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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024854
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】治療支援システム及び治療支援方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
A61N5/10 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129191
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高柳 泰介
(72)【発明者】
【氏名】平山 嵩祐
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 康一
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴啓
(72)【発明者】
【氏名】青山 英史
(72)【発明者】
【氏名】橋本 孝之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 徳雄
(72)【発明者】
【氏名】田口 大志
(72)【発明者】
【氏名】安田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】西岡 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】小橋 啓司
(72)【発明者】
【氏名】松浦 妙子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼尾 聖心
(72)【発明者】
【氏名】宮本 直樹
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AC02
4C082AC04
4C082AN02
4C082AN04
4C082AN05
4C082AN10
4C082AP06
4C082AR20
(57)【要約】
【課題】患者にとって適切な放射線治療装置を容易に判断することが可能な治療支援システムを提供する。
【解決手段】演算処理装置101は、患者を写した3次元透視画像における、患者の放射線の照射に関連する部位に対応する関心領域と、放射線治療の効果を評価する治療効果指標を予測するためのパラメータの値を、放射線治療を行う放射線治療装置202の治療モダリティごとに示すパラメータ情報とを用いて、放射線治療装置202の治療モダリティごとに治療効果指標を予測する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に対する放射線治療の効果を予測する治療支援システムであって、
前記患者を写した3次元透視画像における、前記患者の放射線の照射に関連する部位に対応する関心領域と、前記放射線治療の効果を評価する治療効果指標を予測するためのパラメータの値を、前記放射線治療を行う放射線治療装置の種類ごとに示すパラメータ情報とを用いて、前記放射線治療装置の種類ごとに前記治療効果指標を予測する演算処理装置を有する、治療支援システム。
【請求項2】
前記演算処理装置は、前記患者の病症を診断するための診断用画像に基づいて、前記放射線治療の治療計画を立案するための治療計画用画像を予測した計画用予測画像を前記3次元透視画像として生成する、請求項1に記載の治療支援システム。
【請求項3】
前記演算処理装置は、前記治療計画を実際に立案した際に使用した治療計画用画像と前記3次元透視画像との一致度を算出し、前記一致度が基準値未満の場合、アラートを出力する、請求項2に記載の治療支援システム。
【請求項4】
前記演算処理装置は、前記3次元透視画像から前記関心領域を抽出する、請求項2に記載の治療支援システム。
【請求項5】
前記演算処理装置は、前記治療計画を実際に立案した際に使用した治療計画用画像に設定された前記関心領域と、前記抽出した関心領域との一致度を算出し、前記一致度が基準値未満の場合、アラートを出力する、請求項4に記載の治療支援システム。
【請求項6】
前記演算処理装置は、前記治療計画を実際に立案した際に使用した治療計画用画像に設定された前記関心領域と前記パラメータとから算出された治療効果指標と前記予測した治療効果指標との一致度を算出し、前記一致度が基準値未満の場合、アラートを出力する、請求項2に記載の治療支援システム。
【請求項7】
前記演算処理装置は、複数の治療施設に配置された複数種類の前記放射線治療装置に対応する前記パラメータの値を示す前記パラメータ情報を格納する格納装置から、前記パラメータ情報を取得して前記治療効果指標の予測に用いる、請求項1に記載の治療支援システム。
【請求項8】
前記演算処理装置は、前記患者に関する患者情報をさらに用いて、前記治療効果指標を予測する、請求項1に記載の治療支援システム。
