(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023444
(43)【公開日】2025-02-17
(54)【発明の名称】ダイヤモンド基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/04 20060101AFI20250207BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20250207BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20250207BHJP
B23K 26/02 20140101ALI20250207BHJP
B23K 26/12 20140101ALI20250207BHJP
B23K 26/55 20140101ALI20250207BHJP
【FI】
C30B29/04 Q
H01L21/304 611Z
B23K26/53
B23K26/02 A
B23K26/12
B23K26/55
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127556
(22)【出願日】2023-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】村澤 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 侑太
(72)【発明者】
【氏名】江山 剛史
(72)【発明者】
【氏名】森數 洋司
【テーマコード(参考)】
4E168
4G077
5F057
【Fターム(参考)】
4E168AE01
4E168CA06
4E168CA07
4E168CA13
4E168CB04
4E168CB07
4E168CB23
4E168DA02
4E168DA13
4E168DA23
4E168DA24
4E168DA42
4E168EA15
4E168EA16
4E168FB05
4E168HA01
4E168JA16
4E168KA07
4G077AA02
4G077BA03
4G077FG11
4G077HA12
5F057AA12
5F057BA01
5F057BB02
5F057CA02
5F057DA19
5F057DA22
5F057FA13
(57)【要約】
【課題】ダイヤモンドからなる被加工物から迅速に基板を製造することが可能なダイヤモンド基板の製造方法を提供する。
【解決手段】被加工物の内部に剥離層を形成した後又はそれと並行して、ダイヤモンドを透過し、かつ、ダイヤモンド以外の炭素の同素体に吸収される波長の気化用レーザービームを被加工物に照射することによって、改質部に含まれる炭素と雰囲気に含まれる酸素とから二酸化炭素が生成されるように剥離層を加熱する。この場合、二酸化炭素の生成に伴って改質部が目減りして空洞が形成されるとともに、この空洞及びクラックに存在する気体が局所的に加熱されて膨張する。これにより、剥離層においてクラックが急速に伸展して被加工物が劈開する。その結果、被加工物から迅速に基板が製造される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンドからなり、かつ、第一の面と、該第一の面の反対側の第二の面と、該第一の面及び該第二の面の間に位置する側面と、を含む被加工物から基板を製造するダイヤモンド基板の製造方法であって、
該ダイヤモンドを透過する波長の改質用レーザービームの第一の集光点を該第一の面から該基板の厚みに相当する所定の深さに位置付けた状態で該第一の集光点と該被加工物とを相対的に移動させるように該被加工物に該改質用レーザービームを照射することによって、該ダイヤモンド以外の炭素の同素体からなる改質部と該改質部から伸展するクラックとを含み、かつ、該被加工物の該側面において露出する剥離層を該被加工物の内部に形成する剥離層形成ステップと、
該剥離層形成ステップを実施した後又はそれと並行して、該ダイヤモンドを透過し、かつ、該炭素の同素体に吸収される波長の気化用レーザービームの第二の集光点と該被加工物とを相対的に移動させるように該被加工物に該気化用レーザービームを照射することによって、該改質部に含まれる炭素と雰囲気に含まれる酸素とから二酸化炭素が生成されるように該剥離層を加熱する加熱ステップと、
