(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020626
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】潜熱蓄熱体及び潜熱蓄熱体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 5/14 20060101AFI20250205BHJP
【FI】
C09K5/14 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124118
(22)【出願日】2023-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】000190688
【氏名又は名称】新光電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】堀内 道夫
(57)【要約】
【課題】より大きな潜熱を蓄熱することができる潜熱蓄熱体及び潜熱蓄熱体の製造方法を提供する。
【解決手段】潜熱蓄熱体は、閉空間が形成された多結晶体からなるセラミック部と、前記閉空間内に設けられ、50質量%以上のケイ素を含有する金属部と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉空間が形成された多結晶体からなるセラミック部と、
前記閉空間内に設けられ、50質量%以上のケイ素を含有する金属部と、
を有する潜熱蓄熱体。
【請求項2】
閉空間が形成された多結晶体からなるセラミック部と、
前記閉空間内に設けられ、ケイ素を含有する金属部と、
を有し、
前記金属部の融点は、1100℃以上である潜熱蓄熱体。
【請求項3】
前記金属部は、50質量%以上の割合でケイ素を含有する請求項2に記載の潜熱蓄熱体。
【請求項4】
前記金属部は、99質量%以上の割合でケイ素を含有する請求項1又は2に記載の潜熱蓄熱体。
【請求項5】
前記セラミック部は、ムライト、酸化アルミニウム、コーディエライト、アノーサイト、シリマナイト、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化アルミニウムと窒化ホウ素との複合材料、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化ホウ素、二ケイ化モリブデン若しくは二ケイ化タングステン又はこれらの任意の組み合わせを含有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の潜熱蓄熱体。
【請求項6】
前記セラミック部は、通電されて発熱する材料を含有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の潜熱蓄熱体。
【請求項7】
前記金属部を加熱することができるヒータを有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の潜熱蓄熱体。
【請求項8】
前記ヒータは、前記セラミック部内に設けられている請求項7に記載の潜熱蓄熱体。
【請求項9】
前記ヒータは、タングステン若しくはモリブデン又はこれらの両方を含有する請求項7に記載の潜熱蓄熱体。
【請求項10】
50質量%以上のケイ素を含有する金属部と、前記金属部を収容した未焼成のセラミック部と、を有する複合体を準備する工程と、
前記金属部及び前記セラミック部を同時に焼成する工程と、
を有する潜熱蓄熱体の製造方法。
【請求項11】
ケイ素を含有する金属部と、前記金属部を収容した未焼成のセラミック部と、を有する複合体を準備する工程と、
前記金属部及び前記セラミック部を同時に焼成する工程と、
を有し、
前記金属部の融点は、1100℃以上である潜熱蓄熱体の製造方法。
【請求項12】
前記金属部は、50質量%以上の割合でケイ素を含有する請求項11に記載の潜熱蓄熱体の製造方法。
【請求項13】
前記金属部は、99質量%以上の割合でケイ素を含有する請求項10又は11に記載の潜熱蓄熱体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、潜熱蓄熱体及び潜熱蓄熱体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、相変化物質(phase change material:PCM)としてAl-Si合金等が用いられ、PCMが保護層で包囲された潜熱蓄熱体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-031507号公報
