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特開2025-21908回転機械および回転機械における回転子の回転軸方向変位の検出方法
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  • 特開-回転機械および回転機械における回転子の回転軸方向変位の検出方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025021908
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】回転機械および回転機械における回転子の回転軸方向変位の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/12 20060101AFI20250206BHJP
   G01D 5/14 20060101ALI20250206BHJP
   G01B 7/00 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
G01D5/12 B
G01D5/14 H
G01B7/00 101H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126011
(22)【出願日】2023-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(71)【出願人】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【弁理士】
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100186613
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100138759
【弁理士】
【氏名又は名称】大房 直樹
(72)【発明者】
【氏名】落合 章裕
(72)【発明者】
【氏名】杉元 紘也
(72)【発明者】
【氏名】石生田 祥宏
【テーマコード(参考)】
2F063
2F077
【Fターム(参考)】
2F063AA02
2F063BA03
2F063CA34
2F063DA01
2F063DA05
2F063GA52
2F063LA16
2F077AA02
2F077CC02
2F077JJ01
2F077JJ03
2F077JJ08
2F077JJ23
(57)【要約】
【課題】ホールセンサのみを用いて、回転子の回転角度だけでなく回転子の回転軸方向への変位も検出する。
【解決手段】複数の磁極を有する回転子と、複数の固定子コイルを有するモータ固定子と、前記モータ固定子上に設けられ、前記回転子からの磁界に応じた電圧信号を出力する複数のホールセンサと、前記複数のホールセンサからの電圧信号に基づいて前記回転子の回転角度を決定するように構成され、さらに、前記複数のホールセンサからの電圧信号に基づいて前記回転子の回転軸方向変位に比例した電圧を算出し、前記算出した電圧に基づいて前記回転子の回転軸方向変位を決定するように構成されたコントローラと、を備える回転機械が提供される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁極を有する回転子と、
複数の固定子コイルを有するモータ固定子と、
前記モータ固定子上に設けられ、前記回転子からの磁界に応じた電圧信号を出力する複数のホールセンサと、
前記複数のホールセンサからの電圧信号に基づいて前記回転子の回転角度を決定するように構成され、さらに、前記複数のホールセンサからの電圧信号に基づいて前記回転子の回転軸方向変位に比例した電圧を算出し、前記算出した電圧に基づいて前記回転子の回転軸方向変位を決定するように構成されたコントローラと、
を備える回転機械。
【請求項2】
前記コントローラは、前記回転子の回転軸方向変位に比例した前記電圧を、前記複数のホールセンサからの前記電圧信号の二乗和の平方根として算出するように構成される、請求項1に記載の回転機械。
【請求項3】
前記複数のホールセンサは、対向配置された複数のホールセンサ対を備え、
前記コントローラは、前記ホールセンサ対からの電圧信号を平均化するように構成される、
請求項1または2に記載の回転機械。
【請求項4】
前記コントローラは、異なるホールセンサからの電圧信号の振幅を揃えるための補正を行うように構成される、請求項1または2に記載の回転機械。
【請求項5】
前記コントローラは、異なるホールセンサからの電圧信号の位相差を揃えるための補正を行うように構成される、請求項1または2に記載の回転機械。
【請求項6】
前記複数のホールセンサからの電圧信号は三相の信号であり、
前記コントローラは、前記三相の信号を二相の信号に変換するように構成される、
請求項1または2に記載の回転機械。
