(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020984
(43)【公開日】2025-02-13
(54)【発明の名称】搬送ロボットの制御方法
(51)【国際特許分類】
B25J 9/10 20060101AFI20250205BHJP
【FI】
B25J9/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124648
(22)【出願日】2023-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(72)【発明者】
【氏名】福井 善朗
(72)【発明者】
【氏名】藤村 統太
(72)【発明者】
【氏名】森本 和章
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS01
3C707BS15
3C707CV07
3C707CW07
3C707HS27
3C707LU02
3C707LU03
3C707NS13
(57)【要約】
【課題】ベルト駆動型の搬送ロボットにおいて、先端側のハンドの目標軌道の逸脱を抑制することが可能な制御方法を提供する。
【解決手段】本発明の搬送ロボットの制御方法は、互いに回動可能に支持された第1アーム、第2アームおよびハンドを備え、当該ハンドが水平直線移動させられるベルト駆動型の搬送ロボットの制御方法であって、第1アームの角速度は、動作開始から加速する加速区間S1と、加速区間S1の後に続き、一定速度が継続する等速区間S2と、等速区間S2の後に続き、動作終了まで減速する減速区間S3と、を含んで構成され、加速区間S1および減速区間S3の少なくとも一方は、第1加速度で加速し、または第1減速度で減速する第1区間S31と、前記第1加速度と異なる第2加速度で加速し、または前記第1減速度と異なる第2減速度で減速する第2区間S32と、を有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側の第1垂直軸線の回りに回動可能な第1アームと、一端側が前記第1アームの他端側に対して第2垂直軸線の回りに回動可能に支持された第2アームと、一端側が前記第2アームの他端側に対して第3垂直軸線の回りに回動可能に支持されハンドと、を備え、
前記第1アームおよび前記第2アームの各々の内部に配置されたベルトの連係により、前記第1アームが前記第1垂直軸線の回りに回動させられると前記ハンドが水平直線移動させられるベルト駆動型の搬送ロボットの制御方法であって、
前記第1アームおよび前記第2アームを縮めた縮め姿勢と前記第1アームおよび前記第2アームを伸ばした伸ばし姿勢との間で前記ハンドを水平直線移動させる際の前記第1アームの前記垂直軸線回りの角速度は、動作開始から加速する加速区間と、前記加速区間の後に続き、一定速度が継続する等速区間と、前記等速区間の後に続き、動作終了まで減速する減速区間と、を含んで構成され、
前記加速区間および前記減速区間の少なくとも一方は、第1加速度で加速し、または第1減速度で減速する第1区間と、前記第1加速度と異なる第2加速度で加速し、または前記第1減速度と異なる第2減速度で減速する第2区間と、を有する、搬送ロボットの制御方法。
【請求項2】
前記第1区間は前記等速区間に連続し、且つ前記第2区間は前記第1区間に連続しており、
前記加速区間が前記第1区間および前記第2区間を有する場合、前記第1加速度が前記第2加速度よりも小であり、
前記減速区間が前記第1区間および前記第2区間を有する場合、前記第1減速度が前記第2減速度よりも小である、請求項1に記載の搬送ロボットの制御方法。
【請求項3】
前記第1アームおよび前記第2アームを前記縮め姿勢から前記伸ばし姿勢まで移動させる伸ばし動作において、前記減速区間が前記第1区間および前記第2区間を有し、
前記第1アームおよび前記第2アームを前記伸ばし姿勢から前記縮め姿勢まで移動させる縮め動作において、前記加速区間が前記第1区間および前記第2区間を有する、請求項2に記載の搬送ロボットの制御方法。
【請求項4】
前記等速区間における前記第1アームの角速度は、一定加速度区間、一定速度区間および一定減速度区間からなる台形加減速制御における前記一定速度区間の角速度よりも小である、請求項1ないし3のいずれかに記載の搬送ロボットの制御方法。
【請求項5】
前記加速区間から前記減速区間まで前記第1アームを回動させる動作時間は、前記台形加減速制御において前記一定加速度区間から前記一定減速度区間まで前記第1アームを回動させる動作時間と実質的に同一であり、
