(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025029380
(43)【公開日】2025-03-06
(54)【発明の名称】CDCP1抗体又はその抗原結合性断片
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20250227BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20250227BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20250227BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20250227BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20250227BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250227BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250227BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20250227BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20250227BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20250227BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20250227BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P43/00 105
A61K39/395 N
A61K31/7088
A61K48/00
A61K35/12
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023133975
(22)【出願日】2023-08-21
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】399015780
【氏名又は名称】社会医療法人創和会
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶原 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】沖(赤松) 香奈子
(72)【発明者】
【氏名】松田 真
(72)【発明者】
【氏名】古家野 孝行
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA83X
4B065AA87X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZC01
4C084ZC75
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZC01
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087NA14
4C087ZC01
4C087ZC75
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA22
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】新たな機能を有するCDCP1抗体又はその抗原結合性断片を提供すること。
【解決手段】CDCP1タンパク質の細胞外領域のC末端側ドメイン中の領域Aに対して結合性を有する、抗体又はその抗原結合性断片。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CDCP1タンパク質の細胞外領域のC末端側ドメイン中の領域Aに対して結合性を有する、抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項2】
前記C末端側ドメインが、
配列番号27で示されるアミノ酸配列からなるヒトCDCP1タンパク質におけるN末端から344番目のアミノ酸~664番目のアミノ酸までの領域C1、又は
ヒト以外の生物のCDCP1タンパク質における前記領域C1に対応する領域C2、
である、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項3】
前記領域Aが、
配列番号27で示されるアミノ酸配列からなるヒトCDCP1タンパク質におけるN末端から450番目のアミノ酸~664番目のアミノ酸までの領域A1、又は
ヒト以外の生物のCDCP1タンパク質における前記領域A1に対応する領域A2、
である、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項4】
前記領域Aが、
配列番号27で示されるアミノ酸配列からなるヒトCDCP1タンパク質におけるN末端から500番目のアミノ酸~664番目のアミノ酸までの領域A11、又は
ヒト以外の生物のCDCP1タンパク質における前記領域A11に対応する領域B12、
である、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項5】
前記領域Aが、
配列番号27で示されるアミノ酸配列からなるヒトCDCP1タンパク質におけるN末端から550番目のアミノ酸~664番目のアミノ酸までの領域A111、又は
ヒト以外の生物のCDCP1タンパク質における前記領域A111に対応する領域B112、
である、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項6】
(a)
配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号2で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び
配列番号3で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域、並びに/若しくは
配列番号4で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号5で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び
配列番号6で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、
を含む軽鎖可変領域
を含む、抗体a;
(b)
配列番号7で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号8で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び
配列番号9で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域、並びに/若しくは
配列番号10で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号11で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び
配列番号12で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、
を含む軽鎖可変領域
を含む、抗体b;又は
(c)
配列番号13で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号14で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び
配列番号15で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域、並びに/若しくは
配列番号16で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号17で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び
配列番号18で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、
を含む軽鎖可変領域
を含む、抗体c;
である、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項7】
前記抗体aが配列番号19又は20で示されるアミノ酸配列に対して85%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、並びに/若しくは配列番号21又は22で示されるアミノ酸配列に対して85%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、
前記抗体bが配列番号23で示されるアミノ酸配列に対して85%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、並びに/若しくは配列番号24で示されるアミノ酸配列に対して85%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、又は
前記抗体cが配列番号25で示されるアミノ酸配列に対して85%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、並びに/若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列に対して85%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、
請求項6に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項8】
請求項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片のコード配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項8に記載のポリヌクレオチドを含有する、細胞。
【請求項10】
請求項1~7のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合性断片、請求項8に記載のポリヌクレオチド、及び請求項9に記載の細胞からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、医薬組成物。
【請求項11】
細胞増殖促進用、組織損傷修復促進用、又は組織再生促進用である、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
さらに増殖因子、及び増殖因子のコード配列を含むポリヌクレオチドからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、又は
増殖因子、及び増殖因子のコード配列を含むポリヌクレオチドからなる群より選択される少なくとも1種との併用に用いるための、
請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項13】
