(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025027661
(43)【公開日】2025-02-28
(54)【発明の名称】全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質、及び、全固体リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20250220BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20250220BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250220BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20250220BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20250220BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/0565
C01G53/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023132647
(22)【出願日】2023-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(74)【代理人】
【識別番号】100134441
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 由利
(72)【発明者】
【氏名】伊舎堂 雄二
【テーマコード(参考)】
4G048
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AB06
4G048AC06
4G048AD04
4G048AE05
5H029AJ03
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029AM16
5H029DJ16
5H029HJ00
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5H029HJ02
5H029HJ05
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5H029HJ07
5H029HJ12
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050FA17
5H050FA18
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA06
5H050HA07
5H050HA12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】全固体リチウムイオン二次電池において、高い放電容量を有する正極活物質を提供することを目的とする。
【解決手段】複数の一次粒子が凝集してなる二次粒子から構成されるリチウム遷移金属複合酸化物1と、二次粒子の表面を被覆する被覆層2と、を有する全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質10であって、リチウム遷移金属複合酸化物1は、リチウムと、ニッケルと、任意にコバルト、及び元素M(ただし、元素Mは、リチウム、ニッケル、コバルト及び酸素以外の添加元素)と、を含有し、被覆層2は、少なくともリチウムとタングステンを含む化合物を含み、XPS分析を用いて、下記(式1)で算出される、二次粒子表面のタングステンの被覆率P(%)が30%以上95%以下である、全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質。
P=(W/(W+Ni+Co+M))×100(%)…(式1)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の一次粒子が凝集してなる二次粒子から構成されるリチウム遷移金属複合酸化物と、前記二次粒子の表面を被覆する被覆層と、を有する全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムと、ニッケルと、任意にコバルト、及び元素M(ただし、元素Mは、リチウム、ニッケル、コバルト、及び酸素以外の添加元素)と、を含有し、
前記被覆層は、少なくともリチウムとタングステンを含む化合物を含み、
下記(式1)で算出される、前記二次粒子表面のタングステンの被覆率P(%)が30%以上95%以下である、
全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質。
P=(W/(W+Ni+Co+M))×100(%) …(式1)
W :X線光電子分光分析法(XPS分析)で定量されたタングステンの物質量
Ni:X線光電子分光分析法(XPS分析)で定量されたニッケルの物質量
Co:X線光電子分光分析法(XPS分析)で定量されたコバルトの物質量
M :X線光電子分光分析法(XPS分析)で定量された元素M(ただし、タングステンを除く元素)の物質量
【請求項2】
前記リチウム遷移金属複合酸化物が下記の(式2)で表される、請求項1に記載の全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質。
LiaNi1-x-yCoxMyO2+z …(式2)
但し、Mは、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Cu、Zr、Nb、Mo、W、Ta、Si、P、及びBから選ばれる1種以上の元素であり、0.9≦a≦1.2、0.01≦x≦0.5、0.01≦y≦0.5、0.02≦x+y<1.0、-0.1≦z≦0.1を満たす。
【請求項3】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、前記二次粒子内部の一次粒子間にタングステンを含む化合物が存在する、請求項1または2に記載の全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記被覆率Pが60%以上95%以下である、請求項1または2に記載の全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記被覆率Pが80%以上95%以下である、請求項1または2に記載の全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、体積平均粒子径Mvが1μm以上10μm以下である、請求項1または2に記載の全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項7】
前記正極活物質に含まれるタングステンの含有量は、正極活物質全量に対して、0.1質量%以上6質量%以下である、請求項1または2に記載の全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項8】
