(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024719
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】乳酸吸着剤
(51)【国際特許分類】
B01J 20/22 20060101AFI20250214BHJP
C07C 63/28 20060101ALI20250214BHJP
C07C 63/30 20060101ALI20250214BHJP
C07C 51/47 20060101ALI20250214BHJP
C07C 59/08 20060101ALI20250214BHJP
B01D 15/00 20060101ALI20250214BHJP
C07F 5/06 20060101ALN20250214BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20250214BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20250214BHJP
【FI】
B01J20/22 C
C07C63/28
C07C63/30
C07C51/47
C07C59/08
B01D15/00 M
C07F5/06 D
C12N5/10
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128923
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000173762
【氏名又は名称】公益財団法人相模中央化学研究所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 高則
(72)【発明者】
【氏名】大石 拓実
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博之
(72)【発明者】
【氏名】荒木 啓介
(72)【発明者】
【氏名】大塚 信彦
(72)【発明者】
【氏名】高山 亮
【テーマコード(参考)】
4B065
4D017
4G066
4H006
4H048
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
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4G066AA20C
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4G066BA36
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4G066FA37
4H006AA02
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4H006AB90
4H006AD17
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4H006BS10
4H006BS70
4H048AA03
4H048AB90
4H048VA80
4H048VB10
(57)【要約】
【課題】 本発明は、中性条件下で、細胞培養液中の乳酸を効率良く除去する乳酸吸着剤、及びその用途を提供することを目的とする。
【解決手段】 細胞培養液中の乳酸を吸着する乳酸吸着用組成物であって、下記一般式(1)
【化1】
(式中、M
3+は、3価の金属イオンを表し、R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルキルオキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、又はヒドロキシ基を表す。)
で示される金属有機構造体を含むことを特徴とする、乳酸吸着用組成物を用いる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養液中の乳酸を吸着する乳酸吸着用組成物であって、下記一般式(1)
【化1】
(式中、M
3+は、3価の金属イオンを表し、R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルキルオキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、又はヒドロキシ基を表す。)
で示される金属有機構造体を含むことを特徴とする、乳酸吸着用組成物。
【請求項2】
前記のM3+が、鉄(III)イオン、又はアルミニウム(III)イオンであり、前記金属有機構造体が、MIL-53型金属有機構造体である、請求項1に記載の乳酸吸着用組成物。
【請求項3】
さらに、水に不溶性の担体を含み、前記金属有機構造体が前記担体上に形成されて、前記担体と前記金属有機構造体が複合体を形成している、請求項1に記載の乳酸吸着用組成物。
【請求項4】
前記の水に不溶性の担体が、アルミナ、シリカゲル、ゼオライト、メソポーラスシリカ、メソポーラスアルミナ、多糖類、及び合成高分子からなる群より選ばれる単一又は複数の担体である、請求項3に記載の乳酸吸着用組成物。
【請求項5】
乳酸吸着用組成物の全量を100質量%としたときの前記の金属有機構造体の含有量が、1~90質量%である、請求項1に記載の乳酸吸着用組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の乳酸吸着用組成物と、水素イオン濃度指数(pH)が6.0~8.0の範囲にある乳酸含有細胞培養液とを接触させ、前記細胞培養液中の乳酸の一部又は全部を吸着除去することを特徴とする、細胞培養液からの乳酸の除去方法。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載の乳酸吸着用組成物と、水素イオン濃度指数(pH)が6.0~8.0の範囲にある乳酸含有細胞培養液とを接触させ、前記細胞培養液中の乳酸の一部又は全部を吸着除去し、それ以外の処理を行うことなく、水素イオン濃度指数(pH)が6.0~8.0の範囲にある細胞培養液を取得することを特徴とする、細胞培養液からの乳酸の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養液等から高選択的に乳酸を除去することができる乳酸吸着剤、及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療に関する研究開発が活発化している。中でもヒトiPS細胞やES細胞等の多能性幹細胞より誘導した治療用細胞又は治療用細胞組織等を利用した再生医療の実用化が期待されている(特許文献1)。このような再生医療の実用化に向けて、様々なヒトiPS細胞の高密度大量培養方法が検討されているが、培養時に老廃物として発生する乳酸がiPS細胞の増殖を阻害するため、細胞培養液中の乳酸を効率的に除去する技術の開発が求められている(非特許文献1)。
【0003】
細胞培養液中の乳酸を除去する技術としては、例えば、乳酸やアンモニア等の低分子量化合物のみが透過可能な中空糸膜を用いた透析法(非特許文献2)、又は層状複水酸化物、層状複酸化物、弱塩基性陰イオン交換樹脂、及び強塩基性陰イオン交換樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の物質を含む乳酸吸着剤を用いる方法(特許文献2)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/043168号
【特許文献2】国際公開第2020/050068号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Horiguchi,I.等,Engineering,2021,7,144-152
【非特許文献2】Nath,S.C.等,Bioprocess Biosyst Eng.,2017,40,123-131
