(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024626
(43)【公開日】2025-02-20
(54)【発明の名称】ポリシロキサン化合物、ポリマー、ハイドロゲル、医療用材料、及びポリシロキサン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 77/38 20060101AFI20250213BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20250213BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20250213BHJP
A61L 27/00 20060101ALI20250213BHJP
【FI】
C08G77/38
C08F290/06
A61L27/18
A61L27/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128873
(22)【出願日】2023-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】岡村 薫
【テーマコード(参考)】
4C081
4J127
4J246
【Fターム(参考)】
4C081AB21
4C081AB22
4C081AB23
4C081BB01
4C081BB02
4C081BB08
4C081CA271
4C081CC01
4C081DA02
4C081DA12
4C081EA05
4J127AA01
4J127AA04
4J127BA051
4J127BA071
4J127BB021
4J127BB031
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4J127EA13
4J127FA25
4J127FA43
4J246AA03
4J246AB01
4J246BA020
4J246BA02X
4J246BB020
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4J246BB02X
4J246CA010
4J246CA01U
4J246CA01X
4J246CA240
4J246CA249
4J246CA24X
4J246CA540
4J246CA54M
4J246CA54X
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4J246CA65E
4J246CA65X
4J246FA222
4J246FA322
4J246FA452
4J246FC162
4J246FE26
4J246GB02
(57)【要約】
【課題】医療用材料に好適なポリシロキサン化合物、前記ポリシロキサン化合物を用いたポリマー、前記ポリマーを含むハイドロゲル、前記ポリマーを含む医療用材料、及びポリシロキサン化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】1分子中に1個以上の(メタ)アクリロキシ基を含むポリシロキサン化合物であって、前記ポリシロキサン化合物の側鎖の末端に第三級水酸基を有するものであることを特徴とするポリシロキサン化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に1個以上の(メタ)アクリロキシ基を含むポリシロキサン化合物であって、前記ポリシロキサン化合物の側鎖の末端に第三級水酸基を有するものであることを特徴とするポリシロキサン化合物。
【請求項2】
前記ポリシロキサン化合物が、下記一般式(1)で表されるものであることを特徴とする請求項1に記載のポリシロキサン化合物。
【化1】
(式中、Zは互いに独立に炭素数1~20の有機基であり、Rは互いに独立に炭素数1~6の1価炭化水素基であり、R’は互いに独立に末端に第三級水酸基を有する炭素数3~20の1価炭化水素基であり、基の途中にエーテル結合を含んでもよく、nは0~200の整数であり、mは3~200の整数である。ただし、Zの1個以上は(メタ)アクリロキシ基である。)
【請求項3】
前記一般式(1)において、前記Zが下記一般式(2)で表されるものであることを特徴とする請求項2に記載のポリシロキサン化合物。
【化2】
(式中、Xは水素原子又はメチル基であり、破線はケイ素原子との結合手を表す。)
【請求項4】
前記一般式(1)において、前記Rがメチル基であることを特徴とする請求項2に記載のポリシロキサン化合物。
【請求項5】
前記一般式(1)において、前記R’が下記一般式(3)又は下記式(4)で表されるものであることを特徴とする請求項2に記載のポリシロキサン化合物。
【化3】
(一般式(3)中、kは0~5の整数を表し、一般式(3)及び式(4)中、破線はケイ素原子との結合手を表す。)
【請求項6】
前記一般式(3)において、kが0又は1であることを特徴とする請求項5に記載のポリシロキサン化合物。
【請求項7】
前記一般式(1)において、nが0~100の整数であり、mが3~100の整数であり、m/(n+m)が0.15以上であることを特徴とする請求項2に記載のポリシロキサン化合物。
【請求項8】
前記一般式(1)において、m/(n+m)が0.3以上であることを特徴とする請求項7に記載のポリシロキサン化合物。
【請求項9】
ポリマーであって、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のポリシロキサン化合物の重合体であることを特徴とするポリマー。
【請求項10】
前記ポリシロキサン化合物の質量割合が、前記ポリマーの全質量に対して20質量%以上であることを特徴とする請求項9に記載のポリマー。
【請求項11】
ハイドロゲルであって、請求項9に記載のポリマーを含むものであることを特徴とするハイドロゲル。
【請求項12】
医療用材料であって、請求項9に記載のポリマーを含むものであることを特徴とする医療用材料。
【請求項13】
ポリシロキサン化合物の製造方法であって、
末端に不飽和基及び第三級水酸基を含有する化合物と、
下記一般式(5)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン化合物と、
【化4】
(式中、Zは互いに独立に炭素数1~20の有機基であり、Rは互いに独立に炭素数1~6の1価炭化水素基であり、nは0~200の整数であり、mは3~200の整数である。ただし、Zの1個以上は(メタ)アクリロキシ基である。)
