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特開2025-2133カーボンナノチューブ分散液の製造方法
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  • 特開-カーボンナノチューブ分散液の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002133
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/174 20170101AFI20241226BHJP
【FI】
C01B32/174
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102077
(22)【出願日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】本郷 孝剛
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146AB06
4G146AC30B
4G146BA04
4G146BB11
4G146CB09
4G146CB10
4G146CB26
4G146CB37
4G146DA07
(57)【要約】
【課題】フィルターの詰まりの発生を効果的に抑制することができる、CNT分散液の製造方法を提供する。
【解決手段】pHが1.0未満であるCNT粗分散液を準備する手順1と、CNT粗分散液のpHが1.0以上1.5以下の範囲となるようにpH調整する手順2と、pH調整されたCNT粗分散液をクロスフロー濾過して、精製処理CNT分散液と濾液とに分離する手順3と、を含む、カーボンナノチューブ分散液の製造方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが1.0未満であるカーボンナノチューブ粗分散液を準備する手順1と、
前記カーボンナノチューブ粗分散液のpHが1.0以上1.5以下の範囲となるようにpH調整する手順2と、
pH調整された前記カーボンナノチューブ粗分散液をクロスフロー濾過して、精製処理カーボンナノチューブ分散液と濾液とに分離する手順3と、
を含む、カーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法において、
前記手順3にて得られた前記精製処理カーボンナノチューブ分散液に対して、少なくとも1回以上クロスフロー濾過を繰り返し実施して再精製カーボンナノチューブ分散液を得る手順4を含む、カーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法において、
前記手順4で得られた再精製カーボンナノチューブ分散液の濃度およびpHの少なくともいずれかを調整して調整済精製カーボンナノチューブ分散液を得る手順5を含む、カーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法において、
前記調整済精製カーボンナノチューブ分散液に対して超音波処理を行う手順6を含む、カーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項5】
カーボンナノチューブ粗分散液を精製して精製カーボンナノチューブ分散液を製造する方法であって、
pHが1.0以上1.5以下の範囲に調整された前記カーボンナノチューブ粗分散液をタンク内に収容する手順Aと、
前記タンク内に収容された前記カーボンナノチューブ粗分散液のpHが4.0超8.0以下の範囲となるようにpH調整する手順Bと、
前記手順BでpH調整された前記カーボンナノチューブ粗分散液に対して超音波処理を行う手順Cと、
前記手順Cで超音波処理された前記カーボンナノチューブ粗分散液をクロスフロー濾過することにより、精製処理カーボンナノチューブ分散液と濾液とに分離する手順Dと、
を含む、カーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法において、
前記手順Dにおいて分離された前記精製処理カーボンナノチューブ分散液に対して、少なくとも1回以上、前記手順Cおよび前記手順Dを繰り返して実施して再精製カーボンナノチューブ分散液を得る手順Eを含む、カーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法において、
前記手順Eで得られた前記再精製カーボンナノチューブ分散液の濃度およびpHの少なくともいずれかを調整する手順Fを含む、カーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法において、
前記手順Fで得られた調整済精製カーボンナノチューブ分散液に対して超音波処理を行う手順Gを含む、カーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項9】
pHが1.0未満であるカーボンナノチューブ粗分散液を準備する手順1と、
前記カーボンナノチューブ粗分散液のpHが1.0以上1.5以下の範囲となるようにpH調整する手順2と、
前記手順2で得られたpH調整済カーボンナノチューブ粗分散液をクロスフロー濾過して、精製処理カーボンナノチューブ分散液と濾液とに分離する手順3と、
前記手順3を経た後の前記精製処理カーボンナノチューブ分散液をタンク内に収容する手順Aと、
前記タンク内に収容された前記精製処理カーボンナノチューブ分散液のpHが4.0超8.0以下の範囲となるようにpH調整する手順Bと、
前記手順BでpH調整された前記カーボンナノチューブ分散液に対して超音波処理を行う手順Cと、
前記手順Cで超音波処理された前記カーボンナノチューブ分散液をクロスフロー濾過することにより、精製処理カーボンナノチューブ分散液と濾液とに分離する手順Dと、
を含む、カーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法において、
前記手順Dにおいて分離された前記精製処理カーボンナノチューブ分散液に対して、少なくとも1回以上、前記手順Cおよび前記手順Dを繰り返し実施して再精製カーボンナノチューブ分散液を得る手順Eを含む、カーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法において、
前記手順Eで得られた前記再精製カーボンナノチューブ分散液の濃度およびpHの少なくともいずれかを調整する手順Fを含む、カーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法において、