請求項1~7のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合性断片、請求項8に記載のポリヌクレオチド、及び請求項9に記載の細胞からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、試薬。
【請求項14】
(P)CDCP1発現細胞を被検抗体と接触可能な状態で3時間以上培養する工程、及び
(Q)培養後に前記CDCP1発現細胞の細胞膜上に被検抗体及び/又はCDCP1が集積している場合、或いは前記CDCP1発現細胞におけるCDCP1の亢進又は維持、リン酸化CDCP1の亢進又は維持、Src-PKC経路の活性化、増殖因子受容体の集積又は増加の誘導、又は増殖因子刺激後のシグナル伝達の活性化が見られた場合に、その被検抗体を選択する工程を含む、請求項1~7のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合性断片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CDCP1抗体又はその抗原結合性断片等に関する。
【背景技術】
【0002】
CDCP1(CUB domain containing protein 1)は膜貫通タンパク質であり、種々のがんにおいて発現が亢進することが報告されている。このため、CDCP1の細胞外領域に結合性を有する抗体は、がん治療剤として開発されている。例えば、特許文献1では、ヒトCDCP1に対する抗体CP13E10とその派生の抗体を作製したことが記載されている。CP13E10はヒトCDCP1の細胞外領域に結合し、一時的なリン酸化と内在化を誘導することができ、さらに、細胞内シグナル伝達(Src-PKC)も一時的に活性化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、CDCP1の細胞外領域は、アミノ酸の配列情報からCUBドメインが3つ並んだ構造をしていると想像されていた。しかし、研究を進める中で、ヒトCDCP1の細胞外領域は、これまで想像されていた構造とは大きく異なり、新規の構造領域(N末端側ドメイン(NTD)、C末端側ドメイン(CTD))が2つ並んだ構造であることが確認された(
図1)。そして、さらに研究を進める中で、がん治療を目的とする従来の抗体は、細胞外領域のN末端側ドメインを認識することが分かった。そして、認識する領域が異なれば、異なる機能性を有する可能性があることに着目した。
【0005】
本発明は、新たな機能を有するCDCP1抗体又はその抗原結合性断片を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、CDCP1タンパク質の細胞外領域のC末端側ドメイン中の領域Aに対して結合性を有する、抗体又はその抗原結合性断片、であれば、上記課題を解決できることを見出した。この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明が完成した。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0007】
項1. CDCP1タンパク質の細胞外領域のC末端側ドメイン中の領域Aに対して結合性を有する、抗体又はその抗原結合性断片。
【0008】
項2. 前記C末端側ドメインが、
配列番号27で示されるアミノ酸配列からなるヒトCDCP1タンパク質におけるN末端から344番目のアミノ酸~664番目のアミノ酸までの領域C1、又は
ヒト以外の生物のCDCP1タンパク質における前記領域C1に対応する領域C2、
である、項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【0009】
項3. 前記領域Aが、
配列番号27で示されるアミノ酸配列からなるヒトCDCP1タンパク質におけるN末端から450番目のアミノ酸~664番目のアミノ酸までの領域A1、又は
ヒト以外の生物のCDCP1タンパク質における前記領域A1に対応する領域A2、
である、項1又は2に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【0010】
項4. 前記領域Aが、
配列番号27で示されるアミノ酸配列からなるヒトCDCP1タンパク質におけるN末端から500番目のアミノ酸~664番目のアミノ酸までの領域A11、又は
ヒト以外の生物のCDCP1タンパク質における前記領域A11に対応する領域B12、
である、項1~3のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【0011】
項5. 前記領域Aが、
配列番号27で示されるアミノ酸配列からなるヒトCDCP1タンパク質におけるN末端から550番目のアミノ酸~664番目のアミノ酸までの領域A111、又は
ヒト以外の生物のCDCP1タンパク質における前記領域A111に対応する領域B112、
である、項1~4のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【0012】
項6. (a)
配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号2で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び
配列番号3で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域、並びに/若しくは
配列番号4で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号5で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び
配列番号6で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、
を含む軽鎖可変領域
を含む、抗体a;
(b)
配列番号7で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号8で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び
配列番号9で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域、並びに/若しくは
配列番号10で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号11で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び
配列番号12で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、
を含む軽鎖可変領域
を含む、抗体b;又は
(c)
配列番号13で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号14で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び
配列番号15で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域、並びに/若しくは
配列番号16で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号17で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び
配列番号18で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、
を含む軽鎖可変領域
を含む、抗体c;
である、項1~5のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【0013】
項7. 前記抗体aが配列番号19又は20で示されるアミノ酸配列に対して85%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、並びに/若しくは配列番号21又は22で示されるアミノ酸配列に対して85%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、
前記抗体bが配列番号23で示されるアミノ酸配列に対して85%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、並びに/若しくは配列番号24で示されるアミノ酸配列に対して85%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、又は
前記抗体cが配列番号25で示されるアミノ酸配列に対して85%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、並びに/若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列に対して85%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、
項6に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【0014】
項8. 項1~7のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合性断片のコード配列を含む、ポリヌクレオチド。
【0015】
項9. 項8に記載のポリヌクレオチドを含有する、細胞。
【0016】
項10. 項1~7のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合性断片、項8に記載のポリヌクレオチド、及び項9に記載の細胞からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、医薬組成物。
【0017】
項11. 細胞増殖促進用、組織損傷修復促進用、又は組織再生促進用である、項10に記載の医薬組成物。
【0018】
項12. さらに増殖因子、及び増殖因子のコード配列を含むポリヌクレオチドからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、又は
増殖因子、及び増殖因子のコード配列を含むポリヌクレオチドからなる群より選択される少なくとも1種との併用に用いるための、
項10に又は11記載の医薬組成物。
【0019】
項13. 項1~7のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合性断片、項8に記載のポリヌクレオチド、及び項9に記載の細胞からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、試薬。
【0020】
項14. (P)CDCP1発現細胞を被検抗体と接触可能な状態で3時間以上培養する工程、及び
(Q)培養後に前記CDCP1発現細胞の細胞膜上に被検抗体及び/又はCDCP1が集積している場合、或いは前記CDCP1発現細胞におけるCDCP1の亢進又は維持、リン酸化CDCP1の亢進又は維持、Src-PKC経路の活性化、増殖因子受容体の集積又は増加の誘導、又は増殖因子刺激後のシグナル伝達の活性化が見られた場合に、その被検抗体を選択する工程を含む、項1~7のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合性断片の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、新たな機能を有するCDCP1抗体又はその抗原結合性断片を提供することができる。本発明のCDCP1抗体を用いることにより、細胞増殖促進、組織損傷修復促進、組織再生促進等が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】試験例4のサイズ排除クロマトグラフィーの解析例を示す。
