(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025027159
(43)【公開日】2025-02-27
(54)【発明の名称】フッ素樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 27/12 20060101AFI20250219BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20250219BHJP
C08K 3/016 20180101ALI20250219BHJP
【FI】
C08L27/12
C08K3/04
C08K3/016
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209643
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川浪 充眞
(72)【発明者】
【氏名】和田 真治
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA041
4J002BB101
4J002BD121
4J002BD151
4J002BD171
4J002DA036
4J002FB266
4J002FD136
4J002GB01
4J002GG01
4J002GG02
4J002GH00
4J002GJ02
4J002GK01
4J002GL00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
4J002GQ01
4J002GQ05
(57)【要約】
【課題】難燃性及び耐薬品性に優れるフッ素樹脂組成物の提供。
【解決手段】フッ素樹脂と、前記フッ素樹脂に難燃性を付与する添加剤とを含むフッ素樹脂組成物であり、前記添加剤が、炭素含有無機物であり、前記添加剤の含有量が、前記フッ素樹脂組成物の総質量に対して0.0001~20質量%であり、限界酸素指数が35%以上であることを特徴とするフッ素樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂と、前記フッ素樹脂に難燃性を付与する添加剤とを含むフッ素樹脂組成物であり、
前記添加剤が、炭素含有無機物であり、
前記添加剤の含有量が、前記フッ素樹脂組成物の総質量に対して0.0001~20質量%であり、
限界酸素指数が35%以上であることを特徴とするフッ素樹脂組成物。
【請求項2】
引張強度が、前記フッ素樹脂の引張強度に対して80%以上であり、引張伸度が、前記フッ素樹脂の引張伸度に対して80%以上である請求項1に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項3】
28℃80%RHの雰囲気下に14日間保持した前記添加剤を150℃のオーブンで1時間加熱したときの質量減少率が、0.3質量%未満である請求項1又は2に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項4】
前記フッ素樹脂が部分フッ素化樹脂を含み、
前記フッ素樹脂組成物に含まれる全ての前記フッ素樹脂のなかで、前記部分フッ素化樹脂の含有量が最も多い請求項1~3のいずれか一項に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項5】
前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレンに基づく単位とエチレンに基づく単位とを有する共重合体を含み、
前記フッ素樹脂組成物に含まれる全ての前記フッ素樹脂のなかで、前記共重合体の含有量が最も多い請求項1~4のいずれか一項に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項6】
前記共重合体が、主鎖末端に水酸基を有する請求項5に記載のフッ素樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、耐薬品性の高さから、ケーブル被覆材、コーティング材、建築物の構造材等、多くの用途に用いられる。フッ素樹脂は、難燃性も良好であり、難燃性が求められる用途にも用いられる。しかし、昨今、使用環境の変化、関連法規の改正等によって、より高い難燃性が求められてきている。
