IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025027991
(43)【公開日】2025-02-28
(54)【発明の名称】液状組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/18 20060101AFI20250220BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20250220BHJP
   C08L 101/14 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
C08L27/18
C08K3/013
C08L101/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024117710
(22)【出願日】2024-07-23
(31)【優先権主張番号】P 2023132288
(32)【優先日】2023-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100228164
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 智康
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 崇
(72)【発明者】
【氏名】寺田 達也
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB022
4J002AB032
4J002BD151
4J002BE022
4J002BE032
4J002BE062
4J002BF022
4J002BG012
4J002BG042
4J002BG082
4J002BG092
4J002BG132
4J002DA076
4J002DE027
4J002DE076
4J002DE096
4J002DE106
4J002DE116
4J002DE136
4J002DE146
4J002DF016
4J002DJ006
4J002DK006
4J002FA086
4J002FD016
4J002FD202
4J002GB01
4J002GC00
4J002GF00
4J002GG01
4J002GJ01
4J002GN00
4J002GQ00
4J002GQ01
4J002GR00
4J002HA06
(57)【要約】
【課題】緻密で無機フィラーの偏在がなく、機械的特性、耐熱性に優れ、線膨張係数、誘電率及び誘電正接が低く、電気絶縁性を維持しつつ熱伝導性に優れ、表面粗さを小さくできる成形物を形成できる、分散性に優れる液状組成物の提供。
【解決手段】テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と、平均粒子径が10μm超である比重が2以上の無機フィラーと、重量平均分子量20万以上の水溶性ポリマーと、水とを含み、チキソ比が3~15である、液状組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と、平均粒子径が10μm超である比重が2以上の無機フィラーと、重量平均分子量20万以上の水溶性ポリマーと、水とを含み、チキソ比が3~15である、液状組成物。
【請求項2】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の平均粒子径に対する、前記無機フィラーの平均粒子径の比が5以上である、請求項1に記載の液状組成物。
【請求項3】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の平均粒子径が、0.1~25μmである、請求項1に記載の液状組成物。
【請求項4】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の比表面積が、6m/g超である、請求項1に記載の液状組成物。
【請求項5】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、熱溶融性であり、酸素含有極性基を有するテトラフルオロエチレン系ポリマーである、請求項1に記載の液状組成物。
【請求項6】
前記無機フィラーの平均粒子径が、10μm超100μm以下である、請求項1に記載の液状組成物。
【請求項7】
前記無機フィラーが金属又は金属酸化物である、請求項1に記載の液状組成物。
【請求項8】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子及び前記無機フィラーの総量に対して、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の含有量が10~30体積%であり、前記無機フィラーの含有量が50~80体積%である、請求項1に記載の液状組成物。
【請求項9】
前記水溶性ポリマーの重量平均分子量が、100万以上である、請求項1に記載の液状組成物。
【請求項10】
前記水溶性ポリマーが、アクリル酸系高分子、ビニルアルコール系高分子及びセルロース系高分子からなる群から選択される少なくとも1種以上である、請求項1に記載の液状組成物。
【請求項11】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子に対する前記水溶性ポリマーの含有量が、0.1~1.0質量%である、請求項1に記載の液状組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の液状組成物を含有する、放熱材料。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載の液状組成物を押出すか、又は基材の表面に配置して、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーと、前記無機フィラーとを含む成形物を得る、成形物の製造方法。
【請求項14】
テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と、平均粒子径が10μm超である比重が3以上の無機フィラーとを含み、表面粗さRzが25μm以下であり、かつ熱伝導率が5W/m・K以上である、成形物。
【請求項15】
厚さが100μm以上である、請求項14に記載の成形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフルオロエチレン系ポリマーと、所定のフィラーとを含む液状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話等の移動体通信機器における高速化、高周波化に対応するため、通信機器のプリント基板の絶縁層には低誘電率かつ低誘電正接である材料が求められ、テトラフルオロエチレン系ポリマーが注目されている。かかるポリマーを含む絶縁層を形成する材料として、テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と液状分散媒とを含む分散液が知られている。中でも水性分散液は、それを使用する際に要する設備の汎用性や、塗工等の対象となる基材の選択性が高く、各種の添加剤による液物性の改良が検討されている。
