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特開2025-22010肝臓の容積を推定する方法、肝臓の容積を推定する装置、および肝臓の容積を推定するプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022010
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】肝臓の容積を推定する方法、肝臓の容積を推定する装置、および肝臓の容積を推定するプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/46 20240101AFI20250206BHJP
   A61B 6/03 20060101ALI20250206BHJP
   A61B 5/055 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
A61B6/03 360Z
A61B6/03 360J
A61B6/03 360G
A61B5/055 380
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126203
(22)【出願日】2023-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八反田 文彦
(72)【発明者】
【氏名】西尾 妙織
(72)【発明者】
【氏名】作原 祐介
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 祐介
【テーマコード(参考)】
4C093
4C096
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093AA26
4C093CA18
4C093CA32
4C093DA10
4C093FF16
4C093FF22
4C093FF23
4C093FF28
4C093FF42
4C096AB36
4C096AD14
4C096DC23
4C096DC24
4C096DC38
(57)【要約】
【課題】簡易的かつ安価に肝臓の容積を求めることができる、肝臓の容積を推定する方法を提供すること。
【解決手段】上記方法は、コンピューター断層撮影または核磁気共鳴画像法により得られた複数の横断像を用いて肝臓の容積を推定する方法であって、前記肝臓が映っている前記複数の横断像から、前記肝臓の腹側表面と椎骨の所定の点との間の前後方向の長さである第1長さが最も長い第1画像と、最も頭側の横断像である第2画像と、最も足側の横断像である第3画像とを選別する工程と、前記第1画像における前記第1長さと、前記第1画像における左右の腹壁間の左右方向の最大長さである第2長さと、前記第2画像に対応する横断面と前記第3画像に対応する横断面との間の上下方向の長さである第3長さとを用いて、前記肝臓の容積を算出する工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピューター断層撮影または核磁気共鳴画像法により得られた複数の横断像を用いて肝臓の容積を推定する方法であって、
前記肝臓が映っている前記複数の横断像から、前記肝臓の腹側表面と椎骨の所定の点との間の前後方向の長さである第1長さが最も長い第1画像と、最も頭側の横断像である第2画像と、最も足側の横断像である第3画像とを選別する工程と、
前記第1画像における前記第1長さと、前記第1画像における左右の腹壁間の左右方向の最大長さである第2長さと、前記第2画像に対応する横断面と前記第3画像に対応する横断面との間の上下方向の長さである第3長さとを用いて、前記肝臓の容積を算出する工程と、
を含む、肝臓の容積を推定する方法。
【請求項2】
前記肝臓の容積は、以下の式(1)により算出される、請求項1に記載の肝臓の容積を推定する方法。
V=(D×W×H)/α …式(1)
(式(1)において、Vは前記肝臓の容積、Dは前記第1長さ、Wは前記第2長さ、Hは前記第3長さ、αは2.2~3.8の間の数である。)
【請求項3】
前記αは、2.8~3.2の間の数である、請求項2に記載の肝臓の容積を推定する方法。
【請求項4】
前記椎骨の所定の点は、椎弓板内、棘突起内、または前記椎弓板と前記棘突起との接続部に位置する、請求項1に記載の肝臓の容積を推定する方法。
【請求項5】
