(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002013
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】亜鉛合金粉末およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20241226BHJP
H01M 4/42 20060101ALI20241226BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20241226BHJP
B22F 9/08 20060101ALI20241226BHJP
C22C 18/00 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
B22F1/00 R
H01M4/42
B22F1/052
B22F9/08 A
C22C18/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101898
(22)【出願日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】飯川 明伸
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5H050
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA01
4K017BB01
4K017BB03
4K017BB11
4K017BB18
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4K017DA01
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4K017FA14
4K018BA10
4K018BB04
4K018BD10
4K018KA38
5H050AA02
5H050AA08
5H050BA04
5H050BA11
5H050CA05
5H050CB13
5H050FA17
5H050GA06
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA07
5H050HA08
(57)【要約】
【課題】十分な充填性および流動性を有し、電池の負極材として使用した場合に優れた放電性を有する、亜鉛合金粉末およびその製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウムとビスマスとインジウムを含み、残部が不可避不純物と亜鉛からなる亜鉛合金の溶湯を使用して、10体積%以下の酸素を含む不活性ガスからなるアトマイズ雰囲気中において、ディスクアトマイズ法またはガスアトマイズ法により粉化することにより、アルミニウムとビスマスとインジウムを含み、残部が不可避不純物と亜鉛からなり、目開き75μmの篩を通過する亜鉛合金粉末の割合が70質量%以上であり、JIS Z2504に準じて求めた見掛け密度が3.0g/cm
3以上であり、JIS Z2502に準じて求めた流動度が40秒/50g以下である亜鉛合金粉末を製造する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目開き75μmの篩を通過する割合が70質量%以上であり、JIS Z2504に準じて求めた見掛け密度が3.0g/cm3以上であり、JIS Z2502に準じて求めた流動度が40秒/50g以下であることを特徴とする、亜鉛合金粉末。
【請求項2】
前記亜鉛合金粉末が、アルミニウムとビスマスとインジウムを含み、残部が不可避不純物と亜鉛からなる亜鉛合金粉末であることを特徴とする、請求項1に記載の亜鉛合金粉末。
【請求項3】
前記亜鉛合金粉末中のアルミニウムの含有量が1~300ppm、ビスマスの含有量が60~600ppm、インジウムの含有量が100~1000ppmであることを特徴とする、請求項2に記載の亜鉛合金粉末。
【請求項4】
前記亜鉛合金粉末が、1~300ppmのアルミニウムと、60~600ppmのビスマスと、100~1000ppmのインジウムと、100ppm以下のカルシウムまたはマグネシウムとを含み、残部が不可避不純物と亜鉛からなる亜鉛合金粉末であることを特徴とする、請求項1に記載の亜鉛合金粉末。
