(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025026175
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】光半導体素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H10H 20/811 20250101AFI20250214BHJP
H10H 20/813 20250101ALI20250214BHJP
H10H 20/824 20250101ALI20250214BHJP
H10F 30/20 20250101ALN20250214BHJP
【FI】
H01L33/04
H01L33/08
H01L33/30
H01L31/10 D
H01L31/10 A
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023131594
(22)【出願日】2023-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100202326
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 大佑
(72)【発明者】
【氏名】門脇 嘉孝
(72)【発明者】
【氏名】田中 治
【テーマコード(参考)】
5F149
5F241
【Fターム(参考)】
5F149AB07
5F149BA01
5F149BA05
5F149CB01
5F149CB04
5F149CB06
5F149DA30
5F149DA35
5F149DA41
5F149FA05
5F149FA13
5F149GA06
5F149HA09
5F149LA01
5F149XB18
5F149XB24
5F241AA21
5F241AA43
5F241CA04
5F241CA05
5F241CA12
5F241CA34
5F241CA39
5F241CA65
5F241CA66
5F241CA74
5F241CB11
5F241CB28
5F241CB33
(57)【要約】
【課題】光半導体素子の特性を改善することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る光半導体素子は、受発光波長が第1波長である第1活性層と、第1活性層上のトンネル接合層と、トンネル接合層上の、受発光波長が第2波長である第2活性層と、を有する光半導体素子であって、第1活性層及び第2活性層はSbを含み、トンネル接合層は、p型InAs層及びn型InAs層を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受発光波長が第1波長である第1活性層と、前記第1活性層上のトンネル接合層と、前記トンネル接合層上の、受発光波長が第2波長である第2活性層と、を有する光半導体素子であって、
前記第1活性層及び前記第2活性層はSbを含み、
前記トンネル接合層は、p型InAs層及びn型InAs層を有する、
光半導体素子。
【請求項2】
前記トンネル接合層は、ドーパント濃度が1.0×1018atoms/cm3以上1.0×1019atoms/cm3未満である、
請求項1に記載の光半導体素子。
【請求項3】
前記第1活性層及び前記第2活性層は、量子井戸構造を有し、
前記第1波長及び前記第2波長は、3000nm以上である、
請求項1又は2に記載の光半導体素子。
【請求項4】
前記第1波長と前記第2波長とは、互いに同一である、
請求項1又は2に記載の光半導体素子。
【請求項5】
前記トンネル接合層の前記第1活性層側に前記p型InAs層があり、
前記第1活性層と前記トンネル接合層との間にp型電子ブロック層を有し、
前記第1活性層と前記トンネル接合層との間の膜厚が100nm以下である、
請求項1又は2に記載の光半導体素子。
【請求項6】
前記トンネル接合層の前記第2活性層側に前記n型InAs層があり、
前記トンネル接合層と前記第2活性層との間にスペーサ層を有し、
前記トンネル接合層と前記第2活性層との間の膜厚が100nm以下である、
請求項1又は2に記載の光半導体素子。
【請求項7】
基板上に受発光波長が第1波長である第1活性層を形成する工程と、
前記第1活性層上にトンネル接合層を形成する工程と、
前記トンネル接合層上に受発光波長が第2波長である第2活性層を形成する工程と、
を含み、
前記第1活性層及び前記第2活性層はSbを含み、
前記トンネル接合層を形成する工程は、n型InAs層を形成する工程と、前記n型InAs層上にp型InAs層を形成する工程を含む、
光半導体素子の製造方法。
【請求項8】
前記トンネル接合層は、ドーパント濃度が1.0×1018atoms/cm3以上1.0×1019atoms/cm3未満である、請求項7に記載の光半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光半導体素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
垂直に重ね合わせた2つ以上の活性層を有し、それぞれの間にトンネル接合層を挟み込んでなる光半導体素子が知られている。そのような光半導体素子は、重ねる活性層の波長が近い場合には光出力の向上を、また、重ねる活性層の波長を離す場合には異なる波長を放射することを目的に発光素子として使用される。同様に、重ねる活性層の波長が近い場合には受光効率の向上を、また、重ねる活性層の波長を離す場合には異なる波長帯に感度を有することを目的に受光素子としても使用される。
【0003】
このような光半導体素子は、複数の活性層を垂直に重ね合わせることで、活性層同士が直列接続される。発光素子では、そこに順方向の電流が流れると複数の活性層のそれぞれで発光させることが可能となる。一般的にこの場合の活性層はpn接合である。
【0004】
トンネル接合層は高濃度のp型半導体層およびn型半導体から形成され、活性層に順方向の電圧が印加されたとき、逆電圧がかかる。通常は、p型、n型、p型(もしくはn型、p型、n型)の順で接合している場合はサイリスタとなって電流が流れないが、活性層に挟まれているトンネル接合層が高濃度でドーピングされていることから、トンネル接合層内でトンネル効果が生じ、電流が流れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-522755号
【特許文献2】特開2018―201009号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、光半導体素子を構成する結晶格子の基本構成物質として、Al、Ga、In、Pのみが好ましいと記載されているが、これらの物質のみでは3000nmを超えるような長波長の発光は望めない。また特許文献2に記載されているように、従来はトンネル接合層の形成には、n型ドーパントの濃度が1.0×1019atoms/cm3以上という高濃度であることが好ましいとされているが、垂直に重ね合わせた活性層間に高濃度のドーパントを含むn型半導体層およびp型半導体層が存在していると、活性層へドーパントが拡散し、信頼性の低下またはリーク電流の増加の原因となる可能性がある。
【0007】
