(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022445
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】太陽電池セルおよびその製造方法、ならびに太陽電池モジュール
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20250206BHJP
H10K 30/40 20230101ALI20250206BHJP
H10K 30/85 20230101ALI20250206BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
H10K30/85
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127025
(22)【出願日】2023-08-03
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和4年度山形大学修士学位論文公聴会 修士論文要旨集,第41頁,国立大学法人山形大学 発行日 令和5年2月15日 (2)令和4年度山形大学修士学位論文公聴会 国立大学法人山形大学 米沢キャンパス(山形県米沢市城南4丁目3-16) 開催日 令和5年2月16日 (3)ウェブサイトのアドレス https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2023s/subject/16p-A401-17/advanced ウェブサイトの掲載日 令和5年2月27日 (4)2023年第70回応用物理学会春季学術講演会 上智大学四谷キャンパスおよびオンライン(東京都千代田区紀尾井町7-1) 開催日 令和5年3月16日
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(71)【出願人】
【識別番号】394013644
【氏名又は名称】ケミプロ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 敏光
(72)【発明者】
【氏名】荒木 祥太
(72)【発明者】
【氏名】高遠 秀尚
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健志
(72)【発明者】
【氏名】奥山 豊
(72)【発明者】
【氏名】西松 雅之
(72)【発明者】
【氏名】白石 正之
(72)【発明者】
【氏名】井上 智晴
(72)【発明者】
【氏名】坂口 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】金子 勇一
(72)【発明者】
【氏名】宮本 晋男
【テーマコード(参考)】
5F251
【Fターム(参考)】
5F251AA11
5F251CB24
5F251CB29
5F251FA06
5F251XA31
(57)【要約】
【課題】優れた発電特性を有し、かつ耐熱性の高い、ペロブスカイト型の太陽電池セルの提供を目的とする。
【解決手段】当該太陽電池セルは、金属ハライドペロブスカイト化合物を含む活性層と、前記活性層上に配置された電子輸送層と、前記電子輸送層上に隣接して配置された陰極層と、を有する太陽電池セルであり、前記電子輸送層が、9-ビス(ナフタレン-1-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンおよび/または9-ビス(ナフタレン-2-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンを含み、かつ前記陰極層と隣接する領域に、前記陰極層との電気的接合性を促進するための接合促進領域を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ハライドペロブスカイト化合物を含む活性層と、
前記活性層上に配置された電子輸送層と、
前記電子輸送層上に隣接して配置された陰極層と、
を有する太陽電池セルであり、
前記電子輸送層が、9-ビス(ナフタレン-1-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンおよび/または9-ビス(ナフタレン-2-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンを含み、かつ前記陰極層と隣接する領域に、前記陰極層との電気的接合性を促進するための接合促進領域を有する、
太陽電池セル。
【請求項2】
前記接合促進領域が、8-キノリノラトリチウム、リチウム2-(2’,2’’-ビピリジン-6’-イル)フェノレート、リチウム2-(イソキノリン-1’-イル)フェノレート、フッ化リチウム、酸化リチウム、酢酸リチウム、およびトリス(8-キノリノラト)アルミニウムからなる群から選ばれる一種以上の接合促進材料を含む、
請求項1に記載の太陽電池セル。
【請求項3】
前記電子輸送層が、前記接合促進領域より前記活性層側に、前記9-ビス(ナフタレン-1-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンおよび/または9-ビス(ナフタレン-2-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンを含む電子輸送材料含有領域をさらに有する、
請求項2に記載の太陽電池セル。
【請求項4】
前記電子輸送層が、前記電子輸送材料含有領域より前記活性層側に、C60フラーレンまたはその誘導体を含む、フラーレン含有領域をさらに有する、
請求項3に記載の太陽電池セル。
【請求項5】
前記接合促進領域が、
前記9-ビス(ナフタレン-1-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンおよび/または9-ビス(ナフタレン-2-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンと、
金属材料および/または接合促進材料と、
を共蒸着した層であり、
前記接合促進材料が、8-キノリノラトリチウム、リチウム2-(2’,2’’-ビピリジン-6’-イル)フェノレート、リチウム2-(イソキノリン-1’-イル)フェノレート、フッ化リチウム、酸化リチウム、酢酸リチウム、およびトリス(8-キノリノラト)アルミニウムからなる群から選ばれる化合物である、
請求項1に記載の太陽電池セル。
【請求項6】
前記電子輸送層が、前記接合促進領域より前記活性層側に、C60フラーレンまたはその誘導体を含む、フラーレン含有領域をさらに有する、
請求項5に記載の太陽電池セル。
【請求項7】
前記接合促進領域が、前記9-ビス(ナフタレン-1-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンおよび/または9-ビス(ナフタレン-2-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンと、前記陰極層を構成する材料と、を含む、
請求項1に記載の太陽電池セル。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の太陽電池セルと、
前記太陽電池セルを覆う封止材と、
を含む、太陽電池モジュール。
【請求項9】
金属ハライドペロブスカイト化合物を含む活性層を準備する工程と、
前記活性層上に電子輸送層を形成する工程と、
前記電子輸送層上に隣接するように陰極層を形成する工程と、
を含み、
前記電子輸送層を形成する工程が、
9-ビス(ナフタレン-1-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン、および/または9-ビス(ナフタレン-2-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンを含む電子輸送材料含有領域を形成する工程、および
前記電子材料含有領域上に、8-キノリノラトリチウム、リチウム2-(2’,2’’-ビピリジン-6’-イル)フェノレート、リチウム2-(イソキノリン-1’-イル)フェノレート、フッ化リチウム、酸化リチウム、酢酸リチウム、およびトリス(8-キノリノラト)アルミニウムからなる群から選ばれる化合物を少なくとも一種を含む、接合促進領域を形成する工程を含む、
太陽電池セルの製造方法。
【請求項10】
前記電子輸送層を形成する工程が、
前記電子輸送材料含有領域を形成する工程の前に、C60フラーレンまたはその誘導体を含むフラーレン含有領域を形成する工程をさらに含む、
請求項9に記載の太陽電池セルの製造方法。
【請求項11】
前記陰極層を形成する工程の後、少なくとも前記陰極層および前記電子輸送層を、60℃以上180℃以下に加熱する工程をさらに含む、
請求項9または10に記載の太陽電池セルの製造方法。
【請求項12】
金属ハライドペロブスカイト化合物を含む活性層を準備する工程と、
前記活性層上に電子輸送層を形成する工程と、
前記電子輸送層に隣接するように陰極層を形成する工程と、
を含み、
前記電子輸送層を形成する工程が、
9-ビス(ナフタレン-1-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン、および/または9-ビス(ナフタレン-2-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンと、金属材料および/または接合促進材料とを共蒸着して、接合促進領域を形成する工程を含み、
前記接合促進材料が、8-キノリノラトリチウム、リチウム2-(2’,2’’-ビピリジン-6’-イル)フェノレート、リチウム2-(イソキノリン-1’-イル)フェノレート、フッ化リチウム、酸化リチウム、酢酸リチウム、およびトリス(8-キノリノラト)アルミニウムからなる群から選ばれる化合物である、
太陽電池セルの製造方法。
【請求項13】
前記電子輸送層を形成する工程が、
前記接合促進領域を形成する工程の前に、C60フラーレンまたはその誘導体を含む領域を形成する工程をさらに含む、
請求項12に記載の太陽電池セルの製造方法。
【請求項14】
金属ハライドペロブスカイト化合物を含む活性層を準備する工程と、
前記活性層上に9-ビス(ナフタレン-1-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン、および/または9-ビス(ナフタレン-2-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンを含むNBPhen層を形成する工程と、
