(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025021891
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】臭化水素付加剤およびそれを用いた臭素化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 233/34 20060101AFI20250206BHJP
C07C 17/08 20060101ALI20250206BHJP
C07C 22/04 20060101ALI20250206BHJP
C07C 17/087 20060101ALI20250206BHJP
C07C 41/22 20060101ALI20250206BHJP
C07C 43/225 20060101ALI20250206BHJP
C07C 23/18 20060101ALI20250206BHJP
C07C 25/02 20060101ALI20250206BHJP
C07D 239/10 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
C07D233/34
C07C17/08
C07C22/04
C07C17/087
C07C41/22
C07C43/225 A
C07C23/18
C07C25/02
C07D239/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023125975
(22)【出願日】2023-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【弁理士】
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】松原 浩
(72)【発明者】
【氏名】西台 悠二
(72)【発明者】
【氏名】高宮 裕樹
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC30
4H006BE01
4H006EA21
(57)【要約】 (修正有)
【課題】安全に工業的規模にて製造が可能で、且つ、酸素や光に非常に安定で、取扱いや保管が容易な臭化水素付加剤を提供する。
【解決手段】極性溶媒と臭化水素で構成された臭化水素付加剤であり、前記極性溶媒がアミド系非プロトン性極性溶媒である含臭素錯体及びそれを含む臭化水素付加剤、含臭素錯体の製造方法及びこれを用いた含臭素化合物の製造方法を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性溶媒と臭化水素で構成される含臭素錯体であり、前記極性溶媒がアミド系非プロトン性極性溶媒から選ばれる少なくとも1種以上である、含臭素錯体。
【請求項2】
前記極性溶媒がウレア系非プロトン性極性溶媒から選ばれる少なくとも1種以上である請求項1に記載の含臭素錯体。
【請求項3】
前記極性溶媒がビス(1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン)である、下記一般式(1)
【化11】
で表される請求項1に記載の含臭素錯体。
【請求項4】
前記極性溶媒がN,N’-ジメチルプロピレン尿素である、下記一般式(2)
【化12】
で表される請求項1に記載の含臭素錯体。
【請求項5】
下記一般式(3)
R
1-CH=CH-R
2 (3)
(式(3)中、R
1は置換もしくは無置換のアリール基、R
2は、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、または水素原子を示す。或いはR
1とR
2とが互いに結合して環状の化合物となっていても良い。)で表されるオレフィン化合物と、
請求項1~4のいずれか一項に記載の含臭素錯体と、を反応させることを特徴とする、
下記一般式(4)
【化13】
(式(4)中、R
1及びR
2は一般式(3)と同じである。)で表される含臭素化合物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の含臭素錯体を含む、臭化水素付加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含臭素錯体及び臭化水素付加剤に関する。詳しくは、臭化水素付加剤として用いられる含臭素錯体、それを用いた臭素化合物の製造方法、および当該含臭素錯体を含む臭化水素付加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物の臭素化物は、医薬中間体や工業薬品等の合成中間体としてカップリング反応をはじめとする様々な反応に利用できる有用な化合物である。有機化合物の臭素化反応については、古くから多くの方法が知られており、現在もその研究開発は引き続き行われている。
