(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025434
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】蒸留装置、重水の濃縮方法、及び濃縮された重水の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 59/04 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
B01D59/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130180
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 健大
(72)【発明者】
【氏名】今田(佐藤) 諒
(72)【発明者】
【氏名】木原 均
(57)【要約】
【課題】流入液流量の大幅な増加に対応でき、かつ、蒸留塔のサイズの増大が抑制された蒸留装置、重水の濃縮方法、及び濃縮された重水の製造方法の提供。
【解決手段】金属材料で構成された規則充填物を塔内に有する、1以上の蒸留塔と、1以上の蒸発器と、1以上の凝縮器と、前記規則充填物の鉛直方向上方に配置された、前記規則充填物に液体を分散させるためのチャネル型の液分配器であって、上部に位置する上部液分配器及び下部に位置する下部液分配器の2台からなる液分配器と、前記上部液分配器に前記液体を送る配管と、前記下部液分配器に前記液体を送る配管と、前記上部液分配器に前記液体を送る前記配管に位置する、1以上のバルブとを備える蒸留装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料で構成された規則充填物を塔内に有し、塔内での気液の接触により高沸点成分を液側に、低沸点成分をガス側に濃縮する、1以上の蒸留塔と、
前記蒸留塔の下降液の少なくとも一部を気化し、その一部を上昇ガスとして前記蒸留塔に導入する、1以上の蒸発器と、
前記蒸留塔の上昇ガスの少なくとも一部を液化し、その一部を還流液として前記蒸留塔に導入する、1以上の凝縮器と、
前記規則充填物の鉛直方向上方に配置された、前記規則充填物に液体を分散させるためのチャネル型の液分配器であって、上部に位置する上部液分配器及び下部に位置する下部液分配器の2台からなり、前記上部液分配器及び前記下部液分配器はそれぞれ液体を内部に溜め込んで液深が形成され、溜め込んだ前記液体の液ヘッドにより底面に設けられた分散孔から前記液体を均等に分散させる機能を有する液分配器と、
前記上部液分配器に前記液体を送る配管と、
前記下部液分配器に前記液体を送る配管と、
前記上部液分配器に前記液体を送る前記配管に位置する、1以上のバルブと
を備える蒸留装置。
【請求項2】
前記上部液分配器の前記分散孔の総開口面積が前記下部液分配器の前記分散孔の総開口面積よりも大きい、請求項1に記載の蒸留装置。
【請求項3】
前記上部液分配器の前記分散孔の孔径が前記下部液分配器の前記分散孔の孔径よりも大きい、請求項1に記載の蒸留装置。
【請求項4】
前記下部液分配器のアームチャネルに前記上部液分配器からの流下液が衝突しないように、前記上部液分配器の前記分散孔が前記下部液分配器のアームチャネル間に位置する、請求項1に記載の蒸留装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の蒸留装置を用いて重水を含む液体を蒸留する工程を備える重水の濃縮方法であって、
前記下部液分配器から前記重水を含む液体が溢れ出る前に前記上部液分配器に前記重水を含む液体を送る、重水の濃縮方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の蒸留装置を用いて重水を含む液体を蒸留する工程を備える濃縮された重水の製造方法であって、
前記下部液分配器から前記重水を含む液体が溢れ出る前に前記上部液分配器に前記重水を含む液体を送る、濃縮された重水の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留装置、重水の濃縮方法、及び濃縮された重水の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、従来の蒸留装置の構成の一例を示す系統図である。