を備える、ダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項2】
該剥離層形成ステップと該加熱ステップとは、該被加工物における該第一の集光点の軌跡と該第二の集光点の軌跡とが重なるように並行して実施される、請求項1に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項3】
該気化用レーザービームは、炭酸ガスをレーザー媒質とする、請求項1又は2に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンドからなり、かつ、第一の面と、第一の面の反対側の第二の面と、第一の面及び第二の面の間に位置する側面と、を含む被加工物から基板を製造するダイヤモンド基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは、バンドギャップ、絶縁破壊電界強度及び熱伝導率が大きいことから、半導体デバイスを形成するために利用される基板の素材として期待されている。この基板は、一般的に、ダイヤモンドからなるインゴット等の被加工物に含まれる表面側の所定の厚みを有する部分を剥離させることによって製造される。
【0003】
被加工物からの基板の剥離は、例えば、以下の順序で行われる(例えば、特許文献1参照)。まず、ダイヤモンドを透過する波長のレーザービームが集光される集光点を被加工物の表面から基板の厚みに相当する所定の深さに位置付けた状態で集光点と被加工物とを相対的に移動させるように被加工物にレーザービームを照射する。
【0004】
これにより、ダイヤモンド以外の炭素の同素体(例えば、グラファイト又はカーボンブラック等の無定形炭素(アモルファスカーボン))からなる改質部と改質部から伸展するクラックとを含む剥離層が被加工物の内部に形成される。そして、この剥離層に含まれるクラックをさらに伸展させるように被加工物に水を介して超音波振動を付与する。その結果、被加工物が剥離層において劈開して基板が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
内部に剥離層が形成されている被加工物に水を介して超音波振動を付与する場合、剥離層に含まれるクラックが徐々に伸展する。また、この場合、被加工物及び被加工物から製造された基板の双方に対して新たな処理を施す前に両者を乾燥させる必要が生じる。そのため、この場合には、新たな処理に供することが可能な基板を被加工物から製造するまでにかかる時間が長くなりやすい。
【0007】
この点に鑑み、本発明の目的は、ダイヤモンドからなる被加工物から迅速に基板を製造することが可能なダイヤモンド基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、ダイヤモンドからなり、かつ、第一の面と、該第一の面の反対側の第二の面と、該第一の面及び該第二の面の間に位置する側面と、を含む被加工物から基板を製造するダイヤモンド基板の製造方法であって、該ダイヤモンドを透過する波長の改質用レーザービームの第一の集光点を該第一の面から該基板の厚みに相当する所定の深さに位置付けた状態で該第一の集光点と該被加工物とを相対的に移動させるように該被加工物に該改質用レーザービームを照射することによって、該ダイヤモンド以外の炭素の同素体からなる改質部と該改質部から伸展するクラックとを含み、かつ、該被加工物の該側面において露出する剥離層を該被加工物の内部に形成する剥離層形成ステップと、該剥離層形成ステップを実施した後又はそれと並行して、該ダイヤモンドを透過し、かつ、該炭素の同素体に吸収される波長の気化用レーザービームの第二の集光点と該被加工物とを相対的に移動させるように該被加工物に該気化用レーザービームを照射することによって、該改質部に含まれる炭素と雰囲気に含まれる酸素とから二酸化炭素が生成されるように該剥離層を加熱する加熱ステップと、を備える、ダイヤモンド基板の製造方法が提供される。
【0009】
好ましくは、該剥離層形成ステップと該加熱ステップとは、該被加工物における該第一の集光点の軌跡と該第二の集光点の軌跡とが重なるように並行して実施される。また、好ましくは、該気化用レーザービームは、炭酸ガスをレーザー媒質とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、被加工物の内部に剥離層を形成した後又はそれと並行して、ダイヤモンドを透過し、かつ、ダイヤモンド以外の炭素の同素体に吸収される波長の気化用レーザービームを照射することによって、改質部に含まれる炭素と雰囲気に含まれる酸素とから二酸化炭素が生成されるように剥離層を加熱する。
