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特開2025-27150免疫学的測定方法および免疫学的測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025027150
(43)【公開日】2025-02-27
(54)【発明の名称】免疫学的測定方法および免疫学的測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20250219BHJP
   G01N 33/551 20060101ALI20250219BHJP
   G01N 27/72 20060101ALI20250219BHJP
【FI】
G01N33/543 541A
G01N33/551
G01N27/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021178823
(22)【出願日】2021-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(71)【出願人】
【識別番号】513220126
【氏名又は名称】マグアレイ,インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】521 COTTONWOOD DRIVE, SUITE 121, MILPITAS, CA 95035, UNITED STATES OF AMERICA
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】万里 千裕
(72)【発明者】
【氏名】板橋 直志
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 俊郎
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA01
2G053AB01
2G053BA08
2G053BB08
2G053BB11
2G053CA06
(57)【要約】
【課題】磁気センサを用いてバイオマーカーをより高感度に検出する、免疫学的測定方法および免疫学的測定装置を提供する。
【解決手段】磁気センサ11にリンカー12が固定化された溶液槽に、測定対象物試料を導入し、反応させる(反応工程)。測定対象物試料は、キャプチャー抗体13と、測定対象物14であるバイオマーカーと、検出抗体15と、磁性粒子16とを備える。磁性粒子16は検出抗体15と結合する。磁性粒子16を磁気センサ11に近付ける(近付け工程)。近付け工程の実行が開始された後に、磁気センサ11を用いて測定対象物試料について信号を測定する(測定工程)。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気センサにリンカーが固定化された溶液槽に、測定対象物試料を導入し、反応させる反応工程であって、前記測定対象物試料は、キャプチャー抗体と、測定対象物であるバイオマーカーと、検出抗体と、磁性粒子とを備え、前記磁性粒子は前記検出抗体と結合する、反応工程と、
前記磁性粒子を前記磁気センサに近付ける、近付け工程と、
前記近付け工程の実行が開始された後に、磁気センサを用いて前記測定対象物試料について信号を測定する、測定工程と、
を有する、免疫学的測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の免疫学的測定方法において、前記近付け工程は、反応溶液の流れの向きを制御する工程を有する、免疫学的測定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の免疫学的測定方法において、前記近付け工程は、反応溶液を除去する工程を有する、免疫学的測定方法。
【請求項4】
請求項1に記載の免疫学的測定方法において、前記近付け工程は、反応溶液の蒸発を促進する工程を有する、免疫学的測定方法。
【請求項5】
請求項1に記載の免疫学的測定方法において、
前記近付け工程は、
反応溶液の流れの向きを制御する工程と、
反応溶液の蒸発を促進する工程と、
を有する、免疫学的測定方法。
【請求項6】