特許文献1には、フッ素系樹脂微粒子の水性分散液及びアルミニウム酸化物微粒子ゾルとを混合し、両者が共に浮遊分散し、該分散状態を3日以上安定に維持できる水性分散液が提案され、フッ素系樹脂の耐熱性を向上し、熱劣化を抑制できるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-110220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、コンピューターチップ(CPU)、ビデオグラフィックスアレイ、サーバー、ゲーム機、スマートフォン、LEDボード等の電子部品や、電気自動車及び送電システムのインバーターやコンバーター等で使用されるパワー半導体を含む半導体モジュール等から発生する大量の熱を放散するために、放熱材料として熱界面材料(Thermal Interface Material;以下、「TIM」とも記す。)が用いられる。TIMは、典型的には、過剰な熱を電子部品から熱拡散部に伝達し、次いで熱を放熱板に伝達する役割を有する。
従来、TIMとして、非常に薄い層に広がり、隣接する表面間の緊密な接触を提供できる観点から、パラフィンワックス等の相変化材料、グリース状材料、エラストマーテープが用いられるが、耐熱性(熱安定性)に劣り、性能が低下しやすいという問題がある。
樹脂材料の熱伝導性を向上させてTIMに適用可能な放熱材料を得るべく、樹脂に各種の熱伝導性フィラーを配合する検討がなされている。
しかし、テトラフルオロエチレン系ポリマーは他の成分との親和性が低い。また、放熱材料分野へテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子を含む水性分散液を適用すべく、水性分散液にフィラーを添加する場合、組成物中で無機フィラー同士の凝集が起こりやすく、それから得られる成形物の機械的特性等を低下させやすい。さらに、比重の高い無機フィラーを高濃度で配合した場合は、かかる無機フィラーが組成物中で沈降しやすくなるばかりか、塗工層においても沈降しやすくなる。そのため、塗工層を焼成して形成した成形物中でフィラーが偏在しやすく、熱伝導性が充分に発現し難いという課題があった。
本発明者らは、テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と、所定の無機フィラーと、特定の水溶性ポリマーを含有させ、かつ所定のチキソ比とした水系の液状組成物は分散性に優れ、それから形成される成形物は緻密で無機フィラーの偏在がなく、機械的特性、耐熱性に優れ、線膨張係数、誘電率及び誘電正接が低く、電気絶縁性を維持しつつ熱伝導性に優れ、表面粗さを小さくできることを見出し、本発明に至った。
本発明の目的は、かかる組成物、及び該組成物を含有する放熱材料の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記の態様を有する。
〔1〕 テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と、平均粒子径が10μm超である比重が2以上の無機フィラーと、重量平均分子量20万以上の水溶性ポリマーと、水とを含み、チキソ比が3~15である、液状組成物。
〔2〕 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の平均粒子径に対する、前記無機フィラーの平均粒子径の比が5以上である、〔1〕の液状組成物。
〔3〕 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の平均粒子径が、0.1~25μmである、〔1〕又は〔2〕の液状組成物。
〔4〕 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の比表面積が、6m/g超である、〔1〕~〔3〕のいずれかの液状組成物。
〔5〕 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、熱溶融性であり、酸素含有極性基を有するテトラフルオロエチレン系ポリマーである、〔1〕~〔4〕のいずれかの液状組成物。
〔6〕 前記無機フィラーの平均粒子径が、10μm超100μm以下である、〔1〕~〔5〕のいずれかの液状組成物。
〔7〕 前記無機フィラーが金属又は金属酸化物である、〔1〕~〔6〕のいずれかの液状組成物。
〔8〕 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子及び前記無機フィラーの総量に対して、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の含有量が10~30体積%であり、前記無機フィラーの含有量が50~80体積%である、〔1〕~〔7〕のいずれかの液状組成物。
〔9〕 前記水溶性ポリマーの重量平均分子量が、100万以上である、〔1〕~〔8〕のいずれかの液状組成物。
〔10〕 前記水溶性ポリマーが、アクリル酸系高分子、ビニルアルコール系高分子及びセルロース系高分子からなる群から選択される少なくとも1種以上である、〔1〕~〔9〕のいずれかの液状組成物。
〔11〕 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子に対する前記水溶性ポリマーの含有量が、0.1~1.0質量%である、〔1〕~〔10〕のいずれかの液状組成物。
〔12〕 〔1〕~〔11〕のいずれかの液状組成物を含有する、放熱材料。
〔13〕 〔1〕~〔12〕のいずれかの液状組成物を押出すか、又は基材の表面に配置して、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーと、前記無機フィラーとを含む成形物を得る、成形物の製造方法。
〔14〕 テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と、平均粒子径が10μm超である比重が3以上の無機フィラーとを含み、表面粗さRzが25μm以下であり、かつ熱伝導率が5W/m・K以上である、成形物。
〔15〕 厚さが100μm以上である、〔14〕の成形物。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、テトラフルオロエチレン系ポリマーと所定の無機フィラーとを含み、分散性に優れた組成物が提供される。かかる組成物からは、緻密で無機フィラーの偏在がなく、機械的特性、耐熱性に優れ、線膨張係数、誘電率及び誘電正接が低く、電気絶縁性を維持しつつ熱伝導性に優れ表面粗さが小さいシート等の成形物を形成でき、放熱材料として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「平均粒子径(D50)」は、レーザー回折・散乱法によって求められる、粒子又はフィラーの体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって粒度分布を測定し、粒子又はフィラーの集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
