(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025930
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】レーザ溶接方法およびレーザ溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/32 20140101AFI20250214BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20250214BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20250214BHJP
B23K 26/067 20060101ALI20250214BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20250214BHJP
【FI】
B23K26/32
B23K26/00 N
B23K26/082
B23K26/067
B23K26/21 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023131188
(22)【出願日】2023-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米永 尚訓
(72)【発明者】
【氏名】西野 史香
(72)【発明者】
【氏名】田邉 猛
(72)【発明者】
【氏名】茅原 崇
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA02
4E168BA04
4E168BA12
4E168BA64
4E168BA73
4E168BA87
4E168CB04
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA12
4E168DA13
4E168DA24
4E168DA26
4E168DA28
4E168DA29
4E168DA33
4E168EA05
4E168EA06
4E168EA15
4E168KA04
(57)【要約】
【課題】例えば、溶接部中のボイドを減らすことが可能となるような、改善された新規なレーザ溶接方法およびレーザ溶接装置を提供する。
【解決手段】アルミダイキャスト品を含む加工対象としての複数の部材をレーザ溶接するレーザ溶接方法は、例えば、第一レーザ光を照射して複数の部材に渡る溶融池を形成する第一工程と、溶融池を固化して溶接部を形成する第二工程と、第二レーザ光を照射して溶接部を再度溶融する第三工程と、溶接部のうち再度溶融した部位を固化する第四工程と、を備える。第三工程では、溶接部内に残存したボイドを抜いてもよいし、加工対象の母材を溶融することなく溶接部のみを溶融してもよい。また、第二工程において、加工対象の第一工程で第一レーザ光を照射した各位置に所定時間以上第二レーザ光を照射しないことにより、溶融池を固化してもよい。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミダイキャスト品を含む加工対象としての複数の部材をレーザ溶接するレーザ溶接方法であって、
第一レーザ光を照射して前記複数の部材に渡る溶融池を形成する第一工程と、
前記溶融池を固化して溶接部を形成する第二工程と、
第二レーザ光を照射して前記溶接部を再度溶融する第三工程と、
前記溶接部のうち前記再度溶融した部位を固化する第四工程と、
を備えた、レーザ溶接方法。
【請求項2】
前記第三工程において、前記溶接部内に残存したボイドを抜く、請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項3】
前記第三工程において、前記加工対象の母材を溶融することなく前記溶接部のみを溶融する、請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項4】
前記第二工程において、前記加工対象の前記第一工程で前記第一レーザ光を照射した各位置に所定時間以上前記第二レーザ光を照射しないことにより、前記溶融池を固化する、請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項5】
前記所定時間は、1[s]以上である、請求項4に記載のレーザ溶接方法。
【請求項6】
前記第三工程において、前記第二レーザ光を、前記第一工程で前記第一レーザ光を照射した位置と同じ位置に照射するとともに、前記第二レーザ光のパワー密度を、前記第一レーザ光のパワー密度以下とする、請求項1~5のうちいずれか一つに記載のレーザ溶接方法。
【請求項7】