前記椎骨の所定の点は、前記椎弓板と前記棘突起との接続部に位置する、請求項4に記載の肝臓の容積を推定する方法。
【請求項6】
前記肝臓は、ヒトの肝臓である、請求項1~5のいずれか一項に記載の肝臓の容積を推定する方法。
【請求項7】
前記肝臓は、多発性肝嚢胞の患者の肝臓である、請求項6に記載の肝臓の容積を推定する方法。
【請求項8】
コンピューター断層撮影または核磁気共鳴画像法により得られた複数の横断像を用いて肝臓の容積を推定する装置であって、
前記肝臓が映っている前記複数の横断像から、前記肝臓の腹側表面と椎骨の所定の点との間の前後方向の長さである第1長さが最も長い第1画像と、最も頭側の横断像である第2画像と、最も足側の横断像である第3画像とを選別する選別部と、
前記第1画像における前記第1長さと、前記第1画像における左右の腹壁間の左右方向の最大長さである第2長さと、前記第2画像に対応する横断面と前記第3画像に対応する横断面との間の上下方向の長さである第3長さとを用いて、前記肝臓の容積を算出する算出部と、
を有する、肝臓の容積を推定する装置。
【請求項9】
コンピューター断層撮影または核磁気共鳴画像法により得られた複数の横断像を用いて肝臓の容積を推定するプログラムであって、
コンピューターに、
前記肝臓が映っている前記複数の横断像から、前記肝臓の腹側表面と椎骨の所定の点との間の前後方向の長さである第1長さが最も長い第1画像と、最も頭側の横断像である第2画像と、最も足側の横断像である第3画像とを選別する工程と、
前記第1画像における前記第1長さと、前記第1画像における左右の腹壁間の左右方向の最大長さである第2長さと、前記第2画像に対応する横断面と前記第3画像に対応する横断面との間の上下方向の長さである第3長さとを用いて、前記肝臓の容積を算出する工程と、
を実行させる、
肝臓の容積を推定するプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝臓の容積を推定する方法、肝臓の容積を推定する装置、および肝臓の容積を推定するプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
多発性肝嚢胞は、肝臓に嚢胞が形成され、形成された嚢胞が増大することで肝臓が肥大化する病気である。多発性肝嚢胞は上記のような特徴を有するため、患者の肝臓の容積から、多発性肝嚢胞に対する治療効果を評価する方法が用いられ得る。また、この方法は、多発性肝嚢胞に起因する合併症の発症の予測にも用いられ得る。これらのことから、肝臓の容積を正確に取得することが求められる。
【0003】
肝臓の容積を取得する方法として、たとえば、核磁気共鳴画像法(MRI)により得られた画像を、画像解析ソフトを用いて手動でトレースして計測する方法が知られている(非特許文献1参照)。また、MRIにより得られた画像から、ソフトウェアにより半自動で肝臓の容積を計測する方法(非特許文献2参照)、およびMRIにより得られた画像から、ディープラーニングプログラムにより自動的に肝臓の容積を計測する方法(非特許文献3参照)も知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Edwin M. Spithoven, et al., “Estimation of Total Kidney Volume in Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease”, American Journal of Kidney Diseases, Vol. 66, pp. 792-801.
【非特許文献2】Yusuke Sakuhara, et al., “Initial experience with the use of tris-acryl gelatin microspheres for transcatheter arterial embolization for enlarged polycystic liver”, Clinical and Experimental Nephrology, Vol. 23, pp. 825-833.
