(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022987
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】土壌還元消毒材および土壌還元消毒方法
(51)【国際特許分類】
A01N 63/32 20200101AFI20250206BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20250206BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20250206BHJP
A01N 63/00 20200101ALN20250206BHJP
【FI】
A01N63/32
A01P3/00
A01N25/00 102
A01N25/00 101
A01N63/00
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024205397
(22)【出願日】2024-11-26
(62)【分割の表示】P 2020186998の分割
【原出願日】2020-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(72)【発明者】
【氏名】稲見 智典
(57)【要約】
【課題】取扱いに注意が必要で安全性などの点で問題がある化学農薬や土壌殺菌剤を使用する必要がなく、土壌加熱用の設備も不要で、しかも土壌環境に左右されることがなく、簡便性、汎用性、作業性に優れ、低コストで土壌を消毒することができる土壌還元消毒材およびこれを使用する土壌還元消毒方法を提供すること。
【解決手段】パン酵母の培養廃液を含む土壌還元消毒材であって、前記パン酵母の培養廃液における全固形分の量が40~55質量%、全糖の量が3~10質量%である土壌還元消毒材および前記土壌還元消毒材を土壌に加えて発酵させ、還元状態にすることにより土壌を消毒することを含む土壌還元消毒方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パン酵母の培養廃液を含む土壌還元消毒材であって、
前記パン酵母の培養廃液における全固形分の量が40~55質量%、全糖の量が3~10質量%であることを特徴とする土壌還元消毒材。
【請求項2】
前記パン酵母の培養廃液における全有機体炭素(TOC)が、5~30万mg/Lである請求項1に記載の土壌還元消毒材。
【請求項3】
前記パン酵母の培養廃液の25℃における粘度が、1~100c.P.である請求項1又は2に記載の土壌還元消毒材。
【請求項4】
前記パン酵母の培養廃液における生物化学的酸素要求量(BOD)が、10~50万mg/Lである請求項1~3のいずれか1項に記載の土壌還元消毒材。
【請求項5】
前記パン酵母の培養廃液における窒素全量が0.5~2質量%である請求項1~4のいずれか1項に記載の土壌還元消毒材。
【請求項6】
前記パン酵母の培養廃液が、培養液として廃糖蜜を用いたものである請求項1~5のいずれか1項に記載の土壌還元消毒材。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の土壌還元消毒材を土壌に加えて発酵させ、還元状態にすることにより土壌を消毒することを含むことを特徴とする土壌還元消毒方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン酵母の培養廃液を用いた土壌還元消毒材および前記土壌還元消毒材を使用する土壌還元消毒方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圃場や施設において、単一の作物の栽培を繰り返すと、土壌中の病原菌が増加し、生育が悪くなり枯れてしまう連作障害が生じることが知られている。この連作障害により、例えば、土壌由来微生物による青枯病、トマト萎凋病、トマト根腐萎凋病、灰色かび病などが発生し、多大な農業損失が生じるという問題がある。
【0003】
前記連作障害に対しては、クロルピクリン等の化学農薬や土壌殺菌剤を使用して、土壌殺菌を行うことが一般的に行われている。しかしながら、例えば、クロルピクリンはその催涙性、刺激性から取扱いに注意が必要であり、不適切な取扱いをすると、刺激臭の被害が発生するという問題がある。
【0004】