前記正極活物質の細孔容積が0.001cm3/g以上0.008cm3/g以下であり、前記正極活物質の平均細孔径が1nm以上10nm以下である、請求項1または2に記載の全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項9】
請求項1または2に記載の全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質を含む正極と、負極と、固体電解質とを備える、全固体リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質、及び、全固体リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車の普及にともない、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。このような二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池は、正極、負極、及び、電解質を備える。負極および正極の活物質としては、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が用いられている。
【0003】
現在、一般的なリチウムイオン二次電池では、正極活物質にLiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4などのリチウム遷移金属複合酸化物が用いられ、負極活物質にリチウム金属、リチウム合金、金属酸化物、カーボン等が用いられ、電解質として、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの有機溶媒にLiClO4、LiPF6などのLi塩を支持塩として溶解させた電解液が用いられている。
【0004】
上記のリチウムイオン二次電池の構成要素の中で、特に電解液は、耐熱性、電位窓などの化学的特性から、高速充電や安全性、寿命といった電池の性能を制限する要因となっている。そこで、電解質として、電解液に替わり固体電解質を用いることで電池の性能を向上させた全固体リチウムイオン二次電池(以下、単に「全固体電池」ともいう)については、現在、研究開発が盛んに行われている。
【0005】
その研究開発の中で、例えば、特許文献1には、固体電解質の中でも、硫化物系固体電解質はリチウムイオンの伝導性が高く、全固体電池に用いるのに好ましいことが提案されている。しかしながら、非特許文献1に開示されているように、硫化物系固体電解質と酸化物である正極活物質が接触すると、充放電中に固体電解質と正極活物質との接触界面において反応が起こり、界面に高抵抗層が生成して電池の作動を阻害する。
【0006】
例えば、特許文献2には、この高抵抗層の生成を抑制するためには、正極活物質の表面にリチウムイオン伝導性酸化物被覆層を設けることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-056661号公報
【特許文献2】国際公開第2007/004590号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Narumi Ohta et al., “LiNbO3-coated LiCoO2 as cathode material for all solid-state lithium secondary batteries”, Electrochemistry Communications 9 (2007) 1486-1490
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
例えば、特許文献2の実施例では、リチウムイオン伝導性酸化物の中でもLiNbO3からなる被覆層を正極活物質の表面に設けることで高抵抗層の生成を抑制し、全固体電池の放電容量増加できることが開示されるものの、電解質として電解液を用いたリチウムイオン二次電池と比較して、その充放電容量は依然として低く、充放電容量のさらなる増加が望まれている。
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みて、被覆層を有する全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質として、より高い放電容量を有する正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決するため、固体電解質および正極活物質との界面反応を抑制する被覆層を有する全固体電池用正極活物質について鋭意研究したところ、少なくともリチウムとタングステンからなる化合物で正極活物質の二次粒子表面を特定の割合で被覆することで、全固体電池の充放電容量が増加することを見出した。
【0012】
本発明の第1の態様では、複数の一次粒子が凝集してなる二次粒子から構成されるリチウム遷移金属複合酸化物と、二次粒子の表面を被覆する被覆層と、を有する全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質であって、リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムと、ニッケルと、任意にコバルト、及び元素M(ただし、元素Mは、リチウム、ニッケル、コバルト、及び酸素以外の添加元素)と、を含有し、被覆層は、少なくともリチウムとタングステンを含む化合物を含み、下記(式1)で算出される、二次粒子表面のタングステンの被覆率P(%)が30%以上95%以下である、全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質が提供される。
【0013】
P=(W/(W+Ni+Co+M))×100(%) …(式1)
W :X線光電子分光分析法(XPS分析)で定量されたタングステンの物質量
Ni:X線光電子分光分析法(XPS分析)で定量されたニッケルの物質量
Co:X線光電子分光分析法(XPS分析)で定量されたコバルトの物質量
M :X線光電子分光分析法(XPS分析)で定量された元素M(ただし、タングステンを除く元素)の物質量
【0014】
また、上記リチウム遷移金属複合酸化物が下記の(式2)で表されることが好ましい。
【0015】
LiaNi1-x-yCoxMyO2+z …(式2)
但し、Mは、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Cu、Zr、Nb、Mo、W、Ta、Si、P、及びBから選ばれる1種以上の元素であり、0.9≦a≦1.2、0.01≦x≦0.5、0.01≦y≦0.5、0.02≦x+y<1.0、-0.1≦z≦0.1を満たす。
【0016】
