(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025028263
(43)【公開日】2025-02-28
(54)【発明の名称】硬化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 77/50 20060101AFI20250220BHJP
C08G 77/14 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
C08G77/50
C08G77/14
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024221246
(22)【出願日】2024-12-18
(62)【分割の表示】P 2021069695の分割
【原出願日】2021-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】安田 成紀
(57)【要約】
【課題】硬度と耐屈曲性とを両立し、さらに疎水性、水滴の滑落性といった汚染除去特性に優れた硬化物の製造方法を提供すること。
【解決手段】(A)下記一般式(1)で表される構成単位、下記一般式(2)で表される構成単位、およびケイ素原子に直接に結合する、下記一般式(3)で表される基を有するオルガノポリシロキサンおよび(B)硬化触媒を含有する硬化性組成物を硬化させる硬化物の製造方法。
(R
1は、アルキル基またはアリール基を表す。)
(R
2は、それぞれ独立してアルキル基またはアリール基を表し、nは、それぞれ独立して2または3であり、mは、5~100の整数である。)
(R
3は、水素原子、アルキル基、またはアリール基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表される構成単位、下記一般式(2)で表される構成単位、およびケイ素原子に直接に結合する、下記一般式(3)で表される基を有するオルガノポリシロキサンおよび(B)硬化触媒を含有する硬化性組成物を硬化させる硬化物の製造方法。
【化1】
(式中、R
1は、非置換もしくは置換の炭素原子数1~12のアルキル基、または非置換もしくは置換の炭素原子数6~10のアリール基を表す。)
【化2】
(式中、R
2は、それぞれ独立して非置換もしくは置換の炭素原子数1~12のアルキル基、または非置換もしくは置換の炭素原子数6~10のアリール基を表し、nは、それぞれ独立して2または3であり、mは、5~100の整数である。)
【化3】
(式中、R
3は、水素原子、非置換もしくは置換の炭素原子数1~10のアルキル基、または非置換もしくは置換の炭素原子数6~10のアリール基を表す。)
【請求項2】
前記硬化性組成物を固体基材の表面に塗布した後、硬化させる請求項1記載の硬化物の製造方法。
【請求項3】
前記オルガノポリシロキサンの平均構造が、下記式(4)で表される請求項1または2記載の硬化物の製造方法。
【化4】
(式中、R
1、R
2、R
3、nおよびmは、前記と同じ意味を表し、R
4、R
5およびR
6は、それぞれ独立して一価の有機基を表し、a、b、c、d、e、fおよびgは、a>0、b>0、c≧0、d≧0、e≧0、f≧0、g>0の数を表す。)
【請求項4】
前記オルガノポリシロキサンの平均構造が、下記式(5)で表される請求項3記載の硬化物の製造方法。
【化5】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4、n、m、a、bおよびgは、前記と同じ意味を表し、dは、d>0の数を表す。)
【請求項5】
前記(B)硬化触媒が、アミン系化合物である請求項1~4のいずれか1項記載の硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン樹脂は、撥水性、耐熱性、耐候性、耐寒性、電気絶縁性、耐薬品性、および身体に対する安全性等の性質に優れていることから、現在、様々な分野で広く使用されている。
特に、SiO4/2単位(Q単位)やRSiO3/2単位(T単位)(Rは、アルキル基、フェニル基等の有機基)を主成分とする3次元架橋構造を持つオルガノポリシロキサンは、シリコーンレジンやシリコーンアルコキシオリゴマーと呼ばれ、その硬化性を利用して塗料、コーティング剤用途や、バインター用途等に広く使用されている。
【0003】
中でも、アルコキシシリル基を架橋基とする液状のシリコーンアルコキシオリゴマーは、可燃性で人体に有害な有機溶剤を含まない無溶剤型塗料の主剤として利用されている(非特許文献1)。
また、このアルコキシシリル基は、空気中の湿気により常温で加水分解並びに脱水縮合架橋反応が進むため、アルコキシシリル基を含有するシリコーンアルコキシオリゴマーは、硬化触媒を配合することで、常温でそのアルコキシシリル基が反応してシロキサンネットワークを形成可能である。このようなポリシロキサン硬化膜は、耐熱性や耐候性に優れることから、屋外建造物から電子部品まで、幅広い分野で使用されている。
さらにシリコーンアルコキシオリゴマーは、上述の通り室温でも硬化反応が進行するが加熱することで反応促進が可能であり、用途に応じては適宜加熱硬化工程も導入され塗工適応性に優れた技術と言える。
【0004】
しかし、このようなシリコーンレジンやシリコーンアルコキシオリゴマーは、その3次元架橋構造により、硬化性が良く、表面硬度が高いという長所を持つ一方、その架橋密度の高さゆえに可撓性や耐屈曲性が不足し、成膜後に経時で、あるいは外部応力が加えられた際などに塗膜にクラックが生じるといった課題を抱えている。
この可撓性や耐屈曲性を改良するために、シリコーンレジンやシリコーンアルコキシオリゴマーの加水分解縮合での合成時にジオルガノキシアルコキシシランを併用するなどして、ジオルガノシロキサン(R2SiO2/2)単位(D単位)を組み込む方法が一般的に採られている。しかしながらこの場合、D単位は構造中にランダムに組み込まれるため、可撓性を付与するためには多くのD単位を添加する必要があり、シリコーンレジンの長所である優れた硬化性や表面硬度が低下してしまうという問題点がある。
【0005】
また、分子末端をTEOS(Si(OCH2CH3)4)で封鎖したシリコーンオイルを添加する方法も提案されている(非特許文献1)が、シリコーンレジンやシリコーンアルコキシオリゴマーに対する相溶性が悪く、塗膜の白濁やハジキの原因となっていた。
【0006】
シリコーンアルコキシオリゴマーにD単位を導入する別の手法としては、ヒドロシリル基とアルキルオレフィンを白金触媒等で化学結合させる方法が挙げられる。
この反応は一般的にヒドロシリル化反応と呼ばれ、この反応を用いることで、直鎖状シリコーンにシルエチレン構造によりアルコキシシリル基を導入できることが知られている(特許文献1,2)。
【0007】
特許文献1には、ヒドロシリル基を含有し、D単位の連鎖構造からなる側鎖メチル/フェニル型のシリコーンオイル化合物と、側鎖にオレフィンおよびアルコキシシリル基の両方を有するシリコーンアルコキシオリゴマー化合物とをヒドロシリル化反応させて得られる、1分子中にアルコキシシリル基を有するシリコーンアルコキシオリゴマー構造と、側鎖メチル/フェニル型のシリコーンオイル構造由来の構造の両方を含有するオルガノポリシロキサンが開示されている。
【0008】
この特許文献1のオルガノポリシロキサンは、比較的長鎖で高分子量の側鎖メチル/フェニル型のシリコーンオイル構造を有しているため、耐クラック性付与剤として添加する場合には効果を発揮する一方、それ単独で硬化させた場合には硬度が不十分であり、塗料、コーティング剤用途への単独使用は困難であった。
【0009】
また、特許文献2の技術は、毛髪処理剤といった直鎖状シリコーンによる感触向上を狙う点に重きを置いた技術であり、可撓性のあるコーティング材料としての応用には触れられていない。
【0010】
このようにヒドロシリル化でD単位を導入したシリコーンアルコキシオリゴマーでは、先に述べたランダム加水分解縮合法に比べて局所的にD単位が導入されているため、ジオルガノポリシロキサンの性質を発現させやすい一方、アルコキシシリル部位の加水分解性の低下は同様に生じており、反応性(湿気硬化性)の改良が求められている。
