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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025257
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】要素画像生成装置及びそのプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04N 13/366 20180101AFI20250214BHJP
   H04N 13/307 20180101ALI20250214BHJP
   H04N 13/324 20180101ALI20250214BHJP
【FI】
H04N13/366
H04N13/307
H04N13/324
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129868
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】加納 正規
(72)【発明者】
【氏名】岡市 直人
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 隼人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 久幸
(72)【発明者】
【氏名】洗井 淳
(57)【要約】
【課題】要素画像を高速に生成できる要素画像生成装置を提供する。
【解決手段】要素画像生成装置3は、観察者の視点位置を算出する視点位置算出部31と、視点位置の移動速度を算出する移動速度計算部32と、投影レンズ領域に含まれる表示手段の各画素が投影レンズ領域に対応した要素レンズに所属すると決定する画素所属決定部33と、要素レンズの中心と要素レンズに所属する各画素の中心とを結ぶ光線のベクトルを算出する光線ベクトル算出部34と、眼球周辺領域を通過する光線の色情報を更新すると判定する光線更新判定部35と、光線更新判定部35の判定結果に従って光線の色情報を更新する光線更新部36と、を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光線追跡法及び視点追従を用いて、表示手段及びレンズアレイを備える3次元ディスプレイが表示する要素画像を生成する要素画像生成装置であって、
観察者の顔画像が入力され、入力された前記顔画像から前記観察者の視点位置を算出する視点位置算出部と、
前記視点位置算出部が算出した視点位置の変化から前記視点位置の移動速度を算出する移動速度計算部と、
前記視点位置から前記レンズアレイの各要素レンズを前記表示手段に投影した投影レンズ領域を求め、前記投影レンズ領域に含まれる前記表示手段の各画素が前記投影レンズ領域に対応した要素レンズに所属すると決定する画素所属決定部と、
前記要素レンズの中心と前記要素レンズに所属する各画素の中心とを結ぶ光線のベクトルを算出する光線ベクトル算出部と、
前記視点位置の移動速度が速い場合に広く、かつ、前記視点位置の移動速度が遅い場合に狭くなる眼球周辺領域を設定し、設定した前記眼球周辺領域を通過する光線の色情報を更新すると判定する光線更新判定部と、
前記光線更新判定部の判定結果に従って前記光線の色情報を更新する光線更新部と、
を備えることを特徴とする要素画像生成装置。
【請求項2】
前記光線更新判定部は、予め設定されたフレーム間隔で、全ての前記光線の色情報を更新すると判定することを特徴とする請求項1に記載の要素画像生成装置。
【請求項3】
前記眼球周辺領域は、球状の領域であることを特徴とする請求項1に記載の要素画像生成装置。
【請求項4】
前記眼球周辺領域は、前記視点位置の移動速度に応じて半径が大きくなる関数で表されることを特徴とする請求項3に記載の要素画像生成装置。
【請求項5】
前記眼球周辺領域は、前記視点位置の移動速度v、予め設定されたレイテンシT、及び、予め設定された最小半径Rが含まれる以下の式を用いて、
【数1】
半径rが定まることを特徴とする請求項3に記載の要素画像生成装置。
【請求項6】
前記眼球周辺領域は、前記視点位置の移動速度v、予め設定された半径最小値RMin、予め設定された半径最大値RMax、及び、予め設定された閾値vThresholdが含まれる以下の式を用いて、
【数2】