【請求項9】
前記治療効果指標は、線量体積ヒストグラム、正常組織障害発生確率及び腫瘍制御確率の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の治療支援システム。
【請求項10】
患者に対する放射線治療の効果を予測する治療支援システムによる治療支援方法であって、
前記患者を写した3次元透視画像における、前記患者の放射線の照射に関連する部位に対応する関心領域と、前記放射線治療の効果を評価する治療効果指標を予測するためのパラメータの値を、前記放射線治療を行う放射線治療装置の種類ごとに示すパラメータ情報とを用いて、前記放射線治療装置の種類ごとに前記治療効果指標を予測する、治療支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、治療支援システム及び治療支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陽子線又は炭素線などを用いる粒子線治療は、ブラッグピークと呼ばれるエネルギーのピークの深さを腫瘍の深さに合わせて調整可能であることなどから、従来のX線治療よりも腫瘍に対する線量集中性に優れている。このため、正常組織及びOAR(Organ At Risk:リスク臓器)への被ばくを抑え、副作用の発生確率を抑制することが期待されている。
【0003】
しかしながら、粒子線治療を行うための粒子線治療システムは、加速器及び回転ガントリーなどの広い立地面積を必要とする大型の機器を有し、かつ、X線治療を行うためのX線治療システムと比較して一般的に高価であるため、粒子線治療システムを保有可能な施設は限られている。このため、粒子線治療は、一度に受けられる患者の数に限りがある。
【0004】
したがって、全てのがん患者に対して粒子線治療を行うのではなく、粒子線治療の利点を十分に享受できる患者を判別して粒子線治療へ優先的に誘導することが必要である。なお、例えば、腫瘍体積の小さい症例などでは、従来のX線治療でもOARへの被ばくを十分に抑えることができ、粒子線治療と同程度の効果を有する治療を実施できることが知られている。
【0005】
粒子線治療に適した患者を判別するための判断指標として、OARのNTCP(Normal tissue complication probability:正常組織障害発生確率)が注目されている(非特許文献1参照)。OARのNTCPは、放射線の照射によって腫瘍に近接するOARに不可逆的な障害が発生する確率であり、一般的に、過去の治療データに基づいて構築された数理モデルによって算出される。数理モデルへの入力としては、放射線治療の治療計画を立案するための治療計画ソフトウェアで算出された患者体内の3次元線量分布などが用いられる。代表的な数理モデルに従えば、NTCPは、数1から計算される。
【数1】
ここで、tは、
【数2】
と表される。さらに、Dmaxnpは、
【数3】
と表される。ここで、VはOAR全体の体積、vは1ボクセルあたりの体積、kはOARに含まれるボクセルの番号を示す。n、m及びTD50は、OAR、副作用の種類及び症例ごとに定まるパラメータであり、過去の臨床データなどに基づいて算出される。
【0006】
また、D‘は、ボクセルkにおける換算総照射線量であり、1回照射線量をdref=2[Gy]とした場合に、総照射線量Dかつ総分割回数Nの照射と同等の生物学的効果を得るための総照射線量を示す。放射線の照射量と生物学的効果との関係を評価する一般的な評価モデルである線形-二次曲線モデル(LQモデル)によれば、総照射線量Dかつ総分割回数Nのとき、ボクセルkに含まれる正常組織細胞が生き残る確率λは、
【数4】
と表される。ここで、α及びβは、正常組織細胞の放射線感受性を示すパラメータであり、イン・ビトロ(in vitro)での放射線照射実験などによって求められる。これらの関係により、換算総照射線量D‘は、以下の数5及び数6で求められる。
【数5】
【数6】
【0007】
X線治療の線量分布から計算されるNTCPをNTCP、粒子線治療の線量分布から計算されるNTCPをNTCPとすると、それらの差であるNTCP差(ΔNTCP=NTCP-NTCP)が大きい患者の場合、粒子線治療の利点が大きいとみなすことができ、粒子線治療への優先的な誘導が検討される。一方、NTCP差が小さい患者の場合、X線治療でも粒子線治療と同等の治療が可能であるとみなすことができ、X線治療への誘導が検討される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Yoshimura T, Kinoshita R, Onodera S, Toramatsu C, Suzuki R, Ito YM, Takao S, Matsuura T, Matsuzaki Y, Umegaki K, Shirato H, Shimizu S. NTCP modeling analysis of acute hematologic toxicity in whole pelvic radiation therapy for gynecologic malignancies - A dosimetric comparison of IMRT and spot-scanning proton therapy (SSPT). Phys Med. 2016 Sep;32(9):1095-102. doi: 101016/j.ejmp.2016.08.007. Epub 2016 Aug 25. PMID: 27567089.