請求項1に記載の免疫学的測定方法において、前記リンカーは、前記キャプチャー抗体を、前記磁気センサに対する距離が可変となるように前記磁気センサに結合する、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の免疫学的測定方法において、
前記反応工程は、
前記測定対象物に検出抗体を反応させる工程と、
前記検出抗体に前記磁性粒子を反応させる工程と、
を有する、免疫学的測定方法。
【請求項8】
請求項1に記載の免疫学的測定方法において、前記測定対象物試料は、さらに、前記検出抗体および前記磁性粒子を結合する結合要素を備える、免疫学的測定方法。
【請求項9】
請求項2に記載の免疫学的測定方法において、前記反応溶液の流れの向きを制御する前記工程は、前記反応溶液の液面に送風する工程を有する、免疫学的測定方法。
【請求項10】
請求項2に記載の免疫学的測定方法において、前記反応溶液の流れの向きを制御する前記工程は、前記反応溶液を撹拌する工程を有する、免疫学的測定方法。
【請求項11】
磁気センサにリンカーが固定化された溶液槽に、測定対象物試料を導入し、反応させる反応手段であって、前記測定対象物試料は、キャプチャー抗体と、測定対象物であるバイオマーカーと、検出抗体と、磁性粒子とを備え、前記磁性粒子は前記検出抗体と結合する、反応手段と、
前記磁性粒子を前記磁気センサに近付ける、近付け手段と、
前記近付け手段の動作が開始された後に、磁気センサを用いて前記測定対象物試料について信号を測定する、測定手段と、
を有する、免疫学的測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫学的測定方法および免疫学的測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマーカーは、生命体の遺伝的背景、生理的状態、疾患状態等を把握するのに広く利用されている指標である。バイオマーカーを測定する公知の方法として免疫学的測定方法がある。図1は、公知の免疫学的測定手法のひとつであるサンドウィッチELISAを示す図である。液中100において、基板101の表面に測定対象物であるバイオマーカー103と結合するキャプチャー抗体102を固定化し、試料中のバイオマーカー103と反応させる。続いて、バイオマーカー103と結合する検出抗体104を反応させる。検出抗体104は予め、酵素105などで標識しておく。最後に基質を加えることで酵素反応が起こり、吸光度や蛍光シグナル強度からバイオマーカー103の濃度を測定する。
【0003】
バイオマーカーは、その濃度自体が低い、バイオマーカーが含まれるサンプル量(体液、培養上清など)が少ない、等の理由から、高感度なバイオマーカー測定方法が必要とされている。高感度化の方法として、例えば、特許文献1には、キャプチャー抗体にリンカーを付加する方法が開示されている。この方法は、リンカーを用いることでキャプチャー抗体の動きの自由度が向上し、目的バイオマーカーを捕捉できる確率が上がることを利用している。
【0004】
また特許文献2には、高感度な免疫学的測定方法として、磁気センサを用いた方法が開示されている。特許文献2の図1の基板に設けた磁気センサが、検出抗体に結合した磁性粒子の磁気を検出することによりバイオマーカーを定量する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007-531863号公報
【特許文献2】特開2008-128677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術では、磁気センサを用いた場合に、バイオマーカーの検出感度が限られるという課題があった。
【0007】
磁気センサは、磁性粒子との距離が近いほど、感度が向上するという特徴がある。言い換えれば、磁気センサと測定対象の磁性粒子との距離が離れるほど、磁気センサの感度は劣化する。磁気センサを用いた従来の免疫学的測定方法では、とくにキャプチャー抗体にリンカーを付加すると、リンカーによって磁気センサと磁性粒子との距離が長くなるので、バイオマーカーの検出感度を向上させるのが困難となる。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、磁気センサを用いてバイオマーカーをより高感度に検出する、免疫学的測定方法および免疫学的測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る免疫学的測定方法の一例は、
