(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023453
(43)【公開日】2025-02-17
(54)【発明の名称】Setothosea asignaに対して生理活性な組成物、これを含む防除用徐放性製剤及び防除方法
(51)【国際特許分類】
A01N 35/02 20060101AFI20250207BHJP
A01P 19/00 20060101ALI20250207BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20250207BHJP
A01M 1/14 20060101ALI20250207BHJP
A01M 1/02 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
A01N35/02
A01P19/00
A01N25/00 102
A01M1/14 A
A01M1/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127573
(22)【出願日】2023-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】轡田 康彦
(72)【発明者】
【氏名】三宅 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 武
【テーマコード(参考)】
2B121
4H011
【Fターム(参考)】
2B121AA12
2B121BA03
2B121CC14
2B121EA24
2B121FA07
4H011AC07
4H011BA06
4H011BB05
4H011BC03
4H011BC09
4H011DA13
4H011DB02
4H011DD07
4H011DF02
4H011DF03
(57)【要約】
【課題】
Setothosea asignaの誘引を長期間継続できる経済的な組成物等を提供する。
【解決手段】100質量部の(9E)-9-ドデセナール、1~40質量部の(9Z)-9-ドデセナール及び1~70質量部の(9E)-9,11-ドデカジエナールを少なくとも含む組成物を提供し、前記組成物と、前記組成物を担持又は収納し、少なくとも前記(9E)-9-ドデセナール、前記(9Z)-9-ドデセナール及び前記(9E)-9,11-ドデカジエナールを徐放するための担持体又は容器とを少なくとも含むSetothosea asigna防除用徐放性製剤を提供し、前記徐放性製剤を圃場に設置して、少なくとも前記(9E)-9-ドデセナール、前記(9Z)-9-ドデセナール及び前記(9E)-9,11-ドデカジエナールを圃場に放出するステップを少なくとも含むSetothosea asignaの防除方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
100質量部の(9E)-9-ドデセナール、
1~40質量部の(9Z)-9-ドデセナール、及び
1~70質量部の(9E)-9,11-ドデカジエナール
を少なくとも含む組成物。
【請求項2】
100質量部の(9E)-9-ドデセナール、1~40質量部の(9Z)-9-ドデセナール、及び1~70質量部の(9E)-9,11-ドデカジエナールを少なくとも含む組成物と、
前記組成物を担持又は収納し、少なくとも前記(9E)-9-ドデセナール、前記(9Z)-9-ドデセナール及び前記(9E)-9,11-ドデカジエナールを放出するための担持体又は容器と
を少なくとも含むSetothosea asigna防除用徐放性製剤。
【請求項3】
請求項2に記載の徐放性製剤を圃場に設置して、少なくとも前記(9E)-9-ドデセナール、前記(9Z)-9-ドデセナール及び前記(9E)-9,11-ドデカジエナールを圃場に放出するステップを少なくとも含むSetothosea asignaの防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Setothosea asignaに対して生理活性な組成物及びこれを含む防除用徐放性製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
Nettle caterpillar(イラガ)(学名:Setothosea asigna、以下、本学名で示す。)は、インドネシア、マレーシア等の東南アジアにおけるアブラヤシ(Oil Palm)の重要害虫である。本害虫が起こすヤシの葉の食害は、アブラヤシの収穫量を大きく下げてしまうことから、プランテーションにおいて大きな問題となっている。また、環境負荷低減やプランテーション内作業者の健康管理の観点から、使用できる殺虫剤に限りがあり、効果的な防除が難しくなっている。そこで近年、生物学的防除方法が注目されつつあり、その一つとして性フェロモン物質の利用による防除が期待されている。
【0003】
性フェロモン物質を利用した防除方法としては、フェロモン誘引剤で成虫を誘引し、一定の場所に集めて捕獲(捕殺)することで圃場内の害虫密度を低下させる大量誘殺法もしくは誘引殺虫法(Mass trapping or Attract and kill)、フェロモン誘引剤と忌避物質を使用して、害虫を一定方向へ移動させて捕獲(捕殺)することで圃場内の害虫密度を低下させるプッシュ-プル法(Push-pull)、フェロモン誘引剤で成虫を誘引し病原体に感染させた上で圃場へ放出し、圃場内で対象とする害虫に病原体を感染させることで害虫密度を低下させる誘引感染法(Attract and infect)、フェロモン剤を設置して圃場内で交尾相手を見つけられなくすることで次世代の害虫密度を低下させる交信かく乱法(Mating disruption)が挙げられる(非特許文献1)。
上記いずれの防除方法においても対象とする害虫を強力に長期間誘引できる誘引組成物が重要である。
【0004】
