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特開2025-24473制御装置、シミュレーション方法及び積層体を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024473
(43)【公開日】2025-02-20
(54)【発明の名称】制御装置、シミュレーション方法及び積層体を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   B05C 11/10 20060101AFI20250213BHJP
   B05D 1/28 20060101ALI20250213BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20250213BHJP
   B05D 7/04 20060101ALI20250213BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20250213BHJP
   B05C 1/08 20060101ALI20250213BHJP
【FI】
B05C11/10
B05D1/28
B05D3/00 D
B05D7/04
B05D7/00 A
B05C1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128612
(22)【出願日】2023-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹中 聡史
(72)【発明者】
【氏名】別府 祥太朗
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 哲也
【テーマコード(参考)】
4D075
4F040
4F042
【Fターム(参考)】
4D075AC25
4D075AC26
4D075AC28
4D075AC34
4D075AC88
4D075AC91
4D075AC94
4D075AC96
4D075BB91Y
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA04
4D075DB31
4D075EC30
4F040AA22
4F040AB04
4F040AC01
4F040BA26
4F040CB16
4F040CB22
4F040CB33
4F040DA03
4F040DA07
4F040DA15
4F040DA20
4F042AA22
4F042AB00
4F042BA04
4F042BA15
4F042BA19
4F042CA01
4F042CA05
4F042CB20
4F042CB27
4F042CC02
4F042CC07
4F042DF19
4F042DF23
4F042DH09
(57)【要約】
【課題】刻々と変化するコーティング条件を一定の範囲に保つ。
【解決手段】制御装置は、固形成分と揮発成分とを含むコーティング剤の粘度を示す粘度情報を取得する粘度情報取得部と、コーティング剤を基材に塗布する塗布装置の動作状態と、コーティング剤の粘度とによって示される領域のうち、安定してコーティング処理がなされる安定領域を示す安定領域情報を記憶する記憶部から、安定領域情報を取得する安定領域情報取得部と、粘度情報取得部が取得する粘度情報と、安定領域情報取得部が取得する安定領域情報とに基づいて、塗布装置の動作状態および粘度のうち少なくとも1つを、制御条件として算出する算出部と、算出部が算出する制御条件に基づいて、塗布装置の動作状態と、固形成分と揮発成分とを調合してコーティング剤を塗布装置に供給する供給装置による供給状態とのうち少なくとも1つを制御する制御部と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形成分と揮発成分とを含むコーティング剤の粘度を示す粘度情報を取得する粘度情報取得部と、
前記コーティング剤を基材に塗布する塗布装置の動作状態と、前記コーティング剤の粘度とによって示される領域のうち、安定してコーティング処理がなされる安定領域を示す安定領域情報を記憶する記憶部から、前記安定領域情報を取得する安定領域情報取得部と、
前記粘度情報取得部が取得する前記粘度情報と、前記安定領域情報取得部が取得する前記安定領域情報とに基づいて、前記塗布装置の動作状態および前記粘度のうち少なくとも1つを、制御条件として算出する算出部と、
前記算出部が算出する前記制御条件に基づいて、前記塗布装置の動作状態と、前記固形成分と前記揮発成分とを調合して前記コーティング剤を前記塗布装置に供給する供給装置による供給状態とのうち少なくとも1つを制御する制御部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記塗布装置とは、グラビアリバースコート装置であり、
前記動作状態には、前記コーティング剤を基材に塗布するグラビアローラーの回転速度と、前記グラビアローラーの塗布位置に対して前記基材を相対移動させる速度である基材速度とが含まれ、
前記安定領域情報とは、前記回転速度に基づくキャピラリー数を第1軸とし、前記基材速度に基づくキャピラリー数を第2軸とし、前記コーティング剤の粘度に基づくキャピラリー数を第3軸とする空間内における、前記安定領域を示す情報であって、
前記算出部は、前記回転速度と、前記基材速度と、前記粘度のうち少なくとも1つを、制御条件として算出する
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記算出部は、前記粘度情報取得部が取得する前記粘度情報と、前記安定領域情報とに基づいて、前記塗布装置の動作状態を所与の条件とした場合の前記安定領域情報が示す前記安定領域の粘度を、前記制御条件として算出する
請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記制御条件として示される前記粘度に基づいて、前記供給装置から前記塗布装置に供給される前記コーティング剤の量を制御する
請求項1または請求項2に記載の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記制御条件として示される前記粘度に基づいて、前記供給装置による前記固形成分と前記揮発成分との調合割合を制御する
請求項1または請求項2に記載の制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記制御条件として示される前記粘度に基づいて、前記供給装置において前記揮発成分を揮発させる程度を制御する
請求項1または請求項2に記載の制御装置。
【請求項7】
固形成分と揮発成分とを含むコーティング剤を基材に塗布する塗布装置の動作状態と、前記コーティング剤の粘度とによって示される領域のうち、安定してコーティング処理がなされる安定領域を、前記基材の品種毎および前記コーティング剤の品種毎に示す安定領域情報に基づいて、
所定の品種の前記基材および前記コーティング剤について、前記安定領域を提示することと、
提示した前記安定領域に収まるように、前記塗布装置の動作状態を選択させることと、
選択された前記塗布装置の動作状態において、前記粘度が前記安定領域に収まるように、前記粘度の制御範囲を選択させることと、
選択された前記塗布装置の動作状態と前記粘度の制御範囲とに基づいて、前記固形成分と前記揮発成分とを調合して前記コーティング剤を前記塗布装置に供給する供給装置の制御情報を生成することと、