【0011】
この場合、二酸化炭素の生成に伴って改質部が目減りして空洞が形成されるとともに、この空洞及びクラックに存在する気体が局所的に加熱されて膨張する。これにより、剥離層においてクラックが急速に伸展して被加工物が劈開する。その結果、被加工物から迅速に基板が製造される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、ダイヤモンド基板の製造に用いられるインゴットの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、インゴットを模式的に示す上面図である。
【
図3】
図3は、インゴットから基板を製造するダイヤモンド基板の製造方法の一例を模式的に示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、剥離層形成ステップの様子を模式的に示す斜視図である。
【
図5】
図5は、剥離層形成ステップ後のインゴットを模式的に示す部分拡大側面図である。
【
図6】
図6は、剥離層形成ステップ及び加熱ステップを並行して実施する様子の一例を模式的に示す側面図である。
【
図7】
図7は、剥離層形成ステップ及び加熱ステップを並行して実施する様子の別の例を模式的に示す側面図である。
【
図8】
図8は、剥離層形成ステップ及び加熱ステップを並行して実施する様子のさらに別の例を模式的に示す側面図である。
【
図9】
図9は、インゴットから基板を製造するダイヤモンド基板の製造方法の別の例を模式的に示すフローチャートである。
【
図10】
図10(A)及び
図10(B)のそれぞれは、剥離ステップの様子を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、ダイヤモンド基板の製造に用いられるインゴットの一例を模式的に示す斜視図であり、
図2は、
図1に示されるインゴットを模式的に示す上面図である。なお、
図1においては、このインゴットに含まれる平面において露出するダイヤモンドの結晶面も示されている。また、
図2においては、このインゴットを構成するダイヤモンドの結晶方位も示されている。
【0014】
図1及び
図2に示されるインゴット11においては、結晶面{100}に含まれる特定の結晶面(ここでは、便宜上、結晶面(001)とする。)が表面(第一の面)11a及び裏面(第二の面)11bのそれぞれに露出する。すなわち、このインゴット11においては、表面11a及び裏面11bのそれぞれの垂線(結晶軸)が結晶方位[001]に沿う。
【0015】
なお、インゴット11においては、結晶面(001)が表面11a及び裏面11bのそれぞれに露出するように製造されるものの、製造時の加工誤差等に起因して、結晶面(001)から僅かに傾いた面が表面11a及び裏面11bのそれぞれにおいて露出してもよい。具体的には、インゴット11の表面11a及び裏面11bのそれぞれには、結晶面(001)に対してなす角が1°以下の面が露出されてもよい。すなわち、インゴット11の結晶軸は、結晶方位[001]に対してなす角が1°以下の方向に沿ってもよい。
【0016】
また、インゴット11の側面11cには、オリエンテーションフラット13が形成されている。このオリエンテーションフラット13は、インゴット11の中心Cからみて結晶方位<110>に含まれる特定の結晶方位(ここでは、便宜上、結晶方位[110]とする。)にオリエンテーションフラット13が位置する。すなわち、このオリエンテーションフラット13においては、ダイヤモンドの結晶面(110)が露出している。
【0017】
図3は、被加工物となるインゴット11から基板を製造するダイヤモンド基板の製造方法の一例を模式的に示すフローチャートである。この方法においては、まず、ダイヤモンド以外の炭素の同素体からなる改質部と改質部から伸展するクラックとを含み、かつ、インゴット11の側面11cにおいて露出する剥離層をインゴット11の内部に形成する(剥離層形成ステップS1)。
【0018】