【0003】
特許文献1には、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体95~99.5質量部、黒色顔料0.5~5質量部、難燃剤5~20質量部を含む高難燃性黒色エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体塗料が提案されている。黒色顔料としては銅クロムブラックが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】中国特許出願公開第111574890号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の塗料は、充分な難燃性を得ようとすると、難燃剤の含有量が多くなり、相対的にフッ素樹脂の含有量が少なくなって、耐薬品性が低下する。
【0006】
本発明は、難燃性及び耐薬品性に優れるフッ素樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]フッ素樹脂と、前記フッ素樹脂に難燃性を付与する添加剤とを含むフッ素樹脂組成物であり、
前記添加剤が、炭素含有無機物であり、
前記添加剤の含有量が、前記フッ素樹脂組成物の総質量に対して0.0001~20質量%であり、
限界酸素指数が35%以上であることを特徴とするフッ素樹脂組成物。
[2]引張強度が、前記フッ素樹脂の引張強度に対して80%以上であり、引張伸度が、前記フッ素樹脂の引張伸度に対して80%以上である前記[1]のフッ素樹脂組成物。
[3]28℃80%RHの雰囲気下に14日間保持した前記添加剤を150℃のオーブンで1時間加熱したときの質量減少率が、0.3質量%未満である前記[1]又は[2]のフッ素樹脂組成物。
[4]前記フッ素樹脂が部分フッ素化樹脂を含み、
前記フッ素樹脂組成物に含まれる全ての前記フッ素樹脂のなかで、前記部分フッ素化樹脂の含有量が最も多い前記[1]~[3]のいずれかのフッ素樹脂組成物。
[5]前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレンに基づく単位とエチレンに基づく単位とを有する共重合体を含み、
前記フッ素樹脂組成物に含まれる全ての前記フッ素樹脂のなかで、前記共重合体の含有量が最も多い前記[1]~[4]のいずれかのフッ素樹脂組成物。
[6]前記共重合体が、主鎖末端に水酸基を有する前記[5]のフッ素樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、難燃性及び耐薬品性に優れるフッ素樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における用語の意味や定義は以下の通りである。
「限界酸素指数」(以下、LOIとも記す。)は、JIS K 7201-2:2007に準拠して測定される酸素指数である。LOIは、試料が燃焼を持続するのに必要な最低酸素濃度(体積%)を指数化したものであり、指数が大きいほど難燃性が高いことを示す。
「引張強度」、「引張伸度」はそれぞれ、試料(フッ素樹脂組成物又はフッ素樹脂)から、JIS K 6251に規定されるダンベル形状の試験片(厚さ1mm)を作製し、試験片について、JIS K 6251に準拠した条件で引張試験を行って求められる。
「融点」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定した融解ピークの最大値に対応する温度である。
「溶融成形可能」であるとは、溶融流動性を示すことをいう。
「溶融流動性を示す」とは、荷重49Nの条件下、樹脂の融点よりも20℃以上高い温度において、溶融流速が0.1~1000g/10分となる温度が存在することをいう。
「溶融流速」は、JIS K 7210:1999(ISO 1133:1997)に規定されるメルトマスフローレート(MFR)である。
「単量体に基づく単位」は、単量体1分子が重合して直接形成される原子団と、該原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。
「単量体」とは、重合性炭素-炭素二重結合を有する化合物を意味する。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0010】