また、リチウム遷移金属複合酸化物は、二次粒子内部の一次粒子間にタングステンを含む化合物が存在することが好ましい。また、上記被覆率Pが60%以上95%以下であることが好ましい。また、前記被覆率Pが80%以上95%以下であることが好ましい。また、リチウム遷移金属複合酸化物は、体積平均粒子径Mvが1μm以上10μm以下であることが好ましい。また、正極活物質に含まれるタングステンの含有量は、正極活物質全量に対して、0.1質量%以上6質量%以下であることが好ましい。また、正極活物質の細孔容積が0.001cm3/g以上0.008cm3/g以下であり、正極活物質の平均細孔径が1nm以上10nm以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の第2の態様では、上記全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質を含む正極、負極、及び、固体電解質を備える、全固体リチウムイオン二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、被覆層を有する全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質として、より高い放電容量を有する正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る正極活物質の一例を示した模式図である。
【
図2】
図2は、電池評価に用いた評価用電池の断面構成の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面においては、各構成を分かりやすくするために、一部を強調して、あるいは一部を簡略化して表しており、実際の構造または形状、縮尺等が異なっている場合がある。また、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0021】
1.全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質
本実施形態に係る全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」ともいう。)の一構成例について説明する。
【0022】
図1は、本実施形態に係る正極活物質の一例を模式的に示す図である。
図1に示すように、正極活物質10は、リチウム遷移金属複合酸化物1と、このリチウム遷移金属複合酸化物1の表面を被覆する被覆層2と、を有する。以下、各構成要素について説明する。
【0023】
(1)リチウム遷移金属複合酸化物
リチウム遷移金属複合酸化物1は、複数の一次粒子が凝集してなる二次粒子から構成される。また、リチウム遷移金属複合酸化物1は、リチウムと、遷移金属と、酸素とを含有し、層状岩塩型構造の結晶構造を有してもよい。
【0024】
(組成)
リチウム遷移金属複合酸化物1は、リチウムと、遷移金属と、酸素とを含有する化合物であり、遷移金属として、ニッケルを含有することが好ましく、ニッケル、及びコバルトを含有することがより好ましい。また、リチウム遷移金属複合酸化物1は、例えば、下記の一般式(1)で表される組成を有することが好ましい。
【0025】
一般式(1):LiaNi1-x-yCoxMyO2+z
【0026】
上記一般式(1)中、Mは、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Cu、Zr、Nb、Mo、W、Ta、Si、P、Bから選ばれる1種以上の元素であり、
0.9≦a≦1.2、
0.01≦x≦0.5、
0.01≦y≦0.5、
0.02≦x+y<1、
-0.1≦z≦0.1を満たす。
【0027】
上記一般式(1)中、リチウムの含有量を示すaの値は、0.9以上1.2以下であり、0.95以上1.2以下であってもよく、1.0以上1.1以下がより好ましい。aの値が上記範囲である場合、正極活物質10を用いた二次電池の出力特性、及び容量特性を向上させることができる。具体的には、aの値を0.9以上とすることで、正極活物質10を用いた二次電池の内部抵抗を抑制し、出力特性を向上させることができる。また、aの値を1.2以下とすることで、正極活物質10を用いた二次電池の初期放電容量を高く維持することができる。
【0028】
上記一般式(1)中、ニッケルの含有量を示す(1-x-y)は、0超0.98以下であり、0.3以上0.98以下であってもよく、0.5以上0.98以下であってもよい。また、ニッケルの含有量の下限は、0.6以上であってもよく、0.7以上であってもよく、0.8以上であってもよい。(1-x-y)の含有比率が高いほど、充電に必要な電圧が低くなり、結果的に電池容量が高くなる。
【0029】
上記一般式(1)中、コバルトの含有量を示すxは、0.01以上0.5以下であり、0.01以上0.3以下であってもよく、0.05以上0.2以下であってもよい。コバルトの含有量が上記範囲である、充放電サイクル特性や出力特性を向上することができる。
【0030】
上記一般式(1)中、元素Mは、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Cu、Zr、Nb、Mo、W、Ta、Si、P、及び、Bから選ばれる1種以上の元素である。また、元素Mは、Al、及びMnより選択される少なくとも1種の元素を含むことが好ましく、Alを含むことが好ましい。元素Mは、正極活物質10を用いて構成される二次電池の用途や要求される性能に応じて適宜選択することができる。
【0031】
上記物質量比において元素Mの含有比率を示すyは、0<y≦0.5であり、好ましくは0<y≦0.3であり、0<y≦0.2であってもよい。例えば、元素MがAlを含む場合、Alの範囲(y1)は、例えば0<y1≦0.1であってもよく、0<y1≦0.05であってもよい。
【0032】
(結晶構造)
リチウム遷移金属複合酸化物1は、層状岩塩型構造の結晶構造を有することが好ましい。リチウム遷移金属複合酸化物1が層状岩塩型構造の結晶構造を有する場合、二次電池において、高い電池容量を有することができる。リチウム遷移金属複合酸化物1の結晶構造は、粉末X線回折(XRD)測定により確認することができる。具体的には、リチウム遷移金属複合酸化物1の粉末X線回折(XRD)測定を行った場合に得られる回折パターンから、「R-3m」構造の層状岩塩型結晶構造(空間群R-3mに属する結晶構造)に帰属されるピークが検出されることが好ましい。特に、上記回折パターンから、「R-3m」構造の層状岩塩型結晶構造に帰属されるピークのみが検出されることがより好ましい。
【0033】
(粒子構造)
リチウム遷移金属複合酸化物1は、複数の一次粒子が凝集してなる二次粒子から構成される。また、リチウム遷移金属複合酸化物1の二次粒子の構造は、特に限定されないが、一次粒子が密に配置された中実構造であることが好ましい。例えば、リチウム遷移金属複合酸化物1は、空隙率(二次粒子の断面積に対する二次粒子の内部の空隙面積)が、15%未満であってもよく、10%以下であってもよく、5%以下であってもよく、2%以下であってもよい。
【0034】