図4は、剥離層形成ステップS1の様子を模式的に示す斜視図である。なお、
図4に示されるX軸方向及びY軸方向は、水平面上において互いに直交する方向であり、また、Z軸方向は、X軸方向及びY軸方向に直交する方向(鉛直方向)である。
【0019】
この剥離層形成ステップS1は、レーザー加工装置2において実施される。レーザー加工装置2は、水平面に概ね平行な円状の保持面を有し、この保持面においてインゴット11を保持可能なチャックテーブル4を備える。
【0020】
チャックテーブル4は、吸引機構(不図示)に連結されている。この吸引機構は、例えば、エジェクタ等を有する。そして、吸引機構が動作すると、チャックテーブル4の保持面近傍の空間に吸引力が作用する。そのため、保持面にインゴット11が置かれた状態で吸引機構が動作すると、チャックテーブル4の保持面においてインゴット11が保持される。
【0021】
また、チャックテーブル4は、回転機構(不図示)に連結されている。この回転機構は、例えば、プーリ及びモータ等を有する。そして、回転機構が動作すると、保持面の中心を通り、かつ、Z軸方向に沿った直線を回転軸としてチャックテーブル4が回転する。例えば、回転機構は、チャックテーブル4の保持面において保持されたインゴット11のオリエンテーションフラット13がY軸方向と平行になるようにチャックテーブル4を回転させる。
【0022】
また、チャックテーブル4は、移動機構(不図示)に連結されている。この移動機構は、例えば、ボールねじ及びモータ等を有する。そして、移動機構が動作すると、X軸方向、Y軸方向及び/又はZ軸方向に沿ってチャックテーブル4が移動する。
【0023】
チャックテーブル4の上方には、レーザービーム照射ユニット6のヘッド8が設けられている。このヘッド8は、Y軸方向に沿って延在する円筒状のハウジング10の先端部に設けられている。なお、ヘッド8は集光レンズ及びミラー等の光学系を収容し、ハウジング10はミラー及び/又はレンズ等の光学系を収容する。
【0024】
また、レーザービーム照射ユニット6は、例えば、レーザー媒質としてNd:YAG等を含む改質用レーザー発振器(不図示)を有する。この改質用レーザー発振器は、ダイヤモンドを透過する波長(例えば、1030nm又は1064nm)のパルスレーザービーム(改質用レーザービーム)LB1を生成する。そして、改質用レーザービームLB1は、その出力(パワー)が減衰器(不図示)において調整された後、ハウジング10及びヘッド8に収容された光学系を介してヘッド8から直下に向けて射出される。
【0025】
さらに、ハウジング10の側部には、その直下の領域を撮像可能な撮像ユニット12が設けられている。この撮像ユニット12は、例えば、LED(Light Emitting Diode)等の光源と、対物レンズと、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等の撮像素子と、を有する。
【0026】
レーザー加工装置2において剥離層形成ステップS1を実施する際には、まず、表面11aが上になるようにインゴット11をチャックテーブル4の保持面に置く。次いで、チャックテーブル4の保持面においてインゴット11が保持されるように吸引機構を動作させる。次いで、インゴット11の表面11aの画像を形成するように撮像ユニット12を動作させる。
【0027】
次いで、この画像を参照して、例えば、オリエンテーションフラット13がY軸方向に平行になるように回転機構がチャックテーブル4を回転させる。すなわち、ダイヤモンドの結晶方位[110]がX軸方向に平行になるように、回転機構がチャックテーブル4を回転させる。
【0028】
次いで、インゴット11のうちY軸方向における一端近傍の領域が、平面視において、ヘッド8からみてX軸方向に位置付けられるように、移動機構がX軸方向及び/又はY軸方向に沿ってチャックテーブル4を移動させる。次いで、ヘッド8から射出された改質用レーザービームLB1が集光される集光点(第一の集光点)がインゴット11の表面11aからインゴット11から製造される基板の厚みに相当する所定の深さに位置付けられるように移動機構がZ軸方向に沿ってチャックテーブル4を移動させる。
【0029】