を含むシミュレーション方法。
【請求項8】
請求項7に記載のシミュレーション方法に基づいて生成された前記制御情報を、安定してコーティング処理がなされる安定領域を示す安定領域情報として取得する安定領域情報取得部と、
固形成分と揮発成分とを含むコーティング剤の粘度を示す粘度情報を取得する粘度情報取得部と、
前記粘度情報取得部が取得する前記粘度情報と、前記安定領域情報取得部が取得する前記安定領域情報とに基づいて、前記供給装置による供給状態を制御する制御部と、
を備える制御装置。
【請求項9】
樹脂フィルム上に固形成分と揮発成分とを含むコーティング剤が成膜された積層体を製造する方法であって、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の制御装置によって、前記供給装置による調合割合を少なくとも制御することにより、
積層体を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御装置、シミュレーション方法及び積層体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィルムなどの薄板状の基材に塗膜を形成して基材と塗膜との積層体を製造するコーティング方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-188410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなコーティング方法において安定した塗膜を得るためには、コーティング条件を一定の範囲に保つことが要求される。
しかしながら、従来の技術では、刻々と変化するコーティング条件を一定の範囲に保つことが難しいという課題があった。
【0005】
本開示は、このような事情を考慮してなされたもので、刻々と変化するコーティング条件を一定の範囲に保つことができる制御装置、シミュレーション方法及び積層体を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、固形成分と揮発成分とを含むコーティング剤の粘度を示す粘度情報を取得する粘度情報取得部と、前記コーティング剤を基材に塗布する塗布装置の動作状態と、前記コーティング剤の粘度とによって示される領域のうち、安定してコーティング処理がなされる安定領域を示す安定領域情報を記憶する記憶部から、前記安定領域情報を取得する安定領域情報取得部と、前記粘度情報取得部が取得する前記粘度情報と、前記安定領域情報取得部が取得する前記安定領域情報とに基づいて、前記塗布装置の動作状態および前記粘度のうち少なくとも1つを、制御条件として算出する算出部と、前記算出部が算出する前記制御条件に基づいて、前記塗布装置の動作状態と、前記固形成分と前記揮発成分とを調合して前記コーティング剤を前記塗布装置に供給する供給装置による供給状態とのうち少なくとも1つを制御する制御部と、を備える制御装置である。
【0007】
本開示の一態様は、固形成分と揮発成分とを含むコーティング剤を基材に塗布する塗布装置の動作状態と、前記コーティング剤の粘度とによって示される領域のうち、安定してコーティング処理がなされる安定領域を、前記基材の品種毎および前記コーティング剤の品種毎に示す安定領域情報に基づいて、所定の品種の前記基材および前記コーティング剤について、前記安定領域を提示することと、提示した前記安定領域に収まるように、前記塗布装置の動作状態を選択させることと、選択された前記塗布装置の動作状態において、前記粘度が前記安定領域に収まるように、前記粘度の制御範囲を選択させることと、選択された前記塗布装置の動作状態と前記粘度の制御範囲とに基づいて、前記固形成分と前記揮発成分とを調合して前記コーティング剤を前記塗布装置に供給する供給装置の制御情報を生成することと、を含むシミュレーション方法である。
【0008】
本開示の一態様は、上述のシミュレーション方法に基づいて生成された前記制御情報を、安定してコーティング処理がなされる安定領域を示す安定領域情報として取得する安定領域情報取得部と、固形成分と揮発成分とを含むコーティング剤の粘度を示す粘度情報を取得する粘度情報取得部と、前記粘度情報取得部が取得する前記粘度情報と、前記安定領域情報取得部が取得する前記安定領域情報とに基づいて、前記供給装置による供給状態を制御する制御部と、を備える制御装置である。
【0009】
本開示の一態様は、樹脂フィルム上に固形成分と揮発成分とを含むコーティング剤が成膜された積層体を製造する方法であって、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の制御装置によって、前記供給装置による調合割合を少なくとも制御することにより、積層体を製造する方法である。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る制御装置、シミュレーション方法及び積層体を製造する方法によれば、刻々と変化するコーティング条件を一定の範囲に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態のコーティングシステムの構成例を示す図である。
図2】酢酸エチルについての温度と蒸気圧との関係の一例を示す図である。
図3】キャピラリー数と塗布ムラとの関係の一例を示す図である。
図4】3軸のキャピラリー数と、安定領域・欠陥領域との対応関係の一例を示す図である。
図5】粘度に基づく安定領域情報の一例を示す図である。
図6】本実施形態の制御装置10の事前準備動作の流れの一例を示す図である。
図7】本実施形態の制御装置10の制御動作の流れの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照し、本開示の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態のコーティングシステム1の構成例を示す図である。コーティングシステム1は、フィルム60にコーティング剤70を塗布することにより、フィルム60の表面に塗膜を形成するシステムである。フィルム60は、例えば、ロール・トゥ・ロール方式によって一定の方向(方向D1)に搬送される。
なお、同図では、フィルム60の送出側ロールや巻取側ロールの図示を省略している。また、フィルム60とは、コーティングシステム1のコーティング対象である基材の一例である。基材には、例えば、フィルム、紙、金属箔、鋼板、繊維、布など、コーティング剤70の塗布によって積層体が構成できるものが広く含まれる。
以下の説明において、フィルム60(基材)がロール・トゥ・ロール方式で方向D1に搬送される速度のことを、フィルム60の走行速度ともいう。
【0013】
本実施形態のコーティングシステム1は、いわゆるグラビアリバースコータ方式(以下、リバースコータ方式、あるいは単にリバース方式ともいう。)により、フィルム60表面にコーティング剤70を塗布する。
なお、コーティングシステム1は、リバースコータ方式によるものに限られない。例えば、コーティングシステム1は、キスリバースコータ方式など他の開放型方式であってもよく、ダイコータなどの密閉型方式であってもよい。
【0014】
[コーティングシステム1の概要]
本実施形態のコーティングシステム1の概要について説明する。
【0015】
(環境による影響)