【特許文献2】特開2015-048393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、より大きな潜熱の蓄熱が望まれるようになってきている。
【0005】
本開示は、より大きな潜熱を蓄熱することができる潜熱蓄熱体及び潜熱蓄熱体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一形態によれば、閉空間が形成された多結晶体からなるセラミック部と、前記閉空間内に設けられ、50質量%以上のケイ素を含有する金属部と、を有する潜熱蓄熱体が提供される。
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、より大きな潜熱を蓄熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る潜熱蓄熱体を例示する図である。
【
図2】第1実施形態に係る潜熱蓄熱体の製造方法を例示する図である。
【
図3】第2実施形態に係る潜熱蓄熱体を例示する図である。
【
図4】第3実施形態に係る潜熱蓄熱体を例示する図である。
【
図5】第3実施形態に係る潜熱蓄熱体の製造方法を例示する図である。
【
図6】第2実施形態に係る潜熱蓄熱体の製造方法を示す図である。
【
図7】第4実施形態に係る潜熱蓄熱体を例示する斜視図である。
【
図8】実験における潜熱蓄熱体の製造方法を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について添付の図面を参照しながら具体的に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省くことがある。
【0010】
(第1実施形態)
第1実施形態について説明する。第1実施形態は潜熱蓄熱体に関する。
図1は、第1実施形態に係る潜熱蓄熱体を例示する図である。
図1(a)は斜視図であり、
図1(b)は断面図である。
【0011】
第1実施形態に係る潜熱蓄熱体1は、
図1(a)及び
図1(b)に示すように、多結晶体からなるセラミック部110と、金属部120とを有する。
【0012】
セラミック部110には、閉空間111が形成されている。セラミック部110及び閉空間111の形状は直方体状である。セラミック部110は、例えば一体的に構成されている。例えば、セラミック部110には、閉空間111に繋がる接合部が存在しない。セラミック部110は、例えば、ムライト(3Al2O3・2SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、コーディエライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)、アノーサイト(CaAl2Si2O8)、シリマナイト(Al2SiO5)、窒化ケイ素(Si3N4)、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化アルミニウムと窒化ホウ素との複合材料(複合セラミック)、炭化ケイ素(SiC)、炭化タングステン(WC)、炭化ホウ素(B4C)、二ケイ化モリブデン(MoSi2)若しくは二ケイ化タングステン(WSi2)又はこれらの任意の組み合わせを含有する。セラミック部110が、ムライト、酸化アルミニウム、コーディエライト、アノーサイト、シリマナイト、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化アルミニウムと窒化ホウ素との複合材料、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化ホウ素、二ケイ化モリブデン若しくは二ケイ化タングステン又はこれらの任意の組み合わせから構成されてもよい。
【0013】
金属部120は閉空間111内に設けられている。言い換えれば、金属部120はセラミック部110に封止されている。金属部120が、連続体であるセラミック部110により気密に覆われているということもできる。金属部120はケイ素(Si)を含有する。例えば、金属部120の主成分はケイ素である。金属部120は、例えば50質量%以上の割合でケイ素を含有する。金属部120は、純度が50質量%以上のケイ素から構成されていてもよい。好ましくは、金属部120は、99質量%以上のケイ素を含有し、99質量%以上のケイ素から構成される。金属部120が、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、ガリウム(Ga)、銅(Cu)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、イットリウム(Y)、インジウム(In)、亜鉛(Zn)若しくは錫(Sn)又はこれらの任意の組み合わせを合計で50質量%未満の割合で含んでいてもよい。