図7に示すように、従来の蒸留装置3は、気液の接触面積を大きくするため、金属製の規則充填物を塔内に有する蒸留塔Dと、蒸留塔Dの上方に位置し、蒸留塔Dの塔頂から流れてくるガスを液化して還流液として戻すコンデンサ(凝縮器)Cと、蒸留塔Dの下方に位置し、蒸留塔Dの塔底の液をガス化して上昇ガスとして戻すリボイラRとを備える。蒸留装置3では、原料液体Fを蒸留塔Dに供給し、蒸留塔Dの塔内で気液の接触により高沸点成分を液側に、低沸点成分をガス側に濃縮する。そして、蒸留装置3では、蒸留塔Dの塔底の液の一部を製品Pとして取り出すとともに、コンデンサCにより液化した液の一部を排液W1として系外に排出する。
【0003】
表面張力が大きい水系の液体は、金属表面における濡れ性が良くないことが知られている。表面張力が大きい水系の液体を蒸留する際、例えば
図7に示すような、金属製の規則充填物を有する蒸留塔Dを用いて運転すると、蒸留性能(充填物の性能)の指標である「理論段数1段と同等の性能となる充填高さ(HETP;Height Equivalent to a Theoretical Plate)」が200mm以上となり、蒸留性能が悪化する(非特許文献1)。これは、表面張力が小さい液体に比べて規則充填物表面での液の分散性が悪く、液が偏流を起こすことにより、気液の接触面積が小さくなって蒸留分離が進みにくくなるためであると推定されている。
【0004】
一方、金属製メッシュ状の規則充填物を使った蒸留塔を起動する際、通常運転負荷よりも高い負荷を与えることで規則充填物の液分散性が改善され、蒸留性能が改善することが知られている。
【0005】
一般的に、蒸留塔には規則充填物の塔断面に均一に液体を分配するための液分配器(「ディストリビュータ」ともいう。)が設置される(1点滴下で十分な小塔径の蒸留塔を除く)。液分配器は上部から降り注がれる液体を液ヘッドにより底面に設けられた分散孔(「オリフィス」ともういう。)から流下する構造を有する。パイプを組み合わせたチューブラー型とトラフを組み合わせたチャネル型に大別される(非特許文献2)。両者とも、各分散孔にかかる液ヘッドが均一となることを利用して、液体を等しい流量で規則充填物の表面に分配させる機能を有する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】廣瀬永一, 亘理和夫、「表面張力の大きい系での規則充填物と低液負荷の液分散器について」、分離技術、2014年、第44巻、第1号、p.38-42
【非特許文献2】分離技術会(編)、「分離技術シリーズ2 改訂新版トレイ・パッキング」、分離技術会、2005年、p.68-71
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来型の液分配器の底面に設けられる分散孔からの流量Qは、オリフィス流出係数の式より次式で求められる。
【数1】
ここでgは重力加速度であり、hは液深であり、Aは孔断面積であり、cは流出係数で孔の形状に依存するパラメータである。
すなわち流量Qは孔の形状と、孔にかかる液ヘッドにより決まる。そのため、液分配器に流入する液流量が定格値より多少増減したとしても、液分配器内の液面が増減することにより液ヘッドが変化して液流量が変動するのみであり、充填物への液の分散点が変動することはなく液の偏流も起こらない。
しかし、大幅に液分配器への流入液流量を増加させた場合は内部の液深が増大し、最終的にはチャネルや液流入部の開口部から液が溢れ出して(オーバーフローして)しまう。オーバーフローした液は液分配器外周等をつたって充填物に落下するため均一な液分散ができなくなるという課題がある。
一方、流入液流量の大幅な増加に対応できるだけの液ヘッドを液分配器内に確保しようとすると、流入液流量の2乗に比例して必要な液ヘッドが増加するため、非常に高さのある液分配器が必要となってしまう。これは蒸留塔全体のサイズを増大させ、装置全体の大型化につながってしまう。
【0008】
本発明は、流入液流量の大幅な増加に対応でき、かつ、蒸留塔のサイズの増大が抑制された蒸留装置、重水の濃縮方法、及び濃縮された重水の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1] 金属材料で構成された規則充填物を塔内に有し、塔内での気液の接触により高沸点成分を液側に、低沸点成分をガス側に濃縮する、1以上の蒸留塔と、