そこで、土壌を十分な水分と有機物がある状態におき、土壌中の微生物の活動を活発にすることによって土壌を嫌気的条件とし、病原菌を死滅させる土壌還元消毒法が提案されている。
【0005】
前記土壌還元消毒法として、例えば、土壌に未分解有機物を投入し、灌水して、土壌表面を被覆した状態で土壌に温湯を供給する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、前記提案では、土壌に温湯を供給するためのパイプなどを設置する必要があり、設備費が高くつくという問題や、パイプ等を設置した部分の土壌しか消毒できず、広面積の土壌や任意の場所の土壌の消毒をすることができないという問題がある。
【0006】
また、前記土壌還元消毒法において、小麦フスマおよび/または末粉から主としてなる造粒物を用いる方法(例えば、特許文献2参照)、糖蜜水溶液を用いる方法(例えば、特許文献3参照)、低濃度エタノールを用いる方法(例えば、特許文献4参照)などが提案されている。
しかしながら、小麦フスマは粉体のため土壌の表層部だけに効果が表れ、作土層全体や下層土に効果を出すことは難しく、上記したように造粒物とする必要があり、その手間がかかってしまう。糖蜜を利用する方法は、糖蜜の高い粘性のため、圃場周辺での希釈が難しく、均一に使用することができないという問題がある。また、蟻等の昆虫を誘引する恐れもある。低濃度エタノール水溶液はエタノールの含有量が60容量%未満であり消防法危険物ではないものの、施設内では可燃性や臭いの点で問題がある。
【0007】
したがって、取扱いに注意が必要で安全性などの点で問題がある化学農薬や土壌殺菌剤を使用する必要がなく、土壌加熱用の設備も不要で、しかも土壌環境に左右されることがなく、簡便性、汎用性、作業性に優れ、低コストで土壌を消毒することができる技術の速やかな提供が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003-265050号公報
【特許文献2】特開2006-61003号公報
【特許文献3】特開2004-323395号公報
【特許文献4】国際公開第2007/129467号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような要望に応え、現状を打破し、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、取扱いに注意が必要で安全性などの点で問題がある化学農薬や土壌殺菌剤を使用する必要がなく、土壌加熱用の設備も不要で、しかも土壌環境に左右されることがなく、簡便性、汎用性、作業性に優れ、低コストで土壌を消毒することができる土壌還元消毒材およびこれを使用する土壌還元消毒方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、パン酵母の培養廃液が土壌還元消毒材として優れた作用を奏することを知見し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> パン酵母の培養廃液を含む土壌還元消毒材であって、
前記パン酵母の培養廃液における全固形分の量が40~55質量%、全糖の量が3~10質量%であることを特徴とする土壌還元消毒材である。
<2> 前記パン酵母の培養廃液における全有機体炭素(TOC)が、5~30万mg/Lである前記<1>に記載の土壌還元消毒材である。
<3> 前記パン酵母の培養廃液の25℃における粘度が、1~100c.P.である前記<1>又は<2>に記載の土壌還元消毒材である。
<4> 前記パン酵母の培養廃液における生物化学的酸素要求量(BOD)が、10~50万mg/Lである前記<1>~<3>のいずれか1項に記載の土壌還元消毒材である。
<5> 前記パン酵母の培養廃液における窒素全量が0.5~2質量%である前記<1>~<4>のいずれか1項に記載の土壌還元消毒材である。
<6> 前記パン酵母の培養廃液が、培養液として廃糖蜜を用いたものである前記<1>~<5>のいずれか1項に記載の土壌還元消毒材である。
<7> 前記<1>~<6>のいずれか1項に記載の土壌還元消毒材を土壌に加えて発酵させ、還元状態にすることにより土壌を消毒することを含むことを特徴とする土壌還元消毒方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、取扱いに注意が必要で安全性などの点で問題がある化学農薬や土壌殺菌剤を使用する必要がなく、土壌加熱用の設備も不要で、しかも土壌環境に左右されることがなく、簡便性、汎用性、作業性に優れ、低コストで土壌を消毒することができる土壌還元消毒材およびこれを使用する土壌還元消毒方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】