なお、空隙率は、リチウム遷移金属複合酸化物1の任意断面(体積平均粒子径Mv±20%の断面長径を有する二次粒子の断面)を、走査電子顕微鏡を用いて観察し、画像解析することによって測定できる。例えば、複数のリチウム遷移金属複合酸化物1の粒子を樹脂などに埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工などにより該粒子の断面観察が可能な状態とした後、画像解析ソフト:WinRoof 6.1.1等により、上記二次粒子内の空隙部(一次粒子が存在しない部分)を黒として測定し、二次粒子輪郭内の緻密部(一次粒子が存在する部分)を白として測定し、任意の20個以上の粒子に対して、[黒部分/(黒部分+白部分)]の面積を計算することで空隙率を求めることができる。
【0035】
(体積平均粒子径)
リチウム遷移金属複合酸化物1の体積平均粒子径Mvは、レーザー回折散乱式の粒度分布計で測定した場合、1μm以上10μm以下であることが好ましく、2μm以上7μm以下であることがより好ましく、3μm以上5μm以下であることがさらに好ましい。これは、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の体積平均粒子径が1μm以上10μm以下の場合、リチウム遷移金属複合酸化物1を含む正極活物質10を正極に用いた二次電池において体積当たりの電池容量を十分に大きくすることができる。
【0036】
(2)被覆層
正極活物質10は、リチウム遷移金属複合酸化物1の表面に被覆層2を備える。リチウム遷移金属複合酸化物1の表面に被覆層2を有することにより、正極活物質10を含む正極を備えた二次電池において、正極活物質10と固体電解質との相互反応を抑制できる。
【0037】
被覆層2は、リチウムとタングステンを含む化合物を含み、例えば、リチウムとタングステンと酸素とからなる化合物から形成されてもよい。リチウムとタングステンを含む化合物としては、例えば、Li2WO4、7Li2WO4・4H2O、Li4WO5等が挙げられ、岩塩型構造(空間群:Fm-3m)を有するLi4WO5を含んでもよい。リチウムとタングステンを含む化合物の種類は、X線回折法(XDR)の回折パターンから確認することができる。具体的には、正極活物質10の粉末X線回折(XRD)測定を行った場合に得られる回折パターンから、「R-3」構造を有するLi2WO4に帰属されるピーク、「P-43m」構造を有する7Li2WO4・4H2Oに帰属されるピーク、及び、「Fm-3m」構造を有するLi4WO5に帰属されるピークの少なくとも1つが検出されることが好ましい。
【0038】
なお、被覆層2とは、正極活物質10の表面側の領域(表層)において、被被覆物質であるリチウム遷移金属複合酸化物1(中心領域)よりも、タングステン(W元素)の濃度が高い部位(領域)のことをいう。被覆層2とリチウム遷移金属複合酸化物1とは明確な境界線を有していてもよいし、明確な境界線を有していなくてもよい。例えば、被覆層2は部分的にリチウム遷移金属複合酸化物1と固溶していてもよい。
【0039】
(タングステンの被覆率)
タングステンの被覆率PはX線光電子分光法(XPS:X―ray Photoelectron Spectroscopy)による半定量分析から以下の(式1)より計算できる。なお、タングステンの被覆率Pは、被覆層2のリチウム遷移金属複合酸化物の二次粒子表面に対する被覆面積の程度(リチウム及びタングステンを含む被覆層の二次粒子表面に対する被覆率)を示す。
【0040】
P=(W/(W+Ni+Co+M))×100・・・(式1)
【0041】
上記(式1)中、
Wは、XPS分析で定量されたタングステンの物質量
Niは、XPS分析で定量されたニッケルの物質量
Coは、XPS分析で定量されたコバルトの物質量
Mは、XPS分析で定量された元素M(ただし、タングステンを除く元素)の物質量
を示す。
【0042】
なお、XPS分析は、例えば、X線光電子分光装置(アルバック・ファイ製、Versa ProbeII)により、X線源を単色化Al-Kα線とし、X線ビーム幅を100μmとし、出力を25Wとして、リチウム遷移金属複合酸化物1をX線光電子分光法(XPS)により測定したときに、得られるXPSスペクトルにおける各金属元素に由来するピークの強度(面積)比から求めた値である。XPS分析は特性上、測定対象の表面1nm以上5nm以下の情報を選択的に得ることができるため、材料の表層(表面から1~5nmの範囲)の組成比を知ることができる。
【0043】
タングステンの被覆率Pは、30%以上であり、60%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましい。被覆層のタングステンの被覆率Pを、上記範囲とすることで、高い放電容量を有するとともに、リチウム遷移金属複合酸化物と固体電解質の界面反応、およびリチウム遷移金属複合酸化物と被覆層の界面のミキシングの両面を予防する効果を発揮し、サイクル時の劣化を抑えることができる。
【0044】
タングステンの被覆率の上限は、特に限定されず、100%以下であればよく、100%であってもく、95%以下であってもよい。また、後述する製造方法を用いた場合、タングステンの被覆率が、90%以下であっても、高い放電容量を有する正極活物質10を得ることができる。
【0045】
(タングステンの含有量)
正極活物質10におけるタングステンの含有量は、特に限定されず、上記被覆率を満たすように、適宜、調整することができる。タングステンの含有量は、例えば、正極活物質10全量に対して、0.1質量%以上6質量%以下であってもよく、1質量%を超え5質量%以下であってもよく、1.5質量%以上4質量%以下であってもよい。タングステンの含有量が上記範囲である場合、リチウム遷移金属複合酸化物1の表面全体に均一に被覆層を形成することができる。また、タングステンは、二次粒子の内部の一次粒子間に、タングステンを含む化合物として存在してもよい。
【0046】
(被覆層の平均厚さ)
被覆層の平均厚さは、例えば、2nm以上20nm以下であることが好ましく、2nm以上15nm以下であることがより好ましく、5nm以上15nm以下であることがさらに好ましい。
【0047】
なお、被覆層2の平均厚さは、走査電子顕微鏡(SEM)や透過電子顕微鏡(TEM)などで観察、又は、これらに付帯のしたエネルギー分散型X線分光器(EDS)や電子エネルギー損失分光法(EELS)などの分光器で分析して、リチウム遷移金属複合酸化物1の表面に均一に形成された層を測定して算出することができる。なお、測定部位により被覆層2の厚みにばらつきがある場合、被覆層2の厚みは、複数部位を測定した際の平均値をいう。また、被覆層2の平均厚さは、簡易的に、リチウム遷移金属複合酸化物1の比表面積と被覆率とタングステンの含有量から算出することもできる。
【0048】
(3)正極活物質
正極活物質10は、上述のリチウム遷移金属複合酸化物1と、被覆層2とを有するものであり、好ましくは、リチウム遷移金属複合酸化物1の粒子と、被覆層2とのみから構成される。また、正極活物質10は、以下の特性を有することが好ましい。
【0049】
(水分量)
正極活物質10を製造工程において、不純物が混入する場合もある。不純物としては、例えば、水分が挙げられる。水分は、被覆工程における、水や水溶液を用いる処理によって、正極活物質10中に増大する可能性のある不純物である。水分は、固体電解質の加水分解・劣化を引き起こし、初期放電容量に影響を及ぼす恐れがあることから、所定の範囲内に制御されていることが好ましい。