【0014】
例えば、金属部120が92質量%Si-8質量%Bから構成される場合、金属部120の相変化温度は1385℃である。金属部120が85質量%Si-15質量%Tiから構成される場合、金属部120の相変化温度は1330℃である。金属部120が88質量%Si-12質量%Yから構成される場合、金属部120の相変化温度は1200℃である。金属部120が99質量%Si-1質量%Feから構成される場合、金属部120の相変化温度は1200℃程度である。金属部120が80質量%Si-20質量%Al又は80質量%Si-20質量%Cuから構成される場合、金属部120の相変化温度は1300℃程度である。
【0015】
閉空間111の容積が金属部120の体積と等しくてもよく、金属部120の体積より大きくてもよい。
【0016】
ケイ素の融点は1414℃である。金属部120の主成分がケイ素である場合、1414℃程度で固体と液体との間の相変化が生じる。この程度の温度であれば、多結晶体からなるセラミック部110は化学的に安定である。従って、金属部120が固体であっても液体であっても、セラミック部110は金属部120を閉空間111内に金属部120を閉じ込めておくことができる。また、高温で使用されても、セラミック部110に酸化等の化学変化が生じにくい。金属部120の融点は、例えば1100℃以上である。金属部120の融点は、好ましくは1200℃以上であり、より好ましくは1300℃以上であり、更に好ましくは1350℃以上である。金属部120がケイ素の他にホウ素等を含有している場合、金属部120の融点が1414℃より低くてもよい。金属部120の融点は、例えば示差熱分析(differential thermal analysis :DTA)又は示差走査熱量測定(differential scanning calorimetry:DSC)により測定することができる。
【0017】
潜熱蓄熱体1では、金属部120が相変化物質(PCM)として機能し、金属部120が50質量%以上のケイ素を含有するため、金属部120の固液の相変化温度が高く、より大きな潜熱を蓄熱することができる。潜熱蓄熱体1に蓄熱した潜熱は、例えば、熱光起電力(thermophotovoltaic:TPV)による直接的な発電に用いることができる。
【0018】
また、潜熱蓄熱体1が高温で使用されても、セラミック部110に酸化等の変質が生じにくい。従って、安定性を向上することができる。このため、熱媒体として、空気等の酸化性を備えるものも用いることができ、熱媒体の選択範囲を広げることができる。
【0019】
更に、潜熱蓄熱体1の表面のクリーニングを容易に行うことができる。例えば、熱媒体が未燃成分を含む燃焼炉の排ガスである場合等には、煤等の潜熱蓄熱体1に付着しやすい物質が熱媒体に含まれることがある。このような物質の付着は熱伝導性の低下及び流動抵抗の上昇につながるおそれがある。これに対し、潜熱蓄熱体1では、大気中での高温処理等により、付着した物質を容易に除去することができる。付着した物質が非有機性である場合には、酸洗浄等により除去することも可能である。
【0020】
なお、室温付近での固体のケイ素の密度は2.3290g/cm3であり、融点付近での液体のケイ素の密度は2.57g/cm3である。従って、ケイ素の相変化に伴う体積変化は小さい。
【0021】
次に、第1実施形態に係る潜熱蓄熱体1の製造方法について説明する。
図2は、第1実施形態に係る潜熱蓄熱体1の製造方法を例示する図である。
図2(a)は斜視図であり、
図2(b)は断面図である。
【0022】
まず、
図2(a)及び
図2(b)に示すように、未焼成のセラミック部130と、金属部140とを有する複合体1Aを準備する。金属部140はセラミック部130に覆われている。後に、セラミック部130はセラミック部110となり、金属部140は金属部120となる。
【0023】
