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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023248
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】脂質排泄促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/233 20060101AFI20250206BHJP
   A61K 36/539 20060101ALI20250206BHJP
   A61K 36/65 20060101ALI20250206BHJP
   A61K 36/725 20060101ALI20250206BHJP
   A61K 36/752 20060101ALI20250206BHJP
   A61K 36/8888 20060101ALI20250206BHJP
   A61K 36/9068 20060101ALI20250206BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20250206BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
A61K36/233
A61K36/539
A61K36/65
A61K36/725
A61K36/752
A61K36/8888
A61K36/9068
A61P3/06
A61P3/04
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024210788
(22)【出願日】2024-12-03
(62)【分割の表示】P 2020096713の分割
【原出願日】2020-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 統星
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、摂取した脂質の便中への排泄を促進させる便中脂質排泄促進剤を提供することである。
【解決手段】大柴胡湯エキスには、摂取した脂質の便中への排泄を促進させる作用があり、脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質の人に対しても、脂質の過剰摂取による健康障害を改善又は回避することが可能になる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大柴胡湯エキスを含有する、便中脂質排泄促進剤。
【請求項2】
体脂肪率が25%以上でウエストサイズが85cm以上である状態が5年以上続いている人に対して適用される、請求項1に記載の便中脂質排泄促進剤。
【請求項3】
便秘でない人に対して適用される、請求項1又は2に記載の便中脂質排泄促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摂取した脂質の便中への排泄を促進させる便中脂質排泄促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食文化の欧米化に伴い、日本人の脂質摂取量は増加しており、過剰に摂取された脂質は体重増加をもたらし、肥満等の原因となっている。脂質の過剰摂取による影響を改善することを目的とした方法の1つとして、運動療法のほか、脂質の分解能や代謝能を高める内服薬の服用が挙げられる。
【0003】
肥満症に対する内服薬の1つとして大柴胡湯が知られている。大柴胡湯は、がっしりとした体格で比較的体力があり、便秘の傾向のあることを使用目標とし、肥満症、高血圧の随伴症状、常習便秘などの改善を目的として処方される(非特許文献1)。
【0004】
大柴胡湯の作用機序として、脂肪細胞の分化や脂肪蓄積を調節する転写因子であるPPARガンマと結合することで当該転写因子を活性化し、これによって内臓脂肪の肥大化抑止及び減少に関与している可能性が示されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】漢方製剤 クラシエ大柴胡湯エキス顆粒 クラシエ大柴胡湯エキス錠医薬品インタビューフォーム、2015年3月改訂(改訂第5版)
【非特許文献2】ニュースリリース2014 "漢方薬 大柴胡湯の研究成果"、 2014年10月、小林製薬株式会社、[令和2年5月18日検索]、インターネット<URL: https://www.kobayashi.co.jp/corporate/news/2014/141031_02/index.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