【非特許文献3】Maatje D.A., et al., “Automatic Measurement of Kidney and Liver Volumes from MR Images of Patients Affected by Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease”, Journal of the American Society of Nephrology, Vol. 30, pp. 1514-1522.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1~3のように、肝臓の容積を取得する方法が知られている。しかしながら、非特許文献1の方法では、計測にかかる作業時間が長く、計測者への負担が大きい。また、非特許文献2および非特許文献3の方法では、ソフトウェアの購入に係る費用が高い。そのため、簡易的かつ安価に、肝臓の容積を取得したいという要望が存在する。
【0006】
本発明の目的は、簡易的かつ安価に肝臓の容積を取得できる、肝臓の容積を推定する方法、肝臓の容積を推定する装置、および肝臓の容積を推定するプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、下記[1]~[7]の肝臓の容積を推定する方法に関する。
[1]コンピューター断層撮影または核磁気共鳴画像法により得られた複数の横断像を用いて肝臓の容積を推定する方法であって、
前記肝臓が映っている前記複数の横断像から、前記肝臓の腹側表面と椎骨の所定の点との間の前後方向の長さである第1長さが最も長い第1画像と、最も頭側の横断像である第2画像と、最も足側の横断像である第3画像とを選別する工程と、
前記第1画像における前記第1長さと、前記第1画像における左右の腹壁間の左右方向の最大長さである第2長さと、前記第2画像に対応する横断面と前記第3画像に対応する横断面との間の上下方向の長さである第3長さとを用いて、前記肝臓の容積を算出する工程と、
を含む、肝臓の容積を推定する方法。
[2]前記肝臓の容積は、以下の式(1)により算出される、[1]に記載の肝臓の容積を推定する方法。
V=(D×W×H)/α …式(1)
(式(1)において、Vは前記肝臓の容積、Dは前記第1長さ、Wは前記第2長さ、Hは前記第3長さ、αは2.2~3.8の間の数である。)
[3]前記αは、2.8~3.2の間の数である、[2]に記載の肝臓の容積を推定する方法。
[4]前記椎骨の所定の点は、椎弓板内、棘突起内、または前記椎弓板と前記棘突起との接続部に位置する、[1]~[3]のいずれかに記載の肝臓の容積を推定する方法。
[5]前記椎骨の所定の点は、前記椎弓板と前記棘突起との接続部に位置する、[4]に記載の肝臓の容積を推定する方法。
[6]前記肝臓は、ヒトの肝臓である、[1]~[5]のいずれかに記載の肝臓の容積を推定する方法。
[7]前記肝臓は、多発性肝嚢胞の患者の肝臓である、[6]に記載の肝臓の容積を推定する方法。
【0008】
上記目的を達成するための本発明の別の態様は、下記[8]の肝臓の容積を推定する装置に関する。
[8]コンピューター断層撮影または核磁気共鳴画像法により得られた複数の横断像を用いて肝臓の容積を推定する装置であって、
前記肝臓が映っている前記複数の横断像から、前記肝臓の腹側表面と椎骨の所定の点との間の前後方向の長さである第1長さが最も長い第1画像と、最も頭側の横断像である第2画像と、最も足側の横断像である第3画像とを選別する選別部と、
前記第1画像における前記第1長さと、前記第1画像における左右の腹壁間の左右方向の最大長さである第2長さと、前記第2画像に対応する横断面と前記第3画像に対応する横断面との間の上下方向の長さである第3長さとを用いて、前記肝臓の容積を算出する算出部と、
を有する、肝臓の容積を推定する装置。
【0009】
上記目的を達成するための本発明の別の態様は、下記[9]の肝臓の容積を推定するプログラムに関する。
[9]コンピューター断層撮影または核磁気共鳴画像法により得られた複数の横断像を用いて肝臓の容積を推定するプログラムであって、
コンピューターに、
前記肝臓が映っている前記複数の横断像から、前記肝臓の腹側表面と椎骨の所定の点との間の前後方向の長さである第1長さが最も長い第1画像と、最も頭側の横断像である第2画像と、最も足側の横断像である第3画像とを選別する工程と、
前記第1画像における前記第1長さと、前記第1画像における左右の腹壁間の左右方向の最大長さである第2長さと、前記第2画像に対応する横断面と前記第3画像に対応する横断面との間の上下方向の長さである第3長さとを用いて、前記肝臓の容積を算出する工程と、
を実行させる、