粒子又はフィラーのD50は、粒子又はフィラーを水中に分散させ、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA-920測定器)を用いたレーザー回折・散乱法により分析して求められる。
粒子の「比表面積」は、ガス吸着(定容法)BET多点法で粒子を測定し算出される値であり、BET比表面積測定装置(例えば、NOVA4200e(Quantachrome Instruments社製))を使用して求められる。
「溶融温度」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したポリマーの融解ピークの最大値に対応する温度である。
「ガラス転移点(Tg)」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマーを分析して測定される値である。
「粘度」は、E型粘度計を用いて、25℃でずり速度が10/秒の条件下で組成物を測定して求められる。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「チキソ比」とは、組成物の、ずり速度が10/秒の条件で測定される粘度ηを、ずり速度100/秒の条件で測定される粘度ηで除して算出される値である。
ポリマーにおける「単位」とは、モノマーの重合により形成された前記モノマーに基づく原子団を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。以下、モノマーaに基づく単位を、単に「モノマーa単位」とも記す。
【0008】
本発明の液状組成物(以下、「本組成物」とも記す。)は、テトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)の粒子(以下、「F粒子」とも記す。)と、平均粒子径が10μm超である比重が2以上の無機フィラー(以下、「本無機フィラー」とも記す。)と、重量平均分子量20万以上の水溶性ポリマーと、水とを含み、チキソ比が3~15である。
【0009】
本組成物は、本無機フィラーを含んでいても分散性に優れており、本無機フィラーの偏在がなく、緻密で均一性の高い、シート等の成形物を形成しやすい。その理由は必ずしも明確ではないが、以下の様に考えられる。
F粒子を含む水性分散液に水溶性高分子を添加すると、水性分散液の粘度を増加でき、チキソトロピー性(チキソ性)等の液物性は向上する。本組成物においてはさらに、それが特定の分子量以上である水溶性ポリマーであり、それが水中においてマトリックス様に展開することで、F粒子と本無機フィラーとの穏やかな相互作用を促進させ、F粒子及び本無機フィラーの凝集の抑制と分散安定性とをバランスさせつつ、本無機フィラーの沈降を抑制していると考えられる。
また、本組成物から形成されるシート等の成形物においては、F粒子及び本無機フィラーが緻密に充填され、高度なフィラーのパスが形成されやすくなる。換言すれば、水溶性ポリマーは、本組成物から塗膜等の加工物を形成する際に、本無機フィラー間へのFポリマーの密なパッキングを促すと考えられる。それが成形物の耐熱性、線膨張係数、電気特性、特に電気絶縁性を維持しつつ熱伝導性を向上させていると考えられる。
そのため、本組成物から形成される成形物は、Fポリマー及び本無機フィラーとの物性を高度に具備し、緻密で無機フィラーの偏在がなく、機械的特性、耐熱性に優れ、線膨張係数、誘電率及び誘電正接が低く、電気絶縁性を維持しつつ熱伝導性に優れると考えられる。
かかる傾向は、本組成物中のF粒子の平均粒子径に対する、本無機フィラーの平均粒子径の比が5以上であると、一層顕著となる。
【0010】
本発明におけるFポリマーは、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)に基づく単位(以下、「TFE単位」とも記す。)を含むポリマーである。Fポリマーは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。Fポリマーは、熱溶融性であっても非熱溶融性であってもよいが、Fポリマーの少なくとも1種は、熱溶融性であるのが好ましい。ここで、熱溶融性のポリマーとは、荷重49Nの条件下、溶融流れ速度が1~1000g/10分となる温度が存在するポリマーを意味する。
熱溶融性であるFポリマーの溶融温度は、180℃以上が好ましく、200℃以上がさらに好ましい。前記Fポリマーの溶融温度は、325℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましい。この場合、本組成物が加工性に優れやすく、また、本組成物から形成される成形物が耐熱性に優れやすい。
【0011】
Fポリマーのガラス転移点は、50℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましい。Fポリマーのガラス転移点は、150℃以下が好ましく、125℃以下がより好ましい。
Fポリマーのフッ素含有量は、70質量%以上が好ましく、72~76質量%がより好ましい。
Fポリマーの表面張力は、16~26mN/mが好ましい。なお、Fポリマーの表面張力は、Fポリマーで作製された平板上に、JIS K 6768に規定されているぬれ張力試験用混合液(和光純薬社製)の液滴を載置して測定できる。
【0012】
Fポリマーは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、TFE単位とエチレンに基づく単位とを含むポリマー(ETFE)、TFE単位とプロピレンに基づく単位とを含むポリマー、TFE単位とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)に基づく単位(PAVE単位)とを含むポリマー(PFA)、TFE単位とヘキサフルオロプロピレンに基づく単位とを含むポリマー(FEP)が好ましく、PFA及びFEPがより好ましく、PFAがさらに好ましい。これらのポリマーは、さらに他のコモノマーに基づく単位を含んでいてもよい。
PAVEは、CF=CFOCF、CF=CFOCFCF及びCF=CFOCFCFCF(以下、「PPVE」とも記す。)が好ましく、PPVEがより好ましい。
【0013】
Fポリマーは、酸素含有極性基を有するのが好ましく、水酸基含有基又はカルボニル基含有基を有するのがより好ましく、カルボニル基含有基を有するのがさらに好ましい。
この場合、Fポリマーが、本無機フィラーと相互作用しやすく、本組成物が分散性に優れやすい。また、本組成物から、線膨張係数、誘電率及び誘電正接が低く、耐熱性、熱伝導性に優れたシート等の成形物を得やすい。
水酸基含有基は、アルコール性水酸基を含有する基が好ましく、-CFCHOH及び-C(CFOHがより好ましい。
カルボニル基含有基は、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)、ホルミル基、ハロゲノホルミル基、ウレタン基(-NHC(O)O-)、カルバモイル基(-C(O)-NH)、ウレイド基(-NH-C(O)-NH)、オキサモイル基(-NH-C(O)-C(O)-NH)及びカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましく、酸無水物残基がより好ましい。