【0003】
臭化水素付加剤として一般的に使用されるものは、臭化水素である。臭化水素は無職の刺激性気体であり腐食性や毒性が高く、取扱には特殊な装置や技術を必要である(例えば非特許文献1参照)。
【0004】
また、前記臭化水素の様態としては臭化水素ガスの他に臭化水素水溶液(臭化水素酸)や臭化水素酢酸溶液等の臭化水素溶液が市販されている。
【0005】
臭化水素酸は無色の液体であるが、保存中に徐々に酸化されて臭素が遊離ししだいに黄色を帯びてくる。この着色は光により促進されることから保存には褐色のガラス瓶を使用する必要がある。
また、前記臭化水素溶液はいずれも臭化水素が時間経過とともに空気放出されるため、定量的な使用の前には溶液中の臭化水素濃度を定量する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「臭素及びヨウ素化合物の有機合成」マナック(株)著、丸善出版、2017年1月30日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らはこれら従来技術に鑑み、安全に工業的規模にて製造が可能であり、且つ、酸素や光に安定で、取扱いや保管が容易な含臭素錯体およびこれを含む臭化水素付加剤を提供することを本発明の目的とする。さらに、この含臭素錯体を含む臭化水素付加剤を用いた、臭素化合物の製造方法を提供することも本発明の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、極性溶媒と臭化水素で構成された含臭素錯体であり、前記極性溶媒がアミド系非プロトン性極性溶媒である含臭素錯体が安全に工業的規模にて製造可能であり、且つ、酸素や光に非常に安定で、取扱や保管が容易であることを見出した。
【0009】
さらにはこの含臭素錯体が、オレフィン化合物への臭化水素付加剤として優れていること、またその反応における使用が極めて安全、且つ容易に行えることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は下記の要旨に係るものである。
【0011】
[1]極性溶媒と臭化水素で構成される含臭素錯体であり、前記極性溶媒がアミド系非プロトン性極性溶媒から選ばれる少なくとも1種以上である、含臭素錯体。
[2]前記極性溶媒がウレア系非プロトン性極性溶媒から選ばれる少なくとも1種以上である項[1]に記載の含臭素錯体。
[3]前記極性溶媒がビス(1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン)である、
下記一般式(1)
【化1】
で表される項[1]に記載の含臭素錯体。
[4]前記極性溶媒がN,N’-ジメチルプロピレン尿素である、下記一般式(2)
【化2】
で表される項[1]に記載の含臭素錯体。
[5] 下記一般式(3)
R
1-CH=CH-R
2 (3)
(式(3)中、R
1は置換もしくは無置換のアリール基、R
2は、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、または水素原子を示す。あるいはR
1とR
2とが互いに結合して環状の化合物となっていてもよい。)で表されるオレフィン化合物と、
項[1]~項[4]のいずれかに記載の含臭素錯体と、を反応させることを特徴とする、
下記一般式(4)
【化3】
(式(4)中、R
1及びR
2は一般式(3)と同じである。)で表される含臭素化合物の製造方法。
[6] 項[1]~項[4]のいずれかに記載の含臭素錯体を含む、臭化水素付加剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、安全に工業的規模にて製造が可能で、且つ、酸素や光に安定で、取扱や保管が容易な臭化水素付加剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例2において、実施例1で得たDMI・HBrの固体を、空気中、ガラス容器に入れた状態を示す図である。
【
図2】実施例2において、実施例1で得たDMI・HBrの固体を、空気中、ガラス容器に入れて蓋をして、空気中、室温にて2週間保管試験を行った後の状態を示す図である。
【
図3】比較例1において、市販試薬の47%臭化水素水溶液を、空気中、ガラス容器に入れた状態を示す図である。
【
図4】比較例1において、市販試薬の47%臭化水素水溶液を、空気中、ガラス容器に入れて蓋をして、空気中、室温にて2週間保管試験を行った後の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明の含臭素錯体は、アミド系非プロトン性極性溶媒と臭化水素から構成される含臭素錯体である。
【0016】