本発明は、かかる実状に鑑みてなされたものであって、光半導体素子の特性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決する方途について鋭意検討し、第1活性層及び第2活性層にSbを含み、トンネル接合層がp型InAs層およびn型InAs層を有する、光半導体素子およびその製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。そして、本発明のトンネル接合層では、従来は必要と考えられていた濃度よりも低いドーパント濃度でトンネル効果を奏することが分かった。すなわち、本発明の要旨構成は以下の通りである。
【0009】
(1)受発光波長が第1波長である第1活性層と、前記第1活性層上のトンネル接合層と、前記トンネル接合層上の、受発光波長が第2波長である第2活性層と、を有する光半導体素子であって、
前記第1活性層及び前記第2活性層はSbを含み、
前記トンネル接合層は、p型InAs層及びn型InAs層を有する、
光半導体素子。
【0010】
(2)前記トンネル接合層は、ドーパント濃度が1.0×1018atoms/cm3以上1.0×1019atoms/cm3未満である、前記(1)に記載の光半導体素子。
【0011】
(3)前記第1活性層及び前記第2活性層は、量子井戸構造を有し、
前記第1波長及び前記第2波長は、3000nm以上である、前記(1)又は前記(2)に記載の光半導体素子。
【0012】
(4)前記第1波長と前記第2波長とは、互いに同一である、前記(1)~(3)のいずれかに記載の光半導体素子。
【0013】
(5)前記トンネル接合層の前記第1活性層側に前記p型InAs層があり、
前記第1活性層と前記トンネル接合層との間にp型電子ブロック層を有し、
前記第1活性層と前記トンネル接合層との間の膜厚が100nm以下である、前記(1)~(4)のいずれかに記載の光半導体素子。
【0014】
(6)前記トンネル接合層の前記第2活性層側に前記n型InAs層があり、
前記トンネル接合層と前記第2活性層との間にスペーサ層を有し、
前記トンネル接合層と前記第2活性層との間の膜厚が100nm以下である、前記(1)~(5)のいずれかに記載の光半導体素子。
【0015】
(7)基板上に受発光波長が第1波長である第1活性層を形成する工程と、
前記第1活性層上にトンネル接合層を形成する工程と、
前記トンネル接合層上に受発光波長が第2波長である第2活性層を形成する工程と、
を含み、
前記第1活性層及び前記第2活性層はSbを含み、
前記トンネル接合層を形成する工程は、n型InAs層を形成する工程と、前記n型InAs層上にp型InAs層を形成する工程を含む、
光半導体素子の製造方法。
【0016】
(8)前記トンネル接合層は、ドーパント濃度が1.0×1018atoms/cm3以上1.0×1019atoms/cm3未満である、前記(7)に記載の光半導体素子の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
特性が改善された光半導体素子およびその製造方法を提供することができる。例えば、発光素子とした場合には発光出力および順方向電圧が高く、中心波長が3000nm以上の光半導体素子およびその製造方法を提供することができる。さらに、発光素子においてリーク電流が低くなるため、受光素子とした場合には暗電流が低くシャント抵抗が大きい光半導体素子およびその製造方法を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明による光半導体素子の第1実施形態を説明する断面模式図である。
【
図2】本発明による光半導体素子の第2実施形態を説明する断面模式図である。
【
図3】本発明による光半導体素子の第2実施形態の製造方法の一例を説明する断面模式図である。
【
図4】
図3に引き続く製造方法の一例を説明する断面模式図である。
【
図5】
図4に引き続く製造方法の一例を説明する断面模式図である。
【
図6】本発明による光半導体素子の第3実施形態を説明する断面模式図である。
【
図7】二次イオン質量分析(SIMS)によって、実施例1のTeイオンの拡散状態を測定した結果を示すグラフである。
【
図8】二次イオン質量分析(SIMS)によって、実施例1のZnイオンの拡散状態を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に従う実施形態の説明に先立ち、以下の点について予め説明する。
【0020】
本実施形態におけるSbを含む活性層とは、InAsxSb1-x(0<x<1)とも表記される化合物を意味するものとする。なお、InAs層、AlInAs層またはInAsP層と表記する場合はSbは組成比に含まないことを意味するが、当該層の成長時においてSb原料ガスを使用していなければよく、チェンバー内のSbの残存または隣接するSbを含む層からの拡散による不可避的なドーパント元素としてSbが含まれることは許容される。また、本明細書において組成比を明示せずに単に「AlInAsSb」と表記する場合は、III族元素(Al、Inの合計)と、V族元素(As、Sbの合計)との化学組成比が1:1であり、かつ、III族元素であるAlおよびInの比率と、V族元素であるAsおよびSbの比率とがそれぞれ不定の、任意の化合物を意味するものとする。この場合、III族元素にAlおよびInのいずれか一方が含まれない場合を含み、また、V族元素にAsおよびSbのいずれか一方が含まれない場合を含むものとする。なお、AlInAsSbPの各III―V属元素の成分組成比は、フォトルミネッセンス測定及びX線回折測定などによって測定することができる。
【0021】
また、本明細書において、Zn、Te、Si等の特定のドーパントを意図的には添加していない場合を「アンドープ」という。アンドープの層には、製造過程における不可避的なドーパントの混入はあってよい。また、Zn、Te、Si等のドーパント濃度の値は、SIMS分析によるものとする。
【0022】
本実施形態におけるIII―V族化合物半導体は、III族元素として少なくともAl、Ga、Inのいずれかを含み、V属元素として少なくともP、As、Sbを含むものとする。
【0023】
エピタキシャル成長により形成される各層の厚さは、SEM(走査型電子顕微鏡)またはTEM(透過型電子顕微鏡)による成長層の断面観察から算出できる。膜厚が10nm以上の場合にはSEMを使用し、膜厚が10nm未満の場合にはTEMを使用することが好ましい。
【0024】
本明細書では、互いに異なる活性層に対して発光波長の中心波長同士を比較し、発光波長が互いに同一であるとして説明するが、これに限定されない。発光波長の中心波長同士は、離れていても良いし、互いに近似していてもよい。中心波長同士が離れている場合は、それぞれの中心波長に異なる役割を与えることができる。本明細書において、発光波長の中心波長同士が互いに近似するとは、発光スペクトルにおける半値全幅の範囲が重なる関係となるように中心波長同士が位置することをいい、例えばその波長差が半値全幅の値以内(例えば100nm以内)に含まれることを意味し、中心波長同士が同一または近似していると、発光スペクトルが合成されて発光強度の向上に効果的である。上記は発光素子の場合で説明したが、受光素子の場合も同様である。
【0025】
