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特開2025-26476カラーフィルタ用インク組成物、光変換層及びカラーフィルタ
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  • 特開-カラーフィルタ用インク組成物、光変換層及びカラーフィルタ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025026476
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】カラーフィルタ用インク組成物、光変換層及びカラーフィルタ
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20250214BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20250214BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20250214BHJP
   C09K 11/62 20060101ALI20250214BHJP
   C09K 11/02 20060101ALI20250214BHJP
   C09D 11/32 20140101ALI20250214BHJP
【FI】
G02B5/20
G02B5/20 101
G02B5/22
G09F9/30 338
G09F9/30 349B
C09K11/62 ZNM
C09K11/02 Z
C09D11/32
C09K11/62
G02B5/20 ZNM
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024205362
(22)【出願日】2024-11-26
(62)【分割の表示】P 2019226387の分割
【原出願日】2019-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100146570
【弁理士】
【氏名又は名称】佐武 紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(72)【発明者】
【氏名】三木 崇之
(72)【発明者】
【氏名】利光 麻里子
(72)【発明者】
【氏名】清都 育郎
(57)【要約】
【課題】発光性ナノ結晶粒子を含むインク組成物において、青色の漏れ光を低減できるインク組成物を提供する。
【解決手段】
発光性ナノ結晶粒子と、光重合性化合物及び/又は熱硬化性樹脂と、光散乱性粒子と、を含有するインク組成物であって、
前記発光性ナノ結晶粒子の少なくとも一部が、420~480nmの範囲の波長の光を吸収し、500~560nmの範囲に発光ピークを有し、構成元素としてAg、In、GおよびSを有する発光性ナノ結晶粒子であるインク組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光性ナノ結晶粒子と、光重合性化合物及び/又は熱硬化性樹脂と、光散乱性粒子と、を含有するインク組成物であって、
前記発光性ナノ結晶粒子の少なくとも一部が、420~480nmの範囲の波長の光を吸収し、500~560nmの範囲に発光ピークを有し、構成元素としてAg、In、GaおよびSを有する発光性ナノ結晶粒子であるインク組成物。
【請求項2】
25℃での粘度が30mPa・s以下である、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
厚さ15umの光変換層を作製した際、青色光の漏れ率が10%以下である請求項1又は2に記載のインク組成物。
【請求項4】
複数の画素部と、該複数の画素部間に設けられた遮光部と、を備え、
前記複数の画素部は、請求項1~3のいずれか一項に記載のインク組成物の硬化物を含む発光性画素部を有する、光変換層。
【請求項5】
請求項4に記載の光変換層を備える、カラーフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーフィルタ用組成物、光変換層及びカラーフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置等のディスプレイにおける画素部(カラーフィルタ画素部)は、例えば、赤色有機顔料粒子又は緑色有機顔料粒子と、アルカリ可溶性樹脂及び/又はアクリル系単量体とを含有する硬化性レジスト材料を用いて、フォトリソグラフィ法により製造されてきた。
【0003】
近年、ディスプレイの低消費電力化が強く求められるようになり、上記赤色有機顔料粒子又は緑色有機顔料粒子に代えて、例えば量子ドット、量子ロッド、その他の無機蛍光体粒子等の発光性ナノ結晶粒子を用いて、赤色画素、緑色画素といった画素部を形成させる方法が、活発に研究されている。この発光性ナノ結晶粒子を用いたカラーフィルタ(QD-CF)は、上記低消費電力に加え、ディスプレイとしての色再現領域を広くする効果も有している。
【0004】
ところで、上記フォトリソグラフィ法でのカラーフィルタの製造方法では、その製造方法の特徴から、比較的高価な発光性ナノ結晶粒子を含めた画素部以外のレジスト材料が無駄になるという欠点があった。このような状況下、上記のようなレジスト材料の無駄をなくすため、インクジェット法により、光変換基板画素部を形成することが検討され始めている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/001693号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
QD-CFをディスプレイに適用する場合、青色LEDや青色OLED等の青色光をバックライト光源として使用し、緑色画素および赤色画素のみに発光性ナノ結晶粒子を用いる事が検討されている。この場合、通常の有機顔料を用いた場合に比べて緑色および赤色の発光半値幅が狭くなるため、ディスプレイの色再現性が高くなる事が知られている。一方、ディスプレイとしての色再現性を高くするためには各画素での色純度を高くする必要があるため、緑色画素および赤色画素から、バックライト光源由来である青色光が極力漏れない事が好ましい。
発光性ナノ結晶粒子は、一般的に赤色発光よりも、500~560nmの範囲に発光ピーク波長を有する緑色発光の粒子の方が青色光の吸収率が小さく、緑色画素からの青色光の漏れをより小さくする必要があり、そのためには光変換基板画素部における色変換層の中の発光性ナノ結晶粒子濃度や光拡散剤の濃度を高くする方法がある。
しかしながら、特に、インクジェット法にて光変換基板画素部を形成させる場合においては、発光性ナノ結晶粒子を含むインク組成物の粘度をある一定範囲内に収める必要があり、発光性ナノ結晶粒子および光散乱性粒子の濃度を高くすると、インク組成物の粘度もより高くなるという問題点がある。
【0007】
そこで、本発明は、インク組成物として画素部の形成に適した粘度を有すると共に、緑色画素部からの青色光の漏れが少ないインク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、発光性ナノ結晶粒子と、光重合性化合物及び/又は熱硬化性樹脂と、光散乱性粒子と、を含有するインク組成物であって、
前記発光性ナノ結晶粒子の少なくとも一部が、420~480nmの範囲の波長の光を吸収し、500~560nmの範囲に発光ピークを有し、構成元素としてAg、In、GaおよびSを有する発光性ナノ結晶粒子であるインク組成物に関する。
【0009】
上記本発明のインク組成物は、上記構成を採用するため、発光性ナノ結晶粒子濃度をそれほど高くしなくても、緑色画素部からの青色漏れ光を効果的に小さくでき、インクジェットインクの粘度を画素部の形成に適した範囲内に収める事ができる。
【0010】
上記インク組成物において、25℃での粘度が30mPa・s以下であってよい。
【0011】
上記インク組成物において、15umの光変換層を作製した際、青色光の漏れ率が10%以下であってよい。
【0012】
本発明の一側面は、複数の画素部と、該複数の画素部間に設けられた遮光部と、を備え、複数の画素部が、上述したインク組成物の硬化物を含む発光性画素部を有する、光変換層に関する。
【0013】
本発明の一側面は、上述した光変換層を備える、カラーフィルタに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、インクジェットインクとして画素部の形成に適した粘度でありながら、緑色画素部の青色光の漏れを小さくできるインク組成物、並びに当該インクジェットインクを用いた光変換層およびカラーフィルタを提供する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態のカラーフィルタの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
<インク組成物>
一実施形態のインク組成物は、発光性ナノ結晶粒子と、光重合性化合物及び/又は熱硬化性樹脂と、光散乱性粒子と、を含有する。このインク組成物は、インクジェット方式によりカラーフィルタの画素部を形成するために用いられる、カラーフィルタ用インク組成物である。
【0018】
本実施形態のインク組成物は、インクジェット方式でカラーフィルタ画素部を形成する用途に用いられるため、比較的高額である発光性ナノ結晶粒子、溶剤等の材料を無駄に消費せずに、必要な箇所に必要な量を用いるだけでカラーフィルタ画素部(光変換層)を形成できる。
【0019】
[発光性ナノ結晶粒子]
発光性ナノ結晶粒子は、励起光を吸収して蛍光又は燐光を発光するナノサイズの結晶体であり、例えば、透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡によって測定される最大粒子径が100nm以下である結晶体である。
【0020】
発光性ナノ結晶粒子は、例えば、所定の波長の光を吸収することにより、吸収した波長とは異なる波長の光(蛍光又は燐光)を発することができる。発光性ナノ結晶粒子は、605~665nmの範囲に発光ピーク波長を有する光(赤色光)を発する、赤色発光性のナノ結晶粒子(赤色発光性ナノ結晶粒子)であってよく、500~560nmの範囲に発光ピーク波長を有する光(緑色光)を発する、緑色発光性のナノ結晶粒子(緑色発光性ナノ結晶粒子)であってよく、420~480nmの範囲に発光ピーク波長を有する光(青色光)を発する、青色発光性のナノ結晶粒子(青色発光性ナノ結晶粒子)であってもよい。
【0021】
本実施形態では、緑色画素を形成するインク組成物中に含まれる発光性ナノ結晶粒子において、少なくとも一部が、構成元素としてAg、In、GaおよびSを含み、420~480nmの範囲の波長の光を吸収し、500~560nmの範囲に発光ピークを有する緑色発光の発光性ナノ結晶粒子である事が好ましい。
【0022】
また、発光性ナノ結晶粒子が吸収する光は、例えば、400nm以上500nm未満の範囲(特に、420~480nmの範囲の波長の光)の波長の光(青色光)、又は、200nm~400nmの範囲の波長の光(紫外光)であってよい。なお、発光性ナノ結晶粒子の発光ピーク波長は、例えば、分光蛍光光度計を用いて測定される蛍光スペクトル又は燐光スペクトルにおいて確認することできる。
【0023】
赤色発光性のナノ結晶粒子は、665nm以下、663nm以下、660nm以下、658nm以下、655nm以下、653nm以下、651nm以下、650nm以下、647nm以下、645nm以下、643nm以下、640nm以下、637nm以下、635nm以下、632nm以下又は630nm以下に発光ピーク波長を有することが好ましく、628nm以上、625nm以上、623nm以上、620nm以上、615nm以上、610nm以上、607nm以上又は605nm以上に発光ピーク波長を有することが好ましい。これらの上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。なお、以下の同様の記載においても、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0024】
緑色発光性のナノ結晶粒子は、560nm以下、557nm以下、555nm以下、550nm以下、547nm以下、545nm以下、543nm以下、540nm以下、537nm以下、535nm以下、532nm以下又は530nm以下に発光ピーク波長を有することが好ましく、528nm以上、525nm以上、523nm以上、520nm以上、515nm以上、510nm以上、507nm以上、505nm以上、503nm以上又は500nm以上に発光ピーク波長を有することが好ましい。
【0025】
青色発光性のナノ結晶粒子は、480nm以下、477nm以下、475nm以下、470nm以下、467nm以下、465nm以下、463nm以下、460nm以下、457nm以下、455nm以下、452nm以下又は450nm以下に発光ピーク波長を有することが好ましく、450nm以上、445nm以上、440nm以上、435nm以上、430nm以上、428nm以上、425nm以上、422nm以上又は420nm以上に発光ピーク波長を有することが好ましい。
【0026】
発光性ナノ結晶粒子が発する光の波長(発光色)は、井戸型ポテンシャルモデルのシュレディンガー波動方程式の解によれば、発光性ナノ結晶粒子のサイズ(例えば粒子径)に依存するが、発光性ナノ結晶粒子が有するエネルギーギャップにも依存する。そのため、使用する発光性ナノ結晶粒子の構成材料及びサイズを変更することにより、発光色を選択することができる。
【0027】
発光性ナノ結晶粒子は、半導体材料を含む発光性ナノ結晶粒子(発光性半導体ナノ結晶粒子)であってよい。発光性半導体ナノ結晶粒子としては、量子ドット、量子ロッド等が挙げられる。これらの中でも、発光スペクトルの制御が容易であり、信頼性を確保した上で、生産コストを低減し、量産性を向上させることができる観点から、量子ドットが好ましい。
【0028】
発光性半導体ナノ結晶粒子は、第一の半導体材料を含むコアのみからなっていてよく、第一の半導体材料を含むコアと、第一の半導体材料とは異なる第二の半導体材料を含み、上記コアの少なくとも一部を被覆するシェルと、を有していてもよい。換言すれば、発光性半導体ナノ結晶粒子の構造は、コアのみからなる構造(コア構造)であってよく、コアとシェルからなる構造(コア/シェル構造)であってもよい。また、発光性半導体ナノ結晶粒子は、第二の半導体材料を含むシェル(第一のシェル)の他に、第一及び第二の半導体材料とは異なる第三の半導体材料を含み、上記コアの少なくとも一部を被覆するシェル(第二のシェル)を更に有していてもよい。換言すれば、発光性半導体ナノ結晶粒子の構造は、コアと第一のシェルと第二のシェルとからなる構造(コア/シェル/シェル構造)であってもよい。コア及びシェルのそれぞれは、2種以上の半導体材料を含む混晶(例えば、CdSe+CdS、CIS+ZnS等)であってよい。
【0029】
本実施形態では上記半導体材料の構成元素としてAg、In、GaおよびSを含むことが好ましい。Ag、In、GaおよびSの組成比率は任意の範囲であって良い。ここでAgとは銀元素、Inとはインジウム元素、Gaとはガリウム元素、Sとは硫黄元素である。
また、上記Ag、In、GaおよびSを含む発光性ナノ結晶粒子は、コアのみが本半導体材料で構成されていても良く、コア/シェルが本半導体材料で構成されていても良い。同様にコア/シェル/シェルの様に多層構造となっている場合、その一部が本半導体材料で構成されていても良く、すべてが本半導体材料で構成されていても良い。複数の層が本半導体材料で構成されている場合、それぞれの層においてAg、In、GaおよびSの組成比率は同じであっても良いし、異なっていても良い。ただし、発光強度および発光ピークの観点から、コアの半導体材料は本半導体材料にて構成されている事が好ましい。また、本半導体材料以外の半導体材料にてシェルの一部またはすべてを構成する場合、半導体材料として、II-VI族半導体、III-V族半導体、I-III-VI族半導体、IV族半導体及びI-II-IV-VI族半導体からなる群より選択される少なくとも1種の半導体材料を含むことが好ましい。発光性ナノ結晶粒子は、半導体材料として、II-VI族半導体、III-V族半導体、I-III-VI族半導体、IV族半導体及びI-II-IV-VI族半導体からなる群より選択される少なくとも1種の半導体材料を含むことが好ましい。