【0011】
加えて、室温で十分な反応性(湿気硬化性)を確保するためには、一般に有機金属化合物等の触媒の添加が不可欠であり、中でも特に有機スズ系化合物の添加が有効である。しかし、通常触媒として使用される有機スズ系化合物は、人体や環境への毒性が懸念され、近年環境規制が厳しくなっており、その使用が敬遠されてきている。
しかも、脱アルコールタイプの室温硬化性組成物において有機スズ系化合物等の有機金属系触媒を使用した場合、発生するアルコールによって主鎖のシロキサン結合が切断(クラッキング)され、経時で硬化性が低下したり、増粘したりする等の保存安定性不良を生ずるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平6-271650号公報
【特許文献2】国際公開第2004/091562号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Polymeric Materia1s Science and Engineering,1998,Vol.79,192
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、硬度と耐屈曲性とを両立し、さらに疎水性、水滴の滑落性といった汚染除去特性に優れた硬化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、1分子中に特定の構成単位としてアルコキシ-メチレン-ケイ素結合を有し、かつ、アルコキシシリル基および/またはシラノール基を有し、さらにD単位がシルエチレン結合を介してブロックセグメントとして導入されたオルガノポリシロキサンが、有機スズ化合物の代わりにアミン系化合物を硬化触媒として用いた場合でも速硬化性に優れ、硬度、耐屈曲性及び疎水/滑水性を高次元で満たし得る硬化物を与えることを見出すとともに、この化合物を含む組成物が、コーティング剤等の材料を形成する硬化性組成物として好適であることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明は、
1. (A)下記一般式(1)で表される構成単位、下記一般式(2)で表される構成単位、およびケイ素原子に直接に結合する、下記一般式(3)で表される基を有するオルガノポリシロキサンおよび(B)硬化触媒を含有する硬化性組成物を硬化させる硬化物の製造方法、
【化1】
(式中、R
1は、非置換もしくは置換の炭素原子数1~12のアルキル基、または非置換もしくは置換の炭素原子数6~10のアリール基を表す。)
【化2】
(式中、R
2は、それぞれ独立して非置換もしくは置換の炭素原子数1~12のアルキル基、または非置換もしくは置換の炭素原子数6~10のアリール基を表し、nは、それぞれ独立して2または3であり、mは、5~100の整数である。)
【化3】
(式中、R
3は、水素原子、非置換もしくは置換の炭素原子数1~10のアルキル基、または非置換もしくは置換の炭素原子数6~10のアリール基を表す。)
2. 前記硬化性組成物を固体基材の表面に塗布した後、硬化させる1の硬化物の製造方法、
3. 前記オルガノポリシロキサンの平均構造が、下記式(4)で表される1または2の硬化物の製造方法、
【化4】
(式中、R
1、R
2、R
3、nおよびmは、前記と同じ意味を表し、R
4、R
5およびR
6は、それぞれ独立して一価の有機基を表し、a、b、c、d、e、fおよびgは、a>0、b>0、c≧0、d≧0、e≧0、f≧0、g>0の数を表す。)
4. 前記オルガノポリシロキサンの平均構造が、下記式(5)で表される3の硬化物の製造方法、
【化5】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4、n、m、a、bおよびgは、前記と同じ意味を表し、dは、d>0の数を表す。)
5. 前記(B)硬化触媒が、アミン系化合物である1~4のいずれかの硬化物の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のオルガノポリシロキサンは、1分子中に特定の構成単位としてアルコキシ-メチレン-ケイ素結合を有し、ジメチルシロキシ単位(D単位)がシルエチレン構造を介してポリマーにポリジメチルシロキシ構造として導入されており、かつアルコキシシリル基および/またはシラノール基を有しているため、従来のシリコーンレジンやシリコーンアルコキシオリゴマーに比べて可とう性に優れ、また、疎水性、水滑落性等の表面防汚特性にも優れている。
さらに、本発明のオルガノポリシロキサンは、有機スズ化合物の代わりにアミン系化合物を硬化触媒として用いた場合でも速硬化性に優れ、硬度と耐屈曲性とを両立し得る硬化物を与えるという特性も有している。
このような特性を有する本発明のオルガノポリシロキサンを含む組成物は、コーティング剤等の材料を形成する硬化性組成物として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に係るオルガノポリシロキサンは、下記一般式(1)で表される構成単位、下記一般式(2)で表される構成単位、およびケイ素原子に直接に結合する、下記一般式(3)で表される基を有する。
【0019】
【0020】
ここで、R1は、非置換もしくは置換の炭素原子数1~12、好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基、または非置換もしくは置換の炭素原子数6~10のアリール基を表す。
R1の炭素原子数1~12のアルキル基は、直鎖状、環状、分枝状のいずれでもよいが、直鎖状または分岐状のアルキル基が好ましく、直鎖状のアルキル基がより好ましい。
その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル基等が挙げられるが、メチル、エチル、t-ブチル基が好ましく、メチル、エチル基がより好ましく、メチル基がより一層好ましい。
また、炭素原子数6~10のアリール基の具体例としては、フェニル、ナフチル基等が挙げられるが、フェニル基が好ましい。
特に、硬化性および硬度の観点から、R1は炭素原子数1~3のアルキル基が好ましい。
【0021】
上記R2は、非置換もしくは置換の炭素原子数1~12、好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基、または非置換もしくは置換の炭素原子数6~10のアリール基を表す。
R2の炭素原子数1~12のアルキル基は、直鎖状、環状、分枝状のいずれでもよいが、直鎖状または環状のアルキル基が好ましく、直鎖状のアルキル基がより好ましい。
その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-シクロペンチル、n-ヘキシル、n-シクロヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル基等が挙げられるが、メチル、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
炭素原子数6~10のアリール基の具体例としては、フェニル、ナフチル基等が挙げられるが、フェニル基が好ましい。
特に、可とう性、疎水性および水滑落性付与の観点から、R2は炭素原子数1~3のアルキル基が好ましい。
【0022】
上記nは、シロキサンレジン、オリゴマー主構造への導入ユニットに相当するものであり、2または3が挙げられるが、2が好ましい。
上記mは、ジメチルポリシロキサン鎖の単位数であり、5~100が挙げられるが、10~90が好ましく、20~60がより好ましい。mが100より大きいと、後述するヒドロシリル化反応において主鎖のビニルシロキサン部分との反応性が悪くなるなどの問題がある。
【0023】
上記R3は、水素原子、非置換もしくは置換の炭素原子数1~10のアルキル基、または非置換もしくは置換の炭素原子数6~10のアリール基を表す。
R3の炭素原子数1~10のアルキル基は、直鎖状、環状、分枝状のいずれでもよいが、直鎖状のアルキル基がより好ましい。その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル基等が挙げられるが、メチル、エチル、n-プロピル、n-ヘキシル、n-オクチル基が好ましく、メチル、エチル基がより好ましく、メチル基がより一層好ましい。