半径rが定まることを特徴とする請求項3に記載の要素画像生成装置。
【請求項7】
コンピュータを、請求項1から請求項6の何れか一項に記載の要素画像生成装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、要素画像生成装置及びそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
高い臨場感や没入感のあるインタラクティブな3次元映像を実現するためには、高品質な3次元映像をリアルタイムで生成及び表示する必要がある。3次元映像における高品質とは、高解像度、高フレームレート、広い奥行き再現範囲、及び、広い視域を指す。インテグラル方式は、インテグラルフォトグラフィの原理に基づく3次元映像方式の一つである(非特許文献1,2)。このインテグラル方式では、2次元ディスプレイに要素画像を表示し、表示手段の表面側に配置したレンズアレイを通して見ることで、観察者が水平及び垂直方向に視差のある3次元映像を観察できる。
【0003】
カメラで一人の観察者の視点位置を計測し、その視点位置で3次元映像を表示する視点追従型のインテグラル方式が提案されている(非特許文献3)。視点追従により、3次元ディスプレイの光学的な構成で決まる視域(光学視域)を狭めて光線密度を高められるために奥行き再現範囲を拡大させ、光学視域を動的に制御できるため視域を拡大させることができる。つまり、視点追従により3次元映像の品質を向上させることができる。
【0004】
インテグラル方式の利点は高い密度の光線群を再現できることであり、その要素画像は被写体を様々な方向から見たときの高密度な光線群で構成されている。仮想空間内に配置した複数の仮想カメラで3次元モデルを撮影し、それらの画像を並べ替えることで要素画像を生成する手法が提案されている(非特許文献4)。この手法では、仮想カメラの台数が視点数に比例するため、仮想カメラの台数が多くなる程に演算量が増大し、フレームレートが低下する。また、この手法では、仮想的な視点位置を設定するため、レンズアレイと2次元ディスプレイで定まる本来の光線ではなく、近似的な光線が再現されることになる。
【0005】
そこで、非特許文献5に記載の光線追跡法に基づいて、要素画像を生成する手法も提案されている(非特許文献6)。この手法は、仮想カメラを用いる手法と比べて、仮想カメラを配置する必要がないので、視点数が多い場合でも高フレームレートを維持できる。また、光線追跡法を用いれば、レンズアレイと2次元ディスプレイで定まる本来の光線を再現できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】G. Lippmann, “Epreuves, reversibles donnant la sensation du relief,” J. Phys., 7, 1, pp.821-825(1908)
【非特許文献2】高木, “立体映像とフラットパネル型立体表示技術光学,” 光学, 35巻, 8号, pp. 400-409, (2006)
【非特許文献3】N. Okaichi, H. Sasaki, M. Kano, J. Arai, M. Kawakita, and T. Naemura, “Design of optical viewing zone suitable for eye-tracking integral 3D display,” OSA Contin., 4, 5, pp.1415-1429 (2021)
【非特許文献4】K. Yanaka, “Integral photography using hexagonal fly’s eye lens and fractional view,” Proc. SPIE 6803, 68031K (2008)
【非特許文献5】コンピュータグラフィックス(改訂新版), CG-ARTS協会, 2015
【非特許文献6】Shujun Xing, Xinzhu Sang, Xunbo Yu, Chen Duo, Bo Pang, Xin Gao, Shenwu Yang, YanXin Guan, Binbin Yan, Jinhui Yuan, and Kuiru Wang, "High-efficient computer-generated integral imaging based on the backward ray-tracing technique and optical reconstruction," Opt. Express 25, pp.330-338 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