コーティング剤70は、非揮発性の固形成分32(例えば、ポリマー、必要に応じて添加剤が添加される)と、揮発性の揮発成分42(希釈剤)とで構成される。
【0016】
固形成分32を構成するポリマーは適宜選択できる。
具体的な一例として、固形成分32を構成するポリマーは、セラック類、ロジン類、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、硝化綿、酢酸セルロース、セルロースアセチルプロピオネート、セルロースアセチルブチレート、塩化ゴム、環化ゴム、ポリアミド樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等の酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ケトン樹脂、ブチラール樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化エチレンビニルアセテート樹脂、エチレンビニルアセテート樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、カゼイン、アルキッド樹脂、アクリル系エマルジョン、ウレタン系エマルジョン、ポリビニルアルコール樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体、クロロトリフロロエチレン-ビニルアルコール共重合体、シリコーン樹脂、及びテトラフロロエチレン-ビニルアルコール共重合体よりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0017】
また、具体的な一例として、固形成分32を構成するポリマーは、アクリルポリオール樹脂又はメタクリルポリオール樹脂とイソシアネート系硬化剤とを含むアクリルウレタン塗料組成物又はメタクリルウレタン塗料組成物であってもよい。一例として、本実施形態で用いられるイソシアネート系硬化剤は、上述のアクリルポリオール樹脂又はメタクリルポリオール樹脂の架橋剤として作用するものであり、1分子中に少なくともイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物であってもよい。
【0018】
固形成分32に添加剤が含まれる場合、その添加剤は適宜選択できる。
具体的な一例として、固形成分32に含まれる添加剤は、有機顔料、無機顔料、帯電防止剤、増粘剤、難燃剤、消泡剤、分散剤、PH調整剤等である。
固形成分32に含まれる添加剤としての有機顔料(有機系着色顔料)の一例には、アゾ系、ナフトール系、ピラゾロン系、アントラキノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジスアゾ系、イソインドリノン系、ベンゾイミダゾール系、フタロシアニン系、キノフタロン系等が挙げられる。
固形成分32に含まれる添加剤としての無機顔料の一例には、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸鉛、二酸化チタン、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、ジルコン等が挙げられる。
固形成分32に含まれる添加剤としての無機系着色顔料の一例としては、酸化チタン、カーボンブラック、酸化第二鉄(ベンガラ)、黄色酸化鉄、オーカー、群青、コバルトグリーン等が挙げられる。
固形成分32に含まれる添加剤の一例としては、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、アクリルニトリル樹脂等のアクリル系樹脂、またはポリスチレン樹脂等の合成樹脂を素材とする中空粒子であってもよい。また、無機質の中空粒子としては、工業的に得られるシリカ、アルミナ等を主成分とするもののほか、天然品であってもよい、火山性のシラスバルーンのようなものも使用できる。また、親水性や疎水性の中空粒子も使用可能である。
【0019】
固形成分32に添加剤が含まれる場合、その添加剤は帯電防止剤を含んでいてもよい。
例えば、添加剤は、導電性重合体および導電性金属酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の帯電防止剤を含む。
導電性重合体とは、重合体の骨格を伝って、電子が移動し、拡散する重合体である。導電性重合体としては、たとえばポリアニリン系重合体、ポリアセチレン系重合体、ポリパラフェニレン系重合体、ポリピロール系重合体、ポリチオフェン系重合体、ポリビニルカルバゾール系重合体等が挙げられる。
導電性重合体の質量平均分子量は、20,000~500,000が好ましく、40,000~200,000が特に好ましい。導電性重合体の質量平均分子量が前記範囲外であると(すなわち、20,000未満または500,000を超える場合)、導電性重合体の水に対する分散安定性が低下する場合がある。質量平均分子量は、たとえば、ウォーターズ社製ultrahydrogel500カラム等を使用したゲル透過クロマトグラフィ(GPC)で測定される。導電性金属酸化物としては、たとえば錫ドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化錫、リンドープ酸化錫、アンチモン酸亜鉛、酸化アンチモン等が挙げられる。帯電防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。帯電防止剤としては、耐熱性および導電性に優れる点で、ポリアニリン系重合体、ポリピロール系重合体、ポリチオフェン系重合体が好ましい。
【0020】
固形成分32に添加剤が含まれる場合、その添加剤は分散剤を含んでいてもよい。
固形成分32に含まれる添加剤としての分散剤には、アクリル酸および/またはメタアクリル酸共重合体のアルカノールアミン塩、N-ビニルピロリドン-N,N-ジアルキルアミノアルキルアクリレート共重合体、N-ビニルピロリドン-N,N-ジアルキルアミノアルキルアクリレート共重合体のジアルキル硫酸塩、N-ビニルピロリドン酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、メチルビニルエーテル-ジアルキルマレエート共重合体等の高分子分散剤が挙げられる。
【0021】
また、揮発成分42(希釈剤)は適宜選択できる。
具体的な一例として、希釈剤としては有機溶剤が好ましく、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、アルコール等が挙げられる。
【0022】
フィルム60へのコーティングによって安定した塗膜を得るためには、揮発成分42を含むコーティング剤70の粘度が一定(例えば、時間変化しないこと)であることが要求される。
一例として、コーティング剤70として、いわゆるインキを使用する場合、コーティング工程中にインキが外気に晒される。このため、インキに含まれる揮発成分42が揮発してインキの粘度が上昇する。このような粘度の変化が発生すると、フィルム60に形成される塗膜に欠損などの品質低下が生じる。
【0023】
フィルム60に形成される塗膜の不均一性(つまり、塗布ムラ)を安定させる為には、単位時間毎に刻々と変化しているパラメータの把握と管理が重要である。
揮発成分42の揮発の状態は、気相における異種成分その他による移動抵抗が無視できるとき固体または液体の蒸発速度で表現できる。具体的には、分子蒸発速度は、例えば、式(1)で与えられる。
【0024】
【数1】
【0025】