〔フッ素樹脂組成物〕
本発明の一実施形態に係るフッ素樹脂組成物(以下、本組成物とも記す。)は、フッ素樹脂と、フッ素樹脂に難燃性を付与する添加剤(以下、添加剤Bとも記す。)とを含む。
【0011】
<フッ素樹脂>
フッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン(以下、TFEとも記す。)、ヘキサフルオロプロピレン(以下、HFPとも記す。)、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、PAVEとも記す。)、クロロトリフルオロエチレン(以下、CTFEとも記す。)、フッ化ビニリデン(以下、VdFとも記す。)及びフッ化ビニルから選ばれる少なくとも1種のフッ素単量体に基づく単位を有する重合体が挙げられる。
【0012】
フッ素樹脂は、1種の単位を有する単独重合体であってもよく、2種以上の単位を有する共重合体であってもよい。
フッ素樹脂は、非フッ素単量体に基づく単位をさらに有していてもよい。非フッ素単量体としては、エチレン(以下、Eとも記す。)、プロピレン、無水イタコン酸、酢酸ビニル等が挙げられる。フッ素樹脂が非フッ素単量体に基づく単位を有する場合、非フッ素単量体に基づく単位は1種のみであってもよく2種以上であってもよい。
【0013】
フッ素樹脂としては、フッ素樹脂組成物の成形性に優れる点から、溶融成形可能なフッ素樹脂が好ましい。
溶融成形可能なフッ素樹脂としては、例えば、TFEに基づく単位(以下、TFE単位とも記す。)とEに基づく単位(以下、E単位とも記す。)とを有する共重合体(以下、ETFEとも記す。)、TFE単位とPAVEに基づく単位(以下、PAVE単位とも記す。)とを有する共重合体、TFE単位とHFPに基づく単位(以下、HFP単位とも記す。)とを有する共重合体、TFE単位とPAVE単位とHFP単位とを有する共重合体、CTFEに基づく単位を有する重合体、CTFEに基づく単位とE単位とを有する共重合体、VdFに基づく単位を有する重合体等が挙げられる。
溶融成形可能なフッ素樹脂のMFRは、0.1~70g/10分が好ましく、3~40g/10分がより好ましい。
【0014】
溶融成形可能なフッ素樹脂は、融点を有することが好ましい。フッ素樹脂の融点は、160~325℃が好ましく、220~320℃がより好ましく、250~270℃がさらに好ましい。フッ素樹脂の融点が前記下限値以上であれば、本組成物の耐熱性、高温における剛性に優れる。フッ素樹脂の融点が前記上限値以下であれば、本組成物の成形性に優れる。
【0015】
フッ素樹脂は、部分フッ素化樹脂を主成分として含むことが好ましい。「主成分として含む」とは、本組成物に含まれる全てのフッ素樹脂のなかで、含有量が最も多いことを示す。
部分フッ素化樹脂は、水素原子を含むフッ素樹脂であり、水素原子を含まない完全フッ素化樹脂に比べ、機械特性に優れるものの、難燃性に劣る傾向がある。そのため、フッ素樹脂が部分フッ素化樹脂を主成分として含む場合に本発明の有用性が高い。フッ素樹脂は、完全フッ素化樹脂をさらに含んでいてもよい。
部分フッ素化樹脂の含有量は、フッ素樹脂全体の質量に対して50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。
【0016】
部分フッ素化樹脂としては、例えば、水素原子を含むフッ素単量体に基づく単位を有する重合体、フッ素単量体に基づく単位と非フッ素単量体に基づく単位とを有する重合体が挙げられる。
部分フッ素化樹脂において、水素原子とフッ素原子との質量比(水素原子/フッ素原子)は、10/90~1/99が好ましく、6/94~2/98がより好ましい。水素原子/フッ素原子が前記下限値以上であれば、耐熱性、耐薬品性、柔軟性に優れ、前記上限値以下であれば、機械特性に優れる。
【0017】
部分フッ素化樹脂としては、成形性、電気的特性、機械物性、耐摩耗性等に優れる点から、ETFEが好ましい。
ETFEとしては、耐熱性、機械物性、耐薬品性がさらに優れる点から、E単位と、TFE単位と、エチレン及びTFE以外の他の単量体に基づく単位(以下、「他の単量体単位」とも記す。)とを有する共重合体が好ましい。
【0018】