前記手順Fで得られた調整済の前記精製カーボンナノチューブ分散液に対して超音波処理を行う手順Gを含む、カーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ分散液の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量であると共に、導電性及び機械的特性等に優れる材料として、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)が注目されている。
【0003】
ここで、CNTは、一本一本の特性は優れているものの、外径が小さいためファンデルワールス力によってバンドル化し易い。そのため、CNTを一旦分散媒に分散させてカーボンナノチューブ分散液を調製することが従来行われている。そして得られたCNT分散液は、複数本のCNTが集合してなる炭素膜の製造、及び、CNTとエラストマーとを含んでなるエラストマー成形体の製造などに用いられることがある。
【0004】
カーボンナノチューブ分散液を製造する際には、不純物等、及び過剰な添加成分等を除去する等の目的の下、ろ過が行われることがある。引用文献1には、フィルターモジュールと、処理液槽と、循環ポンプと、補充液槽と、処理液の圧力を測定するセンサと、補充液槽から処理液槽へ供給される補充液の量を測定する補充液測定部と、を備え、補充液が処理液槽へ連続的に補充されるように構成されたクロスフロー濾過装置を用いたクロスフロー濾過方法が提案されている。引用文献1には、このようなクロスフロー濾過方法によりナノメートル領域のサイズを有する炭素材料、すなわち、ナノカーボンを分散してなる分散液を濾過する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/064565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来のクロスフロー濾過方法には、フィルターの詰まりの発生を抑制するという点で改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、フィルターの詰まりの発生を効果的に抑制することができる、カーボンナノチューブ分散液の製造方法を適用することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、CNT分散液のpHを特定の範囲としてから、クロスフロー濾過することで、フィルターの詰まりの発生を効果的に抑制可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、[1]本発明のカーボンナノチューブ分散液の製造方法は、pHが1.0未満であるカーボンナノチューブ粗分散液を準備する手順1と、前記カーボンナノチューブ粗分散液のpHが1.0以上1.5以下の範囲となるようにpH調整する手順2と、pH調整された前記カーボンナノチューブ粗分散液をクロスフロー濾過して、精製処理カーボンナノチューブ分散液と濾液とに分離する手順3と、を含むことを特徴とする。かかる製造方法によれば、フィルターの詰まりの発生を効果的に抑制しつつCNT分散液を効率的に製造することができる。ここで、pHは温度25℃におけるpHを意味する。
【0010】
[2]ここで、上記[1]のカーボンナノチューブ分散液の製造方法において、前記手順3にて得られた前記精製処理カーボンナノチューブ分散液に対して、少なくとも1回以上クロスフロー濾過を繰り返し実施して再精製カーボンナノチューブ分散液を得る手順4を含むことが好ましい。かかる製造方法によれば、一層良好にCNT分散液を精製することができる。
【0011】
[3]また、上記[2]のカーボンナノチューブ分散液の製造方法において、前記手順4で得られた再精製カーボンナノチューブ分散液の濃度およびpHの少なくともいずれかを調整して調整済精製カーボンナノチューブ分散液を得る手順5を含んでもよい。
【0012】
[4]さらに、上記[3]のカーボンナノチューブ分散液の製造方法において、前記調整済精製カーボンナノチューブ分散液に対して超音波処理を行う手順6を含むことが好ましい。かかる製造方法によれば、分散性に優れるCNT分散液を得ることができる。
【0013】
また、この発明は上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、[5]本発明のカーボンナノチューブ分散液の製造方法は、カーボンナノチューブ粗分散液を精製して精製カーボンナノチューブ分散液を製造する方法であって、pHが1.0以上1.5以下の範囲に調整された前記カーボンナノチューブ粗分散液をタンク内に収容する手順Aと、前記タンク内に収容された前記カーボンナノチューブ粗分散液のpHが4.0超8.0以下の範囲となるようにpH調整する手順Bと、前記手順BでpH調整された前記カーボンナノチューブ粗分散液に対して超音波処理を行う手順Cと、前記手順Cで超音波処理された前記カーボンナノチューブ粗分散液をクロスフロー濾過することにより、精製処理カーボンナノチューブ分散液と濾液とに分離する手順Dと、を含むことを特徴とする。かかる製造方法によれば、フィルターの詰まりの発生を効果的に抑制しつつCNT分散液を効率的に製造することができる。
【0014】
[6]ここで、上記[5]のカーボンナノチューブ分散液の製造方法において、前記手順Dにおいて分離された前記精製処理カーボンナノチューブ分散液に対して、少なくとも1回以上、前記手順Cおよび前記手順Dを繰り返して実施して再精製カーボンナノチューブ分散液を得る手順Eを含むことが好ましい。かかる製造方法によれば、一層良好にCNT分散液を精製することができる。
【0015】
[7]また、上記[6]のカーボンナノチューブ分散液の製造方法において、前記手順Eで得られた前記再精製カーボンナノチューブ分散液の濃度およびpHの少なくともいずれかを調整する手順Fを含んでもよい。
【0016】
[8]さらに、上記[7]のカーボンナノチューブ分散液の製造方法において、前記手順Fで得られた調整済精製カーボンナノチューブ分散液に対して超音波処理を行う手順Gを含むことが好ましい。かかる製造方法によれば、分散性に優れるCNT分散液を得ることができる。
【0017】