視点追従及び光線追跡法を併用し、高品質、かつ、高フレームレートで要素画像を生成する手法を検討する。しかし、視点追従型のインテグラル方式には、レイテンシ(遅延)に起因した視認性の問題がある。このレイテンシとは、カメラによる観察者の撮影開始から3次元映像の表示完了までに要する時間のことであり、視点位置算出処理の時間や要素画像生成の時間などを全て合わせた時間となる。このレイテンシが大きい場合、観察者が視点位置を早く動かしながら3次元映像を観察したときに、設計された光学視域を超えてサイドローブを観察することになり、視認性が悪化する。
【0008】
そこで、本発明は、要素画像を高速に生成できる要素画像生成装置及びそのプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明に係る要素画像生成装置は、光線追跡法及び視点追従を用いて、表示手段及びレンズアレイを備える3次元ディスプレイが表示する要素画像を生成する要素画像生成装置であって、視点位置算出部と、移動速度計算部と、画素所属決定部と、光線ベクトル算出部と、光線更新判定部と、光線更新部と、を備える構成とした。
【0010】
かかる構成によれば、視点位置算出部は、観察者の顔画像が入力され、入力された顔画像から観察者の視点位置を算出する。
移動速度計算部は、視点位置算出部が算出した視点位置の変化から視点位置の移動速度を算出する。
画素所属決定部は、視点位置からレンズアレイの各要素レンズを表示手段に投影した投影レンズ領域を求め、投影レンズ領域に含まれる表示手段の各画素が投影レンズ領域に対応した要素レンズに所属すると決定する。
【0011】
光線ベクトル算出部は、要素レンズの中心と要素レンズに所属する各画素の中心とを結ぶ光線ベクトルを算出する。
光線更新判定部は、視点位置の移動速度が速い場合に広く、かつ、視点位置の移動速度が遅い場合に狭くなる眼球周辺領域を設定し、設定した眼球周辺領域を通過する光線の色情報を更新すると判定する。
光線更新部は、光線更新判定部の判定結果に従って光線の色情報を更新する。
【0012】
眼球周辺領域を通過する光線は観察者が観測する可能性が高いのに対し、眼球周辺領域を通過しない光線は観察者が観測する可能性が低い。そこで、要素画像生成装置は、観察者が観測する可能性が高い光線の色情報を毎フレーム更新する一方、観察者が観測する可能性が低い光線の色情報の更新頻度を低下させる。これにより、要素画像生成装置は、色情報の更新処理の負荷が低減し、要素画像を高速に生成できる。
【0013】
なお、本発明は、コンピュータを前記した要素画像生成装置として機能させるためのプログラムで実現することもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、要素画像を高速に生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る要素画像生成システムの概要構成図である。
図2】実施形態において、(a)~(c)は、3次元ディスプレイの光学視域を説明する説明図である。
図3】実施形態において、(a)~(d)は、光学視域の広狭を説明する説明図である。
図4】実施形態において、(a)及び(b)は、視点位置の移動速度に応じた色情報の更新を説明する説明図である。
図5】実施形態に係る要素画像生成装置の構成を示すブロック図である。
図6】実施形態において、(a)及び(b)は、視点追従における画素と要素レンズとの対応関係を説明する説明図である。
図7】実施形態において、(a)~(d)は、画素が所属する要素レンズの決定を説明する説明図である。
図8】実施形態において、光線の色情報の更新を説明する説明図である。
図9】実施形態において、色情報を更新する対象の光線を説明する説明図である。
図10】実施形態において、眼球周辺領域の半径を定める関数の一例を示すグラフである。
図11】実施形態において、眼球周辺領域の半径を定める関数の一例を示すグラフである。
図12】実施形態において、眼球周辺領域の半径を定める関数の一例を示すグラフである。