【0030】
具体的な半導体材料としては、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、ZnO、HgS、HgSe、HgTe、CdSeS、CdSeTe、CdSTe、ZnSeS、ZnSeTe、ZnSTe、HgSeS、HgSeTe、HgSTe、CdZnS、CdZnSe、CdZnTe、CdHgS、CdHgSe、CdHgTe、HgZnS、HgZnSe、CdHgZnTe、CdZnSeS、CdZnSeTe、CdZnSTe、CdHgSeS、CdHgSeTe、CdHgSTe、HgZnSeS、HgZnSeTe、HgZnSTe;GaN、GaP、GaAs、GaSb、AlN、AlP、AlAs、AlSb、InN、InP、InAs、InSb、GaNP、GaNAs、GaNSb、GaPAs、GaPSb、AlNP、AlNAs、AlNSb、AlPAs、AlPSb、InNP、InNAs、InNSb、InPAs、InPSb、GaAlNP、GaAlNAs、GaAlNSb、GaAlPAs、GaAlPSb、GaInNP、GaInNAs、GaInNSb、GaInPAs、GaInPSb、InAlNP、InAlNAs、InAlNSb、InAlPAs、InAlPSb;SnS、SnSe、SnTe、PbS、PbSe、PbTe、SnSeS、SnSeTe、SnSTe、PbSeS、PbSeTe、PbSTe、SnPbS、SnPbSe、SnPbTe、SnPbSSe、SnPbSeTe、SnPbSTe;Si、Ge、SiC、SiGe、AgInSe、CuGaSe、CuInS、CuGaS、CuInSe、AgInS、AgGaSe、AgGaS、C、Si及びGeが挙げられる。発光性半導体ナノ結晶粒子は、発光スペクトルの制御が容易であり、信頼性を確保した上で、生産コストを低減し、量産性を向上させることができる観点から、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、ZnO、HgS、HgSe、HgTe、InP、InAs、InSb、GaP、GaAs、GaSb、AgInS、AgInSe、AgInTe、AgGaS、AgGaSe、AgGaTe、CuInS、CuInSe、CuInTe、CuGaS、CuGaSe、CuGaTe、Si、C、Ge及びCuZnSnSからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0031】
また、インク組成物を配合する際、発光性ナノ結晶粒子としてAg、In、GaおよびSにて構成された半導体材料を含まない発光性ナノ結晶を併用しても良い。その場合、半導体材料としては下記に記載の任意の半導体材料が使用される。
【0032】
赤色発光性の半導体ナノ結晶粒子としては、例えば、CdSeのナノ結晶粒子、コア/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、当該シェル部分がCdSであり内側のコア部がCdSeであるナノ結晶粒子、コア/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、当該シェル部分がCdSであり内側のコア部がZnSeであるナノ結晶粒子、CdSeとZnSとの混晶のナノ結晶粒子、InPのナノ結晶粒子、コア/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、当該シェル部分がZnSであり内側のコア部がInPであるナノ結晶粒子、コア/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、当該シェル部分がZnSとZnSeとの混晶であり内側のコア部がInPであるナノ結晶粒子、CdSeとCdSとの混晶のナノ結晶粒子、ZnSeとCdSとの混晶のナノ結晶粒子、コア/シェル/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、第一のシェル部分がZnSeであり、第二のシェル部分がZnSであり、内側のコア部がInPであるナノ結晶粒子、コア/シェル/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、第一のシェル部分がZnSとZnSeとの混晶であり、第二のシェル部分がZnSであり、内側のコア部がInPであるナノ結晶粒子等が挙げられる。
【0033】
緑色発光性の半導体ナノ結晶粒子としては、例えば、CdSeのナノ結晶粒子、CdSeとZnSとの混晶のナノ結晶粒子、コア/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、当該シェル部分がZnSであり内側のコア部がInPであるナノ結晶粒子、コア/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、当該シェル部分がZnSとZnSeとの混晶であり内側のコア部がInPであるナノ結晶粒子、コア/シェル/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、第一のシェル部分がZnSeであり、第二のシェル部分がZnSであり、内側のコア部がInPであるナノ結晶粒子、コア/シェル/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、第一のシェル部分がZnSとZnSeとの混晶であり、第二のシェル部分がZnSであり、内側のコア部がInPであるナノ結晶粒子等が挙げられる。
【0034】
青色発光性の半導体ナノ結晶粒子としては、例えば、ZnSeのナノ結晶粒子、ZnSのナノ結晶粒子、コア/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、当該シェル部分がZnSeであり内側のコア部がZnSであるナノ結晶粒子、CdSのナノ結晶粒子、コア/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、当該シェル部分がZnSであり内側のコア部がInPであるナノ結晶粒子、コア/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、当該シェル部分がZnSとZnSeとの混晶であり内側のコア部がInPであるナノ結晶粒子、コア/シェル/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、第一のシェル部分がZnSeであり、第二のシェル部分がZnSであり、内側のコア部がInPであるナノ結晶粒子、コア/シェル/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、第一のシェル部分がZnSとZnSeとの混晶であり、第二のシェル部分がZnSであり、内側のコア部がInPであるナノ結晶粒子等が挙げられる。
【0035】
半導体ナノ結晶粒子は、同一の化学組成で、それ自体の平均粒子径を変えることにより、当該粒子から発光させるべき色を赤色にも緑色にも変えることができる。また、半導体ナノ結晶粒子は、それ自体として、人体等に対する悪影響が極力低いものを用いることが好ましい。カドミウム、セレン等を含有する半導体ナノ結晶粒子を発光性ナノ結晶粒子として用いる場合は、上記元素(カドミウム、セレン等)が極力含まれない半導体ナノ結晶粒子を選択して単独で用いるか、上記元素が極力少なくなるようにその他の発光性ナノ結晶粒子と組み合わせて用いることが好ましい。
【0036】
発光性ナノ結晶粒子の形状は特に限定されず、任意の幾何学的形状であってもよく、任意の不規則な形状であってもよい。発光性ナノ結晶粒子の形状は、例えば、球状、楕円体状、角錐形状、ディスク状、枝状、網状、ロッド状等であってもよい。しかしながら、発光性ナノ結晶粒子としては、粒子形状として方向性の少ない粒子(例えば、球状、正四面体状等の粒子)を用いることが、インク組成物の均一性及び流動性をより高められる点で好ましい。
【0037】
発光性ナノ結晶粒子の平均粒子径(体積平均径)は、所望の波長の発光が得られやすい観点、並びに、分散性及び保存安定性に優れる観点から、1nm以上であってよく、1.5nm以上であってよく、2nm以上であってもよい。所望の発光波長が得られやすい観点から、40nm以下であってよく、30nm以下であってよく、20nm以下であってもよい。発光性ナノ結晶粒子の平均粒子径(体積平均径)は、透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡により測定し、体積平均径を算出することにより得られる。
【0038】
発光性ナノ結晶粒子は、分散安定性の観点から、その表面に有機リガンドを有する。有機リガンドは、例えば、発光性ナノ結晶粒子の表面に配位結合されていてよい。換言すれば、発光性ナノ結晶粒子の表面は、有機リガンドによってパッシベーションされていてよい。また、インク組成物が後述する高分子分散剤を更に含有する場合には、発光性ナノ結晶粒子は、その表面に高分子分散剤を有していてもよい。本実施形態では、例えば、上述の有機リガンドを有する発光性ナノ結晶粒子から有機リガンドを除去し、有機リガンドと高分子分散剤とを交換することで発光性ナノ結晶粒子の表面に高分子分散剤を結合させてよい。ただし、インク組成物にした際の分散安定性の観点では、有機リガンドが配位したままの発光性ナノ結晶粒子に対して高分子分散剤が配合されることが好ましい。
【0039】
有機リガンドは、光重合性化合物、熱硬化性樹脂、有機溶剤等との親和性を確保するための官能基(以下、「親和性基」ともいう。)を含んでいてよい。親和性基としては、置換又は無置換の脂肪族炭化水素基であってよい。当該脂肪族炭化水素基は、直鎖型であってもよく分岐構造を有していてもよい。また、脂肪族炭化水素基は、不飽和結合を有していてもよく、不飽和結合を有していなくてもよい。置換の脂肪族炭化水素は、脂肪族炭化水素基の一部の炭素原子が酸素原子で置換された基であってもよい。置換の脂肪族炭化水素基は、例えば、(ポリ)オキシアルキレン基を含んでいてよい。
【0040】
有機リガンドは、ポリオキシアルキレン基を含むことが好ましい。ポリオキシアルキレン基は、2以上のアルキレン基がエーテル結合で連結してなる二価の基であり、複数のオキシアルキレン構造(オキシアルキレン基)を有する。ポリオキシアルキレン基を構成する複数のアルキレン基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。アルキレン基は、直鎖状であってよく、分岐構造を有していてもよい。また、アルキレン基は、不飽和結合を有していてもよく、不飽和結合を有していなくてもよい。
【0041】
アルキレン基の炭素数は、例えば、1以上、2以上又は3以上であってよく、5以下、4以下又は3以下であってよい。アルキレン基は、好ましくは、エチレン基、プロピレン基又はブチレン基である。すなわち、ポリオキシアルキレン基は、好ましくは、エチレン基を有するオキシアルキレン構造(オキシエチレン構造)、プロピレン基を有するオキシアルキレン構造(オキシプロピレン構造)、及び、ブチレン基を有するオキシアルキレン構造(オキシブチレン構造)からなる群より選択される少なくとも一種を有する。
【0042】
ポリオキシアルキレン基は、好ましくは、下記式(1)で表されるオキシアルキレン構造を有する。
【0043】
【化1】
【0044】
式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基又はエチル基を示し、*は結合手を示す。R及びRの一方がメチル基又はエチル基である場合、他方は水素原子であることが好ましい。R及びRは、好ましくは水素原子又はメチル基である。その中でも、R及びRが水素原子であるオキシエチレン構造、又は、R及びRの一方がメチル基であり他方が水素原子であるオキシプロピレン構造がより好ましい。
【0045】
ポリオキシアルキレン基が式(1)で表される構造を複数有する場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよく、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。
【0046】
ポリオキシアルキレン基の重合度は、例えば、2以上、4以上又は6以上であってよく、40以下、30以下又は20以下であってよい。ここで、ポリオキシアルキレン基の重合度とは、オキシアルキレン構造の繰り返し数(エーテル結合で連結されたアルキレン基の数)を意味する。
【0047】
ポリオキシアルキレン基が、オキシエチレン構造の繰り返しを含む場合、オキシエチレン構造の繰り返し数は、2以上、4以上又は6以上であってよく、40以下、30以下又は20以下であってよい。
【0048】
ポリオキシアルキレン基が、オキシプロピレン構造の繰り返しを含む場合、オキシプロピレン構造の繰り返し数は、2以上、4以上又は6以上であってよく、40以下、30以下又は20以下であってよい。
【0049】
ポリオキシアルキレン基は、有機リガンドの主鎖に含まれていてよい。ここで、主鎖とは、有機リガンドを構成している分子鎖のうち最も長いものをいう。
【0050】
有機リガンドは、発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基(発光性ナノ結晶粒子への吸着性を確保するための官能基)を含むことが好ましい。発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン基、ホスフィンオキサイド基及びアルコキシシリル基が挙げられる。これらの官能基は、配位結合等により発光性ナノ結晶粒子と結合していてよい。
【0051】
有機リガンドにおける発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基の数は、1~3であってよく、1~2であってよく、1であってよい。発光性ナノ結晶粒子がその表面に有する有機リガンドにおける発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基の少なくとも一つは、発光性ナノ結晶粒子と結合した官能基であってよい。また、有機リガンドが発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基を複数含む場合、複数の官能基のうちの一部は発光性ナノ結晶粒子に結合していなくてもよい。
【0052】
発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基は有機リガンドの主鎖の少なくとも一方の末端に存在していてよい。すなわち、有機リガンドは、主鎖の少なくとも一方の末端に発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基を含んでいてよい。
【0053】
有機リガンドは、水素結合性基を有していてよい。ここで、水素結合性の官能基とは、カルボニル基等と水素結合を形成し得る水素原子を有する基を意味する。水素結合性基は、発光性ナノ結晶粒子と結合可能な基であってもよい。発光性ナノ結晶粒子の表面に存在する有機リガンドは、発光性ナノ結晶粒子に結合していない水素結合性基を有することが好ましい。水素結合性基としては、例えば、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基等の1価の基、アミド基(-NHCO-)等の2価の基などが挙げられる。
【0054】
有機リガンドは、主鎖の一方の末端に発光性ナノ結晶粒子と結合可能な第1の官能基を1個以上有し、主鎖の他方の末端に第1の官能基と異なる第2の官能基を有していてよい。第1の官能基は、発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基として上述した基と同じであってよい。第1の官能基の数は、1以上であってよく、2以上であってよく、2であってよい。第2の官能基は、発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基として上述した基と同じであってよく、当該官能基とは異なるその他の基であってもよい。その他の基は、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基であってよい。第2の官能基の数は、1以上であってよく、1であってよい。
【0055】
