IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公立大学法人大阪の特許一覧 ▶ 株式会社エイワットの特許一覧 ▶ 株式会社リーデッジテクノロジーの特許一覧

特開2025-2235ドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法
<>
  • 特開-ドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法 図1
  • 特開-ドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法 図2
  • 特開-ドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法 図3
  • 特開-ドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法 図4
  • 特開-ドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法 図5
  • 特開-ドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法 図6
  • 特開-ドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法 図7
  • 特開-ドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法 図8
  • 特開-ドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法 図9
  • 特開-ドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法 図10
  • 特開-ドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法 図11
  • 特開-ドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法 図12
  • 特開-ドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法 図13
  • 特開-ドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法 図14
  • 特開-ドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法 図15
  • 特開-ドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法 図16
  • 特開-ドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法 図17
  • 特開-ドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法 図18
  • 特開-ドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法 図19
  • 特開-ドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法 図20
  • 特開-ドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法 図21
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002235
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】ドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20241226BHJP
   B63B 35/44 20060101ALI20241226BHJP
   F16M 11/12 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
F16F15/02 A
B63B35/44 Z
F16M11/12 Z
F16F15/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102276
(22)【出願日】2023-06-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 日本船舶海洋工学会論文集 第36号 第31頁~39頁 発行所:公益社団法人日本船舶海洋工学会 令和4年12月発行
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(71)【出願人】
【識別番号】518109169
【氏名又は名称】株式会社エイワット
(71)【出願人】
【識別番号】523239550
【氏名又は名称】株式会社リーデッジテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100143085
【弁理士】
【氏名又は名称】藤飯 章弘
(72)【発明者】
【氏名】片山 徹
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐介
(72)【発明者】
【氏名】絹笠 瑞基
(72)【発明者】
【氏名】森田 万葉
【テーマコード(参考)】
3J048
【Fターム(参考)】
3J048AA06
3J048AD01
3J048AD12
3J048BF08
3J048BF10
3J048CB21
3J048EA37
3J048EA38
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ドップラーライダー自身の揺れを低減し、高精度な風況観測を実現することができるドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法を提供する。
【解決手段】洋上式プラットフォームに設置され、風況観測用のドップラーライダーが搭載される動揺吸収台の動揺を低減する制御方法であって、前記動揺吸収台は、洋上式プラットフォーム上に対して揺動可能に設置されており、可変ダンパによって、制御トルクを前記動揺吸収台に付与することにより該動揺吸収台の動揺を制御する制御方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
洋上式プラットフォームに設置され、風況観測用のドップラーライダーが搭載される動揺吸収台の動揺を低減する制御方法であって、
前記動揺吸収台は、洋上式プラットフォーム上に対して揺動可能に設置されており、
可変ダンパによって、制御トルクを前記動揺吸収台に付与することにより該動揺吸収台の動揺を制御する制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋上風況観測のためのドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電施設の設置には、設置候補地における風況精査のための1 年間の観測データが必要であり、この計測の多くは風況観測タワーが用いられている。現在風況観測事業の拡大に伴い、日本沿岸域での洋上風力発電施設計画が急速に進んでいるが、今後設置海域がさらに拡大すれば,水深が深くなることに伴って風況観測施設設置基礎工事の難化が懸念される。