前記蒸留塔の下降液の少なくとも一部を気化し、その一部を上昇ガスとして前記蒸留塔に導入する、1以上の蒸発器と、
前記蒸留塔の上昇ガスの少なくとも一部を液化し、その一部を還流液として前記蒸留塔に導入する、1以上の凝縮器と、
前記規則充填物の鉛直方向上方に配置された、前記規則充填物に液体を分散させるためのチャネル型の液分配器であって、上部に位置する上部液分配器及び下部に位置する下部液分配器の2台からなり、前記上部液分配器及び前記下部液分配器はそれぞれ液体を内部に溜め込んで液深が形成され、溜め込んだ前記液体の液ヘッドにより底面に設けられた分散孔から前記液体を均等に分散させる機能を有する液分配器と、
前記上部液分配器に前記液体を送る配管と、
前記下部液分配器に前記液体を送る配管と、
前記上部液分配器に前記液体を送る前記配管に位置する、1以上のバルブと
を備える蒸留装置。
[2] 前記上部液分配器の前記分散孔の総開口面積が前記下部液分配器の前記分散孔の総開口面積よりも大きい、[1]に記載の蒸留装置。
[3] 前記上部液分配器の前記分散孔の孔径が前記下部液分配器の前記分散孔の孔径よりも大きい、[1]又は[2]に記載の蒸留装置。
[4] 前記下部液分配器のアームチャネルに前記上部液分配器からの流下液が衝突しないように、前記上部液分配器の前記分散孔が前記下部液分配器のアームチャネル間に位置する、[1]~[3]のいずれかに記載の蒸留装置。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の蒸留装置を用いて重水を含む液体を蒸留する工程を備える重水の濃縮方法であって、
前記下部液分配器から前記重水を含む液体が溢れ出る前に前記上部液分配器に前記重水を含む液体を送る、重水の濃縮方法。
[6] [1]~[4]のいずれかに記載の蒸留装置を用いて重水を含む液体を蒸留する工程を備える濃縮された重水の製造方法であって、
前記下部液分配器から前記重水を含む液体が溢れ出る前に前記上部液分配器に前記重水を含む液体を送る、濃縮された重水の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、流入液流量の大幅な増加に対応でき、かつ、蒸留塔のサイズの増大が抑制された蒸留装置及び重水の濃縮方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態である蒸留装置の構成の一例を示す系統図である。
【
図2A】
図2Aは、下部液分配器の構成例を示す模式図である。
【
図2B】
図2Bは、上部液分配器の構成例を示す模式図である。
【
図4A】
図4Aは、下部液分配器の他の構成例を示す模式図である。
【
図4B】
図4Bは、上部液分配器の他の構成例を示す模式図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態である蒸留装置の構成の他の例を示す系統図である。
【
図7】
図7は、従来の蒸留装置の構成の一例を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した一実施形態である蒸留装置、重水の濃縮方法、及び濃縮された重水の製造方法について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴を分かり易くするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0013】
本明細書における用語の意味及び定義は、以下のとおりである。
「~」で表される数値範囲は、~の前後の数値を下限値及び上限値とする数値範囲を意味する。
蒸留塔の上部(蒸留塔上部ともいう)とは、蒸留塔の中心から鉛直方向の上方向をいう。また、蒸留塔の下部(蒸留塔下部ともいう)とは、蒸留塔の中心から鉛直方向の下方向をいう。
【0014】
[蒸留装置]
本発明の一実施形態である蒸留装置の構成について、説明する。ここで、
図1は、本発明の一実施形態である蒸留装置1の構成を示す系統図である。
