(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022622
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】AlNテンプレート基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/38 20060101AFI20250206BHJP
C30B 33/02 20060101ALI20250206BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20250206BHJP
C30B 25/18 20060101ALN20250206BHJP
【FI】
C30B29/38 C
C30B33/02
H01L21/205
C30B25/18
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127362
(22)【出願日】2023-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100202326
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 大佑
(72)【発明者】
【氏名】平山 晴香
(72)【発明者】
【氏名】宮下 雅仁
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 康弘
【テーマコード(参考)】
4G077
5F045
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB08
4G077AB10
4G077BE13
4G077DB08
4G077EA02
4G077EA03
4G077ED05
4G077ED06
4G077FE02
4G077FE11
4G077HA12
5F045AA04
5F045AB09
5F045AB17
5F045AC08
5F045AC12
5F045AC15
5F045AD15
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5F045AD18
5F045AF09
5F045AF12
5F045AF13
5F045CA10
5F045CB02
5F045DA55
5F045DA57
5F045DA61
5F045DP02
5F045EE02
5F045HA06
(57)【要約】
【課題】AlNテンプレート基板の特性を改善することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るAlNテンプレート基板は、サファイア基板の主面上に形成されているAlN層を有し、サファイア基板の主面は、C面が0.02°以上0.35°未満のオフ角で傾斜した面であり、AlN層の表面のAFM像内におけるステップの稜線とAFM像の縁との一方の第1接点と、他方の第2接点とを結ぶ直線距離を、第1接点から第2接点まで延在するステップの稜線の長さで除算した、ステップ直線率が90%以上であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイア基板と、
前記サファイア基板の主面上に形成されているAlN層と、
を備え、
前記サファイア基板の主面は、C面が0.02°以上0.35°未満のオフ角で傾斜した面であり、
前記AlN層の表面のAFM像内におけるステップの稜線とAFM像の縁との一方の第1接点と、他方の第2接点とを結ぶ直線距離を、前記第1接点から前記第2接点まで延在する前記ステップの稜線の長さで除算した、ステップ直線率が90%以上であることを特徴とする、
AlNテンプレート基板。
【請求項2】
前記AlN層の表面平坦性Raが1.1nm以下である、
請求項1に記載のAlNテンプレート基板。
【請求項3】
前記AlN層の(0002)面のX線ロッキングカーブの半値幅が100秒以下であり、かつ、(10-12)面のX線ロッキングカーブの半値幅が300秒以下である、
請求項1に記載のAlNテンプレート基板。
【請求項4】
サファイア基板の主面上に、AlN層をエピタキシャル成長させる第1工程と、
前記AlN層を熱処理する第2工程と、
を含み、
前記サファイア基板の主面は、C面が0.02°以上0.35°未満のオフ角で傾斜した面であり、
前記第1工程において用いるキャリアガスは水素ガスおよび窒素ガスの混合ガスであり、
前記第2工程において、窒素元素を含有する雰囲気下で前記熱処理を行うことを特徴とするAlNテンプレート基板の製造方法。
【請求項5】
前記第2工程における熱処理時の炉内の温度は、前記第1工程における炉内の温度よりも高温である、
請求項4に記載のAlNテンプレート基板の製造方法。
【請求項6】
前記キャリアガスに占める窒素ガスの割合が1%以上10%以下である、
請求項4に記載のAlNテンプレート基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AlNテンプレート基板およびその製造方法に関し、特に、III族窒化物半導体素子の作製に供した際に、優れた発光効率を有することが可能な、AlNテンプレート基板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、Al、Ga、In等とNとの化合物からなるIII族窒化物半導体は、発光素子または電子デバイス用素子の材料として広く用いられている。中でも、Al組成比が50%以上のAlGaNからなるIII族窒化物半導体は、発光波長300nm以下の深紫外光発光素子(DUV-LED)の活性層(「発光層」とも称される。)として用いられている。
【0003】
III族窒化物半導体は、高融点で窒素の乖離圧が高く、バルク単結晶成長が困難であり、異種のサファイア基板上にエピタキシャル成長させることによりIII族窒化物半導体層として形成することが通常である。