脂質の過剰摂取による悪影響は、体内における脂質の分解能や代謝能を高めることによってある程度は改善できるが、服薬によって脂質の分解能や代謝能を向上させるには限界がある。特に、肥満状態が5年以上続いている人(たとえば、体脂肪率が25%以上でウエストサイズが85cm以上の男性、体脂肪率が25%以上でウエストサイズが90cm以上の女性(特に更年期以降に脂質代謝に関わる女性ホルモン量が低減して肥満状態が続いている女性)等)では、脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質になっており、このような体質の人に対しては脂質の分解能や代謝能を向上させることは困難と考えられている。
【0007】
そこで、脂質を便と共に排泄させて脂質の排泄量を増加させることが、脂質の過剰摂取による健康障害を改善又は回避するのに役立ち、特に、脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質の人にとっては、脂質摂取による悪影響を避ける上で有効であると考えられる。
【0008】
しかしながら、大柴胡湯について、摂取した脂質の便中への排泄を促進させる作用があることを実際に検証した報告はない。また、脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質の人は、脂質の分解能や代謝能の向上による効果は期待できないと考えられており、通常、大柴胡湯を服薬していないのが現状である。
【0009】
本発明の目的は、摂取した脂質の便中への排泄を促進させる便中脂質排泄促進剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、大柴胡湯エキスには、摂取した脂質の便中への排泄を促進させる作用があり、これによって、脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質の人に対しても、脂質の過剰摂取による影響を改善又は回避することが可能になることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0011】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 大柴胡湯エキスを含有する、便中脂質排泄促進剤。
項2. 体脂肪率が25%以上でウエストサイズが85cm以上である状態が5年以上続いている人に対して適用される、項1に記載の便中脂質排泄促進剤。
項3. 便秘でない人に対して適用される、項1又は2に記載の便中脂質排泄促進剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、摂取された脂質の便中への排泄を促進させることができ、脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質の人に対しても、脂質の過剰摂取による影響を改善又は回避することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の便中脂質排泄促進剤は、大柴胡湯エキスを含有することを特徴とする。以下、本発明の便中脂質排泄促進剤について詳述する。
【0014】
大柴胡湯エキス
大柴胡湯の漢方処方としては、「新 一般用漢方処方の手引き」(合田 幸広・袴塚 高志監修、日本漢方生薬製剤協会編集、株式会社じほう発行)に記載されている漢方処方が好ましく、具体的には、サイコ、ハンゲ、オウゴン、キジツ、シャクヤク、ショウキョウ、タイソウ、ダイオウからなる混合生薬が挙げられる。また、大柴胡湯には、漢方生薬調査会により定められた「漢方製剤の基本的取扱い方針」に規定されるように、現在繁用されている漢方関係の書簡に記載されている混合生薬(漢方処方)が包含される。
【0015】
また、大柴胡湯を構成する各生薬の分量としては、サイコが3~12重量部、好ましくは4~9重量部;ハンゲが2~8重量部、好ましくは2.5~6重量部;オウゴンが1.5~6重量部、好ましくは2~4.5重量部;キジツが1~4重量部、好ましくは1.5~3重量部;シャクヤクが1.5~6重量部、好ましくは2~4.5重量部;ショウキョウが0.5~2重量部、好ましくは1~1.5重量部;タイソウが1.5~6重量部、好ましくは2~4.5重量部;ダイオウ0.5~2重量部、好ましくは1~1.5重量部が挙げられる。
【0016】
本発明で使用される大柴胡湯エキスの製造に供される生薬調合物の好適な例として、サイコ6重量部、ハンゲ4重量部、オウゴン3重量部、キジツ2重量部、シャクヤク3重量部、ショウキョウ1重量部、タイソウ3重量部、ダイオウ1重量部が挙げられる。
【0017】