図13】実施形態に係る要素画像生成装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。但し、以下に説明する各実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本発明を以下のものに限定しない。また、同一の手段には同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0017】
[要素画像生成システムの概要]
図1を参照し、実施形態に係る要素画像生成システム1の概要について説明する。
要素画像生成システム1は、要素画像を生成及び表示するものであり、撮影カメラ2と、要素画像生成装置3と、3次元ディスプレイ4とを備える。
【0018】
ここで、要素画像生成システム1では、3次元映像の表示方式がインテグラル方式であることとする。なお、要素画像生成システム1において、3次元映像の表示方式は、インテグラル方式に限らず、レンチキュラー方式、線光源アレイ方式、点線光源アレイ方式等の光線再生方式であればよい。
【0019】
撮影カメラ2は、観察者の視点位置を算出するために、観察者の顔画像を撮影するカメラである。例えば、撮影カメラ2は、後記する3次元ディスプレイ4の上部に配置された一般的なカメラである。なお、図1では、撮影カメラ2として1台のカメラを図示したが、撮影カメラ2は、ステレオカメラであってもよい。
【0020】
要素画像生成装置3は、光線追跡法及び視点追従を用いて、3次元ディスプレイ4が表示する要素画像を生成するものである(詳細後記)。そして、要素画像生成装置3は、生成した要素画像を3次元ディスプレイ4に出力する。
【0021】
3次元ディスプレイ4は、要素画像生成装置3が生成した要素画像を表示するディスプレイである。本実施形態では、3次元ディスプレイ4は、表示手段40及びレンズアレイ42を備えるインテグラル方式のディスプレイである(図6参照)。表示手段40は、2次元状に配列された画素41を備える。例えば、表示手段40としては、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイである。レンズアレイ42は、アレイ状に配列された要素レンズ43を備える。例えば、要素レンズ43は、両凸の微小レンズである。
【0022】
3次元ディスプレイ4は運動視差を有するため、観察者は3次元ディスプレイ4の観察方向に応じた映像を見ることができる。実際のテレビや映画などの長時間視聴を考えた場合、観察者は、視点位置が静止した状態での視聴と視点位置を移動させながらの視聴との両方をシーンに応じて使い分けると思われる。
【0023】
両眼視差を得るためには、観察者の両眼を包含するように3次元ディスプレイ4の光学視域を形成しなくてはならない。また、要素レンズ43及び要素画像の形状や配置に応じて、3次元ディスプレイ4の光学視域の形状が定まる。図2(a)には、正方形の要素レンズ43及び要素画像91が重なっている状態を図示した。この場合、光学視域90の形状は、両眼E(右眼E,左眼E)を包含するように正方形となる。図2(b)には、ハニカムの要素レンズ43及び要素画像91が重なっている状態を図示した。この場合、光学視域90の形状は、両眼Eを包含するようにハニカムとなる。図2(c)には、視域が広がるように要素レンズ43を要素画像91に対して45度回転させた例を図示した。この場合、光学視域90の形状は、両眼Eを包含するように長方形となる。
【0024】
図3(b)のように広い光学視域90を図3(a)のように狭くすると、3次元映像の解像度や奥行き再現範囲が向上する。その一方、図3(d)のように広い光学視域90を図3(c)に示すように狭くすると、レイテンシの影響で両眼Eが光学視域90から外れてしまい、サイドローブを観察する可能性が高くなる。なお、図3(c)及び図3(d)では、移動前の両眼Eを薄く図示した。
【0025】
観察者が移動することも考慮して、光学視域90は、ある程度の余裕があるサイズにすべきである。観察者が静止しているとき、光学視域90内で観察される光線は、両眼Eの周辺のごく一部である。一方、観察者が姿勢を変化させているとき、レイテンシにより光学視域90は常に遅れをもって視点位置に追従するため、光学視域90内のあらゆる光線を観察する可能性がある。
【0026】