本発明による光半導体素子は、受発光波長が第1波長である第1活性層と、前記第1活性層上のトンネル接合層と、前記トンネル接合層上の、受発光素子が第2波長である第2活性層とを有し、前記第1活性層および前記第2活性層はSbを含み、前記トンネル接合層は、p型InAs層およびn型InAs層を有する。
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。また、各図において、説明の便宜上、基板及び各層の縦横の比率を実際の比率から誇張して示す。また、以下では、3元素以上で構成されるIII―V族化合物半導体に対し、各元素の組成比を省略した形(例えば「InAsSb」等)で記述する場合がある。
【0027】
(第1実施形態)
図1を参照して、本発明に従う光半導体素子の第1実施形態である光半導体素子100の一例を、製造方法を交えて説明する。光半導体素子100は、成長用基板105と、成長用基板105上に積層された複数の半導体層からなる、通電により発光する半導体積層体140とを備えている。なお、詳細は後述するが、この半導体積層体140は、pn接合からなる活性層が複数積み重なっており、これら活性層間はトンネル効果により逆方向(n型層からp型層)に電流が流れるトンネル接合層が挟まれている、所謂ダブルスタック型の発光ダイオードとして機能する。
【0028】
第1実施形態は、成長用基板105の上に積層されたn型コンタクト層141、n型窓層142、第1スペーサ層143、第1活性層144、p型中間層(第1p型電子ブロック層145および第1p型窓層146)、トンネル接合層147(p型トンネル接合層1471およびn型トンネル接合層1472)、n型中間層(第2スペーサ層148)、第2活性層149、第2p型電子ブロック層150、第2p型窓層151、およびp型コンタクト層152を順次成膜し、成長用基板をそのまま基板として用いる半導体発光素子の実施形態である。
【0029】
<基板>
光半導体素子100に適用可能な基板について説明する。本発明において使用する基板は、第1活性層144、トンネル接合層147および第2活性層149を含む半導体積層体140を機械的に形状維持できる程度の厚さを有する基板であればよく、光半導体素子100の半導体積層体140を形成する際のエピタキシャル成長に供する成長用基板105であってもよい。
【0030】
<<成長用基板>>
成長用基板105としては、GaAs、InP、InAs、GaSb、InSbなどの化合物基板を使用することができる。Sbを含む活性層を形成するにはInAs、GaSb、InSbの基板を用いることが理想であるがそれらの基板は高価であるため、費用面からはGaAs基板を用いることが好ましい。GaAs基板はSiドープされ、n型基板となっていることが好ましく、半導体積層体140はGaAs基板の(100)面上に積層されることが好ましい。また、GaAs基板の膜厚は200μm以上900μm以下であることが好ましい。
【0031】
また、GaAs基板またはInP基板を用いる場合、成長用基板105とn型コンタクト層141との間に格子不整合を緩和するためのバッファ層を設けることも好ましく、そのバッファ層は低温で成長させたInAsバッファ層を含めることができる。バッファ層は、InαGa1-αAsβSb1-β層の各組成αとβを0~1の範囲で変化させた組成傾斜または超格子構造を用いたバッファ層としても良い。
【0032】
<<n型コンタクト層>>
成長用基板105上にIII―V族化合物半導体層からなるn型コンタクト層141を設けても良い。n型コンタクト層141は高い導電性を有し、電極形成において有利である。膜厚は20nm以上500nm以下であることが好ましい。ここで使用できるドーパントとして、Si、Te、S、Ge、Sn、Se等があげられる。また、ドーパント濃度は次に説明するn型窓層142のドーパント濃度より高いことが好ましく、8.0×1018/cm3以上3.0×1019/cm3以下とすることがより好ましい。
【0033】
<<n型窓層>>
n型コンタクト層141上にIII―V族化合物半導体層からなるn型窓層142を設けても良く、膜厚は500nm以上6000nm以下であることが好ましい。ここで使用できるドーパントとして、Si、Te、S、Ge、Sn、Se等があげられる。成長用基板105と第1活性層144の格子定数が異なる場合、n型窓層142の膜厚が500nmよりも薄いと欠陥が第1活性層144に伝搬してしまう。加えて、n型窓層142の膜厚が500nmよりも薄いと十分な量のキャリアが第1活性層144に供給されずに発光出力が小さくなるため、好ましくない。一方で、n型窓層142の膜厚が6000nmよりも厚い場合においても、大幅な特性改善は見込めず、また成長時間が長時間になり原料代も増加することから、生産性に問題があるため、好ましくない。
【0034】
また、ドーパント濃度はn型コンタクト層141よりも低いことが好ましく、1.0×1018/cm3以上8.0×1018/cm3以下とすることが好ましい。
【0035】
さらに、n型窓層142の組成は第1活性層144の組成と格子整合する組成であることが好ましい。n型窓層142の組成は、後述する第1p型電子ブロック層145よりもAl組成比が小さい(すなわち、バンドギャップが小さい)AlInAsとすることが好ましく、InAsとすることがより好ましい。
【0036】
<第1スペーサ層>
n型窓層142上にアンドープのIII―V族化合物半導体層からなる第1スペーサ層143を設けても良く、膜厚は、1nm以上100nm以下とすることが好ましい。第1スペーサ層143は、第1活性層144の障壁層またはn型窓層142と組成を同じくし、かつ、n型ドーパントをドーピングしない層とすることが好ましい。この第1スペーサ層143は、n型窓層142からn型ドーパントが第1活性層144に拡散する量を低減する。
【0037】
<第1活性層>
第1スペーサ層143上にSbを含む第1活性層144を設ける。第1活性層144は発光層となるInAs
x1Sb
1-x1層(0<x1<1)を含む。
図1では、第1活性層144がInAs
y1P
1-y1層(0<y1<1)をさらに有し、InAs
x1Sb
1-x1層を第1活性層の井戸層144wとし、InAs
y1P
1-y1層を第1活性層の障壁層144bとする量子井戸構造を例示的に図示しているが、第1活性層144はInAs
x1Sb
1-x1層の単層構造でもよい。また、Sb以外の組成はInおよびAsに限らず、別のIII―V族化合物半導体を用いても良い。また、第1活性層の井戸層144wと第1活性層の障壁層144bの組成差を調整して、井戸層にひずみを加えることも好ましい。第1活性層144は、結晶欠陥抑制による光出力向上のため
図1のように多重量子井戸(MQW)構造を具えることが好ましい。この多重量子井戸構造は、上記井戸層及び障壁層を交互に繰り返した構造により形成することができる。多重量子井戸構造を用いる場合、井戸層および障壁層の組み合わせは、3組以上40組以下が好ましい。つまり、最初の障壁層を含めて3.5組以上40.5組以下が好ましい。さらに、各井戸層の膜厚は5nm以上40nm以下が好ましく、各障壁層の膜厚は10nm以上50nm以下が好ましい。また、第1活性層144はアンドープであることが好ましい。第1活性層144は、発光中心波長が3000nm以上である波長域を有する。障壁層はInAsP以外にAlInAsなどを用いることも出来る。