大柴胡湯のエキスの形態としては、軟エキス等の液状のエキス、又は固形状の乾燥エキス末のいずれであってもよい。
【0018】
大柴胡湯の液状のエキスは、大柴胡湯処方に従った混合生薬を抽出処理し、得られた抽出液を必要に応じて濃縮することにより得ることができる。また、大柴胡湯の乾燥エキス末は、液状のエキスを乾燥処理することにより得ることができる。
【0019】
大柴胡湯のエキスの製造において、抽出処理に使用される抽出溶媒としては、特に限定されないが、好適な例としては水又は含水エタノールが挙げられる。大柴胡湯の抽出処理としては、特に限定されないが、例えば、大柴胡湯に含まれる生薬の総重量(乾燥重量換算)に対して、20倍量程度の抽出溶媒で抽出した後、1/2容量になるまで濃縮し、固形分を除いたものを、大柴胡湯の液状エキスとして得る方法が挙げられる。また、この液状エキスを乾燥処理に供することにより、大柴胡湯の乾燥エキス末が得られる。乾燥処理としては、特に限定されず、公知の方法を用いればよく、例えば、スプレードライ法や、エキスの濃度を高めた軟エキスに適当な吸着剤(例えば無水ケイ酸、デンプン等)を加えて吸着末とする方法等が挙げられる。
【0020】
本発明において大柴胡湯としてエキスを使用する場合、前述の方法で調製したエキスを使用してもよいし、市販されるものを使用してもよい。例えば、大柴胡湯の乾燥エキス末としては、大柴胡湯乾燥エキスAM、大柴胡湯乾燥エキスSN、及び大柴胡湯乾燥エキス粉末(いずれも日本粉末株式会社製)、並びに大柴胡湯乾燥エキスF、及び大柴胡湯乾燥エキス-F(いずれもアルプス薬品工業製)等がそれぞれ商品として知られており、商業的に入手することもできる。
【0021】
本発明の便中脂質排泄促進剤において、大柴胡湯エキスの含有量としては、本発明の効果を奏する限り、特に限定されないが、大柴胡湯エキスの乾燥エキス末量換算で、通常5~100重量%、好ましくは10~90重量%、より好ましくは20~80重量%、更に好ましくは30~60重量%が挙げられる。なお、本発明において、大柴胡湯の乾燥エキス末量換算とは、柴胡湯の乾燥エキス末を使用する場合にはそれ自体の量であり柴胡湯の液状のエキスを使用する場合には、溶媒を除去した残量に換算した量である。また、柴胡湯の乾燥エキス末が、製造時に添加される吸着剤等の添加剤を含む場合は、当該添加剤を除いた量である。
【0022】
その他の成分
本発明の便中脂質排泄促進剤は、大柴胡湯エキス単独からなるものであってもよく、製剤形態に応じた添加剤や基剤を含んでいてもよい。このような添加剤及び基剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加剤及び基剤の含有量については、使用する添加剤及び基剤の種類、便中脂質排泄促進剤の製剤形態等に応じて適宜設定される。
【0023】
また、本発明の便中脂質排泄促進剤は、大柴胡湯エキスの他に、必要に応じて、他の栄養成分や薬理成分を含有していてもよい。このような栄養成分や薬理成分としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、カフェイン類、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、生薬エキス、ビタミン類、メントール類等が挙げられる。これらの栄養成分や薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの成分の含有量については、使用する成分の種類、便中脂質排泄促進剤の製剤形態等に応じて適宜設定される。
【0024】
製剤形態
本発明の便中脂質排泄促進剤の製剤形態については、経口投与が可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤(ドライシロップを含む)、錠剤、丸剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)等の固形状製剤;ゼリー剤等の半固形状製剤;液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液状製剤が挙げられる。これらの製剤形態の中でも、含有成分の安定性や携帯性等の観点から、好ましくは固形状製剤が挙げられる。
【0025】
本発明の便中脂質排泄促進剤を前記製剤形態に調製するには、大柴胡湯エキス、及び必要に応じて添加される添加剤、基剤、及び薬理成分を用いて、医薬分野で採用されている通常の製剤化手法に従って製剤化すればよい。
【0026】
用途
本発明の便中脂質排泄促進剤は、摂取した脂質の便中への排泄を促進させるために使用される。このように、脂質の便中への排泄を促進させることができ、ひいては脂質の過剰摂取による健康障害(体重増加、内臓脂肪増加等)を改善又は回避することが可能になる。
