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特開2025-21524オレフィンメタセシス反応用有機金属錯体触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025021524
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】オレフィンメタセシス反応用有機金属錯体触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/22 20060101AFI20250206BHJP
   C07C 43/235 20060101ALI20250206BHJP
   C07F 7/10 20060101ALI20250206BHJP
   C07F 15/00 20060101ALI20250206BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20250206BHJP
【FI】
B01J31/22 Z
C07C43/235
C07F7/10 T
C07F15/00 A
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023125278
(22)【出願日】2023-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】崔 準哲
(72)【発明者】
【氏名】深谷 訓久
(72)【発明者】
【氏名】松本 和弘
(72)【発明者】
【氏名】水崎 智照
(72)【発明者】
【氏名】高木 由紀夫
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
4H049
4H050
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BE05B
4G169BE13A
4G169BE13B
4G169BE38A
4G169BE38B
4G169BE45A
4G169BE46B
4G169CB44
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB40
4H006BB11
4H006GP03
4H039CA29
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ59
4H049VR24
4H049VS59
4H049VT17
4H049VU33
4H049VV02
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB40
4H050BB11
4H050WB11
4H050WB13
4H050WB21
(57)【要約】
【課題】オレフィンメタセシス反応において従来の触媒よりも耐水性に優れる有機金属錯体触媒を提供する。
【解決手段】オレフィンメタセシス反応に使用される有機金属錯体触媒であって、下記式(1)で表される化学構造を有している、オレフィンメタセシス反応用有機金属錯体触媒。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィンメタセシス反応に使用される有機金属錯体触媒であって、
下記式(1)で表される化学構造を有している、
オレフィンメタセシス反応用有機金属錯体触媒。
【化1】
[式(1)中、
Mは配位中心であり、Ruの原子又はそのイオンを示し、
、R及びRは同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基、及びアリール基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基であり、
、R、R、R、R、及びRは同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヒドロキシ基、ヒドロキシレート基、チオカルボキシ基、ジチオカルボキシ基、スルホ基、スルフィノ基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、ヒドラジノカルボニル基、アミジノ基、シアノ基、イソシアノ基、シアナト基、イソシアナト基、チオシアナト基、イソチオシアナト基、ホルミル基、オキソ基、チオホルミル基、チオキソ基、メルカプト基、アミノ基、イミノ基、ヒドラジノ基、アリロキシ基、スルフィド基、ニトロ基、及びシリル基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基であり、
Xは前記配位中心Mに配位可能なハロゲン原子を示し、
1015は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヒドロキシ基、ヒドロキシレート基、チオカルボキシ基、ジチオカルボキシ基、スル
ホ基、スルフィノ基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、ヒドラジノカルボニル基、アミジノ基、シアノ基、イソシアノ基、シアナト基、イソシアナト基、チオシアナト基、イソチオシアナト基、ホルミル基、オキソ基、チオホルミル基、チオキソ基、メルカプト基、アミノ基、イミノ基、ヒドラジノ基、アリロキシ基、スルフィドキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基、及びアリール基を示す。]
【請求項2】
下記式(2)で示される化学構造を有している、
請求項1に記載のオレフィンメタセシス反応用有機金属錯体触媒。