【0004】
一般に、III族窒化物半導体層の結晶性が優れるほど、優れた発光特性のIII族窒化物半導体発光素子を作製することができる。上記のようにサファイア基板上にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長させると、サファイア基板とIII族窒化物半導体との間に格子不整合が生じ、結晶性悪化の一因となることが知られている。こうした格子不整合に起因する格子歪みを緩和するため、サファイア基板上にAlN層をエピタキシャル成長させたAlNテンプレート基板が用いられるようになってきた。III族窒化物半導体発光素子の特性は、AlN層表面の特性に影響されるため、近年、サファイア基板上にエピタキシャル成長させるAlNテンプレート基板の特性を向上させるための様々な試みがなされている。
【0005】
例えば、特許文献1によると、III族窒化物半導体エピタキシャル基板を構成するサファイア単結晶基材の主面の結晶方位がC軸方向より0.35°~0.55°傾斜させたサファイア単結晶基材、すなわちオフ角が0.35°~0.55°のC面サファイア単結晶基材を用いたうえで、その主面側にエピタキシャル成長させたAlN層の膜厚を0.3μm~0.7μmに制御し、熱処理を行うことで、サファイア基板上にエピタキシャル成長させたAlN層の結晶性および平坦性が向上する。
【0006】
また、特許文献2には、原料のトリメチルアルミニウム(TMA)ガスのキャリアガスとして水素ガスのみを使用し、アンモニアガスのキャリアガスとして水素ガスのみを使用する方が、キャリアガスの少なくとも一方が窒素ガス、あるいは窒素ガスおよび水素ガスの混合ガスである場合と比べて、AlN結晶の横方向成長を促進させることが可能となり、AlN層の表面の平坦性の向上を図ることが可能であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-064928号
【特許文献2】特開2017-139253号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された技術により、オフ角が0.35°~0.55°のC面サファイア基板上のAlN層の表面平坦性および結晶性は向上している。一方で、オフ角を有しながらオフ角が0.35°未満であるサファイア基板上のAlN層の特性は十分ではなかった。しかしながら、サファイア基板の裏面を光取り出し面とする場合において、オフ角が0.35°未満のサファイア基板を使用する方が望ましい場合もある。優れたAlN層を形成する最たる目的は、AlN層上に形成されるIII族窒化物半導体層の特性の向上であり、さらなる改善技術が希求されている。
【0009】
そこで本発明は、オフ角が0.02°以上0.35°未満のサファイア基板を使用する場合において、AlNテンプレート基板の特性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決する方途について鋭意検討した。特許文献1では、AlNテンプレート基板の評価パラメータとして結晶性および平坦性が使用されていたが、ステップ直線率とよぶ新たなパラメータに着目し、これを適正化することで、より特性のよいAlNテンプレート基板を完成させるに至った。特許文献2に提案されているように、従来、キャリアガスとしては水素ガスのみを使用することが好ましいと考えられていた。ところが、本発明者の詳細な検討により、オフ角が0.02°以上0.35°未満のサファイア基板を使用する場合において、むしろ水素ガスおよび窒素ガスの混合ガスを用いる方が、上記ステップ直線率を適正化することができ、AlN層上に形成されたIII族窒化物半導体層からなる発光素子の光出力が向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)サファイア基板と、前記サファイア基板の主面上に形成されているAlN層とを備え、前記サファイア基板の主面は、C面が0.02°以上0.35°未満のオフ角で傾斜した面であり、前記AlN層の表面のAFM像内におけるステップの稜線とAFM像の縁との一方の第1接点と他方の第2接点とを結ぶ直線距離を、前記第1接点から前記第2接点まで延在する前記ステップの稜線の長さで除算した、ステップ直線率が90%以上であることを特徴とするAlNテンプレート基板。
【0012】
(2)前記AlN層の表面平坦性Raが1.1nm以下である、上記(1)に記載のAlNテンプレート基板。
【0013】
(3)前記AlN層の(0002)面のX線ロッキングカーブの半値幅が100秒以下であり、かつ、(10-12)面のX線ロッキングカーブの半値幅が300秒以下である、上記(1)に記載のAlNテンプレート基板。
【0014】
(4)サファイア基板の主面上に、AlN層をエピタキシャル成長させる第1工程と、前記AlN層を熱処理する第2工程とを含み、前記サファイア基板の主面は、C面が0.02°以上0.35°未満のオフ角で傾斜した面であり、前記第1工程において用いるキャリアガスは水素ガスおよび窒素ガスの混合ガスであり、前記第2工程において、窒素元素を含有する雰囲気下で前記熱処理を行うことを特徴とするAlNテンプレート基板の製造方法。
【0015】
(5)前記第2工程における熱処理時の炉内の温度は、前記第1工程における炉内の温度よりも高温である、上記(4)に記載のAlNテンプレート基板の製造方法。
【0016】
(6)前記キャリアガスに占める窒素ガスの割合が1%以上10%以下である、上記(4)または(5)に記載のAlNテンプレート基板の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、III族窒化物半導体素子の作製に供した際に、優れた発光効率を有するIII族窒化物半導体素子を提供することができるAlNテンプレート基板およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明におけるステップ直線率について説明するAFM図である。