【0003】
設置工事が簡便で環境影響の少ない観測法として、浮体式プラットフォーム上にレーザー照射式風向風速計(ドップラーライダー)を搭載する方法が検討されている。しかしこの方法は,潮流、風、波による浮体式プラットフォームの運動(動揺や定傾斜)がドップラーライダーの計測精度に影響を与えるため,これら運動を低減する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の方法では、潮流、風、波による浮体式プラットフォームの運動(動揺や定傾斜)がドップラーライダーの計測精度に影響を与えるため、これら運動を低減する必要がある。
【0005】
本発明は、このような要望からなされたものであり、ドップラーライダー自身の揺れを低減し、高精度な風況観測を実現することができるドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の前記目的は、洋上式プラットフォームに設置され、風況観測用のドップラーライダーが搭載される動揺吸収台の動揺を低減する制御方法であって、 前記動揺吸収台は、洋上式プラットフォーム上に対して揺動可能に設置されており、可変ダンパによって、制御トルクを前記動揺吸収台に付与することにより該動揺吸収台の動揺を制御する制御方法により達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ドップラーライダー自身の揺れを低減し、高精度な風況観測を実現することができるドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る動揺吸収台が搭載される姿勢安定装置付きスパーブイ実機の画像と、その概要図である。
図2】左:スパーブイと動揺吸収台の概要図であり、右:単振り子に簡便化した単振り子型動揺吸収台(ドップラーライダーを含む)のモデルである。
図3】スカイフックダンパ理論に関するモデルである。
図4】スカイフックダンパ(左)とスカイフックダンパ理論により制御されるアクティブダンパ(右)を備えた単振り子型動揺吸収台の簡略化モデルである。
図5】スパーブイの正弦運動によって引き起こされる線形ダンパを備えた単振り子型動揺吸収台の挙動の時系列データである。
図6】スカイフックダンパ理論により制御されるアクティブダンパを備えた単振り子型動揺吸収台のスパーブイの正弦運動により引き起こされる挙動の時系列データである。
図7】単振り子型動揺吸収台の運動振幅倍率を示すグラフである。
図8】スカイフックダンパ理論により制御される線形ダンパまたはアクティブダンパを備えた単振り子型動揺吸収台のスパーブイの不規則運動により引き起こされる挙動の時系列データである。
図9】単振り子型動揺吸収台(左)とカウンターウエイト型動揺吸収台(右)との簡易モデルの比較図である。
図10】スカイフックダンパ理論によって制御される線形ダンパまたはアクティブダンパを備えたカウンターウエイト型の動揺吸収台のスパーブイの正弦運動によって引き起こされる挙動の時系列データである。
図11】カウンターウエイト型動揺吸収台の運動振幅倍率を示すグラフである。
図12】カウンターウエイト型動揺吸収台の動揺振幅を示すグラフである。
図13】スカイフックダンパ理論により制御されるアクティブダンパを備えたカウンターウエイト型動揺吸収台のスパーブイの不規則運動による挙動の時系列データである。
図14】スカイフックダンパ理論による線形ダンパまたはアクティブダンパとスカイフックスプリング理論によるアクティブスプリングを備えた非復元カウンターウエイト型動揺吸収台のスパーブイの不規則運動による挙動の時系列データである。
図15】ディスカス型ブイに搭載したカウンターウエイト型動揺吸収台の簡易モデルである。
図16】不規則波におけるディスカス型ブイの挙動の時系列データである。
図17】スカイフックダンパ理論による線形ダンパまたはアクティブダンパとスカイフックスプリング理論によるアクティブスプリングを備えた非復元カウンターウエイト型動揺吸収台のディスカス型ブイの不規則運動による挙動の時系列データである。
図18図16に示すディスカス型ブイの不規則運動による、図17の場合とは異なる制御周波数でのスカイフック理論によるアクティブダンパとスプリングを備えた非復元カウンターウエイト型動揺吸収台の挙動の時系列データである。
図19図18に示す1Hzの制御周波数と1ステップの制御遅延による、スカイフック理論によるアクティブダンパとスプリングを備えた非復元カウンターウエイト型動揺吸収台の挙動の時系列データである。
図20図17の時系列データに関し、スカイフック理論によるアクティブダンパとスプリングを備えた非復元カウンターウエイト型動揺吸収台の減衰トルクと復元トルクの時系列データである。
図21】スカイフック理論によるアクティブダンパとスプリングを備えた非復元カウンターウエイト型動揺吸収台の荒天中(有義波高9m、有義波周期12秒)の挙動の時系列データである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るドップラーライダー用動揺吸収台の制御方法について説明する。発明に係るドップラーライダー用動揺吸収台は、単振り子型動揺吸収台、当該単振り子型を改良したカウンターウエイト型動揺吸収台の二種類に大別される。
【0010】
まず、単振り子型動揺吸収台について説明する。図1に、姿勢安定装置付きスパーブイ実機の画像と、その概要図を示す。スパーブイ実機の上部構造部にドップラーライダーが搭載されており、このドップラーライダー自身の揺れを低減するために,ドップラーライダーを単振り子型動揺吸収台の上にのせて上部構造物上に搭載している。
【0011】
図2左に,スパーブイと動揺吸収台の概要図、右に単振り子に簡便化した単振り子型動揺吸収台(ドップラーライダーを含む)のモデルを示す。簡単のために一方向長波頂波とし、波向きを含む鉛直平面内の運動のみを考える。同図中Mはドップラーライダーを含めた動揺吸収台の質量、l1はスパーブイ下端の係留点から単振り子の支点まで距離、l2は単振り子の支点から動揺吸収台の重心までの距離、Tcは制御トルクである。θ1はスパーブイの縦揺れ、θ2は動揺吸収台の揺れ(鉛直上方からの角度)である。なお,ドップラーライダーが揺れない状態とは、θ2 =πであり続けることを意味する。
【0012】
単振り子型動揺吸収台の要目を表1に示す。固有周期は,外力周期との同調を避けるために、形状の制約条件を満たし、スパーブイの運動周期3~12秒(スパーブイ設置海域の波浪データに基づいて決定)を外している。
【0013】
【表1】
【0014】
単振り子型動揺吸収台の運動方程式について以下説明する。浮体式プラットフォームは、ドップラーライダーを含む動揺吸収台に比べて十分重く、ドップラーライダーの動揺による浮体式プラットフォームの運動への影響は無視できるものとすれば、重力加速度の大きさをg として,単振り子型の運動方程式は下記式1となる.
