(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025027323
(43)【公開日】2025-02-27
(54)【発明の名称】無機酸化物粒子合成装置、及び無機酸化物粒子の合成方法
(51)【国際特許分類】
C01G 1/00 20060101AFI20250219BHJP
C04B 35/495 20060101ALI20250219BHJP
C01G 41/00 20060101ALI20250219BHJP
【FI】
C01G1/00 B
C04B35/495
C01G41/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023132035
(22)【出願日】2023-08-14
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中倉 修平
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 元彬
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB01
4G048AD03
4G048AE08
(57)【要約】
【課題】合成する無機酸化物粒子の粒径を小さくすることができる無機酸化物粒子合成装置を提供することを目的とする。
【解決手段】無機物を含む原料を噴射する原料噴射手段と、前記原料噴射手段から噴射された前記原料を覆うように火炎を形成するバーナと、前記火炎を覆い、大気を内側に導入する大気導入口を有する円筒部材と、前記円筒部材の内側に設けられ、前記大気の流れを前記火炎に向かって案内する案内部材とを備え、前記案内部材の外表面と前記円筒部材の内周面との間において、前記円筒部材の中心軸に沿う方向に連通する間隙が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機物を含む原料を噴射する原料噴射手段と、
前記原料噴射手段から噴射された前記原料を覆うように火炎を形成するバーナと、
前記火炎を覆い、大気を内側に導入する大気導入口を有する円筒部材と、
前記円筒部材の内側に設けられ、前記大気の流れを前記火炎に向かって案内する案内部材とを備え、
前記案内部材の外表面と前記円筒部材の内周面との間において、前記円筒部材の中心軸に沿う方向に連通する間隙が形成されている無機酸化物粒子合成装置。
【請求項2】
前記案内部材は、筒状であり、一端に設けられた開口部と、前記火炎の進行方向に対して、前記開口部よりも下流側に位置し、前記開口部の直径より小さい内径を有する狭窄部とを有する請求項1に記載の無機酸化物粒子合成装置。
【請求項3】
前記案内部材は、前記バーナの先端面と、前記火炎における、前記原料の核生成温度の位置との距離をLa、前記バーナの先端面と、前記狭窄部との距離をLbとした場合、以下の関係式(1)を満たす請求項2に記載の無機酸化物粒子合成装置。
0.4×La ≦ Lb ≦ 1.6×La ・・・(1)
【請求項4】
前記狭窄部における、前記案内部材の中心軸に直交する断面の面積をSI、前記円筒部材の内径部分における、前記円筒部材の中心軸に直交する断面の面積をSOとした場合、以下の関係式(2)を満たす請求項2に記載の無機酸化物粒子合成装置。
0.1×SO ≦ SI ≦ 0.8×SO ・・・(2)
【請求項5】
前記バーナ側から見た前記間隙の投影面積をS2、前記円筒部材の内径部分における、前記円筒部材の中心軸に直交する断面の面積をSOとした場合、以下の関係式(3)を満たす請求項1または請求項2に記載の無機酸化物粒子合成装置。
S2 ≦ 0.5×SO ・・・(3)
【請求項6】
前記バーナの先端面と、前記案内部材の前記開口部側の一端との距離をLcとし、前記バーナの先端面と、前記狭窄部との距離をLbとした場合、以下の関係式(4)を満たす請求項2に記載の無機酸化物粒子合成装置。
Lc ≦ 0.8×Lb ・・・(4)
【請求項7】
前記案内部材は、前記火炎の進行方向に沿って先細りした逆円錐台筒状である請求項2に記載の無機酸化物粒子合成装置。
【請求項8】
前記大気導入口は、前記火炎の進行方向に対して前記バーナの先端面よりも上流側に設けられている請求項1または請求項2に記載の無機酸化物粒子合成装置。
【請求項9】
前記案内部材を前記円筒部材の内周面に固定する固定部材を備える請求項1または2に記載の無機酸化物粒子合成装置。
【請求項10】
前記固定部材は、複数設けられ、
前記複数の固定部材は、前記案内部材の中心軸に対して回転対称に配置されている請求項9に記載の無機酸化物粒子合成装置。
【請求項11】
無機物を含む原料を有するエアロゾルを形成し、反応場において、前記エアロゾルを火炎に供給する工程と、
前記エアロゾルに含まれる前記原料を熱処理する工程とを有し、
前記熱処理する工程において、大気を前記火炎の進行方向に沿って流通するように前記反応場に導入し、前記反応場に導入した大気の一部を、部材に衝突させることにより、前記火炎の中心軸に向かって流通させるとともに、前記反応場に導入した大気の一部を、前記部材に衝突させずに、前記火炎の進行方向に沿って流通させる無機酸化物粒子の合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機酸化物粒子合成装置、及び無機酸化物粒子の合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属等の無機物を含む粉末状、液体状、又は気体状の原料を噴射するノズルと、ノズルの周囲において火炎を形成するバーナとを備え、ノズルから火炎に原料を噴射して無機酸化物粒子を合成する無機酸化物粒子合成装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、原料をバーナに供給する原料供給手段と、酸化性ガスを、原料と共にバーナから噴出させる酸化性ガス供給手段と、予め可燃性ガスと支燃性ガスとを混合した混合ガスをバーナに供給する混合ガス供給手段と、バーナを配設した反応容器とを備えた金属酸化物製造装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の無機酸化物粒子合成装置では、無機酸化物粒子の生産量に応じて装置を大型化する場合、バーナから形成される火炎も大きくなり、火炎の長さが長くなる。