【0038】
<第1活性層とトンネル接合層との間のp型中間層>
第1活性層とトンネル接合層との間はp型中間層である。第1活性層144と後述のトンネル接合層147との間の膜厚は100nm以下であることが好ましい。そして、このp型中間層は、p型電子ブロック層を含むことが好ましい。
【0039】
<第1p型電子ブロック層>
第1活性層144上にIII―V族化合物半導体層からなる第1p型電子ブロック層145を設けても良く、膜厚は5nm以上60nm以下であることが好ましい。ここで使用できるドーパントとしてMg、Zn、C、Be等があげられる。また、p型ドーパント濃度は1.0×1018/cm3以上5.0×1018/cm3以下であることが好ましい。この第1p型電子ブロック層145は、第1活性層144へのキャリアの注入および閉じ込めを行う層である。また、第1p型電子ブロック層145は、後述するトンネル接合層147から第1活性層144へのp型ドーパントの拡散を低減する効果もある。
【0040】
第1p型電子ブロック層145の組成は、Alz1In1-z1As(0.05≦z1≦0.40)であることが好ましく、Alz1In1-z1As(0.10≦z1≦0.35)であることがより好ましい。Al組成z1を0.05以上とすることで第1p型電子ブロック層145による発光効率を向上させることができ、0.40以下とすることで、順方向電圧が高くなって発光効率が低下することを抑制することができるためである。また、第1p型電子ブロック層145のp型ドーパント濃度は、後述するp型トンネル接合層1471にドープされているp型ドーパント濃度より小さいことが好ましい。
【0041】
第1p型電子ブロック層145上に、さらに第1p型窓層146を有していても良い。第1p型窓層146の組成は、第1p型電子ブロック層145の組成z1よりもAl組成が小さいことが好ましく、例えばInAsである。p型ドーパント濃度は1.0×1018/cm3以上5.0×1018/cm3以下であることが好ましい。
【0042】
第1活性層144とトンネル接合層147との間のp型中間層には、上記の第1p型電子ブロック層145または第1p型窓層146以外の層が含まれていても良い。その場合でも、本発明では、トンネル接合層147におけるドーパント濃度を低く抑えることができるため、p型トンネル接合層1471からのp型ドーパントの拡散が生じてもp型中間層内のp型ドーパント濃度を例えば5.0×1018/cm3以下とすることができ、第1活性層144とトンネル接合層147との間の合計膜厚を100nm以下に抑制することが可能である。ドーパントの拡散量を抑えつつ、このように薄くすることで、素子全体の順方向電圧を低減することが期待できる。
【0043】
<トンネル接合層>
第1p型窓層146上に、InAsからなるp型トンネル接合層1471およびn型トンネル接合層1472から構成されるトンネル接合層147を設ける。トンネル接合層147の膜厚は、10nm以上200nm以下であることが好ましい。p型トンネル接合層1471に使用できるドーパントとしてはMg、Zn、C、Be等があげられ、n型トンネル接合層1472に使用できるドーパントとしてはSi、Te、S、Ge、Sn、Se等があげられる。p型トンネル接合層1471は第1活性層144に対峙し、n型トンネル接合層1472は第2活性層149に対峙する。p型トンネル接合層1471とn型トンネル接合層1472の膜厚およびドーパント濃度は同一であっても良いし、異なっていても良い。また、p型トンネル接合層1471およびn型トンネル接合層1472のドーパント濃度は層内で均一である必要はなく、濃度勾配があっても良い。
【0044】
通常、トンネル接合の形成には半導体のドープ率を極めて高くして、n型半導体層とp型半導体層の接合面に生じる空乏層が、量子トンネリングが生じるほど薄くなる必要があるため、化合物半導体においては少なくとも1.0×1019/cm3以上(好ましくは1.0×1020/cm3)のドーパント濃度が必要とされている。しかし本発明では、ドーパント濃度が1.0×1018/cm3以上1.0×1019/cm3未満でもトンネル接合を実現することができた。トンネル接合層は、ドーパント濃度が5.0×1018/cm3以上9.0×1018/cm3以下であることがより好ましい。第1活性層144および第2活性層149へのドーパントの拡散が少ない方が、信頼性等の特性向上につながるため、量子トンネリングを生じさせることが出来れば、トンネル接合層147へのドーパント濃度は少ない方が好ましい。
【0045】
<<p型トンネル接合層>>
p型トンネル接合層1471内のp型ドーパント濃度は1.0×1018atoms/cm3以上1.0×1019atoms/cm3未満であることが好ましく、9.0×1018atoms/cm3以下であることがより好ましい。膜厚は、5nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0046】
<<n型トンネル接合層>>
n型トンネル接合層1472内のn型ドーパント濃度は1.0×1018atoms/cm3以上1.0×1019atoms/cm3未満であることが好ましく、9.0×1018atoms/cm3以下であることがより好ましい。膜厚は、5nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0047】
<トンネル接合層と第2活性層との間のn型中間層>
トンネル接合層と第2活性層との間はn型中間層である。n型中間層はアンドープ層であっても良い。トンネル接合層147と後述の第2活性層149との間の膜厚は100nm以下であることが好ましい。そして、このn型中間層は、スペーサ層を含むことが好ましい。
【0048】
<第2スペーサ層>
トンネル接合層147上に第2スペーサ層148を設けても良く、膜厚は1nm以上100nm以下とすることが好ましい。第2スペーサ層148はトンネル接合層147のn型トンネル接合層1472または第2活性層149の障壁層と組成を同じにしてもよいし障壁層よりバンドギャップを大きくする組成としても良い。成長時にn型ドーパントの原料ガスを流さず意図的なドーピングをしない層(アンドープ層)とすることが好ましい。この第2スペーサ層148は、トンネル接合層147のn型トンネル接合層1472からn型ドーパントが第2活性層149に拡散するのを低減する。
【0049】
第2活性層149とトンネル接合層147との間には、上記の第2スペーサ層148以外の層が含まれていても良い。その場合でも、本発明では、トンネル接合層147におけるドーパント濃度を低く抑えることができるため、n型トンネル接合層1472からn型ドーパントの拡散が生じても、n型中間層内のn型ドーパント濃度を例えば5.0×1018/cm3以下とすることができ、第2活性層149とトンネル接合層147との間の合計膜厚を100nm以下に抑制することも可能である。ドーパントの拡散量を抑えつつ、このように薄くすることで、素子全体の順方向電圧を低減することが期待できる。
【0050】
<第2活性層>
第2スペーサ層148上にSbを含む第2活性層149を設ける。第2活性層149は第1活性層144と同じ構成をとることが好ましい。例えば
図1では、第2活性層149は発光層となる井戸層InAs
x2Sb