セラミック部130は、例えば、セラミック部110の材料を含む、グリーンシート積層体、スリップキャスティング体、ゲルキャスト体、又は造粒粉を予備成形した後の冷間等方加圧(cold isostatic pressing:CIP)成形体である。セラミック部130は、例えば、ムライト、酸化アルミニウム、コーディエライト、アノーサイト、シリマナイト、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化アルミニウムと窒化ホウ素との複合材料、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化ホウ素、二ケイ化モリブデン若しくは二ケイ化タングステン又はこれらの任意の組み合わせを含有する。セラミック部130が、更に焼結助剤等を含んでもよい。セラミック部130は、好ましくは99質量%以上の割合でムライト、酸化アルミニウム、コーディエライト、アノーサイト、シリマナイト、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化アルミニウムと窒化ホウ素との複合材料、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化ホウ素、二ケイ化モリブデン若しくは二ケイ化タングステン又はこれらの任意の組み合わせを含有する。セラミック部130に含まれるセラミック粒の粒径は、好ましくは3μm以下であり、より好ましくは1μm以下である。
【0024】
金属部140は、例えば、ケイ素を含む、線材、柱材、ペースト、スリップキャスティング体、ゲルキャスト体、又は造粒粉を予備成形した後のCIP成形体である。金属部140は、例えば99質量%以上の割合でケイ素を含有する。
【0025】
セラミック部130には、閉空間131が形成されており、金属部140は閉空間131内に設けられている。金属部140は塊り状又は粉末状のいずれであってもよい。金属部140の嵩は、焼成時のセラミック部130の収縮を考慮し、潜熱蓄熱体1において金属部120の体積とセラミック部110の閉空間111の容積が略同一になるように調整することが好ましい。
【0026】
次に、セラミック部130及び金属部140を同時に焼成する。この結果、セラミック部130からセラミック部110が形成され、金属部140から金属部120が形成される(
図1(a)及び
図1(b)参照)。この時、多孔質体であったセラミック部130が緻密化し、多結晶体からなるセラミック部110の相対密度は95%~99%程度となる。一方、金属部140は、線材、柱材である場合にはほとんど緻密化せず、金属部120の相対密度はほぼ100%となる。従って、セラミック部130及び金属部140の相対密度は、焼成による相対密度の変化の差を考慮して決定することが好ましい。なお、本開示では、セラミック部の焼成の際に、金属部に相変化以外の成分又は性質等の変化が生じない場合であっても金属部の焼成が行われるとし、これらを同時に焼成するということがある。また、相対密度とは、中実なバルクの状態における密度に対する密度をいう。言い換えると、相対密度とは、空隙や欠陥が全く存在しない状態の密度に対する、比較対象物の密度の割合をいう。
【0027】
同時焼成の温度は、得られるセラミック部110が連続気孔(内部から表面につながる空隙部)を含まない程度の相対密度、具体的には約90パーセント以上に達する条件として決定され、セラミックの種類や組成によって左右されるが、例えば金属部140の融点よりも50℃以上高く300℃以下高い温度とするのが望ましい。同時焼成時の昇温速度は、セラミックの種類や組成および設計上決まる焼成対象物のサイズ(厚さなど)によって緻密化可能速度に合わせて調整されるが、可能な範囲ではなるべく高いことが望ましい。同時焼成の雰囲気は、例えば、セラミック部130の材料の性質に応じて、水素等の還元性ガスを含む還元性雰囲気、窒素等の非酸化性ガスを含む非酸化性雰囲気、空気等の酸化性ガスを含む酸化性雰囲気のいずれかとする。なお、酸化性雰囲気中で同時焼成を行う場合、金属部140を構成する金属材料の表面に存在していた酸化膜がそのまま金属部120内に残ることがある。この場合でも、相変化に伴う熱容量を十分に得られるため、金属部120内に酸化膜が残っていてもよい。
【0028】
このようにして、第1実施形態に係る潜熱蓄熱体1を製造することができる。
【0029】
この製造方法によれば、金属部120がセラミック部110により封止される。金属部120が、連続体であるセラミック部110により気密に覆われるということもできる。
【0030】
ここで、セラミック部110の材料について詳細に説明する。
【0031】
セラミック部110の材料の一例であるムライトは、1600℃前後で焼結が可能であり、大気中、中性雰囲気中、還元雰囲気中においてケイ素と反応しない。セラミック部110の材料が純ムライトであってもよいが、焼結助剤の添加により緻密化温度を低減できる。焼結助剤としては2族元素及び3族元素の酸化物が有効であり、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化イットリウム(Y2O3)及び酸化ランタン(La2O3)の効果が確認されている。効果及び原料の扱いやすさの点で、酸化イットリウムが特に好ましい。