そのため、所定の粒径(例えば、粒径1μm)より小さい粒径の無機酸化物粒子を合成する場合、火炎に噴射された原料が、核を生成した後冷却され難く、核が合一又は凝集して粒子の成長が進むことにより、所定の粒径より小さい粒径の無機酸化物粒子を合成することが困難であった。
【0006】
本発明の一態様は、装置を大型化しても合成する無機酸化物粒子の粒径を小さくすることができる無機酸化物粒子合成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る無機酸化物粒子合成装置は、無機物を含む原料を噴射する原料噴射手段と、前記原料噴射手段から噴射された前記原料を覆うように火炎を形成するバーナと、前記火炎を覆い、大気を内側に導入する大気導入口を有する円筒部材と、前記円筒部材の内側に設けられ、前記大気の流れを前記火炎に向かって案内する案内部材とを備え、前記案内部材の外表面と前記円筒部材の内周面との間において、前記円筒部材の中心軸に沿う方向に連通する間隙が形成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様に係る無機酸化物粒子合成装置によれば、装置を大型化しても合成する無機酸化物粒子の粒径を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係る無機酸化物粒子合成装置の模式図である。
【
図5】案内部材及び固定部材の他の例を示す斜視図である。
【
図6】実施例1及び比較例1の無機酸化物粒子合成装置における火炎の核生成位置と反応停止位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。なお、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の符号を付して、重複する説明は省略する場合がある。本明細書において数値範囲を示す「~」は、別段の断わりがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0011】
<無機酸化物粒子合成装置>
図1は、一実施形態に係る無機酸化物粒子合成装置の模式図である。
図1において、矢印は、気流の方向を示す。無機酸化物粒子合成装置10は、
図1に示すように、無機物を含む原料1を噴射する原料噴射手段2と、原料噴射手段2から噴射された原料1を覆うように火炎Fを形成するバーナ3と、火炎Fを覆い、大気を内側に導入する大気導入口41を有する円筒部材4とを備える。また、無機酸化物粒子合成装置10は、円筒部材4の内側に設けられ、大気導入口41から円筒部材4の内側に導入された大気の流れを火炎Fに向かって案内する案内部材5を備え、案内部材5の外表面と円筒部材4の内周面との間において、円筒部材4の中心軸に沿う方向に連通する間隙Gが形成されている。案内部材5は、円筒部材4の内側に導入された大気の流れの向きを変える案内板として機能する。
【0012】
まず、火炎Fを利用した場合の無機酸化物粒子の形成過程について説明する。原料噴射手段2から噴射された原料1は、バーナ3によって形成された火炎Fの中で燃焼反応により昇華し、原料1は蒸気となる。蒸気化した原料1は火炎Fの下流側に流される際に温度が低下して、原料1の濃度が臨界過飽和度に達した際に原料1の蒸気が凝縮され無機物の核が生成する。核が生成する位置のうちバーナ3の中心軸C上でバーナ3の先端面32から最も遠い位置を核生成位置F1とする。その後、核生成位置F1よりも下流側で飽和溶解度となると核の合一、凝集反応が停止する。合一、凝集反応が停止する位置のうちバーナ3の中心軸C上でバーナの先端面32から最も遠い位置を反応停止位置F2とする。
【0013】
核生成位置F1は、無機物の核生成温度となる位置に対応し、反応停止位置F2は、無機物の核の合一、凝集反応の反応停止温度となる位置に対応するため、核生成位置F1及び反応停止位置F2は、火炎Fの温度分布を測定することにより特定することができる。火炎Fにおける、原料1の濃度が臨界過飽和度となる温度以上の領域の輪郭線R1の内側の領域において、無機物の核が生成し、原料1の濃度が飽和溶解度となる温度以上の領域の輪郭線R2の外側の領域において、核の合一、凝集反応が停止する。
【0014】
反応停止位置F2の温度に冷却されるまでは、粒子の結晶成長、粒子同士の合一、凝集反応が進行し粒子の成長が進むことで粒子が大粒径化する。特に、多量の無機酸化物粒子を合成するために装置を大型化した場合は、火炎の大きさも大きくなるため、核生成位置F1から反応停止位置F2に到達する時間も長くなる。そのため、装置を大型化した場合は、粒子の成長が促進して比較的大粒径の無機酸化物粒子が形成されやすくなる。ここで装置の大型化とは、バーナ3の燃焼量が10,000kcal/h以上の装置をいう。このことから分かるように、原料1の核生成位置F1から反応停止位置F2までの距離が短く、かつ通過時間(ms)が短いほど粒子の成長を抑制され、生産量を高めるためにバーナ3の燃焼量を大きくしても小粒径の無機酸化物粒子を合成することが可能になる。