Setothosea asignaのフェロモン腺抽出及びGC-EAD(GC-electroantennographic detection:触角電位検出器付きガスクロマトグラフィー)による分析の結果、Setothosea asignaのフェロモン候補化合物は、10-ウンデセナール、ドデカナール、(9E)-9-ドデセナール、(9Z)-9-ドデセナール、(9E)-9-ドデセノール、(9E)-9,11-ドデカジエナール及び(9E)-9,11-ドデカジエノールの7種類の化合物であることが報告された(非特許文献2)。さらに、圃場誘引試験により、(9E)-9-ドデセナールと(9E)-9,11-ドデカジエナールの質量比100:100混合組成物(即ち、各成分が等量含まれた混合組成物)を用いた場合はSetothosea asignaを誘引することができ、一方で(9E)-9-ドデセナールと(9E)-9,11-ドデカジエナールの質量比100:10混合組成物を用いた場合はSetothosea asignaを誘引できないことが明らかとなり、かつ、同文献中の試験においては(9E)-9-ドデセナールと(9E)-9,11-ドデカジエナール以外のフェロモン候補化合物は誘引に必須ではなく、誘引を増強する効果も認められなかったことから、(9E)-9-ドデセナール及び(9E)-9,11-ドデカジエナールのみがSetothosea asignaの性フェロモンと特定された(非特許文献2)。
【0005】
このように、Setothosea asignaの性フェロモンは、(9E)-9-ドデセナールと、末端共役アルカジエナール化合物の一つである(9E)-9,11-ドデカジエナールとの混合物であることが報告されており、(9Z)-9-ドデセナールは、不活性成分であることが示唆されている(非特許文献2)。
ここで、(9Z)-9-ドデセナールは、(9E)-9-ドデセナールの幾何異性体であり、Setothosea asignaの類縁種Setora nitensの性フェロモンである(非特許文献3)。
【0006】
ところで、フェロモン物質と構造が似ている化合物が当該フェロモン物質と同じ働きをするかは、虫毎に異なり、かえって阻害因子となる場合も報告されている。例えば、南米トマトの害虫であるTomato fruit borer(トマトフルーツボーラー:Neoleucinodes elegantalis)の場合は、(11E)-11-ヘキサデセノールが性フェロモン主成分、(3Z,6Z,9Z)-3,6,9-トリコサトリエンが性フェロモン副成分であり、性フェロモン主成分(11E)-11-ヘキサデセノールの幾何異性体である(11Z)-11-ヘキサデセノールの添加は誘引数を大きく減少させることが報告されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】B.S.Hansson(Ed.),Insect Olfaction,Chapter12“Applied Aspects of Insect Olfaction”,1999,352-377.
【非特許文献2】Yorianta Sasaerila et al.,J.Chem.Ecol.,1997,23(9):2187-2196.
【非特許文献3】Yorianta Sasaerila et al.,J.Chem.Ecol.,2000,26(8):1983-1990.
【非特許文献4】Aivle Cabrera,J.Chem.Ecol.,2001,27(10),2097.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献2の
図3のExperiment1、2、7及び8によれば、圃場試験に用いた多数の誘引組成物のうち、生理活性成分として(9E)-9-ドデセナール及び(9E)-9,11-ドデカジエナールの質量比100:100混合組成物(即ち、各成分が等量含まれた混合組成物)が最も活性が高く、雄に対する誘引活性を確認できたものの、誘引数自体は3~15日間の試験で最大5頭と極めて少なく、誘引活性並びに誘引性評価試験そのものが十分とは言えなかった。さらに、著者も述べている通り、紫外線や空気中酸素の影響により性フェロモン成分が分解されて長期間の誘引を維持できないことが大きな課題であった。これは安定性がより低く高分子化が進行しやすい(9E)-9,11-ドデカジエナールを多量に用いているため、製剤表面で(9E)-9,11-ドデカジエナールが高分子化して、剤から放出されるフェロモン組成比が乱れることや、剤に高分子の膜が形成されることにより、揮発性のフェロモン化合物そのものが放出されにくくなることが原因と考えられる。
【0009】
Setothosea asignaは東南アジア地域において年間通して発生可能であるため、短期間しか効果が持続しない誘引組成物では頻繁に更新しなければならず、多大な労力が必要になる。さらに、短期間しか効果が持続しない誘引組成物では、使用中にライフが切れて誘引されていなかったということも起こり得るため、虫の発生消長を正確に把握することが難しくなり、時には防除のタイミングを逸するため甚大な農業被害を被ることもあり得る。また、(9E)-9-ドデセナールよりも製造に手間がかかるため高価である末端アルカジエナール化合物(9E)-9,11-ドデカジエナールを(9E)-9-ドデセナールと同等量用いる必要があるため経済的観点からも実用化に大きな問題があった。このため、誘引組成物の実用化に向けては、Setothosea asignaによる農業被害の甚大さも鑑み、長期間使用可能で経済的な誘引組成物及び製剤が強く望まれていた。
【0010】
長期放出を維持するためには、上記の様に不安定な化合物である(9E)-9,11-ドデカジエナールの添加量を減らすことが望ましい。すなわち、より安定な(9E)-9-ドデセナールの添加量を増やすことにより、不安定な(9E)-9,11-ドデカジエナールが(9E)-9-ドデセナールで希釈され安定化されることによって高分子化や高分子膜の生成を防ぎ長期放出を維持できると考えられる。しかしながら、非特許文献2にも記載されている通り、(9E)-9-ドデセナールに対する(9E)-9,11-ドデカジエナールの割合が低下すると誘引力そのものが低下し、目的の誘引能力を維持できないことが問題であった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、Setothosea asignaの誘引を長期間継続できる経済的な組成物、その組成物を用いた防除用徐放性製剤及び防除方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するためにSetothosea asignaの誘引試験を実施した結果、Setothosea asignaの類縁種の性フェロモンであり安価に製造可能な(9Z)-9-ドデセナールを添加することにより、(9E)-9-ドデセナールに対する(9E)-9,11-ドデカジエナールの割合が低下した場合でも、すなわち、(9E)-9-ドデセナール及び(9E)-9,11-ドデカジエナールの質量比100:1~100:70の混合物でも、Setothosea asignaに対する十分な誘引力を有することを見出し、誘引力を更に向上させることが可能であることを見出した。すなわち、所定量の(9Z)-9-ドデセナールは誘引を増強させる可能性がある成分であることを見出した。さらに、本組成物で徐放性製剤を製造した結果、長期間使用可能で誘引能力の極めて優れた剤となることを見出し、本発明を為すに至った。