ここで、
Ts …蒸発面温度
ps … Ts での飽和蒸気圧
m …分子 1 個の質量
k …ボルツマン定数
α …表面に衝突する分子のうちその表面にとらえられる分子の個数割合
p …気相における蒸発成分の分圧
である。
【0026】
このうち、単位時間毎に変化しやすい因子はTs(蒸発面温度)、ps(Tsでの飽和蒸気圧)、αである。
【0027】
αは、一般に適応係数と呼ばれる。αは、蒸発現象に着目した立場から蒸発係数とも呼ばれ、その値は蒸発物質の種類、温度によって異なる。特に、α=1で、p=0の場合のNは、温度Tsにおける極限移動速度で最大蒸発速度と呼ばれる。
【0028】
図2は、酢酸エチルについての温度と蒸気圧との関係の一例を示す図である。
蒸発に影響を及ぼすのは温度Tsとその時の飽和蒸気圧psであり、蒸気圧は各物質により異なる。例として、酢酸エチルについての温度Tsとその時の飽和蒸気圧psとの対応関係は、図2に示す通りとなる。
【0029】
実際表面に衝突する分子の個数(ショア)、また温度が表面と内側で異なる事から単位時間ごとにぶれる因子の大きくは、温度、飽和蒸気圧、αである。
αは係数として機能して、実際の実験、製造現場で異なる変動因子となる。このαは、常に変動する事で、粘度の変化が一定でない要因にもなり得る。αの変動要因は、例えばコーティング剤70の循環に用いるポンプの吐出量の調整によるコーティング剤70の継ぎ足し量、循環経路の大気への開放の状態(例えば、循環タンクの蓋の付け方)等が挙げられる。
【0030】
(コーティング剤の添加剤による影響)
ところでコーティングにおいては、コーティング剤70中に、粒子を伴った添加剤を添加する事がある。添加剤は、例えば、紫外線吸収剤、顔料、シリカ、等が挙げられる。
添加剤は、それぞれ粒子径や形状等も異なり、コーティング剤70に分散状態とした際、粒度分布、分子量、固形分濃度などの影響に留意する必要がある。
この影響としては、低濃度系の基礎理論式(Einsteinの式)で表される(式(2))。
【0031】
【数2】
【0032】
ただし、
ηs …懸濁液粘度
η0 …溶媒粘度
φ…粒子の固体体積分率(体積濃度)
【0033】
この時、懸濁液粘度ηsを溶媒粘度η0で除した値は、溶媒に固体を分散させた懸濁液がもとの溶媒の粘度の何倍になるかを表す指標となり、比粘度度式(Mooneyの式)(式(3))で表される。
【0034】
【数3】
【0035】
球形以外の粒子形状にも適用するときは式(4)も用いられる
【0036】
【数4】
【0037】
ただし、
…粒子形状に依存する係数
【0038】
この時、上記固体体積分に対する添加剤粒径、添加剤濃度は式(5)に表される。
【0039】
【数5】
【0040】
添加する溶液中の溶媒によってこのDが変化する(膨潤する)可能性があるので、添加剤への表面処理があってもよい。
【0041】
(コーティングの液膜制御の影響)
塗布ムラに影響を与える因子として液膜が分裂するところのメニスカスにおいて、例えば、グラビア・リバースコーティング方式の場合、次の式(6)が成立すれば平滑化・解消されるとされる。
【0042】
【数6】
【0043】
ただし、
dp/dx…圧力勾配
r…メニスカスの曲率半径
N…リブの波数=2π/波長
Ca…キャピラリー数
【0044】
ここで、キャピラリー数Caは式(7)によって示される。
【0045】
【数7】
【0046】
ただし、
μ…コーティング剤の粘度
U…ロールの周速(Uはロールの平均周速)
σ…コーティング剤の表面張力
【0047】
塗布ムラの発生を抑制するためには右辺が大きくなれば良い。そのために有効な操作として、コーティング剤粘度を下げる、ロール速度を下げる、ロールギャップを大きくする(rが小さくなる)などが挙げられる。
一方、例えば粘度としての目安:1~500[mpa・s]であり、100[mPa・s]以下が好適である。欠損がないように塗膜を得るには、この範囲に収める事が好ましい。
このように、コーティング剤の種類等により粘度は、予め好ましい粘度範囲の閾値を設ける事が重要である。粘度範囲を外れた際には固形分の計算から、どれくらいの溶媒を追加したらよいかを、コンピュータシステムによって自動調整可能であることが望ましい。
本実施形態のコーティングシステム1は、コーティング剤70の粘度μにフォーカスして、キャピラリー数Caに基づいたプロセスウィンドウに収まる粘度自動管理をする。
以下、図1に戻り、コーティングシステム1の構成の具体例について説明する。
【0048】
[コーティングシステム1の構成]
コーティングシステム1は、制御装置10と、グラビアリバースコータ50とを備える。グラビアリバースコータ50は、コーティング装置51(塗布装置)と供給装置52とを備える。
【0049】
コーティング装置51は、第1ロール511と、第2ロール512と、モーター513と、ドクターブレード514と、動作状態検出センサ515とを備える。
第1ロール511は、いわゆるバックアップロールであり、方向D11に回転して、フィルム60を方向D1に移動させる。
第2ロール512は、いわゆるグラビアロールであり、フィルム60の移動方向の方向D1とは反対方向の方向D12に回転する。
モーター513は、第1ロール511を方向D11に回転駆動する。
ドクターブレード514は、第2ロール512にすくい上げられたコーティング剤70の表面に接して、コーティング剤70の表面状態、塗布量、塗布厚を調整することで、フィルム60に塗布されるコーティング剤70の塗布状態を均一化する。
【0050】
供給装置52は、液槽521と、コーティング剤タンク522と、循環ポンプ523と、供給配管524と、回収配管525とを備える。
液槽521は、コーティング剤70が蓄えられる槽であり、インキパンともいう。液槽521は、所定量のコーティング剤70を蓄えており、蓄えたコーティング剤70を第2ロール512に供給する。
【0051】
第2ロール512の表面は、所定の模様の凹加工(グラビア加工)がなされており、液槽521に蓄えられているコーティング剤70をすくい上げる。
すくい上げられたコーティング剤70は、ドクターブレード514で均され、第2ロール512と第1ロール511との間の塗布位置において、メニスカス516を形成しながら、フィルム60に塗布される。
【0052】
コーティング剤タンク522は、コーティング剤70を貯留する。
循環ポンプ523は、コーティング剤タンク522に貯留されているコーティング剤70を、供給配管524を介して液槽521に供給する。液槽521のコーティング剤70は一部が第2ロール512を介してフィルム60に塗布され、他の一部が回収配管525を介してコーティング剤タンク522に戻される。
すなわち、本実施形態の供給装置52は、コーティング剤タンク522と液槽521との間においてコーティング剤70を循環させる、循環型のコーティング剤供給装置として構成されている。
【0053】
また、供給装置52は、固形成分タンク30と、固形成分バルブ31と、揮発成分タンク40と、揮発成分バルブ41とを備える。
上述したように、コーティング剤70は、固形成分32と揮発成分42とによって構成されている。
固形成分タンク30は、固形成分32を貯留する。固形成分バルブ31は、制御装置10の制御に基づいて、固形成分タンク30に貯留されている固形成分32をコーティング剤タンク522に供給する。
揮発成分タンク40は、揮発成分42を貯留する。揮発成分バルブ41は、制御装置10の制御に基づいて、揮発成分タンク40に貯留されている揮発成分42をコーティング剤タンク522に供給する。