【0015】
この構成により、大気導入口41から円筒部材4の内側に導入された大気の一部は、案内部材5に衝突することにより、火炎Fに向かって流れるため、火炎Fの核生成位置F1から反応停止位置F2までを効率的に冷却する。よって、無機酸化物粒子合成装置10は、火炎Fに噴射された原料1に含まれる無機物が核を生成した後、核を迅速に冷却することができ、核の合一又は凝集等による粒子の成長を抑制することができる。以上により、無機酸化物粒子合成装置10は、合成する無機酸化物粒子の粒径を小さくすることができる。無機酸化物粒子合成装置10は、例えば、ナノメーターオーダーの粒径を有する無機酸化物粒子を合成することができる。
【0016】
さらに、円筒部材4の内側に導入された大気の他の一部を、案内部材5の外表面と円筒部材4の内周面との間の間隙Gを流通させることにより、火炎Fの核生成位置F1と反応停止位置F2の距離を調整することができる。間隙Gの面積を小さくすれば、核生成位置F1と反応停止位置F2の距離が短くなり、間隙Gの面積を大きくすれば、核生成位置F1と反応停止位置F2の距離が長くなるため、所望する無機酸化物粒子の粒径が得られる範囲で間隙Gの面積を調整すればよい。ここで、間隙Gの面積とは、間隙Gにおける、円筒部材4の中心軸に直交する断面の面積の最小値を意味する。
【0017】
また、大気が間隙Gを流通することで、大気の導入方向に対して、案内部材5の狭窄部52以外の下流側の空間で滞留する無機酸化物粒子も、大気の導入方向に沿って流れるため、無機酸化物粒子が円筒部材4内周面や案内部材5の外表面等に付着又は堆積に滞留することを抑制する効果も得ることができる。
【0018】
原料噴射手段2から噴射される原料1の状態は、特に限定されず、液体でも粉末でもよく、噴霧等によりエアロゾルを形成できる状態であることが好ましい。なお、エアロゾルとは、気体中に浮遊する微小な液体又は固体の粒子と、周囲の気体の混合体を意味する。原料噴射手段2に用いるガスとしては、火炎Fの温度を低下させないために酸化性ガスであることが多いが、それに限定されず、不活性ガスを用いてもよい。
【0019】
本実施形態で合成される無機酸化物粒子の一例としては、複合タングステン酸化物等が挙げられ、一般式MxWyOzで表わされる。上記一般式中の元素Mは、例えば、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素とすることができる。また、Wはタングステン、Oは酸素を表す。
【0020】
なお、アルカリ金属元素としては、Li、Na、K、Rb、Cs、Frが挙げられる。アルカリ土類金属元素としては、Ca、Sr、Ba、Ra、Mgが挙げられる。希土類元素としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luが挙げられる。
【0021】
原料1に含まれる無機物としては、上記に示す金属のうちから選択される1種類以上の元素単体又は、その塩若しくはその化合物等が挙げられる。
【0022】
原料1が液体である場合、原料1は、前述の1種類以上の元素の塩を有機溶媒に溶解した溶液とすることができる。塩の種類は特に限定されないが、例えば、炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩、水酸化物、酸化物等から選択された1種類以上を用いることができる。有機溶媒としては、例えば、ミネラルスピリット、エタノール、テトラヒドロフラン、アセトン、エチレングリコール、メタノール等を用いることができる。原料溶液中のpHを調整するためにクエン酸、アンモニア等を用いてもよい。
【0023】
原料噴射手段2は、原料1が収容された格納部21と、原料1をバーナ3に供給する原料供給管22とを有し、さらに、キャリアガスとしての酸素、空気、窒素、アルゴン等をバーナ3に供給するキャリアガス供給管23、コンプレッサ、ポンプ等を有していてよい。原料1が液体である場合は、超音波振動等による液体を霧化するための霧化部や、液体中の固形分を分散するための撹拌部等を有していてよい。
【0024】
バーナ3は、二流体ノズル31を有する。二流体ノズル31は、供給された原料1である溶液とキャリアガスからエアロゾルを形成する。また、バーナ3は、例えば、酸素等の支燃性ガスと、都市ガス(13A等)、液化石油ガス等の可燃性ガスを混合した混合ガスを後述する混合ガス噴出孔34から噴射する。バーナ3は、支燃性ガスと可燃性ガスを予め混合した混合ガスを混合ガス供給管35を通じて噴射してもよく、支燃性ガスと可燃性ガスを夫々に供給する供給管(図示なし)からバーナ3の先端部で混合して噴射してもよい。混合ガスは、原料1の周囲で燃焼し、原料1の酸化反応を促進するためのガスである。二流体ノズル31から噴射されたエアロゾルに含まれる有機溶媒は、火炎Fにより燃焼し分解される。この燃焼により発生した熱は、原料1の昇華反応に寄与する。
【0025】
本実施形態では、エアロゾルを形成する手段が、二流体ノズル31である例を示しているが、エアロゾルを形成する手段は、例えば、遠心アトマイザ、超音波アトマイザ等の各種アトマイザであってもよい。原料1が粉末である場合、エアロゾルを形成する手段は、原料1である粉末が分散した状態を形成し、該粉末を気流中に供給するエアロゾル形成装置であってよい。粉末をエアロゾル化する場合のエアロゾル形成装置は、例えば、回転するブラシや撹拌翼等を有する撹拌部と、撹拌部に原料1を送り出すピストンやスクリューフィーダ等を含む粉末供給部とを含む。粉末供給部から供給された原料1である粉末は、撹拌部により分散され、分散した各粒子をキャリアガスに送り出すことで原料1である粉末を含むエアロゾルを形成できる。撹拌部は、原料1である粉末を分散させるため、ブラシや撹拌翼等を高速で回転させることが好ましい。