前記第三工程において、前記第二レーザ光を、前記第一工程で前記第一レーザ光を照射した位置と同じ位置に照射するとともに、前記第二レーザ光のパワー密度を、前記第一レーザ光のパワー密度と同じにする、請求項1~5のうちいずれか一つに記載のレーザ溶接方法。
【請求項8】
前記第一工程において、前記加工対象の表面上で前記第一レーザ光のスポットを走査し、
前記第三工程において、前記加工対象の表面上で前記第二レーザ光のスポットを走査する、請求項1~5のうちいずれか一つに記載のレーザ溶接方法。
【請求項9】
前記第一工程において、前記加工対象の表面の所定の経路上を移動するよう前記第一レーザ光のスポットを走査し、
前記第三工程において、前記表面の前記第一工程と同じ経路上を移動するよう前記第二レーザ光のスポットを走査する、請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項10】
前記第三工程において、前記第一工程において前記経路上の前記第一レーザ光のスポットが走査された各位置で、前記第一工程で前記第一レーザ光が照射されてから前記第二工程で前記溶接部が形成されるのに必要な所定時間以上経過した後に前記第二レーザ光が照射されるよう、前記第二レーザ光のスポットを走査する、請求項9に記載のレーザ溶接方法。
【請求項11】
前記第一工程における前記経路上の前記第一レーザ光のスポットの第一走査方向と、前記第三工程における前記経路上の前記第二レーザ光のスポットの第二走査方向とが、同じである、請求項9または10に記載のレーザ溶接方法。
【請求項12】
前記第一工程における前記経路上の前記第一レーザ光のスポットの第一走査方向と、前記第三工程における前記経路上の前記第二レーザ光のスポットの第二走査方向とが、互いに逆である、請求項9または10に記載のレーザ溶接方法。
【請求項13】
前記経路は、二つの端部間で延びた線分状の経路である、請求項9に記載のレーザ溶接方法。
【請求項14】
前記経路は、無端状の経路である、請求項9に記載のレーザ溶接方法。
【請求項15】
前記第一工程において、前記第一レーザ光は、複数のビームを含む、請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項16】
前記第二工程において、前記第二レーザ光は、複数のビームを含む、請求項1または15に記載のレーザ溶接方法。
【請求項17】
前記複数のビームは、ビームシェイパによって形成される、請求項16に記載のレーザ溶接方法。
【請求項18】
アルミダイキャスト品を含む加工対象としての複数の部材をレーザ溶接するレーザ溶接方法であって、
第一レーザ光を照射して前記複数の部材に渡る溶融池を形成する第一工程と、
前記溶融池を固化して溶接部を形成する第二工程と、
第二レーザ光を照射して前記溶接部を再度溶融する第三工程と、
前記溶接部のうち前記再度溶融した部位を固化する第四工程と、
を備えた、レーザ溶接方法、に用いる、レーザ溶接装置であって、
前記第一レーザ光および前記第二レーザ光を出力可能なレーザ装置と、
前記レーザ装置から出力された前記第一レーザ光または前記第二レーザ光を前記加工対象の表面に照射する光学ヘッドと、
を備え、
前記第一工程と、前記第三工程と、を行う、レーザ溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接方法およびレーザ溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶融池の冷却速度を遅くして凝固までの時間を長くすることによりボイドの残存を抑制するレーザ溶接方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、鋭意研究を重ねることにより、溶接部中に残存するボイドを減らすことが可能な特許文献1とは別の手法を見出すに至った。
【0005】
そこで、本発明の課題の一つは、例えば、溶接部中のボイドを減らすことが可能となるような、改善された新規なレーザ溶接方法およびレーザ溶接装置を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のレーザ溶接方法は、例えば、アルミダイキャスト品を含む加工対象としての複数の部材をレーザ溶接するレーザ溶接方法であって、第一レーザ光を照射して前記複数の部材に渡る溶融池を形成する第一工程と、前記溶融池を固化して溶接部を形成する第二工程と、第二レーザ光を照射して前記溶接部を再度溶融する第三工程と、前記溶接部のうち前記再度溶融した部位を固化する第四工程と、を備える。
【0007】
前記レーザ溶接方法では、前記第三工程において、前記溶接部内に残存したボイドを抜いてもよい。
【0008】
前記レーザ溶接方法では、前記第三工程において、前記加工対象の母材を溶融することなく前記溶接部のみを溶融してもよい。
【0009】