【請求項7】
前記複数のホールセンサは、対向配置された複数のホールセンサ対を備え、
前記複数のホールセンサからの電圧信号は三相の信号であり、
前記コントローラは、
前記ホールセンサ対からの電圧信号を平均化し、
異なるホールセンサ対からの前記平均化された電圧信号の振幅および位相差を揃えるための補正を行い、
前記平均化および補正された三相の信号を二相の信号に変換し、
前記二相の信号の二乗和の平方根を算出し、
前記二相の信号の二乗和の平方根に所定の比例係数を乗じさらに所定の定数を加算することによって、前記回転子の回転軸方向変位を決定する、
ように構成される、請求項1に記載の回転機械。
【請求項8】
前記コントローラは、前記二相の信号に基づいて前記回転子の前記回転角度を算出するように構成される、請求項7に記載の回転機械。
【請求項9】
回転機械における回転子の回転軸方向変位の検出方法であって、
前記回転機械は、
複数の磁極を有する回転子と、
複数の固定子コイルを有するモータ固定子と、
前記モータ固定子上に設けられ、前記回転子からの磁界に応じた電圧信号を出力する複数のホールセンサと、を備え、
前記検出方法は、
前記複数のホールセンサからの電圧信号に基づいて前記回転子の回転軸方向変位に比例した電圧を算出するステップと、
前記算出した電圧に基づいて前記回転子の回転軸方向変位を決定するステップと、
を含む、検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機械および回転機械における回転子の回転軸方向変位の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスモータ等の回転機械において、モータの回転制御を行うために、回転子の回転角度および回転子の回転軸方向への変位を検出することが重要である。従来、回転子の回転角度の検出にはホールセンサが用いられ(例えば特許文献1参照)、回転子の回転軸方向への変位の検出には渦電流センサが用いられていた。また、回転子の回転軸方向への変位を検出する方法として、磁気回路に流れる電流の変化から変位量を求める方法が知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-207779号公報
【特許文献2】特開2019-152593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転子の回転軸方向への変位の検出に関し、渦電流センサは高価であるという問題がある。また、渦電流センサや特許文献2の磁気回路は、それらを設置するためのスペースが必要となり、装置の設計レイアウトの自由度が制限されるという欠点もある。そこで、ホールセンサのみを用いて、回転子の回転角度だけでなく回転子の回転軸方向への変位も検出することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[形態1]形態1によれば、複数の磁極を有する回転子と、複数の固定子コイルを有するモータ固定子と、前記モータ固定子上に設けられ、前記回転子からの磁界に応じた電圧信号を出力する複数のホールセンサと、前記複数のホールセンサからの電圧信号に基づいて前記回転子の回転角度を決定するように構成され、さらに、前記複数のホールセンサからの電圧信号に基づいて前記回転子の回転軸方向変位に比例した電圧を算出し、前記算出した電圧に基づいて前記回転子の回転軸方向変位を決定するように構成されたコントローラと、を備える回転機械が提供される。
【0006】
[形態2]形態2によれば、形態1の回転機械において、前記コントローラは、前記回転子の回転軸方向変位に比例した前記電圧を、前記複数のホールセンサからの前記電圧信号の二乗和の平方根として算出するように構成される。
【0007】
[形態3]形態3によれば、形態1または2の回転機械において、前記複数のホールセンサは、対向配置された複数のホールセンサ対を備え、前記コントローラは、前記ホールセンサ対からの電圧信号を平均化するように構成される。
【0008】
[形態4]形態4によれば、形態1または2の回転機械において、前記コントローラは、異なるホールセンサからの電圧信号の振幅を揃えるための補正を行うように構成される。
【0009】
[形態5]形態5によれば、形態1または2の回転機械において、前記コントローラは
、異なるホールセンサからの電圧信号の位相差を揃えるための補正を行うように構成される。
【0010】
[形態6]形態6によれば、形態1または2の回転機械において、前記複数のホールセンサからの電圧信号は三相の信号であり、前記コントローラは、前記三相の信号を二相の信号に変換するように構成される。
【0011】