【請求項5】
亜鉛合金の溶湯を使用して、10体積%以下の酸素を含む不活性ガス雰囲気中において、ディスクアトマイズ法またはガスアトマイズ法により粉化することを特徴とする、亜鉛合金粉末の製造方法。
【請求項6】
前記亜鉛合金が、アルミニウムとビスマスとインジウムを含み、残部が不可避不純物と亜鉛からなる亜鉛合金であることを特徴とする、請求項5に記載の亜鉛合金粉末の製造方法。
【請求項7】
前記亜鉛合金中のアルミニウムの含有量が1~300ppm、ビスマスの含有量が60~600ppm、インジウムの含有量が100~1000ppmであることを特徴とする、請求項6に記載の亜鉛合金粉末の製造方法。
【請求項8】
前記亜鉛合金が、1~300ppmのアルミニウムと、60~600ppmのビスマスと、100~1000ppmのインジウムと、100ppm以下のカルシウムまたはマグネシウムとを含み、残部が不可避不純物と亜鉛からなる亜鉛合金であることを特徴とする、請求項5に記載の亜鉛合金粉末の製造方法。
【請求項9】
前記不活性ガス雰囲気が窒素ガス雰囲気であることを特徴とする、請求項5乃至8のいずれかに記載の亜鉛合金粉末の製造方法。
【請求項10】
前記ガスアトマイズ法が、コンファインド型ガスアトマイズノズルを使用するガスアトマイズ法であることを特徴とする、請求項5乃至8のいずれかに記載の亜鉛合金粉末の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至4のいずれかに記載の亜鉛合金粉末を負極として用いたことを特徴とする電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛合金粉末およびその製造方法に関し、特に、アルカリ電池などの電池の負極材として使用する亜鉛合金粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルカリ乾電池などの電池の負極材として、比較的安価な亜鉛粉末が使用されており、 このような亜鉛粉末として、水素過電圧が高いビスマス、アルミニウム、インジウム、ガリウム、タリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、カドミウム、錫、鉛などの元素と合金化した亜鉛合金粉末が使用されている。
【0003】
また、精製した溶融亜鉛を添加金属で合金化した溶湯を使用して、圧縮空気をガス源としてアトマイズすることにより、低廉で流動性が良く(JIS Z2502の金属粉の流動度測定で測定した場合の流動度として40~75秒/50g)、ゲル状亜鉛負極剤充填の際に注入ノズルの詰まりを防止することができるアルカリ電池用亜鉛合金粉末を製造する方法(例えば、特許文献1参照)や、ガスアトマイズ法により製造したアルカリ電池用亜鉛合金粉に表面酸化処理を行うことにより、嵩密度が3.0以上、酸素濃度が0.04質量%以上0.10質量%未満であり、200メッシュの篩いを用いた粒度分布測定による粒度75μm以下の粒子が5質量%以下である、アルカリ電池用亜鉛合金粉末を製造する方法(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-235636号公報(段落番号0010-0012)
【特許文献2】特開2015-106449号公報(段落番号0007-0022)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された亜鉛合金粉末では、流動性が改善されるものの、充填性が十分ではない。また、特許文献2に記載された亜鉛合金粉では、表面酸化処理を行っているため、放電生成物と同等の生成物が生成され、この生成物の分だけ電池材料としての容量の低下を避けることができない。
【0006】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、十分な充填性および流動性を有し、電池の負極材として使用した場合に優れた放電性を有する、亜鉛合金粉末およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、亜鉛合金粉末の目開き75μmの篩を通過する割合を70質量%以上にし、JIS Z2504に準じて求めた見掛け密度を3.0g/cm3以上にし、JIS Z2502に準じて求めた流動度を40秒/50g以下にすることにより、十分な充填性および流動性を有し、電池の負極材として使用した場合に優れた放電性を有する、亜鉛合金粉末を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明による亜鉛合金粉末は、目開き75μmの篩を通過する割合が70質量%以上であり、JIS Z2504に準じて求めた見掛け密度が3.0g/cm3以上であり、JIS Z2502に準じて求めた流動度が40秒/50g以下であることを特徴とする。