【0026】
図2は、バーナ3の先端面32を示す平面図である。バーナ3は、
図2に示すように、先端面32の中央に設けられ、原料1及びキャリアガスを噴出する原料噴出孔33と、先端面32の原料噴出孔33の周囲において、周方向に等間隔に設けられ、混合ガスを噴出する複数の混合ガス噴出孔34とを有していてよい。
図2に示す例では、原料噴出孔33の数は、1個であり、混合ガス噴出孔34の数は30個であるが、これに限らず、それぞれ任意の数とすることができる。
【0027】
原料噴出孔33の直径及び混合ガス噴出孔34の直径は、例えば、0.5mm~5mmとすることができる。バーナ3の先端面32において、バーナ3の先端面32の中心と、混合ガス噴出孔34の中心との距離は、例えば、15mm~30mmとすることができる。
【0028】
図3は、
図1の要部拡大図である。円筒部材4は、原料1が無機酸化物粒子を形成するための反応場を構成し、円筒部材4の内側には、円筒部材4内に導入された大気の流れの向きを変える案内板として機能する案内部材5が配置されている。大気導入口41は、例えば円筒部材4の一端に形成された開口部であり、
図3に示すように、火炎Fの進行方向に対してバーナ3の先端面32よりも上流側に設けられていることが好ましい。例えばバーナ3の先端部が、円筒部材4の一端の開口部から、円筒部材4の内側に挿入されており、バーナ3の外周面と円筒部材4の内周面との間の間隙が、大気導入口41を構成し、大気は、火炎Fの進行方向に沿って導入される。この構成により、大気導入口41から導入された大気は、火炎Fに直接当たることを回避した上で、案内部材5に衝突し、火炎Fに向かって流れ、火炎Fが冷却される。よって、無機酸化物粒子合成装置10は、火炎Fを安定して維持しつつ、火炎Fに噴射された原料1に含まれる無機物が核を生成した後、核を迅速に冷却することができる。以上により、無機酸化物粒子合成装置10は、合成する無機酸化物粒子の粒径を安定して小さくすることができる。
【0029】
また、円筒部材4の他端は、形成された無機酸化物粒子を冷却する冷却部6に連結している。
【0030】
大気導入口41が、火炎Fの進行方向に対してバーナ3の先端面32よりも上流側に設けられている場合、バーナ3の外周面と円筒部材4の内周面との距離は、例えば、10mm~500mmとすることができる。
【0031】
円筒部材4は、外周面に設けられた冷却装置42を有していてよい。冷却装置42としては、例えば、冷却水が循環する配管が挙げられる。冷却装置42は、さらに、冷却部6の外周面に設けられていてもよい。
【0032】
案内部材5は、
図1及び
図3に示すように、その一部又は全部が、円筒部材4の中心軸と直交する方向において、円筒部材4の内周面と火炎Fの間に配置されている。
図4は、案内部材5の斜視図である。案内部材5は、
図3及び
図4に示すように筒状であり、一端に設けられた開口部51と、火炎Fの進行方向に対して、開口部51よりも下流側に位置し、開口部51の直径より小さい内径を有する狭窄部52とを有し、無機酸化物粒子合成装置10は、案内部材5を円筒部材4の内周面に固定する固定部材9を備えることが好ましい。この構成により、円筒部材4の内側に導入された大気は、案内部材5に衝突し、狭窄部52により、火炎Fに向かって収束して流れるため、火炎Fの核生成位置F1から、その下流にある反応停止位置F2までの距離が短縮されるとともに、狭窄部52を通過した気体や核の流速が速くなるため、核が核生成位置F1から反応停止位置F2までを通過する時間も短縮される。よって、無機酸化物粒子合成装置10は、火炎Fに噴射された原料1に含まれる無機物が核を生成した後、核をより迅速に冷却することができ、合成する無機酸化物粒子の粒径をより小さくすることができる。
【0033】
また、固定部材9により、案内部材5の外表面と円筒部材4の内周面との間において、円筒部材4の中心軸に沿う方向に連通する間隙Gを形成することができる。円筒部材4の内側に導入された大気の他の一部は、間隙Gを流通することにより、大気の導入方向に対して、案内部材5の下流側の空間に流通する。よって、無機酸化物粒子合成装置10は、火炎Fの核生成位置F1と反応停止位置F2の距離を自由に調整することができ、所望の粒径の無機酸化物粒子を合成することができる。また、合成した無機酸化物粒子が間隙G及びその下流側の空間に滞留することを抑制することができる。
【0034】
案内部材5の開口部51側の一端の外周部は、火炎Fの進行方向に対して、バーナ3の先端面32よりも下流側で、固定部材9を介して円筒部材4に接続されていてもよく、バーナ3の先端面32よりも上流側で、固定部材9を介して円筒部材4に接続されていてもよい。狭窄部52は、案内部材5の軸に沿う方向において案内部材5の一端と他端の間に設けられていてもよく、案内部材5の他端に設けられた開口部であってもよい。
【0035】
案内部材5は、火炎Fの進行方向に沿って先細りした逆円錐台筒状であることが好ましい。即ち、案内部材5は、火炎Fの進行方向に沿って先細りした逆円錐台筒状の周壁53と、大径部に形成された開口部51と、小径部に相当する狭窄部52とを有する。これにより、円筒部材4の内側に導入された大気が衝突する面積を十分に確保し、円筒部材4の内側に導入された大気を効率良く狭窄部52に集めることができる。よって、円筒部材4の内側に導入された大気は、火炎Fに向かってより収束して流れるため、火炎Fがより冷却される。以上により、無機酸化物粒子合成装置10は、火炎Fに噴射された原料1に含まれる無機物が核を生成した後、核をより迅速に冷却することができ、合成する無機酸化物粒子の粒径をより小さくすることができる。