【
図2】本発明に係るAlNテンプレート基板を説明する断面模式図である。
【
図3】本発明に係るAlNテンプレート基板の製造方法を説明するフローチャートである。
【
図4】本発明に係るサファイア基板表面のオフ角を説明する模式図である。
【
図5】サファイア単結晶の結晶方位を説明する模式図である。
【
図6】本発明に係るAlN層を成長させるときのMOCVD装置の模式図である。
【
図7】本実施形態に係る発光素子の層構造を示す断面模式図である。
【
図8】実施例1に係るAlNテンプレート基板のAFM像である。
【
図9】実施例2に係るAlNテンプレート基板のAFM像である。
【
図10】比較例に係るAlNテンプレート基板のAFM像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に従う実施形態の説明に先立ち、以下の点について予め説明する。
【0020】
<ステップ直線率>
図1を用いて本発明におけるステップ直線率を説明する。本発明におけるステップ直線率とは、AlN層の表面のAFM(原子間力顕微鏡)像を取得し、当該AFM像内におけるステップの稜線E1とAFM像の縁(観察範囲の上端E2と下端E3)との接点をそれぞれ第1接点A、第2接点Bとした場合、第1接点Aと第2接点Bとを結ぶ直線距離dを、第1接点Aから第2接点Bまで延在するステップの稜線E1の長さLで除算した値d/Lとする。なお、
図1は、5.0μm×2.5μmの矩形上の範囲で取得したAFM像である。本発明におけるステップ直線率の測定は、直線距離dが2.5μm~2.8μm程度となるように撮影したAFM像を使用し、
図1と同様の5.0μm×2.5μmの矩形上の範囲にて測定を行うものとする。そして、第1接点Aから第2接点Bまでの延在が観察されるすべてのステップの稜線E1のうち、d/Lが最小となるものを選択し、d/Lの最小値を算出する。
【0021】
本実施形態における平坦性(Ra)の値は、AFM測定により取得した表面プロファイルに基づいて、JIS(B0601-2001)の定めに従い、AFM装置に付属するアプリケーション・ソフトウェアにより自動計算して求めることができる。本明細書の実施例では、5.0μm×2.5μmの矩形上の範囲に対してAFM測定を行って求めた。
【0022】
本実施形態における結晶性の評価は、X線回折装置によるX線ロッキングカーブの半値幅(arcsec)の値とする。半値幅は、X線回折装置に付属するアプリケーション・ソフトウェアにより自動計算して求めてよい。本実施形態では、評価対象の(0002)面と(10-12)面のそれぞれに対してX線を照射してその回折プロファイルを評価する。特に、(10-12)面における測定結果は、結晶内の貫通転移密度(螺旋および刃上の混合転移)の指標となる。なお、ミラー指数において負の数を表すバーを、負の数となる数字の前にマイナスをつけることで表記している。
【0023】
AlN層の膜厚は、原子サイズレベルの微視的には不均一な厚みとなる。そこで本明細書においては、AlN層の膜厚とは、ウエハ中心におけるAlN層の厚み(以降、中心膜厚と記載する)を指すこととする。本実施形態において、AlN層の膜厚は、光干渉膜厚測定機として、ナノメトリックス社製ナノスペックM6100Aを用いており、ウエハ中心の膜厚を中心膜厚とし、ウエハ面内の等間隔に分散させた25箇所の膜厚の平均値を平均膜厚としている。
【0024】
本実施形態において、AlNテンプレート基板上にエピタキシャル成長により形成される発光層の各層の膜厚は、TEM―EDS(透過型電子顕微鏡)による成長層の断面観察から算出できる。
【0025】
本実施形態における「AlGaN」は、Al組成比をaとするとAlaGa1―aNであることを意味する。本実施形態におけるAlGaNのAl組成比aの値は、各層を成長した際に各層表面に対して行ったフォトルミネッセンス測定により観測された波長から特定する。Al組成比aは、規定がなければ0以上1以下である。発光素子100の断面からAl組成を特定する方法としては、例えばEDS(エネルギー分散型X線分光)を使用することができる。
【0026】
本発明におけるドーパント濃度は、SIMS(二次イオン質量分析)により測定した値を用いる。また、本明細書において、Zn、TeまたはSi等の特定の不純物を意図的には添加しておらず、電気的にp型またはn型として機能しない場合、「i」型または「アンドープ」と言う。アンドープの層には、製造過程における不可避的な不純物の混入はあってよく、具体的には、キャリア密度が小さい(例えば4×1016/cm3未満)場合、「アンドープ」であるとして、本明細書では取り扱うものとする。
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、
図2、
図3および
図4において、説明の便宜上、基板および各層の縦横の比率を実際の比率から誇張して示す。また、図の簡略化のため、
図2および
図3では、サファイア基板10のオフ角θを図示せず、代わりに
図4にオフ角θを説明するための拡大模式図を示す。
【0028】
(AlNテンプレート基板)
本発明により得られるAlNテンプレート基板について説明する。
図2に示すように、本発明に従うAlNテンプレート基板1は、サファイア基板10の主面10A上にAlN層が形成される。サファイア基板10の主面10Aは、C面が0.02°以上0.35°未満のオフ角で傾斜しており、ステップ直線率が90%以上であることを特徴とする。オフ角を設ける傾斜方向の結晶軸方位は、m軸方向またはa軸方向のいずれでもよいが、m軸方向とする方がより好ましい。また、オフ角は、0.04°以上0.30°以下であることが好ましく、0.06°以上0.19°以下であることがより好ましい。ステップ直線率は95%以上であることがより好ましく、上限は理論上は100%であるが、生産性を考慮してステップ直線率は99.9%以下であってよい。ここで、AlN層20の膜厚は、0.3μm以上0.7μm以下であることが好ましい。