前記レーザ溶接方法では、前記第二工程において、前記加工対象の前記第一工程で前記第一レーザ光を照射した各位置に所定時間以上前記第二レーザ光を照射しないことにより、前記溶融池を固化してもよい。
【0010】
前記レーザ溶接方法では、前記所定時間は、1[s]以上であってもよい。
【0011】
前記レーザ溶接方法では、前記第三工程において、前記第二レーザ光を、前記第一工程で前記第一レーザ光を照射した位置と同じ位置に照射するとともに、前記第二レーザ光のパワー密度を、前記第一レーザ光のパワー密度以下としてもよい。
【0012】
前記レーザ溶接方法では、前記第三工程において、前記第二レーザ光を、前記第一工程で前記第一レーザ光を照射した位置と同じ位置に照射するとともに、前記第二レーザ光のパワー密度を、前記第一レーザ光のパワー密度と同じにしてもよい。
【0013】
前記レーザ溶接方法では、前記第一工程において、前記加工対象の表面上で前記第一レーザ光のスポットを走査し、前記第三工程において、前記加工対象の表面上で前記第二レーザ光のスポットを走査してもよい。
【0014】
前記レーザ溶接方法では、前記第一工程において、前記加工対象の表面の所定の経路上を移動するよう前記第一レーザ光のスポットを走査し、前記第三工程において、前記表面の前記第一工程と同じ経路上を移動するよう前記第二レーザ光のスポットを走査してもよい。
【0015】
前記レーザ溶接方法では、前記第三工程において、前記第一工程において前記経路上の前記第一レーザ光のスポットが走査された各位置で、前記第一工程で前記第一レーザ光が照射されてから前記第二工程で前記溶接部が形成されるのに必要な所定時間以上経過した後に前記第二レーザ光が照射されるよう、前記第二レーザ光のスポットを走査してもよい。
【0016】
前記レーザ溶接方法では、前記第一工程における前記経路上の前記第一レーザ光のスポットの第一走査方向と、前記第三工程における前記経路上の前記第二レーザ光のスポットの第二走査方向とが、同じであってもよい。
【0017】
前記レーザ溶接方法では、前記第一工程における前記経路上の前記第一レーザ光のスポットの第一走査方向と、前記第三工程における前記経路上の前記第二レーザ光のスポットの第二走査方向とが、互いに逆であってもよい。
【0018】
前記レーザ溶接方法では、前記経路は、二つの端部間で延びた線分状の経路であってもよい。
【0019】
前記レーザ溶接方法では、前記経路は、無端状の経路であってもよい。
【0020】
前記レーザ溶接方法では、前記第一工程において、前記第一レーザ光は、複数のビームを含んでもよい。
【0021】
前記レーザ溶接方法では、前記第二工程において、前記第二レーザ光は、複数のビームを含んでもよい。
【0022】
前記レーザ溶接方法では、前記複数のビームは、ビームシェイパによって形成されてもよい。
【0023】
本発明のレーザ溶接装置は、例えば、アルミダイキャスト品を含む加工対象としての複数の部材をレーザ溶接するレーザ溶接方法であって、第一レーザ光を照射して前記複数の部材に渡る溶融池を形成する第一工程と、前記溶融池を固化して溶接部を形成する第二工程と、第二レーザ光を照射して前記溶接部を再度溶融する第三工程と、前記溶接部のうち前記再度溶融した部位を固化する第四工程と、を備えた、レーザ溶接方法、に用いる、レーザ溶接装置であって、前記第一レーザ光および前記第二レーザ光を出力可能なレーザ装置と、前記レーザ装置から出力された前記第一レーザ光または前記第二レーザ光を前記加工対象の表面に照射する光学ヘッドと、を備え、前記第一工程と、前記第三工程と、を行う。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、改善された新規なレーザ溶接方法およびレーザ溶接装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、実施形態のレーザ溶接装置の例示的な模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態のレーザ溶接装置に含まれる回折光学素子の原理の概念を示す説明図である。
【
図3】
図3は、実施形態のレーザ溶接装置によって加工対象の表面上に形成されるレーザ光のスポットの一例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、実施形態のレーザ溶接方法による溶接の手順を示す例示的なフローチャートである。
【
図5】
図5は、実施形態のレーザ溶接方法によって加工対象に形成された溶接部の例示的かつ模式的な断面図であって、走査方向と交差した断面図である。
【
図6】