ここで、θ1およびその時間微分値(θ1’)は入力値である.式1をθ2”について整理して式2とすることで,
オイラー法により同運動方程式を解くこととした。なおθ2、θ2’の初期値は,0.97π(鉛直下方から約5 度),0 とした。
【0015】
制御トルクは,式3の線形ダンパおよびスカイフックダンパ理論による可変ダンパとした。
ここで,c は線形減衰係数である。スカイフックダンパ理論とは、図3左のモデルのように線形バネを介して変位励振を受ける物体を、架空の天井から線形ダンパで宙づり(スカイフック)にし、これと同様の減衰力を図3右のモデルにおける可変ダンパで再現するものである。なお、図3中のZA、ZBは、それぞれ図2中のθ1、θ2と対応している。
【0016】
また、図3中の質量M、バネ定数k、線形減衰係数csky、可変減衰係数csemi、質点の上下変位ZB、変位励振による上下変位ZAを用いれば、図3左モデルの運動方程式は式4、右モデルの運動方程式は式5となる。
したがって,可変減衰係数csemi によって式4の減衰力を模擬するためには、csemi を式6とすればよい。
なお, (Z'B-Z'A)→0の時はcsemi→∞となるので,csemiに上限を設定する必要があり、その上限をcsky とする。また, csemi< 0 となる時はcsemi=0とする。
【0017】
図4にスカイフックダンパ理論を単振り子型に適用した図を示す。同図では図3の架空の天井の代わりに,単振り子の回転軸を含む架空の鉛直壁を仮定している。単振り子型の運動方程式は式1であり、制御トルクTcに式7の可変減衰係数csemiを代入したものとなる。なお、同式から解るようにスカイフックダンパの適用には,θ2”の計測が必要である.
【0018】
まず、スパーブイの縦揺れが正弦運動であると仮定し、動揺吸収台の動揺低減効果を確認する。スパーブイの縦揺れ振幅θ1aを7.5度とし、その運動周期2π/ω1 を3~12 秒(スパーブイ設置海域の波浪データに基づいて決定)の1秒刻みとした。また、計算の時間ステップは0.05 秒、計算時間を50 秒とした。また,スカイフックダンパは各ステップに制御遅れなく適用した。
【0019】
図5に、スパーブイの運動周期が5秒で、線形減衰係数cを0、10、50Nms としたときの計算結果を示す。c = 0 のとき,動揺吸収台の振幅はスパーブイの振幅よりも大きく、スパーブイの運動周期と動揺吸収台の固有周期の成分が重なった波形をしている。線形減衰係数を大きくするとc = 50で、動揺吸収台の固有周期の成分が概ねなくなるが、スパーブイの運動周期の成分にはほとんど変化がない。そこで,線形減衰係数にかわってスカイフックダンパ理論による線形減衰係数csky を0、10、50 Nms とし、それぞれの可変減衰係数csemiの上限を 0、10、50 Nms としたときの結果を図6に示す。しかしながら、線形減衰係数の結果と比べてほとんど変わらない結果となった。
【0020】
上記計算結果の妥当性を評価するために、準静的仮定のもとスパーブイの最大変位の瞬間に動揺吸収台に作用する加速度によって生じる動揺吸収台の傾斜角θ2QS を式8で求めて、動揺吸収台の振幅θ2a を割ることで振幅倍率を求めた。
【0021】
図7に、横軸をω1/ω2n として振幅倍率を示す。なお、ω2nは表1に示す動揺吸収台の固有円振動数であり、縦軸の振幅θ2a は、図5および図6の波形の最大最小幅の半分とした。動揺吸収台の固有周期は対象としたスパーブイの運動周期に比べて短く、振幅倍率が概ね1 であることから、減衰効果は十分に出ており、さらなる動揺低減を目指すためには動揺吸収台の固有周期を長くする必要がある。
【0022】
