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特開2025-27337三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物、三次元造形用フィラメント、三次元造形物及びその製造方法、三次元焼結物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025027337
(43)【公開日】2025-02-27
(54)【発明の名称】三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物、三次元造形用フィラメント、三次元造形物及びその製造方法、三次元焼結物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 59/00 20060101AFI20250219BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20250219BHJP
   C08K 3/10 20180101ALI20250219BHJP
   B29C 64/118 20170101ALI20250219BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20250219BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20250219BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20250219BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20250219BHJP
   B29C 64/379 20170101ALI20250219BHJP
   B33Y 40/20 20200101ALI20250219BHJP
   B29C 64/245 20170101ALI20250219BHJP
【FI】
C08L59/00
C08K3/013
C08K3/10
B29C64/118
B33Y80/00
B33Y70/00
B33Y10/00
B29C64/314
B29C64/379
B33Y40/20
B29C64/245
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023132064
(22)【出願日】2023-08-14
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 祐彦
【テーマコード(参考)】
4F213
4J002
【Fターム(参考)】
4F213AA23
4F213AB11
4F213AB16
4F213AC02
4F213AR06
4F213WA22
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL23
4F213WL25
4F213WL27
4F213WL56
4F213WL73
4J002CB001
4J002DA076
4J002DA086
4J002DA116
4J002DC006
4J002DD036
4J002DD046
4J002DD056
4J002DD066
4J002DE056
4J002DE096
4J002DE106
4J002DE136
4J002DE146
4J002DE186
4J002DE266
4J002DF016
4J002DF036
4J002DG046
4J002DG056
4J002DH036
4J002DJ006
4J002DK006
4J002FD016
4J002GF00
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】熱溶解積層法による三次元造形が可能であり、且つ該三次元造形物を焼結した後に残渣や残炭が生じにくい、三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物及びそれを含む三次元造形用フィラメント等の提供。
【解決手段】三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物であって、前記ポリアセタール樹脂組成物は、示差走査熱量計で測定される融点Tm2と結晶化温度Tcとの差(Tm2-Tc)が22~40℃であり、且つ温度190℃、荷重2.16kgで測定したメルトフローレートが0.8~50g/10minであるポリアセタール樹脂と、金属粉末、金属合金粉末、及びセラミック前駆体粉末から選択される少なくとも1つの無機粉末とを含み、前記ポリアセタール樹脂組成物中の、前記ポリアセタール樹脂と前記無機粉末の合計量100質量部に対する、前記無機粉末の割合が70~95質量部である、三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物であって、
前記ポリアセタール樹脂組成物は、
示差走査熱量計で測定される融点Tm2と結晶化温度Tcとの差(Tm2-Tc)が22℃以上40℃以下であり、且つ温度190℃、荷重2.16kgで測定したメルトフローレートが0.8g/10min以上50.0g/10min以下であるポリアセタール樹脂と、
金属粉末、金属合金粉末、及びセラミック前駆体粉末から選択される少なくとも1つの無機粉末とを含み、
前記ポリアセタール樹脂組成物中の、前記ポリアセタール樹脂と前記無機粉末の合計量100質量部に対する、前記無機粉末の割合が70~95質量部である、三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアセタール樹脂が、全構成単位(100質量%)中にコモノマー単位を3.0質量%以上6.0質量%以下含む、請求項1に記載の三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアセタール樹脂が、全構成単位(100質量%)中にコモノマー単位を含み、
前記コモノマー単位が、炭素数2以上のオキシアルキレン単位を含む、請求項1または2に記載の三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリアセタール樹脂が、全構成単位(100質量%)中にコモノマー単位を含み、
前記コモノマー単位が、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、及びオキシテトラメチレン基から選択される少なくとも1つのオキシアルキレン単位である、請求項1または2に記載の三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物を含む、三次元造形用フィラメント。
【請求項6】
平均直径が1~3mmである、請求項5に記載の三次元造形用フィラメント。
【請求項7】
請求項1または2に記載の三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物を含む、三次元造形物。
【請求項8】
請求項7に記載の三次元造形物の焼結物である、三次元焼結物。
【請求項9】
請求項7に記載の三次元造形物を製造する方法であって、
前記製造方法は、前記三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物を用いて熱溶解積層法により三次元造形物を形成することを含む、三次元造形物の製造方法。
【請求項10】
前記三次元造形物を形成することが、下記式1:
Tm2>Ts≧Tc、かつ、Tc>Ta>Tc-100 (式1)
[式1中、Tsは造形ステージの温度(℃)であり、Tcは前記ポリアセタール樹脂の結晶化温度(℃)であり、Tm2は前記ポリアセタール樹脂の融点(℃)であり、Taは造形エリアの雰囲気温度(℃)である]
を満たす温度条件下で、造形ステージ上に前記三次元造形物を形成することを含み、
前記造形ステージ上に前記三次元造形物を形成することの後に、下記式2:
Tc>Ts (式2)
[式2中、Ts及びTcは式1と同じである]
を満たす温度条件下で、前記三次元造形物を前記造形ステージの表面から剥離することを含む、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記三次元造形物を形成することが、造形ステージ上に下地層を形成した後に、前記下地層上に前記三次元造形物を形成することを含む、請求項9に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項8に記載の三次元焼結物を製造する方法であって、