【0050】
正極活物質10は、水分量(水分含有量)が、正極活物質10全量に対して、0.08質量%以下であることが好ましい。水分量を0.08質量%以下とすることで、正極活物質10を用いた固体二次電池において、固体電解質の加水分解反応をより確実に抑制することができる。また、固体電解質が加水分解すると、硫化水素が生じ、劣化して、リチウムイオン伝導性が低下する。しかしながら、正極活物質10の水分量を0.08質量%以下とすることで固体電解質の加水分解反応をより確実に抑制し、係る劣化を抑制できる。
【0051】
正極活物質10の水分量は、例えば、加熱温度を300℃としたカールフィッシャー法により評価することができる。なお、正極活物質10の水分量の下限は特に限定されないが、例えば、0.001質量%以上である。
【0052】
(比表面積)
また、正極活物質10の比表面積は、特に限定されず、例えば、0.3m2/g以上2.0m2/g以下であってもよく、0.3m2/g以上1.0m2/g以下であってもよい。比表面積が上記範囲である場合、出力特性が良好である。なお、比表面積は、窒素吸着BET法により測定することができる。また、正極活物質10の比表面積は、例えば、0.8m2/g以下であってもよい。
【0053】
(細孔容積及び平均細孔径)
正極活物質10の細孔容積径は、特に限定されてないが、例えば、0.001cm3/g以上0.008cm3/g以下であってもよく、0.001cm3/g以上0.004cm3/g以下であってもよい。細孔容積が上記範囲とする場合、添加したタングステンを二次粒子の表面だけでなく、内部にも十分に浸透させることができ、二次粒子の表面において、均一な被覆層を形成し、かつ、二次粒子内部において、タングステンを含む化合物を形成することができる。全固体リチウムイオン二次電池では、正極活物質の二次粒子内部に固体電解質は入り込まないため二次粒子内部の空隙をリチウムイオンが拡散することができない。細孔容積が上記範囲とする場合、空隙の割合が小さいため電池の抵抗が減少すると考えられる。
【0054】
また、正極活物質10の平均細孔径(直径)は、例えば、1nm以上10nm以下であってもよく、1nm以上4nm以下であってもよい。平均細孔径を上記範囲とする場合、添加したタングステンを二次粒子の表面及び内部に効率的に浸透させることができる。なお、細孔容積径及び平均細孔径は、Barrett-Joyner-Halenda(BJH)法を用いて測定することができる。
【0055】
2.全固体リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法
正極活物質10の製造方法は、上述した特性を有する正極活物質が得られるものであれば、特に限定されないが、例えば、以下の製造方法を用いることにより、上記の正極活物質10を生産性高く製造することができる。
【0056】
正極活物質10の製造方法は、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物(母材)を純水、又は、LiOH水溶液に分散させ、正極活物質スラリーを得る分散工程(S10)と、正極活物質スラリーを脱水して、洗浄ケーキを得る分離工程(S20)と、洗浄ケーキと、タングステンを含む化合物(粉末)とを混合して、混合物を得る混合工程(S30)と、混合物を乾燥する乾燥工程(S40)と、を備える。
【0057】
[分散工程(S10)]
分散工程(S10)は、リチウム遷移金属複合酸化物(母材)と、水又は水溶液と、を混合して、正極活物質スラリーを得る工程である。分散工程(S10)により、リチウム遷移金属複合酸化物(母材)の一次粒子の表面、及び、一次粒子間の粒界に存在する不純物(余剰リチウムや硫酸根等)を除去するとともに、リチウム遷移金属複合酸化物(母材)の表面全体を水又は水溶液で濡らすことにより、後工程で添加するタングステンを含む化合物の二次粒子の表面および内部への付着を促進し、より均一な被覆層2を形成することができる。
【0058】
母材として用いられるリチウム遷移金属複合酸化物は、公知の技術を用いて得られたものを使用することができる。例えば、リチウム遷移金属複合酸化物(母材)は、リチウム遷移金属複合酸化物を構成する(リチウム以外の)金属元素を共沈殿(晶析)させて得られるニッケル複合水酸化物、又は、このニッケル複合水酸化物(以下、これらをまとめて「前駆体」ともいう。)をさらに熱処理して得られるニッケル複合酸化物と、リチウム化合物とを混合した後、得られたリチウム混合物を焼成して得ることができる。
【0059】
また、リチウム遷移金属複合酸化物(母材、被覆前)は、正極活物質10に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物1の組成と同様のものを用いてもよい。また、リチウム遷移金属複合酸化物(母材)は、分散工程(S10)後のBET比表面積が、分散工程(S10)前のBET比表面積よりも大きくてもよく、例えば、1.0m2/g以上2.0m2/g以下であってもよい。また、リチウム遷移金属複合酸化物(母材)は、分散工程(S10)後の細孔容積が、分散工程(S10)前の細孔容積よりも大きくてもよく、例えば、分散工程(S10)後の細孔容積が0.005cm3/g以上0.01cm3/g以下であってもよい。また、分散工程(S10)後の平均細孔径が、1nm以上10nm以下であってもよい。
【0060】
分散工程は、公知の方法および条件で行ってもよく、リチウム遷移金属複合酸化物(母材)の表面から過度にリチウムが溶出して電池特性が劣化しない範囲で行えばよい。例えば、正極活物質のスラリー濃度は、500g/L以上2500g/L以下の範囲内で適宜、調整することができる。
【0061】
分散工程(S10)に用いられる水、又は、水溶液は、特に制限されないが、Liを含む水溶液を用いることが好ましく、水酸化リチウム水溶液を用いることが好ましい。水酸化リチウム水溶液を用いることにより、リチウム遷移金属複合酸化物(母材)の二次粒子の表面および二次粒子の外面と通じている二次粒子の内部(一次粒子間の空隙や不完全な粒界)に十分な量のリチウムを供給することができ、乾燥工程(S40)においてタングステン化合物との反応を促進し、かつ、他の不純物を効率よく、除去することができる。水酸化リチウム水溶液の濃度としては、例えば、リチウム重量換算で0.5g/L以上35g/L以下の範囲内で適宜調整することができる。
【0062】
[固液分離工程(S20)]
固液分離工程(S20)は、正極活物質スラリーを脱水して、洗浄ケーキを得る工程である。スラリーを固液分離して、前記リチウムニッケル複合酸化物を含む洗浄ケーキを得る工程である。正極活物質スラリーを脱水する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、吸引濾過機、遠心機、フィルタープレスなどを用いて、固液分離することにより、脱水する。
【0063】
洗浄ケーキの水分量は、例えば、2質量%以上15質量%以下の範囲であってもよい。
【0064】
[混合工程(S30)]
