(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022681
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】二酸化炭素還元光触媒粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 35/39 20240101AFI20250206BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20250206BHJP
B01J 37/34 20060101ALI20250206BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20250206BHJP
B01J 23/68 20060101ALI20250206BHJP
C01B 32/40 20170101ALI20250206BHJP
【FI】
B01J35/39
B01J37/16
B01J37/34
B01J37/02 101C
B01J23/68 M
C01B32/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023210982
(22)【出願日】2023-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2023125816
(32)【優先日】2023-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】川田 稀士
(72)【発明者】
【氏名】西本 大夢
(72)【発明者】
【氏名】田中 庸裕
(72)【発明者】
【氏名】寺村 謙太郎
(72)【発明者】
【氏名】井口 翔之
【テーマコード(参考)】
4G146
4G169
【Fターム(参考)】
4G146JA01
4G146JB04
4G146JC01
4G146JC22
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA48A
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB04C
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BB06C
4G169BC02A
4G169BC02B
4G169BC02C
4G169BC32A
4G169BC32B
4G169BC32C
4G169BC35A
4G169BC35B
4G169BC35C
4G169BC56A
4G169BC56B
4G169BC56C
4G169CB81
4G169EA02Y
4G169EB18X
4G169EC27
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB14
4G169FB18
4G169FB46
4G169FB58
4G169FC02
4G169FC04
4G169FC08
4G169HA01
4G169HB06
4G169HC29
4G169HD03
4G169HE20
(57)【要約】
【課題】CO選択率を高いレベルに維持しながら大きいCOガス生成速度を示す二酸化炭素還元光触媒粒子及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】母材粒子と前記母材粒子の表面に担持された金属銀(Ag)粒子とを含み、
前記母材粒子は、酸化タンタル(Ta
2O
5)、タンタル酸ナトリウム(NaTaO
3)、及びタンタル酸亜鉛(ZnTa
2O
6)からなる群から選択される1種以上を含み、
拡散反射スペクトルにおいて、200nm以上300nm以下の波長域に位置するピークAと480nm以上530nm以下の波長域に位置するピークBを示し、前記ピークAの強度(I
A)に対する前記ピークBの強度(I
B)の比(I
B/I
A)が50%以下である、二酸化炭素還元光触媒粒子。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材粒子と前記母材粒子の表面に担持された金属銀(Ag)粒子とを含み、
前記母材粒子は、酸化タンタル(Ta2O5)、タンタル酸ナトリウム(NaTaO3)、及びタンタル酸亜鉛(ZnTa2O6)からなる群から選択される1種以上を含み、
拡散反射スペクトルにおいて、200nm以上300nm以下の波長域に位置するピークAと480nm以上530nm以下の波長域に位置するピークBを示し、前記ピークAの強度(IA)に対する前記ピークBの強度(IB)の比(IB/IA)が50%以下である、二酸化炭素還元光触媒粒子。
【請求項2】
前記金属銀(Ag)粒子の担持量が前記母材粒子に対して0質量%超1.0質量%未満である、請求項1に記載の二酸化炭素還元光触媒粒子。
【請求項3】
前記金属銀(Ag)粒子の粒径が0.1nm以上5nmである請求項1又は2に記載の二酸化炭素還元光触媒粒子。
【請求項4】
CO2還元光還元触媒性能評価試験において、CO選択率が50%以上である、請求項1又は2に記載の二酸化炭素還元光触媒粒子。
【請求項5】
母材粒子と前記母材粒子の表面に担持された金属銀(Ag)粒子とを含む二酸化炭素還元光触媒粒子の製造方法であって、
母材粒子と銀(Ag)供給源とを還元液に加えて反応液を作製する工程、及び
前記反応液に超音波を照射して、金属銀(Ag)粒子を担持した母材粒子を作製する工程、を含み、
前記母材粒子は、酸化タンタル(Ta2O5)、タンタル酸ナトリウム(NaTaO3)、及びタンタル酸亜鉛(ZnTa2O6)からなる群から選択される1種以上を含む、方法。
【請求項6】
前記金属銀(Ag)粒子の担持量が前記母材粒子に対して0質量%超1.0質量%未満である、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素還元光触媒粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体光触媒粒子を用いた水分解及び二酸化炭素還元技術は、エネルギー問題や環境問題を解決できる技術として注目を集めている。この光触媒粒子に助触媒として銀(Ag)などからなる粒子を担持させることで、光励起によって生成した電子をトラップして電荷分離を促進する効果や二酸化炭素還元生成物を選択する効果が期待できる。例えば通常の光触媒では光照射により水が水素(H2)と酸素(O2)とに分解する。これに対して銀(Ag)粒子を担持した光触媒では、二酸化炭素(CO2)の還元により一酸化炭素(CO)が水素(H2)とともに生成する。
【0003】
一酸化炭素(CO)は化学工業や産業における重要な出発物質であり、これを水素と反応させて様々な燃料や化学物質を合成することが可能である。したがって、二酸化炭素還元光触媒では、一酸化炭素の生成割合、すなわちCO選択率の高いことが望ましい。ここでCO選択率とは、下記(1)式に表されるように、還元反応により生じる水素(H2)ガスの発生速度(発生量)と一酸化炭素(CO)ガスの発生速度の合計に対するCOガスの発生速度の割合である。