図1に示すように、本実施形態の蒸留装置1は、蒸留塔D、リボイラ(蒸発器)R、コンデンサ(凝縮器)C、第1の規則充填物100、第2の規則充填物200、第1の下部液分配器11及び第1の上部液分配器12から構成される第1の液分配器10、第2の下部液分配器21及び第2の上部液分配器22から構成される第2の液分配器20、コレクタ13、並びに配管L1、L2、L3、L4、L5、L11、L12、L13、L21、及びL22を備えて、概略構成されている。
【0015】
蒸留塔Dは、軸方向が鉛直方向上下となるように配置された塔であり、塔内での気液の接触により、高沸点成分を液側に、低沸点成分をガス側に、それぞれ濃縮する。ここで、規則充填物100(200)によって、上述した気液の接触面積を大きくしている。
【0016】
規則充填物100(200)は、金属材料で構成されていれば特に限定されるものではなく、蒸留する成分に応じて適宜選択できる。表面張力の大きな液体を蒸留する場合、規則充填物としては、金属製メッシュ状の規則充填物を用いることが好ましい。
【0017】
蒸留塔Dの中央には、原料液体Fを蒸留塔D内に導入するための配管L1が接続されている。配管Lは後述する配管L11、L12及びL13と接続されている。配管L1には流量調節のためのバルブV1が配置されている。バルブV1は、液体の流量を調節するバルブ(弁)である。バルブV1は、全閉状態(開度0%)から全開状態(開度100%)まで、任意の開度に調節できるものが好ましい。なお、後述するバルブV12及びバルブV22についても、同様である。
【0018】
蒸留塔Dの上部には、配管L2が位置する。ここで、配管L2の基端は蒸留塔Dの塔頂に接続されており、配管L2の先端は蒸留塔Dの上方に接続されている。また、配管L2には、コンデンサ(凝縮器)Cが配置されている。また、配管L2は、コンデンサCの二次側において、配管L3と分岐する。
【0019】
コンデンサ(凝縮器)Cは、配管L2に位置しており、蒸留塔Dの塔頂から流れてくる上昇ガスの少なくとも一部を液化し、その一部を還流液として蒸留塔Dの上方に導入する。コンデンサCの冷却源としては、例えば、液化ガスや水などを用いることができる。
【0020】
配管L3は、コンデンサCの二次側において配管L2から分岐する液排出用の配管である。コンデンサCによって液化した液体のうち、一部は還流液として配管L2を介して蒸留塔Dの上方に導入され、残部は排液W1として配管L3を介して系外に排出される。
【0021】
蒸留塔Dの下部には、配管L4が位置する。ここで、配管L4の基端は蒸留塔Dの塔底に接続されており、配管L4の先端は蒸留塔Dの下方に接続されている。配管L4には、リボイラ(蒸発器)Rが配置されている。また、配管L4は、リボイラRの一次側において、配管(製品導出配管)L5と分岐する。
【0022】
配管L5は、配管L4から分岐する液導出配管である。すなわち、配管L5は、蒸留塔Dの塔底に貯留される液体のうち、配管L4の導出される液体の一部を製品Pとして取り出すための配管である。
【0023】
リボイラ(蒸発器)Rは、配管L4に位置しており、蒸留塔Dの塔底から流れてくる下降液の少なくとも一部を気化し、その一部を上昇ガスとして蒸留塔Dの下方に導入する。すなわち、リボイラRは、液体を貯留する容器と、液体を加熱する加熱源とを有する。リボイラRの加熱源としては、例えば、コンデンサCの冷却源と同種のガスや、水、ヒーターなどを用いることができる。
【0024】
液分配器10(20)は、コンデンサCからの還流液を規則充填物100(200)に均等に分散するため、規則充填物100(200)の上方に配置されている。
図1に示す蒸留塔Dは、液分配器と規則充填物のセットを2セット備えている。すなわち、蒸留塔Dは、液分配器10及び規則充填物100のセットと液分配器20及び規則充填物200のセットをと備えている。
液分配器10(20)は、蒸留装置1の定格運転時に液体を均一に規則充填物に分散させる機能を有する下部液分配器11(21)と、その上方に定格よりも過剰量の液体を分散する上部液分配器12(22)とを規則充填物100(200)上に1台ずつ備える。また、上部液分配器12(22)に液体を供給する配管L12(L22)には、流量調節用のバルブV12(V22)が配置されている。
【0025】