前記加速区間から前記減速区間までの前記第1アームの角度移動量は、前記台形加減速制御における前記一定加速度区間から前記一定減速度区間までの前記第1アームの角度移動量と実質的に同一である、請求項4に記載の搬送ロボットの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送ロボットの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造等の分野において、ウエハ等の薄板状のワークを搬送する際にワーク搬送用の搬送ロボットが用いられている。このような薄板状のワークを搬送するための搬送ロボットとしては、たとえばベルト駆動型の水平多関節ロボットが知られている(たとえば特許文献1を参照)。この搬送ロボットは、駆動軸を有する後段側アームと、当該後段側アームに回動可能に支持された前段側アームと、当該前段側アームに回動可能に支持されたハンドと、これら2つのアームおよびハンドを駆動させる駆動部と、を備える。この搬送ロボットにおいて、2つのアーム、およびハンドを回動させるための動力伝達機構としてベルトが用いられる。搬送ロボットは、2つのアームを縮めた姿勢と伸ばした姿勢との間で姿勢変更する際、ワークを把持するハンドが直線状の目標軌道を移動するように構成される。一方、半導体製造工程におけるウエハ等の搬送は高速化が求められており、アームの回動駆動は、たとえば台形加減速制御により行う。
【0003】
半導体製造工程では、ハンドに把持されたウエハ等のワークの移動経路にゲートバルブやカセットの入り口など狭い部分が存在するので、ワークを把持するハンドが目標軌道を精密に追従しなければならない。しかしながら、高速動作中のハンドは、本来通るべき目標軌道から逸脱することが知られている。当該ハンドの目標軌道からの逸脱の主な要因は、ベルトの伸縮であることが分かっているが、ベルトの伸縮量そのものを計測・制御することが難しいことから、上記の軌道逸脱を完全に無くすことは難しいとされている。アームおよびハンドを低速で動作させると、ベルトにかかる負荷を小さくすることができ、ハンドの軌道逸脱の低減を図ることができる。しかしながら、半導体製造現場においては、動作時間(タクトタイム)を延ばすことなく、目標軌道からの逸脱を低減することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、ベルト駆動型の搬送ロボットにおいて、先端側のハンドの目標軌道の逸脱を抑制することが可能な制御方法を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を採用した。
【0007】
本発明によって提供される搬送ロボットの制御方法は、一端側の第1垂直軸線の回りに回動可能な第1アームと、一端側が前記第1アームの他端側に対して第2垂直軸線の回りに回動可能に支持された第2アームと、一端側が前記第2アームの他端側に対して第3垂直軸線の回りに回動可能に支持されハンドと、を備え、前記第1アームおよび前記第2アームの各々の内部に配置されたベルトの連係により、前記第1アームが前記第1垂直軸線の回りに回動させられると前記ハンドが水平直線移動させられるベルト駆動型の搬送ロボットの制御方法であって、前記第1アームおよび前記第2アームを縮めた縮め姿勢と前記第1アームおよび前記第2アームを伸ばした伸ばし姿勢との間で前記ハンドを水平直線移動させる際の前記第1アームの前記垂直軸線回りの角速度は、動作開始から加速する加速区間と、前記加速区間の後に続き、一定速度が継続する等速区間と、前記等速区間の後に続き、動作終了まで減速する減速区間と、を含んで構成され、前記加速区間および前記減速区間の少なくとも一方は、第1加速度で加速し、または第1減速度で減速する第1区間と、前記第1加速度と異なる第2加速度で加速し、または前記第1減速度と異なる第2減速度で減速する第2区間と、を有する。
【0008】
好ましい実施の形態においては、前記第1区間は前記等速区間に連続し、且つ前記第2区間は前記第1区間に連続しており、前記加速区間が前記第1区間および前記第2区間を有する場合、前記第1加速度が前記第2加速度よりも小であり、前記減速区間が前記第1区間および前記第2区間を有する場合、前記第1減速度が前記第2減速度よりも小である。
【0009】