【0013】
本発明の一つの態様によれば、100質量部の(9E)-9-ドデセナール、1~40質量部の(9Z)-9-ドデセナール及び1~70質量部の(9E)-9,11-ドデカジエナールを少なくとも含む組成物が提供される。
本発明の他の態様では、前記組成物と、前記組成物を担持又は収納し、少なくとも前記(9E)-9-ドデセナール、前記(9Z)-9-ドデセナール及び前記(9E)-9,11-ドデカジエナールを放出するための担持体又は容器とを少なくとも含むSetothosea asigna防除用徐放性製剤が提供される。
本発明の更に他の態様では、前記徐放性製剤を圃場に設置して、少なくとも前記(9E)-9-ドデセナール、前記(9Z)-9-ドデセナール及び前記(9E)-9,11-ドデカジエナールを圃場に放出するステップを少なくとも含むSetothosea asignaの防除方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、より多くのSetothosea asignaの雄成虫を特異的に誘引し、より詳細な発生状況を知るのに有効かつ経済的な組成物を得ることができる。また、前記組成物を用いて徐放性製剤とすることにより、大量誘殺や、交信かく乱等への応用により、直接的に本種を防除することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1及び参考例1の(9E)-9-ドデセナールの質量の残存率の経時変化の結果を示す。
【
図2】実施例1及び参考例1の(9Z)-9-ドデセナールの質量の残存率の経時変化の結果を示す。
【
図3】実施例1及び参考例1の(9E)-9,11-ドデカジエナールの質量の残存率の経時変化の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、(9E)-9-ドデセナール(1)、(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)及び(9Z)-9-ドデセナール(2)を少なくとも含む組成物について説明する。この組成物は、Setothosea asignaに対して生理活性を有する。なお、これら3種類の化合物の確認を容易にするため、化合物名に続けて、化合物1、化合物2又は化合物3を意味する符号(1)、(2)又は(3)を付すことにする。
(9E)-9-ドデセナール(1)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)は、上述したように、これら2種類のみがSetothosea asignaの性フェロモンと特定されている(非特許文献2)。したがって、(9E)-9-ドデセナール(1)又は(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)を含む組成物は、Setothosea asignaに対して生理活性を有する。
【0017】
(9Z)-9-ドデセナール(2)は、(9E)-9-ドデセナール(1)の幾何異性体であり、上述したように、Setothosea asignaの類縁種Setora nitensの性フェロモンである(非特許文献3)。(9Z)-9-ドデセナール(2)は、Setothosea asignaの誘引において誘引性能を増強させるという報告はこれまでになく、むしろ上述したように、不活性成分であることが示唆されている(非特許文献2)。
また、上述したように、フェロモン物質と構造が似ている化合物が当該フェロモン物質と同じ働きをするかは、虫毎に異なり、かえって阻害因子となる場合も報告されている。虫の性フェロモン類縁化合物や幾何異性体の誘引への影響は虫毎に異なるため、実際に誘引試験を実施して確認する必要がある。更に一般的には、同所的に存在しうる類縁種の性フェロモンに誘引されると交雑により淘汰される可能性が高まるため、進化の過程で類縁種の性フェロモンを忌避する様に進化することが多分にある。したがって、Setothosea asignaの場合、同所的に存在しうる類縁種Setora nitensの性フェロモンである(9Z)-9-ドデセナール(2)が誘引を増強させるとは当初考えられなかった。
【0018】
(9E)-9-ドデセナール(1)、(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)及び(9Z)-9-ドデセナール(2)は、性フェロモン等を抽出した天然抽出物であってもよいが、経済的観点から人工的に合成された化合物であることが好ましい。
【0019】
(9E)-9-ドデセナール(1)は、例えば、特開2023-025200号公報に記載のように、(3E)-11-ハロ-3-ウンデセン化合物を(8E)-8-ウンデセニル求核試薬に変換後、オルトギ酸エステルとの求核付加反応により、(9E)-1,1-ジアルコキシ-9-ドデセン化合物を得るステップと、得られた(9E)-1,1-ジアルコキシ-9-ドデセン化合物を加水分解するステップを少なくとも含む方法により製造することができる。
【0020】
(9Z)-9-ドデセナール(2)は、例えば、上記特開2023-025200号公報に記載のように、(3Z)-11-ハロ-3-ウンデセン化合物を(8Z)-8-ウンデセニル求核試薬に変換後、オルトギ酸エステルとの求核付加反応により、(9Z)-1,1-ジアルコキシ-9-ドデセン化合物を得るステップと、得られた(9Z)-1,1-ジアルコキシ-9-ドデセン化合物を加水分解するステップを少なくとも含む方法により製造することができる。