磁気センサにリンカーが固定化された溶液槽に、測定対象物試料を導入し、反応させる反応工程であって、前記測定対象物試料は、キャプチャー抗体と、測定対象物であるバイオマーカーと、検出抗体と、磁性粒子とを備え、前記磁性粒子は前記検出抗体と結合する、反応工程と、
前記磁性粒子を前記磁気センサに近付ける、近付け工程と、
前記近付け工程の実行が開始された後に、磁気センサを用いて前記測定対象物試料について信号を測定する、測定工程と、
を有する。
【0010】
本発明に係る免疫学的測定装置の一例は、
磁気センサにリンカーが固定化された溶液槽に、測定対象物試料を導入し、反応させる反応手段であって、前記測定対象物試料は、キャプチャー抗体と、測定対象物であるバイオマーカーと、検出抗体と、磁性粒子とを備え、前記磁性粒子は前記検出抗体と結合する、反応手段と、
前記磁性粒子を前記磁気センサに近付ける、近付け手段と、
前記近付け手段の動作が開始された後に、磁気センサを用いて前記測定対象物試料について信号を測定する、測定手段と、
を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る免疫学的測定方法および免疫学的測定装置によれば、磁気センサを用いてバイオマーカーをより高感度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】従来の免疫学的測定方法の例を示す図。
図2】実施例1に係る免疫学的測定装置の構成の概略を示す図。
図3】実施例1に係る免疫学的測定方法の一部を表す処理フローチャート。
図4】実施例1に係る免疫学的測定方法の概略を示す図。
図5図3のステップS103についての実施例1における詳細なフローチャート。
図6】反応溶液の流れの向きの制御を説明する図。
図7】実施例1による測定結果の例を示す図。
図8図7の磁気信号強度の向上が送風の効果であるのかどうかを確認した結果を示す図。
図9】実施例1により、目的の測定対象物に対して特異的な磁気信号を検出しているかどうかを確認した結果を示す図。
図10】実施例2に係る免疫学的測定装置の構成の概略を示す図。
図11】実施例2に係る免疫学的測定方法の概略を示す図。
図12図3のステップS103についての実施例2における詳細なフローチャート。
図13】実施例2による測定結果の例を示す図。
図14】実施例2により目的の測定対象物に対して特異的な磁気信号を検出しているかどうかを確認した結果を示す図。
図15】実施例1または2に係る免疫学的測定方法の変形例の概略を示す図。
図16】実施例3に係る免疫学的測定装置の構成の概略を示す図。
図17図3のステップS103についての実施例3における詳細なフローチャート。
図18】実施例3による磁気信号検出を時間の経過とともに測定した場合の結果例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて、本発明の実施例を説明する。
【0014】
[実施例1]
図2は実施例1に係る免疫学的測定装置の構成の概略を示す図である。免疫学的測定装置は、磁気測定装置1と、制御部2と、コンピュータ3(たとえばPC等)と、流れ制御機構4(溶液内の流れの向きを制御する機構)とを備える。
【0015】
図3は、実施例1に係る免疫学的測定方法の一部を表す処理フローチャートであり、図4は、実施例1に係る免疫学的測定方法の概略を示す。免疫学的測定装置は、この方法を実行することにより免疫学的測定を実行する。
【0016】
図3に示すように、磁気測定装置1による測定動作を開始する前に、磁気測定装置1に、磁気センサ11(図4)をセットする。磁気センサ11には、測定対象物と結合するキャプチャー抗体13が固定化されている。キャプチャー抗体13にはリンカー12が予め付与されており、リンカー12を介して磁気センサ11に(たとえば磁気センサ11の基板表面に)固定化される。
【0017】
なお、磁気センサ11は、センサに近接する磁性粒子に応じた信号(たとえば電気信号)を生成するデバイスである。磁気センサ11は、巨大磁気抵抗(GMR)デバイスを含むがこれに限定されない。GMRデバイスは、スピンバルブ検出器及び磁気トンネル接合(MTJ)検出器を含むが、これらに限定されない。
【0018】
