IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-固相反応によるフッ化物の合成法 図1
  • 特開-固相反応によるフッ化物の合成法 図2
  • 特開-固相反応によるフッ化物の合成法 図3
  • 特開-固相反応によるフッ化物の合成法 図4
  • 特開-固相反応によるフッ化物の合成法 図5
  • 特開-固相反応によるフッ化物の合成法 図6
  • 特開-固相反応によるフッ化物の合成法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025027705
(43)【公開日】2025-02-28
(54)【発明の名称】固相反応によるフッ化物の合成法
(51)【国際特許分類】
   C01F 11/22 20060101AFI20250220BHJP
   C01D 3/02 20060101ALI20250220BHJP
   C01D 15/04 20060101ALI20250220BHJP
   C01F 5/28 20060101ALI20250220BHJP
   G02B 1/02 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
C01F11/22
C01D3/02
C01D15/04
C01F5/28
G02B1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023132760
(22)【出願日】2023-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140394
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 康次
(72)【発明者】
【氏名】塩原 利夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 諒
(72)【発明者】
【氏名】戸田 健司
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA05
4G076AB06
4G076AB09
4G076BA37
4G076BC08
4G076CA02
4G076DA11
(57)【要約】
【課題】低エネルギーで毒性が低い原料を用いてフッ化物を合成できるフッ化物合成法を提供する。
【解決手段】フッ化物の合成法では、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の原料粉末を用意し、フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、及びフッ化カリウムの少なくとも一つから選択されたフッ化剤を用意する。さらに、原料粉末にフッ化剤を接触させ、原料粉末を固相反応させることでフッ化物を得る。接触工程の前又は後に少量の水を添加し、原料粉末と該水とを共存させる。水を共存させる工程では、原料粉末とフッ化剤との合計重量を1.0とした場合に、添加すべき前記水の重量を0.001以上、1.0以下に設定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の原料粉末を用意する工程と、
フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、及びフッ化カリウムの少なくとも一つから選択されたフッ化剤を用意する工程と、
前記原料粉末に前記フッ化剤を接触させ、該原料粉末を固相反応させてフッ化物を得る工程と、
前記接触工程の前又は後に少量の水を添加し、前記原料粉末と該水とを共存させる工程と、
を含み、かつ、
前記水を共存させる工程では、前記原料粉末と前記フッ化剤との合計重量を1.0とした場合に、添加すべき前記水の重量を0.001以上、1.0以下に設定する、
ことを特徴とするフッ化物の合成法。
【請求項2】
前記原料粉末が、リチウム、ナトリウム、カルシウム、及びマグネシウムの少なくとも一つから選択される金属化合物である、
ことを特徴とする請求項1に記載のフッ化物の合成法。
【請求項3】
前記原料粉末が、炭酸塩化合物及び水酸化化合物の少なくとも一つから選択される金属化合物である、
ことを特徴とする請求項1に記載のフッ化物の合成法。
【請求項4】
前記原料粉末と前記水とを共存させる工程後に前記原料粉末と前記フッ化剤との混合物を密閉又は半密閉の容器に収容し、かつ、該容器内の温度を30℃~250℃に設定して前記混合物を加熱する工程をさらに含む、
