(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025026200
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】非水系分散液、及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 27/18 20060101AFI20250214BHJP
C08L 1/08 20060101ALI20250214BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
C08L27/18
C08L1/08
B32B27/30 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023131639
(22)【出願日】2023-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 蔵
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AK18
4F100AK18A
4F100AT00B
4F100DE01
4F100DE01A
4F100JD15
4F100JD15A
4J002AB03X
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4J002GB00
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4J002GF00
4J002GG00
4J002GJ01
4J002GN00
4J002GQ00
4J002HA06
(57)【要約】
【課題】テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む粒子の沈降が抑制され、保存後の粘度維持率に優れる非水系分散液、及びこれを用いる積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】非水系分散液は、テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む粒子と、非水系分散媒と、ヒドロキシアルキルオキシ基を有するセルロースと、を含有し、含水率が10000質量ppm以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む粒子と、非水系分散媒と、ヒドロキシアルキルオキシ基を有するセルロースと、を含有し、含水率が10000質量ppm以下である、非水系分散液。
【請求項2】
25℃での粘度が50mPa・s以上である、請求項1に記載の非水系分散液。
【請求項3】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーは、テトラフルオロエチレンに基づく単位と、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位及びヘキサフルオロプロピレンに基づく単位の少なくとも一方と、を含む、請求項1又は2に記載の非水系分散液。
【請求項4】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーは、カルボニル基含有基を有する、請求項1又は2に記載の非水系分散液。
【請求項5】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーは、主鎖の炭素数1×106個あたり、10~5000個のカルボニル基含有基を有する、請求項4に記載の非水系分散液。
【請求項6】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む粒子の含有率は、30~70質量%である、請求項1又は2に記載の非水系分散液。
【請求項7】
前記非水系分散媒は、アミド、ケトン、及びエステルからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の非水系分散液。
【請求項8】
前記セルロースは、ヒドロキシ基の少なくとも一部がアルキル基で修飾されてなる、請求項1又は2に記載の非水系分散液。
【請求項9】
前記セルロース中、前記ヒドロキシアルキルオキシ基の部分構造であるヒドロキシアルキル部位の占める割合が、50~80質量%である、請求項1又は2に記載の非水系分散液。
【請求項10】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む粒子の含有量に対する前記セルロースの含有率が、3質量%以下である、請求項1又は2に記載の非水系分散液。
【請求項11】
前記非水系分散液の全量に対する前記セルロースの含有率は、2質量%以下である、請求項1又は2に記載の非水系分散液。
【請求項12】
含水率が1000質量ppm以下である、請求項1又は2に記載の非水系分散液。
【請求項13】
回転数が30rpmの条件で測定される粘度η1を、回転数が60rpmの条件で測定される粘度η2で除して算出されるチキソ比が、6以下である、請求項1又は2に記載の非水系分散液。
【請求項14】
界面活性剤をさらに含有する、請求項1又は2に記載の非水系分散液。
【請求項15】
基材に、請求項1又は2に記載の非水系分散液を付与し、加熱して前記非水系分散媒を除去し、さらに加熱して前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む粒子を溶融焼成する、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水系分散液、及び積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、電気特性、撥水撥油性、耐薬品性、耐熱性等の物性に優れており、様々な分野で利用されている。特に、テトラフルオロエチレン系ポリマーは、離型性、電気絶縁性、撥水撥油性、耐薬品性、耐候性、耐熱性等の物性に優れており、種々の成形物に加工されて利用されている。
例えば、特許文献1には、テルペン骨格を持つ化合物を配合したフッ素系樹脂粒子非水系分散液が提案されている。特許文献1に記載のフッ素系樹脂粒子非水系分散液は、長期保存後でも再分散性に優れ、各種熱硬化性樹脂等の樹脂材料、潤滑剤、グリース、ワニス、塗料などに添加した際にも凝集せず、良好な密着性を付与できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1における長期保存後の再分散性は、保存後、又はビン内での静置状態から急激に90度傾けた際の分散体の動きを確認するものである。