【0032】
セラミック部110の材料の一例である酸化アルミニウムは、相対的に安価な材料である。ただし、酸素を含有する雰囲気下では、ケイ素を含む複合酸化物が生成されやすく、金属部120に含まれるケイ素が消耗されるおそれがある。このため、同時焼成時の雰囲気を非酸化性雰囲気とすることが好ましい。また、潜熱蓄熱体1の使用時においても、雰囲気を非酸化性雰囲気とすることが好ましい。
【0033】
セラミック部110の材料の一例として窒化物が挙げられる。窒化物は、窒化ケイ素、窒化ホウ素及び窒化アルミニウム、窒化アルミニウムと窒化ホウ素との複合材料を含む。六方晶の窒化ホウ素、及び窒化アルミニウムと窒化ホウ素との複合材料(複合セラミック)は、焼結後に機械加工しやすい。窒化アルミニウムと窒化ホウ素との複合材料は六方晶の窒化ホウ素よりも高い機械的強度を得ることができる。窒化アルミニウムと窒化ホウ素との複合材料における窒化アルミニウムと窒化ホウ素との比率は限定されないが、好ましくはいずれの割合も50質量%である。セラミック部110の主成分が窒化アルミニウムと窒化ホウ素との複合材料である場合の焼結助剤としては酸化イットリウム及び炭酸カルシウムが好ましい。
【0034】
セラミック部110の材料の一例として炭化物が挙げられる。炭化物は、炭化ケイ素、炭化タングステン及び炭化ホウ素を含む。炭化ケイ素、炭化タングステン及び炭化ホウ素は、炭素の含有率にもよるが、導電性を有する。炭化ケイ素、炭化タングステン及び炭化ホウ素は通電されて発熱する材料であり、炭化ケイ素、炭化タングステン及び炭化ホウ素はヒータとして用いることができる。セラミック部110が炭化ケイ素、炭化タングステン又は炭化ホウ素を含む場合、セラミック部110は金属部120の保護機能及び加熱機能を有し、より高い蓄熱密度を実現しやすい。また、炭化ケイ素、炭化タングステン又は炭化ホウ素を含むセラミック部110は、余剰電力を直接利用して蓄熱する方式(ETES)において、設備を小型化することができる。炭化ケイ素は常圧焼結することも可能であるが、より緻密で熱伝導率の高いセラミック部110を得るためには、ホットプレス法による焼結が好ましい。ホットプレス法により焼結する場合、金属部120とセラミック部110との間に隙間を形成しにくいが、金属部120はケイ素を主成分とし、液化に伴う体積の増加が生じないため、隙間が形成されなくてよい。
【0035】
セラミック部110の材料の一例としてケイ化物が挙げられる。ケイ化物は、二ケイ化モリブデン(MoSi2)及び二ケイ化タングステン(WSi2)を含む。二ケイ化モリブデン及び二ケイ化タングステンは通電されて発熱する材料であり、二ケイ化モリブデン及び二ケイ化タングステンは、ケイ素の相変化温度(1414℃)を含む温度域において大気中でヒータとして安定的に使用できる。セラミック部110が二ケイ化モリブデン又は二ケイ化タングステンを含む場合、セラミック部110は金属部120の保護機能及び加熱機能を有し、より高い蓄熱密度を実現しやすい。また、大気中では、二ケイ化モリブデン及び二ケイ化タングステンの表面に二酸化ケイ素(SiO2)の緻密な酸化膜が形成され、二ケイ化モリブデン及び二ケイ化タングステンの内部の酸化が抑制される。従って、二ケイ化モリブデン又は二ケイ化タングステンを含むセラミック部110は、大気中においても化学的に安定している。
【0036】
二ケイ化モリブデンの焼結体を得るためには、例えば、二ケイ化モリブデンの粉末に20質量%程度までのカオリナイト(Al4Si4O10(OH)8)系添加物又はモンモリロナイト((Na,Ca)0.33(Al,Mg)2Si4O10(OH)2)系添加物等の添加物を加え、水系又は(極性)溶媒系のスラリーを用いる。このスラリーを経てグリーン体を形成し、窒素雰囲気又は水素含有窒素雰囲気等の非酸化性雰囲気中において1550℃程度で焼成を行う。
【0037】
なお、原材料コスト、製造設備、製造難易度及びコストの観点からは、セラミック部110の材料としてはムライトが最も好ましい。
【0038】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。第2実施形態は潜熱蓄熱体に関する。
図3は、第2実施形態に係る潜熱蓄熱体を例示する図である。
図3(a)は斜視図であり、
図3(b)は断面図である。
【0039】