【0027】
また、脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質の人では、肥満改善剤を服用しても脂質の分解能や代謝能の改善が期待できないと認識されており、大柴胡湯を服用する習慣がなかったが、本発明の便中脂質排泄促進剤によれば、脂質の便中への排泄を促進させることにより、このような脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質の人に対しても、脂質の摂取による悪影響を抑制することが可能になる。
【0028】
このような本発明の効果に鑑みれば、本発明の便中脂質排泄促進剤の好適な適用対象として、これまで大柴胡湯の適用対象ではなかった、脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質の人が挙げられる。このような体質の人としては、肥満状態が5年以上続いている人が挙げられ、肥満状態としては、体脂肪率が25%以上でウエストサイズが男性の場合で85cm以上、女性の場合で90cm以上が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、体脂肪率が25%以上でウエストサイズが90cm以上の状態が5年以上続いている女性が挙げられ、より好ましくは、体脂肪率が25%以上でウエストサイズが90cm以上の女性であって、更年期以降に脂質代謝に関わる女性ホルモン量が低減することで当該肥満状態が5年以上続いている女性が挙げられる。
【0029】
脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質の人のとしては、具体的には、下記脂肪分解力評価試験で測定される脂肪分解力が5mEq/g以下、好ましくは3mEq/g以下、より好ましくは1mEq/g以下、さらに好ましくは0.5mEq/g以下、特に好ましくは0.3mEq/g以下である脂肪組織を有する人等が挙げられる。
<脂肪分解力評価試験>
先ず、対象者の皮下から脂肪組織を採取する。得られた脂肪組織をKrebs Ringer緩衝液(pH7.4)で洗浄する。洗浄後の脂肪組織の重量を計測し、洗浄後の脂肪組織0.2gに、1μg/mLのノルアドレナリン、及び2重量%牛血清アルブミン(BSA)を含むKrebs Ringer緩衝液(pH7.4)5mLに加え、37℃で2時間インキュベートする。その後、上清を回収し、ノルアドレナリン刺激により上清中に放出された遊離脂肪酸量を測定し、脂肪組織1g当たりの遊離脂肪酸の放出量(mEq/g)を脂肪分解力として求める。
【0030】
なお、脂肪組織はノルアドレナリン刺激により活性化され、蓄積した脂肪が分解し、遊離脂肪酸を放出することが知られている。前記脂肪分解力評価試験では、脂肪組織の分解力を、この遊離脂肪酸の放出量を測定することで評価している。
【0031】
さらに、大柴胡湯は便秘の傾向のあることが使用目標とされてきたが、一般的に便秘でない人は大腸だけでなく小腸の蠕動運動も活発であることから、脂肪の吸収がより一層抑制されることでより一層余分な脂質を便中に排出することができる。このような観点から、本発明の便中脂質排泄促進剤の好適な適用対象として、便秘でない人も挙げられる。なお、便秘でないとは、1日に1回以上便通のあることを指す。
【0032】
用量・用法
本発明の便中脂質排泄促進剤は経口投与によって使用される。本発明の便中脂質排泄促進剤の用量については、投与対象者の年齢、性別、体質等に応じて適宜設定されるが、例えば、ヒト1人に対して1日当たり、大柴胡湯エキスの乾燥エキス末量換算で1~10g程度、好ましくは1.3~6g程度、より好ましくは1.5~4g、さらに好ましくは1.8~2.5g程度となる量で、1日1~3回、好ましくは2又は3回の頻度で服用すればよい。服用タイミングについては、特に制限されず、食前、食後、又は食間のいずれであってもよいが、食前(食事の30分前)又は食間(食後2時間後)が好ましい。
【0033】
また、本発明の便中脂質排泄促進剤による脂質の便中への排泄促進効果は、継続的な服用によって奏されるので、本発明の便中脂質排泄促進剤は、継続的な服用(具体的には3週間以上、好ましくは6週間以上、より好ましくは8週間以上の継続的な服用)を行うことが好ましい。
【実施例0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
大柴胡湯エキス末の製造