リンカー12は、図4に関連して後述するように、キャプチャー抗体13を、磁気センサ11に対する距離が可変となるように結合する。リンカー12としては、たとえば化学物質(たとえばポリエチレングリコール(PEG)またはリジン)、ヌクレオチド(たとえばDNAまたはRNA)、等を用いることができる。
【0019】
この状態で、図3のステップS100以降に示される免疫学的測定方法が開始される。まず、ステップS100~S102(反応工程)において、磁気測定装置1が、溶液槽に測定対象物試料を導入して反応させる。すなわち、磁気測定装置1は反応手段として機能する。
【0020】
なお、上述のように溶液槽において磁気センサ11にリンカー12が固定化されている。測定対象物試料は、キャプチャー抗体13と、測定対象物14(バイオマーカー)と、検出抗体15と、磁性粒子16とを備える。
【0021】
まずステップS100では、測定対象物試料のうち測定対象物14を溶液槽に添加する。キャプチャー抗体13が測定対象物14を捕捉する。なお、添加後、キャプチャー抗体13による測定対象物14の捕捉率を向上させるために、溶液を撹拌しても良い。撹拌方法は水平撹拌、垂直撹拌、回転撹拌、送風撹拌、超音波撹拌など、既存の方法を用いれば良い。
【0022】
続けて、ステップS101では、検出抗体15を添加し、測定対象物14に検出抗体15を反応させる。なお、検出抗体15の添加後、反応効率を向上させるために、溶液を撹拌しても良い。撹拌方法は水平撹拌、垂直撹拌、回転撹拌、送風撹拌、超音波撹拌など、既存の方法を用いれば良い。
【0023】
次に、ステップS102で、磁性粒子16を添加し、検出抗体15に磁性粒子16を反応させる。その後、ステップS103で磁気信号検出等の処理を行う。なお、図3ではステップS103はステップS102の後に記載しているが、磁気信号の検出処理がステップS102の実行前に開始され、ステップS102の前後にわたって継続的に実行されてもよい。
【0024】
磁性粒子16は、強磁性であっても常磁性であっても良く、フェライトやアルニコなど、種々の磁性材料からなるものが適用可能である。磁性粒子16は検出抗体15と結合するよう構成されるが、測定対象物試料は、検出抗体15および磁性粒子16を結合する結合要素を備えてもよい。結合要素として、たとえば、ビオチン-(ストレプト)アビジン、ビオチン-抗ビオチン抗体などの既存の方法を用いて、予め検出抗体15および磁性粒子16に標識処理しておけば良い。図4の例では、ビオチン18およびアンチビオチン抗体19が用いられている。
【0025】
図5には、図3のステップS103について、実施例1における詳細なフローチャートを示す。実施例1において、ステップS103は、ステップS103a~ステップS103cを含む。
【0026】
図3のステップS102において磁性粒子16が添加された後、ステップS103aにおいて、制御部2の制御に従って流れ制御機構4(図2)が動作し、送風が開始される。
【0027】
ステップS103aは、磁性粒子16を磁気センサ11に近付ける工程(近付け工程)である。ここで、制御部2および流れ制御機構4は近付け手段として機能する。本実施例では、ステップS103aは、反応溶液(すなわち溶液槽内の、反応中または反応後の溶液)の流れの向きを制御する工程を有し、とくに、反応溶液の液面に送風する工程を有する。
【0028】
送風によって発生した気流は、図6(a)に示すように反応溶液の表面と接触し、これによって反応溶液を気流と同じ方向に流動させる。なお、送風方向は液面に対して垂直であってもよく、その場合であっても、液面に衝突した風がその後液面と平行に流れることにより反応溶液を流動させることができる。また、図6(b)に示すように、反応溶液内に直接的に流れ(溶液流)を発生させてもよい。たとえば、反応溶液を撹拌する(より具体的には回転撹拌する等)ことによってもよい。
【0029】
ステップS103aの実行が開始された後に(たとえばステップS103aが実行されている状態で)、ステップS103bが実行される。ステップS103bは、磁気センサ11を用いて測定対象物試料について信号を測定する工程(測定工程)であり、これによって磁気信号が検出され、測定対象物14が検出される。すなわち、磁気センサ11は測定手段として機能し、近付け手段(制御部2および流れ制御機構4)の動作が開始された後に、測定対象物14について信号を測定する。
【0030】