しかしながら、非水系分散液ではテトラフルオロエチレン系ポリマーを含む粒子が沈降しやすく、粒子の沈降自体を抑制することが望まれている。テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む粒子が沈降すると、保存によって粘度等の液物性が変動しやすくなり、非水系分散液から一定品質の成形物が得られにくくなる。そのため、分散体の流動性が一定範囲で確認される場合であっても、テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む粒子の沈降を抑制し、保存後の粘度の変動が少ないことが望まれている。
【0005】
かかる状況に鑑み、本開示の一実施形態は、テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む粒子の沈降が抑制され、保存後の粘度維持率に優れる非水系分散液、及びこれを用いる積層体の製造方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の態様を含む。
<1> テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む粒子と、非水系分散媒と、ヒドロキシアルキルオキシ基を有するセルロースと、を含有し、含水率が10000質量ppm以下である、非水系分散液。
<2> 25℃での粘度が50mPa・s以上である、<1>に記載の非水系分散液。
<3> 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーは、テトラフルオロエチレンに基づく単位と、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位及びヘキサフルオロプロピレンに基づく単位の少なくとも一方と、を含む、<1>又は<2>に記載の非水系分散液。
<4> 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーは、カルボニル基含有基を有する、<1>~<3>のいずれか一項に記載の非水系分散液。
<5> 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーは、主鎖の炭素数1×106個あたり、10~5000個のカルボニル基含有基を有する、<4>に記載の非水系分散液。
<6> 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む粒子の含有率は、30~70質量%である、<1>~<5>のいずれか一項に記載の非水系分散液。
<7> 前記非水系分散媒は、アミド、ケトン、及びエステルからなる群より選択される少なくとも1種を含む、<1>~<6>のいずれか一項に記載の非水系分散液。
<8> 前記セルロースは、ヒドロキシ基の少なくとも一部がアルキル基で修飾されてなる、<1>~<7>のいずれか一項に記載の非水系分散液。
<9> 前記セルロース中、前記ヒドロキシアルキルオキシ基の部分構造であるヒドロキシアルキル部位の占める割合が、50~80質量%である、<1>~<8>のいずれか一項に記載の非水系分散液。
<10> 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む粒子の含有量に対する前記セルロースの含有率が、3質量%以下である、<1>~<9>のいずれか一項に記載の非水系分散液。
<11> 前記非水系分散液の全量に対する前記セルロースの含有率は、2質量%以下である、<1>~<10>のいずれか一項に記載の非水系分散液。
<12> 含水率が1000質量ppm以下である、<1>~<11>のいずれか一項に記載の非水系分散液。
<13> 回転数が30rpmの条件で測定される粘度η1を、回転数が60rpmの条件で測定される粘度η2で除して算出されるチキソ比が、6以下である、<1>~<12>のいずれか一項に記載の非水系分散液。
<14> 界面活性剤をさらに含有する、<1>~<13>のいずれか一項に記載の非水系分散液。
<15> 基材に、<1>~<14>のいずれか一項に記載の非水系分散液を付与し、加熱して前記非水系分散媒を除去し、さらに加熱して前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む粒子を溶融焼成する、積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一実施形態によれば、テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む粒子の沈降が抑制され、保存後の粘度維持率に優れる非水系分散液、及びこれを用いる積層体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本開示の実施形態は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示の実施形態を制限するものではない。
【0009】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。非水系分散液中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、非水系分散液中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含まれていてもよい。非水系分散液中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、非水系分散液中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において「層」又は「膜」との語には、当該層又は膜が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本開示において「積層」との語は、層を積み重ねることを示し、二以上の層が結合されていてもよく、二以上の層が着脱可能であってもよい。
本開示においてポリマーにおける「単位」とは、モノマーの重合により形成された前記モノマーに基づく原子団を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。以下、モノマーaに基づく単位を、単に「モノマーa単位」とも記す。
【0010】
本開示においてテトラフルオロエチレン系ポリマーの「溶融温度」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したポリマーの融解ピークの最大値に対応する温度である。
本開示においてテトラフルオロエチレン系ポリマーの「溶融流れ速度」とは、JIS K 7210-1:2014(ISO1133-1:2011)に規定される、ポリマーのメルトマスフローレートを意味する。