【0054】
コーティング剤タンク522に貯留されているコーティング剤70は、フィルム60に塗布されることにより、その量が減少する。固形成分タンク30から固形成分32が、揮発成分タンク40から揮発成分42が、それぞれコーティング剤タンク522に供給され、コーティング剤タンク522において互いに混合されることにより、所定の粘度のコーティング剤70が生成される。
換言すれば、固形成分バルブ31の開度と、揮発成分バルブ41の開度とをそれぞれ調整することは、コーティング剤タンク522に貯留されているコーティング剤70の固形成分32と揮発成分42との混合割合を制御することである、ともいえる。
【0055】
ここで、コーティング剤70は、液槽521、コーティング剤タンク522、あるいは、コーティング剤70の循環経路において揮発成分42が大気に揮発することで粘度が上昇する場合がある。このようにコーティング剤70の粘度が変化すると、フィルム60への塗布ムラが生じる場合がある。制御装置10は、固形成分タンク30から供給する固形成分32と、揮発成分タンク40から供給する揮発成分42との混合割合を制御することにより、コーティング剤70の粘度を調整する。この制御装置10の構成について、より具体的に説明する。
【0056】
(制御装置10の機能構成)
制御装置10は、いわゆるコンピュータ装置であり、記憶部20に記憶されているプログラムやデータに基づいて動作する。
記憶部20は、制御装置10に物理的に接続された半導体メモリやハードディスク装置であってもよく、制御装置10に論理的に接続されたクラウドサーバ装置であってもよい。記憶部20は、各種の情報を記憶する。
制御装置10は、情報取得部110と、算出部120と、制御部130とを備える。
情報取得部110は、コンピュータ装置のソフトウエア機能部(あるいはハードウエア機能部)として構成されており、動作状態取得部111と、粘度情報取得部112と、安定領域情報取得部113とを備える。
【0057】
動作状態取得部111は、コーティング装置51の動作状態を取得する。一例として、コーティング装置51は、第1ロール511の回転速度(つまり、フィルム60の送り速度)を検出する動作状態検出センサ515を備えている。この一例の場合、動作状態検出センサ515は、モーター513の回転速度を検出するエンコーダであってもよい。
動作状態取得部111は、動作状態検出センサ515からコーティング装置51の動作状態を取得する。
【0058】
粘度情報取得部112は、供給装置52が供給するコーティング剤70の粘度を示す情報(つまり、粘度情報)を取得する。一例として、供給装置52は、供給配管524を流れるコーティング剤70の粘度を検出する粘度センサ526を備えている。粘度センサ526は、既知の手法(例えば、コーティング剤70を加振した際の加振力を粘度に変換する手法)によって、コーティング剤70の粘度を検出する。
【0059】
上述したように、供給装置52が供給するコーティング剤70には、固形成分32と揮発成分42とが含まれている。すなわち、粘度情報取得部112は、固形成分32と揮発成分42とを含むコーティング剤70の粘度を示す粘度情報を取得する。
【0060】
安定領域情報取得部113は、記憶部20から安定領域情報210を取得する。安定領域情報取得部113とは、塗布条件のうち、塗布ムラが生じにくい条件(つまり、安定領域)を示す情報である。図3から図5を参照して安定領域情報210について説明する。
【0061】
図3は、キャピラリー数Caと塗布ムラとの関係の一例を示す図である。以下の説明において、フィルム60に対するコーティング剤70の塗布ムラのことを、単に「欠陥」ともいう。欠陥には、リビング欠陥、カスケード欠陥、垂れ欠陥がある。
【0062】
リビング欠陥とは、フィルム60(基材)の走行方向(つまり、方向D1)に対し若干傾いて伸びる周期的な模様がフィルム60の全面、またはフィルム60の端部に生じることをいう。リビング欠陥が生じる原因としては、フィルム60の走行速度が第2ロール512の周速に対して速いことが挙げられる。すなわち、フィルム60の走行速度が第2ロール512の周速に対して速い場合、リビング欠陥が生じる。これは、フィルム60の走行速度が第2ロール512の周速に対して速い場合、メニスカス516がフィルム60の幅方向に波打つためである。
【0063】
カスケード欠陥とは、フィルム60(基材)の走行方向(つまり、方向D1)に対して垂直に伸びた「さざ波模様」が生じることをいう。カスケード欠陥が生じる原因としては、フィルム60の走行速度が第2ロール512の周速に対して遅いことが挙げられる。すなわち、フィルム60の走行速度が第2ロール512の周速に対して遅い場合、カスケード欠陥が生じる。
【0064】
垂れ欠陥とは、メニスカス516を構成するコーティング剤70の一部が重力方向に流れることをいう。垂れ欠陥が生じる原因としては、フィルム60の走行速度および第2ロール512の周速がいずれも、適切な速度に比べて遅いことが挙げられる。すなわち、フィルム60の走行速度と、第2ロール512の周速とがいずれも、適切な速度に比べて遅い場合、垂れ欠陥が生じる。
【0065】
フィルム60へのコーティング剤70の塗布工程において、これらのリビング欠陥、カスケード欠陥、垂れ欠陥のいずれが発生するか、またはいずれも発生しない(つまり、安定塗布になる)かは、キャピラリー数Caによって説明ができる。
【0066】
図3に示すように、X軸をグラビアロール周速基準のキャピラリー数CaX、Y軸をフィルム60(基材)速度基準のキャピラリー数CaY、Z軸をコーティング剤70の粘度基準のキャピラリー数CaZとする。この3軸のキャピラリー数Caによれば、いずれの欠陥も発生しない安定領域、リビング欠陥領域、カスケード欠陥領域、垂れ欠陥領域を示すことができる。
【0067】
図4は、3軸のキャピラリー数Caと、安定領域・欠陥領域との対応関係の一例を示す図である。
すなわち、フィルム60の走行速度、第2ロール512(グラビアロール)周速、コーティング剤70の粘度をパラメータとするキャピラリー数Caで整理すると、3つのキャピラリー数Caの組み合わせが、ある閉じた範囲内(安定領域)にあるか否かで、安定塗布が可能であるか否かを示すことができる。
【0068】
例えば、図3の破線L1は、フィルム60の走行速度に基づくキャピラリー数CaXと、第2ロール512(グラビアロール)の周速に基づくキャピラリー数CaYとが一致している領域を示す。この破線L1上でフィルム60の走行速度および第2ロール512(グラビアロール)の周速を増加させると、垂れ欠陥領域から安定塗布領域を経てリビング欠陥領域の順に移行する。
【0069】
なお、第2ロール512のグラビアセルの斜線の線数が70-110[line/inch]、溝深さが68-158[μm]であり、ドクターブレード514のブレード厚みが0.085-0.3[mm]の範囲内である場合、安定塗布領域とリビング欠陥発生領域との境界(同図の直線L2)、および、安定塗布領域とカスケード欠陥発生領域との境界(同図の直線L3)は、グラビアセルの形状やドクターブレード514の形状によらないことが、実験的に求められている。
【0070】
また、他の実験結果として、コーティング剤70の粘度が1000[mpa・s]と高い場合、フィルム60の走行方向である方向D1に対し模様が生じリビング欠陥が生じた。これはコーティング剤70の粘度が高い為、フィルム60に対し抵抗が生じて塗工面が安定しないことや、メニスカス516がフィルム60へ転移し、コーティングされた後にレベリングせずに、波打ちが生じたことが要因と考えられる。