【0009】
この亜鉛合金粉末は、アルミニウムとビスマスとインジウムを含み、残部が不可避不純物と亜鉛からなる亜鉛合金粉末であるのが好ましく、亜鉛合金粉末中のアルミニウムの含有量が1~300ppm、ビスマスの含有量が60~600ppm、インジウムの含有量が100~1000ppmであるのが好ましい。また、上記の亜鉛合金粉末は、1~300ppmのアルミニウムと、60~600ppmのビスマスと、100~1000ppmのインジウムと、100ppm以下のカルシウムまたはマグネシウムとを含み、残部が不可避不純物と亜鉛からなる亜鉛合金粉末でもよい。
【0010】
また、本発明による亜鉛合金粉末の製造方法は、亜鉛合金の溶湯を使用して、10体積%以下の酸素を含む不活性ガス雰囲気中において、ディスクアトマイズ法またはガスアトマイズ法により粉化することを特徴とする。
【0011】
この亜鉛合金粉末の製造方法において、亜鉛合金が、アルミニウムとビスマスとインジウムを含み、残部が不可避不純物と亜鉛からなる亜鉛合金であるのが好ましく、亜鉛合金中のアルミニウムの含有量が1~300ppm、ビスマスの含有量が60~600ppm、インジウムの含有量が100~1000ppmであるのが好ましい。また、亜鉛合金が、1~300ppmのアルミニウムと、60~600ppmのビスマスと、100~1000ppmのインジウムと、100ppm以下のカルシウムまたはマグネシウムとを含み、残部が不可避不純物と亜鉛からなる亜鉛合金でもよい。不活性ガス雰囲気は、窒素ガス雰囲気であるのが好ましい。ガスアトマイズ法の場合、コンファインド型ガスアトマイズノズルを使用するガスアトマイズ法であるのが好ましい。
【0012】
また、本発明による電池は、上記の亜鉛合金粉末を負極として用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、十分な充填性および流動性を有し、電池の負極材として使用した場合に優れた放電性を有する、亜鉛合金粉末およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1の亜鉛合金粉末の顕微鏡写真である。
【
図2】実施例3の亜鉛合金粉末の顕微鏡写真である。
【
図3】比較例2の亜鉛合金粉末の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による亜鉛合金粉末の実施の形態は、目開き75μmの篩を通過する亜鉛合金粉末の割合が70質量%以上であり、JIS Z2504に準じて求めた見掛け密度が3.0g/cm3以上であり、JIS Z2502に準じて求めた流動度が40秒/50g以下である。
【0016】
この亜鉛合金粉末は、アルミニウムとビスマスとインジウムを含み、残部が不可避不純物と亜鉛からなる亜鉛合金粉末であるのが好ましく、鉛合金粉末中のアルミニウムの含有量が1~300ppm、ビスマスの含有量が60~600ppm、インジウムの含有量が100~1000ppmであるのが好ましい。また、上記の亜鉛合金粉末は、1~300ppmのアルミニウムと、60~600ppmのビスマスと、100~1000ppmのインジウムと、100ppm以下のカルシウムまたはマグネシウムとを含み、残部が不可避不純物と亜鉛からなる亜鉛合金粉末でもよい。
【0017】
上記の亜鉛合金粉末の実施の形態は、本発明による亜鉛合金粉末の製造方法の実施の形態により製造することができる。
【0018】
本発明による亜鉛合金粉末の製造方法の実施の形態では、10体積%以下の酸素を含む不活性ガスからなるアトマイズ雰囲気中において、亜鉛合金の溶湯をディスクアトマイズ法またはガスアトマイズ法により粉化する。
【0019】