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように粒子線治療に適した患者か否かを判断するための判断指標としては、NTCP差が有用である。しかしながら、NTCP差を計算するためには、X線治療と粒子線治療との両方に対して治療計画を立案し、それらの治療計画からシミュレーションにより患者体内の3次元線量分布を求める必要があり、手間と労力が必要となる。
【0010】
また、X線治療には、3D-CRT(Three Dimensional Comformal Radiotherapy:三次元原体照射)、IMRT(Intensity Modulated Radiotherapy:強度変調放射線治療)及びVMAT(Volummetric Modulated Arc Therapy:強度変調回転照射)などの様々な照射方式が存在し、それらの照射方式ごとに治療モダリティ(放射線治療装置の種類)が異なる。このため、患者に適した治療モダリティを判断するための判断指標として、粒子線治療に適した患者か否かを判断するための判断指標と同様に、治療モダリティごとのNTCPの差を使用することができる。しかしながら、治療モダリティごとに患者体内の3次元線量分布を求める必要があるため、手間と労力とがさらに必要となる。
【0011】
本開示の目的は、患者にとって適切な放射線治療装置を容易に判断することが可能な治療支援システム及び治療支援方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の一態様に従う治療支援システムは、患者に対する放射線治療の効果を予測する治療支援システムであって、前記患者を写した3次元透視画像における、前記患者の放射線の照射に関連する部位に対応する関心領域と、前記放射線治療の効果を評価する治療効果指標を予測するためのパラメータの値を、前記放射線治療を行う放射線治療装置の種類ごとに示すパラメータ情報とを用いて、前記放射線治療装置の種類ごとに前記治療効果指標を予測する演算処理装置を有する。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、患者にとって適切な放射線治療装置を容易に判断することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示の実施例に係る治療選択支援システムを示す図である。
図2】本開示の実施例に係る治療選択支援システムによる治療選択処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図3】治療選択処理において操作者が使用するGUIの一例を示す図である。
図4】治療選択処理において操作者が使用するGUIの他の例を示す図である。
図5】治療選択処理において操作者が使用するGUIの他の例を示す図である。
図6】DVH予測モデルのアルゴリズムの一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施例について図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本開示の実施例に係る治療選択支援システムを示す図である。図1に示す治療選択支援システム100は、種々の情報処理が可能な装置、例えば、コンピュータ装置などの情報処理装置にて構成される治療支援システムである。治療選択支援システム100は、病院のような放射線治療を実施する治療施設に配置される。図1の例では、治療施設として施設A~Cが示されており、そのうち施設Aの治療選択支援システム100が示されているが、施設B及びCでも治療選択支援システム100と同等なシステムが設置されている。
【0017】
治療選択支援システム100は、演算処理装置101と、入力装置102と、表示装置103と、メモリ104と、データベース105と、通信装置106とを有する。演算処理装置101は、入力装置102、表示装置103、メモリ104、データベース105及び通信装置106と接続される。これらを接続する接続方式は、特に限定されず、例えば、LAN(Local Area Network)又はインターネットなどのWAN(Wide Area Network)を介した接続方式などでもよい。
【0018】