主鎖は、ポリオキシアルキレン基以外に、例えば、置換又は無置換の炭化水素基を有していてよい。置換又は無置換の炭化水素基の炭素数は、例えば、1~10であってよい。置換の炭化水素基は、炭素原子の一部が、硫黄原子、窒素原子等のヘテロ原子、カルボニル基等で置換されていてよい。
【0056】
一実施形態において、有機リガンドは、下記式(1-1)で表される化合物であってよい。
【0057】
【化2】
【0058】
式(1-1)中、pは0~50の整数を示し、qは0~50の整数を示す。p及びqのうち少なくとも一方が1以上であることが好ましく、p及びqの両方が1以上であることがより好ましい。
【0059】
一実施形態において、有機リガンドは、下記式(1-2)で表される有機リガンドであってよい。
【0060】
【化3】
【0061】
[式(1-2)中、rは、1~50の整数を示す。]
【0062】
式(1-2)で表される有機リガンドにおいて、rは、1~20であってよく、3~15であってよく、5~10であってよく、7であってよい。
【0063】
有機リガンドは、発光性ナノ結晶粒子に結合可能な官能基を2つ以上有するリガンドであってもよい。すなわち、有機リガンドは、一実施形態において、下記式(1-3)で表される化合物であってよい。
【0064】
【化4】
【0065】
式(1-3)中、A及びAは、それぞれ独立に、上述した発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基を含んでいてよい1価の基を示し、Rは、水素原子、メチル基、又はエチル基を示し、L及びLは、それぞれ独立に、置換又は無置換のアルキレン基を示し、sは0以上の整数を示す。ただし、A及びAの少なくとも一方は上述した発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基を含んでおり、A及びAにおける発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基の数の合計は2つ以上である。A又はAが発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基を含まない基である場合、A又はAは例えば水素原子であってよい。
【0066】
及びAで示される1価の基における発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基の数は、それぞれ、1つ又は2つ以上であってよく、4つ以下であってよく、2つであってもよい。発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基は、好ましくは、ヒドロキシル基及びカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0067】
一実施形態において、Aで示される1価の基における発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基の数が2つであり、かつAで示される1価の基における発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基の数が1つであることが好ましい。この場合、Aで示される1価の基における2つの発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基がいずれもカルボキシル基であり、かつAで示される1価の基における発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基がヒドロキシル基であることがより好ましい。
【0068】
他の一実施形態において、Aで示される1価の基における発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基の数が2つであり、かつAが水素原子(すなわち、Aで示される1価の基における発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基の数が0)であることが好ましい。この場合、Aで示される1価の基における2つの発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基がいずれもカルボキシル基であることがより好ましい。
【0069】
Lで示されるアルキレン基の炭素数は、例えば、1~10であってよい。Lで示されるアルキレン基においては、炭素原子(メチレン基)の一部が、ヘテロ原子で置換されていてもよい。Lが置換のアルキレン基である場合、当該アルキレン基においては、炭素原子(メチレン基)の一部が、好ましくは、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子からなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子で置換されており、より好ましくは硫黄原子で置換されている。sは、例えば、1以上、3以上、又は5以上の整数であってよく、100以下、20以下、又は10以下の整数であってよい。
【0070】
有機リガンドは、好ましくは、下記式(1-4)で表される化合物である。
【0071】
【化5】
【0072】
式(1-4)中、p及びqはそれぞれ独立に0以上の整数であり、rは1以上の整数であり、A、A及びsは、式(1-3)におけるA、A及びsとそれぞれ同義である。ただし、p及びqの少なくとも一方は、1以上の整数である。
【0073】
pは、3以下、2以下又は1以下の整数であってよく、0であってもよい。qは、1以上、2以上又は3以上の整数であってよく、5以下、4以下又は3以下の整数であってよく、3であってもよい。rは、4以下、3以下又は2以下の整数であってよく、1であってもよい。
【0074】
有機リガンドは、より好ましくは、下記式(1-5)又は(1-6)で表される化合物である。
【0075】
【化6】
【0076】
式(1-5)及び(1-6)中、sは式(1-3)におけるsと同義である。
【0077】
発光性ナノ結晶粒子と結合可能な官能基を含む有機リガンドとしては、例えば、TOP(トリオクチルホスフィン)、TOPO(トリオクチルホスフィンオキサイド)、ラウリン酸、オレイン酸、オレイルアミン、オクチルアミン、トリオクチルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタンチオール、ドデカンチオール、ヘキシルホスホン酸(HPA)、テトラデシルホスホン酸(TDPA)、及びオクチルホスフィン酸(OPA)が挙げられる。
【0078】
有機リガンドの重量平均分子量は、インク組成物の粘度が画素部の形成により適した粘度となる観点から、1000以下であり、900以下、800以下、700以下、又は600以下であってよく、250以上、300以上、400以上、450以上、500以上、又は550以上であってよい。なお、本明細書中、重量平均分子量とは、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー、Gel Permeation Chromatography)によって測定される、ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0079】
発光性ナノ結晶粒子としては、有機溶剤、光重合性化合物等の中にコロイド形態で分散しているものを用いることができる。有機溶剤中で分散状態にある発光性ナノ結晶粒子の表面は、上述の有機リガンドによってパッシベーションされていることが好ましい。有機溶剤としては、例えば、シクロヘキサン、ヘキサン、ヘプタン、クロロホルム、トルエン、オクタン、クロロベンゼン、テトラリン、ジフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチルカルビトールアセテート、1,4-ブタンジオールジアセテート、又はそれらの混合物が挙げられる。
【0080】
発光性ナノ結晶粒子としては、市販品を用いることができる。発光性ナノ結晶粒子の市販品としては、例えば、NN-ラボズ社の、インジウムリン/硫化亜鉛、D-ドット、CuInS/ZnS、アルドリッチ社の、InP/ZnS等が挙げられる。
【0081】
Ag、In、GaおよびSを有する発光性ナノ結晶粒子の含有量は、青色光の漏れの観点から、インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子、有機リガンド、光重合性化合物、熱硬化性樹脂、及び光散乱性粒子の合計含有量(不揮発分の合計含有量)100質量部に対して、好ましくは5質量部超であり、より好ましくは7質量部以上であり、更に好ましくは10質量部以上である。発光性ナノ結晶粒子の含有量が10質量部超である場合、青色光の吸収率に優れるため、このようなインク組成物はカラーフィルタ用途として好適に用いられる。Ag、In、GaおよびSを有する発光性ナノ結晶粒子の含有量は、吐出安定性および硬化性により優れる観点から、インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子、有機リガンド、光重合性化合物、熱硬化性樹脂、及び光散乱性粒子の合計含有量(不揮発分の合計含有量)100質量部に対して、好ましくは60質量部以下であり、50質量部以下であってもよく、40質量部以下であってもよく、35質量部以下であってもよい。発光性ナノ結晶粒子の含有量は、インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子、有機リガンド、光重合性化合物、熱硬化性樹脂、及び光散乱性粒子の合計含有量(不揮発分の合計含有量)100質量部に対して、10質量部超60質量部以下、13~60質量部、15~60質量部、10質量部超50質量部以下、10質量部超40質量部以下、又は、10質量部超35質量部以下であってよい。また、発光性ナノ結晶粒子はAg、In、GaおよびSを有する発光性ナノ結晶粒子とそれ以外の発光性ナノ結晶粒子を混合して使用しても良い。
【0082】
インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子、有機リガンド、光重合性化合物、熱硬化性樹脂、及び光散乱性粒子の合計含有量(不揮発分の合計含有量)は、インク組成物の全質量を基準として、41質量%以上であり、45質量%以上、50質量%以上、55質量%以上、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上又は95質量%以上であってよく、100質量%であってもよい。インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子、有機リガンド、光重合性化合物、熱硬化性樹脂、及び光散乱性粒子の合計含有量(不揮発分の合計含有量)が、インク組成物の全質量を基準として70質量%以上である場合、溶剤を含まないインク組成物として好適に使用される。
【0083】
インク組成物が、光重合性化合物を含有し、かつ、熱硬化性樹脂を含有しない場合、上記不揮発分の合計含有量は、発光性ナノ結晶粒子、有機リガンド、光重合性化合物、及び光散乱性粒子の合計含有量である。また、インク組成物が、熱硬化性樹脂を含有し、かつ、光重合性化合物を含有しない場合、上記不揮発分の合計含有量は、発光性ナノ結晶粒子、有機リガンド、熱硬化性樹脂、及び光散乱性粒子の合計含有量である。
【0084】
インク組成物は、発光性ナノ結晶粒子として、赤色発光性ナノ結晶粒子、緑色発光性ナノ結晶粒子及び青色発光性ナノ結晶粒子のうちの2種以上を含んでいてもよいが、好ましくはこれらの粒子のうちの1種のみを含む。インク組成物が赤色発光性ナノ結晶粒子を含む場合、緑色発光性ナノ結晶粒子の含有量及び青色発光性ナノ結晶粒子の含有量は、発光性ナノ結晶粒子の全質量を基準として、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは0質量%である。インク組成物が緑色発光性ナノ結晶粒子を含む場合、赤色発光性ナノ結晶粒子の含有量及び青色発光性ナノ結晶粒子の含有量は、発光性ナノ結晶粒子の全質量を基準として、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは0質量%である。
【0085】
Ag、In、GaおよびSを有する発光性ナノ結晶粒子及び有機リガンドの合計含有量は、インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子、有機リガンド、光重合性化合物、熱硬化性樹脂、及び光散乱性粒子の合計含有量100質量部に対して、5質量部以上であり、10質量部以上、15質量部以上、21質量部以上、25質量部以上、27質量部以上、30質量部以上、35質量部以上、40質量部以上、45質量部以上又は50質量部以上であってもよく、70質量部以下、65質量部以下、60質量部以下又は55質量部、50質量部、45質量部以下であってもよい。
【0086】
有機リガンドの含有量は、発光性ナノ結晶粒子及び有機リガンドの合計含有量100質量部に対して、大気曝露によるインク組成物の増粘を抑制できる観点から、10質量部以上であり、15質量部以上、20質量部以上、25質量部以上、30質量部以上、又は32質量部以上であってもよく、50質量部以下、45質量部以下、40質量部以下、又は38質量部以下であってもよい。発光性ナノ結晶粒子及び有機リガンドの合計含有量100質量部に対する有機リガンドの含有量が50質量部以下である場合、インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子の含有量を相対的に高くすることができるため好ましい。本明細書における発光性ナノ結晶粒子及び有機リガンドの合計含有量100質量部に対する有機リガンドの含有量は、発光性ナノ結晶粒子及び有機リガンドから構成される混合物をTG-DTA測定して求められる有機率(有機化合物の比率)として定義される。発光性ナノ結晶粒子及び有機リガンドからなる混合物は、インク組成物に該混合物の貧溶媒を添加して、該混合物を沈降させた後、乾燥させることにより得ることができる。
【0087】
[光重合性化合物]
本実施形態の光重合性化合物は、光の照射によって重合する化合物であり、例えば、光ラジカル重合性化合物又は光カチオン重合性化合物である。光重合性化合物は、光重合性のモノマー又はオリゴマーであってよい。これらは、光重合開始剤と共に用いられる。光ラジカル重合性化合物は光ラジカル重合開始剤と共に用いられ、光カチオン重合性化合物は光カチオン重合開始剤と共に用いられる。言い換えれば、インク組成物は、光重合性化合物及び光重合開始剤を含む光重合性成分を含有していてよく、光ラジカル重合性化合物及び光ラジカル重合開始剤を含む光ラジカル重合性成分を含有していてもよく、光カチオン重合性化合物及び光カチオン重合開始剤を含む光カチオン重合性成分を含有していてもよい。光ラジカル重合性化合物と光カチオン重合性化合物とを併用してもよく、光ラジカル重合性と光カチオン重合性を具備した化合物を用いてもよく、光ラジカル重合開始剤と光カチオン重合開始剤とを併用してもよい。光重合性化合物は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0088】
光ラジカル重合性化合物としては、例えば、エチレン性不飽和基を有するモノマー(以下、「エチレン性不飽和モノマー」ともいう。)、イソシアネート基を有するモノマー等が挙げられる。ここで、エチレン性不飽和モノマーとは、エチレン性不飽和結合(炭素-炭素二重結合)を有するモノマーを意味する。エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、ビニル基、ビニレン基、ビニリデン基等のエチレン性不飽和基を有するモノマーが挙げられる。これらの基を有するモノマーは、「ビニルモノマー」と称される場合がある。
【0089】
エチレン性不飽和モノマーにおけるエチレン性不飽和結合の数(例えばエチレン性不飽和基の数)は、例えば、1~3である。エチレン性不飽和モノマーは1種を単独で用いてよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。光重合性化合物は、優れた吐出安定性と優れた硬化性を両立することが容易となる観点、及び、外部量子効率がより向上する観点から、エチレン性不飽和基を1個又は2個有するモノマーと、エチレン性不飽和基を2個又は3個有するモノマーと、を含んでいてよい。すなわち、エチレン性不飽和モノマーは、単官能モノマーと二官能モノマー、単官能モノマーと三官能モノマー、二官能モノマーと二官能モノマー、及び、二官能モノマーと三官能モノマーからなる群より選択される少なくとも1種の組み合わせを含んでいてよい。本実施形態では、光重合性化合物が、エチレン性不飽和結合を2個有するモノマーを2種以上含むことが好ましい。