【0004】
【0005】
ところで、銀(Ag)などの金属粒子を担持させる方法として、化学還元法、含浸法、及び光電析法(光電着法)などの手法が従来から知られている。例えば、特許文献1には二酸化炭素の還元方法に関して、CO2とH2Oと光触媒とに光を照射してCO2を還元する反応によりCOを生成させる旨、光電着法又は含浸法で銀を酸化ガリウムに担持した触媒を用いる旨、光電着法では硝酸銀など銀前駆体を含むアルコール水溶液に酸化ガリウム粉末を入れて混合後、光照射を行って銀前駆体を還元処理する旨、含浸法では銀前駆体水溶液に酸化ガリウムを加えて攪拌し、水を除去した後に加熱乾燥し、更に空気中で焼成する旨が記載されている(特許文献1の請求項1、2及び[0015])。
【0006】
また二酸化炭素還元触媒に関するものではないが、特許文献2には超音波を照射して溶媒中に1種類以上の貴金属酸化物を分散させて貴金属酸化物分散液を得る工程と、前記貴金属酸化物分散液を加熱する工程とを含むことを特徴とする貴金属ナノ材料の製造方法が開示されている(特許文献2の請求項1)。また、溶媒に貴金属担持用の担体を更に含有させる旨、担体の表面上に高度な分散性を持って担持された状態の貴金属ナノ材料を得ることが可能であるため、これを燃料電池用触媒、材料合成用触媒等に好適に利用することが可能となる旨が記載されている(特許文献2の請求項6及び[0014])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-192302号公報
【特許文献2】特開2008-024968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らが調べたところ、特許文献1で提案される含浸法や光電析法で作製された光触媒には、一定の効果があるものの改良の余地があることが分かった。すなわち、助触媒である銀(Ag)の効果を十分に発揮させるためには、その担持量をある程度に多くすることが望ましい。またAgの粒径を小さく、数十nmオーダー程度以下にすることが望まれる。粒径が大きすぎると触媒活性が失われてしまうためである。しかしながら含浸法や光電析法で作製した光触媒粒子では、助触媒担持量(Ag濃度)を多くすると、Ag粒子が凝集して粒径が大きくなってしまう問題がある。そのため粒径の小さいAg粒子を高担持量で担持させることは困難である。
【0009】
特許文献2は貴金属ナノ材料を二酸化炭素還元光触媒に用いることを意図しておらず、ましてやナノ材料の粒径を数十nmオーダー程度以下に小さくすることを目的としていない。実際、特許文献2では実施例において貴金属(Pt)ナノ微粒子担持球状カーボンや貴金属(Pt)ナノチューブを作製する旨、燃料電池用触媒、材料合成用触媒、医療や食品添加剤、導電性ペーストに好適である旨を教示するに過ぎない(特許文献2の[0043]~[0062])。
【0010】
一方で金属粒子を合成する際に、原料濃度を低くするとともに多量の有機保護剤を用いて均一且つ微細な粒子を合成する手法が知られている。しかしながらこのような手法で光触媒粒子を作製すると、光触媒粒子の収率が低いとともに有機保護剤が粒子表面に付着するという問題がある。付着した有機保護剤は触媒活性を低下させてしまうため、これを分解除去するために触媒粒子を高温焼成する必要がある。このような焼成を経た触媒粒子では、金属粒子の粒径が大きくなってしまう。そのため、従来の手法では微細なAg粒子を高分散且つ高担持量で担持させることは困難であり、触媒性能、特にCO選択率に優れた光触媒粒子を効率的に製造する上で限界があった。
【0011】
本発明者らは、このような従来の問題点に鑑みて検討を行った。その結果、所定組成の母材粒子を有する二酸化炭素還元光触媒粒子において、超音波還元法により金属Ag粒子を担持することで、所定ピーク強度比を有する拡散反射スペクトルを示す二酸化炭素還元光触媒粒子が得られるとの知見を得た。また、この手法で得られた光触媒粒子は、CO選択率を高いレベルに維持しながら高いCOガス生成速度を示すとの知見を得た。
【0012】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、CO選択率を高いレベルに維持しながら大きいCOガス生成速度を示す二酸化炭素還元光触媒粒子及びその製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、下記(1)~(6)の態様を包含する。なお本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。また本明細書において、技術的な整合を図ることができる限り、好適な態様の任意の組み合わせを採用することができる。例えば、好適な数値範囲の一方と他方を任意に組み合わせることができる。
【0014】
(1)母材粒子と前記母材粒子の表面に担持された金属銀(Ag)粒子とを含み、
前記母材粒子は、酸化タンタル(Ta2O5)、タンタル酸ナトリウム(NaTaO3)、及びタンタル酸亜鉛(ZnTa2O6)からなる群から選択される1種以上を含み、
拡散反射スペクトルにおいて、200nm以上300nm以下の波長域に位置するピークAと480nm以上530nm以下の波長域に位置するピークBを示し、前記ピークAの強度(IA)に対する前記ピークBの強度(IB)の比(IB/IA)が50%以下である、二酸化炭素還元光触媒粒子。
【0015】
(2)前記金属銀(Ag)粒子の担持量が前記母材粒子に対して0質量%超1.0質量%未満である、上記(1)の二酸化炭素還元光触媒粒子。
【0016】
(3)前記金属銀(Ag)粒子の粒径が0.1nm以上5nmである上記(1)又は(2)の二酸化炭素還元光触媒粒子。
【0017】
(4)CO2還元光還元触媒性能評価試験において、CO選択率が50%以上である、上記(1)~(3)のいずれかの二酸化炭素還元光触媒粒子。
【0018】
(5)母材粒子と前記母材粒子の表面に担持された金属銀(Ag)粒子とを含む二酸化炭素還元光触媒粒子の製造方法であって、
母材粒子と銀(Ag)供給源とを還元液に加えて反応液を作製する工程、及び
前記反応液に超音波を照射して、金属銀(Ag)粒子を担持した母材粒子を作製する工程、を含み、
前記母材粒子は、酸化タンタル(Ta2O5)、タンタル酸ナトリウム(NaTaO3)、及びタンタル酸亜鉛(ZnTa2O6)からなる群から選択される1種以上を含む、方法。
【0019】
(6)前記金属銀(Ag)粒子の担持量が前記母材粒子に対して0質量%超1.0質量%未満である、上記(5)の方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、CO選択率を高いレベルに維持しながら大きいCOガス生成速度を示す二酸化炭素還元光触媒粒子及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図3】超音波還元法によるAg粒子担持のメカニズムを示す。