【0021】
(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)は、例えば、特開2022-060174号公報に記載のように、(3E)-1-ハロ-12,12-ジアルコキシ-3-ドデセン化合物から塩基による脱離反応により(3E)-12,12-ジアルコキシ-1,3-ドデカジエン化合物を得るステップと、得られた(3E)-12,12-ジアルコキシ-1,3-ドデカジエン化合物を加水分解反応するステップとを少なくとも含む方法により製造することができる。
【0022】
(9E)-9-ドデセナール(1)、(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)の混合割合(1):(2):(3)は、雄成虫が誘引される範囲であれば特に限定されないが、具体的には、(9E)-9-ドデセナール(1)が100質量部に対して、(9Z)-9-ドデセナール(2)が1~40質量部のときに、(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)が1~70質量部である。
(9Z)-9-ドデセナール(2)の添加量は、誘引活性の観点から、(9E)-9-ドデセナール(1)100質量部に対して、1~40質量部、好ましくは1~35質量部、より好ましくは1~30質量部、更に好ましくは10~30質量部、特に好ましくは25~30質量部である。ただし、(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)の添加量によっては、1~5質量部が特に好ましい場合もある。
(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)の添加量は、誘引活性及び放出の安定性の観点から、(9E)-9-ドデセナール(1)100質量部に対して、1~70質量部、好ましくは5~70質量部、より好ましくは10~70質量部、更に好ましくは10~50質量部、特に好ましくは25~35質量部である。ただし、(9Z)-9-ドデセナール(2)の添加量によっては、5~15質量部が特に好ましい場合もある。
【0023】
(9E)-9-ドデセナール(1)、(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)の混合割合(1):(2):(3)の組合せとしては、
(9E)-9-ドデセナール(1):100質量部に対して、
(9Z)-9-ドデセナール(2):1~40質量部のときに、
(9E)-9,11-ドデカジエナール(3):1~70質量部であり;
好ましい組合せとしては、
(9E)-9-ドデセナール(1):100質量部に対して、
(9Z)-9-ドデセナール(2):1~35質量部のときに、
(9E)-9,11-ドデカジエナール(3):5~70質量部であり;
より好ましい組合せとしては、
(9E)-9-ドデセナール(1):100質量部に対して、
(9Z)-9-ドデセナール(2):1~30質量部のときに、
(9E)-9,11-ドデカジエナール(3):10~70質量部であり;
更に好ましい組合せとしては、
(9E)-9-ドデセナール(1):100質量部に対して、
(9Z)-9-ドデセナール(2):10~30質量部のときに、
(9E)-9,11-ドデカジエナール(3):20~70質量部であり;
特に好ましい組合せとしては、
(9E)-9-ドデセナール(1):100質量部に対して、
(9Z)-9-ドデセナール(2):1~5質量部のときに、
(9E)-9,11-ドデカジエナール(3):25~35質量部であり;
又は
(9E)-9-ドデセナール(1):100質量部に対して、
(9Z)-9-ドデセナール(2):25~30質量部のときに、
(9E)-9,11-ドデカジエナール(3):5~15質量部である。
(9E)-9-ドデセナール(1)、(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)には、製造上不可避な不純物が含まれていても良い。
【0024】
前記生理活性な組成物は、添加剤として、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤を含有してもよい。
酸化防止剤として、2,6-ジtert-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)、4,4’-ブチリデンビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)(BBMTBP)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)(MBMTBP)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、ヒドロキノン、ビタミンE等が挙げられる。
紫外線吸収剤として、2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシベンゾフェノン、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール(HBMCBT)等が挙げられる。
前記生理活性な組成物を徐放性製剤に用いる場合に、添加剤は(9E)-9-ドデセナール(1)、(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)とともに放出される化合物でもよいが、放出されずに残存する化合物であってもよい。
前記生理活性な組成物中におけるそれぞれの添加剤の含有量は、(9E)-9-ドデセナール(1)、(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)の合計量に対して、例えば、酸化防止剤は0.5~50質量%が好ましく、紫外線吸収剤は0.5~50質量%が好ましい。
【0025】
次に、前記生理活性な組成物と、前記生理活性な組成物を担持又は収納し、少なくとも前記(9E)-9-ドデセナール(1)、(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)を放出するための担持体又は容器とを少なくとも含む徐放性製剤について説明する。放出は、徐放性製剤であることから徐放が好ましい。