図2は、試験例1の温度測定の結果を示す図である。
【
図3】
図3は、試験例1の酸化還元電位測定の結果を示す図である。
【
図4】
図4は、試験例2の本発明区の酸化還元電位測定の結果(理論値)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(土壌還元消毒材)
本発明の土壌還元消毒材は、パン酵母の培養廃液を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0015】
<パン酵母の培養廃液>
前記パン酵母の培養廃液(以下、「培養廃液」と称することがある。)は、パン酵母を培養した培養物からパン酵母を取り除いた後の廃液であり、外観は黒褐色の液体である。前記培養廃液は、水に易溶する。
【0016】
前記培養廃液の物性(全固形分、粘度)は、下記のとおりである。
-全固形分-
前記培養廃液における全固形分の量としては、40~55質量%であれば、特に制限はなく、適宜選択することができる。
前記培養廃液における全固形分の測定方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、遠心分離法、加熱乾燥法などにより測定することができる。加熱乾燥法としては、100~120℃のオーブンで24時間乾燥した後に、固形分を秤量する方法が例示される。
【0017】
-粘度-
前記培養廃液の25℃における粘度としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、1~100c.P.(センチポアズ)が好ましく、5~30c.P.がより好ましい。前記培養廃液は液状のため容易に希釈、散布が可能である。
前記培養廃液の粘度の測定方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、25℃の条件で、B型粘度計を用いて測定することができる。
【0018】
前記培養廃液のその他の物性としては、例えば、pHは4~5.5程度であり、比重は0.5~3程度である。前記pHおよび比重は、公知の方法により測定することができる。
【0019】
前記培養廃液に含まれる成分の量(全糖、窒素全量)は、下記のとおりである。
【0020】
-全糖-
前記培養廃液における全糖の量としては、3~10質量%であれば、特に制限はなく、適宜選択することができる。
前記全糖の測定方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、フェノール-硫酸法、HPLC等を利用する液体クロマトグラフィーなどにより測定することができる。
【0021】
-窒素全量-
前記培養廃液における窒素全量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、0.5~2質量%が好ましい。前記培養廃液に窒素分が含まれることにより、土壌消毒時に窒素分を供給することができる。
前記窒素全量の測定方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、ケルダール法(肥料等試験法(2017)-独立行政法人農林水産消費安全技術センター)、硫酸法(肥料分析法(農林水産省農業環境技術研究所法(1992年版))、総和法、紫外線吸光光度法、硫酸ヒドラジニウム還元法銅、カドミウムカラム還元法(いずれも総量規制の工場排水試験法;JIS K 0102)などにより測定することができる。
【0022】
前記培養廃液に含まれるその他の成分の量の範囲としては、例えば、下記のものなどが挙げられる。
・ リン全量 ・・・ 0.03~0.08質量%
・ 灰分 ・・・ 9~13質量%
・ 粗脂肪 ・・・ 0~2質量%
・ カリウム ・・・ 1~5質量%
・ カルシウム ・・・ 0.7~2.3質量%
・ 珪酸(SiO2) ・・・ 0.2~0.3質量%
・ マグネシウム ・・・ 0.2~0.5質量%
・ ナトリウム ・・・ 0.17~0.36質量%
・ 塩素 ・・・ 1.5~3.0質量%
・ 硫黄 ・・・ 0.39質量%
・ 硝酸根 ・・・ 0.57質量%
【0023】
-全有機体炭素-