このような考え方に基づいて、視点位置の移動速度に応じて、色情報を更新する光線を光学視域90内で選択することで、要素画像の生成処理の高速化を図る。具体的には、図4(a)に示すように、観察者の両眼Eが静止している場合、両眼Eの付近を通過する光線の色情報を更新するので、色情報を更新する光線数を抑制し、要素画像を高速に生成できる。また、図4(b)に示すように、観察者の両眼Eが移動している場合、両眼Eから離れた場所を通過する光線の色情報も更新するので、光学視域のマージンを最大限に利用し、観察者がサイドローブを観察することを抑制できる。なお、図4(a)及び図4(b)では、光学視域90内で光線の色情報を更新する範囲をドットで図示した。
【0027】
[要素画像生成装置の構成]
図5を参照し、要素画像生成装置3の構成について説明する。
図5に示すように、要素画像生成装置3は、仮想ディスプレイ配置部30と、視点位置算出部31と、移動速度計算部32と、画素所属決定部33と、光線ベクトル算出部34と、光線更新判定部35と、光線更新部36とを備える。
【0028】
仮想ディスプレイ配置部30は、3次元ディスプレイ4の仕様に関する設定値が入力され、入力された設定値に基づいて3次元ディスプレイ4を仮想的に配置するものである。なお、仮想的に配置した3次元ディスプレイ4を仮想ディスプレイと記載する場合がある。例えば、この設定値には、表示手段40の仕様(画素ピッチ、画素数)、レンズアレイ42の仕様(レンズピッチ、焦点距離、レンズ構造)、及び、表示手段40に対するレンズアレイ42の位置や回転角が含まれる。
【0029】
視点位置算出部31は、観察者の顔画像が入力され、入力された顔画像から観察者の視点位置(両眼E)を算出するものである。例えば、視点位置算出部31は、参考文献1に記載の手法を用いて、眼、鼻、口等の顔パーツの2次元座標を顔画像から検出する。そして、視点位置算出部31は、非特許文献3に記載の手法を用いて、顔パーツの2次元座標から視点位置の3次元座標を推定する。
【0030】
参考文献1:“MediaPipe”、[online]、[令和5年7月25日検索],インターネット<URL:https://developers.google.com/mediapipe>
【0031】
なお、視点位置算出部31は、撮影カメラ2がステレオカメラの場合、両眼の2次元座標と奥行き情報から視点位置の3次元座標を推定できるので、鼻や口を検出する必要はない。
【0032】
ここで、視点位置の3次元座標がカメラ座標系で記述されている。そこで、視点位置算出部31は、撮影カメラ2と3次元ディスプレイ4との位置関係(ずれ)を予め計測し、その位置関係に基づいて、視点位置をカメラ座標系からディスプレイ座標系に変換する。ディスプレイ座標系とは、3次元ディスプレイ4の画面中心を原点とする座標系のことである。その後、視点位置算出部31は、算出した視点位置を移動速度計算部32及び画素所属決定部33に出力する。
【0033】
移動速度計算部32は、視点位置算出部31が算出した視点位置の変化から視点位置の移動速度を算出するものである。つまり、視点位置算出部31から入力された視点位置における単位時間当たりの変化量から移動速度を算出する。その後、移動速度計算部32は、視点位置及び視点位置の移動速度を光線更新判定部35に出力する。
【0034】
画素所属決定部33は、視点位置からレンズアレイ42の各要素レンズ43を表示手段に投影した投影レンズ領域を求め、投影レンズ領域に含まれる表示手段40の各画素41が投影レンズ領域に対応した要素レンズ43に所属すると決定するものである。以下で説明するように、画素所属決定部33は、表示手段40の各画素41が、レンズアレイ42のどの要素レンズ43に所属するかを決定する。
【0035】
ここで、画素所属決定部33は、全ての画素41について、レンズアレイ42を構成する何れか一つの要素レンズ43に所属すると決定する。画素41と要素レンズ43との対応関係が視点位置に応じて定まり、視点追従により視点位置がフレーム毎に変化する。従って、画素所属決定部33は、毎フレームに画素41と要素レンズ43との対応関係を決定する。図6(a)に示すように、観察者の両眼Eが3次元ディスプレイ4の正面中央に位置する場合を考える。この場合、視点位置からある一つの要素レンズ43を通過する直線と表示手段40のディスプレイ面とが交わる領域(投影レンズ領域)に含まれる画素41は、その要素レンズ43に所属する。図6(b)に示すように、視点追従により両眼Eが移動すると、視点位置と画素41と要素レンズ43との対応関係が変化し、投影レンズ領域も移動する。