また、コーティング剤70の粘度が10[mpa・s]と低い場合、カスケード欠陥が生じた。これはメニスカス516の形成が安定せず、塗布量の不均一性が生じたことが要因として挙げられる。
【0071】
本実施形態の記憶部20には、図4に示した安定領域の条件が、安定領域情報210として記憶されていてもよい。ここで、図4に示した安定領域の条件とは、キャピラリー数CaX、キャピラリー数CaY、および、キャピラリー数CaZの3軸で示した条件である。
【0072】
すなわち、コーティング装置51の動作状態には、コーティング剤70をフィルム60(基材)に塗布するグラビアローラーの回転速度(例えば、周速。角速度であってもよい。)と、グラビアローラーの塗布位置に対してフィルム60(基材)を相対移動させる速度である基材速度とが含まれる。
この場合、安定領域情報210とは、回転速度に基づくキャピラリー数CaXを第1軸とし、基材速度に基づくキャピラリー数CaYを第2軸とし、コーティング剤70の粘度に基づくキャピラリー数CaZを第3軸とする空間内における、安定領域を示す情報である。
【0073】
一方、ロール・トゥ・ロール方式でフィルム60に連続的にコーティングする場合、フィルム60の走行速度や第2ロール512の周速が時間変化すると、コーティング品質にばらつきが生じる場合がある。この場合、フィルム60の走行速度や第2ロール512の周速が時間変化せずに一定であることを前提として、コーティング剤70の粘度を制御することにより、塗布の安定化を図ることが行われる。この場合には、記憶部20には、コーティング剤70の粘度を基準にした安定領域の条件(つまり、キャピラリー数CaZの1軸で示した条件)が、安定領域情報210として記憶されていてもよい。
【0074】
図5は、粘度に基づく安定領域情報210の一例を示す図である。下限値Aおよび上限値Bは、安定領域と欠陥領域との境界の下限値または上限値を示す値である。下限閾値A2は、下限値Aよりも大きい値であり、粘度が下限値Aに近づいているため粘度を増加させるべきことを示す値である。上限閾値B2は、上限値Bよりも小さい値であり、粘度が上限値Bに近づいているため粘度を低下させるべきことを示す値である。
この場合、制御装置10は、コーティング剤70の粘度が下限閾値A2と上限閾値B2との間に収まるように、コーティング剤70の粘度を制御する。
【0075】
図1に戻り、安定領域情報取得部113は、記憶部20から安定領域情報210を取得する。
【0076】
上述したように、安定領域情報210とは、コーティング剤70をフィルム60(基材)に塗布するコーティング装置51(塗布装置)の動作状態(例えば、グラビアロール周速、および、フィルム60の走行速度)と、コーティング剤70の粘度とによって示される領域のうち、安定してコーティング処理がなされる安定領域を示す情報である。
換言すれば、安定領域情報取得部113は、コーティング剤70をフィルム60(基材)に塗布するコーティング装置51(塗布装置)の動作状態と、コーティング剤70の粘度とによって示される領域のうち、安定してコーティング処理がなされる安定領域を示す安定領域情報210を記憶する記憶部20から、安定領域情報210を取得する。
【0077】
算出部120は、粘度情報と安定領域情報210とに基づいて、コーティングシステム1の制御条件(つまり、回転速度と、基材速度と、粘度のうち少なくとも1つ)を、制御条件として算出する。
【0078】
換言すれば、算出部120は、粘度情報取得部112が取得する粘度情報と、安定領域情報取得部113が取得する安定領域情報210とに基づいて、コーティング装置51(塗布装置)の動作状態および粘度のうち少なくとも1つを、制御条件として算出する。
ここで、コーティング装置51(塗布装置)の動作状態とは、例えば、グラビアロール周速またはフィルム60の走行速度である。また、粘度とは、液槽521のコーティング剤70の粘度である。
【0079】
本実施形態の一例では、算出部120は、コーティング剤70の粘度を、コーティングシステム1の制御条件として算出する。この場合、算出部120は、コーティング剤70の粘度が、安定領域情報210が示す下限閾値A2と上限閾値B2との間に収まるように、固形成分32あるいは揮発成分42の供給量を算出する。
【0080】
換言すれば、算出部120は、粘度情報取得部112が取得する粘度情報と、安定領域情報210とに基づいて、コーティング装置51(塗布装置)の動作状態を所与の条件とした場合の安定領域情報210が示す安定領域の粘度を、制御条件として算出する。
【0081】
制御部130は、算出部120が算出する制御条件に基づいて、コーティング装置51または供給装置52を制御する。
【0082】
換言すれば、制御部130は、算出部120が算出する制御条件に基づいて、コーティング装置51(塗布装置)の動作状態と、固形成分32と揮発成分42とを調合してコーティング剤70をコーティング装置51(塗布装置)に供給する供給装置52による供給状態とのうち少なくとも1つを制御する。
【0083】
上述したように、本実施形態の一例では、算出部120は、固形成分32あるいは揮発成分42の供給量を、コーティングシステム1の制御条件として算出する。この場合、制御部130は、算出された制御条件に基づいて、固形成分バルブ31および揮発成分バルブ41の開度を制御することにより、液槽521に供給されるコーティング剤70の粘度を制御する。
【0084】
なお、制御部130は、制御条件として示される粘度に基づいて、供給装置52からコーティング装置51(塗布装置)に供給されるコーティング剤70の量を制御する、ともいえる。すなわち、制御部130は、固形成分バルブ31の開度および揮発成分バルブ41の開度をそれぞれ制御して、コーティング剤タンク522に供給されるコーティング剤70の量を制御する。
【0085】
また、制御部130は、制御条件として示される粘度に基づいて、供給装置52による固形成分32と揮発成分42との調合割合を制御する、ともいえる。すなわち、制御部130は、固形成分バルブ31の開度および揮発成分バルブ41の開度をそれぞれ制御して、コーティング剤タンク522に供給されるコーティング剤70の調合割合を制御する。
【0086】
なお、図示していないが、コーティング剤タンク522には粘度調整用の蓋が備えられていてもよい。この蓋は、コーティング剤タンク522の内部を大気に開放するものである。なお、蓋は、コーティング剤タンク522の内部を洗浄する際の作業口であってもよい。蓋を開けると、コーティング剤タンク522に貯留されているコーティング剤70の揮発成分42が大気に揮発して、コーティング剤70の粘度が上昇する。
コーティング剤タンク522は、蓋の開度を調整する開度調整モーター(不図示)を備えていてもよい。この場合、制御部130は、開度調整モーターを駆動することにより、蓋の開度を制御する。
【0087】
すなわち、制御部130は、制御条件として示される粘度に基づいて、供給装置52において揮発成分42を揮発させる程度を制御するように構成されていてもよい。
【0088】
[制御装置10の動作]
次に、図6および図7を参照して、制御装置10の動作の一例について説明する。