Fポリマーが酸素含有極性基を有する場合、Fポリマーにおける酸素含有極性基の数は、主鎖の炭素数1×10個あたり、50~5000個が好ましく、100~3000個がより好ましい。なお、Fポリマーにおける酸素含有極性基の数は、ポリマーの組成又は国際公開第2020/145133号に記載の方法によって定量できる。
【0014】
酸素含有極性基は、Fポリマー中のモノマーに基づく単位に含まれていてもよく、Fポリマーの主鎖の末端基に含まれていてもよく、前者が好ましい。後者の態様としては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として酸素含有極性基を有するFポリマー、Fポリマーをプラズマ処理や電離線処理して得られるFポリマーが挙げられる。
カルボニル基含有基を有するモノマーは、無水イタコン酸、無水シトラコン酸及び5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(以下、「NAH」とも記す。)が好ましく、NAHがより好ましい。
【0015】
Fポリマーは、TFE単位及びPAVE単位を含む、カルボニル基含有基を有するポリマーであるのが好ましく、TFE単位、PAVE単位及びカルボニル基含有基を有するモノマーに基づく単位を含み、全単位に対して、これらの単位をこの順に、90~99モル%、0.99~9.97モル%、0.01~3モル%含むポリマーであるのがさらに好ましい。かかるFポリマーの具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
【0016】
本発明において、F粒子の平均粒子径(D50)は0.1μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましい。F粒子のD50は25μm以下であるのが好ましく、10μm以下がより好ましく、6μm以下がさらに好ましい。F粒子のD50は、0.1~6μmがより好ましい。この場合、本組成物が分散性と加工性に優れやすい。また、本組成物から、線膨張係数、誘電率及び誘電正接が低く、耐熱性、熱伝導性に優れたシート等の成形物を得やすい。F粒子は、非中空状の粒子であってもペレット状であってもよい。
F粒子の比表面積は、1~50m/gが好ましく、1~25m/gが好ましい。F粒子の比表面積は、6m/g超がより好ましく、7m/g以上がさらに好ましく、8m/g以上が特に好ましい。また、F粒子の比表面積は、25m/g以下が好ましい。この場合、上述した作用機構がさらに発現しやすくなる。
【0017】
F粒子は、Fポリマーを含む粒子であり、Fポリマーからなるのが好ましい。
F粒子は、溶融温度が100~320℃である、酸素含有極性基を有する熱溶融性Fポリマーの粒子であるのがより好ましい。この場合、上述した作用機構がより発現されてF粒子の凝集も抑制されやすい。
F粒子は、Fポリマー以外の樹脂や無機化合物を含んでいてもよく、FポリマーをコアとしFポリマー以外の樹脂又は無機化合物をシェルとするコア-シェル構造を形成していてもよく、FポリマーをシェルとしFポリマー以外の樹脂又は無機化合物をコアとするコア-シェル構造を形成していてもよい。
ここで、Fポリマー以外の樹脂としては、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、マレイミドが挙げられ、無機化合物としては、シリカ、窒化ホウ素が挙げられる。
【0018】
F粒子は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
また、F粒子は、非熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と混合して用いてもよい。F粒子として、溶融温度が100~325℃である熱溶融性Fポリマーの粒子が好ましく、溶融温度が180~320℃であり、酸素含有極性基を有する熱溶融性Fポリマーの粒子がより好ましく、非熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子として、非熱溶融性PTFEの粒子が好ましい。この場合、熱溶融性Fポリマーの粒子による凝集抑制作用と、非熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーのフィブリル化による保持作用とがバランスし、本組成物の分散性が向上しやすい。また、それから得られる成形物において、非熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーの電気特性が高度に発現されやすい。
【0019】
本組成物における、本無機フィラーのD50は10μm超であり、15μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましい。本無機フィラーのD50は100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。
本無機フィラーは一次粒子の凝集体であってもよい。本無機フィラーが凝集体である場合は、かかる凝集体の平均粒子径が10μm超であることが好ましい。ここで「凝集体」とは、比重2以上のフィラーの一次粒子が凝集した塊状であることを意味し、凝集体が、焼成を経た焼結体であるのがより好ましい。
【0020】
本無機フィラーの形状は、球状、針状(繊維状)、板状のいずれであってもよいが、本組成物から得られるシート等の成形物、及び後述する、本組成物を含有するTIM等の放熱材料の熱伝導性を一層向上させる観点から、球状であるのが好ましい。
ここで「球状」とは楕円状であってもよいが、略真球状であるのが好ましい。略真球状とは、走査型電子顕微鏡(SEM)によってフィラーを観察した際に、長径に対する短径の比が0.7以上である粒子の占める割合が95%以上であることを意味する。
この場合、本組成物が分散性と加工性に優れやすい。また、本組成物から形成されるシート等の成形物中で、本無機フィラーが効率的に配置され、その凝集を抑制しつつかつ緻密に充填されて熱伝導パスを形成しやすく、機械的特性に優れ、線膨張係数、誘電率及び誘電正接が低く、電気絶縁性を維持しつつ熱伝導性に優れ、表面粗さが小さくなった、シート等の成形物を得やすい。
【0021】
比重が2以上である本無機フィラーとしては、例えば窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素等の窒化物;炭化ケイ素、銀、銅等の金属;酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、酸化バナジウム、酸化銅、酸化鉄、酸化銀等の金属酸化物が挙げられる。また、本無機フィラーの比重は、2.3以上が好ましく、3以上がより好ましい。また、本無機フィラーの無機フィラーの比重の上限は、10が好ましい。
本無機フィラーは、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
中でも、本無機フィラーが、D50が10μm超である球状の酸化アルミニウムフィラーであるのがより好ましい。本組成物は、このようにD50及び比重が大きい無機フィラーを配合させた場合も、電気特性、低線膨張性及び熱伝導性に優れた成形物を得やすい。