次に、スパーブイの縦揺れが不規則運動である場合についても動揺吸収台の動揺低減効果を確認する。スパーブイの縦揺れθ1には、小型相似模型を用いた水槽試験結果をフルード相似則に従って実機サイズに換算したものを用いた。水槽試験は、大阪公立大学船舶試験水槽において実施し、一点緊張係留した浅海域用姿勢安定装置付きスパーブイを用いた。なお、不規則波のスペクトルはBretschneider-光易型とし,比較的荒れた海象での運動を計測するために実機換算で有義波高7.11m、有義波周期10.2 秒とした。数値シミュレーションでは水槽試験結果を実機換算して用いるため,計算の時間ステップは0.120 秒、計算時間は290 秒とした.また、スカイフックダンパは各計算ステップに制御遅れなく適用した。
【0023】
線形減衰係数と可変減衰係数を用いた計算結果を図8に示す。c = 0 の結果に比べて減衰力を与えることで動揺吸収台の動揺は小さくなるものの、スパーブイの運動に比べて大きい結果となった。
【0024】
上記単振り子型動揺吸収台の検討結果に基づき,動揺吸収台の固有周期を長くすることを考えた。単振り子型の場合、その固有周期を長くするためには表1中の式に従ってl2 を長くする必要がある。しかし、l2 をスパーブイの全長と等しい30mとしても固有周期は11 秒程度で実現は難しい。そこで、図9に示すカウンターウエイト型動揺吸収台を考えた。単振り子型と同様に、ドップラーライダーを含む動揺吸収台の動揺による浮体式プラットフォームの運動への影響は無視できるものとすれば、カウンターウエイト型の運動方程式は,図9中の文字を用いて式9となる。
ここで、
である。したがって,カウンターウエイト型の固有周期は、M2が下方にあるときを安定とした場合、
となる。
【0025】
カウンターウエイト型の要目を表2に示す。まず、スパーブイの運動が正弦運動であると仮定し、動揺吸収台の動揺低減効果を確認する。なお,計算条件は上述のスパー部位の縦揺れが正弦運動である場合と同じとした。線形減衰係数cを10 Nms、スカイフックダンパ理論に基づく線形減衰係数csky を0、 10 Nms とし、それぞれ可変減衰係数csemi の上限を 0、10 Nms としたときの計算結果(時系列データ)を図10に示し、図11に振幅倍率、図12に動揺振幅を示す。図10において、csky= 0 のときスパーブイの運動周期と動揺吸収台の固有周期成分が重なった波形をしているがその片振幅は3 deg 程度であり、c =10 とcsky=10 の場合は動揺吸収台の固有周期成分はなくなり、c =10 の場合は片振幅が1.5 deg 程度、csky =10 の場合は片振幅が0.5 deg 程度となっている。また,図11図12から、c =10 では運動周期が長くなるとcsky =0 の結果よりも動揺が大きくなることがわかり、一方csky =10 では振幅倍率が0.1 以下となり運動振幅も0.5 deg 以下と十分な効果があることがわかる。
【0026】
さらに、スパーブイの縦揺れが不規則運動である場合についても動揺吸収台の動揺低減効果を確認する。計算条件は、上述のスパー部位の縦揺れが不規則運動である場合と同様であり、計算結果を図13に示す.スパーブイの運動が正弦運動の場合と同様に、csky = 0 ではスパーブイの運動周期と動揺吸収台の固有周期成分が重なった波形をしているがその片振幅は0.6 deg 程度であり、csky =10 では動揺吸収台の固有周期成分はなくなり片振幅が0.4 deg 程度となり、十分な動揺低減効果が確認できた。
【0027】
【表2】
【0028】
上記において,カウンターウエイト型動揺吸収台の効果が確認された。一方で、完全に動揺を停止させることが難しいことも分かった。この理由は、カウンターウエイト型動揺吸収台にその機構として復原力を持たせているために、式9における第2項の強制力が作用するためである。そこで、この復原力をゼロとすることで、スパーブイの運動によって生じる動揺吸収台の強制力をゼロとすることを考えた。表3にその要目を示す。
【0029】
【表3】
【0030】