好ましい実施の形態においては、前記第1アームおよび前記第2アームを前記縮め姿勢から前記伸ばし姿勢まで移動させる伸ばし動作において、前記減速区間が前記第1区間および前記第2区間を有し、前記第1アームおよび前記第2アームを前記伸ばし姿勢から前記縮め姿勢まで移動させる縮め動作において、前記加速区間が前記第1区間および前記第2区間を有する。
【0010】
好ましい実施の形態においては、前記等速区間における前記第1アームの角速度は、一定加速度区間、一定速度区間および一定減速度区間からなる台形加減速制御における前記一定速度区間の角速度よりも小である。
【0011】
好ましい実施の形態においては、前記加速区間から前記減速区間まで前記第1アームを回動させる動作時間は、前記台形加減速制御において前記一定加速度区間から前記一定減速度区間まで前記第1アームを回動させる動作時間と実質的に同一であり、前記加速区間から前記減速区間までの前記第1アームの角度移動量は、前記台形加減速制御における前記一定加速度区間から前記一定減速度区間までの前記第1アームの角度移動量と実質的に同一である。
【発明の効果】
【0012】
ベルト駆動型の搬送ロボットにおいて、第1アーム、第2アームおよびハンドを高速で動作させると、先端側ハンドの軌道逸脱を引き起こす。本発明に係る搬送ロボットの制御方法によれば、当該先端側ハンドの軌道逸脱の原因であるベルトの伸縮に着目して目標軌道を設計することで、追加の情報を取得するためのセンサ等を設置することなく、先端側のハンドの目標軌道の逸脱を抑制することができる。
【0013】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る搬送ロボットの制御方法を実行可能なウエハ搬送ロボットの一例を示す概略平面図であり、第1アームおよび第2アームを縮めた縮め姿勢の一例を表す。
【
図2】
図1に示す搬送ロボットにおいて第1アームおよび第2アームを伸ばした伸ばし姿勢の一例を表す。
【
図3】
図1に示す搬送ロボットにおいて第1アーム、第2アームおよびハンドの基準姿勢を表す。
【
図4】ロボットの姿勢に対する-2.4m
21
-1,m
22
-1との値の変化をグラフである。
【
図5】伸ばし動作における関節角度目標軌道の角速度を表すグラフである。
【
図6】伸ばし動作における関節角度目標軌道の角度を表すグラフである。
【
図7】縮め動作における関節角度目標軌道の角速度を表すグラフである。
【
図8】縮め動作における関節角度目標軌道の角度を表すグラフである。
【
図10】伸ばし動作における手先軌道波形を表すグラフである。
【
図11】縮め動作における手先軌道波形を表すグラフである。
【
図12】先端側のハンドの最大手先軌道逸脱量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態につき、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る搬送ロボットの制御方法を実行可能なウエハ搬送ロボットの一例を示す概略平面図である。
図1に示すウエハ搬送ロボットA1は、第1アーム1、第2アーム2、ハンド3およびベース部9を備えている。第1アーム1は、3つのリンクとして構成される。
【0017】
第1アーム1は、ベース部9により、長手方向が水平となる姿勢で支持されている。第1アーム1は、その一端側が第1垂直軸線O1の回りに回動可能であり、上記ベース部9に配置された駆動源(たとえばサーボモータ)から回動駆動力が伝達されるように構成されている。第2アーム2は、長手方向が水平となる姿勢で第1アーム1に支持されている。第2アーム2は、その一端側が第1アーム1の他端側に対して第2垂直軸線O2の回りに回動可能である。ハンド3は、先端が二股のフォーク状とされており、水平姿勢で第2アーム2に支持されている。ハンド3は、たとえば円形シリコンウエハなどの所定サイズの薄板状ワークを載置保持するためのものである。なお、詳細な図示は省略するが、ウエハ搬送ロボットA1において、第1アーム1を支持するベース部9は、たとえば旋回機構や多関節機構を有しており、第1アーム1を所定の位置および向きで配置することが可能とされている。
【0018】