【0022】
本無機フィラーの表面は、表面処理されていてもよい。ここで「表面処理」は、シランカップリング剤等の有機系表面処理剤、無機酸等の無機系表面処理剤、又は物理的操作による表面処理を包含する。但し、本組成物から形成される、後述するシート等の成形物中において、本無機フィラーがより緻密に充填されてパスを形成し、本無機フィラー自体の物性を高度に発現させて、成形物の熱伝導性等をいっそう良好なものとする観点から、本無機フィラーは表面処理されていないことが好ましい。
【0023】
本組成物において、F粒子のD50に対する、本無機フィラーの平均粒子径(D50)の比は、5以上であるのが好ましく、10以上がより好ましい。上記比は、100以下が好ましく、50以下がより好ましい。このような本組成物から形成されるシート等の成形物中では、上述した想定機構がより発現し、平均粒子径の異なるF粒子及び本無機フィラーが効率的に配置され、その凝集を抑制しつつかつ緻密に充填されて熱伝導パスを形成しやすく、機械的特性に優れ、線膨張係数、誘電率及び誘電正接が低く、電気絶縁性を維持しつつ熱伝導性に優れ、表面粗さが小さくなった、シート等の成形物を得やすい。
【0024】
本無機フィラーの真密度は、1~7g/cmが好ましい。
本無機フィラーの嵩密度は、0.1~6.0g/cmが好ましい。
本無機フィラーの耐圧強度は、30~200MPaが好ましい。なお、耐圧強度は、ASTM D 3102-78で測定される耐圧強度である。
本無機フィラーの単体での熱伝導率は、20W/m・K以上であるのが好ましく、30W/m・K以上であるのがより好ましい。本無機フィラーの単体での熱伝導率の上限は特に制限されず、高い方が好ましいが、一般的には3000W/m・K以下であるのが好ましく、2500W/m・K以下がより好ましい。
【0025】
本組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、本無機フィラー以外の他のフィラーをさらに含んでいてもよい。かかる他のフィラーとしては、例えばD50が10μm以下の上述した金属又はその酸化物のフィラー;比重が3未満である、シリカ、石英粉、ウォラストナイト、タルク、雲母等のケイ素化合物;窒化ホウ素;炭素繊維;グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ等の炭素同素体;が挙げられる。
【0026】
本組成物が含有する水溶性ポリマーとしては、例えばアクリル酸系高分子、ビニルアルコール系高分子、セルロース系高分子、ポリビニルピロリドン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアルキレンオキシド、ポリエチレンイミンが挙げられる。なお、本明細書において「水溶性ポリマー」とは、水に対する溶解度が20g/L以上であるポリマーを意味する。
【0027】
アクリル酸系高分子としては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸/マレイン酸共重合ナトリウム、アクリル酸/スルホン酸系モノマー共重合体ナトリウム等のポリアクリル酸の塩、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル等のポリアクリレート、ポリ-α-ハロアクリレート、ポリ-α-シアノアクリレート、ポリアクリルアミドが挙げられる。
ビニルアルコール系高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、部分的にアセチル化又は部分的にアセタール化されたポリビニルアルコール、ビニルアルコールとビニルブチラールと酢酸ビニルの共重合体が挙げられる。
ビニルアルコール系高分子の具体例としては、「エスレック(登録商標)B」シリーズ、「エスレック(登録商標)K(KS)」シリーズ、「エスレック(登録商標)SV」シリーズ(以上、積水化学工業社製)」、「モビタール(登録商標)」シリーズ(クラレ社製)が挙げられる。
【0028】
セルロース系高分子としては、アルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース又はヒドロキシアルキルアルキルセルロース等のセルロースエーテルが挙げられる。
カルボキシアルキルセルロースとしては、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。
ヒドロキシアルキルセルロースとしては、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースとしては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルメチルセルロース等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
セルロース系高分子として、カルボキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース又はヒドロキシアルキルアルキルセルロースが好ましく、ヒドロキシアルキルセルロースがより好ましく、ヒドロキシエチルセルロースがさらに好ましい。
セルロースエーテルの具体例としては、「サンローズ(登録商標)」シリーズ(日本製紙社製)、「メトローズ(登録商標)」シリーズ(信越化学工業社製)、「HEC CFグレード」(住友精化社製)が挙げられる。
【0029】
これらの中でも、上述した作用機構がより発現されて本組成物におけるF粒子及び本無機フィラーの分散性により優れ、本組成物から形成されるシート等の成形物が緻密で無機フィラーの偏在がなく、線膨張係数、誘電率及び誘電正接が低く、電気絶縁性を維持しつつ熱伝導性に優れる観点から、水溶性ポリマーが、アクリル酸系高分子、ビニルアルコール系高分子及びセルロース系高分子からなる群から選択される少なくとも1種以上であるのが好ましく、ポリアクリル酸であるのがさらに好ましい。
【0030】
水溶性ポリマーは、その重量平均分子量(Mw)が20万以上であり、30万以上であるのが好ましく、50万以上であるのがより好ましく、100万以上であるのがさらに好ましい。水溶性ポリマーの重量平均分子量(Mw)が20万以上であることで、上述した作用機構が発現され、本組成物におけるF粒子及び本無機フィラーの分散性により優れ、本組成物から形成されるシート等の成形物が線膨張係数、誘電率及び誘電正接が低く、電気絶縁性を維持しつつ熱伝導性に優れる。
なお、水溶性ポリマーのMwは、例えば示差屈折率検出器を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定できる。
例えば、アクリル酸系高分子の場合、0.5質量%の酢酸ナトリウムを溶解させたメタノール/水=30/70(容量比)の混合液を溶離液に用いて、ポリエチレングリコールを基準物質としてGPC分析することで、Mwを測定できる。
【0031】
本組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、さらにFポリマーとは異なる他の樹脂を含んでもよい。かかる他の樹脂は、本組成物に非中空状の粒子として含まれていてもよく、本組成物が後述する液状分散媒を含む場合、液状分散媒に溶解又は分散して含まれていてもよい。