また、この発明は上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、[9]本発明のカーボンナノチューブ分散液の製造方法は、pHが1.0未満であるカーボンナノチューブ粗分散液を準備する手順1と、前記カーボンナノチューブ粗分散液のpHが1.0以上1.5以下の範囲となるようにpH調整する手順2と、前記手順2で得られたpH調整済カーボンナノチューブ粗分散液をクロスフロー濾過して、精製処理カーボンナノチューブ分散液と濾液とに分離する手順3と、前記手順3を経た後の前記精製処理カーボンナノチューブ分散液をタンク内に収容する手順Aと、前記タンク内に収容された前記精製処理カーボンナノチューブ分散液のpHが4.0超8.0以下の範囲となるようにpH調整する手順Bと、前記手順BでpH調整された前記カーボンナノチューブ分散液に対して超音波処理を行う手順Cと、前記手順Cで超音波処理された前記カーボンナノチューブ分散液をクロスフロー濾過することにより、精製処理カーボンナノチューブ分散液と濾液とに分離する手順Dと、を含むことを特徴とする。かかる製造方法によれば、フィルターの詰まりの発生を効果的に抑制しつつCNT分散液を効率的に製造することができる。
【0018】
[10]ここで、上記[9]のカーボンナノチューブ分散液の製造方法において、前記手順Dにおいて分離された前記精製処理カーボンナノチューブ分散液に対して、少なくとも1回以上、前記手順Cおよび前記手順Dを繰り返し実施して再精製カーボンナノチューブ分散液を得る手順Eを含むことが好ましい。かかる製造方法によれば、一層良好にCNT分散液を精製することができる。
【0019】
[11]また、上記[10]のカーボンナノチューブ分散液の製造方法において、前記手順Eで得られた前記再精製カーボンナノチューブ分散液の濃度およびpHの少なくともいずれかを調整する手順Fを含んでもよい。
【0020】
[12]さらに、上記[11]のカーボンナノチューブ分散液の製造方法において、前記手順Fで得られた調整済の前記精製カーボンナノチューブ分散液に対して超音波処理を行う手順Gを含むことが好ましい。かかる製造方法によれば、分散性に優れるCNT分散液を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、フィルターの詰まりの発生を効果的に抑制することができる、カーボンナノチューブ分散液の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明のカーボンナノチューブ分散液の製造方法を実施可能な装置の一例を示す、概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。以下においては、理解促進の観点から、図1に示す装置構成にて本発明のCNT分散液の製造方法を実施するものとして説明するが、本発明のCNT分散液の製造方法は、図1に示す物理的な装置構成により実施されることに何ら限定されるものではない。
【0024】
(第一の態様にかかるCNT分散液の製造方法)
本発明の第一の態様にかかるCNT分散液の製造方法は、CNT粗分散液を精製して精製CNT分散液を製造する方法であって、pHが1.0未満であるCNT粗分散液を準備する手順1と、CNT粗分散液のpHが1.0以上1.5以下の範囲となるようにpH調整する手順2と、pH調整されたCNT粗分散液をクロスフロー濾過して、精製処理CNT分散液と濾液とに分離する手順3と、を含むことを特徴とする。かかる本発明の第一の態様にかかるCNT分散液の製造方法によれば、フィルターの詰まりの発生を効果的に抑制することができる。さらに、第一の態様にかかるCNT分散液の製造方法は、任意で、手順3にて得られた精製処理CNT分散液に対して、少なくとも1回以上クロスフロー濾過を繰り返し実施して再精製CNT分散液を得る手順4、手順4で得られた再精製CNT分散液の濃度およびpHの少なくともいずれかを調整して調整済精製CNT分散液を得る手順5、及び調整済精製CNT分散液に対して超音波処理を行う手順6を含むことが好ましい。
【0025】
以下、一例として、図1に示す概略構成を満たす装置により第一の態様にかかるCNT分散液の製造方法が実施されるものとして説明する。図1に示すCNT分散液製造装置100は、第1タンク10、第2タンク20、仕上げユニット30、第1濾過ユニット40、及び第2濾過ユニット50を備えうる。図1において装置100内部を流れる流体の流れ方向は矢印で示す。ここで、「流体」とは装置100内を流れるCNT粗分散液及びCNT分散液などを総称する用語として用いる。第1タンク10には、CNT粗分散液供給部11及び第1pH調整部12が接続されている。また、第1タンク10には、第1供給ラインSL1が接続され、これは、第1循環ラインCL1へと接続されている。第1循環ラインCL1には、第1循環ポンプP1及び第1濾過ユニット40が、流れ方向においてこの順に接続されている。さらに、流れ方向において、第1濾過ユニット40の後段であって、第1供給ラインSL1と第1循環ラインCL1との接続部より前に、第2供給ラインSL2が接続されている。第2供給ラインSL2は、第1送液ポンプP2を備えており、第1送液ポンプP2により押し出された流体は、図示しない切換え弁により、第3供給ラインSL3へと流出するか、或いは、第2タンク20へと流入する。なお、第3供給ラインSL3へと流出した流体は、仕上げユニット30に流入する。そして、第2タンク20には第2pH調整部21が接続されている。さらに、第2タンク20には、第4供給ラインSL4が接続され、これは、第2循環ラインCL2へと接続されている。第2循環ラインCL2には、第2循環ポンプP3及び第2濾過ユニット50が、流れ方向においてこの順に接続されている。さらに、流れ方向において、第2濾過ユニット50の後段であって、第4供給ラインSL4と第2循環ラインCL2との接続部より前に、第5供給ラインSL5が接続されている。そして、第5供給ラインSL5は、第2送液ポンプP4を備えており、その駆動力により流体が仕上げユニット30へと流入する。仕上げユニット30には、調整部31が接続されており、収容した流体のpH及び/又はCNT濃度を調整するように構成されている。そして、仕上げユニット30を経た流体は、第6供給ラインSL6を経て、適した方途に従って所望の容器などに充填され、CNT分散液製品となりうる。
【0026】
図1に示す第1濾過ユニット40及び第2濾過ユニット50は、クロスフロー濾過ユニットであり、図示しないが、内部にフィルターモジュールを備える。そして、第1濾過ユニット40においてクロスフロー濾過されて得られた濾液、すなわち廃液は、第1濾液コンテナ41に収容される。同様に、第2濾過ユニット50においてクロスフロー濾過されて得られた濾液、すなわち廃液は、第2濾液コンテナ51に収容される。また、図示しないが、第2タンク20及び仕上げユニット30は、超音波発生装置S1、S2をそれぞれ備えており、内部に収容した流体を超音波処理可能に構成されている。なお、超音波発生装置の取付位置は、これら図示の態様に限定されない。例えば、超音波発生装置S1は、第2タンク20に加えて/代えて第4供給ラインSL4及び/又は第2循環ラインCL2に備えられていてもよい。