なお、ステップS103bの実行開始は、ステップS103aの実行開始後である必要はなく、ステップS103bの実行が先に開始されていてもよい(その場合には、ステップS103aの実行が開始された後、少なくとも測定に必要な時間が経過するまで、ステップS103bの実行が継続されることになる)。
【0031】
ステップS103bの実行開始後、ステップS103cが実行され、コンピュータ3が磁気信号を記憶し、検出結果を示す情報を画面に表示する。送風が開始されると、図4に示した複合体17(リンカー-キャプチャー抗体-目的対象物-検出抗体-磁性粒子複合体)は、図4(a)から図4(b)の状態になり、磁性粒子16が磁気センサ11に近づくことになる。このため、磁気センサ11を用いて測定対象物14をより高感度に検出することができる。
【0032】
図7には、実施例1による測定結果の例を示す。送風を実施しない静置状態(図4(a))と送風を実行した状態(図4(b))とで検出した磁気信号強度を比較した。その結果、送風した場合は静置の場合と比較して約5倍、磁気信号強度が向上することを確認した。
【0033】
図8には、図7の磁気信号強度の向上が送風の効果であるのかどうかを確認した結果を示す。送風を実行し、磁気信号強度がプラトーに達した状態(0分~5分前後)で、送風を止め静置状態(5分~10分前後)にすると、信号強度が低下する。続けて、再度、送風を実行すると(10分~20分前後)、強い信号強度状態に戻ることが分かった。これより、送風により磁性粒子が磁気センサに近付き、信号強度が向上する効果を確認した。
【0034】
ここで、図4で示した反応溶液中には、検出抗体と反応せずに浮遊している磁性粒子も多く存在している。そのため、送風によって浮遊している磁性粒子も磁気センサに近付き、非特異な磁気信号が測定されるという事態も、原理的には考えられる。
【0035】
これに対し、図9は、実施例1により、目的の測定対象物に対して特異的な磁気信号を検出しているかどうかを確認した結果を示す。測定対象物の濃度が異なる測定対象物試料3種類を測定した結果、磁気信号強度は測定対象物の濃度と相関関係にあることを確認し、送風実行下でも特異性を確保できていることを確認した。
【0036】
このように、実施例1によれば、反応溶液の流れの向きを制御することによって、測定対象物14を磁気センサ11に近付け、より高感度に検出することができる。
【0037】
とくに、リンカー12は、キャプチャー抗体13を、磁気センサ11に対する距離が可変となるように結合するので、容易に測定対象物14を磁気センサ11に近付けることができる。
【0038】
また、反応工程は、測定対象物14に検出抗体15を反応させる工程(ステップS101)と、検出抗体15に磁性粒子16を反応させる工程(ステップS102)とを有するので、測定対象物14に磁性粒子16をより確実に結合することができる。とくに、検出抗体15および磁性粒子16を結合する結合要素(たとえばビオチン18およびアンチビオチン抗体19)を用いるので、検出抗体15に磁性粒子16をより確実に結合することができる。
【0039】
また、流れ制御機構4は、送風によって反応溶液の流れの向きを制御する場合には、溶液槽内部の構成を簡素化することができ、撹拌によって反応溶液の流れの向きを制御する場合には、より効率的に流れを制御することができる。
【0040】
[実施例2]
図10は実施例2に係る免疫学的測定装置の構成の概略を示す図である。免疫学的測定装置は、磁気測定装置21と、制御部22と、コンピュータ23(たとえばPC)と、溶液除去機構24と、洗浄機構25とを備える。
【0041】
図11は実施例2に係る免疫学的測定方法の概略を示す。基本となる処理フローチャートは図3と同じであり、磁気測定装置21は反応手段として機能する。図12は、図3のステップS103について、実施例2における詳細なフローチャートを示す。実施例2において、ステップS103は、ステップS103d~S103iを含む。
【0042】
図3のステップS102において磁性粒子16が添加された後、ステップS103dにおいて、磁気測定装置21による磁気信号検出が開始される。その際、検出抗体15と磁性粒子16の反応効率を向上させるために、磁性粒子添加後に溶液を撹拌しても良い。撹拌方法は水平撹拌、垂直撹拌、回転撹拌、送風撹拌、超音波撹拌など、既存の方法を用いれば良い。
【0043】