肝臓の容積を推定するプログラム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡易的かつ安価に肝臓の容積を求めることができる、肝臓の容積を推定する方法、肝臓の容積を推定する装置、および肝臓の容積を推定するプログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る、肝臓の容積を推定する方法を示すフローチャートである。
図2A図2Aは、本発明の一実施形態における第1画像の一例である。
図2B図2Bは、本発明の一実施形態における第2画像の一例である。
図2C図2Cは、本発明の一実施形態における第3画像の一例である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る、肝臓の容積を推定する装置の構成を示すブロック図である。
図4図4は、肝臓の容積を推定する装置における制御部の機能的構成を概略的に示したブロック図である。
図5図5は、本発明の実施例における、肝臓の容積の推定結果と計測結果との関係を示したグラフである。
図6図6は、本発明の実施例における、2名の評価者がそれぞれ推定(算出)した肝臓の容積の関係を示したグラフである。
【0012】
1.肝臓の容積を推定する方法
図1は、本発明の一実施形態に係る肝臓の容積を推定する方法を示すフローチャートである。
【0013】
図1に示されるように、本発明の一実施形態に係る、肝臓の容積を推定する方法は、コンピューター断層撮影または核磁気共鳴画像法により得られた複数の横断像を用いて肝臓の容積を推定する方法であって、(1)上記肝臓が映っている前記複数の横断像から、第1画像と、第2画像と、第3画像とを選別する工程(工程S30)と、(2)上記第1画像における第1長さおよび第2長さと、上記第2画像に対応する横断面と上記第3画像に対応する横断面との間の上下方向の長さである第3長さとを用いて、上記肝臓の容積を算出する工程(工程S50)と、を含む。本実施形態では、肝臓の容積を推定する方法は、任意の工程である、肝臓が映っている複数の横断像を入力する工程と(工程S10)と、上記複数の横断像から第1長さを計測する工程(工程S20)と、第1画像から第2長さを取得する工程(工程S40)とをさらに有する。
【0014】
なお、本実施形態において、容積の推定の対象である肝臓は、たとえば、ヒトの肝臓、サルの肝臓、イヌの肝臓、ブタの肝臓、ウシの肝臓などである。これらのうち、ヒトの肝臓であることが好ましく、多発性肝嚢胞の患者の肝臓であることがより好ましい。
【0015】
上記方法では、コンピューター断層撮影または核磁気共鳴画像法により得られた複数の横断像から3枚の横断像(第1画像、第2画像および第3画像)を選別し、選別した3枚の画像から得られる3種の長さ(第1長さ、第2長さおよび第3長さ)を用いて肝臓の容積を算出するだけで、肝臓の容積を推定できる。そのため、簡易的かつ安価に肝臓の容積を取得できる。
【0016】
なお、以下で説明する肝臓の容積を推定する方法は、コンピューター上で実施されることを前提としているが、これに限定されず、たとえば、上記複数の横断像の印刷物を用いて、人が手動で上記方法を実施してもよい。
【0017】
1-1.複数の横断像を入力する工程(工程S10)
本工程では、コンピューター断層撮影または核磁気共鳴画像法により得られた、複数の横断像をコンピューターに入力する。たとえば、コンピューター断層撮影装置または核磁気共鳴画像撮影装置により、肝臓の横断像を複数撮影してコンピューターに入力してもよい。また、予めコンピューター断層撮影または核磁気共鳴画像法により撮影された肝臓の複数の横断像を、記憶媒体や通信回線などを介して入力してもよい。なお、入力される複数の横断像には、肝臓が映っていない横断像が含まれていてもよい。後述する、第2画像200および第3画像300を選別しやすくする観点からは、肝臓が映っていない横断像が含まれていることが好ましい。また、肝臓が写っている横断像では、撮像範囲に肝臓の横断像が全て含まれていることが好ましい。なお、入力する上記横断像の枚数は特に限定されない。
【0018】
また、各横断像のスライス厚は、特に限定されないが、例えば、1mm以上5mm以下である。
【0019】
1-2.第1長さを計測する工程(工程S20)
本工程では、コンピューター断層撮影または核磁気共鳴画像法により得られた、肝臓110が映っている複数の横断像のそれぞれに対して、画像解析を行い、肝臓110の腹側表面120と椎骨130の所定の点130aとの間の前後方向の長さである第1長さを計測する。本実施形態では、公知の画像解析ソフトなどを用いて第1長さを計測してもよいし、手動で第1長さを指定して、第1長さを計測してもよい。なお、本明細書において、「前後方向」とは、肝臓の腹側と背側とを結ぶ方向(背腹方向)のことをいう。