前記製造方法は、前記三次元造形物を焼結することを含む、三次元焼結物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物、三次元造形用フィラメント、三次元造形物及びその製造方法、三次元焼結物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3Dプリンタは、金型や大規模な溶融装置を用いずに三次元造形物を作製することができることから、近年急速に普及している。3Dプリンタによる造形方式としては、熱溶解積層法(FFF(Fused Filament Fabrication)方式)、光造形法(STL(Stereolithography)方式)、及び粉末焼結法(SLS(Selective Laser Sintering)方式)等が知られている。熱溶解積層法は、熱可塑性樹脂を加熱溶融して積層することにより三次元造形物を形成する方法であり、装置が低価格であることから産業向けのみならず、個人向けとしても広く普及しつつある。
【0003】
一方、熱溶解積層法の原理を用いて、無機物からなる三次元焼結物(以下、単に「三次元焼結物」と記載する)を得る造形法の開発も進んでいる。具体的には、無機物の粉末に熱可塑性樹脂をバインダー材料として混合して、フィラメントやペレット形態とし、これらを用いて熱溶解積層法の原理により三次元造形物を得る。その後、脱脂工程によりバインダーを除去した上で、焼結工程により無機物の粒子間の結合を促進して三次元焼結物を得る造形法である。粉末焼結法により無機粉末から直接三次元造形する造形法と比較して、熱溶解積層法の原理を利用することにより、精密な造形が可能であり、更に装置価格を大幅に下げることができる。
【0004】
三次元焼結物を得る方法として、例えば特許文献1には、焼結可能な無機粉末と、有機バインダーとしてポリオレフィン系重合体変性ポリアセタール等の有機バインダーと、有機化合物とを含有する三次元造形用組成物を用い、3Dプリンタにて積層したのち焼結して、三次元焼結物を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-015848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、射出成形や熱溶解積層法を利用して、三次元造形物から三次元焼結物を造形する場合、三次元造形物の形成後に、熱可塑性樹脂からなるバインダーを脱脂や燃焼によって除去することが必要となる。しかし、脱脂工程は有機溶媒等の産業排水の元となる液体を使用するため環境負荷が大きいだけでなく、プロセスコストが嵩むという問題がある。また、バインダーとして、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂のようなオレフィン系樹脂や、芳香環を含む樹脂をバインダーとして用いた場合は、燃焼・焼結工程において、残渣や残炭が発生し、該残渣などにより三次元焼結物の外観や物性に影響を及ぼす可能性がある。
【0007】
一方、ポリアセタール樹脂は燃焼性が非常に高く、かつ残炭の恐れもほとんどないため、上述の熱溶解積層法を利用した三次元焼結物の造形法におけるバインダーとして利用することが期待されている。しかし、ポリアセタール樹脂は温度低下に伴う収縮率が大きいため、熱溶解積層法による造形時に反りが発生してしまうことがある。特に、造形物の寸法が大きい場合は、造形過程で造形ステージに接する面に反りが発生して造形ステージから剥離してしまうことがある。そのような場合は熱溶解積層法による三次元造形が困難となる。
【0008】
本開示の第1の課題は、熱溶解積層法による三次元造形が可能であり、且つ該三次元造形物を焼結した後に残渣や残炭が生じにくい、三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物及びそれを含む三次元造形用フィラメントの提供である。
本開示の第2の課題は、新規な三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物を用いた三次元造形物及びその製造方法であって、熱溶解積層法による製造が可能な三次元造形物及びその製造方法の提供である。
本開示の第3の課題は、新規な三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物を用いた三次元造形物より得られる三次元焼結物及びその製造方法であって、三次元造形物を焼結した後に残渣や残炭が生じにくい三次元焼結物及びその製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは鋭意検討した結果、三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物であって、前記ポリアセタール樹脂組成物は、示差走査熱量計で測定される融点Tm2と結晶化温度Tcとの差(Tm2-Tc)が22℃以上40℃以下であり、且つ温度190℃、荷重2.16kgで測定したメルトフローレートが0.8g/10min以上50.0g/10min以下であるポリアセタール樹脂と、金属粉末、金属合金粉末、及びセラミック前駆体粉末から選択される少なくとも1つの無機粉末とを含み、前記ポリアセタール樹脂組成物中の、前記ポリアセタール樹脂と前記無機粉末の合計量100質量部に対する、前記無機粉末の割合が70~95質量部である、三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物であれば、前述の第1~第3の課題を全て解決できることを見出した。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、熱溶解積層法による三次元造形が可能であり、且つ該三次元造形物を焼結した後に残渣や残炭が生じにくい、三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物及びそれを含む三次元造形用フィラメントを提供できる。
また本開示によれば、新規な三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物を用いた三次元造形物及びその製造方法であって、熱溶解積層法による製造が可能な三次元造形物及びその製造方法を提供できる。
さらに本開示によれば、新規な三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物を用いた三次元造形物より得られる三次元焼結物及びその製造方法であって、三次元造形物を焼結した後に残渣や残炭が生じにくい三次元焼結物及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】熱溶解積層法による三次元造形物の製造方法のフローを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の一実施形態について詳細に説明するが、本開示の範囲はここで説明する一実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができる。本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。また、特定のパラメータについて、複数の上限値及び下限値が記載されている場合、これらの上限値及び下限値の内、任意の上限値と下限値とを組合せて好適な数値範囲とすることができる。また、本開示に記載されている数値範囲の下限値及び/又は上限値は、その数値範囲内の数値であって、実施例で示されている数値に置き換えてもよい。数値範囲を示す「X~Y」との表現は、「X以上Y以下」であることを意味している。一実施形態について記載した特定の説明が他の実施形態についても当てはまる場合には、他の実施形態においてはその説明を省略している場合がある。
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはない。
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【0013】
[三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物]
本開示における第1の実施形態は、三次元造形用のポリアセタール樹脂組成物に関する。