【0027】
さらに、図1に示す装置100は、流れ方向において、第2濾過ユニット50の後段であって、第4供給ラインSL4と第2循環ラインCL2との接続部より前に、大循環ラインCL3を備えていることが好ましい。大循環ラインCL3と第5供給ラインSL5との相対的な位置関係は、図示の態様に限定されず、大循環ラインCL3が第5供給ラインSL5よりも流れ方向で前段にて第2循環ラインCL2に対して接続されていてもよい。
【0028】
<手順1>
手順1においては、pHが1.0未満であるCNT粗分散液を準備する。手順1の実施位置は特に限定されないが、例えば、図1に示す装置100に備えられるCNT粗分散液供給部11又はその前段でありうる。手順1にて準備されたpHが1.0未満であるCNT粗分散液は、CNT粗分散液供給部11内にCNT粗分散液収容される。CNT粗分散液供給部11内に収容されたCNT粗分散液は、第1タンク10に順次供給される。
【0029】
ここで、手順1にて準備するCNT粗分散液のpHは、0.9以下であってもよく、0.7以下であってもよく、0.5以下であってもよい。なお、CNT粗分散液のpHの下限値は特に限定されないが、例えば0.1以上でありうる。
【0030】
<分散媒>
分散媒としては、特に限定されないが、水、水溶性有機溶媒を好ましく用いることができる。ここで、水溶性有機溶媒としては、エタノール、メタノール、イソプロパノール、1-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、エチレングリコール、及びブチルアルコールを挙げることができる。分散媒は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。そして分散媒としては、水が好ましい。
【0031】
<CNT>
CNTとしては、単層CNTおよび/または多層CNTを用いることができるが、CNTは、単層から5層までのCNTであることが好ましく、単層CNTであることがより好ましい。また、CNTとしては、各種のCNTに対して酸処理等の酸化処理を施すことにより、特定の官能基が付与されたCNTを用いることもできる。
【0032】
ここで、CNTは、BET比表面積が、600m/g以上であることが好ましく、800m/g以上であることがより好ましく、2000m/g以下であることが好ましく、1800m/g以下であることがより好ましく、1600m/g以下であることが更に好ましい。なお、本発明において、「BET比表面積」とは、BET(Brunauer-Emmett-Teller)法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
【0033】
CNTの平均直径は、1nm以上であることが好ましく、60nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。なお、本発明において、「CNTの平均直径」は、透過型電子顕微鏡(TEM)画像上で、例えば、20本のCNTについて直径(外径)を測定し、個数平均値を算出することで求めることができる。
【0034】
また、CNTは、平均長さが、10μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることが更に好ましく、100μm以上であることが特に好ましく、600μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、400μm以下であることが更に好ましい。平均長さが上記範囲内であるCNTは、CNT粗分散液中において凝集しにくい。
【0035】
更に、CNTは、通常、アスペクト比(長さ/直径)が10超である。なお、CNTのアスペクト比は、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて、無作為に選択したCNT100本の直径および長さを測定し、直径と長さとの比(長さ/直径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0036】
また、CNTとしては、平均直径(Av)に対する、直径の標準偏差(σ:標本標準偏差)に3を乗じた値(3σ)の比(3σ/Av)が0.20超0.60以下のCNTを用いることが好ましく、3σ/Avが0.25超のCNTを用いることがより好ましく、3σ/Avが0.40超のCNTを用いることが更に好ましい。
なお、CNTの平均直径(Av)および標準偏差(σ)は、CNTの製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られたCNTを複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
【0037】
そして、CNTとしては、前述のようにして測定した直径を横軸に、その頻度を縦軸に取ってプロットし、ガウシアンで近似した際に、正規分布を取るものが通常使用される。
【0038】
また、CNTは、吸着等温線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示すことが好ましい。なお、「t-プロット」は、窒素ガス吸着法により測定されたCNTの吸着等温線において、相対圧を窒素ガス吸着層の平均厚みt(nm)に変換することにより得ることができる。すなわち、窒素ガス吸着層の平均厚みtを相対圧P/Pに対してプロットした、既知の標準等温線から、相対圧に対応する窒素ガス吸着層の平均厚みtを求めて上記変換を行うことにより、CNTのt-プロットが得られる(de Boerらによるt-プロット法)。
【0039】
ここで、表面に細孔を有する物質では、窒素ガス吸着層の成長は、次の(1)~(3)の過程に分類される。そして、下記の(1)~(3)の過程によって、t-プロットの傾きに変化が生じる。
(1)全表面への窒素分子の単分子吸着層形成過程
(2)多分子吸着層形成とそれに伴う細孔内での毛管凝縮充填過程
(3)細孔が窒素によって満たされた見かけ上の非多孔性表面への多分子吸着層形成過程
【0040】