前記NBPhen層に隣接して、金属材料を含む金属材料層を形成する工程と、
前記金属材料層を形成する工程の後に、前記NBPhen層および前記金属材料層を60℃以上180℃以下に加熱する工程と、を含む、
太陽電池セルの製造方法。
【請求項15】
前記活性層を準備する工程の後、前記NBPhen層を形成する工程の前に、C60フラーレンまたはその誘導体を含む領域を形成する工程をさらに含む、
請求項14に記載の太陽電池セルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池セルおよびその製造方法、ならびに太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
金属ハライドペロブスカイト有機化合物を活性層に用いた太陽電池は、一般的にペロブスカイト型太陽電池とも称され、その作製工程の多くを、有機物や無機物を含む溶液の塗布等によって行うことができる。したがって、低コストで製造することが可能である。さらに、1cm2未満の小面積では25%を超えるエネルギー変換効率が報告されており、その性能の面でも非常に期待されている。さらに、当該ペロブスカイト型太陽電池は、活性層の組成を変更することで、バンドギャップを容易に調整可能である。したがって、タンデム型多接合太陽電池の作製においても注目されている。
【0003】
このようなペロブスカイト型太陽電池の太陽電池セルの構成として、透明電極付きガラス基板/正孔輸送層/トリプルカチオン鉛ハライドペロブスカイト化合物等を含む活性層/電子輸送層/金属電極をこの順に積層した構成が知られている。また、上記電子輸送層の材料として、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(以下「バソクプロイン」または「BCP」とも称する)が知られている。当該バソクプロインは金属電極(特に銀電極)との親和性が高く、優れた電気的コンタクトを有する電子輸送材料として知られている。
【0004】
上記バソクプロインは、単体では真空準位を基準としてHOMOが3.5eVであり、LUMOが7.0eVである。つまり、バソクプロインは、極めて広いバンドギャップを有する物質である。したがって、バソクプロインを電子輸送層に用いると、活性層で発生した正孔の陰極側への侵入を阻止可能である。一方で、バソクプロインは、活性層側から陰極側への電子の流れも阻止してしまうが、陰極材料として銀を用いると、当該銀が電子輸送層内でバンド内準位を作り、ここを電子が伝っていくことで、良好な電気的特性が得られることが報告されている(例えば非特許文献1)。また、バスクプロインでは、このような銀の拡散が、室温で容易に生じやすいこと等も報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】C.J. Huang et al., “Effect of Energy States in Buffer Layer on Organic Solar Cells Output Performance,” ECS Solid State Lett., vol. 2, no. 1, pp. Q5-Q7,
【非特許文献2】Z. Ying et al., “Charge-transfer induced multifunctional BCP:Ag complexes for semi-transparent perovskite solar cells with a record fill factor of 80.1%,” J. Mater. Chem. A, vol. 9, no. 20, pp. 12009-12018, 2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のバソクプロインを電子輸送材料として含むペロブスカイト型太陽電池は、無機半導体結晶で構成される既存の太陽電池と比較して、耐熱性が劣ることが大きな課題となっている。バソクプロインのガラス転移温度は、83℃である。そのため、屋外用の太陽電池や自動車用の太陽電池等に適用すると、十分な発電性能が得られない、という課題があった。そこで、高温でも安定であり、かつ電子輸送材料として好適な化合物が求められている。
【0007】
ここで、9-ビス(ナフタレン-2-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(以下、「β-NBPhen」とも称する)や9-ビス(ナフタレン-1-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(以下、「α-NBPhen」も称する)は、有機エレクトロルミネッセンス素子において実績があり、これらはバソクプロインより熱安定性が高いことが知られている。そこで、これらをペロブスカイト型太陽電池の電子輸送層の材料として利用することが考えられる。しかしながら、通常、β-NBPhenやα-NBPhenは、金属電極との相互作用が弱い。したがって、通常の方法でβ-NBPhenやα-NBPhenを含む電子輸送層を形成しただけでは、電子輸送層と陰極との間における直列抵抗が大きくなりやすく、太陽電池の初期特性(曲線因子)がバソクプロインを用いた場合より低くなりやすかった。
【0008】
そこで、本発明は、優れた発電特性を有し、かつ耐熱性の高い、ペロブスカイト型の太陽電池セルおよびその製造方法、ならびに太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、金属ハライドペロブスカイト化合物を含む活性層と、前記活性層上に配置された電子輸送層と、前記電子輸送層上に隣接して配置された陰極層と、を有する太陽電池セルであり、前記電子輸送層が、9-ビス(ナフタレン-1-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンおよび/または9-ビス(ナフタレン-2-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンを含み、かつ前記陰極層と隣接する領域に、前記陰極層との電気的接合性を促進するための接合促進領域を有する、太陽電池セルを提供する。
【0010】
また、本発明は、上記太陽電池セルと、当該太陽電池セルを覆う封止材と、を含む、太陽電池モジュールも提供する。
【0011】
さらに、本発明は、金属ハライドペロブスカイト化合物を含む活性層を準備する工程と、前記活性層上に電子輸送層を形成する工程と、前記電子輸送層上に隣接するように陰極層を形成する工程と、を含み、前記電子輸送層を形成する工程が、9-ビス(ナフタレン-1-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン、および/または9-ビス(ナフタレン-2-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンを含む電子輸送材料含有領域を形成する工程、および前記電子材料含有領域上に、8-キノリノラトリチウム、リチウム2-(2’,2’’-ビピリジン-6’-イル)フェノレート、リチウム2-(イソキノリン-1’-イル)フェノレート、フッ化リチウム、酸化リチウム、酢酸リチウム、およびトリス(8-キノリノラト)アルミニウムからなる群から選ばれる化合物を少なくとも一種を含む、接合促進領域を形成する工程を含む、太陽電池セルの製造方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、金属ハライドペロブスカイト化合物を含む活性層を準備する工程と、前記活性層上に電子輸送層を形成する工程と、前記電子輸送層に隣接するように陰極層を形成する工程と、を含み、前記電子輸送層を形成する工程が、9-ビス(ナフタレン-1-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン、および/または9-ビス(ナフタレン-2-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンと、金属材料および/または接合促進材料とを共蒸着して、接合促進領域を形成する工程を含み、前記接合促進材料が、8-キノリノラトリチウム、リチウム2-(2’,2’’-ビピリジン-6’-イル)フェノレート、リチウム2-(イソキノリン-1’-イル)フェノレート、フッ化リチウム、酸化リチウム、酢酸リチウム、およびトリス(8-キノリノラト)アルミニウムからなる群から選ばれる化合物である、太陽電池セルの製造方法を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、金属ハライドペロブスカイト化合物を含む活性層を準備する工程と、前記活性層上に9-ビス(ナフタレン-1-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン、および/または9-ビス(ナフタレン-2-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンを含むNBPhen層を形成する工程と、前記NBPhen層に隣接して、金属材料を含む金属材料層を形成する工程と、前記金属材料層を形成する工程の後に、前記NBPhen層および前記金属材料層を60℃以上180℃以下に加熱する工程と、を含む、太陽電池セルの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、優れた発電特性を有し、かつ耐熱性の高い、ペロブスカイト型の太陽電池セルおよびその製造方法、ならびに太陽電池モジュールが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る太陽電池セルの構造を示す模式図である。
【
図2】
図2Aは、第1の態様および第3の態様に係る電子輸送層の構成を示す模式図であり、
図2Bは、第2の態様に係る電子輸送層の構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、β-NBPhen、Liq、および銀を単独で、または積層したときの吸光度の測定結果である。
【
図4】
図4A~Fは、実施例における太陽電池セルの作製方法を示す工程図である。
【
図5】
図5は、実施例で作製した太陽電池セルの分解図である。
【
図6】
図6は、実施例1-1および比較例1-1~1-3で作製した太陽電池セルの電流・電圧特性を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例1-1および比較例1-1~1-4で作製したエネルギー変換効率、開放電圧、短絡電流密度、および曲線因子を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、「~」で示す数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を含む数値範囲を意味する。