アミド系非プロトン性極性溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチ ル-2-イミダゾリジノン(N,N’-ジメチルエチレン尿素)、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、等が挙げられる。
なかでも、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、1,3 -ジメチル-2-イミダゾリジノン、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素等のウレア系非プロトン性極性溶媒からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0017】
含臭素錯体の好ましい具体例として以下の化合物を挙げることができるが、本発明はこれらの例示化合物に制限されるものではない。
【0018】
本発明に係る含臭素錯体は、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド・臭化水素錯体、N,N-ジエチルアセトアミド・臭化水素錯体、N-メチル-2-ピロリドン・臭化水素錯体、N-エチル-2-ピロリドン・臭化水素錯体、N,N’-ジメチルプロピレン尿素・臭化水素錯体、1,3-ジメチ ル-2-イミダゾリジノン・臭化水素錯体、テトラメチル尿素・臭化水素錯体、テトラエチル尿素・臭化水素錯体、等が挙げられる。
【0019】
これらの内でも、下記式(1)
【化4】
で表される1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン・臭化水素錯体、または下記式(2)
【化5】
で表されるN,N’-ジメチルプロピレン尿素・臭化水素錯体は、その化合物の安定性、取扱の容易さ、製造方法の容易さからより好ましく用いられる。
【0020】
上記の式(1)で表される含臭素錯体の製造は、下記スキーム(5)に示すように、溶媒にアミド系非プロトン性極性溶媒を加えて、前記溶媒中に臭化水素(HBr)溶液を加えることによって、安全に、かつ容易に得ることができる。
【化6】
【0021】
上記スキーム(5)の反応を行うにあたり、反応剤の加える順序等は適宜決めればよい。例えば反応容器にアミド系非プロトン性極性溶媒と溶媒を仕込んだ後に臭化水素溶液を加えるなど、臭化水素溶液の反応性、液体等の性状などを考慮して、適宜決めればよい。
【0022】
上記の式(2)で表される含臭素錯体の製造は、下記スキーム(6)に示すように、溶媒にアミド系非プロトン性極性溶媒を加えて、前記溶媒中に臭化水素(HBr)溶液を加えることによって、安全に、かつ容易に得ることができる。
【化7】
【0023】
上記スキーム(6)の反応を行うにあたり、反応剤の加える順序等は適宜決めればよい。例えば反応容器にアミド系非プロトン性極性溶媒と溶媒を仕込んだ後に臭化水素溶液を加えるなど、臭化水素溶液の反応性、液体等の性状などを考慮して、適宜決めればよい。
【0024】
本発明の含臭素錯体の製造に利用できる、臭化水素(HBr)溶液の溶媒としては、臭化水素やアミド系非プロトン性極性溶媒と反応しない溶媒であれば特に制限はないが、脂肪族エーテル、環状エーテルを挙げることができる。さらに具体的には、例えば、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン(THP)、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、などが挙げられる。
【0025】
本発明の含臭素錯体の製造において、製造に用いられる臭化水素の使用量は、アミド系非プロトン性極性溶媒に対してモル比で0.1倍~1.0倍とするとよく、好ましくは0.2倍~0.8倍である。
【0026】
本発明の含臭素錯体の製造において、反応温度は、-40℃~80℃とするとよく、好ましくは-20℃~60℃である。
【0027】
本発明の含臭素錯体の製造において、反応時間としては、臭化水素溶液の種類及び反応温度の違いにより異なるため、特に限定するものではないが、通常、30分~2時間の範囲内で反応は完結できる。
【0028】
本発明により得られた含臭素錯体は、粗精製物をそのまま臭化水素付加剤等として使用することもできるが、公知の抽出法、蒸留法あるいは再結晶法等により精製することができ、不純物として存在する原料溶媒、原料臭化水素等の含量を低減化、あるいは実質的に不含とすることができる。
【0029】
このように本発明の臭化水素付加剤は、上記一般式(1)または式(2)で表される含臭素錯体を含み、臭化水素付加剤として種々の反応に用いるために含臭素錯体が可溶の溶媒、粉末固体として保存する場合には脱酸素剤や乾燥剤、その他、目的物を得るための反応に支障を与えない範囲で添加剤等を用いることができる。
【0030】
次に本発明の含臭素錯体及びそれを含む臭化水素付加剤の利用方法について説明する。
【0031】