図6は、実施形態のレーザ溶接方法によって加工対象に形成された線状の溶接部の例示的かつ模式的な平面図であって、走査方向の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、実施形態のレーザ溶接方法におけるレーザ光のスポットの走査位置の経時変化の一例を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施形態のレーザ溶接方法によって加工対象に形成された溶接部の一例の走査方向に沿った断面を示す写真画像である。
【
図9】
図9は、実施形態の変形例のレーザ溶接方法によって加工対象に形成された線状の溶接部の例示的かつ模式的な平面図である。
【
図10】
図10は、実施形態の変形例のレーザ溶接方法によって加工対象に形成された無端状の溶接部の例示的かつ模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および効果は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、当該構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0027】
各図において、Z方向を矢印Zで表している。レーザ光は、加工対象Wに向けてZ方向の反対方向に略沿って照射される。また、走査方向SD,SD1,SD2を、矢印SD,SD1,SD2で示している。Z方向と走査方向SDとは、互いに交差するとともに直交している。
【0028】
また、本明細書において、序数は、工程や、レーザ光等を区別するために便宜上付与されており、優先度や順番を限定するものではない。
【0029】
[実施形態]
[レーザ溶接装置および加工対象]
図1は、レーザ溶接装置100の概略構成図である。レーザ溶接装置100は、金属部材11と金属部材12とを含む加工対象Wの表面Waにレーザ光Lを照射して、金属部材11と金属部材12とに渡る溶接部14を形成する。金属部材11および金属部材12は、いずれもアルミニウム系材料で作られており、金属部材11および金属部材12のうち少なくとも一方は、アルミダイキャスト品である。表面Waは、被照射面とも称されうる。裏面Wbは、加工対象Wにおける表面Waとは反対側の面である。
【0030】
図1の例では、二つの金属部材11,12が重ねられた加工対象Wにそれら金属部材11,12の積層方向にレーザ光Lを照射して溶接する所謂重ね合わせ溶接の場合が例示されている。この場合、溶接部14は、金属部材11を貫通し、金属部材12内に部分的に存在することにより、金属部材11と金属部材12とを接合する。なお、加工対象Wに含まれる金属部材の数は2には限定されず、3以上であってもよい。また、溶接形態は、所謂重ね合わせ溶接には限定されず、突き合わせ溶接や、隅肉溶接のような、他の溶接形態であってもよい。
【0031】
レーザ溶接装置100は、レーザ装置110と、光学ヘッド120と、光ファイバ130と、移動機構140と、を備えている。
【0032】
レーザ装置110は、レーザ発振器を有しており、例えば、数kWのパワーのレーザ光を出力できるよう構成されている。レーザ装置110は、例えば、400[nm]以上1200[nm]以下の波長のレーザ光を出力する。レーザ装置110は、内部に、例えば、ファイバレーザや、半導体レーザ(素子)、YAGレーザ、ディスクレーザのような、レーザ光源を有している。また、レーザ装置110は、複数の光源の出力の合計として、数kWのパワーのマルチモードのレーザ光を出力できるよう構成されてもよい。
【0033】
光ファイバ130は、レーザ装置110と光学ヘッド120とを光学的に接続している。光ファイバ130は、レーザ装置110から出力されたレーザ光を光学ヘッド120に導く。
【0034】
光学ヘッド120は、レーザ装置110からのレーザ光を、加工対象Wに照射する光学装置である。光学ヘッド120は、コリメートレンズ121と、集光レンズ122と、ミラー123と、回折光学素子125(diffractive optical element、以下、DOE125と記す)と、ガルバノスキャナ126と、を備えている。コリメートレンズ121、集光レンズ122、ミラー123、DOE125、およびガルバノスキャナ126は、光学部品とも称される。
【0035】
コリメートレンズ121は、光ファイバ130を介して入力されたレーザ光をコリメートする。コリメートされたレーザ光は、平行光になる。
【0036】
ミラー123は、コリメートレンズ121で平行光となったレーザ光を反射し、ガルバノスキャナ126へ向かわせる。なお、コリメートレンズ121や、ガルバノスキャナ126の配置によっては、ミラー123は不要となる。
【0037】