この亜鉛合金粉末の製造方法の実施の形態において、亜鉛合金が、アルミニウムとビスマスとインジウムを含み、残部が不可避不純物と亜鉛からなる亜鉛合金であるのが好ましく、亜鉛合金中のアルミニウムの含有量が1~300ppm、ビスマスの含有量が60~600ppm、インジウムの含有量が100~1000ppmであるのが好ましい。また、亜鉛合金が、1~300ppmのアルミニウムと、60~600ppmのビスマスと、100~1000ppmのインジウムと、100ppm以下のカルシウムまたはマグネシウムとを含み、残部が不可避不純物と亜鉛からなる亜鉛合金でもよい。亜鉛合金中の不可避不運物として、30ppm以下の鉛、鉄、カドミウム、銅などの原料由来の元素の1種以上を含んでもよい。
【0020】
上記の亜鉛合金粉末の製造方法の実施の形態において、アトマイズ雰囲気は、製造コストを考慮すると、10体積%以下の酸素を含む窒素ガスからなる雰囲気であるのが好ましい。アトマイズ雰囲気中の酸素濃度を10%体積%以下にすることにより、目開き75μmの篩を通過する亜鉛合金粉末の割合を70質量%以上にすることができ、球状に近い形状の亜鉛合金粉末を製造することができる。一方、アトマイズ雰囲気中の酸素濃度が10体積%より高くなると、亜鉛合金が溶けた液状から分裂し、凝固する過程において、酸化被膜が生成され、この酸化被膜の影響により、亜鉛合金粉末の形状が涙滴状やサツマイモ状になり易く、このように複雑な形状になることにより、亜鉛合金粉末の流動性が低下し、見掛け密度が低くなり易く、電池を作製する際のゲルの充填性が低くなり易い。
【0021】
また、上記の亜鉛合金粉末の製造方法の実施の形態において、ガスアトマイズ法により粉化する場合には、アトマイズ雰囲気中に放出されるアトマイズガス中の酸素濃度も10体積%以下にすることにより、アトマイズ雰囲気中の酸素濃度を10体積%以下に維持することができる。また、ディスクアトマイズ法により粉化する場合には、アトマイズ雰囲気中に放出されるアトマイズガスがなければ、アトマイズ雰囲気中の酸素濃度を10体積%以下にすればよい。なお、ガスアトマイズ法の場合、使用するガス量を抑制するために、コンファインド型ガスアトマイズノズルを使用するガスアトマイズ法であるのが好ましい。
【0022】
また、上記の亜鉛合金粉末の実施の形態において、目開き75μmの篩を通過する亜鉛合金粉末の割合が70質量%以上である。すなわち、亜鉛合金粉末の粒度を篩い分け粒度測定法により求めると(具体的には、亜鉛合金粉末を篩い分けし、篩の上に残った亜鉛合金粉末の質量を測定し、質量百分率により篩を通過した亜鉛合金粉末の割合を算出することにより求めると)、75μm以下の粒子の割合は70質量%以上である。
【0023】
また、上記の亜鉛合金粉末の実施の形態において、JIS Z2502に準じて測定した流動度は40秒/50g以下である。すなわち、亜鉛合金粉末50gを精秤し、ロートに入れ、その全てが通過するまでの時間を計測して流動度とすると、流動度は40秒/50g以下である。亜鉛合金粉末を従来のエアーアトマイズ法などにより製造すると、この流動度が40秒/50gより長くなり、亜鉛合金粉末を使用してゲル状亜鉛合金負極を作製する場合に、ゲル状亜鉛合金負極剤充填の際に注入ノズルの閉塞などのトラブルの要因になり易い。また、亜鉛合金粉末をペーストにして塗布することにより亜鉛合金負極を作製する場合には、均一な塗布面にするために流動性が高く(上記の時間が短く)なるのが好ましい。
【0024】
また、上記の亜鉛合金粉末の実施の形態において、JIS Z2504に準じて求めた見掛け密度は、3.0g/cm3以上であり、3.5g/cm3以上であるのが好ましい。亜鉛合金粉末を使用して電池を作製する際に、電池の容積が限られており、見掛け密度が高い方が、電池の設計の自由度が大きくなり、電池の容量を高めることができる。
【0025】
また、上記の亜鉛合金粉末の実施の形態を1次電池の作製に使用する場合には、酸化被膜が少ないほど、電池材料として活用される亜鉛の量が多くなるので好ましい。上記の亜鉛合金粉末中の実施の形態の酸素量は、酸素・窒素・水素分析装置(例えば、LECOジャパン合同会社制のONH836)などを用いて非拡散赤外線吸収法により測定することができる。
【0026】