原料生薬を、サイコ6.0(重量部、以下同じ)、ハンゲ4.0、ショウキョウ1.0、オウゴン3.0、シャクヤク3.0、タイソウ3.0、キジツ2.0、ダイオウ1.0の割合で用い、これらを刻んだ後、水20倍重量(460重量部)を用いて約100℃で1時間抽出し、遠心分離して抽出液を得、減圧下で濃縮してスプレードライヤーを用いて乾燥し、大柴胡湯エキス末を得た。得られた大柴胡湯エキス末は、原料生薬混合物13.8g当たり2.4gであった。なお、スプレードライヤーによる乾燥は、抽出液を回転数10000rpmのアトマイザーに落下させ、150℃の空気の熱風を供給して行った。
【0036】
試験例1:脂質の糞便中への排泄促進効果及び体重低減効果の評価
マウス(ddY系マウス、10週齢、雌)に高脂肪食(HFD32、日本クレア株式会社)を3週間自由摂食させて飼育し、肥満モデルマウスを作製した。この肥満モデルマウスの体重を測定後、コントロール群(対照例)と大柴胡湯群の2つの群に分けた(各群6匹、各ケージ2匹ずつ飼育)。大柴胡湯群では、肥満モデルマウスに、前記高脂肪食に大柴胡湯エキスを4重量%となるように配合した飼料を56日間給餌した。コントロール群では、大柴胡湯エキスを配合していない高脂肪食を56日間給餌した。試験開始から51~56日目の糞便を回収し凍結乾燥した。
【0037】
凍結乾燥した糞便から低極性溶媒で脂質を抽出し、重量法にて糞便中の総脂質量を測定した。具体的には、凍結乾燥した糞便を粉砕後、100mgを秤取し、クロロホルム/エタノール溶液(クロロホルム:エタノール(体積比)=2:1)500μLで2回抽出し、この抽出液を40℃で真空乾燥させた後、得られた抽出物(脂質)の重量を測定し、各群のマウスの頭数で除することにより、マウス1匹当たりの平均総脂質排泄量を算出した。その結果、コントロール群におけるマウス1匹当たりの平均総脂質排泄量は93.9mg/匹、大柴胡湯群におけるマウス1匹当たりの平均総脂質排泄量は134.2mg/匹であり、大柴胡湯群において有意且つ顕著な脂質排泄促進効果が認められた。
【0038】
また、飼育開始時(0日目)と飼育最終日(56日目)の各群の肥満モデルマウスの体重を測定した。各群の飼育開始時の体重を100%として、飼育最終日の体重の割合を体重変化率(%)として算出し、各群のマウスの頭数で除することにより、マウス1匹当たりの平均体重変化率を算出した、その結果、コントロール群におけるマウス1匹当たりの平均体重変化率は129.4%/匹、大柴胡湯群におけるマウス1匹当たりの平均体重変化率は115.2%/匹であり、大柴胡湯群において有意な体重増加抑制効果が認められた。
【0039】
なお、飼育期間中、全てのマウスにおいて下痢は認められなかった。また、各マウスの1日当たりの糞便量は乾燥重量にて304~397mg/日/匹であり、群間で有意な差は認められなかった。
【0040】
以上の結果から、大柴胡湯エキスの投与によって、糞便中への脂質の排泄が促進されることが認められた。また、大柴胡湯エキスの投与によって、体重の増加も抑制されることが認められ、このような大柴胡湯エキスによる体重の増加抑制は、脂質の糞便中への排泄を促進する作用が一因になっていると考えられる。
【0041】
参考試験例:年代別の体重の低減効果の評価
脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質の人に対する大柴胡湯エキスの体重低減効果を評価した。具体的には、更年期以降に体脂肪率が25%以上でウエストサイズが90cm以上である状態が5年以上続いている女性12名(女性A~女性L;平均体重の差が5kg以内になるように選定した)をモニターとし、大柴胡湯エキス末2gを1日3回に分けて12週間服用させ、服用開始前に対する体重変化を測定した。このうち、女性A~Fは、更年期以降に体脂肪率が25%以上でウエストサイズが90cm以上である状態が5年以上続いている。また、女性C、D及びGを除いて便秘を自覚していた。
【0042】
結果を表1に示す。モニターは、脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質であるにもかかわらず、大柴胡湯エキスを服用させることによって、体重の減少が認められた体脂肪率が25%以上でウエストサイズが90cm以上である状態が5年以上続いている女性は、脂質の分解能や代謝能が本質的に低下しており、従来、大柴胡湯エキスでは効果が認められないと考えられていたが、大柴胡湯エキスには、前記試験例1で示したように便中への脂質排泄促進作用があり、当該作用が一因となって、脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した肥満に対しても体重低下効果が奏されたと考えられる。さらに、便秘の症状のない女性C、D及びGについて、特に体重減少量が大きかった。この要因としては、一般的に便秘でない人は小腸の蠕動運動が活発であることから、脂肪の吸収がより一層抑制されたためであると考えられる。
【0043】
【表1】