本開示においてテトラフルオロエチレン系ポリマーの「ガラス転移点(Tg)」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマーを分析して測定される値である。
【0011】
本開示において粒子の平均粒子径は、体積平均粒子径(D50)を意味し、レーザー回折・散乱法によって求められる、粒子の体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって粒度分布を測定し、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。粒子のD50は、粒子を水中に分散させ、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置(例えば、ベックマンコールター社製のレーザー回折散乱法粒度分布測定装置「LS-13 320」)を用いたレーザー回折・散乱法により分析して求められる。
【0012】
本開示において「比表面積」は、ガス吸着(定容法)BET多点法で粒子を測定し算出される値であり、BET比表面積測定装置(例えば、NOVA4200e(Quantachrome Instruments社製))を使用して求められる。
【0013】
本開示において、ヒドロキシアルキルオキシ基の部分構造であるヒドロキシアルキル部位の含有率、後述の平均置換度A、平均置換度B、置換度C、及び置換度Dは、J.G.Coblerら,「ガスクロマトグラフィによるアルコキシ置換エーテルの決定(Determination of Alkoxyl Substitution Ether by Gas Chromatography)」に記載の方法によって求める。
【0014】
本開示における非水系分散液の「含水率」は、カールフィッシャー法により、JIS K 0068:2001に準拠して測定される値である。
本開示において非水系分散液の「粘度」は、B型粘度計を用いて、25℃で回転数が30rpmの条件下で非水系分散液を測定して求められる。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
本開示において非水系分散液の「チキソ比」とは、非水系分散液の、回転数が30rpmの条件で測定される粘度η1を、回転数が60rpmの条件で測定される粘度η2で除して算出される値である。それぞれの粘度の測定は、3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
【0015】
<非水系分散液>
本開示の非水系分散液は、テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む粒子と、非水系分散媒と、ヒドロキシアルキルオキシ基を有するセルロースと、を含有し、含水率が10000質量ppm以下である。
以下、テトラフルオロエチレン系ポリマーを「Fポリマー」とも記し、テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む粒子を「F粒子」とも記す。また、ヒドロキシアルキルオキシ基を有するセルロースを「修飾セルロース」とも記す。
上記の構成の非水系分散液では、F粒子の沈降が抑制され、保存後の粘度維持率に優れる。この理由は明らかではないが以下のように推察される。
【0016】
本発明者は、実験的検討から、非水系分散液においてF粒子の沈降の抑制と保存後の粘度維持率の向上には、特定の修飾セルロースの配合が有効であることを見出した。かかる修飾セルロースはセルロースのヒドロキシ基の少なくとも一部が、ヒドロキシアルキル基で修飾されている。つまり、かかる修飾セルロースは、6員環からヒドロキシ基までの長さがアルキル基により延長されつつ、その先にヒドロキシ基を有する、換言すれば、低極性部位と高極性部位がスペーサーを介して連結した構造を単位として有する化合物である。かかる修飾セルロースの極性の偏在によって溶媒及びF粒子との親和性のバランスが図られつつ、分散液の増粘効果を発現させているものと推察される。
一方、修飾セルロースは、外部環境に影響を受ける場合があり、特に水分によって加水分解し、修飾したヒドロキシアルキル基が脱離する場合があることが判明した。そこで、非水系分散液の含水率を10000質量ppm以下とすることで、修飾セルロースに対する外部環境の影響を抑え、非水系分散媒の粘度維持率の向上が図られているものと考えられる。
以下、非水系分散液に含有される各成分について説明する。
【0017】
(F粒子)
F粒子に含まれるFポリマーは、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)に基づく単位(以下、「TFE単位」とも記す。)を含むポリマーである。Fポリマー中のTFE単位の含有率は、TFE単位による特性を好適に発現する観点から、Fポリマー中の全単位に対して、50モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましい。上記含有率は、99モル%以下でもよく、98モル%以下でもよい。
【0018】
Fポリマーは熱溶融性であってもよく、非熱溶融性であってもよい。熱伝導性、接着性、加工性等の特性の特に良好な発現が望まれる場合には、Fポリマーは熱溶融性であることが好ましい。
熱溶融性のポリマーとは、荷重49Nの条件下、溶融流れ速度が1~1000g/10分となる温度が存在するポリマーを意味する。非熱溶融性のポリマーとは、荷重49Nの条件下、溶融流れ速度が1~1000g/10分となる温度が存在しないポリマーを意味する。
Fポリマーの溶融温度は、耐熱性の観点からは、200℃以上が好ましく、260℃以上がより好ましい。Fポリマーの溶融温度は、加工容易性の観点からは、325℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましい。
【0019】
Fポリマーのガラス転移点は、耐熱性の観点からは、50℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましい。Fポリマーのガラス転移点は、加工容易性の観点からは、150℃以下が好ましく、125℃以下がより好ましい。
Fポリマーのフッ素含有率は、電気特性、耐熱性等のフッ素原子による特性の好適な発現の観点からは、70質量%以上が好ましく、72~76質量%がより好ましい。
Fポリマーの表面張力は、16~26mN/mが好ましい。なお、Fポリマーの表面張力は、Fポリマーで作製された平板上に、濡れ指数試薬(富士フイルム和光純薬社製)の液滴を載置して測定できる。
【0020】