【
図3】抗体#25と抗体#43のCTD上の結合部位を示す。
【
図4】抗体#26と抗体#43のCTD上の結合部位を示す。
【
図5】試験例5の細胞内局在の解析結果を示す。上段は抗体#14を用いた場合の結果、中段は抗体#25を用いた場合の結果、下段は抗体#43を用いた場合の結果を示し、各段の下側はCDCP1の局在を示し、上側はCDCP1の局在と被検抗体(抗体#14, 25, 43)の局在のMergeを示す。写真上方に、被検抗体を添加してからの培養時間を示す。
【
図6】試験例6の二量体形成解析結果を示す。縦軸は、ルシフェラーゼによる発光量を示す。抗CDCP1抗体によって二量体形成が促進される場合、コントロールと比較して高い発光量を示す。横軸に使用した抗体を示す。IgGがコントロールである。
【
図7】試験例7のウェスタンブロットの結果を示す。写真左側に検出に使用した抗体を示す。写真上方に培養時に添加した抗体を示す。左側の写真は、抗体を添加してからの培養時間が24時間の場合である。右側の写真の上方の数字は抗体を添加してからの培養時間を示す。
【
図8】試験例8のウェスタンブロットの結果を示す。写真左側に検出に使用した抗体を示す。写真上方に培養時に添加した抗体、及び増殖因子を添加してからの培養時間を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0024】
1.抗体又はその抗原結合性断片
本発明は、その一態様において、CDCP1タンパク質の細胞外領域のC末端側ドメイン中の領域Aに対して結合性を有する、抗体又はその抗原結合性断片(本明細書において、「本発明のCDCP1抗体」と示すこともある。)、に関する。以下、これについて説明する。
【0025】
CDCP1タンパク質は、CDCP1遺伝子の発現産物であり、生物内で発現しているCDCP1タンパク質である。CDCP1タンパク質の由来生物種としては、特に制限されず、動物、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカなどの種々の哺乳類が挙げられる。これらの中でも、ヒト、サル(特にカニクイザル)等が好ましい。
【0026】
種々の生物種由来CDCP1タンパク質のアミノ酸配列は公知であるか、公知のアミノ酸配列に基づいた同一性解析により容易に同定することができる。具体的には、例えば、ヒトCDCP1タンパク質としては配列番号27で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質などが挙げられる。
【0027】
CDCP1タンパク質は、個体間に存在し得る置換、欠失、付加、挿入などのアミノ酸変異を有していてもよい。変異としては、好ましくは置換、より好ましくは保存的置換が挙げられる。
【0028】
「保存的置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0029】
CDCP1タンパク質の好ましい具体例としては、下記(a)に記載するタンパク質及び下記(b)に記載するタンパク質:
(a)配列番号27で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、及び
(b)配列番号27で示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ増殖因子受容体との相互作用能を有するタンパク質
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0030】
アミノ酸配列の「同一性」とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対するアミノ酸配列の一致の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の一致性が高いほど、それらの配列の同一性又は類似性は高い。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(KarlinS,Altschul SF.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoringschemes”Proc Natl Acad Sci USA.87:2264-2268(1990)、KarlinS,Altschul SF.“Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences.”Proc Natl Acad Sci USA.90:5873-7(1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェエブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。また、塩基配列の『同一性』も上記に準じて定義される。
【0031】
上記(b)において、同一性は、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは98%以上である。
【0032】
上記(b)に記載するタンパク質の一例としては、例えば
(b’)配列番号27で示されるアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列からなり、且つ増殖因子受容体との相互作用能を有するタンパク質
が挙げられる。
【0033】
上記(b’)において、複数個とは、例えば2~20個であり、好ましくは2~10個であり、より好ましくは2~5個であり、よりさらに好ましくは2又は3個である。
【0034】
CDCP1タンパク質の細胞外領域は、CDCP1タンパク質が細胞膜に貫通して配置された状態において、細胞外に露出する領域であり、その限りにおいて特に制限されない。各CDCP1タンパク質の細胞外領域は、既に公知であるか、或いは各種膜貫通領域予測ツール(例えば、SOSUI:http://harrier.nagahama-i-bio.ac.jp/sosui/など)などを用いて容易に決定することができる。
【0035】
細胞外領域の具体例としては、例えば配列番号27で示されるアミノ酸配列からなるヒトCDCP1タンパク質においては、N末端から667番目のアミノ酸までの領域が挙げられる。他のCDCP1タンパク質における細胞外領域の具体例としても、これに対応する領域が挙げられる。ここで、本明細書において、「対応する領域」とは、例えばヒトCDCP1タンパク質のアミノ酸配列と、他のCDCP1アミノ酸配列とを、配列分析用ツール(FASTA、BLASTなど)で比較した場合に、対応する領域である。
【0036】
CDCP1の細胞外領域は、β-シートを多く含む2つの領域とそれら2つの領域を繋ぐ二次構造を持たないリンカーとから構成されている。これら2つの領域を、N末端側からN末端側ドメイン、C末端側ドメインと称する。本発明のCDCP1抗体は、このC末端側ドメイン中の領域Aに対して結合性を有する又は結合する(好ましくは特異的結合性を有する又は特異的に結合する)。すなわち、本発明のCDCP1抗体のエピトープは、領域A内に存在する。本発明のCDCP1抗体は、この結合性に起因して、後述の試験例に示される、従来抗体(N末端側ドメインに結合性を有する抗体)とは異なる、特有の機能を発揮する。
【0037】
CDCP1のC末端側ドメインは、後述の試験例1に示す解析方法により同定することができる。C末端側ドメインは、例えば配列番号27で示されるアミノ酸配列からなるヒトCDCP1タンパク質におけるN末端から344番目のアミノ酸~664番目のアミノ酸までの領域C1、又はヒト以外の生物のCDCP1タンパク質における前記領域C1に対応する領域C2である。
【0038】
領域Aは、本発明のCDCP1抗体の機能をより効果的に発揮できるという観点から、
好ましくは、
配列番号27で示されるアミノ酸配列からなるヒトCDCP1タンパク質におけるN末端から450番目のアミノ酸~664番目のアミノ酸までの領域A1、又は
ヒト以外の生物のCDCP1タンパク質における前記領域A1に対応する領域A2、であり、
より好ましくは、
配列番号27で示されるアミノ酸配列からなるヒトCDCP1タンパク質におけるN末端から500番目のアミノ酸~664番目のアミノ酸までの領域A11、又は
ヒト以外の生物のCDCP1タンパク質における前記領域A11に対応する領域B12、であり、
さらに好ましくは、
配列番号27で示されるアミノ酸配列からなるヒトCDCP1タンパク質におけるN末端から550番目のアミノ酸~664番目のアミノ酸までの領域A111、又は
ヒト以外の生物のCDCP1タンパク質における前記領域A111に対応する領域B112、である。
【0039】
本発明のCDCP1抗体のエピトープは、線状エピトープであることができ、また立体エピトープであることもできる。エピトープを構成するアミノ酸残基の数は、特に制限されないが、例えば40以下、35以下、6~30、6~25、6~20、6~15、又は6~10である。
【0040】
本発明のCDCP1抗体が結合するCDCP1側のアミノ酸は、特に好ましくは、
配列番号27で示されるアミノ酸配列におけるD565-R566-E593-R594-V598-Q600-T646-S647-K649-Q650若しくはR603-F605-I607-E616-E617-I618-E623-D624、又はヒト以外の生物のCDCP1タンパク質におけるこれらのアミノ酸に対応するアミノ酸、である。
【0041】
本発明のCDCP1抗体は、特に好ましい態様において、
(a)
配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号2で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び
配列番号3で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域、並びに/若しくは(好ましくは、並びに)
配列番号4で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号5で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び
配列番号6で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、
を含む軽鎖可変領域
を含む、抗体a;
(b)
配列番号7で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号8で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び
配列番号9で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域、並びに/若しくは(好ましくは、並びに)
配列番号10で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号11で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び
配列番号12で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、
を含む軽鎖可変領域
を含む、抗体b;又は
(c)