1-x2層(0<x2<1)および障壁層InAs
y2P
1-y2層(0<y2<1)からなる量子井戸構造を図示しているが、第2活性層の井戸層149wは第1活性層の井戸層144wと、第2活性層の障壁層149bは第1活性層の障壁層144bとそれぞれ共通の構成とすることが好ましい。また、第1活性層144および第2活性層149は同一の発光波長を有し、発光中心波長が3000nm以上である波長域を有する。
【0051】
<第2p型電子ブロック層>
第2活性層149上にIII―V族化合物半導体層からなる第2p型電子ブロック層150を設けても良く、膜厚は5nm以上60nm以下であることが好ましい。ここで使用できるドーパントとしてMg、Zn、C、Be等があげられる。また、ドーパント濃度は1.0×1018/cm3以上5.0×1018/cm3以下であることが好ましい。この第2p型電子ブロック層150は、第2活性層149へのキャリアの注入および閉じ込めを行う層である。また、第2p型電子ブロック層150は、第2p型窓層151から第2活性層149へのドーパントの拡散を低減する効果もある。
【0052】
第2p型電子ブロック層150の組成は、Alz2In1-z2As(0.05≦z2≦0.4)であることが好ましく、Alz2In1-z2As(0.10≦z2≦0.35)であることがより好ましい。Al組成z2を0.05以上とすることで、第2p型電子ブロック層150による発光効率を向上させることができ、0.40以下とすることで、順方向電圧が高くなって発光効率が低下することを抑制することができるためである。また、第2p型電子ブロック層150のp型ドーパント濃度は、p型トンネル接合層1471にドープされているp型ドーパント濃度より小さいことが好ましい。
【0053】
<第2p型窓層>
第2p型電子ブロック層150上にIII―V族化合物半導体層からなる第2p型窓層151を設けても良く、膜厚は500nm以上2000nm以下であることが好ましい。第2p型窓層151がこれより厚いと、電流がLEDチップの端まで広がり表面再結合が増加するほか、素子のオーミック抵抗が増加してしまうことで発光効率が低下するので好ましくない。一方、第2p型窓層151がこれより薄いと、電極の真下で発光し、光の取り出しを妨げるため好ましくない。ここで使用できるドーパントとしてMg、Zn、C、Be等があげられる。第2p型窓層151のドーパント濃度は1.0×1018atoms/cm3以上5.0×1018atoms/cm3以下であることが好ましい。
【0054】
<p型コンタクト層>
第2p型窓層151上にIII―V族化合物半導体層からなるp型コンタクト層152を設けても良く、膜厚は20nm以上300nm以下が好ましい。p型コンタクト層152のドーパント濃度は第2p型窓層151のドーパント濃度より高く、8.0×1018atoms/cm3以上3.0×1019atoms/cm3以下であることが好ましい。
【0055】
以下において、これまでに説明した光半導体素子100の製造方法の実施形態の一例を説明する。光半導体素子100は、成長用基板105がn型もしくはアンドープの場合、第1活性層144とInAsからなるトンネル接合層147と第2活性層149と、を順にエピタキシャル成長する工程を経て製造する。ここで、第1活性層144および第2活性層149はSbを含み、トンネル接合層147は、p型InAs層で形成されるp型トンネル接合層1471およびn型InAs層で形成されるn型トンネル接合層1472が垂直に積層されている。第1活性層144とp型トンネル接合層1471は対峙し、n型トンネル接合層1472と第2活性層149は対峙する。また、トンネル接合層147のドーパント濃度は、1.0×1018atoms/cm3以上1.0×1019atoms/cm3未満である。
【0056】
第1活性層144とトンネル接合層147との間に、合計膜厚が100nm以下の第1p型電子ブロック層145または第1p型窓層146を形成しても良く、また、トンネル接合層147と第2活性層149との間に、アンドープの、膜厚が100nm以下の第2スペーサ層148を形成しても良い。
【0057】
さらに、成長用基板105と第1活性層144との間にn型コンタクト層141、n型窓層142、第1スペーサ層143のうち一つ以上の層を形成しても良く、第2活性層上に第2p型電子ブロック層150、第2p型窓層151、p型コンタクト層152の一つ以上の層を形成しても良い。
【0058】
一方、半導体積層体140の各半導体層をエピタキシャル成長させるための成長用基板105がp型であれば、成長用基板105に、第2活性層149、トンネル接合層147および第1活性層144を順に形成する。このとき、第2活性層149とn型トンネル接合層1472とが対峙し、p型トンネル接合層1471と第1活性層144とが対峙する。
【0059】
各半導体層は、エピタキシャル成長により形成することができ、例えば、有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法または分子線エピタキシ(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法などの公知の薄膜成長方法により形成することができる。例えば、In源としてトリメチルインジウム(TMIn)、Ga源としてトリメチルガリウム(TMGa)または、トリエチルガリウム(TEGa)、Al源としてトリメチルアルミニウム(TMAl)、As源としてアルシン(AsH3)または、ターシャルブチルアルシン(TBAs)、Sb源としてトリメチルアンチモン(TMSb)、トリエチルアンチモン(TESb)、または、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)、P源としてホスフィン(PH3)または、ターシャルブチルホスフィン(TBP)を所定の混合比で用い、これらの原料ガスを、キャリアガスを用いつつ気相成長させることにより、成長時間に応じて所望の厚みで形成することができる。各層をp型またはn型にドーピングする場合は、所望に応じたドーパント源のガスをさらに用いればよい。例えばZnをドーピングする場合、DEZn(ジエチル亜鉛)ガスなどを用いればよい。なお、InAsはアンドープでもn型となる。
【0060】
図1では成長用基板105の裏面に下部電極195が設けられている。さらにp型コンタクト層152上の一部には上部電極191が設けられている。上部電極191はオーミック電極の配線部およびパッド部を含んでも良く、図示しないがパッド部はボンディング用の金属層または半田を有していても良い。上部電極191および下部電極195に用いる金属材料および形成方法は公知のものを用いることができる。金属材料としては、Ti、Pt、Au、Ag、Al、Zn、Niなどを使用できる。
【0061】
上部電極191から下部電極195に順方向電圧を印加すると、第1活性層144および第2活性層149に順方向電圧がかかり、第1活性層144および第2活性層149の両方が発光する。このとき、トンネル接合層147におけるトンネル接合(pn接合)には逆方向電圧が印加される。これによりトンネル接合層147では、トンネル効果により電流が流れる。
【0062】
(第2実施形態)