これらの構成を備えることにより、定格液流量時にはコンデンサCからの還流液はその全量が配管L2を通って第2の下部液分配器21に供給されるが、流量が増加して第2の下部液分配器21でオーバーフローする恐れのある場合は、バルブV22を開いて第2の上部液分配器22にコンデンサCからの還流液を供給することで第2の下部液分配器21がオーバーフローすることを回避できる。
同様の構成は、第2の規則充填物200で生じた液体の偏りを再分配するための中間ディストリビュータにも適用できる。第2の規則充填物200の下部に設置されたコレクタ13により第2の規則充填物200からの下降液が採取される。前記下降液は、第1の下部液分配器11及び第1の上部液分配器12にそれぞれ配管L11及び配管L12により液体が供給される。第1の上部液分配器12につながる配管L12には流量調節用のバルブV12が配置され、コレクタ13からの流入液流量が第1の下部液分配器11からオーバーフローするおそれのある場合にバルブV12を開き、第1の上部液分配器12に液体を供給する。これにより中間ディストリビュータでも第1の下部液分配器11でのオーバーフローを回避することができる。
【0026】
また、原料液体Fを配管L1を介して第1の下部液分配器11及び第1の上部液分配器12に供給することもできる。
【0027】
なお、第1の下部液分配器11及び第2の下部液分配器21に流れる流量は、それぞれに接続される配管L11及びL21に設置された流量計(図示せず)により判断することもできるし、コンデンサCの熱交換量から還流液量を算出することによって間接的に決定することもできる。
【0028】
次に、下部液分配器および上部液分配器の構成を
図2A及び
図2Bに示す。下部液分配器11(21)及び上部液分配器12(22)それぞれに配管L11(L21)及び配管L12(L22)が設置され、液を受け入れるメインチャネル15(18)及びメインチャネル15(18)から分岐されたアームチャネル16(19)を有する。アームチャネル16(19)の底面には液を滴下する分散孔14(17)が複数個設けられる。また、メインチャネル15(18)内には液体導入時の動圧分布を均一化するための緩衝材や充填物等を導入してもよい。
【0029】
下部液分配器11(21)及び上部液分配器12(22)とも規則充填物に液体が均一に分散するように、アームチャネルの底面側に複数個の分散孔14(17)が設けられているが、上部液分配器12(22)の分散孔17は下部液分配器11(21)の分散孔14よりも孔径が大きいか、又は分散孔17の総開口面積は分散孔14の総開口面積よりも大きい。これにより液流量が下部液分配器11(21)でオーバーフローするような流量であったとしても上部液分配器12(22)でオーバーフローするおそれなく分散性能を保つことができる。
【0030】
また、上部液分配器12(22)の分散孔17は、液体が落下時に下部液分配器11(21)のアームチャネル16にかからないような位置に配置されている。
図3に規則充填物側から見上げる視点で下部液分配器11(21)及び上部液分配器12(22)を見た場合の分散孔14及び17の配置例を示す。これにより上部液分配器12(22)からの流下液が下部液分配器11(21)に衝突して滴下位置が変わる、又は下部液分配器11(21)内に入ってしまうといった事態を防ぐことができる。
【0031】
【0032】
図6は、本発明の一実施形態である蒸留装置の他の例を示す系統図である。
図6に示すように、蒸留装置2は、蒸留塔Dに替えて直列に接続された蒸留塔D1~D3を備える点で、
図1に示す蒸留装置1とは構成が異なる。なお、蒸留装置2のその他の構成は、蒸留装置1と同一であるため、同一の符号を付して説明を省略する。
【0033】
図2に示すように、蒸留塔D1の上方には、配管L2が接続されている。
蒸留塔D1の中央には、原料液体Fを蒸留塔D内に導入するための配管L1が接続されている。
【0034】
蒸留塔D1と蒸留塔D2との間には、配管L6及び配管L7が位置する。
配管L6は、基端が蒸留塔D1の塔底に接続され、先端が蒸留塔D2の塔頂寄りに接続されている。これにより、配管L6は、蒸留塔D1の塔底に貯留される液体の一部を下降液として蒸留塔D2の塔頂寄りの位置に供給できる。