混合工程(S30)は、洗浄ケーキと、タングステン化合物の粉末とを混合して、混合物を得る工程である。混合工程(S30)により、タングステン化合物が、リチウム遷移金属複合酸化物(母材)の表面、及び、水又は水溶液が浸透可能な母材の内部に浸透することで、リチウム遷移金属複合酸化物1において、二次粒子の表面、及び、二次粒子内部(一次粒子間の空隙、及び、界面)にタングステンを均一に分散させることができる。
【0065】
[乾燥工程(S40)]
乾燥工程(S40)は、混合工程(S30)により得られた混合物を乾燥する工程である。乾燥工程(S40)により、タングステン化合物より供給されたWと、正極活物質のスラリーの水溶液より供給されたLi、又は、リチウム遷移金属複合酸化物(母材)から溶出したLiとから、タングステンとリチウムとを含む化合物が形成され、リチウム遷移金属複合酸化物1の二次粒子の表面に、被覆層2が均一に形成された正極活物質10を得ることができる。また、得られた正極活物質10は、分散工程(S10)後、かつ、混合工程(S30)前のリチウム遷移金属複合酸化物(母材)よりも、比表面積、及び/又は、細孔容積が小さくなってもよい。
【0066】
乾燥条件は、混合物中の水分量を十分に低減できればよく、例えば、乾燥温度は、80℃以上110℃以下であってもよい。なお、乾燥工程(S40)後に、乾燥工程よりも高い温度で、熱処理工程を行ってもよい。
【0067】
3.全固体リチウムイオン二次電池
本実施形態に係る全固体リチウムイオン二次電池(以下、「全固体電池」ともいう。)は、正極と、負極と、固体電解質とを備え、正極活物質10を正極に含む。なお、正極は、上記の正極活物質10以外の正極活物質を含んでもよく、例えば、単独の一次粒子を含んでもよく、単独の一次粒子と二次粒子との混合物であってもよい。また、正極は、上記の正極活物質10と異なる組成や粒径を有する正極活物質を含んでもよい。以下、本実施形態に係る全固体電池について、構成要素ごとにそれぞれ説明する。
【0068】
なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、全固体電池は、下記実施形態をはじめとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、全固体電池は、その用途を特に限定するものではない。
【0069】
(正極)
正極は、正極合剤を成型し、形成することができる。なお、正極は、使用する電池にあわせて適宜処理される。たとえば、電極密度を高めるためにプレスなどによる加圧圧縮処理等を行うこともできる。
【0070】
上述の正極合剤は、粉末状になっている前述の正極活物質と、固体電解質とを混合して形成できる。
【0071】
固体電解質は、電極に適当なイオン伝導性を与えるために添加されるものである。
その固体電解質の材料は特に限定されないが、例えばLi3PS4、Li7P3S11、Li10GeP2S12などの硫化物系固体電解質や、Li7La3Zr2O12、Li0.34La0.51TiO2.94などの酸化物系固体電解質やPEOなどのポリマー系電解質を用いることができる。
【0072】
なお、正極合剤には結着剤や導電助剤を添加することもできる。
【0073】
結着剤は、正極活物質をつなぎ止める役割を果たすものである。係る正極合剤に使用される結着剤は特に限定されないが、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0074】
導電材は、電極に適当な導電性を与えるために添加されるものである。導電材の材料は特に限定されないが、例えば天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛などの黒鉛や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)等のカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0075】
また、正極合剤における各物質の混合比は特に限定されるものではない。例えば、正極合剤の正極活物質の含有量を50質量部以上、90質量部以下、固体電解質の含有量を10質量部以上、50質量部以下とすることができる。
【0076】
ただし、正極の作製方法は、上述した例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。
【0077】
(負極)
負極は、金属類(リチウム金属、インジウム金属、リチウムインジウム合金、リチウムアルミニウム合金、SiもしくはSiを含む合金など)、あるいは負極合剤を成型し、形成することができる。
負極合剤を構成する成分やその配合等は異なるものの、実質的に上述の正極と同様の方法によって形成され、正極と同様に必要に応じて各種処理が行われる。
負極合剤は、負極活物質と固体電解質とを混合することで調製できる。負極活物質としては例えば、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる吸蔵物質を採用することができる。
吸蔵物質は特に限定されないが、例えば天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体等から選択された1種類以上を用いることができる。係る吸蔵物質を負極活物質に採用した場合には、正極同様に、固体電解質として、Li3PS4等の硫化物電解質を用いることができる。
【0078】
(固体電解質)
固体電解質は、Li+イオン伝導性を持つ固体である。固体電解質としては、酸化物、硫化物、ポリマーなどから選ばれる1種を単独で、あるいは2種類以上を混合して用いることができる。
【0079】
酸化物系固体電解質としては、特に限定されず、酸素(O)を含有し、かつ、リチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものであれば用いることができる。
【0080】
酸化物系固体電解質としては、例えば、リン酸リチウム(Li3PO4)、Li3PO4NX、LiBO2NX、LiNbO3、LiTaO3、Li2SiO3、Li4SiO4-Li3PO4、Li4SiO4-Li3VO4、Li2O-B2O3-P2O5、Li2O-SiO2、Li2O-B2O3-ZnO、Li1+XAlXTi2-X(PO4)3(0≦X≦1)、Li1+XAlXGe2-X(PO4)3(0≦X≦1)、LiTi2(PO4)3、Li3XLa2/3-XTiO3(0≦X≦2/3)、Li5La3Ta2O12、Li7La3Zr2O12、Li6BaLa2Ta2O12、Li3.6Si0.6P0.4O4等が挙げられる。
【0081】
硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、硫黄(S)を含有し、かつ、リチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものであれば用いることができる。硫化物系固体電解質としては、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-B2S3、Li3PO4-Li2S-Si2S、Li3PO4-Li2S-SiS2、LiPO4-Li2S-SiS、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5等が挙げられる。