【0036】
また、この構成の場合、固定部材9は、周壁53の外周面と、円筒部材4の内周面とを接続する。周壁53の外周面は、円筒部材4の内周面と離隔している。固定部材9により、案内部材5の周壁53の外周面と円筒部材4の内周面との間において、円筒部材4の中心軸に沿う方向に連通する間隙Gを形成することができる。円筒部材4の内側に導入された大気の他の一部は、間隙Gを流通することにより、大気の導入方向に対して、案内部材5の下流側の空間に流通する。よって、無機酸化物粒子合成装置10は、火炎Fの核生成位置F1と反応停止位置F2の距離を自由に調整することができ、所望の粒径の無機酸化物粒子を合成することができる。また、合成した無機酸化物粒子が間隙G及びその下流側の空間に滞留することを抑制することができる。
【0037】
図5は、案内部材5及び固定部材9の他の例を示す斜視図である。案内部材5は、
図5に示すように、円柱から円錐台を切除した形状を有していてもよい。この場合、案内部材5の周壁53は、円筒面状の外周面と、逆円錐台面状の内周面とを含む。案内部材5は、一端に設けられた開口部51と、円環状の底面54と、底面54に形成された開口部である狭窄部52とを有する。この構成の場合、固定部材9は、周壁53の外周面の一部と、円筒部材4の内周面の一部とを接続する。周壁53の外周面は、円筒部材4の内周面と離隔している。固定部材9により、案内部材5の周壁53の外周面と円筒部材4の内周面との間において、円筒部材4の中心軸に沿う方向に連通する間隙Gを形成することができる。よって、
図5に示す案内部材5を有する無機酸化物粒子合成装置10においても、
図4に示す案内部材5を有する無機酸化物粒子合成装置10と同様の効果を奏する。
【0038】
バーナ3側から見た間隙Gの投影面積をS2、円筒部材4の内径部分における、円筒部材4の中心軸に直交する断面の面積をSOとした場合、以下の関係式(3)を満たすことが好ましい。
S2 ≦ 0.5×SO ・・・(3)
さらに好ましくは、0.01×SO ≦ S2 ≦ 0.5×SOである。
【0039】
上記式(3)を満たすことにより、案内部材5に衝突することにより、火炎Fに向かって流れる大気の流量と、案内部材5の外表面と円筒部材4の内周面との間の間隙Gを流通する大気の流量の両方を十分に確保することができる。よって、無機酸化物粒子合成装置10は、火炎Fの核生成位置F1と反応停止位置F2の距離を自由に調整することができ、所望の粒径の無機酸化物粒子を合成することができる。また、合成する無機酸化物粒子の粒径をより小さくすることができるとともに、合成した無機酸化物粒子が間隙G及びその下流側の空間に滞留することをより抑制することができる。
【0040】
固定部材9は、円筒部材4の中心軸に沿う方向に延びる板状の部材であってよい。これにより、円筒部材4の内側に導入された大気の一部が、間隙Gを流通する際に固定部材9と衝突する面積が減少し、導入された大気の流速が低下することを抑制できる。よって、合成した無機酸化物粒子は、大気の導入方向に対して、案内部材5の下流側の空間において、大気の導入方向に沿って流れ易くなるため、無機酸化物粒子合成装置10は、火炎Fの核生成位置F1と反応停止位置F2の距離を自由に調整することができ、所望の粒径の無機酸化物粒子を合成することができる。また、合成した無機酸化物粒子が滞留することをより抑制することができる。
【0041】
固定部材9が、円筒部材4の中心軸に沿う方向に延びる板状の部材である場合、上述の円筒部材4の内径に対する、案内部材5の外表面と円筒部材4の内周面との最短距離は、円筒部材4の径方向における固定部材9の長さであってよい。
【0042】
固定部材9は、複数設けられ、複数の固定部材9は、案内部材5の中心軸C1に対して回転対称に配置されていることが好ましい。これにより、円筒部材4の内側に導入された大気の一部が、間隙Gを比較的均一に流通するため、合成した無機酸化物粒子は、大気の導入方向に対して案内部材5の下流側の空間の全体において、大気の導入方向に沿って流れる。よって、無機酸化物粒子合成装置10は、火炎Fの核生成位置F1と反応停止位置F2の距離を自由に調整することができ、所望の粒径の無機酸化物粒子を合成することができる。また、合成した無機酸化物粒子が間隙G及びその下流側の空間に滞留することをより抑制することができる。
図4及び
図5に示す例では、4つの固定部材9が、案内部材5の中心軸C1に対して4回対称の回転対称となる位置に配置されているが、固定部材9の数は、1つ、2つ、又は3つであってもよく、5つ以上であってもよい。また、複数の固定部材9は、好ましくは、案内部材5の外周に沿って等間隔となるように配置される。
【0043】
案内部材5は、
図4及び
図5に示す例のように、火炎Fの進行方向に沿って先細りした逆円錐台形状の貫通孔を有する筒状である場合、案内部材5の周壁53が、外側に凸となるように湾曲していてもよく、内側に凸となるように湾曲していてもよい。
【0044】
狭窄部52における、案内部材5の中心軸に直交する断面の面積をSI、円筒部材4における、円筒部材4の中心軸に直交する断面の面積をSOとした場合、以下の関係式(2)を満たすことが好ましい。
0.1×SO ≦ SI ≦ 0.8×SO ・・・(2)
【0045】
これにより、円筒部材4の内側に導入された大気は、火炎Fに向かって収束して流れるとともに、十分な風量が得られるため、火炎Fの核生成位置F1と反応停止位置F2の距離が短くなる。よって、無機酸化物粒子合成装置10は、火炎Fに噴射された原料1に含まれる無機物が核を生成した後、核をより迅速に冷却することができ、合成する無機酸化物粒子の粒径をより小さくすることができる。