第2実施形態に係る潜熱蓄熱体2は、
図3(a)及び
図3(b)に示すように、多結晶体からなるセラミック部210と、金属部220とを有する。
【0040】
セラミック部210には、閉空間211が形成されている。セラミック部210及び閉空間211の形状は円柱状である。セラミック部210は、例えば一体的に構成されている。例えば、セラミック部210には、閉空間211に繋がる接合部が存在しない。セラミック部210はセラミック部110と同様の材料から構成されている。
【0041】
金属部220は閉空間211内に設けられている。言い換えれば、金属部220はセラミック部210に封止されている。金属部220が、連続体であるセラミック部210により気密に覆われているということもできる。金属部220は金属部120と同様の材料から構成されている。
【0042】
閉空間211の容積が金属部220の体積と等しくてもよく、金属部220の体積より大きくてもよい。
【0043】
他の構成は第1実施形態と同様である。また、第2実施形態に係る潜熱蓄熱体2は、形状の点を除いて第1実施形態と同様の方法で製造することができる。
【0044】
第2実施形態によっても第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、セラミック部210への外部からの応力が分散されやすいため、より高い耐久性を得ることができる。
【0045】
なお、潜熱蓄熱体の形状が球体状又は角柱状等であってもよい。
【0046】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。第3実施形態は潜熱蓄熱体に関する。
図4は、第3実施形態に係る潜熱蓄熱体を例示する図である。
図4(a)は斜視図であり、
図4(b)は断面図である。
【0047】
第3実施形態に係る潜熱蓄熱体3は、
図4(a)及び
図4(b)に示すように、多結晶体からなるセラミック部310と、複数の金属部320とを有する。
【0048】
セラミック部310には、複数の閉空間311が形成されている。セラミック部310及び閉空間311の形状は直方体状である。セラミック部310は、例えば一体的に構成されている。例えば、セラミック部310には、閉空間311に繋がる接合部が存在しない。セラミック部310はセラミック部110と同様の材料から構成されている。閉空間311は、セラミック部310の互いに平行な1組の平面に平行な面内で、互いに直交する2方向に等間隔で配置されている。
【0049】
金属部320は閉空間311内に1個ずつ設けられている。言い換えれば、金属部320はセラミック部310に封止されている。金属部320が、連続体であるセラミック部310により気密に覆われているということもできる。金属部320は金属部120と同様の材料から構成されている。
【0050】
閉空間311の容積が金属部320の体積と等しくてもよく、金属部320の体積より大きくてもよい。
【0051】
他の構成は第1実施形態と同様である。
【0052】
次に、第3実施形態に係る潜熱蓄熱体3の製造方法について説明する。
図5は、第3実施形態に係る潜熱蓄熱体3の製造方法を例示する図である。
【0053】
まず、
図5(a)に示すように、閉空間311となる複数のキャビティ351が形成された未焼成のセラミック部350Aを準備する。セラミック部350Aは、例えばグリーンシートの積層体である。射出成形等によりセラミック部350Aを形成してもよい。後に、セラミック部350Aはセラミック部310の一部となる。
【0054】
未焼成のセラミック部350Aの準備は、例えば以下の処理を含む。まず、ボールミル法等によりセラミックスラリーを調合し、ドクターブレード法等により複数のグリーンシートを成形する。次いで、グリーンシートにパンチング法等により閉空間331に対応する貫通孔を形成する。また、貫通孔が形成されていないグリーンシートも準備する。そして、貫通孔が形成されたグリーンシートを貫通孔が形成されていないグリーンシートの上に積層する。
【0055】
次に、
図5(b)に示すように、各キャビティ351内に金属部360を設ける。後に、金属部360は金属部320となる。金属部360は、例えば、ペースト、ビーズ、巻き線又はシートである。
【0056】
次に、
図5(c)に示すように、キャビティ351の開口端を塞ぐようにして、セラミック部350Aの上にシート状のセラミック部350Bを設ける。後に、セラミック部350Bはセラミック部310の一部となる。シート状のセラミック部350Bとしては、貫通孔が形成されていないグリーンシートを用いることができる。