この場合、何らかの外乱によって動揺吸収台が鉛直下方からずれた場合、復原力がないために鉛直下方へは復原できない。これを解決する方法として、各瞬間のθ2を計測してアクティブに復原力を与えることとした。この時の運動方程式は式12となる。
ここで、Tc は線形ダンパまたはスカイフックダンパによる減衰トルクであり、Tk はスカイフックスプリングによる復原トルクである。スカイフックスプリングとは、スカイフックダンパの可変減衰係数を可変復原係数に置き換えて、それにθ2を掛け合わせることで復原力を与えるもので、式13で表せる。
なお、復原力係数は上記と同様(ksky = 1.31)とし、ksemi の上限はksky とした。計算では、θ1 の不規則運動データが290 秒間しかないため、同不規則運動データを繰り返しつなぎ合わせた。また、その他計算条件は、スパーブイの縦揺れが正弦運動である場合と同じとし、スカイフックダンパおよびスカイフックスプリングは各ステップに制御遅れなく適用した。
【0031】
図14における上図に不規則波中スパーブイの縦揺れ、同中図に、線形ダンパを採用した場合の動揺吸収台の動揺の計算結果、下図にスカイフックダンパを採用した場合の動揺吸収台の動揺の計算結果を示す。Tcが線形ダンパの場合、その係数を大きくしても動揺吸収台の動揺は治まらないが、スカイフックダンパを採用することで係数を大きくするとその動揺をほぼゼロにできる。
【0032】
次いで、上述のスカイフックスプリングを採用した復元力を持たないカウンターウエイト型動揺吸収台を波浪観測ブイ等で広く用いられているディスカス型ブイに適用する場合について説明する。図15にディスカス型ブイとカウンターウエイト型の概要図と座標系、その要目を表4に示す。ディスカス型ブイは、上述のスパーブイと異なり弛緩係留されており、ディスカス型ブイの運動を鉛直面内に限定しても、前後揺れ、上下揺れ、縦揺れの3自由度となる。
【0033】
【表4】
【0034】
上記と同様に、ドップラーライダーを含む動揺吸収台の動揺による浮体式プラットフォームの運動への影響は無視できるものとすれば、ディスカス型ブイに搭載したカウンターウエイト型の運動方程式は、図15中の文字を用いて式14となり、
復原力を持たない場合には上記式12となる。ここで、Tcは線形ダンパまたは式7のスカイフックダンパであり、Tkは式13のスカイフックスプリングである。なお、スカイフックダンパおよびスカイフックスプリングの適用のためにはそれぞれθ2 およびθ2’の計測が必要である。
【0035】
図16に不規則波中ディスカス型ブイの水槽試験結果をフルード相似則に従って実機サイズに換算したもの示す。水槽試験は、大阪公立大学船舶試験水槽において実施し、カテナリー係留したディスカス型ブイを用いた。なお、不規則波のスペクトルはBretschneider-光易型とし、機換算値で有義波高4.5 m および有義波周期12 秒とした。また、運動データが短いので同運動データを繰り返しつなぎ合わせ、その他計算条件も同様とした(制御周波数,制御遅れ,波高の動揺低減効果への影響および制御トルクの発生可能性は下記参照)。図17上図に線形ダンパ採用時、同下図にスカイフックダンパ採用時の動揺吸収台の動揺計算結果を示す。Tc が線形ダンパの場合はその係数を大きくしても動揺吸収台の動揺は治まらないが、スカフックダンパの場合は係数を調整することで動揺吸収台の動揺をほぼゼロにできる。
【0036】
以上、洋上風況観測システムの連続計測性および計測精度向上のため、ドップラーライダーを動揺吸収台に載せることでセンサー自身の揺れを低減することを考え、そのモデルを検討し,その妥当性を数値シミュレーションにより確認した。
【0037】