他の単量体としては、エチレン及びTFEと共重合可能であればよく、例えば、後述する式1で表される化合物、前記したフッ素単量体(ただしTFEを除く。)及び非フッ素単量体(ただしエチレンを除く。)が挙げられる。他の単量体が1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
他の単量体単位は、機械物性及び熱安定性がより優れる点から、下式1で表される化合物(以下、FAEとも記す。)に基づく単位を含むことが好ましい。
CH2=CX(CF2)nZ 式1
ただし、X及びZは、それぞれ独立に水素原子又はフッ素原子であり、nは、1~10の整数である。
【0020】
式1におけるXは、柔軟性、伸度及び強度がさらに優れる点から、水素原子が好ましい。
式1におけるZは、耐熱性及び耐薬品性がさらに優れる点から、フッ素原子が好ましい。
式1におけるnは、2~8が好ましく、2~6がより好ましく、2、4又は6がさらに好ましい。nが前記下限値以上であれば、本組成物の機械物性及び熱安定性がさらに優れ、前記上限値以下であれば、FAEが充分な重合反応性を有する。
【0021】
FAEの好ましい具体例としては、CH2=CH(CF2)2F、CH2=CH(CF2)4F、CH2=CH(CF2)6F、CH2=CF(CF2)4F、CH2=CF(CF2)3H等が挙げられる。中でも、機械物性及び熱安定性がさらに優れる点から、CH2=CH(CF2)4F(以下、PFBEとも記す。)が好ましい。
FAEは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
ETFEにおいて、E単位とTFE単位とのモル比(E単位/TFE単位)は、30/70~60/40が好ましく、35/65~60/40がより好ましい。E単位/TFE単位が前記下限値以上であれば、ETFEの融点が充分に高く、耐熱性、高温での剛性に優れ、前記上限値以下であれば、耐薬品性に優れる。
【0023】
他の単量体単位の割合は、ETFEを構成する全単位に対し、0.7~5.0モル%が好ましく、0.9~4.0モル%がより好ましい。他の単量体単位の割合が前記下限値以上であれば、高温での耐ストレスクラック性がさらに優れ、前記上限値以下であれば、ETFEの融点が充分に高く、耐熱性、高温での剛性に優れる。
【0024】
ETFEは、主鎖末端に水酸基を有することが好ましい。主鎖末端に水酸基を有するETFEは、主鎖末端に水酸基を有さないETFEに比べ、添加剤Bとの親和性に優れる傾向がある。フッ素樹脂が主鎖末端に水酸基を有するETFEを主成分として含むことで、フッ素樹脂に添加剤Bを良好に分散でき、後述する引張強度保持率及び引張伸度保持率を高くしやすい。
ETFEの主鎖末端は、ETFEを赤外分光法で分析することによって確認できる。
【0025】
主鎖末端の水酸基の含有量は、赤外吸収(IR)スペクトルにおけるC-F結合の倍音のピーク(例えば2210cm-1のピーク)に対する水酸基のピーク(例えば3540cm-1のピーク)の面積比で、1~50%が好ましく、3~30%がより好ましい。主鎖末端の水酸基の含有量が前記下限値以上であれば、添加剤Bの分散性がより優れ、前記上限値以下であれば、耐熱性がより優れる。
主鎖末端の水酸基の含有量は、ETFEの分子量によって調整できる。
【0026】
ETFEの融点は、160~320℃が好ましく、245~270℃がより好ましく、250~265℃がさらに好ましい。ETFEの融点が前記下限値以上であれば、耐熱性、高温での剛性に優れ、前記上限値以下であれば、成形性に優れる。
ETFEの融点は、TFE単位に対するE単位のモル比、ETFEを構成する全単位に対する他の単量体単位の割合等により調整できる。
【0027】
フッ素樹脂は、市販のものを用いてもよく、公知の製造方法により製造したものを用いてもよい。
ETFEは、例えば、特許文献1の段落[0021]~[0025]に記載された方法、国際公開第2016/006644の段落[0036]~[0043]に記載された方法によって製造できる。
【0028】
主鎖末端に水酸基を有するETFEは、例えば、単量体を重合する際に、連鎖移動剤として、アルコール類を用いることによって得られる。具体的には、特開2016-043566号公報の段落[0016]に記載されているように、連鎖移動剤としてアルコール類を用いた場合、アルコール類の水酸基がETFEの主鎖末端に導入され、主鎖末端に水酸基からなる末端基を有するETFEが得られる。