をヒドロシリル化反応させて、下記一般式(1)で表されるポリシロキサン化合物を得る工程を含むことを特徴とするポリシロキサン化合物の製造方法。
【化5】
(式中、R’は互いに独立に末端に第三級水酸基を有する炭素数3~20の1価炭化水素基であり、基の途中にエーテル結合を含んでもよい。Z、R、n、mは前記の通りである。)
【請求項14】
ハイドロジェンシロキシ単位に対して、前記末端に不飽和基及び第三級水酸基を含有する化合物を、1.0~3.0モル当量とすることを特徴とする請求項13に記載のポリシロキサン化合物の製造方法。
【請求項15】
前記一般式(1)で表されるポリシロキサン化合物の含有率を90%以上とすることを特徴とする請求項13又は請求項14に記載のポリシロキサン化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリシロキサン化合物、ポリマー、ハイドロゲル、医療用材料、及びポリシロキサン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、眼科用デバイスをはじめとした医療用材料に用いられる化合物として、シロキサンを有するモノマーが知られている。例えば、3-[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレート(TRIS)は、眼科用デバイス用モノマーとして広く用いられている。このTRISと親水性モノマーであるN,N-ジメチルアクリルアミドやN-ビニル-2-ピロリドンを共重合して得られるポリマーは高酸素透過性であるという有益な特徴を有する。しかし、疎水性の高いシロキサンモノマーはこれらの親水性モノマーとの相溶性が高いとは言えず、医療用材料となるハイドロゲルを作製した際に相分離が起こり、白濁してしまうという問題がある。
【0003】
特許文献1には、下記式(a)、(a’)で示される第一級又は第二級水酸基を有するシロキサンが記載されている。
【化1】
【0004】
また、特許文献2には、下記式(b)で示されるシロキサン側鎖に第一級及び第二級水酸基を有するシロキサンが記載されている。
【化2】
【0005】
これらの化合物は、分子内に水酸基を有するため良好な親水性を発現する。それゆえに、親水性モノマーとの相溶性に優れるという利点を有している。
【0006】
しかし、上述のような(ポリ)シロキサンと第一級水酸基又は第二級水酸基を有する化合物でハイドロゲルを作製する場合、これらの反応性の高い水酸基が望ましくない結果をもたらす場合がある。例えば、上記水酸基にラジカルが付加し、ヒドロキシラジカルによる架橋構造が形成される恐れがある。それにより、外観の不良や予期せぬ硬度の増加や柔軟性の低下が引き起こされる。そのため、従来のシロキサン化合物では、有益な透明性、親水性や十分な強度を有する医療用材料を提供することができない。そこで、これらの欠点を克服する化合物及び組成物に対する需要が依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-170827号公報
【特許文献2】特開2021-073346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は医療用材料に好適なポリシロキサン化合物、前記ポリシロキサン化合物を用いたポリマー、前記ポリマーを含むハイドロゲル、前記ポリマーを含む医療用材料、及びポリシロキサン化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、1分子中に1個以上の(メタ)アクリロキシ基を含むポリシロキサン化合物であって、前記ポリシロキサン化合物の側鎖の末端に第三級水酸基を有するものであるポリシロキサン化合物を提供する。
【0010】
このようなポリシロキサン化合物であれば、医療用材料に好適に用いることができる。
【0011】
また、本発明では、前記ポリシロキサン化合物が、下記一般式(1)で表されるものであることが好ましい。
【化3】
(式中、Zは互いに独立に炭素数1~20の有機基であり、Rは互いに独立に炭素数1~6の1価炭化水素基であり、R’は互いに独立に末端に第三級水酸基を有する炭素数3~20の1価炭化水素基であり、基の途中にエーテル結合を含んでもよく、nは0~200の整数であり、mは3~200の整数である。ただし、Zの1個以上は(メタ)アクリロキシ基である。)
【0012】
このようなポリシロキサン化合物であれば、医療用材料により好適に用いることができる。
【0013】
また、本発明では、前記一般式(1)において、前記Zが下記一般式(2)で表されるものであることが好ましい。
【化4】
(式中、Xは水素原子又はメチル基であり、破線はケイ素原子との結合手を表す。)
【0014】
このようなポリシロキサン化合物であれば、医療用材料にさらに好適に用いることができる。
【0015】
さらに、本発明では、前記一般式(1)において、前記Rがメチル基であることが好ましい。
【0016】
本発明のポリシロキサン化合物は、このようなものが好ましい。
【0017】
また、本発明では、前記一般式(1)において、前記R’が下記一般式(3)又は下記式(4)で表されるものであることが好ましい。
【化5】
(一般式(3)中、kは0~5の整数を表し、一般式(3)及び式(4)中、破線はケイ素原子との結合手を表す。)
【0018】
本発明のポリシロキサン化合物は、このようなものがより好ましい。
【0019】
この時、前記一般式(3)において、kが0又は1であることが好ましい。
【0020】
このようなポリシロキサン化合物であれば、医療用材料にさらに好適に用いることができる。
【0021】
また、本発明では前記一般式(1)において、nが0~100の整数であり、mが3~100の整数であり、m/(n+m)が0.15以上であることが好ましい。
【0022】
このようなポリシロキサン化合物であれば、医療用材料にさらに好適に用いることができる。
【0023】
この時、前記一般式(1)において、m/(n+m)が0.3以上であることが好ましい。
【0024】
このようなポリシロキサン化合物であれば、医療用材料にさらに好適に用いることができる。
【0025】
また、本発明では、ポリマーであって、上記に記載のポリシロキサン化合物の重合体であるポリマーを提供する。
【0026】
このようなポリマーであれば、(メタ)アクリロキシ基などの重合性基を有するほかの化合物との相溶性が良好である。
【0027】
このとき、前記ポリシロキサン化合物の質量割合が、前記ポリマーの全質量に対して20質量%以上であるが好ましい。
【0028】