前記培養廃液の全有機体炭素(以下、「TOC」と称することがある。)としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、5~30万mg/Lが好ましい。
前記TOCの測定方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、燃焼酸化方式全有機体炭素計、TOC計(全有機体炭素計)などにより測定することができる。
【0024】
-生物化学的酸素要求量-
前記培養廃液における生物化学的酸素要求量(以下、「BOD」と称することがある。)としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、10~50万mg/Lが好ましい。前記培養廃液は、上記したBODを有するため、土壌中の嫌気性微生物(クロストリジウム属)の栄養分となり、嫌気性微生物が増殖し、還元状態を作り上げる。なお、病害を引き起こす微生物は好気性微生物であるため、土壌中に生息することができなくなり死滅する。
前記BODの測定方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、工場排水試験方法(JIS K0102)の他に、濃度法、圧力法などにより測定することができる。
【0025】
前記培養廃液の調製方法としては、特に制限はなく、公知の方法で培養したパン酵母の培養物からパン酵母を取り除くことにより調製することができる。例えば、培養液として廃糖蜜を用いてパン酵母を培養し、得られた培養物を遠心分離してパン酵母を取り除くことで、培養廃液を得ることができる。
【0026】
前記廃糖蜜とは、砂糖を精製するときに発生する、糖分以外の成分も含んだ粘状で黒褐色の液体である。前記廃糖蜜の調製方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
【0027】
前記パン酵母は、サッカロミセス・セレビシエ(saccharomyces cerevisiae)である。前記パン酵母の株としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0028】
前記パン酵母の培養の条件としては、特に制限はなく、通常パン酵母の培養に用いられる温度や時間等の条件を適宜選択することができる。
【0029】
前記培養廃液は、濃縮することが好ましい。前記濃縮の方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。前記濃縮の程度としては、特に制限はなく、全固形分や全糖の量などを考慮して適宜選択することができる。
【0030】
前記培養廃液の土壌還元消毒材における含有量としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。前記土壌還元消毒材は、前記培養廃液のみからなるものであってもよい。
【0031】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができる。
前記その他の成分の土壌還元消毒材における含有量としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0032】
<施用>
前記土壌還元消毒材の施用量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、土壌1m2あたり0.1~10Lが好ましく、0.5~5Lがより好ましい。前記好ましい範囲内であると、処理に要するコストを抑えながら土壌をより速やかにかつ効率よく還元状態にすることができる点で、有利である。
【0033】
また、前記土壌還元消毒材の施用量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、土壌1m2あたりの炭素量として、15~1,500gが好ましく、75~700gが好ましい。土壌をより速やかに還元状態にすることができる点で、有利である。
【0034】
本発明の土壌還元消毒材は、微生物資材、鉱物(バーミキュライト、パーライト、ゼオライト、ケイソウ土など)、土壌改良材、普通肥料、特殊肥料などと共に使用することもできる。これらは、土壌還元消毒材に配合してもよいし、別途土壌に加えてもよい。
【0035】
(土壌還元消毒方法)
本発明の土壌還元消毒方法は、上記した本発明の土壌還元消毒材を用いて土壌を消毒する土壌消毒工程を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0036】