配列番号13で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号14で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び
配列番号15で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
を含む重鎖可変領域、並びに/若しくは(好ましくは、並びに)
配列番号16で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号17で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び
配列番号18で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、
を含む軽鎖可変領域
を含む、抗体c;
である。
【0042】
抗体aは、好ましくは、
配列番号19又は20で示されるアミノ酸配列に対して85%以上(好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、よりさらに好ましくは99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、並びに/若しくは配列番号21又は22で示されるアミノ酸配列に対して85%以上(好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、よりさらに好ましくは99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0043】
抗体bは、好ましくは、
配列番号23で示されるアミノ酸配列に対して85%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、並びに/若しくは配列番号24で示されるアミノ酸配列に対して85%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0044】
抗体cは、好ましくは、
配列番号25で示されるアミノ酸配列に対して85%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、並びに/若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列に対して85%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0045】
抗体は、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体を包含する意味で用いる。抗体は、任意のアイソタイプ、例えばIgG(例:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgA(例:IgA1、IgA2)、IgD、IgE、IgM等であることができる。抗体は、ヒト抗体であっても非ヒト抗体であってもよい。非ヒト抗体としては、例えばマウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、サル抗体、チンパンジー抗体等が挙げられるが、これらに限定されない。抗体は、マウス-ヒトキメラ抗体等のキメラ抗体であってもよい。抗体は、部分又は完全ヒト化抗体であることができる。本発明のCDCP1抗体は、モノクローナル抗体であることが好ましい。
【0046】
本明細書において、抗体の抗原結合性断片としては、重鎖CDR1~3及び/又は軽鎖CDR1~3を含む限り、特に制限されず、例えばFab、F(ab’)2、ミニボディ(minibody)、scFv‐Fc、Fv、scFv、ディアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)、テトラボディ(tetrabody)等が挙げられる。
【0047】
Fabとは、重鎖可変領域及び重鎖定常領域中のCH1を含む重鎖の断片と、軽鎖可変領域および軽鎖定常領域(CL)を含む軽鎖とを含み、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とが上述する非共有結合性の分子間相互作用によって会合するか、またはジスルフィド結合によって結合してなる構造を有する。Fabにおいて、CH1とCLとは、それぞれに存在するシステイン残基のチオール基同士でジスルフィド結合していてもよい。
【0048】
F(ab’)2とは、2対の上記Fabを有し、CH1同士がこれらに含まれるシステイン残基のチオール基同士でジスルフィド結合してなる構造である。
【0049】
ミニボディとは、下記scFVを構成する重鎖可変領域にCH3が結合した断片2つが、CH3同士で非共有結合性の分子間相互作用によって会合した構造である。
【0050】
scFv‐Fcとは、下記scFv、CH2、およびCH3を含む抗体断片2つが、上記ミニボディと同様にCH3同士で非共有結合性の分子間相互作用によって会合し、それぞれのCH3に含まれるシステイン残基のチオール基同士でジスルフィド結合した構造である。
【0051】
Fvとは、抗体の最小構造単位ともいわれ、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とが非共有結合性の分子間相互作用によって会合した構造である。Fvにおいて、重鎖可変領域および軽鎖可変領域内に存在するシステイン残基のチオール基同士がジスルフィド結合していても良い。
【0052】
scFvとは、重鎖可変領域のC末端と軽鎖可変領域のN末端がリンカーで繋がれた構造、又は重鎖可変領域のN末端と軽鎖可変領域のC末端とがリンカーで繋がれた構造であり、単鎖抗体とも呼ばれる。
【0053】
ディアボディ、トリアボディ、およびテトラボディとは、それぞれ上記scFvが2量体、3量体および4量体を形成し、Fvなどと同様に可変領域同士の非共有結合性の分子間相互作用等により、構造的に安定な状態で会合した構造である。
【0054】
本発明のCDCP1抗体は、他のペプチド、オリゴペプチド、又はタンパク質と結合又は融合していてもよい。他のペプチド、オリゴペプチド、又はタンパク質としては、例えばアルブミン(例:血清アルブミン)、タンパク質タグ(例:ビオチン、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグ)、蛍光タンパク質(例:GFP、Azami-Green、ZsGreen、GFP2、HyPer、Sirius、BFP、CFP、Turquoise、Cyan、TFP1、YFP、Venus、ZsYellow、Banana、KusabiraOrange、RFP、DsRed、AsRed、Strawberry、Jred、KillerRed、Cherry、HcRed、mPlum)、発光タンパク質(例:ルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、βグルクロニダーゼ)、分泌シグナル配列(例:Igκシグナル配列)、プロテアーゼ認識配列(例:TEVプロテアーゼ認識配列)、発現増強配列、可溶化配列、多量体化ドメイン(例:軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質ドメイン、ロイシンジッパードメイン、コラーゲン様ドメイン、コレラトキシンBサブユニットドメイン、テトラブラキオンコイルドコアドメイン、レオウイルスσ1タンパク質ドメイン、ヘパチチスデルタ抗原ドメイン)等が挙げられる。本発明のCDCP1抗体が多量体化ドメインと結合又は融合したものである場合、当該多量体化ドメインに、さらに本発明のCDCP1抗体と同種又は異種の抗体又はその抗原結合断片が結合又は融合し、多量体(ホモ多量体又はヘテロ多量体)を形成してもよい。
【0055】
本発明のCDCP1抗体は、CDCP1タンパク質の細胞外領域のC末端側ドメイン中の領域Aに対する結合性が著しく損なわれない限りにおいて、化学修飾されたものであってもよい。
【0056】
本発明のCDCP1抗体は、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO-)、アミド基(-CONH2)、エステル基(-COOQ)の何れであってもよい。ここでエステル基におけるQとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基;例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基;例えば、フェニル、α-ナフチルなどのC6-12アリール基;例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル-C1-2アルキル基;α-ナフチルメチルなどのα-ナフチル-C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基;ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
【0057】
本発明のCDCP1抗体は、C末端以外のカルボキシル基(またはカルボキシレート)が、アミド化またはエステル化されていてもよい。この場合のエステルとしては、例えば上記C末端のエステルなどが用いられる。
【0058】
本発明のCDCP1抗体は、N末端のアミノ酸残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成し得るN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば-OH、-SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖タンパク質などの複合タンパク質なども包含される。
【0059】
2.抗体又はその抗原結合性断片の製造方法
本発明のCDCP1抗体は、様々な方法で製造することができる。
【0060】
本発明のCDCP1抗体は、例えば、本発明のCDCP1抗体のコード配列を含むポリヌクレオチド(本発明のポリヌクレオチド)により形質転換させた宿主を培養し、本発明のCDCP1抗体を含む画分を回収する工程を含む方法によって、製造することができる。
【0061】
本発明のポリヌクレオチドは、本発明のCDCP1抗体のコード配列を含む限り、特に制限されない。好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは、上記コード配列を、本発明のCDCP1抗体を発現可能な状態で含む。本発明のポリヌクレオチドは、上記コード配列以外に、他の配列を含んでいてもよい。他の配列としては、本発明のCDCP1抗体コード配列に隣接して配置される分泌シグナルペプチドコード配列、プロモーター配列、エンハンサー配列、リプレッサー配列、インスレーター配列、複製基点、薬剤耐性遺伝子コード配列などが挙げられる。また、本発明のポリヌクレオチドは、直鎖状のポリヌクレオチドであってもよいし、環状のポリヌクレオチド(ベクターなど)であってもよい。
【0062】
本発明のポリヌクレオチドの具体例としては、(I)本発明のCDCP1抗体の重鎖、重鎖可変領域、及び重鎖CDRs1-3からなる群より選択される少なくとも1種をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、(II)本発明のCDCP1抗体の軽鎖、軽鎖可変領域、及び軽鎖CDRs1-3からなる群より選択される少なくとも1種をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドであっても、(III)本発明のCDCP1抗体の重鎖、重鎖可変領域、及び重鎖CDRs1-3からなる群より選択される少なくとも1種をコードする塩基配列を含む核酸、並びに本発明のCDCP1抗体の軽鎖、軽鎖可変領域、及び軽鎖CDRs1-3からなる群より選択される少なくとも1種をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドなどが挙げられる。