図2を参照して、本発明の第2実施形態に従う光半導体素子200を説明する。光半導体素子200は、支持基板を接合したうえで成長用基板を除去することで得られる接合型の光半導体素子である。光半導体素子100と同一の構成要素には原則として数字三桁のうち、下二桁で同一の参照番号を付して、重複する説明を省略する。この光半導体素子200は、支持基板280、ならびに支持基板280の表面に設けられた金属接合層279および金属反射層271、ならびに金属反射層271上の貫通孔を具える透明絶縁層261および当該貫通孔に設けられたオーミック電極部265を有する配電部260、ならびに配電部260上に設けられた半導体積層体240を少なくとも備える。
【0063】
図2の光半導体素子200における半導体積層体240は、支持基板280と反対側から順に、n型コンタクト層241、n型窓層242、第1スペーサ層243、第1活性層244、第1p型電子ブロック層245、第1p型窓層246、トンネル接合層247、第2スペーサ層248、第2活性層249、第2p型電子ブロック層250、第2p型窓層251、およびp型コンタクト層252を有する。
【0064】
成長用基板と異なる支持基板280としては、成長用基板より安価で熱伝導性が高いことが好ましく、例えば、Si、Ge、GaAsなどの化合物基板のほか、銅合金、モリブデン、タングステン、コバールなどの熱膨張係数を抑制可能な金属を使用した金属基板またはAlNなどのセラミック基板に金属を付けたサブマウント基板を使用することができる。加工性および価格の面からSi基板を支持基板280に用いることも好ましい。
【0065】
以下、光半導体素子200とその製造方法の実施形態の一例を、
図3~
図5を参照しつつ、より詳細に説明する。まず、成長用基板205を用意する。そして、
図3を参照し、半導体積層体240を形成する。このとき、成長用基板205上に、図示しないエッチングストップ層を形成してもよい。半導体積層体240は既述の半導体積層体140と同様である。
【0066】
<配電部の形成>
p型コンタクト層252上に、貫通孔を具える透明絶縁層261および貫通孔に設けられたオーミック電極部265を備える配電部260を形成する。配電部260を形成する具体的手法は任意であるが、配電部260を形成するための具体的な態様の一例を
図4および
図5を参照して以下に説明する。
【0067】
まず、透明絶縁層261を半導体積層体240上に成膜する。成膜法としては、プラズマCVD法またはスパッタ法などの、公知の手法が適用可能である。その後、透明絶縁層261上にフォトマスクを用いて配電部のレジストパターンを形成する。次いで、レジストパターンを利用してエッチングにより透明絶縁層261の一部を除去し、貫通孔を形成する。貫通孔が設けられることにより、半導体積層体240の最表面の一部領域は露出する。その後、オーミック電極部265を成膜し、次いでレジストパターンを利用してリフトオフすれば、配電部260を形成することができる。配電部260には、透明絶縁層261およびオーミック電極部265が並列して配設されることになる。なお、図面では簡略化のため、オーミック電極部265は貫通孔を充填するように図示しているものの、これに限定されず、透明絶縁層261とオーミック電極部265との間に間隙が生じてもよい。
【0068】
オーミック電極部265は、所定のパターンで島状に分散させて形成することができる。オーミック電極部265として、例えばAu、AuZn、AuBe、AuTiなどを用いることができ、これらの積層構造を用いることも好ましい。例えば、Ti/Auをオーミック電極部265とすることができる。オーミック電極部265の膜厚(または合計膜厚)は制限されないが、例えば300nm~1300nm、より好ましくは350nm~800nmとすることができる。
【0069】
<金属反射層の形成>
図4に示すように、配電部260上に金属反射層271を形成することも好ましい。金属反射層271は、複数の金属層を含むことができるが、金属反射層271を構成する金属には、Auの他、Al、Pt、Ti、Agなどを用いることができる。例えば、金属反射層271はAuのみからなる単一層であっても良いし、金属反射層271にAu金属層が2層以上含まれていても良い。金属反射層271は、金属反射層271の組成においてAuを50質量%以上有することが好ましい。後続の工程における金属接合層279との接合を確実に行うため、金属反射層271の最表層(半導体積層体240と反対側の面)を、Au金属層とすることが好ましい。
【0070】
例えば、配電部260(上記間隙が設けられている場合は間隙を含む)上に、Al、Au、Pt、Auの順に各金属を成膜し、金属反射層271を形成することができる。金属反射層271におけるAu1層の厚みを、例えば400nm~2000nmとすることができ、Au以外の金属からなる金属層の厚みを、例えば5nm~200nmとすることができる。蒸着法などの一般的な手段を用いることにより、金属反射層271を成膜して形成することができる。
【0071】
<支持基板との接合>
支持基板との接合について、
図4を参照して説明する。半導体積層体240および配電部260を、少なくとも金属接合層279を介して支持基板280と接合する。金属反射層271を設けることで、金属反射層271と金属接合層279とを接合してよい。金属接合層279と、金属反射層271とを対向配置して貼り合せ、250℃~500℃程度の温度で加熱圧縮接合を行うことで、両者の接合を行うことができる。
【0072】
<金属接合層>
Ti、Pt、Auなどの金属または、Auと共晶合金を形成する金属(Snなど)または半田を用いて金属接合層279を形成することができ、これらを積層して金属接合層279を形成することが好ましい。例えば、支持基板280の表面から順に、厚み400nm~800nmのTi、厚み5nm~20nmのPt、厚み700nm~1200nmのAuを積層して金属接合層279を形成することができる。例えば、金属反射層271と金属接合層279とで接合する場合に、金属接合層279の最表層をAu金属とし、金属反射層271の最表層もAuとして、Au-Au拡散によるAu同士での接合を行うことができる。
【0073】
<支持基板>
支持基板280は、成長用基板205とは異種の基板であればよく、先に述べた半導体基板、金属基板、セラミック基板がベースとなったサブマウント基板などを用いることができる。上述した接合法を用いるため、支持基板280は、本実施形態において形成する各半導体層と格子不整合してもよい。なお、支持基板280は、用途によっては絶縁性でもよいものの、導電性基板であることが好ましい。加工性および価格の面からSi基板を支持基板280に用いることが好ましい。Si基板を用いることで、支持基板280の厚みを、従来よりも大幅に小さくすることもでき、種々の半導体デバイスと組み合わせる実装にも適している。また、Si基板はInAs基板に比べて放熱性の点でも有利である。
【0074】
<成長用基板の除去>
成長用基板の除去については
図5を参照して説明する。支持基板280を接合した後、成長用基板205を除去する。成長用基板205がGaAs基板である場合、例えば、アンモニア過酸化水素混合液を用いて成長用基板205をウェットエッチングすることができる。エッチングストップ層を用いる場合は、成長用基板205の除去に引き続き、エッチングストップ層を順次除去してもよい。また、エッチングストップ層を一部残すことで、上部電極291に対するコンタクト抵抗を低減するn型コンタクト層として使用しても良い。