【0090】
エチレン性不飽和基としては、ビニル基、ビニレン基及びビニリデン基の他、(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリロイル基」とは、「アクリロイル基」及びそれに対応する「メタクリロイル基」を意味する。「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリルアミド」との表現についても同様である。
【0091】
単官能モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルベンジル(メタ)アクリレート、コハク酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)、コハク酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)、N-[2-(アクリロイルオキシ)エチル]フタルイミド、N-[2-(アクリロイルオキシ)エチル]テトラヒドロフタルイミド、4-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、等が挙げられる。これらの中でも、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。
【0092】
エチレン性不飽和基を2個有するモノマー(二官能モノマー)の具体例としては、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコ-ルヒドロキシピバリン酸エステルジアクリレ-ト、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートの2個の水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール1モルに4モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得られるジオールの2個の水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに2モルのエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得られるジオールの2個の水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン1モルに3モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得られるトリオールの2個の水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに4モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得られるジオールの2個の水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレートが好ましく用いられる。
【0093】
エチレン性不飽和基を3個有するモノマー(三官能モノマー)の具体例としては、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、グリセリントリ(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。
【0094】
光カチオン重合性化合物としては、エポキシ化合物、オキセタン化合物、ビニルエーテル化合物等が挙げられる。
【0095】
エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル等の脂肪族系エポキシ化合物、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロへキサン、1-メチル-4-(2-メチルオキシラニル)-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン等の脂環式エポキシ化合物などが挙げられる。
【0096】
エポキシ化合物として市販品を使用することも可能である。エポキシ化合物の市販品としては、例えば、ダイセル化学工業株式会社製の「セロキサイド2000」、「セロキサイド3000」、「セロキサイド4000」等を用いることができる。
【0097】
カチオン重合性のオキセタン化合物としては、2―エチルヘキシルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-メチルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-エチルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-プロピルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-ノルマルブチルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-フェニルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-ベンジルオキセタン、3-ヒドロキシエチル-3-メチルオキセタン、3-ヒドロキシエチル-3-エチルオキセタン、3-ヒドロキシエチル-3-プロピルオキセタン、3-ヒドロキシエチル-3-フェニルオキセタン、3-ヒドロキシプロピル-3-メチルオキセタン、3-ヒドロキシプロピル-3-エチルオキセタン、3-ヒドロキシプロピル-3-プロピルオキセタン、3-ヒドロキシプロピル-3-フェニルオキセタン、3-ヒドロキシブチル-3-メチルオキセタン等が挙げられる。
【0098】
オキセタン化合物として市販品を使用することも可能である。オキセタン化合物の市販品としては、例えば、東亜合成株式会社製のアロンオキセタンシリーズ(「OXT-101」、「OXT-212」、「OXT-121」、「OXT-221」等);ダイセル化学工業株式会社製の「セロキサイド2021」、「セロキサイド2021A」、「セロキサイド2021P」、「セロキサイド2080」、「セロキサイド2081」、「セロキサイド2083」、「セロキサイド2085」、「エポリードGT300」、「エポリードGT301」、「エポリードGT302」、「エポリードGT400」、「エポリードGT401」及び「エポリードGT403」;ダウ・ケミカル日本株式会社製の「サイラキュアUVR-6105」、「サイラキュアUVR-6107」、「サイラキュアUVR-6110」、「サイラキュアUVR-6128」、「ERL4289」及び「ERL4299」などを用いることができる。また、公知のオキセタン化合物(例えば、特開2009-40830等に記載のオキセタン化合物)を使用することもできる。
【0099】
ビニルエーテル化合物としては、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、トリエチレングリコールビニルモノエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル等が挙げられる。
【0100】
また、本実施形態における光重合性化合物として、特開2013-182215号公報の段落0042~0049に記載の光重合性化合物を用いることもできる。
【0101】
光重合性化合物は、信頼性に優れる画素部(インク組成物の硬化物)が得られやすい観点から、アルカリ不溶性であってよい。本明細書中、光重合性化合物がアルカリ不溶性であるとは、1質量%の水酸化カリウム水溶液に対する25℃における光重合性化合物の溶解量が、光重合性化合物の全質量を基準として、30質量%以下であることを意味する。光重合性化合物の上記溶解量は、好ましくは、10質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下である。
【0102】
光重合性化合物の含有量は、インク組成物として適正な粘度が得られやすい観点、インク組成物の硬化性が良好となる観点、並びに、画素部(インク組成物の硬化物)の耐溶剤性及び耐磨耗性が向上する観点から、インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子、有機リガンド、光重合性化合物、熱硬化性樹脂、及び光散乱性粒子の合計含有量100質量部に対して、10質量部以上であってもよく、15質量部以上であってもよく、20質量部以上であってもよい。光重合性化合物の含有量は、インク組成物として適正な粘度が得られやすい観点、及び、より優れた光学特性(例えば外部量子効率の低下抑制効果)が得られる観点から、インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子、有機リガンド、光重合性化合物、熱硬化性樹脂、及び光散乱性粒子の合計含有量100質量部に対して、60質量部以下であってよく、50質量部以下であってもよく、40質量部以下であってもよく、30質量部以下であってもよく、20質量部以下であってもよい。
【0103】
[光重合開始剤]
光重合開始剤は、例えば光ラジカル重合開始剤である。光ラジカル重合開始剤としては、分子開裂型又は水素引き抜き型の光ラジカル重合開始剤が好適である。
【0104】
分子開裂型の光ラジカル重合開始剤としては、ベンゾインイソブチルエーテル、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、(2,4,6-トリメチルベンゾイル)エトキシフェニルホスフィンオキシド等が好適に用いられる。これら以外の分子開裂型の光ラジカル重合開始剤として、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン及び2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンを併用してもよい。
【0105】
水素引き抜き型の光ラジカル重合開始剤としては、ベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、イソフタルフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルスルフィド等が挙げられる。分子開裂型の光ラジカル重合開始剤と水素引き抜き型の光ラジカル重合開始剤とを併用してもよい。
【0106】
光カチオン重合開始剤として市販品を用いることもできる。市販品としては、サンアプロ社製の「CPI-100P」等のスルホニウム塩系光カチオン重合開始剤、BASF社製の「Lucirin TPO」等のアシルフォスフィンオキサイド化合物、BASF社製の「Irgacure 907」、「Irgacure 819」、「Irgacure 379EG」「、Irgacure 184」及び「Irgacure PAG290」などが挙げられる。
【0107】
光重合開始剤の含有量は、インク組成物の硬化性の観点から、光重合性化合物100質量部に対して、0.1質量部以上であってよく、0.5質量部以上であってもよく、1質量部以上であってもよく、3質量部以上であってもよく、5質量部以上であってもよい。光重合開始剤の含有量は、画素部(インク組成物の硬化物)の経時安定性の観点から、光重合性化合物100質量部に対して、40質量部以下であってよく、30質量部以下であってもよく、20質量部以下であってもよく、10質量部以下であってもよい。
【0108】
[熱硬化性樹脂]
本実施形態において、熱硬化性樹脂とは、熱により架橋し硬化する樹脂である。熱硬化性樹脂は、例えば、硬化物中においてバインダーとして機能する樹脂である。熱硬化性樹脂は、硬化性基を有する。硬化性基としては、エポキシ基、オキセタン基、イソシアネート基、アミノ基、カルボキシル基、メチロール基等が挙げられ、インク組成物の硬化物の耐熱性及び保存安定性に優れる観点、及び、遮光部(例えばブラックマトリックス)及び基材への密着性に優れる観点から、エポキシ基が好ましい。熱硬化性樹脂は、1種の硬化性基を有していてもよく、二種以上の硬化性基を有していてもよい。
【0109】
なお、熱硬化性樹脂の中には、光ラジカル重合性を有する(光ラジカル重合開始剤と共に用いられた場合に光の照射によって重合する)樹脂、及び、光カチオン重合性を有する(光カチオン重合開始剤と共に用いられた場合に光の照射によって重合する)樹脂が含まれる。インク組成物が、光ラジカル重合性を有する熱硬化性樹脂及び光ラジカル重合開始剤を含有する場合、その光ラジカル重合性を有する熱硬化性樹脂は光ラジカル重合性化合物(光重合性化合物)に分類されるものとする。インク組成物が、光カチオン重合性を有する熱硬化性樹脂及び光カチオン重合開始剤を含有する場合、その光カチオン重合性を有する熱硬化性樹脂は光カチオン重合性化合物(光重合性化合物)に分類されるものとする。
【0110】
熱硬化性樹脂は、単一のモノマーの重合体(ホモポリマー)であってよく、複数種のモノマーの共重合体(コポリマー)であってもよい。また、熱硬化性樹脂は、ランダム共重合体、ブロック共重合体又はグラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0111】
熱硬化性樹脂としては、1分子中に熱硬化性基を2個以上有する化合物が用いられ、通常、硬化剤と組み合わせて用いられる。熱硬化性樹脂を用いる場合、熱硬化反応を促進できる触媒(硬化促進剤)を更に添加してもよい。言い換えれば、インク組成物は、熱硬化性樹脂(並びに、必要に応じて用いられる硬化剤及び硬化促進剤)を含む熱硬化性成分を含有していてよい。また、これらに加えて、それ自体は重合反応性のない重合体を更に用いてもよい。
【0112】
1分子中に熱硬化性基を2個以上有する化合物として、例えば、1分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂(以下、「多官能エポキシ樹脂」ともいう。)を用いてよい。「エポキシ樹脂」には、モノマー性エポキシ樹脂及びポリマー性エポキシ樹脂の両方が含まれる。多官能性エポキシ樹脂が1分子中に有するエポキシ基の数は、好ましくは2~50個であり、より好ましくは2~20個である。エポキシ基は、オキシラン環構造を有する構造であればよく、例えば、グリシジル基、オキシエチレン基、エポキシシクロヘキシル基等であってよい。エポキシ樹脂としては、カルボン酸により硬化しうる公知の多価エポキシ樹脂を挙げることができる。このようなエポキシ樹脂は、例えば、新保正樹編「エポキシ樹脂ハンドブック」日刊工業新聞社刊(昭和62年)等に広く開示されており、これらを用いることが可能である。
【0113】
エポキシ基を有する熱硬化性樹脂(多官能エポキシ樹脂を含む)としては、オキシラン環構造を有するモノマーの重合体、オキシラン環構造を有するモノマーと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。具体的な多官能エポキシ樹脂としては、ポリグリシジルメタクリレート、メチルメタクリレート-グリシジルメタクリレート共重合体、ベンジルメタクリレート-グリシジルメタクリレート共重合体、n-ブチルメタクリレート-グリシジルメタクリレート共重合体、2-ヒドロキシエチルメタクリレート-グリシジルメタクリレート共重合体、(3-エチル-3-オキセタニル)メチルメタクリレート-グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン-グリシジルメタクリレート等が挙げられる。また、本実施形態の熱硬化性樹脂として、特開2014-56248号公報の段落0044~0066の記載の化合物を用いることもできる。
【0114】
また、多官能エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、3官能型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールA含核ポリオール型エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリオキザール型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂などを使用できる。
【0115】
より具体的には、商品名「エピコート828」(ジャパンエポキシレジン社製)などのビスフェノールA型エポキシ樹脂、商品名「YDF-175S」(東都化成社製)などのビスフェノールF型エポキシ樹脂、商品名「YDB-715」(東都化成社製)などの臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、商品名「EPICLON EXA1514」(DIC株式会社製)などのビスフェノールS型エポキシ樹脂、商品名「YDC-1312」(東都化成社製)などのハイドロキノン型エポキシ樹脂、商品名「EPICLON EXA4032」、「HP-4770」、「HP-4700」、「HP-5000」(DIC株式会社製)などのナフタレン型エポキシ樹脂、商品名「エピコートYX4000H」(ジャパンエポキシレジン社製)などのビフェニル型エポキシ樹脂、商品名「エピコート157S70」(ジャパンエポキシレジン社製)などのビスフェノールA型ノボラック系エポキシ樹脂、商品名「エピコート154」(ジャパンエポキシレジン社製)、商品名「YDPN-638」(東都化成社製)などのフェノールノボラック型エポキシ樹脂、商品名「YDCN-701」(東都化成社製)などのクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、商品名「EPICLON HP-7200」、「HP-7200H」(DIC株式会社製)などのジシクロペンタジエンフェノール型エポキシ樹脂、商品名「エピコート1032H60」(ジャパンエポキシレジン社製)などのトリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、商品名「VG3101M80」(三井化学社製)などの3官能型エポキシ樹脂、商品名「エピコート1031S」(ジャパンエポキシレジン社製)などのテトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、商品名「デナコールEX-411」(ナガセ化成工業社製)などの4官能型エポキシ樹脂、商品名「ST-3000」(東都化成社製)などの水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、商品名「エピコート190P」(ジャパンエポキシレジン社製)などのグリシジルエステル型エポキシ樹脂、商品名「YH-434」(東都化成社製)などのグリシジルアミン型エポキシ樹脂、商品名「YDG-414」(東都化成社製)などのグリオキザール型エポキシ樹脂、商品名「エポリードGT-401」(ダイセル化学社製)などの脂環式多官能エポキシ化合物、トリグリシジルイソシアネート(TGIC)などの複素環型エポキシ樹脂などを例示することができる。また、必要であれば、エポキシ反応性希釈剤として、商品名「ネオトートE」(東都化成社製)などを混合することができる。
【0116】
また、多官能エポキシ樹脂としては、DIC株式会社製の「ファインディックA-247S」、「ファインディックA-254」、「ファインディックA-253」、「ファインディックA-229-30A」、「ファインディックA-261」、「ファインディックA249」、「ファインディックA-266」、「ファインディックA-241」「ファインディックM-8020」、「EPICLON N-740」、「EPICLON N-770」、「EPICLON N-865」、「EPICLON EXA-4850-150」(商品名)等を用いることができる。
【0117】
熱硬化性樹脂の重量平均分子量は、インク組成物として適正な粘度が得られやすい観点、インク組成物の硬化性が良好となる観点、並びに、画素部(インク組成物の硬化物)の耐溶剤性及び耐磨耗性が向上する観点から、750以上であってよく、1000以上であってもよく、2000以上であってよい。インク組成物としての適正な粘度とする観点から、500000以下であってよく、300000以下であってもよく、200000以下であってもよい。ただし、架橋後の分子量に関してはこの限りでない。
【0118】
熱硬化性樹脂の含有量は、インク組成物として適正な粘度が得られやすい観点、インク組成物の硬化性が良好となる観点、並びに、画素部(インク組成物の硬化物)の耐溶剤性及び耐磨耗性が向上する観点から、インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子、有機リガンド、光重合性化合物、熱硬化性樹脂、及び光散乱性粒子の合計含有量100質量部に対して、5質量部以上であってよく、10質量部以上であってよく、15質量部以上であってもよく、20質量部以上であってもよい。熱硬化性樹脂の含有量は、インク組成物の粘度が高くなりすぎず、画素部の厚さが光変換機能に対して厚くなりすぎない観点から、インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子、有機リガンド、光重合性化合物、熱硬化性樹脂、及び光散乱性粒子の合計含有量100質量部に対して、60質量部以下であってよく、50質量部以下であってもよく、40質量部以下であってもよく、30質量部以下であってもよく、20質量部以下であってもよい。
【0119】
[硬化剤]
熱硬化性樹脂を硬化させるために用いられる硬化剤としては、例えば、酸無水物、フェノール系化合物、アミン系化合物等が挙げられる。これらの硬化剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。硬化剤は、好ましくは、酸無水物、フェノール系化合物及びアミン系化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む。また、エポキシ樹脂を熱硬化性樹脂として用いる場合、オニウム塩類、有機金属錯体、3級アミン、イミダゾール類等を用いて自己重合させてもよい。
【0120】
酸無水物(酸無水物系硬化剤)としては、4-メチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物(4M-HHPA)、3-メチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物、1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸、3-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸、4-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3-ジカルボン酸無水物、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3-ジカルボン酸無水物、メチル-3,6 エンドメチレン-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸、3,6 エンドメチレン-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸等が挙げられる。
【0121】
フェノール系化合物(フェノール系硬化剤)としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、レゾルシン、カテコール、ハイドロキノン、フルオレンビスフェノール、4,4’-ビフェノール、4,4’,4”-トリヒドロキシトリフェニルメタン、ナフタレンジオール、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、カリックスアレーン、ノボラック型フェノール樹脂(例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、ビスフェノールSノボラック樹脂、レゾルシンノボラック樹脂に代表される多価ヒドロキシ化合物とホルムアルデヒドから合成される多価フェノールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂、並びに、アルコキシ基含有芳香環変性ノボラック樹脂(ホルムアルデヒドでフェノール核及びアルコキシ基含有芳香環が連結された多価フェノール化合物))、アラルキル型フェノール樹脂(例えば、ザイロック樹脂等のフェノールアラルキル樹脂及びナフトールアラルキル樹脂)、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、トリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、ビフェニル変性ナフトール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価ナフトール化合物)、アミノトリアジン変性フェノール樹脂(メラミン、ベンゾグアナミン等でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)などの多価フェノール化合物などが挙げられる。外部量子効率の向上効果に優れる観点から、フェノール系化合物は、ノボラック型フェノール樹脂を含むことが好ましい。ノボラック型フェノール樹脂としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂及びビスフェノールAノボラック樹脂が好ましく用いられる。
【0122】
ノボラック型フェノール樹脂の具体例としては、DIC株式会社製の「PHENOLITE TD-2131」、「PHENOLITE TD-2090」(商品名)、日本化薬株式会社製の「GPH-65」、「GPH-103」(商品名)等が挙げられる。
【0123】
アミン系化合物(アミン系硬化剤)としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミンなどの脂肪族ポリアミン類、メタキシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、フェニレンジアミンなどの芳香族ポリアミン類、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミンなどの脂環族ポリアミン類等、ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとより合成されるポリアミド樹脂が挙げられる。
【0124】
硬化剤は、インク組成物の硬化物の外部量子効率の耐熱性の観点からは、酸無水物系硬化剤が望ましく、インク組成物の硬化物の硬化性及びインク組成物の粘度安定性の観点からは、フェノール系硬化剤が望ましい。
【0125】
硬化剤の含有量は、例えば、インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子、有機リガンド、光重合性化合物、熱硬化性樹脂、及び光散乱性粒子の合計含有量100質量部に対して、40質量部以下であってよく、30質量部以下であってもよく、20質量部以下であってもよく、10質量部以下であってもよい。硬化剤の含有量は、例えば、インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子、有機リガンド、光重合性化合物、熱硬化性樹脂、及び光散乱性粒子の合計含有量100質量部に対して、1質量部以上であってよく、3質量部以上であってもよい。
【0126】
[硬化促進剤(硬化触媒)]
熱硬化性樹脂を硬化させるために用いられる硬化促進剤(硬化触媒)としては、例えば、リン系化合物、第3級アミン化合物、イミダゾール化合物、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等が挙げられる。リン系化合物としては、例えばトリフェニルホスフィン、トリパラトリルホスフィン、ジフェニルシクロヘキシルホスフィン、メチルトリブチルホスホニウムアイオダイドが挙げられる。第3級アミン化合物としては、例えばN,N-ジメチルベンジルアミン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7、1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン-5、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールが挙げられる。イミダゾール化合物としては、例えば1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールが挙げられる。
【0127】
熱硬化性樹脂は、信頼性に優れる画素部(インク組成物の硬化物)が得られやすい観点から、アルカリ不溶性であってよい。熱硬化性樹脂がアルカリ不溶性であるとは、1質量%の水酸化カリウム水溶液に対する25℃における熱硬化性樹脂の溶解量が、熱硬化性樹脂の全質量を基準として、30質量%以下であることを意味する。熱硬化性樹脂の上記溶解量は、好ましくは、10質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下である。
【0128】
本実施形態において、インク組成物は、光重合性化合物及び熱硬化性樹脂のうちの少なくとも一方を含有していればよく、光重合性化合物及び熱硬化性樹脂の両方を含有していてもよい。インク組成物は、光重合性化合物を含有する場合、熱硬化性樹脂を含有しなくてよい。また、インク組成物は、熱硬化性樹脂を含有する場合、光重合性化合物を含有しなくてよい。発光性ナノ結晶粒子(例えば量子ドット)を含有するインク組成物の保存安定性、及び、画素部(インク組成物の硬化物)の耐久性(湿熱安定性等)の観点では、光重合性化合物及び熱硬化性樹脂のうち、熱硬化性樹脂を用いることが好ましく、発光性ナノ結晶粒子(例えば量子ドット)を含有するインク組成物の保存安定性、及び量子ドットの加熱による劣化を受けにくい低温での硬化が可能となる観点では、光ラジカル重合性化合物を用いることがより好ましく、硬化プロセスにおける酸素阻害を受けることなく画素部(インク組成物の硬化物)を形成できる観点では、光カチオン重合性化合物を用いることが好ましい。
【0129】
インク組成物が光重合性化合物及び熱硬化性樹脂を含む場合、光重合性化合物及び熱硬化性樹脂の含有量の合計は、インク組成物として適正な粘度が得られやすい観点、インク組成物の硬化性が良好となる観点、並びに、画素部(インク組成物の硬化物)の耐溶剤性及び耐磨耗性が向上する観点から、インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子、有機リガンド、光重合性化合物、熱硬化性樹脂、及び光散乱性粒子の合計含有量100質量部に対して、3質量部以上であってよく、5質量部以上であってもよく、10質量部以上であってもよく、15質量部以上であってもよく、20質量部以上であってもよい。また、光重合性化合物及び熱硬化性樹脂の含有量の合計は、インク組成物の粘度が高くなりすぎず、画素部の厚さが光変換機能に対して厚くなりすぎない観点から、インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子、有機リガンド、光重合性化合物、熱硬化性樹脂、及び光散乱性粒子の合計含有量100質量部に対して、60質量部以下であってよく、40質量部以下であってもよく、20質量部以下であってもよい。
【0130】
[光散乱性粒子]
光散乱性粒子は、例えば、光学的に不活性な無機微粒子である。インク組成物が光散乱性粒子を含有する場合、画素部に照射された光源からの光を散乱させることができるため、優れた光学特性を得ることができる。
【0131】