炭素原子数6~10のアリール基の具体例としては、フェニル、ナフチル基等が挙げられるが、フェニル基が好ましい。
特に、硬化性の観点から、R3は水素原子または炭素原子数1~3のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基、エチル基がより好ましい。
【0024】
なお、上記R1、R2およびR3のアルキル基やアリール基の水素原子の一部または全部は、F、Cl、Br等のハロゲン原子、シアノ基等のその他の置換基で置換されていてもよく、そのような基の具体例としては、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基;2-シアノエチル基等のシアノ置換アルキル基等が挙げられる。
【0025】
本発明のオルガノポリシロキサンは、上記一般式(1)で表される構成単位、上記一般式(2)で表される構成単位およびケイ素原子に直接結合した上記一般式(3)で表される基を有するものであれば特に限定されるものではなく、その中にオルガノポリシロキサン骨格からなる直鎖状構造や分岐状構造、架橋構造を有していてもよい。
【0026】
より具体的には、本発明のオルガノポリシロキサンとしては平均構造が下記式(4)で表されるものが好ましく、このようなオルガノポリシロキサンを用いることで、さらに良好な速硬化性、硬度、耐屈曲性、疎水性および水滑落性が発揮される。
【0027】
【化7】
(式中、R
1、R
2、R
3、nおよびmは、上記と同じ意味を表す。)
【0028】
ここで、R4、R5およびR6は、それぞれ独立して一価の有機基を表す。
上記一価の有機基は、特に限定されるものではなく、例えば、上記一般式(1)中のR1で例示した炭素原子数1~12のアルキル基および炭素原子数6~10のアリール基等が挙げられる。
また、これらのアルキル基、アリール基の水素原子の一部または全部は置換基で置換されていてもよく、このような置換基としては、ハロゲン原子、ビニル基等のアルケニル基、グリシジル型エポキシ基、脂環式エポキシ基、チイラン基、(メタ)アクリロイルオキシ基、メルカプト基、イソ(チオ)シアネート基、無水コハク酸基、アミノ基、エチレンジアミノ基、パーフルオロアルキル基、ポリオキシエチレン基等のポリエーテル基、パーフルオロポリエーテル基等が挙げられる。
【0029】
また、R4、R5およびR6は異なる2種以上の一価の有機基であってもよく、その場合、異なる2種以上の一価の有機基の含有比率は任意であり、異なる2種以上の一価の有機基の含有比率の合計値が1となれば特に限定されるものではない。
例えば、R4としてアルキル基が0.5かつアリール基が0.5や、R5としてアルキル基が0.2かつグリシジル型エポキシ基含有アルキル基が0.8のように、上述した各種一価の有機基から任意に選択することが可能であり、また任意の含有比率をとることが可能である。
【0030】
これらの中でもR4、R5およびR6は、速硬化性、硬度および耐屈曲性の観点から、好ましくは置換基を有しない炭素原子数1~12のアルキル基、置換基を有しない炭素原子数6~10のアリール基、グリシジル型エポキシ基、(メタ)アクリル基、メルカプト基であり、より好ましくは置換基を有しない炭素原子数1~12のアルキル基である。さらに好ましくはメチル基、フェニル基が原料の供給性の観点から挙げられる。
【0031】
a、b、c、d、e、fおよびgは、a>0、b>0、c≧0、d≧0、e≧0、f≧0、g>0の数を表すが、速硬化性、硬度、耐屈曲性、疎水性および水滑落性の観点から、1000≧a>0、1000≧b>0、500≧c≧0、1000≧d≧0、1000≧e≧0、100≧f≧0、1000≧g>0の数が好ましく、500≧a>0、500≧b>0、100≧c≧0、500≧d≧0、500≧e≧0、50≧f≧0、500≧g>0の数がより好ましく、500≧a>0、500≧b>0、c=0、500≧d>0、e=0、f=0、500≧g>0の数がより一層好ましい。
【0032】
したがって、本発明のオルガノポリシロキサンとしては、平均構造が下記式(5)で表されるものが好ましく、このようなオルガノポリシロキサンを用いることで、さらに良好な速硬化性、硬度、耐屈曲性、疎水性および水滑落性が発揮される。
【0033】
【化8】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4、n、m、a、bおよびgは、上記と同じ意味を表し、dは、d>0の数を表す。)
【0034】
本発明のオルガノポリシロキサンの重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、当該化合物を含む硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物に、十分な速硬化性、硬度、耐屈曲性、疎水性および水滑落性を付与することを考慮すると、1,500~200,000が好ましく、5,000~100,000がより好ましく、10,000~80,000がより一層好ましい。なお、本発明における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値である。
【0035】
本発明のオルガノポリシロキサンは、下記構造式(6)で表されるトリアルコキシシラン(以下、トリアルコキシシラン(6)という)と、下記構造式(7)で表されるビニルアルコキシシラン(以下、ビニルアルコキシシラン(7)という)と、任意成分として下記構造式(9)、(10)、(11)および(12)で表される各種アルコキシシラン(以下、それぞれアルコキシシラン(9)、(10)、(11)または(12)という)および/またはその部分加水分解縮合物とを、加水分解および脱水縮合により共重合させ、対応するビニル基含有オルガノポリシロキサンを得た後に、このビニル基含有オルガノポリシロキサンと下記構造式(8)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンとをヒドロシリル化反応させて製造できる。
【0036】
【化9】
(式中、R
1~R
6、nおよびmは、上記と同じ意味を表す。)
【0037】
トリアルコキシシラン(6)の具体例としては、メトキシメチルトリメトキシシラン、エトキシメチルトリエトキシシラン等が挙げられるが、得られるオルガノポリシロキサンの速硬化性、硬度、耐屈曲性、疎水性および水滑落性を考慮すると、メトキシメチルトリメトキシシラン、エトキシメチルトリエトキシシランが好ましい。
【0038】
トリアルコキシシラン(7)の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルエチルジメトキシシラン、ビニルエチルジエトキシシラン、ビニルヘキシルジメトキシシラン、ビニルヘキシルジエトキシシラン、ビニルオクチルジメトキシシラン、ビニルオクチルジエトキシシラン、ビニルフェニルジメトキシシラン、ビニルフェニルジエトキシシラン等が挙げられるが、得られるオルガノポリシロキサンの速硬化性、硬度、耐屈曲性、疎水性および水滑落性、並びに原料としての市場流通性を考慮すると、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシランが好ましい。
【0039】
任意成分であるアルコキシシラン(9)の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラオクトキシシラン等が挙げられる。
【0040】