演算処理装置101は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphic Processing Unit)及びFPGA(Field-Programmable Gate Array)などのプロセッサであり、治療選択支援システム100全体を制御する制御部を構成する。
【0019】
入力装置102は、治療選択支援システム100を操作する操作者から種々の情報を受け付ける装置であり、例えば、マウス及びキーボードなどである。操作者は、例えば、医師又は医学物理士などである。表示装置103は、演算処理装置101が算出した算出結果などの種々の情報を表示する装置であり、例えば、ディスプレイなどである。
【0020】
メモリ104及びデータベース105は、同一又は異なる記録媒体で構成され、演算処理装置101の動作を規定するプログラム(コンピュータプログラム)、及び、演算処理装置101にて使用及び生成される種々の情報を記録する。記録媒体は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)のような磁気記憶媒体、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)及びSSD(Solid State Drive)のような半導体記憶媒体、DVD(Digital Versatile Disk)のような光ディスク及び光ディスクドライブの組み合わせなどである。なお、治療選択支援システム100の動作開始時(例えば、電源投入時)に演算処理装置101が記録媒体からプログラムを読み出し、その読み出しプログラムを実行することで種々の処理を実行する。
【0021】
通信装置106は、外部の装置と通信可能に接続する通信インタフェースである。図5の例では、通信装置106は、外部の装置として、自施設(施設A)内に設置された情報システム201及び放射線治療装置202と、施設外に設置された外部データベース203とに接続されている。
【0022】
情報システム201は、放射線治療に関する種々の情報処理を行うコンピュータ装置であり、その情報処理で使用及び生成される種々の情報を記憶する。情報システム201は、例えば、情報処理として、放射線治療の治療計画を立案する立案処理を行い、その立案処理の処理結果である治療計画、及び、治療計画を立案するための治療計画用画像である治療計画用CT(Computed Tomography)画像とを記憶する。
【0023】
放射線治療装置202は、患者に対する放射線治療を実際に行う装置である。放射線治療装置202の種類である治療モダリティは、複数あり、図1では、放射線治療装置202として治療モダリティが異なる2つの放射線治療装置202A及び202Bが示されている。治療モダリティとしては、陽子線治療装置、炭素線治療装置、3D-CRT装置、IMRT装置及びVMAT装置などが挙げられる。なお、治療施設ごとに異なる治療モダリティの放射線治療装置202が配置されてもよい。
【0024】
外部データベース203は、患者に対する放射線治療の効果を評価する治療効果指標の値を予測するためのパラメータの値を示すパラメータ情報を格納する格納装置である。外部データベース203は、例えば、メモリ104及びデータベース105と同様に記録媒体で構成される。治療効果指標は、本実施例では、DVH(Dose-Volume Histgram:線量体積ヒストグラム)及びNTCPである。治療効果指標の値を予測するためのパラメータの値は、治療モダリティごとに異なり、パラメータ情報は治療モダリティごとにパラメータの値を示す。
【0025】
図2は、治療選択支援システム100による治療選択処理の一例を説明するためのフローチャートである。図3図5は、治療選択処理において操作者が使用するGUI(Graphical User Interface)300の一例を示す図である。本実施例のGUI300は、3つのタブ(計画画像予測タブ301、ROI(Region Of Interest:関心領域)抽出タブ306及びDVH予測タブ307)を有し、図3は、計画画像予測タブ301が選択された状態のGUI300を示し、図4は、ROI抽出タブ306が選択された状態のGUI300を示し、図5は、DVH予測タブ307が選択された状態のGUI300を示す。なお、GUI300は表示装置103に表示される。
【0026】
治療選択処理では、先ず、演算処理装置101は、患者の病症を診断するための診断用画像として診断用CT画像を取得する(ステップS1)。例えば、操作者は、入力装置102を用いて、図3に示したGUI300の計画画像予測タブ301を選択し、さらにファイル入力ボタン302を押下して、治療選択処理に使用する診断用CT画像を選択する。演算処理装置101は、その選択された診断用CT画像を取得する。
【0027】
演算処理装置101は、取得した診断用CT画像をメモリ104又はデータベース105に記録する(ステップS2)。
【0028】