【0017】
本発明の一実施形態に係る太陽電池セルの構造の一例を
図1に示す。
図1に示すように、太陽電池セル10は、金属ハライドペロブスカイト化合物を含む活性層14と、当該活性層14の一方の面に配置された電子輸送層15と、当該電子輸送層15に隣接して配置された陰極層16と、を有する。また、活性層14の他方の面には、正孔輸送層13、陽極(透明電極)12、および透明基板11が順に配置されている。当該太陽電池セル10では、透明基板11側から太陽光が入射し、入射した光によって活性層14中の金属ハライドペロブスカイト化合物(以下、単に「ペロブスカイト化合物」とも称する)が励起される。そして、ペロブスカイト化合物の励起によって生じた電子が電子輸送層15を介して陰極層16側に、正孔が正孔輸送層13を介して陽極12側に移動することで、起電力が生じる。なお、本実施形態の太陽電池セル10は、本実施形態の目的および効果を損なわない範囲で、他の層や構成を含んでいてもよい。
【0018】
ここで、本実施形態の太陽電池セル10の電子輸送層15は、α-NBPhenおよび/またはβ-NBPhenを含む。また、当該電子輸送層15は、陰極層16と隣接する領域に、陰極層16との電気的接合を促進するための接合促進領域(図示せず)を有する。このような電子輸送層15を含む太陽電池セルについて、以下の3つの態様を例に説明する。ただし、本実施形態は、これらの態様に限定されるものではない。
【0019】
(1)第1の態様
第1の態様の太陽電池セル10は、上述のように、透明基板11/陽極12/正孔輸送層13/活性層14/電子輸送層15/陰極層16がこの順に積層された構造を有する。本態様の電子輸送層15の部分拡大図を
図2Aに示す。本態様の電子輸送層15は、活性層14側から陰極層16側にかけて、C
60フラーレンまたはその誘導体を含むフラーレン含有領域15aと、電子輸送材料であるα-NBPhenおよび/またはβ-NBPhenを含む電子輸送材料含有領域15bと、接合促進材料を含む接合促進領域15cと、の3つの領域が順に配置されている。
【0020】
当該太陽電池セル10は、電子輸送材料としてα-NBPhenおよび/またはβ-NBPhenを使用することから、耐熱性が良好であり、高温環境下でも使用が可能である。また上述のように、従来、α-NBPhenおよび/またはβ-NBPhenを使用した太陽電池では、電子輸送層と陰極との間における直列抵抗が大きくなりやく、太陽電池の初期特性が低くなりやすかった。これに対し、本態様では、電子輸送材料含有領域15bと陰極層16との間に上記接合促進領域15cを有するため、非常に優れた電池特性が得られる。その理由を以下に説明する。
【0021】
ガラス基板上に以下に示す構成の単層膜または積層膜を、それぞれ真空蒸着法で形成した場合の吸光度の測定結果を
図3に示す。なお、Liqは、8-キノリノラトリチウムを表し、上記接合促進材料に相当する化合物である。
[0]銀(5nm)のみ
[1]β-NBPhen(8nm)のみ
[2]β-NBPhen(8nm)およびLiq(2nm)
[3]Liq(2nm)および銀(5nm)
[4]β-NBPhen(8nm)および銀(5nm)
[5]β-NBPhen(8nm)、Liq(2nm)、および銀(5nm)
なお、[1]~[5]については、成膜後、乾燥窒素雰囲気中にて、100℃で10分間熱処理を行ったときの吸光度の測定結果も示す。
【0022】
図3に示すように、β-NBPhen(電子輸送材料)と、Liq(接合促進材料)と銀(陰極層を構成する金属)とを積層した場合(
図3における「5」)、それぞれの材料単体(
図3における「0」、「1」)では見られなかった可視光域(500nm~900nm)に光吸収が生じた。その要因としては、β-NBPhenの銀への配位、β-NBPhenまたはLiqと銀との2者間での相互作用、もしくはこれに伴う電荷移動錯体の形成、あるいはβ-NBPhen、Liqおよび銀の3者が絡んでの化学的反応もしくは相互作用が生じたと考えられる。
【0023】
また、Liq(Li錯体)と銀とを積層したり、これらの形成後に加熱処理を行ったりすると、Li錯体の配位子と、銀とが結合し、Liの一部が玉突き的に遊離し、層内に拡散すると考えられる。その結果、遊離したLiとβ-NBPhenとが配位結合等の相互作用を生じたこと等も、可能性として考えられる。
【0024】
本態様の太陽電池セル10において、電子輸送材料であるβ-NBPhenやα-NBPhenと、他の材料との相互作用を設計し、電子輸送層15と陰極層16との電気的接合性を促進させることは非常に重要である。
図3における「1」に示すように、電子輸送材料であるβ-NBPhenやα-NBPhenは、それ自体は可視光域に光吸収ピークを持たないワイドバンドギャップの材料である。そのため、エネルギー準位的にLUMOの位置が高く、そのままでは活性層14から陰極層16への電子取出しにおいてエネルギー障壁があるものと考えられる。これに対し、本態様の電子輸送層15のように、電子輸送材料を含む電子輸送材料含有領域15bと、陰極層16との間に、接合促進材料を含む接合促進領域15cを形成することで、
図3の「5」に示すように、これらが相互作用する。これにより、電子輸送層15の広いバンドギャップの中に、サブギャップあるいはギャップ内準位に相当する準位を生じる。あるいは、電子輸送材料と金属原子との配位結合による双極子モーメントが作用する形で、結果的に活性層14側から陰極層16側への電荷取出しにおけるエネルギー障壁が低減され、電荷をスムーズに外部に取り出せるようになる。その結果、本態様の太陽電池セル10において、良好な電気的特性が得られると考えられる。
【0025】
なお、β-NBPhenやα-NBPhenを電子輸送材料とした従来の太陽電池において、良好な特性が得られなかった理由としては、電子輸送層内にギャップ内準位を生じるための、金属イオン(ここでは銀イオン)の拡散が十分に起きなかったことが一因として考えられる。
【0026】
以下、本態様の太陽電池セル10の各層について説明し、さらに当該太陽電池セル10の製造方法を説明する。ただし、本態様の太陽電池セル10は、下記に示す層以外にも、本態様の目的および効果を損なわない範囲で、任意の層や構成を含んでいてもよい。
【0027】
・電子輸送層
電子輸送層15は、活性層14で発生した電子を陰極層16側に受け渡すとともに、活性層14で発生した正孔の陰極層16側への移動を阻止するための層である。上述のように、本態様の電子輸送層15は、活性層14側から、フラーレン含有領域15aと、α-NBPhenおよび/またはβ-NBPhenを主に含む電子輸送材料含有領域15bと、接合促進材料を含む接合促進領域15cとをこの順に有する。
【0028】
フラーレン含有領域15aは、C60フラーレンまたはその誘導体を含む領域であればよい。フラーレン含有領域15aは、C60フラーレンまたはその誘導体を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。さらに、C60フラーレンまたはその誘導体以外の材料(例えばα-NBPhenおよび/またはβ-NBPhen等)を含んでいてもよい。この場合、フラーレン含有領域15aの総質量に対して、C60フラーレンまたはその誘導体を95質量%以上含むことが好ましく、99質量%以上含むことがより好ましい。電子輸送層15がフラーレン含有領域15aを含むと、活性層14と電子輸送層15中の電子輸送材料との間での電子の受け渡しがよりスムーズに行われ、太陽電池10の性能がさらに高まる。
【0029】
C60フラーレンの誘導体の例には、C60フラーレンに任意の原子や官能基、ポリマーが結合した化合物が含まれる。C60フラーレンに結合する原子や官能基、ポリマーの例には、水素原子;水酸基;フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;シアノ基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基;チエニル基、ピリジル基等の芳香族複素環基;各種ポリマー;等が含まれる。これらの原子や官能基は、C60フラーレンに2つ以上結合していてもよく、官能基どうしが環を形成したりしていてもよい。C60フラーレン誘導体の具体例には、[6,6]-フェニルC61酪酸メチルエステル(以下、「PCBM」とも称する)が含まれる。
【0030】
本態様の電子輸送層15におけるフラーレン含有領域15aの厚みは1nm以上300nm以下が好ましく、10nm以上100nm以下がより好ましい。フラーレン含有領域15aの厚みが当該範囲であると、太陽電池セル10の性能がさらに良好になりやすい。
【0031】
一方、電子輸送材料含有領域15bは、α-NBPhenおよびβ-NBPhenのいずれか一方もしくは両方を含む領域であればよい。当該電子輸送材料含有領域15bは、α-NBPhenおよびβ-NBPhen以外の成分を一部に含んでいてもよいが、当該電子輸送材料含有領域15bは、主にα-NBPhenおよび/またはβ-NBPhenで構成されていることが好ましい。具体的には、電子輸送材料含有領域15bの総質量に対して、α-NBPhenおよびβ-NBPhenを90質量%以上含むことが好ましく、99質量%以上含むことがより好ましい。電子輸送材料含有領域15bの厚みは、0.1nm以上100nm以下が好ましく、3nm以上30nm以下がより好ましい。電子輸送材料含有領域15bの厚みが当該範囲であると、活性層14から陰極層16への電子の受け渡し効率がさらに良好になりやすい。
【0032】
また、接合促進領域15cは、8-キノリノラトリチウム、リチウム2-(2’,2’’-ビピリジン-6’-イル)フェノレート、リチウム2-(イソキノリン-1’-イル)フェノレート、フッ化リチウム、酸化リチウム、酢酸リチウム、およびトリス(8-キノリノラト)アルミニウムからなる群から選ばれる一種以上の接合促進材料を含む領域である。接合促進領域15cは、接合促進材料を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。接合促進領域15cは、上記接合促進材料とともに、α-NBPhenおよび/またはβ-NBPhenや、後述の陰極層16を構成する材料を一部に含んでいてもよい。ただし、結合促進領域15cの総質量に対して、結合促進材料を1質量%以上含むことが好ましい。