配管L7は、基端が蒸留塔D2の塔頂に接続され、先端が蒸留塔D1の塔底寄りに接続されている。これにより、配管L7は、蒸留塔D2の塔頂に貯留される気体の一部を上昇ガスとして蒸留塔D1の塔底寄りの位置に供給できる。
【0035】
蒸留塔D2と蒸留塔D3との間には、配管L8及び配管L9が位置する。
配管L8は、基端が蒸留塔D2の塔底に接続され、先端が蒸留塔D3の塔頂寄りに接続されている。これにより、配管L8は、蒸留塔D2の塔底に貯留される液体の一部を下降液として蒸留塔D3の塔頂寄りの位置に供給できる。
配管L9は、基端が蒸留塔D3の塔頂に接続され、先端が蒸留塔D2の塔底寄りに接続されている。これにより、配管L9は、蒸留塔D3の塔頂に貯留される気体の一部を上昇ガスとして蒸留塔D2の塔底寄りの位置に供給できる。
【0036】
蒸留塔D3の下方には、配管L4が接続されている。
また、配管L4には、配管L5との分岐点及びリボイラRが位置している。
【0037】
[重水の濃縮方法及び濃縮された重水の製造方法]
本発明の一実施形態の重水の濃縮方法及び濃縮された重水の製造方法は、上述した蒸留装置を用いて重水を含む液体を蒸留する工程を備え、下部液分配器11(21)から重水を含む液体が溢れ出る前に上部液分配器12(22)に重水を含む液体を供給することを特徴とする。これにより、液分配器からのオーバーフローによる液偏流を発生させることなく、均一に充填物へ液を分散させることができる。そのため、蒸留性能を向上させることができる。
前記重水を含む液体としては、例えば純水が挙げられる。
【0038】
上述した実施形態の蒸留装置1、2では、原料液体として重水を含む液体、例えば純水、の蒸留により重水素を濃縮する場合を一例として説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0039】
[作用効果]
本発明の蒸留装置では、液分配器からのオーバーフローによる液偏流を発生させることなく、均一に充填物へ液を分散させることができる。そのため、表面張力の大きな液体の蒸留において、高負荷運転時に液偏流なく液を均一に分散させることにより規則充填物上の液の分散性を改善し、蒸留性能を向上させることができる。
【実施例0040】
以下では実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は後述する実施例に限定されるものではない。
【0041】
高表面張力の物質である重水(重水素濃度50%)を対象とした実施例を述べる。
本実施例では、
図1に構成を示す蒸留装置を用いた。
重水の蒸留では軽水と重水の蒸気圧比の違いにより蒸留塔の塔底側に重水素が濃縮し、塔頂側は重水素濃度が低下する。ここでは原料導入位置よりも上部側の塔を回収部、下部側の塔を濃縮部と呼称する。
【0042】
蒸留塔Dは充填長3mの回収部と濃縮部を有する塔径0.4mの蒸留塔であり、規則充填物として金属製メッシュ状の規則充填物を採用した。
金属製メッシュ状の規則充填物としては、スルザーケムテック社のLaboratory packing、BX packing、又はCY packingを用いた。
塔頂側にはコンデンサCとして多管式熱交換器を設置し、冷却源にはチラーからの冷却水を用いた。一方、塔底側には蒸留塔の上昇ガス発生のためのリボイラRとして多管式熱交換器で構成された蒸気ボイラーを用いた。本実施例では蒸留塔から独立設置されたリボイラを用いたが、塔下部に一体型となるリボイラを用いてもよい。
コンデンサCからの還流液は、配管L2を分岐した配管L21を介して塔頂に設置された第2の下部液分配器21に導入される。また、コンデンサCからの還流液は、配管L2を分岐した配管L22により、バルブV22を介して第2の上部液分配器22に導入される。第2の上部液分配器22は50mm程の空間を設けたうえで第2の下部液分配器21の上方に設置した。各液分配器の構造については後述する。
【0043】
次に、回収部の底では、第2の規則充填物200内で生じた下降液の偏流を再分配するためコレクタ13により下降液が集約され、配管L11により第1の下部液分配器11に導入される。塔頂の第2の液分配器20と同様に、配管L11から分岐する配管L12及びその途中に配置されたバルブV12を介して、下降液が第1の上部液分配器12に導入される。第1の上部液分配器12は第1の下部液分配器11から50mm程の空間を設けたうえで設置した。