Fポリマーは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、TFE単位とエチレンに基づく単位とを含むポリマー、TFE単位とプロピレンに基づく単位とを含むポリマー、TFE単位とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)に基づく単位(PAVE単位)とを含むポリマー(PFA)、及びTFE単位とヘキサフルオロプロピレンに基づく単位とを含むポリマー(FEP)が好ましく、TFE単位とPAVE単位及びヘキサフルオロプロピレンに基づく単位の少なくとも一方とを含むポリマーがより好ましく、熱伝導性、接着性、加工性等の特性の観点からは、PFA及びFEPがさらに好ましく、PFAがより好ましい。これらのポリマーは、さらに他のコモノマーに基づく単位を含んでいてもよい。
PAVEは、CF2=CFOCF3、CF2=CFOCF2CF3及びCF2=CFOCF2CF2CF3(以下、「PPVE」とも記す。)が好ましく、PPVEがより好ましい。
【0021】
特に均一分散性の高い非水系分散液が得られ、それから得られる成形物の接着性をも向上させる観点からは、Fポリマーは、酸素含有極性基を有するのが好ましく、ヒドロキシ基含有基又はカルボニル基含有基を有するのがより好ましく、カルボニル基含有基を有することがさらに好ましい。
【0022】
ヒドロキシ基含有基は、アルコール性ヒドロキシ基を含有する基が好ましく、-CF2CH2OH及び-C(CF3)2OHがより好ましい。
カルボニル基含有基は、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH2)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)及びカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましく、酸無水物残基がより好ましい。
【0023】
Fポリマーがカルボニル基含有基を有する場合、Fポリマーにおけるカルボニル基含有基の数は、主鎖の炭素数1×106個あたり、10~5000個が好ましく、100~3000個がより好ましい。なお、Fポリマーにおけるカルボニル基含有基の数は、ポリマーの組成又は国際公開第2020/145133号に記載の方法によって定量できる。
カルボニル基含有基は、Fポリマー中のモノマーに基づく単位に含まれていてもよく、Fポリマーの主鎖の末端基に含まれていてもよく、前者が好ましい。後者の態様としては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基としてカルボニル基含有基を有するFポリマー、Fポリマーをプラズマ処理や電離線処理して得られるFポリマーなどが挙げられる。
【0024】
カルボニル基含有基を有するモノマーは、無水イタコン酸、無水シトラコン酸及び5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(以下、「NAH」とも記す。)が好ましく、NAHがより好ましい。
【0025】
Fポリマーは、TFE単位及びPAVE単位を含む、カルボニル基含有基を有するポリ
マーであるのが好ましく、TFE単位、PAVE単位及びカルボニル基含有基を有するモノマーに基づく単位を含み、全単位に対して、これらの単位をこの順に、90~99モル%、0.99~9.97モル%、0.01~3モル%含むポリマーであるのがより好ましい。かかるFポリマーの具体例としては、国際公開第2018/016644号に記載されるポリマーが挙げられる。
【0026】
F粒子は、Fポリマーを含む粒子であり、Fポリマーが主成分であるのが好ましく、Fポリマーからなるのが好ましい。Fポリマーが主成分であるとは、体積基準において他の成分のそれぞれの含有量に比べてFポリマーの含有量が相対的に多いことをいう。
【0027】
F粒子のD50は、分散安定性の観点からは、0.1μm以上が好ましく、0.3μm超がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。F粒子のD50は、分散安定性の観点からは、25μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、8μm以下がさらに好ましく、5μm以下が特に好ましい。
F粒子の比表面積は、1~25m2/gが好ましい。
【0028】
F粒子は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。F粒子を2種以上併用する場合の異なるF粒子とは、平均粒子径が異なる、Fポリマーの種類が異なる、Fポリマーの含有量が異なる、Fポリマー以外の他の成分の有無が異なる、他の成分の含有量が異なる、又はこれらの組み合わせで異なるF粒子をいう。
【0029】
非水系分散液中のF粒子の含有率は、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。また、非水系分散液中のF粒子の含有率は、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。非水系分散液中のF粒子の含有率が上記範囲であると、非水系分散液中でF粒子の沈降が抑制されやすく、保存時の粘度維持率がより優れる。
【0030】
(修飾セルロース)
修飾セルロースは、ヒドロキシアルキルオキシ基を有するセルロースである。修飾セルロースでは、セルロースが有するヒドロキシ基のうち少なくとも一部がヒドロキシアルキル基で修飾されて、ヒドロキシアルキルオキシ部位が形成されている。
ヒドロキシアルキルオキシ部位におけるアルキルオキシの個数は、1個(1単位、モノ)であっても、2個以上(2単位以上、ポリ)であってもよく、1~10個が好ましい。
ヒドロキシアルキルオキシ部位におけるアルキルの炭素数は、1~4が好ましく、2がより好ましい。なお、ポリアルキルオキシの場合、上記でいうアルキルの炭素数は、1単位での炭素数をいう。
【0031】
修飾セルロースにおいて、ヒドロキシアルキルオキシ基の部分構造であるヒドロキシアルキル部位の含有率は、50質量%以上が好ましい。また、当該ヒドロキシアルキル部位の含有率は、80質量%以下が好ましい。ヒドロキシアルキル部位の含有率がこの範囲にあると、修飾セルロースによって溶媒及びF粒子との親和性のバランスがより効果的に図られ、非水系分散液中でのF粒子の沈降がより抑制されやすく、保存時の粘度維持率により優れる。
なお、6員環に直接結合するヒドロキシアルキル基はオキシ基を有さないため、このヒドロキシアルキル基は上記の含有率には含めない。
【0032】
グルコース単位あたりのヒドロキシアルキルオキシ基への平均置換度Aは、0.05以上が好ましく、0.1以上がより好ましい。また平均置換度Aは、0.4以下が好ましく、0.3以下がより好ましい。平均置換度Aがこの範囲にあると、修飾セルロースによって溶媒及びF粒子との親和性のバランスがより効果的に図られ、非水系分散液中でのF粒子の沈降がより抑制されやすく、保存時の粘度維持率により優れる。