ことを特徴とする請求項1に記載のフッ化物の合成法。
【請求項5】
前記フッ化物の合成法が、光学レンズ、蛍石レンズ、窓板用光学材料、セラミックスフィラー、プラズマ耐性表面保護膜、フラックス、及び、フッ酸原料のいずれかの用途のフッ化物を得るための合成法である、
ことを特徴とする請求項1に記載のフッ化物の合成法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ化物の合成法に関し、具体的には、室温雰囲気下での固相反応によるフッ化物の合成法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
代表的なフッ化物の一つであるCaFは蛍石として天然に存在するが、蛍石は天然物であるがゆえに不純物を含む問題がある。そのため、高純度で品位の安定した人工のCaFを合成する試みがなされている。これまでに、炭酸カルシウムにフッ酸を反応させる方法(特許文献1を参照)や炭酸カルシウムと水酸化カルシウムとの混合物をフッ化水素ガス、フッ素ガスなどの気体で反応させる方法(特許文献2を参照)が提案されている。
【0003】
しかしながら、以上のように合成したCaFは高純度で光学レンズ、蛍石レンズ、窓板用光学材料などの光学用途に最適な素材であるが、毒性が極めて強いフッ酸やフッ化水素ガスを使用するため、製造、排出処理などが困難であるとの欠点を有する。
【0004】
また、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やその他フッ素樹脂を水酸化ナトリウムとともに500℃に高温加熱してフッ化ナトリウムを合成し、この物質をフッ化カルシウムに置換する方法も提案されている(非特許文献1を参照)。この先行技術は毒性が強いフッ酸やフッ化水素ガスを使用しないことから安全性が改善されているが、高温での加熱が必要であり、エネルギー消費が大きく、炭酸ガスの排出に懸念がある。
【0005】
また、非特許文献2には、アルカリ土類金属水酸化物とフッ化アンモニウムとの反応からアルカリ土類金属フッ化物を合成することが記載されている。しかしながら、この先行技術は固体状の原料同士を混ぜ合わせる(固相反応)だけであり、反応速度が遅く、反応のバラツキが生じ、安定したフッ化物の製造が出来ないなどの問題が懸念される。
【0006】
なお、セラミックスの低温合成法として適度な水分を添加して室温或いは低温加熱下で合成する方法が知られている(特許文献3)。しかし、フッ化物の合成は報告されていない。
【0007】
以上のように、従来のフッ化物合成方法では、一般に、毒性が強いフッ酸やフッ化水素ガスを用いて合成している。また、フッ酸やフッ化水素ガスを用いない従来の製造方法では高温加熱が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-123417号公報
【特許文献2】特許6407604号公報
【特許文献3】特許6382030号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Naohisa Yanagihara, Takahiro katoh, “Mineralization of polytetrafluoroethylene and other fluoropolymers by molten sodium hydroxide”, Green Chemistry, (2022)
【非特許文献2】Gudrun Scholz, Klas Meyer, Andre Duvel , Paul Heitjans, and Erhard Kemnitz, “Fast Ion Conducting Nanocrystalline Alkaline Earth Fluorides Simply Prepared by Mixing or Manual Shaking”, Z. Anorg. Allg. Chem. (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、低エネルギーで毒性が低い原料(例えば、フッ化アンモニウムやフッ化ナトリウム)を用いてフッ化物を合成できるフッ化物合成法を提供することを目的とする。
【0011】
本発明者らは、室温下の気体中において少なくとも2種類以上の原料粉末を接触させ、固相反応させて結晶性のセラミックスを得られるとの知見は得ていたが、フッ化物の合成については実証できていなかった。
【0012】