[形態7]形態7によれば、形態1の回転機械において、前記複数のホールセンサは、対向配置された複数のホールセンサ対を備え、前記複数のホールセンサからの電圧信号は三相の信号であり、前記コントローラは、前記ホールセンサ対からの電圧信号を平均化し、異なるホールセンサ対からの前記平均化された電圧信号の振幅および位相差を揃えるための補正を行い、前記平均化および補正された三相の信号を二相の信号に変換し、前記二相の信号の二乗和の平方根を算出し、前記二相の信号の二乗和の平方根に所定の比例係数を乗じさらに所定の定数を加算することによって、前記回転子の回転軸方向変位を決定する、ように構成される。
【0012】
[形態8]形態8によれば、形態7の回転機械において、前記コントローラは、前記二相の信号に基づいて前記回転子の前記回転角度を算出するように構成される。
【0013】
[形態9]形態9によれば、回転機械における回転子の回転軸方向変位の検出方法であって、前記回転機械は、複数の磁極を有する回転子と、複数の固定子コイルを有するモータ固定子と、前記モータ固定子上に設けられ、前記回転子からの磁界に応じた電圧信号を出力する複数のホールセンサと、を備え、前記検出方法は、前記複数のホールセンサからの電圧信号に基づいて前記回転子の回転軸方向変位に比例した電圧を算出するステップと、前記算出した電圧に基づいて前記回転子の回転軸方向変位を決定するステップと、を含む、検出方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】回転機械(ポンプ装置)の一実施形態を示す断面図である。
図2A】モータ固定子の一実施例を示す平面図である。
図2B】回転子の一実施例を示す平面図である。
図2C】モータ固定子の別の実施例を示す平面図である。
図2D】モータ固定子の別の実施例を示す平面図である。
図3】コントローラ30の機能ブロック図である。
図4】回転子の回転角度および回転軸方向変位を検出する処理における例示的な信号を示す図である。
図5】回転子の回転軸方向変位Δzと電圧vの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。以下で説明する図面において、同一の又は相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係るポンプ装置の断面図である。このポンプ装置は、モータとポンプとが一体的に構成されたモータポンプ50を備えている。ポンプ装置およびポンプ装置に含まれるモータは、回転機械の一例である。以下において、ポンプ装置を参照して本発明の実施形態が説明されるが、本発明は、ポンプ装置に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において、ポンプ装置以外の回転機械(例えば、モータ単体、ファン、コンプレッサ等)にも適用することが可能である。
【0017】
図1に示すモータポンプ50はアキシャルギャップ型PMモータを搭載したキャンドモ
ータポンプである。図1に示すように、モータポンプ50は、複数の永久磁石5が埋設された羽根車1と、これらの永久磁石5に作用する磁力を発生するモータ固定子6と、羽根車1を収容するポンプケーシング2と、モータ固定子6を収容するモータケーシング3と、モータケーシング3の開口端を閉じるエンドカバー4と、羽根車1のラジアル荷重およびスラスト荷重を支持する軸受組立体10とを備えている。
【0018】
モータ固定子6および軸受組立体10は、羽根車1の吸込側に配置されている。本実施形態では、複数の永久磁石5が設けられているが、本発明は本実施形態に限定されず、複数の磁極が着磁された1つの永久磁石を用いてもよい。具体的には、S極とN極とが交互に着磁された、複数の磁極を有する1つの環状の永久磁石を用いてもよい。
【0019】
ポンプケーシング2とモータケーシング3との間にはシール部材としてのOリング9が設けられている。Oリング9を設けることにより、ポンプケーシング2とモータケーシング3との間から液体が漏洩することを防止することができる。
【0020】
モータケーシング3には、吸込口15aを有する吸込ポート15が液密的に連結されている。この吸込ポート15はフランジ形状を有しており、図示しない吸込ラインに接続される。吸込ポート15、モータケーシング3、および軸受組立体10の中心部には、それぞれ液体流路15b,3a,10aが形成されている。これら液体流路15b,3a,10aは一列に連結され、吸込口15aから羽根車1の液体入口まで延びる1つの液体流路を構成する。液体流路15b,3a,10aは、羽根車1の液体入口に連通している。
【0021】
本実施形態に係るモータポンプ50は、永久磁石5およびモータ固定子6がこれら液体流路15b,3a,10aに沿って配置されるアキシャルギャップ型PMモータを搭載したキャンドモータポンプである。
【0022】
ポンプケーシング2の側面には、吐出口16aを有する吐出ポート16が設けられており、回転する羽根車1によって昇圧された液体は、吐出口16aを通って吐き出される。なお、本実施形態に係るモータポンプ50は、吸込口15aと吐出口16aが直交する、いわゆるエンドトップ型モータポンプである。