【0082】
なお、無機固体電解質としては、上記以外のものを用いてよく、例えば、Li3N、LiI、Li3N-LiI-LiOH等を用いてもよい。
【0083】
ポリマー系固体電解質としては、イオン伝導性を示す高分子化合物であれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体などを用いることができる。また、有機固体電解質は、支持塩(リチウム塩)を含んでいてもよい。なお、固体電解質を用いる場合は、電解質と正極活物質の接触を確保するため、正極材中にも固体電解質を混合させてもよい。
【0084】
(全固体電池の形状、構成)
次に、本実施形態に係る全固体電池の部材の配置、構成の例について説明する。
上記の正極、負極および固体電解質で構成される全固体電池は、コイン形や積層形など、一定の圧力をかけることが可能な種々の形状にすることができる。いずれの形状をとる場合であっても、正極および負極を、固体電解質を介して積層させることができる。そして、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通じる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉して全固体電池とすることができる。
【0085】
(全固体電池の特性)
正極活物質10を用いた本実施形態に係る全固体電池は、電解液を用いたリチウムイオン二次電池が示す充放電容量と同等の充放電容量を有することができる。例えば、本実施形態の正極活物質10を正極に用いて、
図2に示す試験用電池を構成した場合、実施例の条件で測定した初期放電容量が、被覆層を形成しない以外は同様の条件で製造されたリチウム遷移金属複合酸化物の初期放電容量に対して、110%以上であってもよく、130%以上であってもよく、150%以上であってもよく、170%以上であってもよい。
【0086】
なお、本実施形態の二次電池の用途は特に限定されるものではなく、各種電源が要求される用途に好適に用いることができる。また、本実施形態の二次電池は電解液を用いたリチウムイオン電池が示す充放電容量と同等の充放電容量を有し、小型化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源としても好適に用いることができる。
【実施例0087】
以下、本発明について、実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
【0088】
[実施例1]
1.リチウム遷移金属複合酸化物
公知の方法を用いて以下の物性を有するリチウム遷移金属複合酸化物を準備した。
(a)化学組成
リチウム遷移金属複合酸化物の化学組成は、ICP発光分光分析器(VARIAN社製、725ES)を用いた定量分析により、Li、Ni、Co、Alの物質量比が、Li:Ni:Co:Al=1.03:0.82:0.15:0.03であった。
(b)結晶構造
リチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造を、XRD(PANALYTICAL社製、X‘Pert、PROMRD)を用いて測定したところ、R-3m構造に帰属される層状岩塩型構造であった。
(c)比表面積
リチウム遷移金属複合酸化物のBET比表面積を、全自動BET比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、マックソーブ)を用いて測定した結果、0.60m2/gであった。
(d)体積平均粒子径
リチウム遷移金属複合酸化物の体積平均粒子径を、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて測定した結果、5.1μmであった。
2.被覆層形成
Li1.03Ni0.80Co0.15Al0.05O2のリチウム遷移金属複合酸化物の粉末に対して、以下の被覆工程を実施することで正極活物質を製造した。
【0089】
リチウム遷移金属複合酸化物をLiOH水溶液に分散させ、正極活物質スラリーとした後、脱水し、正極活物質ケーキ(水分量:5.8質量%)を得た。正極活物質ケーキをWO3と混合した後、真空乾燥を行い、篩別することで正極活物質を得た。得られた正極活物質を以下の方法で評価した。
【0090】
3.正極活物質の評価
(a)組成
ICP発光分光分析器(VARIAN社製、725ES)を用いて組成を分析した。この分析により、この正極活物質は、Wを1.7wt%含むことがわかった。また、正極活物質の水分量を、加熱温度を300℃としたカールフィッシャー法により測定したところ、水分量は0.08質量%であった。
【0091】
(b)被覆率の評価(表面分析)
XPS(アルバック・ファイ製、Versa ProbeII)により正極活物質を測定し、得られたNi=2p3/2スペクトル、Co=2p3/2スペクトル、Al=2pスペクトル、W=4f7/2スペクトル、Nb=3d5/2スペクトルの各ピーク面積から算出された半定量値から正極活物質表面の物質量(at%)を得た。表面に存在するWとNi、Co、Al、Wの和の比であるW被覆率は、(W)/(Ni+Co+Al+W)×100=33%であった。表面に存在するNbとNi、Co、Al、Nbの和の比であるNb被覆率は、(Nb)/(Ni+Co+Al+Nb)×100=0%であった。
【0092】
また、正極活物質の結晶構造を、XRD(Bruker Japan製、D8 DISCOVER Vario-1)を用いて測定したところ、リチウム遷移金属複合酸化物(R-3m)に帰属するピークと、Li2WO4、7Li2WO4・4H2O、及び、Li4WO5に帰属されるピークが検出された。
【0093】
(c)被覆層の厚さ
正極活物質に含まれるW量、Wの被覆率、及び、正極活物質のBET比表面積から、被覆層の厚さを算出した。BET比表面積は、全自動BET比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、マックソーブ)を用いて測定した。
【0094】
(d)細孔容積および平均細孔径
独立4ステーション型比表面積・細孔分布測定装置(カンタクローム・インスツルメンツ社製、QUADRASORB SI)を用いて測定した窒素吸着等温線からBarrett-Joyner-Halenda(BJH)法により細孔容積および平均細孔径(直径)を算出した。BJH法では、細孔形状を円柱状(シリンダー型)と仮定して、毛管凝縮を生じる細孔径と窒素の相対圧の関係式(ケルビン式)により細孔径分布が得られる。
【0095】
4.全固体電池(試験用電池)の作製
正極活物質の電池評価には、
図2に示す構造を有する電池(以下、「試験用電池」という)を使用した。
図2に示すように、試験用電池SBAは、負極缶NC及び正極缶PCを備えるケースと、ケース内に収容された圧粉体セルCから構成されている。
【0096】