次いで、ヘッド8から改質用レーザービームLB1を射出しながら、改質用レーザービームLB1が集光される集光点がインゴット11のX軸方向における一端から他端まで通り過ぎるように移動機構がチャックテーブル4をX軸方向に沿って移動させる。すなわち、ダイヤモンドの結晶方位[110]に平行な方向を改質用レーザービームLB1の走査方向として改質用レーザービームLB1をインゴット11に照射する。
【0030】
次いで、平面視において、インゴット11のうち既に改質用レーザービームLB1が照射された領域よりも僅かに内側に位置する領域からみてX軸方向にヘッド8が位置付けられるように、移動機構がY軸方向に沿ってチャックテーブル4を移動させる。次いで、X軸方向の反対の方向を改質用レーザービームLB1の走査方向として、上述したようにインゴット11に対する改質用レーザービームLB1の照射を行う。
【0031】
さらに、インゴット11のうちY軸方向における他端近傍の領域に対する改質用レーザービームLB1の照射が完了するまで上述した動作を繰り返す。すなわち、Y軸方向に沿ったインゴット11と改質用レーザービームLB1が集光される集光点が形成される位置との相対的な移動(具体的には、チャックテーブル4の移動)と、X軸方向又はその反対の方向を改質用レーザービームLB1の走査方向とするインゴット11に対する改質用レーザービームLB1の照射と、を交互に繰り返す。
【0032】
これにより、改質用レーザービームLB1が集光される集光点がインゴット11の内部において複数の直線状の軌跡(具体的には、それぞれがダイヤモンドの結晶方位[110]に平行な複数の直線状の軌跡)Tを描くようにインゴット11に改質用レーザービームLB1が照射される。その結果、剥離層形成ステップS1が完了する。
【0033】
なお、上述した剥離層形成ステップS1においては、ダイヤモンドの結晶方位[110]に平行な方向(X軸方向又はその反対の方向)が改質用レーザービームLB1の走査方向として設定されているが、これに非平行な方向が改質用レーザービームLB1の走査方向として設定されてもよい。
【0034】
また、剥離層形成ステップS1においては、インゴット11に対する改質用レーザービームLB1の照射が一方向(例えば、X軸方向)に沿ってのみ行われてもよい。すなわち、剥離層形成ステップS1においては、当該一方向の反対の方向(例えば、X軸方向の反対の方向)を走査方向とすることなく、当該一方向を走査方向とするインゴット11に対する改質用レーザービームLB1の照射が繰り返されてもよい。
【0035】
また、剥離層形成ステップS1においては、インゴット11に対する改質用レーザービームLB1の照射が非直線的に実施されてもよい。例えば、剥離層形成ステップS1においては、インゴット11における改質用レーザービームLB1の軌跡が、ジグザグ状、放射状、渦巻状又は同心円状になるようにインゴット11に改質用レーザービームLB1が照射されてもよい。
【0036】
図5は、剥離層形成ステップS1後のインゴット11を模式的に示す部分拡大側面図である。改質用レーザービームLB1がインゴット11に照射されると、改質用レーザービームLB1が集光される集光点を中心として、ダイヤモンド以外の炭素の同素体からなる改質部15が形成される。なお、炭素の同素体としては、例えば、グラファイト又はカーボンブラック等の無定形炭素(アモルファスカーボン)が挙げられる。
【0037】
また、インゴット11の内部に改質部15が形成されると、インゴット11の体積が膨張してインゴット11に内部応力が生じる。そして、この内部応力は、改質部15からクラック17が伸展することによって緩和される。その結果、インゴット11の内部に改質部15と改質部15から伸展するクラック17とを含み、かつ、インゴット11の側面11cにおいて露出する剥離層19が形成される。
【0038】
剥離層形成ステップS1の後には、改質部15に含まれる炭素と雰囲気に含まれる酸素とから二酸化炭素が生成されるように剥離層19を加熱する(加熱ステップS2)。この加熱ステップS2は、例えば、上述したレーザー加工装置2と同様のレーザー加工装置において実施される。
【0039】
ただし、加熱ステップS2において実施されるレーザー加工装置は、例えば、レーザー加工装置2に含まれる改質用レーザー発振器に加えて又は換えて、レーザー媒質として炭酸ガス等を含む気化用レーザー発振器を有する。そして、この気化用レーザー発振器は、ダイヤモンドを透過し、かつ、ダイヤモンド以外の炭素の同素体に吸収される波長(例えば、9.2μm~10.8μm)のパルス状に出力を発振するパルスレーザービーム又は連続的に出力を発振するCW(連続波)レーザービーム(気化用レーザービーム)を生成する。