(9E)-9-ドデセナール(1)、(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)の圃場への放出は、該害虫の防除ができれば特に限定されないが、例えば、前記生理活性な組成物を含浸させた担持体を備える徐放性製剤や前記生理活性な組成物を入れたキャップ、チューブ、カプセル、ビーズ、ボトル、アンプル、缶又は袋等の容器を備える徐放性製剤等を用いることにより行われる。
【0026】
徐放性製剤としては、担持体又は容器等からフェロモン化合物等の有効成分を、害虫の防除又はその他の目的のために、所望の期間、一定間隔又は不定期に少量ずつ放出できる製剤であればよく、例えば、ルアー製剤、リザーバータイプ製剤、マトリックス製剤、エアゾール製剤、及び散布型製剤が挙げられる。所望の期間は、気候及び地域等に依存するが、Setothosea asignaが発生する期間を考慮して、例えば、1度の製剤の設置であれば例えば2~3か月の期間、2度の製剤の設置であれば例えば5~6か月の期間である。この時、担持体又は容器等から能動的、受動的に放出されるかは関係なく、フェロモン化合物等の有効成分を、例えば圃場に放出できればよい。
【0027】
Setothosea asigna防除用徐放性製剤は、前記生理活性な組成物と、前記生理活性な組成物を担持又は収納し、生理活性な組成物中の少なくとも(9E)-9-ドデセナール(1)、(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)を放出するための担持体又は容器を備える。
担持体を備える徐放性製剤は、例えば担持体への練り込みや含浸等、周知の技術で製造することができる。担持体の形や大きさは、施用方法や施用量によって異なる。例えば、リング状の担持体を備える手付け製剤であれば、リング直径が好ましくは0.01~5m、球や楕円の形を有する粒状の担持体を備える散布製剤であれば、粒の直径(楕円の場合は長辺)が好ましくは0.01~10cmである。担持体への担持量は、施用方法や施用量によって異なるが、1製剤当たり好ましくは0.01mg~100g、より好ましくは1mg~10gである。
【0028】
容器を備える徐放性製剤は、例えば、高分子製チューブ状容器に前記生理活性な組成物等を注入し、チューブの両端を封鎖する方法や、缶に前記生理活性な組成物等を充填し、噴霧可能なバルブを取り付ける方法等、周知の技術で製造することができる。
【0029】
容器を備える徐放性製剤には必要に応じて希釈剤を用いてもよい。希釈剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、トルエン等の炭化水素類;酢酸エチル、酢酸n-ブチル、デシル=アセテート、ドデシル=アセテート、テトラデシル=アセテート、ヘキサデシル=アセテート等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル等のエーテル類;1-デカノール、1-ドデカノール、1-テトラデカノール、1-ヘキサデカノール等のアルコール類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;N,N-ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒類;ケロシン、流動パラフィン、琥珀油、クレオソート油等の鉱物油類;ひまし油、亜麻仁油、サラダ油、コーン油、大豆油、ごま油、菜種油、ベニバナ油、ひまわり油、パーム油、オリーブオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、グレープシードオイル、ホホバオイル、ローズヒップオイル、アボカドオイル、ヘーゼルナッツオイル、オレンジ油等の植物油類;魚油、ラノリンオイル、スクワラン、卵黄油、肝油、馬油、ミンクオイル等の動物油類;エステル油等の合成油類等が挙げられる。
希釈剤の添加量は、(9E)-9-ドデセナール(1)、(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)の合計量100質量部に対して、好ましくは0~10,000質量部である。
【0030】
容器として缶を備える徐放性製剤には噴射剤を使用する。噴射剤としては、プロパン、プロピレン、n-ブタン、イソブタン等の液化石油ガスやジメチル=エーテル(以下、「DME」ともいう。)等の液化ガス;HFC-152a、HFC-134a、HFO-1234yf、HFO-1234ze等のハロゲン化炭素ガス;炭酸ガス;窒素ガス;圧縮空気等の圧縮ガス等の1種又は2種以上を用いることができる。
噴射剤は、(9E)-9-ドデセナール(1)、(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)、上記添加剤及び希釈剤の合計量と噴射剤の質量比が、防除効果の観点から80:20~25:75であることが好ましく、45:55~65:35であることがより好ましい。
容器として缶を備える徐放性製剤における充填量は、防除効果の観点から、好ましくは0.01mg~500g、より好ましくは1mg~200gである。紫外線及び空気を遮蔽可能な缶の中では不安定なフェロモン物質でも保管できるが、不安定なフェロモン物質を少しずつ放出する際に、従来の徐放性製剤では、ノズルから出たフェロモン物質が高分子化してノズルを閉塞させ、徐放性製剤として機能しなくなる場合がある。しかし、上記3種類の化合物(1)、(2)及び(3)を組合せることにより、徐放性を確保できる。
容器として徐放性製剤が備える缶は、生理活性な組成物中の少なくとも(9E)-9-ドデセナール(1)と(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)を一定期間放出できる素材であれば特に限定されないが、材質としては金属が挙げられる。缶に使用する金属は噴霧や散布に使用できるものであればよく、アルミニウムやステンレス、スチールが挙げられる。
【0031】