【0063】
宿主は、特に制限されず、例えば昆虫細胞、真核細胞、哺乳類細胞等が挙げられる。中でも、抗体をより効率的に発現させる観点から、哺乳類細胞であるHEK細胞、CHO細胞、NS0細胞、SP2/O細胞など好ましい。
【0064】
形質転換、培養、及び回収の方法は、特に制限されず、抗体製造における公知の方法を採用することができる。
【0065】
回収後は、必要に応じて本発明のCDCP1抗体を精製してもよい。精製は、抗体製造における公知の方法、例えばクロマトグラフィー、透析などにより行うことができる。
【0066】
DNA、RNA等のポリヌクレオチドには、次に例示するような化学修飾が施されていてもよい。ヌクレアーゼ等の加水分解酵素による分解を防ぐために、各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えばホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各リボヌクレオチドの糖(リボース)の2位の水酸基を、-OR(Rは、例えば-CH3、-CH2CH2OCH3、-CH2CH2NHC(NH)NH2、-CH2CONHCH3、-CH2CH2CN等を示す)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換等が挙げられる。さらには、リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えばビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたもの等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0067】
本発明のCDCP1抗体は、別の例として、
(P)CDCP1発現細胞を被検抗体と接触可能な状態で3時間以上培養する工程、及び
(Q)培養後に前記CDCP1発現細胞の細胞膜上に被検抗体及び/又はCDCP1が集積している場合、或いは前記CDCP1発現細胞におけるCDCP1の亢進又は維持、リン酸化CDCP1の亢進又は維持、Src-PKC経路の活性化、増殖因子受容体の集積又は増加の誘導、又は増殖因子刺激後のシグナル伝達の活性化が見られた場合に、その被検抗体を選択する工程を含む、方法によって、製造することができる。
【0068】
工程(P)のCDCP1発現細胞は、CDCP1を細胞膜上に発現している細胞である限り、特に制限されず、細胞株、初代培養細胞等を使用することができる。
【0069】
工程(P)の被検抗体は、動物に免疫して得られたポリクローナル抗体、モノクローナル抗体を使用することができる。免疫する動物としては、ハイブリドーマを調製可能な動物である限り特に制限されないが、好ましくは、自己免疫疾患動物(マウスの場合であれば、例えばBXSBマウスなど))が挙げられる。免疫、ハイブリドーマの調製は、公知の方法に従って行うことができる(例えば、Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.4~11.11)。
【0070】
工程(P)の培養時間は、3時間以上である。当該培養時間は、より好ましくは3~30時間、さらに好ましくは3~20時間、よりさらに好ましくは4~10時間、とりわけ好ましくは5~10時間である。
【0071】
工程(Q)では、CDCP1発現細胞の細胞膜上に被検抗体及び/又はCDCP1が集積の有無を確認する。この確認方法は、特に制限されないが、例えば細胞の免疫染色法が挙げられる。被検抗体がN末端側ドメインに結合する抗体である場合は、被検抗体及び/又はCDCP1が細胞内でドット状に観察される又は観察されない。一方、被検抗体がC末端側ドメインに結合する本発明のCDCP1抗体である場合は、被検抗体及び/又はCDCP1が細胞膜(形質膜)上に集積している(線状に集積している)様子が観察される。後者の場合、その被検抗体を、本発明のCDCP1抗体として選択(スクリーニング)することにより、本発明のCDCP1抗体を得ることができる。
【0072】
或いは、工程(Q)では、CDCP1発現細胞におけるCDCP1の亢進又は維持、リン酸化CDCP1の亢進又は維持、Src-PKC経路の活性化、増殖因子受容体の集積又は増加の誘導、又は増殖因子刺激後のシグナル伝達の活性化を確認する。この確認方法は、特に制限されないが、後述の試験例7、試験例8の方法が挙げられる。これらの少なくとも1つが確認された場合は、その被検抗体を、本発明のCDCP1抗体として選択(スクリーニング)することにより、本発明のCDCP1抗体を得ることができる。
【0073】
2-1.ヒト型抗体の作製
本発明のCDCP1抗体をヒト型抗体として得る場合は、以下の情報に基づいて、必要に応じてその他の公知の情報に従って又は準じて、作製することができる。
【0074】
免疫グロブリンG(以下、単に「IgG」という。)は、分子量約23000の軽ポリペプチド鎖(以下「軽鎖」という)、分子量約50000の重ポリペプチド鎖(以下「重鎖」という)の各2本ずつから構成される。重鎖、軽鎖とも約110残基からなる、アミノ酸配列が保存されている領域の繰り返し構造を持ち、これらはIgGの3次元構造の基本単位(以下、「ドメイン」という。)を構成する。重鎖及び軽鎖は、それぞれ連続した4個、及び2個のドメインから構成されている。重鎖、軽鎖いずれにおいても、アミノ末端のドメインは他のドメインに比べ各抗体分子間でのアミノ酸配列の変異が大きく、このドメインは可変ドメイン(variable domain:以下、「Vドメイン」という。)と呼ばれる。IgGのアミノ末端においては、重鎖、軽鎖のVドメインが相補的に会合し可変領域を形成している。これに対し、残余のドメインは、全体として定常領域を形成する。定常領域は、各動物種に特徴的な配列を有し、例えば、マウスIgGの定常領域はヒトIgGの定常領域とは異なっているので、マウスIgGはヒトの免疫系によって異物として認識され、その結果、ヒト抗マウス抗体(Human Anti Mouse Antibody:以下「HAMA」という。)応答が起こる(SchroffRW. et al Cancer Res. (1985)45,879-85)。従って、マウス抗体はヒトに繰返し投与することはできない。このような抗体をヒトに投与するためには、抗体の特異性を保持したままHAMA応答を起こさないように抗体分子を修飾する必要がある。
【0075】
X線結晶構造解析の結果によれば、一般に、このようなドメインは3本から5本のβ鎖からなる逆平行βシートが二層重なり合った長円筒状の構造をとる。可変領域では、重鎖、軽鎖のVドメインそれぞれにつき各3個のループが集合し、抗原結合部位を形成する。この各ループは相補性決定領域(complementarity determining region:以下、「CDR」という。)と呼ばれ、アミノ酸配列の変異が最も著しい。可変領域のCDR以外の部分は、一般に、CDRの構造を保持する役割を有し、「フレームワーク」と呼ばれる。カバトらは、重鎖、軽鎖の可変領域の一次配列を多数収集し、配列の保存性に基づき、それぞれの一次配列をCDR及びフレームワークに分類した表を作成した(Kabatt et al. SEQUENCES OF IMMUNOLOGICAL INTEREST, 5th edition, NIH publication, No.91-3242, E.A.)。
【0076】
また、各フレームワークは、アミノ酸配列が共通の特徴を有する複数のサブグループに分類された。さらに、ヒトとマウスの間で対応するフレームワークが存在することも見いだされた。このようなIgGの構造的特徴に関する研究から以下のヒト化抗体の作製法が考案された。研究初期の段階では、マウス由来抗体の可変領域をヒト由来の定常領域に接合したキメラ抗体が提案された(Morrison SL. et al Proc Natl Acad Sci U S A. (1984)81,6851-5)。しかしながら、そのようなキメラ抗体は、依然として、多くの非ヒトアミノ酸残基を含むので、特に長期間投与した場合にはHAMA応答を誘導しうる(Begent et al., Br. J. Cancer, (1990)62, 487)。
【0077】
ヒトに対しHAMA応答を発現する可能性のある、非ヒト哺乳動物由来のアミノ酸残基を更に少なくする方法として、CDR部分のみをヒト由来の抗体に組み込む方法が提案された(Peter T et al. Nature, (1986) 321, 522-5)が、一般に、抗原に対する免疫グロブリン活性を保持するにはCDRのみの移植では不十分であった。一方、チョッチアらは、1987年、X線結晶構造解析データを用い、(a)CDRのアミノ酸配列中には、抗原に直接結合する部位とCDR自体の構造を維持する部位とが存在し、CDRの取り得る三次元構造は、複数の典型的なパターン(カノニカル構造)に分類されること、(b)カノニカル構造のクラスは、CDRのみならずフレームワーク部分の特定の位置のアミノ酸の種類によって決定されること、を見いだした(Chothia C. et al. J. Mol. Biol. (1987)196, 901-17)。この知見に基づき、CDR移植法を用いる場合、CDRの配列に加え一部のフレームワークのアミノ酸残基もヒト抗体に移植する必要性が示唆された(特表平4-502408号)。
【0078】
一般に、移植すべきCDRを有する非ヒト哺乳動物由来の抗体は「ドナー」、CDRが移植される側のヒト抗体は「アクセプター」と定義され、CDR移植法を実施する際に考慮すべき点は、可能な限りCDRの構造を保存し、免疫グロブリン分子の活性を保持することにある。この目的を達成するためには、(a)アクセプターは、いずれのサブグループに属するものを選択すべきか、及び、(b)ドナーのフレームワークからいずれのアミノ酸残基を選択すべきか、の2点に留意する必要がある。
【0079】
クィーンらは、ドナーのフレームワークのアミノ酸残基が、以下の基準の少なくともひとつに該当する場合、CDR配列とともにアクセプターに移植するデザインの方法を提唱した(特表平4-502408号):
(a)アクセプターのフレームワーク領域中のアミノ酸がその位置において稀であり、ドナーの対応するアミノ酸がアクセプターの前記位置において普通であること
(b)該アミノ酸がCDRのひとつのすぐ近くであること
(c)該アミノ酸が三次元免疫グロブリンモデルにおいてCDRの約3Å(オングストローム)以内に側鎖原子を有し、そして抗原と又はヒト化抗体のCDRと相互作用することができると予想されること。
【0080】
2-2.ヒト抗体の作製
本発明のCDCP1抗体をヒト抗体として得る場合は、以下の情報に基づいて、必要に応じてその他の公知の情報に従って又は準じて、作製することができる。
【0081】
本発明における「ヒト抗体」又は「ヒト免疫グロブリン」とは、免疫グロブリンを構成するH鎖の可変領域(VH)及びH鎖の定常領域(CH)並びにL鎖の可変領域(VL)及びL鎖の定常領域(CL)を含む全ての領域がヒトイムノグロブリンをコードする遺伝子に由来するイムノグロブリンである。換言すれば、H鎖がヒト免疫グロブリン重鎖遺伝子に由来し、軽鎖がヒト免疫グロブリン軽鎖遺伝子に由来するものである抗体を意味する。