【0040】
そして、加熱ステップS2は、例えば、上述したレーザー加工装置2において実施される剥離層形成ステップS1と同様の手順でインゴット11に気化用レーザービームを照射することによって実施される。すなわち、加熱ステップS2は、例えば、気化用レーザービームが集光される集光点(第二の集光点)を剥離層19の内部に位置付けた状態、すなわち、ジャストフォーカスの状態で、この集光点とインゴット11とを相対的に移動させるようにインゴット11に気化用レーザービームを照射することによって実施される。
【0041】
なお、加熱ステップS2は、酸素を含有する雰囲気(例えば、大気中又は酸素雰囲気に維持されたチャンバ中)で実施される。また、加熱ステップS2は、インゴット11の側面11cにおいて露出する剥離層19に酸素を供給するためのノズル等を含む酸素供給ユニットから酸素を供給しながら実施されてもよい。
【0042】
この加熱ステップS2においては、雰囲気に含まれる酸素がインゴット11の側面11cから内部に向かって伸展するクラック17を通って改質部15に到達し、改質部15に含まれる炭素と酸素とが反応して二酸化炭素が生成される。そして、このように二酸化炭素が生成されると、改質部15が目減りして空洞が形成される。
【0043】
さらに、インゴット11に気化用レーザービームが照射されると、この空洞及びクラック17に存在する気体が局所的に加熱されて膨張する。これにより、剥離層19においてクラック17が急速に伸展してインゴット11が劈開する。その結果、インゴット11から迅速に基板を製造することが可能になる。
【0044】
なお、上述した内容は本発明の一態様であって、本発明の内容は上述した内容に限定されない。例えば、剥離層形成ステップS1及び加熱ステップS2のそれぞれにおいて利用されるレーザー加工装置は、インゴット11と改質用レーザービームLB1又は気化用レーザービームが集光される集光点とを相対的に移動させることが可能であればよく、そのための構造に限定はない。
【0045】
具体的には、剥離層形成ステップS1及び加熱ステップS2のそれぞれは、レーザービーム照射ユニットのヘッドが先端部に設けられているハウジングをX軸方向、Y軸方向及び/又はZ軸方向のそれぞれに沿って移動させる移動機構が設けられているレーザー加工装置において実施されてもよい。
【0046】
あるいは、剥離層形成ステップS1及び加熱ステップS2のそれぞれは、ヘッドから射出される改質用レーザービームLB1又は気化用レーザービームの方向を変更することが可能な走査光学系がレーザービーム照射ユニットに設けられているレーザー加工装置において実施されてもよい。なお、この走査光学系は、例えば、ガルバノスキャナ、音響光学素子(AOD)及び/又はポリゴンミラー等を含む。
【0047】
また、剥離層形成ステップS1及び加熱ステップS2は、並行して実施されてもよい。
図6、
図7及び
図8のそれぞれは、改質用レーザー発振器及び気化用レーザー発振器の双方を含むレーザー加工装置において剥離層形成ステップS1及び加熱ステップS2を並行して実施する様子を模式的に示す側面図である。すなわち、
図6、
図7及び
図8のそれぞれにおいては、改質用レーザービームLB1及び気化用レーザービームLB2を同時にインゴット11に照射する様子が示されている。
【0048】
具体的には、
図6においては、改質用レーザービームLB1及び気化用レーザービームLB2がチャックテーブル14の上方に設けられた同一の集光レンズ16を通って、このチャックテーブル14の保持面において保持されているインゴット11の同じ位置に集光される様子が示されている。
【0049】
この場合、改質用レーザービームLB1は、例えば、ミラー18等を利用して集光レンズ16の中心近傍の領域を通過するように光路が設定される。また、気化用レーザービームLB2は、例えば、そのビームプロファイルがリング状になるようにアキシコンレンズ(不図示)等によって成形されてから、集光レンズ16の中心を囲む領域を通過するように光路が設定される。
【0050】
なお、集光レンズ16は、例えば、セレン化亜鉛(ZnSe)又はガラス等からなる。あるいは、集光レンズ16は、改質用レーザービームLB1が通過する領域(中心近傍の領域)がガラスからなり、かつ、気化用レーザービームLB2が通過する領域(中心を囲む領域)がZnSeからなってもよい。