また、上記の亜鉛合金粉末の実施の形態では、亜鉛合金粉末5gに酸化亜鉛(ZnO)を3%溶解させた40%KOH電解液10gを接触させて60℃で3日間静置したときに発生するガス発生量が少ないのが好ましい。この亜鉛合金粉末の単位時間におけるガス発生量(ガス発生速度)は、主に電解液と接触した際の亜鉛合金粉末の自己腐食レートである。このガス発生速度が高いと、亜鉛合金粉末を電池の負極に使用した場合に、通電しなくても、亜鉛合金粉が反応して酸化亜鉛が生成されるので、電池の容量の減少や電池の内圧の上昇による膨れや液漏れの原因になる。
【0027】
また、上記の亜鉛合金粉末の実施の形態は、電池の負極に使用する場合に、電池の特性や安全性を向上させるために、アルミニウム、ビスマス、インジウム、カルシウム、マグネシウムなどの種々の元素を含むのが好ましい。この亜鉛合金粉末の組成は、亜鉛合金粉末を酸で溶解し、その溶液をICP発光分析分光分析法により求めることができる。
【0028】
また、上記の亜鉛合金粉末の実施の形態と、増粘剤としてポリアクリル酸と、電解液として3質量%の酸化亜鉛を溶解した40%水酸化カリウム(KOH)溶液とを混錬したゲルを負極とし、二酸化マンガンを正極として、LR6電池(単3アルカリ電池)を作製し、(この電池を20℃のインキュベーター内に入れて、1.5Wで2秒間放電した後に0.65Wで28秒間放電するサイクルを1時間当たり10サイクルのペースで行う)無負荷放電(ハイレートパルス放電)において、閉路電圧が1.0Vに達するまでの時間が長い方が好ましい。
【0029】
なお、上記の亜鉛合金粉末の実施の形態は、アルカリマンガン電池などの1次電池のほか、(近年研究が進められている)亜鉛を負極に用いた2次電池に使用することができる。特に、200メッシュを通過する程度の微粉の亜鉛合金粉末を主体として電池の負極に使用することができるので、アルカリ乾電池のようなインサイドアウトのゲル状の塊の電極構造だけでなく、2次電池で採用されるスパイラル構造の薄膜の電極構造に用いることができる。
【実施例0030】
以下、本発明による亜鉛合金粉末およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0031】
[実施例1]
まず、50ppmのアルミニウムと400ppmのビスマスと500ppmのインジウムを含み、残部が不可避不純物と亜鉛からなる亜鉛合金を回転ディスク装置の溶解ルツボに入れ、ルツボ内温度570℃で溶解して亜鉛合金溶湯とした。
【0032】
次に、ルツボ内に設置したストッパーを上げて、ルツボ底部に設けられた噴射孔から、上記の亜鉛合金溶湯を、回転数40,000回転/分で回転するディスクに滴下して飛散させ、(酸素濃度0.5%の)窒素ガス雰囲気中において急冷して(ディスクアトマイズ法により)粉化することにより、亜鉛合金粉末を得た。
【0033】
このようにして得られた亜鉛合金粉末を標準篩により篩い分けしたところ、200メッシュ(目開き75μm)を通過した粉末は全体の97%であった。また、この亜鉛合金粉末の見掛け密度をJIS Z2504により測定したところ、4.02g/cm
3であった。また、この亜鉛合金粉末の流動度測定をJIS Z2502に準じて行った。すなわち、この亜鉛合金粉末50gを精秤し、(見掛け密度の測定で使用した)ロートに入れ、その全てが通過するまでの時間を計測して流動度とした。その結果、この亜鉛合金粉末の流動度は30秒/50gであった。また、この亜鉛合金粉末を金属顕微鏡で観察したところ、
図1に示すように、球状の粉末であった。
【0034】
また、得られた亜鉛合金粉末を酸に溶解して希釈した溶液について、IPC発光分析装置により組成分析を行ったところ、亜鉛合金粉末中のAlは46ppm、Biは398ppm、Inは532ppmであった。また、得られた亜鉛合金粉末について、酸素・窒素・水素分析装置(LECOジャパン合同会社製のONH836)を用いて赤外吸収法により測定を行って、得られた酸素濃度の値から、全て酸化亜鉛(ZnO)になったと仮定してZnO濃度を算出したところ、0.08質量%であった。
【0035】
また、得られた亜鉛合金粉末5gと、酸化亜鉛(ZnO)を3%溶解させた40%水酸化カリウム(KOH)溶液10gを試験管に入れ、この試験管内を満たすように流動パラフィンを入れて(ピペットが接続された)栓で密封した。この試験管を60℃の水槽の中に3日間静置し、試験管内で発生したガスによりピペット内に押し上げられた流動パラフィンの量をガス発生量として求めたところ、後述する比較例1におけるガス発生量を100として相対評価したときのガス発生量は114であった。