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に開示された中空糸膜を用いた透析法による乳酸の除去方法については、中空糸膜が培養細胞との接触によって目詰まりを起こすため、その目詰まりの解消作業が非常に煩雑である点が課題であった。
【0007】
特許文献2に開示された方法は、所謂イオン交換法であり、乳酸の除去に伴って細胞培養液の液性(pH、水素イオン濃度指数)がアルカリ側に変動する性質のものである。一方で、細胞培養液のpHについては、培養細胞に対する毒性の観点から中性が好ましく、これを維持することが極めて重要である。このため、イオン交換法による乳酸の除去では、事前に細胞培養液のpHを酸性化する、あるいは乳酸の除去後に速やかに細胞培養液を中和する必要があるが、いずれの場合も細胞培養液のpHを中性領域に保つことが困難である点が課題であった。
【0008】
上記背景と課題を鑑み、本発明は、中性条件下で、細胞培養液中の乳酸を効率良く除去する乳酸吸着剤、及びその用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、下記の細胞培養液用乳酸吸着剤、及びその用途を見出すに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一態様は以下に示す細胞培養液用乳酸吸着剤、及びその用途に関するものである。
【0011】
[1] 細胞培養液中の乳酸を吸着する乳酸吸着用組成物であって、下記一般式(1)
【0012】
【0013】
(式中、M3+は、3価の金属イオンを表し、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルキルオキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、又はヒドロキシ基を表す。)
で示される金属有機構造体を含むことを特徴とする、乳酸吸着用組成物。
【0014】
[2] 前記のM3+が、鉄(III)イオン、又はアルミニウム(III)イオンであり、前記金属有機構造体が、MIL-53型金属有機構造体である、[1]に記載の乳酸吸着用組成物。
【0015】
[3] さらに、水に不溶性の担体を含み、前記金属有機構造体が前記担体上に形成されて、前記担体と前記金属有機構造体が複合体を形成している、[1]又は[2]に記載の乳酸吸着用組成物。
【0016】
[4] 前記の水に不溶性の担体が、アルミナ、シリカゲル、ゼオライト、メソポーラスシリカ、メソポーラスアルミナ、多糖類、及び合成高分子からなる群より選ばれる単一又は複数の担体である、[3]に記載の乳酸吸着用組成物。
【0017】
[5] 乳酸吸着用組成物の全量を100質量%としたときの前記の金属有機構造体の含有量が、1~90質量%である、[1]乃至[4]のいずれかに記載の乳酸吸着用組成物。
【0018】
[6] [1]乃至[5]のいずれかに記載の乳酸吸着用組成物と、水素イオン濃度指数(pH)が6.0~8.0の範囲にある乳酸含有細胞培養液とを接触させ、前記細胞培養液中の乳酸の一部又は全部を吸着除去することを特徴とする、細胞培養液からの乳酸の除去方法。
【0019】
[7] [1]乃至[5]のいずれかに記載の乳酸吸着用組成物と、水素イオン濃度指数(pH)が6.0~8.0の範囲にある乳酸含有細胞培養液とを接触させ、前記細胞培養液中の乳酸の一部又は全部を吸着除去し、それ以外の処理を行うことなく、水素イオン濃度指数(pH)が6.0~8.0の範囲にある細胞培養液を取得することを特徴とする、細胞培養液からの乳酸の除去方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の乳酸吸着剤は、従来技術では困難であった「中性条件を保持しながら、細胞培養液中の乳酸を吸着し、高選択的に除去する」という課題を解決するものであり、pH変動による細胞培養液への悪影響を最小限に抑えることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0022】
本発明は、上述した乳酸吸着用組成物、及びその用途に係る。
【0023】
本発明の乳酸吸着用組成物は、細胞培養液中の乳酸を吸着するものであって、上記の一般式(1)で表される金属有機構造体を含むことを特徴とする。
【0024】
細胞培養液は、未使用時は乳酸を含有しないが、細胞培養の時間経過とともに細胞代謝によって乳酸が生産され、細胞培養液中に分泌される。乳酸は細胞にとって有毒であり、その濃度が細胞培養液の全質量に対して0.1質量%以上になると、培養速度が低下するなどの悪影響が生じる。このため、定期的に細胞培養液を交換する必要がある。
【0025】
本発明の乳酸吸着用組成物は、pHが6.0から8.0の条件下、乳酸を含む細胞培養液から乳酸を効率良く除去する乳酸吸着剤として使用することができる。
【0026】
本発明の乳酸吸着用組成物は、細胞や微生物の栄養源であるグルコースやアミノ酸の除去率が低く、乳酸以外の細胞培養液組成物の組成濃度変化が小さい乳酸吸着剤として使用することができる。
【0027】
このため、本発明の乳酸吸着用組成物は、培養細胞へのストレス負荷が少なく、尚且つ乳酸除去後の培養液成分調整が原則不要な環境負荷の小さい乳酸除去方法を提供できるという効果を奏する。
【0028】
本発明の乳酸吸着用組成物は、細胞代謝によって生産された乳酸を細胞培養液から高選択的に吸着することができ、細胞培養液の酸性度を中性に調整することができるという効果を奏するものである。
【0029】
本発明の乳酸吸着用組成物は、上記の一般式(1)で表される金属有機構造体を含むことを特徴とする。
【0030】
紙面上では、立体構造を示していないが、上記の金属有機構造体は、強直有機配位子と金属原子で構成される金属クラスターの間で錯体が形成され、金属原子が互いに有機部位で架橋された構造を有する3次元繰返し立体構造を有する結晶性化合物を表す。
【0031】
上記の一般式(1)において、M3+は、3価の金属イオンを表す。
【0032】
当該M3+で表される3価の金属イオンとしては、特に限定するものではないが、例えば、3価の第8族元素イオン、3価の第13族元素イオン、3価の第6族元素イオン、又は3価の第5族元素イオンを挙げることができ、より具体的には、例えば、鉄(III)イオン、ルテニウム(III)イオン、オスミウム(III)イオン、ホウ素(III)イオン、アルミニウム(III)イオン、ガリウム(III)イオン、インジウム(III)、クロム(III)イオン、モリブデン(III)イオン、タングステン(III)イオン、バナジウム(III)イオン、ニオブ(III)イオン、又はタンタル(III)イオン等が挙げられる。
【0033】
前記のM3+は、中性条件下での乳酸の除去効率に優れる点で、3価の第8族元素イオン、及び3価の第14族元素イオンからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましく、鉄(III)イオン、及び/又はアルミニウム(III)イオンであることが好ましく、アルミニウム(III)イオンであることがより好ましい。
【0034】
上記の一般式(1)において、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルキルオキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、又はヒドロキシ基を表す。
【0035】
前記の炭素数1~4のアルキル基としては、特に限定するものではないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、又はtert-ブチル基等を挙げることができる。
【0036】
前記の炭素数1~4のアルキルオキシ基としては、特に限定するものではないが、例えば、メトキシ、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、ブトキシ基、イソブチルオキシ基、又はtert-ブチルオキシ基等を挙げることができる。
【0037】
前記のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子が挙げられる。