このようなポリマーであれば、ポリシロキサン化合物の特性が表れやすい。
【0029】
また、本発明では、上記に記載のポリマーを含むものであるハイドロゲル、又は医療用材料を提供する。
【0030】
本発明のポリマーは、このような用途に好適に用いることができる。
【0031】
また、本発明では、ポリシロキサン化合物の製造方法であって、
末端に不飽和基及び第三級水酸基を含有する化合物と、
下記一般式(5)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン化合物と、
【化6】
(式中、Zは互いに独立に炭素数1~20の有機基であり、Rは互いに独立に炭素数1~6の1価炭化水素基であり、nは0~200の整数であり、mは3~200の整数である。ただし、Zの1個以上は(メタ)アクリロキシ基である。)
をヒドロシリル化反応させて、下記一般式(1)で表されるポリシロキサン化合物を得る工程を含むポリシロキサン化合物の製造方法を提供する。
【化7】
(式中、R’は互いに独立に末端に第三級水酸基を有する炭素数3~20の1価炭化水素基であり、基の途中にエーテル結合を含んでもよい。Z、R、n、mは前記の通りである。)
【0032】
このようなポリシロキサン化合物の製造方法であれば、上記一般式(1)のポリシロキサン化合物を高純度で得ることができる。
【0033】
このとき、ハイドロジェンシロキシ単位に対して、前記末端に不飽和基及び第三級水酸基を含有する化合物を、1.0~3.0モル当量とすることが好ましい。
【0034】
このようなポリシロキサン化合物の製造方法であれば、経済的にポリシロキサン化合物を高純度で得ることができる。
【0035】
このとき、前記一般式(1)で表されるポリシロキサン化合物の含有率を90%以上とすることが好ましい。
【0036】
このようなポリシロキサン化合物の含有率であれば、医療用材料にさらに好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明のポリシロキサン化合物は、側鎖の末端に第三級水酸基を有することにより、親水性モノマーとの相溶性に優れるとともに、医療用材料としたときに透明性の低下や予期せぬ硬度の増加や柔軟性の低下が生じない。さらに、本発明のポリシロキサン化合物の(メタ)アクリロキシ基の重合から導かれる繰返し単位を含む(共)重合体は、好ましい強度を有する。本発明のポリシロキサン化合物は、医療用材料用モノマーとして有用である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
上述のように、医療用材料に好適なポリシロキサン化合物、前記ポリシロキサン化合物を用いたポリマー、前記ポリマーを含むハイドロゲル、前記ポリマーを含む医療用材料、及びポリシロキサン化合物の製造方法の開発が求められていた。
【0039】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討し、1分子中に1個以上の(メタ)アクリロキシ基を含むポリシロキサン化合物であって、前記ポリシロキサン化合物の側鎖の末端に第三級水酸基を有するものである化合物が、他の親水性モノマーとの相溶性に優れていることを見出した。また、前記ポリシロキサン化合物と親水性モノマーの(共)重合体が柔軟性に優れていることをも見出した。
【0040】
即ち、本発明は、1分子中に1個以上の(メタ)アクリロキシ基を含むポリシロキサン化合物であって、前記ポリシロキサン化合物の側鎖の末端に第三級水酸基を有するものであるポリシロキサン化合物である。
【0041】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
[ポリシロキサン化合物]
本発明は、1分子中に1個以上の(メタ)アクリロキシ基を含むポリシロキサン化合物であって、前記ポリシロキサン化合物の側鎖の末端に第三級水酸基を有するものである。
【0043】
前記化合物はポリシロキサン構造を有し、かつポリシロキサン化合物の側鎖の末端に第三級水酸基を含有することを特徴とする。本発明のポリシロキサン化合物において、この第三級水酸基が親水基となり、それには立体的な制限が存在する。これにより反応時の副反応を抑制し、また、本発明のポリシロキサン化合物の(メタ)アクリロキシ基の重合から導かれる繰返し単位を含むポリマー((共)重合体)において水素結合の方向性に由来する強固な水素結合性が生まれ、高い強度が得られると推測される。すなわち、本発明のポリシロキサン化合物は、親水性モノマーとの高い相溶性を有し、導かれる(共)重合体において好ましい強度を提供でき、さらに予期せぬ硬度の増加や柔軟性の低下も生じない。
【0044】
特には、前記ポリシロキサン化合物が、下記一般式(1)で表されるものであることが好ましい。
【化8】
(式中、Zは互いに独立に炭素数1~20の有機基であり、Rは互いに独立に炭素数1~6の1価炭化水素基であり、R’は互いに独立に末端に第三級水酸基を有する炭素数3~20の1価炭化水素基であり、基の途中にエーテル結合を含んでもよく、nは0~200の整数であり、mは3~200の整数である。ただし、Zの1個以上は(メタ)アクリロキシ基である。)
【0045】
上記一般式(1)において、Zは互いに独立に炭素数1~20の有機基であり、好ましくは、下記一般式(2)で表されるものである。
【化9】
(式中、Xは水素原子又はメチル基であり、破線はケイ素原子との結合手を表す。)
【0046】
上記一般式(1)において、Rは互いに独立に炭素数1~6の1価炭化水素基である。1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、及びヘキシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基等のアリール基等が挙げられる。Rは、好ましくは炭素数1~4のアルキル基であり、更に好ましくはメチル基である。
【0047】
上記一般式(1)において、R’は互いに独立に末端に第三級水酸基を有する炭素数3~20の1価炭化水素基であり、基の途中にエーテル結合を含んでもよい。前記R’が下記一般式(3)又は下記式(4)で表されるものであることが好ましい。
【化10】
(一般式(3)中、kは0~5の整数を表し、一般式(3)及び式(4)中、破線はケイ素原子との結合手を表す。)
【0048】
上記一般式(3)において、kは0~5の整数あり、好ましくは0又は1である。
【0049】