【0036】
また、得られた亜鉛合金粉末にポリアクリル酸を1質量%添加し、アルカリ溶液(酸化亜鉛を3%溶解した40%の水酸化カリウム(KOH)溶液)を加えて、ゲル状亜鉛合金負極を作製した。このゲル状亜鉛合金負極を使用し、二酸化マンガンを正極として、LR6電池(単3アルカリ電池)を作製した。この電池を20℃のインキュベーター内に入れて、無負荷放電(ハイレートパルス放電)を行った。この無負荷放電は、1.5Wで2秒間放電した後に0.65Wで28秒間放電するサイクルを1時間当たり10サイクルのペースで行った。この無負荷放電において、閉路電圧が1.0Vに達するまでの時間を測定したところ、後述する比較例1における時間を100として相対評価したときの時間は124であった。
【0037】
[実施例2]
溶解する亜鉛合金として、5ppmのアルミニウムと300ppmのビスマスと400ppmのインジウムを含み、残部が不可避不純物と亜鉛からなる亜鉛合金を使用し、アトマイズ雰囲気中の酸素濃度を3.5%とした以外は、実施例1と同様の方法により、亜鉛合金粉末を作製した。
【0038】
また、実施例1と同様の方法により、この亜鉛合金粉末が200メッシュ(目開き75μm)を通過した粉末の割合、この亜鉛合金粉末の見掛け密度、流動度、組成、ZnO濃度、ガス発生量を求め、この亜鉛合金粉末を使用した電池の無負荷放電において閉路電圧が1.0Vに達するまでの時間を測定した。その結果、200メッシュ(目開き75μm)を通過した粉末の割合は98%、見掛け密度は3.89g/cm3、流動度は35秒/50gであり、亜鉛合金粉末中のAlは1ppm、Biは300ppm、Inは408ppmであり、この亜鉛合金粉末についてのZnO濃度は0.06質量%であった。また、後述する比較例1におけるガス発生量を100として相対評価したときのガス発生量は117であった。さらに、この亜鉛合金粉末を使用した電池の無負荷放電において閉路電圧が1.0Vに達するまでの時間は、後述する比較例1における時間を100として相対評価すると、121であった。
【0039】
[実施例3]
溶解する亜鉛合金として、30ppmのアルミニウムと150ppmのビスマスと200ppmのインジウムを含み、残部が不可避不純物と亜鉛からなる亜鉛合金を使用し、アトマイズ雰囲気中の酸素濃度を8.8%とした以外は、実施例1と同様の方法により、亜鉛合金粉末を作製した。この亜鉛合金粉末は、
図2の顕微鏡写真に示すように、球状の粒子に加えて、細長い形状の粒子を含む粉末であった。このような形状になるのは、アトマイズ雰囲気中の酸素によって形成される酸化被膜の影響によるものと考えられる。
【0040】
また、実施例1と同様の方法により、この亜鉛合金粉末が200メッシュ(目開き75μm)を通過した粉末の割合、この亜鉛合金粉末の見掛け密度、流動度、組成、ZnO濃度、ガス発生量を求め、この亜鉛合金粉末を使用した電池の無負荷放電において閉路電圧が1.0Vに達するまでの時間を測定した。その結果、200メッシュ(目開き75μm)を通過した粉末の割合は73%、見掛け密度は3.23g/cm3、流動度は38秒/50gであり、亜鉛合金粉末中のAlは32ppm、Biは147ppm、Inは196ppmであり、この亜鉛合金粉末についてのZnO濃度は0.11質量%であった。また、後述する比較例1におけるガス発生量を100として相対評価したときのガス発生量は112であった。さらに、この亜鉛合金粉末を使用した電池の無負荷放電において閉路電圧が1.0Vに達するまでの時間は、後述する比較例1における時間を100として相対評価すると、119であった。
【0041】
[実施例4]
実施例1と同様の組成の亜鉛合金を用意し、この亜鉛合金の溶湯を使用して、窒素ガスと酸素ガスを酸素濃度5%になるように混合したアトマイズ雰囲気中において、コンファインド型ガスアトマイズノズルを使用して、ガスアトマイズ法により粉化することにより、亜鉛合金粉末を得た。この亜鉛合金粉末は、実施例1の亜鉛合金粉末と同様に、球状の粉末であった。
【0042】