【0046】
ただし、狭窄部52における、案内部材5の中心軸に直交する断面の面積SIを小さくすると同じ吸気圧の場合、圧損によって導入できる大気量が減少する。大気量を担保し、原料の通過速度を上昇させるためには、吸気圧を高める必要がある。吸気圧を高めるためには、大気導入口41の面積の拡大や、大気導入口41に強制的に大気を導入するためのファン等を備えてもよい。
【0047】
案内部材5の中心軸C1は、狭窄部52における円筒部材4の中心軸に直交する断面の形状の中心を通過し、かつ円筒部材4の中心軸、バーナ3の中心軸Cと一致していることが好ましい。これにより、無機酸化物粒子合成装置10は、合成する無機酸化物粒子の粒径を効率良く小さくすることができる。
【0048】
図3に示すように、バーナ3の先端面32と、火炎Fにおける、原料1の核生成温度の位置との距離をL
a、バーナ3の先端面32と、狭窄部52との距離をL
bとした場合、以下の関係式(1)を満たすことが好ましい。
0.4×L
a ≦ L
b ≦ 1.6×L
a ・・・(1)
【0049】
LaとLbが、関係式(1)を満たすことにより、狭窄部52が、火炎Fにおける、原料1の核生成位置F1の近傍に配置される。よって、円筒部材4の内側に導入された大気は、案内部材5に衝突し、狭窄部52により、火炎Fにおける、原料1の核生成位置F1の近傍に向かって収束して流れるため、無機酸化物粒子合成装置10は、原料1に含まれる無機物が核を生成した後、核をより迅速に冷却することができる。以上により、無機酸化物粒子合成装置10は、合成する無機酸化物粒子の粒径をより小さくすることができる。
【0050】
図3に示すように、バーナ3の先端面32と、案内部材5の開口部51側の一端との距離をL
cとし、バーナ3の先端面32と狭窄部52との距離をL
bとした場合、以下の関係式(4)を満たすことが好ましい。
L
c ≦ 0.8×L
b ・・・(4)
【0051】
LcとLbが、関係式(4)を満たすことにより、円筒部材4の内側に導入された大気が衝突する面積を十分に確保し、円筒部材4の内側に導入された大気を効率良く狭窄部52に集めることができる。よって、円筒部材4の内側に導入された大気は、火炎Fに向かってより収束して流れるため、火炎Fがより冷却される。以上により、無機酸化物粒子合成装置10は、火炎Fに噴射された原料1に含まれる無機物が核を生成した後、核をより迅速に冷却することができ、合成する無機酸化物粒子の粒径をより小さくすることができる。
【0052】
案内部材5は、円筒部材4の内側において、円筒部材4の中心軸に沿って移動可能であってよい。これにより、例えば、上述の関係式(1)又は(4)を満たすよう円筒部材4の位置を容易に調整することができ、火炎Fの核生成位置F1と反応停止位置F2の距離を調整することが可能になる。具体的には、無機酸化物粒子合成装置10は、案内部材5に接続され、円筒部材4の大気導入口41から外部に延び、円筒部材4の軸に沿って移動可能な支持部材を備えていてよい。即ち、案内部材5は、支持部材によって吊り下げられていてよい。これにより、円筒部材4の外部から、支持部材を上下動することにより、案内部材5の位置を容易に調整することができる。
【0053】
円筒部材4は、円筒部材4の中心軸に沿う方向において複数の円筒部材ユニットに分割可能であり、何れかの円筒部材ユニットを、
図5に示す案内部材5に交換可能であってもよい。即ち、案内部材5の周壁53は、円筒部材4の周壁の一部を構成する。無機酸化物粒子合成装置10は、所望の位置の円筒部材ユニットを案内部材5に交換することにより、案内部材5の位置を容易に調整することができる。この場合、円筒部材4の内径と、案内部材5の周壁53の外径は、同じであることが好ましい。なお、何れかの隣接する円筒部材ユニットの間に
図5に示す案内部材5を挿入可能であってもよい。
【0054】
案内部材5は、案内部材5の開口部51側の一端の外周部に設けられた鍔部を有していてよく、何れかの隣接する円筒部材ユニットの間に鍔部を挿入可能であってもよい。無機酸化物粒子合成装置10は、隣接する円筒部材ユニットの間に案内部材5の鍔部を挿入することにより、案内部材5の位置を容易に調整することができる。この場合、円筒部材4の内径と、案内部材5の鍔部の外径は、同じであることが好ましい。
【0055】
図1に示す例では、バーナ3は、鉛直方向に沿って配置され、火炎の進行方向は、鉛直方向下向きであるが、これに限らず、バーナ3は、水平方向に沿って配置され、火炎の進行方向も、水平方向に沿っていてもよい。
【0056】
無機酸化物粒子合成装置10は、冷却部6に連結され、無機酸化物粒子を回収する回収部7を備えていてよい。冷却部6には、無機酸化物粒子の温度をさらに下げるために冷却用大気導入口(図示なし)を設けてもよい。無機酸化物粒子の温度を下げることで、高温によるフィルタ8の劣化を抑制することができる。回収部7は、回収部7の内部に設けられたバグフィルタ等のフィルタ8と、回収部7の下部に設けられた回収管71を有していてよい。無機酸化物粒子は、回収部7に導入され、フィルタ8によって集められ、フィルタ8に堆積すると自重により落下して回収管71に貯留される。無機酸化物粒子合成装置10は、回収部7の下流側において、エジェクタ、排気ポンプ等の図示しない減圧装置を備えていてよく、減圧装置により、円筒部材4の内側の空間は、減圧状態に制御することができる。
【0057】
<無機酸化物粒子の合成方法>