ステップS103dの開始後に処理プロセスはステップS103eに移行し、磁気信号の記憶およびPC画面への表示を実行し、その後、ステップS103fへ移行する。ステップS103fでは、磁性粒子16の反応を終了するかどうかを判定する。判定には、予め測定対象物の種類ごとに反応時間を定めておいても良いし、磁気信号強度に閾値を定めておくのでも良い。すなわち、反応時間が所定閾値以上となった場合に反応を終了してもよいし、磁気信号強度が所定閾値以上となった場合に反応を終了してもよい。
【0044】
反応を終了しない場合は、処理はステップS103dに戻り、磁気信号の検出が継続される。反応を終了する場合、ステップS103gにおいて、制御部22の制御に従って溶液除去機構24(図10)が動作し、反応溶液を除去する。たとえば反応溶液の全量が吸引され除去される。ステップS103gは、磁性粒子16を磁気センサ11に近付ける工程(近付け工程)である。ここで、制御部22および溶液除去機構24は近付け手段として機能する。
【0045】
ステップS103gにおいて、反応溶液を除去した後、洗浄機構25が磁気センサ11(より具体的にはその表面)を洗浄し、再度、溶液除去機構24が洗浄液を全量、吸引し除去してもよい。洗浄することで、反応していない磁性粒子16を除去することができる。この場合には、洗浄機構25も近付け手段として機能する。なお、洗浄液は滅菌水およびPBSなどの生理食塩水で良い。
【0046】
溶液を除去したあと、ステップS103hにおいて磁気信号を測定する。溶液が除去されると、図11に示した複合体17は、図11(a)から図11(b)の状態になり、磁性粒子16が磁気センサ11に近づくことになる。このため、磁気センサ11を用いて測定対象物14をより高感度に検出することができる。
【0047】
ステップS103hの後、ステップS103iが実行され、コンピュータ3が磁気信号を記憶し、検出結果を示す情報を画面に表示する。
【0048】
図13には、実施例2による測定結果の例を示す。この例では、図11のリンカー12にポリエチレングリコール(PEG)を用いた。本実験では、リンカー12に分子量1KのPEGと分子量10KのPEGとを用い、同じ測定対象物濃度に対して、どのような磁気信号強度になるのかを比較した。分子量が約10倍異なるので、リンカー12の長さも約10倍異なる。
【0049】
図13(a)は溶液を除去する前(図11(a))の磁気信号強度を、図13(b)は溶液を除去し洗浄後、更に洗浄液も完全に除去した状態(図11(b))の磁気信号強度を示す。結果より、溶液除去前(a)は、リンカーの短い場合(PEG1K)の方が、リンカーの長い場合(PEG10K)と比較して信号強度が強かったことから、磁性粒子が磁気センサに近い方が磁気信号強度が強いことを確認した。また、溶液除去後の図13(b)に示すように、リンカーの長い場合(PEG10K)の方が、リンカーの短い場合(PEG1K)と比較して信号強度が強くなったことから、リンカーの長い方がより多く測定対象物を捕捉でき、なおかつ、溶液を除去することにより磁性粒子が磁気センサに近付くことで、強い磁気信号強度を測定できることを確認した。
【0050】
図14は、実施例2により目的の測定対象物に対して特異的な磁気信号を検出しているかどうかを確認した結果を示す。この例ではリンカーにPEG10Kを用いた。測定対象物の濃度が異なる測定対象物試料3種類を測定した結果、磁気信号強度は測定対象物の濃度と相関関係にあることを確認し、溶液を除去した状態でも特異性を確保できていることを確認した。
【0051】
このように、実施例2によれば、反応溶液を除去することによって、測定対象物14を磁気センサ11に近付け、より高感度に検出することができる。
【0052】
図15は実施例1または実施例2に係る免疫学的測定方法の変形例の概略を示す。基本となる処理フローチャートは図3と同じであり、磁気測定装置21は反応手段として機能する。図15に示すように、センサから磁性ナノ粒子が離れた状態(a)と、センサの近くに磁性ナノ粒子が在る状態(b)を素早く繰返すことにより得られた磁気信号強度から、(b)と(a)の磁気信号強度の差を純信号とすれば、ドリフトによる誤差が少なく、またゼロイングに必要なブランク(あるいはリファレンス)といった基準センサを使用する必要なく、磁気信号強度を得ることができるようになる。言い換えれば自動ゼロイング調整、ゼロドリフト検出に活用できる。
【0053】
[実施例3]