【0033】
上記接合促進領域の厚みは、0.1nm以上30nm以下が好ましく、1nm以上10nm以下がより好ましい。接合促進領域15cの厚みが当該範囲であると、接合促進材料によって、電子輸送層15と陰極層16との電気的接合がさらに促進されやすくなる。
【0034】
なお、電子輸送層15全体の厚みは、1nm以上1μm以下が好ましく、10nm以上100nm以下がより好ましい。
【0035】
・活性層
活性層14は、金属ハライドペロブスカイト有機化合物(ペロブスカイト化合物)を含む層である。ペロブスカイト化合物は、一般式ABmXnで表される、斜方晶構造を有する化合物である。一般式におけるAは、有機基MA(メチルアンモニウム(CH3NH3
+))、有機基FA(ホルムアミジニウム(HC(NH2)2
+))、またはセシウムカチオン(Cs+)を表す。また、一般式におけるBは金属イオンPb2+又はSn2+を表す。さらに一般式におけるXは、ハロゲンイオンF-、Cl-、I-、またはBr-を表す。また、mは0.8~1.2であり、nは2.8~3.2である。
【0036】
活性層14の厚みは、50nm以上2μm以下が好ましく、100nm以上1μm以下がより好ましい。活性層14の厚みが当該範囲であると、太陽光を効率よく吸収し、より高い起電力を発生させることができる。
【0037】
・陰極層
陰極層16は、金属を含み、かつ導電性の高い層であればよい。陰極層16は一層のみで構成されていてもよく、複数層で構成されていてもよい。陰極層16が含む金属の例には、銀、金、銅、アルミニウム、パラジウム、インジウム、スズ、亜鉛、ガリウム等が含まれる。陰極層16は、銀や金、銅、アルミニウム等の金属単体で構成されていてもよく、銀-パラジウム-銅合金等の合金で構成されていてもよい。さらに酸化インジウムスズや、酸化インジウム亜鉛、酸化インジウムガリウム、アルミニウムドープ酸化亜鉛等といった、導電性金属酸化物で構成されていてもよい。陰極層16は、これらの材料を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。これらの中でも、上記電子輸送層15中の接合促進材料や、電子輸送材料と相互作用しやすいという観点、さらには導電性が高いという観点で銀が好ましい。
【0038】
陰極層16の厚みは、十分な導電性を発揮可能であれば特に制限されず、10nm以上100μm以下が好ましく、20nm以上10μm以下がより好ましい。
【0039】
・正孔輸送層
正孔輸送層13は、活性層14で発生した正孔を陽極12側に受け渡すとともに、活性層14で発生した電子の陽極12側への移動を抑制するための層である。当該正孔輸送層13は、正孔輸送材料を含む層であればよく、正孔輸送材料の例には、ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン](PTAA)、ポリ[(9,9-ジクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(4,4’(N-(4-sec-ブチルフェニル)ジフェニルアミン))(TFB)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)(PEDOT:PSS)等の正孔輸送性ポリマー、共役系高分子材料、導電性高分子材料等が含まれる。
【0040】
また、正孔輸送層の材料の例には、正孔選択性を有する自己組織化単分子膜材料も含まれ、その例には、[2-(3,6-ジメトキシ-9H-カルバゾール-9-イル)エチル]ホスホン酸(MeO-2PACz)、[2-(3,6-ジメトキシ-9H-カルバゾール-9-イル)ブチル]ホスホン酸(MeO-4PACz)、[2-(9H-カルバゾール-9-イル)エチル]ホスホン酸(2PACz)、[2-(3,6-ジブロモ-9H-カルバゾール-9-イル)エチル]ホスホン酸(Br-2PACz)、[2-(3,6-ジメチル-9H-カルバゾール-9-イル)エチル]ホスホン酸(Me-2PACz)、[4-(9H-カルバゾール-9-イル)ブチル]ホスホン酸(4PACz)および[4-(3,6-ジメチル-9H-カルバゾール-9-イル)ブチル]ホスホン酸(Me-4PACz)等が含まれる。正孔輸送層は、正孔輸送材料を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0041】
正孔輸送層の厚みは、上記正孔輸送性能を発揮可能であれば特に制限されず、1μm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。
【0042】
・陽極
本態様の太陽電池セル10では、陽極12が受光面側に配置されるため、陽極12は、太陽光に対して透過性を有する材料で構成される。このような陽極の材料の例には、酸化インジウムスズや、酸化インジウム亜鉛、酸化インジウムガリウム、アルミニウムドープ酸化亜鉛等といった、導電性金属酸化物が含まれる。陽極12は、これらを一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0043】
陽極12の厚みは、十分な導電性を発揮可能であれば特に制限されず、10nm以上10μm以下が好ましく、100nm以上1μm以下がより好ましい。
【0044】
・透明基板
透明基板11は、太陽光に対して透過性を有し、かつ太陽電池セル10を外部の衝撃等から保護可能な強度を有する基板であればよい。当該透明基板11は、樹脂フィルム等からなる基板であってもよいが、その強度や太陽光の透過性等の観点でガラス基板が好ましい。
【0045】
・本態様の太陽電池セルの製造方法
上述の太陽電池セル10は、例えば以下の方法で製造できるが、当該方法に限定されない。当該太陽電池セル10の製造方法では、透明基板11上に公知の方法で、陽極12を所望のパターン状に形成する。陽極12の形成方法は特に制限されず、例えば各種塗布法等によって形成してもよく、蒸着法等によって形成してもよい。
【0046】
続いて、上記陽極12上の所望の位置に、上述の正孔輸送材料を含む正孔輸送層13を形成する。正孔輸送層13の形成方法は特に制限されない。例えば正孔輸送材料を液体に分散または溶解させて、公知の塗布法(例えばスピンコート法)で塗布し、液体を除去することで形成可能である。
【0047】
当該正孔輸送層13上に上述のペロブスカイト化合物を含む活性層14をさらに形成する。活性層14の形成方法は特に制限されないが、ペロブスカイト化合物を液体に分散または溶解させた組成物をスピンコート法によって塗布し、さらに貧溶媒をスピンコート法によって塗布することで、ペロブスカイト化合物を結晶化させる方法が挙げられる。
【0048】
当該活性層14上に、電子輸送層15のフラーレン含有領域15aを形成する。フラーレン含有領域は15aの形成方法は特に制限されない。例えば、蒸着法等によって形成してもよい。一方で、C60フラーレンまたはその誘導体を液体に分散または溶解させ、当該組成物を公知の方法(例えばスピンコート法等)で塗布し、固化させてもよい。
【0049】
さらに、フラーレン含有領域15a上に、α-NBPhenおよび/またはβ-NBPhenを含む電子輸送材料含有領域15bを形成する。電子輸送材料含有領域15bの形成方法は特に制限されず、蒸着法等によって行ってもよい。また、α-NBPhenやβ-NBPhenを液体に分散または溶解させ、これを公知の方法(例えばスピンコート法)で塗布し、固化させてもよい。
【0050】
続いて、電子輸送材料含有領域15b上に接合促進領域15cを形成する。接合促進領域15cの形成方法は、接合促進材料の種類に応じて適宜選択される。例えば蒸着法等によって形成してもよい。また、接合促進材料を溶媒に分散または溶解させ、これを公知の方法(スピンコート法等)で塗布し、固化させてもよい。
【0051】
その後、電子輸送層15上に陰極層16を形成する。陰極層16は公知の方法で形成でき、例えば蒸着法等によって行うことができる。
【0052】
なお、本態様では、陰極層16の形成後、少なくとも陰極層16および電子輸送層15、好ましくは太陽電池セル10全体を熱処理することが好ましい。上記で説明した
図3の吸光度測定において、Liqと銀との積層後(
図3における「3」)、さらに熱処理を行うと、その前後で吸光度ピークに顕著なシフトが見られた。
図3には、これらのピーク位置にマークを付している。つまり、Liqと銀とを積層することで生じた化学反応や、物理的な変化(例えば微細構造の形成等)が生じ、これらが熱処理によって促進される、もしくはさらに変化すると考えられる。したがって、当該加熱を行うことで、電子輸送層15および陰極層16の電気的接合がさらに促進され、太陽電池セル10の電気的特性がさらに良好になると考えられる。
【0053】
なお、陰極形成後の加熱温度は60℃以上300℃以下が好ましく、80℃以上180℃以下がより好ましい。また、加熱時間は10秒以上1時間以下が好ましく、1分以上20分以下がより好ましい。加熱温度が300℃以下であると、太陽電池セル10中の各層に影響を及ぼし難い。一方で、60℃以上の加熱によって、電子輸送層15および陰極層16の電気的接合をさらに促進させやすくなる。一方、加熱時間が上記範囲であると、加熱による十分な効果が得られやすい。
【0054】
(2)第2の態様
第2の態様の太陽電池セル10は、電子輸送層15以外は第1の態様の太陽電池セル10と同様であり、当該太陽電池セル10も、透明基板11/陽極12/正孔輸送層13/活性層14/電子輸送層15/陰極層16がこの順に積層された構造を有する。本態様の電子輸送層15の部分拡大図を
図2Bに示す。本態様の電子輸送層15は、活性層14に隣接するように配置されたC
60フラーレンまたはその誘導体を含むフラーレン含有領域15aと、陰極層16に隣接するように配置された、接合促進領域15dとを有する。当該接合促進領域は、α-NBPhenおよび/またはβ-NBPhenからなる電子輸送材料と、接合促進材料および/または金属材料とを共蒸着した領域である。
【0055】
本態様の太陽電池セル10も、電子輸送材料としてα-NBPhenおよび/またはβ-NBPhenを使用することから、耐熱性が良好であり、高温環境下でも使用が可能である。また本態様では、接合促進領域15dが、電子輸送材料と共に接合促進材料や金属材料を含むことから、非常に優れた電池特性が得られる。その理由を以下に説明する。
【0056】