【0057】
このようにして、未焼成のセラミック部350A及び350Bと、金属部360とを有する複合体3Aが得られる。
【0058】
次に、セラミック部350A及び350B並びに金属部360を同時に焼成する。この結果、セラミック部350A及び350Bからセラミック部310が形成され、金属部360から金属部320が形成される(
図4(a)及び
図4(b)参照)。
【0059】
このようにして、第3実施形態に係る潜熱蓄熱体3を製造することができる。
【0060】
第3実施形態によっても第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0061】
なお、複合体3Aの焼成前に複合体3Aを金属部360毎に分割してもよい。この場合、第1実施形態に係る潜熱蓄熱体1を得ることができる。
【0062】
同様の方法により、第2実施形態に係る潜熱蓄熱体2を得ることもできる。
図6は、第2実施形態に係る潜熱蓄熱体2の製造方法を示す図である。
【0063】
まず、
図6(a)に示すように、閉空間211となる複数のキャビティ251が形成された未焼成のセラミック部250Aを準備する。
【0064】
次に、
図6(b)に示すように、各キャビティ251内に金属部260を設ける。
【0065】
次に、
図6(c)に示すように、キャビティ251の開口端を塞ぐようにして、セラミック部250Aの上にシート状のセラミック部250Bを設けることで複合体2Aを得る。
【0066】
次に、複合体2Aを金属部260毎に分割する。そして、セラミック部250A及び250B並びに金属部260を同時に焼成する。
【0067】
このような方法により、第2実施形態に係る潜熱蓄熱体2を製造することもできる。
【0068】
なお、潜熱蓄熱体を製造するための複合体は、セラミックスラリーのディップコーティング法等により製造してもよい。
【0069】
(第4実施形態)
第4実施形態について説明する。第4実施形態は潜熱蓄熱体に関する。
図7は、第4実施形態に係る潜熱蓄熱体を例示する斜視図である。
【0070】
第4実施形態に係る潜熱蓄熱体4は、
図7に示すように、多結晶体からなるセラミック部210と、金属部220と、金属部220を加熱することができる電熱体430とを有する。電熱体430はセラミック部210内に設けられている。電熱体430は、セラミック部210の表面と金属部220の表面との間に設けられている。電熱体430は全体として略円筒形状を有する。電熱体430は、柱状の金属部220の長軸に平行な方向から見たときに、例えば、時計回りと反時計回りとを交互に繰り返しながら螺旋を構成している。電熱体430は、例えば、タングステン若しくはモリブデン又はこれらの両方を含有する。電熱体430が、タングステンと酸化アルミニウムとの混合物、又はモリブデンと酸化アルミニウムとの混合物を含有してもよい。この場合、電熱体430が、更に、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム等を1種又は2種以上含有してもよい。電熱体430はヒータの一例である。
【0071】
第4実施形態の他の構成は第2実施形態と同様である。
【0072】
第4実施形態に係る潜熱蓄熱体4の製造に際しては、例えば、タングステン又はモリブデンの粉末に酸化アルミニウムの粉末を混合し、溶剤やバインダー等の有機成分を加えて抵抗体ペーストを調合する。そして、電熱体430の金属部220の長軸に垂直な部分(円周部分)は、例えば、セラミックグリーンシートの表面に印刷した抵抗体ペーストにより形成することができる。電熱体430の金属部220の長軸に平行に延びる部分は、例えば、セラミックグリーンシートに形成した貫通孔に充填した抵抗体ペーストにより形成することができる。酸化アルミニウムの割合に応じて電熱体430の抵抗率を調整することができる。抵抗体ペーストに、更に、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム等を1種又は2種以上添加してもよい。これらの無機成分は、焼成中に液相又は複合酸化物相を形成し、電熱体430のセラミック部230との密着強度を向上したり、抵抗率の安定性を向上したりできる。
【0073】
第4実施形態によっても第2実施形態と同様の効果を得ることができる。また、電熱体430が金属部220を加熱することができるため、外部から付与した電気エネルギを熱に変換して潜熱蓄熱体4に蓄積することができる。例えば、余剰電力により電熱体430から熱を発生することで、余剰電力を熱として蓄積することができる。そして、潜熱蓄熱体4に蓄積したエネルギは、熱、蒸気(圧力)又は電力(蒸気圧力によるタービン発電等)のエネルギとして、工場、オフィス又は商業ビル等に供給することができる。