【
図4】光触媒粒子(例C-1~C-4等)のX線吸収分光スペクトルを示す。
【
図5A】光触媒粒子(例C-1)のTEM像を示す。
【
図5B】光触媒粒子(例C-2)のTEM像を示す。
【
図5C】光触媒粒子(例C-3)のTEM像を示す。
【
図5D】光触媒粒子(例C-4)のTEM像を示す。
【
図6】光触媒粒子(例A-1~A-3等)の拡散反射スペクトルを示す。
【
図7】光触媒粒子(例B-1~B-2等)の拡散反射スペクトルを示す。
【
図8】光触媒粒子(例C-1~C―4等)の拡散反射スペクトルを示す。
【
図9】光触媒粒子(例D-1~D-3及びD-7)の拡散反射スペクトルを示す。
【
図10】光触媒粒子(例D-4~D-6)の拡散反射スペクトルを示す。
【
図11】光触媒粒子(例A-1~A-3)のCO
2還元光触媒性能を示す。
【
図12】光触媒粒子(例B-1~B-2)のCO
2還元光触媒性能を示す。
【
図13】光触媒粒子(例C-1~C-4)のCO
2還元光触媒性能を示す。
【
図14】光触媒粒子(例D-1~D-7)のCO
2還元光触媒性能を示す。
【
図15】光触媒粒子(例D-3)の原子分解能TEM像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について以下に説明する。ただし本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0023】
<<1.二酸化炭素還元光触媒粒子>>
本実施形態の二酸化炭素還元光触媒粒子(以下、単に「光触媒粒子」と総称する場合がある。)は、母材粒子とこの母材粒子の表面に担持された金属銀(Ag)粒子とを含む。母材粒子は、酸化タンタル(Ta2O5)、タンタル酸ナトリウム(NaTaO3)、及びタンタル酸亜鉛(ZnTa2O6)からなる群から選択される1種以上を含む。また、二酸化炭素還元光触媒粒子は、拡散反射スペクトルにおいて、200nm以上300nm以下の波長域に位置するピークAと480nm以上530nm以下の波長域に位置するピークBを有する。ピークAの強度(IA)に対するピークBの強度(IB)の比(IB/IA)は50%以下である。
【0024】
母材粒子は、主触媒として機能するものである。母材粒子は、酸化タンタル(Ta2O5)、タンタル酸ナトリウム(NaTaO3)、及びタンタル酸亜鉛(ZnTa2O6)からなる群から選択される1種以上を主成分として含む。ここで、主成分とは母材粒子中で50質量%を占める成分のことである。酸化タンタル、タンタル酸ナトリウム、及び/又はタンタル酸亜鉛を主成分とすることで、優れた触媒性能を示す光触媒粒子を得ることができる。母材粒子中の主成分割合は大きい方が好ましい。主成分割合は60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上であってもよい。
【0025】
金属Ag粒子は助触媒として機能するものであり、その粒径はnmオーダー又はそれ以下である。金属Ag粒子の粒径は0.1nm以上5nm以下が好ましく、1nm以上5nm以下がより好ましい。このような微細Ag粒子を担持させることで、光触媒粒子の触媒性能が高くなる。微細な助触媒を担持させることで、母材粒子の表面活性点が多くなるからである。なお金属Ag粒子の粒径は、TEM観察により求めることができる。
【0026】
本実施形態の光触媒粒子は、拡散反射スペクトルにおいて、200nm以上300nm以下の波長域に位置するピークAと480nm以上530nm以下の波長域に位置するピークBを有する。また、ピークAの強度(IA)に対するピークBの強度(IB)の比(IB/IA)が50%以下である。拡散反射スペクトルにおけるピーク強度比(IB/IA)を制御することで、光触媒粒子の触媒性能がより一層優れたものになる。具体的には、高いCO選択率を維持しながら大きいCOガス生成速度を実現できる。ピーク強度比(IB/IA)は40%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましく、10%以下が特に好ましく、5%以下が最も好ましい。一方で、助触媒(Ag粒子)の機能を十分に発揮させる上で、ピーク強度比(IB/IA)はある程度に高いことが望ましい。ピーク強度比(IB/IA)は0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましい。
【0027】
なお、200nm以上300nm以下の波長域及び480nm以上530nm以下の波長域のそれぞれに少なくとも1つのピークが存在すればよい。例えば480nm以上530nm以下の波長域に複数のピークが存在する場合には、全てのピークの強度比(IB/IA)が所定の範囲内(50%以下)を満足すればよい。
【0028】
拡散反射スペクトルは、拡散反射法により得られる吸収スペクトルである。粉末などの固体試料に光を照射すると、散乱過程を経てその一部が試料外に出ていく。散乱過程では、照射した光の一部が試料表面で反射されて、残りは試料内に侵入する。侵入した入射光は試料の電子遷移状態により一部が吸収されて、残りが試料外に出ていく。紫外光や可視光の入射光強度と散乱過程後の光強度から吸収スペクトルを得ることができる。
【0029】
本実施形態の光触媒粒子は、助触媒(Ag粒子)の担持量(Ag濃度)が母材粒子に対して0質量%超1.0質量%未満であることが好ましい。担持量をある程度に多くすることで助触媒の効果を十分に発揮させることができる。そのためCO2還元に光触媒を用いたときにCOガス発生速度とCO選択率を顕著に高めることが可能になる。一方で担持量を適度に抑えることでCOガス発生速度の低下を抑制できる。Ag供給源の配合量や超音波処理条件を制御することで担持量を調整できる。担持量は0.1質量%以上0.5質量%以下がより好ましい。
【0030】
本実施形態の光触媒粒子は、触媒性能、特にCO選択率が優れている。例えばCO2還元光触媒性能評価試験においてCO選択率が30%以上である。そのためCO2還元により発生するCOガス量の割合を高くすることが可能になる。CO選択率は40%以上であってよく、50%以上であってよく、60%以上であってよく、70%以上であってよく、80%以上であってよく、90%以上であってもよい。CO選択率の上限は特に限定されるものではないが、典型的には98%以下、より典型的には95%以下である。
【0031】
CO
2還元光触媒性能評価試験は公知の評価装置を用いて行えばよい。評価装置の一例を
図1に示す。評価装置(2)は槽(4)とこの槽(4)内部に設けられた高圧水銀(Hg)ランプ(6)とから構成されている。槽(4)の内部には評価用溶液(22)が入れられる。また槽(4)はガス導入管(8)、ガス排出管(10)、pH計(12)、ゴム栓(14)及びスターラー(16)を備えている。ガス導入管(8)の先端にはバブリングフィルター(18)が設けられている。水銀ランプ(6)は、その周囲に流れる冷却水(20)によって冷却される。