【化2】
【請求項3】
非環状オレフィン化合物のホモメタセシス反応に使用される、
請求項1又は2に記載のオレフィンメタセシス反応用有機金属錯体触媒。






【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオレフィンメタセシス反応に使用される有機金属錯体触媒に関する。より詳しくは、含窒素ヘテロ環状カルベンの構造を含む配位子を有し、オレフィンメタセシス反応に使用されるルテニウムを配位中心とする有機金属錯体触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン化合物の開環メタセシス重合、閉環メタセシス反応、非環状オレフィンのクロスメタセシス反応、ホモメタセシス反応、非環状ジエンのメタセシス重合等のオレフィンメタセシス反応は工業的に有用な反応である。
【0003】
オレフィンメタセシス反応に用いられる触媒としては、例えば特許文献1(特開2004-506755号公報)に開示されているように、第二世代のHoveyda-Grubbs触媒や、比較例にある第一世代のGrubbs触媒が知られている。
【0004】
これに対し、本出願人は、特許文献2(国際公開2023-048084号公報)に開示されているように、特に閉環オレフィンメタセシス反応において目的物の高い収率を得るという観点から鋭意検討を重ね、下記式(3)で示されるいわゆるホスフィン型のオレフィンメタセシス反応用有機金属錯体触媒を発明しかつ出願した。
【化1】
【0005】
なお、式(3)中、Meはメチル基を示し、Phはフェニル基を示し、PCyはトリシクロヘキシルホスフィンを示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-506755号公報
【特許文献2】国際公開2023-048084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、溶媒を含む微小の水分が存在しても分解しにくく耐水性に優れるという観点からは、上述した式(3)の従来技術の触媒であっても未だ改善の余地があることを本発明者らは見出した。
本発明は、かかる技術的事情に鑑みてなされたものであって、オレフィンメタセシス反応において従来の触媒よりも耐水性に優れる有機金属錯体触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述の課題の解決に向けて鋭意検討を行った結果、錯体部分において配位中心Mとフェニル基とが環状構造を形成する下記式(1)で示される構造を有する有機金属錯体触媒の構成が有効であることを見出した。
【0009】
より具体的には、本発明は、以下の技術的事項から構成される。
すなわち、本発明は、
オレフィンメタセシス反応に使用される有機金属錯体触媒であって、
下記式(1)で表される化学構造を有している、
オレフィンメタセシス反応用有機金属錯体触媒を提供する。
【化2】
【0010】
ここで、式(1)中、Mは配位中心であり、Ruの原子又はそのイオンを示す。
また、R、R及びRは同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基、及びアリール基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基である。
【0011】
更に、R、R、R、R、R、及びRは同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヒドロキシ基、ヒドロキシレート基、チオカルボキシ基、ジチオカルボキシ基、スルホ基、スルフィノ基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、ヒドラジノカルボニル基、アミジノ基、シアノ基、イソシアノ基、シアナト基、イソシアナト基、チオシアナト基、イソチオシアナト基、ホルミル基、オキソ基、チオホルミル基、チオキソ基、メルカプト基、アミノ基、イミノ基、ヒドラジノ基、アリロキシ基、スルフィド基、ニトロ基、及びシリル基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基である。
【0012】
また、式(1)中、Xは前記配位中心Mに配位可能なハロゲン原子を示す。
更に、R~R13は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヒドロキシ基、ヒドロキシレート基、チオカルボキシ基、ジチオカルボキシ基、スルホ基、スルフィノ基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、ヒドラジノカルボニル基、アミジノ基、シアノ基、イソシアノ基、シアナト基、イソシアナト基、チオシアナト基、イソチオシアナト基、ホルミル基、オキソ基、チオホルミル基、チオキソ基、メルカプト基、アミノ基、イミノ基、ヒドラジノ基、アリロキシ基、スルフィドキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基、及びアリール基を示す。
【0013】
上述の構成を有する本発明の有機金属錯体触媒は、オレフィンメタセシス反応において先に述べた先行技術文献に例示した従来の触媒(Grubbs触媒等)よりも耐水性に優れる。しかも、本発明の有機金属錯体触媒は非環状オレフィン化合物のホモメタセシス反応に好適に用いられる。
【0014】
本発明の有機金属錯体触媒が耐水性に優れる詳細なメカニズムは解明されていないが、本発明者らは、以下のように推察している。