上記の第1アーム1、第2アーム2およびハンド3は、3つのリンクとして構成され、ベルト駆動により動作する。図示しないが、第1アーム1の内部には、第1垂直軸線O1および第2垂直軸線O2を回転軸線とする一対のプーリおよび当該一対のプーリに掛け回された無端ベルトが配置される。また、第2アーム2の内部には、第2垂直軸線O2および第3垂直軸線O3を回転軸線とする一対のプーリおよび当該一対のプーリに掛け回された無端ベルトが配置される。そして、たとえばサーボモータ(駆動源)は、コントローラから与えられた指令トルクによってトルクを出力し、第1アーム1の第1垂直軸線O1を回転軸線とするプーリを回転させる。プーリの回転運動はベルトに伝達され、第1アーム1は第1垂直軸線O1回りに回動し、第2アーム2は第2垂直軸線O2回りに回動し、ハンド3は第3垂直軸線O3回りに回動する。このようにして、第1アーム1、第2アーム2およびハンド3が動作する。ここで、第1アーム1の第1垂直軸線O1回りの回動角度、第2アーム2の第2垂直軸線O2回りの回動角度、およびハンド3の第3垂直軸線O3回りの回動角度は、後述のように1:2:1となるように設計されている。このような構成の第1アーム1、第2アーム2およびハンド3によれば、水平搬送の動作のみを行い、第1アーム1、第2アーム2およびハンド3が相互に連係することで、ハンド3が水平直線移動させられる。サーボモータは、第1アーム1の回転角度と回転角速度のみ計測可能であり、ウエハ搬送ロボットA1には、それ以外の情報を計測するためのセンサ等は、コスト維持や機構上の制約、ロボットの動作環境などの制約により配置できない。
【0019】
第1アーム1、第2アーム2およびハンド3を十分低速で動作させると、先端側のハンド3は水平直線軌道上(後述の
図1、
図2のy軸上)を伸ばし動作あるいは縮め動作が行われるとみなすことができる。上記の水平直線軌道から逸脱すること、すなわち、先端側のハンド3のx座標(y軸と直交する水平軸であるx軸の座標)が0以外の値をとることを軌道逸脱とよぶ。このとき、第1アーム1、第2アーム2およびハンド3を高速で動作させると、先端側のハンド3の軌道逸脱を引き起こす。本発明者らは、当該軌道逸脱の原因の1つである「ベルトの伸縮」に着目し、本発明を完成させるに至った。ロボットの運動学から、「ベルトが伸びている⇒関節角度誤差が発生する」とみなすことができ、「関節角度誤差が発生する⇒先端側のハンド3の軌道の逸脱発生」とみなすことができる。本発明では、ベルトの伸縮によって発生する関節角度誤差に着目した。ロボットの挙動を運動方程式として立式・モデル化し解析することや実機実験での予備実験により、以下の2点の事項が明らかになった。
(1)ロボットが取る姿勢によってベルトの伸びやすさ(ベルトの伸びを主要因とする関節角度誤差の量)が異なること
(2)関節角度誤差が軌道逸脱に与える影響の度合いも姿勢によって異なること
上記2つの事項を踏まえ、「関節角度誤差の起こりやすさ」と「その影響度の違い」をかけ合わせた評価指標式を提案した。目標軌道の設計では、評価指標値が小さい姿勢のときは軌道逸脱しにくい姿勢であるとして大きな角加速度で動作させ、評価指標値が大きい姿勢のときは、軌道逸脱し易い姿勢であるとしてできるだけ小さな角加速度で動作させるような目標軌道を設計する手法を見出した。本発明方法は、タクトタイムを維持したまま軌道逸脱量を低減できるものになっている。
【0020】
以下に、本実施形態の搬送ロボットの制御方法について説明する。
【0021】
<ロボット座標系>
図1、
図2を参照し、ロボット座標系について説明する。
図1、
図2において、ロボット背面から見た方向をy軸方向とし、当該y軸方向に対して垂直な水平方向をx軸方向とする。ウエハ搬送ロボットA1の駆動動作については、たとえば、第1アーム1および第2アーム2(以下、両アーム1,2をまとめて、適宜「アーム」と言う)を任意の縮めた姿勢(以下、適宜「縮め姿勢」と言う)と任意の伸ばした姿勢(以下、適宜「伸ばし姿勢」と言う)との間で縮め動作と伸ばし動作を繰り返す。
図1は、第1アーム1および第2アーム2を縮めた縮め姿勢の一例を表す。
図2は、第1アーム1および第2アーム2を伸ばした伸ばし姿勢の一例を表す。第1アーム1、第2アーム2およびハンド3からなる水平搬送機構は3つのリンクを構成しており、ここでは、説明の便宜上、適宜、第1アーム1をリンク1、第2アーム2をリンク2、ハンド3をリンク3として説明する。リンク1,2がx軸に重なっており、リンク3がy軸の正方向に向かって重なっている姿勢を基準姿勢とする。
図3は、ウエハ搬送ロボットA1におけるリンク1~3の基準姿勢を示す。そして、リンクi(iは1~3のいずれか)における基準姿勢からの角度変位を各リンクの関節角度θ
i[rad]と定義する。基準姿勢におけるθ
iは、0[rad]であり、反時計回りを正の方向とする。