【0032】
評価試験は次のようにして行えばよい。純水、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)及びサンプル(光触媒粒子)を混合して評価用溶液(22)を作製する。この評価用溶液(22)を評価装置(2)の槽(4)に入れて、スターラー(16)で撹拌する。二酸化炭素(CO2)ガス(30)をガス導入管(8)から吹き込み、それと同時に高圧Hgランプ(6)からUV光を評価用溶液(22)に照射する。所定時間照射した後に、発生したガス(32)を、ガス排出管(10)を通してガスクロマトグラフィー(34)に導入し、そこで分析する。この分析により水素(H2)、酸素(O2)及び一酸化炭素(CO)の発生速度(生成量)を求める。得られた発生速度を用いて、下記(1)式に基づきCO選択率を算出する。
【0033】
【0034】
拡散反射スペクトルにおいて特定波長域(200nm以上300nm以下、480nm以上530nm以下)にピークを有し、そのピーク強度比(IB/IA)が所定範囲内(50%以下)にある本実施形態の光触媒粒子が、高いCO選択率を維持しながら大きいCOガス生成速度を示す、そのメカニズムの詳細は不明である。しかしながら金属Ag粒子の粒子サイズと電子遷移状態とが関係しているのではないかと推測している。すなわち拡散反射法により得られるスペクトル(拡散反射スペクトル)は種の価数、配位構造、配位子場といった試料の電子遷移状態を反映している。また試料が微粒子である場合には、その粒子サイズによって異なる吸収エネルギーを示す場合がある。例えば金属Ag粒子が微粒子である場合には、プラズモン共鳴に対応する波長域に吸収帯を与えることが知られている。したがって特定波長域にピークを有する本実施形態の光触媒粒子は、担持Ag粒子が、微細で特有の電子遷移状態を有するものになっていると考えられる。
【0035】
一方でAg粒子の粒子サイズと電子遷移状態は、光触媒の触媒性能、例えばCO選択率に影響を及ぼすことが予想される。このことを金属Ag粒子担持光触媒粒子のCO
2還元のメカニズム(
図2)に基づき説明する。
図2に示されるように、エネルギーhνをもつ光が粒子に照射されると、半導体光触媒粒子中に電子(e
-)と正孔(h
+)とが生じる。この際、金属Ag粒子(助触媒)は電荷分離(電子e
-と正孔h
+の分離)を促進する。正孔(h
+)が周囲の水分(H
2O)と反応する結果、下記(2)式に示す反応が右方向に進み、酸素(O
2)とプロトン(H
+)とが生成される。一方で電子(e
-)が二酸化炭素(CO
2)及びプロトン(H
+)と反応する結果、下記(3)及び(4)式に示す反応が右方向に進み、一酸化炭素(CO)と水(H
2O)と水素(H
2)が生成する。また下記(2)から(4)式の反応を合わせると、原理的には下記(5)式に示す反応が進む。
【0036】
【0037】
上記(3)式の反応と(4)式の反応が同じ程度で起こると、上記式(5)に示されるようにCO選択率(CO発生速度/(H2発生速度+CO発生速度))は一定である。しかしながら実際には、これらの反応が同じ程度に起こるとは限らない。上記(3)式の反応が優先的に起こることで、CO選択率が高くなる。
【0038】
上記(3)式の反応では、二酸化炭素(CO2)が炭酸塩種(carbonate species)として触媒表面に吸着し、光照射により反応中間体であるギ酸塩種(formate species)に変化した後に水分子と相互作用して一酸化炭素(CO)になるとの報告がある。またこの報告ではAg助触媒が反応中間体の生成を促進することが示唆されている。したがって金属Ag粒子(助触媒)による電荷分離の作用及び反応中間体生成の作用を高めることで、上記(3)式の反応が優先的に起こり、CO選択率がより一層に改善されると期待される。
【0039】
この点、後述するように、本実施形態の光触媒粒子は超音波還元法により助触媒(Ag粒子)の担持が行われている。そして、拡散反射スペクトルの特定波長域にピークを有し、そのピーク強度比が所定範囲内にある。このような光触媒粒子では、担持したAg粒子が、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察できないほど微細(Åオーダー)なクラスターとなった状態で母材粒子表面に存在していると推定される。また、超音波処理時に発生したホットスポットやラジカルにより特有の電子遷移状態になっていると考えられる。特有の電子遷移状態を有するクラスター状超微細なAg粒子が担持されることで、光触媒粒子のCO2還元サイトが他の手法で担持した場合に比べて多くなり、このことが触媒活性、特にCO生成速度向上につながっているのではないかと考えられる。
【0040】
<<2.光触媒粒子の製造方法>>
本実施形態の光触媒の製造方法は、以下の工程;母材粒子と銀(Ag)供給源とを還元液に加えて反応液を作製する工程(混合工程)、及びこの反応液に超音波を照射して、金属銀(Ag)粒子を担持した母材粒子を作製する工程(超音波処理工程)、を含む。また、母材粒子は、酸化タンタル(Ta2O5)、タンタル酸ナトリウム(NaTaO3)、及びタンタル酸亜鉛(ZnTa2O6)からなる群から選択される1種以上を含む。各工程の詳細について以下に説明する。
【0041】
<混合工程>
混合工程では、母材粒子と銀(Ag)供給源とを還元液に加えて反応液を作製する。母材粒子は市販品をそのまま又は粉砕して用いてもよい。あるいは、合成してもよい。例えば、タンタル酸ナトリウム(NaTaO3)は、炭酸ナトリウム(Na2CO3)及び酸化タンタル(Ta2O5)の混合物を焼成して合成できる。タンタル酸亜鉛(ZnTa2O6)は、酸化亜鉛(ZnO)及び酸化タンタル(Ta2O5)の混合物を焼成して合成できる。合成した母材粒子を粉砕してもよい。
【0042】
粒子の大きさも特に限定されない。例えば粒子の平均粒子径は0.3~5.0μmである。さらに粒子の形状も特に限定されない。例えば球状、不定形状、異方形状(ロッド又は板状等)が挙げられる。粒子がロッド状である場合、例えば長軸径が1.0~5.0μm、短軸径が0.3~1.0μmのものを用いることができる。
【0043】
銀(Ag)供給源は、銀(Ag)を供給できるものである限り限定されない。具体的には、酸化物、無機金属塩及び/又は有機金属化合物が挙げられる。無機金属塩として硝酸塩、塩化物及び/又は硫酸塩などが挙げられる。Ag供給源は還元液に溶解するものであってもよいし、あるいは溶解しないものであってもよい。好適なAg供給源は酸化銀を含む。酸化銀は銀イオンと酸素イオンのみで構成されるため、ハンドリングが容易であり、廃棄物処理等の問題が無い。酸化銀には、銀の酸化数が異なるAg2O、AgO及びAg2O3が知られており、いずれも使用が可能である。しかしながら入手がより容易なAg2Oが好ましい。Ag供給源の大きさも特に限定されない。例えばAg供給源の平均粒子径は0.3~3.0μmである。