そのため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、フッ素源(フッ化剤とも呼ぶ。)としてフッ化アンモニウムやフッ化ナトリウムを用い、このフッ素源と、アルカリ金属やアルカリ土類金属の粉末とを混合(固相反応)させる際に少量の水を含ませることで目的物たるフッ化物を合成できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明のフッ化物の合成法は、少なくとも次の特徴・構成を有する。
【0014】
(態様1)
アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の原料粉末を用意する工程と、
フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、及びフッ化カリウムの少なくとも一つから選択されたフッ化剤を用意する工程と、
前記原料粉末に前記フッ化剤を接触させ、該原料粉末を固相反応させてフッ化物を得る工程と、
前記接触工程の前又は後に少量の水を添加し、前記原料粉末と該水とを共存させる工程と、
を含み、かつ、
前記水を共存させる工程では、前記原料粉末と前記フッ化剤との合計重量を1.0とした場合に、添加すべき前記水の重量を0.001以上、1.0以下に設定する、
ことを特徴とするフッ化物の合成法。
(態様2)
前記原料粉末が、リチウム、ナトリウム、カルシウム、及びマグネシウムの少なくとも一つから選択される金属化合物である、
ことを特徴とする態様1に記載のフッ化物の合成法。
(態様3)
前記原料粉末が、炭酸塩化合物及び水酸化化合物の少なくとも一つから選択される金属化合物である、
ことを特徴とする態様1に記載のフッ化物の合成法。
(態様4)
前記原料粉末と前記水とを共存させる工程後に前記原料粉末と前記フッ化剤との混合物を密閉又は半密閉の容器に収容し、かつ、該容器内の温度を30℃~250℃に設定して前記混合物を加熱する工程をさらに含む、
ことを特徴とする態様1に記載のフッ化物の合成法。
(態様5)
前記フッ化物の合成法が、光学レンズ、蛍石レンズ、窓板用光学材料、セラミックスフィラー、プラズマ耐性表面保護膜、フラックス、及び、フッ酸原料のいずれかの用途のフッ化物を得るための合成法である、
ことを特徴とする態様1に記載のフッ化物の合成法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フッ化剤として、フッ酸やフッ化水素ガスなど毒性の強いフッ素化合物を使用しない代わりに、フッ化アンモニウムやフッ化ナトリウム、フッ化カリウムを用いることで、低コストかつ簡便な操作で各種のフッ化物を合成することできる。特に、カルシウム金属化合物を用いた系ではフッ化カルシウムの光学材料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1~2で合成されたフッ化物(CaF)のX線回折パターンを示す。
図2】実施例3で合成されたフッ化物(NaF)のX線回折パターンを示す。
図3】実施例4で合成されたフッ化物(LiF)のX線回折パターンを示す。
図4】実施例5で合成されたフッ化物(MgF)のX線回折パターンを示す。
図5】実施例6で合成されたフッ化物(CaF)のX線回折パターンを示す。
図6】比較例1で合成されたフッ化物(CaF)のX線回折パターンを示す。
図7】比較例2で合成されたフッ化物(CaF)のX線回折パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づき説明するが、本発明は、下記の具体的な実施態様に何等限定されるものではない。
【0018】
<アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物>
本発明で使用するアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物としては下記のものが例示される。
【0019】
アルカリ金属化合物としてLi、Na、K、Rb、或いはCs金属の水酸化物、炭酸塩、酸化物などが挙げられ、アルカリ土類金属化合物としてBe、Mg、Ca、Sr、Baからなる金属の水酸化物、炭酸塩、酸化物などが挙げられる。このうち、水酸化物、炭酸塩が好ましく、Li金属、Na金属、Mg金属、Ca金属からなる水酸化物や炭酸塩がより好ましい。特に、フッ酸の原料蛍石に比べ、高純度のフッ酸が得られるフッ化カルシウムが得られるカルシウム化合物が更に好ましい。
【0020】
<フッ化剤>