ケースは、中空かつ一端が開口された負極缶NCと、この負極缶NCの開口部に配置される正極缶PCとを備える。正極缶PCを負極缶NCの開口部に配置すると、正極缶と負極缶NCとの間に圧粉体セルCを収容する空間が形成されるように構成されている。正極缶PCは負極缶NCに対して蝶ネジSWとナットNで固定される。
【0097】
負極缶NCは負極、正極缶PCは正極のそれぞれの端子を備えている。ケースは絶縁スリーブISVを備えており、絶縁スリーブISVによって、負極缶NCと正極缶PCとの間が非接触の状態を維持するように固定されている。
【0098】
負極缶NCの閉止された一端には、加圧ネジPSWが備えられており、正極缶PCを負極缶NCに固定した後、加圧ネジPSWを圧粉体セルCの収容空間に向けて締めこむことで、半球座金Wを通して圧粉体セルCを加圧状態に保持する。負極缶NCの加圧ネジPSWが存在する一端には、ねじ込み式のプラグPが備えられている。負極缶NCと正極缶PCの間、および負極缶NCとプラグPの間には、オーリングOLが備えられており、負極缶NCと正極缶PCの間の隙間が密封し、ケース内の気密が維持される。
【0099】
圧粉体セルCは、正極層PL、固体電解質層SELおよび負極層NLとからなり、この順で並ぶように積層されたペレットである。正極層PLが下部集電体LCCを通して正極缶PCの内面に接触し、負極層NLが上部集電体UCC、半球座金Wおよび加圧ネジPSWを通して負極缶NCの内面に接触する。下部集電体LCC、圧粉体セルCおよび上部集電体UCCはスリーブSVによって正極層PL、負極層NLが電気的に接触しないように保護されている。
【0100】
上記の試験用電池SBAは、以下のようにして作製した。
【0101】
初めに、正極活物質60mgと固体電解質Li3PS4=40mgを乳鉢で混合した正極合剤を作製した。次に、直径10mmのペレットを作製できる成形金型を用意し、(1)固体電解質=60mgを入れて10MPaで加圧成形後、(2)さらに正極合剤15mgを加え、360MPaで加圧することで強固に密着した正極層PLと固体電解質層からなる2層ペレットを得た。
【0102】
下から順に、下部集電体LCC、正極層PLを下向きにしたペレット、インジウム箔(負極層NL)、上部集電体UCCの順に積層し、電極(圧粉体セルC)を構成し、電極(圧粉体セルC)をケース内に封入した後、加圧ネジPSWを5~7N・mのトルクで締め付け、拘束力を与えた。試験用電池は、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0103】
5.固体二次電池の評価
試験用電池による充放電容量の測定は、以下の条件で行った。
【0104】
試験用電池SBAを25℃の恒温槽に入れ、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、活物質1gあたりの電流値が19mA/gとなるようカットオフ電圧4.3V(vs.Li+/Li)まで充電した後、活物質1gあたりの電流値が1.9mA/gとなるまで4.3V(vs.Li+/Li)で充電を継続した。1時間の休止後、活物質1gあたりの電流値が19mA/gとなるようカットオフ電圧3.0V(vs.Li+/Li)まで放電した後、活物質1gあたりの電流が1.9mA/gとなるまで3.0V(vs.Li+/Li)で充電を継続した。
【0105】
上記の評価結果を表1に示す。なお、表1に示す放電容量は、比較例1の放電容量を基準(100%)とした相対比であり、放電容量相対比が100%を超えることで未被覆品である比較例1よりも放電容量が増加したことを示す。実施例1の放電容量相対比は111%であった。また、実施例1の正極活物質の断面を解析したところ、二次粒子の内部の一次粒子間にタングステンを含む化合物が確認された。
【0106】
[実施例2]
実施例1のWO3添加量を変えた以外はすべて同様の条件で正極活物質を作製し、評価した。その結果、W被覆率=61%、Nb被覆率=0%、比較例1に対する放電容量相対比は139%であった。結果を表1に示す。
【0107】
[実施例3]
実施例1のWO3添加量を変えた以外はすべて同様の条件で正極活物質を作製し、評価した。その結果、W被覆率=89%、Nb被覆率=0%、比較例1に対する放電容量相対比は174%であった。結果を表1に示す。
【0108】
[実施例4]
実施例1のWO3添加量を変えた以外はすべて同様の条件で正極活物質を作製し、評価した。その結果、W被覆率=91%、Nb被覆率=0%、比較例1に対する放電容量相対比は151%であった。結果を表1に示す。
【0109】
[比較例1]
実施例1の被覆層形成の工程を省略した以外はすべて同様の条件で正極活物質を作製し、評価した。その結果、W被覆率=0%、Nb被覆率=0%であった。なお、比較例1の放電容量を相対比の基準となる100%とした。結果を表1に示す。
【0110】
[比較例2]
実施例1のWO3添加量を変えた以外はすべて同様に作製した。その結果、W被覆率=13%、Nb被覆率=0%、比較例1に対する放電容量相対比は74%であった。結果を表1に示す。
【0111】
[比較例3]
実施例1の被覆層(タングステン含む)形成の工程を変更し、以下の工程で被覆層(ニオブ含む)を形成した以外はすべて同様の条件で正極活物質を作製し、評価した。その結果、W被覆率=0%、Nb被覆率=83%、比較例1に対する放電容量相対比は124%であった。結果を表1に示す。
【0112】
(ニオブの被覆工程)
リチウム遷移金属複合酸化物の粉末を500g計量し、転動流動造粒コーティング装置(パウレック社製、MP-01)内で流動させ、Li/Nb比=1.0に調製した混合水溶液を流動槽内に噴霧するとともに、流動槽内に供給する空気の温度を120℃に制御、4時間でゆっくり被覆処理することで、前記粉末の表面に被覆層を形成した。得られた粉末は、回収した後酸素雰囲気で300℃、2時間の熱処理を行うことで、完全に水分を除去したLiとNbからなる被覆層を有したリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0113】
[比較例4]
実施例1の被覆層形成の工程において、WO
3を混合せず、そのまま乾燥させた以外はすべて同様の条件で正極活物質を作製し、評価した。その結果、W被覆率=0%、Nb被覆率=0%、比較例1に対する放電容量相対比は16%であった。結果を表1に示す。
【表1】
【0114】
[評価結果]
実施例の正極活物質では、被覆層を有さない比較例1、4、及び、W被覆率が低い比較例2の正極活物質と比較して、初期放電容量が顕著に向上した。
【0115】
また、実施例2~4の正極活物質(W被覆率61~91%)では、リチウム及びニオブを含む化合物で被覆した比較例3の正極活物質(Nb被覆率83%)と比較しても、より高い初期放電容量を有することが示された。
【0116】
また、被覆層形成の工程において、正極活物質スラリーにタングステン化合物を混合しなかった比較例4では、被覆層形成の工程を行わなかった比較例1と比較して、初期放電容量が著しく低下することが示された。
【0117】
本発明によれば、高い電池容量が要求される全固体リチウムイオン二次電池の正極に好適に使用できる正極活物質を提供することができる。