上記一般式(1)において、nは0~200の整数であり、mは3~200の整数である。好ましくはnが0~100の整数であり、mが3~100の整数であり、m/(n+m)が0.15以上である。より好ましくはm/(n+m)が0.3以上である。さらに好ましくはm/(n+m)が0.3~1.0である。
【0050】
[ポリシロキサン化合物の製造方法]
以下、上記一般式(1)で示されるポリシロキサン化合物の製造方法を説明する。
本発明では、ポリシロキサン化合物の製造方法であって、
末端に不飽和基及び第三級水酸基を含有する化合物と、
下記一般式(5)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン化合物と、
【化11】
(式中、Zは互いに独立に炭素数1~20の有機基であり、Rは互いに独立に炭素数1~6の1価炭化水素基であり、nは0~200の整数であり、mは3~200の整数である。ただし、Zの1個以上は(メタ)アクリロキシ基である。)
をヒドロシリル化反応させて、上記一般式(1)で表されるポリシロキサン化合物を得る工程を含むポリシロキサン化合物の製造方法を提供する。
【0051】
本発明のポリシロキサン化合物の製造方法は、末端に不飽和基及び第三級水酸基を有する化合物を原料として用いることを特徴とする。本発明のポリシロキサン化合物の製造方法において、水酸基は第三級水酸基であるため、ヒドロシリル化反応において水酸基が望ましくない副反応を起こすことを抑制できる。これにより本発明のポリシロキサン化合物を高純度にて得ることができる。
【0052】
上記ヒドロシリル化反応は従来公知の方法に従い行えばよい。本発明では、上記一般式(5)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン化合物に、末端に不飽和基及び第三級水酸基を有する化合物を、例えば1モル当量以上を添加して反応させればよい。反応温度は特に制限されるものでないが、使用する溶媒の沸点を超えない程度の温度が好ましい。例えば、約0℃から約150℃の温度で行われるのがよい。前記ヒドロシリル化反応は溶媒、ヒドロシリル化触媒、又は安定剤の存在下で行ってもよい。溶媒、ヒドロシリル化触媒、及び安定剤は従来公知のものであればよく特に制限されるものではない。
【0053】
上記ヒドロシリル化反応において、ハイドロジェンシロキシ単位に対して、前記末端に不飽和基及び第三級水酸基を有する化合物を、1モル当量以上を添加することが好ましい。より好ましくは1.0~3.0モル当量であり、更に好ましくは1.2~2.0モル当量であり、特に好ましくは1.5~2.0モル当量である。ハイドロジェンシロキシ単位に対して末端に不飽和基及び第三級水酸基を有する化合物を1モル当量以上添加することでハイドロジェンシロキシ単位の残存及び副反応の抑制ができる。また、上限値は制限されないが、3.0モル当量以下であれば収率や経済性の点から好ましい。
【0054】
(ヒドロシリル化触媒)
ヒドロシリル化触媒は、例えば、貴金属触媒、特には塩化白金酸から誘導される白金触媒が好ましい。特に、塩化白金酸の水素イオンを炭酸水素ナトリウムで完全中和して白金触媒の安定性を向上させた触媒がよい。例えば1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサンと塩化白金酸の炭酸水素ナトリウム中和物との錯体(カルステッド触媒)がより好ましい。
【0055】
ヒドロシリル化触媒の添加量は上記ヒドロシリル化反応を進行させるための触媒量であればよい。例えば、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサンと塩化白金酸の炭酸水素ナトリウム中和物との錯体を、上記一般式(5)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン化合物の質量に対し、白金換算量で1ppm~80ppmとなる量で使用すればよい。
【0056】
(溶媒)
溶媒は、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、イソプロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、及びポリエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、乳酸エチル、及び安息香酸メチル等のエステル系溶媒;直鎖ヘキサン、直鎖ヘプタン、及び直鎖オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、及びエチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;ベンゼン、トルエン、及びキシレン等の芳香族炭化水素溶媒;並びに石油系溶媒等;及び、メチルアルコール、エチルアルコール、直鎖プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、直鎖ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、及びポリエチレングリコール等のアルコール系溶媒が挙げられる。前記溶媒は1種を単独で使用しても、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0057】
(安定剤)
安定剤は、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、及びイオウ系酸化防止剤等が挙げられる。フェノール系酸化防止剤としては、特に限定するものではないが、例えば、p-メトキシフェノール、ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、ピロガロール、tert-ブチルカテコール、4,4-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、フェノール樹脂類、及びクレゾール樹脂類からなる群より選択される化合物等が挙げられる。リン系酸化防止剤としては、特に限定するものではないが、例えば、トリス[2-[[2,4,8,10-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン-6-イル]オキシ]エチル]アミン、トリス[2-[(4,6,9,11-テトラ-tert-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン-2-イル)オキシ]エチル]アミン、及び亜リン酸エチルビス(2,4-ジtert-ブチル-6-メチルフェニル)等が挙げられる。