【0020】
また、本実施形態において、肝臓の容積を推定する方法が工程S10を有するときは、本工程で用いる上記複数の横断像は、工程S10で入力された複数の横断像である。上記方法が工程S10を有さないときは、本工程で用いる上記複数の横断像は、たとえば、コンピューター断層撮影または核磁気共鳴画像法により得られた、複数の横断像の印刷物である。
【0021】
椎骨130は、椎体131と、椎弓板132と、棘突起133とを含む。椎骨130の上記所定の点130aは、特に限定されないが、より正確に肝臓の容積を推定する観点から、椎弓板132内、棘突起133内、または椎弓板132と棘突起133との接続部134に位置することが好ましく、椎弓板132と棘突起133との接続部134に位置することがより好ましい。
【0022】
1-3.第1画像、第2画像および第3画像を選別する工程(工程S30)
図2Aは、第1画像100の一例を示し、図2Bは、第2画像200の一例を示し、図2Cは、第3画像300の一例を示す。本明細書では、図2A図2Cにおける、X軸方向が左右方向(後述)であり、Y軸方向が前後方向であり、Z軸方向が上下方向(後述)である。
【0023】
本工程では、コンピューター断層撮影または核磁気共鳴画像法により得られた複数の横断像から、上記第1長さが最も長い第1画像100と、肝臓110が映っている複数の横断像のうちで最も頭側の横断像である第2画像200と、肝臓110が映っている複数の横断像のうちで最も足側の横断像である第3画像300とを選別する。
【0024】
第1画像100は、上記複数の横断像のうち、肝臓110の腹側表面120と椎骨130の所定の点130aとの間の前後方向の長さである第1長さが最も長い横断像であればよい。なお、図2Aでは、上記所定の点130aは、椎弓板132と棘突起133との接続部134であり、矢印Aの長さが第1長さである。
【0025】
第1画像100を選別する方法は、特に限定されず、手動で上記複数の横断像の中から第1長さが最も長い画像を選ぶ方法でもよいし、自動で上記複数の横断像の中から第1長さが最も長い画像を選別するソフトウェアを用いる方法でもよい。また、自動で、上記複数の横断像における第1長さの計測と、第1画像100の選別とを両方行うソフトウェアを用いてもよい。
【0026】
本実施形態において、肝臓の容積を推定する方法が工程S20を有するときは、第1画像100を選別する際に参照する第1長さは、工程S20で計測された値である。肝臓の容積を推定する方法が工程S20を有さないときは、上記方法を実施するコンピューター(または人)とは異なるコンピューター(または人)によって計測された第1長さを参照してもよい。
【0027】
第2画像200は、肝臓110が映っている複数の横断像のうち、最も頭側の横断像であればよい。第2画像200を選別する方法は、特に限定されず、手動で複数の横断像の中から、肝臓110が映っている最も頭側の横断像を選ぶ方法でもよいし、自動で上記複数の横断像の中から、肝臓110が映っている最も頭側の横断像を選別するソフトウェアを用いる方法でもよい。
【0028】
また、第3画像300は、肝臓110が映っている複数の横断像のうち、最も足側の横断像であればよい。第3画像300を選別する方法は、特に限定されず、手動で複数の横断像の中から、肝臓110が映っている最も足側の横断像を選ぶ方法でもよいし、自動で上記複数の横断像の中から、肝臓110が映っている最も足側の横断像を選別するソフトウェアを用いる方法でもよい。
【0029】
1-4.第2長さを取得する工程(工程S40)
本工程では、工程S30で選別された第1画像100に対して画像解析を行い、第1画像100における左右の腹壁140間の左右方向の最大長さである第2長さ(図2Aにおける矢印Bの長さ)を取得する。なお、上記「左右方向」は、図2Aでは、第1画像100において、上記前後方向と直交する方向であるが、これに限定されず、上記前後方向と厳密に直交していなくてもよい。
【0030】