【0038】
R1、R2、R3、及びR4は、中性条件下での乳酸の除去効率に優れる点で、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、アミノ基、又はヒドロキシ基であることが好ましく、水素原子、メチル基、又はメトキシ基であることがより好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0039】
上記の一般式(1)で表される金属有機構造体については、中性条件下での乳酸の除去効率に優れる点で、MIL-53型金属有機構造体であることが好ましい。
【0040】
次にMIL-53型金属有機構造体について説明する。
【0041】
MIL-53型金属有機構造体におけるMIL-53は、金属有機構造体(MOF)材料のクラスを表し、その構造を規定するものである。
【0042】
MIL-53型金属有機構造体の構造は、従来公知の製造方法に従って合成することができ、XRD(X線回折)構造解析やIR(赤外線分光)分析等を用いて同定することができる。
【0043】
前記のMIL-53型金属有機構造体については、その典型例として、金属中心としての3価の金属イオンと、リンカー分子としてのテレフタル酸類によって構成されるものを例示することができる。
【0044】
MIL-53型金属有機構造体としては、例えば、MIL-53(V)、MIL-53(Cr)、MIL-53(Al)、MIL-53(Fe)、MIL-53(In)、又はMIL-53(Ga)等を挙げることができる。
【0045】
前記のテレフタル酸類としては、限定するものではないが、例えば、テレフタル酸、2-アミノベンゼン-1,4-ジカルボキシレート、2-フルオロベンゼン-1,4-ジカルボキシレート、2-クロロベンゼン-1,4-ジカルボキシレート、2-ブロモベンゼン-1,4-ジカルボキシレート、2-ヨードベンゼン-1,4-ジカルボキシレート、2-メチルベンゼン-1,4-ジカルボキシレート、2-エチルベンゼン-1,4-ジカルボキシレート、2-メトキシベンゼン-1,4-ジカルボキシレート、2-エトキシベンゼン-1,4-ジカルボキシレート、2-ヒドロキシベンゼン-1,4-ジカルボキシレート、2,5-ジメチルベンゼン-1,4-ジカルボキシレート、2,5-ジメトキシベンゼン-1,4-ジカルボキシレート、又は2,5-ジヒドロキシベンゼン-1,4-ジカルボキシレート等が挙げられる。
【0046】
一般式(1)で表される金属有機構造体については、一般的には粉末状のものが入手可能であるが、当該粉末状のものについては、そのまま乳酸吸着用組成物として用いることができる。また、当該粉末状のものを押し固めてタブレット状、又はペレット状に成形したものを、本発明の乳酸吸着用組成物として用いることもできる。
【0047】
一般式(1)で示される金属有機構造体は、市販のものを用いることもできるし、従来公知の製造方法に基づいて製造したものを用いることもできる。
【0048】
当該乳酸吸着用組成物は、上記の一般式(1)で表される金属有機構造体を含むことを特徴とする。すなわち、本発明の乳酸吸着用組成物は、上記の一般式(1)で表される金属有機構造体以外の成分を含んでいてもよい。
【0049】
上記の一般式(1)で表される金属有機構造体を含む乳酸吸着用組成物としては、例えば、上記の一般式(1)で表される金属有機構造体からなる乳酸吸着用組成物、上記の一般式(1)で表される金属有機構造体を含む乳酸吸着用組成物、上記の一般式(1)で表される金属有機構造体と担体からなる乳酸吸着用組成物、又は上記の一般式(1)で表される金属有機構造体と担体を含む乳酸吸着用組成物等が挙げられる。
【0050】
前記の上記の一般式(1)で表される金属有機構造体からなる乳酸吸着用組成物としては、例えば、上記の一般式(1)で表される金属有機構造体の粉末からなる乳酸吸着用組成物、又は前記粉末がタブレット状若しくはペレット状に成型されたものからなる乳酸吸着用組成物等が挙げられる。
【0051】
前記の上記の一般式(1)で表される金属有機構造体を含む乳酸吸着用組成物としては、例えば、上記の一般式(1)で表される金属有機構造体とバインダーを含む組成物、上記の一般式(1)で表される金属有機構造体とそれを包み込む多孔質膜を含む組成物、又は上記の一般式(1)で表される金属有機構造体とそれを閉じ込める包袋を含む組成物等が挙げられる。
【0052】
前記のバインダーとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム、ポリビニリデンフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン、水溶性ケイ酸塩、酸性金属リン酸塩、オルガノポリシロキサン、アルミナゾル、合成雲母、粘土、又はセメント等が挙げられる。
【0053】
前記の多孔質膜としては、例えば、ポリエチレン多孔質膜、フッ素樹脂多孔質膜、ポリアクリレート多孔質膜、ポリアミド多孔質膜、ポリウレタン多孔質膜、又は多孔質ガラス等が挙げられる。
【0054】
前記の包袋としては、例えば、ティーバッグ等が挙げられる。
【0055】
上記の一般式(1)で表される金属有機構造体と担体からなる乳酸吸着用組成物、又は上記の一般式(1)で表される金属有機構造体と担体を含む乳酸吸着用組成物については、担体を必須とする。
【0056】
前記の担体については、水不溶性の担体が好ましく、当該担体としては、特に限定するものではないが、例えば、アルミナ、シリカゲル、ゼオライト、メソポーラスシリカ、メソポーラスアルミナ、多糖類、又は合成高分子等が挙げられる。
【0057】
前記の多糖類としては、特に限定するものではないが、例えば、アガロース、セルロース、キチン、若しくはキトサン、又はそれらの架橋物等が挙げられる。
【0058】
前記の合成高分子としては、例えば、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリレート共重合体、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリルアミド共重合体、ポリスチレン、ポリスチレン共重合体、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、若しくはポリカーボネート、又はそれらの架橋物等が挙げられる。
【0059】
前記の担体の形状としては、特に限定するものではないが、例えば、粒子状、繊維状、スポンジ状、平膜状、平板状、又は中空糸状等が挙げられる。当該形状については、中性条件下での乳酸の除去効率に優れる点、及び吸着処理後の細胞培養液と吸着剤との分離に優れる点で、粒子状、又は繊維状であることが好ましく、粒子状であることがより好ましい。
【0060】
なお、前記の担体については、多孔質であってもよいし、無孔質であってもよいが、中性条件下での乳酸の除去効率に優れる点で、多孔質であることが好ましい。
【0061】
前記の多孔質の孔については、培養細胞が侵入しない大きさであることが好ましく、中性条件下での乳酸の除去効率に優れる点、及び吸着処理後の細胞培養液と吸着剤との分離に優れる点で、ガス吸着法で測定される平均細孔径が、10~1000nmであることが好ましく、20~500nmであることがより好ましい。
【0062】
前記の担体の大きさについては、特に限定するものではないが、粒子状、又はスポンジ状等であれば、顕微鏡写真の画像解析によって求められる平均粒子径(D50)が、0.1μm~5000μmであることが好ましく、10μm~1000μmであることがより好ましい。繊維状、又は中空糸であれば、その平均長さが100μm~100cmであることが好ましく、1~10cmであることがより好ましく、その平均直径が0.1~1mmであることが好ましい。なお、前記平均直径については、前記平均長さより短い。
【0063】