【0036】
図7(a)には画素41の画素中心xを図示し、図7(b)には要素レンズ43のレンズ中心xを図示した。なお、図7では、画素41と要素レンズ43との対応関係を分かりやすくするために濃淡の異なるドットを付した。図7(c)では、幾つかの画素41が濃淡の異なるドットに重なっており、複数の投影レンズ領域にまたがる画素41が存在する。この場合、図7(d)に示すように、画素所属決定部33は、画素中心Xが含まれる投影レンズ領域に対応する要素レンズ43にその画素41が所属すると決定する。ここで、要素レンズ43及び要素画像の形状や配置に応じて、画素41が所属する要素レンズ43の決定方法が異なるので順に説明する。
【0037】
<第1例:正方形>
図2(a)に示すように、要素レンズ43及び要素画像91の形状が正方形の場合を第1例として説明する。
画素所属決定部33は、縦方向及び横方向のそれぞれで、画素中心Xの位置を表示手段40に投影された要素レンズ43のレンズピッチ(設定値が示す要素レンズ43のピッチよりわずかに大きくなる)で除算する。そして、画素所属決定部33は、この除算した値を整数化することで、画素41がどの要素レンズ43に所属するか決定できる。なお、この整数値は、画素41が縦方向及び横方向で何番目の要素レンズ43に対応するかを表す。
【0038】
<第2例:回転>
図2(c)に示すように、要素レンズ43を要素画像91に対して回転させた場合を第2例として説明する。
この場合、1行毎に要素レンズ43が水平方向で半個分ずれる。画素所属決定部33は、第1例と同様の処理を行ったのち、要素レンズ43のずれを考慮して、画素41がどの要素レンズ43に所属するか決定する。例えば、画素所属決定部33は、奇数行の要素レンズ43において、画素中心Xの位置に表示手段40に投影された要素レンズ43のレンズピッチの半分の値を加算し、表示手段40に投影された要素レンズ43のレンズピッチで除算した値を整数化すればよい。なお、偶数行については、第1例と同様の処理を行えばよい。
【0039】
<第3例:ハニカム>
図2(b)に示すように、要素レンズ43を要素画像91の形状がハニカムの場合を第3例として説明する。
この場合、画素所属決定部33は、第2例と同様の処理を行った後、画素41の画素中心xとその画素41の周囲に配置された各要素レンズ43のレンズ中心xとの距離を計算する。図2(b)の例では、画素所属決定部33は、画素中心xと7個の要素レンズ43のレンズ中心xとの距離を計算する。そして、画素所属決定部33は、その距離が最小となる要素レンズ43に画素41が所属すると決定する。
【0040】
画素所属決定部33は、決定結果として、画素41と要素レンズ43との対応関係を表す情報を光線ベクトル算出部34に出力する。なお、この決定結果は、画素41が所属する要素レンズ43を表す。
【0041】
光線ベクトル算出部34は、要素レンズ43の中心と要素レンズ43に所属する各画素41の中心とを結ぶ光線ベクトルを算出するものである。この光線ベクトルは、画素所属決定部33の決定結果に基づいて、要素レンズ43のレンズ位置xと、その要素レンズ43に所属する画素41の画素位置xを結ぶ直線を光線ベクトルとして定義できる(図8参照)。
【0042】
図8に示すように、ある要素レンズ43の中心位置x=[x,y,z]とし、その要素レンズ43に所属する画素41の中心位置x=[x,y,z]とする。このとき、光線ベクトルの方向ベクトルeは、以下の式(1)で表される。なお、normalize(・)は、ベクトルを正規化する関数である。
【0043】
【数1】
【0044】
光線ベクトルx=[x,y,z]は、以下の式(2)で表される。なお、sは、スカラーのスケール係数を表し、任意に設定できる。
【0045】
【数2】
【0046】
光線ベクトル算出部34は、前記した式(1)及び式(2)を用いて、画素41毎に光線ベクトルxを算出する。その後、光線ベクトル算出部34は、算出した光線ベクトルxを光線更新判定部35に出力する。
【0047】
光線更新判定部35は、視点位置の移動速度が速い場合に広く、かつ、視点位置の移動速度が遅い場合に狭くなる眼球周辺領域を設定し、設定した眼球周辺領域を通過する光線の色情報を更新すると判定するものである。
【0048】