チューブ状容器を備える徐放性製剤は、(9E)-9-ドデセナール(1)、(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)を少なくとも含む組成物を収納でき、(9E)-9-ドデセナール(1)、(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)を放出する期間が長く、放出が均一であるため適切である。適度な速度での放出が保たれる点から、チューブ状容器の材質にも依存するが、その内径は、好ましくは0.01~5.0mm、その肉厚は、好ましくは0.05~3.0mmである。
【0032】
チューブ状容器を備える徐放性製剤のチューブ状容器は、適度な速度での放出が保たれる点から、好ましくは高分子製である。
高分子としては、(9E)-9-ドデセナール(1)と(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)等が透過し、適度な速度で高分子膜の外に放出させることができる素材が好ましい。具体的には、例えば、cis-ポリイソプレンに例示される天然ゴム、イソプレンゴムやブタジエンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)に例示される合成ゴム、ポリエチレンやポリプロピレンに例示されるポリオレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合体やエチレン-アクリル酸エステル共重合体に例示されるエチレンを80重量%以上含む共重合体、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート及びセルロースに例示される生分解性プラスチック、酢酸ビニル及び塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。経済性や汎用性等の観点から合成ゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ乳酸が好ましい。これらの高分子は、膜厚を厚くすることにより、透過を抑えて噴霧容器としても使用可能である。
【0033】
単位面積当たりの投与量を変えずに放出箇所を少なくする場合には、チューブ状容器を備える徐放性製剤1本の単位長さ当たりの充填量は変えずに、チューブ状容器を備える徐放性製剤の長さを変えることが望ましい。その長さは、好ましくは0.2~100m、より好ましくは0.2~20m、更に好ましくは0.3~10mである。ただし、チューブ状容器を備える徐放性製剤を2連以上にした場合には、その限りではない。この場合のチューブ状容器を備える徐放性製剤1本の1m当たりの充填量は、好ましくは0.005~5.5gである。
【0034】
担持体を備える徐放性製剤に使用する担持体は、前記生理活性な組成物を安定に保持でき、前記生理活性な組成物中の少なくとも(9E)-9-ドデセナール(1)、(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)を一定期間放出できる素材であれば、特に限定されない。このような素材としては、例えば、cis-ポリイソプレンに例示される天然ゴム、イソプレンゴムやブタジエンゴムに例示される合成ゴム、ポリエチレンやポリプロピレンに例示されるポリオレフィン、メタケイ酸ナトリウム、シリカゲル、石英、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリグリコール酸、ポリブチレンサクシネート、変性ポリビニルアルコール、カゼイン、変性澱粉、ポリヒドロキシ酪酸等のポリヒドロキシアルカン酸、セルロース、アセチルセルロース等の多糖誘導体、ゼオライト等の鉱物等が挙げられる。さらに、これらの素材を多孔質構造に加工することで前記生理活性な組成物をより多く保持させることも可能となる。
【0035】
徐放性製剤が備えるチューブ状及び缶以外の容器は、生理活性な組成物中の少なくとも(9E)-9-ドデセナール(1)、(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)を一定期間放出できる素材であれば特に限定されないが、キャップ、ラミネート袋、カプセル、ビーズ、ボトル、アンプル等の形状で、材質は高分子製のものが挙げられる。
チューブ状以外の高分子製容器の高分子の例は、チューブ状容器で挙げられた高分子の例と同じである。これらの高分子は、膜厚を厚くすることにより、透過を抑えて噴霧容器としても使用可能である。
【0036】
次に、(9E)-9-ドデセナール(1)、(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)を少なくとも含む生理活性な組成物と、前記生理活性な組成物を担持又は収納し、生理活性な組成物中の少なくとも前記(9E)-9-ドデセナール(1)、(9Z)-9-ドデセナール(2)及び前記(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)を放出するための担持体又は容器とを少なくとも含む徐放性製剤を圃場に設置し、少なくとも前記(9E)-9-ドデセナール(1)、(9Z)-9-ドデセナール(2)及び前記(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)を圃場に放出するステップを少なくとも含むSetothosea asignaの防除方法について説明する。
Setothosea asignaの防除方法としては、大量誘殺法もしくは誘引殺虫法(Mass trapping or Attract and kill)、プッシュ-プル法(Push-pull)、誘引感染法(Attract and infect)及び交信かく乱法(Mating disruption)が挙げられる。本発明によれば、前記徐放性製剤は、特に、圃場に存在するSetothosea asignaを対象とするこれらの防除方法に好ましく適用できる。
Setothosea asignaの生理活性な組成物中の少なくとも(9E)-9-ドデセナール(1)、(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)の圃場への放出は、該害虫の防除ができれば特に限定されないが、例えば、前述の徐放性製剤を用い、能動的又は受動的に行うのが望ましい。能動的な放出(徐放)方法としては、容器又は担持体として缶やスプレーボトル、スプリンクラー、灌漑設備からの噴霧や散布等が挙げられる。受動的な放出(徐放)方法としては容器や担持体からの透過等が挙げられる。