【0082】
ヒト抗体は、常法に従って、例えば、少なくともヒトイムノグロブリン遺伝子をマウス等のヒト以外の哺乳動物の遺伝子座中に組込むことにより作製されたトランスジェニック動物を、抗原で免疫感作することにより、モノクローナル抗体の作製法と同様にして製造することができる。例えば、ヒト抗体を産生するトランスジェニックマウスは、既報(Mendez MJ et al.Nature Genetics(1997)15,146-56,Green LL et al.Nature Genetics(1994)7,13-21,表平4-504365号公報;国際出願公開WO94/25585号公報;日経サイエンス、6月号、第40~第50頁、1995年;Nils Lonberg et al.Nature(1994)368,856-9,及び特表平6-500233号公報)に記載の方法に従って作製することができる。
【0083】
3.細胞
本発明は、その一態様において、本発明のポリヌクレオチドを含有する、細胞、に関する。
【0084】
前記細胞は、例えば本発明のポリヌクレオチドを形質導入した細胞を包含する。
【0085】
前記細胞は単離された細胞であることが好ましい。前記細胞は培養細胞であってもよく、初代培養細胞であっても継代培養細胞であってもよい。前記細胞は株化細胞であってもよい。前記細胞はiPS細胞であってもよい。
【0086】
前記細胞の例としては、Escherichia coli K12等の大腸菌、Bacillus subtilis MI114等のバチルス属細菌、Saccharomyces cerevisiae AH22等の酵母、Spodoptera frugiperda 由来のSf細胞系又はTrichoplusia ni由来のHighFive細胞系、嗅神経細胞等の昆虫細胞、動物細胞等を挙げることができる。動物細胞としては、好ましくは、哺乳動物由来の培養細胞、具体的には、COS7細胞、CHO細胞、HEK293細胞、HEK293FT細胞、Hela細胞、PC12細胞、N1E-115細胞、SH-SY5Y細胞等が挙げられる。
【0087】
4.用途
本発明は、その一態様において、本発明のCDCP1抗体、本発明のポリヌクレオチド、及び本発明の細胞からなる群より選択される少なくとも1種(以下、「有効成分」と示すこともある。)を含有する、医薬組成物、試薬等、に関する。
【0088】
本発明のCDCP1抗体は、Src-PKC経路を持続的に活性化することができ、増殖因子受容体の集積を誘導することができ、増殖因子刺激後のシグナル伝達の活性化を亢進することができる。このため、本発明のCDCP1抗体は、例えば細胞増殖促進用、組織損傷修復促進用、又は組織再生促進用に利用することができる。対象組織の具体例としては、骨組織、筋組織、脂肪組織、内皮組織、上皮組織等が挙げられる。
【0089】
本発明の医薬組成物、試薬は、
さらに増殖因子、及び増殖因子のコード配列を含むポリヌクレオチドからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、又は
増殖因子、及び増殖因子のコード配列を含むポリヌクレオチドからなる群より選択される少なくとも1種との併用に用いるための
ものであることが好ましい。これにより、上記用途により一層適したものとなる。
【0090】
増殖因子は、細胞の成長及び/又は分化を促進できるタンパク質である限り特に制限されない。増殖因子としては、例えばFGF(好ましくはFGF2)、PDGF(好ましくはPDGF-BB)、BMP(好ましくはBMP2)、EGF、IGF、TGF、NGF、BDNF、VEGF、G-CSF、GM-CSF、EPO、TPO、HGF、NT3等が挙げられる。成長因子を含有する場合、その含有量は損傷部位の広さ等に応じて適宜調節することができる。該含有量は、例えば0.01~100μg、好ましくは0.1~10μg、より好ましくは0.3~5μg程度である。
【0091】
本発明のCDCP1抗体の対象生物は、特に限定されず、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ等の種々の哺乳類が挙げられる。
【0092】
本発明の医薬組成物中の有効成分の含有量は、対象とする疾患の種類、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、患者の年齢、及び患者の体重等を考慮して適宜設定することができる。例えば、本発明の医薬組成物中の有効成分の含量は、本発明の医薬組成物全体を100重量部として0.0001重量部~100重量部程度をすることができる。
【0093】
本発明の医薬組成物の投与形態は、所望の効果が得られる限り特に制限されず、経口投与、及び非経口投与(例えば静脈注射、筋肉注射、皮下投与、直腸投与、経皮投与、局所投与)のいずれかの投与経路でヒトを含む哺乳類に投与することができる。好ましい投与形態は非経口投与であり、より好ましくは静脈注射である。経口投与および非経口投与のための剤形およびその製造方法は当業者に周知であり、有効成分を、薬学的に許容される坦体等と混合等することにより、常法に従って製造することができる。
【0094】
非経口投与のための剤型は、注射用製剤(例えば、点滴注射剤、静脈注射剤、筋肉注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤)、外用剤(例えば、軟膏剤、パップ剤、ローション剤)、坐剤吸入剤、眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、点耳剤、リポソーム剤等が挙げられる。例えば、注射用製剤は、抗体又は細胞を注射用蒸留水に溶解して調製し、必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤、及び安定化剤等を添加することができる。医薬は、用事調製用の凍結乾燥製剤とすることもできる。
【0095】
本発明の医薬組成物は、疾患の治療又は予防に有効な他の薬剤を更に含有していてもよい。本発明の医薬組成物は、必要に応じて殺菌剤、消炎剤、細胞賦活剤、ビタミン類、及びアミノ酸等の成分を配合することもできる。
【0096】
本発明の医薬組成物の製剤化に用いる担体には、当該技術分野において通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤や、必要により安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、増量剤、湿潤化剤、表面活性化剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、無痛化剤等を用いることができる。
【0097】
本発明の医薬組成物の投与量は、例えば、投与経路、疾患の種類、症状の程度、患者の年齢、性別、体重、疾患の重篤度、薬物動態および毒物学的特徴等の薬理学的知見、薬物送達系の利用の有無、並びに他の薬物の組合せの一部として投与されるか、など様々な因子を元に、臨床医師により決定することができる。本発明の医薬組成物の投与量は、例えば、一日当たりで、1 μg/kg(体重)~10 g/kg(体重)程度とすることができる。本発明の医薬組成物の投与スケジュールも、その投与量と同様の要因を勘案して決定することができる。例えば、上記の1日当たりの投与量で、1日~1月に1回投与することできる。
【0098】
本発明の試薬は、有効成分を含有する組成物の形態であってもよい。該組成物には、必要に応じて他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤等が挙げられる。
【0099】
本発明の試薬は、有効成分を含むキットの形態であってもよい。該キットには、器具、試薬などが含まれていてもよい。このような器具、試薬としては、例えば試験管、マイクロタイタープレート、精製用カラム、標識抗体、標準試料(陽性対照、陰性対照)などが挙げられる。
【実施例0100】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0101】
以下の試験例で使用した抗体のリストを表1に示す。
【0102】
【0103】
試験例1.ヒトCDCP1の細胞外領域の構造解析
CDCP1の正式な名称はCUB domain-containing protein1で、その細胞外領域はアミノ酸の配列情報からCUBドメインが3つ並んだ構造をしていると想像されていた。しかし、ヒトCDCP1の細胞外領域についての我々の解析結果から、これまで想像されていた構造とは大きく異なり、新規の構造領域が2つ並んだ構造であることが確認された(
図1)。具体的には、決定した構造はβ-シートを多く含むアミノ酸残基30番目から336番目と344番目から664番目の2つの領域とそれら2つの領域を繋ぐアミノ酸番号337番から343番目の二次構造を持たないリンカーであった。これらの領域は新しいドメインとして、N末端側(30-336番目)をN-terminal domain(NTD)、C末端側(344-664番目)をC-terminal domain(CTD)と呼称する。
【0104】
上記解析の方法は次のとおりである。CDCP1の細胞外領域の結晶をSPring-8 BL44XUにおいて回折データの収集を行い、プログラムautoPROCを用いて回折データの処理をした。プログラムPhenixを用いて、初期位相の決定を行い、得られた電子密度図から初期構造を得た。初期構造からPhenixとCootのプログラムを用いて、構造精密化を行い、最終構造とした。
【0105】
試験例2.CDCP1に対するモノクローナル抗体の作製
まず、ヒトCDCP1抗原(配列番号27のN末端から30番目のアミノ酸~667番目のアミノ酸までの領域からなる抗原)を調製した。
【0106】
配列番号27は、ヒトCDCP1タンパク質の全長アミノ酸配列であり、その配列は以下のとおりである:
MAGLNCGVSIALLGVLLLGAARLPRGAEAFEIALPRESNITVLIKLGTPTLLAKPCYIVISKRHITMLSIKSGERIVFTFSCQSPENHFVIEIQKNIDCMSGPCPFGEVQLQPSTSLLPTLNRTFIWDVKAHKSIGLELQFSIPRLRQIGPGESCPDGVTHSISGRIDATVVRIGTFCSNGTVSRIKMQEGVKMALHLPWFHPRNVSGFSIANRSSIKRLCIIESVFEGEGSATLMSANYPEGFPEDELMTWQFVVPAHLRASVSFLNFNLSNCERKEERVEYYIPGSTTNPEVFKLEDKQPGNMAGNFNLSLQGCDQDAQSPGILRLQFQVLVQHPQNESNKIYVVDLSNERAMSLTIEPRPVKQSRKFVPGCFVCLESRTCSSNLTLTSGSKHKISFLCDDLTRLWMNVEKTISCTDHRYCQRKSYSLQVPSDILHLPVELHDFSWKLLVPKDRLSLVLVPAQKLQQHTHEKPCNTSFSYLVASAIPSQDLYFGSFCPGGSIKQIQVKQNISVTLRTFAPSFQQEASRQGLTVSFIPYFKEEGVFTVTPDTKSKVYLRTPNWDRGLPSLTSVSWNISVPRDQVACLTFFKERSGVVCQTGRAFMIIQEQRTRAEEIFSLDEDVLPKPSFHHHSFWVNISNCSPTSGKQLDLLFSVTLTPRTVDLTVILIAAVGGGVLLLSALGLIICCVKKKKKKTNKGPAVGIYNDNINTEMPRQPKKFQKGRKDNDSHVYAVIEDTMVYGHLLQDSSGSFLQPEVDTYRPFQGTMGVCPPSPPTICSRAPTAKLATEEPPPRSPPESESEPYTFSHPNNGDVSSKDTDIPLLNTQEPMEPAE。