図1を参照して説明した上記の「縮め姿勢」は、基準姿勢よりもθ
iが小さい(すなわち負)姿勢であり、
図2を参照して説明した上記の「伸ばし姿勢」は、基準姿勢よりもθ
iが大きい(すなわち正)姿勢である。θ
iは、ベルトが伸縮しない場合、以下の幾何拘束を満たすように設計されている。
【0022】
【0023】
ウエハ搬送ロボットA1の駆動制御においては、θ1のトルクを自由に与えることができる。このθ1のトルクを与える制御手段として、PID制御則をはじめとするθ1の角度を制御する位置決め制御が組み込まれている。この位置決め制御に与える目標値の時系列データを、関節角度θ1の目標軌道(以下、適宜「関節角度目標軌道」)と呼ぶ。
【0024】
しかし、実際にはベルトの伸縮により上記の幾何拘束と実際の関節角度との間に角度誤差が生じる。リンク1,2間の関節角度誤差をθe1[rad]、リンク2,3間の関節角度誤差をθe2[rad]と定義すると、実際の関節角度は、上記の幾何拘束を用いて以下のように表される。
【0025】
【0026】
状態変数をq=[θ1 θe1 θe]Tとすると,ロボットの手先(ハンド3)の座標(x,y)は以下の順運動学の定義(f1(q),f2(q))=(x,y)で表される。
【0027】
【0028】
l
1=l
2が満たされるように製品は設計されているため、θ
e1=θ
e2=0ならば、
図1、
図2のようにロボットの手先(ハンド3)位置がy軸上を移動する。θ
e1,θ
e2≠0 の場合、x軸方向に手先位置の軌道逸脱(以下、適宜「手先軌道逸脱」)が起こり得る。ただし、l
1、l
2、l
3はそれぞれリンク1、リンク2、リンク3の長さであり、
図1での第1垂直軸線O1から第2垂直軸線O2までの長さ、第2垂直軸線O2から第3垂直軸線O3までの長さ、第3垂直軸線O3から手先までの長さを意味している。
【0029】
<手先軌道逸脱の要因1(ベルトの伸縮)>
ベルトの伸縮によって発生する関節角度誤差θe1,θe2が0でないとき、幾何拘束が崩れ、先端側のハンド3の軌道逸脱(手先軌道逸脱)が発生する。シミュレーションを用いた予備実験により、θe1,θe2はそれぞれ10-5,10-10程度のオーダーを取ることがわかっている。このため、手先軌道逸脱の主要因はθe1であり、θe2はθe1と比較すると十分小さいと言える。運動方程式より、関節角度誤差θe1の角加速度の式は、以下の数4のように近似される。
【0030】
【0031】
ただしmij
-1 は運動方程式より得られた逆慣性行列M-1(q)の(i,j)要素あり、数4の右辺にある添え字1,2はベクトルの1要素目、2要素目をとることを意味している。
【0032】
図4に-2.4m
21
-1およびm
22
-1とロボットの関節角度θ
1の関係を示す。多くの箇所で類似した値をとっていることがわかる。θ
1が-1[rad]、1[rad]付近では2つの値に差異が見られるが、手先軌道逸脱の起こりやすさの観点で、以下の数5のように評価することができる。
【0033】
【0034】
この結果、「m22
-1(q)が大きいほど関節角度誤差θe1の角加速度(数4の左辺)が大きな値をとりやすい」という単純なルールにより、手先軌道逸脱の主要因である関節角度誤差θe1の発生しやすさを見積もれることがわかる。
【0035】
<手先軌道逸脱の要因2(要因1のベルト伸縮が手先軌道逸脱に与える影響度)>
関節角度と手先(ハンド3)の座標の関係を示す順運動学をf(q)で表し、順運動学のx座標成分をf1、y座標成分をf2と記す。このとき、与えられた時刻tにおける手先(ハンド3)の位置はf(q(t))で表され、そのx成分もまたf1(q(t))で表される。x(t)=f1(q(t))の両辺を時間tで2回微分することで、以下の数6が得られる。
【0036】
【0037】
数6おける加速度の式(1)右辺第1項は数値実験により充分小さい値を取ることがわかっている。また、θe1,θe2は10-5以下の値を取ることがわかっており、構造上、l1=l2が満たされるから、以下の数7の近似式が成り立つ。
【0038】
【0039】
これにより、ベルトの伸縮が手先軌道逸脱方向であるx軸に与える、数6の加速度の式(1) は、以下の数8のように近似される。
【0040】
【0041】
そこで、本発明では、ロボットの運動方程式より得られる以下の数9の要素の値を関節角度目標軌道設計における評価指標とし、評価指標の値が小さい関節角度θ1で大きく加速するような2段階以上の台形加減速で関節角度目標軌道を設計することを見出した。