本実施形態では、公知の画像解析ソフトなどを用いて、第1画像100において、左右の腹壁140間の左右方向の長さが最大となる位置を検出し、上記位置における上記左右方向の長さを計測することで第2長さを取得してもよい。また、手動で第2長さを指定して、第2長さを計測することで第2長さを取得してもよい。なお、第2長さは、前側から後側(腹側から背側)にかけて、左右の腹壁140間の左右方向の長さを複数箇所で計測し、計測された長さの中から、最大となる長さを選ぶことで取得されてもよい。
【0031】
1-5.第3長さを取得する工程(工程S50)
本工程では、第2画像200に対応する横断面と第3画像300に対応する横断面との間の上下方向の長さである第3長さを取得する。上記第3長さは、たとえば、肝臓110が写っている各横断像の厚み(スライス厚)に、第2画像200と第3画像300との間の横断像の枚数を乗じることで求められる
【0032】
1-6.肝臓の容積を算出する工程(工程S60)
本工程では、第1画像100における第1長さ(図2Aの矢印Aの長さ)および第2長さ(図2Aの矢印Bの長さ)と、第2画像200に対応する横断面と第3画像300に対応する横断面との間の上下方向の長さである第3長さとを用いて肝臓の容積を算出する。なお、本明細書において、「上下方向」とは、肝臓の頭側と尾側とを結ぶ方向(頭尾方向)のことをいう。
【0033】
本実施形態において、肝臓の容積を推定する方法が工程S40を有するときは、本工程で用いる第2長さは、工程S40で取得された値である。肝臓の容積を推定する方法が工程S40を有さないときは、上記方法を実施するコンピューター(または人)とは異なるコンピューター(または人)によって取得された第2長さを用いてもよい。また、第3長さは、工程S50で取得された値を用いることができる。
【0034】
第1長さ、第2長さ、および第3長さを用いて肝臓の容積を算出する方法は、特に限定されないが、以下の式(1)により算出する方法が好ましい。これにより、肝臓の容積の推定精度をより高めることができる。
V=(D×W×H)/α …式(1)
【0035】
式(1)において、Vは肝臓の容積、Dは第1長さ、Wは第2長さ、Hは第3長さ、αは2.2~3.8の間の数である。肝臓の容積の推定精度をより高める観点から、αは2.8~3.2の数であることが好ましく、2.9~3.1の数であることがより好ましい。
【0036】
なお、本工程では、第1長さと、第2長さと、第3長さとを用いて肝臓の容積を算出できればよく、式(1)による算出方法に限定されない。
【0037】
2.肝臓の容積を推定する装置
上記肝臓の容積を推定する方法を実施するときに用いることができる、本実施形態に係る肝臓の容積を推定する装置について説明する。
【0038】
図3は、本実施形態に係る肝臓の容積を推定する装置1の構成を示したブロック図である。上記装置1は、入力部10、制御部20、操作部30、表示部40、記憶部50を有する。
【0039】
入力部10は、上述の、コンピューター断層撮影または核磁気共鳴画像法により得られた、肝臓が映っている複数の横断像を入力する。入力部10は、コンピューター断層撮影装置、または核磁気共鳴画像撮影装置から送られてきた画像情報を入力してもよいし、記憶媒体に格納された画像情報を入力してもよい。
【0040】
図4は、制御部20の機能的構成を概略的に示したブロック図である。制御部20は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)などを有し、記憶部50に記憶されている各種プログラムとの協働により各種処理を実行し、上記装置1の動作を統括的に制御する。また、図4に示されるように、制御部20は、計測部21と、選別部22と、および算出部23とを有する。制御部20は、記憶部50に記憶されている画像処理プログラムとの協働により、計測部21、選別部22、および算出部23を機能させ、肝臓の容積を推定する。
【0041】
計測部21は、入力部10から入力された上記複数の横断像に対して画像解析を行い、肝臓の腹側表面120と椎骨130の所定の点130aとの間の前後方向の長さである第1長さを計測する。椎骨130(椎体131と、椎弓板132と、棘突起133とを含む)の上記所定の点130aは、特に限定されないが、肝臓の容積の推定精度をより高める観点から、椎弓板132内、棘突起133内、または椎弓板132と棘突起133との接続部134に位置することが好ましく、椎弓板132と棘突起133との接続部134に位置することがより好ましい。
【0042】