第1の実施形態に係る三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」と記載することもある)は、示差走査熱量計で測定される融点Tm2と結晶化温度Tcとの差(Tm2-Tc)が22℃以上40℃以下であり、且つ温度190℃、荷重2.16kgで測定したメルトフローレートが0.8g/10min以上50.0g/10min以下であるポリアセタール樹脂と、金属粉末、金属合金粉末、及びセラミック前駆体粉末から選択される少なくとも一つの無機粉末とを含み、前記ポリアセタール樹脂組成物中の、前記ポリアセタール樹脂と前記無機粉末の合計量100質量部に対する、前記無機粉末の割合が70~95質量部である。第1の実施形態に係る樹脂組成物によれば、熱溶解積層法による三次元造形が可能であり、且つ該三次元造形物を焼結した後に残渣や残炭が生じにくい。
【0014】
<ポリアセタール樹脂>
第1の実施形態に係る樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂を含む。第1の実施形態に係るポリアセタール樹脂は、示差走査熱量計で測定される融点Tm2と結晶化温度Tcとの差(Tm2-Tc)が22℃以上40℃以下であり、且つ温度190℃、荷重2.16kgで測定したメルトフローレートが0.8g/10min以上50.0g/10min以下である。
【0015】
(ポリアセタール樹脂の融点Tm2及び結晶化温度Tc)
第1の実施形態に係るポリアセタール樹脂は、示差走査熱量計で測定される融点Tm2と結晶化温度Tcとの差(Tm2-Tc)が、22℃以上40℃以下である。ポリアセタール樹脂の(Tm2-Tc)が22℃以上40℃以下であることにより、熱溶解積層法による三次元造形が可能となる。また、大きな寸法の造形物を安定して造形できる。さらに、三次元造形物を焼結した後に、残渣や残炭が生じにくい。ポリアセタール樹脂の(Tm2-Tc)は、22℃以上35℃以下がより好ましく、22℃以上30℃以下がさらに好ましい。一実施形態において、ポリアセタール樹脂の(Tm2-Tc)は、22℃以上25℃以下であってもよい。
【0016】
融点Tm2は、JIS K-7121(2012)に基づいた方法により、ポリアセタール樹脂を40℃から10℃/分の昇温速度で200℃まで加熱(1stRUN)後、200℃で5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で40℃まで冷却後、40℃で5分間保持し、再度40℃から10℃/分の昇温速度で200℃まで加熱(2ndRUN)した際に観測される2ndRUNの吸熱ピークにおけるピークトップの温度のことをいう。
【0017】
結晶化温度Tcは、JIS K-7121(2012)に基づいた方法により、ポリアセタール樹脂を40℃から10℃/分の昇温速度で200℃まで加熱(1stRUN)後、200℃で5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で40℃まで冷却した際に観測される発熱ピークにおけるピークトップの温度のことをいう。
【0018】
一実施形態において、ポリアセタール樹脂の融点Tm2は、160℃以上170℃未満であってもよく、162℃以上167℃以下であってもよい。一実施形態において、ポリアセタール樹脂の結晶化温度Tcは、135℃以上150℃以下であってもよく、137℃以上147℃以下であってもよい。
【0019】
上述の(Tm2-Tc)を達成するためには、例えば、ポリアセタール樹脂が後述するコポリマーである場合は、ポリアセタール樹脂中のコモノマー単位の割合を調整して融点Tm2の値を制御することが挙げられる。例えば、コモノマー単位の割合が大きいほど、融点Tm2が低くなる傾向にある。また結晶化温度Tcの調整も、コモノマー単位の割合を調整することにより行うことができる。例えば、コモノマー単位の割合が大きいほど、結晶化温度Tcが低くなる傾向にある。
【0020】
(ポリアセタール樹脂のメルトフローレート(MFR))
ポリアセタール樹脂は、温度190℃、荷重2.16kgで測定したMFRが、0.8g/10min以上50.0g/10min以下であり、0.8g/10min以上30.0g/10min以下が好ましく、0.8g/10min以上10.0g/10min以下がより好ましく、0.8g/10min以上5.0g/10min以下が特に好ましい。ポリアセタール樹脂の(Tm2-Tc)が上記所定の範囲内である場合において、MFRが0.8g/10min以上50.0g/10min以下であることにより、寸法が大きい造形物を作製する場合であっても熱溶解積層法による三次元造形が容易となる。また、三次元造形物を焼結した後に、残渣や残炭が生じにくい。ポリアセタール樹脂のMFRは、温度190℃、荷重2.16kgの条件で、ISO 1133-1:2011(条件D)に基づいて測定する。
【0021】
MFRの調整は、主にポリアセタール樹脂の重量平均分子量(Mw)で行う。例えば、ポリアセタール樹脂の重量平均分子量(Mw)が大きい程、MFRが低くなる傾向にある。
【0022】
(樹脂組成)
第1の実施形態に係るポリアセタール樹脂としては、前述の(Tm-Tc)及びMFRを達成できるものであれば、特に限定されない。このような物性を達成できるポリアセタール樹脂としては、ポリアセタールホモポリマーであってもよく、ポリアセタールコポリマーであってよい。一実施形態において、機械的物性と熱的物性のバランスの観点から、ポリアセタール樹脂は、ポリアセタールコポリマーを含むことが好ましい。ポリアセタール樹脂は、直鎖状の分子鎖のみを含むのもであってもよく、分岐鎖や架橋構造を有する物であってもよい。また、他の有機基を含む変性ポリオキシメチレンであってもよい。
【0023】
ポリアセタールホモポリマーは、オキシメチレン単位(-CHO-)のみを主鎖に有するポリマーである。
ポリアセタールコポリマーは、主たる構成単位としてオキシメチレン単位(-CHO-)を含み、さらに前記オキシメチレン単位以外のコモノマー単位を含む共重合体樹脂である。「主たる構成単位」とは、ポリアセタールコポリマーを構成する全構成単位(100質量%)中に占める割合が50質量%超、好ましくは70質量%以上のモノマー単位のことを意味する。
【0024】
ポリアセタールコポリマーに含まれるコモノマー単位は、1種類又は2種類以上であってもよい。一実施形態において、コモノマー単位は、炭素数2以上、好ましくは炭素数2以上6以下のオキシアルキレン単位であることが好ましい。コモノマー単位が炭素数2以上のオキシアルキレン単位であることにより、熱安定性が良好となりやすい。コモノマー単位は、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、及びオキシテトラメチレン基から選択される少なくとも1つのオキシアルキレン単位であることがより好ましく、オキシエチレン基を含むことが特に好ましい。
【0025】
ポリアセタールコポリマー中のコモノマー単位の割合は、ポリアセタール樹脂の全構成単位(100質量%)に対して、1.0質量%以上6.0質量%以下であることが好ましい。一実施形態において、前記コモノマー単位の割合は、3.0質量%以上6.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以上5.5質量%以下がより好ましく、3.0質量%以上5.0質量%以下がさらに好ましく、3.0質量%以上4.0質量%以下が特に好ましい。コモノマー単位の割合が、ポリアセタールコポリマーの全構成単位(100質量%)に対して、1.0~6.0質量%、より好ましくは、3.0~6.0質量%であることにより、反りやボイドをより低減することができ、熱溶解積層法による三次元造形がより容易となる。また、外観により優れる三次元造形物を作製できる。コモノマー単位として、オキシエチレン単位を含む場合、全コモノマー単位(100質量%)に占めるオキシエチレン単位の割合は、90質量%以上100質量%以下が好ましく、95質量%以上100質量%以下がより好ましい。
なお、ポリアセタールコポリマー中のコモノマー単位の割合は、H-NMR法により算出できる。例えば、樹脂組成物を重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールに濃度が5質量%となるように溶解させて、サンプルを作製する。このサンプルをH-NMRで解析して、ポリアセタールコポリマーの全モノマーのピークの積分率に対する、コモノマー単位(例えば、後述する炭素数2以上のオキシアルキレン単位)の積分率の割合を求める方法によって、算出できる。
【0026】
ポリアセタールコポリマーは、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。熱安定性の観点からは、ランダム共重合体が好ましい。
【0027】
ポリアセタール樹脂の重合度、分岐度、及び架橋度は、MFRが0.8~50.0g/10minとなる範囲で適宜調整できる。
【0028】