その後、操作者にて図3に示すGUI300の変換ボタン303が押下されると、演算処理装置101は、メモリ104又はデータベース105に記録された診断用CT画像に基づいて、患者の治療計画を作成するための治療計画用CT画像を予測した計画用予測画像である計画用予測CT画像を作成する。演算処理装置101は、その計画用予測CT画像をメモリ104又はデータベース105に記録する(ステップS3)。
【0029】
計画用予測CT画像の作成は、メモリ104又はデータベース105に記録されたアプリケーションプログラムで実現される計画用画像予測モデルを用いて行われる。計画用画像予測モデルは、診断用CT画像から治療計画用CT画像を予測して計画用予測CT画像として出力するモデルである。計画用画像予測モデルは、例えば、深層学習のような機械学習などにて構築される。
【0030】
なお、治療計画用CT画像は、治療計画の作成において患者に対する放射線の照射に関するシミュレーションに使用されるため、腕上げした状態で患者を撮影されるなど診断用CT画像とは異なる体勢で撮影される。また、シミュレーションを正確に行うために、治療計画用CT画像では、体表から標的までを全て含む領域を写す必要がある。このため、治療計画用CT画像と診断用CT画像とでは、視野(Field of View:FOV)が異なっている場合がある。さらに、診断用CT画像には、患者の体内構造の視認性を向上するために、フィルターが使用されることがある。このため、治療計画用CT画像と診断用CT画像とでは、各ボクセルの画素値が異なることがある。他にも、診断用CT画像と治療計画用CT画像とでは、各医療機関でのプロトコルなどにより解像度が異なったり、撮影時のCT撮影装置の設定(X線源の管球設定など)が異なったりすることがある。
【0031】
次に、演算処理装置101は、図3に示すように、メモリ104又はデータベース105に記録された診断用CT画像及び計画用予測CT画像を診断CT画像304及び予測CT画像305としてGUI300に表示する(ステップS4)。これにより、操作者は診断用CT画像及び計画用予測CT画像を確認することができる。
【0032】
その後、操作者がGUI300のROI抽出タブ306を選択すると、図4に示す状態のGUI300が表示される。そして、操作者がGUI300の抽出開始ボタン401を押下すると、演算処理装置101は、メモリ104又はデータベース105に記録された計画用予測CT画像から、患者の放射線の照射に関連する部位に対応する関心領域を予測した予測関心領域を抽出し、その予測関心領域を示す予測関心領域情報をメモリ104又はデータベース105に記録する(ステップS5)。
【0033】
関心領域には、放射線を照射する部位である標的に対応する標的領域と、放射線の照射を避ける部位であるOARに対応する除外領域とがある。例えば、前立腺がんの放射線治療においては、前立腺内の腫瘍に対応する領域が標的領域、直腸及び膀胱に対応する領域が除外領域に相当する。また、関心領域の抽出は、メモリ104又はデータベース105に記録されたアプリケーションプログラムで実現される関心領域自動抽出モデルを用いて行われる。関心領域自動抽出モデルは、計画用予測CT画像から関心領域を予測し、その予測した関心領域である予測関心領域の3次元の位置情報を予測関心領域情報として出力するモデルである。関心領域自動抽出モデルは、例えば、深層学習のような機械学習などにて構築される。
【0034】
次に、演算処理装置101は、図4に示すように、メモリ104又はデータベース105に記録された予測関心領域情報が示す予測関心領域を関心領域402として計画用予測CT画像403に重ね合わせてGUI300を表示する(ステップS6)。このとき、演算処理装置101は、図4に示すように、予測関心領域に関する詳細情報404をさらに表示してもよい。詳細情報は、例えば、予測関心領域の種類(標的領域又は除外領域)と、予測関心領域に対応する部位の名称などを含む。これにより、操作者は、予測関心領域を確認することができる。なお、治療選択支援システム100は、操作者が入力装置102を用いて関心領域402の形状及び位置などの修正を指示することができるように構成されてもよい。この場合、演算処理装置101は、その修正の指示に従って、予測関心領域の形状及び位置を修正する。
【0035】
次に、操作者がGUIのDVH予測タブ307を選択すると、図5に示す状態のGUI300が表示される。そして、操作者がGUI300予測ボタン501を押下すると、演算処理装置101は、メモリ104又はデータベース105に記録された予測関心領域情報に基づいて、治療モダリティごとに、放射線治療によって形成される患者体内の3次元線量分布としてDVHを予測した予測DVHを算出する。さらに、演算処理装置101は、治療モダリティごとに、予測DVHからNTCPを予測した予測NTCPを算出する。そして、演算処理装置101は、治療モダリティごとの予測DVHを示す予測DVH情報と、治療モダリティごとの予測NTCPを示す予測NTCP情報とを、メモリ104又はデータベース105に記録する(ステップS7)。DVH及びNTCPは、治療効果指標であり、予測DVH及び予測NTCPは、治療効果指標の予測結果である。