本実施形態の無機酸化物粒子の合成方法においては、無機物を含む原料を有するエアロゾルを形成し、反応場において、エアロゾルを火炎に供給する工程(エアロゾル形成工程)と、エアロゾルに含まれる原料を熱処理する工程(熱処理工程)とを有する。また、熱処理する工程において、大気を火炎の進行方向に沿って流通するように反応場に導入し、反応場に導入した大気の一部を、部材に衝突させることにより、火炎の中心軸に向かって流通させると共に、反応場に導入した大気の一部を、部材に衝突させずに、火炎の進行方向に沿って流通させる。
【0058】
本実施形態の無機酸化物粒子の合成方法によれば、反応場に導入した大気の一部を、部材に衝突させ、火炎の中心軸に向かって流通させることにより、火炎に供給されたエアロゾルに含まれる無機物が核を生成した後、核を迅速に冷却することができ、核の合一又は凝集等による粒子の成長を抑制することができる。よって、本実施形態の無機酸化物粒子の合成方法によれば、合成する無機酸化物粒子の粒径を小さくすることができる。本実施形態の無機酸化物粒子の合成方法によれば、例えば、ナノメーターオーダーの粒径を有する無機酸化物粒子を合成することができる。
【0059】
また、反応場に導入した大気の他の一部を、案内部材5に衝突させずに、火炎の進行方向に沿って流通させることにより、導入した大気の他の一部は、隙間Gを通って大気の導入方向に対して案内部材5の下流側の空間に流通し、合成した無機酸化物粒子は、案内部材5の下流側の空間において、大気の導入方向に沿って流れる。よって、本実施形態の無機酸化物粒子の合成方法によれば、火炎Fの核生成位置F1と反応停止位置F2の距離を自由に調整することができ、所望の粒径の無機酸化物粒子を合成することができる。また、合成した無機酸化物粒子が隙間G及びその下流側の空間に滞留することを抑制することができる。
【0060】
本実施形態の無機酸化物粒子の合成方法においては、本実施形態の無機酸化物粒子合成装置10を用いて無機酸化物粒子を合成することができる。
【0061】
本実施形態の無機酸化物粒子の合成方法においては、エアロゾル形成工程の前に、無機物を含む原料を調製する工程(原料調製工程)を有していてもよい。
【0062】
(原料調製工程)
原料調製工程においては、無機物を含む原料を調製する。原料及び無機物としては、上述の無機酸化物粒子合成装置10で用いる原料1及び無機物と同様であるため説明を省略する。無機物を2種以上使用する場合は、各種無機物の比を、目的とする無機酸化物粒子の組成に対応した比で配合し、原料1を調製する。調製した原料1は、無機酸化物粒子合成装置10の格納部21に収容することができる。
【0063】
(エアロゾル形成工程)
エアロゾル形成工程においては、例えば、原料調製工程で調製した原料1を有するエアロゾルを形成し、反応場において、エアロゾルを火炎に供給する。エアロゾルは、原料1の液滴又は粒子を含む。エアロゾル形成工程においては、エアロゾルを形成すると同時に、エアロゾルを火炎に供給してもよく、予めエアロゾルを形成した後、エアロゾルを酸素等のキャリアガスにより搬送し、エアロゾルを火炎に供給してもよい。
【0064】
エアロゾル形成工程において、エアロゾルを形成する手段、方法は、特に限定されないが、無機酸化物粒子合成装置10の原料噴射手段2を用いることができる。また、反応場としては、無機酸化物粒子合成装置10の円筒部材4を用いることができる。
【0065】
エアロゾル形成工程において、気体中に分散した原料1の液滴を形成する場合、形成する液滴の直径は、特に限定されないが、100μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。液滴の直径を100μm以下とすることで、得られる無機酸化物粒子が粗粒化することを抑制し、ナノメートルオーダーの無機酸化物粒子を安定して合成することができる。なお、エアロゾル形成工程で形成する原料1の液滴の直径の下限値は、特に限定されない。ただし、過度に小さい液滴を形成することは困難であり、生産性が低下する恐れがあることから、原料1の液滴の直径の下限値は、例えば、1μm以上であることが好ましい。
【0066】
エアロゾル形成工程において、気体中に分散した原料1の粒子を形成する場合、粒子の直径は、特に限定されないが、50μm以下であることが好ましく、5μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましい。粒子の直径を50μm以下とすることで、粒子の内部までより確実に熱処理を行うことが可能となる。粒子の直径は、透過型電子顕微鏡を用いて、3視野で観察し、算出することができる。具体的には、3視野で、合計600個以上700個以下の粒子の像を観察し、各粒子の断面積を算出し、各粒子について円換算径を算出する。そして、各粒子の円換算径の加算平均値を粒子の直径(粒径)とする。
【0067】
(熱処理工程)
熱処理工程では、原料を熱処理して、原料から無機酸化物粒子を形成する。熱処理工程において、熱処理を行う手段、方法は、原料が核生成する温度以上で熱処理できればよく、特に限定されないが、無機酸化物粒子合成装置10のバーナ3を用いることができる。反応が停止する温度以下まで熱処理を行うことで、原料に含まれる無機物が熱分解し、核が生成し、粒子の成長、凝集、合一反応を経て無機酸化物粒子が形成される。
【0068】
熱処理温度は、核生成する温度以上であれば良く、熱処理温度の上限値は、特に限定されないが、エネルギー消費量を抑制する観点から、4000℃以下であることが好ましい。
【0069】
火炎Fを、支燃性ガスと可燃性ガスを含む混合ガスを用いて形成する。支燃性ガスとしては、酸素ガス、可燃性ガスとしてはプロパンや都市ガスを用いることができる。
【0070】
熱処理する工程において、反応場に導入した大気の一部を、部材に衝突させるとともに、反応場に導入した大気の一部を、部材に衝突させずに、火炎の進行方向に沿って流通させる部材としては、無機酸化物粒子合成装置10の案内部材5と、間隙G又は固定部材9を用いることができる。