上記の一般式(1)で表される金属有機構造体と担体からなる乳酸吸着用組成物としては、特に限定するものではないが、例えば、上記の一般式(1)で表される金属有機構造体が担体に担持された乳酸吸着用組成物、上記の一般式(1)で表される金属有機構造体が担体上に形成された乳酸吸着用組成物、又は上記の一般式(1)で表される金属有機構造体が担体の内部で形成された乳酸吸着用組成物等が挙げられる。
【0064】
前記の上記の一般式(1)で表される金属有機構造体が担体に担持された乳酸吸着用組成物、担体上に形成された乳酸吸着用組成物、又は担体の内部で形成された乳酸吸着用組成物を製造する方法としては、例えば、前記担体と前記金属有機構造体を共有結合により化学的に担持する方法、水素結合や疎水結合等を利用して物理的に担持する方法、又は担体の表面上、細孔内、若しくは空孔内に前記金属有機構造体を生成させる方法を挙げることができる。
【0065】
本発明の乳酸吸着用組成物が担体を含有する場合、当該担体の含有量としては、前記の乳酸吸着用組成物の全量を100質量%として、30~95質量%であることが好ましく、40~92質量%であることがより好ましく、50~90質量%であることがより好ましい。
【0066】
本発明の乳酸吸着用組成物が担体を含有する場合、当該乳酸吸着用組成物における前記の金属有機構造体の含有量については、中性条件下での乳酸の除去効率に優れる点で、乳酸吸着用組成物の全量を100質量%として、1~90質量%であることが好ましく、5~80質量%であることがより好ましく、5~70質量%であることがより好ましく、8~60質量%であることがより好ましく、8~50質量%であることがより好ましく、10~50質量%であることがより好ましい。
【0067】
なお、前記の金属有機構造体と担体の含有量比については、特に限定するものではないが、例えば、前記の担体 10質量部に対して、前記の金属有機構造体が0.1~30質量部であることが好ましく、0.5~20質量部であることがより好ましく、0.5~15質量部であることがより好ましい。
【0068】
上記の一般式(1)で表される金属有機構造体を含む乳酸吸着用組成物については、操作性に優れる点で、上記の一般式(1)で表される金属有機構造体からなる乳酸吸着用組成物、又は上記の一般式(1)で表される金属有機構造体が担体上に形成された乳酸吸着用組成物であることが好ましい、上記の一般式(1)で表される金属有機構造体がポリ(メタ)アクリレート共重合体からなる担体上に形成された乳酸吸着用組成物であることがより好ましい。
【0069】
乳酸吸着用組成物上記の一般式(1)で表される金属有機構造体を含む乳酸吸着用組成物については、中性条件下での乳酸の除去効率に優れる点、及び培養細胞との接触による細胞への悪影響を小さく抑えられる点で、さらに、高親水性樹脂、生体適合性ポリマー、又は生体由来成分によって被覆されていてもよい。これらは、上記の一般式(1)で表される金属有機構造体と担体を含む乳酸吸着用組成物に該当する。
【0070】
前記の高親水性樹脂、生体適合性ポリマー、又は生体由来成分としては、特に限定するものではないが、例えば、ポリビニルアルコール、アルギン酸、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、又はコラーゲン等が挙げられる。
【0071】
次いで、本発明の乳酸吸着用組成物を用いた細胞培養液からの乳酸の除去方法について説明する。
【0072】
本発明の乳酸吸着用組成物については、乳酸含有細胞培養液と接触させることによって、前記細胞培養液から乳酸の一部又は全部を吸着除去することができる。
【0073】
本発明の細胞培養液からの乳酸の除去方法は、上記の乳酸吸着用組成物と、水素イオン濃度指数(pH)が6.0~8.0である乳酸含有細胞培養液とを接触させ、前記細胞培養液中の乳酸の一部又は全部を吸着除去することを特徴とする。
【0074】
なお、本発明の細胞培養液からの乳酸の除去方法については、上記の乳酸吸着用組成物と、水素イオン濃度指数(pH)が6.0~8.0である乳酸含有細胞培養液とを接触させ、前記細胞培養液中の乳酸の一部又は全部を吸着除去し、それ以外の処理を行うことなく、水素イオン濃度指数(pH)が6.0~8.0である細胞培養液を取得するものであることが好ましい。
【0075】
吸着除去の対象となる前記の乳酸としては、具体的には、L-乳酸、L-乳酸塩、D-乳酸、D-乳酸塩、L-乳酸とD-乳酸の混合物、又はL-乳酸塩とD-乳酸塩の混合物を例示することができる。これらのうち、吸着除去されるべき物質としては、L-乳酸、又はL-乳酸塩が好ましい。
【0076】
一般に、乳酸は強い酸性を示す化合物であり、その水溶液は酸性を示す。pHが6.0から8.0の中性水溶液条件下における乳酸は、一般に乳酸塩の形態をとっており、この乳酸塩についても、吸着除去の対象となる前記の乳酸の概念に含まれる。
【0077】
前記の乳酸塩としては、例えば、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、又は乳酸カルシウム等が挙げられる。
【0078】
吸着除去の対象となる前記乳酸は、細胞培養液に溶解している。
【0079】
なお、当該乳酸は、後述する細胞、又は微生物の増殖(培養)に伴って、当該細胞、又は微生物によるグルコース代謝物(老廃物)として培養液中に排出される。
【0080】
前記の水素イオン濃度指数(pH)が6.0~8.0である乳酸含有細胞培養液としては、例えば、水素イオン濃度指数(pH)が6.0~8.0である動物細胞培養液(例えば、ヒト由来細胞培養液)、水素イオン濃度指数(pH)が6.0~8.0である植物細胞培養液、又は水素イオン濃度指数(pH)が6.0~8.0である微生物培養液を挙げることができる。このうち、乳酸により細胞の増殖が阻害されやすいヒト由来細胞培養液が好ましい。
【0081】
前記のヒト由来細胞培養液としては、例えば、ヒトiPS細胞若しくはヒトES細胞を市販の多能性幹細胞用培地(例えば、味の素社製StemFitTM)を用いて培養した培養液、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)を市販のhMSC用無血清培地(例えば、細胞科学研究所社製CiMSTM)を用いて培養した培養液、ヒト間葉系幹細胞若しくはヒト胎児腎細胞(HEK293細胞)を動物細胞用血清含有培地(例えば、基礎培地であるD-MEMにウシ胎児血清を添加した培地)を用いて培養した培養液、又は神経前駆細胞、血管内皮細胞、間葉系前駆細胞、心筋細胞、骨格筋芽細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、角膜上皮細胞、角膜内皮細胞、網膜色素上皮細胞、軟骨細胞、若しくは線維芽細胞等のヒト由来細胞を適切な培地を用いて培養した培養液等を挙げることができる。
【0082】
さらに、ヒト由来以外の細胞を培養した細胞培養液としては、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)を市販の抗体産生細胞株用培地(例えば、SAFC Biosciences社製EX-CELL Advanced CHO Fed-Batch MediumTM)を用いて培養した培養液、アフリカミドリザル腎臓上皮由来細胞(Vero細胞)を市販のVero細胞用無血清培地(Biological Industries社製NutriVero Flex10TM)を用いて培養した培養液、又は昆虫細胞(例えば、Sf9細胞)を昆虫細胞用培地(例えば、富士フイルム和光純薬製IS Sf InsectTM)を用いて培養した培養液等を挙げることができる。
【0083】
なお、上述した培地はいずれも、良好な細胞増殖を達成するため、pHが6.0~8.0に調整されている。
【0084】
上記の乳酸吸着用組成物と、水素イオン濃度指数(pH)が6.0~8.0である乳酸含有細胞培養液とを接触させる方法については、高効率に乳酸が吸着除去出来れば特に限定するものではないが、例えば、前記の乳酸含有細胞培養液に前記の乳酸吸着用組成物を直接添加して撹拌する方法、前記の乳酸吸着用組成物を充填したカラムに前記の乳酸含有細胞培養液を通液する方法、又は前記の乳酸吸着用組成物が壁面や底面に固定化された容器に前記の乳酸含有細胞培養液を流し込む方法等を挙げることができる。