ポリアセタール樹脂の重量平均分子量(Mw)は、本開示の効果を有する限り特に限定されず、MFRが0.8~50.0g/10minとなる範囲で適宜調整できる。一実施形態において、ポリアセタール樹脂のMwは、得られる造形物の強度が良好となりやすい点で、10,000以上400,000以下であってもよい。重量平均分子量(Mw)は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で測定(ポリスチレン換算)した値とする。
【0029】
第1の実施形態に係る樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂を1種のみ含んでいてもよく、ポリアセタールホモポリマー及びポリアセタールコポリマーから選択される2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。ポリアセタールコポリマーを含む場合は、コモノマーの種類及び/又は含有量、及び/又は形態(ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等)が異なる2種以上のポリアセタールコポリマーを含んでいてもよい。2種以上のポリアセタール樹脂を含む場合、フィラメントの融点Tm2と結晶化温度Tcとの差(Tm2-Tc)、及びMFRの値を満たすように、その配合割合が調整される。
【0030】
(ポリアセタール樹脂の製造方法)
ポリアセタール樹脂は、ホルムアルデヒドの環状三量体又は四量体(好ましくはホルムアルデヒドの環状三量体であるトリオキサン)、及び必要に応じてコモノマーを含むモノマー(又はモノマー混合物)を、必要に応じて適量の分子量調節剤を添加し、カチオン重合触媒を用いて塊状重合を行う等の方法によって製造できる。
トリオキサンは、一般的には酸性触媒の存在下でホルムアルデヒド水溶液を反応させることにより得られ、これを蒸留などの方法で精製して使用される。重合に用いるトリオキサンは、水、メタノ-ル、ギ酸などの不純物の含有量が極力少ないものが好ましい。
【0031】
重合装置は特に限定されず、公知の装置を使用できる。また、バッチ式、連続式等、いずれの方法も採用できる。重合温度は65~135℃に保つことが好ましい。重合後の重合触媒の失活は、重合装置から回収した反応生成物、あるいは重合装置中の反応生成物に、塩基性化合物又はその水溶液等を加えて行うことができる。
【0032】
カチオン重合触媒としては、四塩化鉛;四塩化スズ;四塩化チタン;三塩化アルミニウム;塩化亜鉛;三塩化バナジウム;三塩化アンチモン;五フッ化リン;五フッ化アンチモン;三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素ジエチルエーテラート、三フッ化ホウ素ジブチルエーテラート、三フッ化ホウ素ジオキサネート、三フッ化ホウ素アセチックアンハイドレート、三フッ化ホウ素トリエチルアミン錯化合物等の三フッ化ホウ素配位化合物;過塩素酸、アセチルパークロレート、t-ブチルパークロレート、ヒドロキシ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、p-トルエンスルホン酸等の無機酸及び有機酸;トリエチルオキソニウムテトラフルオロボレート、トリフェニルメチルヘキサフルオロアンチモネート、アリルジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、アリルジアゾニウムテトラフルオロボレート等の複合塩化合物;ジエチル亜鉛、トリエチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド等のアルキル金属塩;ヘテロポリ酸;イソポリ酸等が挙げられる。その中でも特に三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素ジエチルエーテラート、三フッ化ホウ素ジブチルエーテラート、三フッ化ホウ素ジオキサネート、三フッ化ホウ素アセチックアンハイドレート、三フッ化ホウ素トリエチルアミン錯化合物等の三フッ化ホウ素配位化合物が好ましい。これらの触媒は有機溶剤等で予め希釈して用いることもできる。
【0033】
分子量調節剤としては、線状ホルマール化合物が挙げられる。線状ホルマール化合物としては、例えば、メチラール、エチラール、ジブトキシメタン、ビス(メトキシメチル)エーテル、ビス(エトキシメチル)エーテル、ビス(ブトキシメチル)エーテル等が挙げられる。その中でも、メチラール、エチラール、及びジブトキシメタンからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0034】
重合触媒を中和して失活するための塩基性化合物としては、アンモニア;トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、トリブタノールアミン等のアミン類;アルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物塩類;その他公知の触媒失活剤を用いることができる。また、重合反応終了後、反応生成物にこれらの水溶液を速やかに加え、失活させることが好ましい。かかる重合方法および失活方法の後、必要に応じて更に、洗浄、未反応モノマーの分離回収、乾燥等を従来公知の方法で行い、ポリアセタール樹脂を得ることができる。
【0035】
なお、必要に応じて、各種安定剤を配合して、ポリアセタール樹脂の不安定末端部の分解除去又は封止等の安定化処理を行うことができる。安定剤としては、従来公知の酸化防止剤、熱安定剤等が使用できる。例えば、ヒンダードフェノール系化合物、窒素含有化合物、アルカリ或いはアルカリ土類金属の水酸化物、無機塩、カルボン酸塩等を1種単独で、または2種以上を併用することができる。
【0036】
更に、本開示の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、ポリアセタール樹脂に対する一般的な添加剤、例えば染料、顔料等の着色剤、滑剤、結晶核剤、離型剤、帯電防止剤、界面活性剤、または有機高分子材料等を1種又は2種以上添加することができる。
【0037】
<無機粉末>
第1の実施形態に係る樹脂組成物は、金属粉末、金属合金粉末、及びセラミック前駆体粉末から選択される少なくとも1つの無機粉末を含む。第1の実施形態に係る樹脂組成物は、前述のポリアセタール樹脂と、前記無機粉末とを組み合わせ、かつポリアセタール樹脂と無機粉末の合計量100質量部に対する無機粉末の割合を、70~95質量部とすることにより、熱溶解積層法による三次元造形が可能であり、且つ該三次元造形物を焼結した後に残渣や残炭が生じにくい樹脂組成物となる。
【0038】
本開示において、「金属粉末」とは、単一の金属元素からなる純金属の粉末を意味する。金属粉末は、1種の純金属の粉末から構成されていてもよく、2種以上の純金属の粉末を含む混合粉末であってもよい。
金属粉末としては、例えば、純鉄、アルミニウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、カルボニル鉄粉(CIP)、コバルト、ニッケル、銅、銀、亜鉛及びカドミウムからなる群から選択される少なくとも1つの金属粉末が挙げられる。このうち、チタン、ニオブ、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、カルボニル鉄粉(CIP)、ニッケル及び銅からなる群から選択される少なくとも1つの金属粉末がより好ましく、チタン、鉄及びカルボニル鉄粉(CIP)からなる群から選択される少なくとも1つの金属粉末がさらに好ましい。
【0039】
本開示において「金属合金」とは、複数の金属元素を含む、又は金属元素と非金属元素を含み、かつ金属特性を示すものをいう。金属合金粉末は、1種の金属合金の粉末から構成されていてもよく、2種以上の金属合金の粉末を含む混合粉末であってもよい。
金属合金粉末としては、例えば、鉄-ニッケル、鉄-コバルト、鉄-シリコン、ステンレススチール等の鉄系合金;炭化タングステン(WC);超硬合金(WC-Co系合金など);アルミニウム合金;銅合金などの粉末が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