【0037】
徐放性製剤の圃場への設置は、特に限定されないが、容器や担持体からの透過又は放出、缶やスプレーボトルからの噴霧や散布の場合、例えば徐放性製剤の設置密度としては、防除を行う圃場内に均一に好ましくは0.10~2000箇所/ha、より好ましくは0.25~1000箇所/haである。一つの放出箇所からの放出量は、圃場環境や気象条件等によるが、圃場に均一に漂わせることができる量であれば特に制限はなく、好ましくは0.001~20g/日である。
スプリンクラー、灌漑設備からの噴霧、散布の場合、設備の設置密度としては、防除を行う圃場内に均一に好ましくは0.001~50箇所/ha、より好ましくは0.003~25箇所/haである。スプリンクラー、灌漑設備からの噴霧、散布における1回当たりの放出量は、圃場環境や気象条件等によるが、圃場に均一に漂わせることができる量であれば特に制限はなく、好ましくは0.000001~20000g/箇所/回で、放出頻度は好ましくは1~20回/日である。
以上のようにして、東南アジアのアブラヤシ重要害虫であるSetothosea asignaを防除することができる。
【実施例0038】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
実施例1、参考例1
(9E)-9-ドデセナール(1)、(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)を100:1:10の質量比にて混合した混合液10.00mg(実施例1)又は100:1:100の質量比にて混合した混合液10.00mg(参考例1)を内径0.84mm、膜厚0.55mm、長さ2cmのポリエチレンからなるチューブに封入することにより、徐放性製剤を製造した。得られた徐放性製剤を風速0.3m/秒、温度30℃を保った恒温槽に設置し、製剤内部の混合物を放出させた。
0日目、14日目、21日目、28日目に徐放性製剤を3本ずつ回収し、(9E)-9-ドデセナール(1)、(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)それぞれの残存量を内部標準法/ガスクロマトグラム分析により、定量した。さらに、(9E)-9-ドデセナール(1)、(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)のそれぞれの残存率について、3本の平均値を算出した。結果を
図1~
図3に示す。
【0039】
恒温槽内における試験の結果、(9E)-9-ドデセナール(1)、(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)を100:1:10の質量比で封入した実施例1では約1ヶ月間にわたって各成分が製剤内から放出され続けていたのに対し、(9E)-9-ドデセナール(1)と(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)を100:1:100の質量比で封入した参考例1では3成分全てにおいて約20日間経過時点から放出されていなかった。これは前述したように、参考例1では安定性がより低い(9E)-9,11-ドデカジエナールを多量に用いたため、製剤表面で(9E)-9,11-ドデカジエナールが高分子化して膜を形成したことにより、製剤内のフェロモン化合物の放出が妨げられたことが原因と考えられた。この結果から、(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)の割合が大きい製剤ではフェロモン成分を長期間放出し続けるのが困難であることが示された。
【0040】
実施例2、参考例2
(9E)-9-ドデセナール(1)と(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)を100:1:10の質量比にて混合した混合液7.08mg(実施例2)又は100:1:100の質量比にて混合した混合液7.05mg(参考例2)を調製した。混合液100質量部に対して、添加剤としてBHT(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール)を2.08質量部、HBMCBT(2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール)2.08質量部を加え、
Setothosea asignaに対して生理活性な組成物を製造した。前記組成物を内径0.84mm、膜厚0.55mm、長さ20cmのポリエチレンからなるチューブに封入することにより、徐放性製剤を製造した。
徐放性製剤の誘引性の評価には、白色粘着型トラップを用いた。白色粘着型トラップは、
図4に示すように、三角屋根と底板からなり、虫の侵入口が狭く作られている。そして、底板上面に粘着物質が貼付され、トラップ内に誘引剤を設置して使用する。すなわち、徐放性製剤に近づいてきた虫のみを捕獲し、対象外の虫の飛び込みをできるだけ排除する構造となっている。通常、誘引剤を粘着面に直に載せて使用するが、実施例2及び参考例2では、チューブ表面からの放出が粘着物質によって妨げられることのないように、U字型に曲げたチューブの両直線部分(曲線でない部分)を三角屋根の棟部分のスリットに差し込むことによってトラップに固定した。
図4中のAは、U字型に曲げたチューブ状徐放性製剤を示す。
2019年10月23日~11月6日の期間において、実施例2で製造した徐放性製剤がセットされたトラップ1台、又は参考例2で製造した徐放性製剤がセットされたトラップ1台を、
Setothosea asignaが生息するインドネシアのアブラヤシ園の4.5haの範囲内(実施例2と参考例2で合計9ha)に取り付けた。各トラップに誘殺された雄成虫数は7日おきに粘着板を回収し新しい粘着板と交換して、回収した粘着板上の雄成虫数を計測した。誘引数として、トラップ1台(7日間)に捕獲された雄成虫数を用い、誘引効果の評価を行った。結果を表1に示す。