【0085】
前記の乳酸吸着用組成物と前記の乳酸含有細胞培養液とを接触させるときの温度としては、特に限定するものではないが、中性条件下での乳酸の除去効率に優れる点で、0~80℃の範囲であることが好ましく、前記の乳酸含有細胞培養液が細胞又は微生物を含有する場合は、中性条件下での乳酸の除去効率に優れる点で、15~45℃の範囲が好ましく、25~40℃の範囲がより好ましい。
【0086】
また、前記の乳酸吸着用組成物と前記の乳酸含有細胞培養液とを接触させることによって、乳酸の一部又は全部が除去された細胞培養液を取得することができる。当該乳酸の一部又は全部が除去された細胞培養液について、そのpHは、特に限定するものではないが、3~10の範囲が好ましく、5~9の範囲がより好ましく、6~8の範囲がより好ましい。
【0087】
前記の乳酸含有細胞培養液、及び前記の乳酸の一部又は全部が除去された細胞培養液が細胞、又は微生物を含有する場合は、当該乳酸の一部又は全部が除去された細胞培養液のpHが、6~8の範囲であることが好ましい。
【0088】
さらに、前記の乳酸含有細胞培養液、及び前記の乳酸の一部又は全部が除去された細胞培養液が細胞、又は微生物を含有する場合は、乳酸を吸着除去する前後のpH変化が、1以内であることが好ましく、0.5以内であることがより好ましい。
【0089】
本発明の乳酸の除去方法は、従来公知のイオン交換材料を用いる方法とは異なり、乳酸除去前後における細胞培養液のpH変動が小さいという特長を有する。このため、本発明の細胞培養液用乳酸吸着剤、及びそれを用いた乳酸の除去方法については、細胞へのストレス影響を小さく抑えることができ、細胞培養の速度及び効率を向上させることができるという効果を奏する。
【0090】
本発明の乳酸の除去方法については、従来公知のイオン交換材料を用いる方法において必須のpH調整装置が不要になる、又は当該装置を小規模化、又は簡略化することができる。このため、本発明の実施形態によれば、細胞培養装置のさらなる簡略化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【実施例0092】
以下、本発明を実施例によって具体的に記述する。しかし、これらによって本発明は制限されるものではない。
[イオンクロマト分析]
測定装置:東ソー社製 IC-2001
カラム :TSKgel(登録商標) SuperIC-AP
ガードカラム : TSKgel guardcolumn SuperIC-AP
溶離液 :2.7mM炭酸水素ナトリウム、1.8mM炭酸ナトリウムの水溶液
検出器 :電気伝導度
流速 :0.8mL/min
温度 :40℃
[HPLC分析1]
測定装置:東ソー社製 8020
カラム :TSKgel SCX(7.8mm×30cm)
溶離液 :1%リン酸水溶液
検出器 :RI
流速 :1.0mL/min
温度 :40℃
[HPLC分析2]
測定装置:東ソー社製 8020
カラム :TSKgel SCX(7.8mm×30cm)
溶離液 :1%リン酸水溶液
検出器 :UV(210nm)
流速 :1.0mL/min
温度 :40℃
[金属分析]
測定装置:ICP-AES(パーキンエルマー社製)
測定条件:硝酸で希釈
[粉末X線回折]
X線回折装置(装置名:UltimaIV Protectus,リガク製)を使用し、試料のXRDパターンを測定した。測定条件は以下のとおりである。
【0093】
加速電流・電圧 : 50mA・40kV
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : 連続スキャン
スキャン条件 : 50°/分
測定範囲 : 2θ=5°から45°
発散縦制限スリット: 10mm
発散/入射スリット: 1°
受光スリット : open
受光ソーラースリット : 5°
検出器 : 半導体検出器(D/teX Ultra)
フィルター : Niフィルター
[IR測定]
フーリエ変換赤外分光光度計(装置名:FT/IR-4600,日本分光製)を使用し、試料をATR法で測定し、IRスペクトルを取得した。
[熱分析]
示差熱・熱重量同時測定装置(装置名:TG/DTA6200,日立ハイテクサイエンス社製)を使用し、大気中で昇温速度10℃/分にて40℃から700℃まで昇温してTG-DTA曲線を測定した。
[窒素吸脱着試験]
ガス吸着量測定装置(装置名:FT/IR-4600,マイクロトラック・ベル製)を使用し、サンプルを事前に減圧下150℃5時間乾燥させた後に、-78℃での窒素吸脱着等温線を測定した。
[D50平均粒子径測定]
以下の条件で取得したSEM観察図(装置名:JSM-IT100,日本電子製)において輪郭が途切れることなく観察される一次粒子100±5個を抽出し、抽出した一次粒子の最長径及び最短径を測定し、その平均値(=(最長径[μm]+最短径[μm])÷2)を求め、各一次粒子の粒径を得た。次に、各一次粒子について、粒径分布を求め、これからD50平均粒径を導き出した。なお、一つのSEM観察図で、一次粒子が100±5個抽出できない場合には、観察位置が異なる複数のSEM観察図を使用した。
【0094】
実施例1
リン酸緩衝生理食塩水(PBS、富士フイルム和光純薬株式会社製)を超純水で10倍に希釈し、次いで、乳酸ナトリウムを、その濃度が0.100質量%となるように添加して試験液(以下、「PBS試験液」と略記)を調製した。PBS試験液のpHは7.24であった。20mLのシュレンク管に、PBS試験液 10mL、本発明のMIL-53型金属有機構造体に該当するBasolite(登録商標) A100(Aldrich社製) 0.5g、及び撹拌子を仕込み、密閉条件とし、37℃で24時間撹拌した。その後、室温まで冷却し、ろ過操作によってBasolite A100を分離した。上記の手順で処理した後のPBS試験液のpHは7.01であった。また、上記の[イオンクロマト分析]による乳酸濃度測定結果は、0.025質量%であり、乳酸の吸着除去率は75%と算出された。結果を表1に纏めた。
【0095】
PBS試験液中のアルミニウムイオン濃度を、上記の[金属分析]に基づいて測定したところ、処理前で0.1ppm未満であり、処理後においても0.1ppm未満であった。このことから、Basolite A100の分解や溶出がないことを確認した。即ち、細胞培養液を用いた際は、培養液成分に与える影響は小さいと予測された。
【0096】
実施例2
実施例1における撹拌条件について、37℃で24時間を、25℃で1時間に変更した以外は、実施例1と同じ操作を行った。処理後のPBS試験液のpHは6.50であった。処理後の乳酸濃度測定結果は0.022質量%であり、乳酸の吸着除去率は78%と算出された。結果を表1に纏めた。
【0097】
実施例3
基礎培地D-MEM(ダルベッコ改変イーグル培地、富士フイルム和光純薬株式会社製 コード番号044-297659)に、乳酸ナトリウムを0.100質量%となるように添加して試験液(以下、「D-MEM試験液」と略記)を調製した。D-MEM試験液のpHは7.49であった。20mLのシュレンク管に、D-MEM試験液 5mL、本発明のMIL-53型金属有機構造体に該当するBasolite A100(Aldrich社製)0.25g、及び撹拌子を仕込み、密閉条件とし、37℃で24時間撹拌した。その後、室温まで冷却し、ろ過操作によってBasolite A100を分離回収した。上記の手順で処理した後のD-MEM試験液のpHは7.49であった。また、上記の[イオンクロマト分析]による乳酸濃度測定結果は、0.033質量%であり、乳酸の吸着除去率は67%と算出された。結果を表1に纏めた。
【0098】
実施例5
50mLの遠沈管に、TOYOPEARL(登録商標) CM-650C(アクリル系合成高分子、東ソー株式会社製、D50平均粒子径100μm) 2.00g(乾燥質量)、超純水 16.8mL、及びテレフタル酸二ナトリウム 202mg(961μmol)を投入し、室温で5分間振盪した。前記遠沈管に、さらに硝酸アルミニウム九水和物 721mg(1.92mmol)を投入し、密閉条件とし、室温で72時間振盪した。その後遠心分離し、上澄み液を除去した後、固体を水(40.0mL×3)で洗浄した。得られた固体を60℃で3時間減圧下乾燥することで、MIL-53/TOYOPEARL複合化体の粗生成物(2.21g)の白色粉末を得た。
