している繊維構造体を製造した。
シラン化合物含有組成物が付着していない繊維構造体の質量に対する、繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量は73質量部であった。また、シラン化合物放出量は51質量部であり、Wに対する、重合および洗浄後の繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量は15質量部であった。従って、「重合前のシラン化合物含有組成物の付着量」と「Wに対する、重合および洗浄後の繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量」との差は、58質量部であった。
製造した、シラン化合物含有組成物が付着している繊維構造体を用いたこと以外は実施例1と同様にして、未硬化体および硬化体を製造し、分析した。
実施例1と同様の方法で製造された未硬化体であることから理解されるように、製造した未硬化体において、繊維構造体から10mm以内の範囲におけるセメント100gに対するシラン化合物の量は、未硬化体全体におけるセメント100gに対するシラン化合物の量より多い。また、硬化体における繊維構造体と鉄筋との距離は0mmである。
硬化体の撥水または疎水性の評価では、濡れによる色の変化が小さく、繊維構造体から拡散したシラン化合物により撥水または疎水効果が発現されている様子が認められた。このような硬化体では、水硬性組成物に埋設された鉄筋に対する防錆効果も発現される。
【0089】
[実施例7]
80℃で10分間乾燥したことに代えて30℃で24時間乾燥したこと以外は実施例1と同様にして、シラン化合物含有組成物が付着している繊維構造体を製造した。
シラン化合物含有組成物が付着していない繊維構造体の質量に対する、繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量は53質量部であった。また、シラン化合物放出量は34質量部であり、Wに対する、重合および洗浄後の繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量は10質量部であった。従って、「重合前のシラン化合物含有組成物の付着量」と「Wに対する、重合および洗浄後の繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量」との差は、43質量部であった。
【0090】
[実施例8]
Protectosil(登録商標)WA CITに代えて、マスタープロテクト H400(ポゾリスソリューションズ株式会社製、シラン化合物濃度40質量部、アルキルシランモノマーを含み、プロポキシ基またはプロピル基を有するアルキルシランオリゴマーのエマルション)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、シラン化合物含有組成物が付着している繊維構造体を製造した。
シラン化合物含有組成物が付着していない繊維構造体の質量に対する、繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量は49質量部であった。また、シラン化合物放出量は23質量部であり、Wに対する、重合および洗浄後の繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量は20質量部であった。従って、「重合前のシラン化合物含有組成物の付着量」と「Wに対する、重合および洗浄後の繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量」との差は、29質量部であった。
【0091】
[実施例9]
ポリビニルアルコール紡績糸(クレモナ)に代えてポリエステル編組コード(疎水性、編組コードを構成している繊維の平均繊維径は34μm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、シラン化合物含有組成物が付着している繊維構造体を製造した。
シラン化合物含有組成物が付着していない繊維構造体の質量に対する、繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量は24質量部であった。また、シラン化合物放出量は11質量部であった。また、Wに対する、重合および洗浄後の繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量は8質量部であった。従って、「重合前のシラン化合物含有組成物の付着量」と「Wに対する、重合および洗浄後の繊維構造体に付着しているシラン化合物含有組成物の量」との差は、16質量部であった。
【0092】
[比較例1]
セメント100質量部に対して2質量部となる量のProtectosil(登録商標)WA-CITと、水とを混合し、練混ぜ水を調製した。調製した練混ぜ水を用いて、W/C50質量%で、セメントと細骨材の質量比が1:3のモルタルを調製した。
次いで、内寸が縦100mm×横200mm×高さ100mmの木製型枠を準備し、該木製型枠を鉄筋が貫通するように、長さ250mmの鉄筋を1本固定した。このとき、鉄筋が木製型枠の長辺方向と平行で、木製型枠の短辺方向の長さを二分し、木製型枠の内底面から鉄筋下面が10mmの位置で水平に配置されるように固定した。
続いて、この木製型枠に、練混後、ブリーディング水の上昇が停止するまで静置し、全体が均一になるように練返しを行った後の上記モルタルを打込んだ。
その後、木製型枠ごと打設面をラップして封緘し、28日経過した後、封緘を解いて脱型し、20℃60%RHの環境に30日以上存置することにより、硬化体を製造した。
鉄筋直下のモルタル片を割裂して採取し、最大寸法250μm以下に粉砕した。また、鉄筋より上方であって繊維構造体から0mm超~10mmの範囲のモルタル片を割裂して採取し、最大寸法250μm以下に粉砕した。得られた粉砕物を熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析に付し、セメント100g当たりのアルキル基由来炭化水素の質量を求めたところ、セメントと該セメント100質量部に対して1.32質量部のProtectosil(登録商標)WA CITとを含んでなる水硬性組成物の硬化体を熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析に付した際に検出されるアルキル基由来炭化水素の、該硬化体に含まれるセメント100g当たりの量に相当することが確認された。
上記手順と同様の手順で硬化体をもう1つ製造し、硬化体の撥水または疎水性を評価した。濡れによる色の変化は見られず、モルタルに混練されたシラン化合物による撥水または疎水効果は発現されていなかった。
【0093】
[比較例2]
80℃で10分間乾燥したポリビニルアルコール紡績糸(クレモナ、平均繊維径は15μm)を、更に180℃で30分間熱処理したこと以外は実施例1と同様にして、熱処理後の繊維構造体を製造した。
シラン化合物含有組成物が付着していない繊維構造体の質量に対する、熱処理後の繊維構造体に含まれるシラン化合物含有組成物の量は24質量部であった。また、シラン化合物放出量は0.3質量部であった。実施例1と比べてシラン化合物放出量が顕著に小さかったことは、上記熱処理により、繊維構造体に付着していたシラン化合物の加水分解および重合が進行し、ポリマーのシラン化合物が生成したことを表している。即ち、上記熱処理後の繊維構造体において、シラン化合物を含有する組成物は繊維構造体に固着またはセットされており、付着していない。なお、上記熱処理の条件はシラン化合物の加水分解および重合の進行に十分な条件であることから、上記のシラン化合物放出量は、シラン化合物が繊維構造体から水中に放出された量ではなく、ポリマーのシラン化合物の一部が物理的作用により繊維構造体から水中に脱落した量であると考えられる。
このような繊維構造体を用いて実施例1と同様に未硬化体および硬化体を製造しても、繊維構造体から非ポリマーのシラン化合物は放出されないことから、撥水、疎水および/または防錆効果を発現する硬化体をもたらす、水硬性組成物と繊維構造体とを含む未硬化体を得ることはできない。
【符号の説明】
【0094】
1 未硬化体
2 水硬性組成物
3 シラン化合物含有組成物が付着している繊維構造体
4 鉄筋
図1