本開示において「セラミック前駆体粉末」とは、成形・焼結後にセラミックを形成できる無機粉末全般を指す。このようなセラミック前駆体粉末としては、例えば、TCP(リン酸三カルシウム)、MCP(リン酸一カルシウム)、DCP(リン酸二カルシウム)、リン酸四カルシウム、ハイドロキシアパタイト、α-TCP、β-TCP、酸化チタン(チタニア)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化イットリウム(イットリア)、イットリア安定化ジルコニア、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化ベリリウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化タングステン、炭化チタン、炭化ジルコニウム、酸化ベリリウム、ゼオライト、酸化セリウム(セリア)、二ケイ化タングステン、ケイ化ナトリウム、ケイ化白金、窒化チタン、窒化クロム、窒化ジルコニウム、窒化タングステン、窒化バナジウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化炭素、ホウ化ケイ素、クレー、土(earth)、土壌、セメント、ポルトランドセメント、シリカ、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛(lead zirconate titanium)、酸化亜鉛、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸リチウム、タングステン酸ナトリウム、ガラス、ジオポリマー、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、酸化ストロンチウム、リン酸ストロンチウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、フッ化ナトリウム等が挙げられる。セラミック前駆体粉末は、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0041】
なお、第1の実施形態に係る樹脂組成物を用いて得られる三次元焼結物において、該三元焼結物中に含まれる、金属粉末、金属合金粉末、及びセラミック前駆体粉末から選択される少なくとも1つの無機粉末は、その組成が変化していてもよい。三次元焼結物は後述する通り、三元造形物をさらに焼結して得られるものであるため、無機粉末が酸化したり、或いは分解したりすることがある。例えば、樹脂組成物が無機粉末として純鉄を含む場合、三次元焼結物中に含まれる無機粉末には、酸化鉄が含まれていてもよい。
【0042】
一実施形態において、無機粉末はサーメット粉末であってもよい。サーメット粉末は、セラミック前駆体粉末と、金属粉末及び/又は金属合金粉末とを焼結して得られる複合材料粉末である。サーメット粉末としては、例えば、Al-Fe系、TiC-Ni系、TiC-Co系、BC-Fe系等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
一実施形態において、無機粉末は、セラミック前駆体粉末を含むことが好ましく、アルミナ、及びジルコニアから選択される少なくとも1つのセラミック前駆体粉末を含むことがより好ましい。ジルコニアは、イットリア部分安定化ジルコニアであってもよい。
一実施形態において、無機粉末の平均粒径(D50)は、0.1~200μmが好ましく、1~100μmがより好ましい。無機粉末の平均粒径(D50)が前記範囲内であれば、流動性が良好となりやすい。無機粉末は0.001~1μm程度の粉末をアクリル樹脂やウレタン樹脂等の結着剤を用いて0.1~100μm程度に造粒したものを用いても良い。なお、無機粉末の平均粒径(D50)は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定法による体積基準の算術平均粒径において、累積頻度が50%となる粒径D50を意味する。平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(例えば、(株)堀場製作所製、製品名:LA-960)を用いて測定することができる。
【0044】
第1の実施形態に係る樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂と無機粉末の合計量100質量部に対する無機粉末の割合が、70~95質量部である。無機粉末の割合が95質量部以下であれば、樹脂組成物自体の流動性が低下せず、熱溶解積層法による積層が可能である。また、無機粉末の割合が70質量部以上であれば、得られた三次元造形物を焼結した際に、その形状を保持できる。一実施形態において、ポリアセタール樹脂と無機粉末の合計量100質量部に対する無機粉末の割合は、75~90質量部が好ましく、80~85質量部がより好ましい。
【0045】
<その他の成分>
第1の実施形態に係る樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂、及び無機粉末以外のその他の成分を含み得る。その他の成分としては、ポリアセタール樹脂以外の熱可塑性樹脂;耐候(光)安定剤、染料、顔料等の着色剤、滑剤、核剤、離型剤、帯電防止剤、界面活性剤等の各種添加剤;無機粉末以外の、繊維状及び/又は板状の無機充填材;有機充填剤等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、三次元造形物を焼結した際に、残渣や残炭のより少ない三次元焼結物を得る観点からは、熱可塑性樹脂としてポリアセタール樹脂のみを含むことが好ましい。
【0046】
<三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物の製造方法>
第1の実施形態に係る樹脂組成物を製造する方法としては特に限定されず、例えば、前述のポリアセタール樹脂と、無機粉末と、必要に応じてその他の成分とを溶融混合した後、ペレット状に成形して、第1の実施形態に係る樹脂組成物を得てもよい。
【0047】
[三次元造形用フィラメント]
本開示の第2の実施形態は、第1の実施形態に係る樹脂組成物を含む、三次元造形用フィラメント(以下、単に「フィラメント」と記載することもある)である。第2の実施形態に係るフィラメントには、三次元造形用に用いられる固形材料であり、その断面が略円形の連続繊維状の固形材料を含み得る。
第2の実施形態に係るフィラメントは、第1の実施形態に係る樹脂組成物を含むため、熱溶解積層法による三次元造形が可能であり、且つ該三次元造形物を焼結した後に残渣や残炭が生じにくい。また、第2の実施形態に係るフィラメントは、寸法が大きな三次元造形物の造形も行うことができる。ここで、「寸法が大きな三次元造形物」とは、例えば、造形ステージに接する面が矩形の場合は当該面の大きさが10cm以上×10cm以上の大きさである造形物、造形ステージに接する面が略円形である場合はその直径が10cm以上である造形物、及び、造形ステージからの高さが10cm以上である造形物等が挙げられる。通常、寸法が大きい造形物を作製する場合、造形ステージの表面積が大きくなるため、造形ステージ面内の温度のばらつきが生じ得る。また、寸法が小さい造形物を作製する場合よりも長い造形時間を要する。従来の方法では、ポリアセタール樹脂を主成分とする樹脂を用いる場合において、造形ステージ面内の温度のばらつきがあったり、一定以上の造形時間を要したりすると、造形工程の途中で造形物の下地層(造形ステージに接する層)が造形ステージからはがれてしまうことがあり、そのような場合は造形を継続することが困難であった。そのため、従来、ポリアセタール樹脂を主成分とする樹脂を用いて熱溶解積層法により造形される三次元造形物の寸法は数センチ程度に制限されていた。第2の実施形態に係るフィラメントによれば、造形時にステージ温度の面内ばらつきがある場合や造形時間が長時間に及ぶ場合においても、造形工程中の下地層のステージからの剥離が抑制されやすく、三次元造形物をより安定して造形することができる。
【0048】
一実施形態において、フィラメントの平均直径は、好ましくは1~3mmであり、より好ましくは1~2.5mmであり、さらに好ましくは1.5~2mmである。フィラメントの平均直径を1~3mmとすることにより、市販されている3次元造形装置で造形材料として使用することができる。フィラメントの平均直径は、5m分の試料を取り出しランダムに20箇所を選択して、それらの直径(又は断面における最長の直線距離)を、マイクロメーターを用いて小数点以下第3位まで測定して得られる値の算術平均値について、小数点第3位を四捨五入した値とする。
【0049】
一実施形態において、フィラメントは芯材に巻き取られた巻取体とすることができる。巻取体にすることによって、3Dプリンタに取り付けやすくなり、3Dプリンタによる造形がより容易となる。
【0050】
好ましい実施形態において、フィラメントは第1の実施形態に係る樹脂組成物のみで構成されている。第2の実施形態に係るフィラメントは、融点Tm2と結晶化温度Tcとの差(Tm2-Tc)が22℃以上40℃以下のポリアセタール樹脂を使用しているため、無機粉末の配合割合が高くなることで造形時の固化速度が早くなりすぎることを防ぐことができる。そのため、無機粉末を高割合で含むにもかかわらず、熱溶解積層法による三次元造形が可能である。