【0029】
<添加剤B>
添加剤Bとしては、炭素含有無機物が用いられる。炭素含有無機物は、少量でも優れた難燃性を付与できる。
炭素含有無機物としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、グラフェン、フラーレンC60、人工ダイヤモンドが挙げられる。これらの炭素含有無機物は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
炭素含有無機物としては、分散性の点から、カーボンブラック又はカーボンファイバーが好ましい。
【0030】
28℃80%RHの雰囲気下に14日間保持した添加剤Bを150℃のオーブンで1時間加熱したときの質量減少率は、0.3質量%未満が好ましく、0.25質量%未満がより好ましく、0.2質量%未満がさらに好ましい。
上記質量減少率は、添加剤Bの吸水性の指標であり、添加剤Bの材質や形状によって異なる。質量減少率が低い方が、フッ素樹脂となじみやすく、フッ素樹脂に分散しやすい傾向がある。質量減少率が0.3質量%未満であれば、フッ素樹脂に添加剤Bを良好に分散でき、後述する引張強度保持率及び引張伸度保持率を高くしやすい。
【0031】
<他の成分>
本組成物は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、必要に応じて、フッ素樹脂及び添加剤B以外の他の成分を更に含んでいてもよい。
他の成分としては、例えば、フッ素含有有機物、顔料、導体、ガラスファイバー、ガラスバルーン、ケイ素、タルクが挙げられる。これらの成分は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0032】
<各成分の含有量>
本組成物中、添加剤Bの含有量は、本組成物の総質量に対して0.0001~20質量%である。添加剤Bの含有量が前記下限値以上であれば、難燃性に優れ、前記上限値以下であれば、フッ素樹脂の含有量を多くでき、耐薬品性、耐熱性、耐候性等に優れる。添加剤Bの含有量は、本組成物の総質量に対して0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましく、また、15質量%以下が好ましい。
【0033】
フッ素樹脂の含有量は、本組成物の総質量に対して99.9999質量%以下であり、99.999質量%以下が好ましく、99.99質量%以下がより好ましく、99.9質量%以下がさらに好ましく、99質量%以下が特に好ましく、また、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましい。フッ素樹脂の含有量が前記下限値以上であれば、耐薬品性、耐熱性、耐候性等に優れ、前記上限値以下であれば、難燃性に優れる。
【0034】
他の成分の含有量は、本組成物の総質量に対して5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、0質量%であってもよい。
【0035】
<本組成物の特性>
本組成物のLOIは、35%以上であり、37%以上が好ましい。LOIが前記下限値以上であれば、難燃性が求められる用途での有用性が高い。本組成物のLOIは、難燃性の点では高いほど好ましく、上限は特に限定されないが、例えば95%である。
【0036】
本組成物の引張強度は、フッ素樹脂の引張強度に対して80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。フッ素樹脂の引張強度に対する本組成物の引張強度の比率(以下、引張強度保持率とも記す。)が前記下限値以上であれば、添加剤Bがフッ素樹脂に良好に分散又は相溶し、添加剤Bによる難燃性の付与効果が発揮されやすい。また、耐久性等を充分に確保でき、実用性に優れる。
引張強度保持率の上限は、特に限定されないが、例えば120%である。
引張強度保持率は、例えば、添加剤Bの種類及び含有量、粒径によって調整できる。
【0037】
本組成物の引張強度は、30MPa以上が好ましく、35MPa以上がより好ましい。引張強度が前記下限値以上であれば、分散性に優れる。上限は特に限定されないが、例えば75MPaである。
【0038】