<土壌消毒工程>
前記土壌消毒工程は、上記した本発明の土壌還元消毒材を土壌に加えて発酵させ、還元状態にすることにより土壌を消毒する工程である。
【0037】
前記土壌消毒工程では、土壌に前記土壌還元消毒材を添加し、次いで、水を加え、一定水位まで灌水させる。そして、土壌の表面をシートなどで覆い、嫌気的な発酵をすることにより、土壌が還元状態になり、消毒することができる。
【0038】
対象とする土壌の種類としては、消毒が必要な土壌であれば、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、植物や作物(果菜類、葉菜類、根菜類などの野菜、花卉、果樹等)を育てるための土壌が挙げられる。
また、前記土壌は、通常の黒土、赤土、砂質土壌、粘土質土壌、それらの混合物からなる土壌のいずれであってもよく、またpHでいうと、酸性土壌、中性土壌、アルカリ性土壌のいずれであってもよい。
【0039】
本発明が対象とする消毒対象としては、還元土壌消毒により防除されるものであれば、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、センチュウ、植物病原菌、昆虫の幼虫、昆虫の成虫、植物ウイルスなどが挙げられる。
【0040】
前記土壌還元消毒材の添加量としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、上記した土壌還元消毒材の<施用>の項目に記載したものと同様とすることができる。
【0041】
前記水の種類としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、農業用水、井戸水、水道水、雨水、河川の水、湖沼の水などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
前記灌水の程度としては、嫌気的条件にすることができる限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、土壌の表面が水で覆われる程度とすることができる。
【0043】
前記被覆に用いる手段としては、嫌気的条件にすることができる限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、農業用ビニールマルチシートなどが挙げられる。
前記被覆の程度としては、嫌気的条件にすることができる限り、特に制限はなく、適宜選択することができるが、土壌の表面全体を覆うことが好ましい。
【0044】
前記土壌消毒の期間(以下、「培養期間」と称することもある。)としては、特に制限はなく、地温の上昇の程度、消毒の程度などに応じて適宜選択することができ、例えば、1~4週間程度などが挙げられる。
【0045】
前記土壌消毒における土壌の温度や明暗時間などの条件としては、特に制限はなく、公知の条件を適宜選択することができる。
【0046】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0047】
本発明の土壌還元消毒方法は、畑などの土壌がもともとある場所(現場)で行ってもよいし、予め用意しておいた採取土壌や調整土壌などの現場以外の土壌に対して行うこともできる。
【0048】
本発明の土壌還元消毒材および土壌還元消毒方法によれば、表層、下層に関わらず、作土層全体で還元消毒の効果が得られる。また、パン酵母の培養廃液を有効成分とするものであり、人体にかかっても安全であり、また、誤飲時も安心である。そして、火気や不快な臭いの心配もなく、ハンドリングが容易である。
また、パン酵母の培養廃液はイーストの製造工程で発生するバイプロセス品であるが、本発明により、有効利用することができる。
【実施例0049】
以下、製造例および試験例を示して本発明を説明するが、本発明は、これらの製造例および試験例に何ら限定されるものではない。
【0050】
(製造例1:土壌還元消毒材の製造)
オリエンタル酵母工業株式会社東京工場において、オリエンタルイースト(レギュラー)の製造(培養液として下記廃糖蜜を使用)で発生した培養廃液をパン酵母の培養廃液とした。
<廃糖蜜 概略値>
pH ・・・ 5.0
比重 ・・・ 1.390
単糖類 ・・・ 47質量%
ぶどう糖 ・・・ 9.0質量%
果糖 ・・・ 11.0質量%
ショ糖 ・・・ 27.0質量%
リン ・・・ 25.0mg/100g