【0029】
また、AlN層20表面の表面平坦性Raは1.1nm以下であることが好ましく、0.21nm以下であることがより好ましい。
【0030】
さらに、AlN層20の(0002)面のX線ロッキングカーブの半値幅が100秒以下であり、かつ、(10-12)面のX線ロッキングカーブの半値幅が300秒以下であることが好ましい。
【0031】
本発明に従うAlNテンプレート基板1は、III族窒化物半導体素子の作製に供した際に、優れた発光効率を有するIII族窒化物半導体素子を得ることができる。以下、このAlNテンプレート基板1を得るための製造方法の実施形態及びその各工程の説明を通じて、各構成を詳細に説明する。
【0032】
<AlNテンプレート基板の製造方法>
図3は上述のAlNテンプレート基板1の製造方法のフローチャートである。
図3に示すように、本発明に従うAlNテンプレート基板1の製造方法は、サファイア基板10の主面10A上に、AlN層20をエピタキシャル成長させる第1工程(
図3A、
図3B)と、前記第1工程で形成したAlN層20を熱処理する第2工程(
図3C)と、を含む。ここで、サファイア基板10の主面10Aは先に述べたとおり、C面が0.02°以上0.35°未満のオフ角で傾斜した面(
図4)である。
図4に示すθはオフ角と同じ角度である。また、前記第1工程において用いるキャリアガスは水素ガスおよび窒素ガスの混合ガスであり、前記第2工程において、窒素元素を含有する雰囲気下で前記熱処理を行うことを特徴とする。
【0033】
<<第1工程>>
第1工程では、まず、
図3Aに示すように、サファイア基板10を用意する。ここで、本発明においては、C面が0.02°以上0.35°未満のオフ角で傾斜した面を主面10Aとするサファイア基板10を用いる。以下、本明細書においては、C面のかかる傾斜角度を単にサファイア基板10の「オフ角」または「オフ角θ」と称する。なお、オフ角θを設けるための傾斜方向の結晶軸方位は、m軸方向またはa軸方向のいずれでもよいが、m軸方向とする方がより好ましい。ここで、
図4は、主面10Aの拡大模式図である。主面10Aにおけるテラス幅Wおよびステップ高さHは、オフ角θおよび軸方位に応じて適宜定まる。なお、
図5は一般的なサファイア単結晶の六方晶系の結晶方位を表す模式図であり、サファイア単結晶のa軸、m軸およびC面を図示する。オフ角θ、テラス幅Wおよびステップ高さHは、X線回折測定またはAFM等によって測定される。
【0034】
なお、上記サファイア基板10は常法に従い製造されたものを用いることができる。サファイア基板10のオフ角θは、サファイア基板の製造工程上不可避な誤差を伴う。そのため、本発明においては、オフ角θの上限および下限から8%以内の誤差範囲内の角度は、本発明範囲に含まれるものとする。また、サファイア基板10の厚さおよび幅等のその他の仕様は、AlNテンプレート基板1の用途に応じて、適宜設計すればよい。
【0035】
次に、
図3Bに示すように、サファイア基板10上にAlN層20をエピタキシャル成長させる。ここで、本発明においては、AlN層20の膜厚Tは0.3μm以上0.7μm以下であることが好ましい。AlN層20は、例えば、有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法により形成することができる。本発明において、サファイア基板10上にAlN層20をエピタキシャル成長させるときは、後述するように、原料としてアンモニアガスおよび液体トリメチルアルミニウム(TMA)を使用するのが好ましく、さらに、キャリアガスは水素ガスおよび窒素ガスの混合ガスを使用する。ここで、本発明においては、キャリアガスに占める窒素ガスの割合は1%以上10%以下であることが好ましい。窒素ガスの割合は、窒素ガスの流量N
2[sccm]を全キャリアガスの流量(N
2+H
2)[sccm]で割った値を用いる。
【0036】
ここで、本発明の製造方法においては、キャリアガスに水素ガスおよび窒素ガスの混合ガスを使用することが肝要である。従来は、キャリアガスに水素ガスのみを使用することが好ましいとされていたが、本発明者の鋭意検討により、従来は好ましくないと考えられていた水素ガスおよび窒素ガスの混合ガスを使用することで、ステップ直線率の値が大きくなり、後述の実施例に示されるように、AlN層20上に形成したLEDの光出力が大きくなることを見出した。ステップの稜線が直線に近いことで、例えば、AlN層20上に形成されたn型半導体層や発光層での面内方向のAl組成のゆらぎが抑制され、発光層での界面の組成急峻性が向上して発光効率が向上すると考えられる。
【0037】
AlN層20の成長温度としては、1270℃以上1350℃以下が好ましく、1290℃以上1330℃以下がより好ましい。この温度範囲であれば、続く第2工程における熱処理後のAlN層20の結晶性を確実に向上することができる。また、チェンバ内の成長圧力については、限定を意図しないが、例えば5Torr~20Torrとすることができ、より好ましくは、8Torr~15Torrとすることができる。
【0038】
また、アンモニア(NH3)ガスなどのV族元素ガスおよびトリメチルアルミニウム(TMA)ガスなどのIII族元素ガスの成長ガス流量を元に計算されるIII族元素に対するV族元素のモル比(以降、V/III比と記載する)については、限定を意図しないが、V/III比を例えば130~190の範囲とすることができ、より好ましくはV/IIIを140~180の範囲とすることができる。なお、成長温度および成長圧力に応じて適切なV/III比が存在するため、成長ガス流量を適宜設定することが好ましい。