ガルバノスキャナ126は、複数のミラー126a,126bを有している。複数のミラー126a,126bの角度を変更することで、光学ヘッド120からのレーザ光Lの出力方向を切り替えることができる。ミラー126a,126bの角度は、それぞれ、例えば制御装置によって制御されたモータ(いずれも不図示)によって変更される。光学ヘッド120は、レーザ光Lを照射しながら、レーザ光Lの出力方向を変更することにより、加工対象Wの表面上で、レーザ光Lを相対的に走査することができる。ガルバノスキャナ126は、レーザスキャナの一例である。ガルバノスキャナ126に替えて、ガルバノスキャナ126とは異なるレーザスキャナを有してもよい。
【0038】
集光レンズ122は、ガルバノスキャナ126によって照射された平行光としてのレーザ光を集光し、レーザ光L(出力光)として、加工対象Wへ照射する。加工対象Wの表面には、集光レンズ122を経由したレーザ光Lのスポットが形成される。
【0039】
DOE125は、コリメートレンズ121と集光レンズ122との間であって、コリメートレンズ121とガルバノスキャナ126との間に、設けられている。
【0040】
図2は、DOE125の原理の概念を示す説明図である。
図2に示されるように、DOE125は、例えば、周期の異なる複数の回折格子125aが重ね合わせられた構成を備えている。DOE125は、平行光を、各回折格子125aの影響を受けた方向に曲げたり、重ね合わせたりすることにより、ビーム形状を成形することができる。DOE125は、レーザ光を複数のビームに分割し、表面におけるスポットの形状を適宜に成形することができる。DOE125は、ビームシェイパの一例である。
【0041】
図3は、加工対象Wの仮想的な表面Waにおいてレーザ溶接装置100から照射されたレーザ光LのビームのスポットSの一例を示す平面図である。
図3の例では、DOE125によるビームの成形により、表面Wa上において、一つのビームのスポットS1の周囲に、複数のビームのスポットS2が、周状にかつ略環状に配置されている。一例として、スポットS2のパワー密度は、スポットS1のパワー密度より低く設定されている。
【0042】
図1に示される移動機構140は、加工対象Wと光学ヘッド120とを相対的に移動することができる。移動機構140の作動により、加工対象Wの表面上で、レーザ光Lを相対的に走査することができる。すなわち、本実施形態では、加工対象Wの表面に対するレーザ光Lのスポットの相対的な走査は、ガルバノスキャナ126の単独の作動によって実現してもよいし、移動機構140の単独の作動によって実現してもよいし、移動機構140およびガルバノスキャナ126の双方の作動の組み合わせによって実現してもよい。
【0043】
[レーザ溶接方法]
図4は、第1実施形態のレーザ溶接装置100による加工対象Wの溶接の手順の一例を示すフローチャートである。
【0044】
図4に示されるように、まずは、加工対象Wが、レーザ溶接装置100からレーザ光Lを照射可能な位置に、セットされる(S101)。
【0045】
次に、加工対象Wの表面Waにレーザ光Lを照射することにより、加工対象Wに溶融池を形成する(S102)。次に、S102で形成された溶融池を冷却して固化することにより、第一溶接部14fを形成する(S103)。S102で形成される溶融池、すなわちS103で形成される第一溶接部14fは、複数の金属部材11,12間に渡るように形成される。よって、S102,S103により、複数の金属部材11,12が第一溶接部14fを介して接合された金属接合体10が得られる。S102は、第一工程の一例であり、S103は、第二工程の一例である。S102で照射するレーザ光は、第一レーザ光の一例であり、第一溶接部14fは、溶接部の一例である。
【0046】
複数の金属部材11,12にアルミダイキャスト品が含まれる場合、アルミダイキャスト品が含まれない場合に比べて、溶接部中にボイドが残存しやすいことが知られている。これは、アルミダイキャスト品に含まれている空洞が一因であると考えられる。溶接部中のボイドは、強度の低下や、導電率の低下の一因となるため、なるべく残存しないようにするのが好ましい。
【0047】
そこで、溶接部14中のボイドを低減するため、発明者らは、鋭意研究を重ねたところ、溶融池の溶融状態を特段長く維持することなく通常どおりに冷却して固化し、その後、溶接部を少なくとも部分的に再度溶融して再度固化することにより、ボイドを減らすことができる場合があることを見出した。
【0048】
このような知見から、本実施形態では、S103の後に、加工対象Wの表面Waのうち第一溶接部14fが形成されている部位にレーザ光Lを照射することにより、第一溶接部14fを少なくとも部分的に再度溶融する(S104)。そして、第一溶接部14fのうちS104で再度溶融した部位を冷却して固化することにより、第二溶接部14sを形成する(S105)。S104は、第三工程の一例であり、S105は、第四工程の一例である。S104で照射するレーザ光は、第二レーザ光の一例であり、第二溶接部14sは、溶接部の一例である。