計測部21は、選別部22で選別された第1画像100に対して画像解析を行い、前側から後側(腹側から背側)にかけて、左右の腹壁140間の左右方向の長さを複数箇所で計測してもよい。また、計測された上記左右方向の長さのうち、最大となる長さを選んで、これを第2長さとしてもよい。
【0043】
選別部22は、入力部10で入力された上記複数の横断像のうち、計測部21で計測された第1長さが最も長い第1画像100と、最も頭側の横断像である第2画像200と、最も足側の横断像である第3画像300とを選別する。
【0044】
算出部23は、第1画像100における第1長さと、第1画像100における左右の腹壁140間の左右方向の最大長さである第2長さと、第2画像200に対応する横断面と第3画像300に対応する横断面との間の上下方向の長さとを用いて、肝臓の容積を算出する。肝臓の容積を算出する方法は、特に限定されないが、肝臓の容積の推定精度をより高める観点から、以下の式(1)により算出する方法が好ましい。
V=(D×W×H)/α …式(1)
【0045】
式(1)において、Vは肝臓の容積、Dは第1長さ、Wは第2長さ、Hは第3長さ、αは2.2~3.8の間の数である。肝臓の容積の推定精度をより高める観点から、αは2.8~3.2の数であることが好ましく、2.9~3.1の数であることがより好ましい。
【0046】
操作部30は、たとえば、文字入力キー、数字入力キー、各種機能キーなどを含むキーボードと、マウスなどのポインティングデバイスとを有し、キーボードで押下操作されたキーの押下信号とポインティングデバイスによる操作信号とを、入力信号として制御部20に出力する。
【0047】
表示部40は、たとえばCRT(Cathode Ray Tube)やLCD(Liquid Crystal Display)などのモニタを備えて構成されており、制御部20から入力される表示信号の指示に従って、各種画面を表示する。
【0048】
なお、上記装置1は、LANアダプターやルーターなどを備え、LANなどの通信ネットワークを介して外部機器と接続される構成としてもよい。
【0049】
記憶部50は、たとえばHDD(Hard Disk Drive)や半導体の不揮発性メモリーなどで構成されている。記憶部50には、前述のように各種プログラムや各種データなどが記憶されている。
【0050】
3.肝臓の容積を推定するプログラム
上記装置1において、肝臓の容積の推定を行うときに用いることができる、本実施形態に係る肝臓の容積を推定するプログラムについて説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0051】
本実施形態に係る画像処理プログラムは、コンピューター断層撮影または核磁気共鳴画像法により得られた複数の横断像を用いて肝臓の容積を推定するプログラムであって、コンピューターに、上記肝臓が映っている上記複数の横断像から、上記肝臓の腹側表面と椎骨の所定の点との間の前後方向の長さである第1長さが最も長い第1画像と、最も頭側の横断像である第2画像と、最も足側の横断像である第3画像とを選別する工程と、上記第1画像における上記第1長さと、上記第1画像における左右の腹壁間の左右方向の最大長さである第2長さと、上記第2画像に対応する横断面と上記第3画像に対応する横断面との間の上下方向の長さである第3長さとを用いて、上記肝臓の容積を算出する工程とを実行させる。
【0052】
上記プログラムは、上記装置1の制御部20と協働して、計測部21、選別部22、および算出部23を機能させ、画像処理を実行する。
【0053】
(効果)
本実施形態に係る、肝臓の容積を推定する方法、肝臓の容積を推定する装置および肝臓の容積を推定するプログラムでは、第1画像、第2画像および第3画像から得られる、第1長さ、第2長さおよび第3長さを用いるだけで肝臓の容積を推定できる。そのため、上記方法、装置およびプログラムにより簡易的かつ安価に肝臓の容積を推定できる。
【実施例0054】
以下において、実施例を参照して本発明を説明する。実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0055】
<肝臓の容積の推定>
多発性肝嚢胞の患者26人の肝臓(治療前)について、コンピュータ断層撮影によってスライス厚5mmの横断像を複数枚得た。得られた複数の横断像における、肝臓の腹側表面と、椎弓板と棘突起との接続部との間の長さを第1長さとし、コンピューター上で画像解析ソフト(SonicDICOM Media Viewer、フジデノロソリューションズ株式会社製)を用いて第1長さを手動で設定し、計測した。そして、計測した第1長さが最も長い横断像を第1画像として選別した。また、得られた複数の横断像のうち、手動で、肝臓が映っている最も頭側の横断像を第2画像として選別し、肝臓が映っている最も足側の横断像を第3画像として選別した。