任意成分であるアルコキシシラン(10)の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ナフチルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ヘキセニルトリメトキシシラン、オクテニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ナフチルトリエトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ヘキセニルトリエトキシシラン、オクテニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、8-グリシドキシオクチルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシラン、メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、メタクリロキシメチルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、8-メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン、8-メタクリロキシオクチルトリエトキシシラン、アクリロキシメチルトリメトキシシラン、アクリロキシメチルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、8-アクリロキシオクチルトリメトキシシラン、8-アクリロキシオクチルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-アミノメチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-アミノメチルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-8-アミノオクチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-8-アミノオクチルトリエトキシシラン、アミノメチルトリメトキシシラン、アミノメチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、8-アミノオクチルトリメトキシシラン、8-アミノオクチルトリエトキシシラン、N-フェニル-アミノメチルトリメトキシシラン、N-フェニル-アミノエチルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-8-アミノオクチルトリメトキシシラン、N-フェニル-8-アミノオクチルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、8-メルカプトオクチルトリメトキシシラン、8-メルカプトオクチルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物、3-トリエトキシシリルプロピルコハク酸無水物、クロロメチルトリメトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、8-クロロオクチルトリメトキシシラン、8-クロロオクチルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ノナフルオロへキシルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、ポリエチレングリコールメチル-3-トリメトキシシリルプロピルエーテル、ポリエチレングリコールメチル-3-トリエトキシシリルプロピルエーテル、ポリプロピレングリコールメチル-3-トリメトキシシリルプロピルエーテル、ポリプロピレングリコールメチル-3-トリエトキシシリルプロピルエーテル等が挙げられる。
【0041】
これらの中でも、アルコキシシラン(10)としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、ノナフルオロへキシルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、ポリエチレングリコールメチル-3-トリメトキシシリルプロピルエーテルが好ましく、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランがより好ましい。
【0042】
任意成分であるアルコキシシラン(11)の具体例としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、オクテニルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、3-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3-クロロプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0043】
これらの中でも、アルコキシシラン(11)としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランが好ましく、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランがより好ましい。
【0044】
任意成分であるアルコキシシラン(12)の具体例としては、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルジメチルメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルジメチルエトキシシラン等が挙げられるが、トリメチルメトキシシランが好ましい。
【0045】
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(8)の具体例としては、ジメチルシロキシユニットの数mが平均値で8、20、40、60、90のものが挙げられる。その内、ヒドロシリル化反応性、発現する疎水性、水滑落性および被膜の可とう性付与の観点から、mが20、40のものが好ましい。
【0046】
トリアルコキシシラン(6)、(7)と、任意成分であるアルコキシシラン(9)~(12)との加水分解および脱水縮合による共重合は、通常、無溶剤で行われるが、反応に用いるアルコキシシランの全てを溶解する有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ジアセトンアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート、アセトン、トルエンおよびキシレン等)の存在下で行ってもよい。
有機溶媒を使用する場合、その使用量は特に制限はないが、通常、トリアルコキシシラン(6)、(7)と、任意成分であるアルコキシシラン(9)~(12)の総質量1質量部に対して、20質量部以下が好ましく、0.1~10質量部がより好ましく、0.5~5質量部がより一層好ましい。
【0047】
加水分解および脱水縮合による共重合は、上記のアルコキシシランの混合液または溶液に、加水分解反応の触媒となる酸または塩基と水とを、滴下または投入して行われる。この際、酸または塩基は、水溶液で滴下してもよい。
酸としては、特に限定されるものではなく、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、ギ酸、リン酸、パラトルエンスルホン酸やその水和物、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、陽イオン交換樹脂等が挙げられ、塩酸、メタンスルホン酸、陽イオン交換樹脂が好ましく、塩酸、陽イオン交換樹脂がより好ましく、塩酸がより一層好ましい。
酸の使用量は、通常、トリアルコキシシラン(6)、(7)と、任意成分であるアルコキシシラン(9)~(12)の総モル数1モルに対して、0.001~1モルが好ましく、0.01~0.2モルがより好ましい。
【0048】
塩基としても、特に限定されるものではなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムターシャリーブトキシド、トリエチルアミン、陰イオン交換樹脂等が挙げられ、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酢酸ナトリウムが好ましく、酢酸ナトリウムがより好ましい。
塩基の使用量は、通常、トリアルコキシシラン(6)、(7)と、任意成分であるアルコキシシラン(9)~(12)の総モル数1モルに対して、0.001~1モルが好ましく、0.01~0.2モルがより好ましい。