すなわち、本発明者らは従来の触媒がイミダゾール環のNHCの構造における4位又は5位のバックボーン炭素に水素原子が結合している構造(IPr配位子の構造)を有しているのに対し、本発明の有機金属錯体触媒はNHCの構造における4位又は5位のバックボーン炭素に先に述べたシリル基(-SiR)が結合した構造となっていることが目的物の収率の向上に寄与していると推察している。
【0015】
また、本発明の有機金属錯体触媒はイミダゾール環のNHCの構造における4位又は5位の炭素原子(以下、必要に応じて「バックボーン炭素」という。) にシリル基(-SiR)が結合した構造となっていることが目的物の収率の向上に寄与していると推察される。
【0016】
更に、本発明の効果をより確実に得る観点から、本発明のオレフィンメタセシス反応用有機金属錯体触媒は、下記式(2)で表される構造を有していることが好ましい。
【化3】
【0017】
ここで、式(2)中、Meはメチル基を示す。
【0018】
また、本発明の効果をより確実に得る観点から、本発明の有機金属錯体触媒は非環状オレフィン化合物のホモメタセシス反応に使用されることが好ましい。
【0019】
本発明の有機金属錯体触媒は、第二世代のGrubbs触媒に対し、IPr配位子の4位又は5位のバックボーン炭素にシリル基(-SiR)が更に結合した構造となっており、第二世代のGrubbs触媒が適用されるオレフィンメタセシス反応に対して同様に適用することが可能である。また、第一世代のGrubbs触媒の構造も取り込んだ構造となっており、したがって第一世代のGrubbs触媒が適用されるオレフィンメタセシス反応に対して同様に適用することが可能であるとも言える。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、オレフィンメタセシス反応において従来の触媒よりも耐水性に優れる有機金属錯体触媒が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1の有機金属錯体触媒{TMSIPrRu}について得られたH NMRのスペクトルを示すグラフである。
図2】実施例1の有機金属錯体触媒{TMSIPrRu}について得られた13C NMRのスペクトルを示すグラフである。
図3】実施例1の有機金属錯体触媒{TMSIPrRu}について得られた29Si NMRのスペクトルを示すグラフである。
図4】実施例1の有機金属錯体触媒{TMSIPrRu}及び比較例1の触媒(HG)について得られたGC測定の結果を示すグラフである。
図5】実施例1及び比較例3の有機金属錯体触媒についての耐水性の評価の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0023】
<オレフィンメタセシス反応用有機金属錯体触媒の構成>
本実施形態のオレフィンメタセシス反応用有機金属錯体触媒は、オレフィンメタセシス反応、好ましくは非環状オレフィン化合物のホモメタセシス反応に使用される有機金属錯体触媒であって、下記式(1)で表される構造を有している。
【化4】
【0024】
ここで、式(1)中、Mは配位中心であり、Ruの原子又はそのイオンを示す。
また、R、R及びRは同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基、及びアリール基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基である。
【0025】
更に、R、R、R、R、R、及びRは同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヒドロキシ基、ヒドロキシレート基、チオカルボキシ基、ジチオカルボキシ基、スルホ基、スルフィノ基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、ヒドラジノカルボニル基、アミジノ基、シアノ基、イソシアノ基、シアナト基、イソシアナト基、チオシアナト基、イソチオシアナト基、ホルミル基、オキソ基、チオホルミル基、チオキソ基、メルカプト基、アミノ基、イミノ基、ヒドラジノ基、アリロキシ基、スルフィド基、ニトロ基、及びシリル基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基である。
【0026】
また、式(1)中、Xは前記配位中心Mに配位可能なハロゲン原子を示す。
更に、R10~R15は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヒドロキシ基、ヒドロキシレート基、チオカルボキシ基、ジチオカルボキシ基、スルホ基、スルフィノ基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、ヒドラジノカルボニル基、アミジノ基、シアノ基、イソシアノ基、シアナト基、イソシアナト基、チオシアナト基、イソチオシアナト基、ホルミル基、オキソ基、チオホルミル基、チオキソ基、メルカプト基、アミノ基、イミノ基、ヒドラジノ基、アリロキシ基、スルフィドキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基、及びアリール基を示す。
【0027】
上述の構成を有する本実施形態の配位子を構成材料とする本実施形態のオレフィンメタセシス反応用有機金属錯体触媒は、オレフィンメタセシス反応において従来のGrubbs触媒よりも目的物の高い収率を得ることができ、また、耐水性に優れる。
【0028】