上述のように、電子輸送材料であるβ-NBPhenやα-NBPhenは、それ自体は可視光域に光吸収ピークを持たないワイドバンドギャップの材料であり、そのままでは活性層14から陰極層16への電子取出しにおいてエネルギー障壁があるものと考えられる。これに対し、本態様では、上記電子輸送材料と、接合促進材料および/または金属材料とを共蒸着している。例えば、電子輸送材料であるα-NBPhenやβ-NBPhenと、上記接合促進材料とは相溶性がある。そのため、これらを共蒸着した場合、電子輸送材料の結晶性が薄れ、接合促進領域15dとして、アモルファス状の均一かつ平坦性の高い領域が形成される。そして、このような電子輸送層15(接合促進領域15d)上に陰極層16を形成すると、電子輸送材料と陰極層16中の金属との間で相互作用が生じたり、電子輸送材料と接合促進材料と陰極層16中の金属との3者間での相互作用が生じたりすることが考えられる。そして、このような電子輸送層15の接合促進領域15dでは、電子輸送層15の広いバンドギャップの中に、サブギャップあるいはギャップ内準位に相当する準位が生じる、あるいは、電子輸送材料と金属材料との配位結合による双極子モーメントが作用することで、結果的に活性層14から陰極層16への電荷取出しにおけるエネルギー障壁が低減され、電荷をスムーズに外部に取り出せるようになると考えられる。
【0057】
一方、電子輸送材料および金属材料を共蒸着した場合には、電子輸送層15(接合促進領域15d)内の金属材料が電子輸送層内でバンド内準位を作り、ここを電子が伝っていくことで、良好な電気的特性が得られると考えられる。
【0058】
以下、本態様の電子輸送層15について説明し、さらに当該太陽電池セル10の製造方法を説明する。なお、本態様の太陽電池セル10においても、本態様の目的および効果を損なわない範囲で、任意の層や構成をさらに含んでいてもよい。
【0059】
・電子輸送層
本態様の電子輸送層15も、活性層14で発生した電子を陰極層16側に受け渡すとともに、活性層14で発生した正孔の陰極層16側への移動を阻止するための層である。上述のように、当該電子輸送層15は、活性層14側から、フラーレン含有領域15aと、α-NBPhenおよび/またはβ-NBPhenならびに、金属材料および/または接合促進材料を含む接合促進領域15dとをこの順に有する。
【0060】
フラーレン含有領域15aの材料や厚みについては、上述の第1の態様の電子輸送層15のフラーレン含有領域15aと同様である。
【0061】
一方、接合促進領域15dの組成としては、以下の(i)~(iii)が挙げられる。これらの中でも特に、(iii)の組成が太陽電池セル10の性能を高めやすいとの観点で好ましい。
(i)電子輸送材料と、接合促進材料との組み合わせ
(ii)電子輸送材料と、金属材料との組み合わせ
(iii)電子輸送材料と、接合促進材料と、金属材料との組み合わせ
【0062】
ここで、接合促進領域15dに使用する電子輸送材料は、α-NBPhenおよびβ-NBPhenのうち、いずれか一方であってもよく、両方であってもよい。
【0063】
また、接合促進領域15dが含み得る接合促進材料は、第1の態様の接合促進領域15cに使用する接合促進材料と同様であり、8-キノリノラトリチウム、リチウム2-(2’,2’’-ビピリジン-6’-イル)フェノレート、リチウム2-(イソキノリン-1’-イル)フェノレート、フッ化リチウム、酸化リチウム、酢酸リチウム、およびトリス(8-キノリノラト)アルミニウムからなる群から選ばれる化合物である。接合促進領域15dは、これらを一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。これらの中でも、電子輸送材料と共蒸着しやすく、かつ電子輸送材料や、陰極層16を構成する材料と相互しやすいとの観点で、8-キノリノラトリチウムがより好ましい。
【0064】
一方、接合促進領域15dが含み得る金属材料は、導電性が高く、かつ電子輸送材料等と共蒸着しやすい材料が好ましい。当該金属材料は、陰極層16を構成する材料(金属)と同一であってもよく、異なっていてもよい。金属材料の例には、銀、金、銅、アルミニウム、パラジウム、インジウム、スズ、亜鉛、ガリウム等が含まれ、これらは金属単体であってもよく、合金であってもよい。これらの中でも、電子輸送材料と共蒸着しやすく、かつ電子輸送材料や、陰極層16を構成する材料と相互しやすいとの観点で、銀がより好ましい。
【0065】
接合促進領域15dを(i)電子輸送材料と、接合促進材料との組み合わせとする場合、接合促進領域15dの総質量に対する接合促進材料の量は、1質量%以上50質量%以下が好ましく、10質量%以上25質量%以下がより好ましい。接合促進材料の量が1質量%以上であると、接合促進材料を添加したことによる効果がさらに得られやすくなる。一方で、接合促進材料の量が50質量%以下であると、相対的に電子輸送材料(α-NBPhenおよび/またはβ-NBPhen)の量が多くなり、活性層14側から陰極層16側への電子の受け渡しが良好に行われやすくなる。
【0066】
接合促進領域15dを(ii)電子輸送材料と、金属材料との組み合わせとする場合、接合促進領域15dの総質量に対する金属材料の量は、1質量%以上50質量%以下が好ましく、5質量%以上25質量%以下がより好ましい。金属材料の量が1質量%以上であると、金属材料を添加したことによる効果がさらに得られやすくなる。一方で、金属材料の量が50質量%以下であると、相対的に電子輸送材料の量が多くなり、活性層14側から陰極層16側への電子の受け渡しが良好に行われやすくなる。
【0067】
接合促進領域15dを(iii)電子輸送材料と、接合促進材料と、金属材料と、の組み合わせとする場合、接合促進領域15dの総質量に対する接合促進材料の量は、1質量%以上25質量%以下が好ましく、5質量%以上25質量%以下がより好ましい。また、接合促進領域15dの総質量に対する金属材料の量は、1質量%以上25質量%以下が好ましい。さらに、接合促進材料および金属材料の合計量は、接合促進領域15dの総質量に対して、2質量%以上50質量%以下が好ましく、5質量%以上50質量%以下がより好ましい。接合促進材料や金属材料の量が上述の範囲であると、電子輸送材料の電子輸送性を損なうことなく、電子輸送層15と陰極層16との電気的接合をさらに促進させることが可能となる。
【0068】
なお、接合促進領域15d内における電子輸送材料と、接合促進材料や金属材料との組成比は一定であってもよく、変化していてもよい。例えば、陰極層16に近づくにつれて、金属材料の割合が高まるように傾斜を設けたりしてもよい。
【0069】
ここで、上記接合促進領域15dの厚みは、0.1nm以上20nm以下が好ましく、2nm以上10nm以下がより好ましい。接合促進領域15dの厚みが当該範囲であると、上述の相互作用が生じやすく、本態様の太陽電池セル10の性能がさらに良好になりやすい。
【0070】
なお、電子輸送層15全体の厚みは、1nm以上1μm以下が好ましく、10nm以上100nm以下がより好ましい。
【0071】
・本態様の太陽電池セルの製造方法
上述の太陽電池セル10は、例えば以下の方法で製造できるが、当該方法に限定されない。当該太陽電池セル10の製造方法では、第1の態様で説明した方法で、透明基板11上に陽極12、正孔輸送層13、および活性層14を形成する。
【0072】
そして、上記活性層14上に、電子輸送層15のフラーレン含有領域15aを形成する。フラーレン含有領域は15aの形成方法は特に制限されない。例えば、蒸着法等によって形成してもよい。一方で、C60フラーレンまたはその誘導体を液体に分散または溶解させ、当該組成物を公知の方法(例えばスピンコート法等)で塗布し、固化させてもよい。
【0073】
さらに、フラーレン含有領域15a上に、電子輸送材料(α-NBPhenおよびβ-NBPhen)と、金属材料および/または接合促進材料とを共蒸着して接合促進領域15dを形成する。共蒸着は公知の方法で行うことができ、例えば真空蒸着装置によって行うことができる。またこのとき、蒸着レートは、0.01nm/秒以上10nm/秒以下が好ましく、0.1nm/秒以上1nm/秒以下がより好ましい。なお、成膜条件を徐々に変えたりすることで、接合促進領域15d内の組成に傾斜を持たせてもよい。
【0074】
その後、電子輸送層15上に陰極層16を形成する。陰極層16は公知の方法で形成でき、例えば蒸着法等によって行うことができる。
【0075】
なお、本態様においても、陰極層16の形成後、少なくとも陰極層16および電子輸送層15、好ましくは太陽電池セル10全体を熱処理してもよい。60℃以上300℃以下が好ましく、80℃以上160℃以下がより好ましい。また、加熱時間は1分以上1時間以下が好ましく、5分以上20分以下がより好ましい。加熱温度が300℃以下であると、太陽電池セル10中の各層に影響を及ぼし難い。一方で、60℃以上の加熱によって、電子輸送層15および陰極層16の電気的接合をさらに促進させやすくなる。一方、加熱時間が上記範囲であると、加熱による十分な効果が得られやすい。
【0076】
(3)第3の態様
第3の態様の太陽電池セル10は、電子輸送層15の接合促進領域以外は第1の態様の太陽電池セル10と同様であり、当該太陽電池セル10も、透明基板11/陽極12/正孔輸送層13/活性層14/電子輸送層15/陰極層16がこの順に積層された構造を有する。本態様の電子輸送層15は、
図2Aに示すように、活性層14に隣接するように配置されたC
60フラーレンまたはその誘導体を含むフラーレン含有領域15aと、電子輸送材料であるα-NBPhenおよび/またはβ-NBPhenを含む電子輸送材料含有領域15bと、α-NBPhenおよび/またはβ-NBPhenならびに陰極層16を構成する材料(以下、「陰極構成材料」とも称する)を含む接合促進領域15cと、の3つの領域が順に配置されている。
【0077】
本態様の太陽電池セル10も、電子輸送材料としてα-NBPhenおよび/またはβ-NBPhenを使用することから、耐熱性が良好であり、高温環境下でも使用が可能である。また本態様では、接合促進領域15cが、α-NBPhenおよび/またはβ-NBPhenと、陰極構成材料とを含むことから、非常に優れた電池特性が得られる。その理由を以下に説明する。
【0078】
上述のように、電子輸送材料であるβ-NBPhenやα-NBPhenは、それ自体は可視光域に光吸収ピークを持たないワイドバンドギャップの材料であり、そのままでは活性層14から陰極層16への電子取出しにおいてエネルギー障壁があるものと考えられる。これに対し、本態様では、接合促進領域15cが、α-NBPhenやβ-NBPhenと、上記陰極構成材料とを含むため、これらが相互作用することが考えられる。そして、このような電子輸送層15の接合促進領域15cでは、電子輸送層15の広いバンドギャップの中に、サブギャップあるいはギャップ内準位に相当する準位が生じる、あるいは、電子輸送材料と陰極構成材料との配位結合による双極子モーメントが作用することで、結果的に活性層14から陰極層16への電荷取出しにおけるエネルギー障壁が低減され、電荷をスムーズに外部に取り出せるようになると考えられる。