【0049】
加水分解および縮合による共重合に用いる水の使用量は、通常、トリアルコキシシラン(6)、(7)と、任意成分であるアルコキシシラン(9)~(12)の総モル数1モルに対して、0.1~100モルが好ましく、0.3~10モルがより好ましく、0.5~2.0モルがより一層好ましい。
加水分解および脱水縮合による共重合の反応温度は特に制限はないが、通常20~150℃、好ましくは30~120℃、より好ましくは40~100℃、より一層好ましくは50~80℃である。反応時間は、通常1時間以上、好ましくは2~72時間である。
反応混合物の濃縮温度は特に制限はないが、通常10~150℃、好ましくは60~120℃である。濃縮時の圧力は特に制限はなく、常圧下でも、減圧下でもよい。
【0050】
トリアルコキシシラン(6)、(7)と、任意成分であるアルコキシシラン(9)~(12)の量論比は、特に限定されるものではないが、得られるオルガノポリシロキサンの速硬化性、硬度および耐屈曲性を考慮すると、好ましくはトリアルコキシシラン(6)1モルに対して、アルコキシシラン(7)0.001~1,000モル、アルコキシシラン(9)0~1,000モル、アルコキシシラン(10)0~1,000モル、アルコキシシラン(11)0~1,000モル、アルコキシシラン(12)0~1,000モルであり、より好ましくはトリアルコキシシラン(6)1モルに対して、アルコキシシラン(7)0.01~100モル、アルコキシシラン(9)0~100モル、アルコキシシラン(10)0.001~100モル、アルコキシシラン(11)0~100モル、アルコキシシラン(12)0~100モル、より一層好ましくはトリアルコキシシラン(6)1モルに対して、アルコキシシラン(7)0.1~50モル、アルコキシシラン(9)0モル、アルコキシシラン(10)0.001~50モル、アルコキシシラン(11)0モル、アルコキシシラン(12)0モルである。
【0051】
したがって、本発明のオルガノポリシロキサンは、トリアルコキシシラン(6)、(7)とアルコキシシラン(10)とを加水分解および脱水縮合により共重合させて得るビニル基含有オルガノポリシロキサンが好ましく、続くヒドロシリル化によってオルガノハイドロジェンポリシロキサン(8)と反応させて得られた化合物を用いることで、さらに良好な速硬化性、硬度、耐屈曲性、疎水性および水滑落性が発揮される。
【0052】
【化10】
(式中、R
1~R
4、nおよびmは、上記と同じ意味を表す。)
【0053】
上記ビニル基含有オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサン(8)のヒドロシリル化は、白金触媒またはロジウム触媒の存在下に溶媒系または無溶媒系で行うこととができる。
【0054】
ビニル基含有オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンとの反応割合は、ビニル基含有オルガノポリシロキサンのビニル基1個に対して、オルガノハイドロジェンポリシロキサンのSi-H基が0.1~2.0個が好ましく、0.25~1.2個がより好ましい。これより少なすぎると未反応のビニル基含有オルガノポリシロキサンが過剰に残存する場合があり、多すぎると分子間架橋が進みすぎてしまい不要に高分子量化が進み生成物の安定性が低下する場合がある。
【0055】
ヒドロシリル化反応触媒は、白金(Pt)、Ptを中心金属とする錯体化合物、ロジウムを中心金属とする錯体化合物等の公知の触媒を用いることができる。具体的には、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸の1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体並びに該錯体を中和処理した化合物や、中心金属の酸化数がPt(II)やPt(0)の1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体、ロジウムのウィルキンソン触媒等が挙げられる。好ましくは中心金属の酸化数がPt(IV)以外の錯体であることが付加位置選択性の点から好ましく、特に中心金属としてPt(0)、Pt(II)を有する1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体が好ましい。
【0056】
ヒドロシリル化反応触媒の使用量は、ヒドロシリル化反応の触媒効果が発現する量であれば特に限定されないが、好ましくは(i)のビニル基1モルに対して0.000001~1モル%、より好ましくは0.0001~0.01モル%である。0.000001モル%未満であると、十分な触媒効果が発現しない場合があり、1モル%より多いと効果が飽和するため生産コストが高くなり不経済になる場合がある。
【0057】
ヒドロシリル化反応時の温度は、50~150℃が好ましく、60~130℃がより好ましく、70~110℃がより一層好ましい。50℃未満では反応速度が低く生産効率が悪い場合がある。150℃を超えると付加位置の制御が困難となり、付加異性体が生成してしまう他、ヒドロシリル基由来の脱水素反応などの副反応が生じるおそれがある。
反応時間は、30分~10時間が好ましい。
【0058】
ヒドロシリル化反応を実施するにあたり、溶媒を使用してもよい。溶媒としては、反応の阻害や原料との反応性が無いものであれば特に限定されるものではなく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド等の含へテロ元素極性溶媒;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は1種単独で用いても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0059】
本発明のオルガノポリシロキサンの25℃における動粘度は、10~10000mm2/sが好ましく、30~5000mm2/sがより好ましい。動粘度が10mm2/sよりも低い場合には所望の疎水性、水滑落性が発現しないおそれがある。一方、10000mm2/sよりも高い場合には得られたポリマーの保存安定性が低く取り扱いが困難となるおそれがある。
なお、本発明における動粘度は、JIS Z 8803:2011記載の方法で測定したキャノン-フェンスケ粘度計による測定値である。
【0060】
本発明の硬化性組成物およびコーティング剤組成物(以下、両者を併せて組成物という。)は、上述した(A)オルガノポリシロキサン、および(B)硬化触媒を少なくとも含有する。
本発明の組成物は、上述した本発明のオルガノポリシロキサンを含んでいるため、これを用いて固体基材を被覆処理した場合、従来のオルガノポリシロキサンを用いた場合に比べ、本発明のオルガノポリシロキサンの構造に起因し、硬化被膜の速硬化性、硬度、耐屈曲性、疎水性及び水滑落性が向上する。
【0061】
硬化触媒(B)は、(A)オルガノポリシロキサンに含まれる加水分解性シリル基が空気中の水分で加水分解縮合される反応を促進し、組成物の硬化を促進させる成分であり、効率的に硬化させるために添加される。
硬化触媒(B)の添加量は特に限定されるものではないが、硬化速度を適切な範囲に調整して所望の物性の硬化被膜を作製するとともに、塗布時の作業性を向上させること、さらには添加に伴う経済性などを考慮すると、(A)成分100質量部に対して0.01~50質量部が好ましく、0.05~10質量部がより好ましく、0.1~5質量部がより一層好ましい。
【0062】