【0049】
上述したように、S104によって第一溶接部14fを再度溶融して溶融池を形成することにより、当該溶融池となった部位からボイドを抜くことができることが判明した。すなわち、S104は、第一溶接部14f内に残存したボイドを抜く工程である。
【0050】
図5は、S102~S105によって加工対象W(金属接合体10)に形成された溶接部14を示す断面図であって、加工対象Wの表面Wa上でレーザ光Lを走査方向SDに走査した場合における、走査方向SDと交差した断面図である。
図5に示されるように、溶接部14は、第一溶接部14fと第二溶接部14sとを有している。第一溶接部14fおよび第二溶接部14sは、表面Waから金属部材11を貫通し、金属部材12の面12aを超えて、金属部材12内まで延びている。なお、
図5の例では、第一溶接部14fおよび第二溶接部14sは、金属部材12の内部に留まり、加工対象Wの裏面Wbには到達していない、すなわち金属部材12を貫通していない。しかしこれには限定されず、第一溶接部14fおよび第二溶接部14sの双方が金属部材12を貫通してもよいし、第一溶接部14fのみが金属部材12を貫通してもよい。
【0051】
発明者らの鋭意研究により、S104において金属部材11,12の母材が溶融すると、当該母材が溶融した部位においてボイドが発生し、第一溶接部14f中に残存してしまう場合があることが判明した。そこで、S104において、レーザ光Lは、S102での照射位置と略同じ位置に照射するとともに、S104で照射するレーザ光Lのパワー密度を、S102で照射するレーザ光Lのパワー密度以下とする。S102およびS104において表面Wa上でレーザ光LのスポットSを走査する場合には、S102およびS104において同じ経路上でレーザ光LのスポットSを走査する。これにより、S104において、金属部材11,12、すなわち加工対象Wの母材を溶融することなく、第一溶接部14fのみを溶融することができる。この場合、
図5に示されるように、第二溶接部14sは、第一溶接部14fの内側に形成されることになる。
【0052】
また、発明者らの鋭意研究により、S104において、レーザ光Lは、S102での照射位置と略同じ位置に照射するとともに、S104で照射するレーザ光Lのパワー密度を、S102で照射するレーザ光Lのパワー密度と同じにしてもよいことが、判明した。この場合、図示しないが、第二溶接部14sは、第一溶接部14fとほぼ重なった状態となる。
【0053】
図6は、S102~S105において、表面Wa上に、線状の溶接部14を形成した場合の平面図である。この例では、S102とS104とで、レーザ光LのスポットSが表面Waにおいて同じ線分状の経路Pt上で走査され、略一定幅で線分状に延びた溶接部14のビードが形成されている。上述したように、第二溶接部14sは、第一溶接部14fの内側に位置している。なお、図中、経路Ptは、スポットSの照射中心の経路を示しており、溶接部14のビードの中心線CLと略一致している。
【0054】
また、
図6の例では、S102とS104とで、経路Ptにおける走査の始点Psと終点Peとが同じであり、S102における経路Pt上での走査方向SD1と、S104における経路Pt上での走査方向SD2とが、同じである。始点Psおよび終点Peは、線分状の経路Ptの端部の一例である。走査方向SD1は、第一走査方向の一例であり、走査方向SD2は、第二走査方向の一例である。
【0055】
図7は、
図6の場合、ただし、S102とS104とをほぼ同じ条件で行い、第一溶接部14fと第二溶接部14sとがほぼ同じ大きさになる場合における、時刻tと経路Pt上のスポットSの位置(走査位置)との関係を示すグラフである。
図7に示されるように、S102では、時刻t1sから時刻t1eにかけてスポットSを始点Psから終点Peまで移動する、すなわち走査する。また、S104では、時刻t2sから時刻t2eにかけてスポットSを始点Psから終点Peまで移動する、すなわち走査する。レーザ光Lの照射は、時刻t2eにおいて停止される。
【0056】
この例では、S102およびS104における走査速度Vは、一定(等速度)であるとともに同じであり、次の式(1)
V=Lp/(T-Tm) ・・・(1)
で表すことができる。ここに、Lpは、始点Psから終点Peまでの経路Ptの長さ(
図6参照)である。時間Tは、始点Psから終点Peまでの経路Pt上の各位置Pにおいて、S102においてレーザ光LのスポットSが位置してからS104においてレーザ光LのスポットSが位置するまでの時間である。当該時間Tは、始点Psにおいては、時刻t1sから時刻t2sまでの時間であり、終点Peにおいては、時刻t1eから時刻t2eまでの時間である。また、時間Tmは、レーザ光LのスポットSがS102の終点PeからS104の始点Psまで移動するのに要する時間である。