光線更新判定部35は、そのフレームにおいて、どの光線の色情報を更新すべきか、視点位置及び移動速度を用いて判定する。つまり、光線更新判定部35は、眼球周辺領域を通過する光線のみフレーム毎に色情報を更新し、他の光線の色情報をフレーム毎に更新しないことで、フレームレートを向上させる。しかし、光線の色情報が長期間更新されない場合、その光線(画素)の色情報が本来の色から大きく乖離してしまう可能性がある。このため、光線更新判定部35は、予め設定されたフレーム間隔で、全ての光線の色情報を更新すると判定する。なお、全ての光線の色情報を更新するフレーム間隔は、任意に設定できる(例えば、10フレーム間隔)。さらに、光線更新判定部35は、最後に光線の色情報が更新されてから予め設定されたフレーム間隔で、全ての光線の色情報を更新してもよい。
【0049】
以下、光線の色情報を更新する考え方について説明する。
図9に示すように、両眼Eの近くを通過する光線xは、観察者によって観察される可能性が高いため色情報を更新すると判定する。これに対し、両眼Eの遠くを通過する光線xは、観察者によって観察される可能性が低いため色情報を更新しないと判定する。つまり、更新の有無を決める領域を眼球周辺領域92と呼ぶ。眼球周辺領域92を通過する光線xの色情報を更新し、眼球周辺領域92を通過しない光線xの色情報は更新しない。なお、右眼E及び左眼Eのそれぞれが眼球周辺領域92を有するので、左右の眼球周辺領域92のそれぞれで色情報の更新を判定する。
【0050】
本実施形態では、眼球周辺領域92は、球状の領域であり、視点位置が中心位置である。眼球周辺領域92の半径rは、以下の式(3)で表される。
【0051】
【数3】
【0052】
ここで、f(v)は、視点位置の移動速度vに応じて、半径rが大きくなる増加関数であればよい。関数f(v)は、線形関数又は非線形関数の何れであってもよく、要素画像生成システム1のユーザが手動で設定できる。
【0053】
視点位置の移動速度vが速い場合、広い範囲で光線を観察する可能性が高いため、眼球周辺領域92を大きくし、広い範囲で光線の色情報を更新する。一方、視点位置の移動速度vが遅い場合、視点位置が停止している場合、狭い範囲で光線を観察する可能性が高いため、眼球周辺領域92を小さくし、狭い範囲で光線の色情報を更新する。更新する光線の本数が少なくなると、要素画像の生成処理時間が短くなり、フレームレートが高くなる。
【0054】
例えば、関数f(v)は、以下の式(4)で定義できる。ここで、Tはレイテンシを表し、Rが最小半径を表す。レイテンシT及び最小半径Rは、予め任意の値で設定される。例えば、最小半径Rは、眼球を想定した球の半径として、20mmに設定する。なお、ifは、後段の条件式が真の場合に前段の値を返す条件文である。
【0055】
【数4】
【0056】
図10に示すように、式(4)の関数f(v)では、レイテンシT及び移動速度vの乗算値が最小半径R以下の場合、眼球周辺領域92の半径rが最小半径Rになる。また、式(4)の関数f(v)では、レイテンシT及び移動速度vの乗算値が最小半径Rを超える場合、その眼球周辺領域92の半径rがその乗算値になる。
【0057】
また、関数f(v)は、以下の式(5)で定義してもよい。ここで、RMinは半径最小値を表し、RMaxは半径最大値を表し、vThresholdは閾値を表す。半径最小値RMin、半径最大値RMax及び閾値vThresholdは、予め任意の値で設定される。
【0058】
【数5】
【0059】
図11に示すように、式(5)の関数f(v)では、視点位置がほぼ停止している場合、眼球周辺領域92の半径rが半径最小値RMinとなる。また、式(5)の関数f(v)では、視点位置がある程度移動した場合、眼球周辺領域92の半径rが半径最大値RMaxとなる。
【0060】
また、関数f(v)は、以下の式(6)で定義してもよい。ここで、係数αは、予め任意の値で設定される。図12に示すように、式(6)の関数f(v)は、非線形の増加関数(2次関数)である。
【0061】
【数6】
【0062】
その後、光線更新判定部35は、光線の色情報を更新するか否かの判定結果を光線更新部36に出力する。
【0063】
光線更新部36は、光線更新判定部35の判定結果に従って光線の色情報を更新するものである。ここで、光線更新部36は、光線ベクトルと被写体との交点のうち、視点位置から見て一番手前に位置する交点の色を光線の色情報として取得する。また、光線更新部36は、光線更新判定部35で更新すると判定された光線の色情報を更新するので、観察者が観察する可能性の高い画素41が新しい色となる。一方、光線更新部36は、光線更新判定部35で更新しないと判定された光線の色情報を前フレームのまま保持するので、観察者が観察する可能性の低い画素41が同じ色を保持する。図8に示すように、被写体の色情報が要素画像に反映され、被写体の立体像Tが再現されることになる。