【実施例0071】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
図1に示した無機酸化物粒子合成装置10を用いて、セシウムタングステン酸化物粒子を合成し、下記の方法により評価を行った。以下、具体的な条件について説明する。
【0073】
<無機酸化物粒子の合成>
(実施例1)
無機酸化物粒子合成装置において、内径10.2cmの円筒部材4の内側に、火炎の進行方向に沿って先細りした逆円錐台筒状の案内部材5を設けた。案内部材5の狭窄部52の内径は、4.77cmとした。案内部材5の外表面と円筒部材4の内周面との間隙Gの距離は、0.92cmとし、厚みが5.0mmの板状の固定部材9を4枚を等間隔となるように案内部材5の外表面と円筒部材4の内周面に接続した。また、バーナ3の先端面32と、原料1の核生成位置F1(1000℃)との距離Laは、56.8cmとし、バーナ3の先端面32と、案内部材5の狭窄部52との距離Lbは、51.0cmとした。バーナ3の先端面32と開口部51との距離Lcは、20.4cmとした。
【0074】
原料1として、無機物であるヘキサカルボニルタングステンを有機溶剤であるテトラヒドロフランに溶解させてタングステン溶液を調製した。次に無機物である酢酸セシウムを有機溶剤であるエタノールに溶解させてセシウム溶液を調製した。その後タングステン溶液とセシウム溶液を混合してセシウムタングステン溶液を作製した(原料調製工程)。
【0075】
次に、格納部21に収容した上記原料溶液を、キャリアガスである酸素とともに二流体ノズル31に供給して、エアロゾルを形成し、バーナ3の火炎内に供給した(エアロゾル形成工程)。バーナ3への原料溶液の供給量は、1L/hとした。また、キャリアガスである酸素の流量は、75L/minとした。大気導入口41への空気流量は、280Nm3/h~540Nm3/hの範囲内となるように制御した。
【0076】
次に、バーナ3から形成された火炎により、エアロゾルに含まれる原料溶液の熱処理を行った(熱処理工程)。バーナ3による火炎の形成には、都市ガスと、酸素ガスとを用い、都市の流量を2.8L/min、酸素の流量を36.0L/minとした。バーナの燃焼量は20,000kcal/hとし、熱処理は、1,500℃以上の温度で行った。熱処理して得られたセシウムタングステン酸化物粒子を冷却し、フィルタにより回収した。
【0077】
(比較例1)
無機酸化物粒子合成装置において、逆円錐台筒状の案内部材5及び固定部材9を設けないこと以外は、実施例1と同様に無機酸化物粒子を合成した。
【0078】
<評価>
実施例1及び比較例1の無機酸化物粒子合成装置について、熱処理中の火炎の温度分布をK型熱電対により測定して求め、核が生成し始める1,000℃および反応が停止する500℃の領域の輪郭線(外形)形状を確認した。
【0079】
図6は、実施例1及び比較例1の無機酸化物粒子合成装置における火炎の核生成位置F1と反応停止位置F2を示す図である。火炎の各位置の温度を10回測定した平均値を算出し、核が生成し始める1,000℃の点を線で結び輪郭線R1を作成し、合一、凝集反応が停止する500℃の点を線で結び輪郭線R2を作成した。実施例1の上側の破線は、案内部材5の開口部51の位置を示し、下側の破線は、案内部材5の狭窄部52の位置を示している。
図6に示すように、実施例1の無機酸化物粒子合成装置では、バーナ3の先端面32と核生成位置F1(1,000℃)までの距離が56.8cmであり、バーナ3の先端面32と反応停止位置F2(500℃)までの距離は64.9cmまで伸張した。つまり、実施例1では、核生成位置F1から反応停止位置F2までの距離は8.1cmであった。また、合成したセシウムタングステン酸化物粒子について、透過型電子顕微鏡を用いて観察した結果、実施例1の無機酸化物粒子合成装置で合成したセシウムタングステン酸化物粒子の粒径は、粒度分布のD90で245nmであった。
【0080】
一方、比較例1の無機酸化物粒子合成装置では、バーナ3の先端面32と核生成位置F1(1,000℃)までの距離は57.3cmであり、バーナ3の先端面32と反応停止位置F2(500℃)までの距離は69.6cmまで伸張した。つまり、比較例1では、核生成位置F1から反応停止位置F2までの距離は12.3cmであり、実施例1での核生成位置F1から反応停止位置F2までの距離8.1cmよりも長くなった。また、比較例1の無機酸化物粒子合成装置で合成したセシウムタングステン酸化物粒子の粒径は、粒度分布のD90で1.8μmであり、実施例1よりも粒径が大きくなった。
【0081】
つまり、無機酸化物粒子合成装置が案内部材5及び固定部材9を備えることにより、核生成位置F1から反応停止位置F2の距離が短縮されていることを確認した。実施例1での核生成位置F1から反応停止位置F2までの距離は比較例1と比較して2/3程度まで短縮化したため、本領域を通過する時間も2/3程度まで短縮化される。よって熱処理工程において、核生成位置F1から反応停止位置F2までの距離を短縮することで、核が生成された後、核の合一又は凝集による粒子の成長を抑制することを確認した。
【0082】
さらに、熱処理工程で形成された無機酸化物粒子は、大気の導入方向に対して、案内部材の下流側の空間において、大気の導入方向に沿って流れていることを確認した。
【0083】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更等を行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。