【0057】
S102,S104におけるレーザ光Lのパワー密度は、走査速度Vでの走査によって各位置Pで、第一溶接部14fおよび第二溶接部14sの所要の大きさ(深さは幅)が得られるよう、設定される。
【0058】
各位置PにおけるS103は、S102においてレーザ光LのスポットSが位置してからS104においてレーザ光LのスポットSが再度当該位置Pに位置するまでの時間、すなわち時間Tにおいて、レーザ光Lを照射することなく放置する、すなわち自然冷却することにより、行われる。各位置PにおいてS102が行われる時間Tは、S102においてレーザ光LのスポットSが位置した時刻t1Pから、S104においてレーザ光LのスポットSが位置した時刻t2Pまでに経過した時間である。
【0059】
なお、S103において、第一溶接部14fを自然冷却ではなく何らかの冷却手段によって強制冷却する場合には、時間Tをより短く設定することができる場合がある。その場合、式(1)からわかるように、時間Tの短縮に応じて、走査速度Vをより高めることができ、ひいては、経路Ptの全区間に対するS102の所要時間、すなわち時刻t1sから時刻t1eまでの時間を、短縮することができる場合がある。ただし、走査速度Vを高めた場合、レーザ光Lのパワーの増大が必要となり、それに応じて加工対象Wにおける溶融池の形成状況等も変化するため、走査速度Vの上限値は、それらの条件が満たされる範囲で設定されることになる。
【0060】
また、各位置PにおけるS105は、S104においてレーザ光LのスポットSが位置してから、所定時間、レーザ光Lを照射することなく放置する、すなわち自然冷却することにより行われる。S102とS104とを同じ条件で行い、第一溶接部14fと第二溶接部14sとを略同じ大きさにする場合、S105の所要時間は、S102の所要時間と略同じに設定することができる、すなわち時間Tとすることができる。
【0061】
図7のグラフ中の二点鎖線Eは、経路Pt上の各位置PにおいてS105が終了した時刻t3Pを示す。各位置Pにおいて、時刻t3Pは、S104においてレーザ光LのスポットSが位置した時刻t2Pから、時間Tが経過した時刻である。始点Psにおいては、時刻t3sでS105が終了し、終点Peにおいては、時刻t3eでS105が終了する。なお、上述したように、レーザ光Lの照射は、時刻t2eにおいて停止されている。よって、時刻t2eから時刻t3sまでの時間Tmは、レーザ光LのスポットSが終点Peから始点Psへ移動する時刻t1eから時刻t2sまでの時間Tmと長さが同じではあるものの、当該時刻t2eから時刻t3sまでの時間Tmにおいて、レーザ光LのスポットSは照射されないし、終点Peから始点Psへ移動することもない。
【0062】
発明者らの鋭意研究により、金属部材11,12のうち少なくとも一方がアルミダイキャスト品である場合において、S103およびS105における時間Tは、溶融池が溶融状態でなくなり略完全に固化するのに要する時間である。このような観点から、時間Tは、1[s]以上であるのが好ましいことが判明した。時間Tは、所定時間の一例である。
【0063】
図8は、上述したS101~S105を行うことにより作られた金属接合体10の断面の写真画像である。
図8に示されるように、上述したS101~S105を行うことにより、溶接部14中からボイドを好適に除去できることが判明した。
【0064】
また、発明者らの鋭意研究により、S102およびS104において加工対象Wに照射されるレーザ光Lは、
図3のように複数のビームに分割し、スポットSに複数のスポットS1,S2を含めるのが好ましいことが判明した。これは、レーザ光Lを複数のビームに分割することにより、溶融池の場所による温度差を低減して溶融池の動きを抑制し、当該溶融池の動きによってボイドが発生するのを抑制できるからであると推定される。
【0065】
以上、説明したように、本実施形態によれば、S102(第一工程)、S103(第二工程)、S104(第三工程)、およびS105(第四工程)を行うことにより、ボイドの少ない好適な溶接部14を介して複数の金属部材11,12が接合された金属接合体10を得ることができる。
【0066】
[変形例1]
図9は、実施形態の変形例1によって形成された金属接合体10の平面図であって、S102~S105において、表面Wa上に、線状の溶接部14を形成した場合の平面図である。この例では、上記実施形態の
図6と同様に、S102とS104とで、レーザ光LのスポットSが表面Waにおいて同じ線分状の経路Pt上で走査され、略一定幅で線分状に延びた溶接部14のビードが形成されている。上述したように、第二溶接部14sは、第一溶接部14fの内側に位置している。