【0042】
【0043】
次に、本実施形態における搬送ロボットの制御方法の関節角度目標軌道の設計手順について説明する。予備実験と評価指標の傾向により、設計パラメータの変更による手先軌道逸脱への影響度は、以下の順で大きいことがわかっている。
(1)等速動作部分での最高角速度
(2)アームを伸ばした姿勢での角加速度
(3)アームを縮めた姿勢での角加速度
したがって、
図4に表されるグラフ形状をしている評価指標の数9の式を参照しつつ、従来の台形加減速制御による関節角度目標軌道を上記要因(1)~(3)を考慮して修正することで、本実施形態に係る関節角度目標軌道を設計する。
具体的には、以下の手順により関節角度目標軌道を設計する手法を採用した。
手順(1)等速動作部分での最高角速度を落とすことで、手先軌道逸脱の最大値を低減させる。ただし、ここの操作によりタクトタイムは増加する。
手順(2)アームを伸ばした姿勢での角加速度を引き下げた2段階以上の台形加減速軌道の設計を行い、手先軌道逸脱の最大値を低減させる調整を行う。
手順(3)アームを縮めた姿勢での角加速度を引き上げ、許容できる範囲までタクトタイムを短くする。
【0044】
本実施形態により設計した関節角度目標軌道と、従来法である台形加減速による関節角度目標軌道でそれぞれロボットの手先(ハンド3)軌道を測定し、最大手先軌道逸脱量を比較する。比較実験は、製造現場で実際に使われている製品(ダイヘン社製UTM-R3700F)を用いて行う。実験動作は、関節角度θ1をロボットの最小関節角度θ1s=-1.037[rad]から最大関節角度θ1f=1.334[rad]まで動かす伸ばし動作と、最大関節角度θ1fから最小関節角度θ1sまで動かす縮め動作で行う。軌道追従制御則はロボットに組み込まれているPI制御則をそのまま用い、各ゲインも共通のものを利用する。比較対象である従来法は、実験に使用するロボット(ダイヘン社製UTM-R3700F)での機械パラメータにもとづき、角加速度α=15.31[rad/s2]、 最高角速度は機械限界の95%の大きさ(以下の数10)に設定した。
【0045】
【0046】
本実施形態により設計する関節角度目標軌道は従来法で設計した関節角度目標軌道を修正する形で設計する。本実施形態による関節角度目標軌道の設計にあたっては、従来の台形加減速による関節角度目標軌道のタクトタイム0.845[sec]の±0.01[sec]以内となるように設計することで、タクトタイムを維持したまま手先軌道逸脱量の低減ができているか評価する。
【0047】
<本実施形態による関節角度目標軌道設計>
(1)等速動作部分での最高角速度の変更
最高角速度を小さくすることによるタクトタイムの増加と手先軌道逸脱の低減の両者を考慮し、伸ばし動作と縮め動作での最高角速度を決定する。従来の台形加減速による目標軌道では機械限界の95%としていたのに対し、本実施形態では今回2つの動作(伸ばし動作および縮め動作)で機械限界の85%に設定した。
(2)伸ばし姿勢付近での角加速度の変更
伸ばし動作では、最高角速度であるθ1=0.659[rad]からθ1=1.309[rad]まで2α/3[rad/s2]で緩やかに減速し、その後、最大関節角度θ1fに達するまで1.65α[rad/s2]で大きく減速するように設定した。また、縮め動作では、最大関節角度θ1fからθ1=1.294[rad]まで1.65α[rad/s2]で大きく加速し、その後、最高角速度に達するθ1=0.470[rad]までα/2[rad/s2]で緩やかに加速するように設定した。
(3)縮め姿勢付近での角加速度の変更
上記要因(1)(2)の考慮によって増加したタクトタイムを短縮するために、縮め姿勢付近では大きな角加速度で動作させる。伸ばし動作と縮め動作の縮め姿勢付近で、従来の台形加速による目標軌道での角加速度α[rad/s2]に対し,1.65α[rad/s2]の大きな角加速度で加速するように設定した。
【0048】
図5~
図8において、上記のように設定した関節角度目標軌道を示す。
図5は、伸ばし動作における関節角度目標軌道の角速度を表す。
図6は、伸ばし動作における関節角度目標軌道の関節角度を表す。
図7は、縮め動作における関節角度目標軌道の角速度を表す。
図8は、縮め動作における関節角度目標軌道の関節角度を表す。
【0049】
<関節角度目標軌道の評価>