本組成物の引張伸度は、フッ素樹脂の引張伸度に対して80%以上が好ましく、95%以上がより好ましい。フッ素樹脂の引張伸度に対する本組成物の引張伸度の比率(以下、引張伸度保持率とも記す。)が前記下限値以上であれば、添加剤Bがフッ素樹脂に良好に分散又は相溶し、添加剤Bによる難燃性の付与効果が発揮されやすい。また、耐久性等を充分に確保でき、実用性に優れる。
引張伸度保持率の上限は、特に限定されないが、例えば120%である。
引張伸度保持率は、例えば、添加剤Bの種類及び含有量、粒径によって調整できる。
【0039】
本組成物の引張伸度は、350%以上が好ましく、385%以上がより好ましい。引張伸度が前記下限値以上であれば、機械的特性に優れ外力がかかった際の破断に耐えやすい。
【0040】
<本組成物の製造方法>
本組成物は、例えば、フッ素樹脂及び添加剤Bを混合して製造される。フッ素樹脂の一部及び添加剤Bを予め混合したマスターバッチと、残りのフッ素樹脂とを混合してもよい。必要に応じて、他の成分を混合してもよい。
混合する全ての原料の合計質量に対するフッ素樹脂、添加剤B、他の成分それぞれの割合は、本組成物の全質量に対するフッ素樹脂、添加剤B、他の成分それぞれの割合と同じである。
【0041】
フッ素樹脂が溶融成形可能である場合、混合方法としては、フッ素樹脂及び添加剤B、必要に応じて他の成分を溶融混練する方法が好ましい。
溶融混練方法としては、公知の溶融混練装置を用いる方法が挙げられる。
溶融混練装置としては、公知の溶融混練機能を有する装置が挙げられる。溶融混練装置としては、混練効果の高いスクリューを備えていてもよい単軸押出機又は二軸押出機が好ましく、二軸押出機がより好ましく、混練効果の高いスクリューを備えた二軸押出機が特に好ましい。混練効果の高いスクリューとしては、溶融混練対象物に対する充分な混練効果を有し、かつ過剰なせん断力を与えないものを選択できる。スクリューのL/Dは、混練効果の点から、20以上が好ましく、30~70がより好ましい。「L/D」とは、スクリュー全長L(mm)をスクリュー径D(mm)で割った値である。
溶融混練装置の具体例としては、ラボプラストミル混練機(東洋精機製作所社製)、KZWシリーズ 二軸混練押出機(テクノベル社製)が挙げられる。
【0042】
溶融混練装置へのフッ素樹脂及び添加剤Bの供給方法に特に制限は無い。フッ素樹脂及び添加剤Bをあらかじめ混合して溶融混練装置に供給してもよく、フッ素樹脂及び添加剤Bを別々に溶融混練装置に供給してもよい。他の成分も同様である。
【0043】
フッ素樹脂及び添加剤Bを溶融混練する際の温度(以下、溶融混練温度とも記す。)は、フッ素樹脂、添加剤Bに応じて設定することが好ましい。溶融混練温度は、220~400℃が好ましく、250~350℃がより好ましい。
【0044】
フッ素樹脂及び添加剤Bの溶融混練は、引張強度保持率及び引張伸度保持率が前記下限値以上となるように実施することが好ましい。
例えば、溶融混練温度を高くすることによって、フッ素樹脂に添加剤Bが分散しやすく、引張強度保持率及び引張伸度保持率が高くなりやすい。溶融混練温度を低くすることによって、フッ素樹脂の熱分解が促進されにくく、得られる組成物の耐熱性がさらに優れる。
押出せん断速度を大きくすることによって、フッ素樹脂に添加剤Bが分散しやすく、引張強度保持率及び引張伸度保持率が高くなりやすい。押出せん断速度を低くすることによって、主鎖の分解を抑制することができる。
溶融混練装置内での溶融混練対象物の滞留時間を長くすると、フッ素樹脂に添加剤Bが分散しやすく、引張強度保持率及び引張伸度保持率が高くなりやすい。滞留時間を短くすると、フッ素樹脂の熱分解が促進されにくく、得られる組成物の耐熱性がさらに優れる。
【0045】
<用途>
本組成物は、例えば、電線被覆材料、配管ライニング、半導体製造設備部材、半導体構造材、離型フィルム、包装フィルム、薬液輸送チューブ、パッキン、ガスケット、ポンプライニング、自動車燃料ライン、チューブ、ブロー成型容器、高周波基盤、高周波用絶縁部材、3Dプリンター用材料、建築用膜構造物、エアフィルター、中空糸、樹脂ねじに使用できる。ただし、本組成物の用途はこれらに限定されるものではない。
【0046】
<作用効果>
本組成物は、添加剤Bとして炭素含有無機物を0.1質量%以上の含有量で含み、LOIが35%以上であるので、難燃性に優れる。また、添加剤Bの含有量が20質量%以下であるので、耐薬品性に優れる。