そして、上に凸な形状を示すt-プロットは、窒素ガス吸着層の平均厚みtが小さい領域では、原点を通る直線上にプロットが位置するのに対し、tが大きくなると、プロットが当該直線から下にずれた位置となる。かかるt-プロットの形状を有するCNTは、CNTの全比表面積に対する内部比表面積の割合が大きく、CNTに多数の開口が形成されていることを示している。
【0041】
なお、CNTのt-プロットの屈曲点は、0.2≦t(nm)≦1.5を満たす範囲にあることが好ましく、0.45≦t(nm)≦1.5の範囲にあることがより好ましく、0.55≦t(nm)≦1.0の範囲にあることが更に好ましい。CNTのt-プロットの屈曲点がかかる範囲内にあれば、CNTの分散性が高まりうる。具体的には、屈曲点の値が0.2未満であれば、CNTが凝集し易く分散性が低下し、屈曲点の値が1.5超であればCNT同士が絡み合いやすくなり分散性が低下する虞がある。
なお、「屈曲点の位置」は、前述した(1)の過程の近似直線Aと、前述した(3)の過程の近似直線Bとの交点である。
【0042】
更にCNTは、t-プロットから得られる全比表面積S1に対する内部比表面積S2の比(S2/S1)が0.05以上0.30以下であるのが好ましい。CNTのS2/S1の値がかかる範囲内であれば、CNTの分散性が高まりうる。
ここで、CNTの全比表面積S1および内部比表面積S2は、そのt-プロットから求めることができる。具体的には、まず、(1)の過程の近似直線の傾きから全比表面積S1を、(3)の過程の近似直線の傾きから外部比表面積S3を、それぞれ求めることができる。そして、全比表面積S1から外部比表面積S3を差し引くことにより、内部比表面積S2を算出することができる。
【0043】
因みに、CNTの吸着等温線の測定、t-プロットの作成、および、t-プロットの解析に基づく全比表面積S1と内部比表面積S2との算出は、例えば、市販の測定装置である「BELSORP(登録商標)-mini」(マイクロトラック・ベル社製)を用いて行うことができる。
【0044】
更に、CNTは、ラマン分光法を用いて評価した際に、Radial Breathing Mode(RBM)のピークを有することが好ましい。なお、三層以上の多層CNTのラマンスペクトルには、RBMが存在しない。
【0045】
また、CNTは、ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)が0.5以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましく、3.0以上であることがさらに好ましく、150以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましく、5.0以下であることが更に好ましい。
【0046】
なお、CNTは、特に限定されることなく、アーク放電法、レーザーアブレーション法、化学的気相成長法(CVD法)などの既知のCNTの合成方法を用いて製造することができる。具体的には、CNTは、例えば、CNT製造用の触媒層を表面に有する基材上に原料化合物およびキャリアガスを供給し、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)に準じて、効率的に製造することができる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるCNTを「SGCNT」と称することがある。
そして、スーパーグロース法により製造されたCNTは、SGCNTのみから構成されていてもよいし、SGCNTに加え、例えば、非円筒形状の炭素ナノ構造体等その他の炭素成分を含んでいてもよい。
【0047】
また、CNT粗分散液は、任意で界面活性剤などの添加剤を含有していてもよい。界面活性剤としては特に限定されることなく、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤などが想定されうる。これらの界面活性剤としては、本件技術分野において既知のものが想定されうる。また、CNT粗分散液は、不可避的に合成条件に由来する金属不純物などを含有し得る。
【0048】
さらに、CNT粗分散液は、CNTの表面処理などの目的の下に配合されうる、酸化剤を含有していてもよい。そのような酸化剤としては、特に限定されることなく、硝酸、過酸化水素、硫酸、及び塩酸、並びにこれらの塩などを用いることができる。中でも、硝酸のアンモニウム塩である硝酸アンモニウムが好ましい。CNT粗分散液中の酸化剤濃度は、pHが上記範囲内となる限りにおいて特に限定されないが、1.0質量%以上15.0質量%以下でありうる。ここで、酸化剤として硝酸を用いた場合、CNT粗分散液中の酸化剤濃度は1.0質量%以上であることが好ましい。
【0049】
ここで、CNT粗分散液中のCNTの濃度は、3.0質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以下であることがより好ましく、2.0質量%以下であることが更に好ましい。なお、CNT粗分散液中のCNTの濃度の下限値は特に限定されないが、0.01質量%以上でありうる。CNT粗分散液中のCNTの濃度が上記上限値以下であれば、フィルターの詰まりの発生を一層効果的に抑制することができる。
【0050】
<手順2>
手順2では、手順1で準備したCNT粗分散液のpHが1.0以上1.5以下の範囲となるように、CNT粗分散液のpHを調整する。具体的には、手順2では、CNT粗分散液に対して水などを添加することにより、手順1で準備したpHが1.0未満であるCNT粗分散液のpHを1.0以上1.5以下の範囲になるように調整する。
【0051】
ここで、手順2において、CNT粗分散液のpHを1.1以上にすることが好ましく、1.2以上にすることがより好ましく、1.4以下とすることが好ましい。CNT粗分散液のpHを上記範囲内としてクロスフロー濾過することで、フィルターの詰まりの発生を一層効果的に抑制することができる。
【0052】
手順2においてpHを調整した後のCNT粗分散液中の酸化剤濃度は、pHが上記範囲内となる限りにおいて特に限定されないが、0.1質量%以上1.0質量%以下でありうる。特に、酸化剤として硝酸を用いた場合、調整した後のCNT粗分散液中の酸化剤濃度は0.1質量%以上であることが好ましい。
【0053】
図1に示す装置100においては、第1タンク10内にて、手順2が実施される。なお、第1タンク10内には、CNT粗分散液供給部11からCNT粗分散液が供給される。また、第1タンク10内には、第1pH調整部12からpH調整剤が供給され、CNT粗分散液のpHを調整する。pH調整剤としては、CNT粗分散液のpHを1.0未満から1.0以上に調整できる限りにおいて特に限定されることなく、水及び緩衝剤などを用いることができる。中でも、手順2においてはCNT粗分散液に対して水を添加してpHを1.0以上とすることが好ましい。なお、緩衝剤としては、特に限定されないが、アンモニア水および硝酸アンモニウム水溶液等を用いることができる。