アミン系酸化防止剤としては、特に限定するものではないが、例えば、トリ又はテトラC1-3アルキルピペリジン又はその誘導体、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)オキサレート、1,2-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルオキシ)エタン、フェニルナフチルアミン、N,N’-ジフェニル-1,4-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-シクロヘキシル-1,4-フェニレンジアミン等が挙げられる。イオウ系酸化防止剤としては、特に限定するものではないが、例えば、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート等が挙げられる。前記安定剤は1種を単独で使用しても、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0058】
上記のヒドロシリル化反応において、反応終点は、従来公知の方法に従い確認することができる。例えば、1H-NMR分析、薄層クロマトグラフィー(TLC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、又はガスクロマトグラフィー(GC)等によって原料化合物のピークが消失したことで確認できる。
反応終了後は、従来公知の方法に従い精製すればよい。例えば、有機層を水で洗浄した後、溶媒を除去することにより生成物を単離することができる。また、減圧蒸留や活性炭処理などを使用してもよい。
【0059】
本発明のポリシロキサン化合物の製造方法の一例としては、上記一般式(5)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン化合物1モル当量と、末端に不飽和基及び第三級水酸基を有する化合物1.5モル当量、塩化白金酸炭酸水素ナトリウム中和物・ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液(白金含有量0.5wt%)をオルガノハイドロジェンポリシロキサン化合物の質量に対し白金換算量で10ppmを添加し、80℃で加熱攪拌を行う。6時間程度反応させることにより反応は完結する。また、その際に末端に不飽和基及び第三級水酸基を有する化合物、あるいは生成する化合物を1H-NMR分析等でモニタリングすることで反応の進行を確認できる。反応の完結後、未反応の原料を減圧留去することで、上記一般式(1)で表されるポリシロキサン化合物を得ることができる。
【0060】
[ポリシロキサン化合物の純度]
本発明のポリシロキサン化合物の純度(含有率)は、例えばゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定を行うことで確認することができる。測定は、従来公知の方法に従い実施すればよく、特に限定はされないが、本発明のポリシロキサン化合物を溶解する溶離液を用いることが好ましい。また検出器は従来公知のもの、例えば示差屈折率(RI)検出器が使用できる。ポリシロキサン化合物の純度は、GPCクロマトグラフ上の目的物の面積比から算出することができる。その際、ポリシロキサン化合物の含有率を90%以上とすることが好ましく、本発明のポリシロキサン化合物の特性が表れやすい。
【0061】
[ポリマー]
本発明は、ポリマーであって、上記に記載のポリシロキサン化合物の重合体であるポリマーを提供する。本発明のポリシロキサン化合物は、ポリシロキサン化合物の(メタ)アクリロキシ基の(付加)重合から導かれる繰り返し単位を含むポリマー(重合体)を与えることができる。本発明のポリシロキサン化合物は、(メタ)アクリロキシ基などの重合性基を有する他の化合物(以下、重合性モノマー、又は親水性モノマーという)との相溶性が良好である。そのため、重合性モノマーと共重合することにより無色透明の共重合体を与えることができる。また、ポリシロキサン化合物単独で重合することも可能である。
【0062】
本発明のポリシロキサン化合物と他の重合性(親水性)モノマーとの重合から導かれる繰り返し単位を含む共重合体の製造において、本発明のポリシロキサン化合物の配合割合は、本発明のポリシロキサン化合物から導かれる繰り返し単位の質量割合がポリマーの全質量に対し20質量%以上であることが好ましい。即ち、前記ポリシロキサン化合物の質量割合が、前記ポリマーの全質量に対して20質量%以上であることが好ましい。より詳細には、本発明のポリシロキサン化合物と重合性(親水性)モノマーとの合計100質量部に対して本発明のポリシロキサン化合物の(メタ)アクリロキシ基の(付加)重合から導かれる繰り返し単位を好ましくは20~80質量部、より好ましくは30~60質量部となる量がよい。上記繰り返し単位の質量割合が20質量%以上であれば、本発明のポリシロキサン化合物の特性が表れやすい。
【0063】
重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジメタクリレート、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3―ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のアクリル系モノマー;N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-アクリロイルモルホリン、N-メチル(メタ)アクリルアミド等のアクリル酸誘導体;N-ビニルピロリドン等、その他の不飽和脂肪族もしくは芳香族化合物、例えばクロトン酸、桂皮酸、ビニル安息香酸;及び(メタ)アクリル基などの重合性基を有するシロキサンモノマーが挙げられる。これらは1種単独でも、2種以上を併用してもよい。
【0064】
本発明のポリシロキサン化合物と上記他の重合性モノマーとの共重合は従来公知の方法により行えばよい。例えば、熱重合開始剤や光重合開始剤など既知の重合開始剤を使用して行うことができる。前記重合開始剤としては、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩等があげられる。これら重合開始剤は単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。重合開始剤の配合量は、重合成分の合計100質量部に対して0.001~2質量部が好ましく、より好ましくは0.01~1質量部である。