【0067】
ただし、変形例1では、
図9に示されるように、S102における経路Pt上での走査方向SD1と、S104における経路Pt上での走査方向SD2とが、互いに逆である。すなわち、S102の始点Ps1とS104の始点Ps2とが異なり、S102の終点Pe1とS104の終点Pe2とが異なっている。また、S102の始点Ps1とS104の終点Pe2とが同じであり、S102の終点Pe1とS104の始点Ps2とが同じである。始点Ps1,Ps2および終点Pe1,Pe2は、線分状の経路Ptの端部の一例である。
【0068】
このように走査方向SD1と走査方向SD2とが互いに逆となる場合においても、経路Pt上の各位置でS103を行う時間、すなわち冷却時間を、上記時間T以上確保できる条件であれば、ボイドの少ない溶接部14を介して金属部材11,12が接合された金属接合体10が得られる。特に、この例では、S102の終点Pe1でレーザ光Lの照射を終了した後、当該終点Pe1と同じ位置であるS104の始点Ps2でレーザ光Lの照射を開始するまでの時間、すなわち当該位置でレーザ光Lの照射を一時停止する時間を、上記時間T以上とすればよいことになる。当該一時停止する時間は、待機時間とも称されうる。
【0069】
[変形例2]
図10は、実施形態の変形例2によって形成された金属接合体10の平面図であって、S102~S105において、表面Wa上に、無端状の溶接部14を形成した場合の平面図である。金属部材11は、円板状の形状を有し、金属部材12は、円筒状の形状を有している。変形例2では、金属部材11の縁と、金属部材11の円形リング状の軸方向の端部とが、円周状の溶接部14を介して接合され、金属接合体10が得られている。
【0070】
この場合、S102およびS104において、経路Ptは無端状である。すなわち、経路Ptの始点Psおよび終点Peが同じである。よって、終点Peから始点Psへの移動に要する時間を無くすことができ、その分、S102~S105の所要時間をより短縮できる場合がある。変形例2では、走査方向SD1,SD2は、同じ方向(反時計回り方向)に設定される。なお、走査方向SD1,SD2は、双方とも時計回り方向であってもよい。
【0071】
このように無端状の経路Ptで走査される場合においても、経路Pt上の各位置でS103を行う時間、すなわち冷却時間を、上記時間T以上確保できる条件であれば、ボイドの少ない溶接部14を介して金属部材11,12が接合された金属接合体10が得られる。一例として、走査方向SD1,SD2が同じであり、かつS102,S104において走査速度Vが同じであるとともに一定である場合、S102において始点Psから終点Peまでの走査の所要時間を上記時間T以上とすればよいことになる。
【0072】
以上、本発明の実施形態が例示されたが、上記実施形態および変形例は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、型式、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。
【0073】
例えば、上記実施形態および変形例では、レーザ光のスポットの走査速度が一定である場合が例示されたが、これには限定されず、走査の途中で走査速度が変化するよう構成されてもよい。また、第一工程における経路の終点と第三工程における経路の始点とが異なる場合にあっても、当該第三工程の前に、当該第三工程の始点にレーザ光を照射できる状態で、言い換えるとレーザ装置(光源)からレーザ光が出力されれば当該始点にレーザ光が照射される状態で、レーザ光の照射を一時停止している時間(待機時間)を設けてもよい。
【0074】
また、スポットが走査される経路の形状は、直線状の線分や、円形状には限定されず、種々の形状とすることができる。
【符号の説明】
【0075】
10…金属接合体
11…金属部材
12…金属部材
12a…面
14…溶接部
14f…第一溶接部(溶接部)
14s…第二溶接部(溶接部)
100…レーザ溶接装置
110…レーザ装置
120…光学ヘッド
121…コリメートレンズ
122…集光レンズ
123…ミラー
125…回折光学素子(DOE)
125a…回折格子
126…ガルバノスキャナ
126a,126b…ミラー
130…光ファイバ
140…移動機構
E…二点鎖線
L…レーザ光
Lp…長さ
P…位置
Pe,Pe1,Pe2…終点
Ps,Ps1,Ps2…始点
Pt…経路
S…スポット
S1…スポット
S2…スポット
SD1…走査方向(第一走査方向)
SD2…走査方向(第二走査方向)
t,t1s,t1e,t2s,t2e,t3s,t3e,t1P,t2P,t3P…時刻
T…時間(所定時間)
Tm…時間
V…走査速度
W…加工対象
Wa…表面
Wb…裏面
Z…方向