本実施形態のオレフィンメタセシス反応用有機金属錯体触媒が目的物の高い収率を得ることができる詳細なメカニズムは解明されていないが、本発明者らは、以下のように推察している。
すなわち、本発明者らは従来の触媒がイミダゾール環のNHCの構造における4位又は5位のバックボーン炭素に水素原子が結合している構造(IPr配位子(式(P1))の構造)を有しているのに対し、本発明の有機金属錯体触媒はNHCの構造における4位又は5位のバックボーン炭素に先に述べたシリル基(-SiR)が結合した構造となっていることが目的物の収率の向上に寄与していると推察している。
【0029】
ここで、配位中心Mは、Ruの原子又はそのイオンである。
、R及びRのうちの少なくとも一つは、本発明の効果をより確実に得る観点から、アルキル基又はアルコキシ基であることが好ましい。より好ましくは、炭素数1~3のアルキル基又はアルコキシ基であることが好ましい。
、R、R、R、R、及びRはのうちの少なくとも一つは、本発明の効果をより確実に得る観点から、炭素数1~3のアルキル基であることが好ましい。
【0030】
Xは、本発明の効果をより確実に得る観点及び原料の入手容易性から、ハロゲン原子のうちClであることが子好ましい。
10~R15は、本発明の効果をより確実に得る観点から、配位中心Mに配位可能なπ結合を有する炭素数3~10の置換基であることが好ましく、好ましい配位中心Ruに配位可能なπ結合を有する炭素数3~9の置換基であることがより好ましい。
【0031】
更に、本発明の効果をより確実に得る観点から、本発明のオレフィンメタセシス反応用有機金属錯体触媒は、下記式(2)で表される構造を有していることが好ましい。
【化5】
【0032】
ここで、式(2)中、Meはメチル基を示す。
【0033】
本実施形態によれば、オレフィンメタセシス反応において従来の触媒よりも目的物の高い収率を得ることのできる有機金属錯体触媒が提供される。また、本発明の効果をより確実に得る観点から、本発明の有機金属錯体触媒は非環状オレフィン化合物のメタセシス反応に使用されることが好ましい。
【0034】
更に、本発明の有機金属錯体触媒は、第二世代のGrubbs触媒に対し、IPr配位子の4位又は5位のバックボーン炭素にシリル基(-SiR)が更に結合した構造となっており、第二世代のGrubbs触媒が適用されるオレフィンメタセシス反応に対して同様に適用することが可能である。また、第一世代のGrubbs触媒の構造も取り込んだ構造となっており、したがって第一世代のGrubbs触媒が適用されるオレフィンメタセシス反応に対して同様に適用することが可能であるとも言える。
【0035】
<有機金属錯体触媒の製造方法の好適な実施形態>
本実施形態のオレフィンメタセシス反応用有機金属錯体触媒は、特に限定されず公知の配位子の合成方法、錯体触媒の合成手法を組合せ、最適化することで製造することができる。
【0036】
本実施形態のオレフィンメタセシス反応用有機金属錯体触媒の製造方法は、
下記式(4)で示されるNHC構造を有する配位子を合成する第1工程と、
上記式(1)中の配位中心MとハロゲンXと置換基Rとを含む錯体を合成する第2工程と、
第1工程で得られたNHC構造を有する配位子と第2工程で得られた錯体とを反応させ本実施形態のオレフィンメタセシス反応用有機金属錯体触媒を合成する第3工程と、
を含む。
【化6】
【0037】
ここで、式(4)中、R、R、R、R、R、R及びRは、式(1)中のR、R、R、R、R、R、R、R及びRと同一の置換基を示す。
【0038】
第2工程に使用する、式(1)中の配位中心MとハロゲンXと置換基Rとを含む錯体としては、下記式(HG1)で示される(ジクロロ2-イソポロポキシフェニルメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(II)に代表される第一世代のHoveyda―Grubbs触媒を使用することができる。
【化7】
【0039】
更に、本実施形態のオレフィンメタセシス反応用有機金属錯体触媒の製造方法には、第3工程の後に得られる本実施形態のオレフィンメタセシス反応用有機金属錯体触媒を精製する第4工程が更に含まれていてもよい。第4工程の精製手法は公知の精製手法を採用することができる。例えば、所定の溶媒を使用する再結晶法を採用してもよい。
【0040】
本実施形態のオレフィンメタセシス反応用有機金属錯体触媒の製造方法によれば、当該配位子を使用したオレフィンメタセシス反応用の有機金属錯体触媒であって、オレフィンメタセシス反応において従来の触媒よりも目的物の高い収率を得ることができる耐水性の高い有機金属錯体触媒を確実に製造することができる。
【0041】
また、本実施形態の製造方法によれば、本実施形態の配位子を使用したオレフィンメタセシス反応用の有機金属錯体触媒であって、オレフィンメタセシス反応において従来の触媒よりも目的物の高い収率を得ることができる耐水性の高い本実施形態のオレフィンメタセシス反応用有機金属錯体触媒をより容易かつより確実に製造することができる。
【0042】
従来、バックボーン炭素の水素を他の置換基に置換したNHC構造を有する配位子の合成には多段階の合成ステップを必要としたが、本発明の製造方法では、4位又は5位のバックボーン炭素に水素が結合した配位子をベースに比較的少ない合成ステップでかつ比較的穏和な条件で4位又は5位のバックボーン炭素にシリル基が結合した配位子が高収率で合成可能である。しかも、本発明の製造方法では、原料のケイ素試薬を変えることで様々な種類のシリル基を4位又は5位のバックボーン炭素に結合した水素の部分に導入することができる。
【0043】