例えば、上記した含臭素錯体を用い、オレフィン化合物を臭素化する場合、以下の処方を挙げることができる。
【0032】
すなわち、下記一般式(3)
R
1-CH=CH-R
2 (3)
(式(3)中、R
1は置換もしくは無置換のアリール基、R
2は、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、または水素原子を示す。或いはR
1とR
2とが互いに結合して環状の化合物となっていても良い。)で表されるオレフィン化合物と、
下記式(1)
【化8】
で表される化合物または、下記式(2)
【化9】
で表される化合物と、を反応させて、
下記一般式(4)
【化10】
(式(4)中、R
1及びR
2は一般式(3)と同じである。)で表される含臭素化合物を製造できる。
【0033】
本発明の含臭素錯体及びそれを含む臭化水素付加剤の利用方法において、反応に利用できるオレフィン化合物の例としては、スチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2-ブロモスチレン、3-ブロモスチレン、4-ブロモスチレン、2-クロロスチレン、3-クロロスチレン、4-クロロスチレン、2-ヨードスチレン、3-ヨードスチレン、4-ヨードスチレン、2-フルオロスチレン、3-フルオロスチレン、4-フルオロスチレン、2-(トリフルオロメチル)スチレン、3-(トリフルオロメチル)スチレン、4-(トリフルオロメチル)スチレン、2-メトキシスチレン、3-メトキシスチレン、4-メトキシスチレン、4-アセトキシスチレン、4-シアノスチレン、4-tert-ブチルスチレン、3-t-ブトキシスチレン、4-t-ブトキシスチレン、4-イソブチルスチレン、3-ニトロスチレン、4-(tert-ブチルジメチルシロキシ)スチレン、4-トリメチルシリルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、4-イソプロペニルトルエン3,4-ジクロロスチレン、3,5-ジブロモスチレン、2,3-ジフルオロスチレン、2,4-ジフルオロスチレン、2,5-ジフルオロスチレン、2,6-ジフルオロスチレン、3,4-ジフルオロスチレン、3-ブロモ-2-フルオロスチレン、2-クロロ-5-(トリフルオロメチル)スチレン、2-フルオロ-3-(トリフルオロメチル)スチレン、3,5-ビス(トリフルオロメチル)スチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,4-ジメトキシスチレン、4-クロロ-α-メチルスチレン、4-フルオロ-β-ニトロスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、2,4-ジフルオロ-3-(トリフルオロメチル)スチレン、2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレン等のスチレン類、4,4'-ジメチル-trans-スチルベン、cis-スチルベン、trans-スチルベン、4-メチルスチルベン、2-メチルスチルベン、4-シアノ-trans-スチルベン、trans-4-ブロモスチルベン、4,4'-ジブロモ-trans-スチルベン、4,4'-ジヨード-trans-スチルベン、4-アミノスチルベン、4-メトキシ-trans-スチルベン、4,4'-ジメトキシ-trans-スチルベン、3,3',4,5'-テトラヒドロキシ-trans-スチルベン等のスチルベン類、ベンゾシクロブタジエン、インデン、6-メチル-1H-インデン、7-メチル-1H-インデン、4,7-ジメチル-1H-インデン、4,6-ジメチル-1H-インデン、6-メトキシ-1H-インデン、7-メトキシ-1H-インデン、5-クロロ-1H-インデン、6-クロロ-1H-インデン、7-クロロ-1H-インデン、5-フルオロ-1H-インデン、1,2-ジヒドロナフタレン、6-メトキシ-1,2-ジヒドロナフタレン、7-メトキシ-1,2-ジヒドロナフタレン、1-ベンゾスベレンの縮合不飽和炭素環アリール類のオレフィン化合物を挙げることができる。ただし、これらに限定されるものではない。
【0034】
本発明の含臭素錯体及びそれを含む臭化水素付加剤の利用方法において、含臭素錯体の使用量はオレフィン化合物に対してモル比で0.5倍~2.0倍とするとよく、好ましくは0.7倍~1.5倍である。
【0035】
本発明の含臭素錯体及びそれを含む臭化水素付加剤の利用方法において、反応溶媒は、反応基質や反応試剤、または生成物と反応しない溶媒であれば特に制限は無いが、好ましくはアセトニトリル、ジクロロメタン、クロロホルム、グライム、ジグライム、ジメチルホルムアミド、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ジエチルエーテル、トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール等である。