本発明のフッ化剤としては毒性の低いフッ素含有化合物であれば限定されないが、特にフッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウムが好ましく、特にフッ化アンモニウムがより好ましい。
【0021】
これらのフッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウムは、フッ酸に比べ、毒性が低く取扱いが容易である。特にフッ化アンモニウムは各種アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物との反応性に優れフッ化物を合成し、また合成したフッ化物にフッ化剤由来の金属を含まないことからより好ましい。
【0022】
なお、フッ化剤の添加量は、目的のフッ化物に使用するアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物と化学量論比に合わせて添加する。
【0023】
<水>
本発明の固相反応によるフッ化物合成に重要な働きをする水は、純水、蒸留水、イオン交換水などが好ましい。また、添加する水の性状は通常の水(液体状)の他、スチーム状でもよい。水を添加する工程は、原料粉末に水を直接添加する方法、水をスチーム状の気体として添加する方法などがあり、反応速度、及びバラツキが少なく安定生産できること、量産化に優れる事の観点から選択される。
【0024】
水の添加量としては、原料粉末(とフッ化剤粉末と)の合計重量を1.0とした場合に、添加する水の重量が0.001以上、1.0以下であり、0.001~0.2が好ましく、0.01~0.1がより好ましい。
【0025】
水の添加量が上記好適範囲の下限(0.001未満)の場合には一般の固相反応と同様、原料粉末同士の接触面で安定な中間生成物が生成されたり、緻密な生成物層が形成されるために、原料粉末間のイオン拡散速度が遅くなり、反応が進行しにくい状態になる。一方、水の量が上記好適範囲の上限(1.0)を超えた場合には、原料粉末が水中に浮遊して、原料粉末同士の接触面積が減少するため、反応が起こりにくい状態になり、水添加の効果が得られない。
【0026】
<フッ化物の固相反応>
本発明の固相反応によるフッ化物の合成は、下記のようにして合成される。
【0027】
水を添加することを特徴とする本発明の合成法を下記に示す。フッ化剤と原料の金属化合物及び水をメノウ乳鉢、ボールミル、混合機、撹拌機などで0.2分~24時間程混合した混合物を作成した後、次のいずれかの方法(以下の本発明の反応条件(1)~(3))を実施すれば固相反応が進行し、フッ化物が得られる。
【0028】
(1)10℃~100℃での雰囲気下に10分以上静置する。
固相反応は一般に静置環境の絶対湿度及び温度の影響を受けるため、絶対湿度が低く、低温雰囲気では静置時間が長くなる。一方、高湿度、高温雰囲気では静置時間が短くなる。金属化合物により異なるが、例えば10℃で低湿度雰囲気では3時間以上の静置が好ましい。また、60℃で高湿度雰囲気では通常、10分~60分未満の静置で目的化合物が得られる。
【0029】
(2)接触させた原料粉末を密閉又は半密閉の容器に収容し、該容器内の温度を30~250℃の温度で加熱(低温加熱)すると加熱時間を2分~120分とすることが出来る。
【0030】
本発明の固相反応では、特に密閉又は半密閉の容器に原料粉末を収容することで固相反応時間が短縮される。この方法であれば、10℃~30℃の大気下雰囲気では固相反応が通常起こらない原料粉末の組合せでも固相反応が生じ、フッ化物が得られるようになる。
【0031】
密閉容器内に収容される気体は、空気、水蒸気、及び、窒素やアルゴンなどの不活性気体などから選択される加熱可能な媒体であれば特に限定されないが、製造コストの面から空気が好ましい。
【0032】
一方、10℃~30℃の室温環境下で固相反応が起こる原料の組合せでは、低温加熱の温度に設定することで固相反応が著しく促進するために10℃~30℃雰囲気下での原料同士の混合(攪拌)時間を極めて短縮できる。
【0033】
ここで密閉容器とは外気と容器内に区画された気体との流通を遮断し、容器内の気体の湿度・温度条件を任意に調整・維持できる、かつフッ化剤で腐食しないものであれば良く、一例として、バイアル瓶、バイアル瓶より優れた耐熱性を有するステンレス製や鋼製などの水熱反応用容器が挙げられる。
【0034】