例えば、本実施形態の製造方法によれば、下記式(C1)及び(C2)に例示すように、IPrから、最終生成物(NHC構造を有する配位子のバックボーン炭素の水素をシリル基で置換した配位子を有する有機Ru錯体触媒)を得るまでに必要な合成ステップは比較的少ない3ステップにすることができる。
【化8】
【化9】
【0044】
ここで、式(C1)中、BuLiはCHCHCHCHLiを示し、THFは、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)を示し、Meはメチル基を示し、Phはフェニル基を示し、PCyはトリシクロヘキシルホスフィンを示す。
【0045】
式(C1)に示した合成方法は、例えば、非特許文献:「Wang, Y et al., J. Am. Chem. Soc., 2010, 132, 14370. 」に事例が記載されている。
他方、式(C2)の合成方法は本発明者らが見出した簡便な合成方法である。例えば、市販の第一世代のHoveyda―Grubbs触媒を使用することができる。
【実施例0046】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
(分析装置の説明)
以下に説明する実施例及び比較例の有機金属錯体触媒を合成する際の分析については、以下の装置を使用した。
〔NMRスペクトル〕
H NMR、13C NMRスペクトル及び29Si NMRの測定には、Bruker社製のBruker Biospin Avance400(400 MHz)を使用して測定を行った。配位子の測定はいずれも脱水した重溶媒を使用した。これは、配位子の分解防止のためである。
【0048】
[実施例1]
上記式(2)に示した有機金属錯体触媒(以下、必要に応じて「TMSIPrRu」又は「TMS-IPrRu」と表記する。)を、以下の手順で合成した。
【0049】
[実施例1 第1工程-1]NHC構造を有する配位子「IPr」の合成
2,6-ジイソプロピルアニリンを出発原料として、NHC構造を有する配位子「IPr」{1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン}の合成を行った。
具体的には、学術論文(Tang, P., Wang, W., Ritter, T. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 11482、及び、Pompeo, M., Froese, R. D. J., Hadei, N., Organ, M. G. Angew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 11354)に記載の手法を参考にして、下記反応式(R1)~(R3)で示される3つのステップを経て合成した。
H NMRを用いて同定を行いIPr及び中間生成物が合成できていることを確認した。
【化10】
式(R1)中、MeOHはメタノールを示し、HOAcは酢酸を示す。
【0050】
式(R1)中の中間生成物1の合成手順について説明する。
50mLナスフラスコに2,6-ジイソプロピルアニリン6.00g(33.8mmol)、メタノール30mL、酢酸0.31mL(3.5mol%)を加え、50℃に加熱した。次に、グリオキサール40%aq.2.40g(0.5eq.)とメタノール10mLの混合溶液を滴下した。混合液は滴下していくにつれて無色透明な溶液から黄色の透明な溶液へと変化した。15分、50℃で撹拌後、室温に戻してさらに11時間撹拌した。室温まで冷えると、黄色の固体が析出してきた。反応終了後、メンブレンフィルターを用いてろ過を行い、メタノールで固体を洗浄した。洗浄した際、目的の中間生成物1はメタノールに少量溶けてしまうので、ろ液を回収し溶媒除去を行い、得られた固体を少量のメタノールで再び洗浄、ろ過を行った。1回目と2回目で得られた黄色の固体を合わせて、乾燥した。
式(R1)中の中間生成物1(黄色の粉末固体)の収量5.49g、収率86.0%であった。
【化11】
【0051】
式(R2)中、TMSClはクロロトリメチルシランを示し、EtOAcは酢酸エチルを示す。
【0052】
式(R2)中の中間生成物2の合成手順について説明する。
500mLナスフラスコに(1E,2E)-1,2-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニルイミノ)エタン3.80g(10.08mmol)、パラホルムアルデヒド0.32 g (10.66 mmol)、酢酸エチル83mLを加え、70℃に加熱した。混合液は黄色のスラリー状の溶液状態であった。次に、クロロトリメチルシラン0.34mL(10.66 mmol)と酢酸エチル8mLの混合溶液を20分かけて滴下した。その後、70℃、2時間撹拌した。黄色からオレンジ色に溶媒の色が変化した。反応終了後、氷水につけて、0℃まで冷やした。冷却後、メンブレンフィルターによってろ過し、酢酸エチルによって固体を洗浄した。その後、真空乾燥し薄いピンク色の粉末固体を得た。
式(R2)中の中間生成物2(白色の粉末固体)の収量3.96g、収率92.5%であった。
【化12】
【0053】
式(R3)中、BuOKは(CHCOKを示し、THFはテトラヒドロフランを示す。
【0054】
式(R3)中の生成物3「IPr」の合成手順について説明する。