【0054】
<手順3、手順4>
手順3では、pH調整されたCNT粗分散液をクロスフロー濾過して、精製処理CNT分散液と濾液とに分離する。図1に示す装置100においては第1濾過ユニット40は、例えば、フィルターとしてのセラミック膜を内蔵したフィルターモジュールを備えている。ここで、クロスフロー濾過とは、フィルター表面に対し平行な流れを作ることで、ろ過対象物中の懸濁物質などがフィルター表面に堆積することを抑制しながら濾過を行う方式である。フィルターにより隔てられる領域の内、フィルターを通過する前の領域を一次領域、フィルターを通過した後の領域を二次領域と称するものとする。CNT粗分散液のクロスフロー濾過においては、一次領域側をCNT粗分散液がフィルターモジュール内のフィルター表面に対し平行に流れつつ、一部の液分及び不要成分を二次側領域に移行させる。これにより、CNT粗分散液の純度を高めて精製処理CNT分散液とすることができる。
【0055】
図1に示す装置100においては、第1タンク10から第1供給ラインSL1を経て、第1循環ラインCL1へと、CNT粗分散液が供給される。第1循環ラインCL1内では、第1循環ポンプP1によりCNT粗分散液が第1濾過ユニット40に送り込まれる。第1濾過ユニット40にてクロスフロー濾過された精製処理CNT分散液は、第1循環ラインCL1内を、さらに少なくとも1回以上循環して、複数回にわたり第1濾過ユニット40にてクロスフロー濾過されることが好ましい(手順4)。すなわち、手順4においては、少なくとも1回以上クロスフロー濾過を繰り返し実施して再精製CNT分散液を得る。そして、手順4で得られた再精製CNT分散液は、第2供給ラインSL2へと流出する。
【0056】
<手順5>
手順5においては、上述した手順4で得られた再精製CNT分散液の濃度およびpHの少なくともいずれかを調整して調整済精製CNT分散液を得る。図1に示す装置100においては、手順5は、仕上げユニット30にて実施される。この際、手順4を経て第2供給ラインSL2へと流出した再精製CNT分散液は、第3供給ラインSL3を経て、仕上げユニット30へと流入する。仕上げユニット30に接続された調整部31は、分散媒である水、及び/又は、pH調整剤を仕上げユニット30に対して添加可能に構成されている。pH調整剤としては特に限定されることなく、水及び緩衝剤を挙げることができる。また、緩衝剤としては、特に限定されないが、アンモニア水および硝酸アンモニウム水溶液等を用いることができる。
【0057】
手順5においてpHを調整する場合の目標とするpHは、4.5以上であることが好ましく、5.5以上であることがより好ましく、8.0以下であることが好ましく、7.5以下であることがより好ましい。
【0058】
また、手順5において濃度を調整する場合の目標とする濃度は、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以下であってもよい。
【0059】
<手順6>
ここで、手順5で得られた調整済精製CNT分散液に対して超音波処理を行うことが好ましい。得られるCNT分散液の分散性を一層高めることができるからである。超音波処理条件は特に限定されることなく、常法に従う。図1に示す装置100においては、仕上げユニット30に備えられる超音波発生装置S2により発生された超音波により、仕上げユニット30内に収容される調整済精製CNT分散液が超音波処理される。かかる製造方法によれば、分散性に優れるCNT分散液を得ることができる。なお、超音波処理条件は、CNTを良好に分散させ得る限りにおいて特に限定されないが、例えば、15W/L以上30W/L以下、且つ、周波数25kHz以上40kHz以下の範囲でありうる。また、超音波処理時間もCNTを良好に分散させ得る限りにおいて特に限定されないが、例えば、2時間以上30時間以下の範囲でありうる。
【0060】
(第二の態様にかかるCNT分散液の製造方法)
本発明の第二の実施形態にかかるCNT分散液の製造方法は、pHが1.0以上1.5以下の範囲に調整されたCNT粗分散液をタンク内に収容する手順Aと、タンク内に収容されたCNT粗分散液のpHが4.0超8.0以下の範囲となるようにpH調整する手順Bと、手順BでpH調整されたCNT粗分散液に対して超音波処理を行う手順Cと、手順Cで超音波処理されたCNT粗分散液をクロスフロー濾過することにより、精製処理CNT分散液と濾液とに分離する手順Dと、を含むことを特徴とする。さらに、本発明の第二の実施形態にかかるCNT分散液の製造方法は、手順Dにおいて分離された精製処理CNT分散液に対して、少なくとも1回以上、手順Cおよび手順Dを繰り返して実施して再精製CNT分散液を得る手順E、手順Eで得られた再精製CNT分散液の濃度およびpHの少なくともいずれかを調整する手順F、及び手順Fで得られた調整済精製CNT分散液に対して超音波処理を行う手順Gを含むことが好ましい。
【0061】
以下、一例として、図1に示す概略構成を満たす装置により第二の態様にかかるCNT分散液の製造方法が実施されるものとして説明する。
【0062】
<手順A>
手順Aでは、pHが1.0以上1.5以下の範囲に調整されたCNT粗分散液をタンク内に収容する。図1に示す装置100においては、第2タンク20内に所定のCNT粗分散液を収容する。ここで、pHが1.0以上1.5以下の範囲に調整されたCNT粗分散液は上述した第一の態様にかかるCNT分散液の製造方法の手順3又は4を経て製造されたものであってもよいし、別途の方途に従って準備されたものであってもよい。
【0063】
手順Aにおいてタンク内に収容するCNT粗分散液のpHは、1.1以上が好ましく、1.2以上がより好ましく、1.4以下が好ましい。
【0064】
また、手順Aにおいてタンク内に収容されるCNT粗分散液中の酸化剤濃度は、pHが上記範囲内となる限りにおいて特に限定されないが、0.1質量%以上1.0質量%以下でありうる。ここで、酸化剤として硝酸を用いた場合、CNT粗分散液中の酸化剤濃度は0.1質量%以上であることが好ましい。
【0065】
また、手順Aにおいてタンク内に収容するCNT粗分散液の中のCNTの濃度は、3.0質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以下であることがより好ましく、2.0質量%以下であることが更に好ましい。なお、CNT粗分散液中のCNTの濃度の下限値は特に限定されないが、0.01質量%以上でありうる。CNT粗分散液中のCNTの濃度が上記上限値以下であれば、フィルターの詰まりの発生を一層効果的に抑制することができる。