硬化触媒としては、一般的な湿気縮合硬化型組成物の硬化に用いられる硬化触媒であれば特に限定されるものではなく、その具体例としては、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシド等のアルキル錫化合物;ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクトエート、ジオクチル錫ジオクトエート、ジオクチル錫ジバーサテート等のアルキル錫エステル化合物;テトライソプロポキシチタン、テトラn-ブトキシチタン、テトラキス(2-エチルヘキソキシ)チタン、ジプロポキシビス(アセチルアセトナト)チタン、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコール等のチタン酸エステル、およびチタンキレート化合物並びにそれらの部分加水分解物;ナフテン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、亜鉛-2-エチルオクトエート、鉄-2-エチルヘキソエート、コバルト-2-エチルヘキソエート、マンガン-2-エチルヘキソエート、ナフテン酸コバルト、三水酸化アルミニウム、アルミニウムアルコラート、アルミニウムアシレート、アルミニウムアシレートの塩、アルミノシロキシ化合物、アルミニウムキレート化合物等の有機金属化合物;3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アミン、ビス[3-(トリエトキシシリル)プロピル]アミン、N,N′-ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エタン-1,2-ジアミン、N,N′-ビス[3-(トリエトキシシリル)プロピル]エタン-1,2-ジアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノアルキル基置換アルコキシシラン;ヘキシルアミン、リン酸ドデシルアミン、テトラメチルグアニジン等のアミン化合物およびその塩;ベンジルトリエチルアンモニウムアセテート等の第4級アンモニウム塩;酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、シュウ酸リチウム等のアルカリ金属の低級脂肪酸塩;ジメチルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン等のジアルキルヒドロキシルアミン;テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン、テトラメチルグアニジルプロピルメチルジメトキシシラン、テトラメチルグアニジルプロピルトリエトキシシラン、テトラメチルグアニジルプロピルメチルジエトキシシラン、テトラメチルグアニジルプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン等のグアニジル基を含有するシランおよびシロキサン;N,N,N’,N’,N'',N''-ヘキサメチル-N'''-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-ホスホリミディックトリアミド等のホスファゼン塩基を含有するシランおよびシロキサン等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0063】
これらの中でも、より反応性に優れることから、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジバーサテート、テトライソプロポキシチタン、テトラn-ブトキシチタン、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アミン、N,N′-ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エタン-1,2-ジアミン、テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシランが好ましく、組成物の硬化性の観点からジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジバーサテート、テトラn-ブトキシチタン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシランがより好ましく、有機スズ系化合物を非含有とし、より低毒性とすることから、テトラn-ブトキシチタン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシランがより一層好ましく、組成物の硬化性の観点からテトラn-ブトキシチタン、3-アミノプロピルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0064】
また、本発明の組成物の粘度を調整して作業性を良くする目的や、組成物の硬化性、得られる塗膜の硬度、可撓性などを調整する目的で、使用目的に応じて、任意でアルコキシシリル基を含有するシラン化合物、1分子中にアルコキシシリル基および/またはシラノール基を有するシリコーンアルコキシオリゴマー、並びにシリコーンレジンから選択される1種あるいは2種以上の化合物を、(A)成分のオルガノポリシロキサンとは別に混合してもよい。
【0065】
アルコキシシリル基を含有するシラン化合物としては特に限定されるものではないが、その具体例としては、上記アルコキシシラン(9)~(12)で例示されたもの等が挙げられる。
1分子中にアルコキシシリル基および/またはシラノール基を有するシリコーンアルコキシオリゴマーとしては、特に限定されるものではなく、市販品として入手可能なものでもよい。その具体例としては、信越化学工業(株)製 X-40-9250、X-40-9246、X-40-9225、KR-500、KR-515、KC-89S、KR-401N、X-40-9227、KR-510、KR-9218、KR-400、X-40-2327、KR-401等が挙げられる。
また、シリコーンレジンとしては、特に限定されるものではなく、市販品として入手可能なものでも良い。その具体例としては、信越化学工業(株)製 KR-220L、KR-251、KR-112、KR-300、KR-311、KR-480、KR-216等が挙げられる。
【0066】
さらに、本発明の組成物は、実質的に有機溶剤(多くの場合、人体に有害であり可燃性を有する)を含まない無溶剤型の形態が好ましいが、その用途や作業性の面から溶剤を加えて用いることもできる。
ここで、「実質的に」とは、組成物中に含まれる溶剤が1質量%以下、特に0.1質量%以下であることを意味する。
使用可能な溶剤の具体例としては、(A)オルガノポリシロキサンの製造時に使用した有機溶媒と同様のものが挙げられる。
なお、溶剤としては、減圧留去によって完全に除去できなかった反応溶媒など、硬化性組成物ならびにコーティング剤組成物中に意図的に添加した成分ではないものも含む。
【0067】
本発明の組成物には、使用目的に応じて、接着性改良剤、無機および有機の紫外線吸収剤、光安定剤、保存安定性改良剤、可塑剤、充填剤、顔料等の各種添加剤を添加することができる。
【0068】
以上説明した本発明の組成物を、固体基材の表面に塗布し、硬化させて被覆層を形成することで、硬化物品である被覆固体基材が得られる。
塗布方法としては特に限定されず、その具体例としては、スプレーコート、スピンコート、ディップコート、ローラーコート、刷毛塗り、バーコート、フローコート等の公知の方法から適宜選択して用いることができる。
固体基材としても特に限定されず、その具体例としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート類およびポリカーボネートブレンド、ポリ(メタクリル酸メチル)等のアクリル系樹脂、ポリ(エチレンテレフタレート),ポリ(ブチレンテレフタレート),不飽和ポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体、スチレン-アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリスチレンとポリフェニレンエーテルとのブレンド、セルロースアセテートブチレート、ポリエチレン樹脂などの有機ポリマー基材、鋼板等の金属基材、塗料塗布面、ガラス、セラミック、コンクリート、スレート板、テキスタイル、木材、石材、瓦、(中空)シリカ,チタニア,ジルコニア,アルミナ等の無機フィラー、ガラス繊維をはじめとしたガラスクロス,ガラステープ,ガラスマット,ガラスペーパー等のガラス繊維製品などが挙げられ、基材の材質および形状については特に限定されるものではないが、本発明の組成物は、鋼板、ガラスの被覆に特に好適に用いることができる。
【0069】