【0107】
モノクローナル抗体を作製するためのヒトCDCP1抗原は、機能的に活性化している状態の「切断型」とした。まず非切断型のCDCP1タンパク質の細胞外領域の発現と調整を行い、その後に特異的プロテアーゼmatriptaseを利用して切断型にした。本実験で用いるCDCP1タンパク質は、CDCP1細胞外領域(30-667アミノ酸)のC末端側にTobacco Etch Virus(TEV)プロテアーゼ認識配列とヒスチジンタグ(6xHIS)をタンデムに付加したものとした(ECD-TEV-6xHIS)。6xHISタグでタンパク質を精製後、TEVプロテアーゼ処理でタグを除去することが可能である。
【0108】
実験操作は次のとおりである。ECD-TEV-6xHISプラスミドを野生型のExpi293F細胞(Thermo Fisher Scientific)にトランスフェクションした。培養はHE400AZ培地(HE400AZ, GMEP)を用い、トランスフェクションはGxpress 293 Transfection Kit(GX293-RK, GMEP)とGxpress 293 Enhancer(GX293-EN, GMEP)を用いた。3日間培養後、細胞培養液を回収して、固定化金属アフィニティクロマトグラフィー(レジン:TALON metal affinity resin(Z5504N, Takara))に供した。イミダゾールで溶出した画分を濃縮後、0.2 mM DTT条件下でRecombinant Human Matriptase/ST14 Catalytic Domain(3946-SE, R&D)を添加し、プロテアーゼ認識部位を切断した。切断後のサンプルをSuperdex 200 increase 10/300 GL (Cytiva) に供し、酵素の除去およびバッファー置換を行った。さらに0.2 mM DTT条件下でTEVプロテアーゼを処理し、反応溶液を再びTALON metal affinity resinに供することでCDCP1タンパク質を含む画分を回収した。最後にPD-10カラム(Cytiva)にてPBSバッファーに置換した。
【0109】
得られたヒトCDCP1抗原を用いて常法に従ってラットへの免疫、ミエローマ細胞の調製、細胞融合を行い、さらにCDCP1ペプチドを用いたELISAスクリーニングを行うことにより、CDCP1抗体を産生するハイブリドーマを複数種得た。
【0110】
得られたハイブリドーマについて、さらに以下のスクリーニングを行った。
1. 細胞(A498、ACHN)を24ウェルプレートに播種して、FBSを10%含むDMEM培地で16時間培養した(37度、5%CO2インキュベーター内)。
2. 細胞密度が5割程度になった頃に、無血清培地に置換して24時間培養した(37度、5%CO2インキュベーター内)。
3. ハイブリドーマの培養上清を5%含む無血清培地に置換して5時間培養した(37度、5%CO2インキュベーター内)。
4. 細胞を4%PFAで固定した(室温、15分間)。
5. PBSバッファーで洗浄した(10分間、計3セット)。
6. 0.03%TX100を含むPBSで30分間処理した(室温)。
7. ブロッキング液(Blocking One、ナカライテスク)で60分間処理した(室温)。
8. 抗CDCP1一次抗体(CST #4115、1000倍希釈)を含むブロッキング液を加えて16時間反応させた(4度)。
9. PBSバッファーで洗浄した(10分間、計3セット)。
10. 抗ウサギ二次抗体(Alexa594結合、Thermo Fisher A-11012、2000倍希釈)と抗ラット二次抗体(Alexa488、Thermo Fisher A-11006、2000倍希釈)を含むPBS溶液を加えて90分間反応させた(室温)。
11. PBSバッファーで洗浄した(10分間、計3セット)。
12. 退色防止封入剤(Prolong gold、Thermo Fisher P36941)を利用して、固定細胞のサンプルを作製した。
13. コンフォーカル共焦点レーザー蛍光顕微鏡を利用して、固定細胞を観察した。
14. 内在性CDCP1が細胞内でドット状に観察された場合のハイブリドーマとして1種(#14)を選択した。一方、内在性CDCP1が細胞膜(形質膜)上で線状に観察された場合のハイブリドーマとしてとして4種(#25、#26、#29、及び#43)を選択した。
【0111】
各ハイブリドーマから得られた抗体について、常法に従って精製し、以下の試験例で用いた。
【0112】
試験例3.CDCP1に対するモノクローナル抗体のアミノ酸配列の同定
試験例1でクローニングしたハイブリドーマ(#25、#26、#29、及び#43)のゲノム情報より、抗体#25、#26、#29、及び#43のアミノ酸配列を決定した。抗体#25、#26、#29、及び#43の重鎖可変領域(Heavy chain variable region)及び軽鎖可変領域(Light chain variable region)のアミノ酸配列、並びにCDR配列(下線部)は以下のとおりである(配列番号を、配列末尾のカッコ内に示す。)。
【0113】
CDRの決定は下記の論文に基づいて行った。
A new clustering of antibody CDR loop conformations. Benjamin North, Andreas Lehmann, Ronal L. Dunbrack Jr. Journal of Molecular Biology, 406 (2): 228-256 (2011)
DOI: 10.1016/j.jmb.2010.10.030。
【0114】
<#25>
(重鎖可変領域)
EVQLVESGGGLVQPGRSLKLSCAASGFTFRDYYMAWVRQAPKKGLEWVAFISYEGSSTYYGDSVKGRFTISRDNAKSTLYLQMNSLRSEDTATYYCARGMYTTDYYSHWGQGTLVTVSS(配列番号23)
(重鎖CDR1)
AASGFTFRDYYMA(配列番号7)
(重鎖CDR2)
FISYEGSSTY(配列番号8)
(重鎖CDR3)
ARGMYTTDYYSH(配列番号9)
(軽鎖可変領域)
DIQMTQSPASLSASLEEIVTITCQASQDIGNWLAWYQQKPGKSPQLLIYGSTSLADGVPSRFSGSRSGTQYSLKISRLQVEDIGIYYCLQAYSAPFTFGSGTKLEIK(配列番号24)
(軽鎖CDR1)
QASQDIGNWLA(配列番号10)
(軽鎖CDR2)
YGSTSLAD(配列番号11)
(軽鎖CDR3)
LQAYSAPFT(配列番号12)
<#26>
(重鎖可変領域)
EVKLVESGGGLVQPGRSLKLSCAASGFNFNDYWMGWVRQAPGKGLEWIGEINKDSSSINYTPSLKDKFSISRDNAQNTLSLQMSKLGSEDTAIYYCARAGGYHNYWFAYWGQGTLVTVSS(配列番号25)
(重鎖CDR1)
AASGFNFNDYWMG(配列番号13)
(重鎖CDR2)
EINKDSSSIN(配列番号14)
(重鎖CDR3)
ARAGGYHNYWFAY(配列番号15)
(軽鎖可変領域)
DIQMTQSPPSLSASLGDKVTITCQASQNIGKYIAWYQQKPGKAPRLLIRYTSTLESGTPSRFSGSGSGRDYSFSISNVESEDIASYYCLQYVNLPLTFGSGTKLEIK(配列番号26)
(軽鎖CDR1)
QASQNIGKYIA(配列番号16)
(軽鎖CDR2)
RYTSTLES(配列番号17)
(軽鎖CDR3)
LQYVNLPLT(配列番号18)
<#29>
(重鎖可変領域)
EVKLVESGGGLVQPGRSLKLSCAASGFNFNDYWMGWVRQAPGKGLEWIGDINKDSSTINYIPSLKDKFTFSRDNAQNTLYLQMSKLGSEDTAIYYCARASRYNRYYFDYWGQGVMVTVSS(配列番号20)
(重鎖CDR1)
AASGFNFNDYWMG(配列番号1)
(重鎖CDR2)
DINKDSSTIN(配列番号2)
(重鎖CDR3)
ARASRYNRYYFDY(配列番号3)
(軽鎖可変領域)
DTVLTQSPALPVSPGERVTISCRASESVSTLMHWYQQKPGQQPKLLIYLASHLESGVPARFSGIGSGTDFTLTIDPVEADDTATYYCQQSWNDPCTFGGGTKLELR(配列番号22)
(軽鎖CDR1)
RASESVSTLMH(配列番号4)
(軽鎖CDR2)
YLASHLES(配列番号5)
(軽鎖CDR3)
QQSWNDPCT(配列番号6)
<#43>
(重鎖可変領域)
EVKLVESGGGLVQPGRSLKLSCAASGFNFNDYWMGWVRQAPGKGLEWIGDINKDSSTINYIPSLKDKFTISRDNAQNTLYLQMSKLGSEDTAIYYCARASRYNRYYFDYWGQGVMVTVSS(配列番号19)
(重鎖CDR1)
AASGFNFNDYWMG(配列番号1)
(重鎖CDR2)
DINKDSSTIN(配列番号2)
(重鎖CDR3)
ARASRYNRYYFDY(配列番号3)
(軽鎖可変領域)
DTVLTQSPALPVSPGERITISCRASESVSTLMHWYQQKPGQQPKLLIYLASHLESGVPARFSGIGSGTDFTLTIDPVEADDTATYYCQQSWNDPCTFGGGTKLELR(配列番号21)
(軽鎖CDR1)
RASESVSTLMH(配列番号4)
(軽鎖CDR2)
YLASHLES(配列番号5)
(軽鎖CDR3)
QQSWNDPCT(配列番号6)
【0115】
試験例4.CDCP1に対するモノクローナル抗体のエピトープの決定
<候補選抜方法>
CDCP1-ECD(Extra Cellular Domain)(以下ECD)とFab抗体(#14、#25、#26、#29、及び#43)の複合体の結晶構造解析を実施して、構造情報を得た。その情報をPDBe(Protein Data Bank in Europe)のPISA(Protein, Interfaces, Structures and Assemblies:https://www.ebi.ac.uk/pdbe/pisa/)を利用して、近接しているアミノ酸のペアを解析した。一定距離(3.5~4Å)で抗体に接近しているECDのアミノ酸をエピトープの候補とした。
【0116】
<解析方法>
はじめに上記のECD側の候補アミノ酸をすべてアラニンに置換したプラスミドを変異導入PCRで作製した。変異導入PCRは、対象アミノ酸の変異後のDNA配列を有するプライマーを利用して実施した。
1. Expi293F細胞をHE400培地に播種して、16時間回転培養した(37度、8%CO2インキュベーター内)。
2. 変異ECDプラスミド(6xHisタグ付き)をPEI-MAXを利用して、Expi293F細胞にトランスフェクション後、72時間回転培養した(37度、8%CO2インキュベーター内)。
3. 培養上清を回収後、Ni-NTAを利用して変異ECDタンパク質を精製した。
4. 変異ECDタンパク質と抗体を混合して(室温、1時間)、Superdex 200 Increase 10/300GLカラムでサイズ排除クロマトグラフィーを実施した。
【0117】
<評価方法>
ECDと抗体の複合体をサイズ排除クロマトグラフィーで解析して、そのピークの位置で両タンパク質が結合しているか否かを判断した(
図2)。ピークの位置が変化した場合は、変異ECDと抗体が結合することを示唆するので、変異導入したアミノ酸は抗体のエピトープではないと判断した(