【0023】
羽根車1は、滑りやすく、かつ摩耗しにくい非磁性材料から形成されている。例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やPPS(ポリフェニレンスルファイド)などの樹脂や、セラミックが好適に使用される。ポンプケーシング2およびモータケーシング3(エンドカバー4を含む)も羽根車1と同じ材料から形成することができる。
【0024】
羽根車1は単一の軸受組立体10によって回転自在に支持されている。この軸受組立体10は流体の動圧を利用した滑り軸受(動圧軸受)である。この軸受組立体10は、互いに緩やかに係合する回転側軸受11と固定側軸受12の組み合わせから構成される。回転側軸受11は、羽根車1に固定されており、羽根車1の流体入口を囲むように配置されている。固定側軸受12は、モータケーシング3に固定されており、回転側軸受11の吸込側に配置されている。この固定側軸受12は、円筒状の円筒部13と、円筒部13から外側に突出するフランジ部14とを有している。円筒部13は回転側軸受11の軸方向に延びている。円筒部13およびフランジ部14は一体的に構成されている。
【0025】
円筒部13は羽根車1のラジアル荷重を支持するラジアル面(外周面)12aを有しており、フランジ部14は羽根車1のスラスト荷重を支持するスラスト面(側面)12bを有している。ラジアル面12aは羽根車1の軸心と平行であり、スラスト面12bは羽根車1の軸心に対して垂直である。回転側軸受11は固定側軸受12の円筒部13の周囲に配置されている。
【0026】
回転側軸受11は、固定側軸受12のラジアル面12aに対向する内面11aと、内面11aとは反対側の外面11bと、内面11aと外面11bとの間を延びる側面11cとを有している。回転側軸受11の側面11cは、固定側軸受12のスラスト面12bに対向している。回転側軸受11の内面11aとラジアル面12aとの間、および回転側軸受11の側面11cとスラスト面12bとの間には微小な隙間が形成されている。回転側軸受11と羽根車1との間には図示しないシール部材が設けられており、回転側軸受11は羽根車1に液密的に固定されている。同様に、固定側軸受12とモータケーシング3との間には図示しないシール部材が設けられており、固定側軸受12はモータケーシング3に液密的に固定されている。
【0027】
羽根車1から吐き出された流体の一部は、羽根車1とモータケーシング3との間の微小な隙間を通って軸受組立体10に導かれる。回転側軸受11が羽根車1とともに回転すると、回転側軸受11と固定側軸受12との間に流体の動圧が発生し、これにより羽根車1が軸受組立体10によって非接触に支持される。固定側軸受12は、直交するラジアル面12aおよびスラスト面12bにより回転側軸受11を支持しているので、羽根車1の傾動は軸受組立体10により制限される。
【0028】
モータ固定子6は、固定子コア6Aと、複数の固定子コイル6Bとを有している。これら複数の固定子コイル6Bは環状に配列されている。羽根車1およびモータ固定子6は、軸受組立体10および吸込口15aと同心状に配列されている。
【0029】
固定子コイル6Bには、リード線25が接続されており、モータケーシング3の外面には、コネクタ27が取り付けられている。固定子コイル6Bは、リード線25およびコネクタ27を介してインバータ装置26に接続されている。インバータ装置26は、電源28に接続されている。
【0030】
このインバータ装置26は、電流をモータ固定子6の固定子コイル6Bに供給して、モータ固定子6に回転磁界を発生させる。この回転磁界は羽根車1に埋設されている永久磁石5に作用し、羽根車1を回転駆動する。羽根車1のトルクはモータ固定子6に供給される電流の大きさに依存する。羽根車1にかかる負荷が一定である限り、モータ固定子6に供給される電流は概ね一定である。
【0031】
羽根車1が回転すると、液体は吸込口15aから羽根車1の液体入口に導入される。液体は羽根車1の回転によって昇圧され、吐出口16aから吐き出される。羽根車1が液体を移送している間、羽根車1の背面は昇圧された液体によって吸込側に(すなわち吸込口15aに向かって)押圧される。軸受組立体10は、羽根車1の吸込側に配置されているので、羽根車1のスラスト荷重を吸込側から支持する。
【0032】
図2Aは、モータ固定子6の一実施例を示す平面図であり、羽根車1の回転軸に平行な方向から(すなわち図1において右方向または左方向から)モータ固定子6を見た様子を示している。この例では、モータ固定子6は、固定子コア6Aの周方向に沿って60度間隔で配置された6個の固定子コイル6B~6Bを備える。これら6個の固定子コイル6B~6Bは、上述したようにインバータ装置26に接続されている。固定子コイル6Bおよび固定子コイル6Bに対向して配置された固定子コイル6BにはU相の正弦波電流が、固定子コイル6Bおよび固定子コイル6Bに対向して配置された固定子コイル6BにはV相の正弦波電流が、固定子コイル6Bおよび固定子コイル6Bに対向して配置された固定子コイル6BにはW相の正弦波電流が、それぞれインバータ装置26から供給される。これにより、羽根車1を回転駆動するための回転磁界が発生する。