【0099】
得られた粗生成物(2.00g)とN,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略す。)(70.0mL)を混合し、室温で21時間浸漬した後、デカンテーションにてDMFを除去した。前記の浸漬デカンテーション手順を、浸漬時間を24時間に変更してさらに2回行った。得られた固体を60℃で8時間減圧下乾燥することで、本発明の細胞培養液用乳酸吸着剤に該当するMIL-53/TOYOPEARL複合化体(1.78g)の白色粉末を得た(以下、「実施例5化合物」と称す)。[熱分析]測定より測定した実施例5化合物におけるMIL-53担持量は11質量%であった。また、得られた粉末(実施例5化合物)については、XRDパターン、及びIRスペクトルによって同定した。
【0100】
実施例6
実施例3において、Basolite A100(Aldrich社製)0.25gの代わりに、実施例5化合物 1.1g、を用いた以外は実施例3と同じ操作を行った。処理後のD-MEM試験液のpHは6.80であった。乳酸濃度測定結果は0.074質量%であり、乳酸の吸着除去率は26%と算出された。結果を表1に纏めた。
【0101】
実施例7
100mLの遠沈管に、TOYOPEARL CM-650C 2.00g(乾燥質量)、超純水 42.0mL、及びテレフタル酸二ナトリウム 1.01g(4.81mmol)を投入し、室温で5分間振盪した。前記遠沈管に、さらに硝酸アルミニウム九水和物 3.61g(9.62mmol)を投入し、密閉条件とし、室温で72時間振盪した。その後遠心分離し、上澄み液を除去した後、固体を水(40.0mL×3)で洗浄した。得られた固体を60℃で3時間減圧下乾燥することで、MIL-53/TOYOPEARL複合化体の粗生成物(3.05g)の白色粉末を得た。
【0102】
得られた粗生成物(2.71g)とDMF(40.0mL)を混合し、室温で24時間浸漬した後、デカンテーションにてDMFを除去した。前記の浸漬デカンテーション手順をさらに3回繰り返した。得られた固体を60℃で9時間減圧下乾燥することで、本発明の細胞培養液用乳酸吸着剤に該当するMIL-53/TOYOPEARL複合化体(2.30g)の白色粉末を得た(以下、「実施例7化合物」と称す)。[熱分析]測定より測定した実施例7化合物におけるMIL-53担持量は22質量%であった。また、得られた粉末(実施例7化合物)については、XRDパターン、及びIRスペクトルによって同定した。
【0103】
実施例8
実施例6において、実施例5化合物 1.1gの代わりに、実施例7化合物 0.3gを用いた以外は、実施例6の乳酸捕捉試験と同じ操作を行った。処理後のD-MEM試験液のpHは6.44であった。また、乳酸濃度測定結果は0.077質量%であり、乳酸の吸着除去率は23%と算出された。結果を表1に纏めた。
【0104】
実施例9
250mLの遠沈管に、TOYOPEARL CM-650C 2.00g(乾燥質量)、超純水(84.0mL)、及びテレフタル酸二ナトリウム 2.02g(9.61mmol)を投入し、室温で5分間振盪した。前記遠沈管に、さらに硝酸アルミニウム九水和物 7.21g(19.2mmol)を投入し、密閉条件とし、室温で72時間振盪した。その後遠心分離し、上澄み液を除去した後、固体を水(40.0mL×3)で洗浄した。得られた固体を60℃で3時間減圧下乾燥することで、MIL-53/TOYOPEARL複合化体の粗生成物(4.34g)の白色粉末を得た。
【0105】
得られた粗生成物(1.50g)とDMF(20.0mL)を混合し、室温で23時間浸漬した後、デカンテーションにてDMFを除去した。さらに、DMF(30.0mL)、浸漬時間を63時間に条件を変えて再度、浸漬デカンテーション操作を行った。得られた固体をDMF(30.0mL)でさらに洗浄した後、60℃で4時間減圧下乾燥することで、本発明の細胞培養液用乳酸吸着剤に該当するMIL-53/TOYOPEARL複合化体(876mg)の白色粉末を得た(以下、「実施例9化合物」と称す)。[熱分析]測定より測定した実施例9化合物におけるMIL-53担持量は29質量%であった。また、得られた粉末(実施例9化合物)については、XRDパターン、及びIRスペクトルによって同定した。また、上記の[窒素吸脱着試験]により測定した実施例9化合物のBET比表面積は、159m2/gであった。また、上記の[D50平均粒子径測定]により測定したD50平均粒子径は、60μmであった。
【0106】
実施例10
実施例6において、実施例5化合物 1.1gの代わりに、実施例9化合物 0.1gを用いた以外は、実施例6の乳酸捕捉試験と同じ操作を行った。処理後のD-MEM試験液のpHは7.07であった。乳酸濃度測定結果は0.077質量%であり、乳酸の吸着除去率は23%と算出された。結果を表1に纏めた。
【0107】
実施例11
実施例10において、37℃で24時間撹拌の条件を、37℃で1時間撹拌の条件に変更した以外は、実施例10の乳酸捕捉試験と同じ操作を行った。処理後のD-MEM試験液のpHは6.98であった。乳酸濃度測定結果は0.077質量%であり、乳酸の吸着除去率は23%と算出された。結果を表1に纏めた。
【0108】
実施例12
実施例10において、実施例9化合物 0.1gの代わりに、実施例9化合物 0.2gを用いた以外は、実施例10の乳酸捕捉試験と同じ操作を行った。処理後のD-MEM試験液のpHは6.28であった。乳酸濃度測定結果は0.083質量%であり、乳酸の吸着除去率は17%と算出された。結果を表1に纏めた。
【0109】
実施例13
200mLの遠沈管に、TOYOPEARL CM-650C 2.00g(乾燥質量)、超純水 84.0mL、及びテレフタル酸二ナトリウム 2.02g(9.61mmol)を投入し、室温で5分間振盪した。前記遠沈管に、さらに硝酸アルミニウム九水和物 7.21g(19.2mmol)を投入し、密閉条件とし、室温で72時間振盪した。その後遠心分離し、上澄み液を除去した後、固体を水(40.0mL×3)で洗浄した。得られた固体を60℃で3時間減圧下乾燥することで、MIL-53/TOYOPEARL複合化体の粗生成物(4.07g)の白色粉末を得た。
【0110】
得られた粗生成物(1.50g)を水(50.0mL)に投入し、80℃で20時間加熱した。室温に放冷後、吸引ろ取し、得られた固体を熱水で洗浄した。得られた固体を60℃で2時間減圧下乾燥することで、本発明の細胞培養液用乳酸吸着剤に該当するMIL-53/TOYOPEARL複合化体(1.36g)の白色粉末を得た(以下、「実施例13化合物」と称す)。[熱分析]測定より測定した実施例13化合物におけるMIL-53担持量は25質量%であった。また、得られた粉末(実施例13化合物)については、XRDパターン、及びIRスペクトルによって同定した。XRDパターンを
図1に、IRスペクトルを
図2にそれぞれ示した。
【0111】
実施例14
実施例6において、実施例5化合物 1.1gの代わりに、実施例13化合物 0.2gを用いた以外は、実施例6の乳酸捕捉試験と同じ操作を行った。処理後のD-MEM試験液のpHは6.34であった。乳酸濃度測定結果は0.083質量%であり、乳酸の吸着除去率は17%と算出された。結果を表1に纏めた。
【0112】
実施例15
100mLの遠沈管に、TOYOPEARL CM-650C 2.00g(乾燥質量)、超純水 25.0mL、及びテレフタル酸二ナトリウム 606mg(2.88mmol)を投入し、室温で5分間振盪した。前記遠沈管に、さらに硝酸アルミニウム九水和物 2.16g(5.77mmol)を投入し、密閉条件とし、室温で72時間振盪した。その後遠心分離し、上澄み液を除去した後、固体を水(40.0mL×3)で洗浄した。得られた固体を60℃で9時間減圧下乾燥することで、MIL-53/TOYOPEARL複合化体の粗生成物(2.64g)の白色粉末を得た。