【0033】
修飾セルロースは、例えば、原料のセルロースに、水酸化ナトリウムを作用させてアルカリセルロースを得、次いでアルカリセルロースとアルキレンオキサイドとを置換反応させることによって得られる。この置換反応によってセルロースのグルコース環単位中のヒドロキシ基の一部又は全部が置換される。
【0034】
修飾セルロースは、ヒドロキシ基の少なくとも一部がアルキル基で修飾されていてもよい。保護されるヒドロキシ基は、ヒドロキシアルキルオキシ基に含まれるヒドロキシ基であってもよく、ヒドロキシアルキル基で保護されていないセルロースが元来有するヒドロキシ基であってもよく、その双方であってもよい。
【0035】
アルキル基での修飾率(以下、「平均置換度B」とも記す。)は、グルコース単位あたり、1.0以上が好ましく、1.3以上がより好ましい。また、アルキル基の平均置換度は、2.0以下が好ましく、1.6以下がより好ましい。平均置換度Bが上記範囲にあると、修飾セルロースによって溶媒及びF粒子との親和性のバランスがより効果的に図られ、非水系分散液中でのF粒子の沈降がより抑制されやすく、保存時の粘度維持率により優れる。
【0036】
ここで、修飾セルロースにおけるアルキル基による置換度を置換度Cとする。
置換度Cは、(I)グルコース単位あたりにヒドロキシ基がアルキル基のみで置換されている場合、(II)グルコース単位においてアルキル基で置換された部位とヒドロキシアルキルオキシ基との双方を含む場合、及び(III)グルコース単位内でヒドロキシアルキルオキシ基のヒドロキシ基がさらにアルキル基で置換された場合、におけるアルキル基の置換度の合計値である。
【0037】
また、修飾セルロースを構成するグルコース単位のうち、ヒドロキシアルキルオキシ基を有さないグルコース単位(つまり、全ヒドロキシ基がヒドロキシアルキル基で保護されていないグルコース単位)において、6位炭素上のヒドロキシ基に直接置換しているアルキル基の置換度を置換度Dとする。
置換度Dは、グルコース単位の置換可能な2位、3位及び6位の3個のヒドロキシ基のうち、少なくとも6位のアルキル基が置換されている場合の合計値である。よって、2位及び3位のヒドロキシ基は置換されていてもされていなくてもよい。
【0038】
置換度Cに対する置換度Dの比(置換度D/置換度C)は、0.30以上が好ましい。また、比(置換度D/置換度C)は、0.37以下が好ましく、0.35以下がより好ましい。比(置換度D/置換度C)が上記範囲にあると、修飾セルロースによって溶媒及びF粒子との親和性のバランスがより効果的に図られ、非水系分散液中でのF粒子の沈降がより抑制されやすく、保存時の粘度維持率により優れる。
【0039】
ヒドロキシ基の少なくとも一部がアルキル基で保護された修飾セルロースは、原料のセルロースに、水酸化ナトリウムを作用させてアルカリセルロースを得、次いでアルカリセルロースと、塩化メチル等のアルキルエーテル化剤及びアルキレンオキサイド等のヒドロキシアルキルエーテル化剤を反応させることによって得られる。
【0040】
修飾セルロースの重量平均重合度は、10以上が好ましく、80以上がより好ましく、350以上がより好ましい。また、修飾セルロースの重量平均重合度は、5000以下が好ましく、4000以下がより好ましく、2000以下がさらに好ましい。修飾セルロースの重量平均重合度が上記範囲にあると、非水系分散液中でのF粒子の沈降がより抑制されやすく、保存時の粘度維持率により優れる。
修飾セルロースの重量平均重合度は、高分子論文集、Vol.39,No.4,293-298(1982)に記載の分子量測定方法に従い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーと光散乱法の組み合わせによる方法により重量平均分子量を測定し、単位ヒドロキシプロピルメチルセルロース分子当たりの分子量で除して重量平均重合度を測定できる。
【0041】
F粒子の含有量に対する修飾セルロースの含有率は、3.0質量%以下が好ましく、2.5質量%以下がより好ましく、2.0質量%以下がさらに好ましい。修飾セルロースの上記含有率が上記範囲にあると、分散液から形成される成形品の物性が向上しやすい。
F粒子の含有量に対する修飾セルロースの含有率は、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。修飾セルロースの上記含有率が上記範囲にあると、修飾セルロースを添加した効果がより効果的に発揮される。
【0042】
非水系分散液の全量に対する修飾セルロースの含有率は、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。修飾セルロースの上記含有率が上記範囲にあると、分散液から形成される成形品の物性が向上しやすい。
非水系分散液の全量に対する修飾セルロースの含有率は、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。修飾セルロースの上記含有率が上記範囲にあると、修飾セルロースを添加した効果がより効果的に発揮される。
【0043】
(非水系分散媒)
非水系分散媒は、大気圧下、25℃にて液体である化合物であり、沸点が50~240℃である化合物が好ましい。非水系分散媒は1種類を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。2種の非水系分散媒を用いる場合、2種の非水系分散媒は、互いに相溶するのが好ましい。
非水系分散媒は、アミド、ケトン及びエステルからなる群より選択される化合物が好ましい。
アミドとしては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロパンアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、及び1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンが挙げられる。
ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn-ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2-へプタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、及びシクロヘプタノンが挙げられる。
エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン、及びγ-バレロラクトンが挙げられる。
【0044】