【0036】
本発明の含臭素錯体及びそれを含む臭化水素付加剤の利用方法において、反応温度は、-20℃~150℃とするとよく、好ましくは0℃~100℃である。さらに、反応に際して、上記一般式(1)で表される含臭素錯体、及び反応生成物に悪影響を与えないものであれば、臭化水素捕捉剤、塩基、酸触媒等を添加しても構わない。
【0037】
本発明の含臭素錯体及びそれを含む臭化水素付加剤の利用方法において、反応時間としては、特に限定するものではないが、通常、30分~10時間の範囲内で反応は完結できる。
【0038】
本発明の反応により生成した臭素化合物は、公知の抽出法、蒸留法あるいは再結晶法等により反応混合物から容易に取り出すことができる。その際、未反応の上記一般式(1)で表される化合物が存在するときは、臭化水素が発生するので、重曹等で捕捉してもよい。
【実施例0039】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0040】
なお分析に当たっては下記機器を使用した。
1H-NMR:日本電子(株)製、型式 JEOL-ECS-400 spectrometer
13C-NMR:日本電子(株)製、型式JEOL-ECS-400 spectrometer
IR:日本分光(株)製、形式FT/IR-4100
元素分析:炭素、水素、窒素:ヤナコ分析工業(株)製、型式MT-7を用い、実測値と計算値とを対比した。
融点:(株)ヤナコ 微量融点測定装置 MP-J3
以上により測定した。
【0041】
実施例1 ビス(1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン)・臭化水素錯体(以下、DMI・HBrと略す)の製造
臭化水素8重量パーセント(以下、 HBrと略す)/ジグライム溶液5.45g(HBr 5.39mmol)、とジエチルエーテル20mlを50mlナスフラスコに入れて撹拌して溶解させ、氷冷した。これに1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(以下、DMIと略す)2.11g(18.5mmol)とジエチルエーテル10mlを加えて20分間氷冷にて攪拌を継続した。反応終了後、グラスフィルターを用いて析出した固体を濾取し、ジエチルエーテルで洗浄後真空乾燥し、淡橙色固体0.69gを得た(
図1参照)。収率77%。
【0042】
得られた生成物を分析し、以下の結果を得た。
融点68℃-71℃。
IR:3388、1638cm-1
1H-NMR(CDCl3、TMS)
δ 10.70-9.59 (1H, br)、3.66 (4H, s)、 3.14 (6H, s)
13C-NMR(CDCl3)
δ 159.99, 46.65, 33.20
元素分析:DMI・HBr・1.5H2O
計算値 C:27.04、H:6.35、N:12.61
実測値 C:27.38、H:5.83、N:12.75
以上の通り、1H-NMR、13C-NMR及び元素分析の結果から得られた固体が、DMI・HBrであることを確認した。
【0043】
実施例2 DMI・HBrの長期間の保管
実施例1で得られたDMI・HBr結晶は、
図1に示すように淡橙色色固体であった(ただし
図1は白黒画像である)。
図1において、DMI・HBr結晶はガラス製容器(ふたはポリプロピレン製)に入れた。
【0044】
DMI・HBrをガラス容器に入れて蓋をして、空気中、室温にて2週間保管試験を行った。2週間後、
図2に示すように、DMI・HBrは変色や純度等の低下は確認されなかった(ただし
図2は白黒画像である)。また、
図2に示すように、保管容器のガラス瓶に腐食等は確認されなかった。
【0045】
実施例3 N,N'-ジメチルプロピレン尿素・臭化水素錯体(以下、DMPU・HBrと略す)の製造
HBr 8重量パーセント/ジグライム溶液5.45g(HBr 5.39mmol)、とジエチルエーテル20mlを50mlナスフラスコに入れて撹拌して溶解させ、氷冷した。これにN,N'-ジメチルプロピレン尿素(以下、DMPUと略す)2.37g(18.5mmol)とジエチルエーテル10mlを加えて20分間氷冷にて攪拌を継続した。反応終了後、グラスフィルターを用いて析出した固体を濾取し、ジエチルエーテルで洗浄後真空乾燥し、淡橙色固体0.98gを得た。収率87%。
【0046】
得られた生成物を分析し、以下の結果を得た。
融点65-66℃。
IR:3359、1654cm-1
1H-NMR(CDCl3、TMS)
δ 3.44 (4H, t, J =5.8 Hz), 3.27 (6H, s), 2.11 (2H, quint, J = 6.0 Hz)
13C-NMR(CDCl3)
δ 156.48, 48.12, 38.92, 20.51
元素分析:DMPU・HBr・2.5H2O