また、実施例1と同様の方法により、この亜鉛合金粉末が200メッシュ(目開き75μm)を通過した粉末の割合、この亜鉛合金粉末の見掛け密度、流動度、組成、ZnO濃度、ガス発生量を求め、この亜鉛合金粉末を使用した電池の無負荷放電において閉路電圧が1.0Vに達するまでの時間を測定した。その結果、200メッシュ(目開き75μm)を通過した粉末の割合は96%、見掛け密度は3.65g/cm3、流動度は34秒/50gであり、亜鉛合金粉末中のAlは49ppm、Biは387ppm、Inは527ppmであり、この亜鉛合金粉末についてのZnO濃度は0.08質量%であった。また、後述する比較例1におけるガス発生量を100として相対評価したときのガス発生量は109であった。さらに、この亜鉛合金粉末を使用した電池の無負荷放電において閉路電圧が1.0Vに達するまでの時間は、後述する比較例1における時間を100として相対評価すると、117であった。
【0043】
[比較例1]
実施例1と同様の組成の亜鉛合金を用意し、この亜鉛合金の溶湯を使用して、アトマイズ雰囲気として大気中において、圧縮エアーを使用して、ガスアトマイズ法により粉化することにより、亜鉛合金粉末を得た。
【0044】
また、実施例1と同様の方法により、この亜鉛合金粉末が200メッシュ(目開き75μm)を通過した粉末の割合、この亜鉛合金粉末の見掛け密度、流動度、組成、ZnO濃度、ガス発生量を求め、この亜鉛合金粉末を使用した電池の無負荷放電において閉路電圧が1.0Vに達するまでの時間を測定した。その結果、200メッシュ(目開き75μm)を通過した粉末の割合は41%、見掛け密度は2.64g/cm3であり、実施例と比べて1g/cm3程度低く、流動度は72秒/50gであり、実施例と比べて2倍以上の時間が必要になり、充填性や流動性が十分ではなかった。また、亜鉛合金粉末中のAlは52ppm、Biは396ppm、Inは522ppmであり、この亜鉛合金粉末についてのZnO濃度は0.22質量%であった。
【0045】
[比較例2]
比較例1の亜鉛合金粉末を200メッシュ(目開き75μm)の篩により分級し、篩を通過した亜鉛合金粉末を回収した。この亜鉛合金粉末の顕微鏡写真を
図3に示す。
【0046】
また、回収した亜鉛合金粉末について、実施例1と同様の方法により、この亜鉛合金粉末が200メッシュ(目開き75μm)を通過した粉末の割合、この亜鉛合金粉末の見掛け密度、流動度、ZnO濃度、ガス発生量を求め、この亜鉛合金粉末を使用した電池の無負荷放電において閉路電圧が1.0Vに達するまでの時間を測定した。その結果、200メッシュ(目開き75μm)を通過した粉末の割合は99%、見掛け密度は2.68g/cm3であり、実施例と比べて1g/cm3程度低く、流動度は70秒/50gであり、実施例と比べて2倍以上の時間が必要になり、充填性や流動性が十分ではなかった。また、この亜鉛合金粉末についてのZnO濃度は0.24質量%であった。また、比較例1におけるガス発生量を100として相対評価したときのガス発生量は178であった。さらに、この亜鉛合金粉末を使用した電池の無負荷放電において閉路電圧が1.0Vに達するまでの時間は、比較例1における時間を100として相対評価すると、105であった。
【0047】
[比較例3]
実施例3と同様の組成の亜鉛合金を用意し、この亜鉛合金の溶湯を使用し、アトマイズ雰囲気を大気とした以外は、実施例1と同様の方法により、亜鉛合金粉末を得た。
【0048】
また、実施例1と同様の方法により、この亜鉛合金粉末が200メッシュ(目開き75μm)を通過した粉末の割合、この亜鉛合金粉末の見掛け密度、流動度、組成、ZnO濃度、ガス発生量を求め、この亜鉛合金粉末を使用した電池の無負荷放電において閉路電圧が1.0Vに達するまでの時間を測定した。その結果、200メッシュ(目開き75μm)を通過した粉末の割合は96%、見掛け密度は1.82g/cm3であり、実施例と比べて著しく低く、流動度は78秒/50gであり、実施例と比べて2倍以上の時間が必要になり、充填性や流動性が十分ではなかった。また、亜鉛合金粉末中のAlは34ppm、Biは151ppm、Inは200ppmであり、この亜鉛合金粉末についてのZnO濃度は0.28質量%であった。また、比較例1におけるガス発生量を100として相対評価したときのガス発生量は223であり、実施例と比べて著しく多かった。さらに、この亜鉛合金粉末を使用した電池の無負荷放電において閉路電圧が1.0Vに達するまでの時間は、比較例1における時間を100として相対評価すると82であり、実施例と比べて著しく低かった。
【0049】
これらの実施例および比較例の亜鉛合金粉末の製造条件および特性を表1~表2に示す。
【0050】
【0051】