【0064】
[要素画像生成装置の動作]
図13を参照し、要素画像生成装置3の動作について説明する。
図13に示すように、ステップS1において、仮想ディスプレイ配置部30には、3次元ディスプレイ4の仕様に関する設定値が入力される。
ステップS2において、仮想ディスプレイ配置部30は、ステップS1で入力された設定値に基づいて、3次元ディスプレイ4を仮想的に配置する。
【0065】
ステップS3において、視点位置算出部31は、観察者の顔画像から観察者の視点位置を算出する。
ステップS4において、移動速度計算部32は、ステップS3で算出した視点位置の変化から視点位置の移動速度を算出する。
【0066】
ステップS5において、画素所属決定部33は、視点位置からレンズアレイ42の各要素レンズ43を表示手段に投影した投影レンズ領域を求める。そして、画素所属決定部33は、投影レンズ領域に含まれる表示手段40の各画素41が投影レンズ領域に対応した要素レンズ43に所属すると決定する。
ステップS6において、光線ベクトル算出部34は、要素レンズ43の中心と要素レンズ43に所属する各画素41の中心とを結ぶ光線ベクトルを算出する。
【0067】
ステップS7において、光線更新判定部35は、視点位置の移動速度が速い場合に広く、かつ、視点位置の移動速度が遅い場合に狭くなる眼球周辺領域を設定する。そして、光線更新判定部35は、設定した眼球周辺領域を通過する光線の色情報を更新すると判定する。
ステップS8において、光線更新部36は、ステップS7の判定結果に従って光線の色情報を更新する。
【0068】
[作用・効果]
眼球周辺領域を通過する光線は観察者が観測する可能性が高いのに対し、眼球周辺領域を通過しない光線は観察者が観測する可能性が低い。そこで、要素画像生成装置3は、観察者が観測する可能性が高い光線の色情報を毎フレーム更新する一方、観察者が観測する可能性が低い光線の色情報の更新頻度を低下させる。これにより、要素画像生成装置3は、色情報の更新処理の負荷が低減し、要素画像を高速に生成できる。
【0069】
さらに、要素画像生成装置3は、光線追跡法を用いるため、フレームレートが要素画像を構成する視点数に依存しないので、視点数が多い場合でもフレームレートが低下しない。さらに、要素画像生成装置3は、レンズアレイ42と2次元の表示手段40で定まる本来の光線を再現できる。さらに、要素画像生成装置3は、視点追従に対応しているため、奥行き再現範囲や視域を拡大できる。
【0070】
以上、実施形態を詳述してきたが、本発明は前記した実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0071】
前記した実施形態では、左右の眼を区別せずに眼球周辺領域の半径が左右の眼で同一であることとして説明したが、本発明はこれに限定されない。つまり、左右の眼のそれぞれの速度に応じて、眼球周辺領域の半径を値に設定してもよい(眼球周辺領域の半径が左右の眼で異なる場合がある)。
【0072】
前記した実施形態では、要素画像生成装置が独立したハードウェアであることとして説明したが、本発明は、これに限定されない。例えば、本発明は、コンピュータが備えるCPU、メモリ、ハードディスク等のハードウェア資源を、前記した要素画像生成装置として機能させるためのプログラムで実現することもできる。このプログラムは、通信回線を介して配布してもよく、CD-ROMやフラッシュメモリ等の記録媒体に書き込んで配布してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 要素画像生成システム
2 撮影カメラ
3 要素画像生成装置
4 3次元ディスプレイ
30 仮想ディスプレイ配置部
31 視点位置算出部
32 移動速度計算部
33 画素所属決定部
34 光線ベクトル算出部
35 光線更新判定部
36 光線更新部
40 表示手段
41 画素
42 レンズアレイ
43 要素レンズ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13