図2上段)。ピークの位置が変化しない場合は、変異ECDと抗体が結合しないことを示唆するので、変異導入したアミノ酸は抗体のエピトープであると判断した(
図2下段)。
【0118】
<結果>
抗体#25及び抗体#43は互いにCTD上の異なる部位に結合することが結晶構造解析から明らかになった(
図3)。抗体#26及び抗体#43はCTD上の同じ部位に結合することが結晶構造解析から明らかになった(
図4)。抗体#29は抗体#43の同じCDR配列であることから(CDR以外のアミノ酸がわずかに異なる)、抗体#29の結合部位は抗体#43の結合部位と同様であると予想された。一方で、抗体#14は、NTD上に結合することが結晶構造解析から明らかになった。
【0119】
抗体#14、#25、#43の結合に重要なCDCP1側のアミノ酸(エピトープ)を以下に示す。各数字は、配列番号27で示されるアミノ酸配列のN末端側から数えた場合のアミノ酸番号である。
【0120】
<#14>
R63-S69-K71-E74-R75
<#25>
D565-R566-E593-R594-V598-Q600-T646-S647-K649-Q650
<#43>
R603-F605-I607-E616-E617-I618-E623-D624。
【0121】
試験例5.細胞内局在の変化の解析
抗体#14、#25、及び#43それぞれについて、細胞内局在の変化を解析した。
1. ACHN細胞を24ウェルプレートに播種して、FBSを10%含むDMEM培地で16時間培養した(37度、5%CO2インキュベーター内)。
2. 細胞密度が5割程度になった頃に、無血清培地に置換して4時間培養した(37度、5%CO2インキュベーター内)。
3. 抗体(終濃度1.0 mg/ml)を添加して、0~24時間培養した(37度、5%CO2インキュベーター内)。
4. 細胞を4%PFAで固定した(室温、15分間)。
5. PBSバッファーで洗浄した(10分間、計3セット)。
6. 0.03%TritonX-100を含むPBSで30分間処理した(室温)。
7. ブロッキング液(Blocking One、ナカライテスク)で60分間処理した(室温)。
8. 抗CDCP1一次抗体(1000倍希釈)を含むブロッキング液を加えて16時間反応させた(4度)。
9. PBSバッファーで洗浄した(10分間、計3セット)。
10. Alexa594結合抗ウサギ二次抗体(A-11012, Thermo Fisher)(2000倍希釈)とAlexa488結合抗ラット二次抗体(A-11006, Thermo Fisher)(2000倍希釈)を含むPBS溶液を加えて90分間反応させた(室温)。
11. PBSバッファーで洗浄した(10分間、計3セット)。
12. 退色防止封入剤Prolong gold(P36941, Thermo Fisher)を利用して、固定細胞のサンプルを作製した。
13. コンフォーカル共焦点レーザー蛍光顕微鏡を利用して、固定細胞を観察した。
【0122】
結果を
図5に示す。抗体#14を用いた場合は内在性CDCP1が細胞内でドット状に観察された。一方、抗体#25/43を用いた場合は細胞膜(形質膜)が線状に観察された。
【0123】
試験例6.二量体形成の解析
抗体#14、#25、及び#43それぞれについて、CDCP1の二量体形成を促進するか否かをNanoBiT Protein:Protein interaction system(Promega)で解析した。このシステムでは、CDCP1のC末端側に発光酵素ルシフェラーゼを分割したLgBiTとSmBiTをそれぞれ付加しており、CDCP1-LgBiTとCDCP1-SmBiTが二量体を形成したときのみ酵素活性をもつ。その解析は、基質ルシフェリンを添加して、ルシフェラーゼによる発光を検出することで行う。抗CDCP1抗体によって二量体形成が促進される場合、コントロールと比較して高い発光量を示す。コントロールとして、CDCP1を内在化するCUB1抗体(324002, Biolegend)を利用した。また、2つの抗原と結合する抗体の特性を評価するために、パパイン処理でFabにしたもの(1つの抗原としか結合できない)も利用した。
1. HEK293細胞を96ウェル細胞培養プレート(オプティカルボトム, 165306, Thermo Fisher)に播種して、FBSを10%含むDMEM培地(Penicillin-Streptomycin含まない)100 uLで16時間培養した(37度、5%CO2インキュベーター内)。
2. 2つのプラスミド(pBiT1.1-CDCP1-LgBiTとpBiT2.1-CDCP1-SmBiT)をそれぞれ100 ng、PEI-MAX(24765-1, Polysciences)を0.6 ug、OPTI-MEMに入れ10 uLに調整し、37度で15分間インキュベートした。
3. 上記2の混合溶液を培養中細胞に添加して、23時間培養した(37度、5%CO2インキュベーター内)。
4. 培地を除き、OPTI-MEM培地50 uLに置換後、1時間培養した(37度、5%CO2インキュベーター内)。
5. 2.0 mg/ml抗体を含むOPTI-MEM培地50 uLを添加し、ただちにNano-Glo Live Cell Reagent(N2011, Promega)を25 uL添加した。
6. GloMAX Discover Microplate Readerで発光値を計測した(37度、1時間)。
【0124】
結果を
図6に示す。抗体#14を用いた場合は既存の抗体を用いた場合と同様にCDCP1の二量体形成が促進された。一方、抗体#25/43を用いた場合はCDCP1の二量体形成は抑制された。
【0125】
試験例7.抗体の機能の解析1
抗体#14、#25、及び#43それぞれについて、細胞内シグナルに与える影響を調べた。
1. ACHN細胞を6ウェルプレートに播種して、FBSを10%含むDMEM培地で16時間培養した(37度、5%CO2インキュベーター内)。
2. 無血清培地に置換して4時間培養した(37度、5%CO2インキュベーター内)。
3. 抗体(終濃度1.0 mg/ml)を添加して、0~24時間培養した(37度、5%CO2インキュベーター内)。
4. 冷PBSバッファーで2回洗浄し、ODGバッファー(組成:20 mM Tris-HCl pH 7.4, 1 mM EDTA pH 7.4, 150 mM NaCl, 5% glycerol, 1% NP40, 2% 1-O-n-octyl-b-D-glucopyranoside(ODG), 1 mM Na3VO4, 20 mM NaF, Protease inhibitor cocktail (25535-24, ナカライテスク))を添加後スクレイパーで細胞を回収した。
5. 細胞破砕液をチューブに移して、ピペッティングし、遠心分離した(15000 rpm、4度、15分間)。
6. ペレットを吸わないように上清を新しいチューブに移した。
7. タンパク質濃度の定量(BCA法)を行い、濃度を調整した。
8. 適量のサンプルバッファー(BPB含む)を加えて、ボイルした(95度、5分間)。
9. 必要量のサンプルをSDS-PAGEゲル(任意のゲル濃度)にアプライして、泳動した。
10. 泳動後のゲルを転写装置でPVDFメンブレンに転写した。
11. 転写後のメンブレンを蒸留水で洗い、Blocking One(ナカライテスク)でブロッキングした。
12. メンブレンを一次抗体の希釈液に浸して、反応させた(4度、一晩)。
13. メンブレンをTTBSバッファーで洗浄後、二次抗体の希釈液に浸して、室温で反応(30分間)させた。
14. メンブレンをTTBSバッファーで洗浄後、ECL液を反応させ、現像した。
【0126】
結果を
図7に示す。抗体#14を用いた場合は、CDCP1及びそのリン酸化は減少し、Src-PKC経路は短時間活性化するもののその後抑制された。一方、抗体#25/43を用いた場合は、CDCP1及びそのリン酸化は増加又は維持され、Src-PKC経路が持続的に活性化した。
【0127】
試験例8.抗体の機能の解析2
抗体#43について、細胞内シグナルに与える影響を調べた。
1. ACHN細胞を6ウェルプレートに播種して、FBSを10%含むDMEM培地で16時間培養した(37度、5%CO2インキュベーター内)。
2. 無血清培地に置換して4時間培養した(37度、5%CO2インキュベーター内)。
3. 抗体(終濃度1.0 mg/ml)を添加して、24時間培養した(37度、5%CO2インキュベーター内)。
4. HGF(100-39H, PeproTech)、EGF(AF-100-15, PeproTech)、又はFGF2(100-18B, PeproTech)(終濃度50 ng/ml)を添加して、0-60分間培養した(37度、5%CO2インキュベーター内)。
5. 冷PBSバッファーで2回洗浄し、ODGバッファー(組成:20 mM Tris-HCl pH 7.4, 1 mM EDTA pH 7.4, 150 mM NaCl, 5% glycerol, 1% NP40, 2% 1-O-n-octyl-b-D-glucopyranoside(ODG), 1 mM Na3VO4, 20 mM NaF, Protease inhibitor cocktail (25535-24, ナカライテスク))を添加後スクレイパーで細胞を回収した。
6. 細胞破砕液をチューブに移して、ピペッティングし、遠心分離した(15000 rpm、4度、15分間)。
7. ペレットを吸わないように上清を新しいチューブに移した。
8. タンパク質濃度の定量(BCA法)を行い、濃度を調整した。
9. 適量のサンプルバッファー(BPB含む)を加えて、ボイルした(95度、5分間)。
10. 必要量のサンプルをSDS-PAGEゲル(任意のゲル濃度)にアプライして、泳動した。
11. 泳動後のゲルを転写装置でPVDFメンブレンに転写した。
12. 転写後のメンブレンを蒸留水で洗い、Blocking One(ナカライテスク)でブロッキングした。
13. メンブレンを一次抗体の希釈液に浸して、反応させた(4度、一晩)。
14. メンブレンをTTBSバッファーで洗浄後、二次抗体の希釈液に浸して、室温で反応(30分間)させた。
15. メンブレンをTTBSバッファーで洗浄後、ECL液を反応させ、現像した。
【0128】
結果を
図8に示す。抗体#43はCDCP1の細胞膜表面への集積を誘導するだけでなく、CDCP1と相互作用する受容体タンパク質の集積も誘導した。これまでに相互作用の報告のあったMET、EGFRに加えて、FGFR1も集積することが分かった。そこに増殖因子(それぞれHGF、EGF、FGF2)を添加すると、抗体未処理サンプルと比較して、各受容体のリン酸化レベルが亢進した。さらに細胞内のシグナル伝達MAPK経路のERK、mTOR経路のS6のリン酸化レベルも亢進していた。
【0129】
試験例1~8まとめ
従来の抗CDCP1抗体はCDCP1の内在化と分解を誘導するものである。その効果によってがん細胞の増殖を抑制することができる。さらに抗がん剤を付加することにより、抗腫瘍効果が報告されている。これに対して、本発明のCDCP1抗体(CDCP1タンパク質の細胞外領域のC末端側ドメインに結合する抗体)は、これまでのコンセプトとは異なり、CDCP1の発現量の亢進とそれに伴う活性化(リン酸化)CDCP1の増加を誘導するものである。さらに本発明のCDCP1抗体は増殖因子受容体の集積を誘導することができ、増殖因子刺激後のシグナル伝達の活性化を亢進することが可能である。このため、組織修復や再生など増殖因子が必要な場合に、本発明の新規抗体がその効果を亢進することができる。