【0074】
また、潜熱蓄熱体4が電熱体430を含んでいるため、エネルギの損失を低減できる。例えば、電熱体と潜熱蓄熱体とが分離されている場合には、電熱体から発生した熱を熱風等として潜熱蓄熱体まで伝達させることになり、エネルギが損失しやすいが、本実施形態では、このようなエネルギの損失を抑制することができる。
【0075】
(実験例)
次に、本願発明者が行った実験について説明する。
図8は、実験における潜熱蓄熱体の製造方法を例示する断面図である。
【0076】
第1実験では、ムライト粉末にポリビニルブチラールバインダー、フタル酸系可塑剤及びアルコール系溶剤を加え、ボールミル法により粉砕混合してスラリーを調製した。次いで、スラリーの真空脱泡及び粘度調整を行い、ドクターブレード法により厚さが約0.5mmのグリーンシートを4枚作製した。
【0077】
次いで、
図8(a)に示すように、2枚のグリーンシート532に、焼成による収縮の後の体積から求めた開口形状の貫通孔532Aを形成し、貫通孔が形成されていないグリーンシート531の上に2枚のグリーンシート532を積層した。
【0078】
次いで、
図8(b)に示すように、シリコン基板から切り出したケイ素切片540を貫通孔532A内に収納し、グリーンシート532の積層体の上に、貫通孔が形成されていないグリーンシート533を積層した。ケイ素切片540におけるケイ素の割合は99質量%以上である。
【0079】
次いで、
図8(b)に示す構造体を大気雰囲気中において1600℃で2時間焼成した。この結果、
図8(c)に示すように、閉空間511が形成された多結晶体からなるセラミック部510と、閉空間511内に設けられた金属部520とを有する潜熱蓄熱体5が得られた。
【0080】
そして、金属部520が切断されるように潜熱蓄熱体5を切断し、切断面の研磨を行い、切断面の観察を行った。この結果、金属部520は金属光沢を示し、セラミック部510と金属部520との境界は明瞭であった。
【0081】
また、二端子テスターを用いて金属部520の抵抗値を測定したところ、金属部520の抵抗値は約40kΩであった。また、別途、セラミック部510と同一の条件で焼成したセラミック材の相対密度は約90%であった。
【0082】
第2実験では、酸化イットリウム粉末を5質量%含むムライト粉末と酸化イットリウム粉末との混合物に、ポリビニルブチラールバインダー、フタル酸系可塑剤及びアルコール系溶剤を加え、ボールミル法により粉砕混合してスラリーを調製した。次いで、スラリーの真空脱泡及び粘度調整を行い、ドクターブレード法により厚さが約0.5mmのグリーンシートを4枚作製した。そして、第1実験と同様にして、潜熱蓄熱体5を得た。酸化イットリウム粉末は焼結助剤として機能する。
【0083】
そして、金属部520が切断されるように潜熱蓄熱体5を切断し、切断面の研磨を行い、切断面の観察を行った。この結果、第1実験と同様に、金属部520は金属光沢を示し、セラミック部510と金属部520との境界は明瞭であった。
【0084】
また、走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)を用いて潜熱蓄熱体5の微構造及び成分の分布を確認した。この結果、金属部520とセラミック部510とが互いに密に接合されていた。また、酸素、アルミニウム及びイットリウムは金属部520に検出されず、金属部520は実質的にケイ素のみから構成されていた。更に、ケイ素切片540由来とみられるケイ素はセラミック部510に検出されず、セラミック部510には、アルミニウム、酸素と、相対強度が低いケイ素が検出され、イットリウムはほとんど検出されなかった。また、セラミック部510と同一の条件(酸化イットリウム粉末を含む)で焼成したセラミック材の相対密度は約98%であった。
【0085】
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、本開示は上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0086】
1、2、3、4、5 潜熱蓄熱体
110、130、210、230、250A、250B、310、350A、350B、510 セラミック部
111、131、211、311、331、511 閉空間
120、140、220、260、320、360、520 金属部
531、532、533 グリーンシート
540 ケイ素切片