窒素 ・・・ 50~100mg/100g
【0051】
蒸発濃縮装置(VVCC+RHCF(FTC)、ササクラ社製)を用い、前記パン酵母の培養廃液の濃縮液を得、土壌還元消毒材とした。
【0052】
得られた土壌還元消毒材は、外観は黒褐色の液体であり、水に易溶するものであった。また、その物性等を下記に示す。
<物性>
・ pH ・・・ 4.83
・ 粘度 ・・・ 13c.P.(25℃における粘度。B型粘度計を用いて測定)
・ 比重 ・・・ 1.19
・ 全固形分 ・・・ 41.8質量%
【0053】
<分析値>
・ 窒素全量 ・・・ 1.2質量%
・ リン全量 ・・・ 0.05質量%
・ 灰分 ・・・ 11質量%
・ 粗脂肪 ・・・ 1質量%
・ 全糖 ・・・ 6質量%(加水分解後に測定)
・ カリウム ・・・ 3質量%
・ カルシウム ・・・ 1.5質量%
・ 珪酸(SiO2) ・・・ 0.2質量%
・ マグネシウム ・・・ 0.3質量%
・ ナトリウム ・・・ 0.26質量%
・ 塩素 ・・・ 2.2質量%
・ 硫黄 ・・・ 0.39質量%(硫酸バリウム法で測定)
・ 硝酸根 ・・・ 0.57質量%(イオンクロマト法で測定)
【0054】
また、得られた土壌還元消毒材の生物化学的酸素要求量(BOD)は25万mg/L、全有機体炭素(TOC)は15万mg/Lであった。
【0055】
(試験例1:還元確認試験)
下記の試験方法にて、本発明の一例である製造例1で製造した土壌還元消毒材を土壌に施用した後に土壌が還元状態へ推移するかを確認した。
【0056】
<試験方法>
試験方法は、下記のとおりとした。また、試験の概要を
図1A~
図1Cに示した。
・ 供試土壌 : 筑西市に分布する黒ボク土で5mmメッシュを通過したもの。1ポットあたり500g。
・ 培養容器 : ノウバウエルポット。処理区の反復は3連とした。
・ 被覆 : 農業用ビニールマルチシート。酸素供給を断つために土壌表面を被覆した。
・ 温度 : 30℃(定温)(インキュベーター内で培養)
・ 明暗時間(明/暗) : 0時間/24時間
・ 培養期間 : 14日間
・ 酸化還元電位測定頻度 : 試験開始時、試験開始後2日目、4日目、6日目、8日目、11日目、14日目に測定。
・ 酸化還元電位測定法 : 白金電極法
・ 温度上昇効果測定 : 試験開始時、試験開始後2日目、4日目、6日目、8日目、14日目に測定。温度上昇効果測定は、室温培養するポットを作製し、充填した土壌の温度を計測した。
【0057】
-資材施用量および処理区の設定-
・ 試験区1:製造例1の土壌還元消毒材(少)
施用量は、10mL/100cm2(低濃度エタノール消毒の約20%の炭素量を添加)。添加後、一定水位まで灌水(土壌の表面が水で覆われる程度。以下同様)。
・ 試験区2:製造例1の土壌還元消毒材(中)
施用量は、25mL/100cm2(低濃度エタノール消毒の約50%の炭素量を添加)。添加後、一定水位まで灌水。
・ 試験区3:製造例1の土壌還元消毒材(多)
施用量は、50mL/100cm2(低濃度エタノール消毒と同等の炭素量(780g-C/m2相当)を添加)。添加後、一定水位まで灌水。
・ 試験区4:低濃度エタノール(陽性対照)
施用量は、15mL/100cm2(99.5%エタノールを使用。低濃度エタノール消毒で用いられる正味のエタノール量を施用)。添加後、一定水位まで灌水。
・ 試験区5:対照(1)
無施用。灌水なし。
・ 試験区6:対照(2)
無施用。灌水あり。
【0058】
<結果>
-温度-
温度測定の結果を
図2に示す。いずれに処理区でも同一の測定日内では温度に差はみられなかった。
【0059】
-酸化還元電位-
酸化還元電位(以下、「Eh」と称することがある。)測定の結果(3連の平均値)を
図3に示す。なお、対照(1)(灌水なし)は、いずれの測定においてもEhの数値が高かった(1,999mVより大きい)ため、図には記載しなかった。
製造例1の土壌還元消毒材を用いた処理区では、いずれの処理区でも試験開始から2日目に急激にEhが低下した。また、製造例1の土壌還元消毒材を用いた処理区では、いずれの処理区でも対照区および低濃度エタノール区よりも少ない日数でEhがマイナスに推移した。
したがって、本発明の土壌還元消毒材を用いることで、優れた土壌の還元効果が得られることが認められた。
【0060】
(試験例2:土壌還元消毒試験)
本発明の一例である製造例1で製造した土壌還元消毒材を用い、下記の試験方法にて、土壌還元消毒試験を行った。