【0079】
当該接合促進領域15cは、後述のように、α-NBPhenやβ-NBPhenを含むNBPhen層、および陰極構成材料を含む金属材料層を隣接して積層し、これらを加熱することで形成される。つまり、金属材料層側からNBPhen層側に陰極構成材料が拡散することによって接合促進領域15cが形成される。したがって、接合促進領域15c内での陰極構成材料の濃度は、通常、陰極層16側が大きく、電子輸送材料含有領域15b側が小さくなるような傾斜を有している。接合促進領域15c全体における、陰極構成材料の量は、接合促進領域15cの質量に対して、1質量%以上50質量%以下が好ましく、5質量%以上25質量%以下がより好ましい。陰極構成材料の量が1質量%以上であると、陰極構成材料を含むことによる効果がさらに得られやすくなる。一方で、陰極構成材料の量が50質量%以下であると、相対的に電子輸送材料の量が多くなり、活性層14側から陰極層16側への電子の受け渡しが良好に行われやすくなる。
【0080】
ここで、上記接合促進領域15cの厚みは、0.1nm以上20nm以下が好ましく、2nm以上10nm以下がより好ましい。接合促進領域15cの厚みが当該範囲であると、上述の相互作用が生じやすく、本態様の太陽電池セル10の性能がさらに良好になりやすい。
【0081】
なお、電子輸送層15全体の厚みは、1nm以上1μm以下が好ましく、10nm以上100nm以下がより好ましい。
【0082】
(変形例)
上記では、電子輸送層15がフラーレン含有領域15aと、電子輸送材料含有領域15bと、接合促進領域15cと、の3つの領域で構成されることを説明したが、電子輸送材料含有領域15bは、必ずしも配置されていなくてもよい。つまり、電子輸送材料含有領域15bおよび接合促進領域15cが一体となっており、これら全体に陰極構成材料が含まれていてもよい。
【0083】
・本態様の太陽電池セルの製造方法
上述の太陽電池セル10は、例えば以下の方法で製造できるが、当該方法に限定されない。当該太陽電池セル10の製造方法では、第1の態様で説明した方法で、透明基板11上に陽極12、正孔輸送層13、および活性層14を形成する。
【0084】
そして、上記活性層14上に、電子輸送層15のフラーレン含有領域15aを形成する。フラーレン含有領域は15aの形成方法は特に制限されない。例えば、蒸着法等によって形成してもよい。一方で、C60フラーレンまたはその誘導体を液体に分散または溶解させ、当該組成物を公知の方法(例えばスピンコート法等)で塗布し、固化させてもよい。
【0085】
さらに、フラーレン含有領域15a上に、α-NBPhenおよび/またはβ-NBPhenを含むNBPhen層を形成する。NBPhen層の形成方法は特に制限されず、蒸着法等によって行ってもよい。また、α-NBPhenやβ-NBPhenを液体に分散または溶解させ、これを公知の方法(例えばスピンコート法)で塗布し、固化させてもよい。
【0086】
続いて、NBPhen層と隣接するように、金属材料を含む金属材料層を形成する。なお、ここでいう金属材料は、陰極構成材料と同義である。金属材料層は公知の方法で形成でき、例えば蒸着法等によって行うことができる。
【0087】
その後、金属材料層およびNBPhen層を熱処理する。このとき、他の層も同時に熱処理してもよい。当該熱処理によって、金属材料層中の陰極構成材料が、NBPhen層側に拡散し、上述の接合促進領域15cが形成される。また陰極構成材料が拡散しなかった領域が、上述の電子輸送材料含有領域15bとなる。ただし、上述のように、NBPhen層全体に陰極構成材料が拡散するように加熱を行ってもよい。
【0088】
このときの加熱温度は60℃以上300℃以下が好ましく、80℃以上180℃以下がより好ましい。また、加熱時間は10秒以上1時間以下が好ましく、1分以上20分以下がより好ましい。加熱温度が300℃以下であると、太陽電池セル10中の各層に影響を及ぼし難い。一方で、60℃以上の加熱によって、上記接合促進領域15cが形成される。
【0089】
(4)その他
上記では、陽極(透明電極)側から太陽光が入射する太陽電池セルについて説明した。ただし、本発明の太陽電池は、陰極層側から太陽光が入射する構成であってもよい。この場合、陰極層には、例えば酸化インジウムスズ等の透明電極を使用する。ペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池を作製する際には、このような上面光入射型の太陽電池素子構造が重要になってくる。そしてこのような上面光入射型の太陽電池においても、電子輸送層に、上述の接合促進領域を形成することで、電子輸送材料と透明電極との相互作用を最大化し、曲線因子を向上させ、抵抗値を減らし、変換効率を向上させるなどの初期特性改善が図れる。
【0090】
上面光入射型の太陽電池素子構造では、受光面側に銀薄膜等からなる層を形成すると、電池特性が低下しやすい。これに対し、上述の第2の態様の接合促進領域のように、電子輸送材料と金属材料とを共蒸着する場合には、銀薄膜を形成する場合より透明性が高く、光の遮蔽が少なくて済む。さらに、第2の態様のように、電子輸送層の接合促進領域が、α-NBPhenやβ-NBPhenのような、ガラス転移温度の高い材料を含む場合スパッタリング等によって透明導電膜を形成しても、電子輸送層がダメージを受けにくい。さらに、成膜時の温度を上げ、良質な透明導電膜を形成することも可能である。
【0091】
(5)太陽電池モジュール
上記太陽電池セルは、これを封止材等で封止することによって、モジュール化することができる。太陽電池セルの封止材は、太陽電池セルを酸素や水等から保護することが可能であれば、その構造や材料は特に制限されない。封止材の例には、ガラスキャップや、ガスバリア性のあるプラスチックフィルム、ガスバリア性のある有機薄膜もしくは無機薄膜、あるいはこれらの積層体等が含まれる。
【実施例0092】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はこれによって何ら制限を受けない。
【0093】
<材料の準備>
太陽電池セルを形成するため、以下の材料や組成物をそれぞれ準備した。なお、いずれも乾燥窒素環境下で保管した。
【0094】
・正孔輸送層形成用溶液1:[2-(3,6-ジメトキシ-9H-カルバゾール-9-イル)エチル]ホスホン酸(MeO-2PACz)(東京化成工業社製)の1mMエタノール(富士フイルム和光社製)溶液
・正孔輸送層形成用溶液2:[2-(3,6-ジメトキシ-9H-カルバゾール-9-イル)エチル]ホスホン酸(MeO-2PACz)(東京化成工業社製)の2mMイソプロピルアルコール(富士フイルム和光社製)溶液
【0095】
・活性層形成用溶液:後述の方法で調製したペロブスカイト化合物溶液
【0096】
・フラーレン誘導体溶液:濃度20mg/mLのPCBM(東京化成工業社製)のクロロベンゼン(富士フイルム和光社製)溶液
【0097】
・貧溶媒1:アニソール
・貧溶媒2:酢酸エチル(富士フイルム和光社製)
【0098】
・蒸着材料1:BCP(TCI社製)
・蒸着材料2:α-NBPhen(ケミプロ化成社製)
・蒸着材料3:β-NBPhen(ケミプロ化成社製)
・リチウム金属錯体:8-キノリノラトリチウム(Liq)(ケミプロ化成社製)
【0099】
(ペロブスカイト化合物溶液の調製方法)
容量比1:4のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(富士フイルム和光社製)とジメチルスルホキシド(DMSO)(富士フイルム和光社製)との混合溶液中に、ホルムアミジンヨウ化水素酸塩(FAI)、ヨウ化鉛(II)(PbI2)、臭化メチルアンモニウム(MABr)、臭化鉛(PbBr2)(いずれも東京化成工業社製)、およびヨウ化セシウム(CsI)(Sigma-Aldrich社製)を溶解させた。そして、濃度1.2Mのペロブスカイト化合物(Cs0.05(FA0.76MA0.24)0.95Pb(I0.76/Br0.24)3)溶液を調製した。
【0100】
1.第1の態様
[実施例1-1]
以下の方法で、太陽電池セルを作製した。
図4A~
図4Fに工程図を示し、
図5に作製した太陽電池セルの分解斜視図を示す。
【0101】
・陽極(透明電極)付き基板の準備
図5に示すパターン状に透明電極12(酸化インジウムスズ(ITO))が形成された透明基板(ガラス基板)11(20mm×25mm×0.65mm)を準備した(
図4A)。当該透明電極付きガラス基板を、界面活性剤水溶液、水、アセトン、2-プロパノールに順に浸漬し、それぞれ超音波洗浄を30分ずつ行った。洗浄後、60℃で16時間乾燥させ、さらに紫外線-オゾン表面改質装置に30分かけて表面を改質した。そして、正孔輸送層13を形成する領域を残して、他の領域をマスキングテープ(耐熱・耐溶媒テープ、図示せず))で覆い、直ちに乾燥窒素環境下に搬送した。
【0102】
・正孔輸送層の形成
図4Bに示すように、上記透明電極付きガラス基板の透明電極12上に、自己組織化単分子膜を形成する、正孔輸送層形成用溶液1をスピンコーターによって塗布した。そして、100℃で10分間熱処理を行い、正孔輸送層13を得た。
【0103】
・活性層の形成
図4Cに示すように、上記正孔輸送層13を形成した透明電極付きガラス基板の全面に、上述のペロブスカイト化合物溶液を滴下し、適切なタイミングで貧溶媒としてアニソールを滴下した。これにより、ペロブスカイト化合物溶液中のペロブスカイト化合物に結晶化を開始させた。その後、100℃で10分間熱処理することで活性層(ペロブスカイト層)14を得た。
【0104】
・電子輸送層の形成
図4Dに示すように、上記活性層14を形成した透明電極付きガラス基板の全面に、上述のフラーレン誘導体溶液(PCBM含有溶液)をスピンコートし、常温で乾燥させてフラーレン含有領域を形成した。その後、真空熱蒸着によりβ-NBPhenを10mm×15mmの領域に、厚み8nmとなるように製膜して電子輸送材料含有領域を形成した。さらに、8-キノリノラトリチウム(Liq)を2nm製膜して接合促進領域を形成した。なお、
図4Dでは、電子輸送層15を透明電極付きガラス基板の全面に形成したように示しているが、本実施例では電子輸送層15の電子輸送材料含有領域および接合促進領域を
図5の分解図に示すように、パターン上に形成している。
【0105】
・陰極層の形成
上記マスキングテープを剥がし、