実測値 C:28.36、H:7.14、N:11.02
計算値 C:28.51、H:6.61、N:11.07
以上の通り、1H-NMR、13C-NMR及び元素分析の結果から得られた固体が、DMPU・HBrであることを確認した。
【0047】
実施例4 1-(1-ブロモエチル)-4-メチルベンゼンの合成
DMI・HBr錯体 0.22g(1.13mmol)とクロロホルム3ml、4-メチルスチレン0.125g(1.06mmol)を30mlナスフラスコに入れ、50℃で2時間反応を行った。ジエチルエーテルで溶液を十分に薄めた後、3回水洗した。洗浄水が中性になっていることを確認後、有機層をブラインで洗浄し、硫酸ナトリウムにて乾燥し、乾燥剤除去後溶媒を減圧留去し、淡黄色液体0.215gを得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、溶媒を減圧留去して無色液体0.204gを得た。
【0048】
1H-NMR測定の結果、収率は97%、1-(1-ブロモエチル)-4-メチルベンゼンが生成していることを確認した。
【0049】
実施例5 1-(1-ブロモエチル)-4-クロロベンゼンの合成
4-メチルスチレンを4-クロロスチレンに、反応時間を4時間に替えた以外は実施例4と同様の方法にて反応を行った。1H-NMR測定の結果、収率は63%、1-(1-ブロモエチル)-4-クロロベンゼンが生成していることを確認した。
【0050】
実施例6 1-(1-ブロモエチル)-4-メトキシベンゼンの合成
4-メチルスチレンを4-メトキシスチレンに、反応温度を室温に、反応時間2時間に替えた以外は実施例3と同様の方法にて反応を行った。1H-NMR測定の結果、収率は57%、1-(1-ブロモエチル)-4-メトキシベンゼンが生成していることを確認した。
【0051】
実施例7 2-ブロモインダンの合成
4-メチルスチレンをインデンに、反応温度を50℃に、反応時間4時間に替えた以外は実施例3と同様の方法にて反応を行った。1H-NMR測定の結果、収率は43%、2-ブロモインダンが生成していることを確認した。
【0052】
比較例1 47%臭化水素水溶液(臭化水素酸)の長期間の保管
試薬として市販されている47%臭化水素水溶液を実施例1と同様のガラス製容器(ふたはポリプロピレン製)に入れた。47%臭化水素水溶液は淡黄色溶液であった(
図3)。
【0053】
47%臭化水素水溶液をガラス容器に入れて蓋をして、空気中、室温にて2週間保管試験を行った。2週間後、
図4に示すように、47%臭化水素水溶液は濃黄色に着色していた。
【0054】
比較例2 1-(1-ブロモエチル)-4-メチルベンゼンの合成
DMI・HBr錯体を臭化水素酸水溶液に替えた以外は実施例4と同様の方法にて反応を行った。
【0055】
1H-NMR測定の結果、収率22%、1-(1-ブロモエチル)-4-メチルベンゼンが生成していることを確認した。
【0056】
比較例3 1-(1-ブロモエチル)-4-メチルベンゼンの合成
DMI・HBr錯体を臭化水素/酢酸溶液に替えた以外は実施例4と同様の方法にて反応を行った。
【0057】
1H-NMR測定の結果、収率89%、1-(1-ブロモエチル)-4-メチルベンゼンが生成していることを確認した。
【0058】
比較例4 1-(1-ブロモエチル)-4-クロロベンゼンの合成
DMI・HBr錯体を臭化水素酸水溶液に替えた以外は実施例5と同様の方法にて反応を行った。
【0059】
1H-NMR測定の結果、収率10%、1-(1-ブロモエチル)-4-メチルベンゼンが生成していることを確認した。
【0060】
比較例5 1-(1-ブロモエチル)-4-クロロベンゼンの合成
DMI・HBr錯体を臭化水素/酢酸溶液に替えた以外は実施例5と同様の方法にて反応を行った。
【0061】
1H-NMR測定の結果、収率51%、1-(1-ブロモエチル)-4-メチルベンゼンが生成していることを確認した。
【0062】
以上を表1としてまとめた。
【0063】
【0064】
表1によれば、実施例ではいずれの基質も臭化水素付化反応が効率的、すなわち高い反応収率にて進行していることが分かる。
また実施例4と比較例2,3、及び実施例5と比較例4,5とから、臭化水素付加剤の違いにより反応収率に差があり、本発明に係る含臭素錯体を臭化水素付加剤に用いることにより反応収率に優れることが分かる。
【0065】
実施例2と比較例1とから、本発明に係るDMI・HBr等の臭化水素付加剤は安定であり、保存容器への腐食等もなく、臭化水素付加剤として優れた特質を長期にわたって維持できることが分かる。
本発明の臭化水素付加剤は、安全に工業的規模にて製造可能であり、且つ、保存中において酸素や光に非常に安定で、取扱や保管が容易である。更にはオレフィン化合物への臭化水素付加剤として優れていること、またその反応における使用が極めて安全、且つ容易に実施することができるため、極めて有用である。