【0044】
母材粒子とAg供給源の配合割合は、最終的に得られる光触媒粒子中の助触媒(Ag粒子)担持量が所望の値となるように調整すればよい。助触媒担持量が過度に少ないと助触媒の効果を十分に発揮させることが困難になる。そのためCO2還元に光触媒粒子を用いたときにCOガス発生速度とCO選択率が低くなる。一方で助触媒担持量が過度に多いとCOガス発生速度が低下する。
【0045】
還元液は、還元性を有する液体である限り限定されない。それ自体が還元性を有する液体であってもよく、あるいは還元性を有しない液体に還元剤を溶解させたものであってもよい。しかしながらそれ自体が還元性を有する液体であることが好ましい。また別個の還元剤を含まなくともよい。このような還元液として、毒性が低く入手が容易なエタノールやプロパノールなどのアルコール類が好ましい。またアルコール類と水との混合液も使用可能である。ただし混合液を用いる場合には、水の含有量が過度に多いと十分な還元作用を発揮させることが困難になる。したがって還元液中の水の含有量は、50容積%以下が好ましく、25容積%以下がより好ましい。水の含有量の下限値は特に限定されるものではなく、0容量%であってもよい。
【0046】
<超音波処理工程>
超音波処理工程では、得られた反応液に超音波を照射して、金属Ag粒子を担持した母材粒子を作製する。この際、反応液中のAg供給源の表面部が超音波還元されて、金属Ag粒子となり、これが母材粒子の表面に担持される。金属Ag粒子を担持した母材粒子を光触媒粒子として用いることができる。
【0047】
金属Ag粒子担持のメカニズムを、
図3を用いて説明する。超音波が照射されると反応液中に粗密波が生じ、この粗密波により正負の繰り返し圧力が生じる。負圧サイクル時には蒸発により無数の微細な気泡が反応液中に生じる。正圧サイクル時に、この気泡は圧壊して強力な衝撃力を周囲に与える。この現象を超音波キャビテーションという。キャビテーションにより反応液中の母材粒子とAg供給源とが均一に分散されるとともに、その表面が清浄化される。またキャビテーションにより微小かつ高温且つ高圧のホットスポットが生成する。生成したホットスポットは、Ag供給源を分解還元させるとともに、反応液に作用してラジカルが発生し、このラジカルがAg供給源の分解還元を促進する。このようにしてAg供給源から金属Ag粒子が生成する。
【0048】
例えば固体である酸化銀(Ag2O)をAg供給源に用いた場合には、Ag2Oにホットスポットやラジカルが作用し、Ag2Oが表面で分解及び還元されてAg粒子が析出する。このAg粒子は徐々に成長し、ある程度にまで成長するとAg2OとAg粒子の界面応力が限界になり脱離する。あるいは超音波の作用によりAg2Oから中間生成物が生成し、この中間生成物にホットスポットやラジカルが作用してAg粒子が反応液中に生成する。脱離又は生成したAg粒子は、超音波の物理的な作用により母材粒子表面に移動し、そこに吸着する。このようにしてAg粒子を担持した母材粒子が得られる。超音波還元により生成したAg粒子は微細である。また有機保護剤や高温焼成が不要であるため、Ag粒子を微細な状態で担持した母材粒子(光触媒粒子)の作製が可能である。
【0049】
光触媒粒子がAg粒子以外のAg供給源を含むと、助触媒の効果を十分に発揮させることが困難になることがある。この点、超音波処理によれば、Ag供給源(酸化銀等)を殆ど含まない光触媒粒子を得ることが可能である。例えばX線回折パターンにおいて、酸化銀(Ag2O)のピークが観察されない光触媒粒子を得ることが可能である。
【0050】
超音波処理には特別な装置を用いる必要はなく、通常の超音波発振源を備えた装置を用いればよい。例えば市販の超音波洗浄機を使用してもよい。処理も通常の条件で行えばよい。例えば超音波の周波数は20~100kHzであってよく、28~45kHzであってよい。超音波処理を同一の周波数で継続して行ってもよく、あるいは周波数発振切替モードを用いて処理の途中で周波数を切り替えてもよい。周波数切り替えの回数は1回でもよく、あるいは複数回であってもよい。周波数発振切替モード(例えば28kHz/45kHzの2周波切替発振モード)で処理することで、母材粒子の液中での分散性をより一層に向上させることが可能になる。また超音波の出力は10~500Wであってよく、50~200Wであってよい。さらに処理時間は1~10時間であってよい。処理時間を長くすることで、Ag供給源の全てをAg粒子に変換させて母材粒子に担持させることが可能である。一方で処理時間を短くすることで、助触媒(Ag粒子)の担持量を調整することが可能である。処理時間は2時間以上10時間以下が好ましい。
【0051】
超音波処理により得られた生成物(Ag粒子を担持した母材粒子)は反応液中に分散又は沈殿した状態で存在する。したがって反応液から生成物を回収して、これを乾燥すればよい。回収には、ろ過や遠心分離等の公知の分離手段を用いればよい。また乾燥は、Ag粒子が過度の粒成長を起こさない条件、例えば100℃以下で行えばよい。
【0052】
最終的に得られる光触媒粒子における助触媒(Ag粒子)の担持量は、Ag供給源の配合量や超音波処理条件を制御することで調整できる。金属Ag粒子の担持量は母材粒子に対して0質量%超1.0質量%未満が好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下がより好ましい。
【0053】
<熱処理工程>
必要に応じて、金属Ag粒子を担持した母材粒子に熱処理を施してもよい。超音波担持法で作製したAg担持母材粒子に熱処理を施すと、粒子表面に残留した有機物、例えばエタノール由来の有機物を除去でき、さらにAg粒子の粒径を小さくすることができる。この熱処理の作用により、CO2還元光触媒として利用した際にCOをより選択的に生成させることができる。
【0054】
熱処理は、酸素を含む雰囲気中100℃以上で行うことが好ましい。熱処理に特別な装置を用いる必要はなく、大気中での焼成が可能な一般的な電気炉を用いることができる。100℃未満の温度では、有機物の分解やAg粒子の粒径へ与える影響が小さく、その効果を期待できない。但し、本実施形態の光触媒粒子は熱処理を施したものに限定される訳ではない。熱処理を施さなくても、触媒活性が十分に高い光触媒粒子を得ることができる。
【0055】
このようにして、金属Ag粒子担持母材粒子からなる光触媒粒子を得ることができる。
【0056】
このような製造方法を採用することで、触媒性能、特にCO選択率の点で優れた触媒粒子を簡易に得ることが可能である。その詳細な理由は不明であるが、超音波還元により生成した担持Ag粒子が微細で特有の電子遷移状態を有するためと推測している。すなわち超音波還元処理で生成した銀(Ag)は、その大部分がTEMで観察されないほど超微細(Åオーダー)なクラスターとなっていると考えられる。また超音波処理時に発生した高温且つ高圧のホットスポットやラジカルの作用によって特有の電子遷移状態になっていると考えられる。実際、超音波により生じたホットスポットは5000℃近くの高温であるとの報告があり、このような高温のホットスポットが瞬間的にでも作用することで、電子遷移状態が変化することは容易に予想される。そしてこの微細な粒子サイズと特有の電子遷移状態とが複合的に作用してCO生成速度及びCO選択率といった触媒性能の向上をもたらすと推測している。