本実施形態で作成した関節角度目標軌道がどの程度評価指標を考慮できているかを確認する。関節角度目標軌道の評価では、関節角度目標軌道の加減速領域でのステップ数をnとし、iステップ目の時間をtiとし、以下の数11の評価式を用いた。
【0050】
【0051】
従来の台形加減速制御による関節角度目標軌道と本実施形態で作成した関節角度目標軌道に対して評価式で計算した評価値を
図9に示す。従来の台形加減速による関節角度目標軌道と比較して、本実施形態の方が、アーム伸ばし姿勢、縮め姿勢の両姿勢で評価値が小さくなっていることが確認できる。これにより、評価指標が小さい手先軌道逸脱が起きにくい姿勢で大きく加減速する設計指標を適用できていることが確認できる。
【0052】
<先端側ハンド3の最大手先軌道逸脱量による評価>
図10および
図11は、搬送ロボット(ダイヘン社製UTM-R3700F)を用いて計測した、従来法による関節角度目標軌道と本実施形態による関節角度目標軌道を用いた場合の先端側ハンド3の手先軌道波形のグラフである。
図10は、伸ばし動作における手先軌道波形を表す。
図11は、縮め動作における手先軌道波形を表す。また、
図12において、伸ばし動作および縮め動作における先端側ハンド3の最大手先軌道逸脱量を示す。
図12に示した計測値より、伸ばし動作では約18%、縮め動作では約29%の手先軌道逸脱低減を達成できている。
【0053】
次に、
図5および
図7を参照しつつ、本実施形態の作用について説明する。
【0054】
図5は、伸ばし動作における、本実施形態の制御方法と従来法の台形加減速制御の関節角度目標軌道の角速度を示している。
図5において、従来の台形加減速制御は、一定加速度区間S7、一定速度区間S8および一定減速度区間S9からなる。一定加速度区間S7は、動作開始から一定加速度で加速する区間である。一定速度区間S8は、一定速度が継続する区間である。一定減速度区間S9は、動作終了まで一定減速度で減速する区間である。
【0055】
本実施形態の制御方法は、加速区間S1、等速区間S2および減速区間S3を含む。加速区間S1は、動作開始から加速する区間である。等速区間S2は、加速区間S1の後に続き、一定速度が継続する区間である。減速区間S3は、等速区間S2の後に続き、動作終了まで減速する区間である。
【0056】
等速区間S2における角速度(第1アーム1の角速度)は、一定速度区間S8の角速度よりも小である。本実施形態の関節角度目標軌道の設計においては、一定速度区間S8の角速度が機械限界の95%であるのに対し、等速区間S2の角速度が機械限界の85%である。したがって、等速区間S2の角速度は、一定速度区間S8の角速度に対して約89%であり、約11%減少している。
【0057】
また、
図5に示した伸ばし動作では、減速区間S3は、第1区間S31および第2区間S32を有する。第1区間S31においては、第1減速度で減速し、第2区間S32においては、第1区間S31と異なる第2減速度で減速する。第1区間S31は等速区間S2に連続しており、第2区間S32は、第1区間S31に連続している。第1区間S31における第1減速度は、第2区間S32における第2減速度よりも小である。本実施形態の関節角度目標軌道の設計においては、第2区間S32における第2減速度は1.65α[rad/s
2]であり、第1区間S31における第1減速度は、当該第2加速度よりも小さい、2α/3[rad/s
2]である。
【0058】
本実施形態(伸ばし動作)のタクトタイム(加速区間の動作開始から減速区間の動作終了までの動作時間)については、上述のように、従来の台形加減速制御の0.845[sec]の±0.01[sec]以内となるように設定されており、従来法と実質的に同一に設定される。
【0059】
また、本実施形態(伸ばし動作)および台形加減速制御の両方において、最小関節角度θ1sおよび最大関節角度θ1fは同一に設定される。したがって、本実施形態(伸ばし動作)における加速区間S1から減速区間S3までの関節角度θ1の変化量(第1アーム1の角度移動量)は、従来法の台形加減速制御における一定加速度区間S7から一定減速度区間S9までの関節角度θ1の変化量(第1アーム1の角度移動量)と同一である。
【0060】
図7は、縮め動作における、本実施形態の制御方法と従来法の台形加減速制御の関節角度目標軌道の角速度を示している。
図7において、従来の台形加減速制御は、一定加速度区間S7、一定速度区間S8および一定減速度区間S9からなる。一定加速度区間S7は、動作開始から一定加速度で加速する区間である。一定速度区間S8は、一定速度が継続する区間である。一定減速度区間S9は、動作終了まで一定減速度で減速する区間である。