【0066】
なお、CNT粗分散液に含有される、CNT、分散媒、及び任意の添加剤などについては、第一の態様にかかるCNT分散液の製造方法の場合と同様である。
【0067】
<手順B>
手順Bでは、タンク内に収容されたCNT粗分散液のpHが4.0超8.0以下の範囲となるようにpH調整する。具体的には、手順Bでは、CNT粗分散液に対して硝安水などのpH調整剤を添加することにより、手順Aで準備したpHが1.0以上1.5以下の範囲であるCNT粗分散液のpHを4.0超8.0以下の範囲になるように調整する。なお、硝安水とは、アンモニア、硝酸アンモニウム、及び水の混合物であり、pH7程度のpH調整剤である。手順Bで用いるpH調整剤はこれに限定されず、水及び上記したような既知の緩衝液を用いることができる。
【0068】
ここで、手順Bにおいて、CNT粗分散液のpHを4.5以上とすることが好ましく、5.5以上とすることがより好ましく、7.5以下とすることが好ましい。pHをかかる範囲内とすることによって、得られるCNT分散液の分散安定性を一層高めることができる。
【0069】
また、手順BにおいてpH調整されたCNT粗分散液中の酸化剤濃度は、pHが上記範囲内となる限りにおいて特に限定されないが、0.001質量%以上0.05質量%以下でありうる。
【0070】
図1に示す装置100においては、第2タンク20内において手順Bが実施される。pH調整剤は、第2タンク20に対して接続された第2pH調整部21から第2タンク20に対して供給される。
【0071】
<手順C>
手順Cでは、手順BでpH調整されたCNT粗分散液に対して超音波処理を行う。超音波処理方法は特に限定されることなく、常法に従う。手順Cにおいて、すなわち、CNT粗分散液のpHを4.0超8.0以下の範囲にした後に、超音波処理することで、CNT粗分散液の分散性を向上させて粘度を下げることができ、これにより、フィルターのつまりの発生を効果的に抑制することができる。また、クロスフローライン中での気泡の発生も抑制することができ、気泡に起因するクロスフロー濾過中の移送トラブルを抑制することができる。なお、上述した手順Aの時点、換言すると、CNT粗分散液のpHが1.5以下であるタイミングにおいては、CNT粗分散液に対して超音波処理をしないことが好ましい。本発明者らの検討によれば、pHが1.5以下であるタイミングにCNT粗分散液を超音波処理してしまえば、却ってフィルターの詰まりを発生しやすくする傾向があることが明らかとなったからである。
【0072】
図1に示す装置100においては、第2タンク20に取り付けられた超音波発生装置S1により発生された超音波により、第2タンク20内に収容されたCNT粗分散液が超音波処理される。そして、超音波処理されたCNT粗分散液は、第4供給ラインSL4に供給される。
【0073】
<手順D、手順E>
手順Dでは、手順Cで超音波処理されたCNT粗分散液をクロスフロー濾過することにより、精製処理CNT分散液と濾液とに分離する。図1に示す装置100においては第2濾過ユニット50は、第1濾過ユニット40と同様に、例えば、フィルターとしてのセラミック膜を内蔵したフィルターモジュールを備えている。そして、装置100においては、第2タンク20から第4供給ラインSL4を経て、第2循環ラインCL2へと、CNT粗分散液が供給される。第2循環ラインCL2内では、第2循環ポンプP3によりCNT粗分散液が第2濾過ユニット50に送り込まれる。第2濾過ユニット50にてクロスフロー濾過された精製処理CNT分散液は、第2循環ラインCL2を経て、さらには、大循環ラインCL3を経て第2タンク20を経て、そこで超音波処理に供されること(すなわち、手順C)を、少なくとも1回以上繰り返して、複数回にわたり第2濾過ユニット50にてクロスフロー濾過されることが好ましい(手順E)。すなわち、手順Eにおいては、少なくとも1回以上手順C及び手順Dを繰り返し実施して再精製CNT分散液を得る。第2濾過ユニット50にてクロスフロー濾過された精製処理CNT分散液が、さらに、大循環ラインCL3を経て第2タンク20を経て、そこで超音波処理に供されることで、精製処理CNT分散液を比較的長時間にわたり超音波処理することができ、分散性が一層向上し得る。その結果、一層良好にフィルターの詰まり発生を抑制することができる。
【0074】
そして、手順D、Eを経て得られた精製処理CNT分散液中における酸化剤濃度は、0.0001質量%未満であることが好ましく、検出機器の検出限界値未満であることがより好ましい。
【0075】
<手順F>
手順Fにおいては、手順Eで得られた再精製CNT分散液の濃度およびpHの少なくともいずれかを調整する。図1に示す装置100においては、手順Fは、仕上げユニット30にて実施される。この際、手順Eで得られた再精製CNT分散液は、第5供給ラインSL5へと流出し、第2送液ポンプP4により押し出されて仕上げユニット30へと流入する。ここで、仕上げユニット30における再精製CNT分散液の濃度及びpHの少なくともいずれかの調整は、上述した第一の態様における手順5と同様である。すなわち、仕上げユニット30に接続された調整部31は、水、及び/又は、pH調整剤を仕上げユニット30に対して必要に応じて添加して、再精製CNT分散液の濃度及びpHの少なくともいずれかを調整する。
【0076】
<手順G>
手順Gにおいては、手順Fで得られた調整済精製CNT分散液に対して超音波処理を行う。図1に示す装置100においては、手順Gは、仕上げユニット30にて実施される。ここで、仕上げユニット30における超音波処理は、上述した第一の態様における手順6と同様である。手順Gにおいて超音波処理を実施することで、得られるCNT分散液の分散性を高めることができる。
【0077】
(第三の態様にかかるCNT分散液の製造方法)