図16は実施例3に係る免疫学的測定装置の構成の概略を示す図である。免疫学的測定装置は、磁気測定装置31と、制御部32と、コンピュータ33(たとえばPC)と、送風機構34と、液面検知機構35とを備える。基本となる処理フローチャートは図3と同じであり、磁気測定装置31は反応手段として機能する。
【0054】
図17は、図3のステップS103について、実施例3におけるフローチャートを示す。実施例3において、ステップS103は、ステップS103j~S103nを含む。
【0055】
図3のステップS102において磁性粒子16が添加された後、ステップS103jにおいて、制御部32の制御に従って送風機構34が動作し、磁性粒子16を磁気センサ11に近付ける。ステップS103jは、磁性粒子16を磁気センサ11に近付ける工程(近付け工程)である。ここで、制御部32および送風機構34は近付け手段として機能する。
【0056】
本実施例でも、実施例1と同様に、送風または撹拌を行うことができる。このため、磁気センサを用いて測定対象物14をより高感度に検出することができる。
【0057】
送風機構34は、たとえば溶液の表面に向かって垂直方向に実行される。また、本実施例では、ステップS103jにおいて、送風機構34の送風により、溶液の蒸発が促進される。そして、溶液が蒸発することにより、溶液の体積が減少し、磁性粒子16はさらに磁気センサ11に近付けられる。このように、本実施例において、ステップS103j(近付け工程)は、反応溶液の蒸発を促進する工程を含む。
【0058】
なお、反応溶液の蒸発を促進する工程は、本実施例のような送風に限らない。たとえば加熱または化学的処理を伴うものであってもよい。たとえば、送風、加熱または化学的処理を、溶液槽を密閉しない状態で行うと、蒸発が促進される場合がある。一方、たとえば送風を行う場合であっても、溶液槽が密閉されている場合には、蒸発が促進されない場合がある。
【0059】
ステップS103jの実行が開始された後に、ステップS103kにおいて磁気信号の検出が開始される。また、ステップS103kの実行が開始された後、ステップS103lが実行され、コンピュータ33における磁気信号の記憶および画面への表示が実行する。
【0060】
ステップS103mでは、反応を終わりにするかどうかを判定する。たとえば、液面検知機構35(図16)により、溶液槽内に溶液が残っているか否かに基づいて判定を行うことができる。溶液が残っていると判定された場合は、処理はステップS103jに戻り、ステップS103jおよびS103kが継続される。溶液が残っていないと判定された場合は、ステップS103nに移行し、反応および磁気信号検出を終了する。
【0061】
図18は、実施例3による磁気信号検出を時間の経過とともに測定した場合の結果例を示す。蒸発の促進を伴う送風の方が、蒸発の促進を伴わない送風よりも磁気信号の強度が強かったことから、蒸発の促進を伴いながら送風した方が、より早く測定対象物の測定を可能とすることを確認した。
【0062】
このように、実施例3によれば、反応溶液の蒸発を促進することによって、測定対象物14を磁気センサ11に近付け、より高感度に検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
実施例1~3に係る免疫学的測定装置では、高感度測定を実現するので、濃度が低い測定対象物(バイオマーカー)の測定に貢献できる。また、高感度測定が実現するので、ごくわずかな試料内に含まれる測定対象物の検出を可能とし、採取が困難な試料でも測定することができる。また、生命体への侵襲を抑えることに貢献できる。また、高感度測定を実現するので、TAT(ターンアラウンドタイム)の短縮にも貢献できる。
【符号の説明】
【0064】
1…磁気測定装置
2…制御部
3…コンピュータ
4…流れ制御機構
11…磁気センサ
12…リンカー
13…キャプチャー抗体
14…測定対象物
15…検出抗体
16…磁性粒子
17…複合体
18…ビオチン
19…アンチビオチン抗体
21…磁気測定装置
22…制御部
23…コンピュータ
24…溶液除去機構
25…洗浄機構
31…磁気測定装置
32…制御部
33…コンピュータ
34…送風機構
35…液面検知機構
図1
図2
図3
図4
図5
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図17
図18