【0044】
原料重水のフィード配管L1はバルブV1を介して配管L11及びL12に接続した。濃縮部より下部のリボイラ周辺は従来技術の蒸留塔設計に従い構成した。
【0045】
得られる製品重水はリボイラRに接続される塔底配管から分岐した配管L5(製品ポート)より採取され、重水濃度の低下した排水は配管L3(回収ポート)より排出される。
【0046】
次に、本実施例で使用した上部液分配器及び下部液分配器について説明する。
両液分配器ともSUS鋼製のトラフ型液分配器をベースとした形状とし、
図2A、
図2B、及び
図3に示す通りの構成である。
第1の下部液分配器11及び第2の下部液分配器21の外径サイズはW280mm×H160mm×D280mm、分散孔の孔径は1.8mm、分散孔数は20個、アームチャネル本数は10本、アームチャネル幅は20mm、アームチャネル間距離は45mmとした。
第1の上部液分配器12及び第2の上部液分配器22の外径サイズはW232mm×H180mm×D232mm、分散孔の孔径は6.0mm、分散孔数は10個、アームチャネル本数は8本、アームチャネル幅は40mm、アームチャネル間距離は24mmとした。
【0047】
このとき、下部液分配器の分散孔14は充填物上への液分散が均一になるように極力等間隔で配列するように底面側に設置した。また、上部液分配器の分散孔17は下部液分配器のアームに液がかからない位置、かつ極力等間隔で配列するように底面側に設置した。
【0048】
重水と軽水の蒸気圧比は低圧になるほど大きくなることが知られており、蒸留塔Dの運転圧力は絶対圧20kPaとした。圧力はコンデンサCの冷却水流量及び温度によって制御し一定に保った。蒸留塔Dの蒸気負荷はリボイラRでの蒸気流量及び温度によって制御され、定格運転値はFs=1.0m/s(kg/m3)0.5とした(ここでFsはFファクターを意味する)。この定格値で全還流運転を行ったとき、リボイラRで発生した上昇ガスは塔を通過後にコンデンサCで全量凝縮され還流液量は約3L/minとなった。
一方、参考例として、上部液分配器12(22)を使用せず、高負荷運転による蒸留分離起動方法に準じて、Fs=1.5相当の運転を行う場合の還流液量は約4.5L/minとなった。
【0049】
本実施例ではさらなる液流量増加による充填物表面の液分散向上を狙い還流液量を18L/minとした。
Fs=1.0の定格運転時ではバルブV12及びV22は閉とし、全て下部液分配器11(21)に液が流れるようにした。このときの下部液分配器内部での液深は計算により、100mmとなり、充填物への液の滴下は全て下部液分配器の分散孔から行われた。
【0050】
次に、還流液量を18L/minとした高負荷運転条件では下部液分配器11(21)のみに液を流そうとすると内部液深が3600mmとなり、オーバーフローしてしまう。そのためバルブV12及びV22を開とし、第1の上部液分配器12及び第2の上部液分配器22へ液体を流した。この際、第1の下部液分配器11及び第2の下部液分配器21から液体がオーバーフローしていないことを担保するため、液流量計を配管L11及び配管L21のいずれか、又は配管L12及び配管L22に設置することが望ましい。ここではクランプ型超音波流量計を配管L11及び配管L21に設置した。
【0051】
以上により下部液分配器からのオーバーフローが発生することなく上部液分配器の分散孔と下部液分配器の分散孔の両方から液が充填物へ降り注がれ、高負荷運転時も液偏流が起きずに充填物への均等な液分配を行うことが可能となった。
【0052】
本発明の構成にて高負荷運転を行った後に重水の蒸留を行った場合と、従来技術のトラフ型液分配器1台のみで高負荷運転を行った後(すなわちオーバーフローが発生した場合)の蒸留性能結果は表1の通りになった。ここで蒸留性能の指標としてHETPを用いており、これは配管L5(製品ポート)、配管L3(排出ポート)から採取した水の重水濃度から算出したものである。HETPは理論段数1段に相当する充填高さを表すもので、値が小さいほど分離性能が良いことを示す。
【0053】
【0054】
参考例の蒸留装置での高負荷運転後のHETPは180mmとなり、定格運転のみで起動した場合に比べて性能は良くなったが、本発明の実施例の蒸留装置ではさらに性能が改善しHETP100mmに到達した。