本発明の第三の実施形態にかかるCNT分散液の製造方法は、上述した第一の態様と第二の態様とを組み合わせたものである。具体的には、pHが1.0未満であるCNT粗分散液を準備する手順1と、CNT粗分散液のpHが1.0以上1.5以下の範囲となるようにpH調整する手順2と、手順2で得られたpH調整済CNT粗分散液をクロスフロー濾過して、精製処理CNT分散液と濾液とに分離する手順3と、精製処理CNT分散液をタンク内に収容する手順Aと、タンク内に収容された前記精製処理CNT分散液のpHが4.0超8.0以下の範囲となるようにpH調整する手順Bと、手順BでpH調整されたCNT分散液に対して超音波処理を行う手順Cと、手順Cで超音波処理されたCNT分散液をクロスフロー濾過することにより、精製処理CNT分散液と濾液とに分離する手順Dとを含むことを特徴とする。このように、手順1でpHが1.0未満であった粗分散液のpHを一気に中性まで調整するのではなく、段階的に、すなわち、手順2において、CNT粗分散液のpHを1.0以上1.5以下の範囲となるように調整し、さらに、手順Bにおいて4.0超8.0以下の範囲になるように、精製しつつ調整することで、急激なpH変化に起因してCNTの凝集が発生することを一層効果的に抑制して、クロスフロー濾過におけるフィルターの詰まりの発生を効果的に抑制することができる。
【0078】
また、上述した第二の態様と同じく、第三の態様においても、手順Dにおいて分離された精製処理CNT分散液に対して、少なくとも1回以上、手順Cおよび手順Dを繰り返し実施して再精製CNT分散液を得る手順Eを含むことが好ましい。
【0079】
さらに、上述した第二の態様と同じく、第三の態様においても、手順Eで得られた再精製CNT分散液の濃度およびpHの少なくともいずれかを調整する手順Fを含むことが好ましい。
【0080】
そして、上述した第二の態様と同じく、第三の態様においても、手順Fで得られた調整済の精製CNT分散液に対して超音波処理を行う手順Gを含むことが好ましい。
【実施例0081】
以下、本発明について実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例において、流体のpH及びフィルターの詰まりは以下に従って評価した。
【0082】
<pH>
CNT粗分散液など、装置内の流体のpHは、温度25℃においてpHメータ(堀場アドバンスドテクノ社製「D-71」)を用いて測定した。
【0083】
<フィルター詰まり>
フィルター詰まりは、下記基準に従って判定した。
(1)濾過ユニットから濾液コンテナへ流れる流量が設定量の95%以下で10分以上続いた場合
(2)濾過ユニットおよび濾液コンテナ間の圧力が循環ポンプのアウト側の圧力の1/3以下で10分以上続いた場合
上記(1)または(2)のどちらかの状態が発生した時までの、連続運転開始からの経過時間で判定する。
A:クロスフローろ過開始から連続運転5日以上
B:クロスフローろ過開始から連続運転1日超~5日未満
C:クロスフローろ過開始から連続運転1日以下
【0084】
(実施例1、2、比較例1~3)
単層CNTとしてのSGCNT(日本ゼオン社製、「ZEONANO(登録商標)SG101」、開口処理なし、BET比表面積:1,230m/g、平均直径:3.3nm、平均長さ:400μm、t-プロットは上に凸(屈曲点の位置:0.6nm)、内部比表面積S2/全比表面積S1:0.24)8.0gと、70%濃度の硝酸105gと、分散媒としての水55gとを混合し、還流温度112.8℃にて12時間還流させた液に対して9%濃度の硝酸と水とで洗浄して、硝酸処理済CNTを得た。
次いで、得られた硝酸処理済CNT1.35gと、分散媒としての水85.75gと、70%濃度の硝酸12.9gを混合することにより、pH1.0未満のCNT粗分散液を準備した。CNT粗分散液における硝酸濃度は9.0質量%であった。
図1に示す装置100と同じ構造を満たす装置を用いて、上記CNT粗分散液をクロスフロー濾過して、精製処理カーボンナノチューブ分散液と濾液とに分離することで、CNT分散液を製造した。その際、実施例1、2、及び比較例1~3において、第1タンク10におけるpHを表1に示す通りとなるように調整した。そして、第1濾過ユニット40におけるフィルター詰まりについて上記に従ってそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0085】
(実施例3~5、比較例4,5)
上記実施例1に係る処理を経て、pHが1.0以上1.5以下の範囲に調整されたCNT粗分散液を、図1に示す装置100と同じ構造を満たす装置における第2タンク20内に収容し、pHが表1に示す通りとなるように、CNT粗分散液に対して水を添加した。さらに、表1に示す通り、実施例3~5及び比較例4においては、第2タンク20にて超音波処理を実施した。なお、超音波処理を実施した例における超音波処理条件は22W/L且つ周波数40kHzであった。そして、第2濾過ユニット50におけるフィルター詰まりについて上記に従ってそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示す実施例1の評価結果から明らかなように、pHが1.0未満であるカーボンナノチューブ粗分散液を準備し、かかるカーボンナノチューブ粗分散液のpHが1.0以上1.5以下の範囲となるようにpH調整し、さらにpH調整されたカーボンナノチューブ粗分散液をクロスフロー濾過して、精製処理カーボンナノチューブ分散液と濾液とに分離することで、フィルターの詰まりの発生を効果的に抑制することができることが分かる。
また、表1に示す実施例3~5の評価結果から明らかなように、pHが1.0以上1.5以下の範囲に調整されたカーボンナノチューブ粗分散液をタンク内に収容してから、かかるカーボンナノチューブ粗分散液のpHが4.0超8.0以下の範囲となるようにpH調整し、さらに、pH調整されたカーボンナノチューブ粗分散液に対して超音波処理を行って、超音波処理されたカーボンナノチューブ粗分散液をクロスフロー濾過することにより、精製処理カーボンナノチューブ分散液と濾液とに分離することで、フィルターの詰まりの発生を効果的に抑制することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、フィルターの詰まりの発生を効果的に抑制することができる、CNT分散液の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0089】
10 第1タンク
11 CNT粗分散液供給部
12 第1pH調整部
20 第2タンク
21 第2pH調整部
30 仕上げユニット
31 調整部
40 第1濾過ユニット
41 第1濾液コンテナ
50 第2濾過ユニット
51 第2濾液コンテナ
CL1 第1循環ライン
CL2 第2循環ライン
CL3 大循環ライン
P1 第1循環ポンプ
P2 第1送液ポンプ
P3 第2循環ポンプ
P4 第2送液ポンプ
SL1 第1供給ライン
SL2 第2供給ライン
SL3 第3供給ライン
SL4 第4供給ライン
SL5 第5供給ライン
SL6 第6供給ライン
S1,S2 超音波発生装置
図1