他の樹脂としては、Fポリマー以外のフッ素樹脂、液晶性の芳香族ポリエステル等のポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂が挙げられる。
他の樹脂としては、Fポリマー以外のテトラフルオロエチレン系ポリマー、芳香族ポリマーが好ましく、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミック酸、芳香族ポリアミドイミド及び芳香族ポリアミドイミドの前駆体からなる群から選ばれる少なくとも1種の芳香族イミドポリマーがより好ましい。芳香族ポリマーは本組成物中で、液状分散媒に溶解したワニスとして含まれるのが好ましい。
【0032】
本組成物は、水のほかに、本発明の効果を損なわない範囲で他の分散媒を含んでいてもよい。かかる他の分散媒は、水と混和するのが好ましい。他の分散媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロパンアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等のアミド;アセトン、メチルエチルケトン等のケトンが挙げられる。
【0033】
本組成物は、F粒子及び本無機フィラーの分散安定性を向上する観点から、上述した水溶性ポリマーに加えて、さらにノニオン性界面活性剤を含んでいてもよい。
ノニオン性界面活性剤としては、グリコール系界面活性剤、アセチレン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤が挙げられる。
本組成物がノニオン性界面活性剤を含有する場合、本組成物中のノニオン性界面活性剤の含有量は、1~15体積%が好ましい。
【0034】
本組成物は、さらに、チキソ性付与剤、粘度調節剤、消泡剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、難燃剤等の添加剤を含有してもよい。
【0035】
本組成物は、F粒子と本無機フィラーと水溶性ポリマーと水と、必要に応じて前記した他の樹脂、他の分散媒、ノニオン系界面活性剤、添加剤等を混合することで得られる。
本組成物は、F粒子と本無機フィラーと水溶性ポリマーと水を一括で混合して得てもよいし、別々に順次混合してもよいし、これらのマスターバッチを予め作成し、それと残りの成分を混合してもよい。混合の順は特に制限はなく、また混合の方法も一括混合でも複数回に分割して混合してもよい。
【0036】
例えば、F粒子及び本無機フィラーを水の一部に予め分散し、次いで水溶性ポリマーを添加して混合し、得られた混合物を残余の水に添加して本組成物を得るのが、分散性を向上できる観点から好ましい。
水溶性ポリマーは、粉末又はその水溶液として添加してもよく、液体の消泡剤等に分散または溶解させた状態で添加してもよい。
前記した他の樹脂、ノニオン性界面活性剤、他の分散媒、添加剤等を必要に応じてさらに混合する場合、F粒子と水との混合に際して混合してもよく、前記混合物を水に添加するに際して混合してもよい。
【0037】
本組成物を得るための混合の装置としては、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー及びプラネタリーミキサー等のブレードを備えた撹拌装置、ボールミル、アトライター、バスケットミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、スパイクミル及びアジテーターミル等のメディアを備えた粉砕装置、マイクロフルイダイザー、ナノマイザー、アルティマイザー、超音波ホモジナイザー、デゾルバー、ディスパー、高速インペラー、薄膜旋回型高速ミキサー、自転公転撹拌機及びV型ミキサー等の他の機構を備えた分散装置が挙げられる。
【0038】
本組成物において、F粒子及び本無機フィラーの総量に対して、F粒子の含有量が10~30体積%であり、本無機フィラーの含有量が50~80体積%であるのが好ましい。
体積濃度がかかる範囲である場合、本組成物が分散性に優れやすい。また、本組成物から線膨張係数、誘電率及び誘電正接が低く、特に電気絶縁性を維持しつつ熱伝導性に優れ、表面粗さが小さいシート等の成形物を得やすい。
【0039】
本組成物におけるF粒子の含有量は、25質量%以上であるのが好ましく、30質量%以上であるのがより好ましい。F粒子の含有量は、75質量%以下であるのが好ましく、60質量%以下であるのがより好ましい。
【0040】
本組成物中において、F粒子に対する水溶性ポリマーの含有量は、0.1~1.0質量%であるのが好ましく、0.2~0.8質量%がより好ましい。また、本組成物における水溶性ポリマーの含有量は、本組成物の全体質量に対して、0.01~1質量%が好ましく、0.02~0.8質量%がより好ましい。
【0041】
本組成物における水の含有量は、10体積%以上が好ましく、20体積%以上がより好ましい。水の含有量は、40体積%以下が好ましく、30体積%以下がより好ましい。
【0042】
本組成物の粘度は、10mPa・s以上が好ましく、100mPa・s以上がより好ましい。本組成物の粘度は、10000mPa・s以下が好ましく、3000mPa・s以下がより好ましい。
本組成物のチキソ比は、3~15であり、本組成物中のF粒子及び本無機フィラーの分散性並びに分散安定性、本分散液からシート等の成形物を形成する際の取扱い性及び加工性が良好となる観点から、7~13であるのが好ましい。
【0043】
本組成物のpHは、長期保管性を向上する観点から、8~10がより好ましい。かかる本組成物のpHは、pH調整剤(アミン、アンモニア、クエン酸等。)又はpH緩衝剤(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、エチレンジアミン四酢酸、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等。)によって調整できる。
【0044】
本組成物からは、熱伝導率が5W/m・K以上である成形物を得やすい。かかる成形物の熱伝導率は10~100W/m・Kが好ましい。
本組成物から得られる成形物の誘電率は2.4以下であるのが好ましく、2.0以下であるのがより好ましい。また、誘電率は1.0超であるのが好ましい。成形物の誘電正接は、0.0022以下であるのが好ましく、0.0020以下であるのがより好ましい。また、誘電正接は、0.0010超であるのが好ましい。
【0045】
本組成物を例えばシート状に押出す等の成形方法に供すれば、Fポリマー及び本無機フィラーを含む、シート状の成形物を形成できる。押出して得たシートは、さらにプレス成形、カレンダー成形等をして流延してもよい。シートは、さらに加熱して、液状分散媒を除去し、Fポリマーを焼成するのが好ましい。
【0046】
本組成物から得られるシートの厚さは、50μm以上が好ましく、75μm以上がより好ましく、100μm以上がさらに好ましい。シートの厚さは、1000μm以下が好ましい。
シートの熱伝導率、誘電率及び誘電正接の好適な範囲は、それぞれ、上述した成形物の熱伝導率、誘電率及び誘電正接の範囲と同様である。なお、シートにおける熱伝導率とは、シートの面内方向における熱伝導率を意味する。