【0056】
次いで、選別された第1画像において、左右の腹壁間の左右方向の最大長さ(第2長さ)を手動で指定し、計測した。そして、各横断像のスライス厚に、第2画像と第3画像の間の横断像の枚数を乗じて第3長さを算出した。
【0057】
得られた第1長さと、第2長さと、第3長さとを用いて、下記式(1)により、肝臓の容積を算出した。下記式(1)において、Vは肝臓の容積、Dは第1長さ、Wは第2長さ、Hは第3長さである。
V=(D×W×H)/3 …式(1)
【0058】
上記患者26人について、多発性肝嚢胞に対する治療を行い、治療後24週間経過後の肝臓の容積を上述の方法と同様にして推定した。さらに、上記患者26人について、上記治療後144週間経過後の肝臓の容積を上述の方法と同様に推定した。
【0059】
<肝臓の容積の計測>
上述した多発性肝嚢胞の患者26人の肝臓について、コンピュータ断層撮影によって得られた横断像に対して、3D画像解析ソフト(SYNAPSE VINCENT、富士フイルム株式会社製)を用いて、多発性肝嚢胞に対する治療前の肝臓の容積を計測した。上記治療後、および治療後144週間後の肝臓の容積についても同様にして計測した。上記3D画像解析ソフトは、各横断像における肝臓の面積を計測し、計測された面積と、各横断像のスライス厚とを乗じて算出される値を、肝臓が映っている全ての横断像について合計して肝臓の容積を算出している。そのため、上記3D画像解析ソフトによって計測された肝臓の容積は、実測値に準ずる。なお、上記3D画像解析ソフトは、価格が500万円以上である、高価なソフトである。
【0060】
表1に治療前の肝臓について、第1長さ、第2長さ、および第3長さの計測結果、ならびに肝臓の容積の推定結果および計測(実測)結果を示した。表2に治療後24週間後の肝臓について、第1長さ、第2長さ、および第3長さの計測結果、ならびに肝臓の容積の推定結果および計測(実測)結果を示した。表3に治療後144週間後の肝臓について、第1長さ、第2長さ、および第3長さの計測結果、ならびに肝臓の容積の推定結果および計測(実測)結果を示した。また、図5に、治療前、治療後24週間後、および治療後144週間後の肝臓の容積について、推定結果と計測(実測)結果との関係を示したグラフを示した。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
治療前、治療後24週間経過後および144週間経過後の全患者の肝臓について、推定された肝臓の容積と、計測(実測)された肝臓の容積との間の級内係数(ICC(2,1))は0.923(95%信頼区間:0.862~0.958)であった。
【0065】
上述した多発性肝嚢胞の患者26人の肝臓(治療前、治療後24週間経過後および144週間経過後)について、上述した肝臓の容積の推定を、2名の評価者に行わせた。推定された肝臓の容積について、2名の評価者間の級内係数は0.996(95%信頼区間:0.993~0.997)であった。図6に、2名の評価者が、それぞれ推定(算出)した肝臓の容積の関係を示した。
【0066】
これらの結果から、推定された肝臓の容積は、計測(実測)された肝臓の容積と近い値を示したことがわかった。また、評価者間の推定(算出)誤差が低いこともわかった。そのため、上述した、肝臓の容積を推定する方法により、簡易的かつ安価に、肝臓の容積を求めることができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係る、肝臓の容積を推定する方法は、たとえば、多発性肝嚢胞の治療効果に対する評価や多発性肝嚢胞に起因する合併症の発症の予測に有用である。
【符号の説明】
【0068】
1 肝臓の容積を推定する装置
10 入力部
20 制御部
21 計測部
22 選別部
23 算出部
30 操作部
40 表示部
50 記憶部
100 第1画像
110 肝臓
120 腹側表面
130 椎骨
131 椎体
132 椎弓板
133 棘突起
134 接続部
140 腹壁
200 第2画像
300 第3画像
A 第1長さ
B 第2長さ
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6