【0061】
<試験方法>
1)実施場所
試験地:埼玉県深谷市
土壌:褐色低地土(新戒統)
2)試験規模
施設(ハウス)、22アール(a)
3)供試作物
ミニトマト
4)試験区
・ 米ぬか施用土壌還元消毒(以下、「対照区」と称することがある。)
米ぬかの施用量は、150kg/10a。
・ 製造例1で製造した土壌還元消毒材施用土壌還元消毒(以下、「本発明区」と称することがある。)
製造例1で製造した土壌還元消毒材の施用量は、1,000L/11a。
5)処理方法
・ 本発明区
均平に整地した土壌表面に灌水チューブ(エバーフローTM40径)を作付け畝間の1m間隔に敷設した。製造例1で製造した土壌還元消毒材1,000Lを井戸水(灌漑水)で希釈して、灌水状態になるまで13,800L/10aの希釈濃縮液を11a全面に施用した。灌水終了4日後に地表面を透明ビニールで覆い、ハウスを密閉した。
・ 対照区
米ぬか150kg/10aと土壌処理発酵剤(S剤)30kg/10aを全層に施用し、地下水で本発明区とほぼ同量を灌水した。灌水終了4日後に地表面を透明ビニールで覆い、ハウスを密閉した。
6)土壌還元消毒の期間
25日間
【0062】
<結果>
-気温・土壌温度-
試験開始から4日後(地表面を透明ビニールで覆った日)、8日後、14日後、21日後および25日後のハウス内気温(地表面上20cm)と地温(表層:地表面から5~10cm、下層:地表面から20~25cm)を測定した。結果を表1に示す。なお、表1には、試験を行った地域の気象台観測の日平均気温(外気温)を併せて示した。
【0063】
【0064】
表1に示したように、地温は、対照区、本発明区ともほぼ同様に推移し、下層を含めて、高い温度に達した。本発明区の地温は表層、下層とも対照区よりも1℃前後やや高めに推移した。
【0065】
-酸化還元電位-
ハウス土壌の酸化還元電位を測定するために、簡易土壌Eh計(FN-702、藤原製作所製)を使用した。白金電極の先端を表層(地表面から15cm)に挿入して、試験最終日にデーターロガーで測定値を回収した。
本発明区の酸化還元電位の実測値を理論値に換算した結果を
図4に示す。なお、理論値は下記式より算出した。
理論値=測定値×26+206
【0066】
図4に示したように、本発明区では、4日目以降の酸化還元電位の実測値を理論値に換算した値が-200mV程度であり、強還元状態が保たれていたことが確認された。
【0067】
-土壌病原菌-
土壌試料は、土壌還元消毒実施前後に表層土壌と下層土壌の2地点から採取した。検査対象とした土壌病原菌は、トマト栽培の重要土壌病害である下記の4種とした。
・ 青枯病菌(Ralstonia solanacearum)
・ トマト萎凋病菌(Fusarium oxysporum f. sp. lycopersici)
・ トマト根腐萎凋病菌(Fusarium oxysporum f. sp. radics-lycopersici)
・ 灰色かび病菌(Botrytis cinerea Persoon)
【0068】
分析機関にて、青枯病菌は選択培地を用いた塗抹平板法、その他の病原菌はDNA抽出-PCR法により分析を行った。検査結果を表2および3に示す。
【0069】
【0070】
【0071】
表2および3に示したように、土壌還元消毒実施前の土壌では、表層、下層とも102cfu/gの青枯病菌が検出されたが、土壌還元消毒実施後の土壌では、対照区、本発明区いずれも1cfu/g未満に低下した。また、土壌還元消毒実施前の土壌では、トマト萎凋病菌は表層と下層に、トマト根腐萎凋病菌は表層に生息していたが、土壌還元消毒実施後は対照区、濃縮液区いずれも不検出であった。したがって、本発明の土壌還元消毒材は、土壌病原菌に対する防除効果を有することが確認された。
なお、連作ハウスでしばしば問題となっている灰色かび病菌は、今回の試験では検出されなかった。
【0072】
-土壌還元消毒実施前後の土壌化学特性-
土壌試料は、土壌還元消毒実施前後に表層土壌と下層土壌の2地点から採取した。採取した土壌の一般成分分析(硝酸態窒素、有効態リン酸)を実施した。結果を表4に示す。
【0073】
【0074】
表4に示したように、硝酸態窒素は、対照区では土壌還元消毒実施後の低下が大きいのに対し、本発明区は土壌還元消毒実施後に横ばい~わずかに上昇した。有効態リン酸は、対照区では土壌還元消毒実施後にわずかに低下したのに対し、本発明区は土壌還元消毒実施後に大きく増加した。