図4Eに示すように、正孔輸送層13や活性層14、電子輸送層15の不要部分を除去して、所望の位置に透明電極12を露出させた。さらに、
図4Fに示すように、上記電子輸送層15の接合促進領域上に銀を真空蒸着し、陰極層16を形成した。その後、乾燥窒素環境下、100℃で熱処理を10分回行った。なお、陰極層16の形成と同時に透明電極12の一部(
図5において12aで示す領域)にも、コンタクト抵抗低減のための銀電極を作製した。
【0106】
・特性測定
上記で作製した太陽電池セル10では、正孔輸送層13、活性層14、および電子輸送層15には面方向の電気伝導がほとんど無い。したがって、これら全ての層が重なる矩形状の領域(3mm×3mm)のみが、太陽電池として有効である。また、陰極層16および透明電極11の両方を含まない領域は、実質的には発電に寄与せず発電の障害にもならない。例えば、
図5の分解図に示すように、透明電極12は3つの領域に分断されており、中央の領域のみが、発電に寄与する。両側の2つの領域は孤立しており、これらの領域に陰極層を引き出すことで、測定用のプローブが活性層14を貫通してしまうこと抑制している。また当該太陽電池セルでは、透明電極(陽極)12の一部が露出するように構成しており、特性の測定を可能にしている。なお、露出した当該透明電極12の一部(12aで表される領域)には、コンタクト抵抗低減のための、銀電極を成膜した。
【0107】
なお、当該太陽電池セルは、ペロブスカイト型であるが、測定に要する時間よりも十分に長時間大気中で安定である。そこで、測定用の電流プローブおよび電圧プローブをそれぞれ、
図5に示す位置に接触させ、ガラス基板11側から擬似太陽光を照射して発電時の電流・電圧特性を4端子法で測定した。このときの結果を
図6の右下のグラフに示す。
図6には、電圧0Vから1.25Vまで62.5秒かけて掃引を行ったときの、順方向掃引(電圧上昇時)を実線、逆方向掃引(電圧下降時)を点線で示した。
【0108】
[比較例1-1]
電子輸送層15の電子輸送材料含有領域を形成する際に、β-NBPhenの代わりにバソクプロイン(BCP)を使用し、接合促進領域を形成しなかった以外は実施例1-1と同様に、太陽電池セルを作製した。当該太陽電池セルの電流・電圧特性を
図6の左上のグラフに示す。
【0109】
[比較例1-2]
電子輸送層15の電子輸送材料含有領域を形成しなかった以外は実施例1-1と同様に、太陽電池セルを作製した。当該太陽電池セルの電流・電圧特性を
図6の右上のグラフに示す。
【0110】
[比較例1-3]
電子輸送層15の接合促進領域を形成しなかった以外は実施例1-1と同様に、太陽電池セルを作製した。当該太陽電池セルの電流・電圧特性を
図6の左下のグラフに示す。
【0111】
[考察1]
図6の各グラフに示すように、電子輸送層15が、電子輸送材料含有領域を有さない比較例1-2や、接合促進領域を有さない比較例1-3では、電子輸送材料としてBCPを用いた比較例1-1と比較して、開放電圧付近の電流電圧曲線の傾きが小さく、直列抵抗が大きかった。つまり、曲線因子が下がり、発電効率が小さかった。なお、「曲線因子」とは、短絡電流と開放電圧の積でエネルギー変換効率を除した量であって、直列抵抗が小さく、かつ漏れ電流が無いほど高くなる量である。
【0112】
これに対し、電子輸送層15が、フラーレン含有領域、電子輸送材料含有領域、および接合促進領域を有する実施例1-1では、電子輸送材料としてBCPを用いた比較例1-1と同等の直列抵抗および曲線因子が得られた。つまり、電子輸送材料としてβ-NBPhenを用いた場合、接合促進領域を形成することではじめて、その曲線因子が電子輸送材料としてBCPを用いた場合(比較例1-1)と、同等になった。当該結果は、接合促進領域が電子輸送層と陰極層(Ag層)との電気的接触に寄与したことを示唆する。
【0113】
[比較例1-4]
電子輸送材料をβ-NBPhenからα-NBPhenに替えた以外は、比較例1-3と同様に太陽電池セルを作製した。つまり、当該比較例1-4では、フラーレン含有領域および電子輸送材料含有領域を有するものの、接合促進領域を有さない。当該太陽電池セルについても、同様に発電時の電流・電圧特性を4端子法で測定した。結果を
図7に示す。
【0114】
なお、
図7には、比較例1-4の結果だけでなく、上述の実施例1-1、比較例1-1、1-2、および1-3の結果も併せて示す。また、
図7には、各実施例および比較例の太陽電池セルの作製後、熱処理(100℃で10分間熱処理)を行った場合と行わなかった場合について、4試料ずつ順方向掃引時および逆方向掃引時の結果(エネルギー変換効率、開放電圧、短絡電流密度、および曲線因子)を示している。なお、β-NBPhenまたはα-NBPhenを加熱した場合には、実施例(上述の第3の態様)に相当するため、これらは実施例1-2、実施例1-3とする。下記表1に実際のデータも示す。
【0115】
【0116】
[考察2]
図7および表1に示すように、試料ごとのばらつきはあるものの、電子輸送層15にフラーレン含有領域、電子輸送材料含有領域、および接合促進領域を形成した実施例1-1(
図7の各グラフにおいて右から1番目および2番目のデータ)の変換効率および電気的特性が良好であった。なお、電子輸送材料としてBCPを用いた場合(比較例1-1、
図7の各グラフにおいて左から1番目および2番目のデータ)には、耐熱性が不十分であるため、熱処理によって大幅に変換効率が低下した。また、電子輸送層が電子輸送材料含有領域を有さない場合(比較例1-2、
図7の各グラフにおいて左から3番目および4番目のデータ)も同様に、熱処理によって大幅に変換効率が低下した。さらに、電子輸送層が接合促進領域(Liq)を有さず、加熱を行わない場合、(比較例1-3および比較例1-4、
図7の各グラフにおいて左から5番目および7番目のデータ)には、電子輸送材料としてBCPを用いた場合より結果が悪い方向にあった。一方で、これらを加熱した場合(実施例1-2、1-3、
図7の各グラフにおいて左から6番目および8番目のデータ)には、接合促進領域が形成され、良好な結果が得られた。ただし、Liqを含む接合促進領域を設けた実施例1-1(加熱あり)のほうが、良好な結果であった。
【0117】
2.第2の態様
[参考例NBP]
・陽極付き基板の準備
2mm幅のストライプ状の透明電極(酸化インジウムスズ(ITO))が形成された透明基板(ガラス基板)を界面活性剤水溶液、水、アセトン、2-プロパノールの順に溶液中での超音波洗浄を30分ずつ行い、60℃で16時間乾燥した後、紫外線-オゾン表面改質装置を用いて30分間表面処理を行った。
【0118】
・正孔輸送層の形成
上述の正孔輸送層形成用溶液2を上記透明電極付きガラス基板の透明電極上に滴下し、3000rpmで30秒間スピンコートによって成膜した後、ホットプレート上で100℃、10分間加熱して、正孔輸送層を形成した。
【0119】
・活性層の形成
上述のペロブスカイト化合物溶液を上記正孔輸送層上に0.1mL滴下した後、5000rpmで35秒間スピンコートした。スピンコートの途中で、スピン開始10秒後に貧溶媒として、酢酸エチル0.3mLを回転中の基板上に滴下した。スピンコート終了後の基板をホットプレートに移し、100℃で30分間、窒素雰囲気中で加熱を行い、濃い茶色の活性層(ペロブスカイト層)を得た。
【0120】
・電子輸送層
活性層上に、上述のフラーレン誘導体溶液(PCBM溶液)を用い、フラーレン含有領域の厚みが40nmとなるようスピンコートした。その後、透明電極付きガラス基板上に成膜された、正孔輸送層13、活性層14、および電子輸送層15のフラーレン含有領域のうち、発電に不要な部分を、綿棒等を用いてグローブボックス中でこすり落とし、周辺部の陽極(ITO)表面を露出させた。
続いて、当該基板を真空蒸着装置にセットし、高真空下で、β-NBPhenのみを、蒸着レートが約0.1nm/秒~0.2nm/秒の間になるよう調節しながら真空蒸着し、電子輸送材料含有領域を形成した。
【0121】
・陰極層の形成
上述の真空蒸着装置内に、透明電極のストライプと直交するような2mm幅ストライプのメタルマスクを、真空中でセットした。そして、高真空下で、蒸着レートが約0.1nm/秒~0.6nm/秒となるよう調節し、厚み70nmの陰極層(銀層)を成膜し、太陽電池セルを得た。
【0122】
当該太陽電池セルは、陽極層(ITO:130nm)/正孔輸送層(MeO-2PACz:1nm)/活性層(Cs0.05(FA0.76MA0.24)0.95Pb(I0.76Br0.24)3:380nm)/電子輸送層(PCBM:40nm/β-NBPhen:8nm)/陰極層(Ag:70nm)を有している。
【0123】
・封止材の貼り合わせ
上記で作製した太陽電池セルを、真空蒸着装置と連携されたグローブボックス中へ引出し、別途用意した掘り込み付のガラスキャップをかぶせて封止した。このときガラスキャップは、紫外線硬化樹脂によって太陽電池セルと貼り合わせた。また、当該ガラスキャップと太陽電池セルとの接合面が、上記太陽電池セルの発電エリアの外側、かつ太陽電池セルの外周より内側になるように調整した。そして、ガラスキャップの外側に位置する電極部分を用いて、太陽電池の特性を測定した。また、金属電極の大気中での酸化による劣化を防ぐため、透明電極付き基板は、透明電極(陽極)と、これとは電気的に離れた位置に、陰極側の引き出し電極となる別のITOパッド電極が事前にパターニングされたものを用いた。より具体的には、ガラスキャップ封止後、陽極側のITOストライプ電極と、陰極側のITOパッド電極の両方が、ガラスキャップの外側に露出するような、透明電極付きガラス基板を用いた。
【0124】
なお、本参考例では、ペロブスカイト層の成膜において高回転の5000rpmでスピンコーティングしているためペロブスカイト層の厚みが通常の太陽電池セルの活性層の厚み550nm~650nmと比較して薄いこと、1セルの面積が、2mm×2mmであること、正孔輸送層成膜時の溶剤が、上述の実施例1と異なること、太陽電池の特性評価において2端子法による測定を用いたこと等が、上述の第1の態様の実施例(実施例1-1等)と異なる。したがって、上述の第1の態様と完全に同列での特性比較はできないが、同じ作製条件下で行った第2の態様の実施例内での相対評価は可能である。
【0125】
[参考例BCP]
上記電子輸送層の電子輸送材料として、β-NBPhenの代わりにバソクプロイン(BCP)を用いた以外は、参考例NBPと同様に太陽電池セルを作製し、上記と同様にガラスキャップで封止し、モジュール化した。
【0126】
[評価]