【0039】
図6を参照して、AlN層20をエピタキシャル成長させるのに使用したMOCVD装置50について説明する。MOCVD装置50では、アンモニアガス供給源51、窒素ガス供給源52、水素ガス供給源53、およびTMA供給源54からそれぞれ原料およびキャリアガスがリアクタ55に供給される。TMAは水素ガスを用いてバブリングを行うため、水素ガス供給源53はTMA供給源54に接続され、水素ガスとバブリングによって気化したTMAガスと窒素ガスとがTMA供給源54の出口で合流し、リアクタ55に供給される。本実施形態では、TMAを水素ガスによってバブリングする方式をとったが、原料およびキャリアガスを混合する方法はこれに限定されない。さらに、アンモニアガスが窒素ガスおよび水素ガスの混合ガスと共にリアクタ55に供給される。リアクタ55はAlN層20が成長したサファイア基板を載置するサセプタ、サセプタを支持し回転させる支持脚、および、サセプタ直下に位置するヒーターを備え、リアクタ55内の温度および圧力を調整してAlN層20をエピタキシャル成長させることができる。なお、MOCVD装置50には、リアクタ55の外部にリアクタ内部のガスを廃棄する真空ポンプ56が接続されている。
【0040】
<<第2工程>>
続く第2工程では、上述のようにして得られた、サファイア基板10上のAlN層20に対して、第1工程における成長温度よりも高温で熱処理を施すことが好ましい。また、AlN層20の分解を防ぐように窒素元素を含有する雰囲気で行う。窒素元素を含有する雰囲気は、窒素分圧が後述する加熱温度においてAlNが分解する窒素分圧より大きい値とすればよい。上記雰囲気に用いるガスは、窒素ガスでもアンモニアガスでも良いが、窒素ガスが好ましい。この熱処理は、公知の熱処理炉を用いて行うことができる。高温での熱処理により、熱処理後のAlN層20の(0002)面のX線ロッキングカーブの半値幅と、(10-12)面のX線ロッキングカーブの半値幅を低減することができる。なお、上述の窒素元素を含有する雰囲気は、サファイア(Al2O3)の分解を制御するために酸素元素を含むガスを含んでいても良い。
【0041】
第2工程においては、AlN層20の結晶性を向上させるため、第1工程における成長温度よりも高温で熱処理を施すことが好ましいが、熱処理の際の加熱温度を1580℃以上1730℃以下とすることがより好ましい。これは、1580℃以上であれば、転位密度を十分に減らすことができ、1730℃以下であれば、表面のAlN層の一部が分解することにより表面が粗くなる現象を抑制することができるためである。また、熱処理温度を1600℃以上1700℃以下とすることにより、AlN層20の結晶性を確実に向上させることができる。
【0042】
また、本工程における加熱時間は、3時間以上12時間以下とすることが好ましい。3時間以上の加熱処理により、転位密度を十分に減らすことができる。また、12時間以下の熱処理時間であれば、表面のAlNの一部が分解することにより表面が粗くなる現象を抑制することができる。AlN層20の結晶性を確実に向上させるためには、熱処理時間を4時間以上10時間以下とすることがより好ましい。
【0043】
(AlNテンプレート基板上の発光素子)
図7を参照して、作製したAlNテンプレート基板1上に形成した発光素子100について説明する。例えば、AlN層20上にアンドープの第1バッファ層101、第2バッファ層102、n型半導体層103、n型ガイド層104、発光層105、i型ガイド層106、p型電子ブロック層107、p型クラッド層108、p型コンタクト層109を順に成膜することで、AlNテンプレート基板1上に発光素子100を形成することができる。以下、発光素子100を構成する各層について説明する。
【0044】
第1バッファ層101および第2バッファ層102はAl組成の異なるAlGaN層を積層させた層で、第1バッファ層101の膜厚が10nm以上100nm以下、第2バッファ層102の膜厚が500nm以上2000nm以下であることが好ましい。また、第1バッファ層101および第2バッファ層102はアンドープとすることが好ましい。第1バッファ層101および第2バッファ層102は、格子定数の異なるAlN層20およびn型半導体層103の間に位置することで、平坦かつ結晶性の良好なn型半導体層103を形成することができるし、AlN層20とn型半導体層103との格子定数差によって生じる歪を緩和する効果もある。さらに、Al組成は第1バッファ層101よりも第2バッファ層102の方が低い方が好ましい。
【0045】
n型半導体層103は、Al組成比xを有するAlxGa1-xNであることが好ましい。ここで、ドープされる元素としては、Si、Te、S、Ge、Sn、Se等があげられる。また、SIMS分析を行った際の不純物濃度は、1.0×1018/cm3以上5.0×1019/cm3以下程度であることが好ましい。
【0046】
n型半導体層103の表面の5.0μm×2.5μmの矩形上の範囲における平均表面粗さ(Ra)は1nm以下であることが好ましい。n型半導体層103表面が平坦であることで、その上に成長される層も平坦性を維持することができる。
【0047】
また、n型半導体層103の(10-12)面のX線ロッキングカーブの半値幅は350秒以下であることが好ましく、300秒以下であることがより好ましい。n型半導体層103のAl組成比は0.2以上0.35以下であることが好ましく、後述の井戸層1052のAl組成比wより大きく、w<xである。
【0048】
n型半導体層103の膜厚は、キャリアを供給するのに十分な厚さがあればよく、例えば300nm以上3000nm以下であることが好ましい。
【0049】