シートの線膨張係数は、100ppm/℃以下が好ましく、80ppm/℃以下がより好ましい。シートの線膨張係数の下限は、30ppm/℃である。なお、線膨張係数は、JIS C 6471:1995に規定される測定方法に従って、25℃以上260℃以下の範囲における、試験片の線膨張係数を測定した値を意味する。
【0047】
かかるシートを基材に積層すれば積層体を形成できる。積層体の製造方法としては、前記押出機として共押出機を用い、基材の原料とともに本組成物を押出成形する方法、前記基材上に本組成物を押出成形する方法、シートと前記基材とを熱圧着する方法等が挙げられる。
基材としては、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、それらの合金等の金属箔等の金属基板;ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、テトラフルオロエチレン系ポリマー等の好適には耐熱性樹脂のフィルム;プリプレグ基板(繊維強化樹脂基板の前駆体)、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等のセラミックス基板;ガラス基板が挙げられる。
【0048】
基材の形状としては、平面状、曲面状、凹凸状が挙げられる。また、基材の形状は、箔状、板状、膜状、繊維状のいずれであってもよい。
基材の表面の十点平均粗さは、0.01~0.05μmが好ましい。
シートと基材との剥離強度は、10N/cm以上が好ましく、15N/cm以上がより好ましい。上記剥離強度は、100N/cm以下が好ましい。
【0049】
本組成物を基材の表面に配置し、Fポリマーと本無機フィラーとを含むポリマー層を形成することで、基材で構成される基材層とポリマー層とを有する積層体が得られる。ポリマー層は、本組成物を基材の表面に配置し、加熱して水及び必要に応じ他の分散媒(以下、水及び他の分散媒をまとめて「液状分散媒」とも記す。)を除去し、さらに加熱してFポリマーを焼成して形成するのが好ましい。かかる積層体から基材を分離すれば、Fポリマーと本無機フィラーとを含むシートを得られる。
基材としては、上述のシートと積層できる基材と同様のものが挙げられ、その好適態様も同様である。
【0050】
本組成物の配置の方法としては、塗布法、液滴吐出法、浸漬法が挙げられ、ロールコート法、ナイフコート法、バーコート法、ダイコート法又はスプレー法が好ましい。
液状分散媒の除去に際する加熱は、100~200℃にて、0.1~30分間で行うのが好ましい。この際の加熱において液状分散媒は、完全に除去する必要はなく、F粒子及び本無機フィラーのパッキングにより形成される層が自立膜を維持できる程度まで除去すればよい。また、加熱に際しては、空気を吹き付け、風乾によって液状分散媒の除去を促してもよい。
【0051】
Fポリマーの焼成に際する加熱は、Fポリマーの焼成温度以上の温度にて行うのが好ましく、360~400℃にて、0.1~30分間行うのがより好ましい。
それぞれの加熱における加熱装置としては、オーブン、通風乾燥炉が挙げられる。装置における熱源は、接触式の熱源(熱風、熱板等)であってもよく、非接触式の熱源(赤外線等)であってもよい。
また、それぞれの加熱は、常圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。
また、それぞれの加熱における雰囲気は、空気雰囲気、不活性ガス(ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、窒素ガス等)雰囲気のいずれであってもよい。
【0052】
ポリマー層は、本組成物の配置、加熱の工程を経て形成される。これら工程は1回ずつ行ってもよく、2回以上繰り返してもよい。例えば、基材の表面に本組成物を配置し加熱してポリマー層を形成し、さらに前記ポリマー層の表面に本組成物を配置し加熱して2層目のポリマー層を形成してもよい。また、基材の表面に本組成物を配置し加熱して液状分散媒を除去した段階で、さらにその表面に本組成物を配置し加熱してポリマー層を形成してもよい。
本組成物は、基材の一方の表面にのみ配置してもよく、基材の両面に配置してもよい。前者の場合、基材層と、かかる基材層の片方の表面にポリマー層を有する積層体が得られ、後者の場合、基材層と、かかる基材層の両方の表面にポリマー層を有する積層体が得られる。
【0053】
積層体の好適な具体例としては、金属箔と、その金属箔の少なくとも一方の表面にポリマー層を有する金属張積層体、ポリイミドフィルムと、そのポリイミドフィルムの両方の表面にポリマー層を有する多層フィルムが挙げられる。
ポリマー層の厚さ、熱伝導率、誘電率、誘電正接、線膨張係数、ポリマー層と基材層との剥離強度の好適範囲は、上述の本組成物から得られるシートにおける、厚さ、熱伝導率、誘電率、誘電正接、線膨張係数、シートと基材との剥離強度の好適範囲と同様である。
【0054】
本組成物は、絶縁性、耐熱性、対腐食性、耐薬品性、耐水性、耐衝撃性、熱伝導性を付与するための材料として有用である。
本組成物は、具体的には、プリント配線板、熱インターフェース材、パワーモジュール用基板、モーター等の動力装置で使用されるコイル、車載エンジン、熱交換器、バイアル瓶、注射筒(シリンジ)、アンプル、医療用ワイヤー、リチウムイオン電池等の二次電池、リチウム電池等の一次電池、ラジカル電池、太陽電池、燃料電池、リチウムイオンキャパシタ、ハイブリッドキャパシタ、キャパシタ、コンデンサ(アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ等)、エレクトロクロミック素子、電気化学スイッチング素子、電極のバインダー、電極のセパレーター、電極(正極、負極)に使用できる。
また、本組成物は部品を接着する接着剤としても有用である。具体的には、本組成物は、セラミックス部品の接着、金属部品の接着、半導体素子やモジュール部品の基板におけるICチップや抵抗、コンデンサ等の電子部品の接着、回路基板と放熱板の接着、LEDチップの基板への接着に使用できる。
【0055】
本発明はまた、本組成物を含有する放熱材料である。かかる放熱材料の具体例としては、熱界面材料(TIM)が挙げられる。本組成物を含有するTIMは、Fポリマーと本無機フィラーとの物性を高度に具備し、機械的特性、耐熱性に優れ、線膨張係数、誘電率及び誘電正接が低く、特に熱伝導性に優れる。また、その表面粗さ(Rz)が小さく、接着性に優れる。
本組成物は、コンピューターチップ(CPU)、ビデオグラフィックスアレイ、サーバー、ゲーム機、スマートフォン、LEDボード等の電子部品や、電気自動車、送電システムのインバーターやコンバーター等で使用されるパワー半導体を含む半導体モジュール等から発生する大量の熱を放散するためのTIM用途に、特に好適に使用できる。
【0056】
本発明はまた、Fポリマーと本無機フィラーとを含み、表面粗さRzが25μm以下であり、かつ熱伝導率が5W/m・K以上である、成形物(以下、「本成形物」とも記す。)である。本成形物におけるFポリマー、本無機フィラー、他の任意構成成分の詳細については、本組成物の説明にて上述したのと同様である。
本成形物の表面粗さRzは、10μm以下であるのが好ましく、1μm以下がより好ましい。表面粗さRzは、0.01μm以上が好ましい。