本発明の組成物は、雰囲気中の水分と接触することで、(A)オルガノポリシロキサンの加水分解縮合反応が進行し、硬化反応が開始する。雰囲気中の水分の指標としては10~100%RHの任意の湿度でよく、空気中の湿気で充分であるが、一般に、湿度が高い程早く加水分解が進行するため、所望により雰囲気中に水分を加えてもよい。
硬化反応温度および時間は、使用する基材、水分濃度、触媒濃度、および加水分解性基の種類等の因子に応じて適宜変更し得る。通常、使用する基材の耐熱温度を超えない範囲で1分から1週間程度である。
本発明の組成物は、常温でも良好に硬化が進行するため、特に、現場施工などで室温硬化が必須となる場合でも、数分から数時間で塗膜表面のベタツキ(タック)がなくなり、作業性に優れているが、基材の耐熱温度を超えない範囲内に加熱処理を行っても構わない。
【実施例0070】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0071】
下記において、各生成物の動粘度は、JIS Z 8803:2011記載の方法で測定したキャノン-フェンスケ粘度計による25℃における測定値であり、分子量は、東ソー(株)製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)装置を使用し、溶剤としてトルエン、検出器としてRIを用いたGPC測定により求めたポリスチレン換算の重量平均分子量である。
オルガノポリシロキサンの平均構造は、日本電子(株)製300MHz-NMR測定装置を用いて、1H-NMRおよび29Si-NMRにおける検出スペクトルの積分値から算出した。
各生成物中に含まれるシラノール性水酸基の含有量(質量%、以下シラノール量と記載)は、各生成物にグリニャール試薬(メチルマグネシウムヨージド)を作用させた際のメタンガス発生量より定量した。
各生成物中に含まれるビニル基の含有量(モル/100g、以下ビニル価と記載)は、各生成物にハヌス液を作用させた後、ヨウ化カリウム水溶液と反応させ、生成するヨウ素をチオ硫酸ナトリウムで滴定することで定量した。
【0072】
[1]オルガノポリシロキサンの合成
[合成例1]オルガノポリシロキサン(1A)の合成
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた5Lのセパラブルフラスコに、メチルトリメトキシシラン1850g(13.6モル)、メトキシメチルトリメトキシシラン300g(1.8モル)、ビニルメチルジメトキシシラン400g(2.7モル)、無水マレイン酸0.7gを仕込み、撹拌下、15℃でイオン交換水347gを滴下し、70℃で3時間加水分解縮合した。その後、強酸性陽イオン交換樹脂(ランクセス製レバチットK2629)60gを加え、さらに70℃で3時間加水分解縮合した。得られた反応液を常圧留去し、留分が出なくなってから105℃で3時間縮合反応を促進させた。最後に減圧留去(90℃、1.3kPa)で留分を除去しオルガノポリシロキサン(1A)を得た(収量1410g)。得られたオルガノポリシロキサン1Aは、下記平均構造式で表される無色透明液体であり、動粘度62mm2/s、Mw2700、シラノール性水酸基の含有量0.3質量%、ビニル価0.15モル/100gであった。
【0073】
【0074】
[製造例1-1]オルガノポリシロキサン(1B)の合成
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lのセパラブルフラスコに、合成例1で得られたオルガノポリシロキサン(1A)200g、下記ハイドロジェンシロキサン(8-1)95g(反応モル比率、ビニル基:Si-H基=4:1)、トルエン180gを仕込み、撹拌下、80℃でPt(0)の1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体をSi-H基1モルに対して0.0004モル量投入し、80℃で3時間ヒドロシリル化した。その後、減圧留去(90℃、1.3kPa)で留分を除去し、オルガノポリシロキサン(1B)を得た(収量282g)。得られたオルガノポリシロキサン(1B)は、下記平均構造式で表される無色透明液体であり、動粘度635mm2/s、Mw26400、シラノール性水酸基の含有量0.1質量%であった。
【0075】
【0076】
【0077】
[製造例1-2]オルガノポリシロキサン(1C)の合成
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lのセパラブルフラスコに、合成例1で得られたオルガノポリシロキサン(1A)200g、下記ハイドロジェンシロキサン(8-2)45g(反応モル比率、ビニル基:Si-H基=4:1)、トルエン180gを仕込み、撹拌下、80℃でPt(0)の1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体をSi-H基1モルに対して0.0004モル量投入し、80℃で3時間ヒドロシリル化した。その後、減圧留去(90℃、1.3kPa)で留分を除去し、オルガノポリシロキサン(1C)を得た(収量240g)。得られたオルガノポリシロキサン(1C)は、下記平均構造式で表される無色透明液体であり、動粘度341mm2/s、Mw17800、シラノール性水酸基の含有量0.1質量%であった。
【0078】
【0079】
【0080】
[製造例1-3]オルガノポリシロキサン(1D)の合成
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lのセパラブルフラスコに、合成例1で得られたオルガノポリシロキサン(1A)200g、下記ハイドロジェンシロキサン(8-3)123g(反応モル比率、ビニル基:Si-H基=4:1)、トルエン180gを仕込み、撹拌下、80℃でPt(0)の1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体をSi-H基1モルに対して0.0004モル量投入し、80℃で3時間ヒドロシリル化した。その後、減圧留去(90℃、1.3kPa)で留分を除去し、オルガノポリシロキサン(1D)を得た(収量313g)。得られたオルガノポリシロキサン(1D)は、下記平均構造式で表される無色透明液体であり、動粘度1329mm2/s、Mw34300、シラノール性水酸基の含有量0.1質量%であった。
【0081】
【0082】
【0083】
[製造例1-4]オルガノポリシロキサン(1E)の合成
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lのセパラブルフラスコに、合成例1で得られたオルガノポリシロキサン(1A)200g、下記ハイドロジェンシロキサン(8-4)193g(反応モル比率、ビニル基:Si-H基=4:1)、トルエン180gを仕込み、撹拌下、80℃でPt(0)の1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体をSi-H基1モルに対して0.0004モル量投入し、80℃で3時間ヒドロシリル化した。その後、減圧留去(90℃、1.3kPa)で留分を除去し、オルガノポリシロキサン(1E)を得た(収量385g)。得られたオルガノポリシロキサン(1E)は、下記平均構造式で表される無色透明液体であり、動粘度4714mm2/s、Mw70000、シラノール性水酸基の含有量0.1質量%であった。
【0084】
【0085】
【0086】
[合成例2]オルガノポリシロキサン(2A)の合成
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lのセパラブルフラスコに、メチルトリメトキシシラン370g(3.08モル)、ビニルメチルジメトキシシラン80g(0.54モル)、無水マレイン酸0.14gを仕込み、撹拌下、15℃でイオン交換水69.4gを滴下し、70℃で3時間加水分解縮合した。その後、強酸性陽イオン交換樹脂(ランクセス製レバチットK2629)12gを加え、さらに70℃で3時間加水分解縮合した。得られた反応液を常圧留去し、留分が出なくなってから105℃で3時間縮合反応を促進させた。最後に減圧留去(90℃、1.3kPa)で留分を除去し、オルガノポリシロキサン(2A)を得た(収量290g)。得られたオルガノポリシロキサン(2A)は、下記平均構造式で表される無色透明液体であり、動粘度66mm2/s、Mw3100、シラノール性水酸基の含有量0質量%、ビニル価0.15モル/100gであった。