光散乱性粒子を構成する材料としては、例えば、タングステン、ジルコニウム、チタン、白金、ビスマス、ロジウム、パラジウム、銀、スズ、プラチナ、金等の単体金属;シリカ、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、アルミナホワイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化アルミニウム、酸化ビスマス、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛等の金属酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、次炭酸ビスマス、炭酸カルシウム等の金属炭酸塩;水酸化アルミニウム等の金属水酸化物;ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等の複合酸化物、次硝酸ビスマス等の金属塩などが挙げられる。光散乱性粒子は、吐出安定性に優れる観点及び外部量子効率の向上効果により優れる観点から、酸化チタン、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、チタン酸バリウム及びシリカからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛及びチタン酸バリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0132】
光散乱性粒子の形状は、球状、フィラメント状、不定形状等であってよい。しかしながら、光散乱性粒子としては、粒子形状として方向性の少ない粒子(例えば、球状、正四面体状等の粒子)を用いることが、インク組成物の均一性、流動性及び光散乱性をより高めることができ、優れた吐出安定性を得ることができる点で好ましい。
【0133】
インク組成物中での光散乱性粒子の平均粒子径(体積平均径)は、吐出安定性に優れる観点及び外部量子効率の向上効果により優れる観点から、0.05μm(50nm)以上であってよく、0.2μm(200nm)以上であってもよく、0.3μm(300nm)以上であってもよい。インク組成物中での光散乱性粒子の平均粒子径(体積平均径)は、吐出安定性に優れる観点から、1.0μm(1000nm)以下であってもよく、0.6μm(600nm)以下であってもよく、0.4μm(400nm)以下であってもよい。インク組成物中での光散乱性粒子の平均粒子径(体積平均径)は、0.05~1.0μm、0.05~0.6μm、0.05~0.4μm、0.2~1.0μm、0.2~0.6μm、0.2~0.4μm、0.3~1.0μm、0.3~0.6μm、又は0.3~0.4μmであってもよい。このような平均粒子径(体積平均径)が得られやすい観点から、使用する光散乱性粒子の平均粒子径(体積平均径)は、0.05μm以上であってよく、1.0μm以下であってもよい。本明細書中、インク組成物中での光散乱性粒子の平均粒子径(体積平均径)は、動的光散乱式ナノトラック粒度分布計により測定し、体積平均径を算出することにより得られる。また、使用する光散乱性粒子の平均粒子径(体積平均径)は、例えば透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡により各粒子の粒子径を測定し、体積平均径を算出することにより得られる。
【0134】
インク組成物における光散乱性粒子の含有量は、外部量子効率の向上効果により優れる観点から、インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子、有機リガンド、光重合性化合物、熱硬化性樹脂、及び光散乱性粒子の合計含有量100質量部に対して、0.1質量部以上であってよく、1質量部以上であってもよく、5質量部以上であってもよく、7質量部以上であってもよく、10質量部以上であってもよく、12質量部以上であってもよい。光散乱性粒子の含有量は、吐出安定性に優れる観点及び外部量子効率の向上効果により優れる観点から、インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子、有機リガンド、光重合性化合物、熱硬化性樹脂、及び光散乱性粒子の合計含有量100質量部に対して、60質量部以下であってよく、50質量部以下であってもよく、40質量部以下であってもよく、30質量部以下であってもよく、25質量部以下であってもよく、20質量部以下であってもよく、15質量部以下であってもよい。インク組成物が高分子分散剤を含む場合、光散乱性粒子の含有量を比較的多くした場合(例えば60質量部程度とした場合)であっても光散乱性粒子を良好に分散させることができる。
【0135】
発光性ナノ結晶粒子の含有量に対する光散乱性粒子の含有量の質量比(光散乱性粒子/発光性ナノ結晶粒子)は、外部量子効率の向上効果に優れる観点から、0.01以上であってよく、0.02以上であってよく、0.05以上であってよく、0.07以上であってよく、0.1以上であってよく、0.2以上であってもよく、0.5以上であってもよい。質量比(光散乱性粒子/発光性ナノ結晶粒子)は、外部量子効率の向上効果により優れ、インクジェット印刷時の連続吐出性(吐出安定性)に優れる観点から、5.0以下であってよく、2.0以下であってもよく、1.5以下であってもよい。
【0136】
インク組成物における無機成分の含有量(例えば、発光性ナノ結晶粒子と光散乱性粒子の合計量)は、インク組成物として適正な粘度が得られやすい観点から、インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子、有機リガンド、光重合性化合物、熱硬化性樹脂、及び光散乱性粒子の合計含有量100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上である。インク組成物における無機成分の含有量(例えば、発光性ナノ結晶粒子と光散乱性粒子の合計量)は、インク組成物として適正な粘度が得られやすい観点から、インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子、有機リガンド、光重合性化合物、熱硬化性樹脂、及び光散乱性粒子の合計含有量100質量部に対して、好ましくは80質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは40質量部以下である。インク組成物における無機成分の含有量(例えば、発光性ナノ結晶粒子と光散乱性粒子の合計量)は、インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子、有機リガンド、光重合性化合物、熱硬化性樹脂、及び光散乱性粒子の合計含有量100質量部に対して、5~80質量部、10~50質量部、又は20~40質量部であってよい。
【0137】
インク組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上述した成分以外の他の成分を更に含有していてもよい。他の成分としては、例えば、高分子分散剤、溶剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0138】
[高分子分散剤]
高分子分散剤は、750以上の重量平均分子量を有し、かつ、光散乱性粒子に対し親和性を有する官能基を有する高分子化合物である。高分子分散剤は、光散乱性粒子を分散させる機能を有する。高分子分散剤は、光散乱性粒子に対し親和性を有する官能基を介して光散乱性粒子に吸着し、高分子分散剤同士の静電反発及び/又は立体反発により、光散乱性粒子をインク組成物中に分散させる。高分子分散剤は、光散乱性粒子の表面と結合して光散乱性粒子に吸着していることが好ましいが、発光性ナノ結晶粒子の表面に結合して発光性ナノ粒子に吸着していてもよく、インク組成物中に遊離していてもよい。
【0139】
光散乱性粒子に対し親和性を有する官能基としては、酸性官能基、塩基性官能基及び非イオン性官能基が挙げられる。酸性官能基は解離性のプロトンを有しており、アミン、水酸化物イオン等の塩基により中和されていてもよく、塩基性官能基は有機酸、無機酸等の酸により中和されていてもよい。
【0140】
酸性官能基としては、カルボキシル基(-COOH)、スルホ基(-SOH)、硫酸基(-OSOH)、ホスホン酸基(-PO(OH))、リン酸基(-OPO(OH))、ホスフィン酸基(-PO(OH)-)、メルカプト基(-SH)が挙げられる。
【0141】
塩基性官能基としては、一級、二級及び三級アミノ基、アンモニウム基、イミノ基、並びに、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、イミダゾール、トリアゾール等の含窒素ヘテロ環基等が挙げられる。
【0142】
非イオン性官能基としては、ヒドロキシ基、エーテル基、チオエーテル基、スルフィニル基(-SO-)、スルホニル基(-SO-)、カルボニル基、ホルミル基、エステル基、炭酸エステル基、アミド基、カルバモイル基、ウレイド基、チオアミド基、チオウレイド基、スルファモイル基、シアノ基、アルケニル基、アルキニル基、ホスフィンオキサイド基、ホスフィンスルフィド基が挙げられる。
【0143】
高分子分散剤は、単一のモノマーの重合体(ホモポリマー)であってよく、複数種のモノマーの共重合体(コポリマー)であってもよい。また、高分子分散剤は、ランダム共重合体、ブロック共重合体又はグラフト共重合体のいずれであってもよい。また、高分子分散剤がグラフト共重合体である場合、くし形のグラフト共重合体であってよく、星形のグラフト共重合体であってもよい。高分子分散剤は、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレア樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレンイミン及びポリアリルアミン等のポリアミン、ポリイミドなどであってよい。
【0144】
高分子分散剤として、市販品を使用することも可能であり、市販品としては、味の素ファインテクノ株式会社製のアジスパーPBシリーズ、BYK社製のDISPERBYKシリーズ並びにBYK-シリーズ、BASF社製のEfkaシリーズ等を使用することができる。
【0145】
高分子分散剤の市販品としては、例えば、ビックケミー社製の「DISPERBYK-130」、「DISPERBYK-161」、「DISPERBYK-162」、「DISPERBYK-163」、「DISPERBYK-164」、「DISPERBYK-166」、「DISPERBYK-167」、「DISPERBYK-168」、「DISPERBYK-170」、「DISPERBYK-171」、「DISPERBYK-174」、「DISPERBYK-180」、「DISPERBYK-182」、「DISPERBYK-183」、「DISPERBYK-184」、「DISPERBYK-185」、「DISPERBYK-2000」、「DISPERBYK-2001」、「DISPERBYK-2008」、「DISPERBYK-2009」、「DISPERBYK-2020」、「DISPERBYK-2022」、「DISPERBYK-2025」、「DISPERBYK-2050」、「DISPERBYK-2070」、「DISPERBYK-2096」、「DISPERBYK-2150」、「DISPERBYK-2155」、「DISPERBYK-2163」、「DISPERBYK-2164」、「BYK-LPN21116」及び「BYK-LPN6919」;BASF社製の「EFKA4010」、「EFKA4015」、「EFKA4046」、「EFKA4047」、「EFKA4061」、「EFKA4080」、「EFKA4300」、「EFKA4310」、「EFKA4320」、「EFKA4330」、「EFKA4340」、「EFKA4560」、「EFKA4585」、「EFKA5207」、「EFKA1501」、「EFKA1502」、「EFKA1503」及び「EFKA PX-4701」;ルーブリゾール社製の「ソルスパース3000」、「ソルスパース9000」、「ソルスパース13240」、「ソルスパース13650」、「ソルスパース13940」、「ソルスパース11200」、「ソルスパース13940」、「ソルスパース16000」、「ソルスパース17000」、「ソルスパース18000」、「ソルスパース20000」、「ソルスパース21000」、「ソルスパース24000」、「ソルスパース26000」、「ソルスパース27000」、「ソルスパース28000」、「ソルスパース32000」、「ソルスパース32500」、「ソルスパース32550」、「ソルスパース32600」、「ソルスパース33000」、「ソルスパース34750」、「ソルスパース35100」、「ソルスパース35200」、「ソルスパース36000」、「ソルスパース37500」、「ソルスパース38500」、「ソルスパース39000」、「ソルスパース41000」、「ソルスパース54000」、「ソルスパース71000」及び「ソルスパース76500」;味の素ファインテクノ株式会社製の「アジスパーPB821」、「アジスパーPB822」、「アジスパーPB881」、「PN411」及び「PA111」;エボニック社製の「TEGO Dispers650」、「TEGO Dispers660C」、「TEGO Dispers662C」、「TEGO Dispers670」、「TEGO Dispers685」、「TEGO Dispers700」、「TEGO Dispers710」及び「TEGO Dispers760W」;楠本化成製の「ディスパロンDA―703―50」、「DA-705」及び「DA-725」などを用いることができる。
【0146】
[溶剤]
溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジブチルエーテル、アジピン酸ジエチル、シュウ酸ジブチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、1,4-ブタンジオールジアセテート、グリセリルトリアセテートなどが挙げられる。
【0147】
溶剤の大気圧下における沸点は、インク組成物の連続吐出性の観点から、好ましくは150℃以上であり、より好ましくは180℃以上である。また、画素部の形成時には、インク組成物の硬化前にインク組成物から溶剤を除去する必要があるため、溶剤を除去しやすい観点から、溶剤の大気圧下における沸点は好ましくは300℃以下である。
【0148】
本実施形態のインク組成物では光重合性化合物が分散媒としても機能するため、無溶剤で光散乱性粒子及び発光性ナノ結晶粒子を分散させることが可能である。この場合、画素部を形成する際に溶剤を乾燥により除去する工程が不要となる利点を有する。
【0149】
[酸化防止剤]
インク組成物は、酸化防止剤を更に含有していてもよい。この場合、量子収率を向上させ、かつ量子収率の経時的な低下を更に抑制することができる。酸化防止剤は、例えば、亜リン酸エステル化合物、チオエーテル化合物等であってよく、量子収率を向上させ、かつ量子収率の経時的な低下を更に抑制できる観点から、好ましくは亜リン酸エステル化合物である。
【0150】
酸化防止剤は、亜リン酸トリエステル化合物であってよい。亜リン酸トリエステル化合物は、下記式(2)で表される化合物であってよい。
【0151】
【化7】
【0152】
式(2)中、R、R及びRは、それぞれ独立に1価の有機基を示す。R、R及びRから選ばれる2種は、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0153】
式(2)で表される化合物としては、具体的に、亜リン酸トリフェニル(トリフェニルホスファイト)、2-エチルヘキシルジフェニルホスファイト、ジフェニルオクチルホスファイト等が挙げられる。
【0154】
亜リン酸トリエステル化合物は、室温(25℃)で液体であっても、固体であってもよいが、好ましくは、インク組成物中の他の成分(光重合性化合物等)との相溶性というインク組成物に特有の要求性能を充分に満たし、インク組成物の量子収率の低下が更に抑制できる観点から、室温(25℃)で液体である。亜リン酸トリエステル化合物の融点は、20℃以下、又は10℃以下であってよい。
【0155】
酸化防止剤の含有量は、インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子、有機リガンド、光重合性化合物、熱硬化性樹脂、及び光散乱性粒子の合計含有量100質量部に対して、インク組成物の量子収率の低下がより抑制されるという観点から、0.01質量部以上であってよく、0.1質量部以上であってもよく、1質量部以上であってもよく、5質量部以上であってもよい。少量添加でも量子収率の低下をより効果的に抑制することができるため、酸化防止剤の含有量は、インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子、有機リガンド、光重合性化合物、熱硬化性樹脂、及び光散乱性粒子の合計含有量100質量部に対して、好ましくは10質量部以下であり、より好ましくは7質量部以下であり、更に好ましくは5質量部以下であり、更により好ましくは3質量部以下である。酸化防止剤の含有量が上記範囲内である場合、塗布膜形成時に、より良好な膜強度の確保が可能となることに加え、酸化防止剤の表面へのブリードがより抑制され、かつ、良好な光学特性の確保が可能となる。