【0061】
本実施形態の制御方法は、加速区間S1、等速区間S2および減速区間S3を含む。加速区間S1は、動作開始から加速する区間である。等速区間S2は、加速区間S1の後に続き、一定速度が継続する区間である。減速区間S3は、等速区間S2の後に続き、動作終了まで減速する区間である。
【0062】
等速区間S2における角速度(第1アーム1の角速度)は、一定速度区間S8の角速度よりも小である。本実施形態の関節角度目標軌道の設計においては、一定速度区間S8の角速度が機械限界の95%であるのに対し、等速区間S2の角速度が機械限界の85%である。したがって、等速区間S2の角速度は、一定速度区間S8の角速度に対して約89%であり、約11%減少している。
【0063】
また、
図6に示した縮め動作では、加速区間S1は、第1区間S11および第2区間S12を有する。第1区間S11においては、第1加速度で加速し、第2区間S12においては、第1区間S11と異なる第2加速度で加速する。第1区間S11は等速区間S2に連速しており、第2区間S12は、第1区間S11に連続している。第1区間S11における第1加速度は、第2区間S12における第2加速度よりも小である。本実施形態の関節角度目標軌道の設計においては、第2区間S12における第2加速度は1.65α[rad/s
2]であり、第1区間S11における第1加速度は、当該第2加速度よりも小さい、α/2[rad/s
2]である。
【0064】
本実施形態(縮め動作)のタクトタイム(加速区間の動作開始から減速区間の動作終了までの動作時間)については、上述のように、従来の台形加減速制御の0.845[sec]の±0.01[sec]以内となるように設定されており、従来法と実質的に同一に設定される。
【0065】
また、本実施形態(縮め動作)および台形加減速制御の両方において、最小関節角度θ1sおよび最大関節角度θ1fは同一に設定される。したがって、本実施形態(縮め動作)における加速区間S1から減速区間S3までの関節角度θ1の変化量(第1アーム1の角度移動量)は、従来法の台形加減速制御における一定加速度区間S7から一定減速度区間S9までの関節角度θ1の変化量(第1アーム1の角度移動量)と同一である。
【0066】
ウエハ搬送ロボットA1において、第1アーム1、第2アーム2およびハンド3を高速で動作させると、先端側のハンド3の手先軌道逸脱を引き起こす。本実施形態の搬送ロボットの制御方法によれば、先端側ハンドの手先軌道逸脱の原因であるベルトの伸縮に着目して関節角度目標軌道を設計することで、追加の情報を取得するためのセンサ等を設置することなく、先端側のハンド3の手先目標軌道の逸脱を抑制することができる。また、本実施形態の上記制御方法によれば、動作時間(タクトタイム)を延ばすことなく、手先目標軌道の追従精度を向上することができる。
【0067】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の範囲は上記した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は、すべて本発明の範囲に包摂される。
【0068】
上記実施形態に記載した制御方法おいて、アームの伸ばし動作において減速区間S3を2段階(第1区間S31および第2区間を有する)にし、アームの縮め動作において加速区間S1を2段階(第1区間S11および第2区間を有する)構成にしたが、これに限定されない。伸ばし動作と縮め動作の双方において、加速区間および減速区間のいずれにおいても2段階(第1区間および第2区間を有する)での加減速を行うように構成してもよい。また、加速区間あるいは減速区間において3段階以上での加減速を行うように構成してもよい。
【0069】
本発明に係る制御方法を実行する対象となる搬送ロボットについて、上記実施形態において例示したロボットに限定されず、様々なベルト駆動型の水平多関節ロボットに対して本発明に係る制御方法を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0070】
A1:ウエハ搬送ロボット、1:第1アーム、2:第2アーム、3;ハンド、O1:第1垂直軸線、O2:第2垂直軸線、O3:第3垂直軸線、S1:加速区間、S11:第1区間、S12:第2区間、S2:等速区間、S3:減速区間、S31:第1区間、S32:第2区間、S7:一定加速度区間、S8:一定速度区間、S9:一定減速度区間