【0051】
[三次元造形物及びその製造方法]
本開示の第3の実施形態は、第1の実施形態に係る樹脂組成物を含む三次元造形物とその製造方法である。
【0052】
<三次元造形物>
第3の実施形態に係る三次元造形物は、第1の実施形態に係る樹脂組成物を含む。三次元造形物は、射出成形によって形成されてもよいが、好ましくは、後述の製造方法、すなわち、熱溶解積層法により形成される。なお、第3の実施形態に係る三次元造形物が、熱溶解積層法により形成されたものであるかどうかは、三次元造形物の表面を目視又は実体顕微鏡で観察した際に造形線(描画線)及び積層痕が確認されることにより判断できる。造形線(描画線)の太さは、限定されず、例えば、100~1000μmであってよい。
【0053】
一実施形態において、三次元造形物は、外縁上にその点同士を結んだ直線距離が10cm以上である2点を有する面を、1以上有していてもよい。一実施形態において、三次元造形物は、一つの面からの高さが、10cm以上であってよい。
【0054】
別の実施形態において、三次元造形物は、多角形状である面を1以上有し、当該多角形状の1以上の辺の長さが10cm以上であってよい。別の実施形態において、三次元造形物は、円形状である面を1以上有し、当該円形状の直径が10cm以上であってよい。
【0055】
<三次元造形物の製造方法>
第3の実施形態に係る三次元造形物の製造方法は、第1の実施形態に係る三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物を用いて熱溶解積層法により三次元造形物を形成することを含む。第1の実施形態に係る樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂と無機粉末の合計量100質量部に対して、無機粉末を70~95質量部含む。このような樹脂組成物を用いて三次元造形物、特に20cmを超えるような大型の三次元造形物を得る方法としては、良好な流動性を確保しやすい熱溶解積層法を採用することが好ましい。なお、第3の実施形態に係る製造方法は、第2の実施形態に係るフィラメントを用いて熱溶解積層法により三次元造形物を形成することを含む方法であってもよい。
一実施形態において、三次元造形物を形成することは、上記した樹脂組成物(又はフィラメント)の溶融物を造形ステージ上に吐出することを含む。一実施形態において、造形ステージは、3Dプリンタに備えられていてもよい。
【0056】
一実施形態において、好ましくは、三次元造形物を形成すること(以下、「第1工程」ともいう)が、下記式1:
Tm2>Ts≧Tc、かつ、Tc>Ta>Tc-100 (式1)
[式1中、Tsは前記造形ステージの温度(℃)であり、Tcは前記ポリアセタール樹脂の結晶化温度(℃)であり、Tm2は前記ポリアセタール樹脂の融点(℃)であり、Taは造形エリアの雰囲気温度(℃)である]
を満たす温度条件下で、造形ステージ上に三次元造形物を形成することを含み、
前記造形ステージ上に三次元造形物を形成することの後に、下記式2:
Tc>Ts (式2)
[式2中、Ts及びTcは式1と同じである]
を満たす温度条件下で、前記三次元造形物を前記造形ステージの表面から剥離すること(以下、「第2工程」ともいう)を含む。
【0057】
「造形エリア」とは、造形ステージ上の三次元造形物を形成可能な空間のことである。一実施形態において、造形エリアは、温度調節を容易にするため、密閉空間を形成するチャンバーとなっていることが好ましい。
【0058】
造形エリアの雰囲気温度(Ta)及び造形ステージ温度(Ts)の調節は、熱溶解積層方式の3Dプリンタ上の設定を高くしたり低くしたりすることによって行うことができるが、造形エリアの雰囲気温度(Ta)及び造形ステージ温度(Ts)のいずれも、3Dプリンタのオペレーション上の設定値としての温度ではなく、ある設定条件に対する造形ステージ温度及び造形エリアの雰囲気温度の実測値を意味する。
【0059】
第1工程において、樹脂組成物(又はフィラメント)積層時の造形ステージの温度及び雰囲気温度が式1に規定する範囲を満たすことにより、積層時の温度低下に伴う積層物の反りの発生をより抑えることができる。また、造形ステージ上に積層物をしっかりと固定することができる。その結果、寸法が大きい三次元造形物を製造することがより容易となる。
第2工程において、造形後の造形ステージの温度が式2に規定する範囲を満たすことにより、形成された三次元造形物を造形ステージから剥離することが容易となる。
【0060】
図1に、熱溶解積層法により三次元造形物を製造する方法のフローを概念的に示す。図1(A)~(C)が第1工程を示し、図1(D)が第2工程を示す。以下、図1を元に、第2の実施形態に係る製造方法のフローの詳細について説明する(原料としては、第2の実施形態に係るフィラメントを用いる)。
まず、必要に応じて、熱溶解積層方式の3Dプリンタにおける造形ステージ1の温度Ts及び造形エリアの雰囲気温度Taを所定の温度(例えば上記式1を満たす温度)に設定する(図1(A))。一実施形態において、例えば、ポリアセタール樹脂の融点Tm2を163.9℃、結晶化温度Tcを140.5℃とするとき、造形ステージ1の温度は、141℃以上163.9℃未満に設定されることが好ましく、造形エリアの雰囲気温度は、40℃を超え140℃未満に設定されることが好ましい。
【0061】
次いで、上記した三次元造形用フィラメントを溶融し、吐出ノズル2から造形ステージ1上に吐出する。吐出ノズル2を造形ステージ1の上方で走査させながら、吐出ノズル2からフィラメントの溶融物を吐出することによって、下地層4を形成することができる(図1(B))。さらに、吐出ノズル2を下地層4の上方で走査させながら、吐出ノズル2からフィラメントの溶融物を吐出し、下地層4上に構造部5を形成する(図1(C))。より具体的には、形成しようとする構造部5の三次元データに基づき、構造部5の断面に相当する形状を順に積層して構造部5を形成する。構造部5の形成工程においては、吐出ノズル2の近傍に位置するエアダクト3からエアーを噴射し、積層後の造形材料を冷却して固化させてもよい。構造部5の形成を終えた後、必要に応じて、造形ステージ1の温度を下げて下地層の温度をフィラメントの結晶化温度よりも下げることができる。これにより、下地層4において結晶化が進行し、下地層4の造形ステージ1に対する接着力が低下して、下地層4と構造部5とからなる三次元造形物6を造形ステージ1から容易に剥離することができる(図1(D))。一実施形態において、構造部5の形成後に造形ステージ1の温度を、上記式2を満たす温度に設定することができる。一実施形態において、例えば、ポリアセタール樹脂の結晶化温度Tcを140.5℃とするとき、構造部5の形成後に造形ステージ1の温度を140℃未満まで下げることが好ましい。剥離された構造部5(又は、下地層4及び構造部5)を三次元造形物6として得ることができる。その後、必要に応じて、下地層4は切削や研磨等によって除去されてもよい。
【0062】
なお、下地層4は、構造部5の下に形成する土台のことであり、構造部5よりも大きい面積で、及び/又は、空隙や隙間ができないように形成されてよい。下地層4を形成することにより、造形時間がより長時間に及ぶ場合に構造部5が造形ステージから剥がれてしまうことをより防ぐことができる。
一実施形態において、三次元造形物を形成することは、前記造形ステージ上に下地層を形成した後に、該下地層上に三次元造形物を形成することを含むことができる。
【0063】
上記した三次元造形物の製造方法は、造形時間が長時間に及ぶ場合においても、造形工程中の下地層のステージからの剥離が抑制されるので、下地層4は、必ずしも形成する必要はない。下地層4を形成しない場合は、造形ステージ1上に直接構造部5を形成すればよい。
【0064】
一実施形態において、造形ステージの大きさは、寸法が大きい三次元造形物を形成できるよう、一辺の長さ(又は直径)が10cm以上であってよく、15~100cmであってよく、20~90cmであってよい。
【0065】
一実施形態において、三次元造形物を形成することにおいて得られる三次元造形物は、造形ステージに接する面又は造形ステージ上に設けられた下地層に接する面の外縁上に、その点同士を結んだ直線距離が10cm以上である2点を有することができる。第3の実施形態に係る製造方法は、このように従来よりも寸法が大きい三次元造形物であっても、熱溶解積層法による三次元造形が可能である。
【0066】