【0033】
モータ固定子6は、さらに、複数のホールセンサ6Cを備える。例えば、図2Aに示されるように、隣り合う固定子コイル6Bの間に1つずつ、すなわち固定子コア6Aの周方向に沿って60度間隔で、全部で6個のホールセンサ6C~6Cが配置される。各ホールセンサ6C~6Cは、コントローラ30に接続されており、羽根車1に設けられた永久磁石(以下、回転子という)5からの磁界に比例した電圧信号をコントローラ30へ出力する。
【0034】
図2Bは、羽根車1に設けられた回転子5の一実施例を示す平面図であり、羽根車1の回転軸に平行な方向から回転子5を見た様子を示す。この例における回転子5は、羽根車1と同心のリング形状の磁石から構成され、リングの周方向に沿ってS極とN極が交互に配置された8個の磁極を有している(すなわち、極数は8、極対数は4である)。したがって、各ホールセンサ6C~6Cから出力される電圧信号は、羽根車1が1回転する間に4周期を有する信号となる。
【0035】
モータ固定子6と回転子5の構成は、図2Aおよび2Bの例に限定されない。モータ固定子6における固定子コイル6Bおよびホールセンサ6Cの数、ならびに回転子5における磁極の数は、任意であってよい。例えば、モータ固定子6は、図2Cに示されるように、6個の固定子コイル6Bと4個のホールセンサ6Cを備えるのであってもよいし、図2Dに示されるように、12個の固定子コイル6Bと12個のホールセンサ6Cを備えるのであってもよい。
【0036】
以下、図2Aおよび2Bに示されるモータ固定子6と回転子5の構成例に関して、本発明の実施形態をさらに説明する。
【0037】
図3は、回転子5の回転角度および回転軸方向変位を検出するための、コントローラ30の機能ブロック図である。図4は、回転子5の回転角度および回転軸方向変位を検出する処理の各段階における例示的な信号を示す図である。
【0038】
各ホールセンサ6C~6Cからの電圧信号v~vは、差動演算部31へ入力される。差動演算部31は、対向する位置に配置されたホールセンサ(すなわち、ホールセンサ6Cと6C、ホールセンサ6Cと6C、ホールセンサ6Cと6C)からの信号を、それぞれ次式(1)にしたがって平均化し、差動信号v、v、vを出力する。
【0039】
【数1】
【0040】
ここで、各ホールセンサ6C~6Cは固定子コア6Aの周方向に沿って60度間隔で配置されているので、各ホールセンサ6C~6Cからの電圧信号v~vは、図4(A)に示されるように、互いに位相が60度ずれている。また、回転子5の極数は8(極対数は4)であり、磁極の配置が点対称であるので、対向する位置に配置されたホールセンサからの電圧信号(例えばvとv)は、図4(A)に示されるように同位相となる。したがって、上記の式(1)を用いることで、対向するホールセンサの出力信号の平均を表す信号v、v、vが得られることになる。一般に、回転子5の極対数が偶
数の場合は、同様に式(1)を用いればよい。一方、回転子5の極対数が奇数の場合には、S極とN極が線対称に配置されているので、対向位置にあるホールセンサの出力信号は逆位相となる。よって、式(1)の代わりに次式(2)を用いることで、ホールセンサからの信号の平均である差動信号v、v、vを求めることができる。
【0041】
【数2】
【0042】
このように、対向する位置に配置されたホールセンサからの出力信号を平均化することにより、モータ固定子6と回転子5の偏心(モータ固定子6の中心と回転子5の回転中心との不一致)による影響をキャンセルし、このステップ以降の処理において計算される回転子5の位置精度を向上することができる。
【0043】
ホールセンサ6Cは、磁界に比例した電圧信号を出力するが、磁界の検出感度、すなわち同じ大きさの磁界に対して出力される電圧値の大きさには、ホールセンサ毎の個体差がある場合がある。また、各ホールセンサ6Cのモータ固定子6への取り付け位置がモータ固定子6の径方向にばらつく(つまり、各ホールセンサ6Cと回転子5との距離がばらつく)ことでも、各ホールセンサ6Cから出力される電圧値には差が生じ得る。ゲイン・オフセット調整部32は、これらの影響を次式(3)にしたがって補正(ゲイン補正)し、補正済み差動信号v’、v’、v’を算出する。
【0044】
【数3】
【0045】
ただし、a、b、およびcは、ホールセンサの検出感度の個体差および/または径方向における取り付け位置ばらつきを考慮した補正係数であり、あらかじめ測定等によって求めておくことができる。
【0046】