不活性ガス雰囲気下において、25mLシュレンクに1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾリウムクロリド0.43g(1.01mmol)、BuOK0.14g(1.21mmol)、脱水THF5mLを加えて、室温にて3.5時間撹拌した。白色の溶液から茶色の溶液へ変化した。反応終了後に溶媒除去を行い、脱水トルエン5mLを加え、50℃にて加熱撹拌することで固体を溶解させた。その後、脱水ヘキサンを5mL加えた。溶液中の塩(KCl)を取り除くために、グローブボックス内でセライトろ過を行った。茶色の透明な溶液を得た。溶媒除去を行い、真空乾燥し、茶色の粉末固体を得た。
式(R3)中の生成物3「IPr」(茶色の粉末固体)の収量0.30g、収率78.0%であった。
【0055】
H NMRを用いて同定を行いIPr及び中間生成物(式(R1)中の中間生成物1、式(R2)中の中間生成物2)が合成できていることを確認した。
反応式(R1)~(R3)に示したNHC構造を有する配位子のそれぞれについてH NMR スペクトルを測定し確認した。式(R1)中の中間生成物1のH NMR スペクトル測定では重溶媒(deuterated solvent)としてCDClを使用した。(R2)中の中間生成物2のH NMR スペクトル測定では重溶媒としてCDCNを使用した。式(R3)中の生成物3で示されるIPrのH NMR スペクトル測定では重溶媒としてCを使用した。
【0056】
中間生成物1の測定結果を以下に示す。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz): δ8.10 (s, 2H), 7.20-7.13 (m, 6H), 2.94 (m, 4H), 1.21 (d, 24H, J = 6.8 Hz)
【0057】
中間生成物2の測定結果を以下に示す。
1H NMR (CD3CN, 400 MHz): δ9.35 (s, 1H), 7.87 (s, 2H), 7.65 (t, 2H, J = 7.5 Hz), 7.47 (d, 4H, J = 7.7 Hz), 2.41 (m, 4H), 1.26 (d, 12H, J = 6.8 Hz), 1.20 (d, 12H, J = 6.8 Hz)
【0058】
生成物3「IPr」の測定結果を以下に示す。
1H NMR (C6D6, 400 MHz): δ7.31-7.27 (m, 2H), 7.19-7.17 (m, 4H), 6.61 (s, 2H), 2.96 (m, 4H), 1.29 (d, 12H, J = 6.8 Hz), 1.18 (d, 12H, J = 7.0 Hz)
【0059】
[実施例1 第1工程-2]IPrのNHC構造における4位炭素にトリメチルシリル基を結合させた配位子の合成
先に述べた第1工程-1で得られた配位子IPrを用いて、下記式(4-1)で示されるNHC構造を有する配位子の合成を行った。
【化13】
【0060】
具体的には、学術論文(Wang,Y., Xie, Yaming., Abraham, M. Y., Wei, P., Schaeferlll, H. F., Schleyer, P. R., Robinson, G. H. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 14370)に記載の手法を改良し、下記反応式(R4)で示される2つのステップを経て、IPr(反応物3)のNHC構造における4位炭素にトリメチルシリル基(-SiMe、以下必要に応じて「TMS基」という)を結合させた式(4-1)で示される配位子{以下、必要に応じて「TMSIPr」という}の合成を行った。
【化14】
【0061】
式(R4)中、BuLiはCHCHCHCHLiを示し、THFはテトラヒドロフランを示す。
【0062】
式(R4)中の中間生成物4(Li-IPr)の合成手順を説明する。
先ずグローブボックス内にて300mLナスフラスコにIPr(反応物3)10.79g(27.62mmol)と脱水ヘキサン100mLを加え、得られた液を室温で30分撹拌した。次に、得られた懸濁液に、BuLiをゆっくり滴下し、室温下において、1晩撹拌を続け反応させた。薄い茶色のスラリー状の溶液から黄色のスラリー状の溶液へ変化した。反応終了後、メンブレンフィルターにてろ過し、脱水ヘキサンで洗浄した。得られた黄色の粉末固体{式(R4)中の中間生成物4(リチオ化物:Li-IPr)}を乾燥させた。
式(R4)中の中間生成物4(黄色の粉末固体)の収量 10.0g、収率 92.0%であった。
【0063】
次に、式(R4)中の生成物5(TMSIPr)の合成手順について説明する。
先ず、グローブボックス内にて50mLシュレンクに中間生成物4(Li-IPr)0.78g(1.98mmol)と脱水THF25mLを加え溶解させた。次に、クロロトリメチルシラン(ClSiMe、以下、必要に応じて「ClTMS」という)0.26mL(2.04mmol)をゆっくり滴下し、25分反応させ、反応終了後、溶媒除去を行った。
グローブボックス内にて、固体生成物に脱水トルエンを10mL加えて溶解させ、得られた液を遠沈管に移した。遠沈管内の液に4000rpm、6分、室温の条件で遠心分離処理を行い、塩(LiCl)を分離した。次に、得られたろ液をフィルター(advantec社製、0.2μm)に通して50mLシュレンクに分離した。次に溶媒除去を行い、黄色の粉末固体(TMSIPr、すなわち、目的の配位子5)を得た。
式(R4)中の生成物5「TMSIPr」(黄色の粉末固体)の収量0.901g、収率98.9%であった。
【0064】
H NMRを用いて同定を行い、IPr(反応物3)のNHC構造における4位炭素に結合した水素原子のリチオ化が進行し、TMSIPr(目的の配位子5)が合成できていることを確認した。
【0065】
生成物5「TMSIPr」(目的の配位子5)の測定結果を以下に示す。