【0036】
予測DVHの算出は、メモリ104又はデータベース105に記録されたアプリケーションプログラムで実現されるDVH予測モデルを用いて行われる。DVH予測モデルは、治療モダリティごとに用意され、予測関心領域情報から、対応する治療モダリティについてDVHを予測して予測DVHとして出力するモデルである。DVH予測モデルのより詳細な説明は後述する(図6参照)。
【0037】
次に、演算処理装置101は、図5に示すように、メモリ104又はデータベース105に記録された治療モダリティごとの予測DVH及び予測NTCPを治療効果情報510としてGUI300に表示する(ステップS8)。これにより、操作者は、放射線治療の治療効果指標である予測DVH及び予測NTCPを治療モダリティごとに確認することができる。予測DVHは関心領域ごとに算出され、表示される予測DVHはタグ502により操作者にて切り替えることができる。また、予測NTCPは、放射線治療の副作用の種類及びグレードごとに算出され、表示される予測NTCPはタグ503により操作者にて切り替えることができる。
【0038】
次に、操作者は、入力装置102を用いて、GUI300に表示された治療モダリティごとの予測NTCPのリストであるNTCPリスト507に対して、基準となる治療モダリティである基準モダリティを選択する(ステップS9)。基準モダリティは、操作者にて任意に選択することができるが、例えば、自施設に設置されている放射線治療装置202の治療モダリティが選択される。図5に示す例では、3D-CRT装置である「X線治療システムA」が基準モダリティとして選択されている。
【0039】
次に、演算処理装置101は、操作者にて選択された基準モダリティを示す基準モダリティ情報を取得し、その基準モダリティ情報をメモリ104又はデータベース105に記録する。さらに、演算処理装置101は、基準モダリティ以外の治療モダリティである比較対象モダリティごとに、比較対象モダリティの予測NTCPの基準治療モダリティの予測NTCPからの差であるNTCP差を算出する。そして、演算処理装置101は、治療モダリティごとのNTCP差を示すNTCP差情報をメモリ104又はデータベース105に記録する(ステップS10)。
【0040】
そして、演算処理装置101は、メモリ104又はデータベース105に記録されたNTCP差情報をNTCP差508として表示装置103に表示し(ステップS11)、処理を終了する。これにより、操作者は、基準モダリティに設定した自施設の放射線治療装置202に対する、他の治療モダリティとのNTCP差を確認することができる。また、ステップS11では、演算処理装置101は、NTCP差が予め定められた基準値を超える比較対象モダリティに対してアイコン509を付与するなどして、その比較対象モダリティの採用を操作者に提案してもよい。この場合、自施設と比較して高い治療効果が期待される治療モダリティをより容易に確認することができる。また、操作者は、ステップS9の処理に戻り、基準モダリティを変更してもよい。
【0041】
図6は、図2のステップS7の処理において予測DVHを算出するDVH予測モデルのアルゴリズムの一例を説明するための図である。なお、DVH予測モデルの実装方法は、以下のアルゴリズムに限らず、深層学習のような機械学習などでもよい。演算処理装置101は、DVH予測モデルのアルゴリズムに従って、以下の処理を行う。
【0042】
演算処理装置101は、最初に、標的領域601を拡大した拡大標的領域602を算出する。具体的には、演算処理装置101は、先ず、図6(a)に示すように、標的領域601を対象領域とし、その対象領域の表面に複数の点P (0)を設定する。点P (0)は均等に(等間隔に)配置されることが望ましい。また、iは1~Nまでの整数であり、NはP (0)の総数であり、予め定められてもよいし、標的領域601の大きさに応じて定められてもよい。演算処理装置101は、各点P (0)において対象領域の内側から外側に通過する、対象領域の表面に対する法線ベクトルr (0)を計算する。さらに、演算処理装置101は、各点P (0)をその点を通る法線ベクトルr (0)分だけ移動させた点P (1)(=P (0)+r (0))を囲む領域を拡大標的領域602として算出する。
【0043】
そして、演算処理装置101は、以下の式(2)に従って、拡大標的領域602を算出するたびに、その拡大標的領域を対象領域として上記の処理を再度行い、拡大標的領域602上の各点P (j)をその点を通る法線ベクトルr (j)分だけ移動させた点P (j+1)(=P (0)+r (0))を囲む更なる拡大標的領域602を繰り返し生成する。ここで、jは、標的領域601を生成した回数である拡大回数を示す。なお、法線ベクトルr (j)の絶対値は、各点P (j)で等しく、例えば、2mm~10mm程度である。また、法線ベクトルr (j)の絶対値は、各施設のプロトコルなどに応じて異なってもよい。拡大回数jの最大値は、例えば、予め定められている。