【0051】
図7においては、改質用レーザービームLB1がチャックテーブル20の上方に設けられた集光レンズ22を通り、かつ、気化用レーザービームLB2がチャックテーブル20の下方に設けられた集光レンズ24を通って、このチャックテーブル20の保持面において保持されているインゴット11の内部の同じ位置に集光される様子が示されている。
【0052】
なお、集光レンズ22は、例えば、ガラス等からなる。また、集光レンズ24は、例えば、ZnSe等からなる。また、チャックテーブル20は、例えば、ZnSe、9.2μm~10.8μmの波長の気化用レーザービームLB2が透過するガラス又はダイヤモンド等からなる。あるいは、チャックテーブル20は、例えば、表面11a及び裏面11bのそれぞれが露出されるように側面11c側からインゴット11を保持可能な保持機構に置換されてもよい。
【0053】
図8においては、改質用レーザービームLB1がチャックテーブル26の上方に設けられた集光レンズ28を通り、かつ、気化用レーザービームLB2がチャックテーブル26の上方かつ集光レンズ28の後方に設けられた集光レンズ30を通って、このチャックテーブル26の保持面において保持されているインゴット11の内部の異なる位置に集光される様子が示されている。
【0054】
この場合、改質用レーザービームLB1及び気化用レーザービームLB2は、気化用レーザービームLB2が集光される集光点を改質用レーザービームLB1が集光される集光点に追従させるようにインゴット11に照射される。なお、集光レンズ28は、例えば、ガラス等からなる。また、集光レンズ30は、例えば、ZnSe等からなる。
【0055】
図6、
図7及び
図8のそれぞれに示されるように剥離層形成ステップS1及び加熱ステップS2が並行して実施される場合、インゴット11における改質用レーザービームLB1が集光される集光点(第一の集光点)の軌跡と気化用レーザービームLB2が集光される集光点(第二の集光点)の軌跡とが重なる。そして、この場合、加熱ステップS2が剥離層形成ステップS1の後に実施される場合と比較して、インゴット11から基板を製造する際のスループットを向上させることができる。
【0056】
また、加熱ステップS2においては、改質部15に含まれる炭素と酸素とが反応して二酸化炭素が生成されるようにインゴット11が加熱されればよく、そのための気化用レーザービームLB2の照射条件に限定はない。例えば、加熱ステップS2は、第二の集光点を剥離層19の外部に位置付けた状態、すなわち、デフォーカスの状態で実施されてもよい。
【0057】
あるいは、加熱ステップS2は、第二の集光点が剥離層19の内部に位置付けられるものの、インゴット11の表面11aからインゴット11から製造される基板の厚みに相当する所定の深さからずれた深さに第二の集光点を位置付けた状態で実施されてもよい。すなわち、加熱ステップS2は、剥離層形成ステップS1において第一の集光点が位置付けられる深さからずれた深さに第二の集光点を位置付けた状態で実施されてもよい。
【0058】
また、加熱ステップS2においては、剥離層19においてインゴット11の一部が劈開されるものの残部が劈開されることなく残存してもよい。
図9は、このように実施される加熱ステップS2を備えるダイヤモンド基板の製造方法の一例を模式的に示すフローチャートである。
【0059】
この方法においては、剥離層形成ステップS1及び加熱ステップS2を実施した後に、剥離層19を起点としてインゴット11から基板を剥離する(剥離工程S3)。
図10(A)及び
図10(B)のそれぞれは、剥離工程S3の様子を模式的に示す側面図である。この剥離工程S3は、剥離装置32において実施される。剥離装置32は、
図4に示されるチャックテーブル4と同様の構造を有するチャックテーブル34を備える。
【0060】
チャックテーブル34は、テーブル側吸引機構(不図示)に連結されている。このテーブル側吸引機構は、例えば、真空ポンプ等を有する。そして、このテーブル側吸引機構が動作すると、チャックテーブル34の保持面近傍の空間に吸引力が作用する。そのため、保持面にインゴット11が置かれた状態でテーブル側吸引機構が動作すると、チャックテーブル34の保持面においてインゴット11が保持される。