【0087】
【0088】
[比較例1-1]オルガノポリシロキサン(2B)の合成
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lのセパラブルフラスコに、合成例2で得られたオルガノポリシロキサン(2A)200g、上記ハイドロジェンシロキサン(8-1)95g(反応モル比率、ビニル基:Si-H基=4:1)、トルエン180gを仕込み、撹拌下、80℃でPt(0)の1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体をSi-H基1モルに対して0.0004モル量投入し、80℃で3時間ヒドロシリル化した。その後、減圧留去(90℃、1.3kPa)で留分を除去し、オルガノポリシロキサン(2B)を得た(収量290g)。得られたオルガノポリシロキサン(2B)は、下記平均構造式で表される無色透明液体であり、動粘度191mm2/s、Mw13000、シラノール性水酸基の含有量0質量%であった。
【0089】
【0090】
[2]コーティング剤組成物
[実施例2-1~2-6、比較例2-1~2-3、参考例2-1]
上記製造例1-1~1-4、比較例1-1、合成例1で得られた各オルガノポリシロキサンと硬化触媒とを表1に示す配合量にて混合し、実施例2-1~2-6、比較例2-1~2-3、参考例2-1のコーティング剤組成物を調製した。
【0091】
【表1】
KR-400:メチル系シリコーンコーティング剤(信越化学工業(株)製)
TBT:テトラブチルチタネート
KBE-903:3-アミノプロピルトリエトキシシラン
MGPM:テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン
【0092】
上記で得られた各コーティング剤組成物を、25℃、50%RHの空気下でバーコーターNo.14を用いてガラス板または磨き鋼板に塗布し、25℃、50%RHの空気下で1日間乾燥・硬化させ、硬化膜を作製した。得られた硬化膜について下記の評価を実施した。それらの結果を表2に示す。
〔指触乾燥時間〕
上記塗布方法にてコーティング剤組成物をガラス板に塗布して得た試験片を25℃、50%RHの空気下に放置し、湿気硬化が進行することによって、塗布表面を指で圧しても塗膜が指に付着しなくなるまでの時間を示した。値が小さいほど硬化性は良好であることを示す。
〔鉛筆硬度〕
上記塗布方法にてガラス板に硬化被膜を形成した試験片を、JIS K 5600-5-4記載の鉛筆引掻き試験に準じた方法で750gの荷重をかけて測定し、その結果を示した。
〔耐屈曲性〕
上記塗布方法にて磨き鋼板に硬化被膜を形成した試験片を、JIS K 5600-5-1記載の方法に準じて円筒形マンドレル(タイプ1)を用いて測定し、その結果を示した。
〔撥水性・滑水性〕
上記塗布方法にて磨き鋼板に硬化被膜を形成した試験片に精製水を1滴(約2μl)滴下して、水の接触角を接触角計(装置名:Drop Master DM-701、協和界面科学(株)製)を用いて測定し、撥水性を評価した。撥水性として望ましい接触角は、概ね100°以上の値である。また同じ試験片に精製水を1滴(約20μl)滴下したものを水平な状態から徐々に傾斜をつけて行き、水滴が流れ始めた角度を水滑落角として滑水性(水滑落性)を評価した。評価の基準は、水滑落角が35°未満のものを○、35~45°の範囲にあるものを△、45°を超えるものを×とした。
【0093】
【0094】
[実施例3-1~3-6、比較例3-1~3-3、参考例3-1]
上記製造例1-1~1-4、比較例1-1、合成例1で得られた各オルガノポリシロキサンと硬化触媒とを表3に示す配合量にて混合し、実施例3-1~3-6、比較例3-1~3-3、参考例3-1のコーティング剤組成物を調製した。
【0095】
【表3】
KR-400:メチル系シリコーンコーティング剤(信越化学工業(株)製)
TBT:テトラブチルチタネート
MGPM:テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン
DX9740:アルミニウムアルコキシド化合物(信越化学工業(株)製)
アイソパーG:イソパラフィン系有機溶剤(初留点166℃、乾点177℃、ExxonMobil社製)
【0096】
上記で得られた各コーティング剤組成物を用いて下記の評価を実施した。それらの結果を表4に示す。
〔施工性〕
上記各コーティング組成物2mlを黒色塗装板(材質:SPCC-SD、規格:JIS-G-3141、寸法:0.8mm×70mm×150mm、化成電着後片面にアミノアルキド黒色塗装をしたもの、(株)アサヒビーテクノ製)に滴下し、ティッシュペーパーを用いて手で薄く塗布し、25℃で5分間静置した。その後、余剰分を乾いたマイクロファイバー布で拭き取った。この際、拭き取りが軽くムラ無く行えるものを○、わずかにムラが発生したり、拭き取りの抵抗がやや重いものを△、ムラの発生が顕著であったり、拭き取りが重く施工が困難なものを×とした。
〔硬化性〕
施工性評価と同じ方法でコーティング組成物が塗布された試験片を作製した。これをさらに25℃で2時間静置して養生して硬化し、硬化膜を有する試験片を得た。得られた試験片の被膜面を指で触った際、タックが残っておらず滑り性が発現しているものを〇、タックは残っていないが滑り性が発現していないものを△、タックが残っているものを×とした。
〔撥水性・滑水性〕
施工性評価と同じ方法でコーティング組成物が塗布された試験片を作製した。これをさらに25℃で2時間静置して養生して硬化し、硬化膜を有する試験片を得た。得られた試験片に精製水を1滴(約2μl)滴下して、水の接触角を接触角計(装置名:Drop Master DM-701、協和界面科学(株)製)を用いて測定し、撥水性を評価した。撥水性として望ましい接触角は、概ね100°以上の値である。また同じ試験片に精製水を1滴(約20μl)滴下したものを水平な状態から徐々に傾斜をつけて行き、水滴が流れ始めた角度を水滑落角として滑水性(水滑落性)を評価した。評価の基準は、水滑落角が35°未満のものを○、35~45°の範囲にあるものを△、45°を超えるものを×とした。
〔耐摩耗性〕
施工性評価と同じ方法でコーティング組成物が塗布された試験片を作製した。これをさらに25℃で12時間静置して養生して硬化し、硬化膜を有する試験片を得た。得られた試験片の硬化膜が作製された面に対して、簡易摩擦試験機((株)井本製作所製)を用いて耐摩耗性試験を実施した。具体的には、試験片を固定した移動板が、1往復の距離100mmで毎分30回の速度で移動し、その中心に錘により荷重500gの負荷をかけた摩擦物を設置して400回往復運動させることにより摩耗を行った。摩耗後の表面の水接触角を撥水性・滑水性試験と同じ方法で測定し、耐摩耗性を評価した。耐摩耗性の評価は、400回往復運動後の水接触角が、摩耗前の水接触角の90%超であるものを○、75~90%の範囲にあるものを△、75%未満のものを×とした。なお、試験に用いた摩擦物は、幅が40mmの乾燥した清浄な布帛(セルロース/木綿複合繊維からなる吸水布、スリーボンド社製品「スリーボンド6644E」)に蒸留水を含ませたものを直径20mmのステンレスの円柱に巻き付けたものとし、上記移動板の移動方向と直交する方向に円柱の軸が向くよう設置した。
【0097】
【0098】
表2および4に示されるように、製造例1-1~1-4で得られたオルガノポリシロキサンを用いたコーティング剤は、アミン系化合物を硬化触媒として用いた場合であっても速硬化性に優れており、また、得られた硬化膜は、硬度と耐屈曲性とを兼ね備えるうえに、撥水性、滑水性にも優れていることがわかる。
一方、一般式(1)で表される構成単位を有しないオルガノポリシロキサンを用いたコーティング剤は指触乾燥時間が長く速硬化性に劣り、また得られた硬化膜は耐摩耗性に劣ることがわかる。
また、上記一般式(2)で表される構成単位を有しないオルガノポリシロキサンを用いたコーティング剤から得られた被膜は、撥水性、滑水性、施工性、耐摩耗性に劣ることがわかる。