後述するように、露出したn型半導体層103上の一部には、n型電極192が形成される。変形例としては、n型半導体層103とn型電極192との間に、Al組成がn型半導体層103よりも低い、Al組成が0以上0.2以下のAlGaN層を有していても良い。
【0050】
n型半導体層103上には、n型半導体層103と同じAl組成比を有するAlGaNにn型ドーパントを含有してn型半導体として機能する層であって、n型半導体層103よりも薄いn型ガイド層104を形成しても良い。ここで、ドープされる元素としては、Si、Te、S、Ge、Sn、Se等があげられる。n型ガイド層104の膜厚は、10nm以上300nm以下であることが好ましい。
【0051】
発光層105は、AlGaNからなる層を含む層であることが好ましい。本実施形態では、発光層105は、複数の障壁層1051および複数の井戸層1052を有し、これらが交互に積層された多重量子井戸層を例示的に図示しているが、発光層105は単層構造でもよい。本実施形態では、発光層105は、発光中心波長に応じたAl組成比を有する井戸層1052および障壁層1051を有し、障壁層1051および井戸層1052の組み合わせを1ペア以上繰り返す構成を有することが好ましい。
【0052】
本実施形態の井戸層1052は、Al組成比wを有するAlwGa1-wNからなる層であることが好ましい。Al組成比wは、例えば、発光中心波長を320nm超えとする場合、w<0.3とすることが好ましい。また、発光中心波長を331nm以上とする場合はw≦0.15とすることが好ましい。また、発光中心波長を349nm以下とする場合は0.07≦wとすることが好ましい。井戸層1052の膜厚は1nm以上5nm以下とすることが好ましく、また、アンドープとすることが好ましい。
【0053】
障壁層1051は、Al組成比bを有するAlbGa1-bNからなる層であることが好ましい。障壁層1051のAl組成比bは、w+0.05≦b≦w+0.3の範囲内とすることが好ましい。障壁層1051は、アンドープまたはn型ドーパントを入れたn型であってよい。このとき、ドープされる元素としては、Si、Te、S、Ge、Sn、Se等があげられる。
【0054】
i型ガイド層106は、障壁層1051よりも高いAl組成比を有するAlGaNからなり、膜厚が0.7nm以上1.3nm以下のi型層であることが好ましい。i型ガイド層106のAl組成比は、後述するp型電子ブロック層107のAl組成比yよりも高いことが好ましく、最も好ましくはAlNである。
【0055】
i型ガイド層106の製造方法としては2種類存在する。一つは、直接的に上記の膜厚とAl組成を有するi型ガイド層106を形成する方法である。もう一つは、上記の膜厚以上の厚さを有するAlGaN層を形成後に、キャリアガスを窒素ガスから水素ガスに変える過程で、窒素分圧の減少から当該AlGaN層のGaが揮発してAl組成が上昇して結果として上記の膜厚とAl組成を有するi型ガイド層106とする方法である。本実施形態では、いずれの方法も採択しうる。
【0056】
p型電子ブロック層107は、Al組成比yを有するAlyGa1-yNであることが好ましい。ここで使用されるドーパントとしてMg、Zn、C、Be等があげられる。また、SIMS分析を行った際の不純物濃度は、1.0×1018/cm3以上5.0×1019/cm3以下程度であることが好ましい。
【0057】
p型電子ブロック層107のAl組成比yは、0.35以上0.45以下であることが好ましい。また、p型電子ブロック層107の膜厚は11nm以上70nm以下であることが好ましい。このようなAl組成比および膜厚を有することで、p型電子ブロック層107は、その表面粗さの悪化を抑制しつつ、電子ブロック層としての役割を果たして発光出力の向上を実現する。発光出力の向上には60nm以下とすることがさらに好ましい。
【0058】
p型クラッド層108は、Al組成比zを有するAlzGa1-zNであることが好ましい。Al組成比zは0.17以上0.27以下であることが好ましい。ここで使用されるドーパントとしてMg、Zn、C、Be等があげられる。また、SIMS分析を行った際の不純物濃度は、1.0×1018/cm3以上5.0×1019/cm3以下程度であることが好ましい。
【0059】
p型クラッド層108のAl組成比zと他の層のAl組成比との関係としては、p型クラッド層108のAl組成比zはp型電子ブロック層107のAl組成比y未満(z<y)であることが好ましい。また、p型クラッド層108のAl組成比zはp型電子ブロック層107のAl組成比yの0.48倍以上0.60倍以下とすることが好ましい。以下では、p型電子ブロック層107のAl組成比yに対するp型クラッド層108のAl組成比zの比率を、Al比と称する場合がある。また、Al組成比zは、n型半導体層103のAl組成比x以下(z≦x)であることも好ましい。さらに、Al組成比zは、前述の井戸層1052のAl組成比wより大きい(w<z)ことが好ましい。
【0060】
p型クラッド層108の膜厚は、以下のようにp型電子ブロック層107の膜厚に応じて調整することが好ましい。
【0061】
p型クラッド層108の膜厚を決めるにあたって、p型電子ブロック層107およびp型クラッド層108の合計膜厚は、発光出力と平坦性を両立させるためには73nm以上100nm以下とすることが好ましい。さらに、発光出力の向上には、p型電子ブロック層107およびp型クラッド層108の合計膜厚は79nm以上とすることが好ましい。
【0062】
また、p型電子ブロック層107およびp型クラッド層108の合計膜厚が一定の場合に電子ブロック層の膜厚が薄い方が出力が大きい傾向を示すことから、出力の向上効果が顕著になる範囲としては電子ブロック層の膜厚を11nm以上、60nm以下とすることが好ましい。
【0063】