さらに、各ホールセンサ6Cのモータ固定子6への取り付け位置がモータ固定子6の周方向にずれる(つまり、各ホールセンサ6Cの配置間隔が等間隔(60度)でなくなる)と、各ホールセンサからの電圧信号v~v(および差動信号v~v)の位相差も60度からずれる。ゲイン・オフセット調整部32は、上記のゲイン補正に加えて、この位相ずれを修正するための補正(オフセット補正)を行ってもよい。図4(B)に、図4(A)の電圧信号v~vから計算された、ゲイン補正およびオフセット補正済みの差動信号v’、v’、v’を示す。このように、補正済み差動信号v’、v’、v’は、振幅がほぼ等しく、信号間の位相はほぼ60度となっている。
【0047】
なお、各ホールセンサ6Cの検出感度に個体差がなく、またその取り付け位置にも誤差がない理想的な場合には、ゲイン・オフセット調整部32の処理を省略してもよい。
【0048】
三相二相変換部33は、三相の信号である補正済み差動信号v’、v’、v’を次式(4)にしたがって三相二相変換し、二相の信号vα、vβを算出する。図4(C)
に、算出された信号vα、vβを示す。なお、モータ固定子6が図2Aとは異なる数のホールセンサ6Cを備えるように構成されている場合(図2C、2D参照)は、式(4)に代えて適宜の座標変換式が用いられるのであってよい。
【0049】
【数4】
【0050】
図4(C)に示されるように、二相信号vα、vβは互いに位相が90度ずれた正弦波信号であるので、その比vβ/vαは、回転子5の回転角度θの正接を表す信号となる。したがって、逆正接演算部34は、次式(5)のように二相信号の比vβ/vαの逆正接を用いて、回転子5の回転角度θを算出することができる。
【0051】
【数5】
【0052】
ここで、各ホールセンサからの電圧信号v~vの振幅(図4(A)参照)は、回転子5の回転軸方向変位に依存する。具体的に、羽根車1(回転子5)がその回転軸に沿ってモータ固定子6に近づく方向に変位すると、各ホールセンサ6C~6Cと回転子5との距離が一様に小さくなり、電圧信号v~vの振幅は増大する。また羽根車1が反対方向(モータ固定子6から離れる方向)に変位すれば、各ホールセンサと回転子5との距離が遠くなるので、電圧信号v~vの振幅は減少する。そして、電圧信号v~vのこのような振幅変化に応じて、二相信号vα、vβの振幅も増減する。したがって、二乗和平方根演算部35は、次式(6)のように二相信号vα、vβの二乗和の平方根を計算することによって、回転子5の回転軸方向変位に比例した電圧vを求めることができる。
【0053】
【数6】
【0054】
図5は、回転子5の回転軸方向変位Δzと、上記の式(6)にしたがって算出された電圧vの関係を示すグラフである。例えば、図5のグラフはあらかじめ実験によって求めておくことができる。なお、回転軸方向変位Δzは、回転子5がモータ固定子6から離れる方向の変位を正とする。また、回転軸方向変位Δzの位置の基準(すなわちΔz=0である位置)は任意であるが、例えば、回転子5が停止している時の変位を0とすることができる。回転軸方向変位Δzと電圧vの関係式は、次式(7)のように表すことができる。
【0055】
【数7】
【0056】
ただし、kおよびCは実験により図5のグラフから決定される定数である。回転軸方向
変位算出部36は、この関係式(7)を用いて、電圧vから回転軸方向変位Δzを算出することができる。
【0057】
このように、本発明の実施形態によれば、ホールセンサからの出力信号を利用することで、回転子5の回転角度θに加えて回転子5の回転軸方向変位Δzも算出することが可能である。したがって、渦電流センサが不要となることにより、装置の低コスト化と設計レイアウトの自由度の向上を図ることができる。
【0058】
以上、いくつかの例に基づいて本発明の実施形態について説明してきたが、上記した発明の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明には、その均等物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、または、省略が可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 羽根車
2 ポンプケーシング
3 モータケーシング
3a 液体流路
4 エンドカバー
5 永久磁石(回転子)
6 モータ固定子
6A 固定子コア
6B 固定子コイル
6C ホールセンサ
9 Oリング
10 軸受組立体
10a 液体流路
11 回転側軸受
12 固定側軸受
12a ラジアル面
12b スラスト面
13 円筒部
14 フランジ部
15 吸込ポート
15a 吸込口
15b 液体流路
16 吐出ポート
16a 吐出口
25 リード線
26 インバータ装置
27 コネクタ
28 電源
30 コントローラ
31 差動演算部
32 ゲイン・オフセット調整部
33 三相二相変換部
34 逆正接演算部
35 二乗和平方根演算部
36 回転軸方向変位算出部
50 モータポンプ
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5