【0065】
本発明のポリシロキサン化合物の(メタ)アクリロキシ基の重合から導かれる繰り返し単位を含む重合体(ポリマー)は、親水性に優れる。また、前記ポリマーから得られるハイドロゲルは透明性及び強度が高い。また、前記ポリマーから医療用材料を得ることもできる。従って、本発明のポリシロキサン化合物は、医療用材料、例えば、眼科デバイス、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜を製造するのに好適である。前記ポリマーを用いた医療用材料の製造方法は特に制限されるものでなく、従来公知の医療用材料の製造方法に従えばよい。例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズなどレンズの形状に成形する際には、切削加工法や鋳型(モールド)法などを使用できる。
【実施例0066】
以下、合成例、実施例、及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
下記実施例において、1H-NMR分析はJEOL製のECS400を用い、測定溶媒として重クロロホルムを使用して実施した。
また、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定は、すべて下記の条件で行われた。
測定装置:東ソー社HLC-8320(RI検出器)
カラム:TSKゲルガードカラムスーパーH-H、
TSKゲルスーパーH2500、
TSKゲルスーパーHM-N
温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:0.6mL/分
サンプル濃度:0.3質量%(THF溶液)
注入量:50μL
【0067】
合成例1
ジムロート、温度計を付けた500mLの三口ナスフラスコに、アリルアルコール80.0g、イソブチレンオキシド100.0g、カリウムターシャリーブトキシド46.6gを添加し、50℃まで加熱し、24時間熟成した。反応後に10%塩化ナトリウム水溶液で3回洗浄し、内温150℃で未反応の原料などを留去した後に単蒸留を行うことで、下記式(A)で表される第三級水酸基を有する不飽和化合物を134.1g得た。
【化12】
【0068】
合成例2
合成例1においてアリルアルコール80.0gをアリルグリコール141.0gに変えて同様に行い、下記式(B)で表される第三級水酸基を有する不飽和化合物を145.5g得た。
【化13】
【0069】
合成例3
ジムロート、温度計を付けた500mLの三口ナスフラスコに、3-メチル-1,3-ブタンジオール100.0g、塩化アリル95.6g、カリウムターシャリーブトキシド107.6g、トルエン100.0gを添加し、50℃まで加熱し、24時間熟成した。反応後に10%塩化ナトリウム水溶液で3回洗浄し、内温220℃で未反応の原料などを留去した後に単蒸留を行うことで、下記式(C)で表される不飽和化合物を113.1g得た。
【化14】
【0070】
実施例1-1
ジムロート、温度計を付けた500mLの三口ナスフラスコに、下記式(100)で表されるハイドロジェンシロキサン化合物50.0g、上記式(A)で表される不飽和化合物19.3g(ハイドロジェンシロキシ単位に対する不飽和化合物のモル比=1.5)、トルエン100.0g、塩化白金酸重曹中和物・ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液(白金含有量0.5wt%)0.03gを添加し、80℃まで加熱し、6時間熟成した。反応後に内温100℃で溶媒及び未反応の原料などを減圧留去することで無色透明液体を得た。収量58.8g。
1H-NMRから下記式(100A)で表される化合物であることを確認した。GPC測定を行い、目的物の面積を算出したところ、100%であった。
【化15】
【化16】
【0071】
実施例1-2
実施例1-1において上記式(A)で表される不飽和化合物19.3gを、上記式(C)で表される不飽和化合物21.4g(ハイドロジェンシロキシ単位に対する不飽和化合物のモル比=1.5)に替えた他は実施例1-1と同様の方法で無色透明液体を得た。収量61.2g。
1H-NMRにより下記式(100C)で表される化合物であることを確認した。GPC測定を行い、目的物の面積を算出したところ、100%であった。
【化17】
【0072】
実施例1-3
実施例1-1において上記式(100)で表されるハイドロジェンシロキサン化合物50.0gを下記式(101)で表されるハイドロジェンシロキサン化合物50.0g、上記式(A)で表される不飽和化合物19.3gを95.2g(ハイドロジェンシロキシ単位に対する不飽和化合物のモル比=2.0)に替えた他は実施例1-1と同様の方法で無色透明固体を得た。収量103.4g。
1H-NMRにより下記式(101A)で表される化合物であることを確認した。GPC測定を行い、目的物の面積を算出したところ、100%であった。
【化18】
【化19】
【0073】
実施例1-4
実施例1-1において上記式(100)で表されるハイドロジェンシロキサン化合物50.0gを下記式(102)で表されるハイドロジェンシロキサン化合物20.0g、上記式(A)で表される不飽和化合物19.3gを99.0g(ハイドロジェンシロキシ単位に対する不飽和化合物のモル比=3.0)に替えた他は実施例1-1と同様の方法で無色透明固体を得た。収量43.4g。
1H-NMRにより下記式(102A)で表される化合物であることを確認した。GPC測定を行い、目的物の面積を算出したところ、100%であった。
【化20】
【化21】
【0074】
実施例1-5
実施例1-1において上記式(100)で表されるハイドロジェンシロキサン化合物50.0gを上記式(102)で表されるハイドロジェンシロキサン化合物20.0g、上記式(A)で表される不飽和化合物19.3gを上記式(B)で表される不飽和化合物88.3g(ハイドロジェンシロキシ単位に対する不飽和化合物のモル比=2.0)に替えた他は実施例1-1と同様の方法で無色透明固体を得た。収量50.7g。
1H-NMRにより下記式(102B)で表される化合物であることを確認した。GPC測定を行い、目的物の面積を算出したところ、100%であった。
【化22】
【0075】
実施例1-6
実施例1-1において上記式(100)で表されるハイドロジェンシロキサン化合物50.0gを下記式(103)で表されるハイドロジェンシロキサン化合物30.0g、上記式(A)で表される不飽和化合物19.3gを75.4g(ハイドロジェンシロキシ単位に対する不飽和化合物のモル比=2.0)に替えた他は実施例1-1と同様の方法で無色透明固体を得た。収量60.0g。