【0041】
【0042】
(9Z)-9-ドデセナール(2)を含有することによって14日間で、実施例2ではSetothosea asignaを79頭、参考例2では26頭誘引することに成功した。さらに、(9Z)-9-ドデセナール(2)を含有する場合は、(9E)-9-ドデセナール(1)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)が等量含まれている参考例2よりも、(9E)-9-ドデセナール(1)に対する(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)の割合が小さい実施例2の方が誘引数は多かった。この結果から、不活性成分であると思われていた(9Z)-9-ドデセナール(2)を一定の割合にて添加することによって、(9E)-9-ドデセナール(1)に対する(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)の割合が小さい場合においてもSetothosea asignaの誘引性を維持することができる可能性があると考えられる。
【0043】
実施例3
(9E)-9-ドデセナール(1)と(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)を100:1:70の質量比にて混合した混合液60.0mgを調製した。混合液100質量部に対して、添加剤としてBHT(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール)を2.08質量部、HBMCBT(2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル(-5-クロロベンゾトリアゾール)2.08質量部を加え、
Setothosea asignaに対して生理活性な組成物を製造した。前記組成物を内径0.84mm、膜厚0.55mm、長さ17cmのポリエチレンからなるチューブに封入させることにより、徐放性製剤を製造した。
徐放性製剤の誘引性の評価には、実施例2と同様に、
図4に示す白色粘着型トラップを用い、チューブをU字型に曲げて、U字型に曲げた徐放性製剤のチューブの両直線部分(曲線でない部分)を三角屋根の棟部分のスリットに差し込むことによってトラップに固定した。
2023年2月23日~3月23日の期間において、徐放性製剤がセットされたトラップを、
Setothosea asignaが生息するアブラヤシ園の0.4haの範囲内に1台取り付けた。トラップに誘殺された雄成虫数は7日おきに粘着板を回収し新しい粘着板と交換して、回収した粘着板上の雄成虫数を計測した。誘引数として、トラップ1台(7日間)に捕獲された雄成虫数を用い、誘引効果の評価を行った。結果を表2に示す。
【0044】
実施例4
(9E)-9-ドデセナール(1)と(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)を100:1:30の質量比にて混合した混合液46.0mgに変更し、1日あたりの(9E)-9-ドデセナール(1)の放出量を実施例3と揃えるためにチューブ長を13cmに変更した以外は、実施例3と同様に製造、誘引効果の評価を行った。結果を表2に示す。
【0045】
実施例5
(9E)-9-ドデセナール(1)と(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)を100:1:10の質量比にて混合した混合液39.0mgに変更し、1日あたりの(9E)-9-ドデセナール(1)の放出量を実施例3と揃えるためにチューブ長を11cmに変更した以外は、実施例3と同様に製造、誘引効果の評価を行った。結果を表2に示す。
【0046】
実施例6
(9E)-9-ドデセナール(1)と(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)を100:1:5の質量比にて混合した混合液37.3mgに変更し、1日あたりの(9E)-9-ドデセナール(1)の放出量を実施例3と揃えるためにチューブ長を10.5cmに変更した以外は、実施例3と同様に製造、誘引効果の評価を行った。結果を表2に示す。
【0047】
実施例7
(9E)-9-ドデセナール(1)と(9Z)-9-ドデセナール(2)及び(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)を100:28:10の質量比にて混合した混合液48.2mgに変更し、1日あたりの(9E)-9-ドデセナール(1)の放出量を実施例3と揃えるためにチューブ長を11cmに変更した以外は、実施例3と同様に製造、誘引効果の評価を行った。結果を表2に示す。
【0048】
【0049】
実施例3~7の全ての試験において、(9E)-9-ドデセナール(1)の各封入量は35.0mgであり、同じであった。
実施例3~6の結果より、所定量の(9Z)-9-ドデセナール(2)を含有することによって、(9E)-9-ドデセナール(1)100質量部に対して(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)が5~70質量部であっても十分な誘引力があることが示された。また、実施例5及び7の結果より、(9Z)-9-ドデセナール(2)をより多く添加することにより、誘引数を増加させることができた。このように、非特許文献2の結果とは異なり所定量の(9Z)-9-ドデセナール(2)の添加により誘引数を増強でき、(9E)-9-ドデセナール(1)に対する(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)の含有割合が少なくても一定の誘引力を持続する剤を得ることに成功した。さらに、所定量の(9Z)-9-ドデセナール(2)を含有することによって、(9E)-9-ドデセナール(1)に対する(9E)-9,11-ドデカジエナール(3)の含有割合を減らすことが可能となり、結果として少なくとも4週間の長期にわたって誘引を持続することに成功した。
また、実施例4のみ更に4週間(計8週間)継続して実験を行った結果、8週目であっても9頭の雄成虫を捕獲でき、2ヶ月にわたり誘引を継続できることも確認した。