【0057】
さらにこのような製造方法によれば、限定されるものではないが、反応液に溶解しない酸化銀などの化合物を固体状態のままAg供給源に用いることが可能である。反応液に溶解しない化合物を用いた場合には、反応液がアニオン等の有害物を含んでおらず、廃液処理が容易である。
【0058】
これに対して、化学還元法、含浸法又は光電析法といった他の手法では、超微細なクラスターの生成は進まない。また、担持の際にホットスポットの生成、及びそれによる電子遷移状態の変化は起こらず、触媒性能を向上させる上で限界があると考えられる。また、含浸法や光電析法では、硝酸銀を溶解させた水溶液などの前駆体溶液を用いる必要がある。このような前駆体溶液に含まれる硝酸イオンなどのアニオンは大気汚染の原因となる有害物質である。したがって含浸法や光電析法では有害物質を無毒化するための廃液処理が必要である。
【0059】
ただし本実施形態の製造方法は、反応液に溶解する化合物を用いることを排除するものではない。そのような場合であっても、金属Ag粒子を高分散且つ高担持率で析出させる効果が得られる。
【実施例0060】
本発明を、以下の実施例及び比較例を用いて更に詳細に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
[実験例A]
実験例A(例A-1~A-3)では、母材粒子として酸化タンタル(Ta2O5)粒子を用い、これに助触媒たるAg粒子を担持させて光触媒粒子を作製した。助触媒担持は、超音波還元法、化学還元法、又は含浸法で行った。また、助触媒(Ag粒子)の母材粒子に対する担持量(Ag濃度)を0.5質量%に固定した。
【0062】
[例A-1]
例A-1では、超音波還元法によりAg粒子の還元生成及び担持を行った。具体的には以下の手順で光触媒粒子を作製した。
【0063】
まず、酸化タンタル(株式会社高純度化学研究所、Ta2O5)粒子と酸化銀(富士フィルム和光純薬株式会社、Ag2O)粒子を準備した。次いで、Ta2O5粒子:1.2gとAg2O粒子:6.5mgを還元液:50mLに添加して反応液を作製した。還元液としてエタノール(富士フィルム和光純薬株式会社)を用いた。
【0064】
得られた反応液を超音波装置(本多電子株式会社、WT-100-M)に入れて超音波処理を施した。超音波処理は、28kHzと45kHzの2周波切替発振とし、出力100Wの条件で行った。また処理時間は3時間とした。この際、反応液の温度を40℃に維持した。この処理により、反応液中のAg2Oを還元して金属Agに変化させた。処理により生成した生成物をろ過した後、エタノール(10mL)を用いて洗浄し、大気中60℃で1時間の条件で乾燥して、金属Ag粒子担持Ta2O5粒子を光触媒粒子として得た。
【0065】
[例A-2]
例A-2では、化学還元法によりAg粒子の還元生成及び担持を行った。具体的には以下の手順で光触媒粒子を作製した。
【0066】
まず、酸化タンタル(株式会社高純度化学研究所、Ta2O5)粒子と0.1M硝酸銀水溶液(富士フィルム和光純薬株式会社、0.1MAgNO3aq)とホスフィン酸ナトリウム一水和物(富士フィルム和光純薬株式会社、NaPH2O2・H2O)を準備した。ホスフィン酸ナトリウム一水和物と超純水を混合し、0.4Mホスフィン酸ナトリウム水溶液を調製した。
【0067】
準備したタンタル酸粒子:0.75gを超純水:50mLに添加し、得られた混合液を、ウォーターバスを用いて80℃に維持した。次いで硝酸銀水溶液(0.1M):0.35mLと還元剤であるホスフィン酸ナトリウム水溶液(0.4M):0.75mLを混合液に加え、80℃で1時間30分攪拌して化学還元反応を引き起こした。化学還元後の溶液をろ過して、生成した粉末を回収した。回収した粉末を室温で乾燥して光触媒粒子を得た。
【0068】
[例A-3]
例A-3では、従来法である含浸法によりAg粒子の還元生成及び担持を行った。具体的には以下の手順で光触媒粒子を作製した。
【0069】
まず、超純水:20mLと酸化タンタル(Ta2O5)粒子:1.2gを混合し、得られた混合液を、ウォーターバスを用いて80℃に維持した。次いで硝酸銀水溶液(0.1M:0.56mLを加え、80℃で1時間攪拌した。次に、加熱した混合液を大気中80℃で3時間乾燥し、得られた乾燥物を450℃で2時間焼成して光触媒粒子を得た。
【0070】
[実験例B]
実験例B(例B-1~B-2)では、母材粒子としてタンタル酸ナトリウム(NaTaO3)粒子を用い、これに助触媒たるAg粒子を担持させて光触媒粒子を作製した。助触媒担持は、超音波還元法又は化学還元法で行った。また、助触媒(Ag粒子)の母材粒子に対する担持量(Ag濃度)を0.5質量%に固定した。
【0071】
[例B-1]
例B-1では、超音波還元法によりAg粒子の還元生成及び担持を行った。具体的には以下の手順で光触媒粒子を作製した。
【0072】
まず、母材粒子たるタンタル酸ナトリウム(NaTaO3)粒子を合成した。具体的には、炭酸ナトリウム(Na2CO3):1.06gおよび酸化タンタル(Ta2O5):4.42gをアルミナ乳鉢に入れて10分間混合した。得られた混合物を大気雰囲気下1150℃で20時間焼成した。焼成により得られた生成物を100メッシュの篩で整粒して、NaTaO3粒子を得た。
【0073】
得られたNaTaO3粒子を母材粒子に用い、超音波還元法によりAg粒子の還元生成及び担持を行った。還元生成及び担持は例A-1と同様の手法で行った。
【0074】
[例B-2]
例B-2では、化学還元法によりAg粒子の還元生成及び担持を行った。NaTaO3粒子の合成は例B-1と同様の手順で行った。また、還元生成及び担持は例A-2と同様の手法で行った。
【0075】
[実験例C]
実験例C(例C-1~C-4)では、母材粒子としてタンタル酸亜鉛(ZnTa2O6)粒子を用い、これに助触媒たるAg粒子を担持させて光触媒粒子を作製した。助触媒担持は、超音波還元法、化学還元法、含浸法、又は光電析法で行った。また、助触媒(Ag粒子)の母材粒子に対する担持量(Ag濃度)を0.5質量%に固定した。
【0076】
[例C-1]
例C-1では、超音波還元法によりAg粒子の還元生成及び担持を行った。具体的には以下の手順で光触媒粒子を作製した。
【0077】
まず、母材粒子たるタンタル酸亜鉛(ZnTa2O6)粒子を合成した。具体的には、酸化亜鉛(ZnO):0.814g、酸化タンタル(Ta2O5):4.42g、及び超純水:5mLをアルミナ乳鉢に入れて10分間混合した。得られた混合物をろ過して固形分を回収した後、回収した固形分を温度80℃で一晩乾燥させ、さらに大気雰囲気下1000℃で50時間焼成した。焼成により得られた生成物を100メッシュの篩で整粒して、ZnTa2O6粒子を得た。