本成形物の熱伝導率は、10~100W/m・Kが好ましい。
本成形物は、本組成物から上述した方法で、好適にはシートとして形成されるのが好ましい。かかるシートの厚さは、50μm以上であるのが好ましく、75μm以上がより好ましく、100μm以上がさらに好ましい。シートの厚さは、1000μm以下が好ましい。
シートの誘電率、誘電正接、線膨張係数の好適な範囲は、それぞれ、上述したのと同様である。
かかるシートは、TIMとして好適に用いることができる。
【0057】
本組成物から形成されるシート等の成形物、及び積層体は、アンテナ部品、プリント基板、航空機用部品、自動車用部品、スポーツ用具、食品工業用品、放熱部品等として有用である。
具体的には、電線被覆材(航空機用電線、平角線、FFC(Flexible flat cable)等)、電気自動車等のモーター等に使用されるエナメル線被覆材、発電用被覆材、電気絶縁性テープ、石油掘削用絶縁テープ、石油輸送ホース、水素タンク、プリント基板用材料、分離膜(精密濾過膜、限外濾過膜、逆浸透膜、イオン交換膜、透析膜、気体分離膜等)、電極バインダー(リチウム二次電池用、燃料電池用等)、燃料電池用キャリアフィルム、半導体製造工程用テープ基材フィルム(ダイシングテープ、ピックアップテープ等)、半導体モールディング用離型フィルム、液晶アンテナ、反射板、伝送路、COF(Chip on film)用ベースフィルム、半導体製造工程用静電チャック、ディスプレイ製造工程用静電チャック、コピーロール、家具、自動車ダッシュボート、家電製品等のカバー、摺動部材(荷重軸受、ヨー軸受、すべり軸、バルブ、ベアリング、ブッシュ、シール、スラストワッシャ、ウェアリング、ピストン、スライドスイッチ、歯車、カム、ベルトコンベア、食品搬送用ベルト等)、テンションロープ、ウェアパッド、ウェアストリップ、チューブランプ、試験ソケット、ウェハーガイド、遠心ポンプの摩耗部品、薬品及び水供給ポンプ、工具(シャベル、やすり、きり、のこぎり等)、ボイラー、ホッパー、パイプ、オーブン、焼き型、シュート、ラケットのガット、ダイス、便器、コンテナ被覆材、パワーデバイス用実装放熱基板、無線通信デバイスの放熱部材、トランジスタ、サイリスタ、整流器、トランス、パワーMOS FET、CPU、放熱フィン、金属放熱板、風車や風力発電設備や航空機等のブレード、パソコンやディスプレイの筐体、電子デバイス材料、自動車の内外装、低酸素下で加熱処理する加工機や真空オーブン、プラズマ処理装置などのシール材、スパッタや各種ドライエッチング装置等の処理ユニット内の放熱部品、電磁波シールドとして有用である。
【0058】
本組成物から形成されるシート等の成形物、及び積層体は、フレキシブルプリント配線基板、リジッドプリント配線基板等の電子基板材料、保護フィルムや放熱基板、特に自動車向けの放熱基板として有用である。
本組成物から形成されるシートをTIMとして使用するに際しては、シートを対象とする基板に直接貼合してもよく、シリコーン系粘着層等の粘着層を介して対象とする基板に貼合してもよい。
【0059】
以上、本組成物、本組成物を含有する放熱材料、及び本成形物について説明したが、本発明は、前述した実施形態の構成に限定されない。例えば、本組成物は、上記実施形態の構成において、他の任意の構成を追加で有してもよいし、同様の作用を生じる任意の構成と置換されていてもよい。
【実施例0060】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.各成分の準備
[Fポリマーの粒子]
F粒子1:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に97.9モル%、0.1モル%、2.0モル%含み、カルボニル基含有基を主鎖炭素数1×10個あたり1000個有するテトラフルオロエチレン系ポリマー(Fポリマー1、溶融温度:300℃)の粒子(D50:2μm、比表面積:7.5m/g)
F粒子2:Fポリマー1の粒子(D50:3.8μm、比表面積:5.7m/g)
[無機フィラー]
アルミナ1:商品名「DAM-20」(デンカ社製、D50:25μm、球状)
[水溶性ポリマー]
水溶性ポリマー1:ポリアクリル酸(重量平均分子量:100万)
水溶性ポリマー2:ポリアクリル酸(重量平均分子量:15万)
【0061】
2.液状組成物の製造例
[例1]
水、F粒子1、アルミナ1、及び水溶性ポリマー1を順次投入し、自転公転ミキサーを用いて2000rpmで1分混練して、F粒子1の含有量が15質量%、アルミナ1の含有量が60質量%、水溶性ポリマー1の含有量が0.03質量%、水の含有量が24.97質量%である液状組成物1を得た。液状組成物1のチキソ比は9.6であった。
[例2]
F粒子1の代わりにF粒子2を用いた以外は例1と同様にして、F粒子2の含有量が15質量%、アルミナ1の含有量が60質量%、水溶性ポリマー1の含有量が0.03質量%、水の含有量が24.97質量%である液状組成物2を得た。液状組成物2のチキソ比は6.4であった。
[例3]
水溶性ポリマー1の代わりに水溶性ポリマー2を用いた以外は例1と同様にして、F粒子1の含有量が15質量%、アルミナ1の含有量が60質量%、水溶性ポリマー2の含有量が0.03質量%、水の含有量が24.97質量%である液状組成物3を得た。液状組成物3のチキソ比は2.4であった。
【0062】
3.シートの製造及び評価
厚さが0.2μmの銅箔の表面に、アプリケーターを用いて液状組成物1を塗工してウェット膜を形成した。次いで、このウェット膜が形成されたガラス基板を120℃で3分乾燥炉に通して乾燥させてドライ膜を形成した。
ドライ膜を有する銅箔基板を3cm×3cmにカットし、340℃、10MPaで3分間熱プレスを実施し、積層体を得た。得られた積層体を、塩化第二鉄水溶液に2時間浸すことで銅箔を除去して、厚さ150μmのシート1を得た。
シート1と同様にして、液状組成物3から、シート3を製造した。
それぞれのシートの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果、シート1においては、アルミナ1の偏在が観察されず緻密で均一性の高い断面が観察された。一方、シート3においては、その断面においてアルミナ1の偏在が観察された。
【0063】
また、25℃にて3日間、静置保管した、液状組成物1と液状組成物2とを用いる以外は、上述したシート1と同様にして、静置保管した液状組成物1からシート11を、静置保管した液状組成物2からシート21を、それぞれ製造した。
それぞれのシートの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果、シート11においては、アルミナ1の偏在が観察されず緻密で均一性の高い断面が観察された。一方、シート21においては、その断面においてアルミナ1の凝集による部分的な偏在が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本組成物は分散性に優れる。そのため、本組成物から形成したシートは緻密で均一性が高く、無機フィラーの偏在がなく、Fポリマー及び無機フィラーの物性を高度に発現して熱伝導性、耐熱性、電気絶縁性に優れており、放熱材料として有効に使用できる。