【実施例0047】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例の記載に限定されるものではない。例1は比較例であり、例2~6は実施例である。
【0048】
〔評価方法〕
<LOI>
LOIは、JIS K 7201-2:2007に準拠して測定した。
【0049】
<添加剤の質量減少率>
添加剤を28℃80%RHの雰囲気下に14日間保持した後、その質量M1(g)を測定した。この添加剤を150℃のオーブンに入れて1時間加熱した後、その質量M2(g)を測定し、下式により質量減少率を求めた。質量減少率が小さいほど、添加剤の吸水性が低い。
質量減少率(%)=(M1-M2)/M1×100
【0050】
<引張特性>
(試験片の作製)
フッ素樹脂組成物を320℃で溶融成形して200mm×200mm×1mm厚のプレスシートを作製した。得られたプレスシートをJIS K 6251 3号ダンベル形状に打ち抜きして、23℃RH50%下で24時間静置して試験片Aを得た。
フッ素樹脂組成物の代わりに、含フッ素樹脂組成物に配合したフッ素樹脂を用いた以外は上記と同様にして試験片Bを得た。
【0051】
(引張試験)
得られた試験片A、Bそれぞれについて、ストログラフ R-2(東洋精機社製)を用い、JIS K 6251に準拠し、200mm/minの条件で引張試験を行って引張強度(MPa)及び引張伸度(%)を求めた。
【0052】
(引張強度保持率、引張伸度保持率)
求めた引張強度及び引張伸度から、下記式により引張強度保持率及び引張伸度保持率を求めた。
引張強度保持率(%)=試験片Aの引張強度/試験片Bの引張強度×100
引張伸度保持率(%)=試験片Aの引張伸度/試験片Bの引張伸度×100
【0053】
〔使用材料〕
ETFE:後述する合成例1で得た合成品。
添加剤マスターバッチ:ETFEとカーボンブラック(CB)との混合物のペレット(CBの含有量:ペレットの総質量に対して15質量%)。
【0054】
〔合成例1〕
430リットルのステンレス鋼製オートクレーブ内を脱気した後、CF3(CF2)5Hの417.2kg、メタノールの3.8kg、及びペルフルオロブチルエチレン(以下、「PFBE」という。)の1.9kgを仕込み、撹拌しながら66℃まで昇温し、TFE/E=83/17(モル%)の混合ガスを1.5MPa(gauge)になるまで導入した。次いで、tert-ブチルパーオキシピバレートの濃度が1質量%のCF3(CF2)5H溶液の1048gをオートクレーブ内に注入し、重合を開始した。重合中はオートクレーブ内の圧力が1.5MPa(gauge)となるように、TFE/E=54/46(モル%)の混合ガス、及び前記混合ガスに対して1.4モル%に相当する量のPFBEを連続的に添加した。前記混合ガスの添加量が、27kgに達した時点でオートクレーブを冷却し、残留モノマーガスの一部をパージして、ETFEのスラリー1を得た。得られたスラリー1の120kgを貯留槽に貯留し、得られたETFEのスラリーを、水の77kgを仕込んだ220L(リットル)の造粒槽に投入し、次いで撹拌しながら105℃まで昇温して溶媒を留出除去しながら造粒した粉末状のETFE乾燥物1を回収して、主鎖末端に水酸基を有するETFEを得た。
得られたETFEの共重合組成はE単位/TFE単位(モル比)=54.1/45.9、ETFEを構成する全単位に対してPFBE単位が1.4モル%、融点は259℃、MFRは9.8g/10分であった。共重合組成から求めた水素原子/フッ素原子の質量比は4/96であった。主鎖末端の水酸基の含有量は、ETFEのIRスペクトルの面積比で、C-F結合の倍音のピークに対し、9%であった。
【0055】
〔例1~6〕
ETFEと添加剤マスターバッチとを、最終的な添加剤マスターバッチの含有量が表1に示す値になるように混合し、二軸押出機で混練して、フッ素樹脂組成物を得た。表1に、添加剤マスターバッチのCB換算での含有量を併記した。添加剤マスターバッチ、CBそれぞれの含有量は、フッ素樹脂組成物の総質量に対する割合(質量%)である。
得られたフッ素樹脂組成物について引張特性、LOIを評価した。結果を表1に示す。
【0056】
【0057】
例2~6は、フッ素樹脂のみからなる例1に比べ、LOIが高く、難燃性に優れていた。また、添加剤Bの含有量が20質量%以下であることから、フッ素樹脂組成物全体の耐薬品性に優れることがわかる。