【0044】
次に、演算処理装置101は、図6(b)に示すように、拡大回数jごとに、拡大標的領域602とOAR603とが重なるOV(Overlap volume:オーバラップボリューム)領域を算出する。さらに、演算処理装置101は、j回目の拡大標的領域602におけるOV領域とj-1回目の拡大標的領域602におけるOV領域との差分である差分OV領域OV604計算し、その差分OV領域OV604とその体積dVとをメモリ104又はデータベース105に記録する。なお、j=0の場合、差分OV領域ΔOV604は、標的領域601とOAR603とが重なる領域となる。
【0045】
次に、演算処理装置101は、メモリ104又はデータベース105に記録された差分OV領域ΔOV604ごとの体積dVを用いて、以下の数6に従って予測DVHV(x)を計算する。
【数6】
ここで、dV(x)は、
【数7】
である。
【0046】
また、Dは、差分OV領域ΔOV604に付与される線量の平均値、σは差分OV領域ΔOV604に付与される線量の標準偏差である。これらのパラメータは、治療効果指標を予測するためのパラメータであり、その値は、治療モダリティごとに異なっており、過去に実施された治療の治療計画から算出することができる。このパラメータの値を治療モダリティごと示すパラメータ情報は、上述したように、例えば、外部データベース203に保存されている。パラメータ情報は、互いに異なる施設に配置された放射線治療装置に対応するパラメータの値を含んでもよい。
【0047】
なお、図5に示すように、ステップS7において操作者がモダリティ選択ボタン504を押下するとモダリティ選択ウィンドウ505が表示される。操作者は、モダリティ選択ウィンドウ505を用いて、治療効果指標の予測結果を確認する治療モダリティを選択し、閉じるボタン506を押下すると、演算処理装置101は、通信装置106を介して外部データベース203にアクセスする。そして、演算処理装置101は、外部データベース203に格納されているパラメータ情報から、モダリティ選択ウィンドウ505にて選択された治療モダリティに対応するパラメータの値を取得し、予測DVHの計算に用いる。また、図5に示すように、同じ治療システムであっても、施設が異なる場合は別種類の治療モダリティとして登録することができる。また、照射方式が同等な治療モダリティなどの互いに類似する治療モダリティは1つの治療モダリティとして登録されてもよい。
【0048】
また、数6及び数7にて示されているように、本実施例では、差分OV領域ΔOV604に付与される線量のヒストグラムがガウス分布によりモデル化されている。ただし、モデル化に使用する分布は、過去に実施された際の実データに応じて適宜変更可能であり、例えば、コーシー分布又ランダウ分布などでもよい。
【0049】
以上説明した本実施例では、治療効果指標としてDVH及びNTCPが算出されていたが、治療効果指標は、この例に限らず、例えば、DVH及びNTCPに一方でもよいし、TCP(Tumor Control Probability:腫瘍制御確率)のような他の指標でもよいし、それらの組み合わせでもよい。TCPのような治療効果指標の算出では、計画用予測CT画像に加えて、患者に関する患者情報が必要な場合がある。この場合、演算処理装置101は、患者情報をさらに用いて、治療効果指標を算出する。患者情報は、例えば、情報システム201に格納され、必要に応じて演算処理装置101にて取得される。また、患者情報は、例えば、年齢、性別、喫煙及び飲酒などの生活履歴、各種検査(血液検査、生体検査及び遺伝子検査など)の検査結果、抗がん剤及び免疫チェックポイント阻害剤などの投薬の併用の有無などを含む。
【0050】
また、本実施例では、演算処理装置101は、診断用CT画像から計画用予測CT画像を生成し、その計画用予測CT画像に基づいて治療効果指標を予測していたが、治療効果指標を予測するための画像は、計画用予測CT画像に限らない。治療効果指標を予測するための画像としては、例えば、患者の治療計画を作成するために実際に使用された治療計画用CT画像のような他の3次元透視画像を用いることができる。この治療計画用CT画像に対して関心領域が既に設定されている場合には、演算処理装置101は、関心領域を予測する処理を省略し、既に設定されている関心領域を治療効果指標の予測に使用することができる。
【0051】
また、治療選択支援システム100は、実際に操作者が選択した治療モダリティの妥当性を評価してもよい。
【0052】
操作者にて治療モダリティが選択されると、その後、不図示の治療計画用のCT装置により実際に治療計画用CT画像が取得される。また、情報システム201は、操作者からの指示に従って、治療計画用CT画像に関心領域を設定する。さらに、情報システム201は、標的領域に可能な限り一様に高線量を付与し、かつ、OARへの被ばくが可能な限り避けられるように、選択した治療モダリティに対応した治療計画ソフトウェアを用いて、患者内の線量分布が最適化された治療計画を立案する。情報システム201は、治療計画に応じた線量分布及び関心領域とに基づいて、DVHを計算する。情報システム201は、治療計画用CT画像、関心領域を示す関心領域情報及びDVHを格納する。なお、自施設に存在しない治療モダリティが選択された場合、患者はその治療モダリティを備えた別の施設に紹介され、その別の施設にて上記の一連の手続きが行われる。