非水系分散媒の含有率は、塗工方法、作製する成形物の厚み等を考慮して適宜調整でき、例えば、非水系分散液の全体積に対して40体積%以上が好ましく、60体積%以上がより好ましい。非水系分散媒の含有率は、非水系分散液の全体積に対して90体積%以下が好ましく、80体積%以下がより好ましい。
非水系分散液における固形分は、非水系分散液の全体積に対して10体積%以上が好ましく、20体積%以上がより好ましい。固形分濃度は、80体積%以下が好ましい。なお、固形分とは非水系分散液から形成される成形物において固形分を形成する物質の総量を意味する。具体的には、F粒子及び修飾セルロースは固形分に含まれ、非水系分散液が他の樹脂を含む場合には、他の樹脂も固形分に含まれる。
【0045】
(他の成分)
非水系分散液は、Fポリマー以外の他のフッ素樹脂の粒子(以下、「他のF粒子」とも記す。)を併用してもよい。他のフッ素樹脂としては、Fポリマー以外の熱溶融性フッ素樹脂、及びFポリマー以外の非熱溶融性フッ素樹脂が挙げられ、成形性の観点からはFポリマー以外の熱溶融性フッ素樹脂が好ましい。Fポリマー以外の熱溶融性フッ素樹脂は、TFE単位を含まない熱溶融性フッ素樹脂である。
F粒子と他のF粒子とを併用する場合、F粒子と他のF粒子との総量に占める他のF粒子の割合は、50質量%未満が好ましく、25質量%以下がより好ましい。また、前記割合は、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましい。
【0046】
非水系分散液は、フッ素樹脂以外の他の樹脂を含有してもよい。他の樹脂は、非水系分散液に粉状の粒子として含まれていてもよく、非水系分散媒に溶解又は分散して含まれていてもよい。
他の樹脂としては、液晶性の芳香族ポリエステル等のポリエステル樹脂、イミド樹脂、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、及びポリフェニレンサルファイド樹脂が挙げられる。他の樹脂としては、芳香族ポリマーが好ましく、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミック酸、芳香族ポリアミドイミド及び芳香族ポリアミドイミドの前駆体からなる群より選択される少なくとも1種の芳香族イミドポリマーがより好ましい。芳香族ポリマーは非水系分散液中で、非水系分散媒に溶解したワニスとして含まれるのが好ましい。
芳香族イミドポリマーの具体例としては、「ユピア-AT」シリーズ(宇部興産社製)、「ネオプリム(登録商標)」シリーズ(三菱ガス化学社製)、「スピクセリア(登録商標)」シリーズ(ソマール社製)、「Q-PILON(登録商標)」シリーズ(ピーアイ技術研究所製)、「WINGO」シリーズ(ウィンゴーテクノロジー社製)、「トーマイド(登録商標)」シリーズ(T&K TOKA社製)、「KPI-MX」シリーズ(河村産業社製)、及び「HPC-1000」、「HPC-2100D」(いずれも昭和電工マテリアルズ社製)が挙げられる。
【0047】
非水系分散液が他の樹脂を含有する場合、F粒子に対する他の樹脂の含有率は、0.1体積%以上が好ましく、1体積%以上がより好ましい。上記含有率は、15体積%以下が好ましく、10体積%以下がより好ましい。
【0048】
分散安定性をさらに向上させる観点から、非水系分散液は界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としてはノニオン性界面活性剤が好ましく、ノニオン性界面活性剤の具体例としては、「フタージェント」シリーズ(ネオス社製)、「サーフロン」(登録商標)シリーズ(AGCセイミケミカル社製)、「メガファック」(登録商標)シリーズ(DIC社製)、「ユニダイン」シリーズ(ダイキン工業社製)、「BYK-347」、「BYK-349」、「BYK-378」、「BYK-3450」、「BYK-3451」、「BYK-3455」、「BYK-3456」(ビックケミー・ジャパン社製)、「KF-6011」、「KF-6043」(信越化学工業社製)、及び「Tergitol」シリーズ(ダウケミカル社製、「Tergitol TMN-100X」等。)が挙げられる。
本開示の非水系分散液が界面活性剤を含有する場合、非水系分散液中の界面活性剤の含有率は、1~15体積%が好ましい。
【0049】
水系分散液は、さらに無機フィラーを含んでもよい。この場合、水系分散液から生成する成形物が、電気特性と低線膨張性とに優れやすい。
無機フィラーは、窒化物フィラー又は無機酸化物フィラーが好ましく、窒化ホウ素フィラー、ベリリアフィラー(ベリリウムの酸化物のフィラー)、ケイ酸塩フィラー(シリカフィラー、ウォラストナイトフィラー、タルクフィラー)、又は金属酸化物(酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等)フィラーがより好ましく、シリカフィラーがさらに好ましい。
【0050】
無機フィラーは、その表面の少なくとも一部が、シランカップリング剤(3-アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等)で表面処理されているのが好ましい。
【0051】
無機フィラーのD50は、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。D50は、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましい。
無機フィラーの形状は、粒状、針状(繊維状)、板状のいずれであってもよい。無機フィラーの具体的な形状としては、球状、鱗片状、層状、葉片状、杏仁状、柱状、鶏冠状、等軸状、葉状、雲母状、ブロック状、平板状、楔状、ロゼット状、網目状、角柱状が挙げられる。
【0052】
無機フィラーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。水系分散液が無機フィラーをさらに含む場合、その量は、水系分散液全体の質量に対して、1~50質量%が好ましく、5~40質量%がより好ましい。
【0053】
無機フィラーの好適な具体例としては、シリカフィラー(アドマテックス社製の「アドマファイン(登録商標)」シリーズ等)、ジカプリン酸プロピレングリコール等のエステルで表面処理された酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製の「FINEX(登録商標)」シリーズ等)、球状溶融シリカフィラー(デンカ社製の「SFP(登録商標)」シリーズ等)、多価アルコール及び無機物で被覆処理された酸化チタンフィラー(石原産業社製の「タイペーク(登録商標)」シリーズ等)、アルキルシランで表面処理されたルチル型酸化チタンフィラー(テイカ社製の「JMT(登録商標)」シリーズ等)、中空状シリカフィラー(太平洋セメント社製の「E-SPHERES」シリーズ、日鉄鉱業社製の「シリナックス」シリーズ、エマーソン・アンド・カミング社製「エココスフイヤー」シリーズ等)、タルクフィラー(日本タルク社製の「SG」シリーズ等)、ステアタイトフィラー(日本タルク社製の「BST」シリーズ等)、窒化ホウ素フィラー(昭和電工社製の「UHP」シリーズ、デンカ社製の「デンカボロンナイトライド」シリーズ(「GP」、「HGP」グレード)等)が挙げられる。