【0156】
インク組成物が光重合性化合物を含有する場合、酸化防止剤の含有量は、インク組成物の量子収率の低下がより抑制されるという観点から、光重合性化合物100質量部に対して、0.01質量部以上であってよく、0.1質量部以上であってもよく、0.5質量部以上であってもよく、1質量部以上であってもよく、3質量部以上であってもよい。少量添加でも量子収率の低下をより効果的に抑制することができるため、酸化防止剤の含有量は、光重合性化合物100質量部に対して、10質量部以下であってよく、7質量部以下であってもよく、5質量部以下であってもよい。酸化防止剤の含有量が上記範囲内である場合、塗布膜形成時に、より良好な膜強度の確保が可能となることに加え、酸化防止剤の表面へのブリードをより抑制し、かつ、良好な光学特性の確保が可能となる傾向にある。
【0157】
以上説明したインク組成物のインクジェット印刷時のインク温度(例えば、25~40℃の温度範囲)における粘度は、例えば、インクジェット印刷時の吐出安定性の観点から、2mPa・s以上であってよく、5mPa・s以上であってもよく、7mPa・s以上であってもよい。インク組成物のインクジェット印刷時のインク温度(例えば、25~40℃の温度範囲)における粘度は、20mPa・s以下であってよく、15mPa・s以下であってもよく、12mPa・s以下であってもよい。インク組成物のインクジェット印刷時のインク温度(例えば、25~40℃の温度範囲)における粘度は、例えば、2~20mPa・s、2~15mPa・s、2~12mPa・s、5~20mPa・s、5~15mPa・s、5~12mPa・s、7~20mPa・s、7~15mPa・s、又は7~12mPa・sであってもよい。例えば、インク組成物の40℃における粘度が上記範囲であってよい。本明細書中、インク組成物の粘度は、例えば、E型粘度計によって測定される粘度である。
25~40℃の温度範囲にて上記粘度範囲に入る粘度として、25℃での粘度が30mPa・s以下である事がさらに好ましい。
【0158】
インク組成物のインクジェット印刷時のインク温度における粘度が2mPa・s以上である場合、吐出ヘッドのインク吐出孔の先端におけるインク組成物のメニスカス形状が安定するため、インク組成物の吐出制御(例えば、吐出量及び吐出のタイミングの制御)が容易となる。一方、インク組成物のインクジェット印刷時のインク温度における粘度が20mPa・s以下である場合、インク吐出孔からインク組成物を円滑に吐出させることができる。
【0159】
インク組成物の表面張力は、インクジェット方式に適した表面張力であることが好ましく、具体的には、20~40mN/mの範囲であることが好ましく、25~35mN/mであることがより好ましい。表面張力を当該範囲とすることで吐出制御(例えば、吐出量及び吐出のタイミングの制御)が容易になると共に、飛行曲がりの発生を抑制することができる。なお、飛行曲がりとは、インク組成物をインク吐出孔から吐出させたとき、インク組成物の着弾位置が目標位置に対して30μm以上のずれを生じることをいう。表面張力が40mN/m以下である場合、インク吐出孔の先端におけるメニスカス形状が安定するため、インク組成物の吐出制御(例えば、吐出量及び吐出のタイミングの制御)が容易となる。一方、表面張力が20mN/m以上である場合、インク吐出孔周辺部がインク組成物で汚染することが防げるため、飛行曲がりの発生を抑制できる。すなわち、着弾すべき画素部形成領域に正確に着弾されずにインク組成物の充填が不充分な画素部が生じたり、着弾すべき画素部形成領域に隣接する画素部形成領域(又は画素部)にインク組成物が着弾し、色再現性が低下したりすることがない。
【0160】
本実施形態のインク組成物は、圧電素子を用いた機械的吐出機構による、ピエゾジェット方式のインクジェット記録装置に適用することが好ましい。ピエゾジェット方式では、吐出に当たり、インク組成物が瞬間的に高温に晒されることがない。そのため、発光性ナノ結晶粒子の変質が起こり難く、画素部(光変換層)において、期待した通りの発光特性がより容易に得られやすい。
【0161】
本実施形態のインク組成物は硬化後の画素部(光変換層)が例えば、光変換層厚さ15umとなるよう作製した場合、バックライトである青色光の漏れ率が10%以下である事が好ましい。画素部からの青色光の漏れ率を10%以下とする事より、各画素部の色純度が高くなり、ディスプレイとしての色域を高くする事ができる。青色光の漏れ率は一般的な分光器、例えば大塚電子製マルチチャンネル分光器MCPD-9800等により、測定でき、下記式によって定義する事が可能である。
【0162】
青色漏れ光=画素部から漏れる青色光のフォトン数/画素部に入射される青色光のフォトン数
【0163】
青色光は、発光ピークが420~480nmの範囲の光であり、発光ピーク440~470nm、440~460nmの範囲である事が好ましい。
【0164】
インク組成物の塗布膜が大気中の水分を吸収することを抑制し、時間が経過しても発光性ナノ結晶粒子(量子ドット等)の発光性(例えば蛍光性)が低下することを抑制する観点から、本実施形態においては、インク組成物の塗布膜はアルカリ不溶性であることが好ましい。すなわち、本実施形態のインク組成物は、アルカリ不溶性の塗布膜を形成可能なインク組成物であることが好ましい。このようなインク組成物は、光重合性化合物及び/又は熱硬化性樹脂として、アルカリ不溶性の光重合性化合物及び/又はアルカリ不溶性の熱硬化性樹脂を用いることにより得ることができる。インク組成物の塗布膜がアルカリ不溶性であるとは、1質量%の水酸化カリウム水溶液に対する25℃におけるインク組成物の塗布膜の溶解量が、インク組成物の塗布膜の全質量を基準として、30質量%以下であることを意味する。インク組成物の塗布膜の上記溶解量は、好ましくは、10質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下である。なお、インク組成物がアルカリ不溶性の塗布膜を形成可能なインク組成物であることは、インク組成物を基材上に塗布した後、80℃、3分の条件で乾燥して得られる厚さ1μmの塗布膜の、上記溶解量を測定することにより確認できる。
【0165】
<インク組成物の製造方法>
上述した実施形態のインク組成物は、例えば、上述したインク組成物の構成成分を混合し、分散処理を行うことで得られる。
【0166】
インク組成物の製造方法は、例えば、光散乱性粒子を含有する、光散乱性粒子の分散体を用意する第1の工程と、光散乱性粒子の分散体及び発光性ナノ結晶粒子を混合する第2の工程と、を備える。発光性ナノ結晶粒子としては、その表面に有機リガンドを有する発光性ナノ結晶粒子を用いる。すなわち、発光性ナノ結晶粒子分散体は、有機リガンドを更に含む。光散乱性粒子の分散体は、高分子分散剤を更に含んでいてよい。この方法では、光散乱性粒子の分散体が光重合性化合物及び/又は熱硬化性樹脂を更に含有してよく、第2の工程において、光重合性化合物及び/又は熱硬化性樹脂を更に混合してもよい。この方法によれば、光散乱性粒子を充分に分散させることができる。そのため、画素部の光学特性を向上させることができると共に、吐出安定性に優れるインク組成物を容易に得ることができる。
【0167】
光散乱性粒子の分散体を用意する工程では、光散乱性粒子と、場合により、高分子分散剤、並びに光重合性化合物及び/又は熱硬化性樹脂と、を混合し、分散処理を行うことにより光散乱性粒子の分散体を調製してよい。混合及び分散処理は、ビーズミル、ペイントコンディショナー、遊星攪拌機、ジェットミル等の分散装置を用いて行ってよい。光散乱性粒子の分散性が良好となり、光散乱性粒子の平均粒子径を所望の範囲に調整しやすい観点から、ビーズミル又はペイントコンディショナーを用いることが好ましい。発光性ナノ結晶粒子と光散乱性粒子とを混合する前に光散乱性粒子と高分子分散剤とを混合することにより、光散乱性粒子をより充分に分散させることができる。そのため、優れた吐出安定性及び優れた外部量子効率をより一層容易に得ることができる。
【0168】
インク組成物の製造方法は、第2の工程の前に、発光性ナノ結晶粒子と、有機溶剤とを含有する、発光性ナノ結晶粒子の分散体を用意する工程を更に備えていてもよい。この場合、第2の工程では、光散乱性粒子の分散体と、発光性ナノ結晶粒子の分散体と、を混合する。発光性ナノ結晶粒子の分散体を用意する工程では、発光性ナノ結晶粒子と、有機溶剤とを混合し、分散処理を行うことにより発光性ナノ結晶粒子分散体を調製してよい。混合及び分散処理は、ビーズミル、ペイントコンディショナー、遊星攪拌機、ジェットミル等の分散装置を用いて行ってよい。発光性ナノ結晶粒子の分散性が良好となり、発光性ナノ結晶粒子の平均粒子径を所望の範囲に調整しやすい観点から、ビーズミル、ペイントコンディショナー又はジェットミルを用いることが好ましい。この方法によれば、発光性ナノ結晶粒子を充分に分散させることができる。そのため、画素部の光学特性を向上させることができると共に、吐出安定性に優れるインク組成物を容易に得ることができる。上記工程では、発光性ナノ結晶粒子の分散体に光重合性化合物及び/又は熱硬化性樹脂を更に含有させてよい。
【0169】
この製造方法において、有機溶剤は、第1の工程で配合してもよく、第2の工程で配合してもよい。すなわち、第1の工程は、光散乱性粒子と、高分子分散剤と、有機溶剤と、を含有する、光散乱性粒子の分散体を用意する工程であってよく、第2の工程は、光散乱性粒子の分散体と、発光性ナノ結晶粒子と、有機溶剤と、を混合する工程であってよい。
【0170】
インク組成物の製造方法は、有機溶剤と熱硬化性樹脂及び/又は光重合性化合物とを混合し、熱硬化性樹脂及び/又は光重合性化合物を含む溶液を用意する工程を更に備えていてもよい。この場合、第2の工程において、上述の工程で用意した光散乱粒子分散体と発光性ナノ結晶粒子分散体と熱硬化性樹脂及び/又は光重合性化合物を含む溶液と、有機溶剤と、を混合してよい。すなわち、第2の工程は、光散乱粒子分散体と発光性ナノ結晶粒子分散体と熱硬化性樹脂及び/又は光重合性化合物を含む溶液と、有機溶剤と、を混合する工程であってよい。
【0171】
この製造方法では、上述した成分以外の他の成分を更に用いてもよい。この場合、他の成分は、発光性ナノ結晶粒子分散体に含有させてもよく、光散乱性粒子分散体に含有させてもよい。また、他の成分を、発光性ナノ結晶粒子分散体と光散乱性粒子分散体とを混合して得られる組成物に混合してもよい。
【0172】
<インク組成物セット>
一実施形態のインク組成物セットは、上述した実施形態のインク組成物を備える。インク組成物セットは、上述した実施形態のインク組成物(発光性インク組成物)に加えて、発光性ナノ結晶粒子を含有しないインク組成物(非発光性インク組成物)を備えていてよい。非発光性インク組成物は、従来公知のインク組成物であってよく、発光性ナノ結晶粒子を含まないこと以外は、上述した実施形態のインク組成物(発光性インク組成物)と同様の組成であってもよい。
【0173】
非発光性インク組成物は、発光性ナノ結晶粒子を含有しないため、非発光性インク組成物により形成される画素部(非発光性インク組成物の硬化物を含む画素部)に光を入射させた場合に画素部から出射する光は、入射光と略同一の波長を有する。したがって、非発光性インク組成物は、光源からの光と同色の画素部を形成するために好適に用いられる。例えば、光源からの光が420~480nmの範囲の波長を有する光(青色光)である場合、非発光性インク組成物により形成される画素部は青色画素部となり得る。
【0174】
非発光性インク組成物は、好ましくは光散乱性粒子を含有する。非発光性インク組成物が光散乱性粒子を含有する場合、当該非発光性インク組成物により形成される画素部によれば、画素部に入射した光を散乱させることができ、これにより、画素部からの出射光の、視野角における光強度差を低減することができる。
【0175】
<光変換層及びカラーフィルタ、並びにそれらの製造方法>
以下、上述した実施形態のインク組成物セットを用いて得られる光変換層及びカラーフィルタの詳細について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0176】
図1は、一実施形態のカラーフィルタの模式断面図である。図1に示すように、カラーフィルタ100は、基材40と、基材40上に設けられた光変換層30と、を備える。光変換層30は、複数の画素部10と、遮光部20と、を備えている。
【0177】
光変換層30は、画素部10として、第1の画素部10aと、第2の画素部10bと、第3の画素部10cとを有している。第1の画素部10aと、第2の画素部10bと、第3の画素部10cとは、この順に繰り返すように格子状に配列されている。遮光部20は、隣り合う画素部の間、すなわち、第1の画素部10aと第2の画素部10bとの間、第2の画素部10bと第3の画素部10cとの間、第3の画素部10cと第1の画素部10aとの間に設けられている。言い換えれば、これらの隣り合う画素部同士は、遮光部20によって離間されている。
【0178】
第1の画素部10a及び第2の画素部10bは、それぞれ上述した実施形態のインク組成物の硬化物を含む発光性の画素部(発光性画素部)である。硬化物は、発光性ナノ結晶粒子と、硬化成分と、光散乱性粒子と、を含有する。硬化成分は、光重合性化合物の重合及び/又は熱硬化性樹脂の硬化(重合、架橋等)によって得られる成分であり、光重合性化合物の重合体及び/又は熱硬化性樹脂の硬化体を含む。すなわち、第1の画素部10aは、第1の硬化成分13aと、第1の硬化成分13a中にそれぞれ分散された第1の発光性ナノ結晶粒子11a及び第1の光散乱性粒子12aとを含む。同様に、第2の画素部10bは、第2の硬化成分13bと、第2の硬化成分13b中にそれぞれ分散された第2の発光性ナノ結晶粒子11b及び第2の光散乱性粒子12bとを含む。第1の画素部10a及び第2の画素部10bにおいて、第1の硬化成分13aと第2の硬化成分13bとは同一であっても異なっていてもよく、第1の光散乱性粒子12aと第2の光散乱性粒子12bとは同一であっても異なっていてもよい。
【0179】
第1の発光性ナノ結晶粒子11aは、420~480nmの範囲の波長の光を吸収し605~665nmの範囲に発光ピーク波長を有する光を発する、赤色発光性のナノ結晶粒子である。すなわち、第1の画素部10aは、青色光を赤色光に変換するための赤色画素部と言い換えてよい。また、第2の発光性ナノ結晶粒子11bは、420~480nmの範囲の波長の光を吸収し500~560nmの範囲に発光ピーク波長を有する光を発する、緑色発光性のナノ結晶粒子である。すなわち、第2の画素部10bは、青色光を緑色光に変換するための緑色画素部と言い換えてよい。上記、緑色発光の画素部に、本発明のAg、In、GaおよびSを有するインク組成物が使用される事が好ましい。
【0180】
発光性画素部における発光性ナノ結晶粒子及び有機リガンドの合計含有量は、発光性画素部の全質量を基準として、10質量%以上であり、15質量%以上、21質量%以上、25質量%以上、27質量%以上、30質量%以上、35質量%以上、40質量%以上、45質量%以上又は50質量%以上であってもよく、70質量%以下、65質量%以下、60質量%以下又は55質量%以下であってもよい。
【0181】
発光性画素部における光散乱性粒子の含有量は、外部量子効率の向上効果により優れる観点から、発光性画素部の全質量を基準として、0.1質量%以上であってよく、1質量%以上であってもよく、3質量%以上であってもよく、5質量%以上であってもよい。光散乱性粒子の含有量は、外部量子効率の向上効果により優れる観点及び画素部の信頼性に優れる観点から、発光性画素部の全質量を基準として、60質量%以下であってよく、50質量%以下であってもよく、40質量%以下であってもよく、30質量%以下であってもよい。
【0182】
第3の画素部10cは、上述した非発光性インク組成物の硬化物を含む非発光性の画素部(非発光性画素部)である。硬化物は、発光性ナノ結晶粒子を含有せず、光散乱性粒子と、硬化成分とを含有する。硬化成分は、例えば、光重合性化合物の重合及び/又は熱硬化性樹脂の硬化(重合、架橋等)によって得られる成分であり、光重合性化合物の重合体及び/又は熱硬化性樹脂の硬化体を含む。すなわち、第3の画素部10cは、第3の硬化成分13cと、第3の硬化成分13c中に分散された第3の光散乱性粒子12cとを含む。第3の光散乱性粒子12cは、第1の光散乱性粒子12a及び第2の光散乱性粒子12bと同一であっても異なっていてもよい。