まず、動揺吸収台として単振り子型の動揺吸収台を考え、この動揺吸収台を浅海域用姿勢安定装置付きスパーブイに搭載した場合の動揺低減性能を評価した。動揺低減のために線形ダンパおよびスカイフックダンパを適用したが、規則波中および不規則波中で動揺吸収台の動揺がスパーブイの運動よりも小さくなることはなかった。しかし、振幅倍率に基づく評価からスカイフックダンパによる動揺低減効果は得られていることがわかった。このような結果となった原因は、単振り子型の機構上、動揺吸収台の固有周期を外力の周期に対して十分に長くできないためであると考えられる。
【0038】
次に、動揺吸収台の固有周期を長くするためにカウンターウエイト型動揺吸収台を考えた。このカウンターウエイト型は減衰力を与えなくても単振り子型に比べれば動揺低減効果が見られたが、動揺周波数に比例して運動振幅が大きくなる。そこで、線形ダンパを適用すると、動揺周波数が高い領域で動揺が顕著に低減できたが、動揺周波数に反比例する結果が得られた。さらに,スカイフックダンパを適用することで、動揺周波数に関係なく運動振幅が小さくなり、不規則運動中でも十分な動揺低減効果が確認できたが、完全に動揺を止めることは難しい。最終的に復原力をゼロとしてスカイフックダンパを用いるとともに、鉛直下方を維持させるためにスカイフックスプリングを適用することで動揺がほぼゼロとなることを確認した。
【0039】
復原力を持たないカウンターウエイト型動揺吸収台をスカイフックスプリングおよびスカイフックダンパを適用することで、ディスカス型ブイおいても十分な動揺低減効果が確認できた。
【0040】
ここで、動揺吸収台に与える制御トルクの制御周波数は,実機換算で0.071 秒(約14 Hz)であり、実機実装の場合は高すぎる可能性がある。そこで、図16のディスカス型ブイの運動計測結果からデータを間引いて動揺サンプリング周波数を実機換算で4 Hz および1 Hz 相当とした場合の動揺低減効果を確認した。なお、その他計算条件は、ディスカス型ブイにカウンターウエイト型動揺吸収台を適用した場合同じとした(ksky = 1.31, csky = 2)。図18に示す結果から、対象とした動揺サンプリング周波数の範囲では動揺低減効果に差がないことが確認できる。
【0041】
また、スカイフックダンパおよびスカイフックスプリングの制御遅れを考慮していない。しかし、実際には動揺サンプリング後に演算を行い、さらにその後にアクチュエーターを作動させるため、制御遅れが生じる。そこで,図16のディスカス型ブイの運動計測結果からデータを間引いて動揺サンプリング周波数を実機換算で1 Hz 相当とした場合の動揺サンプリングデータを用いて、スカイフックダンパおよびスカイフックスプリングの制御トルクを1 ステップ遅れで与えて計算した。図19から、制御遅れは動揺低減効果に影響を与えるが、スカイフックダンパの減衰係数をcsky = 2 から3 に増加することで、十分な動揺低減効果が得られることが確認できる。
【0042】
また、動揺吸収台の実現可能性を確認するために、上述の復原力を持たない場合のディスカス型ブイを対象に、制御トルク(減衰トルクと復原トルク)の時系列データを図20に示す。同図から、両トルクを足し合わせても最大制御トルクは0.1 Nm 未満であり、市販されている直流モーターで対応可能であることが確認できる。
【0043】
また、上述のディスカス型ブイの不規則波中運動計測では、大阪公立大学船舶試験水槽の造波性能の関係で、入射波の有義波高を4.5 m(有義波周期12 秒,Bretschneider-光易型スペクトル)とした。しかし、この波高は、荒天中の波高としては低いため、ディスカス型ブイの不規則波中運動が有義波高に比例するとの大胆な仮定のもと有義波高9 m での運動を求めて、同制御(ksky = 1.31, csky = 2)を適用して動揺低減効果を確認した。図21に示す結果は、図17に比べて動揺吸収台の動揺減衰時間が長くなるが、動揺低減効果得られることが確認できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21