【0054】
非水系分散液は、Fポリマーと無機フィラーとの混和性をより向上する観点から、さらにシランカップリング剤を含んでもよい。
シランカップリング剤としては、無機フィラーの表面処理に用いてもよいシランカップリング剤と同様のものが挙げられ、その好適範囲も同様である。
非水系分散液がシランカップリング剤を含む場合、非水系分散液中のシランカップリング剤の含有率(無機フィラーの表面処理に用いられるものを除く)は、非水系分散液の全体積に対して、1~10体積%が好ましい。
【0055】
非水系分散液は、さらに、チキソ性付与剤、粘度調節剤、消泡剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電材、離型剤、表面処理剤、難燃剤、導電性フィラー等の添加剤を含有してもよい。
【0056】
(含水率)
非水系分散液の含水率は、10000質量ppm以下であり、1000質量ppm以下が好ましい。また、非水系分散液の含水率は、1質量ppm以上が好ましい。
【0057】
(非水系分散液の物性)
非水系分散液の25℃における粘度は、50mPa・s以上が好ましく、100mPa・s以上がより好ましく、500mPa・s以上がさらに好ましい。粘度が上記範囲にあると、非水系分散液が適切に増粘されており、F粒子の沈降がより抑制されやすい。また、非水系分散液の25℃における粘度は、10000mPa・s以下が好ましく、3000mPa・s以下がより好ましい。
【0058】
非水系分散液を25℃、1ヶ月容器内で保管したとき、下記式で表される保管前後での粘度の変化率(以下、「粘度維持率」ともいう。)は、75%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がさらに好ましく、90%以上が特に好ましい。
粘度維持率=保管後の粘度(mPa・s)/保管前の粘度(mPa・s)×100
【0059】
非水系分散液のチキソ比は、6以下が好ましく、5以下がより好ましく、4以下がさらに好ましい。また、非水系分散液のチキソ比は、1以上が好ましく、2以上がより好ましい。非水系分散液のチキソ比が上記範囲にあると、F粒子の沈降がより抑制され、保存後の粘度維持率により優れる。
【0060】
<非水系分散液の製造方法>
本開示の非水系分散液は、F粒子及び修飾セルロース、並びに必要に応じて他の樹脂、非水系分散媒、界面活性剤、シランカップリング剤等の添加剤を混合することで得られる。混合の順は特に制限はなく、また混合の方法は一括混合でも複数回に分割して混合してもよい。
【0061】
本開示の非水系分散液を得るための混合の装置としては、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー及びプラネタリーミキサー等のブレードを備えた撹拌装置;ボールミル、アトライター、バスケットミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、スパイクミル及びアジテーターミル等のメディアを備えた粉砕装置;並びにマイクロフルイダイザー、ナノマイザー、アルティマイザー、超音波ホモジナイザー、デゾルバー、ディスパー、高速インペラー、薄膜旋回型高速ミキサー、自転公転撹拌機及びV型ミキサー等の他の機構を備えた分散装置が挙げられる。
【0062】
<非水系分散液の用途>
本開示の非水系分散液の用途は特に制限されず、例えば成形物の製造に使用できる。特に本開示の非水系分散液は、当該非水系分散液に含まれるFポリマーの特性を好適に発現することが望ましい用途に好適である。
【0063】
非水系分散液は、絶縁性、耐熱性、対腐食性、耐薬品性、耐水性、耐衝撃性、熱伝導性等を付与するための材料として有用である。
非水系分散液は、具体的には、プリント配線板、熱インターフェース材、パワーモジュール用基板、モーター等の動力装置で使用されるコイル、車載エンジン、熱交換器、バイアル瓶、注射筒(シリンジ)、アンプル、医療用ワイヤー、リチウムイオン電池等の二次電池、リチウム電池等の一次電池、ラジカル電池、太陽電池、燃料電池、リチウムイオンキャパシタ、ハイブリッドキャパシタ、キャパシタ、コンデンサ(アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ等)、エレクトロクロミック素子、電気化学スイッチング素子、電極のバインダー、電極のセパレーター、電極(正極、負極)などに使用できる。
また、非水系分散液は部品を接着する接着剤としても有用である。具体的には、非水系分散液は、セラミックス部品の接着、金属部品の接着、半導体素子やモジュール部品の基板におけるICチップや抵抗、コンデンサ等の電子部品の接着、回路基板と放熱板の接着、LEDチップの基板への接着などに使用できる。
【0064】
<積層体の製造方法>
本開示の積層体の製造方法は、基材に、本開示の非水系分散液を付与し、加熱して前記非水系分散媒を除去し、さらに加熱してF粒子を溶融焼成する。
【0065】
基材としては、金属基板(銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、それらの合金等の金属箔等)、耐熱性樹脂フィルム(ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、テトラフルオロエチレン系ポリマー等の耐熱性樹脂フィルム)、プリプレグ基板(繊維強化樹脂基板の前駆体)、セラミックス基板(炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等のセラミックス基板)及びガラス基板が挙げられる。
【0066】
基材の形状としては、平面状、曲面状及び凹凸状が挙げられる。また、基材の形状は、箔状、板状、膜状及び繊維状(織布、不織布等)のいずれであってもよい。
基材の表面の十点平均粗さは、0.01~0.05μmが好ましい。
基材の表面は、シランカップリング剤により表面処理されていてもよく、プラズマ処理されていてもよい。かかるシランカップリング剤としては、無機フィラーの表面処理に用いてもよいシランカップリング剤と同様のものが挙げられる。
フッ素樹脂層と基材との剥離強度は、10N/cm以上が好ましく、15N/cm以上がより好ましい。上記剥離強度は、100N/cm以下が好ましい。