1H-NMRにより下記式(103A)で表される化合物であることを確認した。GPC測定を行い、目的物の面積を算出したところ、100%であった。
【化23】
【化24】
【0076】
実施例1-7
実施例1-1において上記式(100)で表されるハイドロジェンシロキサン化合物50.0gを上記式(103)で表されるハイドロジェンシロキサン化合物30.0g、上記式(A)で表される不飽和化合物19.3gを上記式(C)で表される不飽和化合物62.6g(ハイドロジェンシロキシ単位に対する不飽和化合物のモル比=1.5)に替えた他は実施例1-1と同様の方法で無色透明固体を得た。収量60.2g。
1H-NMRにより下記式(103C)で表される化合物であることを確認した。GPC測定を行い、目的物の面積を算出したところ、100%であった。
【化25】
【0077】
実施例1-8
実施例1-1において上記式(100)で表されるハイドロジェンシロキサン化合物50.0gを下記式(104)で表されるハイドロジェンシロキサン化合物30.0g、上記式(A)で表される不飽和化合物19.3gを45.5g(ハイドロジェンシロキシ単位に対する不飽和化合物のモル比=1.5)に替えた他は実施例1-1と同様の方法で無色透明固体を得た。収量67.7g。
1H-NMRにより下記式(104A)で表される化合物であることを確認した。GPC測定を行い、目的物の面積を算出したところ、100%であった。
【化26】
【化27】
【0078】
比較例1-1
ジムロート、温度計を付けた500mLの三口ナスフラスコに、上記式(100)で表されるハイドロジェンシロキサン化合物50.0g、3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオール19.6g(ハイドロジェンシロキシ単位に対する不飽和化合物のモル比=1.5)、トルエン100.0g、塩化白金酸重曹中和物・ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液(白金含有量0.5wt%)0.03gを添加し、80℃まで加熱し、6時間熟成した。反応後に内温80℃で溶媒を減圧留去し、n-ヘキサン50gを添加してアセトニトリル50gで3回洗浄した。洗浄後に内温80℃で溶媒を減圧留去し、白濁した液体を得た。収量32.2g。
1H-NMRから下記式(200)で表される化合物であることを確認した。GPC測定を行い、目的物の面積を算出したところ、高分子量域にピークが確認され、72%であった。
【化28】
【0079】
比較例1-2
比較例1-1において、3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオール19.6gをアリルグリコール22.2g(ハイドロジェンシロキシ単位に対する不飽和化合物のモル比=2.0)に替えた他は比較例1-1と同様の方法で微濁した液体を得た。収量43.1g。
1H-NMRにより下記式(201)で表される化合物であることを確認した。GPC測定を行い、目的物の面積を算出したところ、高分子量域にピークが確認され、85%であった。
【化29】
【0080】
比較例1-3
比較例1-1において、上記式(100)で表されるハイドロジェンシロキサン化合物50.0gを上記式(103)で表されるハイドロジェンシロキサン化合物30.0g、3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオール19.6gを114.8g(ハイドロジェンシロキシ単位に対する不飽和化合物のモル比=3.0)に替えた他は比較例1-1と同様の方法で反応を行ったところ、反応中にゲル化してしまい、目的物を得ることができなかった。
【0081】
比較例1-4
比較例1-1において、上記式(100)で表されるハイドロジェンシロキサン化合物50.0gを上記式(103)で表されるハイドロジェンシロキサン化合物30.0g、3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオール19.6gをアリルグリコール97.4g(ハイドロジェンシロキシ単位に対する不飽和化合物のモル比=3.0)に替えた他は比較例1-1と同様の方法で白濁したゲル状固体を得た。収量21.4g。得られた化合物は溶媒に一部不溶のため、可溶分のみGPC測定を行い、目的物の面積を算出したところ、高分子量域にピークが確認され、54%であった。
【0082】
比較例1-5
特開2021-073346号公報に記載の方法(実施例6)において、前駆体であるハイドロジェンシロキサン化合物を上記式(100)で表されるハイドロジェンシロキサン化合物に替えた他は同様の方法で合成を行い、無色微濁液体の目的物(200P)を得た。GPC測定を行い、目的物の面積を算出したところ、高分子量域にピークが確認され、88%であった。
【0083】
実施例1-1~1-8、及び比較例1-1~1-5に示す通り、末端に第三級水酸基を含有する不飽和基含有化合物は、ハイドロジェンシロキサンとの付加反応において、ヒドロシリル化反応の際の副反応が抑制されることから、第一級又は第二級水酸基を含有する不飽和基含有化合物に比べ高い純度でポリシロキサン化合物を製造できる。また、高い変性率においても目的物を製造することができる。加えて、ハイドロジェンシロキシ単位に対する不飽和化合物のモル比が低い場合でも高い純度で合成できることから、使用する不飽和化合物量を減らすことができ、収率や経済性の点から優れている。
【0084】
[実施例2-1~2-8、及び比較例2-1~2-3]
ハイドロゲルの製造例
上記実施例1-1~1-8で得た各化合物、上記比較例1-1~1-2、1-5で得た各化合物、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、N、N-ジメチルアクリルアミド(DMA)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、イルガキュア1173(IRG1173)、イソプロパノール(IPA)を、表1に示す組成及び配合比で混合し、均一な溶液になるまで攪拌した。攪拌後N2によるバブリング5分間を行い、十分に脱気を行った後、ポリプロピレン製の鋳型へと封入した。高圧水銀ランプを用いてUV照射を行い、硬化した。硬化後、イソプロパノール、50%イソプロパノール水溶液、脱イオン水の順にそれぞれ数秒浸漬させることで洗浄を行い、ハイドロゲルフィルムを得た。得られたフィルムの各物性値を下記に示す方法に従い測定した。結果を表1に示す。