1H NMR (C6D6, 400 MHz): δ=7.33-7.27 (m, 2H), 7.21-7.17 (m, 4H), 6.89 (s, 2H), 3.04 (m, 2H), 2.84 (m, 2H), 1.40 (d, 6H, J = 6.8 Hz), 1.28 (d, 12H, J =6.8 Hz, 6.9 Hz), 1.18 (d, 6H, J = 6.9 Hz), 0.05 ppm (s, 9H)。
【0066】
H NMR の結果より、IPr(反応物3)のNHC構造における4位炭素にTMS基が結合したことによりPr基の-CH由来のプロトンピークが左右非対称となり2つに分裂していること確認した。
【0067】
また、原料の消費が確認され、0ppm付近にTMS基のメチル基由来のピークが観測された。化学シフトや積分値が文献と一致したことからTMSIPr(目的の配位子5)が合成できたことを確認した。また、BuLiによるIPr(反応物3)のリチオ化が十分に進行していることが確認された。
【0068】
[実施例1 第2工程]
先に述べた式(HG1)で示した市販の第一世代のHoveyda―Grubbs触媒(アルドリッチ社製、商品名「ホベイダ-グラブスM700」)を準備した。
【0069】
[実施例1 第3工程]
第1工程で得られたNHC構造を有する配位子と、第2工程で準備した第一世代のHoveyda―Grubbs触媒との反応>
第1工程で得られたNHC構造を有する配位子(TMSIPr)と第2工程で準備した第一世代のHoveyda―Grubbs触媒とを用いて下記反応式(R5)で示す反応を行い実施例1の有機金属錯体触媒「TMSIPrRu」を合成した。
この第3工程は本発明者らが独自に反応条件を検討したものである。
【化15】
【0070】
グローブボックス内で配位子(TMSIPr)(116mg、0.250mmol)を30mLシュレンク管に投入し、脱水トルエン(7mL)を加えた。他のバイアルに、第一世代Hoveyda-Grubbs触媒:(ジクロロ2-イソポロポキシフェニルメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(II)(HG1)(150mg、0.25mmol)を秤量し、脱水トルエン(3mL)に溶解させた。第一世代Hoveyda-Grubbs/トルエン溶液をシュレンク管に滴下し、室温で一晩攪拌した。
【0071】
反応終了後、トルエンを留去し、30分真空乾燥した。得られた固体を脱水ヘキサンに溶解させた後、13.5mLバイアルに投入し、-40℃で再結晶を行った。再結晶後、メンブレンフィルターを用いてろ過を行い、目的物であるくすんだ黄色粉末TMSIPrRuを得た(485mg、収率62%)。
【0072】
[実施例1 同定]
TMSIPrRuの同定は、H NMR、13C NMR、29Si NMR、によって確認した。これらの3種類のNMR測定では重溶媒としてCを使用した。
図1に実施例1の有機金属錯体触媒{TMSIPrRu}について得られたH NMRのスペクトルを示す。図2に実施例1の有機金属錯体触媒{TMSIPrRu}について得られた13C NMRのスペクトルを示す。図3に実施例1の有機金属錯体触媒{TMSIPrRu}について得られた29Si NMR、のスペクトルを示す。
【0073】
1H NMR (400MHz, C6D6): δ(ppm)= 16.64 (s, Ru=CH, 1H), 7.46-7.20 (m, HAr, 6H), 7.20-7.00 (m, HAr, 2H), 6.69 (t, J = 5.0 Hz, HAr, 1H), 6.33 (d, J = 5.5 Hz, HAr, 1H), 4.46 (sept, J = 4.1 Hz, OCH(CH3)2, 1 H), 3.65 (sept, J = 4.5 Hz, CH(CH3)2, 2H), 3.12 (sept, J = 4.5 Hz, CH(CH3)2, 2H), 1.72 (d, J = 4.5 Hz, CH(CH3)2, 6 H), 1.40 (d, J = 4.1 Hz, OCH(CH3)2, 6 H), 1.14 -1.13 (m, CH(CH3)2, 12 H), 1.08 (d, J = 4.5 Hz, CH(CH3)2, 6 H), -0.05 (s, 9H)
【0074】
13C NMR (100 MHz, C6D6): δ(ppm) = δ= 283.55 (Ru=C), 181.70 (CNHC), 153.51, 149.41, 148.65, 145.32, 139.60, 138.23, 138.15, 136.09, 135.92, 131.21, 130.73, 129.66, 128.79,126.03, 125.29, 124.29, 122.69, 122.27, 113.63, 75.60, 30.17, 28.71, 27.73, 25.49, 25.08, 23.34, 22.12, 0.53 (SiMe3)
【0075】
29Si NMR (119.2 MHz, C6D6): δ(ppm) = -9.40
【0076】
図1図2及び図3の結果から、目的のTMSIPrRuが合成できたと判断した。
【0077】
[比較例1]
下記反応式R6のとおり、実施例1の第3工程における配位子(TMSIPr)をシリル基を持たないIPrに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、式(HG2)で示した第二世代のHoveyda―Grubbs触媒を合成した。
【化16】
【0078】
[比較例2及び3]