【0053】
治療選択支援システム100の演算処理装置101は、情報システム201から治療計画用CT画像、関心領域情報及びDVHを取得してメモリ104又はデータベース105に記録する。演算処理装置101は、治療計画用CT画像、関心領域情報及びDVHのそれぞれと、図2を用いて説明した治療選択処理にて算出した計画用予測CT画像、予測関心領域情報及び予測DVHのそれぞれとの一致度を算出する。演算処理装置101は、それらの一致度が予め定められた基準値以上か否かを判断する。一致度が基準値未満の場合、治療選択支援システム100による治療計画用CT画像、予測関心領域及び予測DVHの予測の精度が十分ではないと考えられる。この場合、演算処理装置101は、選択された治療モダリティの妥当性に疑義がある旨のメッセージなどをGUI300に表示するなどしてアラートを出力し、操作者に治療モダリティの再検討を促す。なお、演算処理装置101は、これらの一致度の少なくとも1つが基準値未満の場合にアラートを出力してもよいし、これらの一致度の全てが基準値未満の場合にアラートを出力してもよい。
【0054】
以上説明したように本実施例によれば、演算処理装置101は、患者を写した3次元透視画像における、患者の放射線の照射に関連する部位に対応する関心領域と、放射線治療の効果を評価する治療効果指標を予測するためのパラメータの値を、放射線治療を行う放射線治療装置202の治療モダリティごとに示すパラメータ情報とを用いて、放射線治療装置202の治療モダリティごとに治療効果指標を予測する。したがって、治療モダリティごとに治療効果指標を予測することが可能となるため、シミュレーションにより治療モダリティごとに患者体内の3次元線量分布を求める必要がなくなる。このため、患者にとって適切な放射線治療装置を容易に判断することが可能になる。
【0055】
また、本実施例では、演算処理装置101は、患者の病症を診断するための診断用CT画像に基づいて、放射線治療の治療計画を立案するための治療計画用CT画像を予測した計画用予測CT画像を、治療効果指標を予測するための3次元透視画像として生成する。このため、治療計画用CT画像を撮像する前に、つまり、治療計画を立案する前に治療モダリティごとに治療効果指標を予測することが可能となる。一般的には、治療計画用CT画像を撮像した時点で治療モダリティが既に確定しているため、本実施例のように治療計画用CT画像を撮像する前に治療モダリティごとに治療効果指標を予測することは、患者にとって適切な放射線治療装置を容易に判断するために、非常に有益である。
【0056】
また、本実施例では、演算処理装置101は、治療計画を実際に立案した際に使用した治療計画用CT画像、関心領域情報及びDVHと、治療選択処理にて予測した計画用予測CT画像、予測関心領域情報及び予測DVHとの一致度が基準値未満の場合、アラートを出力する。
【0057】
また、本実施例では、演算処理装置101は、計画用予測CT画像から関心領域を抽出する。このため、操作者が治療効果指標を予測するために関心領域を設定する必要がないため、患者にとって適切な放射線治療装置202を判断するための手間を低減することが可能となる。
【0058】
また、本実施例では、演算処理装置101は、複数の施設A~Cに配置された複数種類の放射線治療装置202に対応するパラメータの値を示すパラメータ情報を格納する外部データベース203から、パラメータ情報を取得して治療効果指標の予測に用いる。このため、自施設に存在しない治療モダリティの放射線治療装置202についても適切か否かを判断することが可能となるため、患者にとってより適切な放射線治療を提供することが可能となる。
【0059】
また、本実施例では、治療効果指標は、DVH、NTCP及びTCOPの少なくとも1つを含む。また、演算処理装置101は、患者に関する患者情報をさらに用いて、治療効果指標を予測してもよい。このため、状況などに応じて適切な治療効果指標を予測することが可能となる。
【0060】
上述した本開示の実施形態は、本開示の説明のための例示であり、本開示の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本開示の範囲を逸脱することなしに、他の様々な態様で本開示を実施することができる。
【符号の説明】
【0061】
100:治療選択支援システム 101:演算処理装置 102:入力装置 103:表示装置 104:メモリ 105:データベース 106:通信装置 201:情報システム 202:放射線治療装置 203:外部データベース

図1
図2
図3
図4
図5
図6