【0061】
チャックテーブル34の上方には、剥離ユニット36が設けられている。この剥離ユニット36は、下面に複数の吸引口が形成されている吸引板38を有する。この複数の吸引口は、吸引板38の内部に形成されている吸引路を介して真空ポンプ等の剥離ユニット側吸引機構に連通している。そして、剥離ユニット側吸引機構が動作すると、吸引板38の下面近傍の空間に吸引力が作用する。
【0062】
また、吸引板38の上面には、鉛直方向移動機構40が連結されている。この鉛直方向移動機構40は、例えば、ボールねじ及びモータ等を有する。そして、鉛直方向移動機構40が動作すると、鉛直方向に沿って吸引板38が移動する。
【0063】
剥離装置32において剥離工程S3を実施する際には、まず、チャックテーブル34と吸引板38とを十分に離隔させた状態で、その内部に剥離層19が形成されているインゴット11を表面11aが上になるようにチャックテーブル34の保持面に置く。次いで、チャックテーブル34の保持面においてインゴット11が保持されるようにテーブル側吸引機構を動作させる。
【0064】
次いで、吸引板38の下面をインゴット11の表面11aに接触させるように、鉛直方向移動機構40が吸引板38を下降させる(
図10(A)参照)。次いで、インゴット11の表面11a側が上方に向かって吸引されるように、剥離ユニット側吸引機構を動作させる。次いで、吸引板38をチャックテーブル34から離隔させるように、鉛直方向移動機構40が吸引板38を上昇させる(
図10(B)参照)。
【0065】
これにより、インゴット11の表面11a側と裏面11b側とを引き離すような外力がインゴット11に加えられて剥離層19に含まれるクラック17がさらに伸展する。その結果、剥離層19においてインゴット11が劈開して基板21が製造される。以上によって、剥離工程S3、すなわち、
図9に示されるダイヤモンド基板の製造方法が完了する。
【0066】
なお、剥離装置32は、インゴット11から既に剥離され、かつ、インゴット11の上に置かれた基板21を上方に向かって吸引することによって、インゴット11から基板21を分離させるために利用されてもよい。
【0067】
また、剥離工程S3は、どのような方法で実施されてもよい。例えば、剥離工程S3においては、インゴット11の側面11cから剥離層19に楔を打ち込むことによってインゴット11の表面11a側と裏面11b側とを引き離すような外力がインゴット11に加えられてもよい。
【0068】
また、ダイヤモンド基板の製造に利用される被加工物は、ダイヤモンドの結晶面(001)以外の結晶面(例えば、結晶面(110))が表面に露出するように製造されたインゴットであってもよい。
【0069】
また、ダイヤモンド基板の製造に利用される被加工物は、例えば、製造される基板21の2倍以上5倍以下の厚さを有するベアウエーハであってもよい。なお、このベアウエーハは、例えば、上述した方法と同様の方法によってインゴット11から剥離されることによって製造される。この場合、基板21は、上述した方法を2回繰り返すことによって製造されると表現することもできる。
【0070】
また、ダイヤモンド基板の製造に利用される被加工物は、このベアウエーハの一面に半導体デバイスを形成することによって製造されるデバイスウエーハであってもよい。この場合、改質用レーザービーム及び気化用レーザービームは、半導体デバイスへの悪影響を防止するために、デバイスウエーハの半導体デバイスが形成されていない側からデバイスウエーハに照射されることが好ましい。
【0071】
その他、上述した実施形態にかかる構造及び方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0072】
2 :レーザー加工装置
4 :チャックテーブル
6 :レーザービーム照射ユニット
8 :ヘッド
10:ハウジング
11:インゴット(11a:表面、11b:裏面、11c:側面)
12:撮像ユニット
13:オリエンテーションフラット
14:チャックテーブル
15:改質部
16:集光レンズ
17:クラック
18:ミラー
19:剥離層
20:チャックテーブル
21:基板
22:集光レンズ
24:集光レンズ
26:チャックテーブル
28:集光レンズ
30:集光レンズ
32:剥離装置
34:チャックテーブル
36:剥離ユニット
38:吸引板
40:鉛直方向移動機構