別の実施形態において、三次元造形物を形成することにおいて得られる三次元造形物は、造形ステージに接する面又は造形ステージ上に設けられた下地層に接する面が多角形状であり、当該多角形状の1以上の辺の長さが10cm以上であってよい。別の実施形態において、三次元造形物を形成することにおいて得られる三次元造形物は、造形ステージに接する面又は造形ステージ上に設けられた下地層に接する面が円形状であり、当該円形状の直径が10cm以上であってよい。
【0067】
一実施形態において、三次元造形物を形成することにおいて得られる三次元造形物は、造形ステージからの高さが10cm以上であってよい。造形ステージからの高さが10cm以上のように従来よりも寸法が大きい三次元造形物であっても、熱溶解積層法による三次元造形が可能である。
【0068】
[三次元焼結物及びその製造方法]
本開示の第4の実施形態は、三次元焼結物とその製造方法である。
第4の実施形態に係る三次元焼結物は、第3の実施形態に係る三次元造形物の焼結物である。すなわち、三次元焼結物は、前記三次元造形物を焼結することを含む方法により、製造することができる。なお、三次元造形物としては、前述の第3の実施形態に係る製造方法により得られた三次元造形物を好ましく用いることができる。
【0069】
三次元焼結物を焼結することとしては、該三次元造形物を、焼結炉や焼成炉、レーザー焼結等によって焼結する方法が挙げられる。焼結温度は、無機粉末の溶融温度よりも低い温度が好ましい。このような温度で焼結することにより、無機粉末を構成する隣接した原子が接合することにより焼結物を得ることができる。
【0070】
一実施形態において、三次元造形物が、無機粉末としてセラミック前駆体粉末(好ましくはアルミナ粉末)を含む樹脂組成物により形成されている場合、350~500℃の範囲で三次元造形物を加熱、保持して、三次元造形物中のポリアセタール樹脂を除去する。その後、不活性ガス雰囲気下で590~655℃まで昇温して焼結することにより、三次元焼結物を得ることができる。
【0071】
一実施形態において、三次元造形物が、無機粉末としてジルコニアを含む樹脂組成物により形成されている場合、450~550℃前後で三次元造形物を加熱、保持して、三次元造形物中のポリアセタール樹脂を除去する。その後、1300~1600℃まで昇温して焼結することにより、三次元焼結物を得ることができる。なお、無機粉末として、金属粉末及び/又は金属合金粉末を含む樹脂組成物からなる三次元造形物を焼結する場合は、該金属粉末及び/又は金属合金粉末の酸化を防ぐ観点から、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で焼結することが好ましい。
【実施例0072】
以下に実施例を示して本開示を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本開示の解釈が限定されるものではない。
【0073】
[製造例1](ポリアセタール樹脂Iの製造)
外側に熱媒(又は冷媒)を通すジャケットを備え、2つの円が一部重なる形状の断面を有するパドル付き回転軸を有する連続式混合反応機を用いて重合を行った。具体的には、パドルを有する2本の回転軸をそれぞれ150rpmで回転させながら、トリオキサン及びコモノマー(1,3-ジオキソラン)を表1に示す割合で前記反応器に添加した。更に分子量調整剤として、メチラールを表1に示す割合で添加した。次に、触媒の三フッ化ホウ素ガスをトリオキサンに混合した触媒混合物(触媒濃度:トリオキサンに対して三フッ化ホウ素換算で0.005質量%)を、前記反応器に連続的に添加供給して、塊状重合を行った。重合終了後、反応器から排出した反応生成物を速やかに破砕機に通しながら、トリエチルアミンを0.1質量%含有する80℃の水溶液に投入して触媒を失活させた。さらに、分離、洗浄、乾燥後、粗ポリアセタール樹脂を得た。
次いで、この粗ポリアセタール樹脂100質量部に対して、トリエチルアミン5質量%水溶液を4質量部、ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(酸化防止剤)を0.03質量部添加し、2軸押出機にて210℃で溶融混練し、粗ポリアセタール樹脂の不安定部分を除去した。上記の方法で得たポリアセタール樹脂100質量部に、更に安定剤としてペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕を0.3質量部およびメラミン0.15質量部を添加し、2軸押出機にて210℃で溶融混練し、ペレット状のポリアセタール樹脂Iを得た。
得られたポリアセタール樹脂Iの、融点Tm2、結晶化温度Tc、MFR及びコモノマー単位の割合を、後述する方法で測定した。結果を表1に示す。
【0074】
[製造例2](ポリアセタール樹脂IIの製造)
トリオキサン、コモノマー(1,3-ジオキソラン)及びメチラールの仕込み量を表1に示す割合とした以外は、製造例1と同様にして、ペレット状のポリアセタール樹脂IIを得た。得られたポリアセタール樹脂IIの、融点Tm2、結晶化温度Tc、MFR及びコモノマー単位の割合を、後述する方法で測定した。結果を表1に示す。
【0075】
(融点Tm2、結晶化温度Tc)
前記ポリアセタール樹脂I及びIIの融点Tm2及び結晶化温度Tcを示差走査熱量計(Parkin Elmer社製、製品名:DSC8500)を使用して、JIS K-7121(2012)に従って測定した。具体的には、40℃から10℃/分の昇温速度で200℃まで加熱(1stRUN)後、200℃で5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で40℃まで冷却した際に観測される発熱ピークにおけるピークトップの温度を結晶化温度Tcとして測定した。その後、40℃で5分間保持し、再度40℃から10℃/分の昇温速度で200℃まで加熱した際に観測される2ndRUNの吸熱ピークにおけるピークトップの温度を融点Tm2として測定した。
【0076】
(メルトフローレート(MFR))
前記ポリアセタール樹脂IおよびIIのMFRをISO 1133(条件D)に従い、温度190℃で、2.16kgの荷重をかけて測定した。
【0077】
(コモノマー単位)
得られたペレット状のポリアセタール樹脂I又はIIを、溶媒に溶けやすいようにニッパーで小片にカットし、重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールに、ポリアセタール樹脂濃度が5質量%となるように溶解させて、サンプルを作成した。このサンプルをH-NMR(Bruker社製、製品名:AvanceIII 400、磁場強度:400MHz、基準物質:テトラメチルシラン、温度:27℃、積算回数:128回)で解析して、ポリアセタール樹脂中の全モノマーのピークの積分率に対する、コモノマー単位(オキシエチレン基)の積分率の割合を求めた。
【0078】
【表1】
【0079】
[樹脂組成物及びフィラメントの製造]
<実施例1>
製造例1において得られたペレット状のポリアセタール樹脂Iと、無機粉末(ジルコニア粉末(平均粒径(D50):100μm))とを、ポリアセタール樹脂Iとセラミック前駆体粉末との合計量100質量部に対して、前記セラミック前駆体粉末が80質量部となるように混合して、第1の実施形態に係る樹脂組成物を得た。その後、卓上型押出機((株)エーペックスジャパン製、製品名:AS―1)に樹脂組成物を投入し、バレル温度200℃、スクリュー速度40rpmで押出を行った。押し出されたストランドを水により冷却固化させたのち、フィラメント巻取機(フィラボット社製、製品名:Spooler)で、フィラメントの直径が1.75mm±0.1mmとなるような巻取り速度で巻き取ることにより、第2の実施形態に係るフィラメントを得た。得られたフィラメントの平均直径を以下の方法で測定した。また、無機粉末の平均粒径(D50)は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定法による体積基準の算術平均粒径において、累積頻度が50%となる粒径D50を意味する。平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置((株)堀場製作所製、製品名:LA-960)を用いて測定した。
【0080】
(フィラメントの平均直径の測定)
得られたフィラメントから5m分の試料を取り出し、ランダムに20箇所を選択して、それらの直径をマイクロメーター((株)ミツトヨ製、製品名:ABSOLUTE)で小数点以下第3位まで測定した。次に、それらの平均値の小数点第3位を四捨五入し、フィラメントの平均直径とした。
【0081】
次いで、実施例1で得られたフィラメントを用いて以下の方法で三次元造形物を作製した。