【0067】
非水系分散液の付与の方法としては、塗布法、液滴吐出法及び浸漬法が挙げられ、ロールコート法、ナイフコート法、バーコート法、ダイコート法又はスプレー法が好ましい。
非水系分散媒の除去に際する加熱は、100~200℃にて、0.1~30分間で行うのが好ましい。この際の加熱において非水系分散媒は、完全に除去する必要はなく、F粒子及び複合粒子のパッキングにより形成される層が自立膜を維持できる程度まで除去すればよい。また、加熱に際しては、空気を吹き付け、風乾によって非水系分散媒の除去を促してもよい。
Fポリマーの焼成に際する加熱は、Fポリマーの焼成温度以上の温度にて行うのが好ましく、360~400℃にて、0.1~30分間行うのがより好ましい。
それぞれの加熱における加熱装置としては、オーブン、通風乾燥炉が挙げられる。装置における熱源は、接触式の熱源(熱風、熱板等)であってもよく、非接触式の熱源(赤外線等)であってもよい。
また、それぞれの加熱は、常圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。
また、それぞれの加熱における雰囲気は、空気雰囲気、不活性ガス(ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、窒素ガス等)雰囲気のいずれであってもよい。
【0068】
フッ素樹脂層は、非水系分散液の付与及び加熱の工程を経て形成される。これらの工程は1回ずつ行ってもよく、2回以上繰り返してもよい。例えば、基材の表面に非水系分散液を付与し加熱してフッ素樹脂層を形成し、さらにフッ素樹脂層の表面に非水系分散液を付与し加熱して2層目のフッ素樹脂層を形成してもよい。また、基材の表面に非水系分散液を付与し加熱して非水系分散媒を除去した段階で、さらにその表面に非水系分散液を付与し加熱してフッ素樹脂層を形成してもよい。
非水系分散液は、基材の一方の表面にのみ付与してもよく、基材の両面に付与してもよい。前者の場合、基材層と、かかる基材層の片方の表面にフッ素樹脂層を有する積層体が得られ、後者の場合、基材層と、かかる基材層の両方の表面にフッ素樹脂層を有する積層体が得られる。
【0069】
フッ素樹脂層の厚さは、用途に応じて適宜選択でき、例えば、25μm以上であってもよく、30μm以上であってもよく、40μm以上であってもよい。また、フッ素樹脂層の厚さは200μm以下であってもよい。
【0070】
積層体の好適な具体例としては、金属箔と、その金属箔の少なくとも一方の表面にフッ素樹脂層を有する金属張積層体、ポリイミドフィルムと、そのポリイミドフィルムの両方の表面にフッ素樹脂層を有する多層フィルムが挙げられる。
【0071】
非水系分散液から形成される積層体は、アンテナ部品、プリント基板、航空機用部品、自動車用部品、スポーツ用具、食品工業用品、放熱部品等として有用である。
具体的には、電線被覆材(航空機用電線等)、電気自動車等のモーター等に使用されるエナメル線被覆材、電気絶縁性テープ、石油掘削用絶縁テープ、石油輸送ホース、水素タンク、プリント基板用材料、分離膜(精密濾過膜、限外濾過膜、逆浸透膜、イオン交換膜、透析膜、気体分離膜等)、電極バインダー(リチウム二次電池用、燃料電池用等)、コピーロール、家具、自動車ダッシュボート、家電製品等のカバー、摺動部材(荷重軸受、ヨー軸受、すべり軸、バルブ、ベアリング、ブッシュ、シール、スラストワッシャ、ウェアリング、ピストン、スライドスイッチ、歯車、カム、ベルトコンベア、食品搬送用ベルト等)、テンションロープ、ウェアパッド、ウェアストリップ、チューブランプ、試験ソケット、ウェハーガイド、遠心ポンプの摩耗部品、薬品及び水供給ポンプ、工具(シャベル、やすり、きり、のこぎり等)、ボイラー、ホッパー、パイプ、オーブン、焼き型、シュート、ラケットのガット、ダイス、便器、コンテナ被覆材、パワーデバイス用実装放熱基板、無線通信デバイスの放熱部材、トランジスタ、サイリスタ、整流器、トランス、パワーMOS FET、CPU、放熱フィン、金属放熱板、風車や風力発電設備や航空機等のブレード、パソコンやディスプレイの筐体、電子デバイス材料、自動車の内外装、低酸素下で加熱処理する加工機や真空オーブン、プラズマ処理装置などのシール材、スパッタや各種ドライエッチング装置等の処理ユニット内の放熱部品、電磁波シールドなどとして有用である。
【0072】
本開示の非水系分散液から形成される積層体は、フレキシブルプリント配線基板、リジッドプリント配線基板等の電子基板材料、保護フィルムや放熱基板、特に自動車向けの放熱基板として有用である。
【実施例0073】
次に本開示の実施形態を実施例により具体的に説明するが、本開示の実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0074】
[例1]
(F粒子の準備)
F粒子として、TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に97.9モル%、0.1モル%、2.0モル%含み、カルボニル基含有基を主鎖炭素数1×106個あたり1000個有するテトラフルオロエチレン系ポリマー(溶融温度:300℃)の粒子(D50:2.1μm)を準備した。
【0075】
(修飾セルロース1の準備)
アルカリセルロースを塩化メチルで処理し、プロピレンオキシドを付加することで、ヒドロキシプロピルオキシ基を有し、ヒドロキシ基の少なくとも一部がメチルで修飾された修飾セルロース1を得た。
【0076】
(非水分散液の調製)
F粒子と上記で得た修飾セルロース1とN-メチル-2-ピロリドンとを混合し、せん断撹拌処理して、分散液1を調製した。分散液1は、F粒子を40質量%、修飾セルロース1を1質量%含む。分散液1の粘度は1000mPa・s、チキソ比は3.0であった。
【0077】
[例2]
修飾セルロース1の代わりに、ヒドロキシプロピルセルロース(セルニーM、日本曹達社製、ヒドロキシプロピルオキシ基を有する)を用いた以外は例1と同様にして、分散液2を調製した。
【0078】
[例3]
修飾セルロース1の代わりに、メトキシエチルセルロースを用いた以外は例1と同様にして、分散液3を調製した。
【0079】
[例4]
含水率が表1の量となるように水を添加した以外は例1と同様にして、分散液4を調製した。
【0080】
<評価>
それぞれの分散液について下記の評価を行い、その結果を以下の表1にまとめて示す。
(沈降性)
得られた分散液を容器内で25℃、1ヶ月保管し、沈降性を確認した。評価基準は以下の通りである。
A:沈降していない、又は、ハンドシェイクで撹拌すると再分散が可能
B:ビーズミルで撹拌すると再分散が可能
C:ビーズミルで撹拌しても再分散不可
【0081】
(粘度)
容器内で25℃、1ヶ月保管した前後での粘度を測定した。
【0082】