【0113】
得られた粗生成物(2.64g)を水(50.0mL)に投入し、60℃で9時間加熱した。室温に放冷後、吸引ろ取し、得られた固体を熱水で洗浄した。得られた固体を60℃で2時間減圧下乾燥することで、本発明の細胞培養液用乳酸吸着剤に該当するMIL-53/TOYOPEARL複合化体(2.32g)の白色粉末を得た(以下、「実施例15化合物」と称す)。[熱分析]測定より測定した実施例15化合物におけるMIL-53担持量は15質量%であった。また、得られた粉末(実施例15化合物)については、XRDパターン、及びIRスペクトルによって同定した。
【0114】
実施例16
実施例6において、実施例5化合物 1.1gの代わりに、実施例15化合物 0.43gを用いた以外は、実施例6の乳酸捕捉試験と同じ操作を行った。処理後のD-MEM試験液のpHは6.43であった。乳酸濃度測定結果は0.080質量%であり、乳酸の吸着除去率は20%と算出された。結果を表1に纏めた。
【0115】
実施例17
250mLの遠沈管に、TOYOPEARL CM-650C 2.00g(乾燥質量)、超純水 168mL、及びテレフタル酸二ナトリウム 4.04g(19.2mmol)を投入し、室温で5分間振盪した。前記遠沈管に、さらに硝酸アルミニウム九水和物 14.43g(38.5mmol)を投入し、密閉条件とし、室温で72時間振盪した。その後遠心分離し、上澄み液を除去した後、固体を水(40.0mL×3)で洗浄した。得られた固体を60℃で9時間減圧下乾燥することで、MIL-53/TOYOPEARL複合化体の粗生成物(6.63g)の白色粉末を得た。
【0116】
得られた粗生成物(6.47g)をDMF(50.0mL)に投入し、室温で24時間浸漬した。前記の手順を、さらに3回浸漬洗浄を繰り返した。得られた固体を60℃で9時間減圧下乾燥することで、本発明の細胞培養液用乳酸吸着剤に該当するMIL-53/TOYOPEARL複合化体(4.51g)の白色粉末を得た(以下、「実施例17化合物」と称す)。[熱分析]測定より測定した実施例17化合物におけるMIL-53担持量は37質量%であった。また、得られた粉末(実施例17化合物)については、XRDパターン、及びIRスペクトルによって同定した。XRDパターンを
図3に、IRスペクトルを
図4にそれぞれ示した。また、上記の[窒素吸脱着試験]により測定した実施例17化合物のBET比表面積は、272m
2/gであった。
【0117】
実施例18
実施例6において、実施例5化合物 1.1gの代わりに、実施例17化合物 0.15gを用いた以外は、実施例6の乳酸捕捉試験と同じ操作を行った。処理後のD-MEM試験液のpHは6.55であった。乳酸濃度測定結果は0.070質量%であり、乳酸の吸着除去率は30%と算出された。結果を表1に纏めた。
【0118】
実施例19
250mLの遠沈管に、TOYOPEARL CM-650C 2.00g(乾燥質量)、超純水 84.0mL、及びテレフタル酸二ナトリウム 2.01g(9.57mmol)を投入し、室温で5分間振盪した。前記遠沈管に、さらに硝酸アルミニウム九水和物 7.21g(19.2mmol)を投入しれ、密閉条件とし、室温で48時間振盪した。その後遠心分離し、上澄み液を除去した後、固体を水(40.0mL×3)で洗浄した。得られた固体を60℃で39時間減圧下乾燥することで、MIL-53/TOYOPEARL複合化体の粗生成物(3.91g)の白色粉末を得た。
【0119】
得られた粗生成物(1.06g)をDMF(20.0mL)に投入し、室温で24時間浸漬した。前記の手順を、さらに2回浸漬洗浄を繰り返した。得られた固体を60℃で4時間減圧下乾燥することで、本発明の細胞培養液用乳酸吸着剤に該当するMIL-53/TOYOPEARL複合化体(675mg)の白色粉末を得た(以下、「実施例19化合物」と称す)。[熱分析]測定より測定した実施例19化合物におけるMIL-53担持量は36質量%であった。また、得られた粉末(実施例19化合物)については、XRDパターン、及びIRスペクトルによって同定した。また、上記の[窒素吸脱着試験]により測定した実施例19化合物のBET比表面積は、397m2/gであった。
【0120】
実施例20
実施例6において、実施例5化合物 1.1gの代わりに、実施例19化合物 0.28gを用いた以外は、実施例6の乳酸捕捉試験と同じ操作を行った。処理後のD-MEM試験液のpHは6.68であった。乳酸濃度測定結果は0.079質量%であり、乳酸の吸着除去率は21%と算出された。結果を表1に纏めた。
【0121】
実施例21
250mLの遠沈管に、2-ブロモテレフタル酸 1.71g(6.95mmol)、水酸化ナトリウム 593mg(14.8mmol)、超純水 65.0mL、及びTOYOPEARL CM-650C 2.01g(乾燥質量)を投入し、室温で5分間振盪した。前記遠沈管に、さらに硝酸アルミニウム九水和物 5.20g(13.9mmol)を投入し、密閉条件とし、室温で22時間振盪した。その後遠心分離し、上澄み液を除去した後、固体を水(40.0mL×3)で洗浄した。得られた固体を60℃で47時間減圧下乾燥することで、MIL-53-Br/TOYOPEARL複合化体の粗生成物(3.85g)の白色粉末を得た。
【0122】
得られた粗生成物(1.04g)をDMF(20.0mL)に投入し、室温で24時間浸漬した。前記の手順を、さらに3回浸漬洗浄を繰り返した。得られた固体を60℃で4時間減圧下乾燥することで、本発明の細胞培養液用乳酸吸着剤に該当するMIL-53-Br/TOYOPEARL複合化体(1.15g)の白色粉末を得た(以下、「実施例21化合物」と称す)。[熱分析]測定より測定した実施例21化合物におけるMIL-53-Br担持量は39質量%であった。また、得られた粉末(実施例21化合物)については、XRDパターン、及びIRスペクトルによって同定した。また、上記の[窒素吸脱着試験]により測定した実施例21化合物のBET比表面積は、296m2/gであった。また、上記の[D50平均粒子径測定]により測定したD50平均粒子径は、69μmであった。
【0123】
実施例22
実施例6において、実施例5化合物 1.1gの代わりに、実施例21化合物 0.26gを用いた以外は、実施例6の乳酸捕捉試験と同じ操作を行った。処理後のD-MEM試験液のpHは6.04であった。乳酸濃度測定結果は0.054質量%であり、乳酸の吸着除去率は46%と算出された。結果を表1に纏めた。
【0124】
実施例23
250mLの遠沈管に、2-ブロモテレフタル酸 1.71g(6.95mmol)、水酸化ナトリウム 593mg(14.8mmol)、超純水 65.0mL、及びTOYOPEARL CM-650C 2.01g(乾燥質量)を投入し、室温で5分間振盪した。前記遠沈管に、さらに硝酸アルミニウム九水和物 5.20g(13.9mmol)を投入し、密閉条件とし、室温で22時間振盪した。その後遠心分離し、上澄み液を除去した後、固体を水(40.0mL×3)で洗浄した。得られた固体を60℃で47時間減圧下乾燥することで、MIL-53-Br/TOYOPEARL複合化体の粗生成物(3.85g)の白色粉末を得た。
【0125】
得られた粗生成物(1.03g)をDMF(20.0mL)に入れ、150℃で24時間浸漬した。固体をろ取し、DMFで洗浄した。得られた固体を60℃で4時間減圧下乾燥することで、本発明の細胞培養液用乳酸吸着剤に該当するMIL-53-Br/TOYOPEARL複合化体(1.01g)の白色粉末を得た(以下、「実施例23化合物」と称す)。[熱分析]測定より測定した実施例23化合物におけるMIL-53-Br担持量は42質量%であった。また、得られた粉末(実施例23化合物)については、XRDパターン、及びIRスペクトルによって同定した。また、上記の[窒素吸脱着試験]により測定した実施例23化合物のBET比表面積は、280m2/gであった。
【0126】
実施例24