【0085】
[硬化後外観]
硬化後のその外観を目視により観察し、下記の指標により評価した。
A:均一かつ透明であった
B:不均一あるいは白濁していた
【0086】
[透明性]
フィルムを脱イオン水に25℃で48時間浸漬させた後、表面の水分を拭き取り、水和したフィルムを作製した。その外観を目視により観察し、下記の指標により評価した。
A:均一かつ透明であった
B:不均一あるいは白濁していた
【0087】
[平衡含水率]
フィルムを脱イオン水に25℃で48時間浸漬させた後、表面の水分を拭き取り、水和したフィルムの質量を計測した。次に水和したフィルムを50℃のオーブンで48時間、25℃のオーブンで24時間乾燥させ、乾燥フィルムの質量を計測した。平衡含水率は以下の式により算出した。
平衡含水率(%)=100×(水和フィルムの質量-乾燥フィルムの質量)/水和フィルムの質量
【0088】
[弾性率(ヤング弾性率)および伸び率]
フィルムを脱イオン水に25℃で48時間浸漬させた後、表面の水分を拭き取り、水和したフィルムを作製した。前記水和したフィルムのヤング弾性率を、インストロン5943を用いて測定した。0.8cm×4.0cmに切断されたフィルムを50Nのロードセル、1cm/分のヘッド速度で測定を行い、縦軸に得られる応力、横軸にひずみをとった応力-ひずみ曲線の初期(直線部)の傾きを算出し、ヤング弾性率(MPa)とした。また、フィルムが破断した時の伸び率を最大伸び率(%)とした。
【0089】
【0090】
表1に示す通り、本発明のポリシロキサン化合物を用いた実施例2-1~2-8のハイドロゲルは、透明性に優れ、優れた弾性率、及び最大伸び率を有する。一方、表1に示す通り、比較化合物として第一級水酸基又は第二級水酸基を有する化合物(200)、(201)、(200P)を用いた比較例2-1~2-3のハイドロゲルは硬化後又は含水後の透明性に難があり、加えて弾性率が高く、最大伸び率も低い。即ち、本発明のポリシロキサン化合物を用いたハイドロゲルは、有益な親水性や十分な強度や柔軟性を有する医療用材料を提供する。
【0091】
[産業上の利用可能性]
本発明のポリシロキサン化合物は親水性や強度に優れるハイドロゲルを与える。本発明のポリシロキサン化合物は、医療用材料、例えば、眼科用デバイス、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜、及び眼鏡レンズ製造用モノマーとして有用である。
【0092】
本明細書は、以下の態様を包含する。
[1]:1分子中に1個以上の(メタ)アクリロキシ基を含むポリシロキサン化合物であって、前記ポリシロキサン化合物の側鎖の末端に第三級水酸基を有するものであることを特徴とするポリシロキサン化合物。
[2]:前記ポリシロキサン化合物が、下記一般式(1)で表されるものであることを特徴とする上記[1]のポリシロキサン化合物。
【化30】
(式中、Zは互いに独立に炭素数1~20の有機基であり、Rは互いに独立に炭素数1~6の1価炭化水素基であり、R’は互いに独立に末端に第三級水酸基を有する炭素数3~20の1価炭化水素基であり、基の途中にエーテル結合を含んでもよく、nは0~200の整数であり、mは3~200の整数である。ただし、Zの1個以上は(メタ)アクリロキシ基である。)
[3]:前記一般式(1)において、前記Zが下記一般式(2)で表されるものであることを特徴とする上記[2]のポリシロキサン化合物。
【化31】
(式中、Xは水素原子又はメチル基であり、破線はケイ素原子との結合手を表す。)
[4]:前記一般式(1)において、前記Rがメチル基であることを特徴とする上記[2]又は上記[3]のポリシロキサン化合物。
[5]:前記一般式(1)において、前記R’が下記一般式(3)又は下記式(4)で表されるものであることを特徴とする上記[2]から上記[4]のいずれか1つのポリシロキサン化合物。
【化32】
(一般式(3)中、kは0~5の整数を表し、一般式(3)及び式(4)中、破線はケイ素原子との結合手を表す。)
[6]:前記一般式(3)において、kが0又は1であることを特徴とする上記[5]のポリシロキサン化合物。
[7]:前記一般式(1)において、nが0~100の整数であり、mが3~100の整数であり、m/(n+m)が0.15以上であることを特徴とする上記[2]から上記[6]のいずれか1つのポリシロキサン化合物。
[8]:前記一般式(1)において、m/(n+m)が0.3以上であることを特徴とする上記[7]のポリシロキサン化合物。
[9]:ポリマーであって、上記[1]から上記[8]のいずれか1つのポリシロキサン化合物の重合体であることを特徴とするポリマー。
[10]:前記ポリシロキサン化合物の質量割合が、前記ポリマーの全質量に対して20質量%以上であることを特徴とする上記[9]のポリマー。
[11]:ハイドロゲルであって、上記[9]又は上記[10]のポリマーを含むものであることを特徴とするハイドロゲル。
[12]:医療用材料であって、上記[9]又は上記[10]のポリマーを含むものであることを特徴とする医療用材料。
[13]:ポリシロキサン化合物の製造方法であって、
末端に不飽和基及び第三級水酸基を含有する化合物と、
下記一般式(5)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン化合物と、
【化33】
(式中、Zは互いに独立に炭素数1~20の有機基であり、Rは互いに独立に炭素数1~6の1価炭化水素基であり、nは0~200の整数であり、mは3~200の整数である。ただし、Zの1個以上は(メタ)アクリロキシ基である。)
をヒドロシリル化反応させて、下記一般式(1)で表されるポリシロキサン化合物を得る工程を含むことを特徴とするポリシロキサン化合物の製造方法。
【化34】
(式中、R’は互いに独立に末端に第三級水酸基を有する炭素数3~20の1価炭化水素基であり、基の途中にエーテル結合を含んでもよい。Z、R、n、mは前記の通りである。)
[14]:ハイドロジェンシロキシ単位に対して、前記末端に不飽和基及び第三級水酸基を含有する化合物を、1.0~3.0モル当量とすることを特徴とする上記[13]のポリシロキサン化合物の製造方法。
[15]:前記一般式(1)で表されるポリシロキサン化合物の含有率を90%以上とすることを特徴とする上記[13]又は上記[14]のポリシロキサン化合物の製造方法。
【0093】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。