また、本発明に使用可能な容器として、上述した密閉容器の他、外気が容器内に極めて低い流入速度で流入したり、容器内の気体が極めて低い流出速度で漏れ出したりするような半密閉式の容器であっても構わない。その他の半密閉容器の例として、上述した所望の温度に加温された気体(例えば、空気)が常に該容器内に流入・流出可能な流路形式の容器(工場での量産に適した容器形状)も挙げられる。
【0035】
(3)流動層の固相反応装置により、連続反応が可能となる。
上述した原料粉末及びフッ化剤に水を予め接触させ、流動層にて反応させてフッ化物を得ることも可能である。また、原料粉末とフッ化物の混合物を流動層で水含有気体に接触させ、反応させてフッ化物を得ることも可能である。
【0036】
(4)水を添加しない系でも高温高湿環境下では反応がゆっくりと進みフッ化物が得られるが、反応に要する静置時間が極めて長く、品質が均一なフッ化物が得られにくい。従って、品質の均一化、安定生産、量産性の面から、当該(4)の手法よりも、上記(1)~(3)の水を添加する方法が好ましい。
【0037】
このように、本発明によれば、従来の合成法とは異なり焼成を要せず、容易にフッ化物を合成することができる。本発明は、光学レンズ、蛍石レンズ、窓板用光学材料、セラミックスフィラー、プラズマ耐性表面保護膜、フラックスなど、様々な材料分野への展開も期待される。
【0038】
一般的に、フッ化物の合成には高温の熱処理が必要である。例えば、非特許文献1ではPTFEを500℃に加熱し、フッ化ナトリウムやフッ化カルシウムを合成しているが高温雰囲気が必要であり、室温あるいは低温域において結晶性のフッ化物材料を特別なプロセスなしに結晶化させた例は知られていない。本発明者らは、本発明の合成法及び合成条件を用いれば、低エネルギーでかつ簡便に多種多様のフッ化物材料を生成できることを見出したのである。
【0039】
なお、上述した密閉又は半密閉容器での収容工程と低温加熱の加熱工程を施さない形態では、固相反応速度の低い原料粉末の組合せによっては、混合工程での混合時間(原料攪拌時間)を1時間以上と比較的長時間に設定することが好ましい。
【0040】
これに対し、上記収容工程と上記加熱工程を導入する形態においては、加熱工程実施中に密閉空間に収容された混合物内での反応速度が飛躍的に高まるため、極めて短時間に混合物全体に亘って固相反応を起こすことが可能となる。従って、加熱工程前の10℃~30℃気体中の混合工程での原料攪拌時間についても大幅に短縮することが可能であり、原料攪拌時間は60分未満、好ましくは0.2~40分、より好ましくは0.5~20分である。なお、水を添加しても室温の気体環境下では固相反応がほとんど起こらない(又は起こりにくい)原料の組合せを用いた場合でも、この工程(収容・低温加熱)の導入により、固相反応が生じるようになる。
【0041】
以下、具体的な実施例に基づいて説明する。
【実施例0042】
(CaFの合成法1(混合(水添加)+静置))
室温、空気中でCaCO粉末(0.29g)とNHF粉末(0.21g)とを化学量論比(CaCO/NHF=1mol/2mol)となるよう秤量し、純水0.05gを添加してメノウ乳鉢で2分間混合した。この混合物をアルミナボードに静置して8日(192時間)放置した。なお、実施例1に用いた原料粉末とフッ化剤との合計重量は0.5gであり、原料粉末の合計重量を1とすると、純水の上記添加量は0.1に相当し原料粉末の10wt%である。なお、後述の実施例においても原料粉末の合計重量に対する水の付与量を同様の割合に設定した。
【0043】
静置後の合成物のX線回折パターンを図1の中段に示す。この実施例1のX線回折パターンと、同図の上段に示すシミュレーションした目標生成物(ターゲット化合物)の結晶パターンとを比較すると、それぞれのピークが合致しており、実施例1の合成法で結晶性のCaFが生成できていることが確認された。
【実施例0044】
(CaFの合成法2(混合(水添加)+容器収容+低温加熱))
実施例1と同様にして作成した混合物を、密閉容器(バイアス瓶)に入れて220℃で30分間加熱(低温加熱)処理した。この合成物のX線回折パターンを図1の下段に示す。この結果から、実施例2の合成法でも、実施例1の場合と同様に結晶性のCaFが生成できたことが確認された。
【実施例0045】
(NaFの合成法(混合(水添加)+静置))
実施例3では、実施例1と同様に、室温、空気中で化学量論比がNaOH/NHF=1mol/1molとなるように、NaOH粉末0.800g(0.02mol)とNHF粉末0.741g(0.02mol)を秤量した原料粉体の混合物(1.541g)に純水0.154g(原料粉末とフッ化剤との合計重量を1とすると、純水の添加量は0.1に相当)を添加してメノウ乳鉢で2分間混合した。この混合物をアルミナボード上に静置して192時間放置した。