実施例6において、実施例5化合物 1.1gの代わりに、実施例23化合物 0.23gを用いた以外は、実施例6の乳酸捕捉試験と同じ操作を行った。処理後のD-MEM試験液のpHは6.20であった。乳酸濃度測定結果は0.055質量%であり、乳酸の吸着除去率は45%と算出された。結果を表1に纏めた。
【0127】
実施例25
200mLの遠沈管に、Amberlite MAC-3H(シグマアルドリッチ社製、D50平均粒子径740μm) 200mg(乾燥重量)、超純水 100mL、及びテレフタル酸二ナトリウム 2.40g(11.4mmol)を投入し、室温で5分間振盪した。前記遠沈管に、さらに硝酸アルミニウム九水和物 8.55g(22.8mmol)を投入し、密閉条件とし、室温で72時間振盪した。その後遠心分離し、上澄み液を除去した後、固体を水(40.0mL×3)で洗浄した。得られた固体を60℃で13時間減圧下乾燥することで、MIL-53/AmberliteMAC-3H複合化体の粗生成物(2.52g)の白色粉末を得た。
【0128】
得られた粗生成物(2.00g)をDMF(50.0mL)に入れ、室温で24時間浸漬した。前記の手順を、さらに2回浸漬洗浄を繰り返した。得られた固体を60℃で7間減圧下乾燥することで、本発明の細胞培養液用乳酸吸着剤に該当するMIL-53/AmberliteMAC-3H複合化体(378mg)の白色粉末を得た(以下、「実施例25化合物」と称す)。[熱分析]測定より測定した実施例25化合物におけるMIL-53担持量は71質量%であった。また、得られた粉末(実施例25化合物)については、XRDパターン、及びIRスペクトルによって同定した。
【0129】
実施例26
実施例6において、実施例5化合物 1.1gの代わりに、実施例25化合物 0.14gを用いた以外は、実施例6の乳酸捕捉試験と同じ操作を行った。処理後のD-MEM試験液のpHは6.00であった。乳酸濃度測定結果は0.076質量%であり、乳酸の吸着除去率は24%と算出された。結果を表1に纏めた。
【0130】
実施例27
200mLのシュレンク管に、AmberliteCG50(シグマアルドリッチ社製、D50平均粒子径625μm) 100mg(乾燥質量)、超純水 87.0mL、及びテレフタル酸二ナトリウム 2.10g(10.0mmol)を投入し、室温で5分間振盪した。前記シュレンク管に、さらに硝酸アルミニウム九水和物 7.50g(20.0mmol)を投入し、密閉条件とし、室温で72時間振盪した。その後遠心分離し、上澄み液を除去した後、固体を水(40.0mL×3)で洗浄した。得られた固体を60℃で13時間減圧下乾燥することで、MIL-53/AmberliteCG50複合化体の粗生成物(2.26g)の白色粉末を得た。
【0131】
得られた粗生成物(2.00g)をDMF(50.0mL)に入れ、室温で24時間浸漬した。前記の手順を、さらに2回浸漬洗浄を繰り返した。得られた固体を60℃で7間減圧下乾燥することで、本発明の細胞培養液用乳酸吸着剤に該当するMIL-53/AmberliteCG50複合化体(716mg)の白色粉末を得た(以下、「実施例27化合物」と称す)。[熱分析]測定より測定した実施例27化合物におけるMIL-53担持量は73質量%であった。また、得られた粉末(実施例27化合物)については、XRDパターン、及びIRスペクトルによって同定した。
【0132】
実施例28
実施例6において、実施例5化合物 1.1gの代わりに、実施例27化合物 0.14gを用いた以外は、実施例6の乳酸捕捉試験と同じ操作を行った。処理後のD-MEM試験液のpHは6.45であった。乳酸濃度測定結果は0.073質量%であり、乳酸の吸着除去率は27%と算出された。結果を表1に纏めた。
【0133】
比較例1
実施例1において、Basolite A100(Aldrich社製) 0.5gを使用しない以外は、実施例1と同じ操作を行った(本発明の細胞培養液用乳酸吸着剤を使用しない条件。バックグラウンド試験と位置づけ)。処理後のPBS試験液のpHは7.29であった。乳酸濃度測定結果は0.100質量%であり、乳酸の吸着除去率は0%と算出された。結果を表1に纏めた。
【0134】
比較例2
実施例1において、Basolite A100(Aldrich社製) 0.5gの代わりに、ZrMOFであるUiO-66(STREM社製、ジルコニウム(IV)、架橋酸素原子、水酸化物イオン、及び1,4-ジカルボキシベンゼンで構成される有機金属構造体であって、上記の一般式(1)で表される金属有機構造体に該当しない) 0.5gを用いた以外は、実施例1と同じ操作を行った。処理後のPBS試験液のpHは3.81であった。乳酸濃度測定結果は0.098質量%であり、乳酸の吸着除去率は2%と算出された。結果を表1に纏めた。
【0135】
比較例3
実施例1において、Basolite A100(Aldrich社製) 0.5gの代わりに、Basolite Z1200(Aldrich社製、2-メチルイミダゾール 亜鉛塩で構成される有機金属構造体であって、上記の一般式(1)で表される金属有機構造体に該当しない) 0.5gを用いた以外は、実施例1と同じ操作を行った。処理後のPBS試験液のpHは9.35であった。乳酸濃度測定結果は0.101質量%であり、乳酸の吸着除去率は0%と算出された。結果を表1に纏めた。
【0136】
比較例4
実施例1において、Basolite A100(Aldrich社製) 0.5gの代わりに、Basolite C300(Aldrich社製、ベンゼン-1,3,5-トリカルボン酸銅で構成される有機金属構造体であって、上記の一般式(1)で表される金属有機構造体に該当しない) 0.5gを用いた以外は、実施例1と同じ操作を行った。処理後のPBS試験液のpHは5.22であった。乳酸濃度測定結果は0.099質量%であり、乳酸の吸着除去率は1%と算出された。結果を表1に纏めた。
【0137】
比較例5
実施例1において、Basolite A100(Aldrich社製) 0.5gの代わりに、Basolite F300(Aldrich社製、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸鉄で構成される有機金属構造体であって、上記の一般式(1)で表される金属有機構造体に該当しない) 0.5gを用いた以外は、実施例1と同じ操作を行った。処理後のPBS試験液のpHは3.79であった。乳酸濃度測定結果は0.012質量%であり、乳酸の吸着除去率は88%と算出された。結果を表1に纏めた。
【0138】
PBS試験液中の鉄イオン濃度を、上記の[金属分析]に基づいて測定したところ、処理前で0.1ppm未満であり、処理後で0.4ppmであった。このことから、Basolite F300は分解によって一部溶出したことが分かった。即ち、細胞培養液を用いた際は、培養液成分に悪影響があると予測された。
【0139】
比較例6
実施例3において、Basolite A100(Aldrich社製) 0.25gの代わりに、AYRSORBTM T125(STREM社製、NH2-MIL-125(Ti)で表されるチタンの有機金属構造体であって、上記の一般式(1)で表される有機構造体に該当しない) 0.25gを使用した以外は、実施例3と同じ操作を行った。処理後のD-MEM試験液のpHは5.16であった。乳酸濃度測定結果は0.75質量%であり、乳酸の吸着除去率は25%と算出された。結果を表1に纏めた。
【0140】
【0141】
表1から、本発明の細胞培養液用乳酸吸着剤が乳酸を高効率に吸着除去でき、更に処理後のpHを中性状態(6.0~8.0)に保持できていることが分かる。
本発明によれば、従来技術では困難であった「細胞培養液のpHを中性領域内(pH6.0~8.0)にとどめながら細胞培養液中の乳酸を高効率で吸着除去すること」が可能となる。
本発明の細胞培養液用乳酸吸着剤は、細胞培養液に好適な中性付近の水素イオン濃度環境下で使用可能であることから、特に、乳酸による増殖阻害が起こりやすいヒト多能性幹細胞の培養に使用することで、従来は困難であったヒト多能性幹細胞の高密度大量培養を達成することができる。