【0075】
さらに、参照した
図2に示すように、半導体積層体240上に上部電極291を形成し、支持基板280の裏面に裏面電極295を形成してもよい。上部電極291は、配線部およびパッド部を含んでも良い。上部電極291および裏面電極295の形成は公知手法を用いることができ、例えばスパッタ法、電子ビーム蒸着法(蒸着法とも記載する)、または抵抗加熱法などを用いることができる。電極のパターン形成には、金属マスクを用いる方法のほか、フォトリソグラフ法、リフトオフ法および金属のエッチングを組み合わせて用いる方法がある。
【0076】
以上の製造方法により、
図2に示す光半導体素子200を得ることができる。これらの実施形態は例示であり限定されるものではなく、メサエッチングにおいて素子の側面に傾斜を設けても良く、電極形状は上面二電極でもよく、フリップチップでもよく、適宜変更が可能である。
【0077】
(第3実施形態)
次に、
図6を参照して、本発明の第3実施形態に従う光半導体素子300について説明する。第3実施形態は、第1実施形態の第2p型窓層上に、さらにトンネル接合層および活性層を成膜する実施形態である。
図6の半導体発光素子は、具体的には、第2p型窓層上に、第2トンネル接合層352、第3活性層354、第3トンネル接合層357、第4活性層359を順次有する。以下、各構成の詳細を述べる。
【0078】
第2トンネル接合層352は、第1実施形態のトンネル接合層147と同様にp型InAs層3521およびn型InAs層3522とを有する。また、p型InAs層3521は第2活性層に対峙し、n型InAs層3521は第3活性層354に対峙する。ここで第2トンネル接合層352は、第1トンネル接合層と同一の組成および膜厚を有していても良いし、異なっていても良い。
【0079】
第3活性層354は、第1活性層と同様に発光層となるInAsx3Sb1-x3層(0<x3<1)を含み、第1活性層と同一の発光波長を有する。また、第3活性層354は、第1活性層と同一の組成および膜厚を有していても良いし、異なっていても良い。
【0080】
第3トンネル接合層357は、第1実施形態のトンネル接合層と同様にp型InAs層3571およびn型InAs層3572とを有する。また、p型InAs層3571は第3活性層354に対峙し、n型InAs層3572は第4活性層359に対峙する。ここで第3トンネル接合層357は、第1トンネル接合層と同一の組成および膜厚を有していても良いし、異なっていても良い。
【0081】
第4活性層359は、第1活性層と同様に発光層となるInAsx4Sb1-x4層(0<x4<1)を含み、第1活性層と同一の発光波長を有する。また、第4活性層359は、第1活性層と同一の組成および膜厚を有していても良いし、異なっていても良い。
【0082】
第4活性層359より上の層は、第1実施形態における第2活性層より上の層と同じ構成である。
【0083】
上述した第3実施形態では、第2電子ブロック層上に第2トンネル接合層352、第3活性層354、第3トンネル接合層357、第4活性層359を成膜して、計3層のトンネル接合層および計4層の活性層を形成する実施形態について述べた。本実施形態では
図6の態様に替えて、トンネル接合層を計N層(N3以上の整数である)形成し、かつ、活性層を計(N+1)層形成しても良い。例えば、トンネル接合層を計2層形成し、かつ、活性層を計3層形成しても良いし、トンネル接合層を計4層形成し、かつ、活性層を計5層形成しても良い。
図6の態様は、Nが3である場合の具体例である。この場合でも、各トンネル接合層のドーパント濃度は1×10
18atoms/cm
3以上1×10
19atoms/cm
3以下であり、各活性層の波長は中心波長が3000nm以上かつ互いに同一である。
【0084】
(第4実施形態:受光素子)
本発明の第4実施形態に従う光半導体受光素子について説明する。例えば、第1実施形態1における第1活性層および第2活性層を、InAsSb第1光吸収層およびInAsSb第2光吸収層に替えることで、本発明の光半導体素子は光半導体受光素子として利用することができる。そして、本発明に従う半導体受光素子はトンネル接合層を介して吸収層を2つ有するため、吸収層が1つだけの場合と比較して暗電流が低減し、シャント抵抗が大きく、特性のよい半導体受光素子が実現できる。
【実施例0085】
[実験例1]
(実施例1)
MOCVD法を用いて、まず、Siドープのn型GaAs成長用基板(基板厚:350μm)の(100)面上に、高ドーパント濃度(Te濃度1.0×1019/cm3)のn型InAsコンタクト層(膜厚:0.3μm)、Teドープのn型InAs窓層(膜厚:4.9μm、Te濃度3.0×1018/cm3)、アンドープのInAsスペーサ層(膜厚:75nm)の順に形成した。次に、発光中心波長が4300nmとなる量子井戸構造の第1活性層(合計膜厚:430nm)を形成した。量子井戸構造の活性層は、アンドープのInAs0.90P0.10障壁層(膜厚:30nm)とInAs0.87Sb0.13井戸層(膜後:10nm)を順に10層ずつ交互に積層した後で、InAs0.90P0.10障壁層を成長し、最後の障壁層を含めて10.5組とした。第1活性層上にZnドープのp型Al0.32In0.68As電子ブロック層(膜厚:15nm、Zn濃度2.5×1018/cm3)と、Znドープのp型InAs窓層(膜厚:50nm、Zn濃度2.5×1018/cm3)を形成し、その上に、トンネル接合層を形成した。
【0086】
トンネル接合層は、ZnドープのInAs層(膜厚:50nm、成長時のZn濃度:8×1018/cm3)の上に、TeドープのInAs層(膜厚:50nm、成長時のTe濃度:8×1018/cm3)を形成することで、それらの界面におけるトンネル効果を得ることができた。トンネル接合層の成長は圧力50Torrとし、使用する原料ガスにおけるV族元素のIII族元素に対する比(VIII比)が50となるように実施した。
【0087】
次に、トンネル接合層上に、アンドープのInAsスペーサ層(膜厚:75nm)を形成し、その上に、上記の第1活性層と同じ第2活性層(合計膜厚:430nm)を形成した。第2活性層の上に、Znドープのp型Al0.32In0.68As電子ブロック層(膜厚:15nm、Zn濃度2.5×1018/cm3)を形成した。さらに、Znドープのp型InAs窓層(膜厚:900nm、Zn濃度2.5×1018/cm3)を形成し、その上に、高ドーパント濃度(Zn濃度1.0×1019/cm3)のp型InAsコンタクト層(膜厚:100nm)を形成した。
以下の表1に、各層の組成と厚さ、およびドーパントの種類と、成長時の(設計上の)ドーパント濃度と、すべてのエピタキシャル成長が終了してMOCVD装置から取り出した後のドーパントの拡散を含むSIMS分析によるドーパント濃度について記載する。各層の形成にあたり選択した原料ガスは、In源としてトリメチルインジウム(TMIn)、Ga源としてトリメチルガリウム(TMGa)、Al源としてトリメチルアルミニウム(TMAl)、As源としてアルシン(AsH3)、Sb源としてトリエチルアンチモン(TESb)、P源としてホスフィン(PH3)とした。また、ドーパントガスとして、DEZn(ジエチル亜鉛)およびDETe(ジエチルテルル)を使用した。