【0078】
得られたZnTa2O6粒子を母材粒子に用い、超音波還元法によりAg粒子の還元生成及び担持を行った。還元生成及び担持は例A-1と同様の手法で行った。
【0079】
[例C-2]
例C-2では、化学還元法によりAg粒子の還元生成及び担持を行った。ZnTa2O6粒子の合成は例C-1と同様の手順で行った。また、還元生成及び担持は例A-2と同様の手法で行った。
【0080】
[例C-3]
例C-3では、含浸法によりAg粒子の還元生成及び担持を行った。ZnTa2O6粒子の合成は例C-1と同様の手順で行った。また、還元生成及び担持は例A-3と同様の手法で行った。
【0081】
[例C-4]
例C-4では、光電析法によりAg粒子の還元生成及び担持を行った。ZnTa2O6粒子の合成は例C-1と同様の手順で行った。また、従来法である光電析法(光電着法)により銀ナノ粒子を還元生成させて光触媒粒子を作製した。具体的には以下の手順で光触媒粒子を作製した。
【0082】
まず、超純水:1Lとタンタル酸亜鉛:1.2gと硝酸銀水溶液(0.1M):0.56mLを混合し、得られた混合溶液にアルゴン(Ar)ガスを吹き込んでガス置換した。次にアルゴンガスを30mL/分の流量で吹き込みながら、400W高圧HgランプでUV光を3時間照射して銀(Ag)イオンを還元させた。光照射後の溶液をろ過し、粉末を回収した。回収した粉末を室温で乾燥して光触媒粒子を得た。タンタル酸亜鉛に対する銀濃度は0.5質量%であった。
【0083】
[実験例D]
実験例D(例D-1~D-7)では、母材粒子としてタンタル酸亜鉛(ZnTa2O6)粒子を用い、これに助触媒たるAg粒子を担持させて光触媒粒子を作製した。Ag粒子の担持は超音波還元法で行った。また、助触媒(Ag粒子)の母材粒子に対する担持量(Ag濃度)を0~5.0質量%に変化させた。
【0084】
[例D-1]
例D-1では、Ag粒子の担持量を0.1質量%に変えた。それ以外は例C-1と同様にして光触媒粒子を作製した。
【0085】
[例D-2]
例D-2では、Ag粒子の担持量を0.25質量%に変えた。それ以外は例D-1と同様にして光触媒粒子を作製した。
【0086】
[例D-3]
例D-3では、Ag粒子の担持量を0.5質量%に変えた。それ以外は例D-1と同様にして光触媒粒子を作製した。
【0087】
[例D-4]
例D-4では、Ag粒子の担持量を1.0質量%に変えた。それ以外は例D-1と同様にして光触媒粒子を作製した。
【0088】
[例D-5]
例D-5では、Ag粒子の担持量を3.0質量%に変えた。それ以外は例D-1と同様にして光触媒粒子を作製した。
【0089】
[例D-6]
例D-6では、Ag粒子の担持量を5.0質量%に変えた。それ以外は例D-1と同様にして光触媒粒子を作製した。
【0090】
[例D-7]
例D-7では、Ag粒子の担持量を0質量%に変えた。つまり、Ag粒子の担持を行わなかった。それ以外は例D-1と同様にして光触媒粒子を作製した。
【0091】
(2)光触媒粒子の評価
例A-1~D-7で得られた光触媒粒子サンプルについて、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0092】
<X線吸収分光法>
大型放射光施設SPring-8内のビームラインBL14B02にて透過法及び蛍光法を用いてAg-K殻吸収端におけるスペクトルの測定を行った。
【0093】
<STEM観察>
サンプルを、走査透過型電子顕微鏡(STEM;株式会社日立ハイテクノロジーズ,HD2700)を用いて観察した、観察は、透過電子像で加速電圧200kVの条件で行った。また、母材粒子に担持されたAg粒子の平均粒子径を次のようにして求めた。すなわち、STEM像から100点以上の粒子径を測定し、その平均値を平均粒子径とした。
【0094】
<原子分解能TEM>
原子分解能レベルでの透過型電子顕微鏡観察を、球面収差補正透過電子顕微鏡(日本電子株式会社,JEM-2200FS)を用いて行った。具体的には、加速電圧200kVの条件で観察を行って、透過電子像を得た。
【0095】
<拡散反射スペクトル>
固体状態での拡散反射スペクトルは、紫外可視近赤外分光光度計(JASCO,V-650)を用いて測定した。測定は、バンド幅:1.0nm、測定範囲:800~200nm、データ取込間隔:0.1nm、走査速度:200nm分-1の条件で行った。
【0096】
<CO
2還元光触媒性能>
サンプルのCO
2還元光触媒性能を
図1に示す評価装置を用いて評価した。まず超純水(1L)、NaHCO
3(0.1M)及び光触媒粒子(0.5g)を混合して評価用溶液を作製した。次にこの評価用溶液を評価装置の槽に入れ、二酸化炭素(CO
2)ガスを30mL/分の流量で吹き込みながら、400W高圧HgランプでUV光を照射した。1時間照射後に発生したガスをガスクロマトグラフィー(島津製作所、GC-8A)を用いて分析して、H
2、O
2及びCO発生速度を求めた。そして下記(1)式に基づきCO選択率を算出した。
【0097】
【0098】
(3)評価結果
<X線吸収分光法>
母材粒子としてタンタル酸亜鉛(ZnTa
2O
6)粒子を含む実験例Cのサンプル(例C-1~C-4)について、Ag-K殻吸収端におけるスペクトルを
図4に示す。また、
図4には、銀箔(Ag foil)、酸化銀(AgO、Ag
2O)及び硝酸銀(AgNO
3)のスペクトルを併せて示す。
【0099】
例C-1~C-4のサンプルは、いずれも吸収端におけるスペクトル形状が、銀箔(Ag foil)のスペクトル形状と一致していた。これから、担持された助触媒は金属銀(Ag)粒子であることが分かった。
【0100】
<STEM観察>
実験例Cのサンプル(例C-1~C-4)のTEM像を
図5A~5Dのそれぞれに示す。化学還元(CR)法、含浸(IMP)法又は光電析(PD)法で担持を行ったサンプル(例C-2~C-4)では、粒径13.2~40.1nmの多数のAg粒子が母材粒子表面に観察された(
図5B~5D)。これに対して、超音波還元(USR)法で担持を行ったサンプル(例C-1)では、粒径14.3nmのAg粒子が観察されるものの、その数は少なかった(
図5A)。
【0101】
例C-1~C-4の助触媒(Ag粒子)担持量は同一(0.5質量%)である。超音波還元法で担持を行ったサンプル(例C-1)では、Ag粒子の数が少なかった。担持されたAg粒子の大部分がTEM観察では確認できないほど超微細(Åオーダー)なクラスターになり、そのため少数の粒子しか観察されなかったのではないかと考えられる。
【0102】
<拡散反射スペクトル>
助触媒(Ag粒子)担持量を0.5質量%に固定した実験例A~Cのサンプルの拡散反射スペクトルを
図6~8のそれぞれに示す。なお、ここで示す拡散反射スペクトルは、波長200nm以上300nm以下の波長域に存在するピーク(ピークA)の強度を基準にして規格化したものである。また、