p型クラッド層108の膜厚をp型電子ブロック層107の膜厚で割った値(以下、層厚比と記載する場合がある)は少なくとも0.1以上であればよい。p型コンタクト層109の最大表面粗さ(Rmax)を抑制するためには、層厚比は0.4以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。層厚比の上限は6.0以下とすることができる。また、層厚比が0.4未満となると、p型クラッド層108の表面平坦性が悪化してp型コンタクト層109のRmaxが大きくなる傾向がある。
【0064】
p型電子ブロック層107のAl組成比の範囲は0.35以上0.45以下、かつ、上記の層厚比を0.55以上とすることで、後述のp型コンタクト層109の最大表面粗さを6.5nm未満とすることができる。
【0065】
p型コンタクト層109はGaNからなるp型半導体から構成されることが好ましい。ここで使用されるドーパントとしてMg、Zn、C、Be等があげられる。また、SIMS分析を行った際の不純物濃度は、1.0×1019/cm3以上5.0×1021/cm3以下程度であることが好ましい。
【0066】
p型コンタクト層109の膜厚は2nm以上15nm以下であることが好ましい。p型コンタクト層109の膜厚はより好ましくは2nm以上10nm以下である。p型電子ブロック層107およびp型クラッド層108と上述のものとすることで、p型コンタクト層109をこのように薄い層としても、p型コンタクト層109の平坦性を担保することができる。
【0067】
n型電極192として、ドライエッチングよりn型半導体層103を露出させ、露出したn型半導体層103上に、Al組成比がn型半導体層103よりも低く、そのAl組成比が0以上0.2以下のAlGaNからなる層を形成し、その上にn型電極192を形成することが好ましい。
【0068】
n型電極192としては、公知の電極を選択すればよく、例えば、第1の金属(Ti)および第2の金属(Al)、または、導電性の金属窒化物を用いることができる。ここで、n型電極192の第1の金属の膜厚は10nm以上50nm以下であることが好ましく、第2の金属の膜厚は50nm以上300nm以下であることが好ましい。
【0069】
p型電極195としては、p型コンタクト層109に用いることが可能な公知の電極を選択することが好ましく、発光中心波長の反射率が50%以上ある反射電極であることがより好ましい。p型電極195としては、例えば、第1の金属(Ni)および第2の金属(Rh)、または、導電性の金属窒化物を用いることができる。ここで、p型電極195の第1の金属の膜厚は5nm以上10nm以下であることが好ましく、第2の金属の膜厚は20nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0070】
n型電極192およびp型電極195の積層には公知の成膜方法を用いることができ、例えば、スパッタ法があげられる。また、n型電極192およびp型電極195の電極パターン形成にはレジストを用いたリフトオフ法を用いることが好ましい。
【0071】
各層のエピタキシャル成長の方法としては、MOCVD法を採用しうる。各層のエピタキシャル成長にあたっては、トリメチルアルミニウムガス(TMAガス)、トリメチルガリウムガス(TMGガス)、及びアンモニアガス(NH3ガス)からなる原料ガスを用いることが好ましい。成長温度としては、Al組成比にもよるが、1000℃以上1400℃以下が好ましい。また、チャンバ内の成長圧力は、例えば10Torrから760Torrとすることができる。なお、成長温度及び成長圧力に応じて最適なIII族元素に対するV族元素のモル比(V/III比)が存在するため、原料ガスの流量を適宜設定することが好ましい。
【0072】
ウエハから個々の発光素子100のチップに個片化するにあたり、分離予定位置における基板上の各層は、ドライエッチング等を用いて除去することが好ましい。その際、各層の側面にメサ(傾斜部)が生じても良い。発光素子100のチップサイズは1辺が200μmから2000μmの正方形、長方形または六角形とすることができる。基板の個片化においては、スクライブまたはレーザーダイシングが使用できる。個片化の前に研削等によって基板の厚さを調整しても良い。
【0073】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例0074】
[実験例1]
(実施例1)
図3に示したフローチャートに従って、実施例1に係るAlNテンプレート基板を製造した。すなわち、まず、サファイア基板(直径2インチ、厚さ:430μm、面方位(0001)、m軸方向のオフ角θ:0.11°)を用意した(
図3A)。次いで、成長温度を1330℃、チャンバ内の成長圧力を10TorrとするMOCVD法により、上記サファイア基板上に中心膜厚0.60μmのAlN層を成長させた。原料ガスの流量は、V族ガス(アンモニアガス)を250sccm、III族ガス(TMAガス)を43sccmとした。その際、キャリアガスとして水素ガスおよび窒素ガスの混合ガスを使用し、水素ガス9507sccm、窒素ガス400sccm(混合ガス中の窒素ガスの割合が4.04%)となるように設定した。なお、AlNの膜厚については、既述のとおり、光干渉式膜厚測定器(ナノスペックM6100A;ナノスペック社製)を用いて、ウエハ面内の中心を含む、等間隔に分散させた計25箇所の膜厚を測定した。
【0075】
次いで、上記AlN層形成後のAlNテンプレート基板を熱処理炉に導入し、10Paまで減圧後に窒素ガスを常圧までパージすることにより炉内を窒素ガス雰囲気とした後に、炉内の温度を昇温してAlNテンプレート基板に対して熱処理を施した。その際の加熱温度は1620℃、加熱時間は5時間とした。こうして、実施例1に係るAlNテンプレート基板を作製した。
【0076】
上記AlNテンプレート基板のAlN層のX線回折装置(D8 DISCOVER AUTOWAFS;Bruker AXS社製、CuKα1線)による(10-12)のX線ロッキングカーブの半値幅は247秒であり、(0002)のX線ロッキングカーブの半値幅は51秒であった。