図6は、本実施形態の制御装置10の事前準備動作の流れの一例を示す図である。なお、図6に示す一連の手順は、制御装置10が備えるコンピュータ装置を用いて実行されてもよいし、制御装置10の外部のコンピュータ装置を用いてもよい。
【0089】
[事前準備]
(ステップS10)配合比率の決定と、固形分の算出を行う。一例として、第1の塗料PAと、第2の塗料PBと、揮発成分42である希釈剤とを配合したコーティング剤70を用いる場合について説明する。
この場合、第1の塗料PAの固形分および第2の塗料PBの固形分(すなわち、固形成分32)を次の関係式で算出する。
【0090】
(塗料PAの量×固形分+塗料PBの量×固形分)/(塗料PAの量+塗料PBの量+希釈剤の量)
【0091】
(ステップS20)固形分ごとの粘度の測定結果を取得する。
(ステップS30)塗布量を次の関係式で算出する。
【0092】
塗布量=配合固形分×グラビアセルの面積率×転移率
【0093】
なお、転移率は所定の係数である。転移率は、フィルム60の走行速度(ライン速度)、グラビア周速比、コーティング剤の動的粘度等に基づいて、既知の手法にて決定する。
塗布量の範囲の下限を下限値A、上限を上限値Bとして決定する。さらに、これらの下限値Aおよび上限値Bの範囲を超えないよう管理するための閾値(下限閾値A2、上限閾値B2)を決定する。
【0094】
(ステップS40)決定した下限値A、下限閾値A2、上限閾値B2および上限値Bを安定領域情報210として記憶部20に記憶させる。
【0095】
なお、上述したステップS30における下限値A、下限閾値A2、上限閾値B2および上限値Bについて、次のような手順でユーザに決定させてもよい。なお、次に示すステップS31からステップS34はいずれも不図示である。
【0096】
(ステップS31)コンピュータ装置は、所定の品種のフィルム60(基材)およびコーティング剤70について、安定領域を提示する。例えば、コンピュータ装置が、液晶ディスプレイなどの表示装置を備えている場合には、図3に示した態様の安定領域を示す画像を表示する。
【0097】
(ステップS32)コンピュータ装置は、提示した安定領域に収まるように、コーティング装置51(塗布装置)の動作状態をユーザに選択させる。例えば、コンピュータ装置が、マウスやキーボードなどの入力装置を備えている場合には、画面上で動作状態の範囲を直線や曲線で囲む操作をさせることにより、ユーザに選択させる。
【0098】
(ステップS33)コンピュータ装置は、ステップS32で選択されたコーティング装置51(塗布装置)の動作状態において、粘度が安定領域に収まるように、粘度の制御範囲(例えば、下限閾値A2、上限閾値B2)をユーザに選択させる。
【0099】
(ステップS34)コンピュータ装置は、ステップS32で選択されたコーティング装置51(塗布装置)の動作状態と、ステップS33で選択された粘度の制御範囲とに基づいて、固形成分32と揮発成分42とを調合してコーティング剤70をコーティング装置51(塗布装置)に供給する供給装置52の制御情報(例えば、固形成分バルブ31および揮発成分バルブ41の開度制御の情報)を生成する。
【0100】
なお、上述の場合において、安定領域情報210は、安定してコーティング処理がなされる安定領域を、フィルム60(基材)の品種毎およびコーティング剤70の品種毎に示すものである。
すなわち、コンピュータ装置は、安定領域、動作状態や粘度の制御範囲をユーザに提示しつつ、下限閾値A2や上限閾値B2を決定させるシミュレーション方法を提供する。
【0101】
[制御動作]
図7は、本実施形態の制御装置10の制御動作の流れの一例を示す図である。
(ステップS110) 安定領域情報取得部113は、記憶部20から安定領域情報210を取得する。本実施形態の場合、安定領域情報取得部113は、図5に示したコーティング剤70の粘度についての情報(下限値A、下限閾値A2、上限閾値B2および上限値B)を、安定領域情報210として取得する。
【0102】
なお、安定領域情報210が上述したシミュレーション方法に基づいて生成されている場合には、ここでいう安定領域情報210とは、シミュレーション方法に基づいて生成された制御情報であるともいえる。換言すれば、安定領域情報取得部113は、上述したシミュレーション方法に基づいて生成された制御情報を、安定領域情報210として取得する。
【0103】
(ステップS120)動作状態取得部111は、動作状態検出センサ515が検出した第1ロール511の周速と、第2ロール512の周速とを、コーティング装置51の動作状態を示す情報として取得する。ここで、第1ロール511は、いわゆるバックアップロールであり、フィルム60の走行速度を制御する。したがって、第1ロール511の周速は、フィルム60の走行速度を示している。また、第2ロール512は、いわゆるグラビアロールである。つまり、動作状態取得部111は、フィルム60の走行速度と、グラビアロールの周速とを、コーティング装置51の動作状態として取得する。
【0104】
(ステップS130)粘度情報取得部112は、粘度センサ526が検出したコーティング剤70の粘度を示す粘度情報を取得する。上述したように、コーティング剤70の粘度は、コーティング剤70に含まれる揮発成分42が揮発することなどにより変動する。つまり、コーティング剤70の粘度は、フィルム60のコーティング工程において常に変動しうる。つまり、粘度情報取得部112は、常に変動しうるコーティング剤70の粘度を取得する。
【0105】
換言すれば、粘度情報取得部112は、固形成分32と揮発成分42とを含むコーティング剤70の粘度を示す粘度情報を取得する。
【0106】
(ステップS140)算出部120は、ステップS130で取得した粘度が、ステップS110で取得した安定領域情報210が示す上限閾値B2を超えているか否かを判定する。算出部120は、粘度が上限閾値B2を超えていると判定した場合(ステップS140;YES)には、処理をステップS150に進める。一方、算出部120は、粘度が上限閾値B2を超えていないと判定した場合(ステップS140;NO)には、処理をステップS160に進める。
【0107】
(ステップS150)算出部120は、固形成分32と揮発成分42との混合割合を粘度が低下する方向に制御する。すなわち、算出部120は、固形成分32の継ぎ足し量よりも、揮発成分42の継ぎ足し量が多くなるように、揮発成分42を増量する。
【0108】
(ステップS160)算出部120は、ステップS130で取得した粘度が、ステップS110で取得した安定領域情報210が示す下限閾値A2を下回っているか否かを判定する。算出部120は、粘度が下限閾値A2を下回っていると判定した場合(ステップS160;YES)には、処理をステップS170に進める。一方、算出部120は、粘度が下限閾値A2を下回っていないと判定した場合(ステップS160;NO)には、処理をステップS180に進める。
【0109】
(ステップS170)算出部120は、固形成分32と揮発成分42との混合割合を粘度が上昇する方向に制御する。すなわち、算出部120は、揮発成分42の継ぎ足し量よりも、固形成分32の継ぎ足し量が多くなるように、固形成分32を増量する。
【0110】
(ステップS180)制御部130は、算出部120の算出結果に基づいて、固形成分バルブ31の開度と、揮発成分バルブ41の開度とを、それぞれ制御する。
【0111】
ここで、固形成分バルブ31の開度および揮発成分バルブ41の開度は、供給装置52による供給状態の一例である。