下記表2には、それぞれの太陽電池モジュールの特性を示す。加熱による素子特性の変化を見るため、それぞれ15素子の特性の平均値を算出した。また、太陽電池モジュールの作製後の状態(熱処理無)、および当該太陽電池モジュールを100℃で10分間熱処理した場合の特性をそれぞれ評価した。なお、参考例NBPを加熱した態様においては、電子輸送層と陰極層との間に結合促進領域が形成されるため、実施例1-3とする。
【表2】
【0127】
[考察]
上記では電子輸送材料としてβ-NBPhenを用いた場合と、電子輸送材料としてBCPを用いた場合との太陽電池モジュールの性能を単純に比較している。これらを比較すると、熱処理前の初期特性は、BCPを用いた太陽電池モジュールの方がβ-NBPhenを用いた太陽電池モジュールより良かった。ただし、熱処理を行うと、BCPを用いた太陽電池モジュールの特性が、短絡電流密度、開放電圧、曲線因子(フィルファクター)、変換効率のいずれにおいても低下した。トップデータを示した1素子の検証でも、熱処理後に開放電圧と曲線因子が顕著に低下し、変換効率が1.5%程度低下した。
【0128】
一方で、β-NBPhenを用いた素子の熱処理後(実施例1-3)の特性は、平均値で、短絡電流密度と開放電圧がやや低下したが、曲線因子が向上し、結果的に変換効率が上昇し、BCPを用いた場合と比べて高い特性を示した。トップデータを示した1素子の検証では、熱処理後に、短絡電流密度はほぼ変わらず、開放電圧は0.02V程度低下し、曲線因子は2%程度向上し、変換効率は0.1%程度向上した。
【0129】
また、上記各電子輸送層の加熱による膜質の変化を見るため、ITO基板上にPCBM膜40nmをスピンコート法により成膜した後、真空蒸着法で2種類の電子輸送材料(β-NBPhenおよびBCP)をそれぞれ40nm成膜した積層膜を作製した。2種類のサンプルを窒素雰囲気下にて、100℃で1時間加熱処理を行い、加熱後の積層膜表面をAFM及び光学顕微鏡にて観察した。その結果、BCPを積層した膜では加熱処理後に白濁化し有機物の大きな凝集や結晶、さらには空孔が見られた。一方、β-NBPhenを成膜したサンプルでは、有機物の凝集等は確認されなかった。膜の透明性が熱処理前と変わらずに確保されており、均一な膜表面が確認された。
【0130】
[実施例2-1a、2-1b、および2-1c]
上述の参考例NBPの電子輸送層の電子輸送材料含有領域の代わりに、以下の接合促進領域を形成した以外は、上述の参考例NBPと同様に太陽電池モジュールをそれぞれ作製した。
【0131】
・接合促進領域の形成
電子輸送層のフラーレン含有領域(PCBM)上に、β-NBPhenとLiqとを共蒸着した。β-NBPhenとLiqの混合比については、β-NBPhenに対するLiqの割合が、10質量%(実施例2-1a)、20質量%(実施例2-1b)、または30質量%(実施例2-1c)となるようにそれぞれ蒸着条件を調整した。
【0132】
[比較例2-1a、2-1b、および2-1c]
上述の参考例NBPの電子輸送層の電子輸送材料含有領域の代わりに、以下の比較用接合促進領域を形成した以外は、上述の参考例NBPと同様に太陽電池モジュールをそれぞれ作製した。
【0133】
・比較接合促進領域の形成
電子輸送層のフラーレン含有領域(PCBM)上に、BCPとLiqとを共蒸着した。BCPとLiqの混合比については、β-NBPhenに対するLiqの割合が、10質量%(比較例2-1a)、20質量%(比較例2-1b)、または30質量%(比較例2-1c)となるようにそれぞれ蒸着条件を調整した。
【0134】
[評価]
実施例および比較例の各太陽電池モジュールについて、上記と同様に変換効率を測定した。実施例2-1a、2-1b、および2-1cについては、上述の参考例NBPをリファレンスとし、比較例2-1a、2-1b、および2-1cについては、上述の参考例BCPをリファレンスとした。
【0135】
【0136】
[考察]
表3に示すように、BCPおよびLiqを共蒸着した比較用接合促進領域を有する比較例2-1a、2-1b、および2-1cでは、BCPのみを蒸着した参考例BCPと比較して、変換効率が低下した。また、表3には示していないが、開放電圧も低下した。また、加熱後の変換効率は、さらに低下した
【0137】
一方、電子輸送層が、β-NBphenおよびLiqを共蒸着した接合促進領域を有する実施例2-1a、2-1bでは、β-NBPhenのみを蒸着した参考例NBPと比較して、その変換効率の低下量が少なかった。さらに、さらに加熱後の低下度合いが、表3には示していないが、比較例2-1a、2-1b、および2-1cと比較していずれも小さかった。
【0138】
[実施例2-2]
上述の参考例NBPの電子輸送層の電子輸送材料含有領域の代わりに、以下の接合促進領域を形成した以外は、上述の参考例NBPと同様に太陽電池モジュールをそれぞれ作製した。
【0139】
・接合促進領域の形成
電子輸送層のフラーレン含有領域上に、β-NBPhenと銀とを共蒸着し、接合促進領域を形成した。このとき、β-NBPhenと銀との混合比は、膜厚モニターの数値を参照しつつ、β-NBPhenの蒸着レートに対する銀の割合が8質量%となるように調整した。
【0140】
[比較例2-2]
接合促進領域を形成する際に、β-NBPhenの代わりにバソクプロイン(BCP)を用いた以外は、上記実施例2-2と同様に太陽電池モジュールを得た。すなわち、BCPおよび銀からなる比較用接合促進領域(8nm)を形成した。また、BCPと銀との混合比は、膜厚モニターの数値を参照しつつ、BCPの蒸着レートに対する銀の割合が8質量%となるように調整した。
【0141】
[評価]
実施例2-2、および比較例2-2の各太陽電池モジュールについて、上記と同様に変換効率を測定した。実施例2-2については、上述の参考例NBPをリファレンスとし、比較例2-2については、上述の参考例BCPをリファレンスとした。結果を表4に示す。
【0142】
【0143】
[考察]
表4に示すように、電子輸送層が、BCPおよび銀を蒸着した比較接合促進領域を有する場合(比較例2-2)、BCPのみを蒸着した参考例BCPと比較して、開放電圧が0.04V低下したが、曲線因子が2%向上し、変換効率はほぼ同等であった。ただし、当該太陽電池モジュールを加熱すると、特性が顕著に低下した。
【0144】
一方、電子輸送層が、β-NBPhenおよび銀を共蒸着した接合促進領域を有する場合(実施例2-2)、β-NBPhenのみを蒸着した参考例NBPと比較して、開放電圧は0.02V低下したが、曲線因子が4%向上し、変換効率が0.6%向上した。また、当該太陽電池モジュールを加熱しても、特性の低下はほとんど見られなかった。
【0145】
[実施例2-3]
電子輸送層の接合促進領域(8nm)を形成する際、β-NBPhenと、Liq(10質量%)と、Ag(8質量%)とを共蒸着した以外は、実施例2-1aと同様に太陽電池モジュールを得た。なお、β-NBPhenとLiqと銀との混合比は、膜厚モニターの数値を参照しつつ、BCPの蒸着レートに対するLiqの割合および銀の割合が上記となるように蒸着条件を調整した。
【0146】
[評価]
実施例2-3で作製した太陽電池モジュール(接合促進領域:β-NBPhen+Liq+Ag)と、上述の実施例2-1aで作製した太陽電池モジュール(接合促進領域:β-NBPhen+Liq)の性能を比較した。
【0147】
その結果、実施例2-1aの太陽電池モジュールでは、熱処理をすると、熱処理前と比較して、熱処理後の曲線因子が向上し、変換効率が0.2%上昇した。
一方、実施例2-3の太陽電池モジュールでは、曲線因子が実施例2-1aよりも約4%高く、熱処理後の変化も少なかった。したがって、総合的に、実施例2-3の構成が、電子輸送層にβ-NBPhenを用いた素子の中で、初期特性が高く、かつ、熱処理前後の特性変化が少なかった。これは、Liqの共蒸着によりβ-NBPhenのアモルファス性が向上し、さらに銀の共蒸着により、β-NBPhenと銀の相互作用を促進させることで、界面の電気的接合が改善されたものと考えられる。
【0148】
3.上面光入射型のペロブスカイト型太陽電池モジュール
[比較例3-1]
上述の参考例BCPと同様の方法により各層を形成し、上面光入射型のペロブスカイト型太陽電池を作製した。なお、当該太陽電池モジュールでは電子輸送層のフラーレン含有領域を形成する際に、PCBMの代わりにC60を用い、真空蒸着法により成膜した。また、陰極層の金属材料を銀からITO(スパッタリング装置にて成膜)に変更した。
太陽電池セルの素子構造としては、陽極:ITO(20nm)/正孔輸送層:MeO-2PACz(1nm)/活性層:Cs0.05(FA0.76MA0.24)0.95Pb(I0.76Br0.24)3(380nm)/電子輸送層:{C60(30nm)/BCP(8nm)}/陰極層:ITO(100nm)とした。
【0149】
[比較例3-2]
電子輸送層を、C60(30nm)/BCP+Ag(Ag:8質量%)共蒸着(8nm)とした以外は、比較例3-1と同様に太陽電池モジュールを作製した。
【0150】
[比較例3-3]
電子輸送層を、C60(30nm)/BCP(8nm)/Ag(8nm)とした以外は、比較例3-1と同様に太陽電池モジュールを作製した。
【0151】
[実施例3]
電子輸送層を、C60(30nm)/β-NBPhen+Liq(5質量%)+Ag(8質量%)共蒸着(8nm)とした以外は、比較例3-1と同様に太陽電池モジュールを作製した。
【0152】
[評価]
上記比較例3-1、3-2、および3-3、ならびに実施例3の太陽電池セルについて、上記と同様に曲線因子および変換効率を測定した。結果を表5に示す。
【表5】
【0153】
[考察]
上記に示すように、電子輸送層の(比較用)接合促進領域にBCPのみを用いた場合(比較例3-1)より、BCPと銀との共蒸着膜(8nm)を用いた場合(比較例3-2)のほうが、曲線因子曲線因子の改善に伴い変換効率が向上した。
【0154】
一方、BCPと銀の共蒸着膜の代わりに、銀の薄膜を挿入した場合(比較例3-3)には、曲線因子が62%と向上しつつも、厚み8nmの銀薄膜が遮光することで活性層に入る光が約半分と少なくなり、電流値が半減、結果的に変換効率が低くなった。
【0155】
また、実施例3の電子輸送材料としてβ-NBPhenを用いた太陽電池モジュールでは、BCPを用いた素子よりも特性が向上し、11.0%の変換効率が得られた。本素子構成に関しては、最適化により、さらなる高効率化が可能と考えられる。
本発明によれば、優れた発電特性を有し、かつ耐熱性の高い、ペロブスカイト型の太陽電池セルおよびこれを用いた太陽電池モジュールが得られる。当該太陽電池セルおよび太陽電池は容易に製造が可能であり、かつ様々な用途に使用可能である。