【0088】
各層の組成の測定にはBRUKER社製のJV-QC3 XRD装置を使用した。各層の組成は、解析ソフト(Jordan Valley RADS)を使用してフィッティングにより算出した。各層の厚さは、SEM(走査型電子顕微鏡)またはTEM(透過型電子顕微鏡)による成長層の断面観察から算出した。
【0089】
【0090】
次に、プラズマCVD法によりp型InAsコンタクト層上の全面にSiO2からなる透明絶縁層(膜厚:550nm)を形成した。その上に配電部パターンをレジストにより形成し、レジストに覆われない領域のSiO2をエッチングで除去してZnドープのp型InAsコンタクト層を露出させた。次に、オーミック金属部としてTi(膜厚:10nm)、Au(膜厚:530nm)を蒸着法を用いて成膜し、配電部パターンのレジストをその上に成膜された金属とともに除去することで、露出したZnドープのp型InAsコンタクト層上に形成されたオーミック金属部のみを残し、オーミック金属部と透明絶縁膜とが並列して配設される配電部とした。次に、配電部状に金属反射層(Al(膜厚:10nm/Au(膜厚:650nm)/Pt(膜厚:100nm)/Au(膜厚:900nm)))を蒸着法により形成した。
【0091】
次に、支持基板(Si基板)上に金属接合層(Ti(膜厚:650nm)/Pt(膜厚:20nm)/Au(膜厚:900nm))を蒸着法により形成した。次に、金属反射層と金属結合層を対向配置して、300℃で加熱圧縮接合を行った。次に、成長用基板をアンモニアー過酸化水素水混合液を用いてウェットエッチングして除去し、n型コンタクト層を露出させた。次に、n型コンタクト層上に、Ti(膜厚:150nm)/Au(膜厚:1250nm)を蒸着法を用いて形成し、n型オーミック電極とした。次に、n型オーミック電極上にPad電極(Ti(膜厚:150nm)/Pt(膜厚:100nm)/Au(膜厚:2500nm))を蒸着法を用いて形成し、n型オーミック電極とPad電極を合わせて上部電極とした。なお、電極のパターン形成には、レジストを用いたリフトオフ法を用いた。
【0092】
次に、メサエッチングにより各素子間(幅:60μm)の半導体積層体を除去して、ダイシングラインを形成した。そして、支持基板の裏面側に裏面電極(Ti(膜厚:10nm)/Pt(膜厚:50nm)/Au(膜厚:200nm))を蒸着法により形成し、300℃で1分間熱処理することで合金化を行った。次に、8℃±1℃に保った硝酸溶液中にウエハ全体を5秒間浸し、上部電極が形成された領域以外の半導体積層体の表面の粗面化を行った。その後、アンモニア水中に1分間浸漬した後、純水で1分間洗浄を行った。最後に、ダイシングによるチップ個片化を行い、実施例1に係る光半導体素子を作製した。なお、チップサイズは500μm×500μmである。
【0093】
図7は、実施例1で作製した光半導体素子のTeイオンの拡散状態を、二次イオン質量分析(SIMS)によって測定した結果を示すグラフである。
図7において、横軸は深さ(μm)であり、左側の縦軸はn型ドーパント(ここではTe、Si、C、H、O)の濃度(atoms/cm
3)、右側の縦軸はSbの二次イオン強度(counts/sec)である。実施例1の場合、半導体積層体140にドープしたn型ドーパントであるTeの濃度の最大値は、8.0×10
18atoms/cm
3、であった。最大値となる位置はn型トンネル接合層に該当する位置であり、n型トンネル接合層からのアンドープのスペーサ層および最初の障壁層に向けてのTeの拡散が観察された。しかしながら、拡散によりスペーサ層および最初の障壁層のTe濃度が上昇しても4.0×10
18atoms/cm
3以下であり、好ましい範囲内のTe濃度に留めることが出来ていた。
【0094】
図8は、実施例1で作製した光半導体素子のZnイオンの拡散状態を、SIMSによって測定した結果を示すグラフである。
図8において、横軸は深さ(μm)であり、左側の縦軸はp型ドーパント(ここではZn)の濃度(atoms/cm
3)、右側の縦軸は二次イオン強度(counts/sec)である。実施例1の場合、半導体積層体140にドープしたp型ドーパントであるZnの濃度の最大値は、6.0×10
18atoms/cm
3であった。最大値となる位置はp型トンネル接合層に該当する位置であり、p型トンネル接合層からのp型窓層および電子ブロック層に向けてのZnの拡散が観察された。しかしながら、拡散によりp型窓層および電子ブロック層のZn濃度が上昇しても5.0×10
18atoms/cm
3以下であり、好ましい範囲内のZn濃度に留めることが出来ていた。
【0095】
(実施例2)
実施例1と同様にして、第2活性層まで各半導体層をエピタキシャル成長させた。次に、第2活性上に、第2トンネル接合層、第3活性層、第3トンネル接合層、第4活性層を順に形成した。第4活性層上には、実施例1の第2活性上と同様に、電子ブロック層、p型窓層およびp型コンタクト層を順に形成した。第3活性層および第4活性層は、第1活性層と同一の膜厚および組成を有し、第2トンネル接合層および第3トンネル接合層は、第1トンネル接合層と同一の膜厚および組成を有する。ここで、第2活性層と第2トンネル接合層の間、第3活性層と第3トンネル接合層の間には、第1活性層と第1トンネル接合層との間にある電子ブロック層と同じ膜厚および組成を有する電子ブロック層を形成した。また、第2トンネル接合層と第3活性層の間、第3トンネル接合層と第4活性層の間には、第1トンネル接合層と第2活性層との間にあるスペーサ層と同じ膜厚および組成を有するスペーサ層を形成した。以下の表2に、各層の組成と厚さ、およびドーパントの種類と成長時のドーパント濃度と、ドーパントの拡散を含むSIMS分析によるドーパント濃度について記載する。ドーパント濃度は、拡散によって実施例1と同様の拡散を起こしており、好ましい範囲内の拡散量に留めることが出来ていた。
【0096】
【0097】
(比較例1)
第2活性層の膜厚を430nmから0nm、トンネル接合層上のスペーサ層の膜厚を75nmから0nm、トンネル接合層TeドープのInAs層の膜厚を50nmから0nm、トンネル接合層のZnドープのInAs層の膜厚を50nmから0nm、トンネル接合層下の電子ブロック層の膜厚を15nmから0nmにそれぞれ変更し、第1活性層の量子井戸構造の井戸層と障壁層を20.5組(合計膜厚:860nm)とした以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る光半導体素子を得た。
【0098】
<評価:発光出力評価>
上記の実施例および比較例から得られた光半導体素子に、定電流電圧電源を用い100mAの電流を流した。このときの順方向電圧Vf(V)及び積分球による発光出力Po(W)を測定した。また、逆電圧―0.1Vを加えたときのリーク電流(A)を測定した。結果を表3に示す。
【0099】
【0100】
以上の結果より、PN接合数(活性層数)とトンネル接合数を増やすことで、発光出力および順方向電圧が増大し、さらに、リーク電流が低減することが確認できた。
【0101】
本発明によれば、InAsからなるトンネル接合層を介して、Sbを含む2つ以上の活性層からなる光半導体素子およびその製造方法を提供することができる。