【0077】
また、AFMを用いてウエハの中心部に対して5.0μm×2.5μmの矩形上の範囲における、AlNテンプレート基板の表面粗さを測定したところ、平均表面粗さ(Ra)は0.15nmであった。
【0078】
作製した上記AlNテンプレート基板上に、MOCVD法を用いて、アンドープのAl0.40Ga0.60Nからなる膜厚30nmの第1バッファ層およびアンドープのAl0.25Ga0.75Nからなる膜厚1000nmの第2バッファ層を順に形成した。このときの成長温度は1200℃とした。
【0079】
次に、Siドープした膜厚2400nmからなるn型半導体層を第2バッファ層上に形成した。なお、SIMSを用いてn型半導体層のSi濃度を測定したところ、1.0×1019atoms/cm3であった。
【0080】
次に、成長温度を1200℃から1100℃に変更し、上記n型半導体層上にアンドープのAl0.25Ga0.75Nからなる膜厚25nmのn型ガイド層を形成した。次いで、SiドープのAl0.25Ga0.75Nからなる膜厚12nmの障壁層と、アンドープのAl0.10Ga0.90Nからなる膜厚2.4nmの井戸層との形成を3回繰り返して、量子井戸構造の発光層を形成した。
【0081】
次に、上記発光層上(3層目の井戸層上)に、アンドープのAl0.25Ga0.75Nからなる膜厚3nmのi型ガイド層を形成した。その後、V族原料ガスの供給は継続した状態でIII族原料ガスの供給を停止し、キャリアガスとしての窒素ガスを停止してキャリアガスを水素ガスへ変更し、水素ガスの供給開始から1分後にIII族原料ガスの供給を開始して、MgドープのAl0.40Ga0.60Nからなる膜厚22nmのp型電子ブロック層を形成した。続いて、MgドープのAl0.22Ga0.78Nからなる膜厚64nmのp型クラッド層を形成し、その上に、MgドープのGaNからなる膜厚4nmのp型コンタクト層(p型GaNコンタクト層)を形成した。
【0082】
AlNテンプレート基板上に形成された半導体素子をSIMSを用いて分析した結果、p型電子ブロック層、p型クラッド層、p型コンタクト層のMg濃度は、それぞれ、1.0×1019atoms/cm3、5.0×1019atoms/cm3、2.0×1020atoms/cm3であった。
【0083】
また、フォトルミネッセンス測定によるAl組成比の推定およびTEMによる膜厚測定により、iガイド層形成後のキャリアガス変更に伴い、iガイド層はGa成分が揮発して分解し、Al組成比がおよそ1である膜厚1.0nmのiガイド層に変質したことが判明した。
【0084】
実施例1で作製した半導体層の各層のAl組成比、ドーパントの種類、および膜厚を表1に示す。ここで、Al組成比は、フォトルミネッセンス測定により観測された波長から推定し、ドーパントの種類はSIMSの分析結果に基づき、膜厚はTEMの測定結果に基づく。
【0085】
【0086】
さらに、上記p型コンタクト層上にマスクを形成し、ドライエッチングによるメサエッチングを行い、n型半導体層の一部を露出させ、その後、p型コンタクト層上のマスクを除去した。
【0087】
次に、上記p型コンタクト層上に膜厚7nmのNi層および膜厚50nmのRh層を順に形成し、p側電極としての反射電極とした。
【0088】
また、上記のn型半導体層の露出した一部上に、膜厚20nmのTi層および膜厚150nmのAl層を順に形成し、n型電極とした。
【0089】
上記p側電極およびn型電極の積層にはスパッタ法を使用し、電極パターンの形成にはレジストを用いたリフトオフ法を使用した。
【0090】
さらに、赤外線ランプアニール加熱装置を用いて550℃で10分間のコンタクトアニールを行った後、レーザースクライバを用いてチップサイズ1000μm×1000μmの矩形状の個々の素子に分割して、実施例1に係る紫外線発光素子(以下、発光素子と記載する)を作製した。素子分離後のサファイア基板の側面は主表面に対して垂直であり、サファイア基板の厚さは430μmであった。
【0091】
(実施例2)
工程1における水素ガスの流量を9707sccm、窒素ガスの流量を200sccmに変えた以外は、実施例1と同様にAlNテンプレート基板を作製した。
【0092】
(比較例)
工程1における水素ガスの流量を9907sccm、窒素ガスの流量を0sccmに変えた以外は、実施例1と同様にAlNテンプレート基板を作製した。
【0093】
図8、
図9および
図10にそれぞれ実施例1、実施例2および比較例から得られたAlNテンプレート基板上のAlN層表面の5.0μm×2.5μm矩形範囲のAFM像を示す。また、実施例1、実施例2および比較例から得られたAlNテンプレート基板上のAlN層表面の平坦性、ステップ直線率および結晶性を測定し、このAlNテンプレート基板上に積層された発光素子に、定電流電圧源を用い電流350mAを流し、サファイア基板側を積分球の中心に向けるように積分球内に挿入して全光束の発光出力(Po)を測定した。結果を表2に示す。
【0094】
【0095】
以上の結果より、AlN層成長時のキャリアガスの窒素ガスの割合が大きいほどAlN層表面のステップ直線率が大きくなり、AlNテンプレート基板上に形成された発光素子の光出力が増大することが確認できた。キャリアガスに窒素ガスが含まれる実施例1および実施例2と比較して、キャリアガスに窒素ガスが含まれない比較例の方が結晶性に優れているのにも関わらず、実施例1および実施例2の方が光出力が大きいことは、AlN層の評価パラメータとしてステップ直線率が重要であることが示唆される。
【0096】
本発明によれば、AlN層形成時に、キャリアガスとして窒素ガスと水素ガスの混合ガスを使用することでステップ直線率の大きいAlNテンプレート基板およびその製造方法を提供することができる。