【0046】
この合成物のX線回折パターンを図2に示す。この実施例3のX線回折パターンと、同図の上段に示すシミュレーションした目標生成物(ターゲット化合物)の結晶パターンとを比較すると、それぞれのピークが合致しており、結晶性のNaFが生成できていることが確認された。
【実施例0047】
(LiFの合成法(混合(水添加)+静置))
実施例4では、実施例1と同様に、室温、空気中で化学量論比がLiOH・HO/NHF=1mol/1molとなるように、LiOH・HO粉末0.839g(0.02mol)とNHF粉末0.741g(0.02mol)を秤量した原料粉体の混合物(1.580g)に純水0.158g(原料粉末とフッ化剤との合計重量を1とすると、純水の添加量は0.1に相当)を添加してメノウ乳鉢で2分間混合した。この混合物をアルミナボード上に静置して192時間放置した。
【0048】
この合成物のX線回折パターンを図3に示す。この実施例4のX線回折パターンと、同図の上段に示すシミュレーションした目標生成物(ターゲット化合物)の結晶パターンとを比較することで、結晶性のLiFが生成できていることが確認された。
【実施例0049】
(MgFの合成法(混合(水添加)+容器収容+低温加熱))
実施例5では、実施例1と同様に、室温、空気中で化学量論比がMg(OH)/NHF=1mol/2molとなるように、Mg(OH)粉末0.583g(0.01mol)とNHF粉末0.741g(0.02mol)を秤量した原料粉末1.324gに純水0.132g(原料粉末とフッ化剤との合計重量を1とすると、純水の添加量は0.1に相当)を添加してメノウ乳鉢で2分間混合した。この混合物を、25ml容量の高圧用反応分解容器に入れ220℃で24時間、加熱処理した。
【0050】
この合成物のX線回折パターンを図4に示す。この実施例5のX線回折パターンと、同図の上段に示すシミュレーションした目標生成物(ターゲット化合物)の結晶パターンとを比較すると、それぞれのピークが合致しており、結晶性のMgFが生成できたことが確認された。
【実施例0051】
(CaFの合成法3(混合(スチーム添加)+静置))
10L(リットル)容量のフラスコに、化学量論比でCaCO/NHF=1mol/2molとなるようにCaCO粉末20.0gとNHF粉末14.8gを秤量して、5分間、攪拌・混合した系に、100℃のスチーム(水換算で594.51g/m(10Lでは5.95g(原料粉末とフッ化剤との合計重量(34.8g)を1とすると、スチームの添加量は0.171に相当))を10Lフラスコに導入してフラスコ内の環境をスチームに置換して1時間放置した。
【0052】
静置後の合成物のX線回折パターンを図5に示す。この実施例6のX線回折パターン(図中の下段)と、シミュレーションした目標生成物(ターゲット化合物)の結晶パターン(図中の上段)とを比較すると、それぞれのピークが合致しており、結晶性のCaFが生成できたことが確認された。
【0053】
[比較例1]
(CaFの合成法4(混合(水添加なし)+静置))
純水0.05gを添加していないこと以外は実施例1と同様の合成条件にして固相反応を行った。この比較例1で生成された合成物のX線回折パターンを図6の下段に示す。この比較例1の結果とシミュレーションした目標生成物(ターゲット化合物)の結晶パターン(図中の上段)とを比較すると、合致するピークもあるが、ピーク強度が低く、CaFの合成割合が低いと推定された。
【0054】
[比較例2]
(CaFの合成法5(混合(水を過剰添加)+静置))
純水の添加量を0.05gから1.0g(原料粉末とフッ化剤との合計重量を1とすると、純水の添加量は2に相当)に変更した以外は実施例1と同様の条件でCaFの合成を試みた。この混合物のX線回折パターンを図7の下段に示す。この比較例2の合成物のX線回折パターンと、シミュレーションした目標生成物(ターゲット化合物)の結晶パターンとを比較すると、それぞれのピークが合致しておらずCaFが生成されていないと推定された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本願発明の方法によれば、上述のように、特殊な装置を用いずに低エネルギーで毒性の低いフッ素源を用いてフッ化物を合成できるため、産業上の利用価値及び産業上の利用可能性が非常に高い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7