(第1工程)
熱溶解積層方式の3Dプリンタ(INTAMSYS社製、商品名:FUNMAT HT Enhanced)に、準備したフィラメントをセットし、80mm×10mm×4mmの三次元造形物を形成した。具体的には、まず、以下の第1工程の温度条件に示す温度条件にて造形物の底面形状に対して、1cmのマージンを持たせた大きさのシート状の下地層を形成し、その後、同じ温度条件にて構造部を形成した。なお、3Dプリンタ内の、フィラメントを吐出するノズルの内径は0.4mmであり、積層ピッチは0.2mmとし、構造部の描画速度は30mm/sとした。
<第1工程の温度条件>
吐出ノズルの温度:205℃
造形ステージ温度(Ts):155℃
造形エリアの雰囲気温度(Ta):94℃
<第2工程の温度条件>
造形ステージ温度(Ts):120℃
実施例1においては、造形ステージ上に三次元造形物が固定された状態で、最後まで問題なく造形材料(フィラメントの溶融物)が積層され三次元造形物を作製することができた。
【0082】
(第2工程)
第1工程終了後、造形ステージの温度を120℃に低下させ、造形ステージの表面から三次元造形物を剥離した。このとき、三次元造形物の下地層全体が白化し、造形ステージの表面に対する密着力が低下しており、特別な剥離作業をしなくとも、三次元造形物が造形ステージから自然に剥離した状態であった。
【0083】
次に、前記で得られた三次元造形物を焼結炉に配置し、500℃で2時間加熱してポリアセタール樹脂を除去した。その後1400℃まで昇温して、三次元焼結物を得た。実施例1のフィラメントから得られた三次元造形物の焼結物は、その外観に変形等がみられなかった。また、残渣や残炭も確認されなかった。
【0084】
<比較例1>
無機粉末の配合量を表2に記載の通りとした以外は、実施例1と同じ方法で樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、実施例1と同じ方法でフィラメントを調製した。
次いで、実施例1と同様の温度条件及び製造方法で三次元造形物を形成した。比較例1も造形ステージ上に三次元造形物が固定された状態で、最後まで問題なく造形材料(フィラメントの溶融物)が積層され三次元造形物を作製することができた。この三次元造形物を500℃で2時間加熱しポリアセタール樹脂を除去した。その後1400℃まで昇温して、三次元焼結物を得た。しかしながら、得られた三次元焼結物はその形状を保てずに崩れていた。
【0085】
<比較例2>
無機粉末の配合量を表2に記載の通りとした以外は、実施例1と同じ方法で樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、実施例1と同じ方法でフィラメントを調製した。
次いで、実施例1と同様の温度条件及び製造方法で三次元造形物を形成しようとしたが、3Dプリンタのノズルから樹脂を押出すことが出来ず、三次元造形物を積層することが出来なかった。
【0086】
<比較例3>
ポリアセタール樹脂の種類及び無機粉末の配合量を表2に記載の通りとした以外は、実施例1と同じ方法で樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、実施例1と同じ方法でフィラメントを調製した。
次いで、実施例1と同様の温度条件及び製造方法で三次元造形物を形成しようとしたが、積層中に造形ステージから積層物が剥離してしまい、第1工程の造形を完了することができず、三次元造形物を形成することができなかった。
【0087】
【表2】
【0088】
表2の評価結果における符号は、以下を意味する。
A:熱溶解積層法により三次元造形物を製造できた。
B:フィラメントがノズルから押出せなかった、もしくは造形ステージから積層物が剥がれてしまい造形できなかった。
C:三次元焼結物が得られた。
D:三次元焼結物が三次元造形物の形状を保てていなかった。
なお比較例2~3は三次元造形物が得られなかったため、三次元焼結物の製造については評価しなかった。
【0089】
表2に示す通り、第1の実施形態に係る樹脂組成物は、熱溶解積層法により三次元造形物を形成できることが確認された。また、該三次元造形物を焼結した後に残渣や残炭が生じにくいことが確認された。
【0090】
本開示の例示的な実施形態及び例示的な実施形態の組み合わせの非限定的なリストを以下に記載する。
[1]三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物であって、
前記ポリアセタール樹脂組成物は、
示差走査熱量計で測定される融点Tm2と結晶化温度Tcとの差(Tm2-Tc)が22℃以上40℃以下であり、且つ温度190℃、荷重2.16kgで測定したメルトフローレートが0.8g/10min以上50.0g/10min以下であるポリアセタール樹脂と、
金属粉末、金属合金粉末、及びセラミック前駆体粉末から選択される少なくとも1つの無機粉末とを含み、
前記ポリアセタール樹脂組成物中の、前記ポリアセタール樹脂と前記無機粉末の合計量100質量部に対する、前記無機粉末の割合が70~95質量部である、三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物。
[2]前記ポリアセタール樹脂が、全構成単位(100質量%)中にコモノマー単位を3.0質量%以上6.0質量%以下含む、[1]に記載の三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物。
[3]前記ポリアセタール樹脂が、全構成単位(100質量%)中にコモノマー単位を含み、
前記コモノマー単位が、炭素数2以上のオキシアルキレン単位を含む、[1]または[2]に記載の三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物。
[4]前記ポリアセタール樹脂が、全構成単位(100質量%)中にコモノマー単位を含み、
前記コモノマー単位が、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、及びオキシテトラメチレン基から選択される少なくとも1つのオキシアルキレン単位である、[1]から[3]のいずれかに記載の三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物。
[5][1]から[4]のいずれかに記載の三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物を含む、三次元造形用フィラメント。
[6]平均直径が1~3mmである、[5]に記載の三次元造形用フィラメント。
[7][1]から[4]のいずれかに記載の三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物を含む、三次元造形物。
[8][7]に記載の三次元造形物の焼結物である、三次元焼結物。
[9][7]に記載の三次元造形物を製造する方法であって、
前記製造方法は、前記三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物を用いて熱溶解積層法により三次元造形物を形成することを含む、三次元造形物の製造方法。
[10]前記三次元造形物を形成することが、下記式1:
Tm2>Ts≧Tc、かつ、Tc>Ta>Tc-100 (式1)
[式1中、Tsは造形ステージの温度(℃)であり、Tcは前記ポリアセタール樹脂の結晶化温度(℃)であり、Tm2は前記ポリアセタール樹脂の融点(℃)であり、Taは造形エリアの雰囲気温度(℃)である]
を満たす温度条件下で、造形ステージ上に前記三次元造形物を形成することを含み、
前記造形ステージ上に前記三次元造形物を形成することの後に、下記式2:
Tc>Ts (式2)
[式2中、Ts及びTcは式1と同じである]
を満たす温度条件下で、前記三次元造形物を前記造形ステージの表面から剥離することを含む、[9]に記載の製造方法。
[11]前記三次元造形物を形成することが、造形ステージ上に下地層を形成した後に、前記下地層上に前記三次元造形物を形成することを含む、[9]または[10]に記載の製造方法。
[12][8]に記載の三次元焼結物を製造する方法であって、
前記製造方法は、前記三次元造形物を焼結することを含む、三次元焼結物の製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本開示の三次元造形用ポリアセタール樹脂組成物は、三次元造形が可能であり、且つ容易に焼結でき、残渣、残炭の少ない三次元焼結物を得ることができる。
【符号の説明】
【0092】
1 造形ステージ
2 吐出ノズル
3 エアダクト
4 下地層
5 構造部
6 三次元造形物

図1