【0183】
第3の画素部10cは、例えば、420~480nmの範囲の波長の光に対し30%以上の透過率を有する。そのため、第3の画素部10cは、420~480nmの範囲の波長の光を発する光源を用いる場合に、青色画素部として機能する。なお、第3の画素部10cの透過率は、顕微分光装置により測定することができる。
【0184】
非発光性画素部における光散乱性粒子の含有量は、視野角における光強度差をより低減することができる観点から、非発光性画素部の全質量を基準として、1質量%以上であってよく、5質量%以上であってもよく、10質量%以上であってもよい。光散乱性粒子の含有量は、光反射をより低減することができる観点から、非発光性画素部の全質量を基準として、80質量%以下であってよく、75質量%以下であってもよく、70質量%以下であってもよい。
【0185】
画素部(第1の画素部10a、第2の画素部10b及び第3の画素部10c)の厚さは、例えば、1μm以上、2μm以上、3μm以上、4μm以上、5μm以上、又は6μm以上であってもよく、30μm以下、又は20μm以下であってもよい。
【0186】
遮光部20は、隣り合う画素部を離間して混色を防ぐ目的及び光源からの光の漏れを防ぐ目的で設けられる、いわゆるブラックマトリックスである。遮光部20を構成する材料は、特に限定されず、クロム等の金属の他、バインダーポリマーにカーボン微粒子、金属酸化物、無機顔料、有機顔料等の遮光性粒子を含有させた樹脂組成物の硬化物等を用いることができる。ここで用いられるバインダーポリマーとしては、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ゼラチン、カゼイン、セルロース等の樹脂を1種又は2種以上混合したもの、感光性樹脂、O/Wエマルジョン型の樹脂組成物(例えば、反応性シリコーンをエマルジョン化したもの)などを用いることができる。遮光部20の厚さは、例えば、0.5μm以上であってよく、10μm以下であってよい。
【0187】
基材40は、光透過性を有する透明基材であり、例えば、石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、合成石英板等の透明なガラス基板、透明樹脂フィルム、光学用樹脂フィルム等の透明なフレキシブル基材などを用いることができる。これらの中でも、ガラス中にアルカリ成分を含まない無アルカリガラスからなるガラス基板を用いることが好ましい。具体的には、コーニング社製の「7059ガラス」、「1737ガラス」、「イーグル200」及び「イーグルXG」、旭硝子社製の「AN100」、日本電気硝子社製の「OA-10G」及び「OA-11」が好適である。これらは、熱膨脹率の小さい素材であり寸法安定性及び高温加熱処理における作業性に優れる。
【0188】
以上の光変換層30を備えるカラーフィルタ100は、420~480nmの範囲の波長の光を発する光源を用いる場合に好適に用いられる。
【0189】
一実施形態に係る光変換層30(カラーフィルタ100)の製造方法は、基材40上に遮光部20を形成する工程(遮光部形成工程)と、基材40上の遮光部20によって区画された画素部形成領域に、上述した実施形態のインク組成物をインクジェット方式により配置する工程(配置工程)と、インク組成物を硬化させる工程(硬化工程)と、を備えている。
【0190】
遮光部形成工程では、遮光部20をパターン状(例えば格子状)に形成する。遮光部20を形成する方法は、基材40の一面側に、クロム等の金属薄膜、又は、遮光性粒子を含有させた樹脂組成物の薄膜を形成し、この薄膜をパターニングする方法等が挙げられる。金属薄膜は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法等により形成することができる。遮光性粒子を含有させた樹脂組成物の薄膜は、例えば、塗布、印刷等の方法により形成することができる。パターニングを行う方法としては、フォトリソグラフィ法等が挙げられる。
【0191】
配置工程では、インクジェット方式により、画素部形成領域(基材40上の遮光部20が形成されていない領域(遮光部20の開口部))に、インク組成物を選択的に配置する(付着させる)。インクジェット方式としては、エネルギー発生素子として電気熱変換体を用いたバブルジェット(登録商標)方式、或いは圧電素子を用いたピエゾジェット方式等が挙げられる。
【0192】
硬化工程では、配置工程により配置されたインク組成物を、活性エネルギー線の照射又は加熱により硬化させる。
【0193】
活性エネルギー線(例えば紫外線)の照射によりインクジェットを硬化させる場合、光源としては、例えば、水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、LED等を用いてよい。照射する光の波長は、例えば、200nm以上であってよく、440nm以下であってよい。露光量は、例えば、10mJ/cm以上であってよく、20000mJ/cm以下であってよい。
【0194】
加熱によりインク組成物を硬化させる場合、加熱温度は、例えば、110℃以上であってよく、250℃以下であってよい。加熱時間は、例えば、10分間以上であってよく、120分間以下であってよい。
【0195】
インク組成物が溶剤(有機溶剤)を含有する場合、本実施形態の製造方法は、溶剤を揮発させる工程(揮発工程)を更に備えていてよい。揮発工程は、例えば、配置工程と硬化工程との間に行われる。揮発工程では、例えばインク組成物を加熱することにより、溶剤を揮発させる。加熱温度は、例えば、50℃以上であってよく、150℃以下であってよい。加熱時間は、例えば、1分間以上又は3分間以上であってよく、30分間以下であってよい。
【0196】
揮発工程では、減圧による乾燥(減圧乾燥)で溶剤(有機溶剤)を揮発させてもよい。減圧乾燥の条件は、通常、インク組成物の組成を制御する観点から、1.0~500Paの圧力下、20~30℃で3~30分間であってよい。
【0197】
以上、カラーフィルタ及び光変換層、並びにこれらの製造方法の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0198】
例えば、光変換層は、第3の画素部10cに代えて又は第3の画素部10cに加えて、青色発光性のナノ結晶粒子を含有する発光性インク組成物の硬化物を含む画素部(青色画素部)を備えていてもよい。また、光変換層は、赤、緑、青以外の他の色の光を発するナノ結晶粒子を含有する発光性インク組成物の硬化物を含む画素部(例えば黄色画素部)を備えていてもよい。これらの場合、光変換層の各画素部に含有される発光性ナノ結晶粒子のそれぞれは、同一の波長域に吸収極大波長を有することが好ましい。
【0199】
また、光変換層の画素部の少なくとも一部は、発光性ナノ結晶粒子以外の顔料を含有する組成物の硬化物を含むものであってもよい。
【0200】
また、カラーフィルタは、遮光部のパターン上に、遮光部よりも幅の狭い撥インク性を持つ材料からなる撥インク層を備えていてもよい。また、撥インク層を設けるのではなく、画素部形成領域を含む領域に、濡れ性可変層としての光触媒含有層をベタ塗り状に形成した後、当該光触媒含有層にフォトマスクを介して光を照射して露光を行い、画素部形成領域の親インク性を選択的に増大させてもよい。光触媒としては、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0201】
また、カラーフィルタは、基材と画素部との間に、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ゼラチン等を含むインク受容層を備えていてもよい。
【0202】
また、カラーフィルタは、画素部上に保護層を備えていてもよい。この保護層は、カラーフィルタを平坦化すると共に、画素部に含有される成分、又は、画素部に含有される成分及び光触媒含有層に含有される成分の液晶層への溶出を防止するために設けられるものである。保護層を構成する材料は、公知のカラーフィルタ用保護層として使用されているものを使用できる。
【0203】
また、本実施形態の光変換層の画素部には、上記した発光性ナノ結晶粒子に加えて、発光性ナノ結晶粒子の発光色と概ね同色の顔料を更に含有させてもよい。顔料を画素部に含有させるため、インク組成物に顔料を含有させてもよい。
【0204】
また、本実施形態の光変換層中の赤色画素部(R)、緑色画素部(G)、及び青色画素部(B)のうち、1種又は2種の発光性画素部を、発光性ナノ結晶粒子を含有させずに色材を含有させた画素部としてもよい。ここで使用し得る色材としては、公知の色材を使用することができ、例えば、赤色画素部(R)に用いる色材としては、ジケトピロロピロール顔料及び/又はアニオン性赤色有機染料が挙げられる。緑色画素部(G)に用いる色材としては、ハロゲン化銅フタロシアニン顔料、フタロシアニン系緑色染料、フタロシアニン系青色染料とアゾ系黄色有機染料との混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。青色画素部(B)に用いる色材としては、ε型銅フタロシアニン顔料及び/又はカチオン性青色有機染料が挙げられる。これらの色材の使用量は、光変換層に含有させる場合には、透過率の低下を防止できる観点から、画素部(インク組成物の硬化物)の全質量を基準として、1~5質量%であることが好ましい。
【実施例0205】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例で用いた材料は全て、アルゴンガスを導入して溶存酸素をアルゴンガスに置換したものを用いた。酸化チタンについては、混合前に、1mmHgの減圧下、4時間、175℃で加熱し、アルゴンガス雰囲気下で放冷したものを用いた。実施例で用いた液状の材料は、混合前にあらかじめ、モレキュラーシーブス3Aで48時間以上脱水して用いた。
【0206】
<AIGSナノ結晶粒子分散体の作製>
米国Nanosys社製のAIGSナノ結晶分散体(AIGS QD in butyl acetate、ナノ結晶分散体濃度35%)に対して、4倍量のヘプタンを添加することにより、ナノ結晶粒子を凝集させ、遠心分離にて沈殿させた後、上澄みの傾瀉によってナノ結晶粒子を分離しした。得られたナノ結晶粒子を1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(新中村化学工業株式会社製、商品名:NKエステルA-HD-N、以下「HDDA」ともいう。)に分散させることにより、AIGSナノ結晶粒子分散体を得た。分散体中の発光性ナノ結晶粒子濃度(有機リガンド含む)の含有量は50質量%であった。SDSに記載の通り、上記AIGSナノ結晶分散体に含まれる、発光性ナノ結晶粒子は、銀(Ag)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)及び硫黄(S)から構成されたものである。
【0207】
<InPナノ結晶粒子分散体の作製>
ナノ結晶粒子分散体をNanosys社製のInPナノ結晶分散体(Gen3 QD in PGMEA, ver4、ナノ結晶粒子分散体濃度30%)に変えた以外はAIGSナノ結晶粒子分散体の作製と同様の方法にてInPナノ結晶粒子分散体を得た。分散体中の発光性ナノ結晶粒子濃度(有機リガンド含む)の含有量は50質量%であった。
【0208】
<光散乱性粒子分散体の準備>
アルゴンガスで満たした容器内で、酸化チタン(商品名:CR-60-2、石原産業(株)製、平均粒子径(体積平均径):210nm)を34gと、高分子分散剤(商品名:アジスパーPB-821、味の素ファインテクノ(株)製)を1.0gと、光散乱性粒子分散媒である、HDDA35.0gを混合した後、得られた混合物にジルコニアビーズ(直径:1.25mm)を加え、ペイントコンディショナーを用いて2時間振とうさせることで混合物を分散処理し、ポリエステルメッシュフィルターにてジルコニアビーズを除去することで光散乱性粒子分散体を得た。
【0209】
[インク組成物の調製]
<実施例1>
AIGSナノ結晶分散体を7.0gと、光散乱性粒子分散体1を0.7gと、光重合開始剤Omnirad TPO-H(IGM resin社製)を0.12gと光重合開始剤Omnirad 819(IGM resin社製)を0.02gと、酸化防止剤JPE-10 (城北化学工業製)を0.1gおよびHDDAを2.1g、アルゴンガスで満たした容器内で均一に混合した後、グローブボックス内で、混合物を孔径5μmのフィルターでろ過。組成物1を調整した。組成物中の発光性ナノ結晶粒子(有機リガンド含む)、光重合性化合物、光重合性開始剤、光拡散粒子、高分子分散剤および酸化防止剤の組成は表1の通りであった。
【0210】
<実施例2>
ナノ結晶粒子、光重合化合物、光散乱粒子、高分子分散剤、光重合開始剤および酸化防止剤の組成比率が表1の通りになる様、配合比率を変えた以外は実施例1と同様の方法にて組成物2を調整した。
【0211】
<比較例1~3>
ナノ結晶粒子として、AIGSナノ結晶分散体の代わりにInPナノ結晶分散体を用いて、光重合化合物、光散乱粒子、高分子分散剤、光重合開始剤および酸化防止剤の組成比率が表1の通りになる様、配合比率を変えた以外は実施例1と同様の方法にて組成物3~5を調整した。
【0212】
[光学特性の評価]
[評価用試料の作製]
各組成物を、ガラス基板上に、膜厚が15μmとなるように、スピンコーターにて大気中で塗布した。塗布膜を窒素雰囲気下、主波長395nmのLEDランプを用いたUV照射装置で積算光量1500mJ/cmになるようにUVを照射して硬化させて、ガラス基板上に硬化物からなる層(光変換層)を形成した。これにより、光変換層を有する基材である、各評価用試料を作製した。
【0213】
[青色漏れ光の評価]
面発光光源としてシーシーエス(株)社製の青色LED(ピーク発光波長:450nm)を用いた。測定装置は、大塚電子(株)製の放射分光光度計(商品名「MCPD-9800」)に積分球を接続し、青色LEDの上側に積分球を設置した。青色LEDと積分球との間に、上記硬化性評価と同じ手順で作製した光変換層を有する基材を挿入し、青色LEDを点灯させて観測されるスペクトル、各波長における照度を測定した。
【0214】
上記の測定装置で測定されるスペクトル及び照度より、以下のようにしてガラス基板上の硬化物の青色光に光学密度(OD@450nm)を求めた。この値は、光変換層に入射した青色光(光子)のうち、どの程度、光変換層にて青色光が吸収されたかを示す値であり、この値が大きければ青色漏れ光が小さく、QD-CFの色再現性が高くなることを示す評価指標である。
【0215】
Blue Transmittance(%)=T(Blue)/E(Blue)
フィルムOD=-Log10(Blue Transmittance)
【0216】
ここで、T(Blue)およびE(Blue)はそれぞれ以下を表す。
T(Blue):380~490nmの波長領域における、フィルムを載せた後の「照度×波長÷hc」の合計値を示す。
E(Blue):380~490nmの波長領域における、フィルムを載せる前の「照度×波長÷hc」の合計値を示す。
【0217】
[インク組成物の粘度及び大気雰囲気での増粘の評価]
実施例及び比較例のインク組成物の粘度の評価は、25℃における粘度をE型粘度計を用いて測定することにより実施した。
【0218】
【表1】
【0219】
上表からわかる通り、本発明のインク組成物は、特定構成元素を有した発光性ナノ結晶粒子を用いるので、良好なフィルムODと良好なインク粘度を兼備でき、更には、より少量の発光性ナノ結晶粒子の使用でも優れたフィルムODとすることができる。
従来の発光性ナノ粒子では光拡散粒子を増量することで、フィルムODは高めることができるが、インク粘度が高くなってしまうということがわかる。
【符号の説明】
【0220】
10…画素部、10a…第1の画素部、10b…第2の画素部、10c…第3の画素部、11a…第1の発光性ナノ結晶粒子、11b…第2の発光性ナノ結晶粒子、12a…第1の光散乱性粒子、12b…第2の光散乱性粒子、12c…第3の光散乱性粒子、20…遮光部、30…光変換層、40…基材、100…カラーフィルタ。
図1