先に述べた式(HG1)で示した市販の第一世代のHoveyda―Grubbs触媒(アルドリッチ社製、商品名「ホベイダ-グラブスM700」)を準備した。
また、上記特許文献2に基づく上記式(3)で示されるいわゆるホスフィン型のオレフィンメタセシス反応用有機金属錯体触媒として、N.E.CHEMCAT社製の有機金属錯体触媒:商品名「MTMS-RUA」を用意した。
【0079】
<オレフィンメタセシス反応による触媒活性評価>
実施例1、比較例1及び比較例2の有機金属錯体触媒を使用して、下記反応式(R7)で示されるオレフィンメタセシス反応(酢酸5-ヘキセニルのホモメタセシス反応)を実施した。
【化17】
【0080】
実施例1のTMSIPrRu(5.3mg、6.88μmol)を4ccバイアル管に投入し、トルエン-d(0.86mL)を加え、TMSIPrRu/トルエン-d溶液(8.0μM)を調製した。
グローブボックス内で酢酸5-ヘキセニル(32.0μL、0.20mmol)、内部標準物質(1,3,5-トリメチルベンゼン、13.8μL,0.10mmol)を10mLなすフラスコへ投入し、溶媒としてトルエン(1.0mL)を加えた。
次に、この混合液に、TMSIPrRu/トルエン-d溶液(250μL、TMSIPrRu:2.0μmol、1.0mol%)を加え、上記反応式(R7)で示されるホモメタセシス反応を室温で実施した。反応開始240分後のガスクロマトグラフィー測定によって酢酸5-ヘキセニルの転化率を求めた。結果を表1に示す。
【0081】
比較例1の有機金属錯体触媒(式(HG2)で示した第二世代のHoveyda-Grubbs触媒)についても上述した反応評価試験と同一の条件及び手順で上記反応式(R7)で示されるホモメタセシス反応を室温で実施した。反応開始240分後のGC測定によって酢酸5-ヘキセニルの転化率を求めた。結果を表1に示す。
【0082】
比較例2の有機金属錯体触媒(式(HG1)で示した第一世代のHoveyda-Grubbs触媒)についても上述した反応評価試験と同一の条件及び手順で上記反応式(R7)でホモメタセシス反応を室温で実施した。反応開始60分後と240分後のGC測定によって酢酸5-ヘキセニルの転化率を求めた。結果を表2に示す。
【表1】
【0083】
表2に示した結果から、従来のHoveyda―Grubbs触媒である比較例1及び比較例2の有機金属錯体触媒に比較し、本発明の構成を満たす実施例1の有機金属錯体触媒を用いた場合、オレフィンメタセシス反応(酢酸5-ヘキセニルのホモメタセシス反応)に対し非常に高い収率で目的の生成物が得られることが明らかとなった。
【0084】
次に、実施例1、比較例1及び比較例2の有機金属錯体触媒を使用して、下記反応式(R8)で示されるオレフィンメタセシス反応(酢酸5-ヘキセニルとアクリル酸メチルの混合メタセシス反応)を実施した。
【化18】
【0085】
実施例1のTMSIPrRu(5.3mg、6.88μmol)を4ccバイアル管に投入し、トルエン-d(0.86mL)を加え、TMSIPrRu/トルエン-d溶液(8.0μM)を調製した。
グローブボックス内で酢酸5-ヘキセニル(32.0μL、0.20mmol)とアクリル酸メチル(18.0μL、0.20mmol)、内部標準物質(1,3,5-トリメチルベンゼン、13.8μL、0.10mmol)を10mLなすフラスコへ投入し、溶媒としてトルエン(1.0mL)を加えた。
次に、この混合液に、TMSIPrRu/トルエン-d溶液(250μL、TMSIPrRu:2.0μmol、1.0mol%)を加え、上記反応式(R8)で示されるホモメタセシス反応を室温で実施した。反応開始180分後のガスクロマトグラフィー(GC)測定(島津製作所製GC―2014)によってホモメタセシス(HM)生成物とクロスメタセシス(CM)生成物のGC面積比(= [生成物のGCピーク面積] / [内部標準物質のGCピーク面積])を求めた。結果を表2に示す。
【0086】
比較例1の有機金属錯体触媒(式(HG2)で示した第二世代のHoveyda―Grubbs触媒)についても上述した反応評価試験と同一の条件及び手順で上記反応式(R4)で示されるクロスメタセシス反応を室温で実施した。反応開始240分後のGC測定によって酢酸5-ヘキセニルの転化率を求めた。結果を表2及び図4に示す。
【表2】
【0087】
表2と図4に示した結果から、従来のHoveyda―Grubbs触媒である比較例1の有機金属錯体触媒に比較し、本発明の構成を満たす実施例1の有機金属錯体触媒を用いた場合、オレフィンメタセシス反応(酢酸5-ヘキセニルとアクリル酸メチルのクロスメタセシス反応)においてアクリル酸メチルへの反応性が低下し、酢酸5-ヘキセニルのホモメタセシス反応を選択的に加速させることが可能であることが示された。
【0088】
<耐水性の評価>
実施例1及び比較例3の有機金属錯体触媒について、含水の重溶媒中(C6D6)でのNMRスペクトルの経時変化を観察した。結果を図5に示す。
図5に示す結果からわかるように、実施例1の有機金属錯体触媒については、7日間経過後もピークが見られ分解は確認されなかったが、比較例3の有機金属錯体触媒については、7日間経過後にピークが消失し、分解が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の触媒は、オレフィンメタセシス反応において従来の触媒よりも目的物の高い収率を得ることができる。従って、本発明は、目的の生成物(例えば、芳香族アミン類)の合成にオレフィンメタセシス反応が利用可能な医薬、農薬、電子材料の分野の量産技術の発達に寄与する。
図1
図2
図3
図4
図5