図6~8には、助触媒(Ag粒子)を担持させないサンプルのスペクトルも併せて示す。
【0103】
母材粒子として酸化タンタル(Ta
2O
5)を含む実験例Aのサンプルは、いずれも200~300nmの波長域に大きなピーク(ピークA)が見られた(
図6)。また、助触媒(Ag)を担持したサンプルは300~600nmの波長域にピーク(ピークB)が見られるものの、助触媒を担持しないサンプルでは顕著なピークは見られなかった。このことから、波長300~600nmのピークBは、担持したAg粒子に依るものと考えられる。
【0104】
化学還元法又は含浸法で担持を行ったサンプル(例A-2及びA-3)は300~600nmの波長域のピークBは比較的大きいものの、超音波還元法で担持を行ったサンプル(例A-1)のピークBは比較的小さかった。具体的には、例A-1のサンプルでは480nm以上530nm以下の波長域にピークBが存在し、そのピーク強度は例A-2及び例A-3のピーク強度(波長域300~600nm)より小さかった。
【0105】
母材粒子としてタンタル酸ナトリウム(NaTaO
3)を含む実験例Bのサンプルも、実験例Aの同様の結果が得られた(
図7)。すなわち、助触媒(Ag)を担持したサンプル(例B-1及びB-2)は300~600nmの波長域にピークBが見られるものの、助触媒を担持しないサンプルでは顕著なピークは見られなかった。また、超音波還元法で担持を行ったサンプル(例B-1)では、480nm以上530nm以下の波長域にピークBが見られ、そのピーク強度は超音波還元法以外の手法で担持を行ったサンプル(例B-2)のピーク強度(波長域300~600nm)より小さかった。
【0106】
母材粒子としてタンタル酸亜鉛(ZnTa
2O
6)を含む実験例Cのサンプルも、実験例Aの同様の結果が得られた(
図7)。すなわち、助触媒(Ag)を担持したサンプル(例C-1~C-4)は300~600nmの波長域にピークが見られるものの、助触媒を担持しないサンプルでは顕著なピークは見られなかった。また、超音波還元法で担持を行ったサンプル(例C-1)では、480nm以上530nm以下の波長域にピーク(ピークB)が見られ、そのピーク強度は超音波還元法以外の手法で担持を行ったサンプル(例C-2~C-4)のピーク強度(波長域300~600nm)より小さかった。
【0107】
STEM観察の結果と併せて検討するに、母材粒子の種類によらず、拡散反射率スペクトルにおける300~600nmの波長域に観測されるピークBは、母材粒子の表面に担持されたAg粒子に基づくピークと言うことができる。超音波還元法以外の手法(化学還元法、含浸法、光電析法)で担持を行った場合には、担持されたAg粒子の粒径が比較的大きく、それによりピークBの強度が比較的大きくなったと考えられる。これに対して、超音波還元法で担持を行った場合には、担持されたAg粒子の大部分が、超微細なクラスターとして存在し、その結果、ピークBの強度が小さくなったのではないかと考えられる。
【0108】
助触媒(Ag粒子)の担持量を0~5.0質量%に変化させた実験例Dのサンプル(例D-1~D-7)の拡散反射スペクトルを
図9及び10に示す。助触媒(Ag)を担持していないサンプル(例D-7)を除いて、いずれのサンプルも200nm以上300nm以下の波長域及び480nm以上530nm以下の波長域でピークA及びBを示した。また、助触媒担持量が多いほどピークBの強度が大きくなった。
【0109】
<CO
2還元光触媒性能>
助触媒(Ag)担持量を0.5質量%に固定した実験例A~Cのサンプルについて得られたCO
2還元光触媒性能(ガス発生速度及びCO選択率)を下記表1及び
図11~13に示す。なお、下記表1には、拡散反射スペクトルにおけるピークA及びピークBのピーク波長及び強度比(I
B/I
A)を併せて示す。
【0110】
母材粒子として酸化タンタル(Ta2O5)を含む実験例Aのサンプルでは、超音波還元法で担持を行った場合(例A-1)は、拡散反射スペクトルのピーク強度比(IB/IA)が50%以下であった。また、80%以上のCO選択率を維持しながら、他の手法(化学還元法、含浸法)で担持を行った場合(例A-2、例A-3)に比べて、COガス生成速度が大きかった。
【0111】
母材粒子としてタンタル酸ナトリウム(NaTaO3)を含む実験例Bのサンプルでも、実験例Aと同様の結果が得られた。すなわち、超音波還元法で担持を行った場合(例B-1)は、拡散反射スペクトルのピーク強度比(IB/IA)が50%以下であった。また、80%以上のCO選択率を維持しながら、他の手法(化学還元法)で担持を行った場合(例B-2)に比べて、COガス生成速度が大きかった。
【0112】
母材粒子としてタンタル酸亜鉛(ZnTa2O6)を含む実験例Cのサンプルでも、実験例Aと同様の結果が得られた。すなわち、超音波還元法で担持を行った場合(例C-1)は、拡散反射スペクトルのピーク強度比(IB/IA)が50%以下であった。また、80%以上のCO選択率を維持しながら、他の手法(化学還元法、含浸法、光電析法)で担持を行った場合(例C-2~C-4)に比べて、COガス生成速度が大きかった。
【0113】
超音波還元法で担持を行うことで、担持されたAg粒子の大部分が超微細なクラスターとなり、超微細クラスター状のAg粒子が助触媒として機能することで、触媒活性が向上したのではないかと考えられる。
【0114】
【0115】
助触媒(Ag粒子)の担持量を0~5質量%に変化させた実験例Dのサンプルについて得られたCO
2還元光触媒性能(ガス発生速度及びCO選択率)を下記表2及び
図14に示す。
【0116】
助触媒担持量が0質量%超1.0質量%未満のサンプル(例D-1~D3)では、拡散反射スペクトルのピーク強度比(IB/IA)が50%以下であった。また、80%以上のCO選択率を維持しながら、COガス生成速度が40%以上と大きかった。
【0117】
これに対して、助触媒(Ag)を担持していないサンプル(例D-7)は、CO選択率及びCOガス生成速度のいずれも小さかった。また、助触媒担持量が3.0質量%以上のサンプル(例D-5~D-6)では、COガス生成速度が小さくなった。
【0118】
これから、助触媒担持量を0質量%超1.0質量%未満に限定することで、触媒活性に優れた光触媒粒子を得られることが分かる。
【0119】
以上の結果から、本実施形態によれば、CO選択率を高いレベルに維持しながら大きいCOガス生成速度を示す二酸化炭素還元光触媒粒子及びその製造方法が提供されることが理解される。
【0120】
【0121】
例D-3について、原子分解能TEM像観察した。結果を
図15に示す。粒径1~5nmのAgナノ粒子が観察された。
【0122】
図15で観察されたAgナノ粒子の面間隔を算出すると0.238nmであった。Ag結晶が面心立方格子であると仮定して、Ag(111)面の面間隔を格子定数の文献値(0.409nm)から計算すると0.236nmとなる。従ってTEM像から算出された面間隔は文献値から計算された値とよく一致している。