換言すれば、粘度情報取得部112が取得する粘度情報と、安定領域情報取得部113が取得する安定領域情報210とに基づいて、供給装置52による供給状態を制御する。
【0112】
(ステップS190)制御部130は、一連のコーティング工程が終了したか否か(例えば、ロール・トゥ・ロール方式の場合、1巻分の作業が終了したか否か)を判定する。制御部130は、一連のコーティング工程が終了したと判定した場合には、制御を終了する。制御部130は、一連のコーティング工程が終了していないと判定した場合は、処理をステップS120に戻して、制御を継続する。
【0113】
上述した一連の流れは、フィルム60(例えば、樹脂フィルム)上に固形成分32と揮発成分42とを含むコーティング剤70が成膜された積層体を製造する方法であって、制御装置10によって、供給装置52による調合割合を少なくとも制御することにより、積層体を製造する方法である、といえる。
【0114】
なお、本実施形態では、ロール・トゥ・ロール方式でフィルム60に連続的にコーティングする場合において、フィルム60の走行速度や第2ロール512の周速を固定し、コーティング剤70の粘度を制御対象とすることを一例として説明した。換言すれば、本実施形態では、3軸のキャピラリー数Caのうち、フィルム60の走行速度に基づくキャピラリー数CaXと、グラビアロールの周速に基づくキャピラリー数CaYとによる制御条件を固定して、残りの1軸であるコーティング剤70の粘度に基づくキャピラリー数CaZによって制御することを一例として説明したが、これに限られない。
制御装置10は、フィルム60の走行速度、第2ロール512の周速、コーティング剤70の粘度の3軸をいずれも制御対象としてもよいし、いずれか2軸またはいずれか1軸を制御対象としてもよい。
【0115】
[実施形態のまとめ]
以上説明したように、本実施形態のコーティングシステム1は、安定領域情報210と、キャピラリー数Ca(例えば、3軸のキャピラリー数Ca)とに基づいて、コーティング装置51および供給装置52の動作状態を制御する。このように構成されたコーティングシステム1によれば、制御装置10の自動制御に基づいてコーティング剤70の塗布ムラ(欠陥)が抑制でき、歩留まりが向上することで、積層体を安定的に生産することができる。
【0116】
なお、上述した実施形態では、制御装置10が粘度センサ526の出力に基づき自動制御する場合を一例として説明したが、これに限られない。例えば、コーティング剤70の粘度は、いわゆるザーンカップを用いて手動で計測されてもよい。この場合には、制御装置10は、手動計測されたコーティング剤70の粘度の値をユーザが入力する手段を備えており、入力された粘度の値に基づいて、上述した制御を行うものであってもよい。
【0117】
なお、以上に説明した任意の装置における任意の構成部の機能を実現するためのプログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録し、そのプログラムをコンピュータシステムに読み込ませて実行するようにしてもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、オペレーティングシステム或いは周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD(Compact Disc)-ROM(Read
Only Memory)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワーク或いは電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバー或いはクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。当該揮発性メモリは、例えば、RAM(Random Access Memory)であってもよい。記録媒体は、例えば、非一時的記録媒体であってもよい。
【0118】
また、上記のプログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、或いは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク或いは電話回線等の通信回線のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
また、上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、上記のプログラムは、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイルであってもよい。差分ファイルは、差分プログラムと呼ばれてもよい。
【0119】
また、以上に説明した任意の装置における任意の構成部の機能は、プロセッサーにより実現されてもよい。例えば、実施形態における各処理は、プログラム等の情報に基づき動作するプロセッサーと、プログラム等の情報を記憶するコンピュータ読み取り可能な記録媒体により実現されてもよい。ここで、プロセッサーは、例えば、各部の機能が個別のハードウェアで実現されてもよく、或いは、各部の機能が一体のハードウェアで実現されてもよい。例えば、プロセッサーはハードウェアを含み、当該ハードウェアは、デジタル信号を処理する回路及びアナログ信号を処理する回路のうちの少なくとも一方を含んでもよい。例えば、プロセッサーは、回路基板に実装された1又は複数の回路装置、或いは、1又は複数の回路素子のうちの一方又は両方を用いて、構成されてもよい。回路装置としてはIC(Integrated Circuit)などが用いられてもよく、回路素子としては抵抗或いはキャパシターなどが用いられてもよい。
【0120】
ここで、プロセッサーは、例えば、CPUであってもよい。ただし、プロセッサーは、CPUに限定されるものではなく、例えば、GPU(Graphics Processing Unit)、或いは、DSP(Digital Signal Processor)等のような、各種のプロセッサーが用いられてもよい。また、プロセッサーは、例えば、ASIC(Application Specific Integrated
Circuit)によるハードウェア回路であってもよい。また、プロセッサーは、例えば、複数のCPUにより構成されていてもよく、或いは、複数のASICによるハードウェア回路により構成されていてもよい。また、プロセッサーは、例えば、複数のCPUと、複数のASICによるハードウェア回路と、の組み合わせにより構成されていてもよい。また、プロセッサーは、例えば、アナログ信号を処理するアンプ回路或いはフィルター回路等のうちの1以上を含んでもよい。
【0121】
以上、この開示の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この開示の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0122】
1…コーティングシステム、10…制御装置、20…記憶部、30…固形成分タンク、40…揮発成分タンク、51…コーティング装置、52…供給装置、110…情報取得部、111…動作状態取得部、112…粘度情報取得部、113…安定領域情報取得部、120…算出部、130…制御部
図1
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図7